塾長解説を出す 傾きは問題か?

この PDF 化された原稿はノプテル日本代理店
㈲三和管財
さんのご好意でお借りしました
版権は国友銃砲店さんがお持ちで、本書の日本語版が出版されるとこの原稿は処分するようになるかもしれません。
ご承知置きください。なお原文は ISSF ジャーナルに掲載されたもので翻訳・転載については ISSF と国友さんの承
諾を得ております
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塾長解説を出す
ISSF_DOC009
傾きは問題か?
Is Canting A Problem?
Johann Rainer, Austria
UIT JOURNAL 1-98
1994 年、オーストリアのスタイヤー社は、異様な
形態(バレルが引金の上ではなく前方にあり、従来
の伝統的フリーピストルよりも低い位置にある)の
フリーピストルを出荷しました。この銃の利点は、
発射の瞬間にバレルと手首を急激に回転させる反動がないことですが、その代わり手首にダイレク
トな衝撃を与えます。幾分強い反動を感じさせますが銃身はほとんど跳ね上がりません。このピス
トルには銃身位置よりはるかに高い照準線を必要とするという不利な点も持ち合わせています(フ
ロントサイト上端は通常のバレル中心よりの高さのほぼ2倍の40ミリに設定されている)
。
いかなる傾斜変化も、とても大きなエラーとプアーショットを発生させるため、ピストルの垂直
位置の保持により大きな注意を払われなければなりません。ここまでは、まさに論理的といえるで
しょう。
さて、このことは本当に 論理的 でしょうか?この記事の目的は、この一般的意見がいくつか
の理由から間違いであることを明らかにすることです。
第一に、特にピストル射撃においては、特にリアーサイトが水平位置をはっきりと正しく示すの
で、銃の誤った傾斜はほとんど起こらない点を知る必要があります。
第二に、ライフル射手にあっては、傾斜によって頬に対するチークピースの圧力が大きく増減し、
照準器の位置の高い方がより大きく傾くため傾斜変動に気づきやすくなります(チークピースは照
準線の軸からより遠く離れ、同一傾斜角度では位置の変化が大きくなります)
。
第三に、正確な据銃位置から発射して 10 点や 9 点圏の中心に命中するとき、傾斜変化を最大 5
度とって発射しても同一リングに命中します。この計算は簡単です。
ただし、点圏の境界に接する発射では傾斜角度の誤差は、不利と有利の両方をもたらします。左
方 10.1 の発射を左に傾けると 9.9 になるので不利ですが、右方 9.9 は(同様に左へ傾けると)10.1
になるので有利となります。これらの有利と不利は、10 点の高さで標的に命中する発射に対して実
際上は同等です。しかしながら、点圏間の境界に高さで接する発射(例、6 時の 10.0)に対しては、
不利が増大することを認めなければなりません。これについては確率論の領域に踏み込まなければ
ならず、実際の射撃ではあまり意味の無いことです。
第四に、私達は同一傾斜角度の発射であっても、ハイサイトブロックなどで高くした照準位置か
ら発射すると、もっと悪い結果になると仮定する迷信に基づいて議論しています。
それは間違いです!うそように聞こえるかもしれませんが、簡単な実験によってそれを証明する
ことができます。その実験は、ライフルの長い照準線が支持具または照準台に乗せて行う精密射撃
に最適なため、ピストルよりもライフルで実行するとより簡単です。
実験の結果、ライフルのみならず全ての銃(AR,AP, CP, 散弾銃、アーチェリー、クロスボウ、
先込め銃など)で、バレル上のフロントサイトの高さは傾斜とまったく関係ないことが証明されま
した。実験には通常の最新式競技用 AR(実験全体を通して、通常使用されるものと同じ銃と弾薬
(メーカーと直径)
)を使用し、低位置のサイトで 1 ラウンド、いくつかの異なる位置につけられ
たサイトでそれぞれ 1 ラウンドの射撃を行いました。
射手は、通常1・2種類の高さのサイトセットを使用するだけなので、最大 10cmの位置に合成
材料、木、金属などの保持材を使ってリアーサイトとフロンとサイトを移動させれば十分と言えま
す。実験補助部品は、粘着テープか粘着材でしっかりと止めます。最新式 AR にはリコイルが全く
ないため、射手が照準器にぶつかるのを避ければこれで充分です。各位置のリアーサイト及びフロ
ントサイトは、10 点に命中するように銃と共に調整してからテストをしなければなりません。
図に示す様な構造でリアーサイトも取付けてテストが可能となります。まるで、カーニバル
の試合です。
(注)原文中、照準位置の実験について Low sighting, Elevated
