津波漂流物のシミュレーションと被害想定

こうえいフォーラム第 19 号 / 2011.3
津波漂流物のシミュレーションと被害想定
NUMERICAL SIMULATION OF FLOTSAM AND ESTIMATION OF DAMAGE IT CAUSED IN A
TSUNAMI
櫻庭雅明 *・後岡寿成 *・伊勢 正 **
Masaaki SAKURABA, Hisanari USHIROOKA and Tadashi ISE
Fukura Harbor was devastated by the Ansei Nankai Earthquake Tsunami in 1854. The
last Nankai Earthquake was in 1946, and there is a danger that the next one could be in the
first half of this century. A numerical simulation was applied to Fukura Harbor in order to
predict the behavior of drifting objects such as cars, ships and so on in the water produced
by the Ansei Nankai Earthquake Tsunami. The numerical results were used to estimate the
damage caused by collisions with drifting objects and destruction of the objects themselves.
These results will be used to help develop integrated countermeasures against tsunami. In
the future, the analysis will be repeated using a tsunami of a scale larger than the Nankai
Earthquake Tsunami.
Keywords :Fukura Harbor, tsunami, drifting objects, numerical simulation, damage estimation
1. はじめに
切迫する東南海・南海あるいは想定東海地震が発生した
場合、それに伴う津波によって沿岸域は甚大な被害を受け
ることが予想されている。その中で、津波が港湾に来襲し
た場合、船舶や木材等の漂流物による沿岸・海域構造物へ
の衝突による被害の発生が懸念される。2004 年 12 月の
インド洋大津波で見られたように漂流物が津波とともに陸
上域を漂流し、津波波力に漂流物による衝突力が加わり作
用波力が増大することにより構造物を破壊する被害が懸念
されている。このような漂流物による被害を推定すること
は、津波防災対策上重要である。
図- 1 福良港位置図
2. 津波漂流物の被害想定の考え方
(1)漂流物被害想定の必要性
本論文は、津波による漂流物の被害を推定することを目
津波が来襲した際に考えられる港湾周辺での被害の分類
的として津波・漂流物のシミュレーションを実施し、それ
を図- 2 に示す。津波による被害は、浸水被害以外にも漂
ぞれの漂流物による被害想定を試算し、津波対策案を検討
流物による構造物の被害や陸上の建物の破壊や道路の閉鎖
したものを報告する。漂流物の移動過程の予測には、津波
等、また油の流出による海洋汚染被害が考えられる。福良
シミュレーションから得られる流速と水位の時系列分布を
港でも浸水被害以外に漂流物による被害が多く考えられ、
用いて、慣性、水流の圧力勾配、付加質量、流水抵抗等を
漂流物の挙動の傾向と被害の状況の把握が必要となる。し
表現する数値シミュレーションを用いた。被害想定の試算
かしながら津波漂流物の対象は挙動や被害規模について不
にあたっては、対象となる漂流物の原単位を設定し、衝突
明な点が多い。海域および陸上にて考えられる漂流物の分
過程を踏まえて陸域と海域の被害についてそれぞれ行っ
類、想定される被害について表- 1 に示す。この表より、
た。対象地域は、図- 1 に示す兵庫県南あわじ市の福良港
漂流物の被害はおおむね陸域構造物の破損、海域での荷役
を対象とし、想定安政南海地震における津波漂流物被害の
被害が主たるものと考えられる。とくに福良港周辺では、
推定ついて検討した。
車両および係留船舶に関する漂流被害が考えられる。また、
福良港は漁業が盛んであり、養殖筏も漂流物の対象となる。
*
**
技術本部 中央研究所 総合技術開発部
コンサルタント国内事業本部 社会システム事業部 統合情報技術部
本検討では、福良港において漂流物となり得る対象に条件
を付与して被害想定の試算を実施した。
27
津波漂流物のシミュレーションと被害想定
津波の来襲
漁業資器材の漂流
による航路の閉塞
(3)津波漂流物による被害想定の考え方
港湾構造物被害
漂流物被害想定のフローを図- 3 に示す。漂流物の被害
港内漂流物
想定の試算にあたっては、①漂流物の状況を示す数値シミュ
油の流出による
海洋汚染
船舶被害
レーション、②被害の基準判定の設定、③漂流物単価の設
船舶被害
漁港地域
定結果を合わせて最終的に算出した。また、①の数値シミュ
漁港地域からの氾濫・流出
港湾地域
港湾地域からの氾濫
油の流出
油の流出
レーションは津波シミュレーションと漂流物シミュレー
漁村地域
港内からの漂流物
油の流出に伴う火災
背後地域
背後地域(漁村含む)の被害
 浸水被害
 津波や漂流物による建物等の破壊
 漂流物による避難路・救援用道路の閉塞
