第5分科会 遊びの中にある知的発達とは

分科会
遊びの中にある知的発達とは
運 営 委 員 吉 田 敬 岳
司 会 者 秋 重 厚 子
〃 水 野 明
部外助言者 戸 田 雅 美
部内助言者 飯 田 久美子
提 案 者 冨 川 修 子
〃 森 芳 美
自由ヶ丘(愛知)
小牧(愛知)
ひくま(静岡)
鶴見大学短期大学部
富山市五番町(富山)
豊橋旭(愛知)
希望(富山)
YYYYYYYYYYYY
YYYYYYYYYYYY
第5
YYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY
YYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY
主 題
知的教育というと、従来、早くから知識を暗記させたり技術を習得させたりといっ
た早期教育ととらえられがちであったが、子どもの知的発達は、遊びの中での直接
的・具体的な体験をとおして実現されていく。
子どもは遊びをとおして何を獲得し、何を学んでいるのかを考える。
主題設定
いわゆる早期教育に関する情報が氾濫する中で親の戸惑いは大きく、幼児期にふさ
わしい知的発達とは何なのかを明確にしていくことが求められている。子どもは遊び
をとおして周囲の環境や友だちと直接かかわり、見たり、触れたり、感じたりするこ
とにより、周囲の世界に好奇心や探究心を抱くようになり、物の特性や操作の仕方、
世の中の仕組みや人々の役割などに関心を持ち、物事の法則に気づき、自分なりに考
えることができるようになる。
また、感情のコントロールや思いやり、協力することの大切さなどを体験的に学ん
でいく。
幼稚園教育の中にあるこのような知的発達を今一度見つめなおし、幼稚園教育のあ
り方を考える。
研究方法と筋道の例
☆ 子どもは遊びをとおしてどのように人間関係を築き、仲間とのかかわりをとおし
て自分の気持ちをどのように出したり、押さえたりするようになるのかを事例を
とおして考える。
☆ 子どもは遊びをとおして外界の事象の変化にどのように気づき、その法則性を見
つけていくのかを事例をとおして考える。
☆ 子どもは遊びをとおして獲得したものを、自分なりに理解し、どのように表現し
ようとするかを事例をとおして考える。
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遊びの中にある知的発達とは
提案者
愛知県 豊橋旭幼稚園
富 川 修 子
1.はじめに
本園は、キリスト教保育を目指す幼稚園として1907年(明治41年に)創設
され、「キリストの恵みに生きる」という創立の精神を継承し保育を行っています。
子ども一人ひとりは、さまざま違った才能、性質、資質を神様から与えられ、自
らの中に伸びる力をも備えられている掛け替えのない存在です。保育者はその子の
個性にふさわしく成長できるように、環境を整え、共に生かされている者として子
どもたちと生活をしています。
本園は園児数150名、3・4・5才それぞれ2クラスずつで構成されています。
町の中に位置し、園児数に対して園庭は狭く自然も豊かとは言えませんが、近くに
緑豊かな公園があり、保育で利用し自然にふれる機会を少しでも多く持てるように
心がけています。
1日の保育の中に占める遊びの時間が比較的長く、子どもは主体的に物事と関わ
り、人との関係を深めています。学年別のクラス編成ですが、遊びの時間には自由
に行き来し、それぞれの部屋に置いてある製作の材料やおもちゃでの遊びを通して
