確率運動

0.はじめに
ここでは、金融工学の基礎であるブラックショールズの公式を導くまでの過程を説明す
る。そのためには、ランダムウォークから派生したブラウン運動と確率積分の概念の理解
は必要不可欠である。そしてそこから求まる伊藤の公式を用いて確率微分方程式を解き、
ブラックショールズ過程について紹介する。
1.ブラウン運動
ランダムウォークは、確率変数
Xi
1 (確率 p), X i
1 (確率q=1−p) ( i= 1,2,…,n)
が存在しそれらが独立であるときに、それらの和を
Sn
X1
X 2+ +X n
(n=1,2,3,…)
と定義する。ランダムウォーク Sn の期待値と分散は
E Sn
であり、 p
q
E Sn
p q , V Sn
4npq
1
の単純対称ランダムウォークにおいては
2
0 , V Sn n
である。
ブラウン運動は離散現象であったランダムウォークを連続的にしたものと考えるとわか
りやすい、元来物理学から生まれた現象であるが、ファイナンスの世界でも広く用いられ
ている。
X (t ) ,t 0 において
n+1 個の時間の分点 0 t 0 t1 K t n 1 t n で増分系
X (t1 ) X (t 0 ) , X (t 2 ) X (t1 ) , K , X (t n ) X (t n 1 )
確率過程
(i)
が
それぞれ独立である
かつ
(ii)
それぞれ平均
N(
( tk
( tk
tk 1 ) ,
t k 1 )、分散 ( t k
( tk
t k 1 )の正規分布
t k 1 ) ) ( k = 1,2,…,n )
に従う。
以上を満たすとき、この確率過程の動きをブラウン運動と呼び、また、
= 0,
= 1 の時のブラウン運動を特に標準ブラウン運動という。
具体例をみてみる。
ある株価の推移を考える。先月の株価の変動分と、今月までの変動分は独立。そして、来
月の変動分も以前のそれとは独立となる。つまり、これからの株価の変動状況は以前のデ
ータからは予測できず(依存せず)
、確率的に処理するしかないということなのである。別
の例で言えば、半々の確率で赤か黒が出るルーレットで、現在赤がずっと連続して出てい
るからといって、次に黒が出る確率が上がるかと言えば、そうではなく、依然としてその
確率は2分の1でしかないのである。
そしてブラウン運動には
1、ブラウン運動の経路は確率1で連続である。
2、ブラウン運動の経路は確率1で至るところ微分不可能である。
3、ブラウン運動の経路は確率1で
① 1 次変分において有界変分ではない
② ただし2次変分において、一定数に2次の平均収束をする。
という性質がある。詳しく説明してみよう。
1の連続において、関数 f (x ) が点 x
a において連続であるとは、 f (a ) が定義されてお
a) f ( x ) が存在して有限で確定した値をとり、 lim( x a) f ( x) f (a) である、
り lim( x
ということ。単純に考えて、ランダムウォークを時系列的に連続化したものなのだから当
然と言える。
2の微分不可能について、そもそも微分可能とは f (x ) が微分可能ならば極限値
lim( x
0)
f (x
x)
x
f ( x)
f ( x)
が存在するということである。しかしブラウン運動においては、分母が x
0 になるわけではない。
ブラウン運動過程に従う X (t ) を考える。 h
0 だからとい
って、分子
運動の定義より
V X (t
h)
2
0 として X (t
h) X (t ) の分散はブラウン
h であるから、
X (t )
E { X (t
h)
X (t )}2
E X (t
h)
X (t )
2
から、右辺第二項は 0 なので、
E X (t
h)
X (t )
2
2
=
h
である。つまり
lim( h
0) E
X (t
h)
h
X (t )
2
2
lim( h
0)
h
h
2
lim( h
と求める。しかし、本来ブラウン運動が微分可能だとすると
0)
h
lim( h
X (t
0) E
h)
h
X (t )
2
E X (t )
2
となるため、先ほどの式と矛盾が生じる。よって、 X (t ) は t において微分不可能と言え
る。
最後の有界変分について、このことの証明は複雑なので概略だけ説明する。まず X (t ) の
t0
区間[0,t]での変分を考える。この区間を分割し、 0
t1
K tn
1
tn
t という分点
