22.貧血 2015/7投稿

寺さんのもっと健康セミナー22
貧血
貧血
1.はじめに
人は 60 兆個の細胞からできていることは、ご存じと思います。
何とこのうちの 1/3 の 20 兆個は赤血球なのです。 赤血球も立派な細胞です。
赤血球の寿命は約 120 日なので、これから計算すると毎日 20 兆÷120 = 1700 億
個もの赤血球が作られていることになります。 これは大変な量ですね。 人体は本人が気づいてなく
ても、せっせと膨大な数の細胞を作り替えているのです。 赤血球の作り替えには、今まで使っていた
材料の再利用もありますが、食事から補給しなくてはならない材料もあります。 だから食事として材
料を供給することはとても大切になります。
さて赤血球はヘモグロビンという鉄と結合したタン白質からできています。
ヘモグロビンは肺で吸収された酸素を体内の臓器まで運搬し、また臓器から出た
二酸化炭素を肺まで送り届けます。
物流の中心がヘモグロビンなのです。
赤血球やヘモグロビンが減るのを貧血と呼びますが、全身の臓器が酸素不足と
なり、各種の障害が発生します。 急激に進行した貧血は症状が強いですが、緩
やかに進行した貧血は体が貧血に順応してしまうため症状に乏しく、気づかずに過ごしていることもあ
ります。
鉄不足によってヘモグロビンが減った状態を鉄欠乏性貧血と言いますが、貧血の 60~70%を占めて
います。 鉄欠乏性貧血は栄養欠損性貧血と言ってもよく、タン白質、ビタミン類も同時に欠乏してい
ます。
タン白質欠乏で最も早く現れるのが、血中ヘモグロビン(Hb) の低下です。
1
寺さんのもっと健康セミナー22
貧血
2.貧血の原因
血液にある赤血球や白血球、血小板などはすべて骨髄でつくられる造血幹細胞から何度も脱皮(分化)
を繰り返して出来上がります。 この造血幹細胞は血球になるだけでなく、自己複製能力があって造血
を推し進めています。
貧血の原因は骨髄における赤血球産生量の減少や、赤血球が消失する量が増えることで、その全体を
まとめると下記のようになります。
(1)赤血球産生量の減少
①
造血幹細胞の異常
骨髄の造血幹細胞はそれ自身が増殖
していきますが、栄養不足などにより
この幹細胞の分化増殖が妨げられると
赤血球減少症になります。
その時使われる栄養には、タン白質
以外にグルコサミンやコンドロイチン
硫酸、ビタミン A、ビタミン E などが
あります。
また腎臓機能が低下するとエリスロポ
エチン(EPO)という腎臓からの分泌物
が減り、貧血となります。
②
赤芽球の異常
赤血球は造血幹細胞から何段階も分化して完成しますが、途中の段階では赤芽球というもの
になります。 赤芽球細胞の中で DNA が合成され、
やがてヘモグロビンを合成し始めます。
この時ビタミン B12 や葉酸が不足すると DNA 合成に障害が起こり大球性貧血になります。
またヘモグロビン合成時に肝臓に貯蔵されている貯蔵鉄がなかったり、鉄の受け渡しに障害
があったりするとヘモグロビンが合成できなくなります。
③
造血材料の欠乏
血球が分裂し分化するには、タン白質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルといった多くの
造血素材が必要となります。
ビタミンとは ビタミン A、ビタミン B 群(B1、B2、B6、ナイアシン、パントテン酸、B12、
葉酸)であり、ミネラルとは鉄、亜鉛、銅です。
これらは本来食事から全部摂取されるものですが、摂取量が少ないと不足となります。
特に多く発生するのが鉄不足による鉄欠乏性貧血で、貧血の 60~70%を占めています。
2
寺さんのもっと健康セミナー22
貧血