sighting、Lateral sighting と表現されているが、この文章ではそれ
ぞれを低位置(バレルに直接サイトを取付けた位置)、高位置(低位
置よりサイトを 10cm 高く取付けた位置)、横位置(左に 10cm オフセ
ットした位置)と記述する。
第一テスト。低位置。
初めに銃を台に載せ、低位置で垂直(銃の傾斜角 0 度)を保ち 10 点を狙って撃つことからテス
トを開始しました。次に、ライフル銃を左横向きになる 90 度まで数段階に分けて傾け、角度毎に
同数の弾丸を全て同一標的に発射しました。その結果弾着点によって半径約 20mmの四分の一円が
10 点から左下に向けて描かれ、コンパス測定では 10 点の 20mm下を中心とする直径約 40mmの
円でした。
第二テスト。高位置。
初めに 10 点を精密に撃つテストから全体的な手順を繰り返しました。
迷信によれば、
照準を 10cm
高くして前述と同一の傾斜角度で発射すると、前の弾着点よりも半径と偏りはおよそ 4 倍大きくな
るはずです。しかしながら、これは事実ではありません。90 度の角度を描く着弾点の円形の並びは、
前回と同一サイズでした。低位置で撃った標的を高位置で撃った標的の上に重ねて置くと、双方の
弾痕形状が一致しました。
第三テスト。横位置。
右利きの射手は、左目照準ができるので照準器を左にシフトした横位置で 1・2 のテストと同様
にテストを開始しました。高位置に関する意見と同様にここでも同じ意見「オフセットサイトは通
常より離れているので、低位置で傾斜させるよりもっと大きな傾斜の影響が出る」が優勢を占めま
す。
しかしここでも、前述の実験と同一方法によるテストを実行すると、同一結果となりました。
テストのための傾斜角度は正確に設定できます。ある一定角度を保持するため、三角定規の 30
度、45 度、60 度を利用し、あるいはボール紙、プラスティック、材木を他の角度にカットしてそ
れで銃を支え、さらに助手か射手のどちらかが手でしっかりとそれを支えます。
射手は、3 つの照準器(低位置、高位置、横位置)を通して、各照準器に対応するそれぞれの標
的がはっきり見え、同一角度、同一弾着点となるようセットします。射手は、いつでも右から左へ
あるいは左から右へ自然に変更できることをここで強調しておきます。すなわち、右利き射手が銃
を右に傾けて左目で照準しても、本質的に同じ保持ができるのです。
さて、私達は弾丸の飛行経路から照準線までの距離が何の役割も果さないことを見てきました。
これに対する理論的な説明を考慮してみます。すべての弾丸は重力の力によって地面に引かれます。
さもなければ、それはまっすぐ宇宙へ飛んで行きます。放物線を描く飛行経路は、照準位置がどの
くらい高くあるいは横へずれているかにかかわらず、不変であり続けます。3つのテストに使用し
た各標的の 10 点を照準させた状態で銃を置き、装填口の安全蓋を上げ、バレルを通して(通常小
さい鏡を必要とする)標的を見れば簡単に解ります。
バレルは、10 点の 20 ミリメートル上、ほぼ 12 時 2 点に指向させられています。照準線を軸と
して銃を回転させると、バレルの指向点は各照準器(低位置、高位置、横位置)との位置関係を保
ちながら変移し、例え銃が逆さまになった状態であっても 2 点を指向し続けます。
傾斜角 0 度で発射された弾丸は常に 20mm下の 10 点に命中
し、それが左に 90 傾くと左下のゼロ(左へ 20mm、下へ 20
mmの位置)に命中します。180 度では 40mm下のゼロに命中
し、右に 90 度傾ければ右下の(右へ 20mm、下へ 20mm の位
置)に命中するのです。
注)2つの図は、翻訳者自身の理解を深めるため作成。
ライフル射手が銃を毎回わずかに傾けることは、多くの射手にとって当然の状態です。しかしな
がら、バレルは照準線に対してわずかにずれ、銃口は常に 10 点の 20mm上を指向しています。そ
れゆえ同一の結果がこれらのテストで成しとげられるのです。
低位置(バレルはもっと下)よりも、サイトを高位置にしてもっと銃身に角度を持たせて弾丸を
発射する考えについて、それが引き起こす問題は現実的には無視できるものです。
一方、射手にとってバレルがずっと下に取付けられていることは特に問題ではありません。現実
的には、射手は自動的に自分の頭を高く自然な状態で保持するようにフロントサイトをより高く上
げるので、従来考えられていた問題点は真実ではないかあるいは部分的に正しいだけです。また照
準器の一般的な設置方法による飛行経路の高さを調節するための銃身の上方への角度は、およそ 1
度傾斜にしているだけです。
このように不規則な銃の傾斜による着弾誤差は、高位置、横位置照準ともに低位置と同様の量で
