「推定胎児体重と胎児発育曲線」保健指導マニュアル(平成24年3月)

﹁推定胎児体重と胎児発育曲線﹂保 健 指 導 マ ニ ュ ア ル
「推定胎児体重と胎児発育曲線」
保健指導マニュアル
平成 24 年 3 月
平成
年 3月
24
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)
「地域における周産期医療システムの充実と医療資源の適正配置に関する研究」
(H21−子ども−一般−002)
「推定胎児体重と胎児発育曲線」 保健指導マニュアル
目 次
第1章 はじめに・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
第2章 超音波検査による胎児計測法について・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
第3章 推定胎児体重の計算法について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
第4章 「胎児発育曲線」と「在胎期間別出生時体格標準値」・
の違いについて・ ・・・・ 17
第5章 胎児発育評価法の実際・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
第6章 胎児発育異常が疑われる場合の対応・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
第7章 よくある質問と回答・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
はじめに
妊 婦 健 康 診 査 の 大 き な 目 的 の 一 つ は、 母 体 と 胎 児 が 健 康 で、 妊 娠 が 順 調 に 経 過
し て い る こ と を 確 か め る こ と で す。 胎 児 は 妊 娠 期 間 中 を 通 じ て 成 長 を 続 け ま す。
胎 児 が 週 数 に 応 じ て 順 調 に 発 育 す る こ と は、妊 娠 経 過 が 順 調 で あ る こ と の 必 要 条
件 で す。 胎 児 は 子 宮 内 に い る た め、 出 生 後 の よ う に 直 接 観 察 し た り 計 測 し た り
す る こ と が で き ま せ ん。 こ の た め、 胎 児 の 発 育 の 評 価 に は、 超 音 波 検 査 が 非 常
に 大 き な 力 を 発 揮 し ま す。 超 音 波 検 査 で は、 動 い て い る 胎 児 を リ ア ル タ イ ム に
観 察 し、そ の 大 き さ を 計 測 し て 発 育 状 態 の 評 価 を 行 う こ と が で き ま す。今 日 で は、
超 音 波 検 査 は 妊 婦 健 康 診 査 の 中 で、 欠 く こ と の で き な い 検 査 に な っ て い ま す。
平 成 24 年 度 の 母 子 健 康 手 帳 の 改 正 に よ り、母 子 健 康 手 帳 の 省 令 様 式(前 半 部 分)
の「妊娠の経過」 のページに超音波検査結果を記入できる欄が設けられるとと
も に、任 意 様 式 (後 半 部 分) に 「胎 児 発 育 曲 線」 が 掲 載 さ れ る よ う に な り ま し た。
今 後 は、 妊 婦 健 康 診 査 や 保 健 指 導 等 の 際 に、 こ れ ら の 情 報 を 活 用 す る こ と が で
き ま す。 そ の 一 方 で、 妊 婦 さ ん か ら は、 こ れ ま で 以 上 に 超 音 波 検 査 の 結 果、 特
に胎児について計測された数値や推定胎児体重に関連した相談や質問が増える
こ と が 予 測 さ れ ま す。
こ の マ ニ ュ ア ル は、 自 治 体、 医 療 機 関 等 で 妊 産 婦 へ の 保 健 指 導 を 担 当 す る 保
健 師、 助 産 師、 看 護 師 を 対 象 と し て、 妊 娠 中 に 行 わ れ る 超 音 波 検 査 装 置 を 用 い
た 胎 児 計 測 や 推 定 胎 児 体 重、 胎 児 発 育 曲 線 に 関 連 す る 質 問 等 に 適 切 に 対 応 す る
た め の 基 本 的 な 知 識 と 考 え 方 を 提 供 す る こ と を 目 的 と し て 企 画 さ れ ま し た。 妊
婦 健 康 診 査 の 際 の 保 健 指 導 や、 妊 産 婦 か ら の 問 い 合 わ せ の 際 等 に 幅 広 く ご 活 用
い た だ け れ ば 幸 い で す。
【胎 児 計 測】
通 常、 超 音 波 検 査 は、 ま ず 妊 娠 が 判 明 し た 時 点 で 行 わ れ、 そ の 際、 胎 児 の 心
拍 等 の 確 認 が 行 わ れ ま す。 そ の 後、 母 子 健 康 手 帳 等 が 交 付 さ れ、 標 準 的 な 妊 婦
健 康 診 査 の 中 で は、 妊 娠 23 週 ま で の 間 に 2 回、 妊 娠 24 週 か ら 35 週 ま で の 間 に 1
回、36 週 以 降 に 1 回 実 施 す る こ と と さ れ て い ま す (1-1)。
妊 娠 中 の 超 音 波 検 査 は、 胎 児 の 生 存 の 確 認、 分 娩 予 定 日 の 決 定、 胎 児、 胎 盤、
臍 帯 な ど の 形 態 異 常 の 有 無 の 診 断、 胎 児 の 発 育 の 評 価、 胎 児 の 元 気 さ の 評 価 等、
多 く の 目 的 を も っ て い ま す。 こ の う ち 胎 児 発 育 の 評 価 で は、胎 児 の 頭 部、躯 幹 部、
図 1-1 胎児発育曲線
四 肢 に つ い て、基 準 と な る 断 面 を 決 め、あ ら か じ め 決 め ら れ た 部 位 を 計 測 し ま す。
そ し て、 正 常 発 育 を し て 生 ま れ た 新 生 児 の 妊 娠 中 の 計 測 値 か ら 作 っ た 妊 娠 週 数
ご と の 基 準 値 と 比 較 す る こ と で、 そ の 胎 児 の 発 育 の 程 度 を 評 価 し ま す。 詳 し い
計 測 法 は、 第 2 章 「胎 児 計 測 の 実 際」 で 説 明 し ま す。
【推 定 胎 児 体 重 の 計 算】
新 生 児 や 乳 児 の 発 育 を 評 価 す る た め の 指 標 と し て は、 体 重 が 広 く 使 わ れ て い
ま す。 胎 児 も 体 重 を 推 定 で き れ ば、 妊 婦 や そ の 家 族 が、 胎 児 の 順 調 な 発 育 の 様
子 を 具 体 的 に イ メ ー ジ で 理 解 す る こ と が で き る ば か り で な く、 出 生 後 の 状 態 を
予 測 す る た め に も 非 常 に 有 用 な 情 報 と な る こ と が 期 待 さ れ ま す。 し か し、 超 音
波 検 査 で 実 際 に 計 測 で き る の は、 胎 児 の 身 体 の 特 定 の 部 位 の 長 さ や 面 積 だ け で
す。 こ れ ら の 数 値 は そ れ ぞ れ の 部 位 の 発 育 を 評 価 す る 上 で 有 用 で す が、 い く つ
か の 計 測 値 を 組 み 合 わ せ る こ と で、 身 体 全 体 の 発 育 の 総 合 的 な 評 価 の 指 標 を 作
る こ と が で き れ ば、 も っ と 役 に 立 つ こ と が 期 待 で き ま す。 そ の よ う な こ と か ら、
超 音 波 検 査 の 際 の 胎 児 計 測 値 を 利 用 し て、 胎 児 の 体 重 を 推 定 す る 方 法 が 研 究 さ
れ て き ま し た。
現 在 わ が 国 で 使 用 さ れ て い る 胎 児 体 重 の 推 定 方 法 に つ い て は、 第 3 章 「推 定 胎
児体重の計算法」 で詳しく説明します。 この方法を用いると、 胎児の体重を
± 10% の 誤 差 の 範 囲 で 推 定 す る こ と が で き る と 言 わ れ て い ま す。
正 期 産 の 新 生 児 の 体 重 は 2,500g か ら 3,999g ま で が 正 常 と さ れ て い ま す。従 っ て、
新 生 児 発 育 は 3,250 g を 中 心 に ± 750g と い う 大 き な 幅 を も っ て い る の が 普 通 で あ
る と い う こ と に な り ま す。 こ の よ う な 新 生 児 体 重 の 違 い は、胎 児 自 身 が 本 来 も っ
ている遺伝的な素因と子宮内の環境・発育条件の違いによるものと考えられて
い ま す。 出 生 す る と き と 同 じ よ う な 体 重 の 違 い は、 当 然 胎 児 期 に も 存 在 し ま す。
胎 児 発 育 を 評 価 す る 際 に は、 胎 児 の 発 育 が あ る 程 度 の 幅 の 中 に は い っ て い る か
を 確 認 で き れ ば 良 い こ と に な り ま す。
【胎 児 評 価 に お け る 胎 児 発 育 曲 線 の 活 用】
図 1-1 に 示 す 胎 児 発 育 曲 線 は、 推 定 さ れ た 胎 児 体 重 を 評 価 す る た め の 基 準 に な
る も の で す。こ の 曲 線 は、多 数 の 正 常 な 体 重 で 生 ま れ た 新 生 児 の 妊 娠 中 の 計 測 値、
つ ま り 「結 果 的 に 正 常 に 生 ま れ た 胎 児」 の 計 測 値 か ら、同 じ 計 算 方 法 で 算 出 さ れ
た 推 定 体 重 を も と に 作 ら れ て い ま す。推 定 体 重 に は あ る 程 度 の 誤 差 が あ り ま す か
ら、胎 児 の 性 別・初 産 経 産 に よ る 違 い は、実 用 上 考 慮 す る 必 要 が な い こ と が わ か っ
て い ま す。 正 常 な 体 重 で 生 ま れ る 児 の 約 95.4% は こ の 上 下 二 本 の 曲 線 の 間 に は い
り ま す。 胎 児 発 育 曲 線 に 実 際 の 計 測 値 に 基 づ い た 推 定 胎 児 体 重 を 書 き 入 れ る こ
と で、 胎 児 の 発 育 の 状 態 が わ か り や す く な り ま す。 実 際 の 評 価 方 法 に つ い て は、
第 5 章 か ら 第 7 章 で 詳 し く 解 説 し ま す。
参考文献
1-1) 平 成 21 年 2 月 27 日 雇 児 母 発 第 0227001 号「 妊 婦 健 康 診 査 の 実 施 に つ い て 」
厚 生 労 働 省 雇 用 均 等 ・ 児 童 家 庭 局 母 子 保 健 課 長 通 知 http://www.mhlw.
