五十嵐レポート - 三菱UFJ投信

五十嵐レポート
2009 年度
第1号
三菱UFJ投信株式会社 発行 2009年4月22日
当「レポート」の内容は 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社調査部長の五十嵐 敬喜
によって作成されております。
五十嵐 敬喜(いがらし たかのぶ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社調査部長
株式会社三和銀行(現株式会社三菱東京UFJ銀行)資金証券為替部(ニューヨーク)勤務などを経験。
テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」にゲストコメンテーターとして出演のほか、各種テレビ・ラジオ等に
出演。新聞・雑誌等へのレポート、コメント掲載等も多数。
お客様資料
ドルの地位は揺らいでいるか
強まる「ドル基軸通貨体制」への懸念
基軸通貨ドルへの信頼が揺らいでいるようです。中国人民銀行の周小川総裁は 3 月 23 日に発表した論
文で、「主権国家とつながっていない通貨を創出することは国際通貨体制改革の理想的な目標だ」と主張
しています。
「基軸通貨国だけで世界に十分な流動性と通貨安定を提供することはできない」とも言って
います。またデスコト国連総会議長(元ニカラグア外相)は 4 月 14 日に「(6 月の国連加盟国の首脳会
合で)米ドルを最も有力な準備通貨の地位から外すべきかについて議論される可能性が高い」と発言し
ました。金・ドル本位制を意味するブレトンウッズ体制(1970 年代前半に崩壊)からの連想でしょうが、
「ブレトンウッズⅡ」が必要だという声もあります。
図 1 外為市場における通貨別取引シェア
(%)
その他, 27.5
カナダドル,
4.2
豪ドル, 6.7
スイスフラン,
6.8
米ドル, 86.3
英ポンド, 15.0
円, 16.5
ユーロ, 37.0
(注)2007年4月の平均値。それぞれの取引には2種類の通貨が関わるため、
通貨別取引シェアの合計値は200%となる。
(出所)BIS「Foreign exchange and derivatives market activity in 2007」
こうした発言の背景には何があるのでしょうか。サブプライム問題を契機とするアメリカ発の金融危
機が現在の世界的な金融経済危機に発展しました。そこから生まれた「アメリカはけしからん」という
思いが、そのままドル基軸通貨制への非難や否定につながっている面はあるでしょう。しかしあくまで
も主眼は、将来大きく下落する恐れがある通貨をこのまま基軸通貨にしておいていいのかという懸念の
表明ではないでしょうか。世界中の政府や投資家がドル建ての資産を持っています。ドルが下落すれば
それらの資産が目減りするのは言うまでもありません。200 兆円相当にも上る世界最大の外貨準備の大
○当資料は、投資家のみなさまに対して参考となる情報の提供を目的として、三菱UFJ投信が作成したものです。○当資料の内容は、作
成基準時点のものであり、将来予告なく変更されることがあります。また、将来の市場環境や運用成果等を示唆ないし保証するものではあ
りません。○当資料は、信頼できると判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。○
当資料中のグラフ・数値等は、過去の実績・状況であり、将来の市場環境等や運用成果等を示唆・保証するものではありません。また税
金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。○当資料は、特定の有価証券等の勧誘を目的と
するものではありません。
1
五十嵐レポート
半をドルで保有している中国は、ドルが下落すれば最大の被害者になります。その国の中央銀行の総裁
が改革の必要性を訴えることに驚きはないでしょう。
とはいえ「ドル基軸通貨制」への懸念は、ドルの代わりに例えばユーロやその他の通貨を基軸通貨に
すべきだという主張に直結するわけではありません。周総裁が言う「主権国家とつながっていない通貨」
とは、SDR のようなものを想定しているのだと思われます。しかもそれを流通させるというよりは、ま
ずは国境をまたがる取引の価格決定に利用しようということではないでしょうか。
バスケット通貨としての SDR
SDR(Special Drawing Right)とは IMF の特別引き出し権の略称です。SDR は加盟国の合意によって
一定額が発行され、各国に割り当てられます。国際収支が悪化した国は、自国が持つ SDR を他の加盟国
に渡して、代わりに必要な外貨を手に入れることができるという仕組みです。この場合 SDR を受け取っ
た国は、要求された通貨を手渡す義務を負う一方、この SDR を外貨準備に計上することができます。
SDR はそれと引き換えに外貨を受け取ることができる権利であって、それ自身は通貨ではありません。
しかし 1SDR が○○ドルに相当する(この交換レートは変動する)という具合に金額的な価値を持ってい
ます。SDR という紙幣はありませんが、バスケット通貨としての価値はあるのです。
ではバスケット通貨とは何でしょうか。SDR は現在ドル、ユーロ、円、ポンドで構成されるバスケッ
