ドバイの経済発展への取り組みについて

− 海外調査報告 2006.12 ドバイ〔環境管理研:船水・中島・山田〕 −
ドバイの経済発展への取り組みについて
1.公式訪問スケジュール
・2006 年 12 月 4 日 9:00∼10:00
Nakheel Sales Centre(ナキール社:政府系ディベ
ロッパー)において、Shaun Lenehan 氏によるレクチ
ャーと質疑。
・2006 年 12 月 4 日 11:00∼12:00
DP WORLD(港湾管理者)において、Deon Lawrence
D mello 氏と Ammar Jamal Al Wahedi 氏によるレクチ
ャーと質疑。
2.目的
ドバイでは、石油枯渇後の経済基盤の育成を進めてい
る。その中心産業として中継貿易を据え、港湾インフラ
整備や港湾背後地に自由貿易地区を設置するなど、国策
として取り組み、コンテナ取扱量では 2005 年には世界 9
位に躍進している。このようなドバイの港湾の発展につ
いて、成功要因や今後の展望について調査を行った。
また、観光産業における取り組みとして、高級リゾー
ト地として地位を確立するために、現在進行中の大規模
な海洋開発プロジェクトについても調査を行った。
3.ドバイの概要
ドバイは、アラブ首長国連邦(UAE)を構成する七
つの「首長国」の一つである。UAEは、アラビア半島
東南部に位置し、ペルシャ湾に面する。西と南はサウジ
アラビアに、東と北はオマーンに国境を接する。面積は
83,600km2 で、北海道と同じくらいである。気候は、亜熱
帯乾燥気候で、夏場(5 月∼9 月)は高温多湿、冬場(10
月∼4 月)は穏やかな気候である。国土の大部分は砂漠
地帯で、内陸部にオアシスが点在する。
ドバイの面積は 4,114km2 でおよそ埼玉県くらいである。
人口は、124 万人(2006 年)で、その 7 割以上が外国人。
ちなみに男性が 7 割、女性が 3 割の比率である。宗教は
イスラム教、貨幣はディルハム(Dhs)、2004 年のGDP
は約 320 億ドル。
ジュベル・アリ港
4.ドバイの歴史
ドバイの歴史は、19 世紀初頭にアブダビからマクトゥ
ーム家が移住したところから始まる。以後、ドバイの首
長はこのマクトゥーム家から輩出されている。ペルシャ
湾は紀元前より、真珠の産地として知られ、19 世紀初め
のドバイは真珠の取引も盛んであった。その後、真珠産
業は、世界恐慌や油田開発の影響によって衰退してしま
うが、イギリスとインド・南半球を結ぶ航路の中継地と
いう地理的条件に恵まれ、中継貿易が盛んに行われるよ
うになった。1950 年代になると、中東、湾岸地域での石
油採掘が進み、
ドバイでも 1966 年に最初の油田が発見さ
れ、3 年後には輸出された。1971 年にイギリスから連邦
制によって独立し、その頃から石油収入を資金源とした
インフラ整備が始まり、現在に至っている。
ラシード港
クリーク
ドバイ国際空港
その他フリーゾーン(FZ)の設立
1996年 ドバイ・エアポート・FZ(航空貨物・物流)
2000年 ドバイ・インターネット・シティ(IT産業、電子商取引)
2001年 ドバイ・メディア・シティ(メディア・出版・音楽関連産業)
2002年 ドバイ・メタル・アンド・コモディテーズ・センター(金、貴金属、宝石類取引)
2002年 ヘビー・エクイプメント・アンド・トラック・ゾーン(トラック、ブルドーザ等の再輸出)
2004年 ドバイ・インターナショナル・フィナンシャル・センター(資産管理、外国為替市場、保険業務等)
6.港湾インフラ整備
前述したように、ドバイは昔から中継貿易が盛んに行
われていた。当初は、ドバイ市街地にあるクリークが天
然の港として機能しており、船舶の大型化に対応して浚
渫工事を行うなどの対策が取られていたが、更なる発展
のため、ラシード港、ジュ
ベル・アリ港が建設された。 ラシ−ド港
ラシード港は、岸壁延長
が約 1400m、9 基のガント
リークレーンを有し、コン
テナの取扱許容量は 150 万
TEUで、2005 年コンテナ
取扱量は約 123 万TEUで
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ある。
ジュベル・アリ港は、人
造港としては世界最大規模であり、岸壁延長は約 4800m、
20 フィートコンテナを一度に 4 個扱えるガントリークレ
ーン 20 基含む 45 基のガントリークレーンを備えている。
コンテナの取扱許容量は 900 万TEUで、2005 年コンテ
ナ取扱量は約 639 万TEUである。両港合わせたコンテ
ナ取扱量が約762 万TEUで世界 9 位にランクしている。
また、両港において、EDIによる手続きの迅速化、
IT導入による両港とJAFZとの連携強化、船舶や設
備等のスケジュールやコンテナ移動等の管理が行われて
いる。
ジュベル・アリ港
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ジュベル・アリ・フリーゾーン
