リンクアンドモチ ベ ーション Customers’ Voice 事 日本航空株式会社 顧客マーケティング本部 顧客戦略部 推進グループ アシスタントマネジャー 副島 克美 氏(中央) アシスタントマネジャー 大羽 美裕 氏(右) チーフキャビンアテンダント 安田 美智子 氏(左) 例 紹 介 Company Profile 日本で最大規模の国際線網と国際線乗客数を有す る航空会社。2010年に経営破綻し、会社更生法の 適用を受けるが、京セラ創業者(現日本航空名誉会 長)の稲盛和夫氏のもと、部門別採算 JALフィロ ソフィ の浸透に取り組み、驚異的な業績回復を成 し遂げる。2012年9月19日に再上場を果たした。 3万5千人のスタッフに JALブランドを浸透させ、 再生へと、加速する。 2010年の会社更生法の適用から、 わずか2年。 営業利益約2,000億円と 驚くべきスピードで業績回復を果たしている日本航空(以下JAL)。 現在、3万5千人のJALグループのフライトを支えるスタッフに 新生JALの価値を認識してもらい、 サービス向上に生かす インナーブランディングが進んでいる。 同施策の推進、実行を担当した 顧客マーケティング本部の皆さまに話を聞いた。 1 再生に向けて 提供価値を 見直していく していくことです。社内では企業経営の根幹をな 副島:プランの実効性です。もともと、セミナーを す J A Lフィロソフィ という概 念 の 浸 透 施 策 が 一度だけ実施し、フォローアップしていく短期間の 進んでいましたが、それに紐づけて、 「どんな価値 施策を各社にご提案いただいたのですが、LMの をお客さまに届けるのか」を会社全体で共有して 提案は全く趣が違うものでした。短期間でブラン いく必要がありました。インナーブランディングと ドを浸透させることはできない。長期にわたる取 いう取り組みは、私たちにとって初めての経験で り組みが必要であると。その提案内容は、各部署 したので、より優れたプランを求めて、パートナー の代表者でプロジェクトチームを発足し、JALブ 企業を探すことに決めたのです。 ランドを伝えるためのツールとセミナーを一緒に 2 ―今回のプロジェクトは、3万5千人を超えるスタッフ すべてに「新生JALブランド」の浸透を図る大規 つくっていくプロセスを踏むものでした。ブランド を浸透させるためのツールとセミナーを効果的に 組み合わせることで、全スタッフに広げていこうと いう意図がありました。単純に面白いということも ありましたが、一つひとつの要素をロジカルに、熱 意を持って説明していただけたことも、採用のポ イントになりました。セミナーで使うムービーとテ キスト(ブランドブック)を作成していただきまし たが、どちらもスタッフを動機づける重要な役割 やらされ感を 払拭する 実効性が決め手 模なものです。インナーブランディングの背景や 課題についてお聞かせください。 副島:JALは、2010年1月19日に経営破綻し、多く の皆さまに、多大なるご迷惑をおかけしました。 事業を存続させていただく中で、もう一度、提供 3 を果たしてくれたと思います。 価値を見直すべく、ブランドの再構築を図る必要 があったのです。2010年の春には「ブランド構築 プロジェクト」が立ち上がり、新たなロゴやコミュ ニケーションスローガンの策定などを行うことが ―プランの選定にあたって、 どのようなポイントを 重視されていたのでしょうか。 決まりました 。そこで、特 に 重 視してい た の が、 副島:JALには、客室・運航・旅客・営業・整備・貨物 JALが提供する価値であるブランドを社内に浸透 など、さまざまな職種のスタッフがいます。それぞ 現場を知り 成功するまで あきらめない れの部署は、文化も違えば、考え方も違う。さらに、 経営破綻という出来事で気持ちも落ち込んでいる 状況でした。そんな状況下で、 「また本社が何か始 めた」 という やらされ感 を持たれては、施策その ものの意味がなくなってしまいます。それぞれの 部署が主体的に参加でき、響いてくれるようなプ ―今回の「JALブランドセミナー」は、LMが作成し ランを探していました。 たセミナーのプロトタイプを基に、各部署の代 ―リンクアンドモチベーション(以下LM)のプラン 表者によって組織されたプロジェクトチームの を採用した決め手は何でしたか。 プロジェクトの全体像 ※プロジェクトミーティング形式で、 ブランドツール・セミナーを制作。 (1∼2週間程度に1回の頻度で実施) ※リンクアンドモチベーション社はすべてのプロジェクトミーティングのアジェンダ・制作物の準備及びファシリテーションを実施。 