ト制をとっていますが、この仕組みを説明しましょう。
まず、基準時点を決めて、バスケットにこの 4 つの通貨を入れます。入れる量には各通貨の重要度を
反映させます。当然ドルはたくさん入れて、その他の通貨は相対的に少なく入れることになります。例
えばその結果、バスケットにドルを 100 ドル、ユーロを 50 ドル相当額(基準時点の相場で算定します。
以下同じ)、円を 30 ドル相当額、ポンドを 20 ドル相当額入れるとすると、基準日におけるこのバスケッ
トの中身の総額は 200 ドルです。これを、一例ですが 200SDR と決めるのです。その上で将来にわたって
1 バスケット=200SDR という関係を固定するのがバスケット制なのです。この例では、基準日において
1SDR=1 ドルという関係が成立しているわけです。
とはいえ、バスケットの中の通貨同士のレートは常に変動します。例えば基準日に 1 ドル=100 円だ
ったドル円相場も、次の日には 1 ドル=95 円になっているかもしれません。バスケットの中の円の総額
をこの日のレートでドルに換算すれば、基準日には 30 ドルでしたがこの日は 31.6 ドルに増えています
(30 ドル÷(95/100))
。仮に基準日に比べてドルが他のすべての通貨に対して弱くなっていれば、バ
スケットの総額はドル換算で確実に 200 ドルを超えてしまいます。しかしそうなっても 1 バスケット=
200SDR という関係を変えないのがバスケット制なのです。
そして、SDR で表示するバスケットの価値が変わらなければ、基準日に 1SDR=1 ドルであった SDR と
ドルの交換(換算)レートは、SDR 高・ドル安の方向に動きます。同時に、その他の通貨に対して SDR
○当資料は、投資家のみなさまに対して参考となる情報の提供を目的として、三菱 UFJ 投信が作成したものです。○当資料の内
容は、作成基準時点のものであり、将来予告なく変更されることがあります。また、将来の市場環境や運用成果等を示唆ないし保
証するものではありません。○当資料は、信頼できると判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性を保証
するものではありません。○当資料中のグラフ・数値等は、過去の実績・状況であり、将来の市場環境等や運用成果等を示唆・保
証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。○当
資料は、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
2
五十嵐レポート
は安くなるわけです。その結果、例えばドルと円と SDR の関係を見ると、強い順に円、SDR、ドルとなる
のです。
図 2 バスケット通貨としての SDR のイメージ
強い
SDR
SDR
弱い
SDR による値決め
さて、こうして決まる SDR の相場を国際取引の値決めに利用することができます。貿易取引を SDR 建
てにするとか、債券を SDR 建てで発行するという意味です。SDR 建てにしたからといって、例えば輸入
国が代金を SDR で支払うのではありません。そもそも SDR というハードカレンシー(紙幣や硬貨)は存
在しないのですから、払えるはずもありません。実際には、支払い自体はドルで行う取決めをしていた
とすると、決済時のドル対 SDR 相場で換算したドル金額を支払うことになるのです。
現在、わが国が対米輸出をドル建てで行っている場合には、相場が円高ドル安に動けば、為替差損は
すべてわが国の輸出業者が負担することになります。しかし SDR 建てにすると、アメリカの輸入業者も
差損の一部を負担せざるを得ません。また債券の発行についても、ドルが将来大きく下落するような場
合、ドル建てではなく SDR 建てで発行されていれば、債券の保有者が被る為替差損は相対的に少なくて
済むわけです。
SDR を値決めに利用するというこのやり方は、最終的な決済(受払い)に使用する通貨が何であるか
とは無関係に採用することができます。それだけに外貨準備の目減りを防ぐことには役立たないかもし
れません。しかし、為替変動に伴う差損や差益を当事者の双方が分け合うという意味ではより公平な方
式だと言えるでしょう。真剣に検討してみる価値があると思います。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング
調査部長
五十嵐敬喜)
○当資料は、投資家のみなさまに対して参考となる情報の提供を目的として、三菱 UFJ 投信が作成したものです。○当資料の内
容は、作成基準時点のものであり、将来予告なく変更されることがあります。また、将来の市場環境や運用成果等を示唆ないし保
証するものではありません。○当資料は、信頼できると判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性を保証
するものではありません。○当資料中のグラフ・数値等は、過去の実績・状況であり、将来の市場環境等や運用成果等を示唆・保
証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。○当
資料は、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
3