クォータリー - マルチメディア振興センター

クォータリー
2005 SPRING
volume
20
FMMC TOPICS
「権利クリアランス」と「メタデータ」が鍵を握る!
安心・安全なネットワーク社会の実現に向けた
FMMC及びEジャパン協議会の取り組み
Top Interview
愛・地球博 に出展中の「レーザー ドリームシアター」に注目!
View Point
ネットワーク社会の光と影
2005 Spring
vol.20
C O N T E N T S
3
20
24
FMMC TOPICS
「権利クリアランス」と「メタデータ」が鍵を握る!
〜放送コンテンツのブロードバンド流通促進に向けて
3
安心・安全なネットワーク社会の実現に向けた
FMMC及びEジャパン協議会の取り組み
FMMC安心安全シンポジウム2005
〜ネット社会のリスクガバナンス〜
ネット社会の7つの常識を身につけよう!
〜「安心インターネットライフ★ガイド」改訂版ができました!〜
「企業とコミュニティのパートナーシップに関する調査」の概要報告
平成17年eビジネス異業種交流会
18
From Silicon Valley
頑張れ!
シリコンバレーカンパニー
Top Interview
幅50メートル、600万画素の大迫力・高精細画像を実現
20
愛・地球博 に出展中の
「レーザー ドリームシアター」に注目!
ソニー株式会社 業務執行役員専務
鶴島 克明氏
インタビュアー 伊藤 聡子
24
26
View Point
ネットワーク社会の光と陰
経済評論家 佐藤 治彦さん
行政の動き
『ブロードバンド・ゼロ地域 脱出計画』について
財団法人マルチメディア振興センターではインターネット等のマルチメディア通信に対するネットワーク及びそ
の利用に関する調査研究、技術開発、実用実験、情報の収集及び提供並びに普及啓発等の事業を行っております。
2
MultiMedia Quarterly
放送コンテンツのブロードバンド流通促進に向けて
「権利クリアランス」と
「メタデータ」が鍵を握る!
総務省権利クリアランス実証実験成果レポート
この3月、総務省「権利クリアランス実証実験※1(実施期間:2002年度〜2004年度)
」が一定の成果を挙げ、幕を閉じた。
同実験は、主要な放送事業者、権利者団体、番組製作事業者等が参加する「放送コンテンツのネットワーク流通に向けた権利
クリアランスに関する研究会(マルチメディア振興センター主宰、座長:白井 太《同財団理事長》)
」との連携により実施さ
れた。知的財産立国・日本を目指す中、ブロードバンド・コンテンツの目玉として放送番組の二次利用に対する期待は大きいも
のの、その流通は活性化していない。放送コンテンツのブロードバンドネットワーク流通の促進を目指す同実験は、複雑・多様
な権利処理をオンラインで円滑に行うための、メタデータ※2を活用した権利クリアランスシステムの検討・開発を行ってきた。
新鮮さ 、 即時性 がキーワードとなるブロードバンド時代。スピーディーなビジネス展開に向けて、いかに「権利クリアラン
ス」を効率化し、いかに「メタデータ」を操れるかが重要な鍵を握る。
実験開始当初より事務局として実験を推進してきたマルチメディア振興センター(FMMC)が、その成果をレポートする。
本レポートでは、放送コンテンツのブ
ロードバンドネットワーク流通に向けて、
「権利クリアランス実証実験プロジェクト
が、具体的に何を目指してきたのか」
、
「なぜ『権利クリアランス』と『メタデー
タ』が重要な鍵となるのか」
、
「同実験プ
ロジェクトは結果的に市場に何をもたら
したのか」等について、興味深い実験事
例を織り交ぜつつ紹介する。
権利クリアランス実証実験
■ 権利クリアランス実証実験
プロジェクトの幕開け
プロジェクトの幕開け
「この実験のミッションは研究開発やレ
ポート作成ではない。放送コンテンツの
権利者、利用者(放送事業者、製作事業
者、配信事業者等)がWIN-WINとなる仕
掛けをブロードバンド流通ビジネスに持
ち込むことである。総務省が提供する実
験システムを活用し、ブロードバンドの
正体を見極め、新しい権利クリアラン
ス・モデルを浮かび上がらせることが実
験の目的である。コンテンツのブロード
バンド流通ビジネス市場のプレイヤーと
して実際に皆さんが参画している姿こそ、
実験が求める成果である。
」 ― 2002
年、総務省情報通信政策局コンテンツ流
通促進室からの力強い言葉で、権利クリ
アランス実証実験プロジェクトは幕を開
けた。
2001年1月、我が国では「e-Japan戦
略」がスタート。光ネットワークの普及
やデジタル放送の開始等高度なインフラ
整備に伴い、その利活用促進に向けた取
り組みがIT戦略上、重要課題として取り
上げられた。知的財産戦略上からも、と
りわけ放送番組等映像デジタルコンテン
ツのブロードバンド流通への期待は大き
く、そのための課題のひとつである「複
雑・多様な権利処理の円滑化に向けた仕
組み作り」に向けて、権利クリアランス
実証実験プロジェクトは立ち上がった。
舞台に集まったメンバーは、6つの放
送事業者(NHK、日本テレビ、TBS、フ
ジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)
、7
つの権利者団体(JASRAC、日脚連、文
藝家協会、音事協、CPRA、PRE、レ
、全日本テレビ番組製作社連
コード協会)
盟等々。総務省のもと、ほぼALL-JAPAN
体制が実現した。コンテンツの 権利者
と 利用者 ― 著作権をめぐって歴史
的にシビアに相対してきた両プレイヤー
が、e-Japanを支えるコンテンツ流通ビジ
ネスの活性化に向けてひとつのテーブル
につき議論を始めた。これこそが大きな
成果のひとつとも言える画期的な瞬間
だった。
「権利クリアランス」が
■ なぜ、
なぜ、
「権利クリアランス」が
重要課題なのか
重要課題なのか
さて、
「権利クリアランス(copyright
clearance)
」という言葉。日本で最初に
使われたのは、おそらく権利クリアラン
ス実証実験プロジェクトにおいてではな
いだろうか。
放送番組等コンテンツを利用する場合、
著作権法上、まずは、そのコンテンツに
係る権利者全員から利用しても良いかど
うかの許諾を得ることが必要である。狭
義の権利クリアランスは、権利者から利
用許諾を得るために必要な条件の交渉、
手続きを指す。一方、広義の権利クリア
ランスは、権利者から得た許諾結果及び
条件に基づきコンテンツの利用を行い、
その利用実績及び収益配分の情報を各権
利者に報告し、かつ利用料の支払いを行
うまでの一連の手続きを指す。つまり、
clearance という語源から考えると、
「権利クリアランスとは、権利利用に関す
る 決裁 及び 決済 に必要な交渉、
手続き等を指す」という解釈が成り立つ。
権利クリアランス実証実験は、コン
テンツ流通のBtoB工程における、権利者
団体、コンテンツホルダ(放送事業者、
製作事業者等)
、配信事業者等の間での
広義の権利クリアランス を、いかにメ
タデータを活用して円滑に行うかについ
て検証してきた(図1参照)
。
それでは、なぜ、権利クリアランスが
重要な課題となるのか。
放送コンテンツには、脚本家、作詞家、
作曲家、実演家(演奏家・歌手・俳優)
、
素材の製作者等々、非常に多くの権利者
および権利が係っており 権利の束 と
称されるほどである。従来、この権利ク
リアランス業務は電話やFAX等による個
別交渉が一般的で、その作業に要する時
間・コスト・労力は、権利者、利用者双
方にとって並大抵ではない。また、ブ
ロードバンド流通市場においては、コン
テンツが視聴者に届けられるまでの間に
2005 Spring
3
図 2 権利クリアランスとメタデータ
図 1 権利クリアランス実証実験の範囲(網掛け部分)
BtoB
利
用
申
請
/
許
諾
権利者
(団体)
メタデータ
体系
A
BtoC
利
用
契
約
コンテンツ
配信
事業者
等
コンテンツ
ホルダ
利
用
実
績
報
告
メタデータ
体系
B
配
信
実
績
報
告
配
信
メタデータ
体系
C
配
信
実
績
の
把
握
利用許諾条件
エンド
ユーザ
利用料
コンテンツの流れ
利用許諾条件(メタデータ)の流れ
権利者
(団体)
コンテンツ
ホルダ
配信
事業者
等
視聴者
放送事業者、
製作事業者等
汎用メタデータ体系:
メタデータ互換性確保のための共通基盤
様々な新規プレイヤーが介在する。権利
者が直接行った「権利の許諾先(例:放
送事業者)
」と、最終的な「権利の利用
者(例:ISP事業者)
」が一致しないケー
スがビジネス上、十分に起こり得る。
放送コンテンツのブロードバンド流通
促進に向けて、ますます複雑・多様化して
いく新しい権利クリアランスの在り方を整
理し、著作権等権利を保護した上でのコン
テンツ流通基盤の整備が必要である。
「権利クリアランス」を強力
にするのは「メタデータ」
そこで重要な役割を担うのが、
「メタ
データ」である。
Content is King, Metadata is Queen.※3
このチェスになぞらえたフレーズが、ま
さにコンテンツ流通を促進する上でのメ
タデータの役割、重要性を物語っている。
そもそも、ネットワーク上で流通する
デジタルコンテンツは、その中身が何な
のか外からは分からない。コンテンツの
内容情報、権利情報等の属性情報は、デ
ジタルコンテンツの実態とは別にメタ
データとして管理される必要がある。通
常、メタデータは事業者内のデータベー
スで管理し、ビジネス上、関係事業者と
交換すべきメタデータについてのみ外部
に流通させれば良い。流通形態としては、
大きくはメタデータのみを流通させる場
合と、コンテンツとバインディング(結
合)して流通させる場合に分けられ、利
用目的により使い分けが自由である。後
者の例としては、電子透かし技術を活用
4
MultiMedia Quarterly
利用実績情報・収益配分情報(メタデータ)の流れ
してコンテンツのIDや会社のロゴ等を
コンテンツに埋め込み、不正コピー検出
に役立てる等が挙げられる。
デジタルコンテンツを安全に戦略的に
流通させるためには、その流通工程にお
いて、誰が誰にどのような条件で許諾を
得たのか、その許諾条件に基づいて正し
く利用(配信等)されたのか、利用され
た結果に基づき正確な利用実績と収益配
分が然るべき権利者に行われたのか等、
「権利クリアランス」に関する情報を「メ
タデータ」として、いかに管理し流通さ
せていくかが非常に重要な鍵となる(図
2参照)
。
チェスではクイーンは最もパワフルな
駒であり、キングを守りながらどの方向
にも自由に動かすことができる。まさに
クイーンとしてのメタデータを効果的に
操ってこそ、著作権等権利を保護したデ
ジタルコンテンツ流通の促進、ビジネス
の活性化が実現できるのである。
成果①:権利クリアランス
■ 成果①:権利クリアラス
システムモデルの構築
システムモデルの構築
ここからは、3ヵ年にわたる権利クリ
アランス実証実験の成果の一部を紹介し
たいと思う。
実験において策定された権利クリア
ランスシステムモデルは、放送事業者等
のコンテンツホルダがコンテンツ情報、
権利情報等必要な項目をコンテンツにメ
タデータとして付与し、権利者団体(楽
曲《作詞・作曲、CD音源》、実演、脚
本、原作)が持つデータベースとマッ
チングさせることで効率的に権利クリア
ランスを行い、かつ、配信ビジネスに必
要なメタデータを配信事業者等に受け渡
すワンストップ・ソリューション型のモ
デルである(図3参照)
。実際に実験シス
テム上で一連のコンテンツ流通工程をシ
ミュレーションすることにより、その有
効性が検証された。
■ 効果的なメタデータ収集手法とは
実験開始当初、いざ過去の放送番組を
ブロードバンド流通しようとすると、権
利者の所属確認ができず、許諾申請の前
の段階で立ち行かなくなるという現実と
ぶつかった。実験に参加した放送事業者
の多くから、
「昔の情報を集めるのに徹夜
で倉庫をひっくり返して契約書等を探し
回った」
、
「権利者の所属が番組製作当時
、
とは変わっており所在が追えなかった」
「放送番組中の楽曲は制作現場で音響効
果事業者が付けるため特に記録が残って
おらず、番組を見直しても特定できない
ものがあった」等という声が挙がった。
これにより、まずはブロードバンド流通
に必要なメタデータ・データベースの整
備を自らの足場固めとして行うことの必
要性、重要性がコンテンツホルダに認識
された。一方、権利者側においても、権
利者情報データベースを自ら整備し、適
宜、必要な情報を利用者に提供していこ
うという気運が生まれた。
しかし、ここで大きな課題として立ち
ふさがるのが、メタデータ収集の在り方
である。メタデータの多くは放送番組の
図 3 権利クリアランスシステムモデル
図 4 フィンガープリント技術の仕組み
メタデータの入力・管理
権利者団体等
メタデータ等の交換
放送事業者
認証システム
コンテンツホルダ
(放送局)
権利者情報メタデータの検索・取得
権利者の所属確認・コンテンツの
二次利用に係る利用申請
権利者
情報DB
権利者の所属確認、利用許諾の処理
コンテンツ
情報DB
コンテンツの利用実績報告
コンテンツ配信用
情報等メタデータ
の外部出力
支援設備
メタデータ管理
や利用申請/
許諾処理等に
係る支援機能
制作現場で生成されるが、通常、制作現
場は非常に慌ただしく、データ付与する
時間などない。番組の内容を後から確認
しつつデータを入力するにも、ブロード
バンド流通ビジネスが成り立っていない
段階において人件費を見込むことは難し
いと言われる。
そこで、権利クリアランス実証実験で
は、制作現場における楽曲情報、台本情
報等のメタデータ収集効率化に向けて各
種ツール活用の可能性について検証を
行った。ここでは、平成16年度に行われ
た、音声認識技術であるフィンガープ
リント(サウンド音紋)を活用すること
により、番組で使われたCD音源の特定を
行い、使用楽曲リストの自動生成(メタ
データ化)につなげるためのメタデータ
収集手法に関する実験について紹介する
(図4参照)
。そのからくりは、まず予め
CD音源から楽曲の波形データのうち特徴
的な部分を抽出したフィンガープリント
を、楽曲名、アーティスト名等のメタ
データと一緒にデータベースに保存して
おく。そして、放送番組から音声信号の
みをキャプチャし作成したフィンガープ
リントを上記データベースのフィンガー
プリントとマッチングさせることにより、
その楽曲を特定するというものである。
楽曲が特定できれば、データベースから
該当のメタデータを取り出し、楽曲リス
トの自動生成が可能になる。今後、認識
レベルの更なる向上、運用方法の整備等
