クリアリングハウス連動型データ更新検知・推奨システムの開発 The Alert System for Data Updating by Using the Data Clearinghouse 臼田裕一郎1),長坂俊成2) 1) 独立行政法人 防災科学技術研究所 研究員(茨城県つくば市天王台 3-1) National Research Institute for Earth Science and Disaster Prevention, Researcher 2) 独立行政法人 防災科学技術研究所 主任研究員(茨城県つくば市天王台 3-1) National Research Institute for Earth Science and Disaster Prevention, Senior Researcher 要約:分散相互運用環境においては、システム間が相互に連動し、不整合のない状態を常に保持していることが望ま しいとされる。そこで、システム間を相互に連動させる仕組みとして、クリアリングハウスを活用してデータ間の依 存関係を抽出し、データの新規追加や更新があった際に、そのデータに関連する処理を連動して開始するよう通知す る手法を開発した。具体的には、①データ間の依存関係を明示するため、各データの内容を示すメタデータのスキー マを拡張、②データベースサーバ連携システムがクリアリングハウス内のメタデータ DB を常に監視し、①を基準にデ ータ更新の検知と処理推奨の通知を行う、という手法である。本稿では、この仕組みをプロトタイプとして構築した 地盤データサーバと地下構造モデル生成サーバに適用し、実証実験を行った結果について報告する。 分散相互運用,クリアリングハウス,メタデータ,システム間連動,情報更新 Interoperability, Clearinghouse, Metadata, System Integration, Updating そこで、筆者らは分散相互運用環境の実現に向け、そ の有効性を評価検証するためにプロトタイプの構築を進 めており、これまでに、ボーリングデータを登録・管理 する地盤データサーバ、浅部を対象とした二次元および 三次元の地盤モデルを生成する地下構造モデル生成サー バのプロトタイプの構築と、両サーバ間を連動させる手 法の検討を行ってきた(臼田・長坂,20081)) 。今年度は これらの連動を具体的に実現して評価検証を行うために、 データの追加・更新を関連する他のデータの更新へ繋げ るための仕組みとして、クリアリングハウス連動型デー タ更新検知・推奨システムの検討と、そのプロトタイプ の構築を行った(図 1) 。 1.はじめに 国、自治体、研究機関等が有する各種システムは、原 則として、それぞれが独立して構築・運用管理されてい る。しかし、これまで互いの連携が図られていなかった ため、それぞれがインターネットに接続されていても、 統合して利用することは不可能であった。また、あるシ ステムでデータの追加・更新があった場合に、その追加・ 更新が関連する他のシステムに速やかに反映される手段 がなかったため、システム間でデータの不整合が発生し ていた。システム間の統合利用や連動を実現するために は、データを相互に利用できる環境(分散相互運用環境) が構築される必要がある。 データベースサーバ連携システム H20年度 クリアリングハウス ユーザ 各種データサーバ群 新規 ボーリングデータ インターネット回線 H18年度 データの流れ 処理の流れ 命令の流れ H19年度 地盤データサーバ 地下構造モデル生成サーバ 図1:相互運用技術によるシステム連動フロー 65 2.クリアリングハウス連動型データ更新検知・推奨シ ステムの実現方法の検討 相互運用環境において、各種システムが運用管理する データを相互に利用するためには、どのシステムにどの ようなデータが運用管理されているのかを示す仕組みが 必要である。そのデータの内容を示すのがメタデータで あり、そのメタデータを運用管理するのがクリアリング ハウスである。したがって、システム間連動を実現する ためには、このクリアリングハウスを活用し、メタデー タを基に連動すべきシステムの依存関係を抽出し、連動 処理を指示・推奨することが必要となる。 そこで、ここでは、メタデータを運用管理するクリア リングハウスを有し、システム間連動処理を通知するシ ステムとして「データベースサーバ連携システム」を検 討し、プロトタイプを構築することとした。 このデータベースサーバ連携システムの導入にあた り、まず、使用するメタデータおよびクリアリングハウ スに必要な条件について検討した。続いて、メタデータ を介して実データの更新を検知し、更新された実データ に関連のある実データのメタデータを検索して該当する システムへ通知する手法について検討を行った。 拡張前 (標準スキーマ) 拡張後 (拡張スキーマ) 入力元データである、 ボーリングデータのメタデータの 「ファイル識別子」を記載 入力元データとしてボーリングデータを用いている、 三次元地下構造モデル(地層)データのメタデータを、 拡張スキーマに適用させて依存関係を表現する場合 図2:拡張スキーマへの適用例 2−1.