フランス教育学会第 34 回研究大会 シンポジュームのテーマ: フランス

フランス教育学会第 34 回研究大会
シンポジュームのテーマ:
フランスにおける男女別学・共学の歴史的検討
教育の在り方に普遍性を求めようとすることは、人々が常に追求してきた課題である。
しかし現実の教育は、教育事象が展開する所与の諸環境に条件づけられて実体化する。教
育の理想とその現実態には大きな乖離が生れる。近代以降、現代に至るまでの教育形態を
見れば、それぞれの時代での「教育の理想」に関する認識を伺うことができる。教育の理
想態とその現実態の乖離を埋める努力に終わりはない。
現代に生きる我々は、男子も女子も、ひとりひとりがその個性に応じた、その能力を十
全に発揮できることを、教育のあるべきすがたであると考える。しかしながら男子の教育
は男社会への準備として、女子の教育は女社会への準備として考えられてきた長い歴史が
あった。日本においても、フランスにおいても、男子の教育と女子の教育は、同一の枠組
みで考えられるようになったのは、第 2 次大戦後以後のことである。
フランスでの男女共学への道のりは、決して平坦なものではなかった。公立小学校に男
子校、女子校と別建てで建設することをコミューンに義務付けた 1880 年代の小学校設置の
原則は、その後も容易に変容することはなかった。特例的に男女混合学校を設けることは
認められたが、男女混合編成や共学編成の実現を阻むものは思春期・青年期の男女の健全
育成への配慮にあった。問題は、その「健全さ」で語られる人間像であり、性別役割の明
確な区分である。長い歴史過程のなかで、男女別学を正当化したものは何であったのか。
男女別学から共学への転換を促したものは何であったのか。公教育においても、そして私
学においても、男女別学から男女共学への教育編成上の大きな転換が修学者数の驚異的な
拡大とともに事実上進行する。法原理的な転換は 1975 年教育法(アビ法)により明確にな
る。
フランス教育学会で、直接、男女別学・共学を主題としたシンポジュームはなかったが、
2013 年の高松大会の「フランスにおける女性と教育」のシンポジュームは、男女の教育関
係性のなかで女子教育が位置付けられているのであり、実質的には男女別学・共学の主要
な側面に光をあてたものであった。そこでは、尾上会員により第 3 共和政期の女子師範学
校の創設とそのカリキュラムの詳細な分析が行われ、その意義が解明された。赤星会員に
よりジェンダー平等の観点から男女別学・共学の歴史的整理が行われ、ダイナミックに展
開している男女共学の近年の政策動向・到達点が示された。鈴木会員により女子の成績優
位性が指摘されるとともに、女子自身の進路選択の自己規定性が強く働いていることが明
らかにされた。大津会員により道徳・市民教育カリキュラムが分析され、進路指導の過程
でのジェエンダーバイアスの存在が鈴木会員と同様に指摘された(詳細は紀要第 26 号参照
のこと)。
そこで、男女平等に関する教育問題をその歴史の相において捉える研究がこれまで我が
国では十分に行われていないことを踏まえ、今年度の研究大会のシンポジュームでは「フ
ランスにおける男女別学・共学の歴史的検討」をテーマとし、以下のような柱で議論を深
めたい。これにより 2013 年高松大会で取り上げられた「女子教育」のテーマを補完・発展
させ、フランスの男女別学・共学の歴史的な理解を今一度検討したい。
1.フランス大革命以降の公教育学校が男女別学を基盤づけた教育理論
2.ジュール・フェリ改革下の師範学校での児童期・青年期男女の関係性の教授
3.公立学校の共学化に至るまでのいくつかの教育改革議論
~別学編成の実態とその編成上の転換を促したものは何であったのか~
4.家政教育の生成と展開過程における男女の関係性について
~男女別学教科の生成論理とカリキュラム~
もとより今日では、男女といった二分法的とらえ方ではなく、性のグラデーションの議
論や性的マイノリティ(と呼称されてしまう人々)の問題等、教育のあり方と性(別)の
問題は大きくかかわるものとして注目されている。教育は優れて規範性を再生する営みで
あることを考えると、これら性特性に注目したテーマは今後の発展的な研究課題となるで
あろう。
フランス教育学会第 34 回研究大会
実行委員長
大坂
治
(北海道教育大学函館校)