(2)赤血球消失量の増大
①
赤血球の血管外への喪失(出血)
急性の大出血後には貧血になります。 少量の出血が続く場合は骨髄が余力を発揮して、失
われた赤血球を作り出しますが、出血が長期にわたって持続したり、反復する場合は貧血と
なります。 これは貯蔵鉄が枯渇する鉄欠乏性貧血ですが、タン白質が不足しているとヘモ
グロビンが顕著に少なくなります。
②
溶血性貧血
血管中の赤血球の寿命は 120 日ですが、この寿命が短くなる(溶血)ことです。
赤血球自体に問題がある場合と、赤血球の環境に異常がある場合に崩壊が進みます。
赤血球自体の問題には
赤血球膜異常や赤血球酵素欠乏などがあります。
赤血球の環境異常には
抗赤血球抗体や血管障害、活性酸素による膜障害などがあります。
さらに溶血性貧血の診断に至っていない、軽度の赤血球寿命の短縮もあります。
いずれにしても、実際に赤血球の崩壊が亢進しているかどうかを見極める必要があります。
(3)二次性貧血
慢性感染症、膠原病、悪性腫瘍、肝疾患、腎疾患、内分泌疾患、アルコール常飲など重篤な
基礎疾患による貧血を指します。 貧血の程度は比較的軽いことが多いですが、貧血を疾患の
シグナルと考えて、どこに原因があるかを調べる必要があります。
3.貧血の症状
貧血の症状には右図のように、様々なものがあり
ます。 自覚の多いものはめまい、立ちくらみと言
った「中枢神経系」や皮膚蒼白とか冷え性といった
「抹消の血液減少」がありますが、
「心臓循環器系」
や「消化器症状」
、
「コラーゲン生合成の低下」など
もあります。
酸素は体全体の細胞に運ばれているので、それが
減少すれば、全身が酸素不足になってしまいます。
もちろん細胞が作る、コラーゲンなどの結合組織も
減少します。
3
寺さんのもっと健康セミナー22
貧血
貧血かどうかを調べるチェックリストを示します。
□
めまい、立ちくらみがある
□
爪が割れる、もろい
□
頭痛、耳鳴りがする
□
風邪をひきやすい、風邪が長引く
□
疲労感がある、何となくだるい
□
下痢をしやすい
□
むくみやすい
□
イライラしやすい
□
軽い動作で動機や息切れがする
□
注意力が低下している
□
寒がり、冷え性である
□
喉に違和感がある、カプセルが飲みにくい
□
朝起きられない
□
口内炎ができやすい、口の中が荒れやすい
□
食欲がない
□
歯茎から出血しやすい
□
顔色が悪い
□
知らないうちにあざが出来ている
□
毛穴が開いている、肌のきめが粗い
□
好き嫌いが多い、菜食主義である
□
化粧ののりが悪い
□
痩せている(BMI が 18 以下)
□
抜け毛、キレ気が多い、艶がなく、バサついている
□
ダイエット中、ダイエット歴がある
生理について
□ 多い日が 3 日以上ある
□
1 日に何度も生理用品を交換しなければならない
□ 生理周期が 25 日未満である
□
血の塊がでる
チェックリストの項目が当てはまるようなら、貧血の可能性があります。
4.貧血の検査
チェックリストは自覚症状を調べているだけで、正確には血液検査で判断します。 赤血球に関する
項目だけ取り上げると下の表のようなものがあります。
検査項目
参考値
単位
保険適用
赤血球数(RBC)
400~500
x104/μL
○
ヘモグロビン(Hb)
13.0 以上
g/dL
○
ヘマトクリット(Ht)
45 前後
%
○
平均赤血球容積(MCV)
95 前後
fL
○
平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)
30 前後
Pg
○
平均赤血球ヘモグロビン濃度 (MCHC)
32 前後
%
○
網状赤血球(RET)
10 前後
%
