プラスチック系材料および製品事例

プラスチック系材料および製品事例
最新 材料の性能・評価技術
編集委員長 宮 入 裕 夫
〔推薦のことば〕
わが国のプラスチック業界は、原料価格の高騰、電力コストの上昇、海外景気の下振れ
等の影響による輸出の伸び悩みなどの影響もあり、依然として厳しい事業環境が続いてい
る。このような状況の中、プラスチック業界が持続的に発展していくためには、現在、世
界が抱えている人口増加、気候変動と環境、エネルギー危機、医療などの課題解決に適確
に対応し貢献することが必要であり、新しい技術・商品化企画力などにより新しい素材を
開発し、品質を向上していくことが従来にも増して大切になってきている。
このような状況のもと、「最新 材料の性能・評価技術」が刊行されましたことは誠に時宜
を得たものであり、わが国のプラスチック業界の発展に大きな貢献をなすことが期待され
ます。
特に本書は、JIS や ISO 規格をはじめ、最近多くの研究者、技術者が関心を寄せている「資
源」、「環境」、「エネルギー」などに関わる新規材料や製品に関する測定技術、評価技術な
どが盛り込まれており、実践にも十分役立つ専門書として、研究者、技術者の座右の書と
して広く活用しうるものと思われます。
執筆陣は、わが国のプラスチックの材料及び製品の試験法や評価法を専門にされている
方々で構成されており、本書の内容については最新の材料の物性や製品の評価法において
正確で信頼性が高いものと考えます。
本書の発刊にあたり、企画・編集者、執筆者、関係各位のご努力に感謝と敬意を表すと
ともに、プラスチックの新素材や新製品の開発に関わる多くの研究者、技術者に対して、
本書の活用をお薦めします。
2014 年 5 月
日本プラスチック工業連盟
専務理事 水 野 靖 彦
1
刊 行 の 趣 旨
新素材の開発は多くの製品を開発するための基盤技術として大変重要である。石器、青銅器、鉄器、
プラスチックと展開されてきた材料の歴史の中で、われわれの生活は多くの材料や製品の活用によって
支えられてきた。20 世紀に入ってはこのような各種材料の特性を活用した複合材料が実用化され、材
料開発もその物性や特性を人為的に模索できるようになっている。ニーズに応えうる材料や製品開発が
実現され、新材料の開発もますます活発に展開されている。特にわが国の新素材にかける意気込みは、
世界的にも注目されているもので、新素材展などは世界に先駆けて実施されているものである。このよ
うな状況の中で、新素材や新製品などに関わる新技術の開発は、今や産業の発展には欠かせないものと
なっている。
一方では新素材の基本的な材料物性や機能的特性の評価などでは、その測定技術や評価技術の進歩に
伴って、急激な進歩・発展を続けている。材料や製品の開発などにおいても、その物性や製品の評価が
果たして正しく行われているのかと疑問を投げかけるようなものも少なくない。このような状況を見て
も材料の物性や製品の機能などを正確に評価することは難しく、材料や製品の物性や品質が果たして正
確に測定され信頼できる商品として流通できるのかと懸念される節も多い。このような状況な中で世界
的に信頼できる評価技術による正確な規格作りが強く要求されている。
我が国では材料や製品の評価方法について、1940 年代後半に日本工業規格(JIS)が制定され、従来
このような評価方法によって材料の物性や製品の品質が保証されてきた。すなわちこのようなことを総
括してきた規格が、いわゆる我々が日常活用している JIS 規格である。しかし、材料や製品が国際的に
取引されるようになると、このような規格も我が国単独の JIS だけでは十分な役割が果たせない。この
ような状況を踏まえて、経済産業省が動き出したのが 1990 年ごろ実施された国際規格(ISO)と JIS
との規格整合化の事業であった。
最近ではこのようなことがさらに発展し、ISO と JIS との整合化に加えて、我が国の JIS を ISO 化さ
せ、我が国で生産される材料や製品の優秀性や性能の特徴などを世界に発信させようというのである。
このような状況の変化に伴い、今や JIS は従来の試験法や評価方法に比べ、大きな変革と改革がなされ
ている。ここで取り扱うプラスチック関連の材料や製品に関しては、従来、米国の ASTM 規格に準拠
した方法が踏襲されてきた。しかし、このような姿も一変し今や JIS の 90%以上が ISO に準拠したも
のでとなっている。
このような状況の変化を見ても、材料・製品の物性や機能的特性に関する評価技術の重要性は急速に
高まってきており、工業化に関わる評価基準のニーズばかりでなく、一般のユーザーの皆様にも評価技
術への関心は益々高まっている。ここではこのような問題に関わる JIS や ISO 規格をはじめ、最近多
くの研究者、技術者が関心を寄せている「資源」
、
「環境」
、
「エネルギー」などに関わる新規材料や製品
開発に関する測定技術、評価技術などを盛り込んだ実践的ハンドブックとしても十分役立つような専門
書の出版を目指したものである。
したがって、プラスチック関連の材料や製品の試験法や評価法を専門とされている研究者や技術者の
みならず、製品開発に関わる多くの技術者の皆様に大いにご活用できるハンドブックとして役立つもの
と自負している。
宮入 裕夫
3
執筆者一覧
〔編集委員会〕
編集委員長 宮入 裕夫 東京医科歯科大学 名誉教授
編集幹事 中山 和郎 NK リサーチ
独 産業技術総合研究所 環境化学技術研究部門 高分子化学グループ 船橋 正弘 上級主任研究員
編集委員 石川 隆司 名古屋大学 教授 ナショナル コンポジット センター長
(50 音順) 伊崎 健晴 三井化学㈱ 先端解析研究所 リサーチフェロー
伊藤 浩志 山形大学 大学院理工学研究科 機能高分子工学専攻 教授
笠野 英秋 拓殖大学 工学部 機械システム工学科 教授
菊地 貴子 (一財)化学物質評価研究機構 東京事業所 高分子技術部 技術第二課 副長
独 産業技術総合研究所 環境化学技術研究部門 高分子化学グループ 国岡 正雄 グループ長
栗山 卓 山形大学 大学院理工学研究科 機能高分子工学専攻 教授
末松征比古 三 甲㈱ 特別顧問
菅沼 克昭 大阪大学 産業科学研究所 教授
高根 由充 (一財)日本ウェザリングテストセンター 銚子暴露試験場 主席研究員
多加谷明広 慶應義塾大学 大学院理工学研究科 特任教授
永井 一清 明治大学 理工学部 応用化学科 教授
中上 明 日本プラスチック工業連盟 規格部長
橋本 壽正 ㈱アイフェイズ/東京工業大学 名誉教授
吉田 公一 (一財)日本舶用品検定協会 調査研究部 専任部長/
横浜国立大学 総合的海事教育・研究センター 客員教授
4
〔 執 筆 者 一 覧 〕(50 音順)
独 産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門 ターボマシングループ 客員研究員
青木 繁光 独 宇宙航空研究開発機構 航空本部 複合材料技術研究センター 主任研究員
青木雄一郎 阿久沢典男 東洋製罐グループホールディングス㈱ 綜合研究所 第二研究室
足立 忠晴 豊橋技術科学大学 大学院工学研究科 機械工学系 教授
新井 和吉 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
伊崎 健晴 三井化学㈱ 先端解析研究所 リサーチフェロー
石川 隆司 名古屋大学 教授 ナショナル コンポジット センター長
伊藤 浩志 山形大学 大学院理工学研究科 機能高分子工学専攻 教授
井上 義之 (一財)化学物質評価研究機構 化学物質安全センター 営業企画第一課 副長
今井 茂雄 ㈱ LIXIL 総合研究所 新事業創造部 グローバル環境インフラ研究室 室長
岩田 立男 接着技術アドバイザー
岩原 邦彦 三 甲㈱ 商品設計部 常務取締役部長
大西 誠人 テルモ㈱ 環境推進室 室長
大沼 信也 丸紅情報システムズ㈱ 製造ソリューション事業本部 計測製造ソリューション技術部
技術一課 課長補佐
小笠原 剛 日本ポリプロ㈱ 物性技術グループ グループリーダー
岡田 広毅 (一財)化学研究評価機構 高分子試験・評価センター 高分子・製品安全試験課 課長補佐
刑部 潤 (一財)化学研究評価機構 企画室 次長
香川 信之 ㈱東ソー分析センター 四日市事業部 解析グループ
笠野 英秋 拓殖大学 工学部 機械システム工学科 教授
葛良 忠彦 包装科学研究所 主席研究員
加藤 登 (一財)化学研究評価機構 高分子・試験評価センター 高分子・製品安全試験課 課長
川崎 雄介 丸紅情報システムズ㈱ 製造ソリューション事業本部 計測製造ソリューション技術部
技術一課 課長
川田 宏之 早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 機械科学・航空学科 教授
菊地 貴子 (一財)化学物質評価研究機構 東京事業所 高分子技術部 技術第二課 副長
北山 辰樹 大阪大学 基礎工学研究科 物質創成専攻 教授
独 産業技術総合研究所 環境化学技術研究部門 高分子化学グループ グループ長
国岡 正雄 熊谷 誠治 秋田大学 大学院工学資源学研究科 電気電子工学専攻 准教授
栗山 卓 山形大学 大学院理工学研究科 機能高分子工学専攻 教授
黒田 俊也 住友化学㈱ 先端材料探索研究所 主席研究員
古賀 信吉 広島大学 大学院教育学研究科 科学文化教育学専攻 教授
越地 耕二 東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 教授
小松原 仁 (一財)日本色彩研究所 常務理事
酒井 清和 王子計測機器㈱ 取締役事業本部長
佐藤 圭祐 (一財)化学研究評価機構 高分子試験・評価センター 課長
元 工学院大学
佐藤 貞雄 佐藤 隆 日本ゼオン㈱ 精密光学研究所 主席研究員
志村 重顕 (一財)建材試験センター 材料グループ 主任
信山 克義 八戸工業大学 大学院工学研究科 電子電気・情報工学専攻 准教授
5
執筆者一覧
末益 博志 上智大学 理工学部 機能創造理工学科 教授
末松征比古 三 甲㈱ 特別顧問
須賀 茂雄 スガ試験機㈱ 代表取締役社長
菅沼 克昭 大阪大学 産業科学研究所 教授
独 宇宙航空研究開発機構 航空本部 複合材技術研究センター 主幹研究員
杉本 直 杉本 昌隆 山形大学 大学院理工学研究科 准教授
鈴木 克典 ヤマハ㈱ 研究開発統括部 第 1 研究開発部 素材素子グループ グループマネージャー
鈴木謙一郎 日本ポリエチレン㈱ 品質保証グループ グループマネージャー
鈴木 仁子 日本分光㈱ 分光分析技術部 応用技術課
鈴木 環 日本ビニル工業会 業務部 部長
須山 俊宏 三 甲㈱ 商品設計部 品質支援 G 課長代理
関口 君則 ㈱アタゴ 仕様決定部
瀬戸 雅宏 金沢工業大学 ものづくり研究所 講師
高月 亮 ㈱安田精機製作所 検査・サービス課 係長
高根 由充 (一財)日本ウェザリングテストセンター 銚子暴露試験場 主席研究員
多加谷明広 慶應義塾大学 大学院理工学研究科 特任教授
瀧井 忠興 ㈱島津製作所 分析計測事業部 試験機ビジネスユニット 主任
武田 真一 武田コロイドテクノ・コンサルティング㈱ 代表取締役
橘 熊野 群馬大学大学院 理工学研究府 分子化学部門 助教
田中 丈之 ㈱エー・アンド・デイ 営業本部 販売促進部 担当部長
田中 宏明 三井化学産資㈱ 大竹事業所 管材開発部 部長
堤 義高 東ソー㈱ ポリマー事業部 企画管理室 永井 一清 明治大学 理工学部 応用化学科 教授
中井 誠 (一財)化学物質評価研究機構 日田事業所 試験第三課 課長