 人的被害
 浸水時間の長期化に伴う被害拡大・孤立化
表- 1 漂流物の分類および被害例 1)
漂流物(例)
想定される被害状況(例)
車両
トラック 普通乗用車
フォークリフト
係留
船舶
海:係留索の切断にともなう船舶の流
漁船
出、他船との接触・破損、沈没
プレジャーボート
陸:岸壁への乗り上げ、陸上施設へ
放置船舶
の衝突
木材
貯木
流木
海:海域への多量の流出、拡散
陸:陸上施設への衝突
物流
資材
コンテナ
パレット
海:船舶の座礁、転覆等により積荷
および関連機材が流出する。
陸:岸壁に置かれている資材が流出
危険物
石油
ガス
海:座礁した船舶からの燃料の流出
陸:電力会社、ガス会社等の施設か
らの危険物の流出、石油の流出
海:港内水域に流出、荷役被害、物
流被害 陸:人・施設に衝突・破損
※財務省貿易統計
より設定
被害判定基準の設定
①海域被害基準
・船舶
・養殖筏
②陸域被害基準
・車両
・建設機械
③漂流物被害基準
・建物
・橋梁
漂流物シミュレーション
①津波断層モデル設定
②津波伝播・浸水シミュレ
ーション
③漂流物シミュレーション
漂流物被害の判定・試算
①海域被害
②陸域被害
③漂流物による被害
図- 3 漂流物被害想定の検討フロー
3. 津波および漂流物のシミュレーション
(2)既往の漂流物シミュレーション・被害想定
津波漂流物に関する研究としては、流木を対象とした衝
2)
漂流物単価の設定
①船舶
(漁船・遊覧船)
②養殖筏
③車両
(乗用車・大型車)
④建設機械
図- 2 津波による港湾被害の分類 1)
項目
ションから構成される。次にそれぞれの手法について示す。
突力の実験的な検討 、木材漂流のシミュレーション例
3)
がある。また、最近では、漂流物の並進、回転および相互
4)
(1)津波シミュレーション
地震津波の条件としては、当該地域での想定最大と考え
られている想定安政南海地震津波を対象とした。想定安政
衝突を考慮できるような力学モデルが開発されている 。
南海地震は安政南海地震津波(M8.4、1854 年)を基本の
漂流物の被害想定にあたっては、できる限り漂流物となり
津波として、南海トラフに沿って震源位置を東西に移動さ
うる対象の形状や力学過程を考慮できる数値シミュレー
せて津波を発生させて、周辺地域で被害が最大となるよう
ションを実施することが望ましいが、漂流物の形状を考慮
なケースを採用した。計算範囲は、図- 4 に示すように 5
して計算することが現状では困難である。また、漂流物の
段階のネスティング構成とした。計算格子幅等の津波計算
形状、数量を精密な力学モデルで計算することは膨大な
の条件は表- 2 に示すとおりである。断層条件の計算につ
データ量を準備することとなり、実海域への具体的な適用
いては想定安政南海地震の断層モデルに対して Mansinha
は困難である。なお、漂流物による陸上や海域での被害を
and Smylie の方法 5)により鉛直変位の計算を行い、初期
推定する事例は基礎実験では存在するが、実海域での漂流
波形を作成した。津波の伝播・浸水計算は平面 2 次元の
物による構造物被害の算定事例は見られない。漂流物の被
浅水流モデルを差分法に基づく数値計算で行っているが、
害想定にあたっては、広域の漂流物のシミュレーションと
詳しい計算法については文献 6) に具体的に示されている
計算結果に基づく被害想定の方法を工夫する必要がある。
ので本論では割愛する。
断層モデルから計算された津波の初期波形を図- 5 に、
地震発生 30 分後の広域での波形(水位変化量)を図- 6
に示す。30 分後には四国、和歌山、三重および静岡県
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こうえいフォーラム第
2011.2
こうえいフォーラム第
19 19
号 号/
/ 2011.3
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19
号/
2011.2
こうえいフォーラム第 19 号/ 2011.2
ている状況となる。福良港に第
1 波が到達するのは約
70 分
に到達している状況となる。福良港に第
1 波が到達する
ている状況となる。福良港に第 1 波が到達するのは約 70 分
ている状況となる。福良港に第
1
70 分
後であるが、詳細の計算(領域
5 波が到達するのは約
の計算結果)は次の漂流物
のは約 70 分後であるが、詳細の計算(領域
5 の計算結
後であるが、詳細の計算(領域 5 の計算結果)は次の漂流物
後であるが、詳細の計算(領域
5
の計算結果)は次の漂流物
シミュレーションと合わせて説明する。なお、津波の伝播計算
果)は次の漂流物シミュレーションと合わせて説明する。
シミュレーションと合わせて説明する。なお、津波の伝播計算
シミュレーションと合わせて説明する。なお、津波の伝播計算
(領域
Q9550,
な お、1~5
津 波を同時に実施)はIntel®
の 伝 播 計 算( 領 域 1 ~ 5Core
を 同2時Quad
に実施
)は
(領域 1~5 を同時に実施)はIntel® Core 2 Quad Q9550,
(領域
Core
2 Quad Q9550,
RAM4GBのスペックのPCでOpenMPを用
いたスレッド数
Intel®1~5
Coreを同時に実施)はIntel®
2 Quad Q9550, RAM4GB
のスペックの
PC 4
RAM4GBのスペックのPCでOpenMPを用 いたスレッド数 4
7)
7)
RAM4GBのスペックのPCでOpenMPを用
いたスレッド数
にて実施している。計算時間は
3 時間の伝播
つの並列計算
にて実 4
で OpenMP を用いたスレッド数