go.jp/stf/houdou/2r98520000006wwl-img/2r98520000006wyx.pdf)
第 2 章 超音波検査による胎児計測法について
1) 妊 婦 健 診 の 際 の 超 音 波 検 査 に つ い て
① 妊 婦 健 診 に お い て 各 時 期 に 目 的 に 応 じ た 超 音 波 診 断 は 有 用 で す が、 毎 回 超 音
波 胎 児 計 測 す る こ と が 医 学 的 に 正 し い わ け で は あ り ま せ ん。 胎 児 の 体 重 の 発
育 を と ら え る の で あ れ ば、 妊 娠 中 の 超 音 波 計 測 は、 特 に 異 常 が な け れ ば、5 回
程 度 実 施 す れ ば 十 分 で、 妊 婦 健 診 毎 に 超 音 波 検 査 を 実 施 す る 医 学 的 な 必 要 性
は あ り ま せ ん。
② 妊 娠 中 は 長 時 間 あ お む け に 寝 た 姿 勢 で い る と、 気 分 が 悪 く な る、 胸 が ど き ど
き す る な ど の 症 状 が お き る こ と が あ り ま す。 妊 娠 し て 大 き く な っ た 子 宮 と 背
骨 と の 間 に 下 大 静 脈 が 圧 迫 さ れ、 心 臓 に 戻 る 血 液 が 一 時 的 に 減 少 す る こ と が
原 因 で、 仰 臥 位 低 血 圧 症 候 群 と 呼 ば れ て い ま す。 超 音 波 検 査 の 時 は、 妊 婦 の
体 位 は 上 体 を 少 し 上 げ る よ う に し ま す ( セ ミ フ ァ ー ラ ー 位 )。 そ れ で も 頻 脈、
気 分 不 良 を 訴 え る な ら 側 臥 位 で 検 査 を 行 い ま す。
③ 妊 婦 ・ 胎 児 の 評 価 は 妊 娠 週 数 を 考 え た 管 理 が 重 要 で、 こ の 時 間 軸 が 正 確 で あ
る こ と が 必 要 で す。 分 娩 予 定 日 や 妊 娠 週 数 は 通 常 は 最 終 月 経 初 日 を 基 点 と し
て 計 算 さ れ ま す が、 妊 娠 初 期 に 超 音 波 検 査 を 行 っ て、 妊 娠 週 数 ( 分 娩 予 定 日 )
と 胎 児 の 発 育 に ず れ が な い こ と を 確 認 し、 ず れ て い る 場 合 に は 妊 娠 週 数 ( 分
娩 予 定 日)を 修 正 す る の が 普 通 で す。胎 児 計 測 値 や 推 定 体 重 を 評 価 す る 際 に は、
妊 娠 週 数 を 再 確 認 す る こ と を 心 が け ま し ょ う。
④ 胎 児 発 育 の 評 価 は、 児 の 大 横 径、 腹 囲、 大 腿 骨 頭 長 の 計 測 値 と そ れ ら か ら 計
算 さ れ る 推 定 胎 児 体 重(EFW: Estimated Fetal Weight)の 値 を も と に 行 い ま す。
推 定 胎 児 体 重 だ け で は な く、 各 部 位 の 計 測 値 も 含 め て 総 合 的 に 判 断 す る こ と
が 大 切 で す。
2) 超 音 波 計 測 の 実 際
胎 児 の 基 本 的 な 胎 児 計 測 断 面 と 計 測 法 を 以 下 に 示 し ま す。
① 子宮内の観察
ま ず、胎 児、羊 水、胎 盤 の 全 体 像 を 確 認 し ま す。 次 に、胎 児 の 向 き (胎 位、胎 向)
を 確 認 し、 画 面 の ど ち ら が 胎 児 の 左 右 か を 確 認 し ま す。
図 2-1 児頭大横径(BPD)の計測
ㅘ᣿ਛ㓒⣧
㗡⬄㛽䈱ᄖ஥
྾ਐ૕ᮏ
೨
ᓟ
㗡⬄㛽䈱ౝ஥
② 児 頭 大 横 径 (BPD: biparietal diameter) の 計 測 (図 2-1)
胎 児 頭 部 の 正 中 線 エ コ ー(midline-echo)が 中 央 に 描 出 さ れ、透 明 中 隔 腔(septum
pellucidum)お よ び 四 丘 体 槽(cisterna corpora quadrigermina)が 描 出 さ れ る 断 面 で、
超 音 波 プ ロ ー ブ に 近 い 頭 蓋 骨 外 側 (Out) か ら 対 側 の 頭 蓋 骨 内 側 (In) ま で の 距
離 を 計 測 し ま す。
③ 胎 児 腹 部 の 計 測 (図 2-2)
腹 部 周 囲 長 (AC: abdominal circumference) ま た は 腹 部 前 後 径 (APTD:
antero-posterior trunk diameter) × 腹 部 横 経 (TTD:transverse trunk diameter) を
用 い ま す。 体 重 測 定 の 誤 差 に 最 も 関 与 す る の が こ の 腹 部 計 測 値 な の で、 正 確 な
基 準 断 面 で の 計 測 が 重 要 で す。
計 測 断 面 は 胎 児 の 腹 部 大 動 脈 に 直 交 す る 断 面 で、 胎 児 の 腹 壁 か ら 脊 椎 ま で の 距
離 の 前 方 1/3 か ら 1/4 の 部 位 に 肝 内 臍 静 脈 が 描 出 さ れ、 同 時 に 胃 胞 が 描 出 さ れ る
断 面 を 設 定 し ま す. 肝 内 臍 静 脈 の 走 行 は 躯 幹 の 長 軸 に 垂 直 で は な い の で、 臍 静
脈 が 長 く 描 出 さ れ る 断 面 (図 2-3) は 使 用 し ま せ ん。
腹 壁 か ら 脊 椎 棘 突 起 先 端 ま で を APTD、 こ れ に 直 交 す る 横 径 を TTD、 腹 部 の
外 周 の 周 囲 長 を AC と し て 計 測 し ま す。AC は 直 交 す る 2 直 線 ( 通 常 は 前 後 径 と
図 2-2 胎児腹部(AC、APTD、TTD )の計測
⣄ᬁ
AC
APTD
ᓟ
೨
TTD
⤯㕒⣂
⢗⢩
図 2-3 胎児腹部計測断面
臍静脈
臍静脈
下行大動脈
下行大動脈
○ A:正しい腹部断面計測位置
× B: 臍 静 脈 の 走 行 は 躯 幹 の 長
軸 と 垂 直 で は な い た め、
臍静脈が長く描出される
断面では計測しない
横径) により作成される楕円で腹部周囲長を近似計測するエリプス (近似楕円)
法 に よ る 計 測 し ま す。
④ 大 腿 骨 長 (FL: Femur length) の 計 測 (図 2-4)
大 腿 骨 の 長 軸 が 最 も 長 く、 両 端 の 骨 端 部 ま で 描 出 さ れ る 断 面 で 化 骨 部 分 の 両
端 の エ コ ー の 中 央 部 分 の 距 離 と し ま す。 妊 娠 中 期 以 降 は 長 幹 骨 の す べ て が 描 出
さ れ る わ け で は な く、 超 音 波 ビ ー ム に 近 い 一 部 の 反 射 エ コ ー し か 描 出 さ れ な い
こ と を 念 頭 に お き、 可 能 な 限 り、 骨 端 化 骨 部 の 中 央 部 分 の 直 線 距 離 を 計 測 す る
よ う に 心 が け ま す。
図 2-4 大腿骨長(FL:Femur length)の計測
ᄢ⣽㛽
10
第 3 章 推定胎児体重の計算法について
1) 胎 児 体 重 推 定 式
胎 児 体 重 を 推 定 す る 医 学 的 な 意 味 は、通 常 と は 発 育 の 仕 方 が 違 う 胎 児 を 見 つ け
る こ と に あ り ま す。 そ れ を 手 が か り と し て、 発 育 の 異 常 や 病 的 な 胎 児 な ど、 特
別 な 医 療 上 の ケ ア が 必 要 な 児 を 診 断 し て い き ま す。
我 が 国 で 標 準 的 に 用 い ら れ て い る 胎 児 体 重 推 定 式 は、 以 下 の 様 な も の で す。
EFW (g) = 1.07 × BPD (cm)3 + 3.42 × APTD (cm) × TTD (cm) × FL (cm) EFW (g) = 1.07 × BPD (cm)3 + 0.30 × AC (cm)2 × FL (cm)
EFW :estimated fetal weight
BPD :biparietal diameter
APTD:antero-posterior trunk diameter
TTD :transverse trunk diameter
FL
:femur length
AC :abdominal circumference
推定胎児体重
児頭大横径
躯幹前後径
躯幹横径
大腿骨長
躯幹周囲長
推 定 胎 児 体 重 (EFW) は こ の 二 つ の 式 の ど ち ら か を 用 い て 計 算 さ れ ま す。
図 3-1 胎児体重推定式の原理
胎児体重=頭部の重さ+躯幹の重さ
重さ=比重X体積
EFW= 1.07 × BPD3 + 2.91 × APTD × TTD × SL
EFW= 1.07 × BPD3 + 3.42 × APTD × TTD × FL
Shinozuka 1987
EFW= 1.07 × BPD3 + 0.30 × AC2 × FL
Modified Shinozuka 2000 = JSUM 2003
11
こ の 式 は、「胎 児 身 体 モ デ ル」(図 3-1) に 基 づ い て 作 ら れ て い ま す (3-1)。
ヒ ト の 胎 児 に は 頭 部 が 大 き く、 手 足 や 首 が 短 い と い う 特 徴 が あ り ま す。「 胎 児
身 体 モ デ ル 」 で は こ の 特 徴 を と ら え、 胎 児 を 頭 部 と 躯 幹 に 分 け て、 そ れ ぞ れ の
体 積 か ら 体 重 を 推 定 す る と い う 方 法 が と ら れ て い ま す。式 の 形 そ の も の に 意 味 が
あ る、単 純 で わ か り や す い 理 論 式 で す。こ の 式 に は 以 下 の よ う な 特 徴 が あ り ま す。
1)出 生 直 後 の 新 生 児 の 比 重 ・ 体 積 の 実 測 値 を 用 い て 胎 児 の 体 重 を 頭 部 の 重 さ +
躯 幹 の 重 さ で 表 し た 理 論 式 で す。 式 の 第 1 項 :1.07 × BPD3 が 頭 部 の 重 さ に、
第 2 項 :3.42 × APTD × TTD × FL ま た は 0.30 × AC2 × FL が 躯 幹 部 の 重 さ
に 相 当 し て い ま す。
◦ APTD、TTD と AC の 間 に は、APTD × TTD = 0.089 × AC2 と い う 関 係 式
が 成 り 立 ち ま す。 二 つ の 式 は 全 く 同 等 な の で、 ど ち ら を 使 っ て も か ま い
ま せ ん。
2)実 測 の 超 音 波 計 測 値 を 集 め て 作 成 さ れ た、 回 帰 式 で あ り ま せ ん。
3)推 定 精 度 の 向 上、 妊 娠 週 数 や、 体 重 に よ る 偏 り が 少 な く な る よ う に 作 ら れ て
い ま す。 胎 児 発 育 不 全 (FGR) な ど の た め に 体 型 や プ ロ ポ ー シ ョ ン の 異 な る
胎 児 で も、 一 定 の 誤 差 範 囲 (± 10%) で の 胎 児 の 体 重 推 定 が 可 能 で す。
2) 胎 児 計 測 法 と 胎 児 推 定 体 重 式 の 標 準 化
1990 年 代 に な っ て、 周 産 期 医 療 の 現 場 か ら、 胎 児 の 計 測、 体 重 の 推 定 法 そ し
て そ の 評 価 方 法 ( 基 準 値 ) を 統 一 し、 標 準 化 し よ う と い う 意 見 が 出 さ れ ま し た。
そ し て 1997 年 か ら、 標 準 化 に 向 け た 具 体 的 な 議 論 が 日 本 超 音 波 医 学 会 胎 児 計 測
標 準 化 小 委 員 会 で は じ ま り ま し た。 そ の 結 果、2003 年 に、「 超 音 波 胎 児 計 測 の 標
準 化 日 本 人 の 基 準 値」が、学 会 と し て 正 式 に 採 択 さ れ る こ と に な り ま し た(3-2)。
胎 児 の 腹 部 計 測 法 に つ い て は そ れ ま で 幾 つ か の 方 法 が 行 わ れ て い ま し た が、
結 局 は 胎 児 の 腹 囲 計 測 値 を 用 い る こ と で、 同 意 が 得 ら れ ま し た。 推 定 胎 児 体 重
(EFW) 基 準 値 ( 胎 児 発 育 曲 線 の も と に な っ て い る デ ー タ ) や 超 音 波 計 測 値 の 基
準 値 は 1996 年 に 論 文 発 表 (3-3) さ れ た も の を 基 本 と し ま す。2005 年 に は 日 本 産
科 婦 人 科 学 会 で も 承 認 さ れ ま し た。( 詳 細 は、 以 下 の URL で 覧 く だ さ い。http://
www.jsog.or.jp/public/shusanki_20111024.html)
12
3) 推 定 胎 児 体 重 の 正 確 さ に つ い て
当 然 の こ と で す が、 胎 児 計 測 の 各 部 位 の 数 値 が 正 確 で な い と 正 確 な 推 定 胎 児
体 重 を 計 算 す る こ と は で き ま せ ん。 胎 児 の 位 置 や 姿 勢 に よ っ て は、 胎 児 計 測 が
難 し い 場 合 が あ り ま す。 特 に 胎 児 の 頭 部 が 骨 盤 内 に 入 り 込 ん で い る と き は、 児
頭 大 横 径 (BPD) を 正 確 に 計 測 で き ま せ ん。 不 正 確 か も し れ な い と わ か っ て い る
数 値 が あ っ て も 判 断 が 難 し く な る だ け な の で、 そ の よ う な と き は 推 定 胎 児 体 重
は 計 算 し な い よ う に し ま す。 そ の 場 合 の 胎 児 発 育 の 評 価 は、 正 確 に 計 測 さ れ た
と 考 え ら れ る 計 測 値 に つ い て、 行 う よ う に し ま す。
胎 児 計 測 が 問 題 な く 行 わ れ た 場 合、 推 定 胎 児 体 重 で 誤 差 が 生 じ る 理 由 と し て
は、 二 点 を 考 慮 す る 必 要 が あ り ま す。
一 つ は、 超 音 波 ( 音 波 に は 反 射、 減 衰、 散 乱 な ど の 物 理 的 な 特 性 が あ り ま す )
を 用 い る こ と に よ る 原 理 的 な 誤 差 で す。 も う 一 つ は、計 測 を す る 人 に よ る ヒ ュ ー
マ ン エ ラ ー で す。
超 音 波 は 生 体 内 の 組 織 の 反 射 波 か ら そ の 距 離 を 推 定 し ま す。 超 音 波 診 断 装 置
は 組 織 内 の 音 速 を 1,530m/sec で 一 定 な も の と 仮 定 し、 画 像 を 作 り、 距 離 を 計 算 し
ま す。 し か し 実 際 に は、 音 波 と い う も の の 物 理 的 な 性 質 の た め、 生 体 内 の 音 速
は 完 全 に 一 定 で は あ り ま せ ん、 ま た 組 織 内 で 超 音 波 の 周 波 数 が 変 化 す る こ と も
あ り ま す。 そ の 結 果、5MHz の 周 波 数 の 超 音 波 を 用 い た 場 合、 計 測 の 精 度 は た か
だ か 0.5mm 程 度 で す。 ま た 超 音 波 ビ ー ム の あ た る 方 向 に よ っ て も、 計 測 の ば ら
つ き が 生 じ ま す。
実 際 の 計 測 は、 人 間 が 画 像 上 で カ ー ソ ル を 動 か し て 行 っ て い ま す。 そ こ で も
あ る 程 度 の 誤 差 は 入 り 込 む こ と は 避 け ら れ ま せ ん。