縦の関わりが行われています。また、バス通園者が園児数の2/3を数えバスの中
で生まれる縦の関わりも見逃せないものとなっています。
2.研究のねらい
遊びが生活の中心となっている幼児期は、自らが主体的に生き生きと遊ぶ中で、
様々な素材に出会う過程において、充実感を味わうとともに知的好奇心や探求心を
抱くようになる。
乳幼児期の家庭での生育の違いにより、入園当初は土との関わり方に差異が見ら
れるものの、3年間の園生活のどこかの時期で必ず夢中になるのが、砂、土、泥で
の遊びである。そこで、どのような環境構成や援助が、より充実した経験を提供す
ることができ、知的発達を促しているのかを事例を通して考えていく。
3.研究内容
子どもたちは危険な遊びや他に迷惑になる遊び以外は規制されていないので、園
庭のあちらこちらで土を掘り、泥遊びや工事現場ごっこなどをしている。その為、
1
園庭はデコボコで雨が降ると大小の水たまりが沢山できるので、雨上がりの朝には
必ず水たまりの水を取り除き、子どもたちが登園して来るまでに園庭を整えます。
昨年の梅雨の時期、3日間降り続いた雨がやみ、朝からとてもよい天気になった
日、他に用事ができた為園庭を整備することができず、子どもが登園してきた時に
は大小の水たまりが沢山あった。
事例1<泥あそび>
4才女児のA子、B子、C子、D子は、いつもは水汲み場から水を持ってきて遊
び始めるが、この日は水たまりに集まってきた。
幼 児 の 姿
保育者のかかわり
¡A子、B子、C子、D子が鍋、 久し振りに外遊びが出
フライパン、シャベルを手に持 来るので、砂遊びの道
ち、水たまりの周りに集まって 具を補充する。
来る。
¡ A子:泥を取り土を少しずつ
足し、形を整えてフライパンの
中に置く。
「ハンバーグ」
「なに、作っているの」
フライパン一面に並べる。
¡ B子:鍋の中に泥を入れ、シ
ャベルでかき回わしては、水を
少しずつ加える。「カレーができ 「おいしそう」
た。」
¡ C子:近くの粒子の細かい土 「 わ ー 、 お い し そ う 。
を鍋に入れ、水を加えトロトロ いただきます。」鍋を
にする。
「コーヒーを飲んで」と、 持ち上げ飲む真似をす
保育者のところへ鍋を持ってく る 。「 お い し か っ た 。
る。
ごちそうさま」
¡D子:鍋に泥と水を入れるが、
思い通りにできず、保育者に訴 C子に聞くように伝え
える。
る。
¡ C子:「サラサラを入れる
よ。」
¡ D子:言われたように鍋の中
に粒子の細かい土と水を入れ、
思い通りのものをつくる。
¡ D子の靴に水が染み込んでく
る。
濡れた靴のままで遊ぶ
2
よ み と り
土と水の量の加減によ
って、泥の形状が違っ
てくることを知り、
各々の目的に合わせ、
調整している。
土の種類によって、水
を加えた時の違いを知
っている。
C子と保育者の会話を
聞き、同じ物を作りた
くなったようだ。
土の粒子の違いで、水
を加えた時の状態の違
いを知る。
靴の素材により、水を
¡ D 子 : 「 靴 が 濡 れ た 。 替 た ように伝えるが、気に
い。」
なるようなので、裸足
¡ C子:「わたしは、水に入っ になるように伝える。
てもいい靴だからいいの。」
¡ D子は保育者に促されて裸足
になる。
他の3人もつられて裸足になる。
¡ D子水たまりに足をそーと入 スカートをパンツの中
れ、ゆっくりと中へ入っていく。 に 入 れ る よ う に 伝 え
他の三人もつづいて入っていく。 る。