を作り、この関数の上昇・下降幅の合計を V# とすると、
V # | X ( t1 )
X (t 0 ) | | X (t 2 )
X ( t 1 ) | L |X ( t n )
X (t n 1 ) |
となり、これを1次変分と呼ぶ。そしてあらゆる分点系に対して V# の上限を V ( X ) =sup
*
V# と表す。 X (t ) を f (t ) とすると、通常 f (t )
t や f (t )
t 2 といった関数は、
n
| f (t i )
f (t i 1 ) | V * ( X ) が成り立つため、有界変動(有界変分)関数といえる。つまり
i 1
上限が存在する。
ところがブラウン運動においては、この上限が存在しない。n→∞とし分点系を細かくし
ても、時間区間内での変化が激しいため、 V# はいくらでも大きくなる可能性がある。イメ
ージとしては、ブラウン運動過程は、非常に細かく折りたたまれた長さ無限大の曲線と考
えればよい。
しかし2次変分になるとこのようにはいかない。一次変分と同様に
Q# | X (t1 )
X (t 0 ) | 2
| X (t 2 )
X ( t1 ) | 2
L |X (t n )
X (t n 1 ) | 2
と2次変分をつくると、 Q# は有界となるだけでなく、一定数 t に2次の平均収束をする。
つまり
E Q#
t
2
0
となるのだ。これは区間が[0,t]だから t−0= t となってtに収
束するのだ。もし区間が[t,s]ならば、当然 t−s に収束する。この証明は複雑なのでここで
は省くが,2次の平均収束の概念は、ブラウン運動過程のポイントであり、これからの確率
積分、伊藤の公式を理解する上で非常に重要である。
2.確率積分
ここから標準ブラウン運動を
=0,
= 1 の W (t ) , t
W (t )
で表す。
0 の分点系
t0
t1
K tn
1
W (t1 ) W (t0 ) , W (t 2 ) W (t1 ) , K , W (t n ) W (t n 1 )
を、
W (t 0 ) ,
W (t1 ) , K ,
W (t n 1 )
tn
に対する増分
と表記する。さらに分点系の各区間ごとに、数列
b0 , b1 , K , bn
1
があるとき、積和
n 1
b0 W (t 0 ) + b1 W (t1 ) + K + bn
1
bk W (t k )
W (t n 1 ) =
k 0
を考える。
今、
の区間で、 t 0 , t1 , K , t n の分点を限りなく細かくするとき、
,
先の合計量が2次の平均収束の意味で
n 1
bk W (t k )
n
Ib
k 0
となった極限(確率変数) I b を bt ( b(t ) )の W (t ) による確率積分
I b = b(t )dW (t )
と記す。n が十分大きい時、
を
に、
を d に置き換えて
n 1
bk W (t k ) ≒ b(t )dW (t )
k 0
とするのである。
なお、この際、b t に対し bk を t k ,t k
の、どこの値をとるかによって、積分の値が違って
1
くる。それぞれ
(a) 左端から bk = b t k とする
(b) 右端から bk = b t k
(c) 中点から bk = b
tk
とする
1
tk
2
1
とする
時が考えられる。特に(a)のときを伊藤積分とよび、(c)のときをストラトノヴィッチ
積分とよぶ。ストラトノヴィッチ積分は計算上、連続非確率変数におけるリーマン積分と
なんら変わらないが、今後は伊藤積分の形のみについて言及する。
3.伊藤の公式
(1) f (t ) が連続で微分可能な非確率変数のとき
X (t ) , t
a, b を
0 をブラウン運動過程とし、関数 f (t ) は a, b で連続な微分可能な関数とする。
⊿: a
t0
t1
K tn
1
tn
b
と分割するとき、ウィーナー積分は
b
a
n
a
X (t i 1 ) , max t i
ti
1
0
i 1
と定義される。
b
f (t i 1 ) X (t i )
f (t )dX (t ) =
b
a
f (t )dX (t ) は
f (t )dX (t ) = f (b) X (b)
b
f ( a ) X ( a)
a
X (t )df (t )
と変形でき、部分積分の公式が適用できることを示している。しかしこれは、関数 f (t ) が
微分可能であるがために成り立つため、f (t ) がブラウン運動の時には成り立たない。dX (t )