が行われれば、放送事業者のコストを抑
えつつ楽曲に関するメタデータ収集・作
成が容易になると同時に、権利者への適
放
送
番
組
音
声
信
号
2
フ放
ィ送
ン番
ガ組
ー︵
プ音
リ声
ン︶
トの
化
配信実績情報、
楽曲情報等
メタデータの取込
コンテンツホルダの持つ
コンテンツを外部の
配信事業者に預けて
配信するモデルを想定
切な利用実績報告の仕組み作りが実現可
能である。
■ ブロードバンド時代の権利クリア
ランス・ワークフローモデル
また、権利者団体とコンテンツホルダ
間の最適な権利クリアランス・ワークフ
ローモデルの作成、及び必要なメタデー
タ項目の洗い出しを行った。どのような
情報のキャッチボールができればお互い
の業務効率につながるのか、そのために
は、コンテンツホルダ、権利者団体内の
処理フロー、あるいはメタデータ整備を
どう進めていけば良いのか等について検
討を進めた。
特に、実験参加者により、その有用性
が高く評価されたのが、楽曲(作詞・作
曲、商用音源)の許諾処理自動化に向け
た実証である。権利者団体保有のデータ
ベースに予め楽曲に関する許諾可否フラ
グを設定しておくことにより、利用者か
らのオンラインによる許諾申請があった
場合、ほぼリアルタイムで許諾可否の回
答を自動的に返せる仕組みの有効性が検
証された。権利者、利用者双方にとって、
許諾申請にかかる作業の効率化が図れる
と同時に、コンテンツ製作者にとっては、
許諾不可の回答が返ってきた場合、その
権利が係る素材の差し替えやカットを施
す等、配信可能なコンテンツ作りをス
ピーディーに行うことが可能となる。魅
力的なブロードバンド流通ビジネスの展
開につながる非常に有意義なスキームと
して期待できる。
フィンガープリント
データ
権利クリアランス
実証実験システム
3
4
マッチング
CD音源
フィンガープリント・
メタデータDB
楽曲リストの
自動生成
特徴化データ
CD音源
メタデータ
(楽曲名・アーティスト名等)
CD音源を
フィンガー
プリント化
1
成果②:メタデータ交換の
■ 成果②:メタデータ交換の
基盤技術「J/Meta」の策定
さて、権利クリアランスの円滑化に向
けては、先に述べた権利クリアランス・
ワークフローモデルにしたがったメタ
データ交換が必要であり、そのためには、
各事業者が取り扱うメタデータの互換性
を確保する仕組みの構築が求められる。
現在、コンテンツ流通に関するメタ
データ体系としてはP / M e t a ※4 、T V Anytime Forum仕 様 ※ 5、 Melodies &
M e m o r i e s 仕 様 ※6 、 c I D f 仕 様 ※7 、
CableLabs 仕様※8といった既存の体系の
他、事業者が独自に規定する体系など
様々なものが存在、利用されている。各種
体系のメタデータ項目の意味や構造は基本
的に異なっているため、同じ体系の利用者
同士であれば容易にメタデータを交換でき
るが、異なる体系間ではメタデータの変換
処理が必要となる。メタデータの変換に必
要なコストを可能な限り小さくし効率的に
メタデータ交換を行うためには、様々なメ
タデータ体系の項目と変換可能となるよう
豊富にメタデータ項目を含んだ共通言語と
して機能する汎用メタデータ体系が不可欠
である(図5参照)
。
権利クリアランス実証実験では、
「汎用
メタデータ体系J/Meta(Joint/Metadata)
」
の策定に取り組んだ。
■ J/Meta3.0技術仕様の策定
J/Metaは、P/Metaを元に、前述の主
要な既存のメタデータ体系や、事業者が
2005 Spring
5
図 5 汎用メタデータ体系 J/Meta
図6
J/Meta活用実験のイメージ図
コンテンツホルダ
事業者 A
事業者 C
番組メタデータ
社内DB
権利者団体
(原作家)
権利者団体
(脚本家)
アーカイブ/
データベース
アーカイブ/
データベース
A
異なる
メタデータ体系間の
インターフェース
メタデータ
体系
事業者 E
ケーブルテレビ系事業者
(CableLabs 準拠)
B
事業者 D
イ
ン
タ
ー
フ
ェ
ー
ス
実績報告
ファイル
アーカイブ/
データベース
アーカイブ/
データベース
保有する番組データベースに含まれる項
目を最小公倍数的に集め定義された。
最終年度に策定されたJ/Meta3.0は約
1,480項目より構成されており、その内容
は、コンテンツのタイトルや概要等の項
目を含む「カタログ的メタデータ」
(約
630項目)と、契約内容や許諾条件等の
項目を含む「権利関連メタデータ」
(約
850項目)とに分類される。
J/Meta 2.0※9からの主な新規追加事項
は、各業務に必要なデータ項目を絞り込
んだ下記3つの「J/Meta推奨プロファイ
ル」を仕様に盛り込んだことである。
①権利処理プロファイル(約140項目)
権利者とコンテンツホルダ間における
権利処理業務に必要な項目群
②権利管理(BtoB)プロファイル(約200項目)
コンテンツホルダから配信事業者等へ
のコンテンツ情報提供に必要な項目群、
及び配信契約の基礎情報等の項目群
③権利管理(BtoC)プロファイル(約210個)
EPG(Electronic Program Guide)等
で利用するカタログ的メタデータや視
聴者利用環境でのDRMの制御に必要な
権利管理情報等を含んだ項目群
J/Metaに基づくメタデータを付与した
コンテンツの仮想データベースを用意し、
実際のネットワーク環境でJ/Meta 3.0対
応XML Schemaを利用することによりプ
ロファイルの交換実験を行った結果、そ
の有効性が検証された(図6参照)
。
■ J/Metaの利活用モデル検証
また、J/Meta利活用の可能性を模索す
6
MultiMedia Quarterly
2次利用ゲートウェイ
権利処理
権利者団体
(レコード製作者) プロファイル
(文中①)
権利者DB
事業者 B
CS系配信事業者
(独自体系)
抽出/
変換
権利者団体
(実演家)
J/Meta
メタデータ
体系
J/Meta
番組
メタデータ
権利者団体
(作詞/作曲家)
権利管理
プロファイル
(文中②③)
一括登録
イ
ン
タ
ー
フ
ェ
ー
ス
J/Meta
メタデータ
DB
利用実績
イ
ン
タ
ー
フ
ェ
ー
ス
BB系配信事業者
(TVAF準拠)
イ
ン
タ
ー
フ
ェ
ー
ス
コンテンツ
管理システム
配信ログ
アーカイブ/
データベース
るために、BtoBtoCへの適用を視野に入
れたシステム実証を行った。ここでは、
ふたつの事例を紹介する。
ひとつは、実際にケーブルテレビ系事
業者(メタデータ体系:CableLabs 仕様
に準拠)
、ブロードバンド系配信事業者
(メタデータ体系:TV-Anytime Forum
仕様に準拠)
、CS放送事業者(メタデー
タ体系:独自メタデータ仕様)と協力し
て行った、J/Metaと各種メタデータ体
系との変換実験である(図7参照)
。ブ
ロードバンド系配信事業者との実験に関
しては、平成15年度、総務省が別途実
施した「高度コンテンツ流通実証実験※10」
(TV-Anytime Forum仕様の配信事業者
を想定)と連携した変換実験の成果を
ベースにした。
コンテンツホルダがJ/Meta形式でメタ
データを用意すれば、異なるメタデータ
体系を使っている複数の配信事業者へ変
換ツールの活用により効率的にメタデー
タを受け渡せる。コンテンツホルダに
とっては用意しなければならないメタ
データ体系が1種類で済むというメリッ
トが生まれる。実際にこの実験に参加し
た配信事業者からも、
「メタデータ交換に
おいてJ/Metaを利用することが、コン
テンツホルダおよび配信事業者にとって
コンテンツ配信業務の効率化やコンテン
ツ流通チャンネルの拡大に有効的である」
と、心強い評価を受けた。
また、本来、放送局内の編集システム
等においてコンテンツとメタデータを
ネットワーク上で共有・転送する際の技
術規格であるMXF (Material eXchange
Format、SMPTE 377M)を、配信事業者
へのコンテンツ及びメタデータの受け渡し
に活用した実験も興味深い(図8参照)
。
コンテンツの紹介内容や利用条件等のメタ
データ(J/Metaの権利管理《BtoC》プロ
ファイルを活用)とコンテンツを1ファイ
ルに格納して提供することで、コンテンツ
ホルダ、配信事業者ともにコストダウンが
図れるとともに、正確かつ多様な情報提供
が可能となる。MXFの記述メタデータの
標準規格であるDMS-1(Descriptive
Metadata Scheme-1、SMPTE 380M)と
J/Metaは単純には変換できないが、今
回の実験においてMXFの記述メタデー
タのルールに基づき作成した「J/Meta
用 の ス キ ー マ ( J/Meta DMS)」 と
「DMS-1」 を併用した変換モデルを提案
することにより、J/Metaのメタデータ
とコンテンツの実ファイルをMXFに受
け渡すことに成功した。MXFは世界の
主要放送機器メーカーが対応を進めてい
ると同時に、CNNやBBC等の主要な放
送事業者を中心に導入が進んでいる。今
回提案された変換モデルの活用は、
J/Metaの早期実用化への大きなステッ
プとなるだろう。
本格的なテイクオフに向けて
■ 本格的なテイクオフに向けて
実験開始から3年、期待されたビジネ
ス市場の隆盛は今なお実現していない。
権利者も利用者も、ブロードバンド時代
のなかで闘い悩み続けている。しかし、
お互いがWIN-WINとなる権利クリアラン
スの在り方を模索するなかで、システム
図8 J/MetaのMXF対応実験
図 7 配信事業者とのJ/Meta変換実験
コンテンツホルダ
ケーブルTV系事業者
変換
J/Meta
メタデータ
J
配信
A
コンテンツホルダ
変換ツール CableLabs コンテンツ
仕様
管理システム
配信事業者
権利クリアランス
実証実験システム
メタデータ
の表示
STB
MXF
閲覧編集
ソフト
コンテンツ
ブロードバンド系事業者
DMS-1
メタデータ
DMS-1
メタデータ
変換
B
J
権利クリアランス
実証実験システム
配信
変換ツール TV-Anytime コンテンツ
Forum仕様 管理システム
J
D
メタデータ
の表示
D
STB
変換
J
CS放送事業者
格納
抽出
MXF
ファイル
J/Meta
メタデータ
変換
MXF
ファイル
J
J/Meta
メタデータ
変換
C
変換ツール
独自メタ
データ体系
配信
コンテンツ
管理システム
メタデータ
の表示
STB
J
J/Meta
実装による 仮説検証の場 を提供した
総務省権利クリアランス実証実験プロ
ジェクトの存在意義は大きかったと思う。
実験開始後、現場レベルで噴き出した問
題点、課題等のひとつひとつについて、
実験参加者が汗をかきつつみっちりと検
討を行い、総務省と協力しながら権利ク
リアランス実証実験システムに要件を反
映させていった。システムにより視覚化
された仮説検証を繰り返すことで、活き
た権利クリアランスシステムモデルが構
築されたと言える。
実験開始当初は認知度が低かったメタ
データも、実験が進むにつれ、その重要
性の認識は権利者、利用者双方のなかで
確実なものになった。ビジネス上可能な
範囲でメタデータによる情報共有を行う
ことが、結果的に両者のコスト・労力の
削減につながることが見えてきたことに
より、緊張感に包まれ始まったプロジェ
クトの舞台にも良い形での臨場感・一体
感が生まれた。NHK、JASRAC等に追随
し、業界全体的にメタデータ・データ
ベースの整備が進んできている。
折しも、この3月23日、日本経団連よ
り「テレビ番組等映像デジタルコンテン
ツをブロードバンド配信する際の暫定料
額(適用期間は来年3月まで)
」が発表
された。今回の暫定基準が一定の目安と
なれば、ワンストップ・ソリューション
型の権利クリアランスシステムがますま
す活きる事になり、次の議論、実用化へ
の弾みがつくことは間違いない。
また、著作権者側からの視点により、
権利者ID、コンテンツIDのモデル策定等
J
J/Meta-DMS
メタデータ
J/Meta-DMS
メタデータ
MXF 格納ソフト
に取り組んでいる「デジタル時代の著作
権協議会(CCD)
」の動向も今後、注目さ
れる。経団連、CCDでの検討状況ともう
まく整合をとりつつ、さらに実用に根ざ
した権利クリアランスシステムモデルの高
度化を進めると同時に、従来の放送サー
ビス、あるいはサーバー型放送やDVR
(PVR)でのコンテンツ視聴といった新し
い放送サービスにおける権利クリアランス
との整合性等についても、引き続き検
討・議論が求められるところである。ま
た、歴史に裏打ちされた人間系の交渉術
も大事にしつつ、システム化との折り合
いをつけていくことも忘れてはならないと
考える。
J/Metaについては、Ver.3.0の策定、及
びJ / M e t a 推奨プロファイル、X M L
Schema、各種メタデータ体系との変換
ツール/ルール等の作成が進んだことによ
り、J/Meta実用化への道具は揃ったと言
える。今春中のVer.3.0のリリース(予定)
に伴い、運用体制の検討を交えながら、
実ビジネスレベルでの本格的な普及促進
が始まる。
権利クリアランスが正しく効率的に行
われ、メタデータを活用した多様できめ
細やかなサービスが生み出され、魅力的
なコンテンツが視聴者に届けられる、真
の意味の「知的財産立国」に向けて、権
利クリアランス実証実験の成果の普及・
習熟を民・民のレベルで行っていく協議
会等の組織を求める声もある。FMMC
は、この活動を前向きに支援していきた
いと考える。
放送コンテンツのブロードバンド流通
MXF
J/Meta 抽出ソフト
ビジネス、テイクオフの時は近い。
(文責 利用推進部 能美 容子)
※1 権利クリアランス実証実験:正式名称は、
「著作権クリアランスの仕組みの開発・実証」
※2 メタデータ:データのためのデータ(data
about data)
。利用目的に応じて、データ(後
者)に意味を付与したデータ(前者)を言う。
※3
Content is King, Metadata is Queen. :
2000年、ウィーンで開催された「国際テレビ
アーカイブ機構(the International Federation
of Television Archives)
」での議題。
※4 P/Meta:EBU(欧州放送連盟)研究プ
ロジェクト及びそこが規定した規格の名称。
EBU Tech3295。
※5
TV-Anytime Forum仕様:TV-Anytime
Forum(蓄積機能の利用、通信と放送の連携
による新しいマルチメディアサービスの実現
に向けてメタデータの標準化等に取り組む民