以 上 の よ う な 理 由 で、 超 音 波 計 測 値 を 用 い て 計 算 す る 体 重 の 推 定 値 に は 10%
程 度 の 誤 差 は 避 け ら れ ま せ ん。
体 重 が 大 き い ほ ど 誤 差 が 大 き い の で は な い か と い う 意 見 が あ り ま す が、 そ れ
は 誤 解 で す。10 % の 誤 差 と い う こ と は、1,000 g の 体 重 で は ± 100 g、2,000 g で
は ± 200 g の 推 定 精 度 を 持 つ よ う に 作 ら れ て い る と い う こ と で す。
推 定 式 の 精 度 に 関 す る デ ー タ を 以 下 に 示 し ま す。
出 生 時 の 体 重 を LFD(light for date: 週 数 と 比 較 し て 出 生 体 重 が 軽 い 児)、AFD
(appropriate for date: 週 数 相 当 の 出 生 体 重 の 児)、HFD(heavy for date: 週 数 と 比
べ て 出 生 体 重 が 重 い 児)ご と に 検 討 し た と こ ろ(図 3-2、3-3)、広 い 体 重 の 範 囲(450g
~ 4,800g) で LFD な ど の 発 育 異 常 を と も な う 児 で も 偏 り の な い 体 重 推 定 が 可 能
13
な こ と が わ か り ま し た (3-1)。
AC を 用 い た 二 番 目 の 式 で 再 検 討 す る と、 出 生 体 重 に 対 す る 誤 差 は - 0.01 ±
9.63% で あ る こ と が わ か っ て い ま す (文 献 3-4、3-5)。
4) 推 定 胎 児 体 重 を 計 算 す る 際 の 留 意 点
◦ 骨 盤 位 の 場 合 : 骨 盤 位 の 場 合、 頭 の 形 が 前 後 に 長 く 横 径 が 短 い ( 長 頭 蓋 ) 形
を し て い る こ と が あ り ま す。 そ の 場 合、 児 頭 大 横 径 (BPD) は 短 く 計 測 さ れ
る こ と に な り ま す。 実 際 に 長 頭 蓋 の 場 合 と、 計 測 時 に 超 音 波 探 触 子 を 押 し つ
図 3-2 胎児推定体重と実際の出生体重との関係
(縦軸:胎児推定体重 横軸:出生体重)
△:LFD,+:AFD, □ : HFD
14
け て 計 測 し て し ま う こ と で 児 頭 が 圧 迫 さ れ て お き る 場 合、 そ し て 両 者 が 組 み
合 わ さ っ て さ ら に 短 く 計 測 さ れ て し ま う 場 合 が あ り ま す。 そ の 場 合、BPD を
使 っ て 児 体 重 を 推 定 す る と 小 さ め に 推 定 さ れ る こ と に な り ま す。
⇨ 児 頭 大 横 径 と 比 べ て そ の よ う な 胎 位 の 影 響 を 受 け に く い 頭 囲 の 計 測 値 を
用 い れ ば よ い の で は と い う 意 見 も あ り ま す。 し か し、 実 際 に は、 骨 盤 位
の ほ う が、 推 定 胎 児 体 重 が 統 計 的 に 意 味 が あ る ほ ど 小 さ く 計 算 さ れ る と
い う こ と は な い よ う で す。 頭 囲 を 用 い る と、 胎 位 の 影 響 は 減 り ま す が、
今 度 は 計 測 誤 差 の 方 が ど う し て も 大 き く な っ て し ま い ま す。 そ の 結 果、
体 重 推 定 誤 差 も 大 き く な っ て し ま い、 全 体 と し て み る と、 児 頭 大 横 径 を
使 用 し た 場 合 よ り 優 れ て い る と は い え な い の で す。 骨 盤 位 の と き は、 児
頭大横径計測の際に超音波探触子を母体の腹部に押しつけないように十
分 注 意 し、 推 定 胎 児 体 重 の 推 定 は 頭 位 の 場 合 と 同 様 の 方 法 で 行 う の が 妥
当 と い う こ と に な り ま す。
◦ 多 胎 ( ふ た ご、 み つ ご な ど ) の 場 合 : 多 胎 で も 推 定 胎 児 体 重 の 誤 差 は 単 胎 と
変 わ り ま せ ん。 胎 児 発 育 曲 線 に つ い て は、 単 胎 と 区 別 す べ き と い う 意 見 も あ
り ま す が、 推 定 体 重 そ の も の は 同 じ 方 法 で 推 定 し て か ま い ま せ ん。
図 3-3 胎児推定体重の誤差
誤差の幅は出生体重や発育のバランスに関わらず、一定の範囲となっている。
縦軸は推定体重の誤差(%)、横軸は実際の出生体重 △:LFD: +:AFD □ :HFD
15
参考文献
3-1) Shinozuka N, Okai T, Kozuma S, Mukubo M, Shih CT, Maeda T, Kuwabara Y,
Mizuno M. Formulas for Fetal Weight Estimation by Ultrasound Measurements
Based on Neonatal Specific Gravities and Volumes. Am J Obstet Gynecol. 1987;
157 (51):1140-5.
3-2) 超 音 波 胎 児 計 測 の 標 準 化 と 日 本 人 の 基 準 値 の 公 示 に つ い て:超 音 波 医 学;
30 (3), 2003 J415-438
3-3) 篠 塚 憲 男 , 升 田 春 夫 , 香 川 秀 之 , 武 谷 雄 二 . 超 音 波 胎 児 計 測 に お け る 基 準
値 の 作 成 . 超 音 波 医 学 . 1996;23(121):879-88.
3-4) Shinozuka N, Akamatsu N, Sato S, Kanzaki T, Takeuch H, Natori M, Chiba
Y, Okai T. Ellipse Tracing Fetal Growth Assessment Using Abdominal
Circumference: JSUM Standardization Committee for Fetal Measurements. J
Med Ultrasound. 2000;8 (21):87-94.
3-5) S h i n o z u k a N . F e t a l b i o m e t r y a n d f e t a l w e i g h t e s t i m a t i o n : J S U M
standardization. Ultrasound Rev Obstet Gynecol. 2002;2 (31):156-61.
16
第 4 章「胎児発育曲線」と「在胎期間別出生時体格標準値」
の違いについて
1) 胎 児 発 育 曲 線
胎 児 発 育 曲 線 は、 胎 児 の 発 育 を 評 価 す る た め に 作 ら れ た 曲 線 で、 正 期 産、 正
常 体 重 で 出 生 し た 児 ( 分 娩 週 日 39 週 3 日 ± 8 日 ; 出 生 体 重 3,118 ± 378g[ 平 均 ±
標 準 偏 差 ])3,762 例 に 行 わ れ た 14,159 回 の 超 音 波 検 査 に お け る 計 測 値 か ら 作 成 さ
れ て い ま す。
妊 娠 中、 胎 児 の 推 定 体 重 が 胎 児 発 育 曲 線 が 示 し て い る 基 準 値 の 中 に 入 れ ば、 胎
児 が 正 常 に 発 育 し て い る 可 能 性 が 高 い、 と い う こ と が わ か り ま す。
2) 在 胎 期 間 別 出 生 時 体 格 標 準 値
そ の 一 方、 新 生 児 の 体 重 を 評 価 す る 際 に は、 同 じ 妊 娠 期 間 で 生 ま れ た 新 生 児
の 出 生 体 重 を も と に 作 ら れ た 標 準 値 が 用 い ら れ て い ま す。 日 本 小 児 科 学 会 新 生
児 委 員 会 は、 こ の 「 在 胎 期 間 別 出 生 時 体 格 標 準 値 」 を 2011 年 1 月 1 日 以 後 に 出
生 し た 児 か ら 用 い る こ と を 提 案 し て い ま す (4-1)。
早 産 児 を 含 め、 出 生 後 の 児 に つ い て は、 こ の 標 準 値 で そ の 体 重 を 評 価 す る 必
要 が あ り ま す。
3) 出 生 前 と 出 生 後 で は 基 準 が 違 う 理 由
出 生 前 と 出 生 後 で は 別 の 基 準 を 用 い る こ と に な る わ け で す が、 ど う し て そ の
よ う な 面 倒 な こ と が 必 要 な の で し ょ う か。
早 産 児 の 体 重 は 実 際 に 計 測 す る こ と が で き ま す。 従 っ て、
「 計 算」に よ る「推 定」
と い う 操 作 を 行 わ ず に、 誤 差 を 考 え る 必 要 の な い 数 値 を 用 い る こ と が で き ま す。
生 ま れ た あ と の 児 に つ い て は 直 接 測 定 し た 体 重 で 考 え る の が 自 然 で す。
同 じ 妊 娠 期 間 で あ れ ば、生 ま れ て い な い 胎 児 も 生 ま れ た あ と の 新 生 児 も 同 じ 基
準 で 評 価 す れ ば 良 い よ う に も 思 え ま す。 し か し、 こ の 考 え に は 大 き な 問 題 が あ
り ま す。 そ れ は、 早 産 と な っ た 妊 娠 で は そ の 経 過 に 何 ら か の 問 題 が あ っ た 可 能
17
性 が あ る と い う こ と で す。 そ の た め 早 産 児 の 発 育 が、 早 産 し な か っ た 児 と、 妊
娠 中 同 じ 発 育 を す る と い う 保 証 が な い の で す。
早 産 で は、 妊 娠 高 血 圧 症 候 群 や 胎 児 発 育 不 全 が 合 併 す る 率 が 正 期 産 の 場 合 よ
り 高 い の で、 生 ま れ て し ま っ た 早 産 児 は、 同 じ 妊 娠 時 期 の 生 ま れ て い な い 胎 児
よ り 軽 い 体 重 の 赤 ち ゃ ん が 多 く 含 ま れ ま す (4-2)。 従 っ て、 生 ま れ て し ま っ た 早
産 児 の 体 重 を 基 準 に す る と、 同 じ 時 期 で 生 ま れ て い な い 胎 児 は 大 き め に 評 価 さ
図 4-1 在胎期間別出生体重標準曲線(男児)
実線:初産、破線:経産
಴↢૕㊀ (g)
4500
4000
90th P
3500
50th P
3000
10th P
2500
2000
1500
1000
500
0
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
࿷⢝ᦼ㑆䋨ㅳ䋩
図 4-2 在胎期間別出生体重標準曲線(女児)
実線:初産、破線:経産
಴↢૕㊀ (g)
4000
90th P
3500
50th P
3000
10th P
2500
2000
1500
1000
500
0
22
18
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
࿷⢝ᦼ㑆䋨ㅳ䋩
34
35
36
37
38
39
40
41
れ る こ と に な り ま す (4-3)。
平 成 21 年 の わ が 国 の 早 産 の 頻 度 は 約 5.7% で す。 そ の 中 で も 妊 娠 24 週 ~ 27 週
の 早 産 は 全 体 の 0.21 %、 妊 娠 28 週 ~ 31 週 の 早 産 は 全 体 の 0.46 % に す ぎ ま せ ん。
90% 以 上 の 児 は 正 常 な 発 育 を し て 正 期 産 の 時 期 に 生 ま れ て き ま す。 大 部 分 が 順 調
に 経 過 し て い る 妊 娠 中 の 胎 児 の 発 育 の 基 準 と し て、 全 体 か ら 見 れ ば ご く 少 数 で、
重症の合併症を多く含んでいる早産の児の出生体重を用いるのは合理的ではな
い、 と 考 え ら れ る の で す。
現 在、 出 生 後 の 赤 ち ゃ ん の 体 格 の 評 価 に 使 用 さ れ て い る 「 在 胎 期 間 別 出 生 時
体 格 標 準 値 」( 図 4-1、 図 4-2) は、 相 対 的 に 子 宮 内 環 境 が 良 い と 考 え ら れ る 経 腟
分 娩 例 の デ ー タ だ け を 用 い て 作 成 さ れ て い ま す。 早 産 で 経 腟 分 娩 と 帝 王 切 開 で
生 ま れ た 赤 ち ゃ ん の 体 重 を 比 較 す る と、 明 ら か に 帝 王 切 開 で 生 ま れ た 赤 ち ゃ ん
の 方 が、出 生 体 重 が 少 な い の で す。 こ れ は 発 育 の 悪 い あ る い は 状 態 の 悪 い 赤 ち ゃ
ん に つ い て は、 よ り 良 い 状 態 で 生 ま れ て も ら う た め に、 帝 王 切 開 で の 分 娩 を 選
択 す る こ と が 多 く な っ て い る か ら で す。そ こ で、赤 ち ゃ ん の 状 態 が 比 較 的 良 好 で、
経 腟 分 娩 が 可 能 だ っ た 例 の み で 「標 準 値」 が 作 成 さ れ ま し た。
図 4-3 在胎期間別出生体重標準曲線と胎児発育曲線
BBW (g)
4500
↵ఽ䊶ೋ↥vs. EFW
BBW (g)
4500
4000
4000
3500
3500
3000
3000
2500
2500
2000
2000
1500
1500
1000
1000
500
500
ᅚఽ䊶ೋ↥vs. EFW
+1.5SD
0 SD
- 1.5SD
0
0
22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41
22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41
࿷⢝ᦼ 㑆 䋨 ㅳ 䋩
࿷⢝ ᦼ 㑆 䋨 ㅳ 䋩
点線:EFW
板橋家頭夫
篠塚憲男 , 他 超音波胎児計測による基準値の作成
超音波医学 1996;23(12):877-888
厚生科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)
「周産期母子医療センターネットワーク」による医療の質の評価と、フォ
ローアップ・介入による改善・向上に関する研究 平成 21 年度分担研究報告書「日本人在胎期間別出生時体格基準値の
作成に関する研究」 19
図 4-3 に 在 胎 期 間 別 出 生 体 重 標 準 曲 線 と 胎 児 発 育 曲 線 の 比 較 を 示 し ま す。 出 生
後 の 標 準 値 は 性 別、初 産・経 産 で 別 に 作 ら れ て い ま す。こ こ で は 男 児・初 産 と 女 児・
初 産 に つ い て、 胎 児 発 育 曲 線 と を 比 較 し て い ま す。 両 者 の 差 は 大 き い も の で は
あ り ま せ ん が、 胎 児 発 育 曲 線 の 方 が、 若 干 大 き め で あ る こ と が わ か り ま す。
在胎期間別出生体重標準曲線は出生した児のリスクの予知や早産児の出生後
の 発 育 を 評 価 す る 際 に 用 い ら れ て い ま す。 現 時 点 で は、 在 胎 期 間 別 出 生 体 重 標
準 曲 線 は 胎 児 発 育 曲 線 と は 別 の も の と 考 え て く だ さ い。
参考文献
4-1) 板 橋 家 頭 夫 、 藤 村 正 哲 、 楠 田 聡 他 新 し い 在 胎 期 間 別 出 生 時 体 格 標 準
値 の 導 入 に つ い て 日 本 小 児 科 学 会 雑 誌 114 巻 8 号 1271 ~ 1293( 2010 年 ).