¡ 4人は足を滑らすように歩い
たり、立ち止まっては、足踏み
をする。
「グジュグジュしてる。」
「気持ちいい?」
「ヌルヌルしてるよ。」
保育者も裸足になる。
「パチャパチャ」等、感じる色々 「クチュクチュしてる
な表現を楽しむ。
ね。」「ペチャペチャ」
¡ A子が隣の水たまりに、移動
する。他の3人も同じ水たまり
に行く。ここでも前の所と同じ
ように遊ぶ。
¡C子「あたたかいね」。他の3 「ほんとうね」保育者
人口々に「あったかいね」。
も共感する。
¡次々と水たまりを移動し、「あ
ったかい」「あったかい」と言い
ながら同じように遊ぶ。
¡ 何度もみんなで移動している
うちにD子が偶然小さい水たま
りに入る。
¡D子「あつい」
¡ 他の3人が、走ってくる皆で
「あつい」「あつい」と、言いな
がら足踏みをする。
温度差を知らせよう
と、日陰の水たまりに
誘う。
¡日陰にある水たまりに行く。
¡4人が口々に「つめたい」。こ
の水たまりからは、すぐに出、
日向にある水たまりへ行き、足
を滑らしたり、足踏みをして遊
ぶ。
3
通す物と通さない物が
あることを知る。
遊びが中断された為、
興味の方向が、泥遊び
から水たまりへと移っ
ていったようだ。
足の裏で、泥の感触を
味わう。
足の裏の感覚を通して
色々な表現を楽しんで
いるようだ。
水温に気づく。
水たまりによって、水
温の違いがあることを
知る。
冷たい感覚よりも、温
かさに心地好さを感じ
るようだ。
事例2<あてっこ遊び>
数日後の雨上がりの日、園庭にできた水たまりを、そのままにしておく。
幼 児 の 姿
保護者のかかわり
¡ D子は登園後の支度が済むと、
園庭に出て行き、裸足になって、
水たまりに入る。
¡A子、B子が部屋の窓から顔を
だし、D子の姿を見つけ、園庭に
出てくる。2人とも裸足になり、
D子の居る水たまりに入る。
¡D子「あったかいね」
¡A子、B子「あったかい」
¡B子「せんせいもおいで。あっ 裸足になり、A子、B
たかいよ」と、大きな声で園庭に 子、D子がいる水たま
いる保育者を呼ぶ。
りへ行く。
¡A子、B子、D子あちこちの水
「あったかいね」
たまりへ移動する。「あったかい」
「あったかいね。」小さい水たまり
に入り、「あつい」
¡ B子、保育者の方を見て、「あ
つい」
¡A子、D子「あついよ」と、保
走って行き、同じ水た
育者を誘うように言う。
まりに入る。
¡A子、B子、D子別の水たまり
「あついね」
へ走って行く。
よ み と り
他の遊びへ見向きもせ
ず、裸足になって、水
たまりへ走って行った
のは、以前にした遊び
が楽しかったようだ。
水の温かさを楽しんで
いるようだ。
水の気持ちよい温かさ
を保育者と一緒に味わ
いたいと、思ったので
あろう。
小さい水たまりは熱い
という期待をもって入
り、確認し、保育者に
同意を求めたようだ。
¡E子、裸足になり、保育者がい こちらをじーと見てい
る5才児のE子に気づ 保育者の誘いに、すぐ
る水たまりに走って来る。
に応じたのは、一緒に
¡E子は気持ち良さそうに水たま き、誘う。
遊びたい気持ちがあっ
りの中で足を動かしている。
「裸足になったら気持ち たが、4才児ばかりだ
いいでしょう。
」
ったので躊躇していた
のだろうか。
¡E子、3人のところへ走って行
A子らのいる方を指さ
く。
し「あっちへ行こうか」
¡E子が加わって4人となる。
と、誘う。
すこし離れた水たまり
を指さし、
「あの水たま
4
り、あったかいかな?
