「学びのある音楽活動」をめざして

「学びのある音楽活動」をめざして
― 英語のラップミュージックを創作しよう ―
*
**
***
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吉川陽子 慶田盛貴志子 グレイ雅美 松千実光
*****
當間錦
Ⅰ 課題と目的
山本文茂(1993)は,学校における音楽教育の目的は,「表現及び鑑賞の様々な活動を通して,知性と感性の調和の
とれた人間,思考力と判断力と表現力を兼ね備えた人間を育成すること」と述べている。児童生徒が音楽科活動に
おいて,自ら考えたり,判断したり,試みたり,表現したりすることを基軸にして展開される授業が大切であり,この
ように身についた音楽的感覚,知識,技能などが個性的なものとして生活の中で生きて働く力になると考える。
その
ためには,音楽の教師は日々の音楽科の授業において, 楽曲を特徴付けている旋律やリズム,音の重なりなど音楽
構成のおもしろさを子供に感じとらせ,思いやイメージを膨らませる楽しい「学びのある授業」を展開することが
大切である。
今回「生徒達にユニークで楽しい学びのある音楽活動を体験させたい」と考え,現在生徒達の間で流行している
ラップミュージックやJポップスの手法を取り入れた創作活動を事例提唱する。
生徒自らが楽曲を創作し表現する
活動は,音楽活動の原点とも言える。しかし創作指導は音楽教育の現場ではとかく敬遠される分野である。その理
由に生徒の記譜する作業につまずきが挙げられる。生徒の音符を読む能力が創作にはある程度必要であるが,教師
が「創作の大切さはわかるのだが,どう指導してよいのかわからない。創作活動は難しい」と創作指導そのものよ
り記譜する作業に困難を極めなかなか創作まで手が回らないことが多い。記譜につまずきのある生徒には読譜・記
譜の能力を高めながら,音楽の諸要素であるリズムや旋律を「聴き取る力」が培われる創作指導が必要である。本
研究では日常的な言葉とリズムの関係を理解させながら英語のラップミュージックの創作活動をすることにより
音楽の基礎的・基本的能力である読譜や記譜の能力,音を聴き取る力を育てる「授業例」を提示,検証していくこと
を目的1とする。
次に今回英語と音楽の教科連携により英語の歌詞をもちいたラップミュージック創作指導により培われるであ
ろう「音を聴き取る能力」が「英語を聞く」というヒヤリング力にどのような効果をもたらすのであろうか。ドイ
ツでは,学校教育活動において「教科間をつなぐテーマ」を設定し,他教科と深い結びつきを持たせながら学習する
横断的学習が展開されている。そこでは,単独の教科学習では得がたい学習効果を上げていると報告している(中
島卓郎・中島奈穂子 2003)
。また,根路銘(2002)は横断的学習による「創作活動」において生徒が様々な角度か
ら学習を深め創作のイメージを膨らませることができると効果を述べている。したがって,本研究の教科連携によ
る学習指導がどのような効果をもたらすか横断的学習の検証を目的2とする。
<研究仮説>
1 言葉とリズムの関係を理解させながらラップミュージックの創作活動をすることにより読譜や記譜の力,
音を聴き取る力が育つであろう
2 英語科で育む「ヒヤリング力」が音楽科で育む「音を聴き取る力」と互いにかかわり合い高まるであろ
う。
Ⅱ 研究内容
1 創作指導の意義と目的
(1) 生徒個人のよさを生かす
歌唱や器楽における表現においてはすでに存在する楽曲をいかにうまく音にするかという特性があるが
創作的学習においては独自の判断によって音を選択する自立性や自己の音楽性によってオリジナルな表現
* 沖縄総合教育センター指導主事 ** ***那覇西高等学校教諭
1
**** ***** 南風原高等学校教諭
方法が確かめられ,生徒個人のよさを生かすという利点がある(渡邉学,1993)
。すなわち,音楽や楽譜理解に苦
手意識のある生徒も,オリジナルな自分達の音楽をつくるという目的を達成するために,必然的により音や音
楽との関わりを深め,自分自身の創造性や個性を伸長することができる事に創作活動の意義があると捉える。