における d は、微小区間という意味ではないことに注意していただきたい。
また、
b
a
f (t )dX (t ) はガウス過程に従い、
期待値 E (
分散 V (
b
a
b
a
f (t )dX (t ) ) = 0
f (t )dX (t ) ) =
2
b
2
f (t ) dt
a
となる。この証明は複雑なので省かせていただく。今回のブラックショールズとは直接関
係ないので、流してよい。
(2)ウィーナー積分において、 f (t ) が純粋な確率変数のとき( W (t ) は含めず)
f (t ) が確率関数の場合、確率積分(伊藤積分)は
T
0
f (t )dW (t )
と表される。
ここで、区間 0, T を⊿: 0
t0
t1
K tn
1
tn
T と分割し、 t
t i 1 のブラウン運動
W (t ) に依存するが、 t t i 1 の W (t ) に依存しない Yi 1 という値を f (t ) はとるとする。
Y0 は定数、 Y1 , Y2 ,K , Yn 1 は確率変数である。このとき伊藤積分は
T
0
n
Yi
f (t )dW (t ) =
1
W (t i ) W (t i 1 )
i 1
と定義され、また、 t j
t
t j 1 における 0 から t までの伊藤積分は次のように表すことが
できる。
It ( f ) =
t
0
j
Yi
f ( s )dW ( s ) =
1
W (t i ) W (t i 1 ) + Y j W (t ) W (t j )
i 1
t は 0, T に属する値であり、 f (t ) は区間 t i 1 ,t i の左端の点で考えられている。
(3)ウィーナー積分において f (t ) が確率関数のとき( W (t ) も含める)
ここからが、この伊藤積分の主題となる。ファイナンスの世界では、確率関数が t のみに
よるものはなく、その時点の W (t ) の値にも依存すると考えられる。そこで先ほどの f (t ) を
関数 f t ,W (t ) と一般化する。
ここで、この場合の伊藤積分の性質を述べておこう。
a.伊藤積分の期待値は 0 である。
伊藤積分、つまりブラウン運動は値の差のみが重要であり、値そのものには着目点は少な
T
い。
0
f (t )dW (t ) においてこの期待値をとると、 f (t ) と dW (t ) は独立であり、 dW (t ) は
E W (t i ) W (t i 1 )
0 であるから、全体の期待値も 0 となる。
b.伊藤積分は線形性をもつ。
を任意の実数とするとき、伊藤積分の基本の定義から次の線形性が認められる。
,
T
f (t )
0
T
g (t ) dW (t )
0
f (t )dW (t )
T
0
g (t )dW (t )
c.伊藤積分は等調性をもつ。
等調性 isometry property とは次の性質を意味する。
T
E
0
f (t )dW (t )
2
T
0
2
E f (t ) dt
今回は用いることがないので、証明は省く。 dW (t )
2
dt から、おおよそ検討がつくであ
ろう。
d.伊藤積分はマルチンゲ―ル性をもつ
s
t とし、 I s を時点sまでの情報増大系とすると、マルチンゲール性とは
Y (t )
t
0
f (r )dW (r ) とするときに
E Y (t ) | I s
Y ( s ) となる性質のことをいう。
つまり、現在までに与えられている情報から未来を推測することはできないので、期待値
は現在の値と変わらない、ということ。最新の値は、情報が与えられている時点の値に等
しいというものである。初めの方に挙げた例でいえば、ルーレットで赤が連続した後に、
次に黒の出る確率が変わるかといえばそれは2分の1のままであった。まさにそれである。
他の例で説明しよう。標準ブラウン運動で推移する株価があり、毎日およそ一株 1,000 円
で安定して取引されている株価があるとしよう。
標準ブラウン運動は期待値 0 であるから、
明日の株価の期待値も 1,000 円である。ところが明日になって、株価がたまたま 1500 円に
なった。すると明後日の期待値は 1500 円になってしまうのである。これがマルチンゲール
性である。
それでは本題に入る。
①確率変数が f W (t ) のとき
さて、リーマン積分において関数 f (x ) のテイラー展開は
f
f ( x h) − f (x) = f ( x)h +
( x) 2
h +K
2!
