Inconsistency in Classification and Reporting of In

第 39 回抄読会(2011 年 7 月 27 日)
担当:樋口、樋上
Inconsistency in Classification and Reporting of In-Hospital Falls
Terry P. Haines, PhD,Bernadette Massey, B PhysiotherHons,Paul Varghese, MD,Jennifer Fleming,
PhD,and Len Gray, PhD
Journal of The American Geriatrics Society:ISI Journal Citation Reports® Ranking: 2010:
Geriatrics & Gerontology: 9 / 44; Gerontology: 2 / 28 Impact Factor: 3.913
評価:C+/B-
・先行研究では、転倒についてのスタッフの認識が様々であり、インシデントレポートとして報告すべ
き転倒がスタッフ間で異なることが指摘されていた。本研究では、スタッフがどのような場面を転倒と
して理解・認識しているのかということを調べており、新たに転倒を定義づけた。そのことによりスタ
ッフ間で転倒についての認識が一致するのか検討するという着眼点は面白かった。
・イントロまでは上記の着眼点をもとにして先行研究を用いて本研究の必要性が述べられており、論文
としての構成は洗練されていた。しかし、その後の手順や方法については、目的に対応していなかった。
そのため、提示されていた結果が不十分であり、考察が目的に対応していなかった。そのような理由か
ら、論文全体として論理展開に一貫性がなかった。
・上記のように本研究は論理展開に一貫性がなかった要因として、研究目的が 4 つと多く、それに対す
る結果・考察が煩雑となったことが挙げられる。結果にもテスト 2 についての結果がほとんどなかった。
テスト 1 において、介入前のスタッフ間の転倒の認識について詳細な分析を行い 1 つの論文とし、その
後テスト 2 において介入後(定義開発)の結果を検討するというように段階を分けて発表する方が分かり
やすかったのではないか。
・サンプリングについては、convenience sample を用いており、確率標本抽出法に基づかないサンプル
を使用しているにも関わらず、ブートストラップ法を用いたりしていた。このように収集したデータに
対し適切でない分析方法を用いていた。
・研究デザインや手順などを図式化したほうがわかりやすかったのではないか。
・カッパ係数は偶然の一致を考慮した信頼性を検討するために用いるが、本研究では転倒の分類につい
ての評価者の一致を評価するのに使用されていた。つまり、偶然の一致ではなく意図した現象の一致と
いう本来のカッパ係数の使い方ではなかった。
・患者の状態別、病院・病棟機能別などに分けてスタッフ間の転倒の認識について比較すると良かった
のではないか。
・対象スタッフの選択基準が不明であった。さらに、本研究は多職種が対象となっていたにも関わらず、
職種間での転倒に対する認識の差についての結果はなく、考察では看護師のみに対象を絞っていたため、
初めから対象を看護師に絞っていた方が良かった。
・今回は 7 つの病院を対象としているが、各病院での対象母集団が異なると分析が難しくなるため、本
研究は対象施設についても絞った方が良かった。
1
・施設ごとのスタッフの勤務状態(常勤/非常勤の割合)やその人数について示し、データシートを記入
した集団の情報を明らかにすべきである。例えば、常勤/非常勤ではインシデントレポートの報告に関す
る教育背景に差があるはずである。また、欧米などの勤務事情から、夜勤のみ日勤のみというスタッフ
も多いため、遭遇するインシデントの種類も異なることが考えられる。
・本研究で使用した転倒を分類するための 14 のビデオによるシナリオを用いる意義を示す必要があった。
また、シナリオの作り方や評価をより丁寧に行い、一般的に起こる転倒を表しているのかどうか、シナ
リオの信頼性や妥当性について述べるべきであった。
・シナリオ 13 については、このシナリオを転倒と認識したスタッフが 0 人であった。しかしその考察に
ついては何も述べられておらず、シナリオ 13 を含めた意図が分からなかった。シナリオ 13 を設定する
必要があったのかどうか不明であった。
・シナリオに登場する俳優について、各対象病棟において、どのような患者(年齢・性別・症状)が入院し