永澤 茂 長岡科学技術大学 大学院工学研究科 機械系 機械情報・制御工学講座 教授
中田 政之 金沢工業大学 材料システム研究所 教授
永海 義博 ヤマハ発動機㈱ ボート事業部 参与
中本 和誠 協和界面科学㈱ 技術部 研究課
中山 和郎 NK リサーチ
西川 幸宏 京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科 高分子機能工学専攻 准教授
西本 右子 神奈川大学 理学部 化学科 教授
西脇 剛史 ㈱アシックス スポーツ工学研究所 所長
橋本 壽正 ㈱アイフェイズ/東京工業大学 名誉教授
馬場 文明 三菱電機㈱ 先端技術総合研究所 技術統轄
平松 徹 平松先端材料事務所 所長
平山 泰生 ㈱リガク 熱分析事業部 主幹技師
藤沢 健 長野県工業技術総合センター 材料技術部門 材料化学部 主任研究員 藤本 哲夫 (一財)建材試験センター 本部 技術主幹
藤本 嘉明 (一社)抗菌製品技術協議会 専務理事
二江 隆之 協和界面科学㈱ 技術部 研究課
独 産業技術総合研究所 環境化学技術研究部門 高分子化学グループ 上級主任研究員
船橋 正弘 北條 正樹 京都大学 大学院工学研究科 機械理工学専攻 教授
細井 厚志 名古屋大学 大学院工学研究科 機械理工学専攻 助教
6
堀込 純 ㈱日立ハイテクサイエンス 光学技術部 技師
増渕 雄一 京都大学 化学研究所 准教授
松浦 智 ㈱三井化学分析センター 材料物性研究部
宮入 裕夫 東京医科歯科大学 名誉教授
百地 正憲 日本バイオプラスチック協会 顧問
森川 淳子 東京工業大学 大学院理工学研究科 有機・高分子物質専攻 教授
森田 修司 森田技術事務所 所長
森田 直樹 ㈱安田精機製作所 検査・サービス課 係長
独 宇宙航空研究開発機構 航空本部 複合材技術研究センター 主幹研究員
森本 哲也 谷津田愛樹 日本シャフト㈱ 営業部 課長
山口 政之 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 教授
吉田 公一 (一財)日本舶用品検定協会 調査研究部 専任部長/
横浜国立大学 総合的海事教育・研究センター 客員教授
鷲尾 一裕 ㈱島津製作所 分析計測事業部 グローバルアプリケーション開発センター 担当課長
渡辺 一成 (一財)化学研究評価機構 高分子試験・評価センター 衛生・化学物質安全試験課 課長
硝子繊維協会 標準化委員会
7
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〔 全 体 目 次 概 要 〕
第 1 章 試験法の概論
第 10 節 動的機械特性 228
第 11 節 疲労試験 236
243
第 1 節 プラスチックの分類と記号 35
第 12 節 破壊じん性試験 第 2 節 標準化の手順 42
第 13 節 力学的試験における 3 次元
第 3 節 試験規格の概要 47
第 4 節 試験規格と実製品試験 53
第 5 節 状態調節 60
第 6 節 品質管理 64
第 7 節 データの処理 69
第 1 節 試験片の作製 263
第 8 節 再資源化と規格 73
第 2 節 強化プラスチック試験法 267
第 9 節 技術移転と標準化 79
第 3 節 繊維含有率・空洞率 283
計測の応用 252
第 4 章 強化プラスチック試験法
第 4 節 層間剪断試験・面内剪断試験 286
第 2 章 成形性に関する試験法
第 5 節 面圧試験 290
第 6 節 層間破壊じん性試験 298
第 7 節 FRP の再資源化 304
第 1 節 成 形 性 89
第 2 節 レオロジー特性 96
第 3 節 流動性の評価方法 110
第 4 節 圧力-比容積-温度特性 122
第 5 節 成形収縮性 128
第 1 節 熱分析試験 319
第 6 節 試験片の作製 136
第 2 節 熱伝導試験 345
第 7 節 成形品の三次元計測 142
第 3 節 熱材料試験の実際 357
第 4 節 燃焼試験 374
第 5 章 熱的試験および燃焼試験
第 3 章 力学的試験法
第 6 章 化学的および物理化学的試験法
第 1 節 引張試験 150
第 2 節 圧縮試験 162
第 1 節 密 度(比重)
396
第 3 節 曲げ試験 168
第 2 節 粒子径・粒子径分布 405
第 4 節 せん断試験 174
第 3 節 分子量 412
第 5 節 引裂き試験 180
第 4 節 吸水性および耐水性 421
第 6 節 接着・接合試験 186
第 5 節 耐薬品性 426
第 7 節 クリープ試験 194
第 6 節 ガスバリア性 435
第 8 節 衝撃試験 200
第 7 節 撥水性・撥油性 445
第 9 節 表面特性 219
第 8 節 抗 菌 性 454
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8
第 11 章 省資源・再資源化に関する標準化
第 1 節 色及び色彩 464
第 2 節 透 明 性 474
第 3 節 反 射 率 485
第 2 節 再資源・省資源と標準化 第 4 節 光 沢 性 491
第 3 節 プラスチック再資源化の試験
第 5 節 屈 折 率 494
規格と標準化 656
第 6 節 複 屈 折 500
第 4 節 生分解性試験 665
第 1 節 再資源・省資源化の分別・識別
評価試験 639
645
第 5 節 プラスチック製品のバイオマス
原料含有率 第 8 章 電気・電子的試験法
673
第 6 節 生分解性プラスチックの国際
第 1 節 絶縁抵抗・耐圧 514
第 2 節 誘電率(誘電正接)
518
第 3 節 導 電 性 527
第 4 節 圧電・焦電特性 530
第 5 節 放電劣化 534
1.プラスチックフィルム 696
第 6 節 マイグレーション・電食 541
2.包装用フィルム 700
第 7 節 樹脂の電磁波シールド性 548
3.光学用フィルム 712
4.太陽電池バックシート 719
5.ポリエチレン管 724
6.緩衝用発泡製品 731
標準規格 686
第 12 章 各種製品の試験法
第 9 章 環境試験法
第 1 節 屋外暴露 558
7.断熱用発泡製品 737
第 2 節 促進耐候性 563
8.接着・接合 743
第 3 節 熱安定性 568
9.塗装・塗料 748
第 4 節 耐 寒 性 570
10.ナノカーボン材料 752
第 5 節 耐 熱 性 574
11.プラスチックデッキ材 767
第 6 節 ヒートサイクル 588
12.家電製品 772
第 7 節 塩水噴霧 593
13.スポーツ用品 780
14.玩 具 793
15.食 器 798
16.医療用材料 801
第 10 章 安全性試験法
第 1 節 化学物質審査規制法 602
17.抗菌加工製品 808
第 2 節 揮発性物質 608
18.プラスチック製物流資材 814
19.航空機関連 819
第 3 節 溶出試験(重金属、モノマー)
615
第 4 節 毒性試験 621
20.小型風車用ブレード 834
第 5 節 製品安全(衛生安全性)
627
21.ボ ー ト 838
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第 7 章 光学的試験法
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9
『最新 材料の性能・評価技術』総目次
※ダイジェスト版のため、リンク切れのページがございます。ご了承ください。
総 論 28
第 1 章 試験法の概論
概 説
33
4.2 材料試験 54
第 1 節 プラスチックの分類と記号・略語 35
4.2.1 物性試験 54
1.1 プラスチック(Plastics)とは 35
4.2.2 製品試験 55
1.2 ポリマーの構造と分類 36
4.3 実製品試験と部分構造試験 56
1.2.1 ポリマーと高分子 36
4.4 大型製品に関する実製品試験 56
1.2.2 ポリマーの分子構造特性 36
4.4.1 FRP 浄化槽の実製品試験 56
1.2.3 ポリマーの分類 37
4.4.2 FRP 製小型船舶の実試験 57
1.2.4 プラスチックの名称と略語 38
4.5 接合部の試験と製品開発 58
42
4.5.1 耐久性試験 58
4.5.2 耐候性試験 58
2 節 標準化の手順 2.1 規格に関わる国内組織 42
2.2 国内標準化 43
2.3 JIS 原案作成委員会 43
5.1 状態調節の必要性 60
2.4 JIS 原案の提出及び審議 43
5.1.1 状態調節 60
2.5 JIS 規格の維持 44
5.1.2 環境と物性 60
2.6 国際標準化 44
5.2 状態調節に関する規格 61
2.7 国際標準化の手順 44
5.2.1 標準雰囲気と規格 61
5.2.2 規格による状態調節 61
5.2.3 試験環境と規定 63
第 5 節 状態調節 第 3 節 試験規格の概要(標準化)
(ISO および JIS)
47
第 6 節 品質管理 3.1 日本工業規格(JIS)と国際規格
(ISO)
47
60
64
6.1 品質の管理と試験法 64
3.1.1 わが国の標準化事業 47
6.1.1 品質管理 64
3.1.2 プラスチック関連の標準化 48
6.1.2 品質管理の発展 65
3.1.3 国際規格(ISO)の制定・改正 49
6.2 品質管理とその手法 65
3.2 国際標準化機構(ISO)
50
6.2.1 品質管理の体制 65
6.2.2 データの整理 66
3.3 欧州規格(EN)と米国規格
6.2.3 工程の管理 66
3.3.1 欧州規格(EN)
(ASTM)
50
50
6.3 特性要因図 67
3.3.2 米国規格(ASTM)
51
6.3.1 品質管理に用いられる手法 67
3.4 国際規格の展開 51
6.3.2 品質に関わる手法 68
3.4.1 日本工業規格の発足 51
第 7 節 データの処理 69
3.4.2 JIS と ISO の整合化 51
7.1 シングルポイントデータ 69
第 4 節 試験規格と実製品試験 53
7.2 マルチポイントデータ 70
4.1 プラスチックの試験方法 53
第 8 節 再資源化と規格 目次 1
73
8.1 プラスチックの再資源化 73
8.1.1 再資源化の手法 73
8.1.2 再資源の工程 74
8.3.3 ケミカルリサイクルとメカニカル
リサイクル 77
8.2 オレフィン系プラスチックの
8.3.4 メカニカルリサイクルと標準化 77
8.3.5 再資源化の多様性 78
再資源化 74
第 9 節 技術移転と標準化 79
8.2.1 PET ボトルの再資源化 74
9.1 産業のグローバル化 79
8.2.2 再資源化に対する国際的な関心 75
9.2 生産技術発展と標準化 80
8.2.3 再資源化の標準化 75
9.2.1 生産技術の基礎 80
8.2.4 規格制定に関する手続き 75
9.2.2 生産技術の発展と展開 80
8.3 FRP 製品のリサイクル 76
9.3 生産・製造技術の標準化 82
8.3.1 FRP 製品の多様性 76
9.3.1 技術の標準化 82
9.3.2 技術移転とその形態 82
9.3.3 標準化・規格化 83
8.3.2 FRP 製品の再資源化に関する
考え方 77
第 2 章 成形性に関する試験法
概 説
87
第 1 節 成 形 性 89
2.14 測定装置 第 3 節 流動性の評価方法 108
110
1.1 身の回りのプラスチック 89
3.1 溶融粘度 110