2
であり、 h
0 とするときに h 2 以上の項を無視できるので、
f ( x h) − f (x) = f ( x)h
となる。また合成関数においても、 x g (t ) , h dg (t ) とおくと
f g (t ) dg (t )
となり、同様に dg (t )
f g (t ) dg (t )
2
f g (t ) = f g (t ) dg (t ) +
1
f
2
2
g (t ) dg (t )
2
+ K
以上の項を無視できるので、
f g (t ) = f g (t ) dg t
である。
では、 g (t ) = W (t ) のときはどうだろうか。
2
n
前述の2次の平均収束から、lim(n→0) E
i
W
2
t
であり、
0
i 1
n
区間 0, t で、lim(n→0)
W
i
i 1
2
dW (t ) = W (t
2
=
t
0
dt ) W (t )
2
dW (r ) = t =
2
t
0
dr となるため、
= dt
と変換できる。
つまり、 f W (t )
dW (t )
f W (t ) = f W (t ) dW (t ) +
1
f
2
= f W (t ) dW (t ) +
1
f
2
2
W (t ) dW (t )
2
W (t ) dt
2
となるのである。ようするに
微分可能な f (t ) は、 df (t ) = f (t )dt とすることができるが、微分不可能な W (t ) は、
dW (t ) = W (t dt ) W (t ) としか表すことができないということ。そして、区間 0, t で
0
s
t としたときに、前述の形を積分系でとると
t
f W (t ) − f W (s) = df W (r )
s
=
と
t
s
f W (r ) dW (r ) +
1
2
t
s
f
W (r ) dr
2
1
の項がでること
2
に注意されたい。いくつか例を挙げてみる。
例1. f (t ) が W (t ) のとき
2
t
t
s
s
W 2 (t ) − W 2 ( s) =2 W (r ) dW (r ) + dr
t
=2 W ( r ) dW (r ) + t−s
s
s = 0 のとき W (0) = 0 なので
t
W 2 (t ) = 2 W (r ) dW (r ) + t
0
よって
W 2 (t ) t
W (r ) dW (r ) =
0
2
t
とわかる。
例2. f (t ) が W (t ) のとき
3
前問と同様に
t
t
s
s
W 3 (t ) − W 3 ( s) = 3 W 2 (r ) dW (r ) + 3 W (r ) dr
と求められ、よって
t
1
W 2 (r ) dW (r ) = W 3 (t ) − W (r ) dr
0
0
3
t
と導かれる。
ここで右辺第2項はこれ以上の変形はできないものの、W (t ) は確率1で連続であり、連続
関数は積分可能であるため、通常の積分と同じ定義でとらえてよい。
② 確率関数が f t ,W (t )
のとき
先ほども述べたように、時間要素 t だけでなく、その時点の W (t ) にも影響を受ける場合
を考える。2変数の関数 f x, y
のテイラー展開は
f x k , y l − f x, y
= kf1 x, y
+ lf 2 x, y
1 2
k f11 x, y
2
+
2klf12 x, y
l 2 f 22 x, y
+…
ここで、
f1
f
, f11
y
f
, f2
x
2
f
x
2
f
, f 22
x y
2
, f12
f 21
2
f
y
2
である。
関数 f t ,W (t ) のテイラー展開は
x
t, k
dt , y
2
W (t ), l
dW (t ) とおき、 dt , dtdW (t ) は高次の項とみなし無視して、
df t ,W (t ) = f t dt ,W (t ) dW (t ) − f t ,W (t )
= f1 dt + f 2 dW (t ) +
積分に変形し、 dW (t )
2
1
2
f 22 dW (t ) ( f t ,W (t )
2
f と簡略化した)
= dt と変換できることに注意すれば
t
f t ,W (t ) − f s,W ( s) = df r , W (r )
