医療現場のアロマテラピー

医療現場のアロマテラピー
更新日:2012年3月1日 木曜日
今回はアロマテラピーをメインにご紹介します。美容やリラクセーションに効果があると注目され、女性を中心として
人気が高まったアロマテラピー。仕事の疲れを癒したい、家事の合間にほっと一息つきたいなど生活のあらゆるシーン
で取り入れている方も多いかと思います。今回は、そんなアロマテラピーを病院で取り入れている看護師 村松 順江さ
んにお話を伺いました。
病院でのアロマテラピー
一般的なアロマテラピーと目的は同じですが、患者さんが癒された
り気分転換を図ったりすることを目的としています。漢方薬はれっ
きとしたお薬ですし、補完療法としても広まっていますが、アロマ
テラピーはいわゆる西洋の漢方でしょうか。実際、精油には成分の
薬効、薬理作用もあるのですが、精油によって研究が進んでいると
ころと進んでいないところがあります。そういうことからも、精油
成分の効果を期待しつつも、まずは患者さんの心が癒されることを
目的として行っています。
アロマテラピーを取り入れたきっかけ
もともとは患者さんのために始めたわけではなく、10年ほど前に私自身とても辛い時がありまして、何かにすがりたい
と思った時にアロマテラピーを試してみました。精油の香りを嗅いだり、精油をお風呂に入れたりして、気分が楽にな
りました。アロマテラピーをすることで問題が解決するわけではなく、辛い気持ちは変わらず心のベースにはあったの
ですが、その香りに囲まれていると気持ちが軽くなりました。そういった自分自身が癒される経験から、患者さんや辛
い気持を持つ人々に取り入れてみてはどうかと思いました。
芳香浴やマッサージで患者さんを癒す
むくみのある患者さんやご自分では動くことのできない患者さんな
どを中心に、ご希望があればアロママッサージもしています。私は
オリーブオイルで精油を希釈してマッサージオイルとして使ってい
ます。オリーブオイルは肌質を問わないので使いやすいですね。
足浴や身体拭きなどあらゆるケアにも精油を使い
ます。桶にはったお湯に精油を2、3滴入れてタオ
ルを絞り、患者さんのお体を拭きます。拭いてい
る間も香りますし、精油によっては殺菌効果もあ
るのでとてもさっぱりとしますね。また、同じよ
うに足浴の際にも精油を入れることもあります。
好きな香りがいちばんリラックスできるので、初めて試される際は
患者さんに様々な精油を嗅いでいただいて、好きな精油を選んでい
ただきます。好きな香りを嗅ぐと、みなさんお顔が緩みます。顔面
筋が緩むというか、いい香りだと「ふう」と一息つけるようで、自
然と表情が和らぎます。表情には無意識のうちにでてしまいます。
精油の効果を求めるというよりは、好きな香りでまずリラックスし
ていただきたいなと思っています。
病気を問わない精油
がんの患者さんのトータルペインのケアにもアロマテラピーを取り入れます。例えば、がんの症状として痛くて辛いと
いった患者さんがいらっしゃるのですが、痛みを和らげる鎮痛作用がある成分が含まれる精油、例えばラベンダーやカ
モミール、ペパーミントといった精油を使用します。また、好きな香りを嗅ぐことによって、痛みから気分を逸らすこ
とが出来るようです。身体に部分的にでも痛みがある時、人は自然と全身に力が入ります。痛みのあるところだけが緊
張するのではなく、どうしても全身が緊張してしまうので、痛みとは関係のないところも筋肉痛になるほどこわばって
しまうこともあります。そういう時に心地よい香りがあると心身が解れますので、適度に精油を取り入れています。こ
のように精油の香りには痛みを和らげる鎮痛作用や、心身の緊張をほぐしリラックスさせる鎮静作用のあるものなど
様々な効果があります。患者さんの中には、「抗がん剤を受ける時にこの香りを嗅ぎたいんだ」と緊張を紛らわすため
に取り入れたり、「抗がん剤の後の吐き気や気持ち悪い時にさっぱりしたいんだ」などご自身の体調やご気分に合わせ
て活用されている方もいます。お薬のようにすぐに痛みが消えたり、すっと楽になるような効果は期待できませんが、
穏やかに作用するのだと思います。
また、集中治療室や救急科などあらゆる病棟から依頼があるので、がんの患者さんだけを対象としているわけではな
く、幅広く患者さんに試していただいています。例えば、心身医療科病棟では作業療法士さんが取り入れていますし、
小児科の患者さんも好むようですので、患者さんの年齢、性別問わず使用されていますね。産科では妊婦さんに試して
いただくこともあります。妊娠中は控えなければならない精油もありますが、精油を併用してはいけない病気というの
はほとんどありませんね。
人気があるのはグレープフルーツの香り
香りに関することなので非常に個人差がありますが、患者さんが選ぶ香りは身近で一般的なものが多いようですね。例
えば、グレープフルーツなどは、食べること自体が嫌いな方は受けつけないかもしれませんが、この香りが嫌いだとい
う方はほとんどいないですね。また、オレンジやラベンダー、ゆずなども人気があります。
