平成13年度 学位論文 独立確率変数の和に 関する 極限定理について 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教 科・領 域 教 育 専 攻 自 然 系コ ー ス M 0 0 1 8 7 E 森 本 美 紀 序 文 本論文の目的は,独立確率変数の和に関する極限定理について考察し,それらの定理に 明確な証明を与えることである.本論文において極限定理とは,確率変数列の法則収束, 概収束に関する諸結果をさしているが,確率変数列が独立な場合これらの収束は同等にな る.したがって本論文では主に,確率変数列が法則収束する場合を取り扱うことにする. 本論文における主題は,以下の問題を考察することである. ¶ ³ 問題 各 n に対して,ξn,i , i = 1, · · · , n は独立で,同分布をもつ確率変数列とする. n X Sn ≡ ξn,i が,n → ∞ のとき法則収束するならば,その極限分布はどのようなも i=1 のであるか. µ ´ この問題については 20 世紀半ばごろ,レヴ ィ,コルモゴロフらによって以下の結果が 示された. • 上記の問題に対する極限分布は,すべて無限分解可能な分布である. • この極限分布の特性関数は,ある実数と R1 上の有界測度を用いて具体的に表現で きる. ところで,よく知られた独立確率変数の和に関する極限定理には,大数の法則や中心極 限定理があるが,本文中で述べるように,これらはこの問題に属することがわかる. したがって本論文の主題は,上記の問題について考察し,この2つの結果を導くことで ある. 本論文は , 3章で構成されている. 第1章では,測度論を前提とし,本論文を構成する上で必要となる確率論の基礎的概念 を述べる.したがってこの章では,証明はすべて省略する. 1節では,σ− 加法族,ボレ ル集合体,可測空間を定義する.その後,コルモゴロフにしたがって全測度 1 の測度を確 率として捉え確率空間を定義し ,カラテオド リの拡張定理により有限次元直積確率空間 が構成できることを述べる.2節では,可測関数を定義し,可測関数により確率変数を定 義する.次に分布と分布関数を定義し,分布関数が分布を特徴づける関数であることを述 べ,論文に必要な分布の具体例をあげる.3節では,確率変数の独立性,加法族・σ− 加 i 法族の独立性を述べ,確率変数列に関する収束概念のひとつである概収束を定義する.4 節では,確率変数に対して平均値と分散を定義し,平均値の基本的な性質をあげ,2つの 確率変数が同じ分布をもてば,その平均値は等しくなることを述べる.また,特定の分布 に対する平均値の例をあげる.次に測度論でよく知られたフビニの定理を述べ,独立確率 変数列に対する平均値の乗法性や,平均収束を導く重要な結果であるルベーグの収束定理 を述べる. 第2章では,分布を特徴づけるひとつの量として特性関数を導入し,特性関数の収束を 通して分布の収束や確率変数の収束を考察する.1節では,特性関数を定義し,2つの確 率変数が同じ分布をもてば,その特性関数は等しくなることを述べる.また,特性関数の 簡単な性質を示し,独立確率変数の和の特性関数についても考察する.次にレヴィの反転 公式と一意性定理を示し,分布と特性関数が一対一対応をもつことを述べる.2節では, 分布の収束性の意味づけをし ,命題 2.10 においてそれと同値な結果を5つ示す.また3 節において,特性関数と分布の収束にかかわる定理を示す準備として,分布列の任意の無 限列が収束部分列をもつための必要十分条件について述べる.3節では,確率変数の収束 概念である法則収束を,対応する分布の収束によって定義し,概収束と法則収束の関係に ついて述べる.次に定理 2.14 と定理 2.15 において,特性関数の収束と分布の収束が関連 づけられることを示す.特にこの後者の定理は,分布の収束を考える上で非常に有用な定 理である. 第3章では,0 − 1 法則,大数の法則,中心極限定理と,はじめに述べた本論文の主題 となる問題について考察する.1節では,末尾事象を定義し,コルモゴロフの 0 − 1 法則 について述べ,独立確率変数の算術平均が収束する事象は末尾事象となることを示す.2 節では,その算術平均が確率 1 で収束する条件について述べ,コルモゴロフの大数の法則 を示す.3節では,一般的な枠組みにおいて中心極限定理を示す.その結果からの帰結と して,確率変数が独立同分布な場合における中心極限定理を導く.4節では,本論文の主 題である問題について考察し ,定理 3.14 において,独立同分布確率変数の和が法則収束 するとき,その極限分布は無限分解可能な分布であり,さらに,その極限分布の特性関数 は具体的な形で表現できることを示す.その準備として,無限分解可能な分布・無限分解 可能な特性関数を定義し ,それらがもつ性質を調べる.そして,定理 3.18,定理 3.19 を 示し,定理 3.14 を導く. 本論文を構成するにあたっては,西尾 真喜子 著『確率論』を参考とし,本論文の主題 である定理 3.14 を導くために必要となる筋道を再構成したが,証明に関してはより丁寧 な証明を記すよう心がけた. 最後になりましたが , 学部生時代から含めて六年間丁寧にご指導頂きました兵庫教育大 学 数学教室 藤原 司先生をはじめ,数学教室の諸先生方に心より感謝の意を表します. ii 目次 第 1 章 確率論の基本概念 1 1.1 確率空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 1.2 可測関数と確率変数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 1.3 確率変数の独立性と収束概念 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 1.4 平均値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 第 2 章 特性関数 12 2.1 特性関数の定義とその性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12 2.2 確率測度の収束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 2.3 分布の収束と特性関数の収束 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25 第 3 章 独立確率変数の極限定理 30 3.1 コルモゴロフの 0 − 1 法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 3.2 大数の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33 3.3 中心極限定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36 3.4 無限分解可能な分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 40 56 参考文献 iii 第 1 章 確率論の基本概念 この章では,独立確率変数の和に関する極限定理を議論するにあたって,必要となる基 本概念を述べる.その際,20 世紀前半にコルモゴ ロフによって確立された測度論的確率 論の枠組みに沿って議論を進める. 1.1 確率空間 定義 1.1 Ω を空でない集合とする。Ω の部分集合族 F が次の3つの条件をみたすとき, F を σ− 加法族という. (i) Ω∈F (ii) Λ ∈ F ならば, Λ{ ∈ F (iii) Λi ∈ F , i = 1, 2, . . . ならば, ∞ [ Λi ∈ F i=1 F が定義 1.1 の ( ) のかわりに次の条件をみたすとき,F を Ω 上の加法族という. ( )0 Λ1 , Λ2 ∈ F ならば , Λ1 ∪ Λ2 ∈ F 定理 1.2 C を Ω の部分集合族とする.このとき,C を含む最小の σ− 加法族が唯一つ存在 する. これを C より生成される σ− 加法族といい,σ(C) とかく. 定義 1.3 Ω を n 次元ユークリッド 空間 Rn ,C を Ω 上の開集合全体とする.このとき,σ(C) を n 次元ボレル集合体とよび,B n とかく.B n の要素を n 次元ボレル集合という. 例 1.4 C1 ≡ { (−∞, r] ; r は有理数 } , C2 ≡ { (a, b] ; −∞ ≤ a < b < ∞ } とおけば , σ(Ci ) = B 1 , i = 1, 2 となる. 例 1.5 ξ を Ω 上の n 次元ベクトル値関数とする. C ≡ © ξ−1 (A) ; A ∈ B n ª とおけば,C は σ− 加法族となる.これを ξ からつくられる σ− 加法族といい,σ(ξ) とかく. 定義 1.6 Ω に σ − 加法族 F が定められているとき,(Ω, F ) を可測空間といい, F の要 素となる Ω の部分集合を F − 可測集合,または単に可測集合という. 1 1. 確率論の基本概念 2 定義 1.7 (Ωi , Fi ) , i = 1, . . . , n を可測空間,C ≡ n nY o Λi ; Λi ∈ Fi , i = 1, . . . , n と i=1 n Y する. Ωi ≡ { (ω1 , . . . , ωn ) ; ωi ∈ Ωi , i = 1, . . . , n } 上の σ− 加法族 σ(C) を,Fi , i = i=1 n n n ³Y ´ Y Y 1, . . . , n の直積 σ− 加法族といい, Fi とかく.また,可測空間 Ωi , Fi を i=1 i=1 (Ωi , Fi ) , i = 1, . . . , n の直積という. i=1 次に,コルモゴロフにしたがって確率を定義する. 定義 1.8 (Ω, F ) を可測空間とする.F 上で定義された P が次の3つの条件をみたすと き,P を F 上の確率,もしくは確率測度という. (i) 任意の Λ ∈ F に対し, P (Λ) ≥ 0 (ii) P (Ω) = 1 (iii) Λi ∈ F , i = 1, 2, . . . が互いに素のとき, ∞ ∞ ³[ ´ X P Λi = P (Λi ) i=1 (σ − 加法性) i=1 P が定義 1.8 ( ) のかわりに次の条件をみたすとき,P を測度という. 任意の Λ ∈ F に対し, P (Λ) ≤ ∞ また P (Λ) < ∞ のとき,P を有界測度という.すなわち,全測度1の測度が確率である. また,P は σ− 加法性をみたすため,有限項の Λi ∈ F に対しても条件 ( ) は成り立つ. これを有限加法性という. 定義 1.9 (Ω, F ) を可測空間,P を F 上で定義された確率とする.このとき,(Ω, F , P ) を確率空間,Λ ∈ F を事象,P (Λ) を事象 Λ の起こる確率,あるいは Λ の確率という. 特定の事象に対する確率を定めたとき,そのようになる確率の存在を示すことは,確率 論の基本的な問題の一つである.この問題に対し,次の拡張定理は重要である. 定理 1.10 ( カラテオド リの拡張定理)C を Ω 上の加法族,Q は C 上で定義された有限 加法性をもつ関数で,次の条件をみたすものとする. (i) 任意の A ∈ C に対し,Q(A) ≥ 0 (ii) Q(Ω) = 1 (iii) Ai ∈ C , i = 1, 2, . . . を互いに素な集合列とする. ∞ ∞ ∞ ³[ ´ X [ Ai ∈ C ならば, Q Ai = Q(Ai ) i=1 i=1 i=1 1. 確率論の基本概念 3 このとき,Q は σ(C) 上の確率に一意的に拡張できる.すなわち,σ(C) 上で定義され,次 の条件をみたす確率 P が一意的に存在する. 任意の A ∈ C に対し, P (A) = Q(A) 集合 A,B に対し,(A \ B) ∪ (B \ A) を A と B の対称差といい,A4B とかく. 定理 1.11 (近似定理)(Ω, F , P ) を確率空間,C ⊂ F とする.C が加法族のとき,Λ ∈ σ(C) に対し,次をみたす An ∈ C , n = 1, 2, · · · が存在する. lim P (Λ4An ) = 0 n→∞ つまり,この定理は σ(C) の集合が C の集合で近似できることを示している. カラテオド リの拡張定理により,有限次元直積確率空間を構成することができる. n Y 確率空間 (Ωi , Fi , Pi ) , i = 1, . . . , n に対し,Ω ≡ Ωi とおく. B≡ n nY i=1 o Λi ; Λi ∈ Fi , i = 1, . . . , n とおき,C を B の互いに素な集合の有限和として i=1 表わされる集合全体とすれば,C は加法族で,σ(C) = Qを Q n ³Y ´ Λi i=1 A= l Y n [ Λi (j) = n Y n Y Fi となる.F ≡ i=1 n Y Fi とおく. i=1 Pi (Λi ) となる C 上の有限加法性をもつ関数とする.すなわち, i=1 と互いに素な直積集合の和とかけたとき,Q(A) = j=1 i=1 l Y n X Pi (Λi (j) ) とな j=1 i=1 る.A が2通りの互いに素な直積集合の和で表わされたとすればそれらは等し くなるの で,Q(A) は A の表わし方によらない. このとき,Q はカラテオド リの拡張定理の3つの条件をみたすので,定理により Q は n Y F 上の確率 P に拡張できる.この P を P1 , . . . , Pn の直積確率測度といい,P = Pi と かく.また,(Ω, F , P ) を (Ωi , Fi , Pi ) , i = 1, . . . , n の直積確率空間という. 1.2 可測関数と確率変数 以下この節では (Ω, F ) を可測空間とする. 定義 1.12 Ω 上の実数値関数 X が,任意の A ∈ B 1 に対し X −1 (A) = { ω ∈ Ω ; X(ω) ∈ A } ∈ F をみたすとき,X を F − 可測または F − 可測関数という. i=1 1. 確率論の基本概念 4 ただし X は,+∞,−∞ の値も許した関数が必要な場合もあるが,特にことわらない限 り実数値関数とする.+∞,−∞ も許した関数 X に対しては,定義 1.12 以外に X −1 {∞}, X −1 {−∞} が共に F の要素になるとき,X を F − 可測という. 定理 1.13 X が F − 可測 となる必要十分条件は, 任意の有理数 r に対し, X −1 ( (− ∞ , r ] ) ∈ F が成り立つことである. Rn 上の B n − 可測関数を n 次元ボレル関数という. 例 1.14 Rn 上の連続関数 g は n 次元ボレル関数である. 定理 1.15 Xi , i = 1, . . . , n を Ω 上の F − 可測関数,g を n 次元ボレル関数とすれば,合 成関数 Y (ω) ≡ g(X1 (ω), . . . , Xn (ω)) も F − 可測になる. 定理 1.16 Xn , n = 1, 2, . . . を Ω 上の F − 可測関数列とする.inf Xn , sup Xn , lim Xn , n n n→∞ lim Xn が,それぞれ Ω の各点で有限値をもてば,それらは Ω 上の F − 可測関数である. n→∞ また, lim Xn (ω) が R1 で存在する ω 全体の集合は F − 可測集合である. n→∞ Ω 上の関数 X が,互いに素な F − 可測集合 Λi , i = 1, . . . , n と ai ∈ R1 , i = 1, . . . , n に n X より X(ω) = ai IΛi (ω) とかけるとき,X を階段関数という. i=1 ただし I は,ω ∈ Λ のとき IΛ (ω) = 1 , ω ∈ / Λ のとき IΛ (ω) = 0 となる関数とする. 定理 1.17 Ω 上の非負な F − 可測関数 X は,非負階段関数で下から各点近似できる. 次に確率変数,分布,分布関数を定義し,これらの関係について述べる. 確率空間 (Ω, F , P ) 上で定義された F − 可測関数 X を確率変数という.X が F − 可測 より,任意の A ∈ B 1 に対し X −1 (A) ∈ F となるから P (X −1 (A)) が定まる.これを X が A に入る確率といい,P (X ∈ A) とかく. 定理 1.18 B 1 上の関数 µ を µ = P ◦X −1 , すなわち µ(A) = P (X ∈ A), により定義すれば,µ は B 1 上の確率になる. A ∈ B1 1. 確率論の基本概念 5 X を Ω から R1 への写像と見たとき,X により P は µ に写され,確率空間 (Ω, F , P ) は 確率空間 (R1 , B 1 , µ) に写される. 定義 1.19 定理 1.18 の µ を X の分布といい, F (x) ≡ µ( (−∞ , x] ) = P (X ≤ x) と定義された R1 上の関数 F を,X の分布関数あるいは µ の分布関数という. 定理 1.20 R1 上の関数 F が分布関数ならば,F は次の性質をみたす. (i) x ≤ y ならば, F (x) ≤ F (y) (単調性) (ii) x & c ならば, F (x) & F (c) (右連続性) (iii) lim F (x) = 1 , x→∞ lim F (x) = 0 x→−∞ 逆に,R1 上の関数 F が ( )∼( ) の条件をみたすならば,適当な確率空間とその上の確 率変数 X を,X の分布関数が F となるように作ることができる.