電子媒体による画像情報連携の問題点 - 可搬型媒体を用いた連携 東北大学病院 1.はじめに 平成20年の診療報酬改定は、我々の放射線 業務の大きなターニングポイントであった。デジ タル映像化処理加算が60点から15点へ大幅な 引き下げ、コンピュータ画像処理加算が電子画 像管理加算となり120点へ引き上げされた。この 改定の意図するところは、PACSの導入とフィル ムレス運用の推進に他ならない。フィルムレス運 用導入によってフィルムコストを削減し始めた医 療機関は、当然のことながら病診(病)連携にお ける紹介画像の扱いをフィルム画像から可搬型 媒体(いわゆるCD-RやDVD)等に記録した、電 子画像へと移行していった。 現在、この可搬型媒体をめぐるトラブルが東 北各地でも増加し、大きな問題となっている。本 報では、可搬型媒体による医療情報(画像情 報)の問題点を整理しその解決のための糸口を 探るものである。 2.可搬型媒体を用いた連携のトラブル 可搬型媒体による施設間連携のトラブルには、 以下のような例がある。 ① 媒体自体が認識できない ② 読込ワークフローが整備されていない。 ③ 1枚のCD-Rに複数患者の情報が格納。 ④ オートランが動作しトラブルの原因となる。 ⑤ Viewerアプリは無く、圧縮データが格納。 ⑥ JPEGやBMP画像が格納。 ⑦ 1人の患者が複数枚のCDに格納。 ⑧ DICOM規格違反 ⑨ ウイルスが入っていた。 3.Portable Data for Imaging (PDI) 2.の例のようなトラブルが発生するのを防ぐ手 段としてIntegrating the Healthcare Enterprise (IHE)では、Portable Data for Imaging (PDI)と いう統合プロファイル(ガイドライン)を提供して いる。IHEは、医療情報システムの相互接続性 診療技術部放射線部門 坂本 博先生 (情報の連携)、および相互運用性を推進する 国際的なプロジェクトである。IHEの特徴として では、システムや機器を機能分解しその機能を 「 ア ク タ 」 と 呼 ぶ 。 PDI と は 、 DICOM Part10 Media StorageというDICOMの媒体保存規格を ベースにして運用した場合の適応法のガイドラ インである。我が国で、IHE準拠として開発され たシステム・機器については、IHEに準拠して実 装されているかの確認のために、日本IHE協会 が主催する接続試験、「コネクタソン」が行われ ている。このコネクタソンで確認された製品が PDI対応とされている。図1にPDIのアクタとその 概要を示す。Portable Media Creator (PMC)と は、画像をメディアに書込む機能で、Portable Media Importer(PMI)とは、画像をメディアから 読込む機能である。 図 1 PDI の概要 図 2 PDI メディアの構造 図2に、PDIのメディア構造を示す。CD-Rの中 には、DICOM画像に実態と、画像にアクセスす るためのアクセスポイントとなるDICOM DIRを 作りディレクトリ構造とする。また、Webコンテン 規 格 化 さ れ た (0400,0561)Original Attributes ツや媒体の中身を示すREADME.TXTファイル Sequenceのタグに書き換えた元の情報を残すこ (図3参照)、画像を表示するためのビューワに とで、画像の元情報が記録できる。同様に よって構成されている。 (0018,A001) Contributing Equipment Sequence には、機器の情報を記録することができる。IHE には、このケースに当てははまるIRWFというプ ロファイルも存在する。 図3 README.TXTの例 3.患者に渡す医用画像CDについての合意事 項 可搬型媒体の運用については、JAMI、JRS、 JSRT、JIRA、JAHIS、日本IHE協会の関連6団体 の合意事項として2009年に以下のように通知さ れた。 ① オートスタートを避ける。 ② DICOM違反のタグを含まない。 ③ 1CDに1患者IDとする。また、1CDに数スタ ディ程度とする。 ④ IHE PDI準拠であること。 ⑤ 受け取り側の状況を考慮し大量の画像枚 数となることを避ける。 ⑥ SS-MIXで示されている、あるいはIHE PDI で 示 さ れ て い る フ ァ イ ( DICOMDIR, DICOM画 像、 HL7 ファ イルな ど )以外 の ファイル(PDF、単体のJPEG、テキスト、表 計算など)は、別ディスクとするか、あるい は同一CDに入れる場合は、PDIの示すと おり、Other files/foldersのところに入れ、そ のことを ディスク面あるいはREADME.TXT に明記すること。 4.PACSへの取り込み 可搬型媒体で持ち込まれた画像を自施設の PACSに取り込む場合、患者IDや施設名等を書 き換え保存するケースでは、DICOM CP-56で 5.PDIの拡張 PDIは、様々なケースに対応すべく拡張対応 を仕様としている。Portable Media Senderという PACSにデータを送る機能やPrivacy Protection という情報の暗号化を行う機能、さらにBasic Image Review(BIR)というPDIにセットされる標準 画像ビューワである。BIRが提供されればベンダ 毎の操作性の違いによる問題も解消されると期 待できる。 6.おわりに 医療機関間の可搬型媒体を利用した画像連 携は、コストも最小限に抑えられ、情報の出力 側のメリットは非常に大きい。しかし、その反面、 受け側には、その手軽さ故の、多くのリスクが潜 んでいる。 本報では、可搬型媒体による連携ソリューショ ンとしてIHEのPDIを中心に解説した。今や広く 認知されつつあるあるPDIであるが、それに対応 した機器をすべての施設が持っている訳でもな い。 施設間連携が成立するための最も大きな要 因は、やはり、施設毎のコミュニケーションであ る。仮にPDIに対応していない可搬型媒体が届 いたとしても事前にどんなものかが理解できて いれば、トラブルを最小限にできる。突然届い た未知のメディアに慌てる必要もないのである。 そして何よりも、PDIに関する格差によって、患 者が不利益になることは、あってはならないこと である。
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