STEP 1 STEP 2 STEP 3 STEP 4 STEP 5 各部署から プロジェクトメンバーの 選出 プロジェクトメンバーの チームビルディング (動機づけ) ムービーの制作 ブランドブックの 制作 セミナーの制 作 ブランド浸 透をより効 果 的 に メンバーの自己紹介に加えて、 L M が 設 定 する課 題を基 に議 読む人の立場をロールプレイン 試作段階のセミナーを、JALス 行うた め に 、各 部 署 からプロ ブランドの必要性を全員で確 論し、意見出しとまとめのプロ グしながら、各メンバーからの タッフの方にテスト受講してい ジェクトメンバーを選出。制作 認し、目線を合わせ、チームビ セスを繰り返し、内容のブラッ 意見を反映しながら、 ブラッシュ た だ き、社 内フィジ ビリテ ー プロジェクトを進行した。 ルディングを行った。 シュアップを行った。 アップを行った。 ションを重ねた。 意見を集約してプログラムを作成したと伺いま セミナー」の実施に不安だったプロジェクトメン した。印象に残った点をお聞かせください。 バーも、その大切さに気づき、 「これは絶対にやっ 副島:セミナーをつくっていく過程で面白かったの たほうがよい」 と前向きになっていきました。各本 は、いきなり内容をどうするのかから議論するの 部での浸透も格段に進めやすくなったと思います。 ではなく、 どういう課題があって、それを参加者に また、当初は、ここでつくったプログラムを部署ご 考えてもらうにはどうしたらいいかという目的に とにカスタマイズして実施する予定でしたが、最 立脚した議論を進めていけたことです。私たちだ 終的に大きなアレンジを加えることはありません けでなく、各部署の代表者が当事者として、セミ でした。すべてのスタッフに対して響く、完成度の ナーをつくっていくプロセスを踏んだことで、メン 高い内容にすることができたと満足しています。 バーがブランドについて考えるよい機会となり勉 現在、JALは「明日の空へ、日本の翼」 というスロー 強になりました。自分たちでこうしたプロセスを踏 ガンを掲げていますが、 これは、スタッフの意見を て掲げられた「伝統・革新・日本のこころ」を、 どの もうとしても、声の大きい人の意見に流されたり、 聞きながら会社が決定したものです。今回のプロ ように伝えれば、わかってもらえるかは苦心したと 異なる意見の間をとるという決定をしがちですが、 ジェクトも、決めたことを一方的に押し付けるので ころです。例えば、日本のこころって何だろう、 とい 議論の取りまとめをLMがしてくれたことで、最終 はなく、各部署と一緒に取り組むことが重要でし う部分では、茶道を例に挙げて、おもてなしについ 的によいものが完成したと思います。 た。やらされているだけの取り組みは、モチベー て見つめ直してもらったのですが、そのシナリオ 大羽:私が感動したのは、それぞれの現場の苦労 ションを下げる結果しか招きませんから。 についても何度も見直し、より 腹落ち する方法 4 や背景を理解したうえで進めていただけたことで す。実際にどのような仕事を行っているかを踏ま える必要があると、整備場や空港、訓練施設まで 足を運び、インタビューをしてくれたのです。私た ちの仕事を理解してくれたうえで、 プロの視点から プロジェクトをファシリテートしてくれました。 安田:ムービーの制作についても、短納期の作業 が続いていましたが、いいものを作っていこうとい う熱意を感じました。外部のパートナー企業にも かかわらず、私たちの JALフィロソフィ の一つで ある「成功するまであきらめない」を体現してくだ さった気がします。 副島:そうした姿勢もあって、最初は「JALブランド 想いを一つに 誇りを持てる プログラムに 論を模索していきました。 安田:JALで働くことに対する誇りを取り戻すこと も大きな目的でした。現在の部署に配属される以 前は、客室乗務員として第一線で働いていたので すが、経営破綻した時には、機内でもそのニュー スが大々的に報道されていましたし、お客さまに 経営破綻の記事が掲載された新聞を配らなくて はなりませんでした。その際に、厳しいご意見をい ただくことも多く、自分が働く会社に誇りを持てな くなり、心が疲弊していった経験があります。です から、このセミナーをきっかけに、スタッフ一人ひ とりがJALで働いていてよかったという気持ちを取 り戻してほしかったのです。会社や自分の仕事に 誇りを持てなければ、お客さまにもよいサービス は提供できませんから。 