患者さんが服用されている薬によっては、併用してはいけない精油もあります。私自身、それを考慮に入れております
が、そういった患者さんは不思議な事に、使ってはいけない精油を選ばれることがほとんどないんです。患者さんご本
人は、服用している薬と精油の禁忌についてご存じではないとは思うのですが、患者さんは自然とご自分に合う、体調
に合った精油を選びます。
注意していること あくまで代替補完療法として
アロママッサージのように肌に直接精油が塗布される場合は、アレルギーのある患者さんもいらっしゃるかもしれない
ので、濃度は決められた濃度よりも心持ち薄くして使っていますね。
また、患者さんの中には症状からくる痛みをアロマテラピーで乗り切ろうとする方がいらっしゃるので、お薬とアロマ
テラピーを区別していただくように心がけています。患者さんはできるだけ痛み止めを使いたくない、薬に頼りたくな
いと思う方が多いです。みなさん口をそろえて「痛み止めは体に悪いんだべ?」と仰います。痛み止めで病気が治ると
いうことであれば飲まれるかもしれませんが、「痛み止めは体に悪いし、痛みは我慢したほうがよい」と思われてしま
うようです。そこで、薬ではない精油の香りで乗り切るんだ!と、痛み止めではなく精油だけに頼ろうとする患者さん
も中にはいらっしゃるのです。しかし、アロマテラピーはあくまで代替補完療法であり、病気に直接効く方法でもあり
ません。たしかに精油の成分によっては気持ちが前向きになったり、痛みが和らぐこともありますが、症状に対する根
本的な解決にはならないんですね。また、痛みを我慢し過ぎて、痛みが強くなってから痛み止めを服用しても効きにく
くなってしまいます。痛み止めの薬は医師が患者さんの痛みに対して適切な量を調整し、私たち看護師が痛み止めや医
療用麻薬を管理しているので、痛い時は我慢せずに早めに言っていただくようにしています。
これはアロマセラピーに限ったことではないのですが、患者さんの要望を尊重するということですね。使う精油にせ
よ、使い方にせよ、患者さんのご希望をまずお伺いします。無理におすすめすることもありません。いちばんは患者さ
んが少しでも治療や痛みを忘れてリラックスできればと思います。
患者さんが安らげる環境を
欧米では美容やリラクセーションというより、治療としてアロマテラピーが広まっているようですが、日本では治療や
薬だと認められていないので、保険適用にもなりません。薬事法など縛られることがありませんので、精油が使いやす
い、取り入れやすいという面もありますが、病院としては利益にはつながらないことになりますので、病院や施設の運
営上のメリットはないのかもしれません。当初は私のように興味のある看護師が自費でアロマテラピーを取り入れてい
ました。もちろん、その患者さんの主治医に相談したうえでのことですが、医師にも理解があったので、協力いただい
て取り入れていました。そんな中、病院で精油を購入するようになりましたので、 さらに取り入れる看護師も増えまし
た。病院全体としてアロマテラピーを取り入れていこうというわけではなく、科目毎に看護師などが精油に関する勉強
をしたり資格を取ったりして独自に取り入れています。それを病院側も認めてくれているので、少しでも患者さんに良
いと思うことは積極的に取り入れていこうという風潮があるのだと思います。
アロマテラピーに関する研究なども進んでいるようなので、これから医療的な方向性もでてくるのかもしれませんが、
アロマテラピーの良さは気楽に使えて気分転換になることでもあると思うので、個人的には治療ではないアロマテラ
ピーのような選択肢が残っていた方がいいのかなと思います。アロマテラピーが治療の一環になってしまうと、患者さ
んも「これは治療なんだ」と構えてしまうかもしれませんし、どうしても成果の白黒をつけなければならなくなると思
うんです。研究が進めば医学的な数値やデータも出てくるとは思いますが、私はまずは患者さんが安らげることがいち
ばんだと思います。例えば、「ラベンダーのこの効能を患者さんのこの症状に適用しましょう」といった取り入れ方ば
かりになってしまうと、患者さんも本当の意味でのリラックスが出来なくなる気がします。リラックスは真剣にするも
のでもないですからね。良い意味での曖昧さがあってもいいのではと思います。
植物のチカラを借りて
病室では、免疫力が落ちている患者さんも多いので、お見舞
いでも花などの植物はご遠慮いただいているところもありま
す。そのため病室に植物を置くこともできません。そんな中
でも精油という植物のエッセンスを取り入れることが、病室
で自然と関わる方法なのかもしれません。自然との共存とい
うと大げさかもしれませんが、植物のチカラを借りるという
ことでしょうか。部屋に飾られた花が人を和ませるように、
アロマテラピーを通じて患者さんが癒されるといいなと思い
ます。
村松さんがご紹介された精油はそれぞれどんな特徴があるのでしょうか。詳しくみていきましょう!