間の国際標準化団体)が規定した規格
※6 Melodies & Memories仕様:株式会社メ
ロディーズ アンド メモリーズ グローバルが
規定した規格
※7 cIDf仕様:コンテンツIDフォーラム(コ
ンテンツIDのデファクト化等を推進する任意
団体)が規定した規格
※8 CableLabs :Cable Television Laboratories, Inc. (CableLabs )が策定したビデオ・
オン・デマンド用のメタデータ仕様
※9 J/Meta2.0:2004年6月、権利クリアラ
ンス実証実験の中間成果としてFMMCより
仕様公開。
※10 高度コンテンツ流通実証実験:正式名称
は、
「光ネットワーク上におけるメタデータ等
を活用したブロードバンド・コンテンツ配信
技術の開発実証」
。実施期間は、平成14年度〜
平成16年度。TV-Anytime Forum仕様のメタ
データにより多様なコンテンツ視聴を実現す
る方式に関する技術等の開発・実証を行った。
2005 Spring
7
安心・安全なネット社会の
実現に向けたFMMC及び
Eジャパン協議会の取り組み
日本では昨今、ますます巧妙化する
と個人情報保護」と題し、2005年4月
事象的には子供たちのトラブルでは
ウイルスやネット詐欺の手口によって、
の個人情報保護法完全施行を意図し
あるが、根っこのところは大人の問題
一般の人々はネットトラブルや犯罪の
て、企業における情報セキュリティの
が大きい。特に家庭と学校が連携して、
被害者であるばかりでなく、個人情報
重要性、危険性の再認識、ならびに個
保護者や先生方が先ず勉強して、ネッ
漏えいやウイルス感染、迷惑メールの
人情報保護法の具体的な運用方法につ
トの正しい使い方についてしっかり子
加害者になる危険性も多くなっていま
いて、弁護士 牧野二郎氏をはじめ日
供たちをフォローして欲しい。親子の
す。そのため、企業や団体の情報セ
本オラクル(株)北野晴人氏、ニフ
対話を行なう絶好のチャンスだ。
」と訴
キュリティ法令遵守や、子どもを含め
ティ(株)鈴木正朝氏からご講演をい
えています。
た一般の利用者がネット上で事故を起
ただきました。
この度このような小中学校での
こさない、また事故に遭わないための
本年3月には、
「FMMC安心安全
セーフティ授業の活動成果ならびに
対応策や法制度の整備が産学官を挙げ
シンポジウム2005〜ネット社会のリス
一般都民及びNPO等から構成される
て図られるようになってきました。
クガバナンス〜」を虎ノ門パストラル
「ネット社会と子どもたち協議会」の
このような動きの中で当財団では、
「安心・安全なネットワーク社会」の実
現をめざして、大きく3つの柱によっ
て施策を推進しています。
で開催しました。シンポジウム内容は、
会員団体としての活動が認められ、
12ページからの記事をご覧ください。
東京都及び心の東京革命推進協議会
2番目は、
「インターネットの安心安
(青少年育成協会)から「ネット社会
全な使い方」に関して実際に現場に出
に翻弄される子どもたちを守るため
1番目はシンポジウム等の開催によ
向き、直接情報提供及び意見交換、問
に活動している公益法人及び講師」
る情報セキュリティや安心・安全意識
題把握することです。その中で子ども
として認知され、都内行政担当及び
の啓発活動であり、2004年度は3回企
たちや保護者、先生方に対して、ネッ
PTA等へ公表されました。
画実施しました。先ず6月のEJF講演
ト利用の便利で快適な面と合わせて
3番目の施策は、ネットの安心安全
会において、群馬大学社会情報学部大
「ネット社会の落とし穴」を具体的にわ
な使い方のルールやマナーの制定とこ
学院教授 下田博次氏から「難しくな
かりやすく説明しています。2004年度
れらを学ぶための教材の作成です。何
るインターネット、携帯電話時代の子
の活動状況は、11ページ一覧表を参照
故なら、ネットの安心安全な使い方を
育て」と題して、特に携帯インター
してください。
普及啓発するための適切な教材と、教
ネットに翻弄される子どもたちの衝撃
2004年11月の東京都江東区立川南小
える人が絶対的に不足しているのが実
的な現状報告と問題提起がありました。
学校「セーフティ教室」の授業の中で
状だからです。このような分かりやす
次いで11月には「情報セキュリティ
保護者から、
「地域や家庭では何をした
い教材や説明資料は行政機関や学校、
ら良いのか」という質問がありました。
NPOからも大変要望の多いものです。
技術調査部 永井正直氏
8
MultiMedia Quarterly
それに答えて、
「ネット社会のトラブル
このニーズに応えるため、当財団で
や犯罪の発生状況は、昔自動車が出来
は2003年度の『快適ビジネス電子メー
て、次第に事故や犯罪が発生し、社会
ル活用ガイド』発行に引き続き、2004
秩序として交通ルールや法律が整備さ
年度は『安心インターネットライフ★
れてきたのと同じ経緯をたどっていま
ガイド改訂版』を制作し、2005年3月
す。違うのは、その変化と対応のス
に発行しました。その編集にあたって
ピードです。インターネットが出現し
は、2002年1月発行の初版をご利用い
て、これまでその技術開発や利用普及
ただいた方々からのご意見を収集し、
面が大きなウェートを占めてきたが、
さらに有害情報サイト、コンピュータ
この数年トラブルや犯罪に対処するた
ウイルス、迷惑メール、個人情報漏え
めに、ネット利用のルールとマナー、
い、架空請求詐欺等の最新情報を盛り
そして個人情報の保護などの法整備が
込みました。詳細は、14ページ記事を
急ピッチで進められています。
ご覧ください。
守ろう!ネット社会に翻弄される子どもたち
守ろう!
主催:東京都、心の東京革命(青少年育成協会)、ネット社会と子どもたち協議会
3月4日東京都新宿区の都民ホールで、東京都青少年育成施策の説明会と、それに関連する講演会が開催された。
インターネットや携帯電話の普及にともない、子どもを巻き込んだネット事件が急増していることに対し、学校や家
庭などで大人たちはどのような対応をしていけばいいのか。ネット社会と子どもたち協議会の渡部運営委員長は、挨
拶の中で「私たちは東京都竹花副知事の『ピンチをチャンスに生かそう』というメッセージを得て協議会を発足さ
せ、10月に緊急提言を行った。青少年の問題はもう先送りできないところにきている。これからはあったか家族支
援ネットなどを通じて、ネット社会の子どもたちを共に守り、育て、対応力をつけるために協力していこう」と語っ
た。続いて、財団法人マルチメディア振興センター技術調査部長の永井正直氏が講演を行った。概要は次の通り。
「子どもを育む
じょうほうつうしん
情豊通心 社会をめざして」
講演
財団法人マルチメディア振興センター
技術調査部長
永井 正直氏
「守ろう!ネット社会に翻弄
される子どもたち」講演風景
■ 快適なインターネットとその落とし穴
現在、日本では8,500万人以上の人々
はならない。今は情報がお金になる
がインターネットを使っている。私た
時代であり、一度個人情報が漏れた
しかし、そのような若者や子どもた
ちの日常生活やビジネスの様々な場面
ら最後、その情報には歯止めが効か
ちばかりだろうか。私は地域スポーツ
で、便利に楽しく利用されている。今
ない。架空請求詐欺のようにイン
ボランティアとして町田市で少林寺拳
後もパソコンや携帯情報端末を介して
ターネットを悪用する者も現れてい
法の練習を通じて子どもたちと接して
インターネットの世界はますます広
る。さらにはパソコンやサーバが動
いる。道場では幼稚園児から大人まで
がっていくと予想する。
かないだけで、仕事、学校、家庭な
が一緒になって練習する。10歳の小学
どに支障が起こるほど社会はイン
生と50歳を過ぎた私が一緒に技をかけ
ターネットに依存し始めている。
たり、かけられたりするので自然と同
先進的な事例として「e‐エアポー
ト構想」がある。最先端のIT技術を空
■ 地域活動を通じて学んだこと。
港業務に用い、荷物紛失の削減やIC
特に問題視されているのは、携帯
じ立場に立っている。一回が1時間半
チップ内臓の携帯電話等を利用した旅
インターネットを悪用する大人たち
の練習だが、小さい子どもにとっては
行先の情報収集、切符の予約から搭乗
によって子どもたちは大変な危険に
大変長い時間に感じるだろう。その同
までのチケットレスサービスなどを行
さらされているということである。
じ時間を部屋に閉じこもってゲームに
うことで、より快適な空港利用を進め
今までもテレビ、ビデオ、ゲームな
没頭したり、携帯メールでおしゃべり
ようとしている。
どの偏った利用による子どもたちの
に夢中になっている子どもと、スポー
特に最近の携帯電話は進歩が目覚し
心の成長の問題は論議され、対策が
ツなどを通じて人とのコミュニケー
く、もはや単なる電話機ではない。財
種々打たれてきたが、今の携帯イン
ションを学ぶ子どもでは対人関係にお
布代わりやGPS機能による位置情報検
ターネットの問題はその比ではない。
いて成長の差が出るのは明らかだと思
索など、複合機器として生活の重要な
若者は片時も携帯電話を離さず、メー
われる。当然ながら技をかけられれば
役割を担いはじめている。
ル中毒という言葉を生んだ。
痛みを伴う。どのくらいの加減でやる
私は、ネットワークやICT技術は本
また親や大人の目の届かないところ
と人は痛がるのか、自分自身の身をも
来「 情豊通心(じょうほうつうしん)
で、ネットで見知らぬ人と知り合うと
って人の痛みを知り、手加減を知る。
社会」のため、つまり人と人との情け
いうコンタクト機能や匿名性には従来
こうした体験は、ネットゲームを通じ
や情報を豊かに、心を通わす平和で豊
にはなかった危険性がある。群馬大学
て見知らぬ相手と格闘していても決し
かな社会づくりに役立つものであるべ
教授下田博次氏は、「携帯電話は子ど
てわからないことである。学校や家庭
きだ、と訴えている。
もにとって扱い方を誤ると、危険で高
の中においても、時には大人が子ども
しかし、昔から便利な道具が出て
価なおもちゃなのだということを大人
と同じ目線で物を見たり、共感したり、
くると、その反面、使い方によって
たちは認識しなければいけない」と警
思いやりをもって一人一人の子どもと
危険な落とし穴があることを忘れて
鐘を鳴らしている。
きちんと接することが必要ではないか。
2005 Spring
9
「何時どこへ行って、何時に家に戻る
■ ネット社会の7つの常識
のか」ということをきちんと自分か
昨今のインターネットを介した種々
ら言えるようになってから持たせる
のトラブルや犯罪の発生に共通してい
など、今も昔も変わらない子どもの
る負の原因を分析してみると、私たち
しつけの話である。子どもというよ
が普段の生活の中で安全のために実施
り親である大人の問題というのが真
していることや周りの人と良好なコ
実をついている。
ミュニケーションを維持するために行
■ ネットセーフティ教室で学んだこと。
なっている対人関係スキルやマナーと
10年前、子どもが高校生になりポケ
この半年間に私はいくつかの小・中
本質的に同じであることが判った。そ
ベルが欲しいと言い出し、それを機
学校、大学、自治体などで「インター
れらを「ネット社会の7つの常識」と
に我が家のケータイ戦争が始まった。
ネットの安心安全な使い方」に関する
して整理した。
言い出すだろうと薄々予感していた
講演や授業及び意見交換を行なった。
が、私たちは「高校生の子どもには
小学校のセーフティ教室で、携帯や
必要ない。自分の責任で契約し、自
インターネットの安全な使い方や危険
インターネットを使うときは、実際
分で通話料を払いなさい。」と腹を決
の避け方の話をすると、子どもは真剣
の生活と同じく、良識のある言動を行
めた。不承不承ながら収まり、しか
に素直に聞いてくれる。その聞く姿勢
い自分の発言には責任をもつ必要があ
し一年経つと今度はPHS、また翌年
から子どもたちの方が親や先生よりも
る。ネット上の情報の真偽、サイトの
には携帯電話が欲しいと言い出した。
数段関心が高く、かつ実際に使用して
安全危険を見分ける「判断力」、危険
いることがよくわかる。
なサイトや情報を避ける「自制力」、
小学校でのセーフティ教室
■ 我が家のケータイ戦争で学んだこと
「クラスのみんなが持っている」「自
まず第1の常識は「インターネット
は自己責任の世界」である。
自分の言動に責任を負う「責任力」が
分だけ持っていないと変人扱いされ
学校の先生方と話をするたびに心配
る」といった主張に加えて「すぐに
に思うのは、企業人に比べて先生方自
連絡をすることができて安心でしょ
身が学校内でもインターネットをあま
迷惑メールは今のところ私たち利用
う」といった親の心配を逆手に取る
りにも利用していない。そのためウイ
者が防御する以外にない。決して迷惑
ようなことを言う。そのたびに子ど
ルスや有害情報サイトの危険度や子ど
メールには返信しないこと。心当たり
もとの話し合いは夜中から明け方ま
もたちがどのように使っているのか、
のないメールは削除するのが一番であ
で続いた。20歳になったその日に子
危ないことしていないかという今日的
る。また送り主のわからない添付ファ
どもは携帯を手にした。10年前の話
な危険アンテナが鈍ってしまっている
イルは開けることを避け、転送を促す
だからできたというかも知れないが、
ということだ。これではとても子ども
チェーンメールは自分のところでス
今だからこそ親子でじっくり話し
たちを指導できない。毎回大きな危惧
トップする勇気を持って被害の拡大を
合ってみることが大事だろう。
を感じる。そのため、子どもたちへの
防いでほしい。
必要である。
最近では、いつでも連絡が取りや
授業も大事だが、先生や親たちへの
日常生活においては良しとされる好
すいようにと親から幼稚園や小学校
セーフティ授業をもっと多く行なうべ
奇心も、ネットの世界においてはぐっ
に通う小さな子どもに携帯を持たせ
きだ。今まで100校プロジェクトなど
とこらえなければならないときがあ
ることも多い。今や日本では携帯電
によって学校教育へのネット利用の普
る。興味をそそられるサイトやメール
話は誰でも持っている状態であり、
及を行なってきたが、再度情報モデル
ほど注意し、急増しているネット詐欺
大人も子どもも等しくその正しい使
校などを牽引力としてインターネット
にひっかからないためにも、判断力、
い方を学習していく必要がある。そ
の安心安全を含む情報リテラシー教育
自制力、責任力をきちんと働かせて欲
の際必要なのは、親として「なぜ自
の必要性を深く感じる。
しい。
分の子どもに携帯を持たせるのか。
子どもたちへのネット指導は、イン
第2の常識は「全ての情報発信は謙