¡ A子、B子、D子「あったか あついかな?」と、尋 何度も経験したので、す
い」。少し遅れて、E子「あった ねる。
ぐに答えられたのであろ
かい」。
う。E子は自信がなかっ
「当たっているかな?行 たのであろう。
¡ 保育者と一緒に指された水た ってみようか。
」
まりへ走っていく。
¡4人足を浸けるなり、
「あったかい」「あったかいね」
¡ E子も楽しそうに「あったか 「あたりー」すこしオー 4人共とも水の温かさを
いね」
バーに表現し、拍手を 楽しんでいるようであ
る。
する。
大小の水たまりの水温
¡3人は、各々「つめたい」。
当てを数回繰り替えし
E子は無言。
た後、日陰の水たまり
¡ 4人は、日陰の水たまりへ走 を指さし、水温を問う。
っていく。「つめたい」
「あたりー」と、言いな
¡ E子「おひさまが、あたらな
日陰の水の温度を想像す
がら拍手をする。
いからつめたいじゃん」
ることはできなかった
が、理由は分かっている
¡ 保育者がいなくなったのでE
ようである。
子が皆をリードしながら、2回
保育者は、他の子に関
くり返すが、D子がやめて抜け
わる為、この場を離れ E子と3人の気持ちにず
ると、A子、B子もやめる。
れがあったのか、それと
る。
も遊びがおもしろくなく
なったのであろう。
事例3<温泉ごっこ>
降っていた雨も昼前に上がり、午後から、とても良い天気になった日。園庭では
数名の子どもが遊んでいる。D子がパンツだけのかっこうで、水たまりの中に寝転
びボンヤリとしている。
保育者「なにしているの?」
D子「おんせんにはいってる」つぶやくようにこたえる。
これ以上話しかけるのがはばかられるように感じ、そのまま立ち去る。
5
4.考 察
a
子ども自身が内面的な充実感を味わう為には、子どもの興味や関心がどこにあ
るのかを正しく捕らえ、保育者がその子どもの気持ちに添いながら、共感し、見
守ることが求められる。
(事例2において保育者の声がけで、内面的充実がとぎれ、
単なるあてっこ遊びに変わってしまった。)
s
異年齢児の参加により遊びに刺激が加わる。(異年齢児同士が抵抗なく関われる
ためには、通常の園生活の中で、縦との関係を深めていく機会を多く持つことが
必要である。)
d
環境に変化をもたせる。(通常と違う環境により興味が引き出された。
)
f
充分に遊び込むための時間が必要である。
5.結 論
幼児の遊びの中で知的発達を促される場面は多く存在するが、その時、子ども自
身が物事に主体的に関わり、内面的な充実感を味わうことにより、興味や関心を膨
らませ、深められることが必要である。そのためには保育者を含めた環境の構成を、
工夫していくことが、求められる。
6
遊びの中にある知的発達とは
提案者
富山県 希望幼稚園
森 芳 美
1.はじめに
子どもたちにとって遊びは生活の中心であり、遊んでいる時の子どもは多くの出
来事に興味や関心、好奇心をもってかかわっている。見て、触れて、身体をつかっ
た体験が直接心に響く出来事となり、子どもなりに考えたり判断したりしていろい
ろな活動をしていく。また、周囲の環境や教師や友達とかかわっていくことで、そ
の内面には様々な感情が生まれていく。「ぼくにも見せて!」、「一緒にやりたいな」
「触ってみたいな」など、いろんなことを感じる。このように、いろいろな感情をも
ち、心を動かされながら豊かに体験していくことが、本当の意味での知的発達に結
びつくのではないだろうか。そして、心を動かされるような感情や、そこから生ま
れる意欲が子どもの学びを支える大きな役割を果たしていると思う。
知的な発達を促すような感動体験は、日々の保育の中に数多くあると思われる。
どのような体験が子どもの感性をゆさぶり、知的な発達を促すのかを見ていく必要
があるのではないだろうか。また、どのような環境が知的発達を促しているのか、
