中小企業会計ワークブック - 公益社団法人 全国経理教育協会 ZENKEI

平成26年度 文部科学省
「成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進事業」
経営基盤強化分野(職域プロジェクト)
中小企業会計ワークブック
中小企業における経営基盤強化のための
中核的経理財務専門職の養成プロジェクト
公益社団法人
全国経理教育協会
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中小企業会計
ワークブック
― シラバス ―
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−3−
ワークブックシラバス「中小企業会計」
Ⅰ 講義の目的と課題
本講義の目的は,中小企業会計の理論と制度を教授することにある。中小企業会計の目
的は,中小企業に固有の会計制度を制定することにより,中小企業のインフラ整備とその
活性化に資することにある。
本講義の課題は,中小企業会計の制度と実践的課題について理解を深めることにある。
Ⅱ
講義の内容と到達目標
本講義の具体的な内容は,次の4つの部分から構成される。
Ⅰ.中小企業会計の制度的・理論的基礎
Ⅱ.「中小会社要領」(総論)
Ⅲ.「中小会計要領」(各論)
Ⅳ.中小企業会計の課題と国際的動向
本講義の到達目標は,次の3つである。
① 中小企業会計の意義について説明できる。
② 中小企業会計基準と公開企業(大企業)会計基準との相違を理解し,説明できる。
③ 中小企業会計に関するわが国の現状および世界の動向について理解し,説明できる。
Ⅲ
講義の構成
第Ⅰ部 中小企業会計の制度的・理論的基礎
第1講
中小企業会計の制度的背景
概要:中小企業を取り巻く経済環境の環境変化を踏まえ,中小企業会計基準を制定し
なければならない必要性について解説する。
具体的なトピック:①中小企業会計の必要性,②中小企業会計の制度化の歩み,③中
小企業会計基準の設定方法。
−3−
−4−
第2講
(1)中小企業会計と法制度(会社法・税法)
概要:中小企業会計に対する法制度(会社法および税法)の影響を解説する。
具体的なトピック:①中小企業の会計を規制する法律,②国際会計基準とその影響,
③中小企業会計の理論的前提(大企業と中小企業の企業属性の相違),④「記帳」の
重要性,⑤「確定決算主義」の維持。
(2)中小企業会計の理論的フレームワーク
概要:中小企業会計の理論的枠組みについて解説する。
具体的なトピック:①中小企業会計の理論的前提(大企業と中小企業の企業属性の相
違),②「記帳」の重要性,③「確定決算主義」の維持。
第Ⅱ部 「中小会計要領」の内容(総論)
第3講
「中小会計要領」(総論:その1)
概要:「中小会社要領」の総論1~総論5を解説する。
具体的なトピック:①目的,②本要領の利用が想定される会社,③企業会計基準・中
小指針の利用,④複数ある会計処理方法の取扱い,⑤各論で示していない会計処理等
の取扱い。
第4講
「中小会計要領」(総論:その2)
概要:「中小会社要領」の総論6~総論9を解説する。
具体的なトピック:①国際会計基準との関係,②本要領の改訂,③記帳の重要性,④
本要領の利用上の留意事項。
第Ⅲ部 「中小会計要領」の内容(各論)
第5講
「中小会計要領」(各論:その1)
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−5−
概要:「中小会計要領」の各論1~各論4を解説する。
具体的なトピック:①収益,費用の基本的な会計処理,②資産,負債の基本的な会計
処理,③金銭債権および金銭債務,④貸倒損失,貸倒引当金。
第6講
「中小会計要領」(各論:その2)
概要:「中小会計要領」の各論5~各論8を解説する。
具体的なトピック:①有価証券,②棚卸資産,③経過勘定,④固定資産。
第7講
「中小会計要領」(各論:その3)
概要:「中小会計要領」の各論9~各論11を解説する。
具体的なトピック:①繰延資産,②リース取引,③引当金。
第8講
「中小会計要領」(各論:その4)
概要:「中小会計要領」の各論12~各論14を解説する。
具体的なトピック:①外貨建取引等,②純資産,③注記。
第Ⅳ部 中小企業会計の課題と国際的動向
第9講
(1)会計制度の二元化と会計基準の複線化
概要:日本の会計制度の現状を解説し,中小企業会計制度のあり方を解説する。また,
計算書類の信頼性保証について,現行制度(「会計参与制度」および「書面添付制度」),
と将来的課題(会計調査人調査制度)について解説する。
具体的なトピック:①会計制度の二分化と会計基準の複線化,②中小会計要領の普
及・活用,③中小企業経営力強化支援法と中小会計要領。
(2)計算書類の信頼性保証
概要:日本の会計制度の現状を解説し,中小企業会計制度のあり方を解説する。また,
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計算書類の信頼性保証について,現行制度(「会計参与制度」および「書面添付制度」),
と将来的課題(会計調査人調査制度)について解説する。
具体的なトピック:①計算書類の信頼性保証の構図,②信頼性保証の現行制度,③中
小企業監査制度の概念フレームワーク。
第10講
中小企業会計の国際的動向
概要:中小企業会計に対する諸外国の対応について,特に、国際会計基準審議会
(IASB),英国,ドイツ,米国,中国,韓国などを採り上げ、それらの動向を解説する。
具体的なトピック:①「中小企業版 IFRS」公表の経緯,②「中小企業版 IFRS」の特
徴,③諸外国における中小企業会計の動向。
−6−
−3−
−7−
中小企業会計
ワークブック
―基本テキストとワークブック対応表―
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−8−
中小企業会計
基本テキストとワークブック対比表
基本テキスト
講
ワークブック
講義内容
講
義
義
部
数
1
講義内容
Ⅰ
章
1
項
中小企業会計の制
Ⅰ
本講の目的と課題
計 の 制 度
度化の必要性と歩
Ⅱ
中小企業会計の制度化の必
的・理論的基
み
中小企業会
数
2問
要性
礎
問題数
1社会的・経済的理由
2本質的理由
Ⅲ
わが国における中小企業会
計の制度化の歩み
Ⅳ
中小企業会計の淵源として
1問
の「中小企業簿記要領」
1「中小企業簿記要領」の目的
1
2「中小企業簿記要領」の一般
原則
Ⅴ
わが国で最初の中小企業会
計基準としての中小指針
1中小指針の目的
1問
2中小指針の構成
Ⅵ
新たな会計ルール(中小会
計要領)の基本方針と留意
事項
2
2
中小企業会計と法
Ⅰ
本講の目的と課題
制度(会社法・税
Ⅱ
3 つの制度会計
法)
Ⅲ
「一般に公正妥当な会計慣
1問
行」の理論的・制度的構図
Ⅳ
確定決算主義の意義
1確定決算主義の位置づけ(財
務会計と税務会計の関係)
2確定決算主義の意味
3確定決算主義の理論
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−5−
−9−
2
1問
基本テキスト
講
ワークブック
講義内容
講
義
義
部
数
3
講義内容
Ⅰ
章
3
項
中小企業会計の理
Ⅰ
本講の目的と課題
計 の 制 度
論的フレームワー
Ⅱ
中小企業会計の理論的基盤
的・理論的基
ク
中小企業会
数
-大企業と中小企業の属性
礎
の相違-
Ⅲ
2
問題数
1問
中小企業会計基準の編成ア
プローチ
4
Ⅱ
「中小会計
4
要領」の内容
Ⅳ
中小企業会計の理論的特質
「中小会計要領」
Ⅰ
本講の目的と課題
(総論:その 1)
Ⅱ
目
(総論)
1問
的
1計算書類等の作成と中小会
1問
計要領の目的
2中小会計要領の基本的な考
え方
Ⅲ
本要領の利用が想定される
会社
1中小会計要領の利用対象
2中小指針との関係
Ⅳ
3
企業会計基準・中小指針の
利用
Ⅴ
1問
複数ある会計処理方法の取
扱い
Ⅵ
各論で示していない会計処
理等の取扱い
1基本的な対応
2法人税法との親和性
5
5
「中小会計要領」
Ⅰ
本講の目的と課題
(総論:その2)
Ⅱ
国際会計基準との関係
1国際会計基準(IFRS)の影
響の構図
2国際会計モデルと日本型会
計モデル
−10−
−9−
−6−
4
1問
基本テキスト
講
ワークブック
講義内容
講
義
義
部
数
5
講義内容
Ⅱ
「中小会計
章
5
要領」の内容
項
「中小会計要領」
Ⅲ
本要領の改訂
(総論:その2)
Ⅳ
記帳の重要性
(総論)
数
問題数
1問
1中小企業における「記帳」の
位置づけ
2「適切な記帳」の内容
Ⅴ
本要領の利用上の留意事項
1本規定の意義
2真実性の原則
4
3資本取引と損益取引の区分
2問
の原則
4明瞭性の原則
5保守主義の原則
6単一性の原則
7重要性の原則
6
Ⅲ
「中小会計
6
要領」の内容
「中小会計要領」
Ⅰ
本講の目的と課題
(各論:その1)
Ⅱ
収益,費用の基本的な会計
(各論)
処理
1中小会計要領と中小指針の
2問
規定の比較
2中小会計要領と損益計算
3現金主義会計
4発生主義会計
Ⅲ
資産,負債の基本的な会計
処理
5
1中小会計要領と中小指針の
規定の比較
2資産・負債の概念
3資産・負債の分類
4資産・負債の測定
7
7
「中小会計要領」
Ⅰ
(各論:その2)
−11−
−10−
−7−
本講の目的と課題
2問
基本テキスト
講
ワークブック
講義内容
講
義
義
部
数
7
講義内容
Ⅲ
「中小会計
章
7
要領」の内容
項
「中小会計要領」
Ⅱ
(各論:その2)
数
問題数
金銭債権および金銭債務
1中小会計要領と中小指針の
(各論)
規定の比較
1問
2金銭債権
3金銭債務
4受取手形割引額および受取
手形裏書譲渡額の注記
Ⅲ
貸倒損失および貸倒引当金
1中小会計要領と中小指針の
5
規定の比較
2貸倒損失と貸倒引当金の意
1問
義
3取立不能見込額の定義と算
定方法
4貸倒引当金の処理方法
5貸倒引当金の表示方法
8
8
「中小会計要領」
Ⅰ
本講の目的と課題
(各論:その3)
Ⅱ
有価証券
1中小会計要領と中小指針の
1問
規定の比較
2有価証券の取得価額
3有価証券の分類と評価
4有価証券の減損処理
Ⅲ
棚卸資産
1 中小会計要領と中小指針
6
の規定の比較
2 棚卸資産の取得価額
3 棚卸資産の評価基準
4 棚卸資産の評価方法
5 棚卸資産の減損処理
−12−
−11−
−8−
1問
基本テキスト
講
ワークブック
講義内容
講
義
義
部
数
9
講義内容
Ⅲ
「中小会計
章
9
要領」の内容
項
「中小会計要領」
Ⅰ
本講の目的と課題
(各論:その4)
Ⅱ
経過勘定
(各論)
数
問題数
1中小会計要領と中小指針の
規定の比較
1問
2経過勘定の意義
3経過勘定と未決済項目
4経過勘定の表示
5重要性の原則
Ⅲ
固定資産
6
1中小会計要領と中小指針の
規定の比較
2固定資産の意義と分類
2問
3固定資産の取得価額と取得
原価
4減価償却
5固定資産の減損処理
10
10
「中小会計要領」
Ⅰ
本講の目的と課題
(各論:その5)
Ⅱ
繰延資産
1中小会計要領と中小指針の
1問
規定の比較
2繰延資産の意義
3繰延資産の内容と償却年数
4税法固有の繰延資産
Ⅲ
リース取引
1中小会計要領と中小指針の
規定の比較
2リース取引の意義
3会計処理
4リース取引の注記
11
11
「中小会計要領」
Ⅰ
(各論:その6)
−13−
−12−
−9−
本講の目的と課題
7
1問
基本テキスト
講
ワークブック
講義内容
講
義
義
部
数
11
講義内容
Ⅲ
「中小会計
章
11
要領」の内容
項
「中小会計要領」
Ⅱ
(各論:その6)
数
問題数
引当金
1中小会計要領と中小指針の
(各論)
規定の比較
2引当金の意義
3引当金の設定要件
7
2問
4企業会計原則上の引当金
5賞与引当金
6退職給付引当金
Ⅲ
外貨建取引等
1中小会計要領と中小指針の
規定の比較
1問
2外貨建取引の範囲
3外貨建取引の処理
4為替予約等
5法人税法上の処理
12
12
「中小会計要領」
Ⅰ
本講の目的と課題
(各論:その7)
Ⅱ
純資産
1中小会計要領と中小指針の
2問
規定の比較
2純資産の意義と区分
3株主資本の区分
8
4 自己株式
Ⅲ
注
記
1中小会計要領と中小指針の
規定の比較
2注記の意義
3個別注記表の注記事項
4中小会計要領が要請してい
る注記
5株主資本等変動計算書に関
する注記
−13−
−10−
−14−
3問
基本テキスト
講
ワークブック
講義内容
講
義
義
部
数
13
講義内容
Ⅳ
中小企業会
章
13
項
会計制度の二分化
計の課題と
と「中小会計要領」
国際的動向
の制度的定着化
Ⅰ
数
問題数
本講の目的と課題
1問
Ⅱ
会計制度の二分化と会計基
準の複線化
Ⅲ
中小会計要領の普及・活用
1問
1中小会計要領の実務的支援
2中小会計要領の教育的支援
Ⅳ
中小企業経営力強化支援法
と中小会計要領
1中小企業経営力強化支援
法の成立
9
1問
2適切な会計処理のステッ
プ
14
14
計算書類の信頼性
Ⅰ
本講の目的と課題
保証
Ⅱ
計算書類の信頼性保証の構
1問
図
Ⅲ
信頼性保証の現行制度
2問
1会計参与制度
2書面添付制度
Ⅳ
中小企業監査制度の概念的
1問
フレームワーク
15
15
中小企業会計の国
Ⅰ
本講の目的と課題
際的動3向
Ⅱ
「中小企業版 IFRS」公表
の経緯
Ⅲ
「中小企業版 IFRS」の特
徴
1「中小企業版 IFRS」の編成
方針
2「中小企業版 IFRS」の構成
3「中小企業版 IFRS」の簡素
化の特徴
−14−
−11−
−15−
10
1問
基本テキスト
講
ワークブック
講義内容
講
義
義
部
数
15
講義内容
Ⅳ
中小企業会
計の課題と
章
15
項
中小企業会計の国
Ⅳ
際的動向
数
問題数
諸外国における中小企業会
計の動向
国際的動向
1英国
2ドイツ
3フランス
10
2問
4米国
5中国
6韓国
45 問
合計
−15−
−12−
−16−
中小企業会計
ワークブック
― 問題集 ―
−16−
−13−
−17−
目
次
第1講
中小企業会計の制度的背景(問題1~4)
第2講
中小企業会計と法制度(会社法・税法)
中小企業会計の理論的フレームワーク(問題5~8)
第3講
「中小企業会計」(総論:その1)
(問題9~10)
第4講
「中小企業会計」(総論:その2)
(問題11~14)
第5講
「中小企業会計」(各論:その1)
(問題15~20)
第6講
「中小企業会計」(各論:その2)
(問題21~25)
第7講
「中小企業会計」(各論:その3)
(問題26~29)
第8講
「中小企業会計」(各論:その4)
(問題30~35)
第9講
会計制度の二分化と会計基準の複線化
計算書類の信頼性保証(問題36~42)
第10講
中小企業会計の国際的動向(問題43~45)
−17−
−14−
−18−
中小企業会計
― ワークブック ―
1
−18−
−15−
−19−
第1講
中小企業会計の制度的背景
問題1
2002 年6月に公表された「中小企業の会計に関する研究会報告書」に従い、中小企業会
計の制度化が必要とされる社会的・経済的理由に関する記述のうち,正しいものの組み合
わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.企業活動のグローバル化と国際会計基準(IFRS)の導入を背景として,わが国で
は,1997 年から 1999 年にかけて「大企業(上場企業)向け会計基準」に相当数
の新たな会計基準が導入されることになったため,中小企業にとっては,会計基
準の加重負担という問題を引き起こすこととなった。
イ.ネットワーク社会に対応して,法人税法上,「電磁的方法による計算書類の開示」
が可能となったため,中小企業の開示情報についても,その作成基準を明確にす
る必要性が生じることとなった。
ウ.今後,わが国でも,欧米社会のように,計算書類に関する争訟問題が増加するこ
とが予想される。今後予想される争訟社会に対応して,係争事件に対する会計専
門職の責任限定の画定手段が必要となってきた。
エ.国の法人税収入が,平成元年の 18 兆 9,333 億円をピークに減少傾向にある中,中
小企業に対して課税を強化する必要性が生じてきた。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 15 頁~16 頁】
「研究会報告書(2002)」に従えば,中小企業会計の制度化が必要とされる社会的・経
済的理由は,少なくとも,次の3点に要約できる。
(ア)
第1の理由は,
「会計基準の過重負担(accounting standards overload)」である。
企業活動のグローバル化と国際会計基準(IFRS)の導入を背景として,わが国では,
1997 年~1999 年にかけて相当数の新たな会計基準が導入されることとなった。しか
2
−19−
−16−
−20−
し,これらの会計基準は,主として「大企業(上場企業)向け会計基準」であり,経
理体制の整備された大企業にとっては適用可能であったとしても,中小企業にとって
は,当該会計基準をそのまま適用するには,過重な負担になってしまうという問題を
引き起こすこととなった。
(イ)
第2の理由は,
「電磁的方法による計算書類の開示」である。ネットワーク社会に
対応して,会社法上,「電磁的方法による記録と開示」が可能となった。そのため,
中小企業の開示情報についても,その作成基準を明確にする必要性が生じることとな
った。(会社法 939 条 1 項)
(ウ)
第3の理由は,
「争訟問題に対する立証責任の限界画定」である。今後,わが国で
も,欧米社会のように,計算書類に関する争訟問題が増加することが予想される。こ
のような争訟社会に対応して,係争事件に対する会計専門職の責任限定の画定手段が
必要となってきた。
イ:誤り(×「法人税法上」→○「会社法上」
)
エ:誤り(中小企業に対する法人税の課税強化は,中小企業会計を制度化する理由では
ない)
よって,正解は④となる。
問題2
大企業と中小企業の企業属性の相違に関する記述のうち,正しいものの組み合わせを選
択肢の中から1つ選びなさい。
3
−20−
−17−
−21−
ア.大企業では,
「所有と経営」の分離がみられるのに対し,中小企業では,それが未
分離(所有主=経営者)である。
イ.大企業では,内部統制機構が未整備であることが多いのに対し,中小企業では,
整備されている。
ウ.大企業では,ステークホルダーの範囲が広いのに対し,中小企業では,その範囲
が債権者や取引先に限定されている。
エ.大企業であるか中小企業であるかに関わらず,株式会社等の有限責任会社であれ
ばその企業属性に相違はない。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 16 頁】
大企業と中小企業では,その属性が次のように異なっている。
(ア) 大企業では,「所有と経営」の分離がみられるのに対し,中小企業では,それが未
分離(所有主=経営者)である。
(イ) 大企業では,内部統制機構が整備されているのに対し,中小企業では,それが未整
備である。
(ウ) 大企業では,ステークホルダーの範囲が広いのに対し,中小企業では,その範囲が
債権者(金融機関)や取引先に限定されている。
このような企業属性の相違は,結果的に,大企業と中小企業の「会計慣行」の相違をも
たらすことになる。そのため,中小企業の属性に見合った会計基準(中小企業会計基準)
を制度化する方が,大企業と同一の会計基準を適用するよりも,計算書類の社会的信頼性
を高めるとする認識が,中小企業会計が必要とされる本質的理由とされる。
株式会社には,大企業から中小企業まで様々な属性を持つ会社が存在する。
「有限責任会
社であればその企業属性に大きな相違はない。
」は誤りである。
イ:誤り(大企業と中小企業が逆)
エ:誤り(有限責任会社であっても,大企業と中小企業では企業属性に相違がある)
よって,正解は④となる。
4
−21−
−18−
−22−
問題3
1949 年に公表された「中小企業簿記要領」は中小企業会計の淵源と言える。「中小企業
簿記要領」の目的に関する記述のうち,正しいものの組み合わせを選択肢の中から 1 つ選
びなさい。
ア.企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告の提供に資すること。
イ.正確なる所得を自ら計算し国民経済の発展に資すること。
ウ.融資に際し事業経理の内容を明らかにすることによって中小企業金融の円滑化に
資すること。
エ.事業の財政状態及び経営成績を自ら知り,経理計数を通じて事業経営の合理化を
可能ならしめること。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 18 頁~19 頁】
戦後間もなく,わが国では,青色申告制度を導入する目的から,その前提として,「正
確な会計帳簿」の必要性が認識され,1949(昭和 24)年に,大企業向けには「企業会計原
則」
,中小企業向けには「中小企業簿記要領」が公表された。この目的は次の3点とされた。
(1) 正確なる所得を自ら計算し課税の合理化に資すること
(2) 融資に際し事業経理の内容を明らかにすることによって中小企業金融の円滑化に
資すること
(3) 事業の財政状態及び経営成績を自ら知り,経理計数を通じて事業経営の合理化を
可能ならしめること
上記の3つの目的は,
「企業会計原則」の設定目的と共通しており,
「課税の合理化」,
「金
融の円滑化」
,
「事業経営の合理化」が,当時の大企業と中小企業の双方にとって,わが国
5
−22−
−19−
−23−
経済の再建における重要な課題であり,中小企業に対しては,正確な会計帳簿の作成の基
礎となる複式簿記の普及・啓蒙が喫緊の課題であった。
「中小企業簿記要領」では,
「企業会計原則」と同様に,7つの一般原則が示されている。
「中小企業簿記要領」の一般原則の特徴を,
「企業会計原則」と比較して摘記すれば,次の
とおりである。
(ア)「中小企業簿記要領」の「簿記」の文言を「企業会計」に置き換えれば,「企業会計
原則」とほぼ同じ内容となる。
(イ)「中小企業簿記要領」では,「企業会計原則」にある「資本取引と損益取引の区分の
原則」と「単一性の原則」がない。これに対し,「企業会計原則」の一般原則ではな
いが,「損益計算書原則」一のAに示されている「収支的評価の原則」と「発生主義
の原則」が,一般原則として示されている。
(ウ)「中小企業簿記要領」では,
「企業会計原則」と異なり,第1原則が「真実性の原則」
ではなく,「正規の簿記の原則」となっている。これは「簿記要領」であることによ
るものであり,「真実性の原則」をはじめとする他の一般原則は,「正確な会計帳簿」
を作成するための一般原則として位置づけられている。
ア:誤り(記述は,企業会計原則の一般原則である「真実性の原則」に相当するもので
あり,「中小企業簿記要領」の目的に位置づけられるものではない)
イ:誤り(×「国民経済の発展」→○「課税の合理化」)
よって,正解は③となる。
問題4
「中小企業の会計に関する指針」(以下、中小指針という)に関する記述のうち,正し
いものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
6
−23−
−20−
−24−
ア.中小指針は,会社法 431 条の,
「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」の
1つとされている。
イ.中小指針は,中小企業が,計算書類を作成するに当たり,拠るべき会計のあり方
を示すものである。
ウ.中小指針は,会計参与が取締役と共同して計算書類を作成するに当たり,拠るべ
き会計のあり方を示すものである。
エ.中小指針は,4つの「総論」と 20 の「各論」から構成されており,各論の内容は,
わが国の企業会計原則,企業会計基準および会計制度委員会報告などがその基礎