ているのか・その割合はどのくらいかといった想定が欠けているため、使用した俳優が適切にこのデー
タ全体を代表しているとはいえない。
・Table1 については、文章にて内容の説明がされているが、コンセンサスありの基準の設定が不明であ
るため、内容を把握しづらかった。また、有意差が大きい(P 値<0.01)については言及されておらず考
察に結果を反映できていなかった。
・通常、図表はそれを単独でみただけでも解釈できるようにする必要がある。Table2 については Site1~7
の説明がなく、文章で説明されているスタッフの割合についての提示がないため、何を示しているのか
分からなかった。
要約
目的:何が転倒とされるのか、またインシデントレポートに記入されるべきことについてスタッフ間で
の認識について調査するため
転倒として分類されるシナリオはどのような要因が影響しているかを示すため
評価者間の認識において転倒の定義を示すことの効果を調べるため
デザイン:2 つの評価者間の認識のテストを前後介入デザインで行った。
対象:7 病院
参加者:24 時間以上在籍し勤務する 446 人の病院スタッフ(看護師 76%、理学療法士 14%、作業療法
士 6%)
測定:14 のビデオシナリオを参加者に見せ、その参加者が転倒のそれぞれのシナリオをどう分類するか、
そのシナリオについてどうインシデントレポートを記入するかを調べた。その後、転倒の定義を
示し再度同じシナリオを視聴した。
結果:調査の 14 シナリオ中 5 つでコンセンサスは示されなかった。地面より高い位置への転倒はインシ
デントレポートに記入されにくかった。病院や病棟の種類がどのようなシナリオが転倒と分類さ
れるかに影響した。どちらもスタッフがインシデントレポートを記入するかどうかに効果はなか
ったが、転倒のシナリオを分類することへの全体の認識は定義を示した後にわずかに良くなった。
考察:何が転倒とされるのか病院スタッフ間での共通認識のなさは、この分野で一貫性のない研究を招
く可能性があり、定義を提示しても有意に改善しなかった。
2
≪全訳≫
≪critique≫
入院患者の転倒やそれに関連したけがは、大きな医療の関心事で
Critique 上の凡例は以下の通り
あり、過去 10 年において研究量が増加している対象となってきた。 (イントロの部分のみ)
研究の多くの流れ(疫学的調査
ツールの評価
5,6
1-4・転倒リスクのスクリーニング
・介入研究:準実験
・先行研究で明らかにされている
7-9
・クラスター無作為化 10,11・ ことや先行研究の限界は網掛けで
個々の参加者の無作為化を伴う無作為化試験
12-16)が浮上してき
た。それぞれの領域でいくつかのシステマティックレビューが現在
示す
・この研究の必要性は下線で示す
出版されており、最近それらの多くがその重要性を示し、この分野
へ費やす仕事量を増やしているが 17-22、これらの研究の流れ全体に
かかるある潜在的交絡因子が転倒の報告において矛盾しており、そ
れがこの分野で現在明らかになっている結果のばらつきを説明す
るとされている。
病院ベースの研究における転倒の報告はコミュニティーベース
の研究とはかなり異なる。なぜなら、病院スタッフ(患者以外)は
転倒の報告責任があるからである。転倒のインシデントレポートは
病院内の転倒を測定するのに不完全なアプローチであると長い間
推測されてきた 24,25 が、臨床実践と研究において転倒を測定する有
力な方法として残っている。最近のイギリスにおける病院の事例記
入のレトロスペクティブ(回顧)レビューから、患者インシデント
の全タイプの 83%が事例記録のみで報告され、7%が定期的な報告
システムのみで報告され、10%がその両方ともで報告されていたこ
とが分かった 26。アメリカにおける前向き観察研究からは、転倒の
うち 14%がインシデントレポートのみに記録されており、28%が
転倒評価サービス pager システム(電子システム)だけ使用してい
ると同定され、58%が両方とも使用していると識別された 23。これ
らの研究の双方において、インシデントや転倒は調査されたシステ
ムにはどれも記入されない可能性があり、それは、これらの報告率
が過大評価された可能性があることを示している。転倒がインシデ
ントレポートに記入されるために、スタッフメンバーが目撃された
り、患者が床の上にいるのが見つかったり、患者や家族・他の人が
スタッフに転倒を警告することにより注意を払われるようになる
必要がある。この点から、スタッフはどのような出来事が転倒とし