4 つの並列計算
つの並列計算 7) にて実施している。計算時間は 3 時間の伝播
7)
にて実施している。計算時間は
3
時間の伝播
つの並列計算
計算を行うのに
2 時間程度であった。
施している。計算時間は
3 時間の伝播計算を行うのに 2
計算を行うのに 2 時間程度であった。
計算を行うのに
2 時間程度であった。
時間程度であった。
Domain3
Domain3
Domain2
Domain3
Domain2
Domain2
Domain1
Domain1
Domain1
項目
項目
項目
項目
計算格子間隔
計算格子間隔
計算格子間隔
分割数
計算格子間隔
分割数
分割数
分割数
時間増分間隔
時間増分間隔
基礎方程式
時間増分間隔
基礎方程式
時間増分間隔
基礎方程式
計算手法
基礎方程式
計算手法
計算手法
計算手法
沖合境界条件
沖合境界条件
沖合境界条件
沖合境界条件
海底摩擦
海底摩擦
海底摩擦
海底摩擦
陸側境界条件
陸側境界条件
陸側境界条件
陸側境界条件
越流計算
越流計算
潮位条件
越流計算
潮位条件
越流計算
計算再現時間
潮位条件
潮位条件
計算再現時間
計算再現時間
計算再現時間
Domain3
Domain3
Domain3
Domain5
Domain5
Domain4
Domain5
Domain4
Domain4
図-4 津波計算の範囲
図-4 津波計算の範囲
図-
4 津波計算の範囲
図-4
津波計算の範囲
表-2
計算条件一覧
表-2 計算条件一覧
表-2 計算条件一覧
内容
表- 2 計算条件一覧
内容
領域 1:1,350m(900×550
分割)
内容
領域 1:1,350m(900×550
分割)
内容
領域
2:450m(413×458
分割)
領域
分割)
領域 1:1,350m(900×550
2:450m(413×458 分割)
領域
3:150m(899×878
分割)
領域
1:1,350m(900
× 550 分割)
領域
領域 2:450m(413×458
3:150m(899×878 分割)
分割)
領域
4:50m(623×434
分割)
領域
2:450m(413
×
458
分割)
領域
分割)
領域 3:150m(899×878
4:50m(623×434 分割)
領域
5:25m(210×200
分割)
領域
3:150m(899
× 878 分割)
領域
領域 4:50m(623×434
5:25m(210×200 分割)
分割)
すべての領域でΔt
=
0.1
秒
領域
4:50m(623
×
434
分割)
領域
5:25m(210×200
分割)
すべての領域でΔt
= 0.1 秒
領域
5:25m(210 × 200
非線形長波方程式
すべての領域でΔt
= 分割)
0.1 秒
非線形長波方程式
すべての領域でΔ
t = 0.1 秒
時間:リープフロッグ法
非線形長波方程式
時間:リープフロッグ法
非線形長波方程式
空間:スタッガード格子
時間:リープフロッグ法
空間:スタッガード格子
時間:リープフロッグ法
領域1で自由透過
空間:スタッガード格子
領域1で自由透過
空間:スタッガード格子
各領域間は水位・流量を接続
領域1で自由透過
各領域間は水位・流量を接続
領域1で自由透過
Manningの粗度係数=0.025
各領域間は水位・流量を接続
Manningの粗度係数=0.025
各領域間は水位・流量を接続
領域
5 の陸域は中央防災会議データ
Manningの粗度係数=0.025
領域 5 の粗度係数
の陸域は中央防災会議データ
Manning
=0.025
領域
1~4
は反射境界
領域
5
の陸域は中央防災会議データ
領域
1~4
は反射境界
領域
5
の陸域は中央防災会議データ
領域
5 で遡上境界
領域
は反射境界
領域
5 4で遡上境界
領域
1 ~1~4
は反射境界
領域
5
にて本間公式により越流
領域
5
領域
5 で遡上境界
にて本間公式により越流
領域
5 で遡上境界
T.P.+0.75m(H.W.L)
領域
5 にて本間公式により越流
T.P.+0.75m(H.W.L)
領域
5 にて本間公式により越流
地震発生から
3 時間
T.P.+0.75m(H.W.L)
T.P.+0.75m(H.W.L)
地震発生から 3 時間
地震発生から
3 時間
地震発生から
3 時間
図- 6 地震発生 30 分後の津波波形
図-6 地震発生 30 分後の津波波形
図-6 地震発生 30 分後の津波波形
図-6 地震発生 30 分後の津波波形
(2)漂流物シミュレーション
(2) 漂流物シミュレーション
(2) 漂流物シミュレーション
(2)
漂流物シミュレーション
1)漂流物挙動を表現する計算モデル
1) 漂流物挙動を表現する計算モデル
1) 漂流物挙動を表現する計算モデル
津波による漂流物の挙動をモデル化するにあたっては、
1)
漂流物挙動を表現する計算モデル
津波による漂流物の挙動をモデル化するにあたっては、後
津波による漂流物の挙動をモデル化するにあたっては、後
2)
後藤の方法
を採用した。この方法は、漂流物の形状は
2)
津波による漂流物の挙動をモデル化するにあたっては、後
藤の方法
2 )を採用した。この方法は、漂流物の形状は粒子と
藤の方法 を採用した。この方法は、漂流物の形状は粒子と
粒子として表現するために概略的な方法となるが、広域で
藤の方法 2 ) を採用した。この方法は、漂流物の形状は粒子と
して表現するために概略的な方法となるが、広域での津波挙
して表現するために概略的な方法となるが、広域での津波挙
の津波挙動に対する漂流状況を表現することに適してい
して表現するために概略的な方法となるが、広域での津波挙
動に対する漂流状況を表現することに適している。漂流物の
