機能性甲状腺結節に対する外来での放射性ヨード治療

75
《原 著》
機能性甲状腺結節に対する外来での放射性ヨード治療
田 尻 淳 一*
要旨 〔目的〕機能性甲状腺結節 (AFTN) に対する外来放射性ヨード治療 (RI 治療) の有効性について
検討すること.
〔方法〕1999 年 7 月から 2005 年 4 月までに当院を受診した中毒性腺腫 (TA) 26 例と中毒
性多結節性甲状腺腫 (TMNG) 12 例の計 38 例を対象とした.RI 治療は外来で行った.1 回投与量は 13
mCi (481 MBq) と固定し,効果不十分なときに 3–4 ヶ月間隔で追加投与した.観察期間は TA で 31.9±
18.7 ヶ月 (5〜68 ヶ月),TMNG で 40.5±18.3 ヶ月 (10〜63 ヶ月)であった.治療効果ありの判定は,血
清 TSH 抑制が消失したときとした.
〔結果〕全例で甲状腺機能亢進症は是正され,甲状腺腫や結節の大
きさも縮小した.RI 治療時の TSH 値を抑制状態に保って治療した TA 19 例中機能低下症になったの
は 1 例であったのに対し,TSH が抑制されていなかった 6 例では全例機能低下症となった (p<0.001).
〔結論〕AFTN に対する RI 治療は有効な治療法である.TA に対する RI 治療では治療時の TSH 値を抑
制状態に保って治療すれば,甲状腺機能低下症の発症を避けることができる.
(核医学 43: 75–83, 2006)
I. 緒
多い国もある1).
言
従来,日本では AFTN に対する治療として手術
機能性甲状腺結節 (Autonomously functioning
が行われてきた.最近では,この疾患に対する
thyroid nodules: AFTN) とは,甲状腺結節が甲状腺
Percutaneous Ethanol Injection Therapy (PEIT) の有
ホルモンを過剰に産生することによって甲状腺機
用性が報告されている2).しかし,本邦において
能亢進症を引き起こしてくる疾患である.結節が
AFTN に対する放射性ヨード治療 (RI 治療) の報
単発性の場合は腺腫によるものでプランマー病ま
告は,散見されるのみである3,4).欧米では,以
たは中毒性腺腫 (toxic adenoma: TA) と呼ばれる.
前から RI 治療は AFTN に対して手術と同じ治療
結節が多発性の場合は腺腫様甲状腺腫 (多結節性
成績であることが報告されている 5) .わが国で
甲状腺腫) によるものであり,中毒性多結節性甲
は,1998 年 6 月から RI 治療が 500 MBq (13.5
状腺腫 (toxic multinodular goiter: TMNG) と呼ばれ
mCi) までなら外来で可能になった.AFTN に対
る.日本では,甲状腺機能亢進症の原因としては
する外来 RI 治療は,入院の必要もなく,手術痕
バセドウ病が多いが,ヨーロッパではバセドウ病
も残らない治療法として今後,日本でも普及して
より機能性甲状腺結節による甲状腺機能亢進症が
いく可能性がある.筆者は,先に AFTN 22 例に
対する外来 RI 治療について予備的な報告をした
* 田尻甲状腺クリニック
受付:17 年 8 月 22 日
最終稿受付:18 年 3 月 20 日
別刷請求先:熊本市水前寺 2–6–20 (0 862–0950)
田尻甲状腺クリニック
田 尻 淳 一
が3),その後の症例を加え,合計 38 例の AFTN に
対する外来 RI 治療の有効性について検討した.
II.