4-2) Weiner CP, Sabbagha RE, Vaisrub N, Depp R. A hypothetical model suggesting
suboptimal intrauterine growth in infants delivered preterm. ObstetGynecoI
1985; 65:323-326.
4-3) Yoshida S, Unno N, Kagawa H, Shinozuka N, Kozuma S, Taketani Y.
Sonographic determination of fetal size from 20 weeks of gestation onward
correlates with birth weight. J ObstetGynaecol Res 2001;27: 205-211.
20
第 5 章 胎児発育評価法の実際
計 測 値 が 全 体 の 中 で ど こ に 位 置 し て い る か を 示 す よ く 使 わ れ る 方 法 と し て、二
つ の 方 法 が あ り ま す。 一 つ は 偏 差 値 を 用 い る 方 法、 も う 一 つ は パ ー セ ン タ イ ル
で 示 す 方 法 で す。
1) 偏 差 値 を 用 い る 方 法
こ の 方 法 は、計 測 値 が 全 体 と し て 正 規 分 布 を し て い る 場 合 に 使 い ま す。 正 規 分
布 と は、 図 5-1 に 示 す よ う な 平 均 値 を 中 心 と す る ベ ル 型 の 分 布 で す。 自 然 界 で 連
続的に変化する計測値はこのような形に分布することが多いことが知られてい
ま す。 そ の 場 合、 そ の 分 布 の 性 質 は 平 均 値 と 標 準 偏 差 (SD:standard deviation)
で 決 ま る こ と に な り ま す。 あ る 計 測 値 の 集 団 内 の 位 置 は 平 均 値 か ら 標 準 偏 差 の
何 倍 離 れ て い る か (偏 差 値 SD 値) と い う 形 で 評 価 す る こ と が で き ま す。SD 値
とは平均値を中心にどの程度計測値がばらついているかを示す指標ということ
に な り ま す。
図 5-1 SD値とパーセンタイル値
SD
%
㪄㪉㪅㪇 㪄㪈㪅㪍㪋 㪄㪈㪅㪌 㪄㪈㪅㪉㪏 㪄㪈㪅㪇
㪉㪅㪊㩼
㪌㪅㪈㩼
㪇
㪂㪈㪅㪇 㪂㪈㪅㪉㪏 㪂㪈㪅㪌 㪂㪈㪅㪍㪋 㪂㪉㪅㪇
㪍㪅㪎㩼 㪈㪇㪅㪇㩼 㪈㪌㪅㪐㩼 㪌㪇㪅㪇㩼 㪏㪋㪅㪈㩼 㪐㪇㪅㪇㩼 㪐㪊㪅㪊㩼 㪐㪋㪅㪐㩼 㪐㪎㪅㪎㩼
㪍㪏㪅㪉㩼
㪏㪇㪅㪇㩼
㪏㪍㪅㪍㩼
㪏㪐㪅㪏㩼
㪐㪌㪅㪋㩼
21
2) パ ー セ ン タ イ ル で 示 す 方 法
こ の 方 法 は、 計 測 値 を、 大 き さ の 順 に 小 さ い 方 か ら な ら べ て、 評 価 し た い 計
測 値 が 何 番 目 に く る か で 全 体 の 中 で の 位 置 を 示 す も の で す。 た と え ば 200 個 数 値
が あ っ て、 小 さ い 方 か ら 10 番 目 で あ れ ば 10/200=0.05=5 % で す か ら、5 パ ー セ ン
タ イ ル と 表 現 し ま す。185 番 目 な ら 92.5 パ ー セ ン タ イ ル に な り ま す。こ の 方 法 で は、
順番をつけられさえすればデータがどのような形に分布していてもかまいませ
ん。
3) 偏 差 値 と パ ー セ ン タ イ ル の 関 係
図 5-1 に 示 す よ う に、計 測 値 が 正 規 分 布 を 示 す 場 合、そ れ ぞ れ + 2.0SD が 97.7 パ ー
セ ン タ イ ル、+ 1.5SD が 93.3 パ ー セ ン タ イ ル、- 1.5SD が 6.7 パ ー セ ン タ イ ル、- 2.0SD
が 2.3 パ ー セ ン タ イ ル に 相 当 し ま す (図 5-1)。
4) 胎 児 発 育 曲 線 の 活 用 法
胎 児 や 新 生 児 の 体 重 は 在 胎 期 間 が 同 じ で あ れ ば、 そ の 分 布 は 正 規 分 布 と 言 っ
て よ い こ と が 確 認 さ れ て い ま す。 し た が っ て、 パ ー セ ン タ イ ル を 使 用 す る よ り
も 偏 差 値 を 使 用 す る 妥 当 性 が あ り ま す。
胎 児 発 育 曲 線 で 示 さ れ て い る ± 2SD の 範 囲 に は 全 体 の 約 95.4% が 入 る こ と に な
り ま す。 推 定 胎 児 体 重 が、 こ の 胎 児 発 育 曲 線 の 基 準 値 内 で あ れ ば、 正 常 体 重 で
の 出 生 が 期 待 で き る と い う こ と を 意 味 す る こ と に な り ま す。
<評価のポイント>
◦ 「妊 娠 週 数 (予 定 日) が 正 し い こ と が 前 提」:
発 育 の 評 価 に は 妊 娠 週 数(予 定 日)が 正 し い こ と が 前 提 に な り ま す。し た が っ
て 発 育 異 常 を 判 断 す る と き に は 必 ず、 妊 娠 初 期 に CRL( 頭 殿 長 :Crown Rump
Length) な ど の 超 音 波 計 測 が 行 わ れ て い る の か な ど、 妊 娠 週 数 を 再 確 認 し て お
く 必 要 が あ り ま す。
22
◦ 「胎 児 発 育 評 価 の 正 し い 表 現 方 法」
胎 児 発 育 評 価 は 妊 娠 週 数 と い う 横 軸 方 向 の 時 間 的 推 移 で 評 価 し ま す。 妊 娠
〇 週 〇 日 で、 推 定 × × グ ラ ム と い う 検 査 結 果 を 胎 児 発 育 曲 線 に プ ロ ッ ト し て、
そ の 推 移 を み て い く、と い う の が 正 し い 方 法 で す。 赤 ち ゃ ん の 成 長 が 認 め ら れ、
胎 児 発 育 曲 線 の 2 本 の 線 の 間 に 入 っ て い れ ば、 胎 児 発 育 と し て は 心 配 な い と 考
え る こ と が で き ま す。
◦ 「妊 娠 〇 週 相 当、 △ 週 ぐ ら い 小 さ い、 と い う 評 価 法 は 間 違 い」
超 音 波 機 器 の 中 に は、 計 測 値 と 一 緒 に 妊 娠 何 週 相 当 と い う 表 示 が 出 る も の
が あ り ま す。 こ れ は、 妊 娠 週 数 が は っ き り し て い な い 場 合 の た め の 参 考 値 と し
て の 表 示 で す。 そ の 計 測 値 が 妊 娠 何 週 何 日 の 平 均 値 に 相 当 す る と い う こ と を 示
し て い ま す。 こ の 数 字 は 胎 児 発 育 の 評 価 に は 使 え ま せ ん。
そ の 理 由 を 図 5-2 を 使 っ て 説 明 し ま す。( こ こ で は 平 均 値 も わ か る よ う に す
る た め に ま ん 中 に 平 均 値 の 線 も い れ て あ り ま す。)
た と え ば 妊 娠 36 週 3 日 の 計 測 で 推 定 胎 児 体 重 (EFW) が 2,181g と 算 出 さ れ
た と し ま す。 こ の と き 超 音 波 検 査 装 置 に、 い っ し ょ に 妊 娠 34 週 1 日 相 当 と い
う 値 が 表 示 さ れ る こ と が あ り ま す。 こ の 値 を そ の ま ま 受 け と る と、 胎 児 の 発 育
図 5-2 胎児推定体重と実際の出生体重との関係
⢝ఽ⊒⢒ᦛ✢
䉫䊤䊛
+2.0SD
2181g
-1.34SD
-2.0SD
36w3d
34w1d
ᅧᆼ36ㅳ3ᣣ
EFW 2181䌧
- 1.34 SD
ᅧᆼㅳᢙ
23
が 2 週 も 小 さ い、 あ る い は 妊 娠 34 週 相 当 の 発 育 し か な い、 未 熟 で あ る と い う
こ と に な っ て し ま い ま す。 こ の よ う な 解 釈 は 間 違 っ て い ま す。 推 定 体 重 に よ っ
て 示 さ れ る 発 育 の 評 価 (縦 軸 の 評 価) と 妊 娠 週 数 に よ っ て 示 さ れ る 成 熟 の 評 価
( 横 軸 の 評 価 ) を 混 同 し て し ま っ て い る の で す。 こ の 場 合、 妊 娠 36 週 3 日 と し
て の 偏 差 値 は - 1.34SD と な り、2 本 線 の 間 に 入 っ て い ま す。 平 均 よ り は 小 さ め
で す が 基 準 ( 正 常 ) 範 囲 内 の 発 育 な の で す ( 図 5-2)。 胎 児 発 育 の 評 価 は 胎 児 発
育 曲 線 で は、 縦 軸 方 向 に 考 え る 必 要 が あ る の で す。
◦ 「複 数 回 の 推 定 体 重 を 総 合 的 に 判 断 す る」
発 育 の 評 価 は、1 回 の 計 測 値 だ け で は な く、 複 数 回 の 計 測 値 を、 胎 児 発 育 曲
線 上 に プ ロ ッ ト し て、 全 体 を 総 合 的 に 判 断 し て 行 い ま す。 そ の 際、 個 体 差 や 計
測 が 原 因 の 誤 差 (ば ら つ き) が あ る こ と を 考 慮 す る こ と が 大 切 で す。
図 5-3 に 例 を 示 し ま す。 ○ で 示 し た 例 で は、 推 定 胎 児 体 重 は、 胎 児 発 育 曲 線
(こ こ で は わ か り や す く す る た め に ま ん 中 に 平 均 値 の 線 も い れ て あ り ま す。) の
上 下 の 線 の 間、 少 し 下 の あ た り で 右 肩 上 が り に 推 移 し て い ま す。 こ の 胎 児 は 全
く 正 常 な 発 育 を し て い る と 評 価 で き ま す。 こ れ に 対 し て ● で 示 し た 例 で は、 妊
娠 30 週 ま で は 胎 児 発 育 曲 線 の 上 下 の 線 の ま ん 中 あ た り で す が、妊 娠 32 週 以 降、
図 5-3 胎児発育不全の成長パターン
⢝ఽ⊒⢒ᦛ✢
䉫䊤䊛
⢝ఽ⊒⢒ਇో
ᱜᏱ⊒⢒
ᅧᆼㅳᢙ
24
だ ん だ ん 下 の 線 に 近 づ い て、 妊 娠 37 週 以 降 は 下 の 線 よ り 下 に な っ て い ま す。
こ れ が 胎 児 発 育 不 全 (FGR) の 典 型 的 な パ タ ー ン の ひ と つ で す。 こ の よ う に 経
過 を み て い く こ と で、 は っ き り と 発 育 が 認 め ら れ な く な る 妊 娠 37 週 よ り も 少
し 前 か ら 胎 児 発 育 不 全 の 可 能 性 を 考 え て 対 応 し て い く こ と が で き る の で す。
◦ 「推 定 胎 児 体 重 が 小 さ め な 場 合」
推 定 胎 児 体 重 が 小 さ め で 胎 児 発 育 不 全 (FGR) の 疑 わ れ る 妊 婦 さ ん に 対 し て
は、 実 際 の 計 測 値 を 胎 児 発 育 曲 線 上 に プ ロ ッ ト し た 上 で、 そ れ を み て も ら い な
が ら、 以 下 の 点 を 十 分 に 理 解 し て い た だ く よ う ご 説 明 し ま す。
① 推 定 胎 児 体 重 に は ± 10% 程 度 の 誤 差 が あ る か も し れ ま せ ん。
② 赤 ち ゃ ん の 発 育 の 評 価 に は あ る 程 度 の 時 間 が か か り ま す。1 週 間 程 度
た っ て 検 査 を 繰 り 返 す 必 要 が あ り ま す。
③ 「小 さ め」 と い う の は 「未 熟 児」 と は 違 い ま す。
④ 赤 ち ゃ ん の 成 熟 度 に い ち ば ん 大 き な 影 響 を 与 え る の は 妊 娠 週 数 で す。推
定 体 重 は 軽 く て も、 妊 娠 週 数 が 大 き い 方 が 成 熟 し て い ま す。
⑤ 妊 娠 初 期 か ら 妊 婦 健 診 に 通 っ て い れ ば 妊 娠 週 数 の 確 認 は 済 ん で い ま す。