となっている。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 19 頁~21 頁】
中小指針は,中小会計要領と並んで,会社法 431 条の,「一般に公正妥当と認められる
企業会計の慣行」の1つとされている。
中小指針は,4つの「総論」と 20 の「各論」から構成されており,各論の内容は,下
表のとおり,わが国の企業会計原則,企業会計基準および会計制度委員会報告などがその
基礎となっている。つまり,端的にいって,中小指針は,わが国の「大企業(上場企業)
向け会計基準」を簡素化し要約したものであるといってよい。そのことを裏付けるように,
中小指針は,企業会計基準の改正に併せる形で,その内容が毎年改訂されている。
内
容
基礎となる会計基準等
総
論
目
的
対
象
作成に当たっての指針
記載範囲および適用に当たっての留意事項
1 金銭債権
「金融商品に関する会計基準」
7
−24−
−21−
−25−
2 貸倒損失・貸倒引当金
「金融商品に関する会計基準」等
3 有価証券
「金融商品に関する会計基準」等
4 棚卸資産
「棚卸資産の評価に関する会計基準」
5 経過勘定
-
「固定資産の減損に係る会計基準」,「研究開発費等に
6 固定資産
係る会計基準」等
7 繰延資産
各
-
8 金銭債務
「金融商品に関する会計基準」
9 引当金
「役員賞与に関する会計基準」
退職給付債務・退職給付
論
10
「退職給付に係る会計基準」等
引当金
11 税金費用・金銭債務
12 税効果会計
-
「税効果会計に係る会計基準」等
「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」,
13 純資産
「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」
,「株主資本等変動計算書に関する会計基準」等
14 収益・費用の計上
「工事契約に関する会計基準」
15 リース取引
「リース取引に関する会計基準」
「外貨建取引等会計処理基準」,「金融商品に関する会
16 外貨建取引
計基準」等
組織再編の会計
「企業結合に係る会計基準」,「事業分離等に関する会
17
計基準」等
18
個別注記表
19
公告と貸借対照表および損益計算書並びに株主資本等変動計算書の例示
20
今後の検討事項(資産除去債務)
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,20 頁
8
−25−
−22−
−26−
イ.ウ.は,
「拠るべき会計のあり方」としているが,中小指針は,「拠ることが望まし
い」または「拠ることが適当な」会計処理のガイドラインであり,必ずしも,法的な強制
力を伴うものではない。
イ:誤り(×「拠るべき」→○「拠ることが望ましい」)
ウ:誤り(×「拠るべき」→○「拠ることが適当な」)
よって,正解は⑤となる。
9
−26−
−23−
−27−
第2講
中小企業会計と法制度(会社法・税法)
中小企業会計の理論的フレームワーク
問題5
株式会社を規制する3つの制度会計(
「金融商品取引法会計」
「会社法会計」「税法(法
人税法)会計」)に関する記述のうち,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選び
なさい。
ア.金融商品取引法の規制対象は,上場会社,または,有価証券の募集・売出しを行
った企業等,開示義務のある企業であり,
「内閣総理大臣が一般に公正妥当である
と認められるところ」
(金融商品取引法 193 条)に従って財務諸表を作成し,それ
を内閣総理大臣に提出しなければならない。
イ.会社法の規制対象は,すべての株式会社であり,
「一般に公正妥当と認められる企
業会計の基準」
(会社法 431 条)に従って計算書類を作成し,それを株主総会に提
出しなければならない。
ウ.税法(法人税)の規制対象は,内国法人および外国法人であり,
「一般に公正妥当
と認められる企業会計の慣行」(法人税法 22 条4項)に従って納税申告書を作成
し,税務署に提出する必要がある。
エ.課税所得の計算は,「確定した決算」(会社法上の企業利益)を基礎としており,
それに「申告調整」
(企業利益に加算または減算)を行うことによって,課税所得
が計算される「確定決算主義」が採用されている。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 24 頁~27 頁】
わが国の会計制度では,企業(株式会社)を規制する次の3つの法律に従って,3つの
会計領域(制度会計)が区別される。
①
金融商品取引法 - 金融商品取引法会計
10
−27−
−24−
−28−
②
会社法 - 会計法会計
③
税法(法人税法) - 税務会計(法人税法会計)
(1) 金融商品取引法の目的は,
「投資者の保護」にあり,金融商品取引法会計の計算課題
は「期間損益の比較性」(当期純利益の計算)にある。その規制対象は,有価証券を金
融商品取引所に上場している企業(上場会社)
,または,有価証券の募集・売出しを行
った企業等,開示義務のある企業(金商法開示会社)である。これらの企業は,金融商
品取引法上,「内閣総理大臣が一般に公正妥当であると認められるところに従って内閣
府令で定める用語、様式及び作成方法」
(金融商品取引法 193 条)に従って財務諸表を
作成し,それを内閣総理大臣に提出しなければならない。その場合,公認会計士(また
は監査法人)の監査を受ける必要がある。
(2) 会社法の目的は,従来は「債権者の保護」にあるとされたが,現在は「情報提供機能」
(分配可能額の計算)にあ
が重視され,会社法会計の計算課題は「剰余金の分配規制」
るとされる。その規制対象は,すべての株式会社であり,会社法上,「一般に公正妥当
と認められる企業会計の慣行」
(会社法 431 条)に従って計算書類を作成し,それを株
主総会に提出しなければならない。その場合,大会社(資本金5億円以上,または負債
総額 200 億円以上の株式会社)および会計監査人設置会社にあっては,公認会計士(ま
たは監査法人)の監査を受ける必要がある。
(3) 税法(法人税法)の目的は,
「課税の公平」にあり,税務会計(法人税法会計)の計
算課題は「経済的に処分力ある利益の計算」
(租税負担能力のある課税所得の計算)に
ある。税法(法人税法)の規制対象は内国法人および外国法人であり,税法上,「一般
に公正妥当と認められる会計処理の基準」(法人税法 22 条 4 項)に従って納税申告書を
作成し,税務署に提出する必要がある。課税所得の計算は,
「確定した決算」
(会社法上
の企業利益)を基礎としており,それに「申告調整」
(企業利益に加算または減算)を
行うことによって,課税所得が計算される「確定決算主義」が採用されている。
以上の説明の要点を図形化して示したのが,以下の図表である。この図表では,日本の
会計制度が,「一般に公正妥当な会計慣行」(企業の自発的な自己完結的利益計算)を基礎
に,3つの制度会計(法の目的を実現するための補完規制的利益計算)から構成されてい
ることを示している。
11
−28−
−25−
−29−
3つの制度会計と会計慣行
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,25 頁
このように,わが国の会計制度における「一般に公正妥当な会計慣行」の具体的内容は
ただ1つではなく,企業の属性に応じて複数のものがある。「一般に公正妥当な会計慣行」
の理論的・制度的構図を図示すると以下のとおりとなる。
「一般に公正妥当な会計慣行」の理論的・制度的構図
一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行
一般に公正妥当と認められる企業会計の基準
企業会計基準・
同適用指針
株式会社
企業会計原則・
連結財務諸表原則等
大会社(
金融商品取引法適用会社)
会社法の適用対象
金融商品取引法の適用対象
財務諸表等規則
中小指針
中小会計要領
3
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,26 頁
12
−29−
−26−
−30−
イ:誤り(×「企業会計の基準」→○「企業会計の慣行」)
ウ:誤り(×「企業会計の慣行」→○「会計処理の基準」)
よって,正解は⑤となる。
問題6
税法(法人税法)上採られている確定決算主義に関する記述のうち,正しいものの組み
合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.
「形式的な確定決算主義」とは,法人がその計算書類について株主総会の承認等を
経た後,その利益に基づいて納税申告書において申告調整を行うことを意味する。
イ.
「実質的な確定決算主義」とは,法人税の所得計算が,
「一般に公正妥当と認めら
れる企業会計の慣行」
(会社法 431 条)に対し,補完・規則的関係にあることを成
文で確認した規定であることを意味する。
ウ.
「損金経理要件」とは,例えば,減価償却費など確定した決算において損金経理し
た金額については,申告調整によってその額を増加ないし減少させることができ
ることをいう。
エ.
「申告調整」とは,会社の確定した決算による「当期純利益」の金額が法人税法に
よる「課税所得の金額」と一致するように,納税申告書で「加算」または「減算」
を行って,課税所得を計算する手続をいう。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 28 頁~30 頁】
「形式的な確定決算主義」とは,法人税法 74 条1項をその論拠として,法人がその計
算書類について株主総会の承認等を経た後,その利益に基づいて税務申告書において申告
調整を行うことを意味する。形式的な確定決算主義は,その手続的な面を強調して,確定
決算基準という語が用いられることもある。
13
−30−
−27−
−31−
「実質的な確定決算主義」とは,法人税法 22 条 4 項をその論拠とし,法人税の所得計
算が,
「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」(会社法 431 条)に対し,補完・規制
的関係にあることを成文で確認した規定であること(財務会計準拠主義)を意味する。
「損金経理要件」とは,例えば,減価償却費など確定した決算において損金経理した金
額については,申告調整によってその額を増加ないし減少させることができないことをい
う。ここで「損金経理」とは,法人がその確定した決算において費用または損失として経
理することを意味する(法人税法2条 25 号)。
法人税法上,確定決算主義が採られているのは,もともと制度会計が「一般に公正妥当
と認められる企業会計の慣行」(会社法 431 条)に対し,補完・規制的関係にあることを成
文で確認した規定と解すことができる。その意味では,会社法決算も「一般に公正妥当と
認められる企業会計の慣行」に対し補完規制的関係に立つという点で,税務会計と同じ性
格を持っている。それにもかかわらず,税法が確定決算主義に従い会社法上の確定決算に
基づき課税所得を計算する旨を積極的に打ち出しているのは,商人の計算領域においては,
会社法が基本法的働きを持っているという前提で,会社法上の計算書類に基づいて税法上
の課税所得計算を行うとする考え方に基づいている。
つまり,わが国の法人税法は,課税所得の計算については,まず「一般に公正妥当と認
められる企業会計の慣行」があり,それを補完規制するものとして会社法の会計規定があ
り,さらにその上に法人税法の計算規定がある,という意味で「会計の三重構造」となっ
ている。
ウ:誤り(×「増加ないし減少させることができる」→○「増加ないし減少させること
ができない」)
エ:誤り(当期純利益と課税所得を一致させるのではなく,当期純利益に「加算」また
は「減算」を行って,課税所得を計算する)
よって,正解は①となる。
問題7
中小企業会計基準の編成アプローチ(
「トップダウン・アプローチ」と「ボトムアップ・
アプローチ」)に関する記述のうち,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びな
さい。
14
−31−
−28−
−32−
ア.
「トップダウン・アプローチ」とは,大企業会計基準のうち中小企業に「最適な」
基準を選別する方式である。
イ.
「ボトムアップ・アプローチ」は,中小企業の属性を検討することから出発し,中
小企業に固有の会計基準を生成する方式である。
ウ.
「ボトムアップ・アプローチ」から見た場合,連結会計,税効果会計,退職給付会
計などは大企業に固有の例外的な会計処理である。
エ.
「中小企業の会計に関する指針」と「中小企業の会計に関する基本要領」は,とも
に中小企業の企業属性を重視した「ボトムアップ・アプローチ」で生成されてい
る。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 31 頁~34 頁】
「トップダウン・アプローチ」とは,大企業会計基準から出発し,その簡素化によって
中小企業会計基準を生成するアプローチをいう。これに対し,「ボトムアップ・アプロー
チ」とは,中小企業の属性を検討することから出発し,中小企業に固有の会計基準を生成
するアプローチをいう。これら2つのアプローチは,次の3点で相違する。
(ア) 編成方式について,「トップダウン・アプローチ」は,大企業会計基準のうち中小
「ボトムアップ・アプローチ」
企業に「適切な」基準を選別する方式であるのに対し,
は,中小企業に「最適な」基準を生成する方式である。
(イ) 編成の重点について,
「トップダウン・アプローチ」は,大企業会計基準との「一
貫性」を重視するのに対し,
「ボトムアップ・アプローチ」は「企業属性」を重視す
る。
(ウ) 例外処理について,
「トップダウン・アプローチ」は,中小企業に固有の会計処理(例
えば,簡便な会計処理や会計処理の免除)を例外的な会計処理とみるのに対し,
「ボト
ムアップ・アプローチ」は,大企業に固有の会計処理(例えば,連結会計,税効果会
計,退職給付会計など)を例外的な会計処理とみる考え方である。
「トップダウン・ア
15
−32−
−29−
−33−
プローチ」は,大企業会計基準から出発し,その簡素化によって中小企業会計を生成
するアプローチであり,あくまで「最適な」のは大企業会計基準であり,中小企業に
「適切な」処理方法(簡素化など)を選別する方式である。
中小指針は,
「会社の規模に関係なく,取引の経済実態が同じなら会計処理も同じになる
べきである」とし,大企業会計基準の適用を原則とし,例外的に,コスト・ベネフィット
の観点から,会計処理の簡素化や税法基準の適用が,一定の場合には認められるとしてい
る。よって,
「ボトムアップ・アプローチ」を指向する。一方,中小会計要領は,中小企業
の現在の会計慣行を要約したものであり「ボトムアップ・アプローチ」で生成されている。
以下の図表は,これらの2つのアプローチの相違を示したものである。
トップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチ
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,33 頁
ア:誤り(×「最適な」→○「適切な」)
エ:誤り(中小指針は「トップダウン・アプローチ」を指向しており「ボトムアップ・
アプローチ」ではない)
よって,正解は②となる。
問題8
16
−33−
−30−
−34−
中小企業会計の理論的特質に関する次の記述について,カッコの中に入る正しい組み合
わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
中小企業会計は,会計行為の3つの局面に即してその理論的構造の特徴を浮き彫りに
できる。中小企業の会計行為のインプット面では,(
では,(
された(
イ
エ
)主義を前提とした(
ウ
ア
)が要請され,プロセス面
)が要請され,アウトプット面では,限定
)が要請される。
選択肢
①
ア.確定決算
②
ア.記帳
③
ア.会計処理
④
ア.記帳
⑤
ア.確定決算
イ.ディスクロージャー
イ.確定決算
ウ.記帳
エ.会計処理
ウ.ディスクロージャー
エ.会計処理
イ.ディスクロージャー
イ.確定決算
イ.記帳
ウ.確定決算
エ.会計処理
ウ.会計処理
エ.ディスクロージャー
ウ.会計処理
エ.ディスクロージャー
解説と解答【テキスト 34 頁~36 頁】
中小企業会計の理論的構図は,以下の図表のように示すことができる。
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,34 頁
17
−34−
−31−
−35−
会計行為の「インプット」面では,「記帳」が要請される。記帳は会計行為の出発点で
あるとともに,不正が最も起こりやすい局面でもある。よって,記帳は,
「すべての取引に
つき,正規の簿記の原則にしたがって行い,適時に,整然かつ明瞭に,正確かつ網羅的」
に行うことが要請される。
会計行為の「プロセス」面では,「確定決算主義」を前提とした「会計処理」が要請さ
れる。中小企業では,会計行為に多くのコストを負担することはできないことから,税法
基準をベースとした計算書類の作成が合理的である。この要請は,コスト・効果的なアプ
ローチによる中小企業の負担軽減を狙いとするものである
会計行為の「アウトプット」面では,
「限定されたディスクロージャー」が要請される。
大企業の情報開示は,企業の財産および損益の状況を投資情報として開示することが課題
となる。つまり,情報の受け手は多数の広範囲な利害関係者であり,その投資意思決定に
対する有用な情報を提供することが課題となる。これに対し,中小企業の情報開示は,
「債
権者,取引先にとって有用な情報を表すこと」が課題とされる。情報の受け手は債権者や
取引先という限定された利害関係者であり,それぞれの利用者にとって,次のような役立
ちが期待されている。
(ア) 債権者にとっては,中小企業の信用リスクの判断に役立つこと
(イ) 取引先にとっては,中小企業の事前調査の負担(取引コスト)を軽減し,その取引
リスクの判断に役立つこと
よって,正解は④となる。
18
−35−
−32−
−36−
第3講
「中小企業会計」(総論:その1)
問題9
中小会計要領の基本的な考え方に関連する次の記述のうち,正しいものの組み合わせを
選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.中小会計要領は,
「中小企業の経営者が活用しようと思えるよう,理解しやすく,
自社の経営状況の把握に役立つ会計」である必要がある。
イ.中小会計要領は,
「中小企業の投資者への意思決定に資する会計」である必要があ
る。
ウ.中小会計要領は,
「中小企業の実務における会計慣行を十分考慮し,税制との調和
を図るため,法人税法に準拠した会計」である必要がある。
エ.中小会計要領は,
「計算書類等の作成負担は最小限に留め,中小企業に過重な負担
を課さない会計」である必要がある。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 37 頁~39 頁】
「中小会計要領」の目的について,
「総論1」は以下のとおりとしている。
19
−36−
−33−
−37−
1. 目的
(1) 「中小企業の会計に関する基本要領」
(以下「本要領」という。)は,中小企業の多
様な実態に配慮し,その成長に資するため,中小企業が会社法上の計算書類等を作成
する際に,参照するための会計処理や注記等を示すものである。
(2) 本要領は,計算書類等の開示先や経理体制等の観点から,「一定の水準を保ったも
の」とされている「中小企業の会計に関する指針」
(以下「中小指針」という。)と比
べて簡便な会計処理をすることが適当と考えられる中小企業を対象に,その実態に即
した会計処理のあり方を取りまとめるべきとの意見を踏まえ,以下の考えに立って作
成されたものである。
・中小企業の経営者が活用しようと思えるよう,理解しやすく,自社の経営状況の把握
に役立つ会計
・中小企業の利害関係者(金融機関,取引先,株主等)への情報提供に資する会計
・中小企業の実務における会計慣行を十分考慮し,会計と税制の調和を図った上で,会
社計算規則に準拠した会計
・計算書類等の作成負担は最小限に留め,中小企業に過重な負担を課さない会計
「経営状況の把握に役立つ会計」とは,中小会計要領が中小企業の利害関係者(債権者
や取引先など)に対する役立ちとともに,中小企業の経営者自身に役立つものでなければ
ならないことをいう。
「利害関係者への情報提供に資する会計」とは,中小企業では,計算書類の開示先は,
債権者である金融機関,取引先や株主,従業員などに限定されていることから,中小会計
要領はそのような限定された利用者に役立つ会計ルールである必要があることをいう。
「税制と調和し会社計算規則に準拠した会計」とは,多くの中小企業では,確定決算主
義に基づく税務申告が計算書類作成の目的の大きな割合を占めていることから,中小会計
要領は,税法基準の適用を尊重することを要請している。しかし,中小会計要領は,会社
法上の計算書類の作成に関する会計ルールを明文化したものであることから,会社計算規
則を逸脱することは許されない。
「中小企業に過重な負担を課さない会計」とは,中小企業の会計ルールの策定にあたっ
ては,コスト・ベネフィットを考量する必要があることをいう。多くの中小企業は経理担
20
−37−
−34−
−38−
当者の人数が少なく,経営者や従業員の会計に関する知識も十分ではないため,中小会計
要領は,このような中小企業の実情を考慮したうえで,中小企業の経営実態を明らかにす
るために必要最低限の会計ルールを定めたものである。
イ:誤り(×「投資者」→○「債権者や取引先」,×「意思決定」→○「情報提供」)
ウ:誤り(×「図るため」→○「図った上で」
,×「法人税法」→○「会社計算規則」
)
よって,正解は⑤となる。
問題 10
中小会計要領の「総論」に関する記述のうち,正しいものの組み合わせを選択肢の中か
ら1つ選びなさい。
ア.中小会計要領の利用が想定されている会社は,金融商品取引法の規制の対象会社お
よび会社法上の会計監査人設置会社を除く,株式会社である。
イ.中小会計要領の利用が想定されている会社であっても,企業会計基準や中小指針に
基づいて計算書類等を作成することは可能である。
ウ.会計参与設置会社が計算書類を作成する際には,中小指針に拠らなければならない。
エ.会計処理の方法は,毎期継続して同じ方法を適用する必要があるが,それを変更し
た場合は,
「変更した旨」と「影響の内容」の2つの事項を注記すればよい。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 39 頁~42 頁】
ア.の中小会計要領の利用が想定されている会社,および,ウ.の会計参与設置会社の
計算書類について,「総論2」は以下のとおりとしている。
21
−38−
−35−
−39−
2. 本要領の利用が想定される会社
(1) 本要領の利用は、以下を除く株式会社が想定される。
・ 金融商品取引法の規制の適用対象会社
・ 会社法上の会計監査人設置会社
(注)中小指針では、「とりわけ、会計参与設置会社が計算書類を作成する際には、本
指針に拠ることが適当である。」とされている。
(2) 特例有限会社、合名会社、合資会社又は合同会社についても、本要領を利用するこ
とができる。
中小指針では,「とりわけ,会計参与設置会社が計算書類を作成する際には,本指針に
拠ることが適当である。」としているが,会計参与設置会社が,中小指針以外の「一般に
公正妥当と認められる企業会計の慣行」に拠ることを妨げているわけではないため,ウ.