動に対する漂流状況を表現することに適している。漂流物の
る。漂流物の水平方向の運動は、慣性、水流の圧力勾配、
動に対する漂流状況を表現することに適している。漂流物の
水平方向の運動は、慣性、水流の圧力勾配、付加質量、流
水平方向の運動は、慣性、水流の圧力勾配、付加質量、流
付加質量、流水抵抗そして拡散により記述できる。計算は
水平方向の運動は、慣性、水流の圧力勾配、付加質量、流
水抵抗そして拡散により記述できる。計算は拡散を除く
4 種
水抵抗そして拡散により記述できる。計算は拡散を除く 4 種
拡散を除く
4
種類の力の釣り合いを決定論的に扱い、拡
水抵抗そして拡散により記述できる。計算は拡散を除く 4 種
類の力の釣り合いを決定論的に扱い、拡散は決定論的に定
類の力の釣り合いを決定論的に扱い、拡散は決定論的に定
散は決定論的に定まる漂流物の位置からのずれと考え確率
類の力の釣り合いを決定論的に扱い、拡散は決定論的に定
まる漂
流 物 の位 置 からのずれと考 え確 率 論 的 に扱 う。時 刻
まる漂 流 物 の位 置t=0
からのずれと考 え確 率 論 的 に扱 う。時 刻
に座標 X 0 に存在していた漂流物が
論的に扱う。時刻
まる漂
流 物 の位
置 からのずれと考
え確 t率
論 的 に扱 う。時
刻
t=0
に座標
X 0 に存在していた漂流物が
時間後、座標
Xに移
t=0 に座標 X 0 に存在していた漂流物がt時間後、座標 X に移
t動したものとする。決定論的な力の釣り合いは、
X
時間後、座標
移動したものとする。決定論的な力の釣
t=0 に座標 X 0 に存在していた漂流物がt時間後、座標
Xに移
u t ,u をそれぞ
動したものとする。決定論的な力の釣り合いは、 u t ,u をそれぞ
u t ,u をそれぞれ漂流物および水粒子の速度とす
り合いは、
u t ,u係
をそれぞ
動したものとする。決定論的な力の釣り合いは、
れ漂
流 物 および水
粒 子 の速 度 とすると、次 式 の関
が成立
れ漂 流 物 および水 粒 子 の速 度 とすると、次 式 の関 係 が成立
ると、次式の関係が成立する。
れ漂 流 物 および水 粒 子 の速 度 とすると、次 式 の関 係 が成立
する。
する。
する。 du t
du
 d u du t 
du t  V du   CM  1V  du  du t 
(1)
ddt
u  V ddtu   CM  1V  ddtu  ddt
u 
(1)
dtt  V dt   CM  1V  dt  dtt 
(1)
1 dt
dt
dt
dt 
 1 C D A u t  u  u t  u
 12 C D A u t  u  u t  u
 2 C D A u t  u  u t  u
ここで、ρ
は
,2ρはそれぞれ漂流物および水の密度、
はそれぞれ漂流物および水の密度、V
V は漂
ここで、 ρtt,ρ
ここで、 ρ t , ρ はそれぞれ漂流物および水の密度、 V は漂
A
C
C
は漂流物接水投影面積、
,
はそれ
漂流物の体積、
M
D
はそれぞれ漂流物および水の密度、
V は漂
ここで、 ρ t ,
Aρ
は漂流物接水投影面積、
C M , C D はそれぞれ
流物の体積、
流物の体積、 A は漂流物接水投影面積、 C M , C D はそれぞれ
ぞれ漂流物の付加質量係数および抵抗係数である。漂流物
流物の体積、 A は漂流物接水投影面積、 C M , C D はそれぞれ
漂流物の付加質量係数および抵抗係数である。漂流物の拡
 tV
 tV
 tV
漂流物の付加質量係数および抵抗係数である。漂流物の拡
の拡散によるずれ
(複数の漂流物の平面的なばらつき)
は、
漂流物の付加質量係数および抵抗係数である。漂流物の拡
散
によるずれ(複 数
の漂 流 物 の平 面 的 なばらつき)は、拡散
散 によるずれ(複 数 の漂 流 物 の平 面 的 なばらつき)は、拡散
κ を満足する散らばりとなるように一様乱数
ξ いて
を
拡散係数
散数
によるずれ(複
数 の漂
流 物 の平 面 的 なばらつき)は、拡散
係
κを満
足 する散
らばりとなるように一
様 乱 数 ξを用
係 数 κを満 足 する散 らばりとなるように一 様 乱 数 ξを用 いて
用いて定めるものとして次式のようになる。なお、拡散係
係 数 κを満 足 する散 らばりとなるように一 様 乱 数 ξを用
いて
定めるものとして次式のようになる。なお、拡散係数
は文献と
定めるものとして次式のようになる。なお、拡散係数
は文献と
-4
とした。
数は文献と同様に
1
×
10
-4
定めるものとして次式のようになる。なお、拡散係数は文献と
同様に
1×10 とした。
同様に 1×10 -4 とした。
nt
1

同様に 1×10tt-4 とした。
(2)
X  X 0  u t dt  nntt 24t  k  1 
(2)
X  X 0  0t u t dt  k 0 24t   k  12 
(2)
X  X 0  0 u t dt  k 0 24t  k  2 
0
2k を時間ステップ、 j を

計算は式(1)、(2)を差分化して行う。
k 0
計算は式(1)、(2)を差分化して行う。 k を時間ステップ、 j を
k を時間ステッ
計算は式(1)
、(2)を差分化して行う。
計算は式(1)、(2)を差分化して行う。
k を時間ステップ、
jを
漂流物につけた番号とすると、速度および漂流物の位置は次
漂流物につけた番号とすると、速度および漂流物の位置は次
j を漂流物につけた番号とすると、速度および漂流物
プ、
漂流物につけた番号とすると、速度および漂流物の位置は次
式のとおりである。
式のとおりである。
の位置は次式のとおりである。
式のとおりである。
k

1 