現在、ジュベル・アリ港では、拡張計画が進行中で、
事業費 15 億ドルをかけ
Terminal
た新ターミナル建設が行
われている。新ターミナ
ルによって、ドバイ港湾
のコンテナ取扱能力は更
に 500 万TEU増加する。
今年、その一部の供用が
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開始される。
両港を管理している国営港湾会社(DP World)は、2006
年に英国の港湾・フェリー管理会社ペニンシュラ・アン
ド・オリエンタル・スチーム・ナビゲーション(P&O)
を買収し話題となったが、これにより DP World は、世界
第 3 位の港湾会社となった。
ドバイ港(ラシード、ジュベル・アリ港)のコンテナ取扱量の推移
10
Inbound
9
8 .9 2
Outbound
8
7 .6 2
Transhipment
7
(百万TEUs)
5.石油枯渇後の経済基盤の育成
ドバイは産油国ではあるが、原油埋蔵量は少なく、隣
国アブダビが、あと百年は石油採掘が可能であるのに対
して、ドバイの石油は、あと 20 年程で枯渇するといわれ
ている。それに備えて、ドバイはいち早く「石油に頼ら
ない」経済基盤の育成に取り組んできた。その中心が、
貿易産業である。油田が発見された頃には、既に中継貿
易が行われていたが、それを更に伸ばそうと国際的規模
の港湾の整備に取り組み、1972 年にラシード港が、1979
年にはジュベル・アリ港が開港した。また、1985 年には、
ジュベル・アリ港の後背地に貿易・物流の拠点として、
開発面積が百 ha に及ぶジュベル・アリ・フリーゾーン
(J
AFZ)を設立し、外国企業の誘致を図った。その後、
他の産業においても同様にFZを設立し、そこに外国企
業が進出し、それらによる経済活動と各FZの相乗効果
もあり、中東におけるビジネス拠点の地位を固めつつあ
る。
その成果として、2000 年に、当時は皇太子だったシェ
イク・モハメッド(HH Sheikh Mohammed bin Rashid Al
Maktoum、現首長)が「ドバイビジョン 2000」を発表し
た。その中で掲げられている目標のひとつに、
「2010 年
までにGDPの石油部門の割合をゼロ%にする」
とあり、
1990 年は 3 割程度であった石油部門の割合が、
2004 年に
は 6%まで下がっている。
6 .4
Total
6
5 .2
5
3
1
0
4 .0
3 .5
4
2
4 .7
4 .2
1 .3
1 .5
1 .7
1 .9
2 .1
2 .2
2 .6
2 .8
2 .8
3 .2
3 .1
2 .6
1 .7
1 .5
2 .1
1 .8
2 .1
2 .4
1 .4
1 .0
1 .4
1 .4
1 .4
0 .9
1 .2
0 .8
0 .4
0 .3
1 .1
0 .7
0 .3
0 .3
0 .6
0 .5
0 .7
0 .8
0 .8
1 .0
0 .5
0 .3
0 .5
0 .5
0 .9
0 .4
0 .3
0 .6
0 .6
0 .7
0 .8
0 .9
1 .1
0 .5
1991
92
93
94
95
96
97
98
99
2000
01
02
03
1 .2
1 .4
1 .5
04
05
1 .8
06
7.ジュベル・アリ・フリーゾーン(JAFZ)
『JAFZに多くの企業が進出することによって、貿
易活動がより活発になり、人、金、物が動くことが、商
業都市ドバイの発展につながる。』という思想のもと、
1985 年の設立以降、着実にJAFZへの進出企業数が増
加している。2006 年 12 月時点で、120 カ国から 5,500
を超える企業が進出している。
JAFZにおける進出企業の多くは、中東・湾岸諸国
への再輸出基地として、また、地域統括本部的な機能の
役割を担っている。進出企業数の多い国は、上位からイ
ラク、UAE、インド、イラン、英国、米国となってい
る。イラク、イランは、ドバイを介して先進諸国との貿
易を行っており、特に、イラクは、自国の港湾整備も進
められていることもあり、進出企業が急増した。UAE
の企業が多いのは、JAFZの良好なインフラやサービ
スによる所も大きいが、JAFZでのサービス業を営む
企業も含まれているためである。因みに、日本企業は、
99 社進出している。
2000 年以降のJAFZ進出企業の急増と同調するよ
うに、ドバイ港のコンテナ取扱量も急増し、2001 年以降、
前年比 14∼24%の増加率を示している。
JAFZ進出企業数の推移
6,000
ジュベル・アリ港
5,588社
5,000
4,000
3,000
2,000
JAFZ拡張イメージ
1,000
0
1985
1990
1995
2000
2005
2006
JAFZへの進出企業数の上位国
イラク 954社
その他 2080社
UAE 856社
米国 230社
英国 389社
イラン 452社
インド 627社
このように、JAFZへの進出企業数が伸び続けてい
る要因は、中東という地理的な要因に加えて、JAFZ
内では企業の身元引受保証人が不要であることや、安価