×
血清鉄(Fe)
100 前後
μg/dL
×
血清フェリチン
100 前後
ng/mL
×
○:保険がきく
4
×:保険がきかない
寺さんのもっと健康セミナー22
貧血
検査項目の説明
検査項目
説明
赤血球数
自明
ヘモグロビン
100ml 中のヘモグロビン濃度(=重量)で血色素量ともい
う。
ヘマトクリット
ひどい貧血は見つけられる
血液中に占める血球の体積の割合で、ほぼ赤血球の体積比
と同じ
平均赤血球容積(MCV)
ヘマトクリット/赤血球数
平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)
血色素量/赤血球数
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC) 血色素量/ヘマトクリット
網状赤血球(RET)
骨髄で生まれたばかりの若い赤血球
血清鉄(Fe)
血清中の鉄分
血清フェリチン
肝臓で貯蔵鉄と結合しているタン白質が、血液中に溶け出
したもの
貧血を見つける検査
健康診断では赤血球数やヘモグロビン、ヘマトクリットを調べますが、場合によっては MCV や MCH、
MCHC を調べるときもあります。
検査項目数は検査機関によって変わります。
RET や血清鉄、フェリチンは保険のきかない検査項目です。
一般的にはヘモグロビンの値が低い場合を貧血としますが、軽い貧血(潜在性鉄欠乏貧血)は検出で
きません。
従ってかなりの人が体に異常を感じるのに、貧血が原因とされていません。
貧血を高感度で検出するのは「血清フェリチン」ですが、残念ながら保険がききません。 自費で 3,000
円ほどかかります。 フェリチンはとても感度のいい検査方法なのですが、これを保険に入れると健保
財政の赤字がさらに増えるため、保険の対象になっていないようです。 血清フェリチンというのは血
液中に溶けている貯蔵鉄量のことで、これが低い場合は鉄欠乏性貧血です。
赤血球の消失量が増えたことによって起こる貧血か内臓疾患などによる二次性貧血かは、詳細な血液
検査で分かります。 しかし保険でまかなわれる検査項目だけではわからず、残念ながら自由診療の検
査に頼ることになります。 それとも症状がひどくなって保険の検査で引っかかるのを待つしかありま
せん。
5
寺さんのもっと健康セミナー22
貧血
これからは鉄欠乏による貧血を中心に説明を続けます。
5.鉄の収支
体内の鉄は右図のように 3~4g あります。 そのうち血
中のヘモグロビンに入っているのが 2~2.5g(全体の2/
3)で、それ以外の体組織(骨髄など全身)に 10%ほどあ
りますが、さらに肝臓に貯蔵鉄(フェリチン)として 1g(20
~30%)あります。
貯蔵鉄はへそくりのようなもので、ヘモグロビンが減って
きた場合に使われます。
貯蔵鉄は水溶性のため、血液に溶け出します。
溶け出
した貯蔵鉄をフェリチンと呼び、100ng/mL を切ると貧血
と判断します。
このフェリチンが 20ng/mL 程度だと、
何らかの異常が出ているはずです。
血清フェリチン 1ng/mL は貯蔵鉄の 8mg に相当します。
体内の鉄量 3g のうち、貯蔵鉄は 1g(1000mg)とすると
1,000mg ÷ 8mg = 125 となり、フェリチンは 125ng/mL
となります。 仮にフェリチンが 20 程度だと、右図の右側
のように貯蔵鉄がカラッポに近い状態といえます。
右のグラフは年齢別フェリチン値を示します。
人は胎児のとき母親から鉄を受け取り、貯蔵鉄を多
く持って生まれてきます。 赤ちゃんは生後4か月
で体重が倍になります。 そのためには鉄を使って
新しい血液を造らなくてはなりません。 母乳には