対象と方法
1999 年 7 月から 2005 年 4 月までに当院を受診
核 医 学
76
43 巻 2 号 (2006 年)
Table 1 Treatment outcome of radioiodine in 38 patients with autonomously functioning thyroid nodules
FT4 (ng/dl)#
TA (n=26)
TMNG (n=12)
At diagnosis
Post RI
1.74±0.59
(1.02〜3.29)
1.66±0.35
(1.00〜2.30)
1.05±0.30**
(0.45〜1.80)
1.19±0.24*
(0.69〜1.50)
TSH (mU/l)#
At diagnosis
Post RI
0.04±0.05 21.11±41.41*
(0.005〜0.17) (0.3〜171.1)
0.06±0.08
5.64±9.53*
(0.01〜0.24) (0.36〜27.2)
Volume (ml)§
At diagnosis
Post RI
14.54±13.91
(2.3〜57.1)
84.2±90.7
(21.3〜352.4)
6.22±6.75**
(0.27〜29.4)
37.6±22.7*
(11.8〜72.6)
TA; toxic adenoma, TMNG; toxic multinodular goiter, *p<0.05, **p<0.001 (vs. pre-RI, paired t-test). RI; radioiodine,
One case with normal TSH level at diagnosis was excluded. §; TA: nodule’s volume, TMNG: goiter’s volume. FT4
normal range: 0.8–1.9 ng/dl, TSH normal range: 0.3–3.5 mU/l, FT4, ×12.9 pmol/l (SI Unit)
#;
した AFTN 患者は 44 例である.甲状腺機能検査
した.残り 38 例を対象とした.内訳は,TA 26 例
では,1 例を除いて血清 TSH は抑制されていた.
と TMNG 12 例である.うち 22 例は既報の症例
この TSH 正常例は,甲状腺ホルモン剤による
である3).
TSH 抑制療法を行っても結節のサイズが不変なの
RI 治療の 1 週間前から治療後 3 日までの間ヨー
で 123I シンチグラフィをしたところ,hot nodule
ド制限を指示した.抗甲状腺薬を服用している症
がみつかった.Werner の The Thyroid によれば,
例では,RI 治療の 4 日前から治療後 3 日までは
TSH が正常である AFTN はありうると記載され
服用を中止した.結節や甲状腺腫の推定重量に関
ており6),その場合は,T3 投与による Suppression
わりなく固定投与量として 13.0 mCi (481 MBq) を
スキャンを行うように勧めている.この症例で
投与した.血清 TSH が正常値になるまで 3〜4 ヶ
は,T3 投与による Suppression スキャンは行って
月間隔で投与した.治療効果については,血清
いないが,後述するように 123I シンチグラフィに
TSH 値の抑制が消失し甲状腺機能亢進症が是正さ
て hot nodule がみられ RI 治療にて hot nodule が消
れた場合を効果ありと判定した.可能なら,TSH
失して結節以外の正常部分にも 123I の取り込みが
値が正常化した時点で再度シンチグラフィを行っ
みられたので,TA 症例に加えた.
た.
画像診断は 21 例で
99mTc
シンチグラフィ,23
TA 26 例の男女比は 3:23,平均年齢 57.7±
例で 123I シンチグラフィにて行った.全例で超音
15.2 歳 (33〜92 歳) である.TA と診断された時の
波検査を行い,単発性結節か多発性結節かを確認
TSH は症例 26 を除いて全例抑制されており,潜
した.一部の症例では,甲状機能が正常になった
在性または顕性甲状腺機能亢進症を呈していた.
時点で穿刺吸引細胞診を行い,良性であることを
RI 治療前に 7 例で MMI (1-methyl-2-mercaptoim-
確認した.44 例全例に対し,治療法 (手術,RI
idazole) を使用した (症例 1–4, 8, 9, 19 の RI 治療ま
治療) についての説明を行い,42 例が RI 治療を
での MMI 投与期間はそれぞれ 6 ヶ月間,31 ヶ月
選択した.2 例は,症状がないために経過観察を
間,18 ヶ月間,4 ヶ月間,1 ヶ月間,1 ヶ月間,1.5
希望した.手術を選択した患者はいなかった.
ヶ月間であり,RI 治療後の MMI 投与期間はそれ
AFTN は,バセドウ病と異なり抗甲状腺薬では治
ぞれ 3 ヶ月間,3 ヶ月間,7 ヶ月間,1 ヶ月間,1 ヶ
癒には至らないため,その旨説明した.結果とし
月間,6 ヶ月間,2 ヶ月間であった) (Table 2).