虚な姿勢で」行なう。
なにか起こったら親が絶対守ってや
ターネットを用いた普段の授業の中
る。」といった信念と愛情を持ってい
で先生方がOJTすることが効果的で
インターネットはサイバー空間だと
ることが絶対条件だ。このことは
ある。授業の実践の場でメール送受
いっていた人がいたが、それは違う。
ネッ トワークサービス提供事業者側
信のマナーやサイト利用時の注意点
現実社会である。パソコンや携帯など
の理念のあり方にも通じる気がする。
などを子どもたちに具体的に教える
の機械を相手にやり取りしているよう
ことができる。そのためには、個人
でも、その向こうには感情をもった人
は、ネット利用に伴う良い面、悪い
や地域ボランティアは起爆剤となり、
間がいることを忘れてはならない。ブ
面をきちんと伝え、子どもがそれに
行政が推進役となって地域ぐるみ、
ログに情報を書きこんでいる人、メー
納得したら渡すようにしたい。また
学校ぐるみの取り組みへと発展させ
ルを出す人、読む人が必ず存在してい
は、せめて子どもが出かける際に
ることが重要である。
るのである。掲示板やチャットでの何
親が子どもに携帯を持たせるとき
10
MultiMedia Quarterly
気ない一言が、思いもよらないトラブ
ルにつながることもある。誹謗・中傷
は相手の受け取り方によっては、警察
や裁判沙汰にもなりかねない。メー
大学等向け悪質商法被害
未然防止講座風景
ルでは、発言する時の心理状態や場
の雰囲気が正確には伝わりにくいの
で、なおさら相手に対する気配りや
早くて5〜6歳の子どもから携帯電話
く、ネットワークを通じて他のパソ
丁寧な言葉遣いが大切である。
を持たせる親がいるようだが、子ども
コンにも感染することがあることを
の健やかな成長を考えると、少なくと
意識しなければならない。被害者は
も中学生までは避けたいものである。
一転加害者となる危険がある。ウイ
第3の常識は「むやみに個人情報を
公開しない」である。
情報提供にはリスクがともなうこと
携帯電話を持たせる前に日常生活の中
ルス対策はインターネット利用者の
を忘れてはいけない。巧妙化する手口
でしっかりと親は子どもの自制力や判
常識中の常識である。
は、あたかも本物のようなサイトを運
断力をしつけて欲しい。
営したり、銀行名を名乗ってメールを
送り個人情報の記入を要求することも
第5の常識は「著作権・肖像権など
を侵害しない」である。
最後の第7の常識は「ID、パスワー
ドはしっかり管理」である。
インターネットを利用するための
ID、パスワードはキャッシュカード
ある。判断が難しいこともあるかもし
特に子どもは犯罪という意識が薄
れないが、普段から知らない人に自分
く、好きなアイドルや芸能人などを応
の暗証番号と同じく大事なものだ。
のことや家族のことをむやみに話さな
援するために写真を勝手に撮り、自身
お年寄りや、子どもといった判断力
いのと同じで、不用意に個人情報を書
のホームページに掲載しがちである。
の弱い人をだまして、情報が盗まれ
き込んではならない。
また、書店で必要なページだけ撮影す
ることも多く、一人で悩まないよう
るなど、デジタル万引きと呼ばれるカ
に周囲のフォローが必要となってい
メラ付き携帯電話による犯罪も多く
る。
第4の常識は「危険なサイトに近づ
かない、利用しない」である。
インターネット上の多くのトラブル
はアダルトや出会い系サイトを原因に
発生している。平成15年の出会い系サ
なっている。
第6の常識は「コンピュータ・ウイ
ルスへの対策」を講じる。
以上の7つの常識を4コママンガ
を使って、事例を分かりやすくまと
めた冊子『安心インターネットライ
イトに関連した事件の検挙状況は95
最近では感染させたパソコンを遠
フ★ガイド改訂版』を、3月31日よ
パーセントが携帯電話によるインター
隔で操るボットネットウイルスや携
り20万冊無料で頒布する。子どもと
ネットを使用したものであり、そのう
帯電話のウイルスも現れた。職場や
一緒に、大人もインターネットへの
ち85パーセントは18歳未満の子どもだ
学校でのやり取りにおいては、誰か
関わり方を見直すものとして、学校
という結果もある。その結果からは、
一人がウイルスに感染してしまうと、
や家庭、企業などさまざまな場で役
子どもに対するネット放任主義といっ
全体に広がってしまう可能性もある。
立てて欲しい。(詳細は14ページ記事
た家庭像さえ浮かび上がった。最近は
ウイルスは自分のパソコンだけでな
をご覧ください)
■ 2004年度の活動状況一覧表
◎茨城県神栖町 「消費生活講演会」
2004年7月4日
地域の主婦層 約60名
◎神奈川県県民部 消費者教育《夏季》
教員研修
2004年8月27日
小中高校 教職員 60名
◎東京都町田市立真光寺中学校
2004年10月13日
全校生徒 230名、教職員
◎「ネット社会と子どもたち協議会」
会員団体として検討会及び講演会参加
2004年10月27日
東京都竹花副知事へ緊急提言
◎東京都江東区立川南小学校
2004年11月6日
6年生 80名、教職員・保護者 20名
◎東京都葛飾区立宝木塚小学校
2005年2月4日
5年生 94名、保護者
◎東京都、心の東京革命推進協議会、
ネット社会と子どもたち協議会共催
「守ろう!ネット社会に翻弄される子ど
もたちPARTⅠ」にて講演
2005年3月4日
一般都民、教育関係者 140名
◎神奈川県県民部
「大学等向け悪質商法被害未然防止講座」
2005年3月16日
大学・短大・専門学生指導者 40名
◎文部科学省「IT時代の子育て教育モデルタ
ウン作り」公開発表会にて財団の施策説明
2005年3月27日
自治体及び大学関係者 100名
◎東京都等「守ろう!ネット社会に翻弄さ
れる子どもたちPARTⅡ」にて、財団の
施策説明
2005年3月28日 100名
■2005年度予定
◎新世代情報通信フェア2005
主催:信越総合通信局、信越情報通信懇
談会、長野市等
2005年5月26日(木)〜27日(金)
場所:メルパルクNAGANO
◎平成17年度くらしの問題研究交流会
主催:神奈川県県民部「消費者団体研究
活動等奨励事業」
2005年5月29日(日)14時〜15時
場所:かながわ県民センター
2005 Spring
11
FMMC安心安全シンポジウム2005
〜ネット社会のリスクガバナンス〜
「FMMC安心安全シンポジウム2005」
が3月1日、虎ノ門パストラルで開催
された。社会基盤として重要な役割を
担うネットワークについて安心安全の
観点から、総務省情報通信政策局情報
セキュリティ対策室長吉田眞人氏が
「情報通信分野におけるセキュリティ対
策の現状と課題」
、東京大学大学院工学
系研究科社会基盤工学専攻教授堀井秀
ネジメント面では、セキュリティポリ
セキュリティ基本問題委員会を設け、抜
シーの策定をすでに実施しているという
本的な検討を行っている。この委員会の
企業は全体の3割ほどである。
第一次提言を踏まえ、新たに政府全体の
一方、個人ユーザーにおいては、何ら
情報セキュリティを担う中核組織として
かのウイルス対策を行っているのは全体
「情報セキュリティ政策会議」及び「国家
の6割ほどであり、料金や手間を理由に
情報セキュリティセンター」を設置する
ウイルス対策ソフトを使用しない、OSの
ことがIT戦略本部で決定されている。
総務省が担当する情報通信分野の情報
アップデートを行わないという人も多い。
これらからわかることは、全体的にセ
セキュリティ政策としては、通信事業に
キュリティに対しての関心は高まってき
携わる企業間においてさまざまなインシ
ているが、情報セキュリティが自分だけ
デント情報を共有・分析することを目的
の問題ではなくネットワーク全体に関わ
として設立されたTelecom-ISAC Japanの
ることだという認識がまだ低く、この中
活動を支援し、さらにその強化を図るこ
でネットワークとして安心安全をどのよ
とや、インフラの基盤となるセキュリ
うに確保していくかが課題となっている。
ティ技術の研究開発、ネットワークを利
では政府がどのような情報セキュリ
用している個人のセキュリティ意識の向
ティ政策及び推進体制をとっているのか
上などがあげられる。総務省ホームペー
といえば、e-Japan戦略Ⅱ等に基づき、
ジ内には国民一般を対象とした情報セ
インターネットの利用環境の整備や高度
キュリティに関するサイトを開設し、情
情報通信ネットワークの安全性及び信頼
報提供を行っている。そのほかにもネッ
性の確保などに力を注いできた。IT戦略
ト社会の発展のためにセキュリティ管理
本部を中心に、情報セキュリティ対策推
技術者の育成の強化や、ネットワークを
会全体が著しくITに依存するようになっ
進会議、情報セキュリティ専門調査会、
脅かす行為を禁止する等の法整備も行っ
てきている中で、セキュリティに関する
情報セキュリティ対策推進室などの組織
てきている。
問題が深刻化してきている。主な情報セ
がそれぞれの目的をもって機能・役割を
これらの施策を通して、利用者が特に
キュリティ問題としては、不法侵入者に
分担して活動している。現在、政府全体
意識をしなくても安心・安全に利用でき
よるデータの漏洩や改ざん、ウイルス、
の情報セキュリティのグランドデザイン
る、セキュリティの確保されたネット
迷惑メールなどさまざまなものがある
の確立を行うべく情報セキュリティ専門
ワーク環境の実現にむけて、取り組んで
が、中でも注目すべきはウイルスの悪質
調査会の下に民間有識者からなる情報
いきたい。
之氏が「社会技術から学ぶネット社会
のリスクガバナンス」と題して講演を
行った。スピーチ概要は以下のとおり。
「情報通信分野における
セキュリティ対策の現状と
課題」
講演
総務省 情報通信政策局
情報セキュリティ対策室
室長
吉田 眞人氏
インターネットの利用者が急増し、社
化である。以前はフロッピーやメールな
どによって感染を引き起こしていたもの
が、2003年以降にはネットに接続するだ
情報通信分野における情報セキュリティ政策の概要
■
■
けで感染するものがあらわれた。
2004年のコンピュータウイルス被害の
届出件数は6万3千件を超え、毎年増
個々の企業、組織によるセキュリティ対策から広範な関係者の連携によるセキュリティ対策へ
端末レベルのセキュリティ確保からネットワークレベルでのセキュリティ確保へ
1
2
電気通信事業者における
対策実施の促進
研究開発の推進
加の一途を辿っている。このような状況
安心・安全な
ネットワーク基盤の構築
で企業のセキュリティ対策の実施状況を
みると、ウイルス対策を行っていない企
業はほとんどなく、不正アクセスの対策
においてもファイアウォールの導入など
が高い割合で行われている。しかし、マ
12
MultiMedia Quarterly
5
法整備
3
利用者における
対策実施の促進
4
人材育成の推進
「社会技術から学ぶネット
社会のリスクガバナンス」
講演
東京大学大学院工学系
研究科 社会基盤工学
専攻 教授
堀井 秀之氏
る。さまざまな生活に関わる分野を横並
新たなリスクに対する対策と対応関係を
安心安全という言葉がさまざまな分野
びにし、木を見るのではなく森を見ると
研究している。そのさらに進んだものが、
で注目されるようになっているが、第3
いった感覚で全体を俯瞰的に眺めること
リスクガバナンス研究である。さまざま
次科学技術基本計画においても、テロ、
で問題の解決につなげようとしている。
なリスクにおいて、物事の間でどのよう
新興感染症、情報セキュリティなど社会
地震防災における社会技術を例にあげ
なやりとりがされているかを比較し、リ
問題における安心安全を重点においた取
る。阪神淡路大震災による死亡原因を調
スクの特性や対策の間の関係をさらに深
り組みが行われようとしている。しかし、
べると、地震発生直後の建物の倒壊など
く分析していく。
そうした取り組みを行う現場からは、
によるものが多いことがわかる。よって、
これまでリスクに対する安全対策とし
大地震による死者を減らす第一の方法と
て何がなされてきたのかをさぐるだけで
しては、古くて耐震性能が悪い建物を解
なく、安心のモデル化が必要とされてい
消していかなくてはならない。しかし、
る。これまでは知らないがために安心と
の階層説によると、5段階に分けた欲求
それには住民自身がお金を使って改善し
いった状況や、不確実な情報を提供する
において安全の欲求とは下から2番目に
なければならず、理解を得るために地震
ことで混乱を招くといった懸念もあった
あたる。低次元の欲求が満たされて初め
が起こった際の被害状況を説明するツー
が、今後は知っていて安心という能動型
て自己実現などの高次元の欲求などに移
ルや、合わせて行政が何らかの優遇措置
安心を目指していくことが大事である。
行することを踏まえると、安全は極めて
を行う法制度を設けることが必要となる。
こうした安心安全を構築する社会技術は
重要なものといえる。また、安全の欲求
こうした工学の手法と法制度を結びつけ
ネット社会にも通じるものである。
というのは苦痛、恐怖、不安、危険など
ること、一つの知識だけでなく別の知識
を避けて安定を求めることであり、その
を取り入れることで問題解決を目指すこ
最適なリスクガバナンスの構築や全体像
言葉の持つ意味は安心に近いといえる。
とが社会技術であるともいえる。
の把握、リスクに対する共通理解の形成
「どうしたら人に安心してもらえるかわ
からない」といった声もある。
心理学の分野におけるマズローの欲求
安心安全な社会の構築には社会的対
他分野の知識を活かすという点では、
安心安全なネット社会をつくるために、
などが行われていくことが必要である。
応が必要である。近年の社会問題の特徴
としては複雑化、高度化、価値の多様
安心のモデル化
学習
情報提供
化などがあげられ、そうしたものを解決
するのが社会技術である。
安心
社会技術とは社会問題を解決し、社
会を円滑に運営するための広い意味での
技術であり、その技術は工学的技術や
法・経済制度、教育、社会規範等幅広
く捉えている。
参
加
・
信
頼
リ
ス
ク
削
減
情
報
︵
知
識
︶
あ
り
能動型安心
無知型安心
能動型不安
無知型不安
社会技術研究システムは平成13年か
不安
ら研究が行われてきたが、その中のミッ
参加・信頼、学習=人々の働き
リスク削減、情報提供=専門家の働き
ション・プログラムⅠにおいて安全に関
わる社会問題を解決するための社会技術
情
報
︵
知
識
︶
な
し
Figure1 安心の分類(暫定的な理解枠組み)
吉川ら、
社会技術研究論文集、2003.10
の開発や知識基盤の構築などを行ってい
2005 Spring
13
ネット社会の7つの常識を
身につけよう!
「安心インターネットライフ★ガイド」改訂版ができました!
