世界の自動車用樹脂市場に関する調査結果 2015

2015 年 10 月 2 日
世界の自動車用樹脂市場に関する調査結果 2015
―大型テーマでの自動車の樹脂化は一段落、10 年後を見据えた開発を―
【調査要綱】
矢野経済研究所では、次の調査要綱にて世界の自動車用樹脂市場の将来需要に関して調査を実施した。
1.調査期間:2015 年 6 月~9 月
2.調査対象樹脂:PP、PA、ABS、PE、PC、POM、PBT、変性 PPE、PPS
3.調査対象企業:自動車メーカー、樹脂メーカー、研究開発機関等
4.調査方法:当社専門研究員による直接面談、電話・e-mail によるヒアリング、ならびに文献調査併用
<自動車用樹脂市場とは>
本調査における自動車用樹脂とは、主に熱可塑性樹脂でかつ自動車での使用量の多い PP、PA、ABS、PE、
PC、POM、PBT、変性 PPE、PPS を指す。自動車用樹脂市場は、自動車の内装やエンジンルーム・燃料・機構部
品、外板・外装、その他電装品等に使用される自動車用樹脂の使用量(万 t)を、樹脂メーカーの販売数量ベースで
算出した。
【調査結果サマリー】
‹ 2014 年の世界の自動車用樹脂市場を 802 万 t と推計
2014 年の世界の自動車用樹脂市場を 802 万 t(メーカー販売数量ベース)と推計する。内訳は PP が
440 万 t、PA が 108 万 t、ABS が 82 万 t、PE が 52 万 t、PC が 37 万 t、POM が 33 万 t、PBT が 32 万 t、
変性 PPE が 12 万 t、PPS が 6 万 t である。
‹
自動車販売台数伸長に伴って樹脂需要が増加、
部品の薄肉・小型化等がもたらす樹脂需要量への影響は軽微に留まる見通し
自動車の樹脂化は軽量化という観点で見るとある程度進展したと言え、今後は自動車市場の拡大に
伴って樹脂需要の増加が見込まれる。ただし 1 台あたりの樹脂使用量の少ない新興国向けや小型車の
比率が上昇していくと、その伸び幅が縮小することになる。そのほか各使用部品での薄肉化や小型化等
が進展していくことで樹脂目付量が減少し、自動車販売台数の伸びほどの樹脂需要量が期待できない
可能性がある。ただしこれらマイナス要因がありつつも、自動車販売台数の伸びに伴い、今後も樹脂需
要は拡大していくと予測する。
‹
自動車の樹脂化による「軽量化+α」のメリットを訴求し、新規需要を創出
今後新たな用途として期待されているのは、自動車のバックドアやフェンダー等の外板や、カーシート
フレーム等の構造部材、窓ガラス等である。これらの部位は樹脂目付量が比較的多く、樹脂化できれば
大きな樹脂需要に繋がる。ただしこれらの部品は、ハイテン(高張力鋼板)やアルミ、マグネシウム、炭素
繊維強化プラスチック等と競合する部分である。樹脂は他材料と比較して剛性が不足するため、軽量化
という意味では魅力度が低い。また樹脂を採用するには鋼板とは別の新たな製造ラインを建設する必要
もある。軽量化だけでなく、一体成形による部品点数・工数削減や、デザイン性や安全性の向上等、樹
脂化することによる「軽量化+α」のメリットを訴求していく必要があると考える。
‹ 資料体裁
資料名:「自動車用樹脂市場の需要予測 2015 年版」
発刊日:2015 年 9 月 18 日
体 裁:A4 判 197 頁
定 価:160,000 円(税別)
‹ 株式会社 矢野経済研究所
所在地:東京都中野区本町2-46-2 代表取締役社長:水越 孝
設 立:1958年3月 年間レポート発刊:約250タイトル URL: http://www.yano.co.jp/
本件に関するお問合せ先(当社 HP からも承っております http://www.yano.co.jp/)
㈱矢野経済研究所 マーケティング本部 広報チーム TEL:03-5371-6912 E-mail:[email protected]
本資料における著作権やその他本資料にかかる一切の権利は、株式会社矢野経済研究所に帰属します。
本資料内容を転載引用等されるにあたっては、上記広報チーム迄お問合せ下さい。
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2015 年 10 月 2 日
【 調査結果の概要 】
1. 現況と展望
自動車業界では環境に対する配慮から燃費向上/CO2 排出削減が大きな課題となっており、この課
題を改善する一策として車体の軽量化が取り組まれている。1 台の自動車は 2~3 万点の部品から構成
されている。一つひとつの部品単体の重量は小さく、部品の軽量化の影響は個々の単体で見ると限定
的であるが、これら全体で見た時の軽量化の貢献度は決して小さくない。
2014 年の世界の自動車用樹脂市場を 802 万 t(メーカー販売数量ベース、以下同じ)と推計する。(図
1 参照) 内訳は PP が 440 万 t(構成比 55%)、PA が 108 万 t(同 13%)、ABS が 82 万 t(同 10%)、PE