子どもにとって教師はどうのような存在なのかを探りながら、望ましい援助の在り
方について研究を進めたいと思う。
2.研究の視点
a
子どもが遊びを通して心を動かし、試行錯誤したり自分なりに理解したりする
姿を捉える。
s
教師のかかわりや環境構成が幼児期の知的発達にどのような役割を果たしてい
るのかを考え望ましい援助の在り方を探る。
3.研究の方法
a
幼児期の知的発達をどのように考え捉えていくか、日ごろの子どもたちの姿を
振り返り幼児期の本来の育ちについて討議し、共通理解をはかる。
s
日々の遊びの中から、知的発達へとつながる子どもの姿を保育の事例をもとに
研究してみる。特に戸外での遊びがだんだん活発になるこれからの季節は子ども
たちにとっていろいろな草花や小動物などに触れる機会が増えていく良い機会で
ある。このことを考え、自然とのふれあいや身近な地域とかかわる子どもの姿を
7
取り上げて研究していく。
事例1 5月17日
――川の水って冷たくて気持ちいいな――
・園庭の横に幅に50cm位の小さな用水がある。
田んぼへ流れていくように、板でせき止められている箇所があり、時々流れに変
化がある。散歩に出かけた時にこの用水に興味をもったY男が、手で触れたり、
裸足になって中へ入ったりして遊びだした。
・Y男について
年少の頃から水遊びが大好きで、服がぬれていても夢中になって遊ぶ姿が毎日見
られた。年長になっていろいろな遊びにも関心を示すようになったが、水遊びを
する時の表情や声は、とても生き生きとして今でも大好きである。
子 ど も の 様 子
保育者の関わりと思い
Y男 「あっ、この川滝になっている。す ・Y男が川の流れを滝が落ちるよう
ごいなー。
」
★Y男は、川の中に手を入れてみる。
Y男 「冷たーい。先生も入れてみられ。
」
に感じて興味をもち、遊び始めた。
保育者も一緒に川の中に手を入れ
て共感しながら遊ぶ。
T 「うん、冷たいね。気持ちいいなー。
」
T男 「山から流れてくるから、冷たいが ・友達同士で感じたこと、思ったこ
だ。
」
とが話せるように見守る。
Y男 「それって雪が溶けた水かね。
」
T男 「Yちゃん、すごいこと知っとる
ね。
」
★水が流れ落ちる滝のような所では手を入れ、 ・たくさん遊ばせることでさらに新
水の音の違いに気づく。
しい発見をしたり、疑問に思った
Y男 「ねー、こんながしたら音違うよ。
」
りするのではないかと思い時間を
T男 「楽器みたいだー。
」
かけて遊ばせる。
T 「おもしろいねー。
」
★Y男が歌いながら、手で水面をたたくと、
周りの子ども達も同じように遊びだす。
Y男 「ねー、こっちの方が流れ速いね。
」
T男 「本当だー。
」
★裸足になって川の中を歩いたり、走ったり
して遊ぶ。
Y男 「波だ。波だ。
」と、水しぶきをたく
8
・Y男の姿が刺激となって、周りの
子どもたちも遊び始めた姿に喜び
の思い出見守る。
さんあげている。
N男 「Y君、波作ったんだって。
」
T男 「Yちゃん、すごーい。
」
★Y男が、体中水で濡れているのを見たH男
が心配そうに聞く。
H男 「Yちゃん、いっぱい濡れたけどど
うしたがー。
」
Y男 「だって波作ってたら濡れたんだよ。
H男くんもしてみられよ。おもし
ろいよー。
」
H男 「おもしろそう。ぼくもしてみよう。
」
と、裸足になって川に入る。
★H男や周りにいた子どもたちも川の中に入
って遊びだす。
Y男 「ねー、ここすごく速く流れるよ。
」 ・川の流れの速さに気づいたことは、
T 「じゃあ、葉っぱを流してみよう
か。
」
とても大切だと思った。そこで、
もっと関心をもたせることと流れ
★近くに咲いていた葉っぱを取ってきて流す。
の速さが、具体的にわかるように、
Y男 「すごいよ。あっという間に消えた
葉っぱを流すことを提案してみる。
よ。よーし、今度はこれだ。
」と、
違った葉っぱを取ってくる。