(2) 楽しい学びのある創造的な授業
創作活動における基礎・基本は,音楽の諸要素(音色,リズム,旋律,和声,強弱など)の働きを生徒の内面
(音楽に対する関心・意欲や感性・イメージ)と関わらせていく。すなわち,音楽の持つ音の美しさや楽しさを
通して,「聴き取る力」
「感じとる力」
「表現する力」
「鑑賞する力」などを育み,質の高い「楽しい学びのある
授業」が展開できることに創作活動の目的があると捉える。
2 創作活動の課題
自分自身の創造性や個性を表現する力を育てるには基礎・基本としての「読譜,記譜の能力」を培っておくこ
とが重要である。読譜したり記譜したりする能力は音楽の基礎的・基本的能力と捉える事ができる。しかし実
際には音名については,比較的多くの生徒が読めるが,リズムや音程については多くの生徒がほとんど読めてい
ないというのが現状である(和田崇 2003)。小中高校より学習してきているにもかかわらず,能力として身につ
いていないのはなぜか,教師はしっかりと把握し対応しなければならない。
読譜能力が身に付かない原因の多くは,音符や休符の名前や拍数を憶えさせることに終始してしまうことが考
えられる。音符や休符の組み合わせによって生まれるリズムパターン(資料 1)をしっかり身に付けさせること
から始める事が大切である(和田崇 2003)
。そのためには短時間での活動を継続して行い,リズム模倣や音符の
理解,言葉とリズムの関係をとおして創作をさせるなど能力差に応じて学習内容を工夫する必要がある。
資料1
リズムパターンA
リズムパターンB
3 ラップミュージックとは
黒人の日常生活をリズムにのせて歌うフォークソングジァズが元となり 1970 年代に始まった音楽。ダンス
ビートに乗せてリズミカルに早口の語り言葉に乗せていく音楽のスタイル
4 ラップミュージックを教材化する意義
ラップの音楽的スタイルをとおして,日常的な言葉の中に内在する音楽的リズムに興味・関心をもち,自ら
イメージした音や言葉が生かされ表現する能力が育つと考える。またリズムパターンやリズムビート,アクセ
ントの位置を変える事により様々なスタイルのラップミュージックも楽しむことができ,読譜や記譜の能力
を育てる事ができる。
5 英語の歌詞を扱う目的
英語は日本語と較べリズムの細かさ,音程差,アクセントの強さなどにおいてはっきりしているためラップの
ようにリズミカルに言葉をのせる音楽のスタイルによく合う。
英語と音楽を有機的に結合させることにより生徒
は楽しく意欲的に授業に参加することができる。
2
6 授業例
「英語のラップミュージックを創ってみよう」
最初から旋律を作らせるのではなく,多用な音素材に触れ気づかせることから始める。そして,リズムや言葉
による音楽ゲームを通して音楽作りを体験させる。そのことから「音を集中して聴く」という音へのこだわりを
持ち,あらゆる音素材も音楽になりえることを指導する。
ステップ1
リズム遊び
(1) リズムは,音楽の大切な要素の一つである。リズムを感じ,互いに聴きあいながら手拍子や言葉でリレーし
てみる。リズムカード一覧表A(資料 1)からリズムパターンを2つ選択して,手拍子リレーをしよう。
全員
A 生徒
全員
B生徒
(2) リズムカード一覧表AとB(資料 1)よりリズムパターンを選択して 4 分の 4 拍子1小節ずつのリズムパ
ターンをグループでつくり,手拍子リレーをしよう。
Aグループ
Bグループ
Cグループ
(2) いろいろな言葉をリズムで表現してみよう。
す かーと きいろ
パン ばな な
たっ
きゅう ギター カード
コーヒー
ス テー キ
(3) それぞれのグループで早口言葉をリズムで表現してみよう。
例 生麦生米生卵,となりの客はよく柿食う客だ (文部科学省 2001)
な ま む ぎ
なまごめ
ステップ2
な また ま
と な り の
ご
きゃくは
よ く
かき く う きゃく だ
言葉の感じの表現
言葉の音の高低を感じながら五線譜にかいてみよう
パ
ステップ3
ソ
コン
ひ
こう
ギ
き
ター
きゅう
り
英語の感じの表現
(1) 英語と日本語のリズムと抑揚の違いを感じてみよう。音声学的にみて英語と日本語の違いは以下の点が挙げ