・どう分類しどう記入するかを決
て分類され、インシデントレポートに記入されるべきかを決めるべ
めるべきである。
きである。
転倒インシデントレポートが病院内の転倒の測定指標としての
3
妥当性を高めることを目標とした戦略を評価・発展させるために、
いくつかの試みがなされている。介入者は転倒の報告の一貫性を改
善するための戦略としての転倒の定義を頻繁に提供してきた
7,8,10,12。しかし、そこで選択された定義はばらつきの幅が大きく、
・定義の統一の必要性を述べてい
病院スタッフによるインシデント報告の行動に様々な定義のどの
る。(参考資料 1)
ような影響があるのか不明である。
この研究は、病院内での転倒測定指標としてのインシデントレポ
ートの使用における病院スタッフ間の一貫性を調べることを目標
←研究目的が明確・詳細に述べら
れている。
とした。特に、①病院内転倒の分類に対する病院スタッフの理解・
認識を測定すること、②スタッフが転倒として分類したがインシデ
ントレポートとしては、作成されないとされたがシナリオを明らか
にすること、③スタッフが転倒として分類したシナリオについて、
そのスタッフの専門領域や勤務場所(病棟のタイプ・専門領域・病
院)の因子が影響を与えるのかどうかを識別すること、そして④2
つの転倒の定義(WHO における定義・本研究にて開発した定義)
のどちらかが転倒の分類においてスタッフ間の理解・認識に対して
効果をもたらしたかを測定することを目的とした。
注)Method より、
・critique として注目した部分を下
線で示す。
・語彙について調べたもの・文章
の内容を理解するためにまとめた
Method
部分について、網掛けで示す。
デザイン
2 つの介入前後の比較試験が実施された。各テストの介入前の時
点では、転倒の定義を提供しないでスタッフ間の理解・認識を調べ
た。テスト 1 の介入後の時点では、WHO の転倒の定義を提供した
後にスタッフ間の理解・認識を調べた。テスト 2 の介入後の時点で
は、転倒のカスタム定義を提供した後にスタッフ間の理解・認識を
調べた。テスト 1 に参加した病院はテスト 2 には参加しなかった。
上記の最初の 3 つ目までの目的のために、2 つのテストの介入前の
時点でのスタッフの反応のクロス分類評価を実施した。上記の目的
の 4 つ目の目的のために、2 つのテストを通したスタッフ間の理
解・認識の介入前後の比較を実施された。
Participants and Setting
最初にテスト 1 が 6 つの参加病院で実施され、その後テスト 2 が
4
←目的に沿って研究デザインを設
定し述べられている。
1 病院で実施された。
テスト 1 に含まれた 6 病院
・公立の都心病院
(10 病棟:3 老年リハビリ科・3 一般科・2 整形外科・1 急性期神
経科・1 脳障害リハビリ科)
・私立の都心病院
(3 病棟:1 整形外科・1 老年リハビリ科・1 一般科)
・地域病院(4 病棟:1 整形外科・2 外科・1 循環器科)
・地域病院(1 病棟:老年リハビリ科)
・地域病院(1 病棟:老年リハビリ科)
・地域病院(1 病棟:居住型高齢者ケア)
テスト 2 に含まれた病院
・公立の都心病院
(10 病棟:2 脳障害リハビリ科・1 緩和ケア科・2 呼吸器科・1 整形
外科・1 循環器科・3 老年リハビリ科)
本研究では、特定のサンプルサイズは求められず、研究者にとって、 ←サンプリングについて述べられ
データ収集しやすい(convenience sample)病院のサンプリングが
ている。
使用された。参加病院の病棟は病院内の他病棟よりも転倒率の高い
ところを基準にして意識的にサンプルされた。(他の病棟もきちんと
データが示されているところ)地域病院の代表もしくは患者安全管
理者がこの地域データのレビュー後にこの決定をした。参加病棟に
おいて報告された転倒率(転倒/1000 患者・日)は、低いもので 4
件/1000 患者・日、高いもので 15 件/1000 患者・日であった。これ
は、病院における病院での転倒率の国際的に報告されているものと
←文献から、文章と一致している
一致している 27。
ことが確認できた。
研究参加者は本プロジェクトが実施されたときに参加病棟で 24
←対象母集団について
時間以上働いている病院スタッフであった。24 時間の選択は、昼
・常勤/非常勤の割合や各病棟のス
と夜のシフトの看護師を比率よく代表してサンプリングできるよ
タッフの人数・勤務状態を示すべ