が 52 万 t(同 6%)、PC が 37 万 t(同 5%)、POM が 33 万 t(同 4%)、PBT が 32 万 t(同 4%)、変性 PPE
が 12 万 t(同 2%)、PPS が 6 万 t(同 1%)である。(図 2 参照) また、各樹脂の現況および展望は以下
の通りである。
【PP(ポリプロピレン)】
z 2014 年の PP 市場規模を 440 万 t と推計する。PP は自動車用樹脂市場の中で約 40~50%を占め
る主要材料である。PP はインストルメントパネル等の内装や、バンパー等の外装・外板、エンジンル
ーム内・燃料・機構部品、電装品等で幅広く使用されている。
z PP の今後の大型テーマとしては、フェンダーやバックドアの樹脂化がある。ただしフェンダーでは機
械的強度・熱膨張係数などの物性面の課題や、塗装方法等の製造工程面での課題がある。バック
ドアでは構造合理化の促進により更なる軽量化を図る必要がある。今後数年をかけこれら課題を解
決することで、2020 年以降の採用数増加を見込む。
【PA6/PA66(ポリアミド 6/ポリアミド 66)】
z 2014 年の PA 市場規模を 108 万 t と推計する。PA6 の主要用途はインテークマニホールド、ラジエ
ーターファン、ファンシュラウド等である。PA66 の主要用途はシリンダーヘッドカバーやラジエータ
ータンク等である。PA の需要先としてエンジンルーム内・燃料・機構部品が高い比率を占める。
z PA の今後の大型テーマとしては、オイルパンの樹脂化がある。オイルパンは縁石に乗り上げた際
の割れ等が課題とされているが、連続繊維による複合材料を用いることで、それら問題の解決に取
り組もうとする動きがある。
z その他では、自動車での耐熱要求の高まりに伴う PA 需要増加が樹脂メーカーにより見込まれてい
る。
【ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)】
z 2014 年の ABS 市場規模を 82 万 t と推計する。ABS は主に内装や外装・外板で使用されている。
z 内装材においては、元々成形性に優れる ABS や PC/ABS の使用量が多かったが、1980 年~
2000 年にかけ軽量化やリサイクル性、コスト面から PP 比率が上昇してきた経緯がある。その一方で、
2000 年以降は、PP から ABS への需要の揺り戻しもある。かつては価格から PP ニーズが増加した
が、2000 年以後は意匠性のニーズが高まる中で、素材自体への着色性に加え 2 次加工性に優れ
る ABS 需要が増加傾向にある。
【PE(ポリエチレン)】
z 2014 年の PE(高密度ポリエチレン:HDPE)市場規模を 52 万 t と推計する。HDPE は主に燃料タン
クで使用されている。従来の金属製タンクと比べて形状の自由度が大きく、近年ますます複雑で空
間が少なくなったエンジンルームの空隙を利用することができる。
z 樹脂製燃料タンクの普及率(樹脂化率)は 70%程度とみられる。樹脂化が遅れていた小型車等で
も樹脂化が徐々に進んでおり、HDPE の今後の需要増加を見込む。
【PC(ポリカーボネート)】
z 2014 年の PC 市場規模を 37 万 t と推計する。PC は内装、外装・外板で主に使用されており、ヘッド
ランプレンズ、内装、ドアハンドル等での需要量が多い。樹脂メーカーの意見として今後の PC はヘ
ッドランプリフレクター(反射板)や内装材での需要増加が期待される。
z PC の大型テーマとして注目されているものにガラス代替となる樹脂グレージングがあるが、価格、耐
久性・信頼性の改良が求められており、採用が本格化するのは早くとも 2020 年以降と考える。
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2015 年 10 月 2 日
【POM(ポリアセタール)】
z 2014 年の POM 市場規模を 33 万 t と推計する。POM はエンジンルーム内・燃料・機構部品、内装、
外装・外板、電装品等で幅広く使用されている。
z POM では金属代替用途での需要が一巡したものの、ここ数年は自動車販売台数の増加に伴う既
存用途の需要が順調に拡大している。その他、中国等の海外での樹脂化(POM の採用増加)進展
も樹脂メーカーにより見込まれている。
【PBT(ポリブチレンテレフタレート)、変性 PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PPS(ポリフェニレンサル
ファイド)】
z 2014 年の PBT 市場規模を 32 万 t と推計する。PBT の主要用途はワイヤーハーネスコネクターであ
る。そのほか、ECU ケース、ドアロック、モーターのギアハウジング、各種センサー、スイッチ類、アク
チュエーター等も挙げられる。
