製紙原料木材の外材化に関する研究

論文要約
現在、日本は世界でアメリカに次ぐ第 2 位の紙生産国である。1970 年以来世界第 2 位
の地位を保っており、年々生産量は伸びてきた。紙生産量が伸びてきた背景には日本国内
での紙需要の増加がある。戦後、高度経済成長期を経る中でライフスタイルが変化し、紙
はそれまで以上に生活に欠かせないものとなった。近年では印刷・情報用紙の需要の伸びが
非常に大きくなっている。
紙生産が伸びる中で自国に豊富な資源を持たない日本の製紙産業はその原料の確保に奔
走してきた。原料にチップを使えるようになったり、古紙を使えるようになったりと、原
料確保だけでなく技術革新を進めることにも大きな努力を払い、原料不足を補ってきた。
現在の製紙原料の内訳を見ると、古紙が 56.1%、パルプが 43.7%、その他繊維原料が
0.2%となっていて、古紙の割合が最も大きくなっている。しかし古紙のリサイクルには限
度があり新しいパルプの供給が不可欠である。パルプの供給源には国産パルプと輸入パル
プがあるが、パルプのうち国産パルプが 8 割、輸入パルプが 2 割で国産パルプが主流とな
っている。
パルプの原料はそのほとんどが木材であり、古紙もパルプから作られた紙・板紙からなっ
ているので元をたどればやはり木材である。つまり製紙産業にとって木材は原料の基盤で
あり、木材がなければ製紙産業は成り立たないといえる。
その原料基盤となる製紙原料木材(パルプ材)の調達が 1985 年を境に外材化の一途を
たどり、1985 年当時 37.5%であったのが現在では 68.2%、7 割近くを外材に依存する構
造となっている。
パルプ材の外材化が進んだ原因は二つあげられる。一つは 1985 年のプラザ合意を契機
として円高が大きく進んだこと、もう一つは印刷・情報用紙の需要が近年大きく伸びたこと
である。印刷・情報用紙の原料には広葉樹のパルプ材が主として用いられるが、印刷・情報
用紙では技術・コストの面で問題があり、古紙利用が進んでいない。そのため、印刷・情報
用紙需要の増加が直接広葉樹パルプ材需要の増加に結びついた。また、国産の広葉樹パル
プ材は、丸太切削チップが主であるためコスト高にならざるを得ず、円高によって安くな
った輸入材に対する競争力を失うこととなった。そのため広葉樹チップの輸入比率は 1999
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年現在 83.6%にも達している。
針葉樹パルプ材は製材残材チップが主で円高によって輸入材の価格が安くなっても競争
力を失うことがなかった。加えて新聞用紙、包装用紙、板紙の生産が伸び悩み、かつ古紙
利用が進んだために外材化が進むことがなかった。
つまり、広葉樹パルプ材の需要が大きく高まる中で国産材よりも価格の安い輸入材が求
められたためにパルプ材全体として 7 割近くを外材へ依存する構造となったのである。
また、パルプ材の供給構造が大きく外材化するのに伴ってその輸入先も大きく変化・多角
化した。針葉樹パルプ材はアメリカの一極集中構造からアメリカ・オーストラリアの二極
構 造 へ と 変 化 し た 。 広 葉 樹 パ ル プ 材 は オ ー ス ト ラ リ ア の 一 極 集 中 構 造 か ら オ ー ス ト ラリ
ア・アメリカ・チリ・南アフリカの四大供給地の他にも中国・カナダ・ブラジル・タイな
ど数多くの国から輸入されるようになった。
輸入先の規定要因は三つあげられる。一つはパルプ材(木材チップ)の価格が安いこと、
二つは資源量が豊富にあること、三つは安定的に供給ができることである。それらの要因
を満たした国・地域からの輸入が大きく増加したのである。
輸入先の多角化は、1980 年に起こったチップショックを契機として大きく進んだ。アメ
リカから輸入していた針葉樹チップの価格が暴騰し、それがオーストラリアの広葉樹チッ
プや国産チップの価格にまで波及したチップショック以降、製紙産業において原料木材調
達に関してのリスクの分散が課題となったのである。どこかの国で何らかの事情によって
チップ供給ができなくなっても他の国からの輸入でそれをまかなうことができるような構
造作りが進められた結果、輸入先が多角化することになった。針葉樹・広葉樹別に見ると
輸入材需要の多い広葉樹でより多角化が進んでいる。
また、多角化の一手段として、1990 年代に入ってから原料調達を目的とした海外植林が
オーストラリア・ニュージーランド・チリなど南半球の各国で大規模に行なわれている。
現在はまだそこからのパルプ材供給量は少ないが、将来的には一大供給ソースとなること
が予想される。世界的に環境保護がさけばれ、世界の林業は「天然林採取林業」から「人
工林育成林業」へと移行しつつあり、また途上国において資源の高付加価値化輸出の動き
も高まっている中、製紙産業の原料調達に関してこの海外植林は今後重要性を増していく
であろう。
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原料木材調達が外材化し、輸入先も変化・多角化した根本的な原因は、日本の製紙産業
が自国に安定かつ安価な原料基盤を持たないことである。そのため、原料木材の確保が紙
生産における一番の課題であり、世界を奔走し原料供給地を開発することで海外依存を強
めてきた。国内で大きく伸びている紙需要に見合った原料を調達するために日本の製紙産
業が取った戦略が、
「 海外から安い材を大量、かつ安定的に調達する」ことだったのである。
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