温故知新-茶運び人形を作る

温故知新-茶運び人形を作る
11 班
谷本 啓示
1. 緒論
「からくり」という言葉を辞書でひくと,
「糸・ぜ
んまい・水などの動力を利用して,人形や器物を動
かす仕掛け.
」と記載されている 1).文献的な「から
くり」に関する記述は平安時代より現れ,江戸時代
中期にはからくり興業として人気を博した 2).江戸
時代は相当昔であるが,からくりの図本を見ると,
現代でも応用できうる機構やアイディアがふんだん
に記載されていることがわかる.
そこで自分は創造演習で,江戸時代の数あるから
図1
茶運び人形の図本
2)
くり人形のひとつである茶運び人形を実際に設計・
製作することをテーマとして実施した.
2. 機構
以下,参考文献 2)に記載されている茶運び人形を
車輪
ピン
心車
「オリジナル」,
自分が製作した茶運び人形を
「実機」
と記述する.
オリジナルの図本を図 1 に示す.オリジナルの機
構の中で,実機に活用した機構を以下に記述する.
2.1 動力
動力にはぜんまいが使用されている.
2.2 動力伝達
ぜんまいで発生した動力はシャフト①,車輪,心
車,行司輪の順に伝わる.車輪と心車は歯車で,最
終的に行司輪に動力を伝える役割を持つ.動力伝達
行司輪
シャフト①
(a)
(b)
腕
シャフト②
の動作は図 2 に緑色矢印で示した.行司輪の役割は
2.4 と 2.5 に記述する.
2.3 手
茶運び人形の手には実際にものを乗せる.両腕の
付け根はシャフト②でつながっている.さらに腕・
シャフト②は2つの部分につながっている.一方は
ピンである.役割は 2.4 に記述する.もう一方は板
バネである.板バネにつながることによって,もの
乗せると手を水平に保ち,ものを外すと手が上向き
になる.
(c)
2.4 発進と停止
発進と停止は 2.2 の行司輪と 2.3 のピンによって
行われる.ピンはガイドの中を縦に動く.手にもの
図 2 各機構の動作 (a)動力伝達
(c)手
が乗るとピンが沈むことで行司輪の釘に引っ掛かり,
茶運び人形が停止する.手からものが外れるとピン
3. 設計・製作
が浮くことで,行司輪が滞りなく回るようになり,
茶運び人形が再び動き出す.発進および停止の動作
は図 2 にそれぞれ赤色矢印、青色矢印で示した.
設計・製作は主に参考文献 2)を元に行った.完成
した実機の図を図 3 として示す.
3.1 動力
(b)発進と停止
動力のぜんまいとその筐体には,ダイソー社の
「ぜ
んまい式 ファニーマウス」の動力部分を利用した.
3.2 動力伝達
3.3 手
茶運び人形の手について,手の先に板を取り付け
ることで,ものを乗せたときに水平に保ちやすくし
動力と他の部品の配置の観点から,元の動力のシ
ャフトを直径 2 mm,長さ 100 mm のシャフトに変
た.またシャフトの割れを防ぐために,ピンは腕と
結んだ.シャフトの釘と板バネ,および手とピンを
更した.車輪について,オリジナルは片方の車輪だ
けが歯車となっていたが,実機では両方の車輪に同
じ歯車を用いたことで,安定性を確保した.行司輪
結ぶものは,オリジナルでは鯨の髭とされているが,
入手が困難のため,前者には板バネによる荷重がか
かることから,丈夫かつ長さの伸縮が少ない針金を
は円形に加工した木板の同心円上に8本の釘を打つ
ことで作成した.
用い,後者には荷重があまりかからないことから,
取り回しのききやすい紐を用いた.
3.4 発進と停止
発進と停止に用いるピンにはねじを用いた.ガイ
ドは穴をあけた木片で作成し,胴体に固定した.
茶運び人形 実機
縦
80 mm
横
高さ
80 mm
80 mm
重さ
83 g
3.5 その他
軽量化の観点から,胴体は厚さ 2 mm のベニヤ板
で作成した.前輪は木で作成した.
4. 実機の動作と考察
まず手の動作について考察した.板にのせるもの
について,ピンが行司輪に干渉せず,かつ板がほぼ
(a)
水平になるときの重量を最低重量と定義する.10 g
刻みで測定した結果,50 g が最低重量となった.以
降,板にのせるものとして,板と同じ面積を持つ鉄
ピン
板を重ねてテープで留めて作成した,合計 70 g のお
もりを使用した.
次に実機の走行性能について考察した.まず実機
を水平な発泡スチロールの上で走行させようと試み
たが動かなかった.次に斜面を可変の発泡スチロー
おもり
ルの斜面上で走行させた結果,水平面に対して斜面
のなす角度が 17 度の時に初めて車輪が滑らずに転
行司輪
(c)
(b)
心車
がった.水平面で実機が走行できなかった原因とし
ては,使用したぜんまいから発生するトルクの不足
が,主な原因のひとつとして考えられる.
板バネ
車輪
5. 結論
江戸時代に発行された茶運び人形の図面から機能
を取捨選択,そして現代では手に入りにくい部品を
ほかの部品で代用するなどの工夫をすることで,17
度以上の斜面において 50 g 以上のものをのせた状
態での発進と停止を行える茶運び人形が完成した.
動力
(d)
図 3
茶運び人形実機 (a)全体と諸データ
もりを乗せた場合 (c)行司輪とピン
車 (e)動力と板バネ
また材料について,動力と歯車以外はほぼ実験室に
あったものを使用したため,低コストで製作をする
ことができた.
(e)
(b)お
(d)車輪と心
参考文献
1) 松村 明,大辞林 第三版,三省堂(2006)
2) 菊池 俊彦,江戸科学古典叢書 3 璣訓蒙鑑草・機
巧図彙,恒和出版