第4回講義資料

第5章
人間開発と社会の豊かさ
松繁寿和
1
本章のねらい
教育や訓練がどのように富を生み出すかを
考える。
2
本章の内容
1.仕事の現場において必要とされる能力
2.経済成長と教育の役割
3.公共政策としての教育
4.教育政策の課題
3
基本概念とキーワード
• 基本概念:
人的資本 (Human Capital)
変化・異常への対応能力
• キーワード:
教育・訓練、OJT、 研究開発、 技術、
社会参加
4
参考文献
1.猪木 武徳(1993)『新しい産業社会の条件 - 競争・協
調・産業民主主義 (シリーズ現代の経済) 』岩波書店
2.猪木 武徳(2009) 『大学の反省』 エヌティティ出版
3. 藤本隆宏(2003)『能力構築競争 - 日本の自動車産
業はなぜ強いのか』中公新書
4.小池 和男(2005)『仕事の経済学 』東洋経済新報社
5
図表5-5 高校、短大・大学への進
学率の推移
高校進学率
短大・大学進学率
%
100.0
96.5
90.0
80.0
70.0
60.0
50.0
49.3
40.0
30.0
20.0
10.0
19
50
19
53
19
56
19
59
19
62
19
65
19
68
19
71
19
74
19
77
19
80
19
83
19
86
19
89
19
92
19
95
19
98
20
01
20
04
0.0
a. 高等学校の通信制課程の進学者を除く
b. 大学・短期大学の通信教育部への進学者を除く
出所: 『文部科学省統計要覧 2007年』より作成
6
1.現場で必要とされる能力
• 技能
• 異常への対応
• 改善
7
現場の能力 I
• 仕事は目と手で覚える
– マニュアルはガイドラインに過ぎない。
– できる人の仕事を見よう見まねで覚える。
– マニュアル化されない知識が重要
『熟練は現場で起こっている。』
参考文献 4
8
現場の能力 II
• 熟練のステップ
–
–
–
–
–
–
失敗が少なくなる。
繰り返すことで、早くできるようになる。
同じような他の仕事もできるようになる。
できる仕事の数が増える。
生産工程全体がわかるようになる。
工夫がおきる。
『熟練は現場で起こっている。』
OJT: On the Job Training
仕事に就きながらの訓練
9
技能向上の過程 1
1. 初任研修
2. 先輩との共同遂行
①
②
③
④
⑤
簡単な作業から徐々に難しい作業へ
作業範囲の拡大
主従の交代
立ち会われての試験的独り立ち
時々の応援
3. 一人だけでの遂行
① 遂行時間の短縮
② トラブル時の応援 (欧米はここまで)
③ 自分の仕事における小さなトラブルの解決
④ 自分の仕事の改善
10
技能向上の過程 2 :高卒の役割
4.他の仕事の経験(日本の製造現場の特徴)
① 遂行可能な仕事の増加
多能工化
② 生産工程に関わるようなトラブルの解決
異常への対応
③ 他の職場と連携したトラブル解決や改善
改善
11
現場における学校教育の役割
• 改善
– 問題に関するレポートの作成(文章が書ける)
– 見取り図、展開図
• Quality Control
– 比率の計算
– 平均値
– 折れ線グラフ
12
製造品質(93-94年)
35.0
29.6
30.0
26.5
時間/台
25.0
20.0
18.2
20.0
14.7
15.0
10.0
5.0
新
興
国
業
州
欧
に
お
米
に
お
け
る
北
け
る
欧
米
州
企
企
業
業
企
本
け
る
日
に
お
米
北
本
に
お
け
る
日
本
企
業
0.0
日
図表5-1
世界の量産
自動車メー
カー
1台あたり組
立時間数
出所:藤原隆宏(2003)『能力構築競争』中公新書、p.284 より抜粋
参考文献 3
13
組立生産性(93-94年)
87
72
け
る
欧
国
興
企
州
米
け
る
北
に
お
州
欧
米
に
お
け
る
日
に
お
米
北
業
業
企
業
企
本
企
本
け
る
日
に
お
本
65
57
新
59
業
100台あたり欠陥個所数
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
日
図表5-2
世界の量産自
動車メーカー
100台あたり欠