T男 「ぼく、この葉っぱにする。こっち
にも味わわせたいと思い、保育者
の方がもっと速く流れるかもね。
」
も葉っぱを取ってきて一緒に流し
と、大きな葉っぱを取ってくる。
たり、競争して遊ぶ。
T 「先 生 も し て み た い な ー 。」 と 、
葉っぱを取ってきて一緒に流す。
Y男 「いち、にいのさん。
」
★Y男と保育者の葉っぱが、あっという間に
見えなくなる。
Y男 「どれがどれだか、速くてわからん
かったね。
」
T男 「ねー、葉っぱとぼくたちと競争し
ようか。
」
Y男 「うん、やってみよう。
」
H男 「よーい、どん。
」
Y男 「やっぱりぼくたちの方が、速い
ね。
」
★何回も競争する。
9
・川で遊ぶ楽しさを他の子どもたち
<考 察>
・川の流れに興味、関心をもって感動しているY男の気持ちを受けとめ、教師も一
緒に遊んだことが、意欲につながるのではないか。
・周りの子どもたちと感じたこと、発見したことを話し合ったり、認め合ったりす
ることができたY男は、友達からもいろいろ学ぶことができたようである。
・教師が心のゆとり、時間のゆとりをもってかかわったことで子どもたちは、夢中
になって遊べたように思われる。そして、その中で水の冷たさ、流れなど直接、
自分の体で感じることができたのではないか。
・川の冷たさ、川の流れの速さを体で感じ取るという自然でしか味わえない体験だ
ったと思われる。言葉で伝えるより、肌で感じることの方が、心に残っていくの
ではないだろうか。
事例2 5月19日
――かわったカエルだよ――
・近くの田んぼへおたまじゃくしを探しに出かけた時に、茶色のカエルを見つけ鳴
き声を聞くことができた。
・K男について
おとなしく、あまり自分から話そうとしない。
自分の思いや考えを伝えたくても、たくさんの友達の前では引っ込み思案になっ
てしまい、なかなか声がでない。
虫や小動物が好きで、園では戸外に出ると捕まえて見せてくれたり、思ったこと
を保育者や仲良しの友達に話したりしている。
子 ど も の 様 子
保育者の関わりと思い
★田んぼのあぜにいたカエルを捕まえて保育 ・K男が保育者に知らせようと、う
者に見せる。
れしそうに走ってきたので、その
K男 「あっ、かわったカエル見つけたよ。 思いを受けとめて一緒に見る。
色が違うよ。緑色じゃないもん。
」
T 「本当だねー。かわった色をしてい
るね。
」
」
H男 「わぁー!それゲボガエルだよ。
T男 「うん。毒持ってるかもしれんよ。
」
K男 「違うよ。アマガエルの仲間だよ。 ・友達から“アマガエルじゃない”
だって兄ちゃん言っとったもん。
」
と、言われても自分の考えをしっ
T 「そうなんだ。アマガエルの仲間だ
かり言えたK男の姿にうれしさを
ったんだね。
」
感じる。
K男 「うん。
」
★捕まえたカエルを大事に手の中に入れて持 ・周りの友達から注目されたK男は、
っている。
うれしそうな表情を見せたので、
10
K男 「あっ、口の所ふくれてきたぞー。 K男のためにもカエルがうまく鳴
もうすぐ鳴くよ。
」
いてくれることを願う。
H男 「うぁー、でっかいおなかになって
きたね。
」
N男 「すごーい。
」
★K男の声を聞いて、5∼6人の男の子が集
まってくる。
T男 「これオスだよ。だってメスを呼ぶ
時に鳴くもん。
」
K男 「うん、そうだよ。メスに聞いても ・K男が、自分の知っていることを
らいたいから鳴くんだよ。夜にな
友達にも知らせようとする姿が何
ったら、ぼくの家の周りでカエル
度も見られたので、保育者もK男
が、いっぱい鳴いとるよ。
」
に教えてもらうつもりで話しを聞
T男 「ぼくの家でもだよ。
」
く。
N男 「カエルの合唱みたいだね。
」
T男 「うん、そうだね。
」
K男 「ねー、もうすぐ鳴くから静かにし
て。
」
H男 「はやく鳴いてほしいなー。
」
★手の中にいるカエルをじーっと見つめ、鳴