て,抗甲状腺薬を選択した患者はいなかった.
TMNG 12 例の男女比は 1:11,年齢 60.3±11.8
PEIT については,筆者を含め熊本地区で PEIT に
歳 (38〜82 歳) である.TMNG と診断された時,
習熟した医師が不在のため,選択肢として提示し
潜在性または顕性甲状腺機能亢進症を呈してい
なかった.RI 治療を受けた 42 例中,1 例はまだ
た.RI 治療前に 2 例で MMI を使用した (症例 27
治療中であり,3 例は治療後来院しないため除外
と症例 32 の RI 治療までの MMI 投与期間はそれ
機能性甲状腺結節に対する外来での放射性ヨード治療
Fig. 1 A finding of 123I scintigram in case 17 before and after radioiodine (RI). A hot nodule
disappeared after RI.
Fig. 2 A finding of 99mTc scintigram in case 3 before and after radioiodine (RI). A hot nodule
remained visible after RI.
Fig. 3 A finding of 123I scintigram in case 26 before and after radioiodine (RI). A hot nodule
disappeared after RI.
77
核 医 学
78
43 巻 2 号 (2006 年)
Table 2 Profiles of 26 patients with TA
At diagnosis
Therapy
before RI
Nodule’s
RI
volume (ml)
frequency
(Pre first RI)
Case
Sex
Age
FT4
(ng/dl)
TSH
(mU/l)
1
2
3
4
5
F
M
F
F
F
92
69
79
66
75
1.6
2.6
2.1
1.6
1.7
0.02
0.01
0.01
0.03
0.04
MMI
MMI
MMI
MMI
none
12.1
19.5
14.7
8.7
57.1
1
2
2
1
4
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
F
F
F
F
F
F
F
F
F
F
F
F
F
F
M
F
F
M
F
F
F
46
52
75
65
71
56
50
52
33
40
51
46
48
84
52
43
44
40
51
51
69
1.0
1.3
2.2
1.9
1.1
1.2
2.2
1.2
3.3
2.0
1.4
1.1
1.2
2.0
1.5
1.7
2.7
2.6
1.5
1.5
1.2
0.04
0.06
0.03
0.01
0.14
0.05
0.01
0.01
0.01
0.01
0.01
0.16
0.17
0.01
0.01
0.11
0.01
0.01
0.01
0.01
0.63
none
none
MMI
MMI
none
none
none
none
none
none
none
none
none
MMI
none
none
none
none
none
none
none
2.3
4.2
5.7
31.8
4.2
21.1
8.0
8.2
22.9
3.0
15.7
5.1
5.2
4.0
11.9
6.4
21.5
51.4
7.3
7.2
18.7
1
1
1
3
1
1
2
1
3
1
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
TSH level at RI (mU/l)
parenthesis; frequency
Total dose
(mCi)
0.38
(1) 2.04 (2) 2.88
(1) 0.02 (2) 5.97
1.4
(1) 0.04 (2) 0.41
(3) 1.88 (4) 1.32
0.07
0.04
4.89
(1) 0.28 (2) 0.01 (3) 11.8
0.14
0.02
(1) 0.01 (2) 0.01
0.02
(1) 0.02 (2) 0.01 (3) 0.02
0.02
(1) 0.01 (2) 0.012
0.25
0.17
0.21
0.04
0.13
0.005
0.005
0.007
0.017
1.39
11.9
26.0
26.0
13.0
52.0
13.0
13.0
13.0
39.0
13.0
13.0
22.8
13.0
39.0
13.0
26.0
13.0
13.0
13.0
13.0
13.0
13.0
13.0
13.0
13.0
13.0
TA; toxic adenoma, RI; radioiodine, MMI; methimazole, T4; thyroxine, RPL; replacement. FT4 normal range; 0.8–1.9 ng/dl,
TSH normal range; 0.3–3.5 mU/l, Hot N(+); presence of hot nodule, Hot N(−); absence of hot nodule
Table 2 Profiles of 12 patients with TMNG
At diagnosis
Therapy
before RI
Thyroid
RI
volume (ml)
frequency
(Pre first RI)
Case
Sex
Age
FT4
(ng/dl)
TSH
(mU/l)
27
28
29
30
31
32
F
F
F
F
M
F
62
82
51
38
54
61
