永田直子先生講演より

のぞみ会講演会
2006 年 1 月 27 日
テクノプラザかつしか
にて
「地域で育つ、地域で生きる」
講師:永田
直子
氏
目黒通所訓練事業「たまごの会」会長
ワークハウスドッポ主催
全国知的障害養護学校連合会子育て支援事業 H11~14 運営委員長
元東京都中野養護学校PTA会長 東京都知的障害者育成会編集委員など
参考図書「できることからはじめよう/地域で生きる子どもたちのために」
東京都立中野養護学校PTAの実践 東京都立中野養護学校PTA著
ジアース教育新社
講演内容:永田直子さんは現在 20 歳になるダウン症の息子さんの子育てのなかで、地
域の支援グループやPTA活動を通して、地域との連携の大切さを主張されてきまし
た。のぞみ会の保護者のかたに向けて、同じ親同士の立場でお話したいとのご意向で、
永田さんご自身の子育てと地域でのご活動の様子などをお話しいただきました。飾る
ことのないやさしい口調で、決して平穏ではなかったと思われる困難を、ひとつひと
つ乗り越えてこられた永田さんのご経験を話される様子に、参加者がみな引き込まれ
るように集中して、あっという間の 2 時間が過ぎました。ご講演の内容を以下に一部
ご紹介します。
1.ダウン症の息子との出会い
生まれて数ヶ月間、集中治療室に入院していた息子を何度もガラス越しに眺めなが
ら、他のお母さん方がそれぞれにわが子を見つめる姿と、自分が息子を見つめる姿に
は、なんら変わることがないということに気づき、障害児の母親であるということは、
何も特別なことではないのだ、という思いを強くしました。
2.ドクターショッピングと地域療育
子どもの障害を受け止めるために、ダウン症のことについて、いろいろな本を読み、
専門家の先生に相談をするために、遠くの病院にも通う日々がつづきました。子ども
に日々の療育を受けさせたいと思ったときには、自分の住んでいる地域でどんな支援
が行われているのかをまったく知らず、一足遅れて門をたたくとすでに定員いっぱい
で入れないという状況に愕然としました。
3.自主グループの発足
通うところがないのなら、自分で作ってみてはどうかとある先生に薦められ、公園
や集会所に親子で集まる自主グループを発足しました。最初は、会場設定も遊具もす
べて自分で用意して、他の保護者の方には手をわずらわせないようにという気持ちで
おこなっていました。徐々に仲間の保護者のほうから、自分たちにも準備を手伝わせ
てくれという声が出始め、とてもうれしく思いました。きっと、最初から仕事を分担
してやってもらおうとしていたら、仲間は集まらなかったのではないかと思います。
4.ボランティアさんとの出会い
地域活動では、さまざまなボランティアさんに出会います。将来福祉の仕事に尽き
たい学生さん、ご自身が精神的な問題を抱えていて、働けないけど何か人の役に立ち
たいと思っている人、障害についてまったく何もしらないけれど、社会貢献のために
ボランティアをしたいとおもっている地域の人、さまざまな人との出会いの中で、障
害児は、いつもお世話をしてもらうだけの立場でいるとおもっていたけれど、逆に、
他の人の自己実現の役に立つこともあるのではないか、と思えるようになりました。
5.兄弟の存在
弟は手がかからない子どもでしたが、気がつかないところで我慢をさせていたよう
です。障害のある兄にとって兄弟の存在は必要だ、と言われたこともあります。弟が
人知れず我慢を積み重ねていたことに気づいたときには、心から申し訳ないという気
持ちでした。それからは、弟を主役にする場面をあえて作るように心がけました。弟
のピアノのレッスンに兄をつき合わせるようにしたことは、結果的に、兄が音楽を楽
しむきっかけをも作ってくれました。性の問題で困ったときには、弟がそっと自分の
部屋に連れて行ってくれるなど、同性兄弟ならではと思う助けが何度もありました。
妹は積極的にボランティアを手伝ってくれます。障害をもつ子どもへのかかわりはも
ちろんのこと、そのきょうだいにまず声をかける心配りは、きっと自身の経験からく
るものだと感じています。
6.こんなはずではなかった
みなさんも、きっと子育ての中で「こんな筈ではなかった」と思うことがたくさん
あるのではないでしょうか。
「筈」というのは、弓矢を射るときに矢を弓にぴたっと合
わせる場所のことをいうそうです。ぴたっと思うとおりにならない、ひとつ乗り越え
てもまた次の思うとおりにならないことが訪れる、子育てはそんな連続です。
息子は成人して学校を離れ、地域で生活をしています。学校の時には考えなかった
ような問題に、ひとつひとつ出会っています。少しだけ先をいく私たちの経験がみな
さんのこれからの子育てにお役に立てることがあれば、とてもうれしく思います。
(文責:東)
講演会の感想より
障害をもつわが子はいったいどういう生活を送りたいのか。どうすれば、地域の中
で、もっと生活しやすくなるのか。それは一人ひとり違うけれど、教育は障害ゆえの
困難の解消が目的ではなく、より豊かに生きていくための手段を講じていくのが目的
だと思う。自立とは、多くの人にどんなに支えられたとしても、主体的にいきていく
ことである。どう支えられるかは、人との関わりをいかに大切にできるかによると思
う。障害児とその保護者であること以前に、人としていかに生きるかを問われている
ようでした。
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永田さんのご講演内容を録音したものを、のぞみ会で貸し出ししています。当
日、ご参加いただけなかった方はぜひ、お聞きになってください。