GPS 携帯電話によるネット中継システムの開発と効果の検証 ‐神奈川県茅ヶ崎市の浜降祭を事例として‐ 大場章弘*・矢野隆昌・浜田晃・浜西大介・厳網林 The Development of an Internet Live Reporting System with GPS Mobile Phones for Local Event -A Case Study of Hamaori-sai Festival at Chigasaki City and Samukawa-MachiAkihiro OBA, Takamasa YANO, Akira HAMADA, Daisuke HAMANISHI and Wanglin YAN Abstract Hamaori-sai is a famous traditional festival in Chigasaki City and Samukawa-Machi, Kanagawa Prefecture. More than 30 Mikoshi gather together from various shrines of the cities for the traditional event held at the Southern Beach of Chigasaki City on the Sea Day, the third Monday of July every year. To deliver the process and the attractiveness, we developed an Internet live reporting system with GPS mobile phones and WebGIS technologies. The experiment in the event 2007 from July 15 to 16 has shown that the system was effective to broadcast the dynamic process of the festival with public involvement. Keywords:WebGIS,Google Maps,GPS ケータイ(GPS mobile phones),伝統文化 (traditional culture) 上が動員される程の規模である.3 つ目は,文化・歴史 1. はじめに 的価値である.この祭りの由緒について諸説があるが, 約 200 年の歴史があると言われており,市内各地に歴史 神奈川県茅ヶ崎市では毎年海の日に,浜降祭というお 的・文化的資産が多い.4 つ目は,コミュニティ密着であ 祭りが開かれる.具体的な内容としては茅ヶ崎市・寒川 る.多くの地域住民によって支えられており,年に一度 町にある各神社の氏子たちが,深夜から神輿を担ぎ,朝 の町全体を巻きこんだイベントとなっている.また,祭終 明けに茅ヶ崎サザンビーチに集まり,神事を行ってから 了後も各コミュニティで親睦が続いている. 一斉に海に入り,それで再び神社まで神輿を担ぎながら 戻っていくお祭りである. この浜降祭の魅力としては,大きく分けて次の 4 点が このような特徴を持つ浜降祭であるが,これまで祭の 告知等を含めるいくつかの情報発信が行われてきた.し かしながら,これらには不十分な点が 4 点ほど存在する. 挙げられる.1 つ目は,高い知名度である.全国お祭り 1)お祭りを通じて各地域の魅力を外部に発信できてい 100選として選ばれており,昭和53年には神奈川県無形 ない.地域を拠点とする産業は,お祭りの中で紹介され 民俗(民俗文化財)にも指定されている.2 つ目は規模の るチャンスは少ない.2)神輿が集まる経過,帰りの様子 大きさである.30∼40 基の神輿が寒川・茅ヶ崎の各地か が伝わっていない.神輿を担ぐ側としても,活動の経過 ら集まり,神輿の数や時間のスケールが大きい.また, や当日の様子をほとんど記録していない.3)浜降祭の 約10 万人の観光客が訪れ,更に担ぎ手だけで 1 万人以 スケールは定点カメラや海辺での取材だけでは捉え切 *〒252-8520 藤沢市遠藤 5322 慶應義塾大学環境情報学部4年 Email: [email protected] れない.祭の準備等の様子は記録されず,メディアは祭 り当日にしか注目していない.4)神輿の担ぎ手以外の 住民はお祭に関わる方法があまりない.担ぎたくても参 2. システムの概要 加する方法がわからないということや,地域によっては担 ぎ手が足りないといった問題点もある. 情報発信の不十分な点を克服するために、GPS を用 いた地域の伝統行事への応用はこれまでに幾つか行わ れてきた.たとえば, 2002 年に石川県金沢市で行われ た「百万石まつり」において,パレードの現在位置をリア ルタイム配信するサービスを KDDI とパイオニアが中心 となって行ったことがある.この実験は昼間の短い時間 の祭りを対象とし,追跡対象は1つである.また,2007 年 5 月に東京都浅草の「三社祭」において,お神輿の位置 を携帯電話で見ることができるサービスが実施されてい る.三社祭は朝から夕方まで 12 時間以上に及んだもの だが,3つの宮から神輿がそれぞれのルートで地域を練 り歩くことである.以上の2例と比べて,浜降祭は参加す る神輿の数が多数のこと,宮出しは早朝の暗い時から始 まること,それぞれの神社は宮出しの時間が違い,神事 がおこなわれる茅ケ崎サザンビーチに集まること,とい った特徴がある.