さらに,F を分布関数 とする確率変数の分布は一意である. すなわちこの定理より,分布関数は分布を特徴づける上で有用な関数であることがわ かる. ここで,分布の例をあげておく. 例 1.21 単位分布 δ{a} ,a ∈ R1 確率変数 X の分布 µ が次のようになるとき,X は単位分布 δ{a} に従うという. µ(a) = P (X = a) = 1 すなわち単位分布とは,確率変数 X が1点 a だけにおいて確率 1 をもつ測度のことで ある. 例 1.22 ポアソン分布 Φ(λ, u) ,λ > 0 ,u 6= 0 確率変数 X の分布 µ が,任意の k ∈ {0} ∪ N に対し次のようになるとき,X はパラメー タ λ,高さ u のポアソン分布 Φ(λ, u) に従うという. µ(ku) = P (X = ku) = e−λ λk k! 例 1.23 一次元正規分布 N (m, v) , −∞ < m < ∞ , v > 0 確率変数 X の分布 µ が任意の A ∈ B 1 に対し次のようになるとき,X はパラメータ m,v 1. 確率論の基本概念 6 の一次元正規分布 N (m, v) に従うという. µ(A) = P (X ∈ A) Z 1 2 √ e−(x−m) /2v dx = 2πv A 特に,m = 0,v = 1 のとき,X は標準正規分布 N (0, 1) に従うという. このように,(Ω, F , P ) 上の確率変数 X が,適当な非負値ボレル関数 f によって Z 任意の Λ ∈ F に対し, P (X ∈ Λ) = f (x) dx Λ と表わせるとき,f を P の密度関数という. 以上のことをベクトル値関数に拡張しておく. Xi , i = 1, . . . , n を (Ω, F , P ) 上の確率変数とする.Ω 上の n 次元ベクトル値関数 X(ω) = (X1 (ω), . . . , Xn (ω)) を n 次元確率変数という. 定理 1.24 X を n 次元確率変数とする.B n 上の関数 µ を µ = P ◦X−1 ,すなわち µ(A) = P (X ∈ A), A ∈ Bn により定義すれば,µ は B n 上の確率になる. 定義 1.25 定理 1.24 の µ を X の分布または X1 , . . . , Xn の結合分布といい,F (x1 , . . . , xn ) ≡ µ( (−∞ , x1 ] × · · · × (−∞ , xn ] ) = P (X1 ≤ x1 , . . . , Xn ≤ xn ) と定義された Rn 上の関数 F を,X の分布関数あるいは µ の分布関数という. 定義 1.26 n 次元確率変数 X に対して次が成り立つとき,X の分布は対称であるという. P (X ∈ A) = P (−X ∈ A), 1.3 A ∈ Bn 確率変数の独立性と収束概念 まず確率変数の独立性を述べる前に,事象の独立性について定義しておく. 定義 1.27 確率空間 (Ω, F , P ) に対し ,Ai ∈ F , i = 1, . . . , n とする.A1 , . . . , An が独立 とは, P n ³\ i=1 が成り立つときにいう. ´ Ai = n Y i=1 P (Ai ) 1. 確率論の基本概念 7 Xi , i = 1, . . . , n を (Ω, F , P ) 上の ki 次元確率変数とする. 定義 1.28 任意の Ai ∈ B ki , i = 1, . . . , n に対し P (X1 ∈ A1 , . . . , Xn ∈ An ) = n Y P (Xi ∈ Ai ) i=1 が成り立つとき,X1 , . . . , Xn は独立という. 定義 1.29 任意の n に対して X1 , . . . , Xn が独立のとき,Xi , i = 1, 2, . . . を独立という. 次に,加法族と σ− 加法族の独立性について述べる. 定義 1.30 F の部分加法族 Ci , i = 1, . . . , n が,任意の Λi ∈ Ci , i = 1, . . . , n に対し P n ³\ i=1 ´ Λi = n Y P (Λi ) i=1 となるとき,C1 , . . . , Cn は独立という.また,任意の n に対し C1 , . . . , Cn が独立のとき,F の部分加法族の列 Ci , i = 1, 2, . . . は独立という. 定理 1.31 Xi , i = 1, . . . , n が独立となる必要十分条件は,σ(Xi ) , i = 1, . . . , n が独立と なることである. 定理 ³ [1.32´ Ci , i = 1, 2, . . . を独立な加法族とする.J1 , . . . , Jp が互いに素な集合のとき, σ Cj , l = 1, . . . , p も独立になる. j∈Jl 例 1.33 Ci , i = 1, 2, . . . を独立な加法族とすれば ,σ k ³[ j=1 ´ Cj とσ ∞ ³ [ ´ Cj は独立に j=k+1 なる. 次に,確率変数列に関する収束概念のひとつとして概収束を定義する. lim Xn (ω) が R1 で存在する ω 全体を ∆ とすれば,定理 1.16 より ∆ は F − 可測集合で n→∞ あり,ω ∈ ∆ のとき X(ω) = lim Xn (ω), ω ∈ / ∆ のとき X(ω) = 0 とおけば,X は F − n→∞ 可測になる. 定義 1.34 P (∆) = 1 のとき,Xn は概収束するという.さらに,確率変数 X が適当な確 率 1 の集合の各点 ω で X(ω) = lim Xn (ω) となるとき,Xn は X に概収束するといい, Xn −→ X a.e. とかく. n→∞ 1. 確率論の基本概念 8 数列 Xn (ω) , n = 1, 2, . . . が収束列であるための条件が,コーシー列であることを用い ると, ∆ = ∞ [ ∞ \ \ n ω ∈ Ω ; |Xn (ω) − Xm (ω)| < p=1 N =1 n,m≥N 1 o p となるため,この立場より P (∆) = 1 をみれば次の定理が成り立つ. 定理 1.35 Xn が概収束する必要十分条件は,任意の ε > 0 に対し, lim P ( ω ∈ Ω ; N 以上のすべての n, m に対し, |Xn (ω) − Xm (ω)| < ε ) = 1 N →∞ が成り立つことである. また,Xn が X に概収束する必要十分条件は,任意の ε > 0 に対し, lim P ( ω ∈ Ω ; n 以上のすべての m に対し, |Xm (ω) − X(ω)| < ε ) = 1 n→∞ が成り立つことである. 1.4 平均値 この節では確率変数に対して平均値を定義し,平均値に関する性質をあげる. 定義 1.36 (Ω, F , P ) 上の確率変数 X に対し, Z |X(ω)|P (dω) < ∞ Ω が成り立つとき,X を可積分な確率変数という. 定義 1.37 (Ω, F , P ) を確率空間,X をその上の可積分な確率変数とする. Z EX ≡ X(ω)P (dω) Ω このように定義した EX を X の平均値,もしくは平均という.また EX を,E[X] や E(X) とかくこともある. Z Z これに対し,Λ ∈ F 上での積分 X(ω)P (dω) を Λ X(ω)IΛ (ω)P (dω) により定義する. Ω すなわち,記号 E(X ; Λ) を導入し,以下のように定義する. E(X ; Λ) ≡ E[XIΛ ] , 平均値の定義より,直ちに次の性質が示される. Λ∈F 1. 確率論の基本概念 9 命題 1.38 X ,Y を (Ω, F , P ) 上の確率変数とする.このとき,平均値に関して次の性質 が成り立つ. (i) X ,Y が可積分のとき,任意の a, b ∈ R1 に対し E(aX + bY ) = aEX + bEY (ii) X ≤ Y a.e. ならば, EX ≤ EY (iii) |EX| ≤ E|X| (線形性) (単調性) (iv) ( 単調収束定理)Xn , n = 1, 2, · · · を非負確率変数の増大列とする. Xn % X a.e. ならば, EXn % EX X を (Ω, F , P ) 上の n 次元確率変数,g を n 次元ボレル関数とする.このとき定理 1.15 より,g(X) は Ω 上の確率変数となるので,Eg(X) が定義される.ところが,X により P は X の分布 µ に写される.この変換により g(X) の平均値は,µ による積分としても表わ される.これを詳しく述べると次の定理になる. 定理 1.39 µ を X の分布とする.n 次元ボレル関数 g に対し,Eg(X) が存在するならば, Eg(X) は次のようになる. Z Z ∞ Eg(X) = ∞ ··· −∞ g(x1 , . . . , xn )µ(dx1 · · · dxn ) (1.1) −∞ e で表わすと,(1.1) の右辺の積分は Eg e となる.こ (Rn , B n , µ) 上の確率変数の平均を E の定理は,同じ分布をもつ2つの確率変数は,定義されている確率空間が異なっている場 合でもその平均値は等しくなることを示している. 定義 1.40 確率変数 X に対し,EX k を X の k 次モーメント,E|X|k を X の k 次絶対モー メント,V (X) ≡ E[(X − EX)2 ] を X の分散という. 平均と分散の例をあげておく. 例 1.41 単位分布 δ{a} EX = a, V (X) = 0 例 1.42 ポアソン分布 Φ(λ, u) EX = ∞ X uke−λ k=0 ∞ X λk = uλ k! (uk − uλ)2 e−λ V (X) = k=0 λk = u2 λ k! 1. 確率論の基本概念 10 例 1.43 一次元正規分布 N (m, v) Z ∞ 1 2 EX = x√ e−(x−m) /2v dx = m 2πv −∞ Z ∞ 1 2 V (X) = (x − m)2 √ e−(x−m) /2v dx = v 2πv −∞ したがって,パラメータ m と v はそれぞれ X の平均と分散になる. 独立確率変数の平均値は,定理 1.46 に述べるように乗法性をもつ.まず,測度論でよ く知られたフビニの定理 (定理 1.44,1.45) を述べる.この定理は , 重積分における積分の 順序交換に関するものである. (Ωi , Fi ) , i = 1, 2 を可測空間,Ω ≡ Ω1 × Ω2 , F ≡ F1 × F2 とする.集合 Λ ⊂ Ω に対 し,Λω1 ≡ { ω2 ∈ Ω2 ; (ω1 , ω2 ) ∈ Λ } を ω1 における Λ の切口,また Ω 上の関数 X に対し, Xω1 (ω2 ) ≡ X(ω1 , ω2 ) と定義された Ω2 上の関数 Xω1 を,ω1 における X の切口とよぶ. 定理 1.44 Λ ∈ F ならば,すべての ω1 ∈ Ω1 に対し Λω1 は F2 − 可測である. X が F − 可測ならば,すべての ω1 ∈ Ω1 に対し Xω1 は F2 − 可測である. 定理 1.45 (Ωi , Fi , Pi ) , i = 1, Z2 を確率空間,(Ω, F , P ) をその直積確率空間とする.X が 非負な F − 可測関数ならば, Ωj Xωi (ωj )Pj (dωj ) , i 6= j は +∞ も許した Fi − 可測関数 であり,次が成り立つ. Z Z Z X(ω1 , ω2 )P (dω1 dω2 ) = P1 (dω1 ) Xω1 (ω2 )P2 (dω2 ) Ω Ω1 Ω2 Z Z = P2 (dω2 ) Xω2 (ω1 )P1 (dω1 ) Ω2 Z また,X が (Ω, F , P ) 上で可積分ならば, Ωj (1.2) (1.3) Ω1 Xωi (ωj )Pj (dωj ) も Ωi 上の可積分関数で,(1.2) と (1.3) が成り立つ. 定理 1.46 ( 乗法定理)Xi , i = 1, . . . , n を独立確率変数とする.各 Xi が可積分であれ n Y ば,積 Xi も可積分で,次が成り立つ. i=1 E n hY i Xi i=1 = n Y EXi i=1 ここで,平均値に関する不等式を1つあげておく. 命題 1.47 (ヘルダーの不等式) E|XY | ≤ (E|X|p )1/p (E|Y |q )1/q ただし, 1 1 + = 1, 1 < p < ∞ p q 1. 確率論の基本概念 11 p 定義 1.48 lim E(|Xn − X| ) = 0 のとき,Xn は X に p 次平均収束するという.特に, n→∞ p = 1 のとき Xn は X に平均収束するという. 平均収束する条件として一様可積分性がある. 定義 1.49 Xn , n = 1, 2, . . . が次の条件をみたすとき,一様可積分という. Z lim sup |Xn (ω)|P (dω) = 0 a→∞ n {ω ; |Xn (ω)|≥a} すなわち,a → ∞ のとき,積分値 E(|Xn | ; |Xn (ω)| ≥ a) は n に関して一様に 0 に収 束する. 定理 1.50 Xn , n = 1, 2, . . . が一様可積分で,Xn −→ X a.e. ならば, lim E(|Xn −X|) = n→∞ 0 である. この結果より,直ちに次のルベーグの収束定理を得る. 定理 1.51 (ルベーグの収束定理)可積分確率変数 Y に対し,|Xn | ≤ Y a.e. , n = 1, 2, . . . かつ,Xn −→ X a.e. ならば, lim E(|Xn − X|) = 0 である. n→∞ 第 2 章 特性関数 分布 (Rn 上の確率) を特長づける量として,1章で分布関数を定義した.この章では, もう一つの特性量として特性関数を導入する.この関数は確率測度をフーリエ変換により 特長づけたものであるが,これは分布と一対一対応をもつ.また特性関数の収束は分布の 収束と対応しており,分布の収束と確率変数の収束が関連づけられることから,特性関数 は,確率変数の収束や分布の収束を考える上で有用な特性量であるといえる. 2.1 特性関数の定義とその性質 確率空間 (Ω, F , P ) 上で定義された複素数値関数 Z に対し ,Z の実部 ReZ と虚部 ImZ が共に実数値確率変数のとき Z を複素数値確率変数といい,Z の平均値 EZ を,EZ = E[ReZ] + iE[ImZ] と定義する. 定義 2.1 X を n 次元確率変数,µ を X の分布とし,Rn 上の関数 ϕ を次のように定義する. ϕ(t) ≡ Eei(t,X) Z ∞ Z = ··· −∞ ∞ n ´ ³ X tk xk µ(dx1 · · · dxn ), exp i −∞ t = (t1 , . . . , tn ) k=1 このとき ϕ を X の特性関数,あるいは µ の特性関数という.ただし,(t, X) は内積とする. ei(t,X) は,|ei(t,X) | ≤ 1 となる複素数値確率変数であるから平均値は存在する.また,µ が密度関数 f をもつとき ϕ は次のようになる. Z Z ∞ ϕ(t) = ∞ ··· −∞ n ³ X ´ exp i tk xk f (x1 , . . . , xn ) dx1 · · · dxn −∞ k=1 すなわち,ϕ は可積分関数 f のフーリエ変換である. 定義から明らかなように,特性関数は確率変数の分布だけに依存するため,2つの確率 変数 X と Y が同じ分布をもてば,それらが定義されている確率空間が異なっている場合 でもその特性関数は等しくなる. 例えば X の分布が対称なとき,定義 1.26 より X と −X は同じ分布をもつので,その特 性関数も等くなる. 命題 2.2 n 次元確率変数 X の特性関数を ϕX とおくと,ϕX は次のような性質をもつ. 12 2. 特性関数 (i) 13 (ii) ϕX (0) = 1 ,|ϕX (t)| ≤ 1 ,ϕX (−t) = ϕX (t) p |ϕX (t + h) − ϕX (t)| ≤ 2|ϕX (h) − ϕX (0)| (iii) ϕX は Rn 上の一様連続関数である. 【証明】証明は n 次元の場合も 1 次元の場合と同様のため,n = 1 として示す. ( ) |ϕX (t + h) − ϕX (t)|2 = |Eei(t+h)X − EeitX | 2 = |E[eitX (eihX − 1)]|2 ≤ (E|eihX − 1|)2 ここで,1章,4節のヘルダーの不等式を用いると, 2 (E|eihX − 1|)2 ≤ E[|eihX − 1| ] = E[(cos(hX) − 1)2 + sin2 (hX)] = 2E(1 − cos(hX)) = 2 Re (ϕX (0) − ϕX (h)) ≤ 2|ϕX (0) − ϕX (h)| p よって,|ϕX (t + h) − ϕX (t)| ≤ 2|ϕX (h) − ϕX (0)| となる. ( ) |ϕX (h) − ϕX (0)| = |ϕX (0) − ϕX (h)| = |E(1 − eihX )| ≤ E|1 − eihX | ところが,|1 − eihX | ≤ 2 かつ lim |1 − eihX | = 0 となるので,ルベーグの収束定理よ h→0 り次が成り立つ. lim E|1 − eihX | = 0 h→0 したがって,( ) の不等式と考えあわせると,任意の ε > 0 に対し ,ある δ > 0 が存在 して |h| < δ ならば, |ϕX (t + h) − ϕX (t)| < ε となる.ゆえに,ϕX は R1 上で一様連続である. ¥ 以下この章では,定義や定理の内容は n 次元であげるが,証明は n 次元の場合も 1 次元 の場合と同様のため,すべて n = 1 として示す. 