陥個所数
出所:藤原隆宏(2003)『能力構築競争』中公新書、p.284 より抜粋
14
2.経済成長と教育の役割
• 技術革新
• 研究開発
• 理系大卒
参考文献 4
15
技術革新:理系大卒の役割
• 生産性の飛躍的上場
– 労働者一人あたりの生産性の上昇は、労働
時間の増加だけでは説明できない。
– 労働者の努力だけでも説明できない。
– 基本には生産技術の革新がある。
16
労働生産性の変化
280
260
240
220
200
GDP指数
就業者指数
労働生産性指数
180
160
140
120
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
100
80
年
出所: 松繁寿和著 「労働経済」 日本放送出版協会 2010年 92頁
17
年間総実労働時間数の推移
2300
2214.5
2084.9
2200
2031.2
2100
1851.6
1900
1800
1842.0
1700
1600
1500
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
時間
2000
年
「毎月勤労統計調査」(事業所規模30人以上)
出所: 内閣府 『平成19年度 年次経済財政報告書』 長期経済統計
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je07/07b09050.html
産業別資本労働比率
鉱業
建設業 製造業 食料品 繊維工業
パルプ・
紙
1990年
32.3
4.1
14.5
8.8
37.4
22.3
2005年
38.7
6.1
20.2
13.3
44.3
30.0
製造業
出版・ 化学工 窯業・
印刷
業
土石
1990年
2005年
10.0
19.3
36.7
46.1
23.8
36.9
鉄鋼業 非鉄金属 金属製品
72.1
57.3
17.8
28.2
11.6
20.1
製造業
一般機 電気機 輸送機
卸売・ 金融・
精密機械
械
械
械
小売業 保険業
1990年
10.3
18.6
12.5
11.3
4.7
2005年
15.8
27.1
18.6
17.4
7.8
資本:「民間企業資本ストック」
労働:「毎月勤労統計」、常用労働者数×年間実労働時間
6.2
12.2
資本労働比率
=資本投入量/労働投入量
日本の高度成長期
鉄鋼業の生産能力と労働生産性の推移
労働生産性指数
生産量指数
1955年
100.0
1965年
210.7
1975年
611.3
1975年/1965年
2.9
置塩・石田(1981)表4-1、表4-3より作成
100.0
437.5
1087.5
2.5
出所: 「日本の鉄鋼業」 置塩信雄・石田和夫共著、有斐閣
20
数倍に伸びる生産性
鉄の生産量の推移l
120000
100000
1000t
80000
平炉
転炉
電炉
合計
60000
40000
20000
0
1946 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1993
出典: 戦後日本産業史, 1995, 東洋経済, p1154-55
21
日本の高度成長期
鉄鋼大手5社の従業員数の推移と転炉によ
る生産
従業員数の推移
1961年
1965年
1970年
1975年
1975年/1961年
1975年/1965年
置塩・石田(1981)
転炉による粗鋼生
産量(1,000M/T)
157,088
163,271
193,961
188,815
1.20
1.16
出所: 「日本の鉄鋼業」 置塩信雄・石田和夫共著、有斐閣
5,357
22,629
73,847
84,428
13.79
3.73
22
研究開発と経済成長
• 家計の収入の一部を消費しないで、教育費に回
す。 → 将来への投資
• 企業の利益の一部を、研究開発費に回す。
→ 将来への投資
• 国家の収入の一部を消費しないで、教育費に回
す。 → 将来への投資
教育水準は将来の経済成長に影響する。
23
強まる研究開発の重要性
•
•
•
•
巨大設備 + R & D さらなる規模の経済
 ビックプレーヤー
選択と集中 + 知財
技術に基づく経営判断
–
–
–
