BitTorrent ネットワークにおける DRM を用いた著作権保護 166033 大金

平成 21 年度卒業研究発表会(日本大学工学部情報工学科)
F―8
BitTorrent ネットワークにおける DRM を用いた著作権保護
Copyright Protection using DRM in BitTorrent Network
166033
大金
秀明
[竹中研究室]
1 はじめに
3 DRM
近年, P2P を用いたファイル共有ソフトウェアを悪用
した著作権侵害が社会的な問題となっている.
本稿では,まず,代表的な P2P ファイル共有ソフトウ
ェアである BitTorrent と,デジタル著作権管理技術であ
る DRM(Digital Rights Management)について紹介す
る.その後,DRM を BitTorrent ネットワークに適用す
る提案と,擬似的な実装を行う.
DRM(Digital Rights Management)とは,デジタル
データで作成されたコンテンツに対して,複製や利用を
制限することで,著作権を保護する技術である.
DRM が適用されたコンテンツは,暗号化され,単体で
は利用することができない.保護されたコンテンツを復
号するには,ライセンス発行サーバによってユーザごと
に発行されるライセンスが必要となる.
ライセンスには,コンテンツ保護鍵やコンテンツに対
する利用規約,ユーザ情報などが含まれる.
2
BitTorrent
BitTorrent とは,P2P 技術を用いたファイル転送用プ
ロトコル及びその通信を行うソフトウェアの総称である.
BitTorrent において,ファイルは,固定長の断片に分
割されたピースと呼ばれる単位で管理され,複数のユー
ザが同じファイルをダウンロードするとき,互いにピー
スをアップロードしあう.BitTorrrent では,ファイルの
断片を多くのユーザから同時にダウンロードしてくるこ
とで,高速なダウンロードが可能となる.
2. 1 BitTorrent の用語と説明
トラッカーとは,新規接続ピアに対して,接続すべき
ピアの IP アドレスなどを通知するサーバのことを指す.
また,どのピアがどのピースを持っているのかなど,ピ
ア情報やピース情報の管理を行う.
.torrent ファイルは,目的のコンテンツに関する情報
とトラッカーへのリンクが記述されたファイルである.
コンテンツのファイル名や,ファイルサイズ,各ピース
の SHA-1 ハッシュ値などが含まれる.
2. 2 BitTorrent におけるコンテンツの配信
BitTorrent ネ ッ ト ワ ー ク の 構 成 を 図 1 に 示 し ,
BitTorrent におけるコンテンツ配信手順を以下に述べる.
BitTorrent を用いてコンテンツをダウンロードするに
は,まず,目的のコンテンツに対応する.torrent ファイ
ルが必要である.ウェブサイトなどから.torrent ファイ
ルをダウンロードし(図1-1),このファイルをもとに
新規接続ピアとしてトラッカーへ接続要求を行う.
ピアから接続要求を受けたトラッカーは,同じコンテ
ンツを持っているピアのリストを作成し,返信する(図
1-2).
新規接続ピアは,受信したピアリストをもとに他ピア
とコンテンツの断片のやりとりを行い,コンテンツをダ
ウンロードする(図1-3,4).
3. 1 DRM におけるコンテンツの配信
DRM システムの構成を図2に示し,DRM におけるコ
ンテンツ配信手順を以下に述べる.
DRM を用いてコンテンツ配信を行う場合,まず,提供
するコンテンツを用意し,コンテンツの利用に関する規
約を決定する.作成したコンテンツ利用規約はコンテン
ツ利用規約管理サーバに登録され,集中管理される(図
2-1).また,用意したコンテンツは,パッケージング
サーバへ転送される(図2-2)
.
パッケージングサーバは,コンテンツを暗号化するた
めのコンテンツ保護鍵の生成及び生成した鍵によってコ
ンテンツを暗号化する機能を持つ.生成されたコンテン
ツ保護鍵はライセンス発行サーバへ(図2-3)
,保護さ
れたコンテンツはコンテンツ配信サーバへ(図2-4),
それぞれ転送され管理される.