そ の 場 合、 横 軸 の 誤 差 に つ い て は 検 討 ず み な の で、 発 育 が 小 さ め で も 予 定
日 は 変 わ り ま せ ん。
⑥ 胎 児 発 育 曲 線 の 上 下 の 線 の 間 に 入 っ て い れ ば、 正 常 出 生 体 重 が 期 待 で
き ま す。
⑦ 今 回 の 検 査 が 小 さ め だ っ た と し て も、 今 後 の 検 査 で 推 定 胎 児 体 重 が 右
肩 上 が り に な っ て い れ ば 心 配 あ り ま せ ん、 時 間 を か け て 見 守 っ て い く 必 要
が あ り ま す。
◦ 「推 定 胎 児 体 重 (EFW) の ば ら つ き に つ い て」
推 定 胎 児 体 重 の 評 価 の 際 に は、 計 測 誤 差 の こ と を い つ で も 考 え に 入 れ て お
く 必 要 が あ り ま す。 約 10% 程 度 と 考 え て 下 さ い。
図 5-4 に 例 を あ げ て 説 明 し ま す。 妊 娠 32 週 で A 先 生 が EFW 1,900g と 推 定、
妊 娠 34 週 で B 先 生 が EFW 1,800g と 推 定 し た と し ま す。 赤 ち ゃ ん は 小 さ く な っ
て し ま っ た の で し ょ う か。 誤 差 を 考 慮 す る と、 こ の 赤 ち ゃ ん の 体 重 は 上 下 の 矢
印 の 範 囲、 妊 娠 32 週 で は 1,710g か ら 2,090 g、 妊 娠 34 週 で は 1,620g か ら 1,980g
の 範 囲 に あ る こ と に な り ま す。 胎 児 の 体 重 が 小 さ く な る と い う こ と は 通 常 で は
あ り 得 な い の で、 横 ば い か 右 肩 上 が り の ど ち ら か で 推 移 し て い る は ず で す。 こ
の 2 回 の 検 査 結 果 か ら は、 胎 児 の 発 育 は 1,700g で 停 滞 し て い る 可 能 性 も あ り ま
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図 5-4 胎児推定体重のばらつき ⢝ఽ⊒⢒ᦛ✢
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図 5-5 双胎の場合の胎児発育評価 ⢝ఽ⊒⢒ᦛ✢
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-1.48SD -0.41SD Δ 1.07
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-1.54SD -0.33SD Δ1.21
38w0d
-1.58SD -0.39SD Δ1.19
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す し、1,750g か ら 1,950g に 順 調 に 発 育 し て い る 可 能 性 も あ り ま す。 ど ち ら か は
判 断 で き ま せ ん。 こ の 場 合、 ど ち ら に し て も、 上 下 の 線 の 間 に あ る と 考 え ら れ
ま す か ら、 少 し 時 間 を お い て も う 一 度 発 育 評 価 を 行 う の が 良 い で し ょ う。
◦ 「ふ た ご (双 胎) の 場 合 は」
胎 児 の 発 育 に は い ろ い ろ な 条 件 が 関 係 し ま す。平 均 的 に は 男 の 子 の 方 が 女 の
子 よ り 少 し 大 き め で す し、 初 産 よ り も 経 産 の 方 が 赤 ち ゃ ん は 少 し 大 き く な り ま
す。 ふ た ご の 場 合 は ひ と り (単 胎) の 場 合 よ り 一 人 一 人 の 赤 ち ゃ ん は 少 し 小 さ
い こ と が あ り ま す。 で も こ の よ う な 差 は そ れ ほ ど 大 き な も の で は あ り ま せ ん。
推 定 胎 児 体 重 を 計 算 す る 際 の 誤 差 を 考 え る と、 こ れ ら の 差 は 結 果 の ば ら つ き の
中 に 埋 も れ て し ま う た め 「 男 女 」、「 初 産 経 産 」、「 胎 児 の 数 」 に よ っ て 別 々 に
胎 児 発 育 曲 線 を 作 る 意 味 は な い と 考 え ら れ て い ま す。
ふ た ご の 場 合 は、 図 5-5 で 示 す よ う に、 同 じ 胎 児 発 育 曲 線 上 に 二 人 の 推 定 胎
児 体 重 を 区 別 が つ く よ う に プ ロ ッ ト し て い き ま す。 そ し て 一 人 一 人 の 発 育 が 2
本 の 線 の 間 に 入 っ て い る か と い う 点、 発 育 が 全 体 と し て 右 肩 上 が り に な っ て い
る か と い う 点、 そ し て ふ た り の 胎 児 の 発 育 の 差 に 変 化 が な い か と い う 点 に 注 意
し て 経 過 を み て い き ま す。 ふ た り の 発 育 の 差 が 大 き く な っ て い く 場 合 は、 詳 し
い 検 査 が 必 要 に な っ て い く で し ょ う。
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第 6 章 胎児発育異常が疑われる場合の対応
1) 胎 児 発 育 不 全 (FGR:Fetal growth restriction) に つ い て
胎 児 が 正 常 の 発 育 よ り も 小 さ い と さ れ る 場 合 に は、 胎 児 発 育 不 全 (以 後、FGR
と 表 記 し ま す ) と 診 断 さ れ ま す。FGR と い う 言 葉 は、 な ん ら か の 原 因 に よ り、
子 宮 内 に い る 胎 児 の 発 育 が 抑 制 さ れ て い る 場 合 の 総 称 と し て 使 用 さ れ ま す。
妊 娠 の ご く 初 期 に は、 胎 児 発 育 に 必 要 な 栄 養 素 は 母 体 由 来 の 組 織 か ら 供 給 さ
れ ま す。 受 精 後 4 週 の 終 わ り ご ろ に は 胎 盤 が 形 成 さ れ、 母 体 と 胚 子 間 と の 間 で、
酸 素 や 二 酸 化 炭 素、 栄 養 素 や 老 廃 物 の 交 換 が で き る よ う に な り ま す。 そ の 後 は
胎 盤 を 介 し て 母 体 血 と 胎 児 血 の 間 で ガ ス と 栄 養 素 の 交 換 が 行 わ れ る よ う に な り、
胎 児 発 育 に 必 要 な 栄 養 素 と し て、糖 質、遊 離 脂 肪 酸、ト リ グ リ セ リ ド、ア ミ ノ 酸、
タ ン パ ク 質、 電 解 質、 ミ ネ ラ ル、 ビ タ ミ ン な ど が 母 体 よ り 供 給 さ れ る よ う に な
り ま す。
正 常 に 発 育 し て い る 胎 児 の 体 重 は 1 日 あ た り、 妊 娠 14 ~ 15 週 で 約 5g、 妊 娠
20 週 で 約 10g、 妊 娠 32 ~ 34 週 で 約 30 ~ 35g 増 加 し ま す。 そ の 後 の 増 加 率 は 妊 娠
週 数 と と も に 減 少 し、 妊 娠 41 ~ 42 週 以 降 は 減 少 す る と さ れ て い ま す。 日 本 の 出
生 時 体 格 標 準 値 で も、 体 重 の 増 加 率 が 最 も 多 い の は 妊 娠 34 ~ 36 週 頃 で あ り、 1
週 間 あ た り 約 200g 程 度 と さ れ て い ま す。 双 胎 ( ふ た ご ) で は 単 胎 と 比 較 し て 出
生 体 重 は 小 さ く な り ま す が、こ の 差 が 著 明 に な る の は 妊 娠 34 ~ 35 週 頃 か ら で す。
胎 児 の 発 育 に は 遺 伝 的 因 子、 胎 児 内 分 泌 学 的 因 子、 母 体 因 子、 胎 盤 因 子、 臍
帯 因 子、 外 界 か ら の 感 染 な ど 様 々 な 因 子 が 関 与 す る と い わ れ て い ま す。FGR の
リ ス ク 因 子 と し て 表 6-1 の よ う な も の が 挙 げ ら れ ま す が、FGR の う ち 約 70% は 特
に 原 因 の な い、 体 質 的 な も の で す。 主 な 原 因 を 以 下 に 列 挙 し ま す。
(1) 胎 児 因 子
FGR の う ち、 染 色 体 異 常 の 疾 患 が 占 め る 割 合 は 2 ~ 7% 程 度 と さ れ て い ま す。
FGR を 来 す 染 色 体 異 常 と し て ダ ウ ン 症 候 群 や 13 ト リ ソ ミ ー、18 ト リ ソ ミ ー、3
倍 体 や 45X な ど が 知 ら れ て い ま す。 染 色 体 異 常 で は 妊 娠 の 早 期 か ら FGR を 認 め
る こ と が 多 く、 早 期 発 症 の FGR の う ち 約 25% を 占 め る と さ れ て い ま す。 ダ ウ ン
症 候 群 に お い て FGR の 程 度 は 軽 度 で す が、 約 30% に FGR が 認 め ら れ、 特 に 妊 娠
34 週 以 降 で 発 育 不 全 を 認 め や す い と さ れ て い ま す。 一 方、13 ト リ ソ ミ ー や 18 ト
リ ソ ミ ー で は FGR と な る 率 が 高 く、そ れ ぞ れ 50%、80% 程 度 と 報 告 さ れ て い ま す。
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表 6-1 胎児発育不全(FGR)のリスク因子
● 胎児因子:
-染色体異常 胎児形態異常 多胎妊娠
● 母体因子:
-遺伝 栄養 感染 低酸素状態 環境 薬剤 喫煙 切迫早産
● 胎盤因子:
-前置胎盤 周郭胎盤 絨毛膜下血腫
● 臍帯因子:
-臍帯結節 臍帯付着部位の異常 過捻転 臍帯の炎症 逆 に 形 態 異 常 が 認 め ら れ た 胎 児 で は 約 2 割 に FGR が 認 め ら れ て い ま す。 特 に 先
天 性 心 疾 患 で は 平 均 体 重 が 小 さ く な る こ と が 報 告 さ れ て い ま す。
ウ ィ ル ス な ど に よ る 先 天 性 感 染 症 も FGR の リ ス ク と な り ま す。FGR の う ち 先
天 性 感 染 症 の 占 め る 割 合 は 5 ~ 10% と さ れ て い ま す。 風 疹 ウ ィ ル ス と サ イ ト メ
ガ ロ ウ ィ ル ス が 原 因 と し て よ く 知 ら れ て い ま す。 前 者 で は 約 4 割、 後 者 で は 約 半
数 に FGR を 認 め る と 報 告 さ れ て い ま す。 そ の 他、エ イ ズ ウ ィ ル ス、ヘ ル ペ ス ウ ィ
ル ス、 ト キ ソ プ ラ ズ マ な ど も FGR を 来 す 可 能 性 が あ り ま す。
ふ た ご ( 双 胎 ) や み つ ご ( 三 胎、 品 胎 ) な ど の 多 胎 妊 娠 で は 単 胎 妊 娠 と 比 較
し て 胎 児 の 体 重 は 小 さ く な る 傾 向 が あ り ま す。こ の 傾 向 は 胎 児 の 数 が 多 く な る ほ
ど 著 明 に な り、 よ り 早 期 か ら 出 現 し ま す。 多 胎 妊 娠 の 種 類 と も 関 連 が あ り、FGR
の 出 現 頻 度 は 1 絨 毛 膜 性 ( 1 卵 性 ) 双 胎 で 約 30%、2 絨 毛 膜 性 ( 2 卵 性 ) 双 胎 で
約 20% と さ れ て い ま す。
(2) 母 体 因 子
母 体 の 生 活 習 慣 は 胎 児 の 発 育 に 影 響 を 与 え ま す。母 体 が ア ル コ ー ル を 多 量 に 飲
酒 す る と 胎 児 ア ル コ ー ル 症 候 群 を 来 し、 高 度 の FGR や 精 神 発 達 障 害 の 原 因 と な