今やインターネットは私たちの日常生活やビジネスに欠かせない、大
変便利なコミュニケーションツールとなりました。中でも携帯インター
ネットは、いつでもどこでも情報受発信できることから、若者を中心に
私たちのライフスタイルに大きな影響を与えています。
このようにインターネットがもたらした恩恵が多い反面、コンピュー
タウイルス、迷惑メール、個人情報漏えい、架空請求詐欺など深刻なト
ラブルや犯罪が多発していることも事実です。近年では犯罪者の組織化
による手口の巧妙化、凶悪化がすすみ、子どもたちや一般の利用者を
狙った危険なワナがいたるところに仕掛けられています。
今回、
「安心インターネットライフ★ガイド」の改訂にあたっては、
インターネットを介したトラブルや犯罪の発生に共通している負の原因
を分析し、トラブルを避けるための「ネット社会の7つの常識」として
まとめました。この常識は私たちが普段の生活の中で安全のために実施
していることや周りの人との良好なコミュニケーションを維持するため
に行っている対人関係スキルやマナーなど、現実社会の常識と本質的に
同じものです。
本冊子では、まず「ネット社会の常識」と「トラブル予防・対処策」
を学んでいただき、つぎはあなたの身の周りの人へ、特に子どもたちに
その危険性を伝え、インターネットの正しい使い方について一緒に話し
合ってください。そのため、家庭では親子で、学校では先生と生徒が一
緒に学べるように、トラブル事例を4コママンガを使ってわかりやすく
表示するなど工夫しました。
本冊子に掲載されている事柄が、皆様のご家庭や職場でのインター
ネットライフを安全で楽しく、快適にするための一助となれば幸いです。
コンテンツ紹介
○快適なインターネットライフのために
<便利・快適>インターネットで広がる世界
<安心・安全>ネット社会の7つの常識
○インターネットトラブルの予防と対処
●Webサイト、携帯電話サイト編
●電子メール編
●ショッピング&オークション編
●キーワード解説
●困った時のホームページ一覧
…ほか
「安心インターネットライフ★ガイド」は、以下のサイトからPDF版を自由にダウンロード
してお使いいただけます。また冊子をご希望の方には無料でお送りいたします。
http://www.ejf.gr.jp/guide/index.html
14
MultiMedia Quarterly
「企業とコミュニティのパートナーシップ
に関する調査」の概要報告
特定非営利活動促進法が施行され国内に法人格を持つNPOが増加し始めた2000年前後、NPOと企業のパートナーシップについ
ては注目が集まったが、最近の動きとして、①企業において「社会貢献」のみにとどまらないCSR(企業の社会的責任Corporate
Social Responsibility)という概念が広まり、かつCSRと業績の正の相関が実証されつつあること、②公共サービスという活躍
の場を得たNPOに専門性が徐々に蓄えられてきていること、③有力なセクターとなりつつあるNPOに対して一方的な支援にとど
まらないパートナーシップが、NPO・企業の両方において求められており、そのことへの理解が広まり始めたこと、の3点から、
NPOと企業とのパートナーシップは新しいステージに入りつつあると言える。これらの新たな動きを踏まえ、eコミュニティの活
性化を支援するため、新しいコミュニティと企業のパートナーシップに関連する動向を整理するとともに、パートナーシップの現
状について調査を行った。この調査報告の詳細はEジャパン協議会より報告書としてまとめられているのでそちらを参照されたい。
(http://www.ejf.gr.jp)
コミュニティと企業の
パートナーシップの分類
企業がCSRの意識から、社会的課題の
解決に積極的に取り組む一方、NPOはそ
の社会的使命の達成に向け、外部の支援
に頼らずに事業の継続性を担保するため、
事業性(収益)を重視する動きが生まれ
ている。これらの動きは、
「公益」と「営
利」双方を重視した領域であり、この新
しい領域は「社会的企業(ソーシャル
」といわれる「第4セ
エンタープライズ)
クター」として区分する動きがあり、この
領域へは、企業(第2セクター)側から
のアプローチとNPO(第3セクター)側
からのアプローチの2つに分けられる。
企業側からのアプローチは「私益」か
ら「公益」へと活動を拡大する動きであ
り、より戦略的に社会貢献活動を推進す
る等、社会との共生を図る動きが顕著に
なっており、背景には企業がCSRへの関心
を強めていることがあげられる。また、間
接的な貢献から、人材提供も含めた直接
的な支援へとシフトしていることも特徴
としてあげられる。
NPO側からのアプローチは、
「非営利」
から「営利」へのアプローチであるが、背
景としてNPOの事業運営に必要となる資
金を、行政機関を始めとした外部のボ
ランタリーな支援のみで確保することが困
難となっていることがあげられる。NPO
の活動に対しても、活動に対する対価は
受益者から受け取るという文化が日本で
も醸成しつつあることも営利活動へとシ
フトしつつあることに影響を与えていると
思われる。これらの動きは、企業とコ
ミュニティのパートナーシップにも影響を
与えていると思われる。
ここではパートナーシップを性質別に以
で、CSRの拡がりから今後も拡大が予
想される。
(事例⑤、事例⑥)
この整理に基づき、各分類に該当する
と思われる事例をピックアップし、ヒアリ
ング調査を実施した。
事例① 地域情報ネットワークの運営
ヒアリング先:特定非営利活動法人 桐
生地域情報ネットワーク(KAIN)
事例② 排水処理技術の開発と普及
ヒアリング先:特定非営利活動法人
APEX
事例③ 学生向けNPO起業支援
ヒアリング先:特定非営利活動法人
ETIC.
事例④ IT資格取得関連教育事業
ヒアリング先:特定非営利活動法人
シニアSOHO普及サロン・三鷹
事例⑤ ネットの安全活用普及事業
ヒアリング先:日本電気株式会社
(NEC)CSR推進本部
事例⑥ ボランティア情報サイトの運営
ヒアリング先:株式会社デンソー 総務
部企画2室ボランティア支援センター
下の3つに分類した。
分類A「相互補完」:協業により相互補
完を行い、従来の事業領域の強化を図
るもの。
互いがリソースとして有していないもの
を相互に補完し合うことで、互いの事業
領域の強化を図るパートナーシップであ
る。
(事例①、事例②)
分類B「事業性の強化」:(NPOの)公
益活動を拡大するため営業団体と協業
もしくは新たな事業体の共同設立を図
るもの。
コミュニティがその社会的使命を達成す
る上で欠かせない、組織を維持できる経
済基盤の確保に向けて収益事業を企業
とのパートナーシップのもと実施するも
のである。
(事例③、事例④)
分類C「社会性の強化」:(企業が)社
会貢献活動を拡大するため、非営利団
体と協業もしくは新たな事業体の共同
設立を図るもの。
企業の社会性の強化を図るため、企業の
社会的責任を果たすための行動をコ
ミュニティが支援するパートナーシップ
図表 各組織の事業領域とパートナーシップの分類
※三井物産戦略研究所資料よりFRI作成
社会性の強化
社会貢献活動を拡大するため
非営利団体と協業もしくは設立
新たな領域
営利
企業
(第2セクター)
相互補完
協業により
相互補完を行い、
従来の業務領域
を強化
非営利
C
A
趣味等共通の関心で
結びついたコミュニティ
私益
ソーシャル
エンタープライズ
(第4セクター)
B
NPO
(第3セクター)
事業性の強化
公益活動を
拡大するため
営利団体と協業
もしくは設立
政府
(第1セクター)
公益
2005 Spring
15
平成17年eビジネス異業種交流会
総会・第1回講演会
「平成17年eビジネス異業種交流会
総会・第1回講演会」が2月1日、
虎ノ門パストラルにおいて開催され
人の生命等の保護のために必要な場合等
等、利用停止等の求めがあった場合、こ
た。総会では、平成16年事業活動報
は目的外で利用することができる。ただ
れを遅滞なく行わなければならないこと
告、決算報告及び会計監査報告が行
し、電気通信事業者は、通信の秘密に
が定められている(第25条、第26条、第
われ、続いて平成17年事業計画、予
係る個人情報については、利用者の同意
27条)
。
算、役員の選任、幹事の指名が行わ
がある場合その他の違法性阻却事由があ
次に「電気通信事業における個人情
れた。第1回講演会では、総務省総
る場合以外は目的外で利用することはで
報保護に関するガイドライン」について、
合通信基盤局電気通信事業部事業政
きない。また、個人情報の本人が、どの
ご説明したい。このガイドラインは、平
策課課長補佐の藤波恒一氏が「個人
ような利用目的でその個人情報が利用さ
成3年に策定され、平成10年に改訂さ
情報の保護に関する法律」と「電気
れるか認識できるように、個人情報の利
れたものであるが、個人情報保護法の全
通信事業における個人情報保護に関
用目的を個人情報の本人に通知又は公
面施行に伴い既存のガイドラインについ
するガイドライン」と題して講演を
表しなければならないことが定められて
ても見直しを行うことが求められたこ
行った。概要は以下のとおり。
いる(第18条、第24条)
。
と、政府の基本方針において情報通信分
2点目は、安全管理措置(第20条)
「個人情報の保護に関す
る法律」と
「電気通信事業における
個人情報保護に関するガ
イドライン」
講演
総務省総合通信基盤局
電気通信事業部事業
政策課課長補佐
藤波 恒一氏
まず、
「個人情報の保護に関する法律」
についてご説明したい。
野は個人情報の特に適正な取扱いの厳
についてである。個人情報取扱事業者
格な実施を確保すべき分野であり個人情
は、個人データの漏えい、滅失又はき
報を保護するための格別な措置を早急に
損の防止その他の個人データの安全管
検討することとされたこと、昨今の電気
理のために必要かつ適切な措置を講じ
通信事業者による個人情報漏えい事案
なければならないことが定められている
を踏まえ電気通信事業者には個人情報
(第20条)
。安全管理措置の概念は、技
保護のより厳重な実施が求められたこと
術的・物理的措置という側面と、従業
などから必要な改訂を行うことが求めら
者・委託先の適切な監督を含む人的・
れていた。これを踏まえ、総務省では
組織的措置という側面に大きく分かれ、
「電気通信事業分野におけるプライバ
人的・組織的措置については、もう少
シー情報に関する懇談会」を開催し、ガ
し詳しい規定として、従業者の監督
イドラインの改訂について検討を行っ
(第21条)
、委託先の監督(第22条)が
た。懇談会での検討を踏まえ、総務省
おかれている。
は、昨年8月31日にガイドラインの改訂
「個人情報の保護に関する法律」は平
3点目は、本人の同意なき第三者提
成15年に公布され、今年4月1日から
供の原則禁止についてである。個人情報
改訂後のガイドラインは、用語・定義
全面施行される。民間事業者の方に直
を第三者に提供する場合は、その提供が
等をできる限り個人情報保護法と統一
接関係する「第4章 個人情報取扱事
利用目的の範囲内であることに加え、原
の取れたものとしたほか、安全管理に係
業者の義務等」の規定のうち主要なもの
則としてあらかじめ本人の同意を得なけ
る規定の具体化、従業者に対する教育
について解説する。
ればならないことが定められている(第
研修、個人情報保護管理者の設置、プ
1点目は、個人情報の利用目的に関
23条)
。ただしこれも目的外利用の禁止
ライバシーポリシーの策定・公表、個人
することである。個人情報取扱事業者が
と同様の例外規定があり、法令に基づく
情報の取扱いに関する苦情の適切かつ迅
個人情報を取扱う際には、その利用目的
場合、人の生命等の保護のために必要な
速な処理、情報漏えい等が発生した際の
をできる限り特定しなければならず(第
場合等は本人の同意がなくても第三者に
本人に対する通知・公表等の規定が盛
15条)
、また、原則としてその特定され
提供できる。ただし、これについても、
り込まれている。なお、改訂後のガイド
た利用目的を超えて個人情報を利用し
通信の秘密に係る個人情報については、
ラインは、ガイドラインの規定を遵守す
てはならないことが定められている(第
違法性阻却事由がある場合に限られるこ
れば電気通信事業に関しては個人情報
16条)
。これには例外規定があり、本人
とは目的外利用の場合と同様である。
保護法の規定は遵守したこととなるよう
の同意がある場合、法令に基づく場合、
16
MultiMedia Quarterly
4点目として、本人から開示、訂正
について告示を行った。
に策定されている。
第2回講演会
「平成17年第2回eビジネス異業種
スチャンスとして盛り上がってはいたが、
年務めることになった。舞台から受ける
交流会・講演会」が、3月18日、財
なかなか成功しなかった。それは、イン
インスピレーションが毎回違い、鳥肌が
団法人マルチメディア振興センター
ターネット上で売り手と買い手が安心で
立つような感動を覚えながら指揮してい
きる代金の回収システムがなかったから
たことが、私自身の糧になっている。
において開催された。講演会では、
である。そして携帯電話会社のインター
音楽の解釈をオーケストラや歌手に伝
ネットサービスの誕生により、安心でき
えて、まったく想像していなかった演奏
る決済手段が始まった。公共性・信頼性
が返ってくることがあり、そういうこと
の高い電話会社が売り手の代わりに代金
を自ら望むこともある。演奏が押し付け
氏が「指揮者としてのイメージの具
回収を行い、代金は回収後に携帯電話会
になってしまっては、オーケストラや歌
現」と題して講演を行った。それぞ
社より売り手に支払われる。このシステ
手がのびのびできなくなってしまうから
れの概要は次のとおり。
ムは、デジタルコンテンツの分野では圧
である。彼等が気持ち良く自分たちの音
倒的な支持を受けてきたが、物品販売に
楽ができれば、それが指揮者としてある
おいては、携帯電話という端末の小ささ
べき姿だと思っている。かつては指揮者
や商品の発送に伴う問題が発生してきた。
のイメージで100%音楽をやることが主流
株式会社第一物産 システム事業部
部長の松原高司氏が「バーチャル&
リアル決済の融合」
、指揮者の松岡究
「バーチャル&リアル決
済の融合」
講演
株式会社第一物産
システム事業部
部長
松原 高司氏
そこで物品販売を扱いやすくしたのが
だったが、今は皆が自由に音楽をしなが
クレジットカードの利用だが、インター
ら一つのまとまりを作るという大きな流
ネット上を流れるカード番号が他人に知
れがある。それを作ったのはヘルベル
られないかという不安要素から、安全確
ト・フォン・カラヤンだ。
実な方法として受け入れられなかった。
リハーサルの時に指揮者が演奏を止
元来、人間は面倒くさがりで、その面
この問題点を解決する方法として提案し
めてオーケストラに指示を出すときも、
倒くさいことを当人の代わりにやること
たいのが、バーチャルとリアルな決済を
言い方を間違えると音楽が音楽でなく
によって対価をいただく、それが商売の
結びつける電子商品券である。これは携
なってしまうことがある。一人ひとり
原点である。人間は面倒くさがりだが、
帯電話やPCからすぐに購入ができ、支払
がプライドをもった音楽家だから、そ
一方で豊かになりたいと思っている。関
いは携帯電話料金と共に引落しをするこ
のプライドを傷付けてまでこちらのイ
西では古くから商人がご用聞きに伺い、
とができる。売り手にとっても安心でき
メージや考えを押し通そうとすると、
商品を運んで提供し集金をする。すべて
る決済手段であり、携帯電話会社にとっ
音楽ができなくなってしまう。そこで、
ワンパッケージにすることで、買い手に
ても仲介手数料が入る、今までにはない
音を出さない音楽家としては、できる
面倒くさいと思わせない、それが商売の
新しい決済方法として提起したい。
だけ言葉にせずに身ぶり手ぶりで表現
ポイントだった。
流通の発達に伴い、北海道の商人が沖
縄の人に物を売るようになってきた。そ
する。それを皆が見てインスピレー
「指揮者としてのイメー
ジの具現」
ションを受けながら演奏をする。これ
がイメージの具現化である。
こで問題となるのが集金で、それをカ
講演
100年前の大指揮者アルトル・ニキッシ
バーするために振込みという決済手段が
指揮者
ュの名言に、
「指揮者というのは交通整理
のようなものだ」というものがある。
発達してきた。しかし、買い手にとって
は銀行に入金に行かないといけないので、
面倒くさい。その欠点をカバーするため
松岡 究氏
オーケストラ全員が同じ方向を向いて、
良い音楽を作っていけば、指揮者は立っ
私は大学3年生のときに小林研一郎先
ているだけでいい。少し方向がずれた時に
生に弟子入りし、指揮者をめざすことに
修正すればいいのだ。これは信頼関係の
したが、20代は勉強に明け暮れる毎日で、
下に成り立っていて、イメージを具現化
存在しない世界での販路拡大という状況
指揮者としてデビューしたのは29歳のと
することも人とのやりとりのなかでしかで
が起こってきた。これがインターネット
きだった。その後、縁あってミュージカ
きない。それを円滑に行うことができなけ
ショッピングの始まりで、新たなビジネ
ル「レ・ミゼラブル」の指揮を足掛け5
れば、指揮者の職業は成り立たない。
に、引落しという決済手段が登場し、現
在では引落しが決済の主流になっている。
ところがインターネットの出現により、
2005 Spring
17
From Silicon Valley
頑張れ!