うにした。各病棟で働く医療スタッフ(作業療法・理学療法)もまた
きである。
対象とされた。なぜなら、彼らもまた転倒に関するインシデントレ
・看護師だけでなく多職種を対象
ポートの記入に共通して関与しているからである。公式に適用され
としている。⇒看護師に焦点を当
た転倒の定義は参加する時点では事前には何もなかったが、転倒の
てても良いのではないか。
定義を含む病院における転倒予防策ガイドラインの最良の実践は
・対象施設の患者の特徴・状態に
最近発展してきており、オーストラリアで普及してきた 28。データ
ついての詳細が分からない。
収集は 2006 年 4 月~11 月に実施された。
←オーストラリアの現状
参考文献(Best Practice Guidelines
5
for AustralianHospitals and
Residential Aged Care
Facilities.2005)より、本文に矛盾な
いことが確認できた。
←データ収集期間が妥当であるの
か示せていない。
Instrumentation
14 の潜在的な転倒のシナリオが本研究のために開発された。学
際的調査チームのメンバーは、臨床実験中にそれぞれのシナリオを
←この 14 のシナリオの信頼性、妥
本当に経験したかのように評価した。各シナリオの記述内容は提示
当性については述べられていな
されている。(Table1)各シナリオが実施されビデオフォーマット
い。
(先行研究ではなかった方法だ
に収められ、それぞれが約 10 秒あった。シナリオを通して患者の
が、どういった基準で 14 個選んだ
特徴変数が一定に保持されるために、若い成人男性がそれぞれのビ
のか、ビデオを使用する根拠につ
デオシナリオのモデルとして使われた。
いての説明が必要ではないか?)
各シナリオで収集された結果は 2 つのクローズドエンド型質問、
参加者が単に目で見て転倒と分類するかどうか(yes/no)と、その
シナリオでインシデントレポートを記入するかどうか(yes/no)で
あった。
Intervention
2 つの定義が使用された。WHO による定義が本研究のテスト 1
で使用された: ‘
‘
A fall is an event which results in a person
coming to rest inadvertently on the ground or floor or other lower
level 29.’
’
筆者はこの定義の発展に関連した情報は何も識別できなかったが、
前からあった定義のいくつかにかなり似ており、最近の最良の実践
←オーストラリアのガイドライン
ガイドラインにおける転倒の定義として使用されてきた 28。この定
では、WHO の転倒の定義を使用し
義の重要な特徴は、患者がどこに着地したかの高さ(地面・床・も
ていたことを文献で確認できた。
しくはその他の場所)と行動要素(inadvertently 不注意に、意図
しない)である。
本研究のために特別に開発したカスタム定義はテスト 2 に参加し
た病院で調査された:‘
‘
A fall is a descent to the ground or surface
lower than the patient’
s standing waist level that was EITHER
uncontrolled OR not intended by the patient.’
’
この定義は、患者が着地する高さ、追加の力学的構成要素(制御で
きない)、行動要素の言い換え(意図的ではない)の記述において
WHO の定義と異なっていた。また、
“either”の警告は、転倒は制
御されていないもしくは患者に制御されていないことが、シナリオ
6
では転倒として分類されるかもしれないということを含んでいる。
この定義は、本研究のテスト 1 の発見のレビュー後に開発された。
一度開発されると、6 人の医療者と転倒予防の研究者らはそれがテ
スト 2 で病院(Site7)において使用される前に、カスタム定義を検討
した。
PROCEDURE
このプロジェクトは、クイーンズランド州の転倒傷害予防コラボ
レーションを通して促進された。また、興味を示した病院全てが、
後にゲートキーパーの同意を出し調査に参加した。この研究におけ
←倫理委員会への申請許可につい
る倫理的承認はすべての参加地域における委員会とクイーンズラ
て記述できている。
ンド大学医学研究倫理委員会によって得られた。
介入チームにより制作・編集されたビデオシナリオはビデオの
CD にして参加病棟に配布された。病棟管理者や部門管理者が、デ