1.2 成 形 性 90
3.1.1 流動様式とレオメーター 110
1.3 射出成形による精密成形 90
3.1.2 高分子の溶融粘度 110
3.1.3 回転型レオメーター 111
3.1.4 毛管型レオメーター 113
1.4 ホットエンボスおよび
ナノインプリント技術 91
3.2 メルトフローレイト(MFR/MVR)
116
1.5 精密成形における転写性とその
向上技術 93
第 2 節 レオロジー特性 2.1 レオロジーを理解するための準備 96
3.3 伸長粘度 第 4 節 圧力-比容積-温度(PVT)特性 96
2.2 理想的な液体と理想的な固体の応答 96
119
122
4.1 充填ポリマーの金型内圧力挙動 122
4.2 PVT 特性の測定と評価 123
4.3 PVT 特性測定の具体例 124
2.3 SS カーブとフローカーブ 96
4.3.1 汎用プラスチック 124
2.4 粘度の純粘性現象論式 98
4.3.2 ポリマーアロイ(Polymer alloy)
125
2.5 粘 弾 性 98
4.3.3 複合材(Composites)
125
2.6 粘弾性緩和時間 100
4.4 成形加工への活用 125
2.7 粘弾性のモデル 100
2.8 緩和スペクトル 101
5.1 成形収縮率の測定 128
2.9 動的粘弾性実験 101
5.2 成形収縮に影響を与える因子 129
5.2.1 成形品内の収縮率分布 129
5.2.2 成形条件の影響 130
第 5 節 成形収縮性 2.10 ボルツマンの原理と線形/
非線形粘弾性 103
128
2.11 非線形粘弾性の例 104
5.2.3 成形品形状の影響 132
2.12 粘弾性を表す構成方程式 106
5.3 成形収縮の要因 132
2.13 温度の効果 106
5.3.1 樹脂材料の収縮 132
目次 2
6.3.3 機械と工具 140
6.3.4 ダンベル試験片の調製 140
6.3.5 短冊試験片の調製 140
136
6.3.6 試験片のノッチ加工 140
6.1 射出成形法 136
第 7 節 成形品の三次元計測 142
6.1.1 用語の定義 136
(1)ステレオ法 142
6.1.2 射出成形機 137
(2)フェーズシフト法 142
6.1.3 金 型
137
(3)空間コード化法 142
6.1.4 成形操作 138
7.1 整形品のそり、ひけ、収縮分析 143
6.1.5 操 作
138
7.2 製品板厚検査 143
6.2 圧縮成形法 139
7.3 2D 断面検査 143
6.2.1 用語の定義 139
7.4 部品と部品の比較 144
6.2.2 装 置
139
7.5 アセンブリ検査 144
6.2.3 操 作
139
7.6 幾何公差 144
6.3 機械加工による試験片の調製 140
7.7 リバースエンジニアリング 145
6.3.1 試 験 片 140
7.8 プローブ評価 145
6.3.2 試験片の調製 140
7.9 自動評価 145
5.3.2 成形収縮の異方性 133
5.3.3 射出成形における分子配向
メカニズム 134
第 6 節 試験片の作製 第 3 章 力学的試験法(静的および動的試験)
概 説
149
(4)圧縮応力 164
第 1 節 引張試験 150
(5)圧縮ひずみ 164
1.1 引張試験 150
1.1.1 JIS 規格とその概要 150
1.1.2 試 験 片 150
3.1 曲げ試験の考え方 168
1.1.3 測定方法 2.3 各種材料の圧縮挙動の例 第 3 節 曲げ試験 164
168
152
3.2 曲げ試験で使用される特性 168
(1)引張応力 152
3.3 曲げ試験関連規格 169
(2)ひ ず み 152
3.4 曲げ試験手順 169
(3)ポアソン比 152
3.5 曲げ試験と引張試験 172
(4)引張速度の選択 153
3.6 曲げ試験の精度向上のために 172
(5)弾 性 率 153
第 4 節 せん断試験 174
1.1.4 S-S 曲線のタイプとその代表例 154
4.1 せん断試験法の概要 1.2 高速引張試験 157
4.2 面内せん断における切欠部の応力
1.2.1 試験装置・試験片 157
1.2.2 試験結果の整理 160
4.3 脆性樹脂板の面外せん断試験特性 177
162
4.4 くさび刃角度と切断抵抗の関係 178
第 2 節 圧縮試験 174
分布 176
第 5 節 引裂き試験 180
2.1 圧縮試験の概要 162
2.2 JIS 規格 162
5.1 引裂きのモード (1)試験方法 162
5.2 トラウザー引裂き法(JIS K 7128-1)
(2)試 験 片 163
(3)試験速度 163
5.3 エルメンドルフ引裂き法
目次 3
180
180
(JIS K 7128-2)
182
(1)デジタル衝撃試験機 204
5.4 直角形引裂き法(JIS K 7128-3)
183
(2)PC 接続型衝撃試験機 205
5.5 実質破壊仕事法(EWF 法)
183
(3)低温衝撃試験機 205
5.6 引裂きの破壊力学 184
(4)全自動衝撃試験機 206
第 6 節 接着・接合試験 186
(5)計装化型衝撃試験 207
6.1 接着接合の力学的試験 186
8.3 落錘衝撃試験 208
6.1.1 静的試験 186
8.3.1 落錘衝撃試験 208
6.1.2 動的試験と環境試験 187
8.3.2 ダートインパクト試験 209
6.1.3 非破壊試験方法 187
8.3.3 デュポン衝撃試験 210
6.2 接着剤の引張せん断試験 187
8.3.4 他の衝撃試験法との比較 211
8.3.5 試験装置 211
8.4 高速衝撃試験 212
8.4.1 高速衝撃試験システムの構築 212
8.4.2 高速衝撃特性の評価 215
8.4.3 超高速衝撃試験 216
(1)試験機の作動原理 216
(2)衝撃速度の推定と駆動ガスの選択 217
6.2.1 引張せん断試験による接着強さ
試験方法(JIS K 6850、ISO 4587)
187
6.2.2 接着剤の木材引張せん断接着強さ
試験方法(JIS K 6851、ISO 6237)
188
6.2.3 接着剤の圧縮せん断接着強さ試験
第 9 節 表面特性 219
9.1 硬 さ
219
9.1.1 硬さ測定 219
よる接着強さ試験(JIS K 6849、
9.1.2 剛球押し込み時の力学応答 219
ISO 6922)
189
9.1.3 ロックウェル硬さ試験 220
9.2 摩 擦
221
9.2.1 摩擦について 221
9.2.2 摩擦係数測定 221
9.3 摩 耗
222
9.3.1 摩耗とは 222
9.3.2 凝着摩耗 222
方法(JIS K 6852、ISO 6238)
188
6.3 接着剤の引張接着強さ試験 189
6.3.1 曲げ剛性の高い被着材の引張に
6.3.2 接着剤の剥離接着強さ試験方法
(JIS K 6854)
190
6.4 JIS に規定されていない接着接合の
試験法(スカーフ接合)
191
6.5 JIS で規定されている接着剤の接着
強さ試験法 192
第 7 節 クリープ試験 194
9.3.3 アブレシブ摩耗(ざらつき摩耗)
223
7.1 高分子材料の構造と粘弾性 194
9.3.4 腐食摩耗 223
7.2 時間-温度換算則 196
9.3.5 疲労摩耗(転がり摩耗)
223
7.3 樹脂のクリープコンプライアンス 196
9.3.6 摩耗形態図 223
9.4 スクラッチ特性 224
224
7.4 CFRP のクリープコンプライアンス 197
9.4.1 プラスチックの傷つき性 第 8 節 衝撃試験 200
9.4.2 スクラッチ形態線図(Scratch map)
8.1 概 説
200
8.2 振子型衝撃試験 203
8.2.1 振り子型衝撃試験の原理 203
8.2.2 振り子型衝撃試験機の構成要素 203
第 10 節 動的機械特性 225
228
10.1 標準的試験方法-国際規格、
日本工業規格 228
(1)ハンマーのエネルギー 203
10.2 動的粘弾性パラメータ (2)損失の補正 204
10.3 非共振法によるDMAの測定モード (3)ハンマー長さと打撃速度 204
230
(4)試験片とハンマー容量の関係 204
10.3.1 引張振動 230
204
10.3.2 曲げ振動 231
8.2.3 その他の試験機 目次 4
230
10.3.3 せん断振動 231
10.3.4 圧縮振動 231
10.4 DMA 曲線-温度依存性の測定 232
12.1 じん性とは 243
10.4.1 振動モードの選択 232
12.2 線形破壊力学の基礎 243
10.4.2 試験片形状・寸法 232
12.2.1 応力集中と応力拡大係数 243
10.4.3 試験片の状態調節 232
12.2.2 エネルギー開放率 245
10.4.4 試験片のセット 232
12.2.3 破壊条件 246
10.4.5 静的荷重・動的変位 232
12.2.4 小規模降伏条件 246
10.4.6 測定周波数 233
12.2.5 R 曲線(安定破壊抵抗曲線)と
10.4.7 温度依存性 233
10.4.8 測 定 例 233
246
10.5 高分子構造と DMA 曲線 233
12.3 破壊じん性試験方法 247
10.5.1 転移温度 234
12.3.1 試験規格 247
10.5.2 結晶化度 234
12.3.2 線形破壊じん性試験方法 248
10.5.3 分子配向 234
12.3.3 J-R 曲線の求め方 250
第 11 節 疲労試験 236
(2)軟 X 線探傷法による観察 第 12 節 破壊じん性試験 241
243
非線形破壊力学パラメターの導入 第 13 節 力学的試験における 3 次元計測
11.1 疲労試験規格 236
の応用 252
11.1.1 JIS K 7083 236
13.1 3 次元計測の背景 252
11.1.2 ASTM D3479/D3479M 237
13.2 3 次元 DIC 253
11.1.3 その他の検討 238
13.3 3 次元 DIC の計測手順 254
11.2 疲労試験の実際 238
13.3.1 機器のセットアップ 254
11.2.1 CFRP 積層板の疲労試験 238
13.3.2 供試体へのパターン塗布 254
13.3.3 試験及び撮影 255
11.2.2 高周波数における超高サイクル
13.3.4 データ処理 255
11.2.3 損傷評価を行うための疲労試験 241
疲労試験 239
13.4 材料試験への適用例 256
241
13.5 製品試験への適用例 256
(1)光学顕微鏡法による観察 第 4 章 強化プラスチック試験法
概 説
261
第 1 節 試験片の作製 263
1.1 繊維強化プラスチックの製造方法 263
1.2 製造方法の分類(JIS K 7016-1)
263
(JIS K 7016-8)
265
1.8 その他の成形(熱可塑性樹脂)
第 2 節 強化プラスチック試験法 1.3 接触圧成形及びスプレーアップ成形
(JIS K 7016-2)
264
1.4 プリプレグの成形(JIS K 7016-4)
264
1.5 フィラメントワインディング成形
(JIS K 7016-5)
265
1.6 レジントランスファー成形
(JIS K 7016-7)
265
1.7 SMC 及び BMC の圧縮成形
目次 5
265
267
2.1 ガラス繊維 267
2.1.1 ガラス繊維糸の番手 267
2.1.2 ガラス繊維製品の水分率及び強熱
減量 267
