総領事便り11月号(サヌール海岸、そして) 私事で恐縮です。30代後半

総領事便り11月号(サヌール海岸、そして)
私事で恐縮です。30代後半、ストレス及び不節制が原因で十二指腸潰瘍に
罹患し、下血後貧血で倒れ、約3週間程度入院したことがあります。病気自体
は快癒しましたが、病気の原因となった仕事によるストレスの除去については
如何ともしがたく、為す術はありませんでした。
他方、同じ病気に二度と罹らないためには、不節制を改め、適度の運動を行
うことが大切と、自分自身に言い聞かせたこともありました。が、しかし。本
来のずぼらな性格も手伝い、その後は、ゴルフ以外には何らの運動も行うこと
なく、バリ在住の現在でも、運動と言えば、恥ずかしながら、公邸の中をただ
ただ歩くだけに留まっています。
他方、その様な運動無精な私でも、散歩だけは別格で、公邸から直ぐ近くに
あるサヌール海岸にて偶の散歩に励んでいます。
週末、サヌール海岸の遊歩道を霊山アグン山が遠望できるグランド・インナ
ー・バリ・ビーチホテル前の海岸あたりから西に向かって散歩を開始するのが
普通のコースとなっています。通常、土・日は、バリ独自の通過儀礼等の式典
への出席を期待されることが多いのですが、週末、式典等も無く、時間的余裕
があるとと、サヌール海岸の遊歩道を長時間散歩することにしています。
但し、散歩の一番の楽しみといえば、散歩後、遊歩道沿いの海側に開かれた
小洒落たレストラン等で、遊歩道を行き過ぎる人々とシーフードを肴にして飲
むビールの味です。散歩後にビール?
健康維持には、何等役に立っていない
よう気がしますが、「病も気」からと考えますと、ビールを飲んで気宇壮大に
なるのは、一つの健康法に違いないのではないでしょうか。
なお、私は、小さな黒い色をした尿結石をオシッコで出したことがあります。
利尿効果の高いビールは、尿結石にはそれなりの効能があるのだ、と私は信じ
ています。
サヌール海岸の遊歩道沿いには、瀟洒なホテルが軒を連ね、それぞれのプー
ルの青い水が目に心地よく、小鳥のさえずりも耳に優しく、芝や木々の緑が南
国の太陽に映える素晴らしい眺めが広がっています。その様な素敵な環境下、
ほんの束の間でも、仕事のことを放念することができ、南国の楽園に住まわせ
ていただいているという至福の時間を感じることができる様です。
海岸に関する思い出と言えば、学生時代、「成人式をハワイで」という格安
のパッケージに参加した時のことでした。その昔本土から運んだと言われる白
砂のワイキキ・ビーチにて泳ぎ初めて直ぐのことで、鋭い痛みを腕に感じたの
です。ジェリー・フィッシュ(くらげ)にさされた痛い痛い思い出です。ODA
関連の仕事で訪問したアフリカのジブチの透き通る様に澄み切った碧い海を持
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った白砂の海岸、タイでの語学研修時代、週末になると東南アジアの安全保障
に関する分厚い参考書を抱えて通ったフアヒン海岸、青年海外協力隊関連の仕
事で訪問したマングローブ樹の生い茂るミクロネシアの海岸、NY 在勤時代の
晩夏のとある一日、一人寂しく過ごしたコニー・アイランドの広い砂浜の海岸
等々、色々な国の海岸に纏る思い出は尽きません。
他方、日本の海岸といえば白砂青松に尽きるのではないでしょうか。真夏の
星の降る夜、野外劇場にて子供の頃に見たチャンバラ映画には、必ず白砂青松
の風景が映し出されていた様な記憶があります。あの風景は日本の何処の海岸
風景だったのでしょう。
富士山の UNESCO 世界遺産登録に際しては、歴史的・文化的関連が認めら
れ、三保の松原も登録されましたが、見目姿の麗しい富士山と白砂青松がマッ
チした風景は、日本が全世界の人々に誇って良いモノではないでしょうか。
私の故郷の水戸、その水戸を離れて東へ三里の波の花咲く大洗。民謡磯節で
「磯で名所は大洗さまよ」と歌われている大洗、そしてその近くの磯浜・平磯
の両磯(海岸)には、私の小さい頃の夏休みの思い出がたくさん残っています。
その思い出の多くは、海水浴に関連したものですが、子供心に、饒舌すぎる
真夏の海岸よりは、夏の終わりの海岸に魅力を感じ、晩夏の葦簀張りを張った
海の家ガランとした雰囲気、人気の少なくなった浜辺の寂しさは、人生の哀感
さえ感じさせてくれる様でした。
その昔流行ったトワ・エ・モワの「季節外れの海」(注)は、夏の終わりの
哀愁をそこはかとなく感じさせてくれる、私のお気に入りの歌の一つです。
海に囲まれたバリ島には、素敵な海岸が多々あります。ウルワツ寺院が聳え
立つ崖の下の金波銀波が押し寄せる海岸、バリの北部のロビナやバリの南東に
あるチャンディ・ダサの黒い砂浜続く海岸、シェラトン・ホテル内のイタリア
料理屋からビッグウェーブが眼下に見渡せるクタの海岸、黒い砂による砂風呂
が楽しめるルパン海岸、海の中に鎮座するタナロット寺院と観光客で溢れたそ
の海岸、天気が良いと聖山アグン山を遠くに仰ぎ見ることのできるサヌールの
シンド海岸等、それぞれに特色がある様です。
神々が棲むと言われているバリ島には、未だに私どもが知らない魅力的な海
岸が数多く隠れているはずですが、これから私に残された時間内で、どの様な
海岸に出会えることができるのでしょうか。
(注)季節外れの海
歌:トワエモワ
歌詞:山上路夫
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作曲:川口真
夏の賑わいは
どこに消えた
潮の香りする
停車場
あの人の想い出が
忘られず
ただ一人やって来た
季節外れなら
遠いあの海辺
あの日のお店も
今はさびしそう
扉をとざすよ
夏のさざめきは
どこに消えた
波がかなしげな
砂浜
夏の日の愛ならば
帰らない
今はもうこの胸で
生きている愛よ
季節外れなら
一つだけひろい
季節外れなら
つぎの夏を待ち
-3-
汀の貝がら
街へと帰ろう
汀と別れて
私は帰ろう