3
られる。
り
日本語
英語
ほぼ四分音符からなり,リズムはほぼ一定
二分音符,四分音符,八分音符などリズムが多
ズ
彩。そのため単語同士が繋がったり,変化した
ム
りする(リエゾン)
音
ミからラのわずか4度程度のところを言っ 1オクターブも一度に変化するなど音の高低
程
たり来たりするのみで音程差が小さい
差が大きい。
アクセ
はっきりしていない
強弱のはっきりしたアクセントが見られる
ント
(2) 生徒に人気あるデェイズニーアニメの一つである Mr.インクレディブルの台詞を取り上げ(1)で学習した事
を感じながら,何回も台詞をテープで聴く。
(3) 台詞にイントネーション音調曲線をつける。
Every superhero
例
has a secret
identity
(4) 何回も聴き取った台詞をリズム譜に書き取る。その際,音程はラの音を標準音として始め,上に5度,下に3
度までの音域を指定する。強弱の表現の工夫やダンスビートの選択(バラード,ロック,ラテン,TRAD,DA
NCEなど)アクセント記号については特に気をつけリズミカルなラップミュージックをグループで創作する。
ステップ4
修正・完成
(1) 完成した作品の歌詞が正確に入っているか,ダンスビート(バラード,ロック,ラテン,TRAD,DAN
CEなど)の選択は適当か,アクセントは適切に示されているか,強弱の工夫は適切か,リズミカルに流れてい
るかなど各グループでチェックする。
(2)
グループごとに発表会を行い,終了後に意見交換会をする。
作品例
eve ry su per he ro has a secret
i
I don'tknowa single one who
den tity
dosen't
3
who want the pressure of being
can yousee me in this
Y'knowwhat I
ステップ5
at
su per all
the time
of course I havea
secret
the su per market
i den
come on who'd wana go shopping
ti ty
as
E la sti
girl
mean
応用編
早く完成したグループは「応用編」として完成した曲をアンサンブル(8小節)に編成させ,より磨かれた創
4
作活動をさせる。アンサンブルに編曲するには,以下の手法などあることを紹介する。
・同じリズム,言葉が順番に出てくる
・違うリズム,言葉が同時に進行する
・一つのリズム,言葉を別の声部に割りふる ・同じリズム,言葉を1拍ずらす
作品例
eve ry
su per
eve ry su per
he ro
pressurepressure pressure pressure
of being
of being
3
3
who wants the
who wants the
su per
secret
i den tity
secret
i
I don't knowa single one who dosen't
den tity
I don't knowa single one whodosen't
I don'tknowa single one whodosen't
i den tity
has secret
a
I have sec ret
all the time
I den tity
su per
all the time
of course
I den tity
su per
all the time
of course
I den tity
Ⅲ 指導の実際
1 題材名
「英語のラップミュージックを創ろう」
2 題材設定理由
自由な発想によるラップミュージックの創作をとおして,音楽の諸要素の働き,言葉とリズムのかかわり
を感じとらせ,読譜,記譜,音を聴き取る力が培われ生徒が創作活動に主体的にとりくむであろうと考え,本
題材を設定した。
3 指導目標
(1) リズム創作をさせることで,創作活動に興味・関心をもたせる。
(2) 音楽の諸要素である,リズムや拍子,音と音とのかかわり方,速度や強弱などの働きを理解し読譜力と