2.1.3 ガラス繊維糸のより数 268
2.1.4 ガラス繊維糸の単繊維直径 268
2.1.5 ガラス繊維製品の引張強さ 269
2.1.6 結合剤のスチレン溶解性 271
2.1.7 クロスの通気性 271
2.1.8 クロスの耐折強さ 271
6.1 複合材料の破壊じん性評価 298
2.1.9 クロス及びマットの接触成形性 272
6.2 モードⅠ試験方法の概要 298
2.1.10 ロービング硬さ 273
6.3 モードⅡ試験方法の概要 300
2.1.11 クロスの慣用曲げ剛性 274
6.4 その他のモードの試験法 302
2.2 炭素繊維 275
6.5 代表的な材料のじん性値 302
2.2.1 ルーチン的試験方法(JIS 規格)
275
第 7 節 FRP の再資源化 304
(1)炭素繊維の試験方法 275
7.1 FRP 製品のリサイクルと試験規格 304
(2)炭素繊維中間基材の試験方法 279
7.1.1 再製品化の工程 304
281
7.1.2 PET 製品と FRP 製品 305
(1)炭素繊維の元素分析 281
7.2 FRP の再資源化への取り組み 305
(2)炭素繊維の結晶の大きさ・配向度 281
7.3 FRP 製品とリサイクル 306
(3)炭素繊維の表面官能基分析 282
7.4 FRP の再資源化技術 307
283
7.4.1 循環型システムの構築 307
7.4.2 再資源化の手法 308
2.2.2 非ルーチン的試験方法 第 3 節 繊維含有率・空洞率 3.1 繊維強化プラスチックの繊維含有率 283
3.2 繊維強化プラスチックの空洞率 284
第 4 節 層間剪断試験・面内剪断試験 286
7.5 FRP 製品の解体技術(機械的破砕
と熱切断技術)
309
4.1 層間剪断試験 286
7.5.1 主な解体方法 309
4.2 面内剪断試験 287
7.5.2 プラズマジェット切断法 310
290
7.5.3 ガス切断法 311
290
7.5.4 酸素ランス切断法 311
第 5 節 面圧試験/Bearing-Bypass 試験 5.1 鋲螺締結部における面圧破損 5.2 鋲螺締結部に対応する試験規格:
7.6 FRP 製品のリサイクル化と規格の
ASTM D5961 291
制定 311
5.3 面圧試験/Bearing-Bypass 試験:
ASTM D7248 294
5.4 鋲螺締結部における設計変更 第 6 節 層間破壊じん性試験 296
7.6.1 リサイクル化の工程 311
7.6.2 使用済 FRP の再資源化 312
7.6.3 マテリアルリサイクルの活用 313
298
第 5 章 熱的試験および燃焼試験
概 説
317
1.2 熱重量測定 325
第 1 節 熱分析試験 319
1.2.1 装置の概要 325
1.1 示差走査熱量測定(DSC)
319
1.2.2 装置の校正 326
1.1.1 DSC の原理と装置 319
(1)温度校正 326
1.1.2 装置の校正 319
(2)質量校正 327
1.1.3 測定の実際 321
1.2.3 最適な測定条件の設定と測定準備 327
(1)サンプリングと容器の選択 321
1.2.4 種々の温度プログラムとその特徴 329
(2)測定雰囲気 322
(3)昇降温速度・試料量・測定温度範囲 322
(1)直線的非等温測定 329
(2)等温測定 329
322
(3)温度変調測定 329
1.1.4 測 定 例 322
(4)試料制御熱分析 329
1.1.5 公 定 法 323
(4)基準物質 目次 6
1.2.5 測定データの解析と応用 330
(1)測定データの表記 330
第 3 節 熱材料試験の実際 (2)反応過程の推定と温度範囲の
読み取り 330
357
3.1 耐熱試験 357
3.1.1 荷重たわみ温度(JIS K 7191)
357
(3)ベースライン補正と質量変化率 330
(1)試験概要 357
(4)反応速度解析 331
(2)試験規格 357
(5)寿命評価 331
(3)試験方法 357
(6)速度論的ピーク分離 331
3.1.2 ビカット軟化温度試験 359
1.2.6 複合測定 331
(1)試験概要 359
1.3 熱機械分析(TMA)
333
(2)試験方法 359
1.3.1 TMA の原理と装置 333
3.2 熱伝導性試験の実際 361
1.3.2 装置の校正 333
3.2.1 構造と熱伝導 361
1.3.3 測定の実際 333
(1)分子構造 361
(1)測定温度範囲 333
(2)結晶化度 361
(2)昇降温速度 333
(3)分子配向 362
(3)測定雰囲気 333
(4)硬化過程 362
(4)試料のセットと測定の注意 333
1.3.4 測 定 例 335
1.3.5 公 定 法 336
1.4 熱刺激電流測定による材料評価 337
1.4.1 分極現象を対象とした TSC 測定
原理と装置構成 337
3.2.2 温度依存性 363
(1)プラスチック系材料の温度依存性
概説 363
(2)ガラス転移 363
(3)融解と結晶化 365
(4)低温への拡大 365
(5)液体状態 366
(1)装置構成 337
(2)測定原理と測定手順 337
(3)活性化エネルギーの計算 338
(1)フィラー充填プラスチック 366
340
(2)発 泡 体 368
1.4.2 分極現象を対象とした応用例 3.2.3 複合系への適用 366
(1)高分子ブレンド相溶性評価 340
3.3 熱伝導性特性試験測定技術の諸問題 370
(2)製薬の結晶化度評価 342
3.3.1 定義と線型性 第 2 節 熱伝導試験 345
3.3.2 研究室での測定条件と実際の環境 370
2.1 熱物性概観 345
(1)断熱材 370
2.1.1 はじめに 345
(2)小型汎用測定器 370
2.1.2 熱伝導率・熱拡散率・熱容量 345
2.2 熱伝導率・熱拡散率測定法 346
第 4 節 燃焼試験 374
2.2.1 概 観
346
4.1 国際規格 374
2.2.2 定常絶対法 347
4.1.1 火災の発生と発達の試験方法規格 2.2.3 定常比較法 348
2.2.4 熱 線 法 348
4.1.2 プラスチックの燃焼挙動試験方法
レーザーフラッシュ法 350
4.1.3 電気電子製品・部品の火災危険性
3.3.3 物性から構造評価法へ 371
374
規格 374
2.2.5 フラッシュ法・
2.2.6 温度変調法 370
351
試験方法規格 374
(1)温度波とは 351
4.2 着火及び燃焼の広がり (2)温度波熱分析法 351
4.2.1 電気電子製品・部品の着火性及び
(3)フーリエ型温度波熱分析 353
2.2.7 可視化熱分析 353
2.3 各種測定法の比較と標準化 354
目次 7
379
燃焼の広がりの試験方法 379
4.2.2 プラスチックの着火性及び燃焼
性状試験方法 381
(1)発火温度 381
(2)酸素指数燃焼性試験方法 381
(3)発泡プラスチックの燃焼性試験方法 382
4.3.3 建材等の燃焼発熱試験方法 (1)燃焼熱の測定方法 385
385
(2)燃焼発熱速度測定試験
(コーンカロリメータ)
385
(4)プラスチックフィルムの燃焼性試験
方法 382
(3)小規模ルーム火災試験方法 386
382
(4)縮小スケール模型箱火災試験 387
(1)不燃性試験 382
(5)火災反応試験-質量減少の測定 387
(2)火災伝播試験 382
4.2.3 材料の燃焼性状試験方法 4.4 発煙性、腐食性及び毒性 (3)放射熱源を用いた床材の燃焼挙動の
測定方法 383
・毒性試験方法 388
(4)材料の小火源による着火性試験方法 4.4.2 プラスチック等の発煙性・燃焼
383
(5)サンドイッチパネルの小規模ルーム
試験 383
腐食性試験方法 388
(1)発煙性試験 388
(2)燃焼腐食性試験方法 390
384
4.3 燃焼発熱 4.4.3 建材等の燃焼生成ガス測定方法 390
4.3.1 電気電子製品・部品の燃焼発熱
試験方法 384
4.4.4 火災時の燃焼毒性及び環境影響
評価方法 390
4.3.2 プラスチックの燃焼発熱試験方法 385
388
4.4.1 電気電子製品・部品の燃焼腐食性
4.5 火災安全技術 391
第 6 章 化学的および物理化学的試験法
概 説
395
第 1 節 密度(比重)
396
1.4.2 かさ密度測定法 402
1.1 密度の定義 396
1.5 その他のアプローチと応用例 402
1.1.1 固体と細孔、空隙 396
1.5.1 気孔率、空隙率 402
1.2 密度の種類 397
1.5.2 連続気泡率、独立気泡率の測定 402
1.2.1 真密度 397
1.5.3 その他のアプリケーション 402
1.2.2 粒子密度または見掛け密度 398
1.2.3 かさ密度 398
1.3 粒子密度測定法 399
1.3.1 湿式法 399
2.1.1 幾何学的粒子径 405
(1)ピクノメータ(比重びん)法 399
2.1.2 動力学的粒子径 406
(2)水中置換法 399
2.1.3 光学的粒子径 406
(3)けんちょう(懸吊)法 400
2.2 液中粒子計測法と気中粒子計測法 406
(4)密度勾配管法 400
2.2.1 希釈操作を必要とする液中粒子
1.3.2 乾式法 (2)球形粒子を用いる方法 第 2 節 粒子径・粒子径分布 402
405
2.1 粒子径の定義とその代表的な
測定法 405
400
計測法 406
400
(1)レーザ回折・散乱法 406
1.4 かさ密度測定法 401
(2)遠心沈降法 407
1.4.1 envelope density 401
(1)定容積膨張法 (1)水銀を用いる方法、水銀圧入法 401
目次 8
2.2.2 希釈操作を必要としない液中粒子
計測法 409
(1)超音波スペクトロスコピー 第 3 節 分 子 量 3.1 分子量測定法の概要 409
おけるプラスチックの耐薬品性試験
412
412
方法」
431
(2)JIS K 7108:1999「プラスチック-
薬品環境応力き裂の試験方法-定引張
3.2 サイズ排除クロマトグラフィー
(SEC)による分子量測定 413
3.3 SEC の溶出挙動 415
応力法」
431
(3)JIS Z 7103:1976
「ポリエチレンびん」
431
3.4 SEC によって得られる分子量に
影響を与える因子 415
3.4.1 高分子と溶離液との親和性の影響 415
(4)ソルベントクラック試験について 第 6 節 ガスバリア性 433
435
3.4.2 分子内の極性基の影響 415
3.4.3 分子内の長鎖分岐の影響 417
3.5 SEC 測定の実際 417
6.2 ガスバリア性の測定方法の分類 第 4 節 吸水性及び耐水性 421
6.3 差圧法によるガスバリア性の測定・
4.1 吸水性及び耐水性 421
4.1.1 吸水性と構造 421
4.1.2 吸水による物性変化 421
4.1.3 プラスチックの耐水性 422
4.2 吸水試験 422
4.2.1 適用範囲 422
4.2.2 試験片形状 422
4.2.3 端面処理 423
4.2.4 試験前調整 423
7.1 緒 言
445
4.2.5 吸水試験 423
7.2 測定概要 445
(1)試料調整 423
7.3 測定結果 447
(2)液量及び容器 424
7.3.1 滑落法(B/C)
447
(3)秤量間隔及び秤量方法 424
(1)SUS(ステンレス鋼)
424
(2)PMMA(ポリメタクリル酸メチル)
448
第 5 節 耐薬品性 426