ータ収集の日にデータ収集フォームを配布し、スタッフの参加者に
シフト時間中にビデオシナリオを見てデータ収集フォームを記入
させるよう求めた。参加者たちは集団でビデオシナリオを一緒に見
ることは許されたが、他のスタッフと別に個別でデータ収集フォー
ムを記入させることが求められた。
テスト 1 では、WHO 版の転倒の定義が提示される前に全部で 14
テスト(15 分)
のビデオシナリオが参加者に示された。それと同じ 14 のシナリオ
・14 のビデオシナリオ視聴
がその後参加者らに再度示された。このプロセスは合計 15 分かか
・音声とスクリーン表示による定
った。転倒の定義の提示は、定義の音読(声で流すもの)とテレビ
義提示(WHO/カスタム)
のスクリーン上に文字で書かれたものの提示で示された。文字で書
・再視聴と定義スクリーン表示
かれた定義は介入後の段階において、それぞれのシナリオを見た後
←定義の提示方法については述べ
にもう一度提示された。テスト 2 では、同様のプロセスが実施され、 られているが、データ収集フォー
違う点は使用した定義が別のもの(カスタム定義)であった。
部門管理者と病棟管理者は介入チームのエントリと分析のため
ムをいつ記入するのかなどの手順
が分からない。
にまだ識別されていない(介入前)データ収集フォームを提出した。
Analysis
個々のシナリオに対する病院スタッフ間の全体の理解・認識は、
シナリオを転倒と分類する解答者の割合で表された。相対的なコン
←80%以上もしくは 20%未満=コ
センサスは、解答者がそのシナリオは転倒であると示した80%以上
ンセンサスありとしているが、基
もしくは20%未満では任意に認められた。相関割合のための
準が不明である。
McNemarテストを用い、それぞれのシナリオを転倒と分類した参加
者の割合と、それぞれのシナリオのインシデントレポートを記入し
・McNemar テスト:数値がペアの
報告した参加者割合を比較した。転倒の分類や報告への病院の場所
グループ(例:yes/no で表されるも
7
の影響は、それぞれの場所からのデータと他のすべての場所のデー
の)から得られた場合、割合の差
タを比較し、個々のシナリオについてロジスティック回帰を行うこ
を比較するための統計学的検定
とで調べた。ロジスティック回帰は、病棟のタイプ(高齢者の評価
法。
やリハビリテーション、急性神経科や脳障害リハビリ科、整形外科、
居住型高齢者ケア、そして他の病棟)や、専門領域(看護師対他の
すべての専門職)による参加した病院を超えた分類割合への影響を
調べるために実施した。これらの分析は、テスト1とテスト2からの
前定義(介入前時点)のデータを用いて分析した。
すべてのシナリオの理解・認識については、複数の評価者がカッ
←評価者間の信頼性にカッパを用
パを用いて分析した30。定義を提供する前のすべてのシナリオへの
いている。
理解・認識を表すカッパ統計は、定義を提供した後でのカッパ統計
←統計方法は引用文献を用いて、
から差し引いた(カッパ比較統計によって)。これらの統計は、テ
記述できている。
スト1(WHOの定義)とテスト2(カスタム定義)で分けて計算し
ノンパラメトリックアプローチ:
た。カッパとカッパ比較統計の95%信頼区間(CIs)は、バイアス補正
重要な変数の分布について厳密な
見積もりを使用すると共に、元のサンプルサイズの2000のデータセ
仮説をおかない推測統計学検定。
ットレプリカ(置換による無作為サンプリング)を含むノンパラメ
名義データや順序データでよく用
トリックブートストラップサンプリングアプローチを使用して構
いられる。
築した31。カッパ比較統計の95%信頼区間は、理解・認識において
ブートストラップ:1 つの標本から
統計的に有意な変化を示す0値を含まない。すべての統計的手順は、 復元抽出を繰り返して大量の標本
STATASE version 8.2 (Stata Corp., College Station, TX)を用いて実施
を生成し、それらの標本から推定
した。
量を計算し、母集団の性質やモデ
ルの推測の誤差などを分析する方
法←convenience sample を用いて
おり、確率標本抽出法に基づかな
いサンプルに対して詳細な分析を
行う必要はないのではないか。
Result
テスト 1 の参加者は 273 人、テスト 2 は 173 人であった。テス
ト 1 の参加者の大多数が公立の都心病院で働いていた。
(n=149)
テスト 1 における各専門領域からの参加者の割合(看護