 du  k
(3)
u tkk,j11  1 1   u tkk,j11  2t  du  k  2 u kkj 
(3)
u kt ,j1  1 1  1   u kt ,j1  2t  ddtu  j  2 u kj 
(3)
u t , j  1   1   u t , j  2t  dt  j  2 u j 
1   
 dt  j

1

(4)
X kkj 11  X kkj  tu tkk, j  24t  jkk  1 
(4)
X kj 1  X kj  tu kt , j  24t   kj  12 
(4)
X  X  tu  24t   2 





図-5
図-5
図- 5
図-5
初期波形の分布
初期波形の分布
初期波形の分布
初期波形の分布
j
j
t, j

j
2
3
3
29 3
津波漂流物のシミュレーションと被害想定
津波漂流物のシミュレーションと被害想定
津波漂流物のシミュレーションと被害想定
ここで各係数は次式のとおりである。
ここで各係数は次式のとおりである。
ここで各係数は次式のとおりである。
A
CM
  tCD A ut  u ,  
,
C
  tCD V ut  u ,   t   MCM  1 ,
V
 t   CM  1
1

1
  2t   CM  1
2t   CM  1
漂
流
物 の抵 抗 係 数 、付 加 質 量 係 数 漂 流 物 の形 状 により
漂流物の抵抗係数、付加質量係数漂流物の形状により
漂 流 物 の抵 抗 係 数 、付 加 質 量 係 数 漂 流 物 の形 状 により
様々になり、一般的な数値で表現することは困難である。ここ
様々になり、一般的な数値で表現することは困難である。
様々になり、一般的な数値で表現することは困難である。ここ
2) を用いて次式とした。
2)
では、後藤らの実験成果
を用いて次式とした。
ここでは、後藤らの実験成果
では、後藤らの実験成果 2) を用いて次式とした。


2
C D  0.91  32.5 Re11 22 2  0.1F00..2525
C D  0.91  32.5 Re
 0.1F
(5)
(5)
C M  1.78
C M  1.78
(6)
(6)
ここに、 R e と F r はそれぞれレイノルズ数およびフルード数で
ここに、
r はそれぞれレイノルズ数およびフルー
ここに、 RRe eとと
F rFはそれぞれレイノルズ数およびフルード数で
ある。実際の計算を行うにあたっては、津波のシミュレーション
ド数である。
実際の計算を行うにあたっては、津波のシミュ
ある。実際の計算を行うにあたっては、津波のシミュレーション
と同時に行うのではなく、津波シミュレーション結果(津波高さ、
レーションと同時に行うのではなく、津波シミュレーショ
と同時に行うのではなく、津波シミュレーション結果(津波高さ、
流速のメッシュごとの値)を用いて、漂流物に作用する流速等
流速のメッシュごとの値)を用いて、漂流物に作用する流速等
ン結果(津波高さ、流速のメッシュごとの値)を用いて、
を該当するメッシュ内で空間・時間内挿入を行うものとした。
を該当するメッシュ内で空間・時間内挿入を行うものとした。
漂流物に作用する流速等を該当するメッシュ内で空間・時
2) 漂流物の条件
間内挿入を行うものとした。
2) 漂流物の条件
漂流物シミュレーションは、漂流物の種類、形状および初期
漂流物シミュレーションは、漂流物の種類、形状および初期
2)漂流物の条件
の位置等を条件設定することが必要である。しかしながら、数
の位置等を条件設定することが必要である。しかしながら、数
多くの種類の漂流物の位置や形状、重量等を明確に把握する
漂流物シミュレーションは、漂流物の種類、形状および
多くの種類の漂流物の位置や形状、重量等を明確に把握する
ことは困難であるため、本検討においては図-7に示すような
初期の位置等を条件設定することが必要である。しかしな
ことは困難であるため、本検討においては図-7に示すような
福良港周辺の空中写真を用いて漂流物として考えられる代表
がら、数多くの種類の漂流物の位置や形状、重量等を明確
福良港周辺の空中写真を用いて漂流物として考えられる代表
的なものを抽 出 した。漂 流 物 になる可 能 性 の高 いものとして
に把握することは困難であるため、本検討においては図-
的なものを抽 出 した。漂 流 物 になる可 能 性 の高 いものとして
は、海域で養殖筏と船舶、陸域では車両と建設機械が複数存
7は、海域で養殖筏と船舶、陸域では車両と建設機械が複数存
に示すような福良港周辺の空中写真を用いて漂流物とし
在することが確認できたため、これらを漂流物の対象とした。ま
て考えられる代表的なものを抽出した。漂流物になる可能
在することが確認できたため、これらを漂流物の対象とした。ま
た、それぞれの位置関係については、複数のシナリオが考えら
性の高いものとしては、海域で養殖筏と船舶、陸域では車
た、それぞれの位置関係については、複数のシナリオが考えら
れるが本検討では写真の位置関係を初期位置と仮定し、GIS
両と建設機械が複数存在することが確認できたため、これ
れるが本検討では写真の位置関係を初期位置と仮定し、GIS
上に位置関係のデータベースを作成した。この結果より、福良
らを漂流物の対象とした。また、それぞれの位置関係につ
上に位置関係のデータベースを作成した。この結果より、福良
港周辺における入力個数はそれぞれ、①養殖筏:301 枚、②
いては、複数のシナリオが考えられるが本検討では写真の
港周辺における入力個数はそれぞれ、①養殖筏:301 枚、②
船舶 621 艘、③車両:1,911 台、④建設機械:35 機となった。
位置関係を初期位置と仮定し、GIS
上に位置関係のデー