は誤りである。
イ.の企業会計基準や中小指針の利用について,「総論3」と「総論5」は,以下のと
おりとしている。
3. 企業会計基準、中小指針の利用
本要領の利用が想定される会社において、金融商品取引法における一般に公正妥当と
認められる企業会計の基準(以下「企業会計基準」という。
)や中小指針に基づいて計
算書類等を作成することを妨げない。
5. 各論で示していない会計処理等の取扱い
本要領で示していない会計処理の方法が必要になった場合には、企業の実態等に応じ
て、企業会計基準、中小指針、法人税法で定める処理のうち会計上適当と認められる処
理、その他一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行の中から選択して適用する。
エ.の会計処理の変更について,「総論4」は,以下のとおりとしている。
22
−39−
−36−
−40−
4. 複数ある会計処理方法の取扱い
(1) 本要領により複数の会計処理の方法が認められている場合には、企業の実態等に応
じて、適切な会計処理の方法を選択して適用する。
(2) 会計処理の方法は,毎期継続して同じ方法を適用する必要があり,これを変更する
に当たっては,合理的な理由を必要とし,変更した旨,その理由及び影響の内容を注
記する。
これは,企業会計原則上の「継続性の原則」の適用を中小企業会計に要請するものであ
る。変更するに当たっては,「変更した旨」「影響の内容」だけでなく,「変更の理由」も
注記しなければならない。
ウ:誤り(×「拠らなければならない」→○「拠ることが適当とされている」)
エ:誤り(
「変更の理由」も注記しなければならない)
よって,正解は①となる。
23
−40−
−37−
−41−
第4講
「中小企業会計」(総論:その2)
問題 11
中小会計要領の「総論」に関する記述のうち,正しいものの組み合わせを選択肢の中か
ら1つ選びなさい。
ア.中小会計要領で示していない会計処理の方法が必要となった場合には,企業の実態
等に応じて,企業会計基準,中小指針,法人税法で定める処理のうち会計上適当と
認められる処理,その他一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行の中から選択
して適用する。
イ.中小会計要領は,中小企業の経済活動のグローバル化を勘案して,可能な限り国際
会計基準を反映させる必要がある。
ウ.中小会計要領は,中小企業の会計慣行の状況等を勘案し,必要と判断される場合に,
改訂を行う。
エ.記帳は,すべての取引につき,真実性の原則に従って行い,適時に,整然かつ明瞭
に,正確かつ網羅的に会計帳簿を作成しなければならない。
選択肢
① アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 44 頁~47 頁】
ア.の中小会計要領で示していない会計処理の方法について,
「総論5」は,以下のとお
りとしている。
5. 各論で示していない会計処理等の取扱い
本要領で示していない会計処理の方法が必要になった場合には、企業の実態等に応じ
て、企業会計基準、中小指針、法人税法で定める処理のうち会計上適当と認められる処
理、その他一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行の中から選択して適用する。
24
−41−
−38−
−42−
イ.の国際会計基準の反映について,「総論6」は,以下のとおりとしている。
6. 国際会計基準との関係
本要領は,安定的に継続利用可能なものとする観点から,国際会計基準の影響を受け
ないものとする。
国際会計基準は,①企業集団に係る「連結財務諸表」を主要財務諸表とし,②フロー面
では,
「税効果会計」,③ストック面では,
「時価会計」がそれを支える仕組みとして特徴づ
けられる。中小企業は会計行為に多くのコストを負担することができないため,コスト・
ベネフィットの観点からも,
「確定決算主義」が効果的な方法である。中小会計要領は「時
価会計」ではなく「原則として取得原価での計上」と「確定決算主義」を採用しており,
かつ「国際会計基準の影響を受けないものとする」としている。
ウ.の中小会計要領の改訂について,「総論7」は,以下のとおりとしている。
7. 本要領の改訂
本要領は、中小企業の会計慣行の状況等を勘案し、必要と判断される場合に、改訂を
行う。
「中小企業の会計慣行の状況等を勘案し,必要と判断される場合に,改訂を行う。」と
しているが,改訂が必要と判断されるような会計慣行等の状況変化がない限り,改訂はし
ないと読むことができる。
エ.は「真実性の原則」は間違いであり,「正規の簿記の原則」が正しい。
よって,正解は④となる。
問題 12
中小会計要領の「総論8」は以下のとおり「記帳の重要性」を述べている。
25
−42−
−39−
−43−
8. 記帳の重要性
本要領の利用にあたっては,適切な記帳が前提とされている。経営者が自社の経営状
況を適切に把握するために記帳が重要である。記帳は,すべての取引につき,正規の簿
記の原則に従って行い,適時に,整然かつ明瞭に,正確かつ網羅的に会計帳簿を作成し
なければならない。
記帳の重要性に関する記述のうち,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選び
なさい。
ア.
「適時性」とは「通常の期間内に」と同義であり,その意味内容は,
「現金取引では,
一般的に証拠となる外部資料の網羅性に欠けるため,記帳する側がその現金取引の
真実性を証明する工夫が必要である。」と判断でき、使用取引・振替取引とは関連
しない。
イ.
「整然性」とは,
「記帳に当たって,(ア)正確な帳簿を備え,(イ)適切な勘定計画に基
づき設けられた勘定に,(ウ)取引を発生順で,(エ)複式簿記の原則に従って組織的に
記録するとともに,(オ)記録間の関連が跡づけられるような整然かつ秩序だった記
録が保持できる仕組みがとられなければならない」という要請を意味する。
ウ.
「明瞭性」とは,識別可能性,つまり取引の性格,金額などが容易に識別できる記
帳の状態を意味する。
エ.
「正確性」とは,「複式簿記の原則に基づいてその計算が正確でなければならない」
という要請を意味する。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 47 頁~49 頁】
中小会計要領は,企業会計原則をそのフレームワークに採用している。企業会計原則に
よれば,会計の技術的・内容的特質を形作るのが「正規の簿記の原則」である。すなわち,
会計行為の「インプット」段階である「記帳」が形式的に正規に行われ,適切なプロセス
26
−43−
−40−
−44−
を通過すれば「アウトプット」段階である「会計数値」
(計算書類)に高い信頼性が与え
られることになる。
2005(平成 17)年の商法改正および会社法の創設によって,記帳の条件が明文化された。
これを受け,中小会計要領は,「適切な記帳」の要件として,
「適時性」,
「整然性」,
「明瞭
性」
,「正確性」および「網羅性」を掲げ,商法および会社法が求める「適時性と正確性」
に加えて,
「整然性」,
「明瞭性」,
「網羅性」を求めている。
記帳の「適時性」とは「通常の期間内に」と同義である。現金取引では,一般的に証拠
となる外部資料の網羅性に欠けるため,記帳する側がその現金取引の真実性を証明する工
夫が必要である。信用取引・振替取引でも,
「通常の期間内」に記帳されなければならない。
ア.は,現金取引については正しいが,信用取引や振替取引においても「通常の期間内に」
記帳されなければならないため誤りである。
記帳の「整然性」とは,記帳に当たって,(ア)正確な帳簿を備え,(イ)適切な勘定計画に
基づき設けられた勘定に,(ウ)取引を発生順で,(エ)複式簿記の原則に従って組織的に記録
するとともに,(オ)記録間の関連が跡づけられるような整然かつ秩序だった記録が保持で
きる仕組みがとられなければならないことをいう。
記帳の「明瞭性」とは,識別可能性,つまり取引の性格,金額などが容易に識別できる
記帳の状態を意味する。
記帳の「正確性」とは,記帳が「事実を歪めることのない」真実なものでなければなら
ず,複式簿記の原則に基づいてその計算が正確でなければならないことをいう。エ.は,
計算の正確性の要請を述べているが,計算以前に,記帳が「事実を歪めることのない」真
実なものでなければならないため誤りである。
記帳の「網羅性」とは,すべての取引事実を証拠書類に基づき「あますところなく」網
羅的に記録しなければならないことをいう。そのためには,(ア)記帳されるべき取引の範囲
については,「すべての取引」を記載しなければならないこと,(イ)記帳されるべき個々の
取引内容については,
「証拠なくして記帳なし」の原則を厳守したうえで,取引の評価と経
過に関する「すべての情報をあますところなく」記載しなければならないことをいう。
ア:誤り(現金取引のみならず,信用取引や振替取引においても「通常の期間内に」記
帳されなければならない)
エ:誤り(「正確性」とは,記帳が「事実を歪めることのない」真実なものでなければ
ならず,複式簿記の原則に基づいてその計算が正確でなければならないこと
27
−44−
−41−
−45−
をいう)
よって,正解は②となる。
問題 13
中小会計要領の「総論9」に関する記述のうち,正しいものの組み合わせを選択肢の中
から1つ選びなさい。
ア.
「真実性の原則」における「真実」とは,1つの会計事実について唯一の結果しか
ないという「絶対的真実」を意味する。
イ.
「資本取引と損益取引の区分の原則」では,
「資本取引」と「損益取引」,および「資
本剰余金」と「利益剰余金」の区別が要求される。
ウ.
「保守主義の原則」は,
「企業の財政に不利な影響を及ぼす場合」には,「適当に健
全な会計処理」を要請する原則である。
エ.
「単一性の原則」は,計算書類の作成目的が異なる場合でも,計算書類の形式は単
一であることを要請する原則である。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 49 頁~53 頁】
「総論9」は以下のとおりである。
28
−45−
−42−
−46−
9. 本要領の利用上の留意事項
本要領の利用にあたっては,上記1~8とともに以下の考え方にも留意する必要があ
る。
① 企業会計は,企業の財政状態及び経営成績に関して,真実な報告を提供するもので
なければならない。(真実性の原則)
② 資本取引と損益取引は明瞭に区別しなければならない。
(資本取引と損益取引の区分
の原則)
③ 企業会計は,財務諸表によって,利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し,
企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。(明瞭性の原則)
④ 企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には,これに備えて適当に健全
な会計処理をしなければならない。
(保守主義の原則)
⑤ 株主総会提出のため,信用目的のため,租税目的のため等種々の目的のために異な
る形式の財務諸表を作成する必要がある場合,それらの内容は,信頼しうる会計記録
に基づいて作成されたものであって,政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめ
てはならない。
(単一性の原則)
⑥ 企業会計の目的は,企業の財務内容を明らかにし,企業の経営状況に関する利害関
係者の判断を誤らせないようにすることにある。このため,重要性の乏しいものにつ
いては,本来の会計処理によらないで,他の簡便な方法により処理することも認めら
れる。(重要性の原則)
「総論9」の考え方は,企業会計原則の一般原則および同「注解」に規定される「重
要性の原則」を加えたものである。ただし,一般原則のうち,
「継続性の原則」は,
「総論
4」において,また,
「正規の簿記の原則」は「総論8」において,その考え方が示され
ている。
「真実性の原則」は,企業会計の最高規範とされ,企業会計原則における他のすべて
の一般原則,損益計算書原則および貸借対照表原則の遵守を要請する原則とされる。この
原則における「真実」とは,1つの会計事実について唯一の結果しかないという「絶対的
真実」ではなく,「相対的真実」を意味する。企業会計が「相対的真実性」を主張せざる
を得ない理由は,「真実性は,その時々の社会的・経済的意味状況における会計目的観に
29
−46−
−43−
−47−
依存しながら相対的に変化する概念であること」および「企業会計は,
(ア)期間孫的計算
は本質的に暫定計算であること,(イ)複数の会計処理の原則および手続が容認されている
こと,(ウ)慣習と判断が介入することなどにより,唯一の絶対的な会計数値を算出できな
いこと」とされる。ア.は,
「絶対的真実」としているため誤りとなる。
「資本取引と損益取引の区分の原則」では,
「資本取引」と「損益取引」の区分,およ
び「資本剰余金」と「利益剰余金」の区別が要求される。「資本取引」とは,資本自体の
直接的変動に関する取引をいい,自己資本それ自体の増減変化と自己資本内部での構成変
化を内容とする。これに対し,「損益取引」とは,資本の運用に関する取引をいい,資産
の利用または負債の処理に基づく自己資本の増減変化を内容とする。
「資本剰余金」とは,
資本取引から生じた剰余金をいい,具体的には,払込剰余金(株式払込剰余金,減資差益,
合併差益)
,贈与剰余金(国庫補助金,工事負担金,債務免除益),評価替剰余金(固定資
産評価差益,保険差益)をいう。これに対し,
「利益剰余金」とは,損益取引から生じた
剰余金,つまり,利益の留保額をいい,具体的には,処分済利益(利益準備金,任意積立
金)
,および未処分の利益(繰越利益剰余金)をいう。
「保守主義の原則」は,
「企業の財政に不利な影響を及ぼす場合」には,
「適当に健全
な会計処理」を要請する原則である。この原則でいう「企業の財政に不利な影響を及ぼす
可能性」とは,企業を取りまく環境の変化により,当該企業に「予測される将来の財務的
な危険」をいい,また,
「適当に健全な会計処理」とは,予測される将来の危険に備えて,
「慎重な判断に基づく会計処理」を行うことをいう。つまり,将来の危険が予測される場
合,その危険から企業を守るため,企業財政の安全性を図る会計処理が要請される。かか
る要請は,一般に,
「予想の利益の計上を禁止し,予想の損失の計上を促進する会計処理」
として具体化されるが,形式的には費用処理によりながら,実質的には利益留保となるよ
うな「過度に保守的な会計処理」は真実性の原則に反するものとして否定される。
「単一性の原則」は,
「実質一元・形式多元」と称され,計算書類の作成目的に応じて
形式の異なる計算書類を作成する必要があるとしても,
各計算書類の実質的な内容は信頼
できる正確な会計帳簿に基づいている必要があることを要請するものである。企業は,法
令や利害関係者の要請により,種々の計算書類を作成することがあり,これらの作成目的
は必ずしも同じではない。例えば,株主総会提出のためであれば,分配可能額の算定が主
たる目的となり,また,資金調達の目的のためであれば,支払能力の評価に重点がおかれ
る。そのため,信頼できる会計帳簿に基づいて作成された計算書類であれば,計算書類の
30
−47−
−44−
−48−
形式が相違することは容認されることになる。エ.は「計算書類の作成目的が異なる場合
でも,計算書類の形式は単一であることを要請する原則」としており,誤りとなる。
ア:誤り(この原則における「真実」とは,1つの会計事実について唯一の結果しかな
いという「絶対的真実」ではなく,
「相対的真実」を意味する)
エ:誤り(「単一性の原則」は,計算書類の作成目的に応じて形式の異なる計算書類を作
成する必要があるとしても,各計算書類の実質的な内容は信頼できる正確な
会計帳簿に基づいている必要があることを要請するものである)
よって,正解は②となる。
問題 14
中小会計要領の「総論9」にある「明瞭性の原則」に関する記述のうち,正しいものの
組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.明瞭性の原則は,
「実質的明瞭性」
「形式的明瞭性」の2つの意味を有している。
「実
質的明瞭性」とは,計算書類に表示された項目や金額がどのような会計処理の原
則・手続に準拠して決定されたものであるかを注記によって開示することをいう。
イ.