1.9
2.1
1.5
1.5
1.4
1.9
0.01
0.03
0.03
0.08
0.24
0.01
MMI
none
none
none
none
MMI
93.8
26.3
54.2
85.2
104.4
352.4
2
3
2
3
3
8
33
34
35
36
37
38
F
F
F
F
F
F
49
57
70
67
73
59
2.3
1.0
1.5
1.4
1.8
1.6
0.01
0.13
0.04
0.06
0.01
0.10
none
none
none
none
none
none
93.9
21.7
31.2
30.0
95.8
21.3
1
3
3
1
1
1
TSH level at RI (mU/l)
parenthesis; frequency
Total dose
(mCi)
(1) 0.66 (2) 1.30
(1) 0.03 (2) 0.86 (3) 0.16
(1) 0.03 (2) 0.12
(1) 0.08 (2) 0.11 (3) 0.39
(1) 0.24 (2) 0.64 (3) 0.51
(1) 1.84 (2) 1.40 (3) 2.46
(4) 1.15 (5) 2.09 (6) 4.11
(7) 1.80 (8) 0.87
0.01
(1) 0.27 (2) 1.69 (3) 11.59
(1) 0.04 (2) 0.92 (3) 3.50
0.32
0.01
0.1
23.0
39.0
26.0
39.0
39.0
104.0
13.0
39.0
39.0
13.0
13.0
13.0
TMNG; toxic multinodular goiter, RI; radioiodine, MMI; methimazole, T4; thyroxine, NTMNG; non-toxic multinodular goiter,
Hot N(−); absence of hot nodule, FT4 normal range; 0.8–1.9 ng/dl, TSH normal range; 0.3–3.5 mU/l
機能性甲状腺結節に対する外来での放射性ヨード治療
Table 2 continued
Post-RI
Case
FT4
(ng/dl)
TSH
(mU/l)
Nodule’s
volume (ml)
(Post-RI)
Observation
period (months)
Remarks
1
2
3
4
5
1.4
0.7
0.5
0.7
0.8
2.31
40.73
171.10
54.11
60.02
5.7
3.1
1.6
2.4
18.5
36
68
63
63
59
Hot N(−) after RI
T4 75 µg RPL, Hot N(+) after RI
T4 75 µg RPL, Hot N(+) after RI
T4 100 µg RPL, Hot N(+) after RI
T4 75 µg RPL, Hot N(+) after RI
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
1.2
0.8
0.8
0.6
1.0
1.4
0.9
0.9
1.1
0.8
1.3
1.0
1.3
1.2
1.2
1.4
1.0
1.8
1.1
0.9
0.9
1.32
55.56
43.93
106.70
1.13
3.24
0.80
2.18
1.28
4.86
1.66
3.42
1.20
0.79
2.26
0.30
1.83
0.93
1.18
2.56
4.03
0.6
1.0
1.9
11.3
0.5
15.8
7.3
3.8
11.3
0.3
7.7
3.9
1.1
3.2
4.1
1.6
11.9
29.4
4.5
4.2
5.1
31
44
52
51
46
34
32
31
28
15
21
20
13
21
22
22
13
9
6
5
23
Hot N(−) after RI
T4 75 µg RPL
T4 75 µg RPL, Hot N(+) after RI
T4 75 µg RPL
Thyroid
volume (ml)
(Post-RI)
Observation
period (months)
Hot N(−) after RI
Hot N(−) after RI
Hot N(−) after RI
Hot N(−) after RI
Table 3 continued
Post-RI
Case
FT4
(ng/dl)
TSH
(mU/l)
27
28
29
30
31
32
0.9
1.3
1.5
1.3
1.3
1.0
0.67
0.63
1.88
0.36
0.69
1.21
56.7
22.3
29.6
41.7
41.0
72.6
58
23
60
63
51
59
33
34
35
36
37
38
0.7
1.3
1.4
1.2
1.0
1.4
1.94
27.2
16.22
3.03
0.48
2.84
71.2
11.8
14.3
16.3
58.8
15.3
44
40
36
10
21
21
Remarks
died of leukemia
Previous operation for NTMNG
T4 100 µg replacement
T4 25 µg replacement
Hot N(−) after RI
79
核 医 学
80
43 巻 2 号 (2006 年)
ぞれ 53 ヶ月間,48 ヶ月間であり,RI 治療後の
31.9±18.7 ヶ月 (5〜68 ヶ月) である.症例 1 は初
MMI 投与期間はそれぞれ 6 ヶ月間,19 ヶ月間で
回治療から 36 ヶ月間経過を追えたが,高齢のた
あった) (Table 3).