り ま す。 喫 煙 も 胎 児 発 育 に 大 き な 影 響 を 与 え る 可 能 性 が あ り、 全 て の 妊 娠 期 間
に お い て、 母 体 の 喫 煙 例 で は、 非 喫 煙 例 と 比 較 し て 胎 児 の 体 重 は 5 ~ 9% 減 少 す
る こ と が 報 告 さ れ て い ま す。 喫 煙 に よ り FGR を 来 す 機 序 は 明 ら か で は あ り ま せ
ん が、 一 酸 化 炭 素 の 上 昇 や 血 管 攣 縮 な ど に よ り 胎 児 の 低 酸 素 化 を 来 し、FGR を
呈 す る と さ れ て い ま す。 ま た 母 体 の 非 合 法 薬 物 ( コ カ イ ン、 ヘ ロ イ ン な ど ) 使
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用 も FGR の 原 因 と な り ま す。
母 体 の 疾 患 が FGR の 原 因 と な る こ と が あ り ま す。 最 も よ く 知 ら れ て い る の は
妊 娠 高 血 圧 症 候 群 で す。 妊 娠 中 に 高 血 圧 に な る と 15 ~ 24% に FGR を 認 め、 妊 娠
高 血 圧 腎 症 で は 28 ~ 48% に 認 め る と 報 告 さ れ て い ま す。 妊 娠 高 血 圧 腎 症 の 中 で
も、 軽 症 の も の で は 19%、 重 症 で は 35% に FGR を 認 め、 重 症 例 の 方 が FGR の 頻
度 が 高 い こ と が 示 さ れ て い ま す。 ま た、 高 血 圧 を 伴 っ て い る 妊 婦 に お い て も、 血
圧 が 正 常 な 妊 婦 よ り も、FGR の 頻 度 は あ き ら か に 高 い こ と が 報 告 さ れ て い ま す。
妊 娠 高 血 圧 症 候 群 以 外 に も、 胎 児 へ の 血 液 供 給 が 減 少 す る よ う な 血 管 病 変 が
あ る 糖 尿 病、 腎 疾 患、 膠 原 病 な ど も FGR の 原 因 と な り ま す。 腎 疾 患 に お い て、
FGR の 発 生 率 は 6 ~ 37% と 報 告 さ れ て お り、 腎 疾 患 が 重 症 で あ る ほ ど FGR が 増
加 す る と さ れ、 透 析 例 で は FGR は 20 ~ 77% と 報 告 さ れ て い ま す。 全 身 性 ル ー プ
ス エ リ テ マ ト ー デ ス の よ う に 血 管 病 変 を 有 す る 膠 原 病 で は、FGR や 子 宮 内 胎 児
死 亡 が 増 加 し、 約 20% に FGR を 認 め ま す。 ま た 全 身 性 ル ー プ ス エ リ テ マ ト ー デ
ス 患 者 に 多 く 見 ら れ る 抗 リ ン 脂 質 抗 体 は 胎 盤 に 血 栓(血 の 固 ま り)を 作 り や す く、
胎 盤 機 能 の 低 下 を 引 き 起 こ す た め、 陽 性 者 の 約 15 ~ 30% に FGR を 認 め る と さ れ
て い ま す。
ま た 母 体 の 低 酸 素 症 を 来 す チ ア ノ ー ゼ 性 心 疾 患 や 肺 疾 患 も FGR の 原 因 と な り
ま す。 さ ら に 喘 息 が 重 症 に な る 程、FGR が 増 加 す る こ と も 報 告 さ れ て い ま す。
こ の よ う な 合 併 症 を も っ て お ら れ る 妊 婦 さ ん の 妊 娠 中 の 管 理 方 法 は、 疾 患 ご
と に 対 応 が 異 な り ま す。 担 当 医 と よ く 相 談 す る こ と が 大 切 で す。
(3)胎 盤 ・ 臍 帯 因 子
胎 児 発 育 不 全 が 疑 わ れ る 妊 娠 で、 詳 し い 検 査 を し て も 母 体 ・ 胎 児 に は 特 に 明
ら か な 原 因 が み つ か ら な い こ と が し ば し ば あ り ま す。 そ の 場 合 は、「 も と も と 小
さ い 」 赤 ち ゃ ん な の か、 胎 盤 や 臍 帯 の 機 能 に 問 題 が あ る 可 能 性 を 考 え る 必 要 が
生 じ ま す。 胎 盤 や 臍 帯 の 形 態 異 常 は 妊 娠 中 の 超 音 波 検 査 で み つ か る こ と も あ り
ま す が、 み つ け ら れ な い こ と も あ り ま す。 母 体 か ら の 酸 素 や 栄 養 素 は 胎 盤 と 臍
帯 を 介 し て 胎 児 の 身 体 に 運 ば れ ま す。 そ の 機 能 が 十 分 で な い と、 胎 児 は 低 酸 素 ・
低 栄 養 状 態 と な り、 発 育 不 全 や 胎 児 機 能 不 全 ( 胎 児 心 拍 の 異 常 ) を 発 症 す る こ
と に な り ま す。
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2) 胎 児 発 育 不 全 が 疑 わ れ る 場 合 の 対 応
胎 児 は 妊 娠 の 経 過 と と も に 右 肩 上 が り に 身 体 の 各 部 位 が 発 育 し、 体 重 が 増 え
て い く の が 普 通 で す。 こ の 発 育 は 出 生 後 も 続 い て い き ま す。 妊 娠 中 に こ れ が 完
全 に 停 ま っ て し ま う と、 そ れ 以 上 子 宮 内 に い て も、 発 育 は 期 待 で き な い と い う
可 能 性 が で て き ま す。 特 に 胎 児 の 頭 部 の 発 育 は 大 切 だ と 考 え ら れ て い ま す。
ま た 重 症 の 胎 児 発 育 不 全 で は、 何 ら か の 原 因 で 胎 児 に 供 給 さ れ る 酸 素 が 足 り
な く て、 胎 児 が 低 酸 素 状 態 に な っ て い る 可 能 性 が あ り ま す。 低 酸 素 状 態 の 持 続
は 望 ま し く あ り ま せ ん の で、 少 し 早 め で も 生 ま れ て き た 方 が い い、 と い う 判 断
に な る 可 能 性 が あ り ま す。
胎 児 発 育 不 全 が 疑 わ れ る 場 合 は、 詳 し い 検 査 を し て、 発 育 停 止 に な っ て い な
い か、 低 酸 素 状 態 を 示 す 徴 候 は な い か と い う 点 を 確 認 し て い く 必 要 が あ り ま す。
具 体 的 な 方 法 に つ い っ て は、 担 当 の 先 生 と よ く 相 談 す る 必 要 が あ り ま す。
3) 胎 児 が 正 常 の 発 育 よ り も 大 き い と 推 定 さ れ る 場 合 の 対 応
胎 児 が 大 き い と 推 定 さ れ る 場 合 も、 そ の 原 因 を 調 べ る こ と が 大 切 で す。 い ち
ば ん 多 い の は、 母 体 に 糖 尿 病 ま た は そ の 体 質 が あ る 場 合 で す。 母 体 は 高 血 糖 に
な り や す く、 多 く の ブ ド ウ 糖 が 胎 盤 を 通 し て 胎 児 に 移 行 し ま す。 胎 児 で は 血 糖
を 調 節 す る た め に イ ン ス リ ン と い う ホ ル モ ン が 多 量 に 分 泌 さ れ、 そ の 結 果、 胎
児 の 体 重 が 増 加 す る の で す。 母 体 に そ の よ う な 体 質 が 見 つ か っ た 場 合 は、 血 糖
値が正常範囲になるような食事療法や薬物(インスリン) 治療が必要になるこ
と が あ り ま す。 そ れ 以 外 に 胎 児 自 身 の 体 質、 遺 伝 的 要 因 で 大 き め に な る 場 合 も
あ り ま す。
赤 ち ゃ ん が 大 き い と 難 産 に な り や す い こ と や、 赤 ち ゃ ん に 合 併 症 が 起 き や す
い こ と な ど の 可 能 性 が あ る た め 注 意 が 必 要 と な り ま す。 担 当 医 と よ く 相 談 す る
こ と が 大 切 で す。
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第 7 章 よくある質問と回答
予定日変更に関する質問
❖ も と も と 月 経 不 順 が あ り 、 妊 娠 初 期 に 超 音 波 検 査 で 予 定 日 を 修 正 し ま し た 。 最
終 月 経 か ら の 予 定 日 と は 3 週 間 の ず れ が あ り ま す。 妊 娠 後 半 に な り、 い つ も 2
週 間 程 度 大 き め と 言 わ れ て い ま す。 そ も そ も 予 定 日 が 違 っ て い る の で は な い で
しょうか?
▶ ▶ ▶ こ う い う と き は、 ふ つ う、 予 定 日 の 修 正 が 本 当 に 適 切 で あ っ た の か、
再 検 討 を 行 い ま す。 妊 娠 初 期 の 超 音 波 写 真 が 残 っ て い れ ば、 よ り 確 実
な 検 討 が 可 能 に な り ま す。 予 定 日 修 正 が 適 切 と 考 え ら れ る 場 合 は、 や
は り そ の 赤 ち ゃ ん は 大 き め と 考 え ま す。
推定胎児体重に関する質問
❖ 超 音 波 検 査 の 際 、先 生 に 「 赤 ち ゃ ん の 頭 が 下 が っ て い て 、う ま く 計 測 で き な か っ
た の で、 推 定 胎 児 体 重 を 計 算 で き な い」 と 言 わ れ ま し た。 ど う し て そ う な る の
ですか?
▶ ▶ ▶ 胎 児 計 測 が 正 確 に 行 わ れ て い な い と、 信 頼 で き る 推 定 胎 児 体 重 を 計 算
す る こ と は で き ま せ ん。 胎 児 計 測 の 中 の 重 要 な 項 目 で あ る 児 頭 大 横 径
(BPD) を 計 測 す る 際 に は、 超 音 波 が 赤 ち ゃ ん の 頭 部 の 真 横 か ら 水 平
に 入 る 必 要 が あ り ま す。 赤 ち ゃ ん の 頭 が 下 が り 気 味 で 骨 盤 の 中 に 入 り
込 ん で い る と、 ど う し て も 真 横 か ら 超 音 波 を 入 れ る こ と が で き ず、 正
確 な 計 測 が で き な い 場 合 が あ る の で す。 そ の よ う な 場 合 は、 不 正 確 な
数 値 を 使 っ て も 意 味 が あ り ま せ ん か ら、 推 定 胎 児 体 重 を 計 算 し な い の
が 正 し い 対 応 で す。
「 超 音 波 検 査 で み る 胎 児 の 体 重 は 、実 際 の 体 重 と ズ レ が あ る 」と 聞 い た の で す が 、
❖ なぜですか?
▶ ▶ ▶ 子 宮 の 中 に い る 胎 児 の 体 重 を 直 接 は か る こ と は で き ま せ ん。 そ こ で 超
音 波 を 用 い て 赤 ち ゃ ん の 頭 な ど の 大 き さ (長 さ) を 計 測 し て、 こ の 値
か ら 胎 児 の 体 積 を 推 定 し て 体 重 を 求 め ま す。 体 積 と 体 重 の 関 係 に は 個
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人 差 が あ り ま す。 ま た、 音 速 は 生 体 の な か で 変 化 し ま す。 こ の た め、
超 音 波 を 使 っ た 計 測 で は あ る 程 度 の 誤 差 を 避 け る こ と は で き ま せ ん。
計 測 自 体 の 誤 差 も あ り ま す。 こ の よ う な こ と か ら、 胎 児 推 定 体 重 の 評
価 の 際 に は、 特 に 問 題 な く 計 測 が 行 わ れ た 場 合 も、 ± 10 % 程 度 の ズ
レ は あ り う る と 考 え て、 そ の 対 応 を 行 い ま す。
❖ 前 回 の 健 診 時 の 胎 児 体 重 よ り も 、 少 な く な っ て し ま い ま し た 。 こ ん な こ と あ る
のでしょうか!?
