Takatsuki Education Center H22.2.22. Vol.19. 久々の ENGLISH NEWS、今回は「テスト作成の基本」についてです。平成15年度から始まっ た本市の中学校英語指導法研修を受講していただいた先生方にとっては、既習事項の繰り返しにな りますが、若い先生方も増えてまいりました。このへんでもう一度「基本の確認」をと思い、本号 をお送りします。 さて、「つけたい力」を学期や学年の始めに設定し、それを測るためのテストを同時に作成して 教員間で共有してから学習指導・評価計画を立てるというのは、ご存知のとおり授業づくりの基本 です。しかし、テストの作成方法について大学時代にきちんと学んだ方はあまり多くないのが現実 ではないでしょうか。そうなると、当然自分自身が学生時代に受けたテストが「モデル」となりま す。結果的に何年経っても同じ事が繰り返されるということにもなりかねません。これまで本市の 研修で取り上げてきたテスト作成の基本事項について、今一度復習してみたいと思います。 1.テストの基本的特性 (1)妥当性:その問題で測りたい力が測れているかどうか。 例① 発音問題 紙の発音問題で測れるのは、「発音に関する知識」。「正しく発音出来るかどうか」は ワカラナイ。 正しい発音ができるかどうかを知る為には、実際に発音するテスト(もしくはチェッ ク)をするしかない。 例② 習った英文を使った「読解問題」 それは「記憶力テスト」ではないのか。 読解力を測るためには、初見の英文を使う必要あり。 (2)信頼性:何度測っても、だれが採点しても同じ結果が得られること。 自己表現問題やスピーキングテスト →求められるのは「測定者の力量」 「明確な評価規準・方法・基準」 (3)波及効果:テストが学習に及ぼす影響 例① 実際に発音するテスト 実際に発音をテストされるので、生徒は発音を練習する。 →結果、その発音ができるようになる。 例② 日本語を英語にする単語テスト 英語を言える・書けるように練習するようになる。 例③ まとまった英文を読んでその内容を英文で説明するテスト 英文を訳して終わりではなく、説明するために内容を読みとる力がつく。 (「説明できる」ということは「わかっている」ということ) (4)実用性:実施可能であること(人的コスト、時間的コストなど) 学校でテストを作成する場合、当然時間や条件、費用が限られる。英検や TOEIC の ようなテストを作成するわけにはいかない。 テストに使える英文やネタ本、問題例などを市教研等で交流できれば助かるのでは? 2.学校で作るテストのあり方 学校で行われるテストの目的は、すべての子どもたちに「学力をつけるため」です。 「あなたの 成績は○○です。もっと頑張ってね。 」と、生徒の「学力を測定することだけ」ではありません。 テストの「結果」は、指導の結果です。 設定した到達目標(つけたい力)に対して指導(学習)をした結果、どれくらい力がついたのか を調べ、達成状況が不十分な場合は、改善方策を具体的に示して指導し、一人ひとりを到達目標に 少しでも近づける努力をしなくてはなりません。それが私たち教師の仕事です。教師にとってテス トの採点は、自らの「指導」を振り返り、授業改善の Tips を得る場と言えるかもしれません。 さて、学校で行われるテストには、一般的に次のようなものがあります。 ○定期テスト(中間テスト、学期末テスト) ○単元末テスト ○パフォーマンス・テスト(インタビュー・テスト、ペアチェック、個別チェック、 スピーチなど様々) ○自己表現テスト(ライティング) ○発音テスト ○音読テスト ○ディクテーション・テスト ○「復習・点検」テスト、 「実力」テスト ○学習到達度テスト いずれも「信頼性」「妥当性」は低いかもしれませんが、それは一定仕方がないでしょう。英検 や TOEIC(Bridge)、GTEC 等の場合は、受験者の proficiency を測定するのが目的であり、妥当性・ 信頼性・波及効果・実用性すべてが充足されています。しかし学校で同じようなテストを作成する のは極めて困難です。学校でできることには、限界があります。