鉄がほとんど含まれてないため、胎児の時に蓄えた
貯蔵鉄を使って大きくなるのです。 新生児のフェ
リチンが高いのはこんな理由があるのです。 やが
て離乳食から始まる食事から鉄を摂るようになり
ますが、成長に必要な血液を作るため、鉄を大量に
消費し、フェリチンは低く留まっています。
女性は 12 歳ころから生理が始まるため、月に 30mg ほど失います。 この結果女性のフェリチンは男
6
寺さんのもっと健康セミナー22
性に比べて低くなります。
貧血
妊娠すれば胎児に鉄が奪われるため、さらに鉄は少なくなります。
閉経とともにフェリチン値は上がってきますが、男性に比べると低くなっています。
食事から吸収される鉄量は1日当たり 1mg に対し、便や尿、汗などにより出ていく量も 1mg で、平
衡状態を保っています。 ただ生理のある女性は毎月 30mg ほど鉄を失うため、平均すると毎日 2mg
の鉄を失うということになり、いつも貧血状態におかれているわけです。 したがって原則的には鉄欠
乏性貧血というのは、生理のある時期の女性の病気とも言えます。
栄養価の高い食事だと1日当たり 10mg~15mg ぐらいの
鉄を摂取することができます。
しかし実際体内に吸収さ
れるのは 1mg で、残りは便として排泄されます。 つまり
10%程度しか吸収されないといったように、鉄はとても吸
収が悪いものなのです。
鉄欠乏の段階
第1期:前潜在性鉄欠乏性貧血
肝臓、脾臓、骨髄などの鉄貯蔵組織から貯蔵鉄が減る。
血清フェリチンは 100ng/ml 以下になる。
第2期:潜在性鉄欠乏性貧血
貯蔵鉄が枯渇した後に起こる。 フェリチンは 0 に近い値を示す。
鉄欠乏のためヘモグロビン合成が障害されるが、この時期のヘモグロビン濃度は正常範囲内
にとどまることが多い。 保険で行われる血液検査ではわからない。
第3期:鉄欠乏性貧血
ヘモグロビン合成が障害される。
ヘモグロビン、ヘマトクリット、MCV、MCH、MCHC など保険で調べる検査項目で貧血と
わかる。
さらに進行すると酵素鉄が減り、生命の危機に至る。
7
寺さんのもっと健康セミナー22
貧血
6.鉄欠乏性貧血の原因
鉄欠乏性貧血の原因は5つに分類できます。
(1) 鉄の摂取不足
① 植物の栽培に有機肥料が使われなくなったため、市販の野菜に鉄がほとんど含まれなくなっ
たこと
② 偏食やダイエットによる摂取量の低下
③ 加工精製食品、牛乳および乳製品、果物、砂糖、油脂などは、以前と比べて摂取量が増加し
ていますが、ほとんど鉄を含んでいません。
④ 牛乳に鉄を入れている製品がありますが、カルシウムやリンの含有量が多く、それらと鉄が
複合体を作るため、腸からの吸収は阻害され、体内に入りません。
(2) 吸収障害
① 胃全摘はもとより、部分切除後の患者でも鉄の吸収障害が起こります。
貧血は術後 10 年
間に徐々に起こってきます。
② へリコバクター・ピロリ菌の感染による委縮胃や、制酸剤による胃酸分泌の低下でも鉄吸
収が妨げられます。
③ 自律神経失調時にも吸収不良が起こります。
(3) 需要の増大
① 生後3カ月から4歳までは、成長のため需要が摂取量を上回ります。
② 12~20 歳頃も急激に体が成長するため、血液量の増大のため鉄の需要が増えます。
生理の始まる女子はさらに鉄を失います。
③ 妊娠期は胎児に鉄を取られるため、需要が増大します。
(4) 出血や溶血による喪失
① 子宮筋腫や子宮内膜症があると月経血が多くなります。
② 鼻血、外傷性出血、血尿、献血、関節炎など慢性炎症性疾患、頻回の血液検査
③ 消化官の潰瘍、ポリープ、腫瘍などによる出血、憩室症、痔核、裂孔ヘルニア、寄生虫、