❖ 前 回 の 健 診 時 か ら 1 週 間 し か た っ て い な い の に 、 200 g も 急 に 大 き く な り ま し
た。 ど ち ら が 正 し い の で し ょ う か ?
▶ ▶ ▶ 胎 児 推 定 体 重 は、 あ く ま で も 推 定 さ れ た 体 重 で 誤 差 が あ る 可 能 性 が
あ り ま す。 た と え ば 妊 娠 34 週 で 推 定 体 重 が 2,000g で あ れ ば ± 10% で
す か ら、 実 際 の 体 重 は 1,800 ~ 2,200g の 範 囲 に 入 る こ と に な り ま す。1
週 間 後 に 実 際 に は 150 ~ 200 g 大 き く な っ た と し て も、先 に 大 き め に、
あ と で 小 さ め に 推 定 さ れ た 場 合 に は、 推 定 体 重 と し て は 小 さ く な る こ
と が あ り ま す。 そ の 逆 の 場 合 に は、 推 定 体 重 が 急 に 大 き く な る こ と も
あ り ま す。 従 っ て、 赤 ち ゃ ん の 発 育 が 正 常 で も 上 の 二 つ の 質 問 の よ う
な こ と は 起 こ る 可 能 性 が あ り ま す。 健 診 で 体 重 推 定 を 行 っ て、 胎 児 発
育 曲 線 上 に プ ロ ッ ト し て 線 で 結 ぶ と、 で こ ぼ こ に な る こ と が あ り ま す
が、 全 体 の な が れ と し て 発 育 の 方 向 が 上 向 き で あ れ ば 心 配 な い と 考 え
ら れ ま す。 胎 児 の 発 育 は 体 重 の 絶 対 値 だ け で な く 発 育 の な が れ (時 間
的 変 化)で と ら え る こ と が 大 切 で す。 第 5 章 の「推 定 胎 児 体 重(EFW)
の ば ら つ き に つ い て」 の 項 も 参 考 に し て く だ さ い。
❖ 通 院 し て い る ク リ ニ ッ ク で は 毎 回 超 音 波 検 査 を し て く れ ま せ ん 。 超 音 波 検 査 を
健診のたびにしなくても良いのでしょうか?
▶ ▶ ▶ 発 育 が 順 調 で 他 に 異 常 が な け れ ば、 毎 回 の 妊 婦 健 診 で 超 音 波 検 査 を
実 施 す る 医 学 的 な 意 味 は 大 き く あ り ま せ ん。 し か し、 妊 娠 中 の 超 音 波
検 査 に は、 胎 児 の 姿 を 直 接 み る こ と で、 母 性 や 父 性 が は ぐ く ま れ る と
い う 意 味 も あ る か も し れ ま せ ん。 そ の よ う な 妊 婦 健 診 時 の コ ミ ニ ケ ー
シ ョ ン ツ ー ル と し て の 超 音 波 検 査 に つ い て は、 そ の 有 効 性 や 必 要 性 に
つ い て の 定 説 は あ り ま せ ん。 健 診 施 設 の 考 え 方 次 第 と い う こ と に な り
ま す が、 ご 希 望 が あ れ ば、 担 当 の 先 生 と 相 談 し て く だ さ い。
33
❖ 超 音 波 検 査 を 毎 回 受 け て も 赤 ち ゃ ん に 害 は な い の で し ょ う か ?
▶ ▶ ▶ 超 音 波 装 置 は、 安 全 と 考 え ら れ て い る 音 響 出 力 の 範 囲 内 で、 超 音 波 照
射 を 行 い ま す。 胎 児 に 対 す る 超 音 波 検 査 に つ い て は、 こ れ ま で の 研 究
で は 高 い 安 全 性 が 確 認 さ れ て き て い ま す。 通 常 の 臨 床 の 範 囲 内 の 超 音
波 検 査 (胎 児 計 測 等) で 問 題 が 起 こ る こ と は 考 え ら れ て い ま せ ん。 し
か し、 と く に 妊 娠 初 期 の 超 音 波 検 査 に 関 し て は で き る 限 り 短 時 間 に と
ど め て、 不 要 な 超 音 波 検 査 を 避 け る べ き で は な い か と い う 意 見 が あ り
ま す。 妊 娠 中 は 超 音 波 検 査 に お い て も ALARA(As Low As Reasonably
Achievable) の 原 則 に も と づ い て 実 施 し、 超 音 波 の 安 全 な 使 用 を 心 掛
け る こ と が 大 切 で す。
胎児発育曲線の使いかたに関する質問
❖ 胎 児 発 育 曲 線 は ど の よ う に 使 え ば 良 い の で す か ?
▶ ▶ ▶ 妊 婦 健 診 の と き に 超 音 波 検 査 で 胎 児 計 測 が 行 わ れ て、 推 定 胎 児 体 重
(EFW) が わ か っ た と き に 使 い ま す。 妊 娠 〇 週 〇 日 で、 推 定 × × グ ラ
ム と い う 結 果 を 胎 児 発 育 曲 線 上 に プ ロ ッ ト し て く だ さ い。 胎 児 発 育 曲
線 の 2 本 の 線 の 間 に 入 っ て い て、( 複 数 回 の 検 査 で ) 赤 ち ゃ ん の 成 長
が 認 め ら れ て い れ ば、 胎 児 発 育 と し て は 心 配 な い と 考 え る こ と が で き
ま す。
❖ 胎 児 発 育 曲 線 の 上 下 に 2 本 の 線 は 平 均 ± 2SD と い う こ と で す が 、 ど う い う 意
味があるのですか?
▶ ▶ ▶ 正 常 な 個 体 の 値 は 平 均 値 を 中 心 に ベ ル 型 に 分 布 す る こ と が 知 ら れ て い
て こ れ を 正 規 分 布 と い い ま す。SD( 標 準 偏 差 ) 値 と は 平 均 値 を 中 心
に ど の 程 度 計 測 値 が ば ら つ い て い る か を 示 す 指 標 で す。 ± 2SD の 範 囲
には 全 体 の 約 95.4%が はいります。 胎 児 発 育 曲 線 は、 正常 体 重 で出 生し
た 胎 児の 推 定体 重 で 作 成されたもので、 この 範 囲にあれ ば 正常体 重 で の
出 生 が 期 待できることになります。 第 5 章も参 考にしてください。
❖ 妊 娠 後 半 、「 小 顔 な の か な ? 頭 は 小 さ め だ け ど 身 長 は 高 そ う だ か ら 実 際 の 体 重
は も っ と あ る と 思 う よ 」と 説 明 さ れ ま し た . ど う 記 入 し た ら 良 い の で し ょ う か ?
▶ ▶ ▶ 赤 ち ゃ ん の 推 定 体 重 は 頭 の 大 き さ と お 腹 の ま わ り と 足 の 長 さ か ら 計 算
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し ま す。 赤 ち ゃ ん の 各 部 位 を 総 合 的 に 評 価 し た の が 推 定 体 重 な の で、
あくまで先生が超音波で実際に測定した結果にもとづく赤ちゃんの推
定 体 重 を 記 入 し て く だ さ い。 推 定 な の で 生 ま れ て き た 赤 ち ゃ ん の 体 重
と 異 な る こ と が あ り ま す。心 配 し な い で 先 生 の 指 示 に 従 っ て く だ さ い。
❖ 第 3 子 妊 娠 中 。 上 の 二 人 と も 同 じ 病 院 で 出 産 . 直 前 の 超 音 波 検 査 で は 二 人 と も
2,600g 前 後 の 推 定 だ っ た が 、 生 ま れ た 子 ど も は 3,200g と 3,400g で し た 。
先 生 の 予 測 よ り 600g ぐ ら い 上 を 書 き 入 れ た 方 が 良 い の で し ょ う か ?
▶ ▶ ▶ 赤 ち ゃ ん の 位 置、 取 り 方 で 出 産 近 く に は 推 定 か ら か な り ず れ る こ と が
あ り ま す。 今 回、 必 ず 小 さ く 測 ら れ て い る と い う 保 証 も な い の で、 先
生 の 計 測 ど お り の 推 定 体 重 を 今 回 も 書 き 入 れ て く だ さ い。
❖ ふ た ご の 場 合 、 三 つ 子 の 場 合 は ど の よ う に 記 入 し た ら 良 い で す か 。
▶ ▶ ▶ ひ と り (単 胎) の 場 合 と 同 じ よ う に 発 育 曲 線 上 に プ ロ ッ ト し て く だ さ
い。 た だ し、 子 宮 の 中 に い る 間 は 胎 児 の お 互 い の 位 置 が 大 き く 変 わ る
こ と が あ り、 ひ と り ひ と り の 区 別 が む ず か し く な る こ と が あ り ま す。
ふたりの発育にはっきり差がある場合などは個別に評価ができます
が、 い つ で も 確 実 に 区 別 し て 評 価 で き る わ け で は な い こ と は 理 解 し て
お い て く だ さ い。 第 5 章 の 「 ふ た ご ( 双 胎 ) の 場 合 は 」 の 項 も 参 考 に
し て く だ さ い。
❖ ふ た ご ( 双 胎 ) で も 、 ひ と り ( 単 胎 ) の 場 合 と 同 じ 基 準 で 良 い の で す か ?
▶ ▶ ▶ 胎 児 発 育 曲 線 は 胎 児 が ひ と り (単 胎) の 場 合 を 基 本 と し て 作 ら れ て い
ま す。 ふ た ご の 場 合、 少 し 小 さ め に 生 ま れ て く る こ と が 多 い の は 確 か
で す。 で も、 出 生 後 は ふ た ご の 場 合 で も ふ た ご 用 の 基 準 値 で 評 価 す る
わ け で は あ り ま せ ん。 ひ と り ひ と り の 発 育 を 確 実 に 評 価 す る こ と が 大
切 と 考 え て い る か ら で す。
ふ た ご の 場 合 も、 一 人 の 場 合 と 同 様 に 考 え て 発 育 曲 線 上 に プ ロ ッ ト
し て く だ さ い。 そ し て、 ど の よ う に 発 育 し て い く か を み て い き ま す。
経 過 を み て、 順 調 に 発 育 す る か ど う か を 確 認 す る こ と に な り ま す。 ま
た、ふ た ご の 場 合 は、ふ た り の 間 の 体 重 差 の 変 化 (差 が 小 さ く な る か、
変 わ ら な い か、 大 き く な る か ) を み て い く こ と も 重 要 で す。 単 胎 で 作
ら れ た 基 準 値 を 用 い て 評 価 を 行 う こ と に 問 題 は あ り ま せ ん。 第 5 章 の
「ふ た ご (双 胎) の 場 合 は」 の 項 も 参 考 に し て く だ さ い。
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「大 き い 場 合」
❖ 胎 児 が 大 き い の で 、 大 き な 病 院 で 検 査 す る よ う に 言 わ れ ま し た 。 ど ん な 検 査 を
す る の で し ょ う か …。
▶ ▶ ▶ 胎 児 が 大 き い 場 合、 糖 尿 病 に な り や す い な ど の 母 体 の 体 質、 胎 児 の 病
気、 胎 児 の 体 質 な ど が そ の 原 因 と し て 考 え ら れ ま す。 し ば し ば 行 わ れ
て い る の は、 ブ ド ウ 糖 負 荷 試 験 な ど の 母 体 の 検 査、 専 門 的 な 超 音 波 検
査 な ど の 胎 児 へ の 画 像 検 査 で す。
❖ 第 一 子 の と き と 比 べ て 、 第 二 子 の ほ う が 大 き か っ た で す 。 今 回 妊 娠 中 の 第 三 子
はさらに大きくなるのですか?