定理 2.3 Xi , i = 1, . . . , n を n 次元独立確率変数とし ,X ≡ ϕX (t) = i=1 Xi とおく.このとき, i=1 X の特性関数は次のようになる. n Y n X ϕXi (t) , t = (t1 , . . . , tn ) (2.1) 2. 特性関数 14 【証明】n についての帰納法で示す.n = 2 のとき, ϕX (t) = E[eit(X1 +X2 ) ] = E[cos(tX1 + tX2 ) + i sin(tX1 + tX2 )] = E[cos tX1 cos tX2 − sin tX1 sin tX2 ] + iE[sin tX1 cos tX2 + cos tX1 sin tX2 ] = E[cos tX1 cos tX2 ] − E[sin tX1 sin tX2 ] + iE[sin tX1 cos tX2 ] + iE[cos tX1 sin tX2 ] (2.2) ここで,(2.2) の右辺に定理 1.46 を用いれば, ϕX (t) = E[cos tX1 ]E[cos tX2 ] − E[sin tX1 ]E[sin tX2 ] + iE[sin tX1 ]E[cos tX2 ] + iE[cos tX1 ]E[sin tX2 ] = E[cos tX1 ](E[cos tX2 ] + iE[sin tX2 ]) + iE[sin tX1 ](E[cos tX2 ] + iE[sin tX2 ]) = E[eitX1 ]E[eitX2 ] よって,n = 2 の場合,定理は成り立つ. n のとき定理が成り立つと仮定する.n + 1 のとき,X1 + · · · + Xn と Xn+1 は独立より, ϕX (t) = Eeit(X1 +···+Xn +Xn+1 ) = E[eit(X1 +···+Xn ) eitXn+1 ] = E[eit(X1 +···+Xn ) ]E[eitXn+1 ] n n+1 ³Y ´ Y = ϕXi (t) ϕXn+1 (t) = ϕXi (t) i=1 i=1 ¥ ゆえに,定理は成り立つ. この定理は,独立確率変数の和に対する特性関数が,それぞれの確率変数に対する特性関 数の直積になることを示したものであるが,実はこの逆も成り立つ.すなわち,X1 , . . . , Xn が独立となる必要十分条件は,X の特性関数が (2.1) の形で書き表せることである. ここで,特性関数の例をあげておく. 例 2.4 単位分布 δ{a} ϕ(t) = eita 例 2.5 ポアソン分布 Φ(λ, u) ϕ(t) = ∞ X k=0 eituk e−λ λk = exp{λ(eitu − 1)} k! 2. 特性関数 15 例 2.6 一次元正規分布 N (m, v) Z ∞ 1 2 2 ϕ(t) = e−(x−m) /2v dx = eitm−vt /2 eitx √ 2πv −∞ 関数のフーリエ変換の場合,f のフーリエ変換を fˆ とすれば,逆変換により fˆ から再び f が得られる.特性関数は確率測度のフーリエ変換になるので,この場合も特性関数から 確率測度を求めることができる.この逆変換は次の公式により与えられる. 定理 2.7 (レヴ ィの反転公式)n 次元確率変数 X の分布を µ,特性関数を ϕ とする.矩 n Y 形集合 A = (ai , bi ) に対し,µ(∂A) = 0 ならば i=1 Z T Z T Y n ³ 1 ´n e−itk ak − e−itk bk µ(A) = ϕ(t1 , . . . , tn ) dt1 · · · dtn lim ··· 2π T →∞ −T itk −T k=1 となる.ただし,∂A は A の境界とし,∂A = n Y [ai , bi ] n /Y i=1 (ai , bi ) とする. i=1 【証明】まず,次の式が成り立つことを示す. Z ∞ sin t π dt = t 2 0 (2.4) 左辺の積分を [0, T ] 上で行えば, Z T Z T ³Z ∞ ´ sin t −tu dt = e du sin t dt t 0 0 0 Z ∞Z T = e−tu sin t dt du 0 Z T ここで,J ≡ (2.3) (2.5) 0 e−tu sin t dt とおく. 0 h J = −tu −e cos t −T u = 1−e iT 0 Z T e−tu cos t dt −u h cos T + 0 −tu −ue sin t iT 0 2 Z −u T 2 e−tu sin t dt 0 = 1 − e−T u cos T − ue−T u sin T − u J 1 e−T u − (cos T + u sin T ) となるのでこれを (2.5) に用いれば, u2 + 1 u2 + 1 Z T Z ∞ Z ∞ −T u sin t 1 e dt = du − (cos T + u sin T ) du 2 t u +1 u2 + 1 0 0 0 ¯ cos T + u sin T ¯ u+1 ¯ ¯ ところが,¯ ≤ 2 より右辺第二項は, ¯ ≤ 2 2 u +1 u +1 Z ∞ 2 | 第二項 | ≤ 2e−T u du = T 0 したがって,J = 2. 特性関数 ゆえに, Z ∞ 0 16 sin t dt = lim T →∞ t Z T 0 Z sin t dt = t ∞ 0 h i∞ 1 π −1 du = tan u = 2 u +1 2 0 となって,(2.4) は成り立つ. よってこれより,次の積分公式が得られる. π , Z ∞ 2 sin xt dt = 0, t 0 π − , 2 x > 0 のとき x = 0 のとき (2.6) x < 0 のとき 次に,(2.3) の右辺を考えれば, Z T −T e−ita − e−itb ϕ(t) dt = it Z T −T Z ´ e−ita − e−itb ³ ∞ itx e µ(dx) dt it −∞ (2.7) が成り立つ.ところが, ¯ e−ita − e−itb ¯ ¯ e−ita − e−itb ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ eitx ¯ ≤ ¯ ¯ ¯ it it ¯ e−it(a−b) e−itb − e−itb ¯ ¯ ¯ ≤ ¯ ¯ it ¯ (e−it(a−b) − 1) e−itb ¯ ¯ ¯ ≤ ¯ ¯ it ¯ e−it(a−b) − 1 ¯ ¯ ¯ ≤ ¯ ¯ it ≤ |a − b| Z ∞ Z T ¯ it(x−a) ¯ e−ita − e−itb ¯ − eit(x−b) ¯¯ ¯ ¯ e itx ¯ より ¯ e ¯ は有界で, ¯ dt µ(dx) < ∞ となる ¯ it it −∞ −T ので,(2.7) の右辺にフビニの定理を用いれば Z T −T e−ita − e−itb ϕ(t) dt = it Z T ここで,J(T, x, a, b) ≡ −T Z ∞ −∞ Z T −T eit(x−a) − eit(x−b) dt µ(dx) it eit(x−a) − eit(x−b) dt とおくと, it Z T J(T, x, a, b) = 2 0 sin (x − a)t dt − 2 t Z T 0 sin (x − b)t dt t ゆえに,(2.6) より 0, lim J(T, x, a, b) = T →∞ (2.8) π, 2π , x < a または b < x のとき x = a または x = b のとき a < x < b のとき (2.9) 2. 特性関数 17 ところで,(2.9) と (2.6) より sup |J(T, x, a, b)| < ∞ となるので,有界収束定理より x,T Z lim T →∞ Z ∞ J(T, x, a, b) µ(dx) = −∞ ∞ lim J(T, x, a, b)I∂A (x) µ(dx) Z ∞ + lim J(T, x, a, b)IA (x) µ(dx) −∞ T →∞ −∞ T →∞ ところが,条件より µ(∂A) = 0 なので右辺の一項目は 0 になる.よって, Z ∞ lim J(T, x, a, b) µ(dx) = (2π) µ(A) T →∞ −∞ したがって,(2.8) より (2.3) は成り立つ. ¥ 反転公式より次の一意性定理を得る. 定理 2.8 ( 一意性定理)n 次元確率変数 X,Y の分布を µX ,µY ,特性関数を ϕX ,ϕY とする.ϕX = ϕY ならば,µX = µY となる. 【証明】C を µX (∂A) + µY (∂A) = 0 となる矩形集合 A = (−∞, a] の全体とする. まず,µX ({a}) + µY ({a}) > 0 となる a はたかだか可算個しかないことを示す.今, { a ; µX ({a}) > 0 } = [ N { a ; µX ({a}) > 1/n } n∈ が成り立つが,{ a ; µX ({a}) > 1/n } をみたす a は n 個以下であるので, { a ; µX ({a}) > 0 } をみたす a はたかだか可算個である.よって,µX ({a}) + µY ({a}) > 0 をみたす a はたかだか可算個しかない. したがって,任意の矩形集合 B = (−∞, b] は Am ∈ C , m = 1, 2, . . . で上から近似できる. ゆえに,単調収束定理より µX (B) = lim µX (Am ) , m→∞ µY (B) = lim µY (Am ) m→∞ が成り立つ.ところが,条件 ϕX = ϕY と反転公式により µX (Am ) = µY (Am ) , m = 1, 2, · · · となる.したがって,µX (B) = µY (B). ところが,B は任意だから X と Y の分布関数が等しい.ゆえに,µX = µY となる. ¥ よってこれら2つの定理により,分布とその特性関数が一対一対応になっていることが 示される.したがって,特性関数は分布を特徴づける上で有用な関数である. 2. 特性関数 2.2 18 確率測度の収束 この節では,分布の収束について述べる.µ , µk , k = 1, 2, . . . を Rn 上の確率とする. このとき,分布の収束を以下のように定義する. 定義 2.9 任意の有界連続関数 g に対し,k → ∞ のとき Z ∞ Z ∞ ··· g(x1 , . . . , xn )µk (dx1 · · · dxn ) −→ −∞ −∞ Z ∞ Z ∞ ··· g(x1 , . . . , xn )µ(dx1 · · · dxn ) −∞ (2.10) −∞ をみたすとき,µk は µ に収束するといい,µk −→ µ とかく. 誤解が生じない限り以下では,このように「 −→ 」を収束を表わす記号として用い, 「 k → ∞ のとき」などの条件も省略してかくことにする. 定理 2.10 次の条件は互いに同値である. (i) µk −→ µ (ii) 任意の閉集合 Γ ⊂ Rn に対し, (iii) n 任意の開集合 G ⊂ R に対し, lim µk (Γ) ≤ µ(Γ) k→∞ lim µk (G) ≥ µ(G) k→∞ (iv) µ(∂A) = 0 となる任意の A ∈ B n に対し, (v) F ,Fk を µ,µk の分布関数とする. F の任意の連続点 x に対し, (vi) lim µk (A) = µ(A) k→∞ lim Fk (x) = F (x) k→∞ コンパクトな台をもつ任意の連続関数 f に対し, Z ∞ Z ∞ ··· f (x1 , . . . , xn )µk (dx1 · · · dxn ) lim k→∞ −∞ −∞ Z ∞ Z ∞ ··· f (x1 , . . . , xn )µ(dx1 · · · dxn ) = −∞ −∞ 【証明】 ( ) ⇒ ( ) : 任意の閉集合 Γ ⊂ R1 に対し ,ρ(x, Γ) ≡ inf{ |x − y| ; y ∈ Γ } とおき, ³ ´j 1 hj (x) ≡ と定義すれば,hj (x) & IΓ (x) となる.したがって, 1 + ρ(x, Γ) hj (x) & IΓ (x) , x ∈ R1 をみたす非負連続関数 hj , j = 1, 2, . . . が存在するので, Z ∞ hj (x)µk (dx) ≥ µk (Γ) −∞ となる.よって, Z ∞ lim k→∞ hj (x)µk (dx) ≥ lim µk (Γ) −∞ k→∞ 2. 特性関数 19 Z ∞ ここで,bj ≡ lim k→∞ hj (x)µk (dx) とおけば,{bj } は j について単調減少となり, −∞ lim bj ≥ lim µk (Γ) j→∞ k→∞ をみたす.ところが,条件 ( ) と単調収束定理より Z ∞ lim bj = lim hj (x)µ(dx) j→∞ j→∞ −∞ Z ∞ = IΓ (x)µ(dx) = µ(Γ) −∞ ゆえに,µ(Γ) ≥ lim µk (Γ) となる. k→∞ ( ) と ( ) が同値なことは,補集合を考えれば明らかである. ( )( ) ⇒ ( ) : A ∈ B 1 に対して,Ai を A の内部,Ā を A の閉包とする. このとき,Ai ⊂ A ⊂ Ā で,Ai は開集合,Ā は閉集合であるので,( )( ) より µ(Ai ) ≤ lim µk (Ai ) ≤ lim µk (A) ≤ lim µk (A) ≤ lim µk (Ā) ≤ µ(Ā) (2.11) また,Ā = Ai ∪ (∂A) と µ(∂A) = 0 より, µ(Ā) ≤ µ(Ai ) + µ(∂A) = µ(Ai ) (2.12) したがって,(2.11),(2.12) より µ(Ā) = µ(Ai ) となり,(2.11) の不等号はすべて等号とな る.すなわち, lim µk (A) = µ(A) が成り立つ. k→∞ ( ) ⇒ ( ) : x を F の任意の連続点とし,A ≡ (−∞, x] とおく. このとき,Ai = (−∞, x) で, µ(∂A) = µ(A) − µ(Ai ) = F (x) − lim F (y) = 0 y%x となる.ゆえに,A は ( ) の条件をみたす.したがって, F (x) = µ(A) = lim µk (A) = lim Fk (x) k→∞ k→∞ となって,( ) は成り立つ. ( ) ⇒ ( ) : まず,f をコンパクトな台をもつ連続関数とすれば,任意の ε > 0 に対し, kf − f˜k∞ ≡ sup |f (x) − f˜(x)| < ε R1 (2.13) x∈ をみたす階段関数 f˜が選べることを示す.f はコンパクトな台をもつからその集合を K と おけば,十分大きな M > 0 に対して K ⊂ [−M, M ] となるので,f は [−M, M ] 上で一様 2. 特性関数 20 連続となる.よって,任意の ε > 0 に対しある δ > 0 が存在して,任意の x, y ∈ [−M, M ] に対し次が成り立つ. |x − y| < δ ならば, |f (x) − f (y)| < ε 今,各 j に対して |aj −bj | < δ/2 となるように Λj = (aj , bj ] をとり,Λj は (2.14) l [ Λj = [−M, M ] j=1 をみたす互いに素な集合とする.また,αj ≡ f (bj ) とし,f˜ を次のように定義する. f˜(x) ≡ l X αj IΛj (x) j=1 このとき,(2.14) より |f (x) − f˜(x)| = l X |f (x) − f (bj )| IΛj (x) j=1 < ε l X IΛj (x) j=1 = ε I[−M,M ] (x) ≤ ε ゆえに,(2.13) をみたす階段関数 f˜ は存在する. 次に,F の連続点の集合は R1 で稠密で,Λj の端点は F の連続点となるようにできる ことを示す.F の任意の連続点 x に対して,A(x) ≡ (−∞, x] とおき,A(x) に対して集合 B を B ≡ { x ; µ(∂A(x)) > 0 } と定義する.このとき, B = ∞ [ { x ; µ(∂A(x)) > 1/n } n=1 となり,{ x ; µ(∂A(x)) > 1/n } をみたす x の個数は n 以下となるので,集合 B の濃度は たかだか可算個である.したがって B { は R1 で稠密となるので,F の連続点の集合は R1 で稠密である. また,Λj の端点が F の不連続点でも,F の連続点の集合は R1 で稠密だから,区間を少 し小さくしてやればそれを連続点にとれるので,Λj の端点は F の連続点となるようにで きる. ゆえに,Λj の端点が F の連続点になっているとすると次が成り立つ. µ(Λj ) = µ((−∞, bj ]) − µ((−∞, aj ]) = F (bj ) − F (aj ) = lim {Fk (bj ) − Fk (aj )} k→∞ = lim µk (Λj ) k→∞ 2. 特性関数 21 よって, Z ∞ f˜(x)µ(dx) = −∞ l X αj µ(Λj ) j=1 = lim k→∞ l X Z ∞ αj µk (Λj ) = lim k→∞ j=1 f˜(x)µk (dx) (2.15) −∞ となる.ゆえに,(2.13) と (2.15) を用いれば ,任意の ε > 0 に対しある番号 k0 が存在し て,k ≥ k0 ならば Z Z ¯ ¯Z ¯ ¯Z ¯ ¯ ¯ ¯ ˜ ¯ f (x)µ(dx) − f (x)µk (dx) ¯ ≤ ¯ f (x)µ(dx) − f (x)µ(dx) ¯ Z Z ¯ ¯Z ¯ ¯Z ¯ ¯ ¯ ¯ ˜ ˜ ˜ + ¯ f (x)µ(dx) − f (x)µk (dx) ¯ + ¯ f (x)µk (dx) − f (x)µk (dx) ¯ < 3ε したがって,( ) は成り立つ. ( ) ⇒ ( ) : 任意の a > 0 に対して,Ja ≡ [−a, a] とおく.Ja 上で 1,Ja+1 { 上で 0 とな るような [0, 1] の値をとる連続関数を一つ定め,それを fa とおく.