例えば、関係代名詞が理解できて いるかどうかを測るためには、それだけで最低30問以上は必要です。50分という時間設定や、 作成にかかる労力等を考えると「実用性」という点で無理があります。 それよりも、学校で行われるテストに期待されるのは、「波及効果」でしょう。自由英作文が高 校入試に出題されるようになって以来、自分の考え等を即興で50語程度で書くというような学習 が授業でも行われるようになりました。リスニングテストも同様の「波及効果」をもたらしました。 普段の授業と単元テストや定期テストとの関係も同じです。例えば、チャット等の帯学習をする 際にも、数週間後にインタビュー・テストをするのならば、その評価基準(どうなれば「B」、 「A」 なのかの基準)を先に示してから取組を始めれば、生徒も自分の学習に「見通し」と「責任」が持 てます。 つまり、学校で行われるテストは、テスト前の学習によい影響(波及効果)を与え、テストを受 ける段階ではすでに一定の力がついているというものが望ましいということです。 3.定期テスト作成のポイント 定期テスト作成のポイントについて、まとめておきましょう。 (1)「定期テストは生徒の能力を調査するためにあるのではなく、その為に行う準備(=学習) によって能力を伸張させるために行うべきである・・・」(2002 靜) 定期テストは「授業」である。→授業内容とテストの整合性が必要。「サギ」はダメ。 資格試験や入試は proficiency test であり、弁別・選別が目的。 教師の仕事(責任)は、生徒の力を伸ばすこと。 生徒の英語力は指導者の責任。 テストはその単元・学期・年度始めに作成し、構成や評価基準を事前に公開(予告)す べし。 (2)定期テストの出題パターン例 (「英語テスト作成の達人マニュアル」靜哲人 大修館書店より。アレンジは中西による) ※以下は高校レベルも含んでいます。 「考え方」を参考にしてください。 空所補充 英文テキストの各文に不要な語を1語入れて、指摘させる。 (「いらんのどれ?」テスト) 英文テキスト中から5つの語を削除。どこにあったのか、入れさせる。 (「どこにあって ん?」テスト) 英文テキストの各文中の1語を本来あるべき位置から移動させる。(「元にもどしなは れ」テスト) 文単位の並び替え(バラバラの文を並び替えて、英文テキスト本文を作る。) 英文テキストの「内容」がおかしいところを6箇所見つけて、訂正。 英文テキストの「形式=文法」がおかしいところを6箇所見つけて、訂正。 英文テキスト本文をパラフレーズした英文の( )うめ問題。 英文テキスト中の英文何文かに線を引き、そこを「英語で説明させる」。 教科書で習った題材や内容について、英文で説明・要約させる。 (3)定期試験の「総合チェック」をしてみよう ∼「テスト作りワークショップ」2004.12.7.東京外国語大学・根岸雅史教授の研修より∼ 1.まずテストをデザインしよう ①何の評価にテストを用いるか ②テスティング・ポイントは何か ③テスト方法、重み付け、問題数、等はどうするか 2.直接テストできるものがないか点検してみよう 「発音問題」「会話問題」などはチェック 3.大問ごとに問題のタイトルをつけてみよう 評価規準との整合性を心がける 4.「ごった煮」問題は、ばらしてみよう ①「総合問題」をまずチェック ②他の問題も問題形式が統一されているだけでないかチェック cf.「空所補充力」? 5. cosmetic check をしてみよう ①選択肢の長さ ②正解の選択肢の位置 ③文法・語彙問題の不必要な読み 6.読解問題では、問題どうしの依存がないか確認しよう 7.理解力を問う問題は、テキストなしで解答できる問題になっていないか確認しよう 「正解/誤答くさい」言い回しがないか、常識で正解できないか 8.問題の解答の正誤に、そのタイトルに掲げた能力が関わっているか確認しよう キー・ワードの聞き取りだけで正解してしまわないか 9.タスクのオーセンティック(authentic)度を確認しよう 「こんなタスク現実にやるかなあ?」の視点をもつ (4)定期テスト作りの10箇条 ∼「テスト作りワークショップ」2006.12.25.