個別介護プランをもとにした施設運営を可能とするツールの開発 ○井上 登紀子(株 メッセージ)2730 折野 千恵(株 介護システム研究所)1737 はじめに 個別介護スケジュールを施設の運営の中で、適切に実施することは困難なことが多い。施設運営では、個別介護スケジュ ール以外にも、施設運営業務があり、それらが優先されがちであるからである。また、個別の介護スケジュールは、ADLの変化、個 別の要望等より、短期間で変更される場合が多く、その反映は煩雑で難しい。施設運営業務中心ではなく、個別の介護に焦点を当てた 施設運営を行うこと、また、煩雑な施設運営業務表作成の時間短縮のために、H16年3月より、個別介護スケジュールから施設運営 業務表を作成するシミュレーションツール「Axist1」の開発を行い、その後、改良を重ね施設運営の状況分析の機能を追加し現在に至 っている。その経緯と、 「Axist1」の機能について紹介する。 用語の定義 「施設運営業務」とは、個別介護スケジュール以外の施設で行う業務、例えば共同のフロアの環境整備や合同のアクテ ィビティなど。 「施設運営業務表」とは、個別の介護スケジュールと施設運営業務のすべてを表現した、業務一覧表(スケジュール表)。 「援助すべき項目」とは、ノーマライゼーションの観点から本来行うべき普通の生活を目指した援助。普通の生活は障害を持つ前の生 活を表しており、通常施設内の援助のみに留まることはない。 「援助できる項目」とは、本人と交渉の上、施設の資源や性質を考慮して 作成された援助。 内容 「Axist1」の活用は、個別プランの適切な立案、個別介護スケジュールを具体的に表示していることが前提である。表示され ている介護スケジュールが適切かについては、個別プランの内容を検証することが必須である。 機能1:個別介護スケジュールの「援助すべき項目」と「援助できる項目」の差異の表示と、人員配置のシミュレーション 「Axist1」に「援助すべき項目」と、「援助できる項目」それぞれの個別介護スケジュールを登録する。「援助すべき項目」と「援助で きる項目」を介護項目・時間の比較を可能としている。また、すべての個別介護スケジュールの総援助時間、その実施において職員が 何名必要かをシミュレーションすることが可能である。個別介護スケジュールを「援助すべき項目」「援助できる項目」を2段階で表示 することにより、施設の総援助時間がなんらかの事情で減少した場合、「援助すべき項目」をもとにして再シミュレーションし、 「援助で きる項目」として実施可能かどうかについて検討することができる。 機能2:施設運営業務と個別介護スケジュールの業務割合の表示と、担当職員の業務時間の表示(業務稼働率) 登録された個別介護スケジュールや施設運営業務は各分類(図1)に沿って登録されることで、業務時間の総合計を分類毎に表示する ことができる。施設運営において、業務の総合計時間や割合について検討することが可能である。個別の介護状況の中でも、特にアク ティビティの実施状況や、個別介護スケジュールは施設の職員が担当するものと、家族や他の社会資源での担当かを表示することが可 能であり、家族の介護への関わり状況を確認することができる。また、これらの業務時間は業務担当職員ごとに表示され、担当職員の 業務時間の負担度から人員配置に関する検討資料ともなる。 図1 移動 個別介護業務 着替 お金管理 施設運営業務 その他 調理 服薬共通 カンファレンス アクティビティ 研修 食事 整容 趣味 医療・服薬 施設管理 食事共通 記録 排泄 散歩 信仰 外出 洗濯 入浴共通 休憩 入浴 家事 買い物 外部サービス 結果と考察 「Axist1」の開発にあたり、㈱メッセージの運営する約10施設より、意見を集約・反映させ、㈱セットアップの協力 を得た。 「Axist1」を用いシミュレーションを行うことで、個別の介護スケジュールから施設業務を作るというステップを確実に行うこ とができ、業務表作成時間は「Axist1」利用前の平均2時間程度から30分程度となっている。また、すべての個別介護スケジュール や施設運営業務を担当職員ごとに表示することで、業務担当について責任体制が明確となっている。使用全施設での比較ができ、分類 による項目の割合、総業務時間を参考に、効率的な運営を行っている施設の業務の組み方を研究可能としている。今後の課題として個 別介護スケジュールと施設運営業務表の連動に留まらず、介護スケジュール以外の個別プランや介護報酬請求への連動が挙げられる。 参考引用文献:グループホーム・有料老人ホームケアプラン作成ガイド 日綜研 橋本俊明 他 (2006)
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