音を聴き取る力を育てる。
(3) 自らメージした音や言葉が生かされた表現ができるようにさせる。
4 評価規準
(1) ラップづくりに関心をもち,進んで活動しようとしている。
(関心・意欲)
(2) 言葉とリズムの響きを感じとりながら表現の工夫をしている(表現の工夫)
(3) 言葉とリズムのかかわりを生かし,ラップ表現ができる。
(表現の技能)
(4) 互いのつくった作品のよさを,感じとって聴くことができる。
(鑑賞の能力)
5
5 題材の指導計画と評価
次
ねらい
多様な音素材に触れリズムの組み合わせで音楽をつくる楽し
さに気づく
1
時
ねらい
主な学習活動
1
・身の回りの音に触れ,いろいろ ・リズム遊び
・リズム模倣やリズ ・リズム表現に
なリズムパターンに気づく
ムリレーを楽しくさ 積極的に参加す
・手拍子リレー
・日常的な会話のなかにある言葉 ・リズムによる音楽ゲーム
の響きを感じとる。
教師の支援
せる
・グループで手拍子リレー
評価規準
る (1)
リズムパターンを
理解し表現できる
(3)
2
・リズムの組み合わせの面白さを ・リズムパターンカードを ・全グループが創作 ・リズムの組み合
感じとる。
用いてリズムをグループで できるよう雰囲気づ わせの面白さを感
リズム創作
3
くりにする。
じる (2)
・ラップ音楽の楽しさにふれ,リ ・既成のラップミュージッ ・声のリズムパター ラップミュージッ
ズムの組み合わせで音楽をつく クを体験する。
ンの連続によって音 クに関心を持って
る。
・いろいろなリズムパター 楽がつくられること 取り組みリズムの
・リズムパターンを感じとる
ンを演奏する。
(リズムパタ に 気 づ く よ う に す 特徴を味わって聴
ーンA・B表を使用)
る。
くことができる
(1) (4)
多様な表現の面白さを
味わい曲づくりに親しむ
2
4
言葉による多様な表現を味わう
・短い言葉でいろいろな表 ・言葉のもつスピー ・言葉による多様
・早口言葉のスピードを表現
現ができる。
ド観・抑揚・強弱を な表現を味わい,
・早口言葉のリズム創作
感じとるようにする
リズム打ちでき
る。 (3)
5
・言葉の感じの表現を工夫する
・日本語と英語の言葉のリ ・音域を決めて,曲 リズムの流れを感
・英語と日本語の感じを味わう
ズム表現ができる
が構成できるように じとり曲の構成創
する
りを工夫している
(2)
英語の歌詞にふさわしい表現をすることにより創造
の喜びをあじわう
3
・グループで英語の歌詞にイメー ・英語の歌詞を味わいイメ ・グループで話し合 ・グループ学習に
6
ジを膨らませてリズム創作する
ージをもつ。
・
・音楽の諸要素の理解
・イメージにあったリズム 譜が作れるようにす (1)
7
表現をする
いまとまりのある楽 主体的に取り組む
る
・記譜をする
・リズム表現がで
きる
(3)
・イメージに合う音楽づくりにな ・グループの創作した曲が ・自分達の創ったメ ・楽譜に表すこと
8
るよう表現の工夫をする。
・
グループで協力して発表しお互 ているか再度確認する。
に表現の工夫をする ・音の高低,リズ
9
いの表現のよさを感じとって聴
ようにする。
く
イメージどおりに記譜され ロディーに合うよう ができる (3)
ムの特徴を感じと
・グループごとに発表・鑑 ・それぞれの表現の り,イメージにふ
賞し,お互いに感想を述べ 良さに気づく
さわしい表現の工
合う
夫をしている
(2)(4)
6 本時の展開(第3次,第6時)
本時の目標
グループで協力しあい,音楽の諸要素の働きに気づき,言葉とリズムのかかわりを感じてラップミュージ
ックを記譜する。
6
導
指導内容
活動内容
教師の働きかけ
メッセージソング
・既習曲「ビリーフ」を歌う
リズムパターンワー
入
評価観点
クシートを配布
学習目標の確認
・本時の目標や学習の流れを確認 英語の台詞を配布
する
・リズム模倣
展
・英語の歌詞に適するリズムをリ ・言葉の響きとリズム ・グループ活
・リズム創作と表現の工夫 ズムパターンカード(資料1)な が合っているか確認 動に積極的取
・リズムパターンの設定