な賃貸用地、サポートサービス等の企業立地支援制度に
よるところが大きいと考えられる。しかし、その反面、
進出企業の産業別の割合では、商業・貿易産業が 8 割近
くを占めており、JAFZ設立当初のねらいの一つであ
ったと思われる自国産業の発展に寄与する製造業が 2 割
に留まっている。また、周辺諸国において、ドバイの成
功例に倣い、同様なFZを設立する動きが見られる。
このような現状への対応策ということではないであろ
うが、現在、JAFZの拡張計画が進行中である。現在
のJAFZより内陸部に、開発面積が 130 ㎞ 2 で、企業
立地用エリアと 6 本の滑走路を有する空港(2007 年に 2
本の滑走路が供用開始予定)が整備され、港湾、JAF
Zとのアクセスが便利になる。
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8.高級リゾート地を目指して
(1)観光産業
他の産業のように、FZは設立していないが、観光産
業の振興にも力を注いでいる。特に、アッパーマーケッ
トをターゲットにしている。この客層は地元に大量の外
貨を落とすため、ドバイの得る利益は大きい。この点が
ドバイの観光開発の特徴といえる。
ドバイは、以前から冬でも暖かい避寒地として、欧州
では知られていた。その利点を生かし、豪華リゾート地
になるべく開発を始め、1990 年代後半からそのスピード
が加速した。特にジュメイラ地区は、ビーチリゾートの
中心で高級リゾートホテルが建ち並んでいる。特に有名
なのが、帆船の帆の形をイメージした「バージュ・アル・
アラブ」である。ホテル建築としては世界一の高さ(321
m)であり、ジュメイラビーチから 200m沖にある島の
上に立ち、全室スウィートルームで、ホテル評価で最高
の五つ星では足りず、七つ星ホテルとも言われている。
一方、観光客の足となる航空分野においては、ドバイ
国際空港の拡張整備や航空会社への投資が行われている。
ドバイを本拠とするエミレーツ航空は、2005 年時に、保
有する航空機が 91 機、世界 83 箇所への運航で、乗客が
1450 万人であったが、2010 年には、航空機 156 機、世界
101 箇所への運航によって、乗客 2600 万人の達成を目指
しており、最近では、エアバスA380機を大量発注し
たことでも話題になった。
②
①ザ・パーム・ジュメイラ
②ザ・パーム・ジュベル・アリ
③ザ・パーム・ディラ
④ザ・ワールド
③
④
③
①
ドバイ政府観光・商務局資料
(2)大規模海洋リゾート開発
ドバイにおける開発は、主に石油収入を財源とする大
規模な開発であり、その中でも注目すべきが、ドバイ沖
に造成中の「ザ・パーム」
、
「ザ・ワールド」などの巨大
リゾート開発である。これらは、政府系ディベロッパー
のナキール社(Nakheel)によるプロジェクトである。ザ・
パームは、ヤシの木をモチーフにした人工島で、そこに
ディラ、マンション、ホテル等が建設される。現在、3
地区にそれぞれザ・パーム・ジュメイラ、ザ・パーム・
ジュベル・アリ、ザ・パーム・ディラが造成されている。
これら三つの島でドバイの海岸線延長が 520 ㎞増加する。
ザ・パーム・ジュメイラは、総工費 20 億ドル、埋め立
てに使用した土砂は、約 1 億 1000 万m3 で、その多くは、
ドバイ沖 30 ㎞の箇所で浚渫した土砂を使用した。
規模は、
約 5 ㎞×5 ㎞で、32 の五つ星ホテルが建ち、17 枚のヤシ
の葉形の部分にはヴィラが並ぶ。ヴィラの価格は、一例
を示すと 1200m2 程の物件ならば、約 1400 万ドルで、買
い手には、著名人も名を連ねている。
環境面では、当初、この海域に生息している生物が少
なく、ダイバーも好んで潜ることがなかったが、造成後
は、ヤシの木を囲む三日月形の防波堤(延長 11 ㎞)の周
囲(約 550ha)が人工礁となり、魚やその他生物の生息
場所になっているそうである。
他の 2 島の規模は、ジュベル・アリが 7.5 ㎞×7.5 ㎞、
ディラが 17 ㎞×9 ㎞とジュメイラより大規模となってい
る。また、大小 300 の島からなるザ・ワールドは、ドバ
イ沖 4 ㎞に造成される。その名の通り、航空写真で見る
と世界地図の形となっている。島の面積は一島あたり
2.5 万∼9 万m2、価格は 800 万ドルからで、購入した島
は好きなように使える。
この他にも、計画段階ではあるが、ザ・パーム・ジュ
ベル・アリに隣接して、パーム島より大規模な人工島を
造成し、住宅居住地、商業地区、観光地、娯楽・文化施
設を建設するプロジェクトや全長 80 ㎞、掘削土量が 50
億m3 に及ぶ巨大運河を内陸部に通すというプロジェク
トもある。
Nakheel ホームページ
建設中のザ・パーム・ジュメイラ
おわりに
ドバイでは、
紹介した以外にも多くのプロジェクトが、
首長の強力なリーダーシップの下に進められている。5
年後、10 年後には、また今とは違うドバイが見られる。
そして、それが目論見通りの結果に導かれているかどう
かは、石油枯渇後に判明することになるだろう。