←全体における職種間の割合は述
207(76%)・理学療法 39(14%)・作業療法 16(6%)・その他 9(3%)・ べられているが、各対象病院で対
記入されない 2(1%))は、テスト 2 における割合(看護 122(71%)・ 象となったスタッフの割合は述べ
理学療法 27(16%)・作業療法 9(5%)・その他 2(1%)・記入されない
られていない。
13(8%))と同質のものであった。だが、専門職経験の平均年数はテ
スト 2 よりもテスト 1 の参加者の方が短かった。
(テスト 1:10.5
±10.0、テスト 2:14.0±11.0、p=.001)
⇒table1
8
転倒としてのシナリオの分類における相対コンセンサスは 14 シ
ナリオのうち 5 つにおいて達しなかった。(table1)
Fall-Yes(%)が 20~80%のもの
シナリオ 2,7,8,9,11
これらのシナリオのうち 4 つにおいて、モデル患者は床に直接的
に着地しなかった。
(床への着地なし)
⇒p<0.05
あるシナリオが転倒であると思ったと示した回答者の割合とそ
のシナリオにおいてインシデントレポートを記入したという回答
シナリオ 1,2,3,4,5,7,8,9,10,11,14
(95%CI が 10%を大きく超える)
者の割合の差は 11 個のシナリオで有意であった。これらのシナリ
オのうち 2 つだけが 10%を大きく超える差が出ており、その両方
が地面よりも高い位置(椅子やベッド)シナリオを含み、転倒では
ないけれども怪我恐れがあることから、スタッフが転倒の数に入れ
ていた理由となるかもしれないことを示した。
専門職と仕事場所に関連した要因は転倒のシナリオがどのよう
に分類されたかに影響しているようであった。シナリオを転倒とし
←Table2 は対象とした病院別に示
て分類しているスタッフの割合はいくつかのシナリオにわたって
されているが、病院ごとのスタッ
分かれていた。
(table2)看護スタッフがほかの職種よりも 3 つの
フの割合については述べられてい
シナリオに関して明らかにより多くのインシデントレポートを記
ない。
入する傾向にあり(シナリオ 1,10,14)、一つのシナリオ(シナリオ
9)に関しては少ない傾向があった。また、転倒としてシナリオを
←table2・3 において、シナリオ
分類する回答者の割合は、病棟のタイプにわたっても分かれてい
13 は結果が全く出ていないが、デ
た。(table3)老年リハビリ科と居住型高齢者ケア病棟で働く回答
ータに含む必要があるのか?
者らは転倒として見られにくいシナリオの 2 つ(シナリオ 2,3)
をより多く分類する傾向にあった。急性期神経科や脳損傷リハビリ
病棟で働く回答者らは地面よりも椅子などの表面への着地(シナリ
オ 7,8,9)を転倒として分類することが少ない傾向にあった。整
形外科病棟で働く回答者らは「assistance」(支えがあった状態での)
床への着地(シナリオ 11)を転倒として分類する傾向が多くあった。
テスト 1 における定義を与えられる前に転倒としてシナリオを分
類する際の全シナリオに関するスタッフ間の全体の理解・認識はテ
スト 2 でのスタッフ間の全体の理解・認識と同等であった。
(テス
カッパ係数:偶然の一致を考慮し
ト 1:カッパ係数=0.51,95%信頼区間=0.48-0.53,テスト 2:カ
て測定者の信頼性を理解するのに
ッパ係数=0.49,95%信頼区間=0.45-0.52)理解・認識のレベルは
用いる
両方のテストで定義提供後の方が明らかに高かった。
(テスト 1:カ
解釈の仕方:
ッパ係数の差・提供後-提供前=0.05,95%信頼区間=0.01-0.08, 0.40-0.59=比較的良い
テスト 2:カッパ係数の差・提供後-提供前=0.05,95%信頼区間
0.60-0.79=かなり良い
=0.01-0.09)けれども、この差の大きさはわずかであった。全体の
0.80-1.00=完璧
理解・認識の同様のレベルが、テスト 1 と 2 のためにシナリオにお
←訓練された専門職を対象として
いてインシデントレポートを記入させるかどうかを示す時にスタ
いるため、ここでカッパ係数を用
ッフ間で示された(テスト 1:カッパ係数=0.50,95%信頼区間=
いて測定者間信頼性における偶然
9
0.47-0.53,テスト 2:カッパ係数=0.51,95%信頼区間=0.48-0.54) の一致を調整することはできない
が、この結果は転倒の定義提供後にテスト 1 でも 2 でも良くならな
のではないか?