z 2014 年の変性 PPE 市場規模を 12 万 t と推計する。変性 PPE は外板・外装、電装品で主に使用さ
れている。
z 2014 年の PPS 市場規模を 6 万 t と推計する。PPS は主に電装品で使用されているが、その他外装・
外販、エンジンルーム内・燃料・機構部品等での需要もある。
PBTや変性PPE、PPSは電装化に伴う需要増加や、HEV(Hybrid Electric vehicle,ハイブリッド車)や
EV(Electric Vehicle,電気自動車)等のバッテリー周りや制御系(インバーター、コンバーター)での
需要拡大を見込む。
2. 注目すべき動向~樹脂化による「軽量化+α」のメリットを訴求し、新規需要を創出
自動車の樹脂化は軽量化という観点で見るとある程度進展したと言え、大型テーマでの樹脂化は一段
落している。今後新たな用途として期待されているのは、軽量化効果の高い外板や構造部材等の金属
代替部分である。樹脂目付量が多いものでカーシートフレーム等の二次構造部材や、フェンダーやバッ
クドア等の垂直外板や窓ガラス、シリンダーヘッドカバーやオイルパン等のエンジンルーム内部品が挙
げられる。
これらの部品はハイテン(高張力鋼板)やアルミ、マグネシウム、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:
※
Carbon fiber-reinforced plastic) 等と競合する部分であり、各自動車メーカーはどの材料が軽量化やコ
ストメリットなどの指標を最大限満たせるかの見極めを行っている段階である。ただし樹脂は他材料と比
較し必ずしも有利というわけではない。樹脂は鋼板等の他材料と比較し剛性が不足するため、ある程度
の樹脂化が行きわたった現在において軽量化という意味だけでは魅力度が低い。また樹脂を採用する
には鋼板とは別に新たな製造ラインを建設する必要がある。以下に示すように、樹脂化することによる
「軽量化+α」のメリットを訴求していく必要がある。
2-1.軽量化+一体成形、デザイン性向上を訴求するバックドアモジュールの樹脂化
外板で今後樹脂化が期待されているものにバックドアがある。バックドアを樹脂化する利点は、従来の
スチール製と比べ軽量化と共に、樹脂の優れた造形性を活かし、インテリア部品を一体化(部品点数を
削減)し、剛性、強度を確保しながらスチールでは得られないデザインを達成できる点である。樹脂バッ
クドアモジュールは、既に一部車種で採用実績があるが、自動車メーカーにおいて、構造合理化の促進
により更なる軽量化(費用対効果の向上)が取り組まれている段階である。
2-2.軽量化+安全性・防犯を訴求する窓ガラスの樹脂化
窓ガラスは重量物であることから樹脂化による軽量化効果が大きく、車両軽量化の上で大きな取り組み
課題となっている。PC 樹脂グレージングは、ガラスに対して 40%程の軽量化効果があると言われている。
樹脂グレージングは軽量化にプラスして、割れないというメリットがあり、事故発生時の乗員の車外放出
防止に繋がる。その他防弾(防犯)用としてタクシーのパーテーション窓でも採用が行われている。
ただし樹脂グレージングはハードコート処理を必要とすることからコストがガラスの 2 倍と言われている。
そのほか、耐久性・信頼性でも改良が必要とされており、樹脂メーカーを中心として改良が進められてい
る。
※参考資料:「車載用 CFRP の世界需要予測 2014」(2014 年 9 月 30 日発表)
http://www.yano.co.jp/press/press.php/001302
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2015 年 10 月 2 日
図 1. 世界の自動車用樹脂市場推移予測
(単位:万t)
PPS
1,200
1,085
1,000
802
851
819
886
917
949
変性PPE
981
PBT
800
POM
600
PC
400
PE
ABS
200
PA
0
2014年
2015年
(予測)
2016年
(予測)
2017年
(予測)
2018年
(予測)
2019年
(予測)
2020年
(予測)
2025年
(予測)
PP
矢野経済研究所推計
注 1. メーカー販売数量ベース
注 2. 2015 年以降は予測値
注 3.自動車用樹脂市場規模は、自動車の内装やエンジンルーム・燃料・機構部品、外板・外装、その他電装品等に使
用される自動車用樹脂の使用量(万 t)で算出した。
図 2. 世界の自動車用樹脂市場構成比(2014 年)
PE
6%
PBT 変性PPE PPS
POM
2% 1%
PC 4% 4%
5%
ABS
10%
PP
55%
PA
13%
2014年 市場規模:802万t
矢野経済研究所推計
注 4. メーカー販売数量ベース
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