アスピリンなどの薬物の内服、アルコールによる腸粘膜への刺激
④ 活性酸素による細胞膜障害や悪性リンパ腫、全身性エリテマトーデス、甲状腺疾患などに
より、赤血球の寿命が短くなる
⑤ 激しいスポーツ選手、アルコール常用者は活性酸素障害によって、赤血球膜が障害を受けや
すい。 またタン白質不足の状態でスポーツをすると、タン白質が糖に変換されるが、その
タン白質は赤血球膜や組織タン白を壊すことによって補われる。
8
寺さんのもっと健康セミナー22
貧血
(5)慢性疾患
① 慢性関節リウマチなどの慢性炎症では鉄の再利用が行われにくいため、貧血が多発する。
悪性腫瘍や肝膿瘍、肺結核などの慢性感染症も貧血になりやすい。
貧血は体の異常を示すサインかも知れません。 (1)のケースなら、鉄の摂取量を増やすだけでい
いのですが、
(4)や(5)に該当すると重大な疾病が隠れていることになります。
通常医者に行く
のは自覚が出てからですが、詳細な血液検査をするだけで、
(1)か(4)、
(5)かの切り分けができま
す。
未病の内に対策をとれば、重大な疾病を未然に防ぐことになります。
7.高齢者の貧血
高齢者の貧血だけ別に取り上げて説明します。 注意が必要なポイントは4つあります。
①
加齢にともなう生理的な赤血球量の減少があること、
②
他疾患にともなう二次性貧血が多く、重大な疾患が潜んでいる可能性が高いこと、
③
症状が一般成人と異なることがあり、他疾患と誤診されることが多く、活動が低下している
こともあって貧血症状を自覚しないことが多いこと、
④
治療に対する反応も一般成人より遅くなることが多いこと、
です。
加齢とともに赤血球数、Hb 値、Ht 値が減少し、MCV は増加の傾向を示します。
また高齢者には栄養欠損のケースが少なくなく、脱水などによる循環血漿量の減少に留意して、血液検
査結果を補正しなければなりません。
さらに薬剤による造血障害も考慮しなくてはなりません。
高齢者の食事には 1 日に必要な鉄量は十分含まれています。 ヘム鉄(肉にある有機鉄)が存在する
と非ヘム鉄(植物にある無機鉄)の吸収も促進されますが、高齢者は若い人に比べて植物性食品を好む
ことが多く、吸収されにくい鉄を摂取しているといえます。 しかも非ヘム鉄の吸収には胃粘膜からの
胃酸の分泌が必要です。 高齢者はこの胃酸分泌能力が低下しているため、鉄の吸収能が抑制されてい
ます。
このため一度鉄欠乏状態になると、たとえ軽度であれ、食事のみで改善することは困難です。
8.鉄欠乏性貧血の改善策
鉄には動物性食材に含まれる有機鉄(ヘム鉄)と植物性食材に含まれる無機鉄(非ヘム鉄)があり、
9
寺さんのもっと健康セミナー22
貧血
小腸での吸収率はヘム鉄が 15~25%に対し、非ヘム鉄は 2~5%となっています。
ほうれん草やプル
ーンなどの植物に含まれている鉄は、繊維と結合しやすいため、ほとんど吸収されません。 だからプ
ルーンで貧血が治るというのは間違っています。
鉄は動物性食材からとるのが効率的です。 貧血改善のため医院で無機鉄の静脈注射を受けると、活
性酸素により肝障害や膵障害など(ヘモクロマトーシス)が引き起こされるので、お勧めしません。
下に鉄を含む代表的食品を示します。
ヘム鉄
食品名
非ヘム鉄
1食量
1食中の
(g)
鉄量 (mg)
食品名
1食量
1食中の
(g)
鉄量 (mg)
豚レバー
50g
6.5mg
ほうれん草
70g
2.6mg
鶏レバー
50g
4.5mg
小松菜
70g
2.1mg
レバーソーセージ
50g
1.6mg
ヒジキ(乾燥)
5g
2.8mg
牛赤身肉
100g
2.7mg
大豆(乾燥)
20g
1.9mg
豚赤身肉
100g
1.1mg
糸ひき納豆