あると言えます。これは全ての照準器にとって通用する真実です:切込み式リアーサイト、ピープ
リアーサイト、散弾銃のスコープ、クロスボウ、その他。
側方偏移に影響を及ぼす弾丸あるいは銃から生じる唯一の要因は、弾速すなわち落下量です。速
度の遅い弾丸は落下量が大きく、バレルの指向位置は 10 点上方のより高い点になければなりませ
ん。このケースでは、偏移は同様に大きくなります。明らかな例はクロスボウ射撃です。競技用ク
ロスボウの矢は約 50m毎秒の速度しかないので(AR,AP は 150 から 200m毎秒)、10m競技でも水
準器が必要です。
傾斜によって遅い弾丸が幾分多く影響を受けますが、ライフルおよびピストル各分野において、
火薬量、AR の発射タイプ、バレルの長さなどの差異異と弾薬はわずかな役目を演ずるだけです。
この要因は非常に小さく、SBR の新しいバレルの長さ(65 から 70cmが 50cmに変わった)で
試験しても測定さえすることができません。
最後に、傾斜に関する間違った仮定が生じた理由を調査しました。これには二つの主な理由があ
りました。第一に、同一傾斜角度においては、低位置よりも高位置のほうがバレルと照準器がより
離れていることです。しかし、銃に関する相互(銃口とサイト)距離ではなく、標的上の相互(着
弾点と銃口指向点)距離が決定的である事実が見落とされていました。
第二の理由はテスト前の調整結果です。もちろん傾斜テストは何回も実施されたでしょう。しか
し、照準位置と着弾位置を合致させる照準調整は、標的上の着弾位置と照準位置の間隔を確立する
唯一の修正方法なので、いずれの照準位置であっても正確なテストのためにまず銃の正確な照準調
整をしなければなりませんが、それを見落としていたのです。高い照準による高すぎる着弾位置を
修正しなければ、傾斜時の弾痕はもっと側方偏移させられます。
また、いくつかの間違った「結論」に対して間違った対応が行われていました。
・
高位置でライフルを試験すると正常な側方偏移となるが、低位置から標的の高い位置へ射
撃を試みると横偏差はもっと大きくなる!
・
あるいは、下の 2 点を照準した低位置、高位置、横位置で、しかもすべての位置において
傾けて試験すると、すべてのショットは下の 2 点となる。
これに対する説明:
前述したように、照準器とバレル双方を通して見ると、全ての角度で両方の照準・指向点が同じ
点にあることがわかります。すなわち 10 点です。そして発射された全ての弾丸は、20mm低い 2
点に当たります。あるいは、下のゼロを狙いより低くして(ここで再び低位置、高位置、横位置)
テストされました。
今回、傾斜は指定された方向へ作用します:左に傾けると右に当たる。この理由は、もう一度照
準器およびバレルを通して見ると理解できます。フロントサイトのインサートは 10 点を照準し、
銃口はいくぶん下を指向しています。銃を左に傾けると、バレルは射手に対し右に回転するだけで
なく、標的上でもまた右に回転します。
この不明瞭で悩ませる結果は、射手の間(専門書や雑誌にも)に「銃を傾けている間の偏差は、
弾丸経路から照準線までの距離と同等である」との意見を発生させました。
さて、AR を脇に置き、リコイルを発生する銃を取り上げます。SP や SBR から CP 、LBR や
散弾銃までの銃砲のなかで、しっかりと銃砲を保持しまたはスリング・クランプで把握を引き締め
ることは練習において一般的にもっと良く行われますが、それは傾斜の誤りに対する理論とまさし
く反対のことをしているのです。
銃砲を発射する姿勢において、ゆるく保持して銃を発射すると銃は高く跳ね上がります。銃を傾
け、銃の動きを少なくし銃をしっかり構えると、バレルは標的の 10 点のわずか上を指向します。
しかしながら、これはすでに記述したように単なる理論です。
この記事の準備に際し、AR で説明したような同一のテストが SBR でも実行され、同一の結果
となりました。射手が不規則な、あるいは一定でない据銃方法による結果に対する注意と同様に、
リコイルに関連して生じるプアーショットやいくつかの不規則を思い出して反動でずれたりしな
いよう十分に固定した高位置サイトに類似した方法を使用すれば、傾斜位置は重要な部分に影響を
与えません。
結論として、この記事に記述した他の誤りと同様に安定した銃の傾斜は、射手の技術や完全な弾
道より射手自身にとってもっと重要(クランプと筋緊張を見なさい)であると言うことができます。
それはすなわち、勝利か失敗かを決定するのは装備ではなく射手であることを意味しています。
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