メタデータに必要な条件 メタデータを介して実データの更新を検知するため には、データ間の依存関係、つまり、 「どのデータの作成 にどのデータが入力元データとして使われたか」につい ての情報が、メタデータに記載されている必要がある。 地理空間情報に対応したメタデータの標準スキーマとし ては、ISO19115 や JMP2.0 などがある。しかし、これら の標準スキーマはデータ間の依存関係を表現するための 要素を有していない。そこで、標準スキーマである JMP2.0 に対し、データ間の依存関係を表現するための要 素を追加した拡張スキーマを定義することとした。 具体的には JMP2.0 内のデータの系譜情報を記載する 要素である「データ品質情報<dataQualityInfo>」の「系 譜<lineage>」以下に、 「入力元データ<inputData>」とい う要素を追加し、そこへ入力元データを識別する情報と して「ファイル識別子<fileIdentifier>」を記載するこ とで、データの依存関係を表現することとした。図 2 に 既存のメタデータの拡張スキーマへの適用例を示す。 スキーマを含めた既存のスキーマを扱うことができず、 標準スキーマに対応した既存のクリアリングハウスとの 相互運用性を維持できなくなる。そこで、拡張スキーマ のベースとなっている標準スキーマである JMP2.0 に対 応した既存のクリアリングハウスを、拡張スキーマも追 加的に扱うことができるように汎用化する方向で改修を 行い、標準スキーマに対応した既存のクリアリングハウ スとの相互運用性を維持できるようにすることとした。 2−3.データ更新検知・推奨方法 メタデータを介した実データの更新を検知・推奨(通 知)するためには、下記のようなフローが必要となる。 1. 2. 3. 4. 2−2.クリアリングハウスに必要な条件 前項で述べたように、データベースサーバ連携システ ムで扱うメタデータは、既存の標準スキーマではなく、 データ依存関係の表現に対応した拡張スキーマで定義さ れるものとするため、その拡張スキーマに対応したクリ アリングハウスが必要となる。 その場合、拡張スキーマに特化した専用のクリアリン グハウスを構築してしまうと、他のシステムを意識する ことなく自由に構築・カスタマイズを行える反面、標準 5. 実データの更新に対応するメタデータの更新 メタデータの更新を検知 更新されたデータを入力元データとして処理され たデータの検索(実際にはメタデータを検索) 検索されたメタデータに対応する実データの管理 者へ、入力元データの更新を通知 更新された入力元の実データを用いて、依存関係に ある実データを更新 そこで、このフローを次のように実現することとした。 1 は、実データを管理しているサーバ上でのプロセスで あり、実データの更新に合わせたメタデータ更新が行わ れる。2 は、実データを管理しているサーバから、更新 されたメタデータをデータベースサーバ連携システムへ 66 れたメールを受け取った管理者が、更新情報を元に入力 元データを入手し、 依存関係にある実データを更新する。 上記のデータ更新検知・推奨のフローに基づき、相互 運用環境内にある、地盤データサーバ、地下構造モデル 生成サーバ、 データベースサーバ連携システムにおいて、 ボーリングデータが地盤データサーバへ追加された場合 に、地下構造モデルを生成する、といった更新を行うケ ースを想定した。その際のシステム構成および処理フロ ーを図 3 に示す。 送信し、クリアリングハウスに登録されているメタデー タを更新することにより、データベースサーバ連携シス テムがメタデータの更新を検知する。3 は、データベー スサーバ連携システムが、更新されたデータを入力元デ ータとしているデータをクリアリングハウス内から検索 する。4 は、データベースサーバ連携システムが、検索 されたメタデータの管理者に対し、入力元データが更新 されたことをメールで通知し、更新を指示または推奨す る。5 は、依存関係にある実データを管理しているサー バ上でのプロセスで、入力元データの更新情報が記載さ 処理の流れ 地盤データサーバ 地下構造モデル生成サーバ メタデータの流れ ボーリングデータ交換フォーマット ①ボーリング データの追加 ⑦モデル更新 <ボーリング情報 DTD_version="2.10"> <標題情報> <調査基本情報> <事業工事名>一般国道○○号建設事業</事業工事名> <調査名>○○共同溝土質調査(その2)</調査名> ・・・・ 作業者 変換 地盤データサーバ 3次元 地下構造 モデル hyoudaiテーブル coreテーブル ⑧メタデータの内容を更新 ②メタデータの内容を更新 ボーリング データ取得 メタ データ ③メタデータを登録 地下構造 モデル (Avs30) メタ データ メタ データ ⑨メタデータを登録 インターネット回線 HTTP クリアリング ハウス 機能 HTTP メタデータ 更新機能 SMTP ⑥更新対象のデータの情報を メール通知(更新開始処理要求) ④、⑩メタデータDB更新 依存データあり メタデータ DB 更新時追加ハンドラ (または依存関係抽出ハンドラ) ⑫END 依存データなし ⑤、⑪更新されたメタデータと 依存関係にあるメタデータの検索 データベースサーバ連携システム用 アドオンモジュール クリアリングハウス データベースサーバ連携システム 図3:相互運用環境におけるシステム構成およびデータ更新検知・推奨のフロー タの追加に伴う更新) 、 データベースサーバ連携システム への送信機能がある。