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日消外会誌 26(4):1125∼
1129,1993年
精神病患者 の消化器外科手術時 の管理
-13例 の経験 か ら一
国立仙台病院外科
木村 光 宏
柿崎 健 二
山
内 英 生
過去 2 年 間 に1 3 例の精神病患者 の消化器外科手術を経験 した。精神分裂病 6 例 , そ ううつ病 4 例 ,
その他 3 2 1 1 で
あ り, 平 均1 4 年の精神病治療歴を有 した。術前 より全経過を通 じ, 精 神科医, 麻 酔科医
との協力によ り, 精 神症状, 向 精神薬 の副作用 の発現 の回避 に努 め, 適 宜, 向 精神薬を投与す ること
で, 精 神症状 の発現 は抑 えられた。 しか し, 各 種 の臓器障害, とくに肝機能障害を有す る際 には, 向
精神薬 が相対的過乗」
投与 となる ことがあ り, これ によると思われ る呼吸抑制を 1 例 で経験 した。 また
向精神薬 の副作用 と思われる血圧低下や術後腸管麻痺 の遷延な ども認めた。精神病患者 の手術 に際 し
ては, 精 神病その ものの管理 とともに, 長 期的に投与 されている向精神薬の副作用に十分に留意す る
必要 があると思われた。
Key words:
abdominal surgery, psychotic patient, perioperative management of psychotics
rまじめ に
M M
F F M F M F
cxisting
psychcis
chol@ystolilhisis
6 monts
gashc qn€r
25 ye6
mpubdon
neuoma
of CBD
28 ye6
@inoma
of
papilla of Vakr
l0 yem
choled@holithi6is
33 yem
cholrcysblirhidis
2 yets
cholcdmholithi6is
10 monfts
31 ycm
insulinoma
10 yem
gsEc
€ncr
cholecysblirhiasis
2 months
Crohn's discase
16yem
p€rforation of intsdne
)nseraferadmission
M
M F
3
2 ︲
l
対 象 とした症例 は1989年 4月 か ら1991年 3月 までの
2年 間 に 当科 で外科手術 を施行 した精神病患者 13例で
H
自験例 の概要
M F
去 2年 間,13例 の経験 か らそ の問題点 を考察 した。
Diagnosis
5 6 7 8 9 Ю
る症例 も増加 してい る。精神病息者 の周術期管理 は,
精 神病 の管 理 とともに,長 期 にわ た り服 用 して い る
種 々の 向精神薬 の影響,副 作用 を考慮 す る必 要 の あ る
点 に,そ の特殊性 が あ る と思わ れ る分.当 科 におけ る過
Age
3 4
精神病息者 を扱 う機会 が増 し,消 化器系 の手術 を要す
Table 1 Thirteen psychotic patients operated on
during the last two years MDI : manic depressive illness
1 2
最近 のす ぐれた向精 神薬 の 出現 に よ り,精 神病患者
は,安 定 した 日常 生 活 を送 る こ とが可 能 とな って き
)。それ に ともない 日常 の外科診療 の場 において も
た 1レ
)nselaf@radmission
男 7例 ,女 6例 ,年 齢 は32歳か ら73歳,平 均 52歳で あ っ
た 。原疾患 は 胃癌 2例 ,胆 裏結石症 3例 ,総 胆管結石
症 2例 のほか,十 二 指腸乳頭部癌,総 胆管断端神経腫,
直腸癌,膵 イ ンス リノーマ,ク ロー ン病, 自殺 企 図 に
よる消化管穿孔 で あ った 。併存精神疾患 は,精 神分裂
病 642j,そ ううつ病 4例 ,て んかん性精 神病 1例 で 治
療期間 は 2か 月 か ら33年,平 均 14.4年で あ った。 アル
コール精 神病,パ ラノイア症例 は入院後 の発症 で あ っ
た (Table l).
<1992年 11月11日受理>別 刷請求先 !柿 崎 健 二
〒983 仙 台市宮城 野区官城 野 2-8-8 国
立仙 台
病院外科
1 ) 術 前管理 と検査成績
術前 の血 液検査 では, 向 精神薬 の 副作用 に よる明 ら
かな機能障害 はな く, 胆 石症, 総 胆管 断端神経腫, ア
ル コール 精 神 病 の 計 4 例 で 肝 機 能 異 常 を, イ ンス リ
ノーマ とアル コール精神病 の 2 例 で耐糖能異常 を認め
た。 また 3 4 2 1 で
低蜜 白血 症 を, 直 腸癌症例 で貧血 を認
めた ( F i g . 1 ) .
