第 5 章 まとめにかえて

第5章
まとめにかえて
以上、フランスの職業訓練分野の国際協力の現状について紹介した。キーワードとして
挙げられるのは、社会的パートナー、職業訓練基金、そして資格主義であろう。フランス
は、国内のさまざまな社会的パートナーを職業訓練分野の協力プロジェクトに動員しよう
と試みてきた。そしてこの方式が適切であると評価している。また、諸外国のドナーから
の資金供与の受け皿ともなる職業訓練基金は、国家の介入を排除した独立した機関として
運営しようと試みている。特に、サブサハラ・アフリカ諸国では、構造調整以後の国家に
対する不信感がここにも表れている。資格主義についていえば、フランスは、ヨーロッパ
諸国に定着しつつある国際基準に基づく種々の職業資格を重視している。総じていえば、
本国の経験をフランス語圏諸国を対象にした協力プロジェクトに、そのままそっくり導入
し よ う と し て い る 。 第 2 章 、 第 3 節 で 紹 介 し た DGCID 主 導 の プ ロ ジ ェ ク ト で も 「 フ ラ ン
ス語圏諸国の文化的近親性がこの試みを可能にした」と評価しているのである。
日本はこのフランスの職業訓練分野の国際協力から何を学ぶべきか。フランスと日本と
では、取り巻く国際的環境が違いすぎて直接、見習うべき要素は少ないかもしれない。む
しろ、考慮、検討に値するのはその国際的環境の違いである。
よくも悪くも現代世界でフランスは、英語圏に対抗して形成されているフランス語圏の
盟主的存在である。そのことは職業訓練分野の国際協力にも色濃く反映している。フラン
スが行う職業訓練、さらには人材育成の国際協力のほとんどは「フランス語人」の訓練、
育成とならざるをえない。大別すれば英語圏に属しているともいえる日本は、日本と異な
る文化のフランス語圏を放置すべきなのだろうか。といって、フランスに倣って日本語圏
を形成し「日本語人」の訓練、育成を目指すことは、たとえ職業訓練分野に限っても非現
実的である。
言語の障壁などさまざまな問題があるだろうが、もし、日本がフランス語圏を対象にし
た国際協力にも足を踏み入れたとしたならば、日本から見たそのメリットは何か。それは
フランス語圏の文化と英語圏の文化とを相対化できることではないだろうか。日本は宿命
として、これからも英語とフランス語の文化に挟まれながら国際協力を展開しなければな
らない。英語圏に国際協力を集中することは、ややもするとフランス語圏の存在を軽視す
ることになりかねない。それは国際的に英語一辺倒の政策志向を生み出す危険がある。フ
ランス語圏との接触を保つことで、英語圏とフランス語圏の間のバランスの上に立脚し、
相対的に自立した独自性のある国際協力を展開できるのではなかろうか。もちろん職業訓
練分野の協力においても然りである。
また、サブサハラ・アフリカのフランス語圏諸国を対象にした協力の場合、フランス人
が協力するのとは異なり、フランス語にとらわれない日本人が教育・訓練分野の協力に関
わることにも意味がある。フランス語圏に包摂されているとはいえ、住民にとってフラン
ス語は母語ではない。
「 連 帯 」の 名 で フ ラ ン ス か ら 移 植 さ れ る 職 業 訓 練 や 一 般 教 育 の 中 で 彼
らはかなりの言語的圧力を感じているはずである。そのような状況でフランス語文化圏か
らは一定の距離感をもつ日本人が訓練者の側に存在することは、彼らにとっては救いとな
るであろう。
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JICA は 開 発 途 上 諸 国 に 専 門 家 な ど の 人 材 を 4,100 名( 2007 年 度 、延 べ 人 数 )派 遣 し て
いる。また、そのための人材育成も行っている。この点で注目すべきは日本の青年海外協
力 隊 の 派 遣 で あ る 。 既 に 累 計 で 3 万 名 以 上 に 達 し 、 2008 年 現 在 で も 76 カ 国 、 2,264 名 の
協 力 隊 員 が 派 遣 さ れ て い る 。サ ブ サ ハ ラ・ア フ リ カ の フ ラ ン ス 語 圏 諸 国 に も 288 名 が 派 遣
さ れ て い る 。 フ ラ ン ス で は 2000 年 に 徴 兵 制 が 廃 止 さ れ て か ら は 、 兵 役 免 除 を 目 的 に 「 技
術 協 力 員 ( coopérant technique)」 と し て 仏 語 圏 諸 国 に 若 年 層 が 派 遣 さ れ る こ と が な く な
っ た 。 今 日 で も NGO に よ る ボ ラ ン テ イ ア 活 動 は 存 続 し て い る が 、 か つ て の よ う な 制 度 的
保 証 は な く な っ た 。 そ の 点 、 日 本 の 青 年 海 外 協 力 隊 は 、 JICA の 枠 組 み の 中 で 展 開 さ れ て
き た 古 い 歴 史( 1965 年 発 足 )を 持 つ ボ ラ ン テ イ ア 活 動 で あ り 、フ ラ ン ス 語 圏 の 開 発 途 上 諸
国における活動には期待できるものがある。
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