欧州視察2005レポート(2) 従業員施策でみるCSR ―― 欧州企業、NGOの取り組み 前月に引き続き欧州企業のCSRを、 従業員施策をもとに紹介する。 今月は、 従業員を巻き込むため のオランダ、 デンマーク企業の工夫についてまとめた。 従業員を巻き込む 1. 日常業務の延長線上に設定 CSRとは適切な方法でビジネスを実践し、 長期的な企業価値を創造することだ。 そのためには、 C EOがCSRにコミットしなければならない。 CEO自体がコミットしないことにはCSRは機能し ない。 CEOの直轄でCSR専任部署が全社員にCSRを根付かせる活動をしている企業が多い。 日 本でも、 CSR部署をトップ直轄としている企業が多いのと同様だ。 ABNアムロ銀行では毎年、 あらゆる部署が次年度までにCSRに関する2つの目標を持ち、 その パフォーマンスを取締役と話し合わなければいけない、 としている。 それゆえ、 全行員がCSRから逃 れることはできない。 グループ全体で、 財務情報とともに、 監査の一環としてCSR指標がある。 だか ら、 CSRが企業活動の中枢に入ってくる。 そうしなければ、 CSRがグループに根付かない。 この情 報をウェブサイトやレポートで公開している。 さらに、 ABNアムロ銀行では、 CSRを社内で議論する際には 「ビジネスチャンス」 に焦点を絞っ ている。 なぜならば、 CSRは世界中の環境保全や貧困解消など幅広い概念を含むので、 議論が拡散し やすいからだ。 各部門には持続可能性に関する担当者を配置。 担当者だけで100人以上に上る。 そして、 すべての部長クラスにCSR理解のトレーニングへの参加を義務付けている。 社員教育の結果、 ABNアムロ銀行では、 すべての部門が持続可能性にかかわる発展性を理解した。 そして、 SRIへの投資が2倍に増加する効果もあった。 さらに、 外部の様々な機関に認められたこと も大きいようだ。 ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス (DJSI) などからの評価は、 従 業員が持続性への課題を推進していくために大変効果的だった、 としている。 2. 社外との交流 一般的に、 企業が、 ステークホルダーの声をくみ上げ、 真実を把握することには困難が伴う。 企業に 所属している人間に対しては、 NGOが身構えたり、 また、 その逆もある。 そこで、 NGOに社員を派遣 し、 社会的課題について学んでくる仕組みのある企業が多い。 そして、 NGOで学んだ知見を自社内に 戻って、 全社に報告するのだ。 デンマークの部品製造大手ダンフォスでは、 NGOに派遣した社員を各地の職場や取引先企業に出 張させている。 そして、 問題があれば解決方法を探らせている。 正確な事実を把握するために、 様々な ところから情報を収集している。 たとえば、 アムネスティ・インターナショナルなどのNGOと情報交 換をしながら対策を立てている。 最新海外レポート 日本経済新聞社 広告局 田邉 雄 また、 ダンフォスは社内アンケート調査も実施し、 実態把握に注力。 正確な情報を把握しなければ、 適切な行動が取れないからだ。 その結果を踏まえて、 すべてのリーダー職と調達部門の責任者に対し て研修を行っている。 今後、 営業部門にも実施する予定だ。 人権問題だけでなく、 外国でビジネスをする際に想定される摩擦や障害についても、 理解してもら うようにしている。 実際には、 地域によって文化が異なるので、 そうした場面に出くわしてから慌てて いては適切な対処ができない。 事前準備が大切なのは、 トラブルに直面したときに素早く解決できる から、 とダンフォスでは考えている。 3. 社外活動の支援 トップがCSRを推進しても、 従業員が必要性を認識していない場合が多い。 従業員に根付かせる ことは大きな課題だ。 CSRヨーロッパの国内版であるCSRオランダでは、 いくつかの企業と実験 的な取り組みをしている。 経営者の支援をもらうのは大事だが、 同時に従業員の関与が重要だからだ。 建設会社のフォンカーベッセルでは、 中堅社員がアルバニアの学校再建を支援している。 このプロ グラムでは、 発起人の若いマネジャーが他の従業員を集める。 また、 資金援助、 専門家の参画、 政府の支 援を獲得するため、 ネットワークを駆使してプロジェクトを推進しなければならない。 彼らは奮闘す るわけだが、 その熱心さに惹かれて参加してくる人々も多い。 企業も支援はするが、 若いマネジャーは自分のプライベートの時間を使って取り組むのが原則。 彼 らは取締役を説得して会社から資金を提供させる。 もともとは、 若いマネジャーがそうしたプロジェ クトに取り組みたいとの思いがあり、 それをCSR担当者がくみ取って経営陣に訴求したのだ。 そし て、 従業員のひとりがアルバニアの学校の現状を認識し、 経営陣を説得した。 多くのオランダ企業で同 様の事例がある。 そうした事例を推進していくのが、 CSRオランダの役割だ。 【企画・制作】 日本経済新聞社広告局
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