術 前 に服 用 して いた 抗精 神薬 は 併存 精 神病 に よ り
種 々であ ったが, 症 例 6 以 外 で は手術前 日まで減量す
る ことな く服用 させた ( T a b l e 2 ) . 症p l 1 6 は
3 1 年間 に
ー
ハ
ロペ
リ ド ル (7.5mg/
わ た りそ ううつ 病 に 対 して
156(1126)
i 出
Preoperative laboratory
cases
日消外会誌 26巻
4号
を契 機 にせ ん も う,錯 乱 症 状 が 出現 した が,随 時 メ
ジ ャー トランキ ライザ ーを使用す る ことで症状 は改善
した。
2)周 術期管理 と手術術 式
麻 酔 前投 薬 と して全 例 に ア トロ ピン0.5mgの 静 注
を行 ったが,循 環動態 に異常 をみた例 は な か った。麻
酔 は全例 で硬膜外麻酔 を併用 し,吸 入麻酔 は 向精神病
薬 の抗 コ リン作用 を考慮 して心 筋 の被刺激性 を高め る
s
B
F
中 岬 Fig, l
精神病息者 の消化器外科手術時の管理
ハ ロセ ンを さけ,主 に エ ンフル レン,イ ソフル レンを
使用 したが,そ の場合 もで きるか ぎ り浅麻酔 とした.
筋弛緩剤で はパ ンク ロニ ウム (PB)を 主 として用 い,
サ クシ エル コ リン (SCC)は 悪性高熱症 と類似 の悪性
症候群 (野ndrome malin)を 考慮 にいれ, 2年 以上 の
長期精 神病患者 で は極力使用 を避 けた,術 式 は胆愛摘
出術 か ら際頭十 二 指腸切 除術 まで多岐 にわた ったが,
2例 で術 後 の麻酔覚醒 の遅延 をみた ほかは麻酔 に関 し
て, と くに大 きな問題 は認 め なか った (Table 3).
3)術 後管理
1
2
3
4
5
6
7
8omg/day
Hdoperidol
luphcnehc
25mgby
Haloleddol
,omcprcmdnc
450nyday
HdoFidol
somcprcmdnc
150'ngday
HdoFidol
:hltrprcnaane
120mA/&y
Brcnopcridol
lhldprcmenc
100m9/&y
)trphcnadne
3mg/&y
8
lone@inc
9
aomcprcm&in€
?50m8,/day
6frgday
)a?henazinc
50mg/&y
0
1
)crphcnazine
Halotsridol
如
的
的
]
中
Table 2 Anti-psychotics being used preoper.
atively
lsmg/day
併存症例,急 性発症pll,ぁるいは比 較 的進行 した精 神
4例 では症状 に応 じて,
随時 向精神薬 を持続 静注 した。膵頭十 二 指腸切除術 を
Maprorilirc
3ortrg/day
ImiFminc
2sngd^y
LiSiun cebonac 600m9/day
H
hipmirc
2o.ngey
2
l
t30ng/day
3
︲
onscl afEr dmission
onsct dEr
イザ ーを随時筋注す る こ とに よ り管理 しえた。心疾患
病患者症例 13, 2, 4, 7の
Liihium carbonaE600ng/day
PipmFrcn€
外 科 手 術後 の絶 食期 間 は 2∼ 7日 間 で 平 均 4日 間
だ った。 そ の絶食期間中 の精 神病 の治療 は,軽 度 また
は安定 した精神症状 の 6症 例 では不眠 時,不 穏 時 のみ
マ イナ ー トランキ ライザ ー または メジ ャー トランキ ラ
dmission
施行 した症例 4で は虚 血 性心疾患 の既往 もあ る こ とか
ら 5日 間 ICUで 集 中 治 療 を 行 った が,就 眠 時 に メ
ジ ャー トラ ン キ ライザ ーの レボ メ プ ロマ ジ ン25∼50
mgを 筋 注 す る こ とで 精 神 症 状 の 出現 や ICU症 候 群
を来す こ とな く管理 しえた。術後合併症 としては併用
Table 3 0peration and anesthesia,SCC t succinyl・
choline chioride
日) , パーキ ン ソニズ ムに対 して副変 感神経遮 断剤 の ア
SCc+panmniM
2
〕DE■呼idul
3
csion
of CBD
拘 ItcPldlHal
4
断 に よ り新た に向精神薬 の レボ メプ ロマ ジ ン7 5 0 m g ,
ハ ロペ リ ドール 1 5 m g , ツチ ウ ム6 0 0 m g を 服用 させ た
1
キネ トンl m g を 服用 していたが, 入 院時 は うつか らそ
う状態 へ の移行期 で あ った 。そ こで 当院精 神科医 の診
拘 EtPldural
5
"山
調
holeys@y
SCc+pd@nim
SCc+panmim
pal@n
9
0
1
1
1
holccysl@my
中
dural
sCC+pmqonium
ЮE t p l d u 劇