船舶 621 艘、③車両:1,911 台、④建設機械:35
機となった。
漂 流 物 は水 位 または流 速 の変 化 により漂 流 を開 始 ・停 止
タベースを作成した。この結果より、福良港周辺における
漂 流 物 は水 位 または流 速 の変 化 により漂 流 を開 始 ・停 止
する。この条件は表-3に示すとおりとした。養殖筏としては永
入力個数はそれぞれ、①養殖筏:301
枚、②船舶 621 艘、
する。この条件は表-3に示すとおりとした。養殖筏としては永
によるチリ地震津波の事例、船舶の条件は係留ロープ
野ら 8)
③車両:1,911
台、④建設機械:35 機となった。
野ら 8) によるチリ地震津波の事例、船舶の条件は係留ロープ
、車両
の条件 が考 慮 されている日 本 海 難 防 止 協 会 の提 案 9)
漂流物は水位または流速の変化により漂流を開始・停止
の条
件 が考 慮 されている日 本 海 難 防 止 協 会 の提 案 9) 、車両
および建 設機 械は、河 川 の洪 水 時 の事 例 で用 いられている
する。この条件は表-
および建 設機 械は、河3川に示すとおりとした。養殖筏とし
の洪 水 時 の事 例 で用 いられている
による提案を用いた。
須賀 10)
8)
10)
によるチリ地震津波の事例、船舶の条件は
ては永野ら
須賀 による提案を用いた。
表-3 漂流物の条件
係留ロープの条件が考慮されている日本海難防止協会の提
表-3 漂流物の条件
9)
条件
、車両および建設機械は、河川の洪水時の事例で用い
案漂流物
漂流物
条件
10)
漂流開始条件(案):流速
1m/s 以上
による提案を用いた。
られている須賀
養殖筏
漂流開始条件(案):流速
1m/s 以上
漂流停止条件(案):流速 0.5m/s
未満
養殖筏
漂流停止条件(案):流速 0.5m/s 未満
係留が弱い場合(老朽化や不完全な係留):流
係留が弱い場合(老朽化や不完全な係留):流
表-以上
3 漂流物の条件
速
2m/s
速
2m/s
以上
係留方法が改善した場合:流速
4m/s 以上
漂流物
条件
船舶
係留方法が改善した場合:流速
4m/s 以上
漂流開始条件:水深
1.5m
以上(小型船舶の
船舶
養殖筏
漂流開始条件(案)
:流速
1m/s
以上
漂流開始条件:水深
1.5m
以上(小型船舶の
場合)
漂流停止条件(案)
:流速 0.5m/s 未満
場合)
漂流停止条件:水深
1.5m 未満
係留が弱い場合(老朽化や不完全な係留)
:流速 2m/s 以上
船舶
漂流停止条件:水深 1.5m
未満
係留方法が改善した場合:流速
4m/s
以上
車両
漂流開始条件:水深 0.5m
以上
漂流開始条件:水深
1.5m 以上(小型船舶の場合)
車両
漂流開始条件:水深
0.5m 未満
以上
建設機械
漂流停止条件:水深
0.5m
1.5m 未満
建設機械 漂流停止条件:水深
漂流停止条件:水深
0.5m 未満
車両
4 建設機械
4
30
漂流開始条件:水深 0.5m 以上
漂流停止条件:水深 0.5m 未満
船舶
船舶
車両・建設機械
車両・建設機械
車両
車両
船舶
船舶
養殖筏
養殖筏
養殖筏
建設機械
養殖筏
建設機械
図- 7 福良港周辺の空中写真(全体および拡大)
図-7 福良港周辺の空中写真(全体および拡大)
図-7 福良港周辺の空中写真(全体および拡大)
3)計算結果
3) 計算結果
3) 計算結果
図-
8 に計算結果の一例として、養殖筏、船舶および車
図 -8に計
算 結 果 の一 例 として、養 殖 筏 、船 舶 および車
図 -8に計 算 結 果 の一 例 として、養 殖 筏 、船 舶 および車
両の漂流状況とそのときの津波の水位変化について示す。
両の漂流状況とそのときの津波の水位変化について示す。左
両の漂流状況とそのときの津波の水位変化について示す。左
左図は地震発生後
分後の結果、右図は第1 1波が来襲して、
波が来襲し
図は地震発生後 4040分後の結果、右図は第
図は地震発生後 40 分後の結果、右図は第 1 波が来襲して、
て、その後引き波となった地震発生
90 分後の結果である。
その後引き波となった地震発生 90 分後の結果である。
その後引き波となった地震発生 90 分後の結果である。
養殖筏の結果(図-
8(a))は押し波および引き波の繰
養殖筏の結果(図-8(a)は押し波および引き波の繰り返し
養殖筏の結果(図-8(a)は押し波および引き波の繰り返し
り返しにより、沖合に拡散しながら移動する状況となる。
により、沖合 に拡散しながら移動する状況 となる。とくに沖合
により、沖合 に拡散しながら移動する状況 となる。とくに沖合
とくに沖合の養殖筏は引き波での漂流が大きく、沖へ流失
の養殖筏は引き波での漂流が大きく、沖へ流失する。
の養殖筏は引き波での漂流が大きく、沖へ流失する。
する。
船舶の漂流(図-8(b)、(c))については、係留索を一切利
船舶の漂流(図-8(b)、(c))については、係留索を一切利
船舶の漂流(図- 8(b)、(c))については、係留索を一
用しない場合(浮いているだけの条件)、係留索がある場合の
用しない場合(浮いているだけの条件)、係留索がある場合の
切利用しない場合(浮いているだけの条件)
、係留索があ
条件について計算を行った。この結果では陸上に打ち上げら
条件について計算を行った。この結果では陸上に打ち上げら
る場合の条件について計算を行った。この結果では陸上に
れる様 子 が見てとれる。図-8(c)は係留索を考慮したケース
れる様 子 が見てとれる。図-8(c)は係留索を考慮したケース
打ち上げられる様子が見てとれる。図-
8(c)は係留索を
に関 する結果であるが、この場合はほとんどの船舶が漂流し
に関 する結果であるが、この場合はほとんどの船舶が漂流し