「形式的明瞭性」とは,計算書類の様式,科目名,配列の順序に関して詳細に記載
することをいう。
ウ.引当金の計上基準を注記によって開示することは,
「形式的明瞭性」の意味を持つ。
エ.損益計算書を発生源選別分類によって科目分類することは,
「形式的明瞭性」の意
味を持つ。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 51 頁~52 頁】
明瞭性の原則は,「実質的明瞭性(会計方針等の開示)」「形式的明瞭性(明瞭表示の
原則)」の2つの意味を有している。
31
−48−
−45−
−49−
「実質的明瞭性」とは,計算書類に表示された項目や金額がどのような会計処理の原則・
手続に準拠して決定されたものであるかを注記によって開示することをいう。中小会計要
領では,重要な会計方針に係る事項に関する注記について,次の事項を例示している。
(1) 資産の評価基準および評価方法(①有価証券の評価基準および評価方法,②棚卸資
産の評価基準および評価方法)
(2) 固定資産の減価償却の方法(①有形固定資産,②無形固定資産)
(3) 引当金の計上基準(①貸倒引当金,②賞与引当金,③退職給付引当金)
(4) その他計算書類作成のための基本となる重要な事項(①リース取引の処理方法,②
消費税等の会計処理)
また,「形式的明瞭性」とは,計算書類の様式,科目名,配列の順序等の表示方法につ
いて,理解しやすい方法を採用すべきであることをいう。明瞭表示に関する具体的な基準
等を図表で示すと以下のとおりとなる。
明瞭表示の原則
貸借対照表
損益計算書
①
営業循環基準
①
発生源泉別分類
②
1年基準
②
対応表示
①
流動性配列法
①
区分計算表示
②
固定性配列法
(1) 科目分類
(2) 科目配列
①
勘定式
②
報告式
(3) 報告様式
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,52 頁
イ:誤り(×「詳細に記載すること」→○「表示方法について,理解しやすい方法を採
用すべきであること」
)
ウ:誤り(×「形式的明瞭性」→○「実質的明瞭性」)
よって,正解は⑤となる。
32
−49−
−46−
−50−
第5講
「中小企業会計」(各論:その1)
問題 15
収益・費用の基本的な会計処理に関する次の記述について,中小会計要領に照らして,
カッコの中に入る正しい組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
中小会計要領では,収益は,原則として,(
則として,
(
イ
ア
)主義の原則により,費用は,原
)主義の原則により計上し,収益と費用を(
ウ
)させて期間損
益を計算する。
選択肢
①
ア.現金
イ.実現
ウ.調整
②
ア.発生
イ.現金
ウ.対応
③
ア.実現
イ.発生
ウ.対応
④
ア.発生
イ.実現
ウ.対応
⑤
ア.実現
イ.発生
ウ.調整
解説と解答【テキスト 54 頁~57 頁】
収益,費用の基本的な会計処理について,「各論1」は,以下のとおりとしている。
1. 収益、費用の基本的な会計処理
(1) 収益は,原則として,製品,商品の販売又はサービスの提供を行い,かつ,これに
対する現金及び預金,売掛金,受取手形等を取得した時に計上する。
(2) 費用は,原則として,費用の発生原因となる取引が発生した時又はサービスの提供
を受けた時に計上する。
(3) 収益とこれに関連する費用は,両者を対応させて期間損益を計算する。
(4) 収益及び費用は,原則として,総額で計上し,収益の項目と費用の項目とを直接に
相殺することによってその全部又は一部を損益計算書から除去してはならない。
33
−50−
−47−
−51−
原則として,収益は「実現主義の原則」
,費用は「発生主義の原則」で認識する。
「実現」
」の2つの要
とは,
「財貨の引渡または役務の提供」と「対価の成立(貨幣性資産の取得)
件を充足することをいう。「発生」とは,収益・費用の計上を,現金収支の有無とは無関
係に,発生の事実(経済価値変動の事実)に基づいて行うことをいう。
期間損益計算が適正であるためには,収益と費用の合理的な対応が達成される必要があ
る。つまり,成果としての収益と努力としての費用の対応である。これを要請するのが「費
用収益対応の原則」である。
よって,正解は③となる。
問題 16
次の仕訳のうち,発生主義会計として正しいものの組み合わせを選択肢の中から 1 つ選
びなさい。
ア.後日振込で商品・サービスを提供した際に,「売掛金/売上」の仕訳を起こした。
イ.現金で商品・サービスを提供した際に,「現金/売上」の仕訳を起こした。
ウ.期末に,来期納品される仕入商品を銀行振込で発注し,
「仕入/預金」の仕訳を起
こした。
エ.コンサルタントが,翌月行う研修の講師依頼を受けた日に,
「売掛金/売上」の仕
訳を起こした。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 54 頁~57 頁】
発生主義会計の骨格を形作っている計算原則が,
「実現主義の原則」
,
「発生主義の原則」
および「費用収益対応の原則」である。
34
−51−
−48−
−52−
企業会計原則では,「未実現利益は,原則として,当期の損益計算に計上してはならな
い」
(「損益計算書原則」一のA)として,収益の期間帰属原則として「実現主義の原則」
を規定している。ここで「実現」とは,
「財貨の引渡または役務の提供」と「対価の成立(貨
幣性資産の取得)」の2つの要件を充足することをいう。
「実現」に関する会計上の証拠は,
財貨または役務が外部に販売されたという事実に求められるので,これを特に
「販売基準」
という。
「販売」とは,財貨(商品・製品)についていえば,発送または「引渡」の事実を
いうのが一般的であることから,
「引渡基準」ともいわれる。つまり,
「引渡=販売=実現」
という事実に基づき,収益の期間帰属が認識される。なお,収益の測定は,収入額(収入
基準)に基づいて計上される。ア.は,
「財貨の引渡または役務の提供」と「対価の成立(貨
幣性資産の取得)」を満たしている。イ.は,商品・サービスを提供した際に,対価として
現金を受け取っていれば,この2つの要件を満たしている。エ.は,
「翌月行う研修の講師
依頼を受けた」だけであり,
「財貨の引渡または役務の提供」は,実際に研修を行った時点
となる。
企業会計原則では,
「すべての費用および収益は,・・・・,その発生した期間に正しく割当
てられるように処理しなければならない。」
(「損益計算書原則」一のA)として,収益・費
用の第一次的な期間帰属原則として「発生主義の原則」を規定している。ここで,「発生」
とは,収益・費用の計上を,現金収支の有無とは無関係に,発生の事実(経済価値変動の
事実)に基づいて行うことをいう。しかし,既に指摘したように,収益の認識については,
その後,
「実現主義の原則」が適用されることになる。なお,費用の測定は,支出額(支出
基準)に基づいて計上される。
期間損益計算が適正であるためには,収益と費用の合理的な対応が達成される必要があ
る。つまり,成果としての収益と努力としての費用の対応である。これを要請するのが「費
用収益対応の原則」である。ここで「対応」には,
「個別的対応」と「期間的対応」の2つ
の形態がある。
「個別的対応」は,ある特定の生産物を媒介とする対応であり,商品・製品の売上高と
売上原価の対応がこれに該当する。商品・製品の売上収益は,当該商品・製品を販売する
ことによって実現し,その取得原価(売上原価)と因果関係的に関連づけることができる。
このように,収益と費用が特定の生産物を媒介として,直接的・因果関係的に関連づけら
れることを個別的対応という。
35
−52−
−49−
−53−
これに対し,
「期間的対応」は,会計期間を媒介とする対応であり,売上高と販売費及び
一般管理費,また営業外費用の対応がこれに該当する。販売費及び一般管理費,また営業
外費用は売上高獲得のための犠牲を表わすが,売上高との間に直接的・個別的な因果関係
を識別することが困難であることから,当該期間の発生額が売上高と全体的に対応してい
ると解さざるをえない。このように,収益と費用が会計期間を媒介として,間接的・総括
的に関連づけられることを期間的対応という。なお,ウ.は,「来期納品される仕入商品」
であり,来期販売する商品の売上原価である。よって銀行振り込みした代金は,今期にお
いては前払金として処理すべきである。
ウ:誤り(×「仕入/預金」→○「前払金/預金」)
エ:誤り(この時点では仕訳は起きない)
よって,正解は①となる。
問題 17
資産・負債の基本的な会計処理に関する次の記述について,中小会計要領に照らして,
正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.資産は,原則として,時価で計上する。
イ.負債のうち,債務は原則として,債務額で計上する。
ウ.1年以内に費用となる前払費用,1年以内に回収される未収金や立替金,前払金・
未収収益などは流動資産に分類される。
エ.中小会計要領では,資産と負債の認識測定は,収益と費用の認識測定から規制を受
けない。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 57 頁~60 頁】
資産,負債の基本的な会計処理について,「各論2」は,以下のとおりとしている。
36
−53−
−50−
−54−
2.資産、負債の基本的な会計処理
(1) 資産は,原則として,取得価額で計上する。
(2) 負債のうち,債務は,原則として,債務額で計上する。
貸借対照表の目的は,企業の財政状態を明らかにすることである。企業の財政状態とは,
資産と負債・純資産(資本)の関係を意味する。これら3つの要素は,基本的には,
「資産
-負債=純資産」の関係にあり,資本等式とよばれる。
中小会計要領では,会計の主たる目的を適正な期間損益計算においており,資産と負債
の認識測定は,収益と費用の認識測定により規制される関係にある。すなわち,適正な期
間損益計算の観点から,まず収益と費用の認識・測定が行われ,その結果として資産と負
債の認識・測定が行われことになる。
なお,資産と負債の分類は,以下のように例示できる。
資産の分類の例示
a 現金,預金,受取手形・売掛金などのように主たる営業活動から生じ
た売上債権,短期的資金運用のために保有している一時的所有の取引
所の相場のある有価証券などの当座資産
①流動資産
b 商品や製品などのように棚卸によって実際有高を定め,かつ,その大
部分が販売目的である棚卸資産
c
1年以内に費用となる前払費用,1年以内に回収される未収金や立替
金,前払金・未収収益などのその他の流動資産
②固定資産
a
土地,建物,機械などの有形固定資産
b
営業権,特許権,借地権などの無形固定資産
c
関係会社有価証券,投資有価証券,出資金,長期貸付金などと,貸借
対照表日の翌日から起算して1年を超えなければ費用化しない長期前
払費用の投資その他の資産
③繰延資産
・既に提供を受けた役務の費消の効果が翌期以後に持続すると認められ
37
−54−
−51−
−55−
る場合,当該役務に対して既になされた支出または将来なされるべき
支出額を,その効果の存続期間に配分するために繰り延べたものであ
って,創立費,開業費,開発費,株式交付費,社債発行費および新株
予約権発行費
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,58 頁
負債の分類の例示
①
流動負債
a
企業の主たる目的である営業取引によって生じた債務
b
上記a以外の原因によって生じた債務で,貸借対照表日の翌日から起
算して1年以内に支払期限が到来するもの
c 引当金のうち,1年以内に使用される見込みのもの
d 未払費用,前受収益といった経過負債
・貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払期限が到来する社
②
固定負債
債および長期借入金,並びに1年を超えて使用される見込みの引当金
など
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,59 頁
ア:誤り(×「時価」→○「取得価格」
)
エ:誤り(×「規制を受けない」→○「規制を受ける」)
よって,正解は②となる。
問題 18
以下に掲げる資産・負債について,一般的な分類として正しい組み合わせを選択肢の中
から1つ選びなさい。
38
−55−
−52−
−56−
ア.関係会社有価証券,投資有価証券など
イ.開発費
ウ.受取手形
エ.未払費用
オ.決算日翌日から1年半後に支払期限が到来する借入金
選択肢
①
ア.固定資産
イ.繰延資産
ウ.流動資産
エ.流動負債
オ.固定負債
②
ア.流動資産
イ.固定資産
ウ.繰延資産
エ.流動負債
エ.固定負債
③
ア.繰延資産
イ.固定資産
ウ.流動資産
エ.固定負債
オ.流動負債
④
ア.固定資産
イ.流動資産
ウ.繰延資産
エ.流動負債
オ.固定負債
⑤
ア.繰延資産
イ.流動資産
ウ.固定資産
エ.固定負債
オ.流動負債
解説と解答【テキスト 57 頁~60 頁】
企業会計原則では,資産・負債は,正常営業循環基準と1年基準により流動と固定に分
類される。
「正常営業循環基準」とは,企業の正常な営業循環の過程(現金に始まり現金に
終わる企業活動の一連の過程)にある資産・負債を流動項目(流動資産・流動負債)
,営業
循環の過程外にある資産・負債を固定項目(固定資産・固定負債)とする基準である。こ
れに対して,
「1年基準」とは,貸借対照表日(決算日)の翌日から起算して1年以内に回
収されるものを流動項目(流動資産・流動負債)とし,それ以外の資産・負債を固定項目
(固定資産・固定負債)とする基準である。
よって,正解は①となる。
問題 19
金銭債権および金銭債務に関する次の記述のうち,「中小企業の会計に関する基本要領」
に照らして,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
39
−56−
−53−
−57−
ア.金銭債権は,会計帳簿にその取得価格を付さなければならないが,取得価格と債権
金額が異なる場合,時価または適正な価格を付すことができる。
イ.社債については,それを額面金額未満で購入する場合,額面金額と債権金額との差
額を購入から償還までの期間で按分して受取利息として計上するとともに,同額を
貸借対照表の金額に加算しなければならない。
ウ.金銭債務は,債務額を付さなければならないが(会社計算規則6条1項),時価評
価は要求されない。
エ.社債を額面金額未満で発行する場合,額面金額(債務額)と発行額との差額を購入
から償還までの期間で按分して支払利息として計上するとともに,同額を貸借対照
表の金額に加算しなければならない。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 61 頁~64 頁】
金銭債権及び金銭債務について,「各論3」は,以下のとおりとしている。
3.金銭債権及び金銭債務
(1) 金銭債権は、原則として、取得価額で計上する。
(2) 金銭債務は、原則として、債務額で計上する。
(3) 受取手形割引額及び受取手形裏書譲渡額は、貸借対照表の注記とする。
金銭債権とは,金銭の受取りを目的とし,その回収によって消滅する債権をいう。金銭
債権の例として,預金,受取手形,売掛金,未収金,貸付金,立替金などがあげられる。
会社計算規則によれば,金銭債権は,取得価額が付される(会社計算規則5条1項)。し
かし,金銭債権の取得価額と債権金額が異なる場合,その他相当の理由がある場合は,時
価または適正な価格を付すことができる(会社計算規則5条5項)。企業会計原則では,所
有する社債については,社債金額より低い価額または高い価額で買い入れた場合,当該価
40
−57−
−54−
−58−
額をもって貸借対照表価額とすることができるとされる(企業会計原則「注解 22」)
。この
規定に関連して,中小会計要領では,「社債を額面金額未満で購入する場合,額面金額と
債権金額との差額を購入から償還までの期間で按分して受取利息として計上するととも
に,同額を貸借対照表の金額に加算することができる」とされている。
金銭債務とは,金銭の支払いを目的とし,その弁済によって消滅する債務をいう。金銭
債務の例として,支払手形,買掛金,未払金,借入金,預り金,社債などがあげられる。
会社計算規則によれば,金銭債務は,債務額を付さなければならないが(会社計算規則6
条1項),時価評価は行われない。中小会計要領では,
「社債を額面金額未満で発行する場
合,額面金額(債務額)と発行額との差額を購入から償還までの期間で按分して支払利息
として計上するとともに,同額を貸借対照表の金額に加算することができる」とされてい
る。
イ:誤り(×「加算しなければならない」→○「加算することができる」)
エ:誤り(×「加算しなければならない」→○「加算することができる」)
よって,正解は④となる。
問題 20
貸倒損失および貸倒引当金に関する次の記述のうち,「中小企業の会計に関する基本要
領」に照らして,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
41
−58−
−55−
−59−
ア.債務者の資産状況,支払能力等からみて債権が回収不能と見込まれる場合,回収不
能と見込まれる債権は,当該金額を貸倒損失として費用に計上する必要がある。
イ.債務者の資産状況,支払能力等からみて回収不能のおそれのある債権については,
その回収不能見込額を貸倒引当金として計上する必要がある。
ウ.貸倒引当金の計算方法について,「中小会計要領」では,実務上考えられる方法と
して,過去の実績率で引当金額を見積もる方法を例示している。
エ.税務上,貸倒引当金の繰入額と戻入額を相殺する「洗替法」による処理が例外的に
認められている。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 65 頁~67 頁】
貸倒損失及び貸倒引当金について,
「各論4」は,以下のとおりとしている。
4.貸倒損失、貸倒引当金
(1) 倒産手続き等により債権が法的に消滅したときは、その金額を貸倒損失として計上
する。
(2) 債務者の資産状況、支払能力等からみて回収不能な債権については、その回収不能
額を貸倒損失として計上する。
(3) 債務者の資産状況、支払能力等からみて回収不能のおそれのある債権については、
その回収不能見込額を貸倒引当金として計上する。
貸倒損失とは,金銭債権の回収が見込めなくなった場合に,その債権額を帳簿価額から
償却することによって生じる損失をいう。取立不能のおそれのある債権については,事業
年度の末日においてそのときに取り立てることができないと見込まれる額を控除しなけれ
ばならない(会社計算規則5条4)とされている。
これに対し,貸倒引当金とは,金銭債権について取立不能になるおそれがある場合,こ
42
−59−
−56−
−60−
て仕訳が行われても,損益計算書では貸倒引当金の繰入額と戻入額が相殺され,その差額
が損益計算書に計上される。こうした会計慣行を尊重する立場から,差額補充法の適用が
例外的に認められている。
ウ:誤り(例示しているのは,法定繰入率で計算する方法である。)
エ:誤り(貸倒引当金の繰入額と戻入額を相殺して損益計算書に計上する処理は「洗替
法」ではなく「差額補充法」である)
よって,正解は①となる。
43
−60−
−57−
−61−
第6講
「中小企業会計」(各論:その2)
問題 21
有価証券に関連する次の記述のうち,
「中小企業の会計に関する基本要領」に照らして,
正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.有価証券の取得価格は,購入金額に付随費用を加算した金額とされ,付随費用を当
期の費用として処理することはできない。
イ.その他有価証券は,時価をもって貸借対照表価額とする。
ウ.法人税法に規定する売買目的有価証券は,時価をもって貸借対照表価額とする。
エ.時価が取得原価よりも著しく下落したときは,回復の見込みがあると判断した場合
を除き,評価損を計上する。著しく下落とは,時価が取得原価に比べて 50%以上
下落した場合をいう。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 68 頁~71 頁】
有価証券について,「各論5」は以下のとおりとしている。
5. 有価証券
(1) 有価証券は、原則として、取得原価で計上する。
(2) 売買目的の有価証券を保有する場合は、時価で計上する。
(3) 有価証券の評価方法は、総平均法、移動平均法等による。
(4) 時価が取得原価よりも著しく下落したときは、回復の見込みがあると判断した場合
を除き、評価損を計上する。
有価証券の取得価額は,購入代価に付随費用を加算した額とされる。しかし,付随費用
44
−61−
−58−
−62−
の金額が少額である場合には,重要性の原則の適用により,取得価額に含めないことがで
きる。
有価証券は,保有目的の観点から4つに分類される。
有価証券の分類と期末評価
分
類
意味と期末評価
・売買目的有価証券とは,時価の変動により利益を得ること
を目的として保有する有価証券をいう。法人税法上は,売
買目的有価証券について,有価証券売買のための専門のト
(1) 売買目的有価証券
レーディングルームがある等一定の要件を満たすものと規
定している。
・時価をもって貸借対照表価額とする。
・満期まで保有することを目的として保有する国債,社債,
(2) 満期保有目的の債券
その他の債券をいう。
・取得価額をもって貸借対照表価額とする。
(3) 子会社株式および
関連会社株式
・企業支配等を目的とし,長期間保有する株式をいう。
・取得価額をもって貸借対照表価額とする。
・上記(1)~(3)の分類のいずれにも属さないものをいう。
(4) その他有価証券
・原則として取得原価をもって貸借対照表価額とする。
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,70 頁
中小会計要領では,「時価が取得原価よりも著しく下落したときは,回復の見込みがあ
ると判断した場合を除き,評価損を計上する」として,減損処理を求めている。
会社計算規則では,①事業年度の末日における時価がその時の取得原価より著しく低い
資産(その資産について時価が取得原価まで回復すると認められるものを除く)について
は,事業年度の末日における時価で評価し,②事業年度の末日において予測することがで
きない減損が生じた資産または減損損失を認識すべき資産については,その時の取得原価
から相当の減額をした額で評価するとしている(会社計算規則5条3項1・2号)。なお,
「回復の見込みがある場合」とは,市場価格のある有価証券については,その株式の発行
会社の業績見込みや経営再建計画,市場環境等を総合的に考慮し,合理的な反証がある場
45
−62−
−59−
−63−
合をいい,このような場合は,時価をもって貸借対照表価額とし,評価差額を当期損失と
して計上しなければならない。これに対し,市場価格のない有価証券については,実質価
額が取得原価と比較して 50%程度以上下落したか否かで判断される。実質価額の著しい下
落について,中小会計要領は,「大幅な債務超過等でほとんど価値がないと判断できるも
の」としている。