シリコンバレーカンパニー
このところシリコンバレー企業の話題は賑やかだ。
した。Appleのイメージは変わった。たった数%のPC市
OracleによるPeopleSoftの買収は成功し、昨年の
場のシェアでありながら、今ではiPodがMP3プレイヤ
GoogleのIPOは空前の高値をつけた。
そして何よりも明るい話題はAppleの完全復活であ
る。女性陣の中では名を馳せたHPのCEOカーリー・
フィオリナ女史は退任したが、eBayのCEOメグ・ウ
ィットマン女史は凄腕に磨きがかかってきた。
市場の59%、インターネット・ダウンロード・ミュー
ジックのiTuneは62%という圧倒的な人気を得ている。
まさに、ジョブズの活躍と効果は絶大である。
◆ HPカーリー・フィオリナの退任
初のハイテク大企業の女性CEOとして注目されたHP
のカーリー・フィオリナ女史が2月8日退任した。彼
◆ Oracleの挑戦とAppleの復活
まず昨年6月6日、OracleによるPeopleSoftの$5B
(約5千億円)買収宣言。
これはOracleの将来展開の鍵を握る大技だった。
女はフォーチュン誌の世界女性役員ランキングでトッ
プを4年間続け、シリコンバレーの星として輝いてい
た。HPのCEOに1999年に就任し、2002年5月に
Compaqを買収したが、その後の業績は一進一退だった。
データベース独占の時代は去り、ERP分野の「Oracle
HPの売上を見ると、昨年度総売上$81.1B(8兆1
Apps」拡大のため、同業のPeopleSoftを買収してSAPを
千百億円)のうちPC部門($24.6B)とプリンタ部門
追撃しようという作戦だ。半年にわたる交渉の間、9月
($24.2B)はほぼ同額で共に約30%ずつ、次いでサー
には破談にこそなったが隠密裏に行われていた
バ/ストレージ部門が$15.2B(18.7%)、サービス分
MicrosoftによるSAP買収の話には驚かされた。その
野が$13.8B(17%)と続く。ところが、収益となる
SAPが3月はじめに小売業向けソフト・ベンダのRetek
とプリンタが$3.8B(3千8百億円)と飛び抜け、
買収で合意すると、Oracleも負けじとTOBをかけて結
サーバ/ストレージのハードウェア販売は$0.2Bと低
果、競り勝った。
迷しながらも、関連するサービス売上($1.3B)で助
シリコンバレーで今一番元気の良い会社はAppleだ。
創業者のひとりスティーブ・ジョブズが、
「Next社と
共に古巣に戻ったのは1997年。それからMac-OSの立て
けられ、PC部門は何とただの$0.2Bだ。
女史はハードウェアで低迷するHPに改革の星として
やってきた。
直し、Microsoftの資本受入と提携によるOfficeパッ
IBM対抗策として打ち出したPC拡大路線は目算が外
ケージ/Internet Explorerの提供。1998年にはカラフル
れたが、HPは2003年から消費者市場にデジタル・カメ
なiMacが登場。そして一昨年夏のiPod/iTuneの発表。
ラやプラズマTVを投入し、昨年秋にはAppleのiPodの販
昨年度は世界で最も影響力のあるブランドにも選ばれ、
売も開始した。かつての大型サーバ志向のHPから一転
今年始めのMacWorldでiPod ShuffleとMac Miniも登場
し、コンシューマ・エレクトロニクス市場への進出で
Oracle本社
18
MultiMedia Quarterly
Apple本社とiPodシリーズ
HPガレージ・カンパニーとPC
eBay本社
ある。スタンフォード大学の学生だったデビット・パ
ール、タバコなど幾つかの売買禁止項目を設定した。
ッカードとビル・ヒューレットの2人が始めた元祖シ
こうした方針は全てeBayコミュニティの声から聞こえ
リコンバレー・カンパニー。HPのビジネスは、彼らが
てきたものだ。毎日、コミュニティとのeBay Live!に
成功を収めた計測機器(現Agilent Technologies社)か
参加し、彼らの声に耳を傾けながら、自分でもオーク
らコンピュータに進展、そして次の収益源として始め
ション取引をする。日常生活で人々が向上するように、
たプリンタ事業を後にCEOになったジョン・ヤング氏
eBayも普通のペースで日々改善していく。
が見事に花を咲かせた。カーリー・フィオリナ女史の夢
Yahoo!に遅れることたった5ヶ月でスタートさせて失
は敗れたが、果敢に挑戦した彼女にエールを送りたい。
敗した、4年前の日本での事業化。
◆ eBay脅威の成長とメグ・ウィットマン
その後のドイツと中国では素早く動き、大成功させた。
学んだことは「一番最初に、迅速にやること」だ。
メグ・ウィットマン女史が、eBayのCEOになって7
年。
昨年度の売上は当初の$5.7Mから$3.2B(3千2百
億円)と561倍の急上昇、その成長ぶりはMicrosoftや
Dellを上回っている。その上、工場も在庫も持たないか
10年前、インターネット・ユーザーは米国内が75%で米
国外は25%、今や全世界のユーザーは7億5千万人と
なり75%が米国外である。市場は海外、まだまだ事業
を拡張させる地域があることは確かだ。
eBayは昨年、個人項目別広告(Classified Ad)の大
ら、利益は何と1/3の約$1B(1千億円)と巨額だ。
手オンライン・メディア「Craigslist社」の株式25%を
彼女を知る人は、彼女は普通の穏やかな女性のように
買った。その見返りに手に入れたノウハウと技術で、
見えるが、実はパワフルで、しばらく一緒に仕事をす
2月28日、中国、台湾、日本、カナダ、フランス、ド
るうちに、その影響力の大きさに驚かされるという。
イツ、イタリアの世界50都市に47の「キジジ-kijiji(ス
CEO就任当初から誰もが参加できる「大人の遊び場」
としてのオークション市場の運営に徹してきた。彼女
ワヒリ語でビレッジ)」という名前のフリーサイト
(http://www.kijiji.com)を開設した。キジジが本業をど
のフリーマーケットに対する哲学は、普通のことを判
のように補完するのかは定かではないが、彼女はまた、
りやすく、安全に楽しめるようにするだけだという。
一番先に、素早く動いた。eBayが現在のオークション
ハイテク企業の多くが技術的な先取りを競い過ぎて
の地域拡大戦略から、今度はキジジをテコに質的な拡
ユーザがついていけず、倒産してきた様を沢山見てき
大も目指すのではないかという期待がかかっている。
た。だからこそ、今望まれている普通のことをやるん
だという。人は基本的に善人だという信念のもと、健
全なオークション・ビジネスを目指し、武器やアルコ
Silicon Valley IT Researcher
森 洋一
2005 Spring
19
TOP
Interview
● インタビュアー ●
伊藤 聡子さん(キャスター)
幅50メートル、600万画素の大迫力・高精細画像を実現
愛・地球博 に出展中の
「レーザー ドリームシアター」に注目!
ソニー株式会社は、現在開催中の 愛・地球博 に、2005型超ワイド高精細の「レーザー ドリームシアター」
を出展し、話題を呼んでいる。その最新映像技術の仕組みと開発秘話、臨場感あふれるコンテンツの概要な
どを、鶴島克明専務にお聞きした。
鶴島 シアターの面積は約2,300平方
伊藤 難しいわ(笑)
。
メートルで、収容人数は900名となっ
鶴島 要するに、50メートル先のスク
ています。もともとはスケートリンク
リーンに向かってレーザーから出てき
伊藤 3月25日から開催されている
であった場所を改造しましたので、イ
た赤・緑・青の出射光を、スクリーン
「愛・地球博」で、ソニーさんは
メージ的にはまさにスケートリンクく
の上で精緻に合わせたうえ、それぞれ
「レーザー ドリームシアター」を出展
らいの大きさと思ってください。
同期してスイープするわけです。それ
されて話題を呼んでいますが、まず概
伊藤 うわぁ、すごい! 先ほどおっ
も50メートル幅の超ワイドスクリーン
要を簡単にお聞かせください。
しゃった GxL というのは、どうい
に向けて、3つのブロックに分けて発
鶴島 「レーザー ドリームシアター」
う映像技術なんですか。
します。
は、現在ソニーで開発中の最新映像技
鶴島
伊藤 3つのプロジェクターから別々
術「 GxL (ジー・バイ・エル)
」を
子(Grating Light Valve)を用いた
の映像を出すのですか。
採用したフロントプロジェクション方
レーザープロジェクション方式のディ
鶴島 スクリーンの上でまず、赤・
式の2005型超ワイド高精細シアター
スプレイ技術です。システムの核とな
緑・青を重ね合わせるわけですね。し
で、色純度に優れたレーザーを光源に
る GxL 素子は、半導体技術を用い
かし、赤・緑・青が同じ強さで光って
採用することによって、色の再現能力
て製造される光回折格子のMEMS
いたら白になってしまうので、その3
をCRTテレビの約2倍に広げ、従来の
(Micro Electro Mechanical Systems)
色をちょうどいい具合に合成して中間
映像デバイスでは難しい色鮮やかな色
素子で、素子の表面に配された微細な
色を出します。そのモジュレーターが
彩表現を可能にしています。ひとくち
リボンを電気信号で動かすことで、光
GxL素子と呼ばれるものなのです。
で言うと「大画面、高精細、高彩度」
源のレーザーから発せられた光の回折
GxL素子というのは、わずか30ミリぐ
で言い表せるでしょうか。
「愛・地球
光の強弱を制御することで映像化しま
らいの小さなもので、その中に6,480
博」では長久手会場「グローバル・ハ
す。カラー映像の表現には、赤・緑・
本ものリボンがあり、これはハイディ
ウス」内のブルーホールで上映されて
青のレーザーから発せられた光をそれ
フィニション(High Definition=高精
います。
ぞれに対応した GxL 素子で制御し、
細映像方式の名称)信号の走査線
伊藤 大画面ということですが、具体
3つの光を合成することで、鮮やかな
1,080本分に相当します。
的にどのくらいなのですか。
色彩表現を実現するものです。
伊藤 そのリボンがへこんだりするわ
GxL
システムとは
GxL というのは、光回折格
鶴島 縦が約10メートル×横が約50
メートルです。2005年に開催される万
図1
博ということで、対角線で2005インチ
になるよう設計しました。
伊藤 分かりやすいですね(笑)
。スク
リーンの大きさが2005インチというと
〜「GxL」素子拡大図〜
てつもない大きさになると、会場も当
然ものすごいスケールになりますね。
20
MultiMedia Quarterly
(リボン6本で1画素を構成)
〜「GxL」素子〜(リボンの数=6,480本)
T
ソニー株式会社
業務執行役員専務
鶴島 克明さん
つるしま・かつあき 1966年、ソニー株式会社入社。
オーディオ事業本部 技術部長、オーディオ開発本部
長、開発研究所長等を歴任し、デジタルオーディオ
の開発・商品化に従事。取締役、執行役員常務、執
行役員上席常務、執行役員専務、CTOを経て現職。
けですか。
鶴島 そうです。へこんだり平らに
なっ たりで、光の反射が真っすぐ
行ったり乱反射されたりして、変わ
るわけです。
伊藤 テレビ画面の技術とは全く違う
ものですか。
鶴島 昔からあるブラウン管には
ちょっと似ていますね。あれはひとつ
の電子のビームですが、こちらは電子
ではなく、レーザー光を直接スイープ
するわけです。
伊藤 最近、家庭用のテレビでもプラ
ズマや液晶などが流行っていますが、
映像の美しさで言うとやはり、ブラウ
ン管のほうかなと個人的には思ってい
るのですが、どうでしょう。
鶴島 それはお目が高い(笑)
。鋭い方
はそう感じるようですよ。
伊藤 ありがとうございます(笑)
。
常に広いだけに撮影も大変なのです
鶴島 ハイビジョンが3つですからね。
が、先ほども言いましたように普通の
ハイビジョンよりも、高精細度の点で
ブラウン管の約2倍の色再現能力があ
はもっとすごいですよ。
伊藤 これだけの大画面を3つのプロ
りますから、特に赤や緑は非常にキレ
伊藤 カメラも大きいものなのですか。
ジェクターで1つの映像にするという
イに出ますね。
鶴島 このカメラは、VTRも含め全部
ことですよね。そうすると撮影も大変
伊藤 ハイビジョンですから、よりそ
で100キロぐらいあります。それをヘ
だと思いますが、どんな風に撮影する
のままの色に近いわけですね。
リコプターに積んで空中撮影をした
3つのカメラで分割撮影
のですか。
図2
鶴島 ものすごく大きいレンズを使う
50メートル
のですが、1つのカメラでは撮りきれ
ないので、プリズムで3つに分けるん
TOP
です。1つのレンズから入射した映像
は、左・中央・右部を担当する3つの
G×L
プロジェクター
G×L
プロジェクター
G×L
プロジェクター
映像信号
映像信号
映像信号
カメラで同時に分割撮影され、カメラ
からの映像出力を「HDCAM」という
3台のハイビジョンビデオシステムで
同時に撮影します。色の再現範囲が非
HDCAM SR
左画面用
HDCAM SR
中央画面用
HDCAM SR
右画面用
2005 Spring
21
TOP Interv
大きい・小さいスクリーンを問わず、
今まで世の中になかった色表現ができています
り、水中仕様にして撮ったり…。
86個のスピーカーを使った11.1chサ
させていくというのが、最も緊張した
伊藤 すごい! 100キロもあると、
ラウンドシステムを採用しています。
ところですね。なぜかと言うと、開発
カメラを持っての移動は難しいです
また、残響を抑えるための工夫も施
というのは失敗が必ずありますから
よね。
しています。
ね。それをどうやって最小限のリスク
鶴島 持てないですね。ですから、50
伊藤 映像に合わせて、いろいろな角
にするか、そういう開発マネジメント
メートルぐらいにわたって夜桜を撮っ
度から音が聞こえるわけですね。
もひとつ、裏の苦労ではありました。
伊藤 「もうダメかも」という時は?
