こちら

解答のヒント
課題文の読解
課題文の読解
今回の記事は今年7月に配信されたスマートフォン向けゲーム「ポケモン GO」の功
罪について述べたものです。
「ポケモン GO」については配信前から、その利点や問題点
が数多く報じられ、現在では一種の社会現象にまでなっています。今回の問題に取り組
んだ人のなかには「ポケモン GO」を実際にプレイしたという人もいるかもしれません。
ゲームという日常的で身近なものの中にも、小論文の課題になるような考える要素が潜
んでいる場合があります。
記事によると、
「ポケモン GO」はスマホの位置情報を使うゲームであり、ゲームで使
う道具を手に入れたり、ポケモン同士を戦わせたりするためには特定のエリアを実際に
回らなければならないということが分かります。ゲームといえば普通「家の中で画面を
眺めながらボタンを押す」という場面を想像しますが、
「ポケモン GO」をプレイするに
は実際に外に出なければなりません。仮想世界でゲームが完結するのではなく、「現実
世界と関わりを持った」ゲームであるというのがこのゲームの特徴です。
また、
「ポケモン GO」は、ゲームそのものが面白いというだけではなく、
「歩いたり運
動したりする機会が増えた」というように、副次的な効果も生んでいます。外出する人
が増えればそれを観光振興に利用することもできるため、ゲームの利用者向けの観光サ
ービスを始めたところもあると記事には書かれています。
一方、神社や平和祈念公園のような場所で、場の性格を考えずにゲームに没頭する人
たちも現われており、大きな問題になっています。記事に書かれていること以外にも、
最近の報道を見ると、
「ポケモン GO」に夢中になるあまり、
「歩きスマホ」が横行し、そ
れが事故やトラブルを誘発しているという問題も指摘されています。
解答の方向性を考える
解答の方向性を考える
◆「感想」から「立論」へ
では、記事を踏まえた上で、どのような論点を立てていけばよいかを考えていきまし
ょう。
今回の記事を読んで、みなさんはどのような感想を持ったでしょうか。私がこの記事
を読んで最初に感じたことは、「ゲームをプレイするとさまざまなトラブルが発生する
なら、あらかじめゲームの設定を変えたり、あるいはゲームそのものを禁止してしまえ
ばいい」という考えに対する「違和感」でした。
小論文の解答の方向性を探るには、課題文を読んだ時の「違和感」や「疑問」が一つ
の手がかりになります。それが自分の意見をつくるための出発点になるからです。もち
ろん、この「違和感」はあくまでも個人の感想です。同じ記事を読んでも「違和感」を
感じない人もいるでしょう。だから、主観的な感想にとどまるかぎり、他者を納得させ
ることはできないのです。他者を納得させるためには、なぜ「違和感」を感じたのか、
その根拠を明らかにする必要があります。
そこで今回の小論文講座では、この「違和感」がどのようなところから生じたのかを
掘り下げていくことによって解答を考えていきたいと思います。
◆「違和感」はどこから
◆「違和感」はどこから生じた
から生じたのか
生じたのか
私が今回の記事を読んで感じたのは、ゲームのプレイに関する問題を、「ゲームの設
定を変える」や「ゲームを禁止する」という方法で解決しようとすることに対する「違
和感」です。こうした解決策は、その場限りの対応であり、根本的な対策にはなってい
ないのではないでしょうか。
確かに、設定やルールによって、あらかじめゲームをプレイできないようにしてしま
えば、その場におけるトラブルは起きなくなるでしょう。しかし、ゲームのプレイヤー
がゲームそのものをやめるわけではありませんから、これではトラブルが発生する場所
が他へ移るだけで、社会全体の問題が解決したことにはなりません。また、記事に書か
れている「たばこの吸い殻が散乱していた」などという事例は、たまたま「ポケモン GO」
が大きく報道されたからこそ、これまであまり気にされてこなかった(少なくとも報道
で取り沙汰されるほど問題視されていなかった)喫煙のマナーの悪さが表面化しただけ
にすぎません。
このように考えると、ゲームの設定やルールよりも、ゲームのプレイヤーのふるまい
の方に、より大きな問題があると考えることができます。
私たちは新しい技術が実用化され、そこで問題が生じると、技術を開発した会社の不
備を非難したり、新しい技術に対応できるルールが確立されていないことを批判する傾
向があります。ここには、技術は起こりうるトラブルをあらかじめ想定し、それを未然
に防ぐべきだという考えがあると思われます。
例えば、日本の携帯電話の写真機能は、撮影時に必ず音がでるように設計されていま