ア:誤り(重要性の原則を適用した場合,当期の費用として計上される。)
イ:誤り(×「時価」→○「取得原価」
)
よって,正解は③となる。
問題 22
棚卸資産に関連する次の記述のうち,
「中小企業の会計に関する基本要領」に照らして,
正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.棚卸資産の評価基準には,原価法または低価法がある。低価法とは,期末における
時価が取得原価よりも下落した場合に,時価によって評価する方法をいう。
イ.棚卸資産を購入によって取得した場合,その取得原価は,購入金額に付随費用を加
算した額とされる。また,棚卸資産を製造した場合,その取得原価は,材料費と労
務費を積算して計算される
ウ.棚卸資産の評価方法には,個別法,先入先出法,総平均法,移動平均法,最終仕入
原価法,売価還元法等があるが,最終仕入原価法については,期間損益の計算上著
しい弊害がない場合に認められる。
エ.棚卸資産の時価が取得原価より著しく下落したときは,回復の見込みがあると判断
した場合を除き,評価損を計上する。例えば,棚卸資産が著しく陳腐化した場合,
災害により著しく毀損した場合,賞味期限切れや雨ざらし等でほとんど価値がない
と判断される場合がこれである。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
46
−63−
−60−
−64−
解説と解答【テキスト 71 頁~74 頁】
棚卸資産について,
「各論6」は以下のとおりとしている。
6.棚卸資産
(1) 棚卸資産は、原則として、取得原価で計上する。
(2) 棚卸資産の評価基準は、原価法又は低価法による。
(3) 棚卸資産の評価方法は、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原
価法、売価還元法等による。
(4) 時価が取得原価よりも著しく下落したときは、回復の見込みがあると判断した場合
を除き、評価損を計上する。
棚卸資産の取得価額は,原則として,購入代価または製造原価に付随費用を加算すると
定めている。なお,付随費用が少額である場合には,重要性の原則の適用により,取得価
額に含めないことができる。製品の製造原価は,材料費,労務費,製造経費を積算する。
中小会計要領では,棚卸資産の評価基準を「原価法または低価法による」と定め,低価
法の適用を認めている。「原価法」とは,取得原価により期末棚卸資産を評価する方法を
いい,「低価法」とは,期末における時価が取得原価よりも下落した場合に,時価によっ
て期末棚卸資産を評価する方法をいう。
棚卸資産の評価方法は,事業の種類,棚卸資産の種類その性質およびその使用方法等を
考慮した区分ごとに選択し,評価基準と同様に継続して適用しなければならない。個別法,
先入先出法,総平均法,移動平均法,最終仕入原価法,売価還元法等が例示されている。
評価方法ごとの算定方法は以下のとおりである。
評価方法
算定方法
・取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し,その個々
(1) 個別法
の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方
法
47
−64−
−61−
−65−
・最も古く取得したものから順次払出しが行われ,期末棚
卸資産は最も新しく取得したものからなるとみなして
(2) 先入先出法
期末棚卸資産の価額を算定する方法
・棚卸資産の受入れの都度,平均単価を求め,その平均単
(3) 平均
①移動平均法
価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法
原価法
・一定期間(月単位または期単位等)における棚卸資産の
(3) 平均
②総平均法
受入れ金額の合計額を受入れ総数量で除して求めた平
原価法
均単価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法
・期末から最も近い時に取得した1単位当たりの取得価額
(4) 最終仕入原価法
をもって評価する方法
・値入率の類似性に従って棚卸資産のグループごとの期末
(5) 売価還元法
の売価合計額に,原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸
資産の価額とする方法
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,73 頁
減損処理は,「時価が原価よりも著しく下落したときは,回復の見込みがあると判断し
た場合を除き,評価損を計上する」として,減損による評価損の計上を求めている。
「時
価の著しい下落」とは,具体的には,①災害により著しく損傷したとき,②著しく陳腐化
したとき,③たとえば,賞味期限切れや雨ざらし等で無価値となった等の①や②に準ずる
事実が発生したときとされる。
イ:誤り(製品の製造原価には,製造経費を加える。
)
ウ:誤り(最終仕入原価法の適用に設問のような条件は付されていない。)
よって,正解は⑤となる。
問題 23
経過勘定の表示に関連する次の記述のうち,カッコの中に入る正しい組み合わせを選択
肢の中から1つ選びなさい。
48
−65−
−62−
−66−
(
ア
)は,貸借対照表の流動資産に計上する。ただし,長期(
ア
)(決算期末
後1年を超えて費用となる部分)については,投資その他の資産に計上する。
(
イ
)は,貸借対照表の流動負債に計上する。ただし,長期(
イ
)(決算期末
後1年を超えて収益となる部分)については,固定負債に計上する。
(
ウ
)は,貸借対照表の流動負債に計上するとともに,当期の費用として,損益計
算書に反映させる。
(
エ
)は,貸借対照表の流動資産に計上するとともに,当期の収益として,損益計
算書に反映させる。
選択肢
①ア.前払収益
イ.前払費用
ウ.未払費用
エ.未払収益
②ア.前払費用
イ.前受収益
ウ.未払費用
エ.未収収益
③ア.未払費用
イ.未払収益
ウ.前払費用
エ.前払収益
④ア.前払費用
イ.未払費用
ウ.前払費用
エ.未収収益
⑤ア.未払収益
イ.前受収益
ウ.未払費用
エ.前払収益
解説と解答【テキスト 75 頁~78 頁】
経過勘定について,
「各論7」は以下のとおりとしている。
7.経過勘定
(1) 前払費用及び前受収益は、当期の損益計算に含めない。
(2) 未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に反映する。
取引の中には,すでにサービスの提供を受けたり,行っているにもかかわらず,代金の
支払いや受取りがなされていないケースがある。反対に,代金の支払いや受取りは済んで
いるものの,サービスの提供を未だ受けていなかったり,行っていないケースがある。こ
のように,サービスの提供の期間とそれに対する代金の授受の時点のズレを処理する勘定
科目が,経過勘定である。
49
−66−
−63−
−67−
継続的な役務提供契約によるものが経過勘定であるのに対し,継続的な役務提供契約以
外の契約(例えば,備品等の売買契約)によるものは未決済項目という。以下の図表は,
経過勘定と未決済項目の相違を対比して示したものである。
経過勘定と未決済項目
役務提供契約による期間的未解消項目
役務提供契約以外の契約による未決済項目
前払費用
前払金
・一定の契約に従い,継続して役務 ・役務提供契約以外の契約等により
の提供を受ける場合,未だ提供さ
,財貨等の提供を受ける場合,未
れていない役務に対し支払われた
だ提供されていない財貨等に対
対価をいう。
し支払われた対価をいう。
・具体例:前払いの支払家賃や支払
保険料,支払利息等
未払費用
未払金
・一定の契約に従い,継続して役務 ・役務提供契約以外の契約等により
の提供を受ける場合,既に提供さ
,財貨等の提供を受ける場合,既
れた役務に対し,未だその対価の
に提供された財貨等に対し,未だ
支払が終らないものをいう。
その対価の支払が終らないもの
をいう。
・具体例:後払いの支払家賃や支払
経過勘
定
利息,従業員給料等
未決済
前受収益
前受金
・一定の契約に従い,継続して役務 ・役務提供契約以外の契約等により
の提供を行う場合,未だ提供して
,財貨等の提供を行う場合,未だ
いない役務に対し支払を受けた対
提供していない財貨等に対し支
価をいう。
払を受けた対価をいう。
・具体例:前受けの家賃収入や受取
利息等
未収収益
未収金
・一定の契約に従い,継続して役務 ・役務提供契約以外の契約等により
50
−67−
−64−
−68−
項目
の提供を行う場合,既に提供した
,財貨等の提供を行う場合,既に
役務に対し,未だその対価の支払
提供した財貨等に対し,未だその
を受けていないものをいう。
対価の支払を受けていないもの
・具体例:後払いの家賃収入や受取
をいう。
利息等
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,76 頁
会社計算規則では,経過勘定について,その表示区分が次のように示されている。
(a) 前払費用:貸借対照表の流動資産に計上する。ただし,長期前払費用(決算期末後
1年を超えて費用となる部分)については,投資その他の資産に計上する。
(b) 前受収益:貸借対照表の流動負債に計上する。ただし,長期前受収益(決算期末後
1年を超えて収益となる部分)については,固定負債に計上する。
(c) 未払費用:貸借対照表の流動負債に計上するとともに,当期の費用として,損益計
算書に反映させる。
(d) 未収収益:貸借対照表の流動資産に計上するとともに,当期の収益として,損益計
算書に反映させる。
よって,正解は②となる。
問題 24
固定資産に関連する次の記述のうち,
「中小企業の会計に関する基本要領」に照らして,
正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
51
−68−
−65−
−69−
ア.自己所有の固定資産と交換に固定資産を取得した場合には,交換に供された自己資
産の適正な簿価が取得原価とされる。しかし,自己所有の有価証券と固定資産を交
換した場合には,当該有価証券の時価または適正な簿価が取得原価とされる。
イ.有形固定資産は,定率法,定額法等の方法に従って,相当の減価償却を行う必要が
ある。相当の減価償却とは,毎期,規則的に減価償却を行うことをいう。
ウ.減価償却は,固定資産の耐用年数にわたって行う必要があり,耐用年数は,法人税
法に定める期間を使用しなければならない。
エ.固定資産について,災害・事故等予測することができない著しい資産価値の下落が
判明したときは,相当の金額を評価損として計上する。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 78 頁~81 頁】
固定資産について,
「各論8」は以下のとおりとしている。
8.固定資産
(1) 固定資産は、有形固定資産(建物、機械装置、土地等)
、無形固定資産(ソフトウ
ェア、借地権、特許権、のれん等)及び投資その他の資産に分類する。
(2) 固定資産は、原則として、取得原価で計上する。
(3) 有形固定資産は、定率法、定額法等の方法に従い、相当の減価償却を行う。
(4) 無形固定資産は、原則として定額法により、相当の減価償却を行う。
(5) 固定資産の耐用年数は、法人税法に定める期間等、適切な利用期間とする。
(6) 固定資産について、災害等により著しい資産価値の下落が判明したときは、評価損
を計上する。
中小会計要領では,取得価額とは,「資産の取得または製造のために要した金額」とさ
れ,固定資産の購入の場合,購入代金に付随費用(買入手数料,運送費,荷役費,据付費,
52
−69−
−66−
−70−
試運転費等)を加算した金額をいう。また,「取得原価」は,
「取得価額を基礎として,適
切に費用配分した後の金額」とされ,固定資産(減価償却資産)であれば,取得価額から
減価償却累計額を控除した金額をいう。固定資産の取得価額の計算は,
「購入」
「自家建設」
「現物出資」「交換」「贈与」等,その取得の形態によって異なる。
固定資産の取得原価
取得形態
取得価額の計算
・購入代価(購入代金から値引や割戻を控除した額)に買入手数料,運送
費,荷役費,試運転費等の付随費用を加えて取得原価を算定する。
(a)購入
・ただし,正当な理由がある場合には,付随費用の一部または全部を取得
原価に加算しないことができる。
・適正な原価計算基準に従って製造原価を計算し,これに基づいて取得原
価を計算する。
(b)自家建設
・建設に要する借入資本の利子で稼働前の期間に属するものは,取得原価
に算入できる。
・株式を発行しその対価として固定資産を受け入れた場合には,現物出資
(c)現物出資
の目的たる財産の価額(公正な評価額)をもって取得原価とする。
・自己所有の固定資産と交換に固定資産を取得した場合には,交換に供さ
れた自己資産の適正な簿価を取得原価とする
・自己所有の有価証券と固定資産を交換した場合には,当該有価証券の時
(d)交換
価または適正な簿価をもって取得原価とする。
・「事業分離等会計基準」によれば,取得資産の時価をもって取得原価と
することもできる。
(e)贈与
・時価等を基準として「公正な評価額」をもって取得原価とする。
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,80 頁
会社計算規則では,「償却すべき資産については,事業年度の末日において,相当の償
却をしなければならない」
(会社計算規則5条2項)と規定しており,中小会計要領におい
ても,「相当の減価償却を行う」としている。中小会計要領では,
「『相当の減価償却』と
は,一般的に,耐用年数にわたって,毎期,規則的に減価償却を行うことが考えられます」
53
−70−
−67−
−71−
と規定しているが,規則的な償却に加え,相当性を有する償却方法であればそれも認めら
れる。何が相当性を有するかという点については,個別具体的なケースごとに判断してい
くことになる。しかし,利益操作目的で減価償却を任意に行うようなことは,相当性が認
められる余地はない。
固定資産の耐用年数は,「法人税法に定める期間等,適切な利用期間とする。
」とされて
おり,法人税法に定める期間以外のものを禁じているわけではない。また,災害・事故等
予測することができない著しい資産価値の下落が判明したときは,相当の金額を評価損と
して計上することを求めている。
イ:誤り(
「相当の減価償却」=「規則的な減価償却」ではない。他の合理的な減価償
却も相当の減価償却に含まれる。)
ウ:誤り(法人税法に定められた期間は,実務上,一般的に適用されている期間として
の例示に過ぎない。)
よって,正解は⑤となる。
問題 25
減価償却に関連する次の記述のうち,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選
びなさい。
ア.前期導入した生産設備が,災害により修理しても使えない状態になったため,残存
価額全額を減価償却費として計上した。
イ.今期は売上が低迷している。このままでは当期利益が計上できないため,建物の減
価償却費の計上を一時的に減らすことにした。
ウ.接客用の応接セットを購入した。法人税法上の耐用年数5年であるが,使用頻度等
も考慮し,10 年で減価償却することにした。
エ.生産設備を導入した。当該設備の総利用可能量が物理的に確定でき,かつ減価が主
として固定資産の利用に比例して発生する生産高は毎期異なるので,生産高に比例
して減価償却費を計上することにした。
54
−71−
−68−
−72−
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 81 頁~83 頁】
会社計算規則では,「事業年度の末日において予測することができない減損が生じた資
産または減損損失を認識すべき資産は,そのときの取得原価から相当の減額をした額を付
さなければならない」
(会社計算規則5条3項2号)としている。
「予測することができな
い減損」について,中小会計要領では,
「災害等により著しい資産価値の下落が判明したと
き」を例示している。ア.は減損処理をすべきケースと考えられるが,減損額については,
減損損失として,原則,損益計算書の特別損失に計上する。
企業会計原則では,「資産の取得原価について,資産の種類に応じた費用配分の原則に
よって,各事業年度に配分しなければならない」(「貸借対照表原則」の五)としている。
減価償却の目的は,適正な費用配分を行うことにより,毎期の損益計算を正確ならしめる
ことにある。ウ.のように,実態を踏まえ,法人税法上の耐用年数以外の耐用年数を設定
することに問題はない。
減価償却の方法には,
「期間を配分基準とする方法」
(定額法,定率法等)と,「生産高
を配分基準とする方法」
(生産高比例法)がある。生産高比例法は,毎期当該資産による
生産または用役の提供の度合いに比例した減価償却費を計上する方法である。工業用設備,
航空機,自動車等,当該資産の総利用可能量が物理的に確定でき,かつ減価が主として固
定資産の利用に比例して発生することが前提である。
ア:誤り(×「減価償却費として計上」→○「特別損失として計上」)
イ:誤り(利益操作目的で減価償却を任意に行うようなことは,相当性が認められる余
地はない)
よって,正解は③となる。
55
−72−
−69−
−73−
第7講
「中小企業会計」(各論:その3)
問題 26
繰延資産に関連する次の記述のうち,
「中小企業の会計に関する基本要領」に照らして,
正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.繰延資産は,対価の支払いが未だ完了していないが,これに対するサービスの提供
を受け,その効果が将来にわたって将来にわたって生じるものと期待される費用を
いう。
イ.繰延資産とされるものに,創立費,開業費,開発費,株式交付費,社債発行費およ
び社債発行差金がある。
ウ.資産計上した繰延資産については,支出の効果が期待されなくなったときには,資
産の価値が無くなっていると考えられるため,一時に費用処理する必要がある。
エ.法人税法固有の繰延資産については,会計上の繰延資産に該当しないことから,固
定資産(投資その他の資産)に「長期前払費用」として計上する。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 84 頁~86 頁】
繰延資産について,
「各論9」は以下のとおりとしている。
9. 繰延資産
(1) 創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費及び新株予約権発行費は、費用
処理するか、繰延資産として資産計上する。
(2) 繰延資産は、その効果の及ぶ期間にわたって償却する。
56
−73−
−70−
−74−
繰延資産は,対価の支払いが完了し,これに対応するサービスの提供を受けたにもかか
わらず,その効果が将来にわたって生じるものと期待される費用をいう。繰延資産は適正
な期間損益計算の観点から要請されるものであり,換金性もなく,また法律上の権利でも
なく,実体を伴わない計算擬制的資産である。しかし,旧商法では,実務的な配慮と期間
損益計算との妥協で 8 項目に限り繰延資産を容認してきたが,会社法では,繰延資産につ
いては,換金可能性がなく費用の繰延べにすぎないと整理され,分配可能額の計算からこ
れを控除するという規制を行っている
中小会計要領では,これまでの会計実務を踏まえ,創立費,開業費,開発費,株式交付
費,社債発行費および新株予約権発行費の6項目を繰延資産に該当するものとして取り扱
っている。したがって,これらの項目については,支出時に費用として処理する方法のほ
かに,繰延資産として貸借対照表に資産計上する方法も認められる。繰延資産の具体的な
内容と中小会計要領で要請されている償却年数は以下のとおりである。
繰延資産
内
容
償却年数
・会社の負担に帰すべき設立費用,例えば,定款および諸規則
作成のための費用,株式募集その他のための広告費,目論見
書・株券等の印刷費,創立事務所の賃借料,設立事務に使用
創立費
する使用人の給料,金融機関の取扱手数料,証券会社の取扱
手数料,創立総会に関する費用その他会社設立事務に関する
必要な費用,発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会 5年以内
の承認を受けた金額,設立登記の登録免許税等をいう。
・土地,建物等の賃借料,広告宣伝費,通信交通費,事務用消
耗品費,支払利子,使用人の給料,保険料,電気・ガス・水
開業費
道料等で,会社成立後営業開始までに支出した開業準備のた
めの費用をいう。
57
−74−
−71−
−75−
・新技術または新経営組織の採用,資源の開発,市場の開拓等
のために支出した費用,生産能率の向上または生産計画の変
開発費
更等により,設備の大規模な配置替えを行った場合等の費用
をいう。ただし,経常費の性格をもつものは含まれない。
・株式募集のための広告費,金融機関の取扱手数料,証券会社
の取扱手数料,目論見書・株券等の印刷費,変更登記の登録
株式交付費
免許税,その他株式の交付等のために直接支出した費用をい
3年以内
う。
新株予約権
・資金調達などの財務活動に係るものをいう。
発行費
・社債募集のための広告費,金融機関の取扱手数料,証券会社 社債の償
社債発行費
の取扱手数料,目論見書・社債券等の印刷費,社債の登記の 還までの
登録免許税その他社債発行のため直接支出した費用をいう。
期間
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,85 頁
法人税法では,次の費用を繰延資産として処理すること認めている。しかし,これらの
費用は会計上の繰延資産に該当しないことから,固定資産(投資その他の資産)に「長期
前払費用」として計上される。
(イ) 自己が便益を受ける公共的施設または共同的施設の設置または改良のために支出
する費用
(ロ) 資産を賃借しまたは使用するために支出する権利金,立退料その他の費用
(ハ) 役務の提供をけるために支出する権利金その他の費用
(ニ) 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
(ホ) (イ)から(ニ)までに掲げる費用のほか,自己が便益を受けるために支出する費用
ア:誤り(×「未だ完了していない」→○「完了した」)
イ:誤り(
「社債発行差金」は繰延資産ではない。)
よって,正解は③となる。
58
−75−
−72−
−76−
問題 27
リース取引に関連する次の記述のうち,
「中小企業の会計に関する基本要領」に照らし
て,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.リース取引に係る借手は,原則として「売買取引に係る方法に準じて会計処理」を
行うことしており,一定の要件を満たした場合に,「賃貸借取引に係る方法」での
会計処理を認めている。
イ.
「売買取引に係る方法に準じた会計処理」とは,リース取引を通常の売買取引と同
様に捉え,金融機関等から資金の借入を行って資産を購入した場合と同様に扱う考
え方をいう。
ウ.
「賃貸借取引に係る方法」とは,リース期間の経過とともに,支払リース料を費用
処理する方法をいう。
エ.