めその後は来院していない.
TSH 受容体抗体は TA 17 例,TMNG 8 例で測
Table 3 に TMNG 症例の詳細を示す.平均治療
定したが,全例陰性であった.MCHA, TGHA は
回数 2.6±1.9 回 (1〜8 回),平均総投与量 33.3±
全例で測定した.TA 症例では,MCHA が症例 6,
25.2 mCi (13.0〜104.0 mCi) であった.観察期間
9, 10 でそれぞれ 400 倍, 400 倍, 1600 倍,TGHA
は,40.5±18.3 ヶ月 (10〜63 ヶ月) である.症例
が症例 9, 22 でそれぞれ 1600 倍, 400 倍であった.
28 は白血病で死亡したため,初回治療から 23 ヶ
残りはすべて MCHA, TGHA とも陰性であった.
月間で経過観察終了となった.
TMNG 症例では,症例 27 が MCHA 100 倍と弱
TA 症例 26 例のうち 7 例 (症例 2–5, 症例 7–9),
陽性であっただけで, 残りはすべて M C H A ,
TMNG 症例 12 例のうち 2 例 (症例 34, 35),計 9
TGHA とも陰性であった.TSH 受容体抗体は 2001
例が RI 治療後に甲状腺機能低下症となり,甲状
年 10 月までは,RIA 法で測定した (TRAb「コ
腺ホルモン剤の投与を受けている (Table 2,Table
スミック」,コスミック・コーポレーション,東
3).
京).それ以降は,第 2 世代 ELISA 法にて測定し
甲状腺機能低下症に陥った TA 症例 7 例中 5 例
た (TRAb ELISA「コスミック」,コスミック・
では,高齢のため甲状腺機能を正常にして RI 治
コーポレーション,東京).MCHA (セロディア-
療を行うことが安全と判断して,RI 治療前に
ATG), TGHA (セロディア-AMC) は,ゼラチン
MMI 治療を行った (症例 2–4, 症例 8, 9).このた
粒子凝集反応法により測定した (富士レビオ,東
め,この 5 例では初回もしくは 2 回目以降の RI
京).
治療時に血清 TSH 値は抑制されていなかった.
TMNG 症例では甲状腺腫全体を推定甲状腺重
症例 5 では,MMI を使用していないが,2–4 回
量とし,短冊を用いる横沢らの方法により超音波
目の RI 治療時に血清 TSH 値の抑制はみられな
にて測定した7).TA 症例では結節の推定重量を,
かった.現在,甲状腺機能正常を保っている残り
a×b×c×(π/6) から算出した (a: 長径,b: 短径,
19 例のうち症例 26 を除いた 18 例は,初回もし
c: 厚み).TMNG で甲状腺腫が大きい場合は,CT
くは 2 回目以降の RI 治療時に血清 TSH 値が抑
にて甲状腺重量を測定した.
制されていた.
統計学的処理は,t-検定,χ 2
検定を用いた.数
値は,平均値±標準偏差で示した.
III.