(3)PTFE(ポリテトラフルオロ
5.1 耐薬品性 426
5.1.1 無負荷状態での耐薬品性 426
5.1.2 負荷状態での耐薬品性 426
4.2.6 拡散係数の計算 (1)環境応力割れに対する耐薬品性 426
(2)ソルベントクラックに対する
耐薬品性 427
6.1 ガスバリア性の評価用語と
評価値の単位 436
438
分析 439
6.3.1 圧力センサーを検出器に用いた
圧力法の実験例 440
6.4 等圧法によるガスバリア性の測定・
分析 441
6.4.1 酸素電解センサーを検出器に
用いたキャリアーガス法の実験例 442
第 7 節 撥水性・撥油性 445
447
エチレン)
449
(4)滑落法の試料間比較 7.3.2 拡張/収縮法 450
450
(1)SUS 450
(2)PMMA 451
(3)PTFE 451
5.2 耐薬品性試験 427
7.3.3 滑落法と拡張/収縮法の比較 451
5.2.1 無負荷状態での耐薬品性試験 427
7.4 総合評価 451
(1)適用範囲 427
第 8 節 抗 菌 性 454
(2)試験片形状 427
8.1 日本の抗菌市場の歴史 454
(3)端面処理 429
8.2 抗菌性試験方法の位置づけ 455
(4)試験前調整 429
8.3 抗菌の定義 455
(5)耐薬品性試験 429
8.4 JIS Z 2801:2010 および
(6)耐薬品性試験後の評価方法 431
5.2.2 負荷状態での耐薬品性試験 (1)JIS K 7107:1987「定引張変形下に
ISO22196:2011 456
431
8.5 試験条件 457
(1)菌液の調製 457
目次 9
(2)菌液接種後の試験片の保存 458
(3)試験片の生菌数測定 458
8.6 試験結果の記録 459
第 7 章 光学的試験法
概 説
463
3.9 拡散反射率測定 第 1 節 色及び色彩 464
3.10 拡散反射測定例 1~全光線反射率 488
1.1 色の認識過程 464
3.11 拡散反射測定例 1~日射反射率 1.2 色を見るための照明 465
3.12 拡散反射測定例 1~バンドギャップ 1.3 色を見るための人 465
1.4 色の表示方法 465
第 4 節 光 沢 性 491
1.4.1 色知覚の表示 466
4.1 鏡面光沢度 491
(1)色名による表示方法 466
4.2 鏡面光沢度の測定方法・装置 491
(2)マンセル表色系 468
4.2.1 測定角度 491
(3)NSC 469
4.2.2 測定装置の条件 491
470
4.2.3 鏡面光沢度の基準 491
(1)混色のしくみ 470
4.3 測定の活用事例 493
(2)RGB 表色系 471
第 5 節 屈 折 率 494
(3)XYZ 表色系 471
5.1 屈 折 率 494
(4)均等色空間 472
5.2 最近の動向 494
第 2 節 透 明 性 474
5.3 スネルの法則(光の屈折の法則)
494
2.1 光線透過率 474
5.4 測定波長 495
2.1.1 背景と測定原理 474
5.5 アッベ数、主分散 495
5.6 測定条件、測定環境 495
5.7 アッベ屈折計 495
1.4.2 混色に基づく色の表示方法 2.1.2 プラスチックの透過スペクトル
測定 477
488
489
489
2.1.3 JIS 規格による光学特性評価 477
5.8 多波長アッベ屈折計 496
2.1.4 蛍光を有する試料の測定 479
5.9 屈折率の測定 497
2.2 ヘーズ・拡散透過率 482
5.10 測定精度 498
2.2.1 ヘーズ 482
5.11 校正方法 499
2.2.2 ヘーズの測定方法・装置 482
第 6 節 複 屈 折 500
2.2.3 補償開口 483
6.1 複 屈 折 500
2.2.4 活用事例 483
6.2 屈折率楕円体 501
第 3 節 反 射 率 485
6.3 複屈折と位相差 501
3.1 正反射率と拡散反射率 485
6.4 複屈折の測定方法 502
3.2 相対反射率測定 485
6.5 位相差の特徴 502
3.3 相対反射率測定例~膜厚測定 485
6.6 位相差の測定方法 503
3.4 絶対反射率測定 486
6.6.1 直交ニコル干渉色の観察 503
3.5 絶対反射率測定例 1~光学定数計算 486
6.6.2 補償板の利用 503
3.6 絶対反射率測定例 2~光学素子評価 487
6.6.3 セナルモン法 504
3.7 絶対反射率測定例 3~拡散板評価 487
6.6.4 位相差測定装置 504
3.8 絶対反射率測定例 4~多層膜解析 487
6.7 固有複屈折と配向係数 505
目次 10
6.8 測 定 例 506
6.8.3 位相差の二次元分布 507
6.8.1 PET フィルムのボーイング現象 506
6.8.4 PET フィルムの特徴 507
6.8.2 三次元屈折率 506
第 8 章 電気・電子的試験法
概 説
513
4.1 圧電性 531
第 1 節 絶縁抵抗・耐圧 514
4.2 焦電性 532
第 2 節 誘電率(および誘電正接)
518
第 5 節 放電劣化 534
2.1 誘電体の理論 518
5.1 部分放電劣化 535
2.1.1 静電界(直流電界)の場合 518
5.2 トリーイング劣化 536
(1)電極間が真空の場合 518
5.3 アーク劣化 537
(2)電極間に誘電体を挟んだ場合 518
5.4 トラッキング劣化 537
第 6 節 マイグレーション・電食 2.1.2 交流電界の場合 518
(1)電極間が真空の場合 518
6.1 吸湿で起こる電子機器の故障 (2)電極間に誘電体を挟んだ場合 519
6.2 高湿環境での電気化学的腐食
2.2 誘電率
(および誘電正接)
の測定方法 520
541
541
(ガルバニック腐食、電食、孔食)
541
2.2.1 測定器 520
6.3 イオン・マイグレーション 543
2.2.2 リード線 521
第 7 節 樹脂の電磁波シールド性 548
2.2.3 リード線の接続方法 522
7.1 電磁波シールドの基礎 548
2.2.4 補正機能 523
7.1.1 電磁波シールドの目的 548
2.2.5 ガード機能 523
7.1.2 電磁波シールドの原理と電磁遮蔽
2.2.6 試料の形状 523
2.2.7 電 極
523
7.2 遠方界に対する電磁遮蔽効果 549
2.2.8 測定方法 524
7.2.1 反 射 損 549
(1)電極接触法(金属板電極)
524
7.2.2 吸 収 損 549
(2)電極接触法(薄膜電極)
524
7.2.3 多重反射損 550
(3)電極非接触法 525
7.2.4 トータルの電磁遮蔽効果 551
2.2.9 試料の保管 525
7.3 近傍界に対する電磁遮蔽効果 551
2.2.10 測定環境 525
7.3.1 ヘルツダイポール波源の近傍界 551
第 3 節 導 電 性 527
7.3.2 磁気ダイポール波源の近傍界 552
第 4 節 圧電・焦電特性 530
効果 548
第 9 章 環境試験法
概 説
557
1.1.1 直接暴露試験 558
第 1 節 屋外暴露 558
1.1.2 窓ガラス越し暴露試験 558
558
1.1.3 その他の暴露試験方法 558
1.1 屋外暴露試験 目次 11
(1)太陽追跡集光暴露試験 558
(1)熱重量測定(TG)
578
(2)ブラックボックス暴露試験方法 559
(2)転移温度測定 578
1.2 暴露試験場の要件 559
(3)転移熱測定 578
1.3 試験方法の概要 559
(4)比熱容量測定 579
1.3.1 暴露角度 559
5.1.3 燃焼性試験 579
1.3.2 開始時期 559
(1)水平燃焼試験(HB)
1.3.3 暴露期間 559
(2)垂直燃焼試験(V-0、V-1 又は V-2)
579
1.3.4 試料の取り付け 560
(3)500W 垂直燃焼試験 1.3.5 暴露試験期間中の取扱い 560
1.4 環境因子の計測 560
1.4.1 紫 外 線 560
1.4.2 試験片の温度 560
(2)セル形熱老化試験機 581
1.4.3 試験片の濡れ時間 561
(3)自然換気形老化試験機 581
1.4.4 カルボニルインデックス 561
(4)テストチューブ(試験管)
第 2 節 促進耐候性 5.2 熱安定性 579
580
580
(1)強制循環式空気加熱老化試験機
(オーブン法)
580
563
形老化試験機 581
2.1 試験装置の概要 563
5.3 長期耐熱性試験 581
2.2 光 源
563
5.3.1 耐熱寿命試験方法 581
2.3 試験条件 564
5.3.2 温度限界の求め方 582
2.3.1 放射照度 564
5.4 電気用品に使用される絶縁物の使用
2.3.2 黒板温度 564
2.3.3 水分の負荷条件 564
5.5 煮沸試験 583
2.4 促進耐候性試験の課題 565
5.6 その他の耐熱試験方法 583
2.4.1 相関性に関する課題 565
(1)一般試験方法(JIS K 6911)
565
(2)ヒートサイクル試験・
(1)紫外線量による比較 温度上限値 583
ヒートショック試験 583
(2)ポリエチレンリファレンス試験片の
利用 566
2.4.2 再現性に関する課題 583
566
(3)家庭用品品質表示法 第 6 節 ヒートサイクル 583
588
第 3 節 熱安定性 568
6.1 関連規格 588
第 4 節 耐寒性 570
6.2 試験の概要 588
4.1 耐寒性試験の例 570
6.2.1 JIS C60068-2-14:2011 588
4.1.1 ぜい化試験 570
6.2.2 JIS C60068-2-38:2013 589
4.1.2 柔軟温度試験 571
6.2.3 JIS C8917:1998 及び
4.2 その他の耐寒性試験方法 572
4.2.1 マルチポイントデータの取得 572
6.2.4 JIS C5012:1993 590
4.2.2 動的粘弾性 572
6.2.5 試験装置 592
4.2.3 耐冷温度 572
第 7 節 塩水噴霧 593
第 5 節 耐 熱 性 574
7.1 塩水噴霧試験の原理 593
5.1 短期耐熱性 574
7.1.1 塩 分 593
5.1.1 耐熱変形特性 576
7.1.2 温度・湿度 593
(1)荷重たわみ温度 576
7.1.3 酸 性 雨 593
(2)ビカット軟化温度(VST)
577
7.2 試験機の構造 594
(3)ボールプレッシャー試験 577
7.3 試験方法の種類 595
(4)ヒートサグ試験 577
7.4 試験機精度の確保および管理 596
578
7.5 複合サイクル試験 596
5.1.2 耐熱分解性(熱的性質)
JIS C8938:1995 589
目次 12
第 10 章 安全性試験法
概 説
601
4.1.2 コロニー形成法 622
第 1 節 化学物質審査規制法 602
4.1.3 NRU 法 622
602
4.1.4 細胞毒性の評価 623
1.1 化審法 1.2 化審法における高分子化合物の試験法 4.2 三次元皮膚モデルを用いる in vitro
603
1.2.1 安定性試験 604
4.2.1 試験法の原理 皮膚刺激性試験 623
623
1.2.2 溶解性試験 604
4.2.2 試験法の概要 624
1.2.3 分子量分布測定 604
4.2.3 結果の判定方法 624
1.3 化審法における高分子化合物の
4.3 マウスを用いる局所リンパ節
安全性評価 605
1.4 低懸念ポリマーの事前確認制度 アッセイ(LLNA)