かった(テスト 1:カッパ係数の差・提供後-提供前=-0.01,95%
信頼区間=-0.04-0.02,テスト 2:カッパ係数の差・提供後-提供
前=-0.02,95%信頼区間=-0.05-0.02)。
DISCUSSION
インシデントレポートの院内での転倒の報告は、院内の転倒予防
研究のためのデータ集積の根本原理となる。この研究の結果は、疑
問となるそれらのデータの妥当性をもたらしている。この研究は、
病院のスタッフが転倒に分類しインシデントレポートに報告すべ
きいくつかの潜在するシナリオに対してスタッフ間の理解が一致
しなかったことを明らかにした。ほとんどの病院スタッフは、地面
より高い位置への転倒を除いて、転倒を構成するシナリオだと思う
とインシデントレポートを記入し報告するようである。専門領域や
勤務場所に関連した因子が、一つのシナリオを転倒に分類するかど
うかに影響したことが分かった。この研究ではまた、転倒の定義を
提供し方策を共通にすることがスタッフ間の転倒の分類への理
解・認識をわずかに改善することが分かった。しかし、スタッフ間
でインシデントレポートに記入するということへの効果はなかっ
た。これは、スタッフがこの定義(各テストの後の時点でそれを使
用するように言われているにも関わらず)を使用することを拒否し
たり、何が転倒を構成するかについてのこれまでの各々の意向に沿
っていた可能性がある。また、スタッフは提供された定義を使用し
たが、シナリオに対して一貫性なく適応させた可能性がある。
この研究は将来の研究にいくつかの示唆をもたらし、この分野の
質を保証する。まず、識別された病棟の種類の違いに焦点を当てた
病棟間での転倒率の比較は疑わしい。病棟タイプの比較で11.6と高
く顕著なオッズ比がみられた。一つの病棟が他の病棟とは異なった
転倒の記入をするという傾向は、近年実施されているこのような比
較において重要な関心事である13。第二に、病院スタッフ間で何が
転倒を構成するかついて、またインシデントレポートに何を記載す
べきであるかという認識の改善は、病院スタッフへ定義を提供する
ことよりも必要である。したがって、トレーニングの代替の形式を
開発する必要がある。そのような状況で転倒の定義がどのように適
応されるかを説明するためのビデオベースのシナリオを用いるこ
とと、病棟で起きた実際の転倒のケーススタディーの実施の提案
10
←table3 に示されている。
は、転倒の定義がどのようにそのケースに適応されるかについての
説明と議論とともに述べられている。この後者のアプローチは、あ
る特定の転倒がどのように回避されるか、同様の転倒は将来防げる
かについての病棟ごとの議論を融合することができる。第3に、研
究者は病院内で収集された転倒のデータから複数のソースを識別
することを奨励されるべきである。以前の研究は、転倒のインシデ
ントレポートと患者カルテでのインシデントの記録は報告を2倍に
することを示した24。また、多忙なスタッフがインシデントの記入
に一つの方法かもしくは両者ではなく別の方法を用いて報告する
ことを可能にしたことを示した。これは、バイアスをもたらすかも
しれないし、この方法は体系的に特定のタイプの患者や、時間、他
←統一されていない報告システム
の特徴によって繰り返される可能性を導くかもしれない。これが介
の問題を先行研究から述べてい
入の対象になる場合がある。予防策は、医療過程の記録もしくは患
る。
者の転倒について思い出すことが出来れば患者やスタッフに定期
的に尋ねることを含むかもしれない。
この研究はインシデントレポートシステムにおいて病院内の転
倒の過少報告の可能性を暗示しているが、しかし、直接これを測ろ
うとはしていない。そして、データから報告率を過少に見積もるこ
とは可能でない。なぜなら、シナリオで調査されたため、異なる病
棟では異なった頻度で起こったかもしれないからだ。過少報告の
‘真の’割合を調べるためには、以下のことが必要のようである。
ライブビデオの撮影フィルムをすべての病棟から集める試み、そし
て転倒と同定する振り返り、そして、インシデントレポートシステ
←研究の限界について、転倒の過
ムの転倒記録との比較である。しかしこのような研究は倫理的に受
少報告の可能性を述べているが、
容が疑わしく、患者にプライバシーの侵害を与えてしまうだろう。 本研究とは少し論点がずれている
他のアプローチは、けがと報告された転倒率を試験することであ
のではないか。
る。しかし、病棟ごとに患者症例群によって転倒の結果としてのけ
がに異なった傾向をもつ病棟を調べるとき、困惑するかもしれな
い。転倒の過少報告されるのと同様にけがも過少報告されるかもし
れないというエビデンスも先の研究で示されている25。
過少報告は、実施された転倒予防プログラムを歴史的コントロー
ル(前‐後介入デザイン)もしくはクラスター(病棟による)ラン
←病棟ごとの比較の限界が述べら
ダマイズ試験デザインで評価するときに特に重要である。なぜな
れている。
ら、過少報告率や転倒報告習慣の病棟間の違いにおける変動が、