2
1
3
︲
薬 内服 を中止 したが, これ らに よる精神症状 の悪化 は
なか った。症例 1 2 のアル コール精神病 は入院後 の禁酒
hol.d$hold@ny
8
o v e r d o s e による副作用 と判 断 し, 向 精 神薬 を半量 に
減量す る ことに よ り症状 は改善 した 。術前 日は向精神
7
急蘇生 を必要 とした。精 神科 医 との協議 で向精神薬 の
6
が, 翌 日よ り, 原 因不 明 の呼吸抑制 , 停 止 が 出現 し救
rs€tion
of ilcum
SCc+psconiun
SCC+Mc.onium
m6fr6ia
157(1127)
1993年4月
Table 4 Postoperative course and anti・psychotic
therapy during fasting
1 2
Lnti-psychotics dudng f6dng
Halop€ridol 5 ng i.n.x
3
2 略
4 5 6 7 8 9 0
1 い 1
auditory hallucination
fionologue
2/day
d-i.v 15 mg/day
Halopeddol
Ha.lop€ridol 5 ng i.n. for hallucination
lrvomeprcmehe
25 mg i.m./day
Haloperidol 5 mg i.v. X4lday
Diarcpm
10 mg i.m.forsl@plessness
Haloperidol
pealytic
iles
ftmolrigidily
d.i.v. 5 mg/day
Haloperidol 5 mg i.m: for slceplessnss
Diarcpam l0 mg i.m. forsl@plsness
Di@pm
paralyric ilcus
l0 mg i.m. forsl@plessness
Halopcridol
5 mg i.m. for rcsdessness
I"rvomepromazine 50 mg i.m. forrcstlessnes
delusion
HaloDeridol d.i.v. 5 ms/dav
向精神薬 の影響 に よる と思われ る術後腸管麻痺 の遷延
が,肝 代謝能 の低下 に よる薬物 の蓄積 と酵素誘導作用
に よ りそれぞれの実効 が増強 され強 い副作用症状 が 出
現 した もの と思われ る。
向精神薬 は大 き く分 けて抗精神病薬,抗 うつ薬,抗
そ う薬 の 3つ に分 け られ る。抗精神病薬 の効果 と副作
用 は,主 として ドーパ ミン,21ア ドレナ リン,ム スカ
リン性 アセチル コ リン, ヒ スタ ミンな どの レセ プタ ー
を遮 断す る こ とに よって生 ず る といわ れ て い るの。 と
一
くに ドーパ ミン レセ プ ターの遮 断作用 に よ り中脳 皮
質 一 辺縁系 を抑制 し抗精神病作用 を発揮す る といわ れ
てい るがのゆ,そ れ と,同 時 に黒質 一 線条件系,視 床下
部 一 下垂体系 を抑制 す るため,強 い錐体外路系障害,
血 中 プ ロ ラ クチ ン値 上 昇 な どの 副 作 用 を有 して い
るの。 しか し周術期 においては,錐 体外路症状以上 に,
神薬 の 中止 に よ り改善 した。症例 8 で は, 腸 管麻痺 改
抗 コ リン作用 に よる便秘,尿 閉,乳 汁漏,月 経異常,
さ らに抗 αlア ドレナ リン作用 に よる起立性低 血 圧,頻
脈,突 然 の循環虚脱 な どの副作用 の出現 に注意す べ き
善後 に術直前 と同量 の 向精 神薬 を再開 したが, そ の後
まもな く振戦, 硬 直 な どの薬物性 パ ー キ ン ソニズ ム,
で あ ろ う。と くに ク ロル プ ロマ ジンの副作用 につ いて
湾),その使用症例 では,そ の服用量,期
は報告 が 多 くlン
アカシジアを発症 した。 そ こで抗 コ リン剤 を併用 した
ところ, さ らに増悪 し遅発性 ジスキネ ジアを併発 し歩
間 に留意 しつつ術前 の十 分 な ス ク リー ニ ングが必要 と
考 える。実際,術 中,術 後 の突然死や,イ レウス症状
行不能 の状態 にな った 。精 神科 医 と協議 の うえ, 向 精
神薬 を リチ ウ ム6 0 0 m g の み に減 量す る こ ととしたが,
の悪化,咽 喉頭反 射 の低下 に よる誤聴,呼 吸抑制,突
然 の循環虚脱 に よる死亡 例 が少 なか らず報告 されて い
る1011)。
今 回検討 した症例 中,症 例 3で は,術 前 に レボ
が症例 8 , 1 1 の 2 例 で認 め られた ( T a b l e 4 ) . 症例 1 1
で は経 口摂取 開始後 も腸管麻痺症状 が続 いたが, 抗 精
鉾体外路症状 に よる歩行障害 は回復 して いない。
一 過性 の精神症状 は数例 でみ られた ものの, 外 科治
メプ ロマ ジ ン450mg,ハ ロペ リ ドール10mgと 比 較 的
