テクニカルテキスタイルに活路を求める仏繊維

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2013.4.30
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テクニカルテキスタイルに活路を求める仏繊維クラスター
1. フランス繊維産業の概要
フ ラ ン ス 繊 維 産 業 の 2011 年 の 売 上 高 は 128 億 ユーロで 、 前 年 比 5% 増 と
なった。売上の約 4 割が、自動車用、土木建築用、医療衛材用、スポー
ツ・レ ジ ャ ー 用 等 の い わ ゆ る テ ク ニ カ ル テ キ ス タ イ ル で 、繊 維 製 品 の 高
性能化・高付加価値化を推し進めている。
表 1 日仏繊維産業の規模の比較(2011 年)
フランス
日本
売上高
128 億ユーロ(172 億ドル)
[54 億ユーロ(72 億ドル)]
34,984 億円(443 億㌦)
企業数
601
[355]
7,370(事業所数)
雇用数
69,300
[26,000]
238,300
輸出
79 億ユーロ(106 億㌦)
8,118 億円(103 億㌦)
輸入
148 億ユーロ(199 億㌦)
33,960 億円(430 億㌦)
為替レート
(2011 年/US$)
0.745€
79\
備考:フランスは従業者 20 名以上の企業、日本は同 10 名以上の事業所が対象
フランスの売上高、企業数、雇用数の下段[ ]はテクニカルテキスタイルの内数
出所:フランス繊産連資料、ロ ー ヌ ・ ア ル プ 州 企 業 開 発 国 際 局 資 料 、経 済 セ ン サ ス
活 動 調 査 、 繊維ハンドブックを参照して化繊協会取纏め
テ ク ニ カ ル テ キ ス タ イ ル の 最 大 生 産 地 は 、フ ラ ン ス 南 東 部 に 位 置 す る
ロ ー ヌ・ア ル プ
Rhône - Alpes 州 ( 首 府 : リ ヨ ン ) で 、 売 上 高 で 同 国 全 体 の 23% ( 30 億 ユー
ロ) 、 雇 用 数 で 22% ( 15,500 人 ) を 占 め る 。 第 2 次 大 戦 後 に は じ ま っ た
ガ ラ ス 繊 維 織 物 製 造 を 素 地 と し て 、現 在 で は 欧 州 最 大 級 の テ ク ニ カ ル テ
キ ス タ イ ル ・ ク ラ ス タ ー “ Techtera” を 形 成 、 欧 州 の テ ク ニ カ ル テ キ ス
タ イ ル の 18% 程 度 を 生 産 し て い る 。
ノール=
テ ク ニ カ ル テ キ ス タ イ ル の 取 組 み 強 化 の 動 き は フ ラ ン ス 北 部 、 Nord パ
ド
カ レ ー
Pas de Calais 州 ( 首 府 : リ ー ル ) で も 見 ら れ る 。 フ ラ ン ス 北 部 の 繊 維
産業は一般衣料用等の汎用用途向けが多いため苦戦が続いているが、
2005 年 以 降 、テ ク ニ カ ル テ キ ス タ イ ル・ク ラ ス タ ー “ Up-Tex” が 中 心 と
な っ て 高 性 能・高 付 加 価 値 な 分 野 に シ フ ト し 、巻 き 返 し を 図 ろ う と し て
1
い る 。 2012 年 10 月 に は リ ー ル 市 や 国 等 か ら の 支 援 を 含 む 総 額 4,000 万
ユーロの 官 民 事 業 と し て 、 欧 州 先 端 繊 維 研 究 セ ン タ ー ( CETI) が 開 所 し て
い る 。合 繊 原 糸 や 不 織 布 の 最 新 設 備 が 導 入 さ れ 、世 界 の 研 究 者 や 企 業 と
も連携して技術開発を加速させたい考えである。
2. 欧州最大級のテクニカルテキスタイル・クラスター“Techtera”
ロ ー ヌ ・ ア ル プ 州 の テ ク ニ カ ル テ キ ス タ イ ル ・ ク ラ ス タ ー で 、 110 の
企 業 ・ 機 関 ( 75% が 企 業 会 員 ) で 構 成 さ れ て い る 。 会 員 と な っ て い る 主
な企業・大学等研究機関を表 2 に示す。
表2
Techtera の主な会員(企業及び大学等研究機関)
企業・機関名
概要
Porcher Industries
欧州を代表する川中企業
Sigvaris
ストッキングの世界的メーカー
Serge Ferrari
軽 量 コ ン ポ ジ ッ ト メ ー カ ー 、 80 カ 国 で 展 開
Thuasne
医療・スポーツ用繊維製品の欧州トップ企業
Texinov
フランスを代表するジオテキスタルメーカー
Fibroline
加工機メーカー
ITECH
( Institut Textile et Chimique de Lyon )
リヨン繊維化学学院:
グランゼコール(高等専門教育機関)の一つ
で、繊維・皮革・化学のエンジニア養成学校
INSA de Lyon
( Institut National des Sciences