50g
1.7mg
コンビーフ缶詰
100g
3.5mg
がんもどき
90g
3.2mg
鶏手羽元
100g
1.2mg
厚揚げ
50g
2.1mg
カツオ
80g
1.5mg
卵
50g
1.4mg
マグロ
80g
0.6mg
木綿豆腐
80g
0.7mg
カラフトシシャモ
50g
0.7mg
プルーン(乾燥)
30g
0.3mg
上に書かれた鉄の量はあくまでも食品に含まれるもので、小腸で吸収される量はこれに吸収率を掛け
なければなりません。
骨髄で赤血球を作るには、鉄以外にさまざまな材料が必要です。 鉄を包み込むヘモグロビンという
タン白質はもっとも重要な栄養素で、これが少ないと血液はできません。 またタン白質から作られる
トランスフェリン(下注)という物質が、小腸で吸収された鉄を運ぶトラックとしての役目をしているた
め、まずもってタン白質を摂らなくてはなりません。
タン白質の摂取量は体重 1kg あたり 1g です。 豚肉 100g から摂れるタン白質を計算してみましょ
う。
100g 中に水分が 60g、脂肪が 20g で残りの 20g がタン白質です。
これを生で食べることはなくて
調理に熱を使いますから、タン白質が壊れます。 70%が壊れなかったとすると、口に入るのは 20g ×
0.7 = 14g となります。 消化器官で消化され最終的にアミノ酸まで分解されて吸収されるのですが、
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(注)トランスフェリン(Tr)
:1分子 2 個の鉄と結合できるタン白質で、主に肝臓で合成され、血漿中に分
泌されて各組織間で鉄の運搬をおこなう。
体内の鉄の 0.2%ほどがトランスフェリンである。
10
寺さんのもっと健康セミナー22
貧血
分解と吸収の効率は 100%ではありません。 この効率を 70%(効率は人によります)とすると、
結局 14g × 0.7 = 10g が摂取されるタン白質の量ということになります。
体重 50kg の人が1日に必要とするタン白質は、豚肉だけなら 500g になります。
タン白質は肉だけでなく、卵や乳製品、穀物、大豆製品、野菜などにも含まれていますから、毎日肉を
500g も食べる必要はありませんが、それでもかなりの量で、私たちはタン白質不足のなかで生きてい
ると言えます。
前の章で上げた栄養素を多く含む食品を下にまとめます。 ただし食品は代表的なものなので、他の
食材はここに書かれた分類から推定して選んでください。
症状
改善策
目的
食品
鉄欠乏性貧血、 鉄
基本材料
レバー、赤身肉、鶏肉、赤身魚
高齢者の貧血
タン白質
基本材料
卵、肉、魚介類、乳製品、大豆製品
ビタミン A
基本材料
レバー、卵、チーズ
ビタミン B 群
基本材料
豚肉、緑黄色野菜、大豆製品、魚介類、乳製品
ビタミン C
鉄の吸収促進
青菜類、柑橘類、芋、トマト
造血障害の抑制
ビタミン E
溶血抑制、抗酸化
大豆、卵、青身魚、緑黄色野菜
亜鉛
タン白質合成
魚介類、牛乳、豆類、海藻
銅
血球の成熟
赤血球減少症
ビタミン A
血球の正常分化
レバー、卵、チーズ
大球性貧血
ビタミン B12
血球の核酸合成
貝類、レバー、魚、乳製品
葉酸
巨赤芽球性貧血
ほうれん草、大豆、レバー
ビタミン A
血球の正常分化
レバー、卵、チーズ
ビタミン C
葉酸の利用率向上
緑黄色野菜、柑橘類、芋
9.あとがき
貧血の全体像をまとめました。 なるべく平易な言葉を選んで書いたつもりですが、なかには普段耳
にしない専門用語があってとっつきにくい感じになったかも知れません。 頭の体操と思って我慢して
読んでいただければ結構です。
11