これによって,ネット中継に必要な技術 と創出すべき効果を考えなければならない. また,既存のネット中継の試みはいずれの場合もお祭 2.1 システムの構成 システムの構成は,図 1 に示すとおりである.このシ ステムは大きく分けて 2 つの機能があり,携帯電話か らの位置データ送信システム,送信されたデータを 表示するプログラムである. まず,携帯電話からの位置データ送信システムに ついて述べる.これには 2 つの機能がある. 1 つ目 はユーザが写真やコメントなどの記事を自ら投稿す るシステムである.データを送信する際には携帯電 話に内蔵された GPS 受信機で位置情報を取得し, 緯度・経度がデータベースへ同時に送信される.2 つ目は自動位置追跡プログラムである.携帯電話か らある一定間隔で携帯電話の位置情報を,ユーザ の送信操作なしにデータベースへ送信する. 次に,表示プログラムである.上述で得たデータを,そ れぞれ写真投稿,位置追跡と表示する内容を分けて地 図上に表示する.祭の最中はリアルタイムで,祭終了後 は時間軸に沿って神輿の位置情報をスライド形式で再 生することができる. りの当日において位置情報を配信するという点では十分 な成功を収めている.しかし,それらの試みは当日だけ に限られているのが現状である.お祭りとは本来,一年 に一度しか開かれない行事であり,人々の関心も一過性 のものである.そういう一過性のものを如何に長くして, 地域内外への発信材料にするかは,お祭りの波及効果 を高めるための重要な課題となっている. 最近,Web 上では時間軸を新たな形で応用したサー ビスが人気を集めている.これらのサービスでは Web 上 において,製作者もしくはユーザの時間とは別に時間軸 を設定し時間が経過することを見せることによって,ユー ザにリアルタイム感を与えている.このような再生機能を 図 1 システムの構成 含めたリアルタイム配信を可能とする時間軸対応機能を GIS 分野に応用することはまだ行われていない. 本研究のねらいとしては,浜降祭において以上に 挙げた情報発信の不十分な点のうち,全体の様子 をできるだけ詳細に告知し,より多くの人が浜降祭に 関心を持ってもらい,地域内外により広く浜降祭の 魅力を伝えて,今後参加していただけるようにするこ とにある.そのために既存のアプローチを克服した 時間軸を利用したシステムを構築する必要がある. 2.2 対象地域 対象地域とは寒川町及び茅ヶ崎市の浜降祭に参 加する神社の範囲であり,寒川町は北西 N35.4007 ° E139.3720 ° か ら 南 東 N35.3527 ° E139.3954 ° に 位 置 し , 茅 ヶ 崎 市 は 北 西 N 35.3513 ° , E139.3702 ° か ら 南 東 N35.3195 ° E139.4386°に位置する.表示システムでは同地域 をマップのデフォルト表示エリアにしている. 3. システムの開発 に把握することが目的となっている. 3.1 携帯投稿システム 4. 実験と結果 4.1 データプロット 今回のシステムを 2007 年7 月16 日に行われた浜降祭で 導入した結果,以下の図2のような結果が得られた.これら は7月16日0:00∼7:00amまでの間,すなわち浜降祭で各 神社から神輿が担がれ始めてから,神事を行うために海岸 に集合するまでのデータをプロットした結果の一部である. 全神社における写真投稿されたデータ数は 273,トラッキン グデータ数は 285 であった.神社によりデータ数はばらつ きがあるが,殆どの神社における出発から海岸到着までの データが取得できた.各神社からのデータ取得数は,以下 の表1 に示す通りである. 写真を投稿するユーザは,携帯からこちらの指定した URLにアクセスし,投稿フォームの流れに沿って入力を 済ませ,データを送信する.その際の入力内容は,こち らの用意したフォームで大きく決められており,「名前」 「カテゴリー」「メッセージ」「投稿写真」となっている.ユ ーザが入力する内容はこの 4 つだけであるが,同時に データを送信した位置の緯度・経度,投稿時間,写真添 付があるかないか,といった内容のデータが同時にサ ーバへ送信される. 投稿システムは PHP で構築した.システムでは以 下の手順で処理が行われる。①キャリアごとに GPS 取得方法を変更する。②経度、緯度、タイトル、コメ ント、カテゴリーをデータベースへ保存する。③メー ルに添付されてきた写真をフォルダ上に圧縮し、移 動させる。なお,構築段階では、au、docomo(FOMA), Softbank(3G)のキャリアで動作を確認した。 3.2 追跡プログラム 追跡プログラムの機能としては,神輿が移動した経路 を閲覧することができる。携帯電話から定期的にデータ ベース側に神輿の位置情報を送信し、次節で述べる表 図2 トラッキングデータのプロット図 表 1 携帯電話からのデータ受信数 写真投稿数 トラッキングデータ数 下寺尾 諏訪神社 23 38 高田 熊野神社 18 2 再現された神輿の動きを見ることができるように,時間 今宿 松尾神社 17 25 軸となるスライダー機能を作成し、その機能を実現した. 十間坂 第六天神社 9 70 中海岸 八大龍王神 23 8 鳥井戸 御霊神社 20 35 菱沼 八王子神社 29 4 動き出すとデータ送信量も増えるため,祭が進行する 本村 八坂神社 102 101 に連れデータ量は多くなるという機能になっている. 