s
=
t
f1
s
1
f 22 dr +
2
t
s
f 2 dW (r )
となる。
さて、ここからの例題は、数多くある関数の中でも、 t , W (t ) の組み合わせによる値が特
徴的なものを示す。
1
t のとき
2
例3. f t ,W (t ) = exp W (t )
先ほどの公式を当てはめると、右辺第1項が 0 となるため
f t , W (t ) − f s , W ( s ) =
となり、 f t ,W (r )
X (t )
t
s
f r , W (r ) dW (r )
= X (t ) という確率過程のときに
X ( s)
t
s
X (r )dW (r )
の関係を満たし、これを伊藤指数関数とよぶ。
例4. f t ,W (t ) = exp
1
2
2
t
W (t ) のとき
これは幾何ブラウン運動と呼ばれるものの一つである。公式にあてはめて計算すると
t
f t , W (t ) − f s , W ( s ) =
となるため、前問同様 f t ,W (t )
X (t )
t
X (0)
0
s
t
f r ,W (r ) dr +
= X (t ) とおき、 s
t
X (r )dr +
0
s
0
f r ,W (r ) dW (r )
t とすると
X (r )dW (r )
この形は特殊で、形式的に
dX (t ) = X (t ) dt + X (t ) dW (t )
という確率微分方程式の形で表されることが多いが、通常の微分方程式と同様に扱うこと
はできない。また前式は一般的に
dX (t ) = A 1 (t )dt + A 2 (t )dW (t )
と表すことができる。
③確率関数が f t , X (t )
のとき
先ほどは f t ,W (t ) で、どのような確率過程をたどるか示したが、今度は
dX (t ) = A 1 (t )dt + A 2 (t )dW (t )
を満たす、 X (t ) の過程について考える。
本来は、 dX (t ) = A (t ) dt + A
1
2
(t )dW (t ) を、確率微分方程式としてとくことによって、
確率関数 f t , X (t ) を推定するのが正しい手順と思われるが、ここでは確率過程の説明を優
先し、 f t , X (t ) はすでにわかっているものとする。
今までと同様にテイラー展開を行い、
dt
2
2
2
0 , dtdX (t ) = 0 , dX (t ) = A 2
2
2
dW (t ) = A 2
dt
を代入すると
f t , X (t )
( A (r )
1
f s, X ( s) =
A1 ,
A 2 (r )
t
s
f1
A 1 f2
f t , X (t )
A2 ,
となる。
例5. dX (t ) =
X (t )dt + dW (t ) ,
0
f t , X (t ) = e t X (t )
のとき、公式の右辺第 1 項が 0 となるので、
f t , X (t )
f s, X ( s) =
で表される。
t
s
e r dW (r )
1 2
A
2
2
f 22 dr +
f と略した)
t
s
A 2 f 2 dW (r )
例6. dX (t ) = (t ) X (t ) dt + (t ) X (t ) dW (t )
X (0)
x0
0,
f t , X (t ) = log
X (t )
x0
のとき、
f1
1 2
A
2
A 1 f2
2
1
2
f 22 = (t )
2
(t )
となるので、
f t , X (t )
f 0, X (0) = log
t
=
X (t )
x0
(r )
s
1
2
2
(r ) dr +
が得られる。ここで、 (r ) , (r ) を、それぞれ
,
t
s
(r )dW (r )
と定数と仮定し、対数を除いて x0 を
移項すると
X (t ) = x0 exp
1
2
2
t
W (t )
となり、これをブラックショールズ過程とよぶ。対数を戻すと
1 2
t
W (t )
2
であり、 dX (t ) = X (t ) dt + X (t ) dW (t ) において、 X (t ) を移項し非確率関数と仮定し
log X (t )
log x 0
て通常の積分を行ったときの