–
エレクトロニクス
コンピューター
セミコンダクター
製薬
24
グローバル経済と寡占:エレクトロニクス
PC
Cellular Phone
DVD Recorder
Liquid Crystal TV
Plasma Panel
Digital Camera
TFT Panel
DRAM
1st
2nd
3rd
Dell
HP
IBM(Renobo)
17.8
15.7
5.9
Nokia
Motorola
Samsung
30.7
15.4
12.6
Panasonic
Phillips
Sony
29.4
16.0
16.0
Sharp
Sony
Panasonic
34.1
12.5
10.7
Samsung
LG
Panasonic
24.4
22.0
20.1
Canon
Sony
Olympus
23.6
23.4
14.9
Samsung
LG
Sharp
18.7
15.4
12.3
Samsung
Hynix
Micron Technology
28.5
16.2
15.9
Sum
39.4
PC and
Communication
58.7
61.4
57.3
Electoric
Appliances and
Electronics
66.5
61.9
46.4
PC
60.6
出所:日本経済新聞 アジア・オセアニア版 2005年7月19日
25
グローバル経済と寡占:製薬産業
26
出所: 株式会社メディサーチ http://www.medisearch.co.jp/doukou_kakukaihatuhi.htm
戦略の時代:文系の役割
研究開発は必要、しかし、設備投資は
必要としない
• 標準化の競争
--- ゲームのルールを考えだす。
• コピー可能
--- 知財
27
世界市場における産業戦略:文
系の役割
必ずしもよい製品が最も売れるわけではない。
R&D
1. ボトルネックテクノロジー
•
OS
(e.g. Windows vs. TRON)
2.
デファクト・スタンダード
•
3.
qwerty
技術と制度間の補完関係
•
•
•
qwerty + 学校教育
ソフト + 資格
ソフトの組み合わせ
--- ワープロソフト + 表計算 + インターネット
経営(政策と戦略)が大事
文系の能力の立て直し
28
3.公共政策としての教育
• 知恵交換の基盤
29
N人の社会での知恵の交換
〔設定〕
・各人1万円分の価値のある別々の情報を持っている。
・1人とコミュニケーションが取れれば1万円の価値のある知識が得られる。
教育水準が低く、十分に情報交換ができない場合(例、低い識字率、外国
語)
社会全体の知的価値=N×1万円=N万円
教育水準を上げて、全員の間で情報が交換できるようになる。
社会全体の知的価値=N+N×(N-1)万円=N2
教育にお金をかけて一人情報交換ができる人を社会のメンバーを増やすと
( N2)’=2N
だけ、社会の富が増える。
30
日本の教育投資の水準
国内総生産に対する学校教育費の割合(2003年)
国内総生産に対する学校教育費の割合(2003年)
8.0
7.0
6.0
5.9
4.8
%
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
ド
イ
ツ
イ
タ
リ
ア
オ
ラ
ン
ダ
日
本
ス d
ペ
イ
ン
チ
ェ
ア
コ
イ
ル
ラ
ン
ド
ギ
リ
シ
ャ
トル
コ
f
ア
韓
メ
国
リ
カ
合
衆
国
デ
ン
マ
ー
ク
メ
ニ
キ
ュ
シ
ー
コ
ジ
ー
ス ラン
ウ
ド
ェ
ー
デ
ン
ノ
ル
ウ
ェ
ー
ス
イ
ス
ポ
ー
ラ
ン
ド
フ
ラ
ン
ス
イ
ギ
リ
ス
ハ
ン
ガ
フ リー
ィン
ラ
ン
ベ ド
O
ル
E
ギ
C
D
各 ー
国
平
均
カ
ナ
ポ ダf
ル
ト
オ
ー ガル
ス
トラ
リ
オ
ア
ー
ス
トリ
ア
0.0
a 教育機関への家計支出に対する公的補助及び国際財源からの直接教育支出を含む。 b 「高等教育以外の中等後教育」を含
む。 c 教育機関への公的補助を除く。 d 前年4月から始まる学校年度。 e 一部の教育段階が他の教育段階に含まれる。
f 2002年。
31
出所: OECD Education at a Glance ( URL: http://www.oecd.org/)