‘真’の転倒率をマスクし変化させるからだ。これに対するために、
可能であれば、その後同じ病棟で扱われる個々のランダム化を伴う
デザインの使用を扱うべきである。このような試験では、‘大きい’
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サンプルサイズが採用される場合、院内の転倒の報告における一貫
性のなさは低減される。しかしながら、過少報告はこれらの試験の
統計的検出力を低下させるだろう。それぞれのグループ間で統計的
有意差を検出する能力に衝突が生じる。
この研究では、実際の病院スタッフの転倒インシデント報告の実
践の評価はできなかった。スタッフが報告すると述べたものだけを
←測定の偏りについて述べられて
いる。
測定した。いくつかの状況では、たとえば、もしスタッフメンバー
がシフトの最後であったり、患者が明らかにけがをしていなけれ
ば、彼らは調査することを指摘されていたにも関わらずインシデン
トレポートに報告しなかったかもしれない可能性がある。同様に、
ビデオシナリオに若い男性俳優を使用したことが、老年の俳優を用
いた場合よりも、参加者による異なる反応の誘発につながった可能
←偏りの可能性(スタッフ、俳優)
性がある。この研究はまたいくつかのシナリオを含めて批判するこ
があることが述べられている。
とができる。それは、有害な転倒を識別して防止するためにのみ重
⇒偏りの可能性を検討する以前の
要であるという仮定のもとで、患者への物理的な傷害を引き起こす
問題として、本研究では対象モデ
ことはほとんどなく(たとえばシナリオ7)、‘システム全体’の
ルの想定(その病棟には、どのよう
視点から個々の患者や他の患者のための視点にすることによって、 な患者がいるのかという記載)が欠
インシデントレポートは将来予防するために使用することができ
けている。
る。インシデントレポートの記入は、将来の潜在的な転倒を防止し
介入の改善につながる転倒の原因要因や詳細な深い分析によって
導かれる。
院内の転倒予防のこの分野は現在、疫学、介入研究におけるいく
つかの相反する調査結果が含まれている。たとえば、抗うつ薬を服
用することは以前からリスクファクターであった32が、保護要因で
もある33。同様に、多因子介入プログラムは、院内での転倒の低減
に効果的である9,11-13とも効果がない10ともされ、もしくは入院の長
さで調整すると効果がない7ともされた。これらの相反する知見の多
くが潜在的な理由である可能性があるが、これらの試験の主要アウ
トカムが記録と照合されている方法に一貫性のなさが、特定された
変動のいくつかの原因である可能性がもっともらしい。病院のイン
シデントレポートが転倒のデータを収集する有力なアプローチで
あるという理由だけで、それが院内での転倒の有効な尺度であるこ
とを意味するものではない。研究者や病院管理者は、院内の転倒予
防のための明確な証拠基盤を開発することができるように、転倒を
記入し、一貫して測定されていることを確保するために多くの労力
をつぎ込むべきである。筆者らを含めて。
12
←仮定の偏りが述べられている。
(参考資料 1)
参考文献より
7.The Effect of Changing Practice on Fall Prevention in a Rehabilitative Hospital: The Hospital Injury Prevention
Study:
A fall was defined as an incident in which a patient suddenlyand involuntarily came to rest on the ground or
surfacelower than their original station.
8.Sustained reduction in serious fall-related injuries in older people in hospital:
Definitions A standardised definition for a “fall”was
change of position
the person had been
developed by the project team as follows: An unintended
which results in the person coming inadvertently to the ground or other
previously. This includes impacting
slips, trips and lowering/
against an adjacent surface (eg, wall or
assisting a patient who is in the act of falling.
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surface lower than
furniture),