柳島 八幡宮 28 2 3.3 表示プログラム 4.2 アクセス数 表2,3に浜降祭当日のアクセス数を集計した。この集 計には NINJA TOOL(http://www.shinobi.jp/)を用いた。 システムの公開は 7 月 15 日 15 時であったが,お祭りの 常設サイトは1週間前に公開した.7 月 15 日 14 時からの 訪問者数は単純な訪問者数を示し,ページビュー数は 更新を含め,ページを表示した回数である. 示プログラムで表示する。これは従来のネット中継実験 と本質的に変わらないが,祭が終了した後もユーザが スライダーを再生すると,時系列に沿って神輿の位置情 報をポイント及びラインデータとして表示する.神輿が 表示プログラムの機能は,3.1及び3.2で取得した神輿 の位置データをそれぞれ神社別に地図上に表示するも のである.表示する際に用いた地図は Google Map を用 いた. 3.1 で得た表示プログラムは、祭や神輿周辺の様 子をケータイ写真で伝えるのが目的である.これに対し て 3.2 で得た表示プログラムは、神輿の現在位置を簡単 神社名 表 2 7 月 15 日のアクセス数集計結果 時間 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 合計 訪問者数 26 148 145 95 73 64 83 111 94 55 1029 ページビュー数 29 221 305 396 289 260 338 433 418 324 3342 表 3 7月16日浜降祭当日の集計結果 ージビュー数は 10000 を越えていることがわかる.このこ 時間 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 合計 訪問者数 100 103 68 76 91 228 195 225 168 120 62 1772 ページビュー数 391 459 332 368 466 834 817 855 685 561 334 7717 とが読み取れる。この原因として、祭が深夜であったた 5. 考察 5.1 パフォーマンスについて 当日のシステム全体としては,リアルタイムでデータを 取得できた点,システムが動かずにアクセス数が途中で 急激に下がってしまうようなことがなかった点から考察す ると,問題なく良好な動作であったと言える. しかしながら,表 1 を見ると神社ごとにデータ数のバラ つきが生じた点,データ数と図 2 のプロット図で表示した データ数が一致しない点は,システムパフォーマンスの 問題として挙げられる.これらのエラーに関する詳細な 考察を以下に述べる. 1 つ目の神社ごとのデータ数のバラツキであるが,写 真データ投稿数とトラッキングデータ数がどちらも同じ位 という神社と,そうでない神社の 2 通りにわかれるのがわ かる.これは,2 種類のデータを得るのに 2 種類の携帯 電話を使用したため,GPS取得がうまくいかなかった携 帯電話が 2 種類のうちいずれかに生じてしまったためで あると考えられる. 2 つ目のデータ数の不一致であるが,位置情報が不正 確なデータがいくつかあることがわかった.これは,某携 帯電話会社のGPS非対応機種であることがわかった.精 度の高いGPS機能が備わっていない機種では,この様 なデータが送信されると考えられる. これらについては,事前に各機種携帯電話を用いてテ ストすることで,エラーを回避することができたと思われ る.機種を指定することで,パフォーマンスは向上するこ とができると考えられる. とから,多くのユーザに浜降祭の様子をリアルタイムで 見てもらえていることが定量的に示された.同時に,16 日 5∼7 時は他の時間と比較すると、アクセス数が高いこ め朝起きた後にサイトを見た人が多い,または,神輿は 時間と距離から最初から最後まで担げないため,祭の初 めに神輿を担いだ人が帰宅後閲覧したため,という 2 点 が予測される。上述から参加できなかった人もサイトを通 じて、浜降祭に参加できたと言える. 6.結論 本研究で開発した中継システムはリアルタイムでデー タを取得できた点,アクセス数といった定量的なデータ 集計結果から考察すると,大きな問題もなく良好に動作 した点が評価できる.また,浜降祭に関する既存の不十 分な情報発信について,このシステムを通じて多くの住 民が浜降祭にサイトに参加できて情報を得られたと考え られる.同時に,これまで記録されなかった浜降祭全体 や神輿といったデータが数多く取得することができたと 言える.データ取得エラーに関するパフォーマンス面で は,不具合が 2 点生じたが,これらは事前テストでユー ザに携帯電話機種を指定することで,改善できることが 考えられる. 謝辞 本研究は平成 19 年度慶應義塾学事振興資金の助成 を受けて行った.お祭りのネット中継にあたって事前準 備から当日の実施まで,NPO法人湘南スタイル藁品孝 久理事長,日本スーパーマップ株式会社小林幸一郎氏 から多大な協力をいただいた.また,茅ケ崎市と寒川町 の各神社から大変なご協力をいただいた.この場を借り て感謝の意を表す次第である. 5.2 アクセスについて 4.2の表 2、3 から,祭の全当日である2日間の合計ペ
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