「賃貸借取引に係る方法」で会計処理を行った場合には,将来支払うべき金額が貸
借対照表に計上されない。このため,中小会計要領では,支払義務を適切に示す観
点から,金額的に重要性があるものについては,期末時点での未経過のリース料を
注記しなければならないとしている。
選択肢
① アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 87 頁~89 頁】
リース取引について,「各論10」は以下のとおりとしている。
10.リース取引
リース取引に係る借手は、賃貸借取引又は売買取引に係る方法に準じて会計処理を行
う。
59
−76−
−73−
−77−
企業会計基準では,リース取引の借手の会計処理については,①「売買取引に係る方法
に準じて会計処理する方法」が原則的な方法とされ,一定の要件を満たした場合に,②「賃
貸借取引に係る方法」が認められている。
(1)「賃貸借取引に係る方法」とは,リース期間の経過とともに,支払リース料を費用
処理する方法をいう。
(2)「売買取引に係る方法に準じた会計処理」とは,リース取引を通常の売買取引と同
様に捉え,金融機関等から資金の借入を行って資産を購入した場合と同様に扱う考
え方をいう。
中小会計要領では,実務の便宜の観点から,これらの2種類の方法から任意に選択して
適用することが認められている。
上記(2)の「売買取引に係る方法に準じた会計処理」を行う場合,リース対象物件をリ
ース資産として貸借対照表の資産に計上し,借入金に相当する金額をリース債務」として
負債に計上することとなる。リース資産およびリース債務の計上額は,①「リース料総額
で計上する方法」と②「利息相当額をリース料総額から控除した後の金額で計上する方法」
がある。後者の方法によった場合,利息相当額については,一般的にリース期間にわたり
利息法により配分することとなる。
リース取引では,一般にリース契約に基づき,借手は貸手に対してリース期間にわたっ
てリース債務を履行する義務を負っている。リース取引の借手が,
「売買取引に係る方法に
準じた会計処理」を行った場合,リース債務である将来支払うべき金額が負債として貸借
対照表に計上されるが,
「賃貸借取引に係る方法」で会計処理を行った場合には,将来支払
うべき金額が貸借対照表に計上されない。このため,中小会計要領では,支払義務を適切
に示す観点から,金額的に重要性があるものについては,期末時点での未経過のリース料
を注記することが望ましいとしている。
ア:誤り(中小会計要領では,実務の便宜の観点から,これらの2種類の方法から任意
に選択して適用することが認められている。)
エ:誤り(×「注記しなければならない」→○「注記することが望ましい」)
よって正解は②となる。
60
−77−
−74−
−78−
問題 28
引当金に関連する次の記述のうち,
「中小企業の会計に関する基本要領」に照らして,
正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.将来の特定の費用または損失であって,その発生が当期以前の事象に起因し,その
金額を合理的に見積ることができる場合には,当期の負担に属する金額を当期の費
用または損失として計上し,引当金として貸借対照表の負債の部または資産の部に
記載する。
イ.賞与引当金については,翌期に従業員に対して支給する賞与の見積額のうち,当期
の負担に属する部分の金額を計上する。具体的には,決算日後に支払われる賞与の
金額を見積り,当期に属する部分を月割りで計算して計上する方法が考えられる。
ウ.退職金規程や退職金等の支払いに関する合意があり,退職一時金制度を採用してい
る場合は,当期末における退職給付に係る自己都合要支給額を基に退職給付引当金
を計上する。
エ.中小企業退職金共済,特定退職金共済,確定拠出年金等,将来の退職給付について
拠出以後に追加的な負担が生じない制度を採用している場合は,毎期の掛金に相当
する金額を退職給付引当金として計上する。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 90 頁~93 頁】
引当金について,「各論11」は以下のとおりとしている。
61
−78−
−75−
−79−
11.引当金
(1) 以下に該当するものを引当金として、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損
失として計上し、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載す
る。
・将来の特定の費用又は損失であること
・発生が当期以前の事象に起因すること
・発生の可能性が高いこと
・金額を合理的に見積ることができること
(2) 賞与引当金については、翌期に従業員に対して支給する賞与の見積額のうち、当期
の負担に属する部分の金額を計上する。
(3) 退職給付引当金については、退職金規程や退職金等の支払いに関する合意があり、
退職一時金制度を採用している場合において、当期末における退職給付に係る自己都
合要支給額を基に計上する。
(4) 中小企業退職金共済、特定退職金共済、確定拠出年金等、将来の退職給付について
拠出以後に追加的な負担が生じない制度を採用している場合においては、毎期の掛金
を費用処理する。
中小会計要領では,
「将来の特定の費用又は損失であること」
「発生が当期以前の事象に
起因すること」
「発生の可能性が高いこと」
「金額を合理的に見積ることができること」に
該当するものを引当金として,当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として計上
し,当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載する。
労働契約や労働協約,あるいは就業規則によって定められている賞与引当金は,法的債
務として負債の部に計上しなければならない。翌期に従業員に対して支給する賞与の見積
額のうち,当期の負担に属する部分の金額を計上する。具体的には,決算日後に支払われ
る賞与の金額を見積り,当期に属する部分を月割りで計算して計上する方法が考えられる。
中小会計要領では,次の算式が参考として示されている。
62
−79−
−76−
−80−
退職給付引当金についても,退職金規程や退職金等の支払いに関する合意により法的債
務となる場合には,負債の部に計上しなければならない。しかし,退職金規程等がない場
合でも,退職金の支給実績等から将来発生する可能性が高い時には,引当金の計上が必要
となる。
退職給付引当金繰入額の計算について,
「退職給付に係る会計基準」では,数理計算上
の差異および過去勤務費用を平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理すること
とし,処理されない部分(未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用)について
は,税効果を調整の上,純資産の部に計上することとし,積み立て状況を示す額をそのま
ま負債(または資産)として計上することとしている。
しかし,退職時に見込まれる退職給付総額,割引率,予想残存勤務期間を算定すること
や数理計算を行うことは,中小企業にとっては困難なものである。そこで,中小会計要領
では,かつて法人税法が採用していたように,退職給付に係る期末自己都合要支給額(当
期末に従業員全員が自己都合で退職した場合に必要となる退職金総額)を基に,退職給付
引当金を計上することとしている。
なお,中小企業退職金共済,特定退職金共済,確定拠出年金等のように,外部の機関に
掛金を拠出している場合には,毎期の掛金を費用処理すればよいので,退職給付引当金の
設定は必要としない。
ア:誤り(
「発生の可能性が高いこと」の要件を充足する必要がある。)
エ:誤り(×「退職給付引当金として計上する」→○「毎期の掛金を費用処理する。」)
よって正解は②となる。
63
−80−
−77−
−81−
問題 29
退職給付引当金に関連する次の記述のうち,「中小企業の会計に関する基本要領」に照
らして,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.当社は,退職金制度を5年前に廃止した。
「その時点で在籍していた社員」の退職
金は,退職時に支払うことにしている。廃止以後に入社した社員に対しては退職金
を支払わないことにしたため,「その時点で在籍していた社員」に今後支払う退職
金のみを退職給付引当金に計上している。
イ.法人税法上,損金に算入できなくなったので,退職給付引当金の計上をとりやめ,
退職の発生の都度,費用計上することにした。
ウ.当社は,当期末に従業員全員が自己都合で退職した場合に必要となる退職金総額を,
退職給付引当金に計上している。
エ.経営者の退職金に関しては,中小企業退職金共済に加入し,毎月の掛金を費用処理
しているため,退職給付引当金を計上していない。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 93 頁】
引当金の設定目的は,期間損益計算の適正化にあり,発生主義の原則と費用収益対応の
原則によって根拠づけられる。引当金は,将来の特定の費用・損失を当期の費用・損失と
して見越計上した場合に生じる貸方科目である。この見越計上は,財貨・用役の費消に関
する具体的な事象は将来に生じるが,その原因となる事実が当期以前に生じていることに
着目し,当該事実を当期の費用・損失として認識するものである。これにより当期の収益
との合理的な対応が可能となり、適正な期間損益計算が達成される。イ.のように,法人
税法上の取扱を優先することにより,期間損益計算の適正性を損なうべきではない。
エ.にある中小企業退職金共済は,従業員の退職金が対象であり,経営者の退職金は対
象外である。
64
−81−
−78−
−82−
イ:誤り(法人税法上の取扱を優先することにより,期間損益計算の適正性を損なうべ
きではない。)
エ:誤り(×経営者の退職金は,中小企業退職金共済の対象にはならない。)
よって正解は④となる。
65
−82−
−79−
−83−
第8講
「中小企業会計」(各論:その4)
問題 30
外貨建取引等に関連する次の記述のうち,「中小企業の会計に関する基本要領」に照ら
して,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.取引発生時の為替相場は,取引が発生した日の為替相場の他に,前月の平均為替相
場等の直近の一定期間の為替相場や,前月末日の為替相場等直近の一定の日の為替
相場を利用することができる。
イ.
「外貨建取引等会計処理基準」では,外貨建金銭債権債務の決算時の処理について
は,決算時の為替相場による円換算額で計上しなければならない。
ウ.決算時における換算によって生じた換算差額は,原則として,当期の為替差損益と
して処理し,営業損益として表示する。
エ.外貨建金銭債権債務の決済によって生じた決済差額は,原則として,当期の為替差
損益として処理し,営業損益として表示する。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 94 頁~97 頁】
外貨建取引等について,「各論12」は以下のとおりとしている。
12.外貨建取引等
(1) 外貨建取引(外国通貨建で受け払いされる取引)は、当該取引発生時の為替相場に
よる円換算額で計上する。
(2) 外貨建金銭債権債務については、取得時の為替相場又は決算時の為替相場による円
換算額で計上する。
66
−83−
−80−
−84−
「外貨建取引等会計処理基準」によれば,外貨建取引は,原則として当該取引発生時の
為替相場による円換算額をもって記録することとしており,中小会計要領でもこれに準拠
している。取引発生時の為替相場については,次のものが該当する(外貨建取引等会計処
理基準「注解2」)
。
(a) 取引が発生した日における直物為替相場
(b) 合理的な基礎に基づいて算定された平均相場:取引の行われた月の前月,または取
引の行われた週の前週の為替相場を平均する等,直近の一定期間の直物為替相場に
基づいて算出されたもの
中小会計要領では,外貨建金銭債権債務について,決算時の為替相場による円換算額の
他に,取得時の為替相場による円換算額での計上を認めている。これは,中小企業に対し
て,換算処理の煩雑さに配慮したものと考えられる。なお,決算時の為替相場としては,
決算日の直物為替相場のほか,決算日の前後一定期間の直物為替相場に基づいて算出され
た平均相場を用いることができる。
決算時における換算によって生じた換算差額は,原則として当期の為替差損益として処
理し,営業外損益として表示する。ただし,有価証券の時価の著しい下落または実質価額
の著しい低下により,決算時の為替相場による換算を行ったことによって生じた換算差額
は,当期の有価証券の評価損として処理する。
外貨建金銭債権債務の決済(外国通貨の円転換を含む)に伴って生じた損益は,原則と
して,当期の為替差損益として処理し,営業外損益として表示する。
イ:誤り(
「中小会計要領」では,取引時の為替相場も認められている。
)
ウ:誤り(×「営業損益」→○「営業外損益」
)
よって正解は⑤となる。
67
−84−
−81−
−85−
問題 31
純資産に関連する次の記述のうち,
「中小企業の会計に関する基本要領」に照らして,
正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.個別計算書類における純資産の部は,株主資本,評価・換算差額等および新株予約
権の3つに区分される。
イ.株主資本の区分は,資本金に属するものと剰余金に属するものとに区分し,剰余金
は,資本準備金,利益準備金およびその他の剰余金に区分して記載しなければなら
ない。
ウ.資本金は,原則として,株主から会社に払い込まれた全額を計上しなければならな
いが,払込金額の2分の1を超えない金額については,資本金にしないことができ
る。
エ.自己株式を処分した場合,自己株式の処分対価が自己株式の帳簿価額を下回ってい
る場合,当該差額はその他利益剰余金から控除しなければならない。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 98 頁~103 頁】
純資産について,「各論13」は以下のとおりとしている。
13.純資産
(1) 純資産とは、資産の部の合計額から負債の部の合計額を控除した額をいう。
(2) 純資産のうち株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金等から構成される。
純資産とは資産の部の合計額から負債の部の合計額を控除した額をいう。純資産は,出
資者である株主に帰属する株主資本と株主資本以外の各項目とに区分される。会社計算規
則では,純資産を「株主資本」「評価・換算差額」「新株予約権」に区分しているが,中小
68
−85−
−82−
−86−
会計要領では,中小企業の実態に即して,
「評価・換算差額等」および「新株予約権」の区
分が示されていない。株主資本の区分は,資本金,資本剰余金,利益剰余金および自己株
式に区分される。
会社法では,払込価額主義を採用し,資本金の額を「払込価額または給付額」としてい
る(会社法 445 条1項)。原則として,「払込価額または給付額」は,その全額を資本金と
しなければならないが,その2分の1を超えない額を資本準備金(株式払込剰余金)とす
ることができる(会社法 445 条2項および3項)。
自己株式を処分した場合,処分対価と帳簿価額との差額は,次のように処理される。
(ア) 自己株式の処分対価>自己株式の帳簿価額の場合,「自己株式処分差益」は,「その
他資本剰余金」として計上する。
(イ) 自己株式の処分対価<自己株式の帳簿価額の場合,
「自己株式処分差損」は,まず「そ
の他資本剰余金」から減額され,控除しきれない場合は,「その他利益剰余金(繰
越利益剰余金)
」から減額する。
イ:誤り(株主資本の区分は,資本金,資本剰余金,利益剰余金,自己株式に区分され
る。
)
エ:誤り(まず,その他資本剰余金から控除する。)
よって正解は④となる。
問題 32
株主資本に関連する次の記述のうち,
「中小企業の会計に関する基本要領」に照らして,
カッコの中に入る正しい組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
69
−86−
−83−
−87−
資本準備金は,会社法によって積立が強制されるものをいい,
(
ア
)と,
「その他
資本剰余金から配当する場合で,利益準備金と合わせて資本金の額の4分の1に達して
いないときに,達していない額の資本剰余金配当割合,または配当額の 10 分の1の額
の資本剰余金配当割合のいずれか小さい額を積み立てたもの」をいう。
(
イ
)は,損益取引から生じた剰余金であり,利益の留保額をいう。これは,会
社法上,株主への配当が認められない(
ウ
)と,配分が認められる(
エ
)に区
分される。
選択肢
①ア.株式払込剰余金
イ.利益剰余金
ウ.利益準備金
エ.その他利益剰余金
②ア.資本剰余金
イ.繰越利益剰余金
ウ.利益準備金
エ.その他利益準備金
③ア.利益剰余金
イ.資本剰余金
ウ.その他利益剰余金
エ.繰越利益剰余金
④ア.資本剰余金
イ.利益剰余金
ウ.その他利益剰余金
エ.繰越利益剰余金
⑤ア.株式払込剰余金
イ.利益剰余金
ウ.利益準備金
エ.任意積立金
解説と解答【テキスト 101 頁~102 頁】
純資産のうち株主資本の区分は,資本金,資本剰余金,利益剰余金および自己株式に区
分される。
1.資本金
会社法では,資本金の額は,
「設立または株式の発行に際して株主となる者が当該株式会
社に対して払込みまたは給付をした財産の額」
とされる
(会社法 445 条1項)。このように,
会社法では,払込価額主義を採用し,資本金の額を「払込価額または給付額」としている。
原則として,
「払込価額または給付額」は,その全額を資本金としなければならないが,そ
の2分の1を超えない額を資本準備金(株式払込剰余金)とすることができる(会社法 445
条2項および3項)。
2.資本剰余金
資本剰余金は,資本取引から生じた剰余金であり,資本準備金とその他資本剰余金に区
分される。
70
−87−
−84−
−88−
資本準備金は,会社法によって積立が強制されるものをいい,(ア)株式払込剰余金と(イ)
その他資本剰余金から配当する場合で,利益準備金と合わせて資本金の額の4分の1に達
していないときに,達していない額の資本剰余金配当割合,または配当額の 10 分の1の額
の資本剰余金配当割合のいずれか小さい額を積み立てたものをいう。
その他資本剰余金は,資本剰余金のうち会社法で定める資本準備金以外のものをいう。
これには,(ア)「資本金および資本剰余金減少差益」
(減資差益)と(イ)自己株式処分差益が
ある。
3.利益剰余金
利益剰余金は,損益取引から生じた剰余金であり,利益の留保額をいう。これは,会社
法上,(ア)株主への分配が認められない「利益準備金」と(イ)分配が認められる「その他利
益剰余金」に区分される。
利益準備金は,資本準備金と同様に,会社法によって積立が強制されるものをいい,
「そ
の他利益剰余金」から配当する場合で,資本準備金と合わせて資本金の額の4分の1に達
していないときに,達していない額の利益剰余金配当割合,または配当額の 10 分の1の額
の利益剰余金配当割合のいずれか小さい額を積み立てたものをいう。
その他利益剰余金は,利益剰余金のうち利益準備金以外のものをいう。これには,(ア)
「任意積立金」と(イ)「繰越利益剰余金」が含まれる。任意積立金は,株主総会または取締
役会の決議により設定することができ,特に目的を限定しない「別途積立金」,目的を限定
した「新築積立金」等,および税法上の特例を利用するために設ける「圧縮積立金」等が
ある。
4.剰余金の配当
株式会社は株主に対して剰余金の配当をすることができる
(会社法 453 条)
。
会社法では,
株主に対する金銭等の分配および自己株式の有償取得をあわせて,
「剰余金の配当等」とし
て整理している。剰余金の配当は,分配可能額の範囲内であれば,株主総会の決議により,
いつでも何回でも行うことができる。なお,剰余金の配当を行った場合には,剰余金の配
当により減少する剰余金の額に 10 分の1を乗じた額を資本準備金または利益準備金とし
て計上しなければならない(会社法 445 条4項)。
よって正解は①となる。
71
−88−
−85−
−89−
問題 33
注記に関連する次の記述のうち,会社法や「中小企業の会計に関する基本要領」に照ら
して,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.会社法によれば,会社計算規則に定める注記事項は「注記表」という1つの計算書
にまとめて記載しなければならない。
イ.中小企業は,会社計算規則に基づき,重要な会計方針に係る事項を注記する必要が
あるが,株主資本等変動計算書に関する事項は,その内容が株式に関する事項であ
るため,注記は免除される。
ウ.企業がどのような会計ルールを適用しているかの情報は,企業の経営成績や財政状
態を判断するうえで重要な情報を提供することから,
「中小会計要領」に従って計
算書類を作成した場合は,その旨を注記することが推奨される。
エ.会計方針の変更または表示方法の変更もしくは誤謬の訂正を行ったときは,その変
更内容等を注記しなければならない。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 103 頁~108 頁】
注記について,「各論14」は以下のとおりとしている。
14.注記
(1) 会社計算規則に基づき、重要な会計方針に係る事項、株主資本等変動計算書に関す
る事項等を注記する。
(2) 本要領に拠って計算書類を作成した場合には、その旨を記載する。
中小会計要領は,会社法(会社計算規則)に基づき,重要な会計方針に係る事項,貸借
対照表に関する事項および株主資本等変動計算書に関する事項等を注記することとしてい
72
−89−
−86−
−90−
る。なお,必ず「注記表」という1つの計算書として作成する必要はなく,従来どおり,
貸借対照表などの末尾に注記事項として記載することも認められる。
中小企業が中小会計要領によって計算書類を作成した場合は,
「その旨」を注記するこ
とになっている。この記載によって,利害関係者に対して決算書の信頼性を高める効果が
期待されている。
会社法(会社計算規則)では,会計方針とは,
「計算書類の作成に当たって採用する会
計処理の原則および手続」とされ,次の事項が掲げられている(会社計算規則 101 条1項)
。
①
資産の評価基準および評価方法
②
固定資産の減価償却の方法
③
引当金の計上基準
④
収益および費用の計上基準
⑤
その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項
また,会計処理の原則または手続を変更した場合は,
「変更の内容」
,
「変更の理由」
,
「変
更による影響額」,表示方法を変更した場合は,
「変更の内容」と「変更の理由」を注記し
なければならない。
ア:誤り(従来どおり,貸借対照表などの末尾に注記事項として記載できる。
)
イ:誤り(×「免除される」→○「免除されない」)
よって正解は③となる。
問題 34
会社計算規則が定める注記事項のうち,会社計算規則において,中小企業に要求される
必須項目として正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
73
−90−
−87−
−91−
ア.継続企業の前提に関する注記
イ.表示方法の変更に関する注記
ウ.株主資本等変動計算書に関する注記
エ.損益計算書に関する注記
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 103 頁~108 頁】
会社計算規則が定める注記事項と中小企業に要求される注記項目は,以下の図表のとお
りである。◎印は,会社計算規則において,中小企業に要求される必須項目を示し,○印
は,中小会計要領において,中小企業に要求される項目または推奨される項目を示してい
る。
会社法(会社計算規則)における個別注記表の内容
会社計算規則が定める注記事項
◇「中小会計要領」によって計算書類を作成した旨の注記
中小企業の注記項目
○
1
継続企業の前提に関する注記(100 条)
2
重要な会計方針に係る事項に関する注記(101 条)
◎
3
会計方針の変更に関する注記(102 条の 2)
◎
4
表示方法の変更に関する注記(102 条の 3)
◎
5
会計上の見積りの変更に関する注記(102 条の 4)
6
誤謬の訂正に関する注記(102 条の 5)
◎
7
貸借対照表に関する注記(103 条)
○
8
損益計算書に関する注記(104 条)
9