▶ ▶ ▶ 一 般 に は 第 一 子 の と き と 比 べ て、 第 二 子 の ほ う が 出 生 体 重 が 大 き く な
る 傾 向 が あ り ま す。 お そ ら く 第 一 子 の と き と 比 べ て、 第 二 子 の 妊 娠 中
の 子 宮 内 環 境 が よ い た め で あ る と 考 え ら れ ま す。 し か し、 妊 娠 中 の 合
併 症 や 性 別 な ど の 要 因 に よ っ て も 影 響 を 受 け ま す の で、 ひ と り ひ と り
の 赤 ち ゃ ん の 発 育 を、 慎 重 に 計 測 し、 評 価 し て い く 必 要 が あ り ま す。
❖ 推 定 体 重 を 胎 児 発 育 曲 線 の グ ラ フ に 記 入 す る と 上 の 線 ( + 2SD) か ら は み 出 し
て 上 に き て し ま い ま す。 ど う し た ら 良 い の で し ょ う か。 原 因 ・ 治 療 ・ お 産 の
見 通 し に つ い て 教 え て 下 さ い。
▶ ▶ ▶ 胎 児 が 「大 き い」 場 合、 糖 尿 病 に な り や す い な ど の 母 体 の 体 質、 胎 児
の 病 気、 胎 児 の 体 質 な ど が そ の 原 因 と し て 考 え ら れ ま す。 ブ ド ウ 糖 負
荷 試 験 な ど の 母 体 の 検 査、専 門 的 な 赤 ち ゃ ん の 超 音 波 検 査。 分 娩 時 期、
方 法 は 赤 ち ゃ ん と お 母 さ ん の 状 態 を み な が ら 決 め る の で、 担 当 医 の 先
生 あ る い は 紹 介 さ れ た 病 院 の 先 生 と ご 相 談 く だ さ い。
❖ 推 定 体 重 を 胎 児 発 育 曲 線 の グ ラ フ に 記 入 す る と 、 上 の 線 ( + 2SD)、 ぎ り ぎ り
内 側 の と こ ろ を 推 移 し て い ま す 。 ど う し た ら 良 い の で し ょ う か ? 原 因・治 療・
お 産 の 見 通 し に つ い て 教 え て く だ さ い。
▶ ▶ ▶ 胎 児 計 測 に は 誤 差 を 考 え に 入 れ る 必 要 が あ り ま す。 経 過 を み ま し ょ
う。 赤 ち ゃ ん の 発 育 に は 個 人 差 が あ り ま す。 上 下 の 線 の 間 な ら、 心 配
あ り ま せ ん。
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❖ 途 中 ま で は 二 つ の 線 の 真 ん 中 辺 を 推 移 し て い た の で す が 、 だ ん だ ん 上 の 線 ( +
2SD) に 近 づ い て き て い ま す 。 一 体 ど う し た の で し ょ う か 。
▶ ▶ ▶ 経 過 を み ま し ょ う。 こ の 二 つ の 線 の 中 で 推 移 し て い れ ば 心 配 あ り ま せ
ん。
「 胎 児 が 大 き い 」 と い わ れ た の で す が、 生 活 面 で 努 力 で き る こ と、 気 を つ け た
❖ ほ う が 良 い こ と は あ り ま す か ? 私 が も っ と 運 動 し た り、 ダ イ エ ッ ト を し た り
した方が良いのですか?
▶ ▶ ▶ 胎 児 が 「大 き い」 場 合、 そ の 原 因 の ひ と つ と し て 妊 娠 糖 尿 病 の 可 能 性
を 検 討 す る 必 要 が あ り ま す。 糖 尿 病 で は な く て も そ の 体 質 が あ る 人 が
妊 娠 す る と、 妊 娠 中 だ け 血 糖 値 が 高 く な り、 糖 尿 病 に 近 い 状 態 (こ の
状 態 を 妊 娠 糖 尿 病 と よ ん で い ま す。) に な っ て し ま う こ と が あ り ま す。
そ れ は ブ ド ウ 糖 負 荷 試 験 を す る こ と で わ か り ま す。
妊 娠 糖 尿 病 だ と わ か っ た 場 合 は、 糖 尿 病 に 準 じ た 食 事 指 導 や イ ン ス
リ ン に よ る 治 療 を 行 っ て 血 糖 値 を 維 持 す る こ と で、 巨 大 児 に な ら な い
よ う に す る こ と が で き る 場 合 が あ り ま す。糖 尿 病 や 妊 娠 糖 尿 病 の 方 も、
胎 児 の 発 育 の た め に 必 要 な 栄 養 は、 し っ か り 摂 取 す る 必 要 が あ り ま す
の で、 食 事 療 法 は 必 ず 専 門 家 に よ る 食 事 指 導 に 従 っ て 行 い ま し ょ う。
妊 娠 中 の 過 度 な ダ イ エ ッ ト は 母 体 の 体 調 を 悪 化 さ せ、 胎 児 に も 悪 影 響
を 及 ぼ し か ね ま せ ん。 絶 対 や ら な い で く だ さ い。
❖ 胎 児 期 の 発 育 が 上 の 線 に 近 か っ た 場 合 や は み 出 し た 新 生 児 は 、 産 後 は 授 乳 を 少
なめにして赤ちゃんにダイエットをさせたほうが良いのでしょうか?
▶ ▶ ▶ 大 き く 生 ま れ た 赤 ち ゃ ん は 将 来 の 肥 満 の リ ス ク が 高 い 傾 向 に あ り ま
す。 で も、 ダ イ エ ッ ト は や め ま し ょ う。 発 育 に と っ て 重 要 な 時 期 に い
た ず ら に ダ イ エ ッ ト さ せ よ う と す る こ と は、 成 長 だ け で な く、 赤 ち ゃ
ん の 脳 の 発 達 に も 悪 影 響 を 及 ぼ し か ね ま せ ん。 通 常 通 り 母 乳 を 中 心 に
授 乳 を し て い た だ く こ と が 最 も 大 切 で す。
「小 さ い 場 合」
❖ 胎 児 が 小 さ い の で 、 大 き な 病 院 で 検 査 す る よ う に 言 わ れ ま し た 。 ど ん な 検 査 を
す る の で し ょ う か …。
▶ ▶ ▶ 母 体、 子 宮、 胎 盤、 臍 帯、 胎 児 の ど こ に 問 題 が あ っ て も、 胎 児 の 発 育
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に 問 題 が 生 じ ま す。 ま ず、 分 娩 監 視 装 置 を 使 う 胎 児 心 拍 数 モ ニ タ リ ン
グや超音波検査を行って胎児の状態が悪くないことを確認することが
多 い と 思 い ま す。 そ れ か ら ど こ に 原 因 が あ る の か を 知 る た め に、 母 体
の 血 液 検 査、 専 門 的 な 超 音 波 検 査 等 に よ る 子 宮、 胎 盤、 臍 帯、 胎 児 の
検 査 を 進 め て い く こ と に な り ま す。
「 赤 ち ゃ ん は 小 さ い ほ う が 産 み や す い、 安 産 だ 」 と 聞 き ま し た。 胎 児 が 小 さ く
❖ ても良いのではありませんか?
▶ ▶ ▶ 赤 ち ゃ ん に は 個 性 が あ り、 大 き さ も そ れ ぞ れ 違 い ま す。「 小 さ い 」 あ
る い は 「大 き い」 か ら 問 題 な の で は な く、 今 の 大 き さ が、 そ の 赤 ち ゃ
ん に と っ て 一 番 良 い 大 き さ な の か が 問 題 な の で す。 母 体 の 栄 養 条 件 や
糖 尿 病 体 質、 あ る い は 胎 盤 や 臍 帯 の 異 常 な ど 子 宮 内 の 「環 境 要 因」 に
よ っ て、 そ の 赤 ち ゃ ん 本 来 の ち ょ う ど よ い 発 育 の 仕 方 よ り 小 さ い 場 合
も 大 き い 場 合 も、 そ の 子 の 健 康 に 望 ま し く な い 影 響 が 起 こ り う る と 考
え ら れ て い ま す。 胎 児 は 小 さ く て も、 そ の 子 に と っ て ち ょ う ど よ い の
で あ れ ば 問 題 は あ り ま せ ん。 で も 個 々 の 赤 ち ゃ ん で そ れ を 確 か め る 方
法 は な い の で、 標 準 的 な 発 育 の 範 囲 か ら は ず れ て い る 場 合 は、 赤 ち ゃ
ん の 状 態 を 十 分 注 意 し て い く 必 要 が あ り ま す。
❖ 推 定 体 重 を 胎 児 発 育 曲 線 の グ ラ フ に 記 入 す る と 、 下 の 線 ( - 2SD) の 内 側 、 ぎ
り ぎ り の と こ ろ を 推 移 し て い ま す。 ど う し た ら 良 い の で し ょ う か ? 原 因 ・ 治
療 ・ お 産 の 見 通 し に つ い て 教 え て く だ さ い。
▶ ▶ ▶ 下 の 線 を ギ リ ギ リ に 推 移 し て い る と い う こ と は、 小 さ め な が ら も 成 長
し て き て い る、 と い う こ と に な り ま す。 こ の ま ま 様 子 を み ら れ て 良 い
と 思 い ま す。 第 5 章 の 「 推 定 胎 児 体 重 が 小 さ め な 場 合 」 の 項 も 参 考 に
し て く だ さ い。
❖ 推 定 体 重 を 胎 児 発 育 曲 線 の グ ラ フ に 記 入 す る と 、 下 の 線 ( - 2SD) 以 下 に き て
い ま す。 ど う し た ら 良 い の で し ょ う か ? 原 因 ・ 治 療 ・ お 産 の 見 通 し に つ い て
教 え て く だ さ い。
▶ ▶ ▶ 赤 ち ゃ ん は 小 さ い 可 能 性 が 高 い と 思 わ れ ま す。 胎 児 の 発 育 へ の 影 響
は、 母 体、 子 宮、 胎 盤、 臍 帯、 胎 児 の ど こ に 問 題 が あ っ て も 起 こ り ま
す。 赤 ち ゃ ん や 胎 盤、 臍 帯 な ど に 異 常 が あ る か ど う か も 含 め、 原 因 を
探 す 必 要 が あ り ま す。 治 療 法 や お 産 の 見 通 し に つ い て は、 そ の 原 因 や
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今 後 の 経 過 次 第 な の で、 担 当 の 先 生 と よ く ご 相 談 く だ さ い。
❖ 途 中 ま で は 二 つ の 線 の 真 ん 中 辺 を 推 移 し て い た の で す が 、 だ ん だ ん 下 の 線 ( -
2SD) に 近 づ い て き て い ま す 。 一 体 ど う し た の で し ょ う か 。
▶ ▶ ▶ 理 由 は わ か り ま せ ん が、 発 育 は 途 中 ま で 正 常 に 経 過 し て い た け れ ど、
何 ら か の 原 因 で、 発 育 し に く い 状 況 に あ る の だ ろ う と 考 え ら れ ま す。
次 の 計 測 で 下 の 線 を 下 回 っ て く る よ う で あ れ ば、 原 因 を 探 す た め の 検
査 な ど が 必 要 に な る と 思 わ れ ま す。
「 胎 児 が 小 さ い 」 と い わ れ た の で す が、 生 活 面 で 努 力 で き る こ と、 気 を つ け た
❖ ほうが良いことはありますか? 今まで以上にたくさん食べたほうが良いので
しょうか? どういう栄養を取れば良いですか?
▶ ▶ ▶ 胎 児 が 「小 さ い」 原 因 の 中 に は 母 体 の 生 活 習 慣 が 関 係 し て い る も の も
あ り ま す。 喫 煙 や 極 端 な ダ イ エ ッ ト な ど で す。
タバコに含まれるニコチンは胎盤内の血流を低下させることが知ら
れ て い ま す。 そ の 結 果 母 体 か ら 胎 児 に 酸 素 や 栄 養 を 送 る た め の 血 液 が
減 少 し て し ま い、 胎 児 発 育 不 全 が お き ま す。 禁 煙 す る こ と で 胎 児 の 発
育 が 改 善 さ れ る 場 合 が あ り ま す。 妊 娠 中 は 禁 煙 す る の が 一 番 良 い と 思
い ま す。(産 後 も 禁 煙 し ま し ょ う。)
ま た、 極 端 な ダ イ エ ッ ト も 胎 児 が 「 小 さ い 」 原 因 の 一 つ で す。 極 端
な ダ イ エ ッ ト は 胎 児 の 発 育 を 障 害 す る の で、 や め ま し ょ う。 特 に や せ
て い る 女 性 (Body mass index が 18.5 未 満) の 場 合 に は、 妊 娠 中 の 体 重
増 加 が 9 ~ 12kg に な る よ う に 栄 養 を 取 る よ う に し た ほ う が 良 い と 考
え ら れ て い ま す。
❖ 下 の 線 に 近 か っ た 新 生 児 は 、 産 後 は い っ ぱ い 授 乳 し て 太 ら せ た ほ う が 良 い の で
しょうか?
▶ ▶ ▶ 分 娩 後 は 母 乳 栄 養 を 中 心 に し て く だ さ い。 小 さ く 産 ん で 大 き く 育 て る
と い う 意 識 は、 か え っ て 将 来 の メ タ ボ リ ッ ク シ ン ド ロ ー ム の リ ス ク を
高 く す る 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ て い ま す。 母 乳 で ゆ っ く り と 成 長 し
て い く 方 が 良 い で し ょ う。
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「推定胎児体重と胎児発育曲線」保健指導マニュアル
平成 24 年 3 月 発行
平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)
「地域における周産期医療システムの充実と医療資源の適正配置に関する研究」
(H 21-子ども-一般-002)「胎児推定体重」保健指導マニュアル作成グループ
研究代表者: 海野 信也 北里大学医学部産科・教授
研究分担者: 遠藤 俊子 京都橘大学看護学部・教授
松田 義雄
東京女子医科大学母子総合医療センター・教授
久保 隆彦
篠塚 憲男
田中 政信
国立成育医療研究センター・医長
研究協力者: 板橋家頭夫 昭和大学医学部小児科・教授 胎児医学研究所・所長
日本産婦人科医会常務理事・東邦大学産婦人科・教授