「山寨」携帯電話: プラットフォームと中小企業発展のダイナミクス

中国経営管理学会第 13 回研究大会
自由論題報告要旨
自由論題報告要旨
氏
名
所
属
報告テーマ
報告要旨
ふりがな てい か わたなべ まりこ
丁 可、渡邉 真理子
アジア経済研究所、アジア経済研究所
「山寨」携帯電話:プラットフォームと中小企業発展のダイナミクス
中国の珠江デルタ地域には携帯電話生産の二つの世界が併存してい
る。一つはサムスンや富士康、中興通訊、華為技術、TCL/Alcatel が築
いたブランド携帯電話生産の世界である。いま一つは、「山寨」という
ユニークな携帯電話生産の世界である。
山寨携帯電話は「闇携帯」や「雑ブランド携帯」とも呼ばれており、
一時期、偽物や知的財産権侵害の代名詞であった。しかし、深圳地域で
はピーク時に山寨携帯を製造するシステムインテグレーターが 2000 社
にも達しており、うち 354 社は生産許可を取得し、正規メーカーに成長
している。これらのメーカーにより、年間およそ 4 億台以上の携帯電話
が出荷されており、その半分以上は新興市場向けに輸出されている。
トップブランドメーカーが築いた世界とは異なり、山寨携帯電話を取
り巻く産業システムでは、二つの極限的な前提条件が存在していた。第
一の条件は、工業製品の販売先が、従来の先進国の強い購買力と高い評
価能力を有する中産階級ではなく、完全に新興市場の低所得かつ未熟な
消費者になっていた、ということである。この条件の下で、メーカーに
とって複雑な製品規格を設計する必要がなくなり、劣悪品質の製品を提
供した場合に直面するリスクも非常に低くなってしまった。その結果、
生産と流通を組織する調整費用が安くなり、特定の工程を担う専門的な
中小企業間の緩やかな取引関係が、バリューチェーンを規定する基本的
な分業構造となった。
第二の条件は、産業の潜在的な担い手の絶対多数が、強い組織能力を
有する大企業ではなく、技術手段とマーケティング資源が大いに不足し
ている中小企業になっていた、ということである。この条件の下でバリ
ューチェーンを機能させるためには、中小企業に取って代わり、生産と
流通面で巨額な固定費用を負担し続ける仕組みが必要となった。
以上 2 つの極端な前提条件の下で、緩やかな取引関係で結ばれる無数
の中小企業と、その代わりに固定費用を負担する少数のプラットフォー
ム企業、というユニークな産業システム、いわゆる「山寨システム」が
出来上がったのである。携帯電話の事例では、山寨システムは、MTK
のベースバンド IC と「公板公模」という二つの技術プラットフォーム
と、華強北市場と購買資金プラットフォームという二つの取引プラット
フォームによって支えられている。技術プラットフォームは技術的な参
入障壁を引き下げ、取引プラットフォーム中は新興市場開拓と部品調達
の固定費用を削減し、多数の中小企業の参入を可能にした。