くのを静かに持つ。
★しばらくして(約40秒後)ゲロゲロと鳴
く。
K男 「あっ、鳴いた。
」
・カエルが鳴く様子を近くで見たこ
T男 「うん、聞こえた。聞こえた。
」
とがなかったので、子どもたちと
H男 「すごい、カエルだね。
」
共に感動して見ることができた。
★カエルの鳴き声を聞いて子どもたちは、歓
声をあげる。
K男 「鳴いた時にふくれた所が、ブルブ ・保育者や友達に自分の考えを受け
ルしてたね。
」
入れてもらえたことが、とてもう
H男 「すごかったねー。
」
れしそうであった。
T 「本当だねー、先生もびっくりした
よ。
」
T男 「Kちゃんって、カエルが好きなん
だね。
」
H男 「だからカエルのこといっぱい知っ
ているんだ。
」
T 「そうだね。
」
★K男は、捕まえたカエルを大事そうに虫か
ごに入れて家に持っていく。
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<考 察>
・普段は、自分の気持ちを言葉に出すことが少ないK男だが、カエルについてよく
知っていたことがきっかけで教師や友達から認めてもらい、自信となった。
・カエルのおなかがふくれて鳴き声を出すということを実際に目の当たりにできた
ことは、とても大切な感動体験だったと思われる。
・この日の出来事が、心に残っていつかまたカエルを捕まえた時に、自分で試した
り、友達に教えたりすることに結びついていくのではないだろうか。
事例3 5月20日
――この花は どんな名前かな――
・園のまわりに咲いている草花に少しでも興味、関心を持ってほしいと思い、部屋
のテーブルの上に“紫蘭”の花と図鑑を置いておく。すると、Y子とN子がそれ
に気づいた。
・Y子について
年中の頃からおとなしくて自分から話をすることがなかった。生き生きとした表
情も見られず、とても気になっていた。年長になってもはじめの頃は同じ姿が見
られ、ひとりで遊んでいた。今は仲良しの友達ができて一緒に遊ぶ姿が見られる
ようになってきた。また、教師に笑って話しかけることも多くなり表情が豊かで
ある。
子 ど も の 様 子
保育者の関わりと思い
N子 「あっ、花があるよ。
」
・花に興味を持ってほしいと思い、
★Y子は横にあった図鑑に気づく。
花と図鑑を子どもの目につく所に
置いておく。
Y子 「ねー、ここに同じ花がでてるよ。
」
・どこまで2人で探すことができる
N子 「どこー。
」
か、どんな考えを出しあうのか、
Y子 「ほら、ここ花びらの形が同じだよ。
」
そばでしばらく見守る。
N子 「うん、でも葉っぱがちょっと違わ
ない。
」
Y子 「本当だね。どれかな。
」
★2人で図鑑を見ながら探している。
T 「Y子ちゃん、N子ちゃん、どうし ・今まで図鑑で調べることを経験し
たの。
」
N子 「この花の名前調べてるけど、よく
わからんがー。
」
Y子 「似てるのはあったけど。
」
12
ていなかったので、なかなか探す
ことができないようであった。そ
こで、一緒に探したりヒントを出
したりする。
T 「じゃあ先生も一緒に探そうか。
」
★保育者も加わって一緒に図鑑で調べる。
★Y子とN子はいろんなページを開いて探す。
Y子 「Nちゃんどこかなー、わからんね
ー。
」
T 「Yちゃん、ここは冬の草花がでて
る所だよ。
」
Y子 「本当だ、今は春だから春の所を見 ・自分で見つけたという満足感を味
ればいいんだー。
」
★Y子とN子は春の草花のページを時間をか
わせたかったので、すぐに「これ
だよ。と教えないで一緒に探す。
けて調べる。
Y子 「あっ、あったー。
“紫蘭”だ。
」
・Y子は、名前を見つけたことがう
T 「Y子ちゃん、すごーい見つけれたね。
」
れしかったらしく大きな声で教え
N子 「紫蘭って変な名前だね。そうだ、
てくれたので保育者もうれしくな
みんなに問題にしてみようか。