考慮したケースに関する結果であるが、この場合はほとん
ない結果となる。これは、船舶の係留された位置が比較的流
ない結果となる。これは、船舶の係留された位置が比較的流
どの船舶が漂流しない結果となる。これは、船舶の係留さ
速が遅い場所であることが理由として考えられる。
速が遅い場所であることが理由として考えられる。
れた位置が比較的流速が遅い場所であることが理由として
車両の漂流(図-8(d))は、陸上を遡上するケースおよび海
車両の漂流(図-8(d))は、陸上を遡上するケースおよび海
考えられる。
上へ流失するケースの両者が存在することがわかる。とくに湾
上へ流失するケースの両者が存在することがわかる。とくに湾
車両の漂流(図- 8(d))は、陸上を遡上するケースおよ
奥の浸水深の最大となるような場所に車両が大きく移動する
奥の浸水深の最大となるような場所に車両が大きく移動する
び海上へ流失するケースの両者が存在することがわかる。
ことがわかる。なお、陸上に車両が遡上するケースでは、本来
ことがわかる。なお、陸上に車両が遡上するケースでは、本来
とくに湾奥の浸水深の最大となるような場所に車両が大き
であれば建物の影響を受けて遡上を阻止するか、もしくは一
であれば建物の影響を受けて遡上を阻止するか、もしくは一
く移動することがわかる。
なお、陸上に車両が遡上するケー
旦遡上したものが静止することが考えられる。しかしながら、津
旦遡上したものが静止することが考えられる。しかしながら、津
スでは、本来であれば建物の影響を受けて遡上を阻止する
波の計算を行うにあたっては陸上の建物を粗度係数で代表さ
波の計算を行うにあたっては陸上の建物を粗度係数で代表さ
か、もしくは一旦遡上したものが静止することが考えられ
せて計算を行っているため、遡上した車両が海側に戻る現象
せて計算を行っているため、遡上した車両が海側に戻る現象
る。しかしながら、津波の計算を行うにあたっては陸上の
がより多 く見 られる可 能 性 がある。建 物 の影 響 を表 現 する方
がより多 く見 られる可 能 性 がある。建 物 の影 響 を表 現 する方
建物を粗度係数で代表させて計算を行っているため、遡上
法として、水深 0.5mを境界にして漂流開始・停止条件を考慮
法として、水深 0.5mを境界にして漂流開始・停止条件を考慮
した車両が海側に戻る現象がより多く見られる可能性があ
しているが、漂流停止条件については、今後の課題となる。な
しているが、漂流停止条件については、今後の課題となる。な
る。建物の影響を表現する方法として、水深
0.5m を境界
お、建設機械については対象となる総数が少ないため、結果
お、建設機械については対象となる総数が少ないため、結果
にして漂流開始・停止条件を考慮しているが、漂流停止条
の表示は割愛した。
の表示は割愛した。
件については、今後の課題となる。なお、建設機械につい
ては対象となる総数が少ないため、結果の表示は割愛した。
こうえいフォーラム第 19 号 / 2011.3
損失額(漁業損失を含む)と制作費について調査して、1
台あたりの価格を確認した。表- 5 に原単位(ただし、小
型船に対する比)の一覧を示す。
表- 4 漂流物の原単位設定対象
対象
原単位設定対象
○漁船および工船その他漁獲物の加工用または保存
用の船舶
※大きさにばらつきがあるため 5.0 トン型に変換し
た価格を採用
○客船、遊覧船その他これらに類する船舶(主とし
て人員の輸送用に設計したものに限る。)および
フェリーボート
○その他の貨物船および貨客船
○膨脹式いかだ
○乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン
およびレーシングカーを含み、主として人員の輸
送用に設計したものに限るもの)
○貨物自動車(ダンプカー)
○クレーン
○ブルドーザー、アングルドーザー
○ショベルローダー
小型船
大型船
養殖筏
乗用車
大型車
建設機械
表- 5 漂流物の原単位
漂流物
漂流物単価比
小型船
大型船
いかだ
乗用車
大型車
建設機械
1
24
0.9
0.1
0.4
0.6
(2)漂流物被害判定基準
漂流物による被害は、陸上・海域における浸水破損・接
触破損が考えられる。被害判定については表- 6 に示すと
おりとした。衝突については、陸上では構造物との衝突も
考慮した。衝突を受けた漂流物は買い換えることを考えて
金額を算定するものとした。なお、船舶は結果の危険側を
考え、係留条件を考慮しない場合を対象とした。
表- 6 漂流物の被害判定基準
図- 8 漂流物シミュレーション結果
漂流物
4. 漂流物による被害の算定
(1)漂流物単価の設定
漂流物の原単位は現地で単価を調査することが最も精度
が高いが、車両や船舶の各々の単価を細かく調査すること
小型船
大型船
養殖筏
乗用車
大型車
建設機械
被害判定基準
海域被害
他漂流物との接触
陸上構造物との接触
陸域被害
他漂流物との接触
基準浸水深以上の浸水
構造物との接触
は現実的でない。ここでは、代表的な原単位を設定して被
漂流物の判定基準を表- 7 ~表- 8 に示す。海域・陸域
害想定の基準として用いることとした。原単位の設定に関
ともに他漂流物および構造物と接触した場合は被害を受け
しては、表- 4 に示すものを対象として、財務省貿易統
るとした。海域にある船舶およびいかだが陸上へ遡上して
計 から 2007 年に輸出された品目の平均単価を設定した。
構造物に接触した場合、陸域にある車両や建設機械が浸水
ただし、養殖筏については、筏本体だけでなく漁業損失の
した場合も被害を受けるとした。家屋への漂流物について
影響が考えられるため、現地でアンケートを実施して原単
は、福良地区の家屋平均床面積(85.6m2)および平均家