療 の妨 げ となるよ うな精 神病 の増悪 に よる トラブルは
大量 に向精神薬 を内服 してお り,同 時 に外科疾患 に よ
な く良好 に管理 しえた 。しか し, 外科疾患 に よる臓器 機
る肝 機能障害 を指摘 されて いたが,術 中 に変感神経作
一
動性昇圧薬 を用 いた と ころ,逆 に 過性 の血 圧低 下 を
みた.向 精 神薬 の 副作用 のため とはいい きれ な いが,
能障害, と くに肝機能障害 を ともな った病態 では, 向精
神薬や周術期治療薬 の作用 が増強 し, 効 果 が遷延す る
傾 向にあ り, と くに症例 8 で は そ の治療 に難渋 した。
考 察
向精神薬 はほ とん どが脂溶性薬剤 で あ り, 肝 ミク ロ
ゾー ムに局所 す るチ トク ロー ム P _ 4 5 0 の代謝 を うけて
水溶性化合物 とな らなけれ ば, 体 外 へ排 出 され る こ と
は ない。. ま た脂溶 性薬剤 で あ る向精 神薬 を多種 併 用
して い る場 合 には, 酵 素誘 導作 用。や阻害作用 を生 じ
るため , そ れぞれ の薬効 を増強 また は減弱す る といわ
れ てい る5 j 6 1 したが って, 外 科疾患 に ともな う臓器障
害, とくに肝障害 を有す る精神病患者 では, 通 常量 の
薬物量 で も o v e r d o s e にな りやす い と推察 され, 向 精
同様 の副作用 を経験 してい る施設 もあ り,交 感神経作
1め
動性昇圧薬 の使用 には留意す べ き と思われた .
症例 8,11で は抗 コ リン作用 に よる と思われ る術 後
腸管 マ とが遷延 した 。 イ レ ウス症状 の悪化 に よる死亡
例 の報告 もあ りり,著 しい腹部膨満 が持続 す る場合 に
は早期 か らの腸管運動促進剤 の投与や増量 を こころみ
るべ き と考 える。
また以前 は症状 が類似 す るこ とか ら,抗 精神薬服用
時 にみ られ る悪性症候群 (Syndrome malin)と麻酔 時
1。
にみ られ る悪性高熱症 の 関係 が問 題 とされ 1。
,精 神
は十 分留意す る必要 が あ る. 症 例 8 で は, 術 前 よ り胆
疾患症例 で の麻酔 に際 して は SCCの 使用 を避 け る向
きもあ ったが,最 近 では とくに関連性 はない と報告 さ
れ てヽヽる1'.
汁 うった い性肝機能障害 を合併 してお り, 当 院精神科
うつ病 は 中枢神経系 における モ ノア ミン受容体 の感
に よる向精 神 薬 量 も通 常 量 を越 え る こ とは な か った
病 因 と想 定 され
受 性 元 進 に よ る d o w n ‐r e g u l a t i o n が
神薬 お よび周術期治療薬 の使用量, 副 作用, 投 与法 に
158(1128)
精神病息者 の消化器外科手術時 の管理
てお り,抗 うつ剤 にはその感受性 を正常化 させ る作用
が あ る といわれ てい るの。 その副作用 として は ア トロ
ピン様抗 コ リン作用 が強 く,抗 精神病薬 と併用す る と
相乗 効果 を示 して,術 後腸管 マ と, イ レ ウスな どの副
作用 を増強す る こ とが多 い1。
.ま た ノル エ ピネ フ リン
な どの昇圧 ア ミン と併用す る と抗 うつ 薬 の ア ミンの再
取込 み阻害作用 との相互作用 に よ り,異 常高 血 圧,心
筋梗 塞 を きた す こ とが あ るつ。 また ア ミンを枯渇 させ
る レセル ピン類 の降圧薬 を併用 した場合 には 同様 の機
序 に よ り作用 が逆 転 して ア ミン過乗J状態 とな り,高 血
圧,脳 出血 を誘発す ることがあ るつl的
。したが って周術
期, と くに術 中 の血 圧 コン トロールには十 分留意す べ
きで あ り,術 前 1週 間前 よ り抗 うつ薬 の投与 を中止 し
てい る施設 も多 い1り
.わ れわれ も症例 7で 術 中 に 降圧
薬 を使用 したが,そ の際 に一過 性 の血 圧 の上 昇 を経験
してお り,今 後 は精 神病 の状態 と手術 侵襲 に応 じて術
前 の抗 うつ薬 の 中止 も考慮す べ きと考 える。
抗 そ う剤 として最近 は炭酸 リチ ウムを使用 してい る
が,そ の作用機序 はい まだ不 明 で あ るの,Lithiumイ オ
ンは容易 に 胃や小腸 か ら吸収 され ,尿 中 に排 出 され る
が,血 中濃度 が1,7mEq/′を越 える と中毒症 状 を引 き
起 こす といわれて い る。し たが って腎障害 を ともな う
症例 では使用 を控 えるべ きであ り,周 術期 の乏尿期 に
は十 分 にそ の血 中濃 度 を下 げ て お く こ とが必 要 で あ
る.ま た抗精神薬 との併用 に よ りorganic brain syn‐
dromeや 重 篤 な錐 体 外 路症 状 を生 じた とい う報 告 も
あ り,注 意 が必要 で あ る20.