株主資本等変動計算書に関する注記(105 条)
10 税効果会計に関する注記(107 条)
11 リースにより使用する固定資産に関する注記(108 条)
74
−91−
−88−
−92−
◎
18 連結配当規制適用会社に関する注記(115 条)
19 その他の注記(116 条)
◎
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,105 頁
ア.誤り(中小会計要領では要求されていない)
エ.誤り(中小会計要領では要求されていない)
よって正解は②となる。
問題 35
中小会計要領で要請されている,貸借対照表および株主資本等変動計算書に関する注記
として,正しいものの組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.資産に係る減価償却累計額を直接控除した場合における減価償却累計額
イ.賃貸等不動産がある場合における賃貸等不動産の状況に関する事項
ウ.当該事業年度の末日における発行済株式の数
エ.当該事業年度の末日後に行う剰余金の配当に関する事項
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 103 頁~108 頁】
中小会計要領では,会社計算規則に準拠して,貸借対照表に関する次の注記が要請され
ている(会社計算規則 103 条)。
①
担保に供されている資産
②
直接控除した引当金
③
直接控除した減価償却累計額
④
減価償却累計額に減損損失累計額が含まれている場合のその旨
75
−92−
−89−
−93−
⑤
保証債務,手形遡求義務,重要な係争事件に係る損害賠償義務その他これらに準
ずる債務
⑥
関係会社に対する金銭債権・金銭債務
⑦
取締役,監査役および執行役との取引による金銭債権
⑧
取締役,監査役および執行役との取引による金銭債務
⑨
親会社株式
※中小会計要領は,
「受取手形割引額及び受取手形裏書譲渡額」を注記事項として要
求しており,
「未経過リース料」についても注記することを推奨している。
同様に,株主資本等変動計算書に関する次の注記事項として,会社計算規則では,次の
事項が掲げられている(会社計算規則 105 条)
。
①
当該事業年度の末日における発行済株式の数
②
当該事業年度の末日における自己株式の数
③
当該事業年度中に行った剰余金の配当に関する事項
④
当該事業年度の末日における当該株式会社が発行している新株予約権の目的と
なる当該株式会社の株式の数
※中小会計要領では,当該事業年度の末日後に行う剰余金の配当に関する事項の記載
は要請されていない。
イ:誤り(当該事項は,
「貸借対照表に関する注記」ではなく,であり,
「中小会計要領」
では,要請されていない。)
エ:誤り(中小会計要領では,当該事業年度の末日後に行う剰余金の配当に関する事項
の記載は要請されていない。)
よって正解は④となる。
76
−93−
−90−
−94−
第9講
会計制度の二分化と会計基準の複線化
計算書類の信頼性保証
問題 36
会計制度の二分化と会計基準の複線化に関する次の記述のうち,正しいものの組み合わ
せを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.わが国の会計制度は,「大企業(上場企業)の会計」と「中小企業の会計」とに二
分化される傾向にある。このような二分化の基礎にあるのが,大企業と中小企業の
属性の相違である。
イ.大企業(上場企業)には,現在,「IFRS(純粋 IFRS あるいは完全版 IFRS)」,およ
び「企業会計基準(J-GAAP)
」の2つの会計基準の適用が可能である。
ウ.中小企業には,中小指針または中小会計要領の適用が可能である。中小企業にとっ
て,中小指針と中小会計要領は,ともに会社法上の「一般に公正妥当と認められる
企業会計の慣行」であることから,
「中小企業の会計」には,中小指針と中小会計
要領の2つの会計基準が並存していることになる。
エ.国際会計基準審議会(IASB)は,
「純粋 IFRS」のほかに,2009 年 7 月に,
「中小企業」
(Small and Medium-sized Entities;SMEs)向けの IFRS(IFRS for SMEs;
「中小
企業版 IFRS」)を公表した。この「中小企業版 IFRS」は「純粋 IFRS」を 10%程度
に要約・簡素化したものであり,
「純粋 IFRS」の一部と位置づけられた会計基準で
ある。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 109~111 頁】
今日,わが国の会計制度は,二分化と複線化の様相を呈している。そのことを図示した
のが以下の図表である。
77
−94−
−91−
−95−
会計基準の二分化と会計基準の複線化
単体
公認会計士
(または監
査法人)に
よる監査
日本基準
(J-GAAP)
監査義務
あり
財務諸表(または計算書類)
区分
会社数
連結
上場会社
日本基準
(J-AAP)
約3,600社
国際会計基準
(純粋IFRS)
金商法開示会社(①)
(上場会社以外)
米国基準
(US-GAAP)
約600社
日本版IFRS*
(J-IFRS)
会社法大会社(②)
(上場会社および①以
外)
(資本金5億円,または負
債総額200億円以上)
約12,000社
から上場会社,
①に含まれるも
のの数を除く
上記以外の株式会社
(上場会社,①および②
以外)
約260万社
から上場会社,
①,②に含まれ
るものの数を除
く
作成義務
なし
中小指針
中小会計要領
監査義務
なし
(会計監査
人設置会社
を除く)
* 日本版IFRS(修正国際基準)は,現在,策定中である。
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,109 頁
この図表では,次のことが示されている。
(1) わが国の会計制度は,
「大企業(上場企業)の会計」と「中小企業の会計」とに二分化
される傾向にある。このような二分化の基礎にあるのが,大企業と中小企業の属性の相
違である。企業属性が異なれば,そこで営まれる会計行為(会計慣行)も異なり,会計
慣行が異なれば会計制度(会計基準)も異なるとする認識が「中小企業の会計」の制度
的基盤を形作っている。
(2) 大企業(上場企業)には,現在,「IFRS(純粋 IFRS あるいは完全版 IFRS)」,
「米国基
準(US-GAAP)」および「企業会計基準(J-GAAP)」の3つの会計基準の適用が可能であ
るが,大多数の大企業(上場企業)の連結財務諸表・単体財務諸表は,企業会計基準委
員会が公表する「企業会計基準」(J-GAAP)に従って作成される。しかし,「大企業(公
開企業)の会計」にとって,会社法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」
78
−95−
−92−
−96−
は,
「純粋 IFRS」
,「米国基準」,
「企業会計基準」の3つの会計基準が並存しているが,
現在,企業会計審議会によって「日本版 IFRS」
(エンドースメントされた IFRS)の策定
が提案されていることから,将来的には,これを含めた4つの会計基準が並存すること
になる。
(3) 他方,中小企業には,中小指針または中小会計要領の適用が可能である。中小企業に
とって,中小指針と中小会計要領は,ともに会社法上の「一般に公正妥当と認められる
企業会計の慣行」であることから,「中小企業の会計」には,中小指針と中小会計要領
の2つの会計基準が並存していることになる。
(4) 「大企業の会計」と「中小企業の会計」の制度的な二分化は,国際的な動向である。
例えば,国際会計基準審議会(IASB)は,
「純粋 IFRS」のほかに,2009 年 7 月に,「中小
企業」(Small and Medium-sized Entities;SMEs)向けの IFRS(IFRS for SMEs;「中小
企業版 IFRS」)を公表した。この「中小企業版 IFRS」は「純粋 IFRS」を 10%程度に要
約・簡素化したものであるが,
「純粋 IFRS」から独立した単独の会計基準である。
「中小
企業版 IFRS」の公表を契機に,諸外国では,「中小企業版 IFRS」を適用するか,それと
も独自の中小企業会計基準を策定するかの議論が活発化している。
このように,今日の会計制度は,
「中小企業の会計」
(中小企業会計基準)を独立の会
計制度(会計基準)としてとらえ,会計制度の二分化が進行している。このような会計
制度の二分化の認識が中小会計要領の制度的定着化の基底になければならない。
イ.誤り(大企業(上場企業)には,現在,「IFRS(純粋 IFRS あるいは完全版 IFRS)」
,
「企業会計基準(J-GAAP)」以外に「米国基準(US-GAAP)」も適用可能である。)
エ.誤り(
「中小企業版 IFRS」は,「純粋 IFRS」の一部ではなく,「純粋 IFRS」から独立
した単独の会計基準である。)
よって正解は④となる。
79
−96−
−93−
−97−
問題 37
中小会計要領の普及・活用に関する次の記述のうち,カッコの中に入る正しい組み合わ
せを選択肢の中から1つ選びなさい。
・中小企業会計の社会的・経済的な意義は,会計に対する中小企業経営者の意識改革に
ある。中小企業経営者に,(
ア
)を認識させ,計算書類が中小企業の経営にとっ
ていかに重要な役割を担っているかを理解させることである。
・中小会計要領の普及を教育・指導の形で支援するのが,(
・中小会計要領の普及を行政指導の形で推進するのが,(
ウ
イ
)である。
)である。
・中小会計要領の普及を融資優遇策等の実質的な形で支援するのが,中小企業の計算書
類の主要な利用者である「金融機関」である。
選択肢
①
ア.売上向上の重要性
イ.会計専門職
②
ア.記帳の重要性
イ.大学等教育機関
③
ア.記帳の重要性
イ.会計専門職
④
ア.売上向上の重要性
⑤
ア.記帳の重要性
ウ.行政機関
ウ.商工会・商工会議所
ウ.行政機関
イ.大学等教育機関
イ.大学等教育機関
ウ.商工会・商工会議所
ウ.商工会・商工会議所
解説と解答【テキスト 111 頁~113 頁】
中小会計要領の普及・活用は,中小企業関係者が総力でそれに取り組む必要がある。中
小会計要領の実務面での普及で重要な役割を担っているのが,「行政機関」(中小企業庁・
金融庁等)
,
「経済界」(中小企業団体,金融機関),「会計専門職」(税理士・公認会計士)
である。中小会計要領の普及にあたっては,これら中小企業関係者が一丸となった協力体
制を構築する必要がある。このことを示したのが以下の図表である。
80
−97−
−94−
−98−
中小会計要領の普及の取り組み
行政機関
行政指導
中小会計要領
融資優遇策
計算書類
教育的指導
中小企業
会計専門職
金融機関
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,111 頁
この図表では,次のことを示している。
(1) 中小企業会計の社会的・経済的な意義は,会計に対する中小企業経営者の意識改革に
ある。中小企業経営者に,記帳の重要性を認識させ,計算書類が中小企業の経営にとっ
ていかに重要な役割を担っているかを理解させることである。中小指針の現状に関する
中小企業庁の実態調査では,
「計算書類の作成にあたり中小指針に準拠しているか」と
いう問に対して,「税理士等に任せているのでわからない」という回答が6割近くあっ
た。このように,会計に対する中小企業経営者の認識はかなり低いのが現状である。会
計は税務だけにあるのではなく,自らの経営に役立てることにあることを中小企業経営
者にしっかり意識させることが重要であり,その手段が中小会計要領に他ならない。
(2) 中小会計要領の普及を教育・指導の形で支援するのが,会計専門職(税理士・公認会
計士)である。会計専門職は,租税節約のために会計を軽視したり,記帳を意図的に欠
落させるような行為があってはならないことを,中小企業経営者に教育し指導するため
の手がかりとして,「中小会計要領」を活用させる必要がある。会計専門職は,簿記・
会計はビジネスを強くする有効な手段であることを中小企業経営者に深く理解させ,中
81
−98−
−95−
−99−
小企業のサバイバル(生き残り)にとって,必要不可欠な手段であることを認識させる
役割を担っている。
(3) 中小会計要領の普及を行政指導の形で推進するのが,
「行政機関」
(中小企業庁・金融
庁等)である。中小企業庁・金融庁は,関係政府機関に働きかけることによって,中小
会計要領の普及のための行政指導を行うことが期待される。例えば,各地方自治体が中
小企業の融資にあたり,必要書類としての計算書類の作成が中小会計要領に準拠してい
ることを認可の条件とすること等の措置が期待される。このような行政指導によって,
中小会計要領による計算書類の作成が動機づけられ,中小会計要領の中小企業への浸透
化が図られることになる。
(4) 中小会計要領の普及を融資優遇策等の実質的な形で支援するのが,中小企業の計算書
類の主要な利用者である「金融機関」である。例えば,計算書類の作成が,中小会計要
領に準拠していることを融資の条件とすること等の措置によって,中小会計要領の普及
を実質的に促進させることができる。
よって正解は③となる。
問題 38
中小企業経営力強化支援法の考え方に関する次の記述のうち,正しい組み合わせを選択
肢の中から1つ選びなさい。
82
−100−
−99−
−96−
ア.目的は,金融機関と経営革新等支援機関とのコラボレーションにより,中小企業の
財務経営力を強化させ,中小企業の成長・発展を促すことにある。
イ.経営革新等支援機関が,金融機関に対して,支援先の経営状況(損益計算書,貸借
対照表等)や資金繰り状況を的確に説明する。
ウ.中小企業の経営力強化には,支援機関・支援人材と地域金融機関の連携による経営
支援と資金供給が必要である。
エ.経営革新等支援機関は,補助金・助成金の活用によって,中小企業の資金調達力を
高めることが求められる。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 113 頁~115 頁】
「中小企業経営力強化支援法」が,2012 年 8 月 30 日に施行された。本支援法の目的は,
金融機関と経営革新等支援機関(税理士など)とのコラボレーションにより,中小企業の
経営財務力を強化させ,中小企業の成長・発展を促すことにある。経営革新等支援機関に
求められるミッションは,中小企業のビジネスドクターとしての役割であり,中小会計要
領に基づく信頼性ある計算書類の作成・活用によって,幅広い経営力支援の輪が拡大する
ことである。このことを図示したのが以下の図表である。
中小企業の経営力強化と中小会計要領
83
−101−
−100−
−97−
(2) 中小企業の経営力強化には,支援機関・支援人材と地域金融機関の連携による経営支
援と資金供給が必要であり,そのための具体的な施策として,①「中小企業の財務経営
力の強化」
,②「経営支援の担い手の多様化・活性化」
,③「支援機関と金融機関の連携
強化および人材育成」の3つが示されている。
(3) 「中小企業の財務経営力の強化」とは,①新たな会計ルール(中小会計要領)の整備・
活用と②自らの経営状況(損益計算書,貸借対照表等)や資金繰りへの説明力の向上に
よって,中小企業の財務経営力を図ることをいう。
(4) 「経営支援の担い手の多様化・活性化」とは,中小企業の新たなニーズに対応し,中
小企業に対して高度かつ専門的な経営支援を行う金融機関や税理士事務所等を取り込
むことにより,経営支援の担い手の多様化・活性化を図ることをいう。
(5) 「支援機関と金融機関の連携強化および人材育成」とは,金融と経営支援の一体的取
組(リレーションシップ・バンキング)を推進する観点から,支援機関と金融機関の連
携強化を図るとともに,高度で専門的な支援人材の育成を行うことをいう。
イ.誤り(経営状況や資金繰り状況を的確に説明する役割は中小企業経営者自身である。)
エ.誤り(資金調達力とは,経営者が金融機関等の外部者に対して,適時・正確に自社
の財務情報や経営状況を説明することである。
)
よって正解は④となる。
問題 39
計算書類の信頼性保証に関する次の記述のうち,正しいものの組み合わせを選択肢の中
から1つ選びなさい。
84
−102−
−101−
−98−
ア.会社法によれば,株式会社は,適時に,整然且つ明瞭に,正確かつ網羅的に会計帳
簿を作成しなければならないとされる。
イ.書面添付制度とは,税理士が,
「計算事項」等を記載した書面を申告書に添付して
提出した場合,税務調査にあたり書面の記載事項について,税理士に対して意見を
述べる機会を与える制度をいう。
ウ.会計参与とは,株主総会により選任され,会計に関する専門的識見を有する者とし
て,取締役・執行役と共同して計算書類を作成し,当該計算書類を取締役・執行役
とは別に保存し,株主・債権者に対して開示すること等をその職務とする会社の機
関をいう。
エ.会計監査人監査は,上場会社などの大会社に義務づけられた制度であり,中小企業
が会計監査人を選任することはできない。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 116 頁~119 頁】
以下の図表は,会社法の規定に基づいて,計算書類の信頼性保証の構図を示したもので
ある。
計算書類の信頼性保証の構図
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,116 頁
85
−103−
−102−
−99−
(1) 計算書類の信頼性保証の前提は,正確な会計帳簿である。会社法では,会計帳簿の記
帳要件について,会社計算規則で定めるところにより,「適時に,正確な会計帳簿を作
成しなければならない。
」(会社法 432 条1項)としている。
(2) 現行制度では,実質的に,中小企業の「適時かつ正確な会計帳簿」の作成を担保する
制度として,(ア)会計参与制度と(イ)書面添付制度の2つがある。その担い手は,会計専
門職(公認会計士・税理士)であり,その実践手段が「中小指針」または「中小会計要
領」である。
(3) 会計参与は,
「計算書類の共同作成」と「計算書類の別保管」を行うことを通じて,計
算書類の質的向上を図り,その信頼性を担保する役割が期待されている。
(4) 書面添付は,税理士が「計算事項」等を記載した書面を申告書に添付して提出するこ
とを通じて,申告書の基礎となる計算書類や会計帳簿の信頼性を担保する役割が期待さ
れている。
(5) しかし,会計参与制度と書面添付制度は,その利用状況がかなり低いという点に問題
があることから,その普及・活用の促進を図る一方,これらとは異なる何らかの保証制
度(例えば,中小企業監査制度)を構想する必要がある。
ア.誤り(会社法が要求しているのは,適時性と正確性である。
)
エ.誤り(×「選任することはできない」→○「選任できる」)
よって正解は②となる。
問題 40
会計参与制度に関する次の記述のうち,カッコの中に入る正しい組み合わせを選択肢の
中から1つ選びなさい。
86
−103−
−100−
−104−
・会計参与は,株主総会で選任される会社の独立した機関である。
・会計参与に就任できるのは,税理士および公認会計士といった会計に関する専門的識
見を有する一定の資格者である。
・会計参与の職務は,(
(
イ
ア
)・(
イ
)と共同して計算書類を作成し,(
ア
)・
)とは別に計算書類を保存し,株主・債権者に対して開示すること等である。
・会計参与の設置目的は,上記の3つの特徴を通じて,計算書類の記載の正確性に関す
る信頼を高め,
(
ウ )・
(
エ
)の保護および利便に資することである。
選択肢
①
ア.代表取締役
イ.監査役
ウ.債権者
エ.取引先
②
ア.取締役
イ.執行役
ウ.株主
③
ア.取締役
イ.監査役
ウ.債権者
④
ア.代表取締役
イ.取締役
ウ.株主
エ.債権者
⑤
ア.代表取締役
イ.監査役
ウ.株主
エ.債権者
エ.債権者
エ.取引先
解説と解答【テキスト 117 頁~118 頁】
会計参与制度は,2005 年6月に,会社法の成立とともに,創設された制度である。会計
参与とは,
「株主総会により選任され,会計に関する専門的識見を有する者として,取締
役・執行役と共同して計算書類を作成するとともに,当該計算書類を取締役・執行役とは
別に保存し,株主・債権者に対して開示すること等をその職務とする会社の機関」をいう。
このことから,会計参与制度の特徴は,次の4点に要約できる。
(ア) 会計参与は,株主総会で選任される会社の独立した機関であること
(イ) 会計参与に就任できるのは,税理士および公認会計士といった会計に関する専門的
識見を有する一定の資格者であること
(ウ) 会計参与の職務は,取締役・執行役と共同して計算書類を作成し,取締役・執行役
とは別に計算書類を保存し,株主・債権者に対して開示すること等であること
(エ) 会計参与の設置目的は,上記(ア)~(ウ)を通じて,計算書類の記載の正確性に関す
る信頼を高め,株主・債権者の保護および利便に資すること
87
−104−
−101−
−105−
このように,会計参与制度は,計算の虚偽表示を抑止するために,「計算書類の共同作
成」を,また,計算書類の改竄を防止するために,「計算書類の別保管」を行うことを通
じて,計算書類の信頼性を高めることを課題としている。しかし,会計参与を責任関係で
眺めてみると,一方で計算書類の「作成者」であり,他方でその正確性を保証する「監査
人」であるという「二重の義務負担者」として,外部監査人より重い責任を負わされてい
る。そのため,会計参与制度の普及状況は芳しいとはいえず,中小企業庁の調査によれば,
株式会社約 260 万社のうち,会計参与設置会社は 2,000 社程度とされる。
よって正解は②となる。
問題 41
書面添付制度に関する次の記述のうち,カッコの中に入る正しい組み合わせを選択肢の
中から1つ選びなさい。
・書面添付制度とは,
「税理士が税理士法(33 条の2および 35 条)に規定する『計算
事項』等を記載した書面を申告書に添付して提出した場合,税務調査にあたり書面の
記載事項について,税理士に対して意見を述べる機会を与える制度」をいう。
・ここで,
「計算事項」等とは,①(
ア
)事項,②(
イ
)事項,③(
ウ
)
事項をいう。会計事項は,上記①の事項としてその内容が明記されるため,書面添付
はある種の検証行為を意味する。
・書面添付は,申告書について,次の2つを明らかにする書類であるといってよい。
(ア) 税理士が申告書の作成にあたり,どの程度「内容に立ち入って検討」したか
(イ) その結果,税理士が申告書について,どの程度の「責任をもって作成」したか
選択肢
①
ア.会計指導した
イ.会計監査した
②
ア.計算・整理した
③
ア.会計指導した
④
ア.計算・整理した
イ.税務調整した
イ.会計監査した
イ.相談に応じた
イ.相談に応じた
ウ.審査した
ウ.税務調整した
ウ.審査した
88
−105−
−102−
−106−
⑤
ア.計算・整理した
イ.会計監査した
ウ.税務調整した
解説と解答【テキスト 118 頁~119 頁】
書面添付制度は,1956 年に税理士法に創設された制度であるが,ここでいう書面添付制
度とは,2001 年の税理士法改正により,新たにスタートした書面添付制度をいう。書面添
付制度とは,
「税理士が税理士法(33 条の2および 35 条)に規定する『計算事項』等を記
載した書面を申告書に添付して提出した場合,税務調査にあたり書面の記載事項について,
税理士に対して意見を述べる機会を与える制度」をいう。ここで,「計算事項」等とは,
①計算・整理した事項,②相談に応じた事項,③審査した事項をいう。会計事項は,上記
①の事項としてその内容が明記されるため,書面添付はある種の検証行為を意味する。つ
まり,書面添付は,申告書について,次の2つを明らかにする書類であるといってよい。
(ア) 税理士が申告書の作成にあたり,どの程度「内容に立ち入って検討」したか
(イ) その結果,税理士が申告書について,どの程度の「責任をもって作成」したか
このように,書面添付は,ある種の「証明行為」であることから,「『監査』と同類の性
格」を有するといってよい。つまり,わが国の確定決算主義のもとでは,申告書の基礎と
なる計算書類,さらには会計帳簿の信頼性を担保することを通じて,ある種の「税務監査
証明」としての役割が期待されている。
しかし,書面添付制度の現状は,会計参与制度と同様に,かなり厳しいものがある。書
面添付制度は,税理士に付与された会計専門職としての権利であるにもかかわらず,その
普及割合は 10%に満たないとされる。
よって,正解は④となる。
問題 42
1986 年5月に公表された「商法・有限会社法改正試案」
(以下では,
「改正試案」という)
で提示された「会計調査人制度」に関する次の記述のうち,正しい組み合わせを選択肢の
中から1つ選びなさい。
89
−106−
−103−
−107−
ア.