log X (t )
t
W (t )
と比較すれば、その違いがわかるだろう。
ここで紹介したのは、伊藤積分を理解する際の代表的なものであり、この他にも、 f (t ) が
f t , X 1 (t ), X 2 (t ) のときや、さらに、 f t , X 1 (t ), X 2 (t ) において X 1 (t ), X 2 (t ) がそれぞれ
異なるブラウン運動 W1 (t ),W2 (t ) を用いたとき、などの一般化が考えられる。
4.確率微分方程式
ブラウン運動を含んだ式は微分不可能であるから、
dX (t ) = ( X (t ), t ) dt + ( X (t ), t ) dW (t ) で表される確率微分方程式は、
X (t ) = X (0) +
t
( X (r ), r )dr +
0
t
( X (r ), r )dW (r )
0
という確率積分方程式を慣例的に微分方程式で表したものにすぎない。
そこで、いくつか確率微分方程式の例をあげてみる。紹介程度に眺めていただけたい。
確率微分方程式は通常の常微分方程式の解き方と同様に
dX (t ) = ( X (t ), t ) dt + ( X (t ), t ) dW (t )
と伊藤の公式で偏微分した値から斉次方程式をとき、特殊解を求める。そこから公式に当
てはめて、一般解を得るのである。
(1) 算術ブラウン運動
dX (t )
tdt
dW (t )
これをとくと、
X (t )
X (0)
t
W (t )
となる。通常のブラウン運動が X (0)
t だけ移動したものと考えればわかりやすい。
(2) 幾何ブラウン運動
dX (t ) = X (t ) dt + X (t ) dW (t )
これは何度も出てきたブラックショールズ過程である。これを解くと、
1
2
X (t ) = X (0) exp
2
t
W (t )
であった。ブラックショールズ過程は資産価格、経済変数の多くが持っている特徴と一致
すると仮定され、 X (t ) のモデルとしてよく用いられる。
(3) オルンシュタイン・ウーレンベック過程
dX (t ) =
X (t ) dt +
dW (t ) ,
0 ,
0
これも先ほど例(5)に出た式で、解くと
X (t )
t
X ( 0) e
e
t
t
0
e rs dW (s )
(4) ブラウン橋過程
b X (t )
dt + dW (t ) , 0 t T ( t T は含まれない) , X (0)
T t
t
t
t
1
X (t ) = a 1
b
(T t )
dW (r )
0
T
T
T r
dX (t ) =
(5) 平方根過程
dX (t ) =
X (t )
X (t )
e
t
X ( 0)
dt
X (t )dW (t ) ,
e
t
t
0
この他にも一般線形確率微分方程式として
, ,
X (s )e s dW (s )
0
a
dX (t )
1
(t ) X (t )
2
(t ) dt
1
(t ) X (t )
2
(t ) dW (t )
の場合があり、すべての関数の大本になる。これをとくと
X (t ) U (t ) X (0)
ただし、 U (t )
U (0) exp
t
0
2
(r )
1
(r )
t
0
1
1
2
(r )
2
1
2
(r ) U 1 (r )dr
(r ) dr
t
0
1
t
0
2
(r )U 1 (r )dW (r )
(r )dW (r )
となる。
すべての株価を構成する要素がわかれば、このように数式立てて完璧に正確な期待値を求
めることができるが、その要素数はほぼ無限に等しいので、求めることはできないであろ
う。そのため標準ブラウン運動の確率論として大まかに利用されているに過ぎないのだ。
しかしここから求まる数値は、金融の世界において、長年の間基礎とされてきた考えであ
り、重要なことには変わりないのも事実である。
参考文献
木島 正明 「ファイナンス工学入門第1部(ランダムウォークとブラウン運動)
」
(日科技連、1994 年)
逆瀬川 浩孝 「理工基礎 確率とその応用」 (2004 年、サイエンス社)
松原 望 「入門確率過程」 (東京図書、2003 年)
蓑谷 千凰彦 「ブラック・ショールズモデル」 (東洋経済新報社、2000 年)