人間開発に関する国際比較
HDI、GDI、GEMの比較
HDI (人間開発指数)
順位
国名
1.000 ノルウェー
2.000 アイスランド
3.000 オーストラリア
4.000 アイルランド
5.000 スウェーデン
6.000 カナダ
7.000 日本
8.000 米国
9.000 スイス
10.000 オランダ
11.000 フィンランド
12.000 ルクセンブルグ
13.000 ベルギー
14.000 オーストリア
GDI (ジェンダー開発指数)
HDI値
順位
国名
0.965
1.000 ノルウェー
0.960
2.000 アイスランド
0.957
3.000 オーストラリア
0.956
4.000 アイルランド
0.951
5.000 スウェーデン
0.950
6.000 ルクセンブルグ
0.949
7.000 カナダ
0.948
8.000 米国
0.947
9.000 オランダ
0.947
10.000 スイス
0.947
11.000 フィンランド
0.945
12.000 ベルギー
0.945
13.000 日本
0.944
14.000 フランス
・
・
・
40.000 エストニア
0.858
41.000 リトアニア
0.857
42.000 スロバキア
0.856
43.000 ウルグアイ
0.851
44.000 クロアチア
0.846
45.000 ラトビア
0.845
46.000 カタール
0.844
47.000 セーシェル共和国
0.842
48.000 コスタリカ
0.841
49.000 アラブ首長国連邦
0.839
50.000 キューバ
0.826
出所:男女共同参画白書(平成19年版)
GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)
GDI値
順位
国名
GEM値
0.962
1.000 ノルウェー
0.932
0.958
2.000 スウェーデン
0.883
0.956
3.000 アイスランド
0.866
0.951
4.000 デンマーク
0.861
0.949
5.000 ベルギー
0.855
0.949
6.000 フィンランド
0.853
0.947
7.000 オランダ
0.844
0.946
8.000 オーストラリア
0.833
0.945
9.000 ドイツ
0.816
0.944
10.000 オーストリア
0.815
0.943
11.000 カナダ
0.810
0.943
12.000 米国
0.808
0.942
13.000 ニュージーランド
0.797
0.940
14.000 スイス
0.797
・
・
・
40.000
41.000
42.000
43.000
44.000
45.000
46.000
47.000
48.000
49.000
50.000
クロアチア
ラトビア
コスタリカ
アラブ首長国連邦
ブルガリア
メキシコ
トンガ
パナマ
トリニダード・トバゴ
ルーマニア
ロシア
・
・
・
0.844
0.843
0.831
0.829
0.814
0.812
0.809
0.806
0.805
0.804
0.795
40.000
41.000
42.000
43.000
44.000
45.000
46.000
47.000
48.000
49.000
50.000
パナマ
ハンガリー
日本
マケドニア
モルドバ共和国
フィリピン
ベネズエラ・ボリバル共和国
ホンジュラス共和国
エルサルバドル共和国
エクアドル共和国
ウルグアイ
0.568
0.560
0.557
0.554
0.544
0.533
0.532
0.530
0.529
0.524
0.513
32
4.教育政策の課題
• 政府
• 教育効果
33
教育政策のあり方
どのような教育をどの程度、おこなうか。
1.
–
–
–
↓
•
高等教育か、中等教育か、初等教育か
職業訓練か、普通科教育か
変化の早い社会における必要な能力とは
教育の効果に関する測定
–
–
–
大学入試結果とその後の人生
中学入試と人材
先進国と低開発国間の教育格差
だれがおこなうか。
2.
–
–
政府か、企業か、個人か
公立の役割とはなにか
参考文献 1
34