」
って大きな声で答える。
★Y子とN子は、友達にクイズを出している。
Y子 「Kちゃん、問題だよ。この花の名 ・友達に得意になって問題を出して
前は、なーんだ。
」
K子 「ばあちゃんの家にもあったけど、
いるY子の自信のある行動に驚き
と喜びを感じる。
名前はわからんなー。
」
Y子 「紫蘭だよ。
」
K子 「えー!変わった名前だね。
」
★Y子とN子は、得意そうに顔を見合わせる。
Y子 「ねー、Nちゃん外に行って花を探
してこようよ。
」
N子 「うん、そうしよう。
」
Y子 「ねぇ、先生も一緒に行こうよ。
」
T 「連れてってくれるの、うれしいな。
」
・保育者を誘おうと思うY子の気持
ちを大切にして一緒に出かける。
<考 察>
・昨年までは、おとなしく話もしなかったY子だが、年長になり友達もできはじめ、
また妹も入園したことで園生活が楽しくなってきたようである。4月から担任が変
わったが、教師がY子の気持ちを受け止めたり、共感したりしたことで、心が安定
し自ら活動に取り組む意欲につながったのではないだろうか。この事例では、心の
安定が人や物に自らかかわる力となっていくことを示しているように思われる。
・変わった名前の花と図鑑を置くことで、花への興味・関心を高め、調べてみよう
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という意欲、他の花の名前も調べてみようという活動へつながっていけることがで
きたように思う教師の環境構成の大切さを感じた。
4.まとめ
⃝自然とのふれあいや身近な地域とかかわる子どもの姿を見つめながら研究を進め
てきたが春から夏にかけてのこの期間しか見たり触れたりすることができないも
のや、時間と共に変化するもの、活動しているうちに思いがけなく体験すること
など貴重な出来事があり、いろんな場面において、目を輝かせながら楽しんでい
る姿を見ることができた。
また、自然にかかわることでしか味わえない感動体験の場を機会を逃さず捉え
ていくことの大切さを感じると共に、日ごろ、なにげなく見ていた身の回りの環
境をもう一度見直してみることで知的発達を促す活動として環境を整え、一人ひ
とりに応じた援助ができるように思った。そして、知的な発達を促す体験の機会
を見逃さないよう、年間を見通した指導計画を立てることの大切さを改めて感じ
た。
今後は、移り変わる季節の中で同じ場所に立ったり、動植物に触れたりした時に、
この時期に体験した学びが、さらに生かされていくような援助が必要ではないか
と思う。
⃝子どもが興味や関心をもち、やってみたい!といった意欲に支えられながら主体
的に取り組むことから知的発達が促されていく。自分で発見したり、考えたりし
て心に残る体験となるために必要な援助とは何かを常に考えながら関わることが
大切だと思われる。そのためには、今、子ども達が何に興味をもち、何に感動し
ているのかを知ることが必要ではないだろうか。また、教師が一緒に同じものを
見つめ、声を聞き、考えていくことでつかむことができると思われる。そして、
子どもの心を感じることでその思いを受けとめ共感していくことが、大きな援助
となっていくと考えられる。
また、子ども自身も教師に対して心を寄せ、精神的な安定感をもつことで、新た
な学びとなっていくのではないだろうか。自分の思いを受け入れ、共感してくれ
る教師の存在や一緒に遊んだり楽しさを共有してくれる友達がいることが、知的
発達へとつながっていくための大切な環境にもなっていると思われる。
今後も、心から遊びを楽しむという子どもの姿を大切にしながら、子ども自身が
考える機会をもつことと、教師も一緒に考え、学びを支えていくことを忘れない
日々の保育に取り組みたいと思う。
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