更新機能については、新たにボー リングデータが登録を行った後にメタデータの更新処理 を実行すると、追加されたボーリングデータの位置や取 得日時などに応じて、メタデータ内で更新の必要がある 要素のみを自動的に更新するものとした。 3.プロトタイプの構築 図 3 に示したデータ更新検知・推奨のフローを実現さ せるために、各システムのプロトタイプ構築を行った。 各システム上における動作および機能について、以下に 示す。 3−1.地盤データサーバ 地盤データサーバは、ボーリングデータを登録・管理 するためのサーバである。ボーリングデータそのものの 管理のための機能・インターフェースはこれまでに構築 しており、今回は新たにメタデータの管理機能を追加し た(図 4) 。 地盤データサーバで扱うメタデータについては、ボー リングデータ 1 本 1 本にそれぞれメタデータを付与する のではなく、登録されている全ボーリングデータを1つ のボーリングデータのレイヤとみなし、全体で 1 つのメ タデータを付与することとした。 メタデータの管理機能としては、閲覧機能、登録・更 新機能(xml ファイルのアップロード、ボーリングデー 図4:地盤データサーバでのボーリングデータ およびメタデータ管理画面 67 3−2.データベースサーバ連携システム データベースサーバ連携システムは、図 3 に示したよ うに、クリアリングハウス内のメタデータの更新、更新 されたデータと依存関係にあるデータの検索、検索され た更新対象データのメール通知を行うためのシステムで ある。 データベースサーバ連携システム内では、サーバから 更新されたメタデータが送信されてくると、まず、クリ アリングハウス内のメタデータの更新を行う。続いて、 更新されたメタデータを入力元データとしている(依存 関係にある)メタデータをクリアリングハウス内から検 索する。検索の結果、依存関係にあるメタデータがあれ ば、入力元データの更新情報を検索されたメタデータの 管理者に対し、入力元データの更新を通知し、依存関係 にある実データの更新作業を指示または推奨するメール を送信する。 更新情報の通知先については、メタデータ内に記載さ れている実データの作成者の連絡先とした。図 5 に、デ ータベースサーバ連携システムから通知される更新情報 のメール文例を示す。プロトタイプでは、ボーリングデ ータを入力元データとしているデータは、地下構造モデ ル生成サーバ内の、 三次元地下構造モデルデータ (地層) 、 三次元地下構造モデルデータ(N 値) 、および、二次元地 下構造モデル生成のための係数の3 データである (図6) 。 3−3.地下構造モデル生成サーバ 地下構造モデル生成サーバは、浅部を対象とした二次 元および三次元の地下構造モデルを生成するためのサー バである。 標高データと地形分類データを用いた二次元地下構 造モデルの生成機能、および、ボーリングデータを用い た三次元地下構造モデルの生成機能、地盤データベース サーバとの連携機能 (ボーリングデータの取得機能) は、 これまでに構築しており、今回は新たにメタデータの管 理機能、および、ボーリングデータによる二次元地下構 造モデル生成のための係数の更新機能の追加を行った。 メタデータの管理機能については、地盤データベース サーバと同様の閲覧機能、登録・更新機能(xml ファイ ルのアップロード、もしくは実データの更新に伴うメタ データ更新) 、 データベースサーバ連携システムへの送信 機能がある。地下構造モデル生成サーバ内において、二 次元地下構造モデルは、標高データと地形分類データを 用いて生成され、その際に、二次元地下構造モデルのメ タデータが自動的に生成されるようになっている(図 7) 。 更新されたメタデータ についての情報 更新されたメタデータ を入力元データとして いるメタデータの情報 図5:更新情報の通知メール例 三次元地下構造モデル(地層) ボーリングデータ 三次元地下構造モデル(N値) ファイル識別子<fileIdentifier>:nied_ground_boring_higashiyama このファイル識別子を、入力元データ<inputData> として有しているメタデータを検索 二次元地下構造モデル生成のための係数 図6:プロトタイプにおけるメタデータの依存関係例 68 実データ 二次元地下構造モデルの 実データの生成 メタデータ 二次元地下構造モデルの メタデータの生成生成 図7:二次元地下構造モデルのメタデータの自動生成 更新後 更新前 図8:二次元地下構造モデル生成のための係数の更新機能 更新前 更新後 0 700 図9:二次元地下構造モデルの更新前後の比較例 69 すること等が改善点として挙げられた。 (2)については、クリアリングハウス連動型データ更 新検知・推奨システムがメタデータを介してデータの更 新検知・推奨を行っているため、実運用において、必要 な情報(今回の場合は依存関係)が正確に記載されてい るメタデータを作成し、クリアリングハウスおよびその 他の必要なサーバ上へ登録・更新されることが必要不可 欠である。 したがって、 相互運用環境構築の前提として、 依存関係の記載を含めたメタデータの作成とクリアリン グハウスへの登録を行うための社会的な仕組みづくりに ついても、重要な検討課題であるといえる。 データベースサーバ連携システムよりボーリングデー タの更新通知を受け取った作業者は、地下構造モデル生 成サーバを起動し、相互運用インターフェースを介した 地盤データベースサーバとの連携機能により、追加され たボーリングデータを取得する。その後、三次元地下構 造モデル、および二次元地下構造モデルの更新を行う。 三次元地下構造モデルの更新については、ボーリングデ ータの追加に伴い、作業者が地層境界および N 値の境界 の修正を行い、地盤モデルの更新を行う。二次元地下構 造モデルの更新については、まず、追加されたボーリン グデータの中から、PS 検層の情報を持っているデータを 用いて、自動的に係数の更新を行う(図 8) 。その後、更 新された係数を用いて、再度二次元地下構造モデルを構 築処理することで、更新を行う。更新前後の二次元地下 構造モデルの比較例を図 9 に示す。 二次元および三次元の地下構造モデルの更新が完了 し、更新されたモデルが問題ないことを確認した上で、 作業者が更新されたメタデータをクリアリングハウスへ 送信して、一連の更新動作が完了となる。 4.実証実験による評価検証 このクリアリングハウス連動型データ更新検知・推奨 システムの有効性の評価検証と課題抽出を行うために、 地下構造モデルに関する専門家および実務者を対象とし て、実証実験を行った。 実証実験における主な評価項目としては、処理の実効 性やパフォーマンス評価とともに、 特に実務の観点から、 (1)実利用を踏まえたユーザインターフェースのあり方、 (2) クリアリングハウス連動型データ更新検知・推奨シ ステムの実現方法についての課題の整理等を想定した。 実証実験では、実際に地盤データベースサーバにおい てボーリングデータの追加を行い、 それをトリガとして、 メタデータの更新と送信、データベースサーバ連携シス テムでの更新検知と推奨メール送信、地下構造モデル生 成サーバでの更新処理、という一連の動作が連動して行 われたことを確認できた。 また、(1)については、追加された PS 検層の情報を有 するボーリングデータを用いて、二次元地下構造モデル (AVS30)生成のための係数の更新を行う機能において、 現状、すべてのデータを自動的に利用している部分を、 データをプロットしたグラフを表示すると共に、グラフ を見ながら使用するデータを取捨選択できるようにする こと、二次元地下構造モデル(AVS30)から震度を算出す る機能において、中間データとして算出している速度増 幅度、地表最大速度についても地図表示できるようにす ること等が改善点として挙げられた。また、更新通知を 受けた地下構造モデル生成サーバの作業者が、ボーリン グデータを取得する際、どのデータが既取得でどのデー タが未取得かをわかりやすく表示すること、メタデータ そのものの更新履歴をメタデータ内に記録できるように 70 5.まとめと今後の予定 本稿では、分散相互運用環境の有効性を評価検証する ために、分散システム間での処理を連動させる手法とし て、メタデータおよびクリアリングハウスを活用したデ ータ更新検知・推奨システムを検討・開発し、プロトタ イプの構築と実証実験によってその連動性を確認した。 今後は、実証実験で課題として挙がった項目への対応 を進めると共に、このシステムにより更新された地下構 造モデルデータのさらなる連動活用、および他地域への 拡大における課題抽出等についても検討を進めていく予 定である。 謝辞 本開発を進めるにあたり、名古屋大学の福和伸夫教授、 (株)応用地質の高橋広人氏、 (株)ファルコンの坂上寛 之氏にご指導・ご協力いただいた。ここに感謝の意を表 す。 参考文献 1) 臼田裕一郎・長坂俊成(2008) :相互運用技術による 分散システムの連動手法の開発,第 2 回シンポジウ ム「統合化地下構造データベースの構築」予稿集, pp37-40.
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