す。携帯電話に写真機能がつけられてから、どこでも手軽に写真を取ることができるよ
うになりました。しかし、そうなると「盗撮」など写真機能を悪用しようと考える人が
出てくるのも事実です。写真機能の音はそうしたトラブルをあらかじめ防ぐために付与
されたものなのです。
今回のケースでは、ゲームに夢中になってプレイすれば、他のことへの注意が疎かに
なるのは、人間にとって当然の心理です。だからトラブルを未然に防ぐための、技術上
の安全設計やルールの確立に力を入れるべきだ、ということです。
こうした考えは一見理に適っているように思われます。安全設計やルールに従ってさ
えいれば、それだけで私たちはトラブルを免れることができるからです。使用者は自分
の思考や判断をほとんど働かせる必要がありません。これは非常に楽な方法です。
しかし、自分の行動について、自分で判断しなくてもよいという思考停止状態に慣れ
切ってしまうと、私たちは自分の思考力を鍛えることができなくなります。それでは想
定外の問題が起きたとき、自分でその問題について考え、判断することができなくなっ
てしまうのではないでしょうか。
◆記事の「解決策」に代わる案を考える
では、思考停止に陥ることなく、トラブルを解決するにはどうしたらよいのでしょう
か。私は、技術を使うことで生じる結果への「想像力」を鍛えることが重要ではないか
と考えました。
現在、技術は日々進歩しており、私たちができることもまた増えています。「ポケモ
ン GO」には、スマホの位置情報に関する技術が使われていますが、これは 2000 年代に
なって実用化されたものです。この技術によって現実の世界が「ポケモン GO」のゲーム
の舞台になり、私たちは理論上、どこでもゲームをプレイすることができるようになり
ました。たとえ、それが神社や平和祈念公園ばかりでなく、電車の線路の上や他者の住
宅地であったとしても。しかし、その場所の性質を考えた時、果たしてそこでゲームを
行うことが正しいのかどうかを、ゲームを始めるまえに自分に問いかけることもまたで
きるはずです。そうすることで、自分の行動を自分で制御することができるでしょう。
そして、そのためには技術の特徴を知っておくことが重要です。
例えば、電話とメールについて考えてみます。これらはどちらも遠くに離れた他者と
連絡をとるために開発された技術です。しかし、電話では相手からの返事をすぐにもら
うことができる一方で、相手の時間を拘束するという欠点があります。逆に、メールは
連絡を相手に送ってから、返事が来るまでの間にタイムラグがあったり、場合によって
は返事が返ってこないというような不都合が生じることもありますが、送り手、受け手
双方の時間をあまり気にする必要はありません。これらの特徴を知っていれば、夜に連
絡をとるときや、緊急に連絡をとりたいときには電話とメールのどちらがふさわしいか
を正確に判断することができるでしょう。
今回のゲームの特徴は、「現実世界に関わりを持っている」ということでした。そう
であれば、仮想世界のなかで完結するタイプのゲームとは違って、自分の楽しみのまま
にゲームに没頭することは許されません。現実世界に関わる以上、周囲の環境や他者と
の関係性に注意を向けなくてはならないからです。このように、そこに使われている技
術の特徴を踏まえれば、自分の行動に問題がないかどうかを、より適切に点検すること
ができるはずです。
解答例の構成について
解答例の構成について
以上の考察をまとめたものが、解答例です。
まず、第一段落では記事に書かれた内容の整理を行い、記事を読んで感じた「違和
感」について指摘しました。続いて、第二、三段落では、第一段落で指摘した「違和
感」がどのような観点から生じたのかを説明しています。また、第四、五段落では、
記事に書かれた対策に代わる解決策として「技術を使うことで生じる結果への『想像
力』を持つこと」、「技術の特徴を知ること」の二点をあげ、最終段落でまとめを行
っています。
最後に
今回は「技術」をテーマに、社会の問題を考えてみました。技術は私たちのさらなる
生活の向上を目指して、これからも進歩していくことでしょう。しかし、そこでは私た
ちの技術に対する姿勢が一層問われることを忘れてはなりません。
「ポケモン GO」はそ
の功罪がさまざまに取り沙汰されてきましたが、そこには人間が技術とどのように向き
合うべきかを考えるヒントが隠されているのではないでしょうか。
今回の解答例では、記事を読んで最初に感じた個人的な「違和感」をどうすれば他
者に説得的に説明できるかという観点から考えを深めていきました。今後、皆さんが
小論文を書く時の参考にしてもらえれば幸いです。
(田中
友美)