人工股関節置換術:高度骨欠損症例に対する実物大 3D 骨モデル

人工股関節置換術:高度骨欠損症例に対する実物大 3D 骨モデルシミュレーション
鹿児島大学大学院
近未来運動器医療創生学(くすのき会)
瀬戸口啓夫
鹿児島大学大学院
医療関節材料開発講座
鹿児島大学大学院
整形外科
石堂康弘
栫博則、廣津匡隆、永野聡、天辰愛弓、音羽学、井内智洋、小宮節郎
変形性股関節症や大腿骨頭壊死症に対する人工股関節全置換術は、日本で年間 4 万件以上
行われている手術です。
【手術内容】
股関節の後外側を約 8~12cm 皮膚切開して、大腿骨頭を切除。骨盤の寛骨臼側も薄く掘
削します。その後、金属製の寛骨臼コンポーネント設置。大腿骨も掘削して大腿骨コンポ
ーネントを設置します。可動域と易脱臼性がないことを確認後に洗浄して創を閉じて終了
します。
【術後リハビリテーション】
手術日から、足首の運動を始めます。術後 1-2 日目に傷のドレーンが抜けたら車椅子へ移乗
します。その翌日から起立・歩行訓練を開始します。術前から筋力のある患者は術後二週
で一本杖歩行可能です。
【手術合併症について】
周術期の出血
例外的に他家血を使用することがありますが、自己血 800ml でほとんどの場合対処可能
です。
脂肪塞栓症、下肢静脈血栓症、肺塞栓症、
骨髄中の脂肪や周術期に生じる血栓が血流を途絶します。下肢や肺、まれに心臓や脳の
血管が途絶します。大きな肺の血管がつまると呼吸困難を生じ生命に危険を及ぼし、緊急
救命処置が必要になります。手術後から両下肢に空気式圧迫装置を着け、手術直後から足
首をよく動かしたり、早期の歩行訓練など早期のリハビリが有効です。出血傾向がない患
者には適切な抗凝固療法が推奨されます。
脱臼
アメリカ合衆国で行われた 51,345 例の revision THA の原因は脱臼, ルーズニング, 感染
の順番で、重要な合併症です。予防のためには正確な人工股関節コンポーネントの設置と
脱臼肢位予防の患者教育が重要です。
ルーズニング
平均 20 年前後で人工股関節のゆるみや破損(ルーズニング)が生じてきます。この場合
入れかえ手術(人工関節再置換術)が必要になります。再置換術では骨盤・大腿骨の骨欠
損が大きな症例が多く、手術には困難が伴います。しかし当院では鹿児島骨バンク協会に
保存ざれている同種骨を使用して大きな骨欠損の症例に対応しています。患者の CT 画像か
ら 3D printer で作成した実物大 3D 骨モデルで術前に綿密なシミュレーションを行うこと
により困難な手術症例に対応できるシステムを構築しています。実物大 3D 骨モデルで綿密
なシミュレーションを行うことにより、複雑な手術イメージをスタッフ間で共有・補完し
て高度な手術をスムースに行います。この技術は厚生省より先進医療:実物大臓器モデル
による手術支援として認可を受けています。
【人工股関節再置換術の対象】
人工股関節置換術を行い、長期間経て人工股関節が緩んできた患者
人工股関節術後に人工股関節周囲に骨折を生じた患者
【人工関節周囲感染】
人工股関節術後感染の症例ではさらに高度な治療が必要となります。人工股関節手術後に
感染を生じると、人工股関節を抜去し抗生剤含有したセメントモールドスペーサーを設置
して感染の沈静化を待ちます。2 か月後に感染が沈静化すれば新しい人工股関節を再設置し
ます。この場合も骨盤・大腿骨の骨欠損が著明な症例が多く、バンク骨や実物大 3D 骨モデ
ルを用いてシミュレーションを行います。
図
左人工骨頭術後感染に対して、人工股骨頭抜去後に抗生剤含有セメントモールド設置
し、感染沈静化後に実物大 3D 骨モデルで骨移植・補強プレート設置のシミュレーションを
行って手術に臨み、人工股関節再置換術を施行した。鹿児島骨バンクに保存されていた骨
を使用した。
実物大 3D 骨モデル
移殖骨と補強プレートを入れるシミュレーション
術前レントゲン
術後レントゲン
【結語】
人工股関節置換術と、高度骨欠損症例に対する実物大 3D 骨モデルを用いる取り組みについ
て概説した。術前に綿密にシミュレーションを行うことで高度な手術を容易に行えるよう
に、これからも先進的取り組みが重要である。