どを利用してリズムを設定する
助言する
り組んでいる
・リズムパターンをつなげたり, ・グループの進行状況 ①
開
・楽曲の構成
繰り返したりしてある程度の楽 を把握し,適切なアド
・音楽の諸要素の理解
曲を構成する
バイスをする
・イメージしたことが伝わ ・
「ラップ」の表現の工夫
るような表現工夫
・イメージを
・自分達の技能に適し 持ち表現の工
・音楽の諸要素を理解して記譜す ているか確認させる
る。
夫をしている
・よい部分や改善した ②
・記譜や記譜法についての
い部分を探させる
理解
・ビートを感じながら ・言葉とリズ
表現させる
ムのかかわり
を感じて表現
できる
ま
・次時の予告
・工夫を加え作品を完成させる
と
・自己評価
・ワークシートに自己評価する
③
・次時の予告をする
め
Ⅳ 仮説の検証
1 研究仮説1
研究仮説を「言葉とリズムの関係を理解させながらラップミュージックの創作活動をすることにより読譜
や記譜の能力,音を聴き取る能力が育つであろう」とし研究をすすめてきた。授業例を提示し指導した結果生
徒達に仮説における学力が定着したか,プレテスト,ポストテスト,アンケートをもとに検証する。
(1) 音符名称理解 音階理解 リズム聴音(選択) リズム聴音(書取)のテスト結果
図1のテスト結果より音符名称理解,階名唱に
おいて 2.1%,0.5%とプレテストよりポスト
テストの正解率が減少している。これは毎
時間,授業の導入の部分で継続的に音符名
称と階名唱の指導が行われなかった事が原
因と考える。音符・音階の名称理解におい
択)においては,100%の生徒が正解してい
る。リズム(書き取り)においてもポスト
100
92 91.5
82
76.4 74.5
プレテスト
ポストテスト
94.5
40
︶
活動の継続が必要である。リズム聴音(選
100
90
80
70
正
60
解
率50
40
%30
20
10
0
︵
ては,フラッシュカード等を活用した学習
図1 テスト結果
テストがプレテストより正解率が 42%増
加している。リズム聴音の正解率が増加し
7
音符名称理解
階名唱
リズム聴音(選択)
リズム聴音(書取)
たのは,生徒の音符に対する苦手意識を克服するため,リズム遊びの中で,簡易なリズムに言語単語を当ては
めた「言葉とリズムの関係」を理解させる指導や英語の歌詞でラップミュージックを創作する活動が「音
を集中して聴く」という記譜の能力を培うのに有効だったと考える。
(2) 音程聴音の記譜力
図2 音程聴音
アンケート調査による「音を聴いて音符が書け
聴音(音を聴いて書き取る)
るか」という質問に対して,指導前と指導後の変化
80.00%
を図 2 に示す。この表より「書けない」と答えて
60.00%
いた生徒が授業前は 60.6%いたが 0%に減少した。
回
答
率
%
また指導前「少し書ける」と答えた生徒が減少し
「書ける」
「よく書ける」と答えた生徒は増加して
いる。増加した理由は「授業例」による「言葉の
40.00%
20.00%
0.00%
感じ」を表現する記譜練習,またラップミュージッ
よく書け
る
3.00%
プレテスト
クを創作する過程で英語の持つ音程差を記譜する
9.70%
ポストテスト
書ける
3.00%
少し書け
書けない
る
33.40% 60.60%
58.10%
32.20%
0%
活動が有効だったと考える。
(3) 読譜力
図3 読譜力
①リズム譜
リズム譜・音階の読譜力
ポスト)
創作指導の授業後にアンケート調査
による「リズム譜は読めるようになった
80.00%
か。階名唱はできるようになったか」と
60.00%
いう2つ質問に対する結果を図3に示す。
リズム譜に関しては,「よく読める,少し
40.00%
読める」と答えた 77.3%の生徒に対し
20.00%
て,22.5%の生徒が「変わらない」と答え
0.00%
よく読める
ている。この結果からリズム譜を読める
リズム譜
音階
生徒は増加したが,22.5%の生徒に指導
16.10%
22.50%
少し読め 変わらな
読めない
る
い
61.20%
19.30%
3.20%
48.30%
29.00%
0%