µ は確率より,任意の ε > 0 に対し十分大きな a をとれば , 1 − µ(Ja ) < ε また ( ) より, µ(Ja ) ≤ Z (2.16) Z IJa (x)µ(dx) ≤ fa (x)µ(dx) Z fa (x)µk (dx) = lim k→∞ Z ≤ lim IJa+1 (x)µk (dx) k→∞ ≤ lim µk (Ja+1 ) = lim inf µk (Ja+1 ) k→∞ n→∞ k≥n となる.よって,ある番号 n0 が存在して k ≥ n0 ならば, 1 − µk (Ja+1 ) < ε (2.17) が成り立つ.この ε > 0 に対し,このような a = a(ε) を一つ固定しておく. 有界連続関数 g に対し,gfa はコンパクトな台をもつ連続関数であるから, g(x) = g(x)fa (x) + g(x)(1 − fa (x)) ≤ g(x)fa (x) + kgk∞ (1 − fa (x)) を用いれば, Z Z ¯ ¯ ¯Z ¯Z ¯ ¯ ¯ ¯ ¯ g(x)µ(dx) − g(x)µk (dx) ¯ ≤ ¯ g(x)fa (x)µ(dx) − g(x)fa (x)µk (dx) ¯ Z nZ o + kgk∞ (1 − fa (x))µ(dx) + (1 − fa (x))µk (dx) 2. 特性関数 22 となる.ところが,(2.16) と (2.17) より,k ≥ n0 ならば Z Z (1 − fa (x))µ(dx) + (1 − fa (x))µk (dx) ≤ 1 − µ(Ja ) + 1 − µk (Ja+1 ) < 2ε また,( ) より任意の ε > 0 に対しある番号 k0 が存在して,k ≥ k0 ならば Z ¯Z ¯ ¯ ¯ ¯ g(x)fa (x)µ(dx) − g(x)fa (x)µk (dx) ¯ < ε となる.したがって,j ≡ max(n0 , k0 ) とおくと,k ≥ j ならば Z ¯Z ¯ ¯ ¯ ¯ g(x)µ(dx) − g(x)µk (dx) ¯ < ε + 2 ε kgk∞ ゆえに,µk −→ µ である. ¥ 定理 2.11 M を Rn 上の確率を要素とする集合とする.M の中の任意の無限列が収束部 分列をもつための必要十分条件は,任意の ε > 0 に対し,次をみたす Rn 上のコンパクト 集合 Γ が選べることである. 任意の µ ∈ M に対し, µ(Γ) > 1 − ε (2.18) 【証明】(必要性) : 背理法で示す.M の中の任意の無限列が収束部分列をもつとし,かつ適 当な ε > 0 をとれば,任意のコンパクト集合 Γ に対し,µ(Γ) ≤ 1 − ε となる µ ≡ µΓ ∈ M が選べると仮定する. Γl ≡ [−l, l] に対し µl ≡ µΓl とおけば,仮定により無限列 µl , l = 1, 2, . . . は収束部分列 µlj , j = 1, 2, . . . をもつ. 開集合 Gk ≡ (−k, k) に対し,lj ≥ k となる番号 j においては Gk ⊂ Γlj となるから,lj ≥ k ならば, µlj (Gk ) ≤ µlj (Γlj ) ≤ 1 − ε となる.したがって,µlj −→ µ とすれば µ は M に属する必要はないが,定理 2.10 ( ) により,任意の k に対して µ(Gk ) ≤ lim µlj (Gk ) ≤ 1 − ε j→∞ ゆえに, µ(R1 ) = lim µ(Gk ) ≤ 1 − ε k→∞ となって,これは µ が確率であることに矛盾する.よって,必要性は成り立つ. (十分性) : (2.18) が成り立つとき,µk ∈ M , k = 1, 2, . . . が収束部分列をもつことを, Helly の方法により三段階に分けて示す.Fk を µk の分布関数とし ,{ aj ; j = 1, 2, . . . } を R1 の有理点全体の集合とする. 2. 特性関数 23 まず,関数 F を構成する. 0 ≤ Fk (aj ) ≤ 1 , k = 1, 2, . . . となるので,Fk は有界数列であるから,aj に対し { Fk ; k = 1, 2, . . . } の収束部分列 { Fk(j , l) ; l = 1, 2, . . . } が選べるので,その極限を ρ とおき次の ようにとる. Fk(1 , l) (a1 ) −→ ρ(a1 ) 次に,{ k(2 , l) ; l = 1, 2, . . . } は { k(1 , l) ; l = 1, 2, . . . } の部分列となるようにとる. Fk(2 , l) (a2 ) −→ ρ(a2 ) さらに,{ k(3 , l) ; l = 1, 2, . . . } は { k(2 , l) ; l = 1, 2, . . . } の部分列となるようにと る.これを繰り返せば ,対角要素 { k(l , l) ; l = 1, 2, . . . } は任意に m を固定したとき, k(1 , 1) , · · · , k(m − 1 , m − 1) をのぞき { k(m , l) ; l = 1, 2, . . . } の部分列になっている. ゆえに,Fk(m , l) (am ) −→ ρ(am ) より Fk(l , l) (am ) −→ ρ(am ) , m = 1, 2, . . . が成り立つ.Jx ≡ { y ∈ R1 ; y > x } とおき,F を次のように定義する. F (x) ≡ inf ρ(am ) am ∈Jx このとき,amj & x となる amj ∈ Jx に対し,ρ(amj ) , j = 1, 2, . . . は減少列である.こ の ρ(amj ) , j = 1, 2, . . . に対し, F (x) = lim ρ(amj ) j→∞ (2.19) となることを示す.任意の ap ∈ Jx に対し,l を十分大きくとれば ap ≥ aml となるので, ρ(ap ) ≥ ρ(aml ) ≥ lim ρ(amj ) ≥ inf ρ(am ) = F (x) j→∞ am ∈Jx したがって,ap ∈ Jx に対する下限をとれば, F (x) = inf ρ(ap ) ≥ lim ρ(amj ) ≥ F (x) j→∞ ap ∈Jx ゆえに,(2.19) は成り立つ. 第二段階として,F が分布関数になることを示す. h ≥ 0 とし ,amj & x ,apj & x + h ,apj ≥ amj となる列 amj ∈ Jx ,apj ∈ Jx+h , j = 1, 2, . . . を任意に固定する.このとき,F が定理 1.20 の3つの条件をみたすことを確かめ ればよい. apj ≥ amj より 0 ≤ ρ(apj ) − ρ(amj ) となる.よって, 0 ≤ lim ( ρ(apj ) − ρ(amj ) ) j→∞ = F (x + h) − F (x) 2. 特性関数 24 となり,F は単調性をもつ. 次に,F の右連続性を示す.k → ∞ のとき xk & c とすれば,F (xk ) , k = 1, 2, . . . は減 少列で, lim F (xk ) ≥ F (c) k→∞ となる.ところが,任意の ap ∈ Jc に対し ,ap ∈ Jxk となる十分大きな番号 k がとれる ので, ρ(ap ) ≥ inf ρ(am ) = F (xk ) ≥ lim F (xk ) ≥ F (c) am ∈Jxk k→∞ したがって,ap ∈ Jc に対する下限をとれば, F (c) = inf ρ(ap ) ≥ lim F (xk ) ≥ F (c) ap ∈Jc k→∞ ゆえに,F (c) = lim F (xk ) となって F (xk ) の単調減少性より,F は右連続性をもつ. k→∞ また定理の条件 (2.18) により,任意の ε > 0 に対し A > 0 を, sup µk ([−A, A]c ) < ε (2.20) k をみたすように選べる.よって, am < −A ならば, sup Fk(l , l) (am ) ≤ ε l これより,ρ(am ) ≤ ε となって,am ∈ Jx に対する下限をとれば, F (x) = inf ρ(am ) ≤ ε am ∈Jx ゆえに,x < −A ならば F (x) ≤ ε となる.すなわち, lim F (x) = 0 が成り立つ. x→−∞ また,(2.20) より am > A ならば, inf Fk(l , l) (am ) > 1 − ε l となるので,ρ(am ) > 1 − ε が成り立つ.ここで am > x > A となる x をとり,am ∈ Jx に 対する下限をとれば, F (x) = inf ρ(am ) > 1 − ε am ∈Jx ゆえに,x > A ならば F (x) > 1 − ε となる.すなわち, lim F (x) = 1 が成り立つ. x→∞ 以上より,F は定理 1.20 の3つの性質をみたすので分布関数となる. 最後に,F の任意の連続点 x に対し,Fk(l , l) (x) −→ F (x) となることを示す. x を F の任意の連続点とする.任意の ε > 0 に対し ,F (x) > F (ap ) − ε となるように ap ∈ Jx を選べる.ゆえに,aj ∈ Jap を ap に十分近くとれば,(2.19) より F (x) > ρ(aj ) − 2ε = lim Fk(l , l) (aj ) − 2ε l→∞ ≥ lim Fk(l , l) (x) − 2ε l→∞ (2.21) 2. 特性関数 25 となる.また am を,am < x かつ F (x) < F (am ) + ε となるようにとれば,am < aj < x となる aj に対し, F (x) < ρ(aj ) + ε = lim Fk(l , l) (aj ) + ε l→∞ ≤ lim Fk(l , l) (x) + ε (2.22) l→∞ となる.ゆえに,(2.21) と (2.22) により,任意の x に対して F (x) = lim Fk(l , l) (x) が成り l→∞ 立つ. したがって,µ を F に対する確率とすると,定理 2.10 により µk(l , l) −→ µ となり,µk , k = 1, 2, . . . は収束部分列をもつ. ¥ この定理より,直ちに次が成り立つ. 系 2.12 µ は Rn 上の確率で,M ≡ {µk , k = 1, 2, . . . } が定理 2.11 の条件をみたすとす る.µk の任意の収束部分列が µ に収束するならば,µk −→ µ である. 【証明】 µk −→ µ が成立しないと仮定すれば,有界連続関数 g と部分列 kj を, Z ∞ g(x)µkj (dx) は収束するが, −∞ Z lim j→∞ Z ∞ −∞ g(x)µkj (dx) 6= ∞ g(x)µ(dx) (2.23) −∞ となるように選べる. ところが,定理 2.11 により { µkj ; j = 1, 2, . . . } より収束部分列 µkjl , l = 1, 2, . . . が選べ るので,µkjl −→ µ となる.したがって, Z Z ∞ g(x)µkjl (dx) = lim l→∞ −∞ ∞ g(x)µ(dx) −∞ ところが,これは (2.23) に矛盾する.ゆえに,µk −→ µ となる. 2.3 ¥ 分布の収束と特性関数の収束 分布の収束と特性関数の収束との関連について述べる前に,法則収束の定義をしてお く.これは確率変数の収束概念であり,分布の収束に対応した収束である. 定義 2.13 Xk , X を n 次元確率変数とし ,それぞれの分布を µk , µ とする.µk −→ µ の とき,Xk は X に法則収束するという. µk −→ µ となる条件 (2.10) を書き直せば,Xk が X に法則収束する条件は次のように なる. 任意の有界連続関数 g に対し, Eg(Xk ) −→ Eg(X) 2. 特性関数 26 また,確率変数の収束としてほかに概収束が定義されていたが,法則収束は概収束より 強い収束概念であるため,一般に,Xk が X に概収束するからといって法則収束するとは 限らない. 次に,分布の収束と特性関数の収束を関連づける定理を2つ示す. 定理 2.14 ϕ,ϕk を分布 µ,µk の特性関数とする.µk −→ µ ならば,ϕk は ϕ に広義一様 収束する. 【証明】まず,任意の ε > 0 に対しある δ > 0 が存在して, |h| < δ ならば, |ϕk (t + h) − ϕk (t)| < 3ε (2.24) が,各 k に対して成り立つことを示す.M ≡ { µ , µk , k = 1, 2, . . . } とおけば,M の任 意の無限列は µ に収束する. よって,定理 2.11 より任意の ε > 0 に対し, µ(Γ) > 1 − ε かつ inf µk (Γ) > 1 − ε k (2.25) をみたすコンパクト集合 Γ ⊂ R1 が選べる.ところが,eihx は { h ; |h| ≤ 1 } × Γ 上で一様 連続であるため,sup |eihx − 1| は単位円内で h の連続関数となる.ゆえに,任意の ε > 0 x∈Γ に対し |h| < δ ならば, sup |eihx − 1| < ε (2.26) x∈Γ をみたす δ > 0 が選べる.したがって,(2.25) と (2.26) により,各 k と |h| < δ となる h に 対し, |ϕk (t + h) − ϕk (t)| = ≤ = < ¯Z ¯ ¯ ¯ (ei(t+h)x − eitx )µk (dx) ¯ ¯ 1 Z R |eihx − 1|µk (dx) 1 ZR Z ihx |e − 1|µk (dx) + |eihx − 1|µk (dx) Γ Γ{ { ε + 2µk (Γ ) < 3ε ゆえに,(2.24) は各 k に対して成り立つ. また,ϕ に対しても同様の評価が成り立つ.つまり, |ϕ(t + h) − ϕ(t)| < 3ε K を R1 のコンパクト集合とし ,{ t1 , . . . , tl } を K の δ− 稠密とする.すなわち,任意 の t ∈ K に対し,|t − tj | < δ となる tj , j = 1, . . . , l があるとする.µk −→ µ となるので, 任意の t ∈ R1 に対し ϕk (t) −→ ϕ(t) 2. 特性関数 27 となるから,番号 k0 を k ≥ k0 ならば, |ϕk (tj ) − ϕ(tj )| < ε , j = 1, . . . , l となるように選べる.ゆえに,k ≥ k0 ならば sup |ϕk (t) − ϕ(t)| ≤ t∈K l n X |ϕk (t) − ϕk (tj )| I{|t−tj |<δ} + |ϕk (tj ) − ϕ(tj )| j=1 o + |ϕ(tj ) − ϕ(t)| I{|t−tj |<δ} したがって ε は任意より,ϕk は ϕ に K 上で一様収束する. < 7lε ¥ 定理 2.15 ϕk を分布 µk の特性関数とする.ϕk が ϕ に各点で収束し ,ϕ が原点で連続で あれば,µk はある分布 µ に収束して ϕ は µ の特性関数になる.さらに,ϕk は ϕ に広義一 様収束する. この定理を示す前に,次の補題を示しておく. 補題 2.16 ν を Rn 上の分布,ψ を ν の特性関数とする.このとき,任意の A > 0 に対し 次の不等式が成り立つ. Z n n ν([−4A, 4A] ) ≥ A Z A−1 2−(n−1)/n A−1 2−(n−1)/n ··· −A−1 2−(n−1)/n −A−1 2−(n−1)/n ψ(t1 , . . . , tn ) dt1 · · · dtn − 1 (2.27) 【証明】n = 1 として示す.フビニの定理を用いれば, Z T Z TZ ∞ 1 1 ψ(t) dt = eitx ν(dx) dt 2T −T 2T −T −∞ Z ∞Z T 1 itx e dt ν(dx) = −∞ −T 2T Z ∞ sin T x = ν(dx) Tx −∞ ここで,(2.28) の右辺に対し | sin T x/T x| ≤ 1 .また,|x| > 2A のとき ¯ sin T x ¯ 1 1 ¯ ¯ < ¯ ¯ ≤ Tx T |x| 2AT となるので,この評価を用いれば (2.28) の右辺 ≤ ν([−2A, 2A]) + 1 ( 1 − ν([−2A, 2A]) ) 2AT したがって,T = A−1 とおけば (2.28) は, Z −1 A A 1 ψ(t) dt ≤ ν([−2A, 2A]) + ( 1 − ν([−2A, 2A]) ) 2 −A−1 2 1 1 ≤ ν([−2A, 2A]) + 2 2 1 ( ν([−4A, 4A]) + 1 ) ≤ 2 (2.28) 2. 特性関数 28 よって,この両辺を2倍すれば (2.27) は成り立つ. 【証明】(定理 2.15) Z Z ϕk (t) dt , δ 今,任意の δ > 0 に対して −δ δ > 0 に対して 1 2δ Z ¥ δ ϕ(t) dt は実数である.よって,任意の −δ δ 1 ϕk (t) dt ≥ 2δ −δ Z δ 1 ϕ(t) dt − 2δ −δ Z δ |ϕk (t) − ϕ(t)| dt (2.29) −δ が成り立つ. 