た時には、映画の撮影のようにレール
を敷いて、移動撮影をしました。
表と裏の苦労話
伊藤 夜桜も見たままだと、キレイで
鶴島 それは幸いなかったですね(笑)
。
伊藤 上映されているコンテンツは、
しょうね。そうすると現存する中では、
伊藤 お話を伺っただけでもすごいな
どのような内容でしょうか。
一番キレイな映像が見られるというこ
と思いますが、この技術ができるまで
鶴島
とですね。
にはどのくらいの研究期間がかかった
トルで、現在の地球と人類の有様をさ
鶴島 大きくてキレイな映像が再現で
のですか。
まざまなデータを通じて浮き彫りにし
きたと自負しております。プロジェク
鶴島 GLV(Grating Light Valve)を
ています。いわば、21世紀初頭の人類
ターではなく、LEDを並べて大きな画
使ったレーザープロジェクターという
全体および生活を測定し、映像として
面を作るというのは、ラスベガスに限
ことで研究開発をスタートさせ、その
お見せするものです。たとえば、地球
らず最近は頻繁に見受けられますが、
技術を発表したのが2002年の6月で
の全人口を満員電車のようにぎゅう
あれは原理的にも、間に黒い隙間が入
す。翌2003年の4月から具体的に万博
ぎゅう詰めにすると、どれくらいの面
ってしまいます。
仕様の開発を始めました。
積に入ると思います?
伊藤 近くで見ると、テンテンテンと
伊藤 携わった方の人数も相当多いの
伊藤 どれくらいかしら? アメリカ
いう感じになっていますね。
では。
大陸ぐらい?
鶴島 そうそう。およそ10ミリピッチ
鶴島 開発当初は20人ぐらいでスター
鶴島 いや、東京都ぐらいに収まると
ぐらいで並んでいて、すべてが光って
トしたのですが、一番多いときで250
いう計算になるんですよ。実際に
いるわけではないんです。それに対し
人ぐらいが関わっていました。
やったことがないから分かりません
てこちらは全部塗りつぶしているの
伊藤 この技術を実現するのに、一番
が(笑)
。それから、
「人間は一生に
で、どこも暗いところはない。ですか
苦労した点はどこですか。
どれくらい歩くのでしょう?」とい
ら同じ大きさの画面を作ったとして
鶴島 すべてが巨大な装置ですから、
うことで、映像では松尾芭蕉が月に
も、隙間なく色が出てくる高精彩度と
設置そのものの取り扱いが大変で、全
向かってテクテク歩いていくのです
いう点で、これに勝るものは今のとこ
部クレーン車で行いました。また、50
が、ちょうど半分の距離で終わって
ろありません。
メートルのスクリーンを上に15メート
しまうんですね。
伊藤 画素数で言うとどのくらいなの
ル引き上げて設置するというのも苦労
伊藤 一生かかっても月には行けない
ですか。
した点です。一枚のスクリーンに繋ぎ
んですね。残念だわ。
鶴島 1つが約200万画素ですから、3
目があると目立ってしまうので、約
つで約600万画素になります。
300キロもあるスクリーンを20人くら
伊藤 ちなみに音響はどうなっている
いでゆっくりとゆっくりと引き上げて
のでしょうか。
いきました。それと、何かひとつでき
鶴島 世界中を回って撮っていますか
鶴島 やはり絵に釣り合った音響でな
なくなると全体がストップしてしまう
ら、イルカやクジラが海中を泳いでい
いといけないわけですよね。ナチュ
ので、決められたターゲットデイトに
たり、サファリのキリンや象と人間を
ラルでワイドな音を実現するために、
向かって寸分の隙もなく、開発を成功
50メートル走で走らせてみるとか、そ
22
MultiMedia Quarterly
2005 our planet というタイ
「百聞は一見にしかず」
です
view
ういう楽しい映像もありますし、ヤン
て観たり・聞いたりすればいいのでし
鶴島 それを可能にする技術を現在、
キースの松井選手が一発放ったところ
ょう。
研究開発しているところです。しかし、
を偶然に撮影できたシーンは、まるで
鶴島 やはり色の鮮やかさが第一だと
従来撮りためたものを見るだけでは物
スタジアムにいるようで、臨場感にあ
思います。大きい・小さいスクリーン
足りなくなるので、これに対応するカ
ふれています。また、あまり撮影が許
を問わず、今まで世の中になかった色
メラもセットも開発できると、いよい
可されないような場所の映像もありま
表現ができていますからね。それに劣
よ面白い時代になっていくのではない
して、たとえばアイスランドの氷河。
らず、大迫力の音もお楽しみいただけ
でしょうか。
なぜ普段は入れないかというと、時々
ます。
「百聞は一見にしかず」ですか
伊藤 本日は最先端の映像技術のお話
崩落するからなのです。
ら、伊藤さんもぜひ一度ご覧になって
をお伺いでき、ありがとうございま
伊藤 海中から撮影したのですか。
ください。
した。
鶴島 ボートにカメラを乗せて撮影し
伊藤 早く観たくて、気が急いてしま
たのと、あとは空中からですね。
います(笑)
。今回は「愛・地球博」
伊藤 空中からというのも難しいです
でお披露目という形になっています
よね。
が、こういった映像技術は今後、どの
インタビューを終えて
鶴島 100キロもあるカメラをヘリコプ
ように進化していくものでしょうか。
ターに吊り下げたわけですから、大変
鶴島 たとえば映画も、従来のように
な撮影です。このように、全体的には
フィルムを持ち歩かずに、デジタルコ
世界中の自然環境を、データで語ると
ンテンツをブロードバンドの回線を通
同時に「実感して見せる」というよう
して配信するデジタルシネマの世界が
高画質の大画面映像に期待を寄せる私を含
め多くの人々にとって、レーザードリーム
シアターはまさに夢の映像だ。撮影から投
影に至る甚大な労力をお聞きすると、よく
ぞ実現してくれたと感動さえ憶える。鮮や
かな映像と迫力のサウンドに体ごと包まれ
る感覚を是非実際に味わい、近い将来我が
家でも楽しめる日に想いをはせたい。
な筋回しになっています。
もう来ていますが、そういう時にふさ
伊藤 映像に囲まれるように実感でき
わしい技術ですよね。それが進めば、
るわけですね。
将来的にはホームシアターに組み込む
鶴島 私が一番印象に残ったのは、ア
こともあながち夢ではなくなると思い
フリカの原住民が鮮やかな色の服をま
ます。
とって、何十人と並んでいるシーンで
伊藤 一般家庭でも、
「レーザー ドリー
す。これはすごくおもしろいですよ。
ムシアター」に近い映像が観られるよ
伊藤 観客は、どんなところに注意し
うになるかも知れませんね。
URL http://www.sony.co.jp
伊藤 聡子プロフィール
1967年、新潟県生まれ。東京女子大学卒。
TBS系「関口 宏のサンデーモーニング」公
募に合格してデビュー。その後、テレビ朝日
系「スーパーモーニン
グ」のメインキャスタ
ーとして6年半朝の顔
を務める。他にTBS系
「ベストタイム」など
に出演。昨年、NYで1
年半の語学留学を経て
帰国。現在、TBSラジ
オ「アクセス」や
TVCMなどで活躍中。
2005 Spring
23
ビ
ュ
ー
ポ
イ
ン
ト
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
ITパワー大革命が
進行中
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
嘘やデマがまことしやかに流れてしまうこ
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
IT(情報技術)の目覚しい進歩によって、
とだってある。それらの情報はとかく中途
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎ ◎○○○○●○○○○◎○○○○●
私たちの生活やビジネスに大きな変化が起
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
社
会
の
光
と
陰
24
MultiMedia Quarterly
半端な、時には怪しい感じさえ覚えること
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○ ○○○○◎○○○○●○○○○◎○
きている。私の趣味のことでいえば、芝居
が多い。だからネット上の情報を単に鵜呑
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○ ○○○●○○○○◎○○○○●○○
みにするのではなく、実際に現場へ出向い
や演奏会に出掛ける時には、インターネッ
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○ ○○◎○○○○●○○○○◎○○○
て生の状態を確認し、実際に人と会ってコ
トで事前に見て参考にしたりする。旅行の
ミュニケーションを交わすなど、情報化社
際も時刻表や宿泊先を調べたり、ネットを
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○ ○●○○○○◎○○○○●○○○○
会であればなおさら現実の大切さを知るべ
通して書籍や家電製品を購入することだっ
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
● ◎○○○○●○○○○◎○○○○●
てある。
きである。
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○ ○○○○◎○○○○●○○○○◎○
ビジネスにおいては、私がテレビのコメ
メールがあるから郵便は必要ないとか、
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○ ○○○●○○○○◎○○○○●○○
ンテーターとしてお話しする際も、あるい
インターネットがあるから電話をかける必
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○ ○○◎○○○○●○○○○◎○○○
は原稿を執筆する時も、資料集めの一環と
要はないなどという風潮が出てきているよ
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○ ○●○○○○◎○○○○●○○○○
うだが、これはとても危険な話だ。むしろ
してインターネットから情報を得たり、事
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎ ◎○○○○●○○○○◎○○○○●
多様なコミュニケーション手段を持ってい
実確認をしたりする。何も私だけではなく
るからこそ、私たちはいまのネットワーク
多くの方々がメールやインターネットをフ
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○ ○○○○◎○○○○●○○○○◎○
社会をより良く、より安心して享受できる
ルに活用し仕事に役立てているはずだ。
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○ ○○○●○○○○◎○○○○●○○
またインターネットの活用により、中小
のではないだろうか。デジタル社会のバ
企業にとって大きなビジネスチャンスが生
ファー(緩衝材)として、郵便も電話も大
まれてきている。資金不足で全国各地に事
切なリスクヘッジ(危機回避)のための
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○ ○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○ ○●○○○○◎○○○○●○○○○
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
● ◎○○○○●○○○○◎○○○○●
業所を設けることができない、販売要員を
ツールと考えるべきだろう。
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○ ○○○○◎○○○○●○○○○◎○
たくさん抱えることができないといった制
それと指摘したいことは、10年前に比べ
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○ ○○○●○○○○◎○○○○●○○
約があったけれど、Webひとつ立ちあげ
世界は一変したと述べたものの、逆にいえ
ることで販路が確保できるし、思ってもみ
ば、インターネットが普及してまだ10年し
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○ ○○◎○○○○●○○○○◎○○○
ないビジネスチャンスを得ることだってあ
か経過していないという点だ。つまりネッ
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○ ○●○○○○◎○○○○●○○○○
る。あるいは、サラリーマンが週末に副業
トワーク社会は未成熟で、さまざまな危険
でビジネスを行うことも可能になるなど、
性にさらされているのだ。実際、不正アク
これまでできなかったことがネットワーク
セスやウイルス感染は日常茶飯事的に起き
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎ ◎○○○○●○○○○◎○○○○●
経
済
評
論
家
佐
藤
治
彦
さ
ん
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○ ○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○ ○○○●○○○○◎○○○○●○○
を通じてできるようになったのだ。
ている。そのような一握りの破壊者のため
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○ ○○◎○○○○●○○○○◎○○○
10年前に比べると考えられない、素晴ら
に健全なネットワーク社会が混乱するのは、
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○ ○●○○○○◎○○○○●○○○○
しい世界が広がったといえるだろう。ITの
たいへん残念であり迷惑なことだ。
パワーによって大革命が起き、いままさに
また、私は昨年5月から11月までの半年
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
● ◎○○○○●○○○○◎○○○○●
それが進行しつつある。
間、あるベンダーの依頼でブログのページ
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○ ○○○○◎○○○○●○○○○◎○
を開き、不特定多数の人々とWeb上でコ
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○ ○○○●○○○○◎○○○○●○○
未成熟な
ミュニケーションを試みた。その人々は匿
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○ ○○◎○○○○●○○○○◎○○○
ネット社会の危険性
名で質問や意見を述べてくるが、それだけ
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○●○○○○◎○○○○●○○○○
○ ○●○○○○◎○○○○●○○○○
しかし、IT社会は全部が全部、素晴らし
に無責任な発言が目立った。ときには、こ
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎○○○○●○○○○◎○○○○●
◎ ◎○○○○●○○○○◎○○○○●
いわけではない。情報ネットワークは、多
ちらが肉や魚の話をしようと提案している
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○○○○◎○○○○●○○○○◎○
○ ○○○○◎○○○○●○○○○◎○
くの危うさを抱えている。
にもかかわらず、相手はお米や野菜の話を
メールやWeb上の宣伝文句に私たちは
してくる。あげくに肉や魚の話をするなん
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○○○●○○○○◎○○○○●○○
○ ○○○●○○○○◎○○○○●○○
ついついごまかされたり、場合によっては