の効果が現れなかった。原因として(1)
の音符名称理解につまずきがあり,それが解決されないまま授業が展開されてしまったことにあると考え
る。
また,資料1リズムパターンABの組み合わせ練習を毎時間,授業の導入の部分で継続的に指導し,組み
合わせによって生まれるリズムパターンをしっかり見に付けさせる指導が必要である。
②階名唱
階名唱に関しては「よく読める,少し読める」と答えた 70.8%の生徒に対して,29%の生徒が「変わらな
い,」と答えている。階名唱においては,個人差はあるものの読める生徒が比較的多いことが音楽教育の
指導者から言われている。このことから考えると,「変わらない」と答えた生徒は「小中学校より読めて
いた生徒」と「表1読譜,聴音テスト結果」より示されているような階名唱の苦手な生徒が合計された数
値ではないかと考える。階名唱の苦手な生徒には毎時間の継続的な教具等を用いた根気強い指導が必要
である。
2 研究仮説2
研究仮説を「英語科で育むヒヤリング力が,音楽科で育む音を聴き取る力と互いにかかわり合い高まるであ
ろう。
」とし研究をすすめてきた。授業例を提示し指導した結果,生徒達に仮説における学力が定着したか,プ
レテスト,ポストテスト,アンケートをもとに検証する
(1) 英語ヒヤリングテストの結果とヒヤリング力の変化
英語検定3級(40 人),2級(20 人)を対象にヒヤリングテストを実施した。実施方法として,英語検定
級の生徒には3級レベルのテスト,2級には2級レベルのテスト内容で実施した。プレテストとポストテ
ストの結果を図4に示す。2 級,3 級共にポストテストの正解率は上昇している。
8
次にアンケート調査による「ヒヤリングがスムーズに聞き取れますか」という質問に対する結果を図5
に示す。プレテストで「できない」と答えた 56%の生徒がポストテストでは 28.1%となりプレテストと比
較して 27.9%の減少がみられる。また「できる」と答えた生徒はポストテストでは 15.9%の増,「よくで
きる」と答えた生徒も 13%の増となった。テストの正解率上昇とヒヤリング力の変化から,次の理由を推
察することができる。英語の歌詞を音符に表す事により英語のリズム,音の高低が明確に視覚にとらえる
ことができ,意識化されたこと,またラップミュージックの創作活動をすることにより,リズム,音の高低
等を楽しく自然に学ぶ事ができ「英語」と「音楽」の教科の連携が互いに重なり合い育もうとする能力が
互いに高まりあったのではないかと推察する。
図4 英語ヒヤリングテスト
図5 ヒヤリングアンケート結果
英語ヒヤリングテスト(英検2・3級)
ヒヤリン グがスムーズにできますか。
44.00%
60%
回答率
42.00%
40.00%
正
解
率
3級
38.00%
20%
2級
36.00%
0%
34.00%
32.00%
40%
プレテスト
ポストテスト
3級
35.70%
37.30%
2級
41.50%
42.50%
プ レテスト
ポストテスト
できない
56%
28.10%
できる
38%
53.90%
よ くでき
る
6%
19%
時間
時間
(1)
読・アクセント・リズム・音の高低に関する変容
図6 アクセント・リズム・音に関する変化
創作指導の授業後に「音読・アクセント・リズム・
アクセント・リズム・音の高低に関する変化
音の高低」に関するアンケートを実施した。結果を
図6に示す。
60.00%
① 音読
50.00%
音読について「創作指導前と後では英語の音読が
40.00%
上手になりましたか」という質問に対して「良くな
30.00%
人
数 20.00%
った 6.3%」
「少し良くなった 39.35%」と 49.65%の生
徒が創作指導の効果を肯定的に捉えている。しか
し,52.5%の生徒が「変わらない」と回答している。
② アクセント
アクセントについて「先生の読む単語にアクセン
10.00%
0.00%
良くなった
音読
6.30%
アクセント
9.60%
リズム
26.75%
音の高低
15.75%
少し良くなった
39.35%
38.20%
39.75%
39.50%
変わらない
52.50%