結
果
甲状腺機能低下症に陥った TMNG 症例 2 例
(症例 34, 35) では,RI 治療は 3 回行っており,2
例とも 2 回目,3 回目の RI 治療時に血清 TSH 値
は抑制されていなかった.5 例 (症例 27, 29–31,
治療成績のサマリーを Table 1 に示す.AFTN
35) は,2 回目以降の RI 治療時に血清 TSH 値が
と診断されたときに TSH が正常であった TA 症
正常であったが,甲状腺機能は正常を保ってい
例 1 例を除いた TA 25 例と TMNG 全例で,RI 治
る.残り 5 例 (症例 28, 32, 36–38) は,初回もしく
療後に TSH 抑制が消失し,甲状腺機能亢進症が
は 2 回目以降の RI 治療時に血清 TSH 値は抑制
改善された.TA 症例における結節や TMNG 症例
されており,現在の甲状腺機能は正常である.
における甲状腺腫は RI 治療後,全例で有意に縮
小した.
Table 2 に TA 症例の詳細を示す.平均治療回
数 1.4±0.8 回 (1〜4 回),平均総投与量 18.3±10.5
mCi (11.9〜52.0 mCi) であった.観察期間は,
最初の RI 治療から甲状腺機能低下症になるま
での期間は,TA 症例 (7 例) で 14.0±8.3 ヶ月 (3,
9, 10, 12, 17, 18, 29 ヶ月),TMNG 症例 (2 例) で 6
ヶ月,9 ヶ月であった.
TA 症例のうち治療時に TSH 抑制がなかった 6
機能性甲状腺結節に対する外来での放射性ヨード治療
81
例 (抑制なし群:症例 2–5, 8, 9) の治療後の観察
をさらに縮小させる目的で追加治療を行った.
期間は 59.3±6.7 ヶ月(51–68 ヶ月; 症例 26 は TSH
6 例中 4 例は RI 治療後も甲状腺機能は正常であっ
抑制がなかったが,hot nodule がみられたので除
た.特に,症例 31 では腺腫様甲状腺腫術後に長
外した),TSH 抑制のみられた 19 例 (抑制あり群)
期間,甲状腺機能亢進症として MMI を服用して
の観察期間は 23.6±12.0 ヶ月 (5–46 ヶ月) であっ
いた症例である.甲状腺推定重量は 352.4 g と巨
た.抑制なし群は RI 治療を始めた頃の症例が多
大であり,計 8 回の RI 治療にて 72.6 g まで縮小
く,観察期間で比較すると抑制なし群の方が,有
したにもかかわらず,甲状腺機能は正常を保って
意に長くなる.既報3)
いる.
を発表した後に新たな甲状
腺機能低下症は生じていない.したがって,既報
TSH 値が正常になるまでの期間は,TA 症例で
を発表した時点での抑制なし群 6 例の観察期間
4.4±2.8 ヶ月 (1〜12 ヶ月),TMNG 症例で 5.2±
(35.3±6.7 ヶ月 [27–44 ヶ月]) と今回検討した TA
5.1 ヶ月 (2〜15 ヶ月) であった (t-検定:有意差な
症例のうち観察期間が 20 ヶ月未満の短い症例を
し).
除いた抑制あり群 13 例の観察期間 (30.0±8.7 ヶ
RI 治療の前後で
99mTc
もしくは
123I
シンチグ
月 [20–46 ヶ月]) を比較したところ,有意な差が
ラフィを行えた TA 症例 10 例で,RI 治療後に hot
みられなかった.この 2 群間で甲状腺機能低下症
nodule が消失したのは 5 例 (50%) であった.症
の頻度を比較すると,抑制なし群 (6 例中 6 例)
例 17 のシンチグラムを Fig. 1 に示す.残り 5 例
が,抑制あり群 (13 例中 1 例) に比べて有意に甲
では,RI 治療後にも hot nodule 様の所見がみられ
状腺機能低下症の頻度が高い (p<0.001,
χ2
test).