Appliqués de Lyon )
国立応用科学院リヨン校:
グランゼコールの一つで、先端科学技術開
発・教育を担う(日本の東北大学の連携校)
IFTH
( Institut Français de Textile et
Habillement )
フランス繊維被服研究所:
繊維関係の国立研究所・技術センター
CTP
( Centre Technique du Papier )
紙技術センター:
紙・不織布を扱う技術センター
出所:ローヌ・アルプ州企業開発国際局
テ ク ニ カ ル テ キ ス タ イ ル の ク ラ ス タ ー と し て ロ ー ヌ ・ア ル プ 州 に は 幾
つ か の 強 み が あ る 。第 一 に 、こ の 地 域 に は 有 力 な 異 業 種 の ク ラ ス タ ー が
多 数 存 在 し 、シ ナ ジ ー 効 果 を 生 み 出 せ る 環 境 に あ る こ と で あ る 。ア ル プ
ス に 近 い こ と か ら 、ス キ ー や 登 山 な ど の ス ポ ー ツ 、ア ウ ト ド ア 関 係 も 強
い。開発のターゲットとするテクニカルテキスタイルは、防衛・防護、
航空・宇宙、自動車、医療、スポーツ・レジャー、土木・建築と極めて
多岐にわたっている。表 3 及び 4 にこれらのクラスターを記載する。
2
表 3 ローヌ・アルプ州を拠点とする仏政府認定競争力クラスター
クラスター名
分野
Arve Industries( アルヴインダストリー)
精密加工・メカトロニクス
Axelera( アクセレラ)
環境化学
Imaginove( イマジノヴ)
マルチメディア
InnoViandes( イノヴィアント)
食肉加工製品
Lyon BioPôle( リヨンバイオポール)
疫学・獣医学・ワクチン
Lyon Urban Truck & Bus
( リヨン都 市 トラック&バス)
クリーン交通ソリューション
Minalogic( ミナロジック)
マイクロ・ナノテクノロジー
PASS( パス)
香水・香料
Plastipolis( プラスティポリス)
プラスティック加工
PEIFL( ペイフル)
果物や野菜の改良
Techtera( テクテラ)
テクニカルテキスタイル
Tenerrdis( テネルディス)
再生可能エネルギー
Trimatec( トリマテック)
産業用エコテクノロジー
ViaMéca( ヴィアメカ)
機械エンジニアリング
備考:フランス政府認定クラスター:イノベーション促進、競争力強化を主た
る目的として、研究開発・技術革新、共同プロジェクトを推進する。
出所:ローヌ・アルプ州
表 4 ローヌ・アルプ州政府認定クラスター
クラスター名
分野
Aerospace( アエロスペース)
航空・宇宙
Automotive( オートモティブ)
自動車
Organics( オーガニック)
オーガニック製品
Eco Energies( エコエネルギー)
再生可能エネルギー
Imaginove( イマジノヴ)
マルチメディア
Edit( エディット)
ソフトウェア
Montagne( モンターニュ)
山岳・アウトドア
Sporaltec( スポラルテック)
スポーツ・レジャー
I-Care( アイケア)
健康テクノロジー
Logistique( ロジスティック)
物流
Lumiére( リュミエール)
光・照明
Agroalimentare( アグロアリモンテール)
食品
備考:ローヌ・アルプ州政府認定クラスター:地域産業に密着して国内及び国
際競争力を強化することが目的。
出所:ローヌ・アルプ州
第二に、研究・教育機関が充実していることである。ローヌ・アルプ
州 は フ ラ ン ス を 代 表 す る 研 究・教 育 地 域 の 一 つ で 、フ ラ ン ス 全 体 の 18%
3
に 当 た る 2.1 万 人 の 研 究 者 が 集 中 し 、国 内 特 許 の 16% が 同 州 か ら 出 願 さ
れ て い る 。ま た 、9 つ の 大 学 、35 の 教 育 機 関 が 存 在 し 、全 体 の 10% に 当
た る 約 20 万 人 の 学 生 が 学 ん で い る 。 ナ ノ テ ク や バ イ オ テ ク ノ ロ ジ ー で
は 世 界 で も 有 数 な 研 究 拠 点 を 有 し て い る 。 リ ヨ ン 市 で は 毎 年 、 約 500 人
が繊維関係の教育を受けている。
第 三 に 、 公 的 支 援 が 充 実 し て い る こ と で あ る 。 フ ラ ン ス 政 府 は 2005
年 か ら ク ラ ス タ ー 政 策 に 力 を 入 れ て お り 、Techtera は 公 的 資 金 を 運 営 資
金 と し て 、ロ ー ヌ・ア ル プ 州 の テ ク ニ カ ル テ キ ス タ イ ル 産 業 振 興 の 中 核
となっている。
2005 年 の 設 立 以 降 2011 年 ま で の 7 年 間 で Techtera が 関 与 し た プ ロ ジ
ェ ク ト は 228 件 で 、 う ち 112 件 を 政 府 認 定 プ ロ ジ ェ ク ト と し て 実 施 し 、