DRM クライアントがフロントエンドサーバへコンテ
ンツを要求すると(図2-5)
,フロントエンドサーバは
コンテンツ利用規約管理サーバへ問い合わせを行い(図
2-6)
,ユーザにコンテンツの利用規約を提示する.ユ
ーザが利用規約に同意すると,フロントエンドサーバは,
コンテンツ利用規約をライセンス発行サーバへ転送する
(図2-7)と同時に,コンテンツ配信サーバにコンテン
ツの配信を許可するメッセージを送信する(図2-8)
.
コンテンツ利用規約を受信したライセンス発行サーバ
は,コンテンツ利用規約と自身の管理するコンテンツ保
護鍵をもとにライセンスを発行し,
DRM クライアントへ
配信する(図2-9)
.
また,コンテンツ配信サーバは配信許可を受けたコン
テンツを DRM クライアントへ配信する(図2-10).
保護されたコンテンツとライセンスを受信した DRM
クライアントは,ライセンスに含まれるコンテンツ保護
鍵によってコンテンツを復号し,ユーザはコンテンツの
利用が可能となる.
DRMサーバ
ウェブサーバ
トラッカー
1. .torrentファイル
ダウンロード
10
4. 保護されたコンテンツ
パッケージング
サーバ
8
2. ピアリスト
DRM
クライアント
9
ライセンス
発行サーバ
4. ピース転送
5
フロントエンドサーバ
2. コンテンツ
コンテンツ
提供者
3. 鍵
7
3.ピース要求
新規接続ピア
コンテンツ
配信サーバ
6
コンテンツ利用規約
管理サーバ
1. 規約
ピア
図1 BitTorrent ネットワークの構成
図2 DRM システムの構成
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平成 21 年度卒業研究発表会:F―8
4
BitTorrent ネットワークへの DRM 適用
BitTorrent に DRM を適用する提案を行う.BitTorrent
ネ ッ ト ワ ー ク 上 で DRM を 適 用 さ せ る た め に は ,
BitTorrent ネットワークにパッケージング機能,コンテ
ンツ利用規約管理機能及びライセンス発行機能を追加す
る必要がある.そこで,BitTorrent クライアントソフト
ウェアに,パッケージング機能,規約作成機能及び規約
への同意画面を追加する.また,トラッカーに,コンテ
ンツ利用規約管理機能,ライセンス発行機能を追加する.
また,本提案を元に,擬似的な DRM の実装を行った.
本来の DRM では,コンテンツ保護鍵をライセンスに格
納して転送するが,今回は,ライセンスの代わりにコン
テンツ保護鍵を直接転送させる.
実装した内容は,コンテンツ利用規約作成・管理機能
を省略した疑似 DRM サーバを構築と,BitTorrent クラ
イアントソフトウェアへの機能追加である.
4. 1 BitTorrent における DRM ライセンス発行
DRM を適用した BitTorrent ネットワークにおけるラ
イセンス発行の手順を図3に示し,以下に述べる.
提供コンテンツを用意したピアは,コンテンツ利用規
約を決定する.その後,コンテンツ保護鍵を生成し,鍵
によってコンテンツの暗号化を行う.生成したコンテン
ツ利用規約及びコンテンツ保護鍵をトラッカーに転送し
登録する(図3-1).さらに,保護されたコンテンツか
ら.torrent ファイルの作成を行う.
保護されたコンテンツを利用したいピアは,対応す
る.torrent ファイルからトラッカーへ接続要求を行う.
保護されたコンテンツに対する要求である場合,トラ
ッカーは,ピアリストとともに自身の管理するコンテン
ツ利用規約をピアに転送する.
利用規約に同意したピアがライセンス発行要求をトラ
ッカーへ送信すると(図3-2)
,トラッカーはライセン
スを生成し返信する(図3-3)
.
・コンテンツ利用規約管理機能
・ライセンス発行機能
トラッカー
2. ライセンス
発行要求
1. コンテンツ保護鍵
ライセンス利用規約
3. ライセンス
発行
・コンテンツ保護機能
・コンテンツ利用規約作成機能
ピア
コンテンツ提供ピア
図3 BitTorrent における DRM ライセンス発行
4. 2 疑似 DRM サーバ
疑似 DRM サーバは,.torrent ファイルから計算され
る SHA-1 ハッシュ値をキーとして,AES 暗号鍵を管理
するデータベースを持つ.また,クライアントからの
AES 暗号鍵の登録や,問い合わせに応じる機能を持つ.