た.症例 3 のシンチグラムを Fig. 2 に示す.RI 治
TA 症例 26 例中 19 例 (73%),
TMNG 症例 12 例
療前に MMI を使用したため TSH 値が抑制されて
中 4 例 (33%) が RI 治療 1 回で治療効果がみられ
いなかった症例において RI 治療後に hot nodule 様
た (Table 2,Table 3).TA 症例では,RI 治療 1
所見のみられる傾向があった (Table 2).TMNG 症
回で治療効果がみられた 19 例の結節推定重量は
例 1 例 (症例 38) では,RI 治療後に hot nodule が
11.0±11.4 ml (2.3–51.4 ml),RI 治療 2 回以上を
消失した (Table 3).診断時に TSH が正常であっ
要した 7 例の結節推定重量は 24.2±16.3 ml (8.0–
た症例 26 では治療後に hot nodule が消失した
57.1 ml) と結節推定重量が小さいものほど 1 回投
(Fig. 3).
与で治療効果がみられる傾向にあったが,統計学
的には有意な差は認められなかった (p=0.08).
TMNG 症例では,RI 治療 1 回で治療効果がみら
IV.
考
察
既報3) の 22 例を含む TA 26 例,TNMG 12 例に
れた 4 例の甲状腺推定重量は 60.3±40.1 ml (21.3–
対する RI 治療は良好な治療結果であった.全
95.8 ml),RI 治療 2 回以上を要した 8 例の甲状腺
例,外来で RI 治療を行った.すべての症例で甲
推定重量は 96.2±108.4 ml (21.7–352.4 ml) であっ
状腺機能亢進症は是正され,結節や甲状腺腫の縮
た.甲状腺推定重量が大きいものほど複数の RI
小もみられた.日本で認められている外来投与量
治療を要する傾向にあったが,統計学的には有意
は 13.5 mCi (500 MBq) までである.外来で治療
な差は認められなかった (p=0.43).
を行う場合,T A 症例で結節が大きいものや
TMNG 症例 12 例のうち 6 例 (症例 29, 30, 31,
TMNG は最高投与量を投与しても 1 回治療では
33, 34, 35) では,TSH 値が正常になった後も RI
不十分なことが多い.しかし,TA 症例 26 例中 19
治療を行った.TMNG の場合,TSH が正常に
例は 13 mCi 1 回投与により甲状腺機能亢進症が
なっただけでは甲状腺腫の縮小が不十分であり,
是正されたので,TA 症例の多くは外来治療で対
非中毒性多結節性甲状腺腫 (Nontoxic multinodular
応可能と思われる.TMNG 症例では,甲状腺腫
goiter: NTMNG) として RI 治療を行い,甲状腺腫
の重量が大きいために 1 回投与では効果不十分で
核 医 学
82
43 巻 2 号 (2006 年)
あることが予想された.しかし,12 例中 4 例は
相対的に機能結節にアイソトープが取り込まれ
13 mCi 1 回投与で甲状腺機能亢進症が是正され
て,あたかも hot nodule のようにみえると考えら
た.残りの 8 例も 1 例 (8 回) を除いて,2–3 回
れる.特に TA 症例の場合,血清 TSH が正常化
の投与で効果が得られた.TMNG 症例で投与量
していれば,治療は成功していると考えてそれ以
が多くなった理由として,甲状腺機能亢進症が
上の RI 治療は行うべきではない.イタリアのグ
是正された後も NTMNG として甲状腺腫を縮小さ
ループの研究では,抗甲状腺薬で前処置した場
せる目的で RI 治療を行ったことがあげられる.
合,治療は成功したにもかかわらず 24 例中 20 例
NTMNG は米国の Society of Nuclear Medicine の
で hot nodule が残ると報告している11).
RI 治療ガイドラインにおいて,適応疾患とされ
ている9).
V.
結
論
RI 治療前に抗甲状腺薬を使用し,TSH を正常
筆者は 1999 年以降に経験した AFTN 38 例全例
にすると hot nodule 以外にも放射性ヨードが取り
に対して外来で RI 治療を行った.AFTN と診断
込まれ正常甲状腺組織が破壊されるため,甲状腺
されたときに TSH が正常であった TA 症例 1 例
機能低下症に陥る可能性が出てくる.Reschini ら
を除いた TA 25 例と TMNG 全例で,RI 治療後に
も,TA 症例を抗甲状腺薬で治療して TSH 値が正
TSH 抑制が消失し,甲状腺機能亢進症が改善され
常になったときのシンチグラフィは hot nodule が
た.TA 症例における結節や TMNG 症例における
消失することを報告している10) .今回の検討で
甲状腺腫は RI 治療後,全例で有意に縮小した.