次に,任意の ε > 0 に対してある番号 k0 が存在して,k ≥ k0 ならば Z δ 1 ϕk (t) dt ≥ 1 − 2ε 2δ −δ (2.30) となることを示す.定理の条件より ϕ(0) = lim ϕk (0) = 1 で,ϕ は原点 t = 0 で連続だか ら,任意の ε > 0 に対しある δ > 0 を k→∞ |t| < δ ならば, |ϕ(t) − 1| < ε となるように選べる.また ϕk が ϕ に各点で収束し,|ϕk (t)| ≤ 1 であるから,この δ を固 定しルベーグの収束定理を用いれば,ある番号 k0 が存在して,k ≥ k0 ならば Z δ 1 |ϕk (t) − ϕ(t)| dt < ε 2δ −δ (2.31) とできる.また, Z Z δ 2δ − δ ϕ(t) dt = −δ (1 − ϕ(t)) dt −δ Z δ ≤ |1 − ϕ(t)| dt −δ ≤ ε(2δ) となるので,次が成り立つ. Z δ ϕ(t) dt ≥ 2δ(1 − ε) (2.32) −δ ゆえに,(2.31) と (2.32) の評価を (2.29) の右辺に用いれば,(2.30) は成り立つ. 次に,任意の ε > 0 に対し, inf µk ([−Ã, Ã]) > 1 − 4ε k (2.33) をみたす à > 0 が存在することを示す.補題 2.16 の (2.27) において n = 1,ν = µk , ψ = ϕk ,A = δ −1 とすれば, 1 µk ([−4A, 4A]) ≥ δ Z δ ϕk (t) dt − 1 −δ 2. 特性関数 29 したがって,(2.30) より k ≥ k0 ならば µk ([−4A, 4A]) ≥ 2(1 − 2ε) − 1 = 1 − 4ε となる.ところが,µj は確率であるから µj ([−Aj , Aj ]) > 1 − 4ε , j = 1, 2, . . . , k0 − 1 となるように Aj がとれるので,à ≡ max(A1 , . . . , Ak0 −1 , 4A) とおけば,(2.33) は成り立つ. ゆえに,定理 2.11 より µk , k = 1, 2, . . . は収束部分列 µkj , j = 1, 2, . . . をもつ.よっ て,ある分布 µ が存在して µkj −→ µ とすれば,特性関数 ϕkj は µ の特性関数に収束する. ところが,条件により ϕkj は ϕ に収束するので,一意性定理より µ の特性関数は ϕ と一 致する. 今,µkl を µk の別の収束部分列とし ,ある分布 ν に対し µkl −→ ν が成り立つとする. ϕkl は ϕ に収束するので,ν の特性関数は ϕ である.したがって,一意性定理により ν = µ となる. ゆえに,M ≡ {µk , k = 1, 2, . . . } は定理 2.11 の条件をみたし,µk の任意の収束部分列 が µ に収束するので,系 2.12 により µk −→ µ となる. さらに,定理 2.14 により ϕk は ϕ に広義一様収束する. ¥ この定理には2つの重要な結果が含まれている.それは,ϕk の各点での収束性と収束 した関数 ϕ の原点での連続性という条件のみで,ϕ が特性関数であることが示されたこ とと,特性関数の収束が分布の収束と一対一対応で関連づけられたことである.したがっ て,分布の収束を考える上でこの定理は非常に大きな役割を果たすことになる. 第 3 章 独立確率変数の極限定理 この章では,0 − 1 法則,大数の法則,中心極限定理について述べ,4節で,本論文の 主題となる問題について考察する.大数の法則や中心極限定理は,よく知られた独立確率 変数の和に関する極限定理であるが,これらは本論文において主題となる問題に属して いる. 本論文において極限定理とは,確率変数列の法則収束,概収束に関する諸結果をさして いるが,確率変数列が独立な場合,これらの収束は同等になることが知られている.した がって本論文では主に,独立確率変数列が法則収束する場合について考察する. 3.1 コルモゴロフの 0 − 1 法則 Bj , j = 1, 2, . . . を F の部分 σ− 加法族とする.σk ≡ σ ∞ ³[ ´ Bj とおけば,σk は k に j=k つき減少する.極限の σ− 加法族 ∞ \ 尾事象, ∞ \ σk に属する集合を,{Bj , j = 1, 2, . . . } に関する末 k=1 σk − 可測な関数を末尾関数という. k=1 特に,ξj , j = 1, 2, . . . を確率変数としたとき,Bj = σ(ξj ) , j = 1, 2, . . . となる場合, {ξj , j = 1, 2, . . . } に関する末尾事象,末尾関数という. 例 3.1 事象列 Λj ∈ Bj , j = 1, 2, . . . に対し,lim Λk ,lim Λk は末尾事象である. また,ξj が 0 に収束する ω 全体の集合 Λ ≡ { ω ; lim ξj (ω) = 0 } も末尾事象となる. j→∞ 大ざっぱに言えば,番号 k を任意に固定したとき,考えている事象 Λ が ξ1 , . . . , ξk に無 関係になれば,Λ は末尾事象である. 独立 σ− 加法族の末尾事象に対し,次の定理が成り立つ. 定理 3.2 (コルモゴロフの 0 − 1 法則)Bj ⊂ F , j = 1, 2 . . . を独立な σ− 加法族とする. {Bj , j = 1, 2, . . . } に関する末尾事象の確率は 0 または 1 である. 【証明】Fk ≡ σ くと,C = σ k ³[ ∞ ³[ j=1 ´ Bj とおけば,Fk は増大事象列である.さらに,C ≡ ´ Bj となり,C は σ(C) = σ j=1 ∞ ³[ j=1 30 ´ Bj ∞ [ k=1 となる加法族である. Fk とお 3. 独立確率変数の極限定理 31 Λ を {Bj , j = 1, 2, . . . } に関する末尾事象とする. ∞ ´ ³[ Bj とすると,Λ ∈ σ(C) となる.よって,定理 すなわち,任意の k に対し Λ ∈ σ j=k 1.11 により任意の ε > 0 に対し,次をみたす Λε ∈ C が存在する. P ( (Λ\Λε ) ∪ (Λε \Λ) ) < ε これより,ある l に対し Λε ∈ Fl = σ l ³[ (3.1) ´ Bj とする.Λ が末尾事象であるから, j=1 Λ ∈ σl+1 = σ ∞ ³ [ ´ Bj j=l+1 となる.ゆえに,例 1.33 により Λε と Λ は独立となる. したがって,(3.1) より P (Λ) = P (Λ ∩ Λ) ≤ P (Λ ∩ Λε ) + P ( (Λ\Λε ) ∪ (Λε \Λ) ) ≤ P (Λ)P (Λε ) + ε ≤ P (Λ)( P (Λ) + P ( (Λ\Λε ) ∪ (Λε \Λ) ) ) + ε ≤ P (Λ)2 + P (Λ)P ( (Λ\Λε ) ∪ (Λε \Λ) ) + ε ≤ P (Λ)2 + 2ε 2 ところが ε は任意だったので,P (Λ) − P (Λ) ≤ 0 となる.したがって, P (Λ)(1 − P (Λ)) = 0 ゆえに,P (Λ) は 0 または 1 である. ¥ 定理 3.3 独立な σ− 加法族に関する末尾関数 X は定数である.つまり,P (X = c) = 1 と なる定数 c が存在する. 【証明】X の分布関数を F とし,F (x−) ≡ lim F (y) とおく.すなわち,F (x−) は x にお y%x ける F の左極限とする. σ(X) の定義より,X −1 ( (−∞, x] ) ∈ σ(X) となるので,事象 X −1 ( (−∞, x] ) は末尾事 象である. よって,コルモゴロフの 0 − 1 法則より,F (x) = P (X −1 ( (−∞, x] ) ) は 0 または 1 である. ところが,F は分布関数であるから, c ≡ sup{ x ∈ R1 ; F (x) = 0 } とおけば,c < ∞ かつ F (c−) = 0,F (c) = 1 となる.ゆえに,P (X = c) = 1 である. ¥ 3. 独立確率変数の極限定理 32 例 3.4 ξi , i = 1, 2, . . . を独立確率変数とし,各 ω に対して ξi (ω) , i = 1, 2, . . . は,有限確 n X ξi 定値をとるとする.0 < lim bn ≤ ∞ なる正数列 bn を任意に固定したとき,Yn = n→∞ bn i=1 が収束する確率は 0 または 1 である.さらに,この確率が 1 で, lim bn = ∞ のとき,極 n→∞ 限 lim Yn は定数である. n→∞ 【証明】1 ≤ k ≤ n となる k を任意に固定する.Xn n X ξi = とおけば,n → ∞ のと bn i=k (k) き,Yn − Xn (k) = (ξ1 + · · · + ξk−1 )/bn は,(ξ1 + · · · + ξk−1 )/ lim bn に概収束する.さら n→∞ に,n → ∞ のとき,Xn (k) (ω) が収束する ω 全体を Λk とおけば, Λk = ∞ [ ∞ \ ∞ n \ ω ∈ Ω ; |Xn (k) (ω) − Xm (k) p=1 N =k n,m=N 1 o (ω)| < p となる.したがって, Λk ∈ σ ∞ ³[ ´ σ(ξj ) j=k ゆえに,lim Λk は末尾事象である. 次に,Yn (ω) が収束する ω 全体を Λ とおけば,P (Λk 4Λ) = 0 であることを示す. ここで,(Yn − Xn (k) )(ω) が (ξ1 (ω) + · · · + ξk−1 (ω))/ lim bn に収束する ω 全体を Γk とお n→∞ く.Λk と Λ の対称差の定義より, P (Λk 4Λ) = P (Λk ∩ Λ{ ) + P (Λk { ∩ Λ) となるので,ω ∈ Λk ∩ Λ{ とすると,ω ∈ Γk { となって,P (Λk ∩ Λ{ ) = 0 となる.同様に して,P (Λk { ∩ Λ) = 0 となり,P (Λk 4Λ) = 0 が成り立つ. 次に,P ((lim Λk )4Λ) = 0 となることを示す. ∞ ∞ [ ´ ³\ [ Λj 4Λ とすると,ω ∈ (Λk 4Λ) となる.したがって, ω∈ k=1 k=1 j≥k P ((lim Λk )4Λ) ≤ P ∞ ³[ ´ (Λk 4Λ) = 0 k=1 ところが,lim Λk は末尾事象より P (lim Λk ) は 0 または 1 である.ゆえに,P (Λ) は 0 ま たは 1 となる. 次に,主張の後半部分を示す. lim bn = ∞ のとき Yn が概収束すれば, lim Yn = lim Xn (k) となる.ここで lim Xn (k) n→∞ n→∞ は,任意の k に対して σk − 可測である.よって, n→∞ n→∞ 任意の a ∈ R1に対し, { lim Yn ≤ a } = { lim Xn (k) ≤ a } ∈ σk n→∞ n→∞ が,任意の k に対して成り立つ.ゆえに, lim Yn は末尾関数となり,定理 3.3 より lim Yn n→∞ は定数となる. n→∞ ¥ 3. 独立確率変数の極限定理 3.2 33 大数の法則 独立確率変数列 ξi , i = 1, 2, . . . の算術平均 (ξ1 + · · · + ξn )/n が収束する事象は末尾事 象となり,収束した場合の極限関数は定数であることを前節の例 3.4 で示した.この節で は,算術平均が確率 1 で収束する条件をのべる.それを一般的に示したものが,コルモゴ ロフの大数の法則である. まず,独立確率変数の和に関するコルモゴロフの不等式を述べる. 定理 3.5 (コルモゴロフの不等式)Si ≡ ξ1 + · · · + ξi とおく.独立確率変数 ξi , i = 1, . . . , n が,Eξi = 0 , i = 1, . . . , n であれば次が成り立つ. ESn 2 P ( max |Si | ≥ a ) ≤ , i≤n a2 a>0 【証明】ESn 2 < ∞ として示せばいいので,Eξi 2 ≡ vi < ∞ , i = 1, . . . , n とおく. Λ ≡ { ω ∈ Ω ; max |Si (ω)| ≥ a } i≤n とおき,i = 1, . . . , n に対して Λi を以下のように定義する. Λi ≡ { ω ∈ Ω ; |S1 (ω)| < a , . . . , |Si−1 (ω)| < a , |Si (ω)| ≥ a } このとき,Λ1 , . . . , Λn は互いに素で, n [ Λi = Λ となる.また, i=1 ESn 2 2 ≥ E(Sn ; Λ) = n X E(Sn 2 ; Λi ) i=1 = n X E((Si + ξi+1 + · · · + ξn )2 ; Λi ) i=1 n X = { E(Si 2 ; Λi ) + 2E(Si (ξi+1 + · · · + ξn ) ; Λi ) j=i + E((ξi+1 + · · · + ξn )2 ; Λi ) } (3.2) が成り立つ.ここで,Si IΛi は (ξ1 , . . . , ξi ) のボレル関数であり,ξi+1 + · · · + ξn と独立にな るから, E(Si (ξi+1 + · · · + ξn ) ; Λi ) = E[Si IΛi (ξi+1 + · · · + ξn )] = E[Si IΛi ]E[(ξi+1 + · · · + ξn )] = 0 さらに,(3.2) の右辺の第三項は非負であり,Λi 上では |Si | ≥ a となるから 2 ESn ≥ n X i=1 2 2 E(Si ; Λi ) ≥ a n X i=1 P (Λi ) = a2 P (Λ) 3. 独立確率変数の極限定理 34 ¥ したがって,コルモゴロフの不等式は成り立つ. 次に,コルモゴ ロフの不等式を用いて,独立確率変数の和が概収束する条件をあげる が,その前に,事象列に関する重要な定理を準備しておく. 定理 3.6 (ボレル−カンテリの第一定理)事象列 Λn , n = 1, 2, . . . に対し,次が成り立つ. ∞ X P (Λk ) < ∞ ならば, P (lim Λk ) = 0 k=1 ∞ X 定理 3.7 ξi , i = 1, 2, . . . が独立で,Eξi = 0 , i = 1, 2, . . . , V (ξi ) < ∞ であれば , i=1 Sn ≡ ξ1 + · · · + ξn は概収束する. ∞ X 【証明】まず,Λk を次のようにおき, P (Λk ) < ∞ となることを示す. k=1 n Λk ≡ ω ∈ Ω ; sup |Sn − Spn | ≥ pn ≤n 1 o 2k vi ≡ V (ξi ) , i = 1, 2, . . . とおけば,Eξi = 0 より u < t とすると, E(St − Su )2 = E(ξu+1 + · · · + ξt )2 = V (ξu+1 + · · · + ξt ) t t t X X X = V (ξi ) = vi ≤ vi i=u+1 i=u+1 i=u となる.ここで,番号 pn を ∞ X i=pn ³ 1 ´3 vi < 2k ∞ X となるように選ぶ. vi < ∞ より,pn % ∞ としておいてよい.コルモゴロフの不等式 i=1 を用いれば次の関係式が成り立つ. 1 ´ l→∞ pn ≤n≤l 2k ³ 1 ´ = lim P max |Sn − Spn | ≥ k l→∞ n−pn ≤l−pn 2 2 2k ≤ lim 2 E(Sl − Spn ) ³ P (Λk ) = lim P max |Sn − Spn | ≥ l→∞ 2k ≤ lim 2 l→∞ ∞ X ゆえに, P (Λk ) < ∞ となる. k=1 l X i=pn vi = 2 2k ∞ X i=pn vi < 1 2k 3. 独立確率変数の極限定理 35 したがって,ボレル−カンテリの第一定理より P ∞ [ ∞ ³\ ´ Λj = 0 .つまり, k=1 j=k P ∞ \ ∞ ³[ Λj { ´ =1 k=1 j=k となる.ゆえに,ある番号 K = K(ω) を ならば, ω ∈ Λk { k≥K をみたすように選べる.したがって,n, m ≥ pn ≥ K(ω) ならば |Sn (ω) − Sm (ω)| ≤ |Sn (ω) − Spn (ω)| + |Spn (ω) − Sm (ω)| 1 1 2 < + = 2k 2k 2k となる.よって,数列 {Sn (ω)}, n = 1, 2, . . . はコーシー列となるので収束する. ∞ X ゆえに, lim Sn (ω) = ξi (ω) は存在する.つまり,Sn は概収束する. n→∞ ¥ i=1 算術平均が概収束する条件をあげる前に,次の補題を示しておく. 補題 3.8 ui ( > 0) を ∞ への増大数列とする. n n X X xi −1 が有限確定値として存在すれば, lim un xi = 0 となる. lim n→∞ n→∞ ui i=1 i=1 【証明】yn ≡ n X xi , vi ≡ ui − ui−1 , v0 ≡ 0 とおくと次が成り立つ. u i i=1 n X xi = i=1 n X ui (yi − yi−1 ) = i=1 = n X n X n X i X i=1 j=1 n X vj (yi − yi−1 ) = j=1 i=j = p X vj (yi − yi−1 ) vj (yn − yj−1 ) j=1 vj (yn − yj−1 ) + j=1 n X vj (yn − yj−1 ) (3.3) j=p+1 今,yn は収束列であるので有界になる.