「調査の目的」は,計算書類(貸借対照表および損益計算書)が「相当の会計帳簿」
に基づいているかどうかを報告することにある。
イ.
「調査の目的」を充足するためには,「会計組織の整備状況の検証」「事実と記録と
の照応性の検証」
「記録と文書との照応性の検証」の3つの検証行為が必要とされる。
ウ.調査における「心証の程度」は,会計監査人監査(正規の監査)における心証の程
度が求められる。
エ.大会社監査をもとに,これを簡素化したものが中小会社監査であるため,両者の間
には,量的差異はあっても,質的差異はない。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 119 頁~121 頁】
以下の図表は,「中小企業監査制度(会計調査人制度)
」の原点である「改正試案」の提
案を要点的に示したものである。
中小企業監査制度(会計調査人制度)の概念的フレームワーク
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,119 頁
90
−107−
−104−
−108−
この図表から,
「中小企業監査制度(会計調査人制度)
」の特徴として,次の4点を指摘
できる。
(1) 「調査の目的」は,計算書類(貸借対照表および損益計算書)が「相当の会計帳簿」
に基づいているかどうかを報告することにあること(調査目的としての「会計帳簿の
相当性」
)
。この点で,会計調査人の「調査の目的」は,会計監査人の「監査の目的」
(財務諸表の適正性)とは異なっている。
「改正試案」でいう「会計帳簿の相当性」と
いう概念は,次のような外延と内包を有している。
①その外延(相当性の形態)は,(ア)「帳簿の備え付けのあること」と(イ)「確実な記帳
の仕組みが備わっていること」をいう。その場合,「確実な記帳の仕組み」は「公正
ナル会計慣行」
(現行の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」
)に委ねられ
ている。
②その内包(相当性の中身)は,(ア)「期間的なフロー」
(取引その他営業上の財産に影
(営業上の財産およびその価額)の状
響を及ぼす事項)と,(イ)「時点的なストック」
況をいう。
(2) 「調査の目的」を充足するためには,次の3つの検証行為が必要とされること。
①相当の会計組織(帳簿の備え付け,確実な記帳の仕組み)が備わっていることを確認
すること(
「会計組織の整備状況の検証」
)
②期末における財産(資産・負債)の実在性・網羅性・価額の妥当性(貸借対照表項目)
,
および期中における取引事実等の対応(損益計算書項目)が一応認められるかどうか
)
を吟味すること(
「事実と記録との照応性の検証」
③会計帳簿と計算書類(貸借対照表および損益計算書)との間に重要な不一致がないか
)
どうかを確認すること(「記録と文書との照応性の検証」
(3) 調査における「心証の程度」は,「一応の確からしさ」であり,会計監査人監査(正
規の監査)における心証の程度よりも低い程度のものでよいこと。その場合,次の2つ
のことが要請される。
①会計調査人は専門家としての「注意義務」をもって「調査方法」を適用すること
②調査の内容は「調査方法の概要」として明らかにすること
(4) 大企業と異なる中小企業の属性が,会計調査人調査の制約条件となっていること。大
企業と異なる中小企業の属性として,少なくとも次の3点を指摘できる。
①所有者管理の会社(所有者=経営者)であること
91
−108−
−105−
−109−
②内部統制が未整備であること
③会計担当者がいないか,いるとしても少数であること
そのため,これらの特質が,監査対象(会計事実),監査手続(会計処理の原則・手続),
監査結果(貸借対照表および損益計算書)のそれぞれの局面で,何らかの制約条件として
作用することになる。その結果,このような中小企業に固有の属性が大会社監査と中小会
社監査の質的差異をもたらすことになる。
中小企業では,監査役監査が無機能状態であるため,計算書類の信頼性が十分に担保さ
れているとはいいがたい。また,既に指摘したように,信頼性保証の現行制度の普及状況
を鑑みれば,外部専門家(例えば,会計調査人)による中小企業監査制度(会計調査人調
査制度)を何らかの形で確立する必要があろう。
ウ.誤り(調査における「心証の程度」は,「一応の確からしさ」である)
エ.誤り(大企業と異なる中小企業の属性が,会計調査人調査の制約条件となる)
よって正解は①となる。
92
−109−
−106−
−110−
第 10 講
中小企業会計の国際的動向
問題 43
「中小企業版 IFRS」は,「完全版 IFRS」を簡素化(simplification)したものであり,中
小企業のニーズと能力に合わせて作成された単独の基準書である。「中小企業版 IFRS」の
編成方針に関連する次の記述のうち,カッコの中に入る正しい組み合わせを選択肢の中か
ら1つ選びなさい。
①
適用対象の画定は,(
②
基本コンセプトは(
ア
ウ
)ではなく,(
イ
)によって決定すること
)から抽出し,それが「中小企業版 IFRS」の概念フレ
ームワークを形作ること
③
基本コンセプト,認識・測定原則,および開示・表示原則の修正は,(
エ
)の
ニーズとコスト・ベネフィット分析に基づくこと
選択肢
①
ア.質的基準
イ.量的基準
ウ.「完全版 IFRS」
エ.経営者
②
ア.質的基準
イ.量的基準
ウ.中小企業属性
エ.経営者
③
ア.量的基準
イ.質的基準
ウ.中小企業属性
エ.経営者
④
ア.量的基準
イ.質的基準
⑤
ア.質的基準
イ.量的基準
ウ.「完全版 IFRS」
ウ.「完全版 IFRS」
エ.財務諸表利用者
エ.財務諸表利用者
解説と解答【テキスト 122 頁~125 頁】
「中小企業版 IFRS」は,
「完全版 IFRS」を簡素化(simplification)したものであり,中
小企業のニーズと能力に合わせて作成された約 230 頁の単独の基準書である。
「中小企業版
IFRS 」 の 適 用 対 象 で あ る 「 SMEs ( 中 小 企 業 )」 と は ,「 (a) 公 的 説 明 責 任 の な い 企 業
(non-publicly accountable entities)であり,かつ,(b)外部の財務諸表利用者に一般目
的財務諸表を公表する企業」とされる。かかる「中小企業版 IFRS」の編成方針は,次のよ
うに要約できる。
①
適用対象の画定は,「量的規準」
(規模テスト)ではなく,
「質的規準」
(「公的説明
責任」の有無)によって決定すること
93
−110−
−107−
−111−
②
基本コンセプトは「完全版 IFRS」から抽出し,それが「中小企業版 IFRS」の概念
フレームワークを形作ること
③
基本コンセプト,認識・測定原則,および開示・表示原則の修正は,財務諸表利用
者のニーズとコスト・ベネフィット分析に基づくこと
このことから,
「中小企業版 IFRS」は,中小企業に固有の会計基準というよりも,
「完全
版 IFRS」の圧縮版として特徴づけることができる。
よって正解は④となる。
問題 44
中小企業会計の国際的動向に関連する次の記述のうち,正しいものの組み合わせを選択
肢の中から1つ選びなさい。
ア.
「中小企業版 IFRS」は,
「完全版 IFRS」を簡素化(simplification)したものであ
り,中小企業のニーズと能力に合わせて作成された単独の基準書である。
イ.AICPA(米国公認会計士協会)が公表した「FRF for SMEs」の目的は,経営者,債
権者およびその他の利用者が資源配分の意思決定を行い,または,経営者の受託責
任の評価を行うにあたり,有用な情報を伝達することにある。
ウ.英国では,IASB(国際会計基準審議会)が公表した「IFRS for SMEs」を中規模企
業の会計基準として採用している。
エ.韓国では,国際会計基準(IFRS)を上場企業のみならず,中小企業にも強制適用し
ている。
選択肢
①アイ
②イウ
③ウエ
④アウ
⑤アエ
解説と解答【テキスト 122 頁~130 頁】
以下の図表は,諸外国における会計制度の現状を示している。
諸外国における会計制度の現状
94
−111−
−108−
−112−
連結
財務諸表
上場
企業
個別
財務諸表
ドイツ
フランス
英 国
米 国
中 国
韓 国
・IFRS
(EU版IFRS)
・IFRS
(EU版IFRS)
・IFRS
(EU版IFRS)
・米国GAAP
・企業会計準則
・IFRS
(韓国版IFRS)
・IGB
・PCG
・FRS102(新英国
GAAP)
・米国GAAP
・企業会計準則
・IFRS
(韓国版IFRS)
・FRS101
・FRS102(新英国
GAAP)
・FRSSE
・中小企業版FRF
・[中小企業版米
国GAAP]*
・小企業会計準
則
・IFRS(韓国版
IFRS)
・一般企業会計
基準
・中小企業会計
基準
・任意
・適用なし
・適用なし
・確定決算方式
(損益経理要
件あり)
・確定決算方式
(損益経理要
件あり)
非上場企業(中小
企業):個別財務
諸表
・IGB
・PCG
「中小企業版IFRS」
への対応
・適用なし
・適用なし
・確定決算方式
(損金経理要件
あり)
・確定決算方式
(損金経理要
件あり)
税制との関係
* [
・FRS102
に反映
・分離方式
・分離方式
]の基準は,現在策定中であることを示している。
(出典)中小企業庁『諸外国における会計制度の概要<参考資料1>』(第7回中小企業の会計に関する研究会配付資料)経済産業省,
2010年9月,32-38頁の「まとめ表」を参考に,筆者が作成。
(出典)全国経理教育協会『中小企業会計テキスト』,126 頁
「中小企業版 IFRS」は,「完全版 IFRS」を簡素化(simplification)したものであり,
中小企業のニーズと能力に合わせて作成された単独の基準書である。AICPA(米国公認会計
士協会)が公表した「FRF for SMEs」の目的は,経営者,債権者およびその他の利用者が
資源配分の意思決定を行い,または,経営者の受託責任の評価を行うにあたり,有用な情
報を伝達することにある。
英国での「IFRS for SMEs」の導入方針は「公的説明責任のない大企業・中企業」が適
用対象であり,当初の全面導入からそれを FRS(英国財務報告基準)に取り込む方式に変
化している。
韓国では,2011 年1月から,上場会社に対して K-IFRS(韓国版 IFRS)が適用されてい
「一般企業会計基準」が適用され,
「中小企業版 IFRS」の適
るが,非上場会社に対しては,
用は認められていない。「一般企業会計基準」は,従来の K-GAAP を修正・補完する形で簡
素化したものであり,①現行の中小会社会計基準を基本的に維持すること,②財務諸表報
の作成負担を緩和化するため簡素化すること,③国際的整合性に配慮することといった方
95
−112−
−109−
−113−
針で策定されている。また,中小企業には,それをさらに簡素化した会計処理が認められ
ている。
ウ:誤り(
「IFRS for SMEs」
)は英国企業向けに修正され,財務報告基準書(FRS)第 102
号として公表されている。
エ:誤り(中小企業には,韓国 GAAP を簡素化した中小企業会計基準が適用される。)
よって正解は①となる。
問題 45
諸外国における中小企業会計の動向に関する次の記述がどの国に関連するものか,正し
い組み合わせを選択肢の中から1つ選びなさい。
ア.非上場会社(小企業)の連結財務諸表では IFRS または PCG(プラン・コンタブル・
ジェネラル),単体財務諸表では PCG が適用される。
イ.小企業には連結財務諸表の作成が免除されており,単体財務諸表は HGB に準拠して
作成される。HGB は,基本的にすべての会社に記帳義務と決算書の作成を義務づけ
ているが,会社の規模に応じて,開示情報の範囲や要求される財務諸表の詳細さは
異なっている。
ウ.IFRS が強制適用される上場企業(連結財務諸表)および FRSSE の適用を選択した
小規模企業を除けば,IFRS または FRS 第 102 号のいずれかを選択することになる。
エ.会計制度は,
「会計法」を上位の法律とし,
「企業会計制度」と「企業会計準則」の
2つの体系の規定で構成されている。このような会計制度の体系で,中小企業に対
しては,「企業会計制度体系」群から「小企業会計制度」(2005 年),また,「企業
会計準則体系」群から「小企業会計準則」(2013 年施行)が制定されている。
選択肢
①
ア.フランス
②
ア.英国
③
ア.ドイツ
イ.ドイツ
ウ.英国
エ.中国
ウ.ドイツ
エ.中国
ウ.フランス
エ.韓国
イ.フランス
イ.英国
96
−113−
−110−
−114−
④
ア.米国
イ.英国
⑤
ア.フランス
ウ.ドイツ
イ.ドイツ
エ.韓国
ウ.英国
エ.韓国
解説と解答【テキスト 125 頁~130 頁】
1
英国
英国は,「中小企業版 IFRS」の導入に前向きである。英国の ASB(英国会計基準審議会)
は,2010 年 10 月に,「方針提案:英国 GAAP の将来」(Policy Proposal:The Future of UK
GAAP)と題する会計制度改革案を提示し,中規模企業の財務報告基準に,
「中小企業版 IFRS」
を導入することを提案した。しかし,その後,この改革案は改訂され,当初の「中小企業
版 IFRS」の全面導入から,それを FRS(英国 GAAP)に取り込む方式に変化した。その結果,
2012 年 11 月に,FRS 第 101 号「軽減された開示フレームワーク」(Reduced Disclosure
Framework),そして,2013 年 3 月に,新しい英国 GAAP である FRS 第 102 号「英国に適用
される財務報告基準」(The Financial Reporting Standard applicable in the UK and
Republic of Ireland)が公表された。FRS 第 102 号(新しい英国 GAAP)は,
「中小企業版
IFRS」をベースとしているものの,英国会社法との整合性が図られるなどの修正が加えら
れている。その結果,英国の新しい会計制度では,端的にいえば,英国企業は,IFRS(EU
版 IFRS)が強制適用される上場企業(連結財務諸表)および FRSSE の適用を選択した小規
模企業を除けば,IFRS(EU 版 IFRS)または FRS 第 102 号のいずれかを選択することにな
る。
2
ドイツ
ドイツでは,小企業には連結財務諸表の作成が免除されており,単体財務諸表は HGB(ド
イツ商法典)に準拠して作成される。HGB は,基本的にすべての会社に記帳義務と決算書
の作成を義務づけているが,会社の規模に応じて,開示情報の範囲や要求される財務諸表
の詳細さは異なっている。
ドイツでは,2009 年 4 月に,BilMoG(会計法近代化法)が成立し,「逆基準性の原則」
「基準性
が廃止されるなど,HGB の会計規定の近代化が図られた。しかし,BilMoG では,
の原則」(わが国の確定決算主義に類似)は堅持されており,単体財務諸表が課税所得計
算の出発点であることに変わりはない。そのため,ドイツでは,「中小企業版 IFRS」は小
企業にとって過重負担であるとの認識が強いとされる。
97
−114−
−111−
−115−
3
フランス
フランスでは,非上場会社(小企業)の連結財務諸表では「EU 版 IFRS」または PCG(プラ
ン・コンタブル・ジェネラル),単体財務諸表では PCG が適用される。フランスの会計基
準設定機関である ANC(会計基準局)は,
「中小企業版 IFRS」の適用について消極的であり,
その理由として次の点を指摘している。
①
関連法規の改正が必要となり社会的コストが高まること
②
システムの組み替えなど小規模会社に過重な負担となること
③ 「中小企業版 IFRS」の目的は投資者への情報提供にあり,中小企業にはなじまない
こと
4
米国
米国では,中小企業の会計ルールは明示的には存在しない。そのため,中小企業には,
FASB(米国財務会計基準審議会)が公表する「米国 GAAP」または「OCBOA」(Other
Comprehensive Basis of Accounting;その他の包括的会計基準)と称される包括的な会計
基準が適用される。
「OCBOA」については,AICPA(米国公認会計士協会)がその手引書『現
金主義および税法主義による財務諸表の作成・開示方法』
(Ramos[1998])を公表しており,
これが「事実上の会計基準」(de facto standard)として機能している。
しかし,米国では,最近,中小企業会計について,次の二つの重要な動きがみられる。
(1) 2012 年 5 月に,FASB の母体組織である FAF(米国財務会計財団)の評議員会が,PCC
(非公開企業評議員会)を設置した。PCC では,「中小企業向け米国 GAAP(米国 GAAP の
簡素化)の可能性を問う討議資料「非公開企業の意思決定フレームワーク」(Private
Company Decision-making Framewok)を公表し,現在,その改定案が審議中である。
(2) これに対し,2013 年 6 月に,AICPA が「中小企業向け財務報告フレームワーク」
(Financial Reporting Framework for Small- and Medium-sized Entities;以下では,
「中小企業版 FRF」という。
)を公表した。
上記(2)の「中小企業版 FRF」は,OCBOA を公式化したものとされ,その特徴は,次のよ
うに要約できる。
①
「中小企業版 FRF」は原則(principles)をベースとした会計基準であること
98
−115−
−112−
−116−
②
「財務諸表の目的」については,主要な利用者を経営者および債権者とし,経営者
の「経営意思決定に対する役立ち」および債権者の「受託責任の評価に対する役立
ち」が重視されていること
③
「会計情報の質的特性」については,理解可能性,目的適合性,信頼性,比較可能
性の四つの特性が列挙されており,信頼性の構成要素に「保守主義」が含められて
いること
④
「財務諸表の構成要素」については,構成要素が二つのタイプ(財政状態計算書と
損益計算書)に区分され,包括利益が財務諸表の構成要素とされていないこと
⑤
「財務諸表の認識と測定」については,認識規準については,(a)適切な測定の基
礎の必要性と(b)便益の獲得または放棄の蓋然性が規定されていること。また,測
定の基礎については,歴史的原価(取得原価)が原則とされ,市場価値等の時価は
例外とされていることから,時価評価が必要な減損処理が要請されていない。
⑥
中小企業の実態に即して,米国税制との親和性が高いこと。例えば,棚卸資産の評
価方法で,後入先出法の適用が容認されている。
このような米国の中小企業会計では,わが国と同様の動きがみられ,AICPA の「中小企
業版 FRF」が「中小会計要領」に類似したアプローチを採用する一方,PCC の試みでは「中
小指針」に類似したアプローチが採用されている。
5
中国
中国の会計制度は,
「会計法」を上位の法律とし,「企業会計制度」と「企業会計準則」
の 2 つの体系の規定で構成されている。このような会計制度の体系で,中小企業に対して
は,
「企業会計制度体系」群から「小企業会計制度」
(2005 年),また,
「企業会計準則体系」
群から「小企業会計準則」
(2013 年施行)が制定されている。
「小企業会計準則」の本文は9章 77 条で,2つの付録から構成されている。
「小企業会
計準則」は,
「中小企業版 IFRS」に準拠しているとされるが,その分量は「中小企業版 IFRS」
より少なく,また,財務諸表の構成要素と定義についても,両者には相違がみられ,内容
的には,わが国の「中小会計要領」に近いものである。
6
韓国
99
−116−
−113−
−117−
韓国では,2009 年 11 月に,KASB(韓国会計基準審議会が,非上場企業に対して,「一般
企業会計基準」を制定しており,
「中小企業版 IFRS」の適用は認められていない。
「一般企
業会計基準」は,従来の K-GAAP を修正・補完する形で策定された簡便な会計基準であり,
①現行の中小企業会計基準を基本的に維持すること,②財務諸表の作成負担を緩和するた
め簡素化すること,③国際的整合性に配慮すること,といった方針で策定されている。
しかし,2013 年2月に,外部監査企業および公企業を除く企業(商法施行令第 15 条第
3 項)に対する会計基準として,
「中小企業会計基準」が公表された。これは,わが国の「中
小会計要領」と同様に,取得原価主義をベースとした簡素な会計基準であり,2014 年1月
から適用されている。
なお,非上場企業は,K-IFRS を任意適用できるが,いったんそれを適用した場合は原則
として,「一般企業会計基準」への移行は認められない。
よって正解は①となる。
100
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平成26年度
文部科学省委託事業
成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進事業
中小企業における経営基盤強化のための中核的経理財務専門職の養成プロジェクト
中 小 企 業 会 計 ワークブック
平成27年 2 月
発行
:
公益社団法人
全 国 経 理 教 育 協 会
〒170-0004
東京都豊島区北大塚 1-13-12
TEL
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本書の内容を無断で転記、記載することを禁じます。
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