東京都狛江市立第一中学校(当時)・北原延晃教諭の研 修より∼ 1.授業中の生徒の活動量と質がよく反映されるようなテスト。 2・努力した成果が必ず報われるようなテスト。(例 試験範囲の全てのページから出題し、 いわゆる「山かけ」が通用しないようにする。) 3.「理解」「表現」「言語や文化の知識と理解」の3つの観点を分けて作ったテスト。 4.言葉の知識量を測るのではなく、運用力を測るテスト。 5.意欲がある生徒にはどんどん点が取れるテスト。 6.生徒の今後の学習の指針となるテスト。(何が身についていないからできなかったかが生 徒にわかるテスト。 ) 7.設問のねらいがはっきりわかるテスト。 8.自己表現できる問題のあるテスト。 9.speaking test の要素を盛り込んだテスト。 10.生徒が記入しやすい解答用紙。 (5)「よくない」テスト問題例 代表的なものが、紙の発音問題や( )だらけ、下線だらけの「ごった煮」総合問題でしょう。 特に総合問題には注意が必要です。最近は減りましたが、原文そのものが読みにくいほど、英文内 に並び替え問題から発音問題、日本語訳、英語訳などがぎっしり詰まっていて、読解力を測りたい のか、特定の文法力を測りたいのかがよく分からないものも過去にはありました。 また、習った教科書本文を用いた読解問題も使い方をよく考える必要があります。設問のアウト プットを日本語にしてしまうと、生徒は本文の日本語訳を事前に覚えるというとんでもない「波及 効果」を生んでしまいます。学生時代にそのような体験をされた方はいらっしゃいませんか? 習った教科書本文を使う場合は、「いらんのどれ?」テスト、 「どこにあってん?」テスト、「元 にもどしなはれ」テスト、「間違い探し」テストなどその形式を事前に伝えることで、生徒のテス ト勉強が「英語を読む、覚える」方向に向かうもの、あるいはアウトプットを英語にすることで、 「英語を書く」方向に向かうものが望ましいテストのあり方でしょう。 4.年間指導計画の必要性 よいテストはよい年間学習指導計画があってこそ、意味があります。繰り返しになりますが、 「教 師の仕事(責任)は、生徒の力を伸ばすこと」であり、テストもそのための一手段だからです。 目標準拠評価を徹底しましょう。まずは、 「つけたい力(到達目標) 」の設定と共有です。卒業時 にどんなことができるようになってほしいのか、そのために各学年末(学期末、単元末)にはどん なことができるようになってほしいのか。繰り返し申しあげてきたことですが、まずそれができて いるでしょうか。具体的な「生徒の姿」で。(Can-do list です)次に、その到達目標をどんな学習 活動・言語活動で具現化するのか。そして、評価計画です。どうなればいいのか(規準)、何で測 るのか(方法)、どうなったら「B」なのか(基準)を明確にして事前に公開する。テストもこの 時点で作成し、指導者間で共有します。それから指導(学習)計画を単元・学期・学年単位で立て ます。実践後、いよいよ測定・評価。生徒と教師両方に結果がフィードバックされ、改善策を検討 し、実行します。 このサイクルの繰り返しが、生徒と教師双方の成長を促すのです。これは、英語の指導に限った ことではありません。 年間学習指導計画がまだ作成・共有・配布されていない学校がもしあれば、 ぜひ早急に実行しましょう。 日々多忙なのは事実ですが、プロとして教師の社会的責任・ミッションは果たさねばなりません。 生徒たちの「笑顔」が私たちの「ご褒美」 ・・・。 <参考> ・ 「英語テスト作成の達人マニュアル」靜哲人 大修館書店(2002) ・ 「無責任なテストが『落ちこぼれ』を作る」根岸雅史、若林俊輔 大修館書店 (1993) ・「テスト作りワークショップ」高槻市中学校英語指導法研修 東京外国語大学・根岸雅史教授 (2004.12.7.) ・ 「テスト作りワークショップ」高槻市中学校英語指導法研修 東京都狛江市立第一中学校(当時) ・ 北原延晃教諭(2006.12.25.)
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