624
605
1.5 高分子化合物とみなされない化合物
について 606
第 2 節 揮発性物質 608
2.1 建築基準法による規制 608
2.2 自動車業界 610
2.3 加熱発生ガス 612
2.4 においの分析 613
第 3 節 溶出試験(重金属、モノマー)
615
3.1 残存モノマー 615
3.2 器具・容器包装 615
4.3.1 試験法の原理 624
4.3.2 試験法の概要 625
4.3.3 結果の判定方法 626
第 5 節 製品安全(衛生安全性)
627
5.1 食品器具・容器包装 627
5.1.1 食品衛生法 627
(1)器具または容器包装一般の試験法
(規格 B)
627
(2)器具もしくは容器包装またはこれら
の原材料の材質別規格(規格 D)
627
(3)器具または容器包装の用途別規格
(規格 E)
627
3.2.1 ガラス製、陶磁器製または
ホウロウ引きの器具または
5.1.2 業界自主基準 628
容器包装 616
5.2 医療機器・医薬品容器 629
5.2.1 日本薬局方 629
3.2.2 合成樹脂製の器具または容器包装 617
3.2.3 ゴム製及び金属缶の器具または
容器包装 617
(1)プラスチック製医薬品容器 629
(2)輸液用ゴム栓試験法 630
3.3 欧州玩具安全規格 617
5.2.2 医療用プラスチック自主規格 631
3.3.1 重金属 617
5.3 化学物質の規制 631
3.3.2 フタル酸エステル 618
5.3.1 電気・電子機器中の有害物質 3.4 廃棄及び再利用時の安全性基準 618
(WEEE 指令、RoHS 指令)
631
5.3.2 改正 RoHS 指令 631
3.4.1 産業廃棄物に含まれる金属等の
検定方法 618
3.4.2 土壌の汚染に係る環境基準に
ついて 620
3.4.3 溶融スラグ等 第 4 節 毒性試験 (1)対象製品の拡大 631
(2)CE マーキングの貼付 632
(3)規制対象物質の追加、見直し検討 632
620
621
4.1 細胞毒性試験 621
4.1.1 抽出法による試験液の調製 622
目次 13
5.3.3 REACH 規則 632
第 11 章 省資源・再資源化に関する標準化
概 説
637
第 1 節 再資源・省資源化の分別・識別
評価試験 639
2.8.1 PET ボトルの生産性 654
2.8.2 標準化の必要性 654
第 3 節 プラスチック再資源化の試験規格
と標準化 1.1 プラスチック製品の家庭用廃棄物の
再資源化 639
656
3.1 再資源の標準化と国際対応 656
1.1.1 プラスチック製品の再資源化 639
3.1.1 再資源に関する標準化 656
1.1.2 容器包装リサイクル法の仕組み 640
3.1.2 PET ボトルの再資源化 657
3.1.3 改良型メカニカルリサイクル 657
3.2 PET ボトルの標準化の必要性 658
1.1.3 プラスチック製容器包装の材質
表示 641
1.2 分別技術と再資源化 642
1.2.1 回収、分別 642
1.2.2 リサイクルの手法 642
3.3.1 規格の適用範囲と概要 658
1.3 プラスチック素材の識別技術 642
3.3.2 分 類
659
645
3.3.3 データブロック 2 660
3.3.4 データブロック 3 660
標準化 645
3.3.5 データブロック 4 660
2.2 PET ボトルの優れた物性と標準化 646
3.3.6 データブロック 5 661
661
第 2 節 再資源・省資源と標準化 3.3 使用済み PET ボトルの再生に
関する規格 658
2.1 プラスチック容器の需要拡大と
2.2.1 PET ボトルの特性 646
3.3.7 分類の例示 2.2.2 各種容器の競合関係 647
3.4 再生プラスチックに関する
2.3 PET ボトルの再資源化 648
2.3.1 容器リサイクル法 648
3.4.1 再生プラスチック 662
2.3.2 リサイクルの手法 648
3.4.2 再資源に関する規格化 663
2.3.3 リサイクル化の仕分 649
3.4.3 日本発の規格制定の意義 663
3.4.4 JIS 化への対応 664
ISO 規格 662
2.4 PET ボトルの再資源化と回収
システム 649
2.4.1 再資源化の手法 第 4 節 生分解性試験 649
2.4.2 再生化の工程と循環型リサイクル 650
665
4.1 生分解性プラスチック 665
4.2 生分解性プラスチックの分解挙動 665
2.5 プラスチックの再資源化 650
4.3 生分解性試験を定める規格 666
2.5.1 PET ボトルの国際的動向 650
4.4 生分解性試験の条件 668
2.5.2 マテリアルリサイクルの対応 652
4.5 試料形状 668
2.6 改良型メカニカルリサイクルと使用
4.6 生分解性試験を行うのに必要な
済み PET ボトル 652
試料量 669
2.6.1 改良型マテリアルリサイクル 652
4.7 酸素条件(好気性と嫌気性)
669
2.6.2 リサイクル化の問題と対応 652
4.8 水分量と塩濃度 669
2.7 プラスチック再資源化の多様性 653
4.9 生分解性測定方法 670
2.7.1 再資源化に関する手法 653
4.10 微生物植種源 670
2.7.2 再資源化を目指す設計 654
4.11 分解温度 670
4.12 測定日数 671
4.13 生分解性プラスチック認証制度 671
2.8 PET 製品製造と再資源化システム
の標準化 654
目次 14
4.14 その他の生分解性試験 671
4.15 生分解性試験における課題と将来 672
含有率の測定 683
第 6 節 生分解性プラスチックの国際標準
規格 第 5 節 プラスチック製品のバイオマス
原料含有率 673
5.1 バイオマスプラスチックとは 673
5.2 バイオマス原料と化石燃料原料の
686
6.1 ISO 14851
(好気的水系 酸素消費量測定)
686
6.2 ISO 17556(好気土壌系 二酸化炭素
判別メカニズム 675
5.3 バイオマス原料含有率の測定方法
発生量又は酸素消費量測定)
687
6.3 ISO 14855-2(好気的コンポスト系
及び計算方法 676
第 2 部:実験室条件下、重量法に
よる二酸化炭素測定)
688
5.4 バイオマス原料含有率に関わる国際
標準規格 679
6.4 ISO 13975(嫌気分解・スラリー系
バイオガス測定)
688
5.5 バイオマスに関わるマーク識別表示
制度 682
6.5 ISO 10210(生分解試験法の試料の
調整法)
688
5.6 製品の各種組成毎のバイオマス原料
第 12 章 各種製品の試験法
概 説
693
試験規格 701
1.製品規格と製品試験の関係 693
1.3 ガス透過度測定装置 2.製品試験の難しさ 693
1.4 水蒸気透過度の測定方法の種類と
試験規格 703
3.国際連合や各国公共機関の認証を
必要とする製品規格 694
4.新製品開発と製品規格 694
5.本章の特徴 695
1.プラスチックフィルム 702
1.5 重量法による水蒸気透過度測定 704
1.6 機器測定法による水蒸気透過度測定
装置 704
696
2.機械的特性評価方法 704
1.機械的性質 696
2.1 引張強さ 705
1.1 引張試験 696
2.2 伸 び
705
1.2 引裂き試験 696
2.3 弾 性 率 705
1.3 剥離試験 696
2.4 衝撃強さ 706
1.4 硬さ試験 696
2.5 ヒートシール強さ 706
2.耐候性試験 697
2.6 引裂強さ 707
3.耐薬品性試験 697
2.7 突刺強さ 707
4.摩擦色落ち試験 697
2.8 耐ピンホール性 707
5.耐寒性試験 698
2.9 スリップ性 707
6.耐熱老化試験 698
3.熱的性質評価方法 708
7.燃焼性試験 698
3.1 融点・ガラス転移点 708
2.包装用フィルム(食品用・医薬品用・
その他)
3.2 軟化温度 709
700
3.3 熱伝導と断熱性 709
700
4.光学的特性評価方法 709
1.1 フィルム中のガス透過過程と透過式 700
4.1 透 明 性 709
1.2 ガス透過度の測定方法の種類と
4.2 光 沢 度 710
1.ガス・水蒸気バリア性評価方法 目次 15
5.接着特性評価方法 710
4.高分子発泡体の引張り 734
5.1 溶解度パラメーター 710
4.1 引張試験を実施する上での注意点 734
5.2 濡れ性と表面張力 710
4.2 引張変形の解析 735
3.光学用フィルムのシミュレーション
による性能評価 5.まとめ:高分子発泡体の
712
バリエーションと類似物 735
7.断熱用発泡製品(フォーム材)
737
1.位相差フィルムの特性 712
2.延伸シミュレーション 713
1.断熱材と保温材 737
2.1 分子鎖の不均質構造 713
2.発泡プラスチック保温材 737
2.2 屈折率増分と全屈折率 714
3.発泡プラスチック保温材の熱伝導率 737
2.3 1 軸引張過程でのレタデーション 716
3.1 保護熱板法 738
3.2 熱流計法 739
3.3 円 筒 法 739
2.4 2 軸延伸過程でのレタデーションと
光軸 717
4.太陽電池バックシート 1.太陽電池の構造 719
4.熱伝導率以外の JIS 規定項目と試験
719
方法 740
2.太陽電池モジュール用バックシート 720
4.1 密 度
740
3.太陽電池モジュールにおける製品
4.2 透湿係数 740
規格 720
4.3 圧縮強さ 740
721
4.4 曲げ強さ 740
724
4.5 引張強さ 741
1.適用規格と各試験方法 724
4.6 厚さ収縮率 741
1.1 一般用ポリエチレン管 724
4.7 燃 焼 性 741
1.2 水道用ポリエチレン二層管 724
4.8 吸 水 量 741
1.3 架橋ポリエチレン管 725
4.9 ホルムアルデヒド放散 741
1.4 水道用架橋ポリエチレン管 725
1.5 ガス用ポリエチレン管 725
1.接着剤の基本特性の試験、測定方法 743
2.試験概要(ガス用ポリエチレン管)
726
2.接着剤-接着強さ試験方法 743
3.静的な接着強さ試験、測定方法 743
3.1 引張り接着強さ 743
3.2 引張せん断接着強さ 743
3.3 圧縮せん断接着強さ 744
3.4 ねじりせん断接着強さ 744
3.5 はく離接着強さ 744
3.6 割裂接着強さ 744
4.バックシートにおける要求規格 5.ポリエチレン管 8.接着・接合 2.1 最小要求強度(minimum required
strength)
726
2.2 内圧クリープ試験 726
2.3 全周ノッチ式引張クリープ試験
(FNCT)
728
2.4 全周ノッチ式引張疲労試験
(FNFT)
729
743
2.5 融着適合性試験 729
4.動的な接着強さ試験、測定方法 745
2.6 スクイズオフ試験 730
4.1 衝撃接着強さ 745
731
4.2 疲れ接着強さ 745
1.発泡構造の由来 731
4.3 くさび衝撃法 745
2.発泡アルミニウムの圧縮挙動 731
5.クリープ特性 745
3.高分子発泡体の圧縮挙動 732
6.耐久性、対環境性関連の試験、測定
3.1 圧縮試験を実施する上での注意点 732
3.2 測定例:低密度ポリエチレン 732
3.3 測定例:シリコンゴム発泡体 733
