最優秀賞 『検査結果の向こうに』

第8回病気と検査の思い出エッセイ
最優秀賞
『検査結果の向こうに』
ふじわら 華林(29歳/主婦・大分県)
残念なことにペーパードライバーならぬペーパー技師となって久しいが、検査技師であ
る。その必要性・重要性と、自分の適性への思い込みで、資格を取るに至った。検査技師
など目指さなければ…と氷河期の就職活動の頃には思ったものだ。
しかし今は、検査技師の存在の大きさを痛切に感じている。というのは、私の、3歳の
一人息子の話になる。彼は今、急性リンパ芽球性白血病で、入院生活を送っている。
2007年の春、長引く風邪を不審に思い、近所の小児科で血液検査をしてもらったの
が発端だった。その時は水痘感染であったが、貧血も指摘されたのだ。鉄剤を投与し続け
て、10日余り後に再び検査をするも、貧血は悪化していた。その直後に大学病院を受診、
その日の夕方には入院となってしまった。
何の根拠が無くとも、親は、我が子の健康を固く信じるものである。私たちも例に漏れ
なかった。あまりの展開に、ただオロオロするばかり。検査技師の資格を持つことに、反
って無力感さえ感じた。
「末梢血液像には異型細胞が多く見られます。骨髄検査をして詳
しく調べてから、治療法などについてお話しましょう。
」ボンヤリと色んなことを、考え
ながら医師の説明を聞いた。その後「骨髄中は100%が異型細胞でした。
」と聞かされ
た時は、一瞬気が遠くなった。
しかし状況が分かってくれば、気持ちが落ち着いてくるものである。次々に検査や処置
が行われ、その都度、ただ結果を待った。それからは、治療プロトコルの節目ごとに、血
液検査や骨髄検査などが行われている。感染が疑われる発熱の際など、緊急時もだ。ハラ
ハラしながら結果を待つこともある。
幸運なことに、我が子の病型は化学療法がある程度確立されているらしく、経過も良い
ようだ。今現在も治療は続いているが、今のところ薬剤の副作用や感染も意外に少なく、
治療は狙いどおり進みつつある。
泥沼の底に沈むような気持ちで聞いた、血液検査の結果。詳しいことを一刻も早く知り
たくて、祈るように結果を待った骨髄検査…。長い闘病生活の上で楽しいこと、は当然少
ないが、それでも今は、快方に向かう我が子の検査結果が楽しみでもある。完治までの長
い道のりに、それが続くかは分からない。良い結果ばかりとも限らない。患者はただ、祈
りながら待つだけだ。しかしその陰で、検査業務に励む方がいる。緊急時であろうと、結
果を正確かつ迅速に出すべく、努力して下さっている方がいる。機械化・自動化が進み省
力化が図られても、やはりそこには専門知識を持ち、検査結果を確認・検証できる人が必
ずいなくてはならない。必ずいてほしい。患者側に立ったことで、改めてそう思う。
毎回、説明と共に手渡される検査結果の向こうに、検査技師という「人」の存在の大き
さを感じている。