総 額 1 億 7,600 万 ユーロの 研 究 費 ( う ち 6 割 程 度 が 公 的 資 金 ) を 投 入 し て
いる。
2012 年 に 行 わ れ た フ ラ ン ス 政 府 に よ る 政 府 認 定 競 争 力 ク ラ ス タ ー の
評 価 で 、 Techtera は 最 上 位 の 評 価 を 受 け て お り 、 政 府 認 定 71 ク ラ ス タ
ー の 上 位 20 に 含 ま れ て い る 。
3. テクニカルテキスタイルで巻き返しをはかる“Up-Tex”
Up-Tex は 、 フ ラ ン ス 政 府 認 定 競 争 力 ク ラ ス タ ー の 1 つ で 、 Techtera
に 次 い で フ ラ ン ス 第 2 の テ ク ニ カ ル テ キ ス タ イ ル・ク ラス タ ー と し て 位
置付けられている。
フ ラ ン ス 第 3 の 工 業 地 帯( 日 本 か ら も 自 動 車 関 係 を は じ め 複 数 企 業 が
進 出 )で 欧 州 交 通 網( 鉄 道 )の ハ ブ 都 市 と し て 知 ら れ る ノ ー ル = パ・ド ・
カ レ ー 州・リ ー ル 市 に 拠 点 を 置 く が 、フ ラ ン ド ル 地 域 と し て の つ な が り
か ら 、隣 接 す る ピ カ ル デ ィ 州 や 国 境 を 接 す る ベ ル ギ ー か ら も 企 業・機 関
が 参 加 し て お り 、 138 企 業 ・ 機 関 ( 72% が 企 業 会 員 、 う ち 7 割 が 繊 維 企
業、3 割が異業種企業)で構成している。
表5
Up-Tex の主な会員(企業及び大学等研究機関)
企業・機関名
概要
Bruneel
防護関係、工業用、ジオテキスタイル等
Cousin Biotech
医療用、衛材
Cousin Trestec
スポーツ・レジャー、各種産業用
Delannoy Fréres
スポーツ・レジャー等
Dickson Constant
外装(オーニング等)、内装用テキスタイル
Dounor
不織布
Ferlam Technologies
特殊複合糸、細幅織物等
4
Imattec
高性能繊維糸
Intissel Technologies
各種テキスタイル
Lemahieu
アンダーウェア
Malip
包材等
Peignage Dumortier
各種テキスタイル
Subrenat
不織布、衣料用、包材等
ENSAIT
(Ecole Nationale Supérieure
des Arts et Industries
Textiles)
国立高等繊維技術・産業大学:
フ ラ ン ス の 繊 維 分 野 の エ ン ジ ニ ア の 80% を 養
成。グランゼコールの一つ
GEMTEX
(Génie et Matériaux
Textiles)
繊維工学・繊維素材研究所:
1992 年 に ENSAIT 内 に 設 置 さ れ た 繊 維 分 野 で
はフランス最大の研究所
CETI
(Centre Européen des
Textiles Innovants)
欧州先端繊維研究センター:
リ ー ル 都 市 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト の 一 環 で 2012 年
10 月 に 開 所 し た 革 新 繊 維 材 料 の 研 究 所
IFTH
( Institut Français de Textile et
Habillement )
フランス繊維被服研究所:
繊維関係の国立研究所・技術センター
出 所 : Up-Tex 資 料 及 び 各 社 Web サ イ ト を 参 照 し て 化 繊 協 会 取 纏 め
Up-Tex が テ ー マ と す る の は「 革 新 的 繊 維 技 術・製 品 の 開 発 と カ ス タ マ
イ ゼ ー シ ョ ン 」で 、同地 域 の 繊 維 産 業 と 研 究 機 関 を 集 結 し て 活 性 化 さ せ
る こ と 、セ ミ ナ ー や ワ ー ク シ ョ ッ プ 等 の 様 々 な 取 組 み や 研 究 開 発 プ ロ ジ
ェクトを推進して、新しい技術・製品、サービスを作り出し、新規市場
につなげることを目指している。
ターゲットとする用途は、機能性衣料、包装材、医療、土木・建築、
スポーツ・レジャー関連等である。
2005 年 の 設 立 以 降 2012 年 ま で に Up-Tex が 関 与 し た プ ロ ジ ェ ク ト は
134 件 で 、う ち 83 件 が 政 府 認 定 プ ロ ジ ェ ク ト と し て 実 施 さ れ 、総 額 1 億
7,500 万 ユーロ( う ち 6 割 程 度 が 公 的 資 金 )が 投 入 さ れ て い る 。主 に 、革 新
的繊維を使用した高付加価値製品や複合材料を中心とするプロジェク
トが推進されている。
(担当:技術グループ 大松沢)
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