6.緩衝用発泡製品 3.4 X 線 CT による気泡構造の変形挙動
の解析 733
目次 16
方法 745
6.1 構造接着接合品の耐久性試験方法-
くさび破壊法 745
6.2 接着強さの温度依存性 745
6.3 環境性試験、測定方法 746
7.その他 746
7.1 曲げ接着強さ 746
7.2 接着剤の物理的・化学的特性 746
13.スポーツ用品 748
13-1 スポーツ用具(一般)
(バット、
9.塗装・塗料 8.電気特性 778
9.その他の実用特性評価項目 778
780
1.塗料の構造と物性 748
2.液体コーティング剤の評価 748
1.バット試験方法 780
3.硬化過程の物性試験 749
2.ヘルメット試験方法 782
4.乾燥・硬化膜の粘弾性挙動 749
3.胸部保護パッド試験方法 783
5.耐候性試験技術 750
6.今後の評価技術 751
1.評価法の概要 785
10.ナノカーボン材料 752
2.ソール部試験方法 786
752
2.1 衝撃緩衝性 786
2.2 耐久性 787
3.競技専用シューズの試験 788
1.はじめに ヘルメット、胸部保護パッド)
13-2 スポーツシューズ 2.ナノカーボン材料とカーボンナノ
チューブの発見 752
3.カーボンナノチューブの種類 753
754
4.2 カーボンナノチューブの諸特性 756
ゴルフシャフト 1.性能評価 790
790
2.強度評価(製品安全協会の SG 基準)
791
14. 玩 具
4.3 カーボンナノチューブの表面分析と
785
13-3 繊維強化プラスチック(FRP)製
4.カーボンナノチューブの構造と諸特性 754
4.1 カーボンナノチューブの構造 780
793
品質評価方法 757
1.玩具規制の種類 793
4.3.1 ラマン分光測定 757
2.おもちゃの種類 793
4.3.2 CNT のラマンスペクトル分析 757
3.試験項目 794
3.1 食品衛生法及び玩具安全基準 794
3.2 玩具安全基準 795
4.不合格事例 796
5.事 故 例 796
6.回収事例 797
4.3.3 ラマン分光法によるカーボン
ナノチューブの配向性評価 759
5.カーボンナノチューブの応用 759
6.カーボンナノチューブの紡績とその
応用 760
6.1 湿式紡績(Wet spinning)
760
6.2 乾式紡績(Dry spinning)
761
15. 食 器
6.3 超紡績性長尺カーボンナノチューブ
アレイからの乾式紡績 762
11.プラスチックデッキ材 798
1.食品衛生法における食器の衛生性 798
2.主な試験方法 798
2.1 材質試験 798
767
2.2 溶出試験 799
1.プラスチックデッキ材 767
3.食器を使用する上での注意点 800
2.木材・プラスチック再生複合材 768
16.医療用材料 3.木材・プラスチック再生複合材の
実大性能 770
12.家電製品 801
1.生物学的安全性試験 801
2.生体適合性 802
772
3.耐生体内劣化性と生体吸収性 803
1.家電製品における材料試験、評価 772
4.血液適合性 804
2.機械的特性 772
5.材料表面への血漿タンパク質の吸着 805
3.音響(振動減衰)特性 773
6.表面潤滑性 806
4.耐薬品性(環境応力性)
774
17.抗菌加工製品 808
5.耐候(光)性 776
1.抗菌、抗菌加工製品とは何か ? 808
6.変 色
777
2.抗菌加工製品の市場と用途 809
7.難 燃 性 778
3.抗菌加工製品の抗菌性能 810
目次 17
3.1 抗菌性能評価試験法 810
強度 826
3.2 抗菌持続性試験方法 811
1.3 空力弾性安定性に対する要求 826
4.抗菌加工製品、抗菌剤の安全性 811
1.4 複合材構造に関する AC の適用 826
814
2.実大主翼構造供試体 826
1.物流におけるプラスチック 814
3.実証試験 828
2.使用環境と評価試験 814
4.試験結果 830
3.試験方法 814
4.1 静荷重試験 830
3.1 前 処 置 814
4.2 疲労特性および損傷許容性評価
3.2 圧縮試験 815
試験 3.3 クリープ試験 815
3.4 衝撃強度試験 815
1.小形風車用ブレード 3.5 梱包形態での衝撃強度試験 816
1.1 風車運転中にブレードに発生する
18.プラスチック製物流資材 20.小型風車用ブレード (1)水平方向の衝撃 816
(2)垂直方向の衝撃 817
1.2 ブレードの構造と材料 3.6 振動試験 817
2.ブレード評価試験の関連規格と
19.航空機関連 819
19-1 航空機複合材構造の評価方法 819
819
819
1.2 BBA における供試体必要数、
信頼度、信頼水準 820
1.3 航空機複合材構造の BBA による
標本数と評価項目の事例 820
2.疲労寿命立証に関する加速試験法 821
823
19-2 航空機主翼構造の事例(VaRTM
複合材)
825
1.VaRTM 主翼構造の強度要求と
試験計画概要 825
1.1 制限荷重および終極荷重に対する
強度 834
2.1 関連規格 834
2.2 終局荷重への対応 835
2.3 疲労荷重への対応 835
3.ブレード評価試験の実際 836
3.1 静荷重試験 836
3.1.1 静荷重試験の目的 836
3.1.2 荷重の印加 836
3.2 振動試験 837
3.2.1 振動試験の目的 837
21.ボート 3.航空機用複合材料共有データベース
の試み 834
考え方 834
1.1 ビルディング・ブロック・
アプローチについて 834
荷重 834
1.航空機複合材構造の強度保証方法
の概要 831
825
1.2 疲労および損傷許容性に対する
目次 18
838
1.ボートの種類と材料 838
1.1 プレジャーボート 838
1.2 業 務 艇 839
2.ボートの製造方法 839
3.その他の工法 841
4.製品の開発と評価 841
4.1 外洋耐久航走試験 841
4.2 落下試験 841
〔用 語 索 引〕
(ア)
アーク劣化
537
温度変調法
(カ)
カーボンナノチューブ
351
R 曲線(安定破壊抵抗曲線)
246
アセンブリ検査
144
回転型レオメーター
圧縮試験
162
改良型マテリアルリサイクル
652
圧縮振動
231
改良型メカニカルリサイクル
652,657
圧縮せん断接着強さ
744
化学物質審査規制法
602
アッベ屈折計
495
架橋ポリエチレン管
725
圧電・焦電特性
530
拡散反射率測定
488
圧力-比容積-温度(PVT)特性
122
拡張/収縮法
450
アブレシブ摩耗(ざらつき摩耗)
223
火災安全技術
391
安定性試験
604
火災伝播試験
382
安定破壊抵抗曲線
246
火災反応試験
543
かさ密度測定法
(イ)
イオン・マイグレーション
753
111
387
398,401
位相差の特徴
502
可視化熱分析
位相差測定装置
504
荷重たわみ温度
位相差フィルムの特性
712
滑落法(B/C)
447
一般用ポリエチレン管
724
割裂接着強さ
744
医療機器・医薬品容器
629
家電製品
772
医療用材料
801
カルボニルインデックス
561
色及び色彩
464
環境因子の計測
560
748
乾 式 法
400
SS カーブとフローカーブ
96
乾式紡績(Dry spinning)
761
S-S 曲線
154
緩衝用発泡製品
731
NRU 法
622
緩和スペクトル
101
エネルギー開放率
245
外洋耐久航走試験
841
FRP の再資源化
304
ガス・水蒸気バリア性評価方法
700
FRP 浄化槽
56
ガス切断法
311
FRP 製品のリサイクル
76
ガス透過度の測定方法
701
FRP 製品の解体技術
309
ガスバリア性
435
エルメンドルフ引裂き法
182
ガス用ポリエチレン管
725
延伸シミュレーション
713
ガラス繊維
267
遠心沈降法
407
ガラス転移
363
塩水噴霧
593
玩 具
793
円 筒 法
739
(キ)
幾何学的粒子径
405
envelope density
401
気孔率、空隙率
402
(エ)
液体コーティング剤の評価
(オ)
欧州規格(EN)
353
357,576
50
機械的特性評価方法
704
屋外暴露試験
558
幾何公差
144
オレフィン系プラスチック
74
揮発性物質
608
温度依存性
363
吸 収 損
549
温度校正
326
吸水試験
422
用語索引 1
吸水性及び耐水性
421
細胞毒性試験
621
強化プラスチック試験法
267
3 次元計測の背景
252
強制循環式空気加熱老化試験機
580
酸素ランス切断法
311
胸部保護パッド試験方法
783
残存モノマー
615
鏡面光沢度
491
凝着摩耗
222
CNT のラマンスペクトル分析
757
(ク)
空間コード化法
142
CFRP 積層板の疲労試験
238
745
紫 外 線
560
494
試験片の作製
くさび衝撃法
屈 折 率
(シ)
CE マーキング
632
136,263
示差走査熱量測定(DSC)
319
745
自然換気形老化試験機
581
クリープ試験
194,815
クリープ特性
クロマトグラフィー(SEC)
413
湿 式 法
399
(ケ)
計装化型衝撃試験
207
湿式紡績(Wet spinning)
760
血液適合性
804
質量校正
327
ケミカルリサイクル
77
射出成形法
136
煮沸試験
583
嫌気分解・スラリー系バイオガス測定 688
400
小規模降伏条件
(コ)
コーンカロリメータ
385
衝撃試験
光学的試験法
461
衝撃接着強さ
745
光学的特性評価方法
709
省資源・再資源化
635
光学的粒子径
406
直接暴露試験
558
光学フィルム
712
食品器具・容器包装
627
好気的水系酸素消費量測定
686
食品衛生法
627
抗菌加工製品
808
食 器
798
抗 菌 性
454
シングルポイントデータ
69
航空機関連
819
伸長粘度
119
航空機主翼構造
825
振動試験
817
航空機複合材構造
819
真 密 度
397
光線透過率
474
J-R 曲線
250
高速衝撃試験
212
磁気ダイポール波源
552
高速引張試験
157
充填ポリマーの金型内圧力挙動
122
光 沢 性
491
柔軟温度試験
571
高分子発泡体の圧縮挙動
732
樹脂のクリープコンプライアンス
196
小形風車用ブレード
834
樹脂の電磁波シールド性
548
国際規格(ISO)
49
寿命評価
331
国際標準化機構(ISO)
50
循環型システムの構築
307
固有複屈折
505
じん性とは
243
コロニー形成法
622
けんちょう(懸吊)法
(ス)
水蒸気透過度の測定方法
246
200,815
703
ゴルフシャフト
790
水中置換法
399
(サ)
再資源化と規格
73
垂直燃焼試験
579
再資源化の手法
308
水道用架橋ポリエチレン管
725
再資源・省資源と標準化
645
水道用ポリエチレン二層管
724
再生プラスチック
662
水平燃焼試験(HB)
579
用語索引 2
(タ)
耐 寒 性
スクイズオフ試験
730
スクラッチ特性
224
耐久性試験
570
58
ステレオ法
142
耐候性試験
58,750
スネルの法則(光の屈折の法則)
494
耐熱試験
357
スプレーアップ成形
264
耐熱寿命試験方法
581
スポーツシューズ
785
耐 熱 性
574
スポーツ用具
780
耐熱分解性(熱的性質)
