原子力発電所における設計超過事象を考慮した 構造評価技術 -他分野に学ぶ安全確保技術- (第 50 回国内シンポジウム) 信頼性関連規準の開発動向と普及のための課題 国立大学法人 東京大学 大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 特任教授 酒井 信介 機械構造物の設計や維持の段階で、信頼性やリスク管理を活用するべきである、という主 張をよく耳にすることがある。しかし、その多くは概念的なものであり、実態はかけ離れ ていることが多い。規制側も事業者側も何を最終的な目標としているのかという点につい て意識を共有しなければ、単なる空論に終わってしまうことも懸念される。実は、我が国 は、大きな事故があるたびごとに、信頼性やリスク管理の方向性と逆方向の管理方式に進 んできたきらいがある。本講演では、まずは何が問題で、目指すところが何であるのか考 え方を述べたい。関連する規準の開発動向や、これらを普及するための課題についても言 及する。 航空機事故に学ぶ -航空機事故とレジリエンス元日本航空執行役員・社長総括安全補佐 小林 忍 動力飛行機が出現して約110年、ジェット旅客機が出現して約60年経過している。 この間、どのような事故、経緯を経て安全性、信頼性を向上させてきたかのか、代表的 な事故を紹介するとともに、その共通要因を考察する。さらに航空機構造を例に、どの ような事故を契機に、軽量化が大命題の中で信頼性向上のためのどのようなルール改正 が行われたのか設計、製造、保守一体となった取り組みを紹介し、他業種の安全、信頼 性向上の一助とする。 液体ロケットの安全性定量評価に向けた数値シミュレーション技術の構築 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 研究開発本部 藤本 圭一郎 現在進められている新型機関ロケット開発では、これまでよりも飛躍的に高い信 頼度達成を目指して、半経験的な安全率と高コスト試験に依存した開発法の課題 である設計不備による開発後期での不具合発生及び設計手戻りによる開発期間・ コスト超過を解決するべく、1)故障モード網羅識別、2)数値シミュレーショ ンによる故障確率評価、3)小規模試験による不確かさ定量化を軸とした高信頼 性開発法を採用している。 また,異常発生したロケットの指令破壊時のデブリや、ミッション終了後の大 気 圏 再 突 入 時 の 落 下 分 散 域 等 の 安 全 性 評 価 に つ い て も 、 国 際 的 な安 全 要 求 の 厳 格化や評価精度の差による実質的な性能差の拡大に備えた見直しが必要である。 本講演では、破壊・爆発プロセス等の数値シミュレーション技術構築の取組を 紹介する。 スズキにおける衝突シミュレーションの現状と課題 スズキ株式会社 要素技術開発部 第3課 樫山 武士 自動車において衝突安全性の確保は重要な課題であり、現在の製品開発ではコン ピュータシミュレーションにより設計段階で衝突性能の予測を行うことが一般的 である。このような手法において、近年、衝突時に生じる変形だけでなく、破断 の発生を予測するためのシミュレーション手法が求められている。 本講演では、弊社で実施している衝突シミュレーションの中で、特に鋼板部品の 破断予測の状況について事例を紹介するとともに、現在の課題とその解決手法に ついて提案する。 高ひずみ速度下における構造材料の応力ひずみ挙動 国立大学法人 大阪大学 大学院 基礎工学研究科 機械創成専攻 教授 小林 秀敏 本講演では、低弾性率、高強度、超弾性、超塑性などの優れた特性を有する「ゴムメタル」 と呼ばれている新開発のチタン合金について、77 K ~ 773 K の広範な温度範囲における、 準静的圧縮試験および約 1200 s-1 の高ずみ速度試験結果について概説し、併せて、変形強 度が高く,熱伝導率の小さいため大きな温度上昇が生じると予想される型チタン合金 (Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al)の衝撃圧縮変形特性について、赤外線放射温度計による高速変形 中の材料の温度上昇の計測結果も含めて紹介する。また、実用面から注目されている発泡 アルミニウムの衝撃圧縮変形特性についても、衝撃試験法も含めて紹介する。 地震問題に対するハイパフォーマンスコンピューティングの応用 国立大学法人 東京大学 地震研究所 巨大地震津波災害予測研究センター 教授 堀 宗朗 地震問題の本質は構造物の耐震性の評価に尽きる。この評価には入力となる地震動の選定 と非線形構造物応答の解析が必要である。ハイパフォーマンスコンピューティングを利用 することで、億を超える自由度の大規模モデルの数値解析が実現され、断層から構造物ま でを扱うようなシミュレーションの可能性が期待されている。本講演では、 「京」計算機を 使ったハイパフォーマンスコンピューティングの応用例として、断層から原子力建屋まで をモデル化し、その応答を解析する例を紹介する。解析モデルは地質スケールと工学スケ ールの二つから構成されるマルチスケール解析であり、非線形応答は建屋の主材料である コンクリートの塑性と損傷発生・進展を考慮したものである。 Beyond Design Basis Accident への対応 -東日本大震災からの教訓- 国立大学法人 横浜国立大学 名誉教授 白鳥 正樹 日 本 機 械 学 会 で は 3.11 の 調 査 活 動 に 基 づ き「 東 日 本 大 震 災 合 同 調 査 報 告 ― 機 械 編 ―」を発刊し、その冒頭に以下の4つの提言を行っている。 提言Ⅰ:大規模システムのシステム・インテグレーション 提 言 Ⅱ : デ ザ イ ン ベ ー ス の 考 え 方 、 “ Beyond” へ の 対 応 提言Ⅲ:リスクコミュニケーションの課題 提言Ⅳ:継続的調査と規格基準への展開 本シンポジウムの主題は“設計超過事象を考慮した構造評価技術”となっている が 、本 稿 で は 個 別 の 評 価 技 術 の 問 題 は 他 に 任 せ て 、上 記 4 つ の 提 言 に 基 づ い て“ 全 体を俯瞰する”ことの重要性について述べる。
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