よって,|yn | ≤ K, n = 1, 2, . . . とおけば (3.3) の 右辺は, | 第一項 | ≤ 2Kup | 第二項 | ≤ max |yn − yi | p≤i≤n n X vj j=p+1 ≤ max |yn − yi | (un − up ) p≤i≤n ≤ max |yn − yi | un p≤i≤n 3. 独立確率変数の極限定理 36 となる.さらに,yn は収束数列のためコーシー列であるので,任意の ε > 0 に対して sup |yn − ym | < ε p<n<m をみたす p > 0 が存在する. したがってこのような p を固定して, 大性により,n ≥ n0 ならば 2Kup < ε となるような番号 n0 をとれば,ui の増 un 0 n ¯ ¯ 2Kup ¯ −1 X ¯ + max |yn − yi | < 2ε xi ¯ < ¯ un p≤i≤n u n i=1 となる.ゆえに, lim un −1 n→∞ n X xi = 0 となる. ¥ i=1 ∞ X Eξi 2 定理 3.9 独立確率変数 ξi , i = 1, 2, . . . が,Eξi = 0 , i = 1, 2, . . . かつ <∞ i2 i=1 n X ξi をみたすならば, は 0 に概収束する. n i=1 ξi とおけば,ηi は定理 3.7 の条件をみたす独立確率変数である. i n X ξi は概収束する. ゆえに, i i=1 n n X X ξi −1 ところが補題 3.8 により, (ω) が収束する ω に対し,n ξi (ω) は 0 に収束す i i=1 i=1 n X る.したがって,n−1 ξi は 0 に概収束する. ¥ 【証明】ηi ≡ i=1 定理 3.9 より,コルモゴロフの大数の法則が得られる. 定理 3.10 (コルモゴロフの大数の法則)ξi , i = 1, 2, . . . を独立確率変数とする.各 i に n X ξi 対し,Eξi ≡ a (< ∞) , V (ξi ) < ∞ とすれば, は a に概収束する. n i=1 【証明】ηi ≡ ξi − a とおけば,ηi は定理 3.9 の条件をみたす独立確率変数である.したがっ n n X X −1 −1 ξi は a に概収束する. ¥ ηi は 0 に概収束する.よって,n て,n i=1 3.3 i=1 中心極限定理 前節で,独立確率変数の算術平均 (ξ1 + · · · + ξn )/n が定数に収束することを示した.こ の節では,中心極限定理について述べる.この定理は,独立確率変数に関する極限定理の 代表的かつ基本的な定理である. まず,一般的な枠組みにおける中心極限定理を示す. 3. 独立確率変数の極限定理 37 定理 3.11 (中心極限定理)各 n に対し,ξn,i , i = 1, . . . , n は独立確率変数で,Eξn,i = 0, n n X X V (ξn,i ) = 1 とする.このとき,次の条件 (L) の下で,Sn ≡ ξn,i の分布は N (0, 1) i=1 i=1 に収束する. (L) 任意の τ > 0 に対し, lim Ln (τ ) ≡ lim n→∞ n→∞ n X E(ξn,i 2 ; |ξn,i | > τ ) = 0 i=1 【証明】ϕn,i , ϕSn をそれぞれ ξn,i , Sn の特性関数とすれば,ξn,i , i = 1, . . . , n は独立だか n Y ら定理 2.3 より,ϕSn (t) = ϕn,i (t) が成り立つ.また,N (0, 1) の特性関数を ϕ とする i=1 − と,例 2.6 より ϕ(t) = e t2 2 となる.よって,Sn の分布が N (0, 1) に収束するには,定理 1 2.15 により,任意の t ∈ R に対し n Y ϕn,i (t) −→ e− t2 2 (3.4) i=1 が成り立つことを示せばよい. まず,指数関数のテイラー展開より,任意の a ∈ R1 に対し次の不等式が成り立つ. |eia − 1| ≤ |a| (3.5) 2 a |eia − 1 − ia| ≤ 2 ¯ a2 ¯¯ |a|3 ¯ ia ¯ e − 1 − ia + ¯ ≤ 2 6 (3.6) (3.7) 次に,n → ∞ のとき,任意の t ∈ R1 に対し max |1 − ϕn,i (t)| −→ 0 (3.8) i≤n となることを示す.各 n に対し Eξn,i = 0 と (3.6) より, |ϕn,i (t) − 1| = |E(eitξn,i − 1)| = |E(eitξn,i − 1 − itξn,i )| ≤ t2 t2 Eξn,i 2 = V (ξn,i ) 2 2 ところが,任意の τ > 0 と i = 1, . . . , n に対して V (ξn,i ) = Eξn,i 2 = E(ξn,i 2 ; |ξn,i | > τ ) + E(ξn,i 2 ; |ξn,i | ≤ τ ) ≤ Ln (τ ) + τ 2 t2 が成り立つ.ゆえに,i = 1, . . . , n に対して |ϕn,i (t) − 1| ≤ (Ln (τ ) + τ 2 ) となるので, 2 max |ϕn,i (t) − 1| ≤ i≤n t2 (Ln (τ ) + τ 2 ) 2 ここで,任意の ε > 0 に対し τ 2 ≤ ε となる τ を一つ固定する.また,条件 (L) によりあ る番号 n0 が存在して, n ≥ n0 ならば, Ln (τ ) < ε 3. 独立確率変数の極限定理 38 とできる.したがって,n ≥ n0 ならば max |ϕn,i (t) − 1| ≤ t2 ε i≤n となる.ゆえに,n → ∞ のとき,任意の t ∈ R1 に対し (3.8) は成り立つ. 次に,任意の t ∈ R1 に対し n ¯ nX o¯ ¯ ¯ (ϕn,i (t) − 1) ¯ = 0 lim ¯ ϕSn (t) − exp n→∞ (3.9) i=1 となることを示す.|e(ϕn,i (t)−1) | ≤ 1,|ϕn,i (t)| ≤ 1 より, n n n ¯ ¯Y ¯ nX o¯ Y ¯ ¯ ¯ (ϕn,i (t)−1) ¯ ϕ (t) − exp (ϕ (t) − 1) = ϕ (t) − e ¯ Sn ¯ ¯ ¯ n,i n,i i=1 i=1 ≤ n X i=1 |ϕn,i (t) − e(ϕn,i (t)−1) | i=1 = n X |(ϕn,i (t) − 1) + 1 − e(ϕn,i (t)−1) | i=1 また,指数関数のテイラー展開よりある定数 C > 0 が存在して,|z| ≤ 1 となる任意の z ∈ C に対し,|ez−1 − 1 − (z − 1)| ≤ C|z − 1|2 が成り立つので, n n ¯ nX o¯ X ¯ ¯ (ϕn,i (t) − 1) ¯ ≤ C |ϕn,i (t) − 1|2 ¯ ϕSn (t) − exp i=1 i=1 ≤ C max |ϕn,i (t) − 1| × i≤n n X |ϕn,i (t) − 1| i=1 = C max |ϕn,i (t) − 1| × i≤n n X |E(eitξn,i − 1 − itξn,i )| i=1 n n X X 2 ここで (3.6) と, Eξn,i = V (ξn,i ) = 1 より, i=1 i=1 n n ¯ nX o¯ t2 X ¯ ¯ (ϕn,i (t) − 1) ¯ ≤ C max |ϕn,i (t) − 1| × Eξn,i 2 ¯ ϕSn (t) − exp i≤n 2 i=1 i=1 = t2 C max |ϕn,i (t) − 1| i≤n 2 が成り立つ.したがって,n → ∞ のとき両辺の極限をとると (3.8) より,任意の t ∈ R1 に対し (3.9) が成り立つ. 次に,任意の t ∈ R1 に対し n nX o lim exp (ϕn,i (t) − 1) = e− n→∞ i=1 t2 2 (3.10) 3. 独立確率変数の極限定理 39 n X t2 が成り立つことを示す.ρn (t) ≡ (ϕn,i (t) − 1) + とおくと,定理の条件 Eξn,i = 0 と 2 i=1 n n X X t2 V (ξn,i ) = 1 により,ρn (t) = E(eitξn,i − 1 − itξn,i + ξn,i 2 ) となる.ゆえに, 2 i=1 i=1 n ¯ ¯ X t2 ¯ ¯ |ρn (t)| ≤ ¯ E(eitξn,i − 1 − itξn,i + ξn,i 2 ; |ξn,i | ≤ τ ) ¯ 2 i=1 n ¯ ¯ X t2 2 ¯ ¯ itξn,i − 1 − itξn,i + ξn,i ; |ξn,i | > τ ) ¯ + ¯ E(e 2 i=1 この右辺第一項に (3.7),第二項には (3.6) を用いれば, 第一項 ≤ n X n E( i=1 第二項 ≤ n X |tξn,i |3 |t|3 X |t|3 ; |ξn,i | ≤ τ ) ≤ τ Eξn,i 2 = τ 6 6 6 i=1 E(t2 ξn,i 2 ; |ξn,i | > τ ) = t2 Ln (τ ) i=1 ε となる. 2 ε さらに,任意の t ∈ R1 に対し十分大きな番号 n をとれば,条件 (L) により t2 Ln (τ ) < 2 となる.ゆえに, lim ρn (t) = 0 が成り立つ.よって, したがって,任意の ε > 0 に対し,τ = 3ε/|t|3 とすれば,第一項 ≤ n→∞ lim eρn (t) = 1 n→∞ ρn (t) ところが,e = exp し (3.10) は成り立つ. n nX o (ϕn,i (t) − 1) ×e t2 2 とかける.ゆえに,任意の t ∈ R1 に対 i=1 したがって,(3.9) と (3.10) により任意の t ∈ R1 に対して (3.4) が成り立つので,Sn の 分布は N (0, 1) に収束する. ¥ この結果において重要なことは,各確率変数 ξn,i の分布が既定されていないことである. すなわちこの定理は,ξn,i の分布がどのようなものであれ,条件 (L) をみたせば,Sn の分 布が常に標準正規分布に収束することを示している.それゆえ中心極限定理は,統計学に おいても非常に重要な役割を果たしている. 系 3.12 ξi , i = 1, 2, . . . を独立で,同分布をもつ確率変数列とする.V (ξ1 ) ≡ v とおき, n X ξi − Eξi √ E|ξ1 |2 < ∞ とする.このとき, の分布は標準正規分布 N (0, 1) に収束する. nv i=1 系 3.12 は,定理 3.11 で述べた中心極限定理に含まれる結果である.なぜならば,系 3.12 n X ξi − Eξi √ ξn,i とおく.このとき,ξi , i = 1, 2, . . . が独立 において,ξn,i ≡ , Sn ≡ nv i=1 同分布確率変数であることより,各 n に対して ξn,i , i = 1, . . . , n は独立で,Eξn,i = 0, 3. 独立確率変数の極限定理 n X 40 V (ξn,i ) = 1 をみたす確率変数である.この場合,条件 (L) は必然的にみたされている i=1 ので,系 3.12 は定理 3.11 から得られる結果である. 3.4 無限分解可能な分布 ここでは,以下の問題について考察する.この問題を考察し,その結果を導くことが本 論文の主題である. ¶ ³ 問題 各 n に対して,ξn,i , i = 1, · · · , n は独立で,同分布をもつ確率変数列とする. n X Sn ≡ ξn,i が,n → ∞ のとき法則収束するならば,その極限分布はどのようなも i=1 のであるか. µ ´ 大数の法則において,ξi , i = 1, 2, · · · を独立で,同分布をもつ確率変数とし,ξn,i ≡ Sn ≡ n X ξi , n ξn,i とおく.このとき,Sn が n → ∞ のとき法則収束すれば,その極限分布は単 i=1 位分布 δ{Eξ1 } である.また,中心極限定理においても,Sn が法則収束すれば,その極限 分布は標準正規分布であるいうことが具体的にわかる.したがってこれらは,この問題に 属する結果である. では,一般の場合ではその極限分布はど うなっているだろうか.それに対する答えは 20 世紀半ばごろ,レヴィ,コルモゴロフらによって得られ,その極限分布は無限分解可能な 分布 (infinitely divisible distribution) になることが示された.以下ではそれについて議論 する. まず,無限分解可能な分布について定義する.その後,上記の問題に対する解答を定理 3.14 として述べ,定理 3.18,定理 3.19 を用いて示す.これらは,本論文での主要な結果 である. 定義 3.13 µ を R1 上の分布,ϕ を µ の特性関数とする.任意の n = 1, 2, . . . に対し, ϕ(t) = ( n ϕ(t) )n , t ∈ R1 (3.11) をみたす特性関数 n ϕ が存在するとき,ϕ を無限分解可能な特性関数,µ を無限分解可能 な分布という. すなわち,µ が無限分解可能な分布であるとは,適当な確率空間上に,同じ分布をもつ n X 独立確率変数 Y1 , . . . , Yn を, Yi の分布が µ となるように構成できることである. i=1 3. 独立確率変数の極限定理 41 定理 3.14 各 n に対して,ξn,i , i = 1, . . . , n は独立で,同分布をもつ確率変数列とする. n X Sn ≡ ξn,i が,n → ∞ のとき法則収束するならば,その極限分布は無限分解可能な分 i=1 布である.さらに,その極限分布の特性関数を ϕ とおくと,実数 α と R1 上の有界測度 ν が存在して,ϕ は次のように表現できる. Z ∞ ³ n ϕ(t) = exp itα + eitx − 1 − −∞ o itx ´ 1 + x2 ν(dx) 1 + x2 x2 この定理の前半と,大数の法則・中心極限定理の結果を比べれば,確かに,極限分布で ある単位分布,標準正規分布は,その特性関数が共に指数関数の形でかけているので,無 限分解可能な分布である.また定理の後半部分の結果に対しても,単位分布の場合 α を Eξ1 ,測度 ν を ν = 0 とみれば,その特性関数は上記の形で書き表せる.中心極限定理の 場合においても,α = 0,測度 ν を δ{0} とすれば同様のことがいえる.したがって,これ らはこの定理をみたしている. この定理を示すための準備として,まず,複素数値関数に対する2つの命題を示す. 命題 3.15 f は R1 上の連続な複素数値関数で,f (0) = 1 とする.[−T, T ] 上で f が 0 にな らなければ,任意の t ∈ [−T, T ] に対して λ(0) = 0 かつ f (t) = eλ(t) (3.12) をみたす連続関数 λ(t) が一意的に存在する.さらに,f が (−∞, ∞) 上で 0 にならなけれ ば,(3.12) は (−∞, ∞) 上で成り立つ. 【証明】まず,z = 1 において 0 となる対数関数 L を,複素平面上の閉領域 { z ; |z−1| ≤ 1/2 } において,以下のように定義する. ∞ X (−1)j−1 L(z) ≡ (z − 1)j j j=1 (3.13) このとき,L は L(1) = 0 かつ eL(z) = z (3.14) をみたす連続関数になることを示す.L の定義より,L は絶対一様収束するから連続関数 で,L(1) = 0 をみたす.今,点 1 を点 z に結ぶ曲線を c とする.ただし c は 0 を通らない ものとし,関数 1/z の c に沿う積分を次のように定義する. Z z Z dζ dz e ≡ L(z) ≡ ζ 1 c z 3. 独立確率変数の極限定理 42 e このとき,曲線 c のとり方によらず L(z) = log |z| + iargz となる. ∞ X 1 また, = (−(ζ − 1))k より,次が成り立つ. ζ k=0 e L(z) = = ∞ X k=0 ∞ X Z (−1) = (ζ − 1)k dζ 1 (−1)k k=0 ∞ X z k (z − 1)k+1 k+1 (−1)j−1 j=1 (z − 1)j = L(z) j e ゆえに,eL(z) = eL(z) = elog |z|+iargz = z となり,L は (3.14) をみたす連続関数である. 次に , ある δ > 0 が存在して,[−δ, δ] 上で (3.12) をみたす連続関数 λ が存在することを示 す.f は [−T, T ] 上で一様連続だから,ρ ≡ inf |f (t)| > 0 とおけば,任意の t, s ∈ [−T, T ] |t|≤T に対し, |t − s| ≤ δ ならば, ³ρ 1´ |f (t) − f (s)| ≤ min , 2 2 をみたす δ > 0 が存在する.したがって, λ(t) ≡ L(f (t)), |t| < δ とおけば ,|f (t) − f (0)| ≤ 1/2 となるので,λ は [−δ, δ] 上で (3.12) をみたす連続関数で ある. 次に , [δ, 2δ] 上で (3.12) をみたす連続関数 λ が存在することを示す.g(s) ≡ f (s + δ)/f (δ) とおけば g(0) = 1 であり,|s| ≤ δ ならば |g(s) − g(0)| = |f (s + δ)/f (δ) − 1| ¯ f (s + δ) − f (δ) ¯ ¯ ¯ = ¯ ¯ f (δ) ³ρ 1´ ³ρ 1´ , min , min 1 2 2 2 2 ≤ ≤ ≤ |f (δ)| ρ 2 となる.ゆえに,λ̃(s) ≡ L(g(s)) とおくと,g(s) = eλ̃(s) となる.