52.50%
33.50%
44.55%
ト記号をつけることができるようになりましたか」という質問に対して「良くなった 9.6%」
「少し良くなっ
た 38.35%」と 47.8%の創作指導の効果を肯定的に捉えている。しかし,52.5%の生徒が「変わらない」と回
答している。
③ リズム
リズムについて「英語の文章にリズムがあることを感じられるようになりましたか」という質問に対し
て「感じるようになった 26.75%」
「少し感じるようになった 39.75%」と 66.5%の生徒が指導前より効果を
肯定的に捉えている。しかし,33.5%の生徒が「変わらない」と答えている。
④ 音の高低
音の高低について「音の高低を意識して英語を読んだり,聞いたりできるようになりましたか。
」という
質問に対して「なった 15.75%」
「少しなった 39.5%」と 56.45%の生徒が効果を肯定的に答えている。
以上の4つの結果より創作指導を行い「記譜,読譜力,音を聴き取る力」を育成することは,英語の「リズ
ム」
「音程」に最も効果をあげたと推察する事ができる。
「英語でラップミュージックを創作する過程」にお
9
いて「音を集中して聴くという」音楽活動が英語の「ヒヤリング活動」と同質の活動でお互いに高めあう事
のできる能力だと捉える事が推察できる。
「音読」について効果が「ない」と答えた生徒が「ある」と答えた回答を上回った点については,「英語
の文章を音読するにはある程度の単語力,読解力が必要である。そのためには,音読に努力を要する生徒に
おいては,日々の単語力を増強する授業の手立てが必要と考える。
「アクセント」においては,「変わらない」と答えた生徒が「効果がある」と答えた生徒より多い理由と
して以下のことが推察される。創作指導の中で英語の詩にアクセント記号をつける練習を指導したがリズ
ムや音程に時間を費やしてアクセント記号まで十分指導できなかったことが今回の実践より反省としてあ
げられる。
Ⅴ 成果と課題
本研究は2つの目的を持ち研究を進めてきた。目的1は「ラップミュージック」を創作することで音と言葉との
かかわりをとおして,音楽の基礎的・基本である「読譜や記譜の力」,「音を聴き取る力」を育てる「授業例」を提
唱、検証する事,目的2は音楽の授業でおこなう英語の歌詞を用いた創作活動が英語の「ヒヤリング力」にどのよ
うな効果をもたらすか横断的研究である。
目的1の成果として「読譜力のリズム唱において効果は見られたが,階名唱,音符理解については効果が見られな
かった。階名唱,音符理解については日々の継続的な教具を用いた指導が必要である。記譜力,音を聴き取る力にお
いては効果が見られた。
目的2の成果として英語のヒヤリング力の得点が上昇したこと,リズム,音の高低差(イントネーション)に肯定的
な変化が見られた。しかし,音読の変容おいては「変わらない」と答えた生徒が多く、日々の英語の授業における
単語力を増強する授業の手立て,アクセントの聞き取りについてはアクセント記号の活用例の実践指導が必要と考
える。今後の課題として①英語音声学の先行研究の必要性 ②英語の教師と連携を密にした教材研究 ③「聴き取
る力」を基礎にした「表現する力」を育てる教材研究が挙げられる。
今回「英語」と「音楽」による教科の連携指導と教材研究をしていく中で,課題を横断的に学習していく事がと
てもゆたかな学習であるか教師自身が実感した。日頃「読譜」することを苦手としている生徒達が「音符が読める
ようになった」
「言葉とリズムと音程の関係が理解できた」など,創作活動に興味・関心を示し,意欲的に授業に取
り組むことができた。また,感じたことを自由に表現することから,グループで表現することの楽しさ,「自分が創
ったという成就感」や創作活動を身近なものとしてとらえることができた。英語の授業においても「発音,イント
ネーション,リズムが以前よりはっきり聞き取れ,音の違い分かるようになった」と感想があり,教科連携による横
断的学習が学習効果を上げているものと推察される。
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