4. 2 BitTorrent クライアントソフトウェア
BitTorrent クライアントソフトウェアに対して,パッ
ケージング機能、つまり,コンテンツを暗号化するため
の AES 暗号鍵を疑似乱数により生成し,生成した AES
暗号鍵を用いてコンテンツを暗号化する機能を,.torrent
ファイル作成時に行うように追加した.また,生成した
AES 暗号鍵を疑似 DRM サーバへ登録する機能,疑似
DRM サーバへ AES 暗号鍵を問い合わせる機能,問い合
わせで得た AES 暗号鍵で保護されたコンテンツを復号
する機能もあわせて追加した.
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4. 4 疑似 DRM を実装した BitTorrent におけるコン
テンツの配信
擬似的な DRM を適用させた BitTorrent ネットワーク
における保護されたコンテンツの配信手順を図3に示し,
コンテンツ配信の手順を以下に述べる.
コンテンツの配信を行いたいピアは,まず,提供コン
テンツを用意する.その後,コンテンツに対応す
る.torrent ファイルを作成する際に,AES 暗号鍵が生成
され,AES 暗号鍵によってコンテンツの暗号化が行われ
る.生成した.torrent ファイルの SHA-1 ハッシュ値を計
算し,AES 暗号鍵とともに疑似 DRM サーバへ転送され
る.
コンテンツ提供ピアは,保護されたコンテンツから生
成された.torrent ファイルをウェブサーバ上に公開する
ことで,コンテンツ配信の準備が完了する.
保護されたコンテンツをダウンロードしたいユーザは,
コンテンツに対応する.torrent ファイルをウェブサーバ
からダウンロードする.続いて,ダウンロードし
た.torrent ファイルをもとに新規接続ピアとしてトラッ
カーへ接続要求を送信する.
接続要求を受けたトラッカーは,ピアのリストを新規
接続ピアへ返信し,新規接続ピアは保護されたコンテン
ツのダウンロードを開始する.
また,ユーザが保護されたコンテンツを利用するため
には,擬似 DRM サーバへ AES 暗号鍵を問い合わせる必
要がある.AES 暗号鍵を問い合せない場合,保護された
コンテンツのダウンロードが完了しても,コンテンツ自
体は暗号化されているため利用することはできない.
AES 暗号鍵を問い合わせる場合,コンテンツの.torrent
ファイルから SHA-1 ハッシュ値を計算し,ハッシュ値を
キーとして AES 暗号鍵を問い合せる.
AES 暗号鍵問い合わせを受けた擬似 DRM サーバは,
自身の管理するデータベースから AES 暗号鍵を特定し,
問い合わせてきたクライアントに返信する.
保護されたコンテンツのダウンロードが完了すると,
AES 暗号鍵により復号が可能となり,ユーザはコンテン
ツを利用することができる.
5 むすび
近年,社会的な問題となっている P2P を用いたファイ
ル共有ソフトウェアを悪用した著作権侵害に対して,
BitTorrent に DRM を適用し,著作権を保護しつつ高速
な転送を可能とする提案を行った.また,提案を元に擬
似的な DRM を BitTorrent に実装し,実際にコンテンツ
の転送が可能であることを確認した.
今後の課題として,GUI を持つ BitTorrent クライアン
トソフトウェアに対しての実装と,本来の DRM もあわ
せて実装する.
参考文献
[1] Bram Cohen. “Incentives Build Robustness in
BitTorrent”, 1st Workshop on Economics of
Peer-to-Peer Systems, Berkeley, USA. May 2003.
[2] Sun Microsystems Laboratories. “DReaM-MMI
Specification”. February 2008.
[3] Jae-Youn Sung, Jeong-Yeon Jeong, Ki-Song Yoon.
“DRM
Enabled
P2P
Architecture”.
8th
International
Conference
on
Advanced
Communication Technology, pp.487-490. February
2006.