したがって, λ(s + δ) ≡ λ(δ) + λ̃(s), 0≤s≤δ により λ を定義すれば, eλ(s+δ) = eλ(δ)+λ̃(s) = eλ(δ) eλ̃(s) = f (δ)g(s) = f (s + δ) となって,[δ, 2δ] 上で (3.12) は成り立つ. 3. 独立確率変数の極限定理 43 このようにして [−δ, kδ] 上で λ が構成されたとき,0 ≤ s ≤ δ に対し ,以下のように定 義すれば [−δ, T ] 上で λ が構成できる. g(s) ≡ f (s + kδ)/f (kδ) λ̃(s) ≡ L(g(s)) λ(s + kδ) ≡ λ(kδ) + λ̃(s) また δ を −δ に変えて同様に λ を定義していけば,[−T, T ] 上で (3.12) をみたす連続関 数 λ が存在する. 次に,(3.12) をみたす連続関数 λ が一意的に存在することを示す.λ̂ も (3.12) をみたす 連続関数とすれば, exp( λ̂(t) − λ(t) ) = 1 となる.ゆえに,適当な整数 m(t) により λ̂(t) − λ(t) = 2πi · m(t) とかける.ところが,λ̂ − λ は連続関数より m(t) は整数値連続関数となり,定数となる. m(0) = λ̂(0) − λ(0) = 0 より m(t) = 0 だから,λ̂ = λ となって (3.12) をみたす連続関数 λ は一意的に存在する. 次に,f が (−∞, ∞) 上で 0 にならなければ,(3.12) をみたす連続関数 λ が (−∞, ∞) 上 で存在することを示す.f が (−∞, ∞) 上で 0 にならなければ,[−T, T ] 上で (3.12) をみた す λT が一意的に定まる.したがって,T < Te のとき λT (t) = λTe (t), |t| ≤ T となる.ゆえに,(−∞, ∞) 上の連続関数 λ を λ(t) = λT (t), |t| ≤ T ¥ により定義すればよい. 以下,命題 3.15 の関数 λ を log f とかくことにする. 命題 3.16 R1 上の連続な複素数値関数 f ,fk , k = 1, 2, . . . が,f (0) = fk (0) = 1 であり, [−T, T ] において 0 にならないとする.fk が f に [−T, T ] 上で一様収束するなら,log fk も log f に [−T, T ] 上で一様収束する. 【証明】まず,次の式が成り立つことを示す. log fk = log fk − log f f (3.15) 3. 独立確率変数の極限定理 44 [−T, T ] 上では fk /f 6= 0 で,(fk /f )(0) = 1 となるから命題 3.15 の条件をみたす.ゆえに, elog fk fk = log f = elog fk −log f f e となって,(3.15) は成り立つ. 次に,log(fk /f ) が 0 に [−T, T ] 上で一様収束することを示す.定理の条件により fk /f は 1 に [−T, T ] 上で一様収束するので,任意の ε > 0 に対し k ≥ k0 ならば, sup |(fk /f )(t) − 1| < ε ≤ |t|≤T 1 2 をみたす番号 k0 が存在する.よって,k ≥ k0 ならば,(3.13) より ∞ X 1 sup |L((fk /f )(t)) − 0| ≤ sup |(fk /f )(t) − 1|j |t|≤T |t|≤T j=1 j ∞ X 1 ≤ sup |(fk /f )(t) − 1|j j |t|≤T j=1 ∞ ∞ X X 1 j ε ε ≤ ε εj−1 = ≤ 2ε < j 1−ε j=1 j=1 が成り立つ.ゆえに,log(fk /f ) は 0 に [−T, T ] 上で一様収束する. したがって,(3.15) より log fk は log f に [−T, T ] 上で一様収束する. ¥ 次に,無限分解可能な特性関数がもつ性質を4つあげる.無限分解可能な特性関数の全 体を Φ とおく. 命題 3.17 無限分解可能な特性関数は次のような性質をもつ. (i) ϕ ∈ Φ ならば,ϕ ∈ Φ. (ii) ϕi ∈ Φ ,i = 1, 2 ならば,ϕ1 ϕ2 ∈ Φ. (iii) ϕ ∈ Φ ならば,ϕ は 0 にならない. (iv) ϕk ∈ Φ が ϕ に各点で収束し,ϕ が特性関数ならば,ϕ ∈ Φ である. 【証明】( ) ϕ ∈ Φ より ϕ = (n ϕ)n が成り立つとすれば,ϕ = (n ϕ)n となる.ここで,n ϕ は ϕ の分布とは対称な分布の特性関数であるので,ϕ ∈ Φ となる. ( ) ϕi ∈ Φ ,i = 1, 2 より ϕi = (n ϕi )n ,i = 1, 2 とすれば,ϕ1 ϕ2 = (n ϕ1 n ϕ2 )n が成り立 つ.ここで,n ϕ1 n ϕ2 も定理 2.3 より特性関数になるので,ϕ1 ϕ2 ∈ Φ となる. ( ) ϕ ∈ Φ より,ϕ = (n ϕ)n をみたす特性関数 n ϕ が存在する. f ≡ |ϕ|2 , n f ≡ |n ϕ|2 とおけば ,|ϕ|2 = ϕϕ̄ , |n ϕ|2 = n ϕ n ϕ となるので,命題 3.17 の ( )( ) より f , n f も特性関数である. 3. 独立確率変数の極限定理 45 また,f , n f は非負であり,f = |ϕ|2 = |(n ϕ)n |2 = (n f )n となるから n f (t) = (f (t))1/n が成 り立つ.ゆえに,0 ≤ f (t) ≤ 1 を考えあわせると以下が成り立つ. ( 1 , f (t) 6= 0 のとき h(t) ≡ lim n f (t) = lim (f (t))1/n = n→∞ n→∞ 0 , f (t) = 0 のとき 次に,この関数 h が特性関数であることを示す.f (0) = |ϕ(0)|2 = 1 より,f は t = 0 の 近傍では 0 にならないから,h は t = 0 の近傍で 1 となる. したがって,特性関数 n f は h に各点で収束し ,h は t = 0 で連続であるので,定理 2.15 により h は特性関数になる. よって,h は R1 上で一様連続であるから,任意の t ∈ R1 に対して h(t) = 1 となる.ゆ えに,|ϕ(t)|2 = f (t) 6= 0 となって ϕ は 0 にならない. ¥ この性質の ( ) により,ϕ ∈ Φ ならば (3.11) の ϕ,n ϕ は,共に 0 にならない.また, ϕ(0) = n ϕ(0) = 1 であるので,命題 3.15 により n log n ϕ(t) = log ϕ(t) が成り立つ.さら に,(3.11) をみたす n ϕ は一意的となるから,それを ϕ1/n とかく. 【証明】(命題 3.17 ( )) まず,ϕ が 0 にならないことを示す.f ≡ |ϕ|2 , fk ≡ |ϕk |2 とおけば,f , fk は共に非負 実数値の特性関数である.さらに, fk 1/n = ( |ϕk |2 )1/n = ϕk 1/n ϕk 1/n より fk 1/n も特性関数であり,k → ∞ のとき fk 1/n も f 1/n に各点収束する.ところが,f は特性関数だから原点で連続である.したがって,定理 2.15 より f 1/n も特性関数になり, f = ( f 1/n )n ∈ Φ が成り立つ.ゆえに,命題 3.17 ( ) により f は 0 にならない.すなわち,ϕ も 0 になら ない.これより,ϕ が特性関数ならば log ϕ が存在する.また,ϕk ∈ Φ より log ϕk も存在 する. ϕk が ϕ に各点で収束し ,ϕ は原点で連続であるので,定理 2.15 により ϕk は ϕ に広義 一様収束する.よって,命題 3.16 ϕk も´log ϕ に広義一様収束する. ³1 ´ により³log 1 ゆえに,ϕk 1/n = exp log ϕk は exp log ϕ に広義一様収束する. n n ´ ³1 ´ ³1 log ϕk は連続関数だから,その極限である exp log ϕ も原点で連続となる. exp n n ³1 ´ よって,定理 2.15 により exp log ϕ は特性関数となり, n ³ ³1 ´´n ϕ = elog ϕ = exp log ϕ n が成り立つ.ゆえに,ϕ ∈ Φ である. ¥ 3. 独立確率変数の極限定理 46 次の定理 3.18 が,定理 3.14 の後半部分に対する証明となる.また,3章でとりあげた 単位分布,ポアソン分布,一次元正規分布の特性関数は,すべて無限分解可能な特性関 数の例であり,これらの例を含む特性関数の一般の形が (3.16) となっている.またこの形 は,レヴ ィの標準形とよばれている. 定理 3.18 ϕ が無限分解可能な特性関数となる必要十分条件は,実数 α と R1 上の有界測 度 ν が存在して,ϕ が次の形で書き表せることである. Z ∞ ³ n o itx ´ 1 + x2 ϕ(t) = exp itα + eitx − 1 − ν(dx) 1 + x2 x2 −∞ 【証明】(十分性) : ψ(t) を次のようにおく. Z ∞ ³ ψ(t) ≡ itα + eitx − 1 − −∞ itx ´ 1 + x2 ν(dx) 1 + x2 x2 (3.16) (3.17) このとき,eψ(t) ∈ Φ となることを示せばよい. まず,被積分関数が連続であることを確認する.指数関数 eitx のテイラー展開より, ³ itx e itx ´ 1 + x2 it 1 + x2 itx −1− = − + (e − 1) 1 + x2 x2 x x2 ∞ it X (it)k k 1 + x2 = − + x x k! x2 k=1 ∞ X (it)k (1 + x2 ) k−2 x = k! k=2 となる.ここで,右辺の級数の収束半径は無限大なので,被積分関数は連続である. 次に,被積分関数の有界性を示す. |x| ≥ 1 のとき,任意の t に対して ¯ ¯ itx ¯e −1− ¯ itx ¯¯ 1 + x2 itx ¯¯ ¯ itx ≤ 2 e − 1 − ¯ ¯ ¯ 1 + x2 x2 1 + x2 ³ |tx| ´ ≤ 2(2 + |t|) ≤ 2 |eitx − 1| + 1 + x2 また,|x| < 1 のとき,|eitx − 1 − itx| ≤ |tx|2 /2 より ¯ ¯ itx ¯e −1− ¯ ¯ ¯ itx ¯¯ itx ¯¯ ¯ ¯ ¯ itx ¯ ≤ ¯ e − 1 − itx ¯ + ¯ itx − ¯ 1 + x2 1 + x2 |tx|2 ¯¯ x2 ¯¯ ≤ + ¯ itx ¯ 2 1 + x2 となるので,任意の t に対して ¯ ¯ itx ¯e −1− itx ¯¯ 1 + x2 t2 (1 + x2 ) ≤ + |tx| ≤ t2 + |t| ¯ 1 + x2 x2 2 が成り立つ.したがって,被積分関数は有界である. 3. 独立確率変数の極限定理 47 次に,任意の t に対して,ψ(t) − itα がリーマン和により近似できることを示す. itx ´ 1 + x2 eitx − 1 − は有界連続で ν は有界測度より,任意の ε > 0 に対してある 1 + x2 x2 M > 0 が存在して, Z ³ itx ´ 1 + x2 eitx − 1 − ν(dx) < ε (3.18) 1 + x2 x2 {|x|>M } ³ となる.よって, Z ³ eitx − 1 − {|x|≤M } について考える. 今,∆k = (xk , xk+1 ] を, l [ itx ´ 1 + x2 ν(dx) 1 + x2 x2 ∆k = [−M, M ] をみたす互いに素な集合とする. k=1 l X itx ´ 1 + x2 ,hl (x) ≡ f (x) ≡ e − 1 − f (xk )I∆k (x) とおけば,任意の ε > 0 と 1 + x2 x2 k=1 任意の x ∈ [−M, M ] に対し,ある番号 l0 が存在して ³ itx l ≥ l0 ならば, |hl (x) − f (x)| < ε となる.f は有界連続関数だから有界収束定理より,l ≥ l0 ならば Z ¯Z ¯ ¯ ¯ hl (x) ν(dx) − f (x) ν(dx) ¯ < ε ¯ [−M,M ] [−M,M ] したがって,この ε と番号 l0 に対し, l ≥ l0 ならば, l ³ ¯X ¯ eitxk − 1 − ¯ k=1 itxk ´ 1 + xk 2 ν(∆k ) 1 + xk 2 xk 2 Z ¯ ³ itx ´ 1 + x2 ¯ eitx − 1 − − ν(dx) ¯ < ε (3.19) 2 2 1 + x x {|x|≤M } が成り立つ.よって,(3.18) と (3.19) より,l ≥ l0 ならば ¯Z ¯ ¯ ∞ −∞ l ³ ¯ X itxk ´ 1 + xk 2 itx ´ 1 + x2 ¯ itxk − 1 − ν(dx) − e ν(∆ ) k ¯ 2 2 1 + x2 x2 1 + x x k k k=1 ¯Z ¯ ³ ´ 2 itx 1+x ¯ ¯ eitx − 1 − ≤ ¯ ν(dx) ¯ 2 2 1+x x {|x|>M } ¯Z ³ itx ´ 1 + x2 ¯ eitx − 1 − + ¯ ν(dx) 1 + x2 x2 {|x|≤M } l ³ ¯ X itxk ´ 1 + xk 2 ¯ itxk − e −1− ν(∆k ) ¯ < 2ε 2 2 1 + xk xk k=1 ³ eitx − 1 − 3. 独立確率変数の極限定理 48 1 ゆえに,任意の t ∈ R に対して,ψ(t) − itα は l ³ X eitxk − 1 − k=1 itxk ´ 1 + xk 2 ν(∆k ) 1 + xk 2 xk 2 により近似できる. ところが,リーマン和は次のようにかける. l ³ X itxk ´ 1 + xk 2 ν(∆k ) 1 + xk 2 xk 2 eitxk − 1 − k=1 l l ³X ´ o ν(∆k ) ´ X n³ 1 + xk 2 itxk = −it ν(∆k ) (e − 1) + xk xk 2 k=1 k=1 n l l ³X ´ oo ν(∆k ) ´ X n³ 1 + xk 2 itxk よって,e は exp −it + ν(∆ ) (e − 1) に k 2 x x k k k=1 k=1 より任意の t ∈ R1 に対して近似できる.また, ψ(t)−itα n exp l l ³X ´ oo ν(∆k ) ´ X n³ 1 + xk 2 itxk −it ν(∆k ) (e − 1) + xk xk 2 k=1 k=1 = l ³ Y n exp −it k=1 o´ n³ 1 + x 2 ´ ν(∆k ) o k itxk − 1) (3.20) × exp ν(∆ ) (e k xk xk 2 n ν(∆k ) o は例 2.4 より単位分布 δ{− ν(∆k ) } の特性関数であるか xk xk ら,無限分解可能な特性関数である. n³ 1 + x 2 ´ o 2 k itxk k ν(∆k ) , xk ) また,例 2.5 により exp ν(∆ ) (e −1) はポアソン分布 Φ( 1+x k xk 2 2 xk の特性関数であるから,無限分解可能な特性関数である.したがって,命題 3.17 ( ) に となる.ここで,exp −it より (3.20) の右辺の積は Φ に属する. また,(3.17) の右辺の積分は可積分であるので,ルベーグの収束定理より lim ψ(t) = 0 と t→0 なり,eψ(t)−itα は原点で連続である. l ³ n n³ 1 + x 2 ´ o´ Y ν(∆k ) o k itxk exp −it よって, × exp ν(∆ ) (e − 1) ∈ Φが k xk xk 2 e ψ(t)−itα k=1 に各点で収束し,eψ(t)−itα は原点で連続であるので,定理 2.15 により eψ(t)−itα は 特性関数になる.したがって,命題 3.17 ( ) により eψ(t)−itα は Φ に属する.ところが, eitα も無限分解可能な特性関数である.ゆえに,eψ(t) は Φ に属する. (必要性) : ϕ を無限分解可能な特性関数とすると,実数 α と R1 上の有界測度 ν が存在 して, Z ∞ log ϕ(t) = itα + −∞ ³ eitx − 1 − itx ´ 1 + x2 ν(dx) 1 + x2 x2 (3.21) となることを示せばよい.ϕn ≡ ϕ1/n ,λ ≡ log ϕ とおく. まず,任意の t ∈ R1 に対して,|t| < T をみたす T をとる.この T > 0 に対し, lim sup |n(ϕn (t) − 1) − λ(t)| = 0 n→∞ |t|≤T (3.22) 3. 独立確率変数の極限定理 49 が成り立つことを示す.n(ϕn (t) − 1) = n(e λ(t) n − 1) とかけるので,指数関数のテイラー展 開より,ある定数 C > 0 が存在して ¯ λ(t) ¯ λ(t) ¯2 λ(t) ¯¯ ¯ ¯ ¯ sup ¯ e n − 1 − ≤ sup C ¯ ¯ ¯ n n |t|≤T |t|≤T が成り立つ.この両辺を n 倍すると, sup |n(e λ(t) n C|λ(t)|2 n − 1) − λ(t)| ≤ sup |t|≤T |t|≤T ここで,n → ∞ のとき両辺の極限をとると, lim sup |n(e λ(t) n n→∞ |t|≤T − 1) − λ(t)| = 0 となり,(3.22) は成り立つ. したがって, sup sup n|ϕn (t) − 1| < ∞ n (3.23) |t|≤T 次に,µn を ϕn に対する分布とすると,任意の ε0 > 0 に対しある A > 0 を, sup nµn ([−A, A]{ ) < ε0 (3.24) n をみたすように選べることを示す. 