て馬鹿げている、ナンセンスだと、そんな
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○○◎○○○○●○○○○◎○○○
○ ○○◎○○○○●○○○○◎○○○
調子でやってくる。これではコミュニケー
ションが発展するはずもない。結局、発言
者が特定できないコミュニケーションのや
り方はだめだと思った。著名人がブログに
顔出ししているのを見かけるが、そのほと
んどは情報を一方的に発信するだけで、掲
示板への書き込みを閉ざしている。それで
は通常のホームページと変わらないし、ブ
ログとは言えない。
ネット上の情報については、今後、取り
扱いのルールを国際的に確立していくべき
だろう。それは文字情報だけでなく、たと
えば音楽配信についてもいえることで、国
際的なルールが確立されていないため著作
権などをめぐりトラブルが発生しているの
が現状である。
つけさせていくことを真剣に検討していく
を普及させていくことである。海外出張の
必要がある。新聞やテレビで報道される若
際、日本からパソコンを持参しないと、現
者世代の殺人事件を聞くにつけ、彼らが
地で日本語による文字を入力したり、情報
ゲーム感覚でそうした事件を起こしてしま
を見たりすることができるとは限らない。
どう対応していくかが問われている。まず
っていることに危機感を感じざるを得ない。
海外でネットカフェに行っても、一部の大
情報の受け手としては、ネット上で得られ
それもこれも情報の取り扱いが野放しにな
都市はともかく、多くの場所では、メール
る情報の中味を的確に分析、判断する能力
っているからだ。
は読めないし日本のホームページを見るこ
ネットワーク社会の
3つの課題
私たちはこれからのネットワーク社会に
とだってできないのが現状だ。
を養う必要があるだろう。メディアリテラ
次に、ネットワーク社会が身体障害者や
シーを身につけることが、今日のネット
お年寄りなど弱者に対して、十分ケアして
日本語が世界におけるマイナーな言語と
ワーク社会で生きていくうえで重要なこと
いないことに警鐘を鳴らしておきたい。た
して位置づけられないよう、また、より多
だ。反対に情報の発信者としては、情報を
とえば、目が見えない人や手が思うように
くの情報を日本から発信し世界の人々に日
取り扱うルールやモラルをしっかり持つこ
使えない高齢者がパソコンを使おうとして
本を知ってもらうための方法を考えるべき
とだ。このリテラシーとルール、マナーを
もキーボード入力ができなければ、どうし
であろう。
一人ひとりが身につけない限り、ネット上
たらよいか。たとえば音声認識や点字プ
は悪意が渦巻く社会になっていくことは間
リントなどの手段もあるが、いまのネット
佐藤 治彦
違いない。人間と人間の相対のコミュニ
ワーク社会はもっぱら健常者を対象とした
経済評論家。昭和36年生まれ。慶応
ケーション、その基本的な観点から情報リ
システム環境しか整備されていないのが現
義塾大学商学部卒業、東京大学社会情
テラシーを向上させ、情報を受発信するう
実だ。ネットワーク社会がそうしたIT弱者
報研究所教育部修了。経営コンサルタ
えでのルールやマナーを個々人が身につけ
を置き去りにすることなく、深い思いやり
ることこそ、今日のネットワーク社会で求
をもっていち早く対応していくことが何よ
められている緊急の課題といえるだろう。
りも望まれる。
さらに、これからの情報化社会を真に実
そしてもうひとつ、日本にとっての課題
のあるものにしていくためには、家庭や学
は、世界のどこへ行ってもパソコンを使っ
校も社会も青少年に対しリテラシーを身に
て日本語のやり取りができるようなソフト
さとう はるひこ
ントとしての活動のほか、テレビ、ラ
ジオ、雑誌などでも活躍中。
主な著書として『最新・金融商品五つ
星ガイド』(講談社文庫)、『外資系金
融商品がわかる本』(主婦と生活社)、
『価格のしくみと原価の秘密』(日本文
芸社)などがある。
2005 Spring
25
行
政
の
動
き
1 はじめに
050201̲1.html
ブロードバンド基盤の整備は、IT利活
2 中間報告のポイント
用の高度化のために不可欠であり、全国ど
(1)ブロードバンド普及の現状
こでもブロードバンドが利用できる環境が
我が国においては、事業者間の競争が進
実現されることが重要です。
しかしながら、現状では、都市部を中心
んだこと等により、
「安さ」と「速さ」の
に基盤整備が進展しており、採算性等の問
面で、世界一のブロードバンド利用環境を
題から民間事業者の投資が期待しにくい地
実現しているとの国際的評価を受けていま
域は十分に整備が進んでおらず、地理的要
す。一方、ブロードバンド加入者数につい
因によるデジタル・ディバイドの是正に向
ても2001年頃から急速に増加しており、
けた取組みが喫緊の課題となってきていま
2004年9月末時点で、DSL加入者数は
す。
1,200万を超え、世界に先駆けてサービス
提供が開始されたFTTH(光ファイバ)
こうした認識の下、昨年6月より行って
きた「全国均衡のあるブロードバンド基盤
サービスの加入者数についても200万を超
の整備に関する研究会」での検討の中で、
えており、ブロードバンド加入率は全世帯
の約3割強に達しています。
地域におけるブロードバンド基盤整備にお
(2)ブロードバンド整備の意義とデジタ
いて、先進的な取組みを行う地方公共団体
ル・ディバイド解消の必要性
が一定の役割を果たす事例が増加している
地域においてブロードバンド基盤整備を
ことがあらためて認識されました。そこで
行うことは、
「高速・大容量通信が可能」
このたび、地方公共団体向けにブロードバ
move of administration
ンド基盤整備に取組む場合の課題や方策に
「常時接続」
「双方向性」という特性を活か
つき整理した「地域ブロードバンド基盤整
し、インターネットそのものの安全で安定
備加速化指針」を主要部分とする本研究
的な利用環境を整えるとともに、住民生活
会の中間報告「ブロードバンド・ゼロ地域
の向上・地域経済の発展・地方行政の効
脱出計画」がとりまとめられました。
率化・高度化といった諸側面において大き
な積極的効果・効用を有しています。
本中間報告をとりまとめるにあたっては、
『ブロードバンド・
ゼロ地域 脱出計画』
について
総務省総合通信基盤局
高度通信網振興課
○最終的にはFTTH(光ファイバ)を念
一方、ブロードバンドの普及状況は、都
頭に置いた整備目標を持つことが望ま
道府県により、また市町村の人口規模によ
しい。
り格差が見られます(図1、2参照)
。さ
○ただし、ブロードバンド・ゼロ地域にお
らに、ブロードバンド・サービスが提供済
いては、他のメディアを緊急に整備する
みとされている市町村においても、実際に
ことも重要な選択肢である。
加入可能であるのは一部世帯でしかない場
合も多く見られ(図3参照)
、同一市町村
の2点が、本研究会の主な基本的認識と
内のデジタル・ディバイドも生じています
なっています。
(域内の全世帯が加入可能な市町村の割合
なお、本中間報告の全文については、総
務省ホームページに掲載されています。
は、ADSLの場合約51%、光ファイバの場
http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/
合は5%弱に過ぎません)
。
図1
都道府県別ブロードバンドサービス普及割合(提供市町村ベース)
平成16年12月末現在
100%
3 1 1 6
0 0 2 0 8 0 4 3
1 3 0 2 2 0 0
1
3 1 1
5
6
7 6
8
9 8 8 7
13
19
9 9
12
6
11
12
17
15
21
80%
37
40
15
47
21
46
31
8
40
30
23
22
46
29
66
48
19
21
60%
38
58
21
29
27
51
46
44
61 39
46
33
97
40
68
163
56
32
83
33
44
24
36
51
39 39
33
22
2 0 0
8
0 0
7
40%
28
19
27 10 7
0%
26
22
33
18
8 5 14
17
12 11 12
16
7
23 22
12
15
22
48 27
53
25
ブロードバンドサービス未提供の自治体
17
18
12
23
7 12
11
18 24 15 7
6
10
11
21 13
北 青 岩 宮 秋 山 福 茨 栃 群 埼 千 東 神 新 富 石 福 山 長 岐 静 愛 三 滋 京 大 兵 奈 和 鳥 島 岡 広 山 徳 香 愛 高 福 佐 長 熊 大 宮 鹿 沖
海 森 手 城 田 形 島 城 木 馬 玉 葉 京 奈 潟 山 川 井 梨 野 阜 岡 知 重 賀 都 阪 庫 良 歌 取 根 山 島 口 島 川 媛 知 岡 賀 崎 本 分 崎 児 縄
道 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 都 川 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 府 府 県 県 山 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 島 県
県
県
県
MultiMedia Quarterly
FTTHサービスは未提供だが、
ADSL、CATVインターネット等の
何らかのブロードバンドサービスが
提供されている自治体
63
43
20%
FTTHサービス(光ファイバ)が
提供されている自治体
※市町村数は平成16年10月末現在のもの。
※グラフ内の数字は市町村数。
サービスが少なくともその地域の一部で
提供されていればカウントしている。
図2
ブロードバンドサービスの種類別・人口規模別普及状況
図3
平成16年10月末現在
17団体
全国3,123市町村
(平成16年4月現在の市町村数)
FTTH+ADSL
411団体
FTTH+ケーブルインターネット
2団体
単一市区町村内での加入可能世帯率からみた
平成16年4月1日現在
ブロードバンドサービスの提供状況
全国(3,123団体)
単一市区町村内での加入可能世帯率 100%
ADSLのみ
1,436団体
FTTH+ADSL
+
ケーブルインターネット
528団体
ケーブルインターネットのみ
67団体
ブロードバンド
サービス未提供
349団体
ADSL+ケーブルインターネット
313団体
FTTHサービス普及状況
(人口規模別)
ADSLサービス普及状況
(人口規模別)
ケーブルインターネットサービス
普及状況(人口規模別)
0%
0%
0%
50,000人〜
(478団体)
20% 40% 60% 80%100
449団体
(93.9%)
10,001〜
401団体
50,000人 (33.8%)
(1,186団体)
5,001〜
83団体
10,000人
(10.6%)
(783団体)
0〜5,000人
(676団体)
14団体
(2.1%)
20% 40% 60% 80%100
478団体
(100%)
29団体
785団体
1,176団体
(99.2%)
700団体
704団体
(89.9%)
662団体
330団体
(48.8%)
104団体
60%
325団体
(27.2%)
861団体
40%
134団体
(17.1%)
649団体
77団体
(12.1%)
559団体
374団体
(78.2%)
10団体
79団体
346団体
80%
0%以上、50%未満
50%以上、80%未満
未提供
100% 1,603団体
100%
20% 40% 60% 80%100
80%以上、
100%未満
100% 143団体
(4.6%)
(9.6%)
域
内
デ
(51.3%)
ジ
タ
ル
・
デ
ィ
バ
イ
(20.6%)
ド
が
(9.3%) 発
(5.1%)
生
未提供 429団体
サ
ー
ビ
ス
提
供
済
20%
(6.8%)
(9.2%)
サ
ー
ビ
ス
提
供
済
100% 253団体
(8.1%)
(7.9%)
(4.8%)
(3.0%)
未提供
2,181団体
(69.8%)
未提供
2,377団体
(76.1%)
FTTH
ケーブルインターネット
(13.7%)
0%
ADSL
より、地域におけるブロードバンド基盤整
空き芯線開放のため、平素から開放可能
ドを放置しておくと、ブロードバンドを利
備を推進する事例が各地に見られます。
部分に係る情報を整備・開示する等の条
用できる地域とできない地域では、将来的
○e戦略・整備計画の策定
件整備を行う。
以上のような地理的デジタル・ディバイ
に享受できる便益の格差が拡大して社会経
都道府県がIT戦略/e戦略を策定し、そ
済問題化することが懸念され、その解決が
の中にブロードバンド基盤整備計画を位
急務とされているところです。
(3)地域におけるブロードバンド基盤整備
に関する考え方
ブロードバンド基盤整備は、民間が主導
的役割を担い、国がその力を発揮できる環
境を整備して行うことが原則ですが、特に
本中間報告は、
「ブロードバンド・ゼロ
置付ける。
地域 脱出計画」とのタイトルにもあるよ
○事業者との協議・調整
サービス提供見通し、サービス開始に必
うに、ブロードバンドの利用できない地域
要な需要規模等の確認、概算見積り等に
を有する地方公共団体が、民間サービスを
ついて、事業者との協議・調整を行う。
誘致する等によりブロードバンドが利用で
きる環境を整えようとする際の行動の手引
○利用者のニーズの把握
整備の遅れた地域においては、地方公共団
ブロードバンド利用希望の有無、需要
体もこれを自らの問題として捉え、地域自
規模、希望する利用方策等について把
らのイニシアティブで、民間活動の補完
的・促進的役割を果たし、地域の実情に
3 おわりに
き・マニュアルを提供するものです。
上記のポイントに加え、ブロードバンド
基盤整備推進のための事務フローや先進的
握する。
団体の取組み事例(コラムにて紹介)
、光
○国や近隣地方公共団体との情報交換
応じた整備を迅速に推進することが必要で
ブロードバンド普及状況、他の地方公共
ファイバやADSL等の整備コスト事例、地
あると考えられます。
団体の支援策等につき情報交換し、首長
方公共団体が単独事業として行っている補
や地域社会の意識高揚に努める。
助金や光ファイバの保有状況等、多くの資
また、地域における基盤整備を進めるに
あたっては、
○都道府県は、整備目標、整備レベル等と
いったビジョンを作成する。
○市町村は、地域住民に近い立場から、ブ
ロードバンド誘致に対する住民や地域社
会の意向、活動状況といった地域の実情
料やデータを提供しています。少しでも多
○効果的な支援措置
初期投資軽減のための補助金、設備設置
くの地方公共団体の方が本中間報告を参
空間やバックボーン回線の確保等の支援
考に、ブロードバンド整備に向けた取組み
措置を講ずる。
をなされることを期待しています。
○地方公共団体が自己設置する光ファイバ
網の開放
の把握に努め、整備を推進する。
○地域社会は、地域ニーズの把握や、事業
者等との協議を行う(地方公共団体は情
報提供等の側面支援を行う)
。
○事業者は、整備を進める上で地域が必要
とする情報を可能な限り提供する。
といった役割分担が望ましいと考えられ
ます。
(4)地域におけるブロードバンド基盤整備
に関する課題と対応
以下の主な諸課題に順次対応することに
編
集
今号のマルチメディア・クォータリーは、
FMMC TOPICSの 大 特 集 。 イ ン タ ー
ネットなど情報通信の力がすみずみにま
で及ぶ世の中で、たとえば子どもや学生
後
記
など、成長過程の人たちに、どう教育を
施していったらいいか、害悪からどう守
るか。そんなことをあらためて考えさせ
られます。
マルチメディアクォータリー ● 2005年 春季号[vol.20]
発 行 日●2005年4月28日
発
行●財団法人マルチメディア振興センター
編集協力●NTT出版株式会社
〒106-0041 東京都港区麻布台1-11-10 日総22ビル
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(03)3583-5811 FAX:
(03)3583-5813
E-mail:[email protected]
URL:http://www.fmmc.or.jp
2005 Spring
27
域
内
デ
ジ
タ
ル
・
デ
ィ
バ
イ
ド
が
発
生
財 団 法 人
マルチメディア振興センター
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