グレープフルーツ
期待される効果
さわやかな香りが精神を鋭敏にし、積極性や実行しようとする意欲をかきたててくれるとされ
ています。食べる楽しみなどを見出す力も与えてくれるそうです。
注意事項
グレープフルーツの精油には光毒性という作用があります。これは、精油を塗布した皮膚に強
い紫外線が当たると炎症反応や色素沈着などが生じることです。そのため、皮膚にマッサージ
などで塗布した場合は外出は控えましょう。
また、刺激が強いのでできるだけ肌に塗布することは避けましょう。
レモン
期待される効果
精神疲労からくる頭痛の軽減や消毒殺菌効果も期待されます。そのため室内の浄化にも適しています。
注意事項
レモンにも光毒性があります。また、刺激が強いのでできるだけ肌に塗布することは避けましょう。
オレンジ・スイート
期待される効果
リフレッシュ感をもたらし、心を快活にしてくれる作用があります。気分を明るくし、ス
トレスなどの心理的な問題からくる胃痛などの症状を緩和する効果も。
注意事項
光毒性があります。また、刺激が強いのでできるだけ肌に塗布することは避けましょう。
カモミール・ローマン
期待される効果
不安や恐怖を取り除き心を穏やかにし、緊張からくる頭痛などの痛みを和らげる効
果があるとされています。安らかな眠りに導いてくれます。
香り
りんごのような香りが特徴です。
呼吸から血液へ精油成分が取り込まれる
精油の分子構造は非常に小さいため、芳香浴中の呼吸によって精油成分が吸いこまれると、精油成分の一部は気道の粘
膜から血管に入ります。また、一部は肺に入り、肺胞の膜から血液に入ります。こうして精油の成分は血液に乗って体
内を循環するため、精油の種類によっては痰を切る作用やせきを鎮めるなどの効果を発揮するのです。
嗅覚から脳へ精油成分が伝達される
嗅覚は生命維持のため欠かせないもので、匂いによって食べ物を見つけたり、食べ物の腐敗などの変化に気づいたりで
きます。また、赤ちゃんが母親の存在を嗅覚で察知するということからも、特殊な感覚といわれているそうです。
嗅覚は、視覚や聴覚よりも脳に刺激(情報)を伝える為の過程が少ないので、より直接的に脳に伝わります。快・不快や
好き・嫌いなどの感情にもつながるため、匂いは感情にも強くすばやく影響します。そのため、匂いを認識するとリ
ラックスする、快活になるといった心への作用が生じます。
こういった特性を上手に使って、アロマテラピーを取り入れてみましょう!
福島県立医科大学附属病院 看護部のみなさんにご協力いただきお話を伺いました。看護部では「温かみのある、安全で
安心できる、継続性のある看護」を方針として取り組まれているそうです。村松さんのような認定看護師 (公益社団法
人日本看護協会認定看護師認定審査に合格し、ある特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を用いて、水準
の高い看護実践のできる看護師) の育成にも力を入れているそうです。
公立大学法人 福島医科大学附属病院看護部
住所:福島市光が丘1番地
電話:024-547-1111(代表)
URL:福島医科大学附属病院看護部ホームページ