香港経済を語る上で欠かせないのは、中国人 財閥の存在です。香港では

香港経済を語る上で欠かせないのは、中国人
財閥の存在です。香港では、不動産業を中心ビ
ジネスとする財閥がいくつか存在します。新鴻
基
(サンフンカイ)
の郭3兄弟、恒基兆業
(ヘンダ
ーソン)
の李兆基、九龍倉
(ワーフ)
の呉光正らが
有名です。現在、それぞれの企業は本業の不動
産以外の各分野にも積極的に進出し、巨大なコ
ングロマリット
(複合企業)
と化しています。
中でも、『長江実業』を率いる李嘉誠(リ カシ
ン)は77歳を超えた現在でもその影響力は大き
く、香港・中国のみならずアジア経済までを動
かしているといわれています。
今回はこの李嘉誠という人物についてレポートします。
1.李嘉誠とは
先日、アメリカ経済紙フォーブスが毎年恒例となった世界長者番付(The World's
Billionaires)2006年版を発表しました。(表1)トップ10位以内にランクインしたアジア
人は1人のみで、その人物こそが華僑最大の資産家である李嘉誠なのです。
一代で現在の大財閥を築き上げた李嘉誠は香港ドリームの象徴となっています。
【李嘉誠の経歴】
○1928年中国広東省潮州に生まれ。太平洋戦争中家族とともに香港へ移住。
○1949年長江プラスティックという会社を設立。最初はうまく軌道にのらなかっ
たが、香港フラワー
(プラスティック製の造花で、戦後は枯れずに長持ちする花
として人気を博し、世界各国へと輸出された。)
が大ヒット。
○不動産業に転身、長江実業を設立。その後の不動産価格高騰により香港最大の
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不動産会社となる。
○1929年、HSBC(香港上海銀行)から資産規模で自社をはるかに上回るハチソ
ン・ワンポア社の買収に成功。当社を通して株式投資、不動産開発、ビル管理、
ホテル経営、スーパーマーケット経営等多分野に業務を拡大。
2.李嘉誠のグループ企業
李嘉誠率いるグループ企業は、(表2)のとおり世界最大規模を誇る香港の港湾HIT
(Hong Kong International Terminal )をはじめとして、不動産、通信、小売、電気と
多岐にわたっています。およそ香港で、彼の企業と関わりを持たずに人々が生活していく
ことは出来ない、といっても過言ではありません。
また、それぞれの企業の規模も大きく
(表3)のとおり、李嘉誠が経営する企業は香港株
式市場の時価総額ランキングトップ20の中に3社もランクインしており、グループ全体で
見ると市場全体の約10%を占めるまでになっています。
3.李嘉誠の評判
中国本土から、ほぼ無一文の状態で香港に移住し、このように巨大な財閥を築き上げた
李嘉誠のサクセスストーリーは、まさに香港ドリームの最たるものでしょう。
その一方で、グループの企業規模があ
まりにも巨大化してしまい、分野も多岐
にわたっているため、香港での経済活動
に伴う利益の多くが彼のもとに流れこん
でいる、という現状を問題視する声もよ
く聞かれます。先日も、彼が鳥インフル
エンザ対策への医療開発対策費を寄付し
た際、彼の経営する医療開発機関や製薬
会社を寄付金の使用先として指定して、
自社の利益に繋げているのではないかと
いう疑惑がおこりました。また、彼の企
業グループが、新しい企業の育成を阻害
世界最大級の港湾施設(HIT)
しているともいわれています。
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しかしながら、現在、失われつつある『どんな環境においても、最大の努力をし成功に
繋げる』という彼のバイタリティを現代の香港の若者に見習って欲しいという意見もあり
ます。
また、彼は、20億香港ドル
(約300億円)
で生まれ故郷の広東省に大学を創設したり、障
害者関連事業に対して、延べ2億香港ドル
(約30億円)
を寄付、スマトラ沖地震では300万
USドル
(約3億5千万円)
を寄付するなど香港で最大の慈善家としても知られています。
4.今後について
現在77歳である李嘉誠の企業グルー
プ後継者は、2人の子供が継いでゆくこ
とになるのでしょうが、企業の経営自体
は今でも、李嘉誠自身が実権を握ってお
り、地元の経済新聞で彼の名前を目にし
ない日はほとんどありません。ドラッグ
ストア『ワトソンズ』をはじめとする小
売業は香港のみならず、中国、アジア各
国で店舗展開を行なっています。ホテ
ル・不動産事業においても、中国本土を
中心として、積極的に海外展開を行って
います。アジア各国、特に、成長著しい
アジア各国で展開のワトソンズ(ドラッグストア)
中国本土と【李嘉誠】の関係は緊密化を
強めています。香港経済界で、今年上半期最大の話題である『中国銀行の香港証券取引所
上場』の際も大口投資家としてしっかりと名を連ねていました。いまだに、香港経済界で
彼の力は衰えてはいません。今後も香港、中国、さらにアジア経済の情勢をはかるうえ
で【李嘉誠】の動向には注目していく必要があるでしょう。
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