最近 の優 れた 向精 神薬 に よ り精 神病患者 も安定 した
日常生活 を送れ るよ うにな り,外 科治療 を必要 とす る
機会 も増 えつつ あ る,そ の治療 に際 しては,精 神病 自
体 の 治療 とともに,周 術期 におけ る向精神薬 の副作用
な らびに潜在す る合 併症 に注意す る必 要 が あ る と思わ
れ る。と くに外科疾患 に よ り臓器機能障害 を有す る精
神病患者 では over doseにな りやす く,そ の全身管理
には精神科医 の協 力 は もちろん,家 族 の協 力 は必須 で
あ る。し たが って,い かな る外科疾患 で あ ろ うと術前
の ス ク リー ニ ングは十 二 分 に行 うべ きであ り,逆 に術
前 に十分 に コン トロール された症例 で あ るな らば際頭
十 二 指腸切 除術 や食道 手術 な どの大 手術 も可能 で あ る
と考 える。
本論文 の要 旨は第3 9 回日本消化器外科学会総会 ( 神戸市,
1 9 9 2 年2 月) において発表 した. ま た精神病 の管理 に際 して
は, 国立仙台病院, 姉歯一彦精神科医長 の御指導をいただい
日消外会誌 26巻
4号
ツt i .
文 献
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よび手術 ―特 に Phenothiazine系
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―.外 科 40i377-382,1978
3)加 藤隆 一,村木 皇 :薬 物相互作用 の薬理学.神精
薬理 5:221-228,1983
4)加 藤隆 一 :肝 ミク ロデー ムにおけ る薬物代謝酵素
の誘導形式.蛋 ・核 ・酵 10:848-858,1965
一t Drug lnteraction i Phamacokinetics
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藤隆 ―
の面 か ら。そ の 1 - 吸 収 と代謝を中心 に一. 臨薬理
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神経 ・
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159(1129)
1993年 4月
Experience in Abdominal Surgery of 13 Psychotic Patients
MitsuhiroKimura,Kenji KakizakiandHidemiYamauchi
Departmentof Surgery,SendaiNationalHospital
Wehavebeeninvolvedin surgicaltreatmentof 13patientswith psychosisfor the last two years.Therewere
psychosis,
six patientswith schizophrenia,
four with manic-depressive
andoneeachwith a mentaldisorderdueto
epilepsy,alcoholicpsychosisand paranoia.The mean duration of anti-psychotictherapy was 14 years. In
with the psychiatristand anesthesiologist,
cooperation
a greateffort was madeto preventthe onsetof psychiatric
symptomsand side effectsof antipsychoticsduring the perioperativeperiod.Psychiatricsymptomscould be
minimizedby an adequatedoseof antipsychiatricagentsthrough an adequateroute. However,suppressed
respirationwas noticedin onecase,probablybecauseof an overdoseof antipsychoticdrugs.Also sideeffectof
paralytic ileus,hypotensionand so on, werenoticed.Therefore,we
antipsychoticagents,namely,postoperative
musttakethe influenceof antipsychiatricagentsinto consideration
duringsurgicaltreatmentof psychoticpatients
aswell as treatmentof the psychosisitself.
Reprint requests: Kenji Kakizaki Departmentof Surgery,SendaiNationalHospital
Miyagino2-8-8,Miyaginoku,Sendai,983JAPAN