補題 2.16 の不等式によれば任意の  > 0 に対し, µn ([−4Â, 4Â]{ ) ≤ 2 −  Z 1/ ϕn (t) dt Z −1/ 1/ Z ∞ = 2 −  Z −1/ −∞ ∞ 1/ Z = 2 −  (cos tx + i sin tx) dt µn (dx) Z −∞ ∞ Z −1/ 1/ = 2 −  2 cos tx dt µn (dx) −∞ Z eitx µn (dx) dt 0 Z 1/ = 2 1/ÂZ ∞ dt − 2 Z 0 cos tx µn (dx) dt 0 −∞ 1/ = 2 Re (1 − ϕn (t)) dt 0 となる.ゆえに,両辺を n 倍すれば nµn ([−4Â, 4Â]{ ) ≤ 2 Z 1/ Re {n(1 − ϕn (t))} dt 0 3. 独立確率変数の極限定理 50 n → ∞ のとき,(3.22) により被積分関数 Re {n(1 − ϕn (t))} は −Re λ(t) に [0, 1/Â] 上で一 様収束するので, lim nµn ([−4Â, 4Â]{ ) ≤ lim 2 n→∞ Z n→∞ 1/ Re {n(1 − ϕn (t))} dt 0 Z 1/ = 2 − Re λ(t) dt 0 Z 1/ ここで, → ∞ のとき, −2 Re λ(t) dt は −2 Re λ(0) に収束するので, 0 lim lim nµn ([−4Â, 4Â]{ ) ≤ −2 Re λ(0) = 0 Â→∞ n→∞ となる.よって,任意の ε0 > 0 に対しある Â(ε0 ) > 0 が存在して,  ≥ Â(ε0 ) ならば, lim nµn ([−4Â, 4Â]{ ) < ε0 n→∞ したがって,ある番号 n0 が存在して n ≥ n0 ならば, nµn ([−4Â, 4Â]{ ) < ε0 となる.n < n0 のときは,µn の性質より十分大きな à をとれば, nµn ([−Ã, Ã]{ ) < ε0 , n = 1, 2, . . . , n0 − 1 が成り立つ.したがって,この 4 と à のうち大きい方を新たに A とおけば,任意の ε0 > 0 に対し A > 0 を,(3.24) をみたすように選べる. 次に,νn (dx) ≡ x2 /(1 + x2 ) nµn (dx) とおいたとき, sup νn (R1 ) < ∞ n となることを示す. ³ L(t) ≡ |t| inf1 x∈ とおけば, R sin tx ´ 1 + x2 1− tx x2 ¯ sin tx ¯¯ 1 + x2 ¯ |x| ≥ 1 では,¯ 1 − ≤ 4. ¯ tx x2 ¯ 3 sin tx ¯¯ t 2 x2 |tx| ¯ |x| < 1 では | sin tx − tx| ≤ より,¯ 1 − となるから, ¯≤ 3! tx 6 ¯ sin tx ¯¯ 1 + x2 t2 (1 + x2 ) t2 ¯ ≤ < ¯ ¯1− tx x2 6 3 したがって,t 6= 0 のとき 0 < L(t) < ∞ となる.ゆえに, ¯ ¯ Z tZ ∞ ¯ ¯Z t ¯ ¯ ¯ ¯ (1 − cos sx) nµn (dx) ds ¯ n(1 − Re ϕn (s)) ds ¯ = ¯ ¯ 0 −∞ 0 Z ∞ ³ sin tx ´ 1 + x2 = |t| 1− νn (dx) tx x2 −∞ ≥ L(t)νn (R1 ) (3.25) 3. 独立確率変数の極限定理 51 (3.23) より,左辺の積分値は n に関し有界である.したがって,(3.25) は成り立つ. 次に,任意の有界連続関数 g に対して Z ∞ Z lim g(x) νnj (dx) = j→∞ −∞ ∞ g(x) ν(dx) (3.26) −∞ をみたす n の部分列 nj と,有界測度 ν が存在することを示す.(3.25) よりある正の実数 a が存在して,n0 → ∞ のとき νn0 (R1 ) −→ a となる {n} の部分列 {n0 } がとれる.νn の定 義と (3.24) より,任意の n に対して νn ([−A, A]{ ) = Z x2 nµn (dx) 2 [−A,A]{ 1 + x ≤ nµn ([−A, A]{ ) < ε0 が成り立つので,νn0 ([−A, A]{ ) < ε0 となる.ここで, νen0 (B) ≡ νn0 (B) , νn0 (R1 ) B ∈ B1 とおくと νen0 は確率で, νen0 ([−A, A]{ ) < ε0 ε0 ≤ νn0 (R1 ) inf0 νn0 (R1 ) n となる. (i) inf0 νn0 (R1 ) 6= 0 のとき n 任意の ε > 0 に対し,(3.24) における ε0 を,ε0 < ε inf0 νn0 (R1 ) をみたすようにとれば, n νen0 ([−A, A]{ ) ≤ ε0 inf0 νn0 (R1 ) < ε n となる.よって,定理 2.11 より νen0 は収束部分列 νen00 をもち,νen00 −→ νe かつ νn00 (R1 ) −→ a となる.したがって,任意の有界連続関数 g に対して, Z ∞ Z ∞ g(x) νn00 (dx) = g(x)νn00 (R1 ) νen00 (dx) −∞ Z−∞ Z ∞ ∞ 1 = g(x)(νn00 (R ) − a) νen00 (dx) + a g(x) νen00 (dx) −∞ となるので両辺の極限をとると, Z ∞ Z lim g(x) νn00 (dx) = a 00 n →∞ −∞ −∞ ∞ g(x) νe(dx) −∞ ゆえに,ν = ae ν ,νn00 = νnj とすれば,任意の有界連続関数 g に対して,(3.26) をみ たす部分列 nj と有界測度 ν が存在するといえる. 3. 独立確率変数の極限定理 52 (ii) inf0 νn0 (R1 ) = 0 のとき n νn00 (R1 ) −→ 0 となるように {n0 } の部分列 {n00 } がとれる.したがって,ν ≡ 0 とす れば,部分列 nj と有界測度 ν が存在するといえる. Z x 次に, lim nj µnj (dx) の値が存在し ,かつ それを α とおいたとき,任意の j→∞ R1 1 + x2 t ∈ R1 に対して Z ∞ ³ itx ´ 1 + x2 itx ν(dx) (3.27) lim nj (ϕnj (t) − 1) = itα + e −1− j→∞ 1 + x2 x2 −∞ が成り立つことを示す.ϕn (t) の定義より,任意の t ∈ R1 に対して Z ∞ lim n(ϕn (t) − 1) = lim (eitx − 1) nµn (dx) n→∞ n→∞ −∞ Z ∞ 1 + x2 = lim (eitx − 1) νn (dx) n→∞ −∞ x2 Z ∞ 1 + x2 (eitx − 1) νnj (dx) = lim j→∞ −∞ x2 (3.28) となる.ここで, Z ∞ Z ∞ n³ 1 + x2 itx ´ 1 + x2 o itx itx itx (e − 1) e −1− νnj (dx) = + 2 νnj (dx) x2 1 + x2 x2 x −∞ −∞ Z ∞ ³ ´ 2 itx 1+x = eitx − 1 − νnj (dx) 2 1+x x2 −∞ Z ∞ x + it nj µnj (dx) 2 −∞ 1 + x ³ となり, eitx − 1 − itx ´ 1 + x2 は有界連続関数だったので両辺の極限をとると, 1 + x2 x2 (3.26) と (3.28) より Z ∞ Z ∞ x 1 + x2 itx it lim n µ (dx) = lim (e − 1) νnj (dx) j nj j→∞ −∞ 1 + x2 j→∞ −∞ x2 Z ∞ ³ itx ´ 1 + x2 itx − lim e −1− νnj (dx) j→∞ −∞ 1 + x2 x2 = lim n(ϕn (t) − 1) n→∞ Z ∞ ³ itx ´ 1 + x2 − eitx − 1 − ν(dx) 1 + x2 x2 −∞ が成り立つ.(3.22) と ν が有界測度であることより右辺の値は存在するので,左辺の値も Z ∞ x 存在する.したがって,α ≡ lim nj µnj (dx) とおけば,任意の t ∈ R1 に対し j→∞ −∞ 1 + x2 て (3.27) が成り立つ. ところが, lim n(ϕn (t) − 1) = lim nj (ϕnj (t) − 1) である.ゆえに (3.27) と,任意の n→∞ j→∞ 1 t ∈ R に対し (3.22) が成り立つことを考えあわせれば,任意の t ∈ R1 に対し (3.21) は成 り立つ. ¥ 3. 独立確率変数の極限定理 53 定理 3.14 において,法則収束という確率変数が収束する条件が用いられていた.とこ ろが,定義 2.13 により法則収束と分布の収束が対応づけられ,定理 2.15 により分布の収 束と特性関数の収束が対応づけられるので,法則収束と特性関数の収束が対応づけられ る.したがって次の定理は,定理 3.14 の前半部分を示すために必要な結果となる. 定理 3.19 ϕ,ϕn を特性関数とする.n → ∞ のとき,(ϕn )n が ϕ に各点収束するならば, ϕ は無限分解可能な特性関数である. 【証明】まず,ある δ > 0 が存在して,ϕ(t),ϕn (t) が [−δ, δ] 上において 0 にならないこと を示す.ϕn は特性関数だから,定理 2.3 より (ϕn )n も特性関数となる.以下 (ϕn (t))n を ϕn n (t) とかくことにする.今 ϕn n が ϕ に各点で収束し,ϕ は原点で連続であるから,定理 2.15 より ϕn n は ϕ に広義一様収束する.よって,任意の δ > 0 に対し n ≥ n0 ならば, sup |ϕn n (t) − ϕ(t)| < |t|≤δ 1 4 (3.29) をみたす番号 n0 が選べる.また,ϕ は R1 上で連続で ϕ(0) = 1 より,ある δ を (3.29) かつ |t| ≤ δ ならば, |ϕ(t) − 1| < 1 4 (3.30) をみたすようにとれば,1 − |ϕ(t)| ≤ |1 − ϕ(t)| より,|t| ≤ δ において |ϕ(t)| ≥ 3/4 とな る.ゆえに, inf |ϕ(t)| > 0 (3.31) |t|≤δ 次に,|ϕn n (t) − 1| ≤ |ϕn n (t) − ϕ(t)| + |ϕ(t) − 1| より,|t| ≤ δ に対して両辺の上限をと ると,(3.29),(3.30) から n ≥ n0 ならば, sup |ϕn n (t) − 1| ≤ |t|≤δ 1 4 が成り立つ. 同様に,1 − |ϕn n (t)| ≤ |1 − ϕn n (t)| より,|t| ≤ δ において |ϕn n (t)| ≥ 1/2 となるので, n ≥ n0 ならば, inf |ϕn n (t)| ≥ 1/2 となる. |t|≤δ ところが, inf |ϕn n (t)| = ( inf |ϕn (t)|)n となるので, |t|≤δ |t|≤δ inf |ϕn (t)| ≥ ³ 1 ´ n1 |t|≤δ 2 したがって,n ≥ n0 ならば inf |ϕn (t)| > 0 |t|≤δ となる.ゆえに,(3.31) と (3.32) により ϕ(t),ϕn (t) は [−δ, δ] 上で 0 にならない. (3.32) 3. 独立確率変数の極限定理 54 かつ,ϕ(0) = 1,ϕn n (0) = 1 となるので,命題 3.15 により log ϕ(t),log ϕn n (t) が存在 する.また,ϕn n (t) は ϕ(t) に [−δ, δ] 上で一様収束していたので,命題 3.16 から log ϕn n (t) は log ϕ(t) に [−δ, δ] 上で一様収束する. よって,log ϕn n (t) = n log ϕn (t) より, lim sup |n log ϕn (t) − log ϕ(t)| = 0 (3.33) lim sup |n(ϕn (t) − 1) − n log ϕn (t)| = 0 (3.34) n→∞ |t|≤δ が成り立つ. 次に, n→∞ |t|≤δ が成り立つことを示す.指数関数のテイラー展開より,ある定数 C > 0 が存在して sup |elog ϕn (t) − 1 − log ϕn (t)| ≤ sup C| log ϕn (t)|2 |t|≤δ |t|≤δ が成り立つ.この両辺を n 倍すると, sup |n(elog ϕn (t) − 1) − n log ϕn (t)| ≤ sup C n| log ϕn (t)|2 |t|≤δ |t|≤δ = sup |t|≤δ C |n log ϕn (t)|2 n ここで,n → ∞ のとき両辺の極限をとると,(3.33) より lim sup |n(elog ϕn (t) − 1) − n log ϕn (t)| ≤ n→∞ |t|≤δ = C |n log ϕn (t)|2 n→∞ |t|≤δ n lim sup C | log ϕ(t)|2 = 0 n→∞ |t|≤δ n lim sup となる.ゆえに,(3.34) が成り立つ. したがって,(3.33) と (3.34) により lim sup |n(ϕn (t) − 1) − log ϕ(t)| = 0 n→∞ |t|≤δ (3.35) となる. µn を ϕn に対する分布とする. νn (dx) ≡ x2 /(1 + x2 ) nµn (dx) とおき,|t| < δ となる t を固定して定理 3.18 (必要性) と同 様の方法を用いれば,任意の有界連続関数 g に対して,(3.26) をみたす n の部分列 nj と 有界測度 ν が存在することが示せる. さらに, Z (3.35) が成り立つので,定理 3.18 (必要性) と同様の方法により x nj µnj (dx) の値が存在し ,かつ それを α とおいたとき,任意の t ∈ R1 に lim j→∞ R1 1 + x2 対して Z ∞ ³ itx ´ 1 + x2 itx ν(dx) (3.36) lim nj (ϕnj (t) − 1) = itα + e −1− j→∞ 1 + x2 x2 −∞ 3. 独立確率変数の極限定理 55 が成り立つことが示せる. 次に,ϕ は R1 上で 0 にならないことを示す. Z ³ ¯ ¯ itx ´ 1 + x2 ¯ ¯ c(t) ≡ ¯ itα + ν(dx) eitx − 1 − ¯ +1 2 2 1+x x R1 とおくと,(3.36) より |ϕnj (t) − 1| < c(t) が成り立つ. nj ゆえに, c(t) となるから,十分大きな nj に対して |ϕnj (t)| > nj 1− |ϕ(t)| = lim |ϕnj (t)| nj j→∞ ³ ≥ lim j→∞ c(t) ´nj 1− = e−c(t) nj したがって,ϕ は R1 上で 0 にならない. よって,(3.35) が成り立つ証明を見直せば,δ は任意にとれていることがわかる.した がって,(3.36) により任意の t ∈ R1 に対して log ϕ(t) = = lim n(ϕn (t) − 1) n→∞ lim nj (ϕnj (t) − 1) Z ∞ ³ = itα + eitx − 1 − j→∞ −∞ itx ´ 1 + x2 ν(dx) 1 + x2 x2 が成り立つ.ゆえに,定理 3.18 (十分性) より ϕ ∈ Φ となる. ¥ 【証明】(定理 3.14) 後半部分は定理 3.18 ですでに示したので,前半部分について示す. ξn,i , i = 1, . . . , n は各 n に対して同分布をもつので,n をとめるごとに特性関数は等し くなる.よって,ξn,i , i = 1, . . . , n の特性関数を ϕn とおくと,定理 2.3 より Sn の特性関 数は (ϕn )n となる. 今,ϕ をある分布の特性関数とすると ϕ は原点で連続となる.よって,(ϕn )n が ϕ に各 点で収束するならば,定理 2.15 より (ϕn )n を特性関数にもつ分布が ϕ を特性関数にもつ 分布に収束する.すなわち,Sn は n → ∞ のとき法則収束することになる. このとき,定理 3.19 より ϕ は無限分解可能な特性関数であり,ϕ に対する分布,つまり 極限分布は,無限分解可能な分布である. ¥ この定理 3.14 においても,もともとの ξn,i の分布は全く既定されていない.したがって この結果は,独立で同分布をもつ確率変数の和に関する極限定理においては,もともとの 確率変数の分布にかかわらず,その極限分布は無限分解可能な分布に限るということを示 している.つまり,我々はすべての分布を知り尽くしていないにもかかわらず,この場合 における極限分布は,無限分解可能な分布以外ではありえないということである.また, 極限分布の特性関数が具体的な形で書き表せるため,レヴィの反転公式によりその極限分 布をも知ることができる.よってこの定理は,独立確率変数の和に関する極限定理とそれ に対する結果を一般的に述べたものといえる. 参考文献 [1] 伊藤 清, 確率論, [2] 伊藤 清三, [3] 小谷 眞一, 岩波書店, 1976 ルベーグ積分入門, 裳華房, 1963 測度と確率1, 岩波書店, 1997 [4] 掛下 伸一, 確率論, サイエンス社, 1973 [5] 竹之内 脩, ルベーグ積分, 培風館, [6] 西尾 真喜子, 確率論, 1980 実教出版, 1978 56
© Copyright 2024 Paperzz