副島: 「創業当時の精神に立ち返り、これまで培っ た『おもてなしのこころ』を守りつつ、未知の領域 ―プログラムを決めていくうえで、注意したことは 何ですか。 に足を踏み出して果敢に挑戦していく」。 この鶴丸 の新ロゴに込められた想いをはじめ、理念、JALら 大羽:今回の「JALブランドセミナー」は、スタッフ しさを語れない会社だったら、また同じ過ちを繰 全員に、お客さまにどのような価値を提供してい り返してしまう恐れもあります。 「想い」を一つにで くべきか を知ってもらうこと、そして、それを基に きるプログラムにしたい。それがすべてだったの 再出発を図ることが目的でした。JALブランドとし ではないでしょうか。 5 一人ひとりの 「想い」が 未来を変える ―「JALブランドセミナー」で印象に残った場面を 教えてください。 安田:ワークのディスカッション部分ですね。ある 回のセミナーでは、私たちが掲げたこれから大切 にすべきことに対して、 「そんなことは必要ないよ」 と常にネガティブな意見ばかり言うスタッフがい たのですが、入社して間もないような若手スタッ フが「それで は 破 綻 する前と一 緒じゃな いで す か!」 と反論しました。 これをきっかけに、議論が活 性化した場面が印象に残っています。一人ひとり が危機意識を持って、意見を交わしていく……。そ の真剣な表情に、 「私たちは変われる」 と実感でき ました。 える貴重な経験になりました。 安田:そうですね。セミナーが終わっても帰らずに いて、話しかけてくる人も多いんです。ある部門の 女性は、 「働く意味を見失っていたが、これをきっ かけに明日からの生き方が見えてきた」と号泣し て……。私も同じような想いだったので、思わずも らい泣きしてしまいました。 6 いう部分は、現在のJALに最も不足している要素 だと考えていましたので、スタッフが強く関心を示 してくれたことを嬉しく思いました。今後は、 このよ うな機会を継続するとともに、具体的なアクション へと導く施策が必要だと感じています。 3万5千人の ベクトルを 同じ方向に 副島:セミナーをつくっていくプロセスやその効果 など、多くの 発 見をくれ た 機 会 になりました。ま た、2011年9月からセミナーを開始し、1年で約 8,000人のスタッフが参加していますが、その反応 を見ていると、インナーブランディングの重要性を 強く実感することができます。こうした効果をしっ 大羽:セミナーの最後に、ムービーを上映するの かりと継続させるために、社内報で取り上げるな ですが、参加者の多くが涙していました。 「だから ど、さまざまな方法で継続して浸透させていきた JALはダメなんだ」 「JALなんかいらない」 という実 際にいただいた批判の声を知り、お客さまからい ―最後に、 ここまでの「JALブランドセミナー」を総 いと考えています。 大羽:楽しくも厳しい、濃密な時間でしたね。今も 括していただけますか。 安田:とある部門の打ち合わせを見かけたのです セミナーは実施しており、内容もどんどんブラッ 想いを一つにできる場になったと感じています。 が、 「 困ったら原点である『伝統・革新・日本のここ シュアップしていっています。そういう意味では、 また、セミナーで紹介された「他人と過去は変えら ろ』に立ち返ればいい」 という発言が聞こえてきまし LMによい原石となるプランをもらえたと思ってい ただいた感謝の声に初心に立ち返る。スタッフの Motivation Summit Report れない。変えられるのは自分と未来」 というフレー た。JALの「軸」 となる考え方を浸透する重要なプロ ます。3万5千人のスタッフがすべて同じベクトル ズは、多くのスタッフの心に刻まれたようです。セミ ジェクトになっていると実感することができました。 を向けば、もっとすごい会社になれる。私はそう信 ナー後に、話し合いの機会を持つなど、未来を変え 大羽:アンケート結果などを見ても、参加者が一 じています。事業を存続させていただいた感謝の るためのアクションやコミュニティーが生まれて 番、印象に残ったのは、これからのJALをどうする 気持ちを忘れずに、より強いJALを目指して、邁進 いたことが印象的でした。私自身もパワーをもら か、という革新の要素でした。私自身、この革新と していきたいと考えています。 (2012年8月取材) お問合せ先)株式会社リンクアンドモチベーション モチベーションマネジメントカンパニー TEL:03-3538-6715 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