は,TA 症例 26 例のうち治療時に TSH 抑制がな
RI 治療時に TSH 値を抑制した状態で RI 治療を
かった 6 例全例が RI 治療後に甲状腺機能低下症
行えば,甲状腺機能低下症の発症は抑えられると
となった.今後の経過で,治療時に TSH 抑制が
考えられた.TMNG 症例では,バセドウ病と比
あった症例にも機能低下症が発症するかもしれな
べて 1 回投与でのコントロール率は低いが,繰り
いが,少なくともこの期間では,治療時に TSH
返し投与をすることで対応可能である.本邦で
抑制がない症例は機能低下になりやすいといえ
も,AFTN に対する治療法として,RI 治療を選択
る.
肢に加えるべきと考える.
しかし,甲状腺ホルモンが高い高齢者では心臓
に負担がかかり心房細動になる可能性もあるた
め,RI 治療前に抗甲状腺薬を使用する方が安全
であると考えられる.この場合も,Nygaard11) も
指摘しているように,RI 治療後の甲状腺機能低
下症を予防するためには,RI 治療時には甲状腺
ホルモン値は正常範囲で血清 TSH は抑制された
状態,すなわち潜在性甲状腺機能亢進症になるよ
うに抗甲状腺薬の量を調整すべきであろう.
RI 治療後に hot nodule 様所見がみられたこと
に対する説明は,以下のように推察している.上
述のごとく,抗甲状腺薬を RI 治療前に使うと血
清 TSH が正常になり正常組織も放射性ヨードを
取り込むようになる.RI 治療により正常甲状腺
組織が破壊され,破壊された結節以外の部分がシ
ンチグラフィで描出されなくなる.したがって,
稿を終えるに当たり,ご校閲を賜りました公立小
浜病院院長小西淳二先生に深く感謝いたします.
文
献
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elderly population in a low iodine intake area vs. high
incidence of Graves’ disease in the young in a high
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83
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scintigram after antithyroid and subsequent radioiodine treatment for solitary autonomous nodules.
Thyroid 1998; 8: 223–227.
Summary
Radioiodine Treatment of Patients with Autonomously Functioning
Thyroid Nodules at Outpatient Clinic
Junichi TAJIRI
Tajiri Thyroid Clinic
[Objectives] This retrospective study was aimed
at evaluating the efficacy of radioiodine (RI) treatment
for patients with autonomously functioning thyroid
nodules (AFTN).
[Methods] The subjects were 38 patients including 26 cases of toxic adenoma (TA) and 12 cases of
toxic multinodular goiter (TMNG), who attended our
clinic from July 1999 to April 2005. RI treatment was
performed in the outpatient clinic. Thirteen mCi (481
MBq) of 131I were administered to all patients, and additional administrations were performed at an interval
of 3 to 4 months when not sufficient. Patients with TA
were followed for 31.9±18.7 months (5–68 months)
and those with TMNG for 40.5±18.3 months (10–63
months). A curative effect was defined as absence of
TSH suppression.
[Results] After RI treatment, hyperthyroidism improved, associated with reduction in size of the goiter
or nodes in all 38 cases. Hypothyroidism was observed in one of 19 patients with TA in whom RI was
performed under a suppressed TSH level, while all 6
patients whose serum TSH levels were not suppressed
at the time of the treatment, developed into hypothyroidism (p<0.001).
[Conclusion] RI treatment was effective in patients with AFTN. RI is an alternative treatment of
AFTN. Development of hypothyroidism in patients
with TA can be prevented by maintaining a suppressed
TSH level when RI is administered.
Key words: Autonomously functioning thyroid
nodules, Toxic adenoma, Toxic multinodular goiter,
Radioiodine, Out-patient clinic.