位を設定した。アンケートでは、養殖筏が全壊した場合の
屋階数(1.7 階)から、1 階部分の平均床面積(50.4m2)
11)
31
津波漂流物のシミュレーションと被害想定
を算出し、家屋 1 辺あたり 7.0m として、家屋の中心点よ
および被害額については精度と妥当性を今後さらに検討す
り 3.5m 以下に接近した場合を衝突判定と設定した。ただ
る必要がある。
し、上記の方法では家屋に近接して駐車している車両もカ
今後は、漂流物シミュレーションのモデルの高度化(個々
ウントされてしまうため、津波発生直後から接近している
の漂流物モデルの高精度化等)や被害想定に関する原単位
漂流物はカウントせず、漂流物による被害のみをカウント
および判定基準等の規準化が課題として挙げられる。
した。また、家屋は福良地区による調査資料に基づき、木
表- 9 漂流物被害総数・被害額比
造・非木造に分けた。なお、被害の程度は津波浸水時の被
害の考え方にならい、木造の場合は半壊、非木造の場合は
漂流物
軽微な被害とした。なお、被害度合を示す被害率について
は治水経済調査マニュアル12)の数値を基準とした。また、
漂流物同士の衝突および浸水(車両および建設機械)の被
害基準は、表- 8 に示すとおり、それぞれの漂流物の大き
さの平均的値の半分の数値と基準として距離が基準以下と
小型船
大型船
いかだ
乗用車
大型車
建設機械
なった場合は、衝突被害を受けるものとした。
表- 7 漂流物の被害基準(漂流物と構造物の接触)
対象
被害基準
家屋 漂流物の衝突
被害度合
木造家屋
非木造家屋
半壊
軽微
被害率:0.382
被害率:0.205
総数
被害数
583
348
38
4
301
221
1,830
1,144
81
61
35
25
合計(小型船1隻比)
漂流物
単価(比)
被害総額
(比)
1
24
0.9
0.1
0.4
0.6
348
96
198.9
114.4
24.4
15
796.7
表- 10 漂流物被害額(家屋単価を 1 とした場合の比)
家屋
単価比
1
総数
被害数
木造
2,782 棟
非木造
1,697 棟
合計(家屋1棟比)
573 棟
348 棟
被害総額
(比)
219
71
290
表- 8 漂流物の被害基準(漂流物同士の接触・浸水)
漂流物
養殖筏
船舶
車両
建設機械
被害基準
筏の大きさの半分として中心から 5m 以下
小型船:専用漁船の平均全幅 2.5m 以下
大型船:福良港の大型船舶平均全幅 7m 以下
浸水被害:乗用車 0.3m、大型車、0.5m、建設機
械 0.5m 以上になった場合
衝突被害:車両中心から 1.7m 以下(車両・建設
機械とも)
参考文献
1) 例えば、岡本 修、小田勝也、熊谷兼太郎:港湾の背後地域
における間接被害を含めた津波被害波及過程及びその評価方
法、国土技術政策総合研究所資料、No.306、2006
2) 池野正明、田中寛好:陸上遡上津波と漂流物の衝突力に関す
る実験的研究、海岸工学論文集、第 50 巻、pp.721-725、2003
3) 後藤智明:津波による木材の流出に関する計算、第 30 回海
(3)被害想定算出結果
漂流物被害判定基準および原単位を基本として、被害
岸工学講演会論文集、pp.594-597、1983
4) 川 崎 浩 司、袴 田 充 哉:3 次 元 固 気 液 多 相 乱 流 数 値 モ デ ル
想定の算出を行った結果を表- 9 ~表- 10 に示す。漂流
DOLPHIN-3D の開発と波作用下での漂流物の動的解析、海
物被害額比は小型船舶 1 隻比の約 800 倍となった。また、
岸工学論文集、第 54 巻、pp.31-35、2007
津波により漂流物となりうるものは、ほぼ半数以上が損失
5) Mansinha, L. and Smylie, D. E. : The displacement fields
することが確認された。また、漂流物の影響により、家屋
of inclined faults, Bulletin of the Seismological Society of
は約 2 割が損壊する結果となった。
America, Vol.61, No.5, pp.1433-1440, 1971
6) 後藤智明、小川由信:Leap-Frog 法を用いた津波の数値計算
5. おわりに
本論文では、兵庫県の福良港を対象として、想定される
南海地震の津波を対象とした場合の漂流物による挙動を推
定する数値シミュレーションとシミュレーション結果を用
いた被害想定の算定について示した。漂流物の挙動を詳細
法 , 東北大学工学部土木工学科、52p, 1982
7) 牛島 省:OpenMP による並列プログラミングと数値計算法 ,
丸善 , 138p, 2006
8) 永野修美、今村文彦、首藤伸夫:数値計算による沿岸域でのチリ
津波の再現性、海岸工学論文集、第 36 巻、pp.183-187、1989
9) (社)日本海難防止協会:日本海北部海域における津波発生
に推定する数値シミュレーション技術は開発途上であり、
時の港湾在泊船舶の安全確保に関する調査研究、pp65-67、
その精度や妥当性については今後さらに検討を要するもの
1998
である。また、各々の被害を推定する方法については、数
10)須賀撓三:利根川の洪水、山海堂、1995
多くのシナリオ設定が考えられる。本検討では、このよう
11) 財務省貿易統計:
な状況の中で想定される最大津波が来襲した場合の考えら
れるシナリオ検討として得られた結果であり、現象の傾向
32
http://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm
12)国土交通省河川局:治水経済調査マニュアル、112p、2005