578
(セ)
静荷重試験
836
耐熱変形特性
576
成形収縮性
128
耐薬品性
成 形 性
89
太陽追跡集光暴露試験
558
生体適合性
802
太陽電池バックシート
719
多重反射損
550
多波長アッベ屈折計
496
短期耐熱性
574
静的および動的試験
147,186
生物学的安全性試験
801
生分解性プラスチックの国際標準規格 686
426,427
生分解性試験
665
短冊試験片の調製
生分解性測定方法
670
炭素繊維
接触圧成形
264
ダートインパクト試験
209
接着剤-接着強さ試験方法
743
弾 性 率
153
接着剤の引張せん断試験
187
断熱用発泡製品(フォーム材)
737
ダンベル試験片
140
746
接着剤の物理的・化学的特性
接着・接合
186,743
(チ)
超音波スペクトロスコピー
140
275,281
409
接着特性評価方法
710
長期耐熱性試験
581
セナルモン法
504
超高速衝撃試験
216
セル形熱老化試験機
581
直交ニコル干渉色
503
繊維含有率・空洞率
283
(ツ)
疲れ接着強さ
745
繊維強化プラスチック
263
(テ)
低温衝撃試験機
205
繊維強化プラスチックの繊維含有率
283
定常絶対法
347
線形破壊力学の基礎
243
定常比較法
348
線形/非線形粘弾性
103
定容積膨張法
400
せん断試験
174
テストチューブ(試験管)形老化試験機
せん断振動
231
581
ぜい化試験
570
転移温度測定
578
絶対反射率測定
486
転移熱測定
578
絶縁抵抗・耐圧
514
DMA 曲線-温度依存性
232
デジタル衝撃試験機
204
デュポン衝撃試験
210
電気・電子的試験法
511
電極接触法
524
電磁波シールドの基礎
548
全周ノッチ式引張クリープ試験(FNCT)
728
全周ノッチ式引張疲労試験(FNFT)
729
全自動衝撃試験機
(ソ)
層間剪断試験
206
286
(ト)
透 明 性
層間破壊じん性試験
298
相対反射率測定
485
塗装・塗料
748
促進耐候性
563
トラウザー引裂き法
180
トラッキング劣化
537
ソルベントクラック
427,433
用語索引 3
474
トリーイング劣化
536
非線形粘弾性の例
104
動的機械特性
228
引張試験
150
101,572
引張振動
230
動的粘弾性
動的粘弾性パラメータ
230
引張せん断接着強さ
743
動力学的粒子径
406
引張り接着強さ
743
導 電 性
527
比熱容量測定
579
毒性試験
621,388
皮膚刺激性試験
623
726
表面潤滑性
806
ナノインプリント技術
91
表面特性
219
ナノカーボン材料
752
非ルーチン的試験方法
281
(ネ)
ねじりせん断接着強さ
744
疲労試験
236
(ナ)
内圧クリープ試験
疲労摩耗(転がり摩耗)
223
熱機械分析(TMA)
333
微生物植種源
670
熱材料試験
357
鋲螺締結部における面圧破損
290
337
ビルディング・ブロック
819
PC 接続型衝撃試験機
205
熱安定性
熱刺激電流測定
熱重量測定(TG)
熱的性質評価方法
熱伝導試験
568,580
325,578
708
345,362
PVT 特性
122,123
ビカット軟化温度(VST)試験
359,577
熱伝導率・熱拡散率測定法
346
熱分析試験
319
熱流計法
739
フィラー充填プラスチック
366
燃焼挙動試験方法
374
フィラメントワインディング成形
265
ピクノメータ(比重びん)法
(フ)
フーリエ型温度波熱分析
399
353
燃焼試験
374,579
フェーズシフト法
142
燃焼発熱
384
フェノール試験
799
燃焼腐食性試験方法
390
複 屈 折
500
粘 弾 性
98
複合サイクル試験
596
(ハ)
配向係数
505
腐食摩耗
223
246
フタル酸エステル
618
不燃性試験
382
破壊条件
破壊じん性試験
243,247
はく離接着強さ
744
フラッシュ法・レーザーフラッシュ法 350
撥水性・撥油性
445
振子型衝撃試験
203
発泡プラスチック保温材
737
物性試験
54
発煙性試験
388
部分放電劣化
535
反 射 損
549
ブレード評価試験
834
反 射 率
485
分 子 量
412
汎用プラスチック
124
分子量分布測定
604
VaRTM 主翼構造の強度要求
825
プラスチック再資源化の試験規格
656
バイオマスプラスチック
673
プラスチック製物流資材
814
780
プラスチックデッキ材
767
プラスチックの試験方法
53
バット試験方法
(ヒ)
ヒートサイクル試験
583,588
ヒートサグ試験
577
プラスチックの燃焼発熱試験方法
385
ヒートショック試験
583
プラスチックの分類と記号・略語
35
引裂き試験
180
プラスチックフィルム
696
用語索引 4
プラズマジェット切断法
310
プリプレグの成形
264
プレジャーボート
838
(ヘ)
ヘーズ・拡散透過率
(ミ)
密度(比重)
396
400
密度勾配管法
(メ)
メカニカルリサイクル
77
482
メルトフローレイト(MFR/MVR)
116
ヘルツダイポール波源
551
面圧試験/Bearing-Bypass 試験
290
ヘルメット試験方法
782
面内剪断試験
287
Bearing-Bypass 試験
290
(モ)
モードⅠ試験方法
298
米国規格(ASTM)
51
モードⅡ試験方法
300
毛管型レオメーター
113
PET ボトル
74,646,657,658
(ホ)
包装用フィルム(食品用・医薬品用他)
(ユ)
融着適合性試験
700
729
誘電率(誘電正接)
518
輸液用ゴム栓試験法
630
放電劣化
534
保護熱板法
738
ホットエンボス
91
溶融粘度
110
ホルムアルデヒド放散
741
容器包装リサイクル法
640
ボ ー ト
838
溶出試験(重金属、モノマー)
615
ボールプレッシャー試験
577
溶融スラグ
620
ボルツマンの原理
103
(ラ)
落錘衝撃試験
208
ポアソン比
152
落下試験
841
ポリエチレン管
724
ラマン分光測定
757
ポリエチレンびん
431
(リ)
REACH 規制
632
ポリエチレンリファレンス試験片
565
力学的試験法
147,252
ポリマーの構造と分類
36
リバースエンジニアリング
145
ポリマーアロイ(Polymer alloy)
125
粒子径・粒子径分布
405
(マ)
マイグレーション・電食
(ヨ)
溶解性試験
604
541
粒子密度測定法
399
曲げ試験
168
流動性の評価方法
110
曲げ振動
231
(ル)
ルーチン的試験方法
275
曲げ接着強さ
746
(レ)
レーザーフラッシュ法
350
摩 擦
221
レオロジー特性
96
レジントランスファー成形
265
マテリアルリサイクル
313,652
摩 耗
222
摩耗形態図
223
マルチポイントデータ
マンセル表色系
(ロ)
RoHS 指令
70,572
468
用語索引 5
631
ロービング硬さ
273
ロックウェル硬さ試験
220
総 論
総 論
的な基盤技術であると考えている。
資源、環境、エネルギーなどが世界的な規模で
盛んに議論されている。産業の発展の中で世界各
そこで、このような重要な位置づけとなってい
国が集結してこのような問題について議論するこ
る材料や製品の試験方法、検査方法について、本
とは、まさに有史以来の出来事である。急速な産
書「プラスチック系材料や製品の材料試験法」は
業の発展や自動車社会への移行に伴い、我々の生
新規材料や新規製品の基盤技術である。したがっ
活も大きな変化を遂げている。最近ではアフリカ
て、これらの試験法を実用に供しうる簡便なハン
や南米に加え、近隣のアジア諸国や石油産油国の
ドブックとして本書の出版を企画したものであ
急速な生活の変化が、このような問題に関わって
る。ここには、最近広い範囲に応用されているプ
いる。そのような根底には資源、環境、エネル
ラスチック材料や製品の試験や、各種試験方法の
ギーに関連する各種製品の開発や新素材の開発な
応用などについて、できる限り広範な技術資料を
どが、産業の基盤技術として重要な役割を担って
取集した。また本書は応用範囲の広い実用的な専
いる。まさに我々の生活基盤は多くの工業製品の
門書として、産業界に広くこの技術を普及させる
応用と活用とによって支えられている。我々人間
ためのものである。したがって、このような趣旨
の衣食住を支えている多くのものが、このような
に載っとり、ここで取り扱っている主な内容を示
各種工業製品によるものである。
すと次の通りである。
新製品として開発されている多くの工業製品に
材料試験や製品試験は広範な用途に展開されて
は金属製、プラスチック製、セラミックス製など
いる中で、プラスチック関連の材料や製品の試験
のものがあり、最近ではこのような各種素材の複
方法は多岐にわたっている。そこで、このような
合化された製品なども多い。木製の工業製品は天
試験法とその役割を大別すると次ようになる。
1)
材料や製品の物性や特性の基本的評価方法
然素材の製品として今や希少なものとなってい
の究明
る。このような各種素材で制作される工業製品の
2)
使用目的の応じた最適な材料選択に関する
中でもプラスチック製品はその応用範囲が広く、
資料提供
多くのプラスチック材料は各種工業製品の重要な
3)
製品や部品の制作に関わる工学的設計に関
素材として広い分野に実用化されている。このよ
する資料の提供
うな工業製品の品質や安全性を保証しているの
4)
材料や製品の販売や流通のための資料の提
が、ここで取り扱う材料や製品の試験法、検査法
供
であり、実製品試験などである。
5)
材料や製品の信頼性、安全性の確認
したがって、プラスチックの試験はこのような
6)
生産管理、品質管理の測定、検査に関する
材料や製品の品質を公正に評価・判定し、実用に
資料提供
供すための具体的な材料や製品の材質、品質の安
全性や信頼性の向上を目指すものである。実用的
7)
使用済み製品の再資源化に関する標準化
には工業製品の生産工程での品質管理、検査体制
したがって、このような中には材料や製品の生
の確立に役立てることを目的とするものである。
産過程での品質管理などを目的としたものなども
多くの試験方法の中でも、材料試験は各種製品を
多く含まれている。特に多くの材料や製品が国際
構成する素材の特性を担保するものであるから、
的に取引される中で、今や材料や製品が安全に使
その試験法は材料や製品の信頼性を保証する根幹
用され、流通できるためには、それに関わる試験
28
法は大変重要な役割を担っている。国際的な物資
れることが必要である。そのためには試験法には
の生産や物流はまさにこれを標準化することに
加速試験などが不可欠である。このように見ても
よって実現できると考えている。
材料や製品の試験方法は短期的な試験に加え、そ
の物性を長期間にわたって評価し、実用的に活用
一般的な試験方法、検査方法には、科学的試験
できる商品へと繋げて行かなければならない。
(scientific test)と呼んでいるものがあるが、こ
こで取り扱う試験法はこの範疇に入る。科学的試
多くのプラスチック製品が実用化されている中
験はその材料固有の物理的、化学的性質を測定す
で、製品の安全性や信頼性の確保は、まさにこの
るものである。したがってこの種の試験ではすべ
ような試験方法とその開発技術に大きく依存して
ての測定法が外部条件(環境条件)の影響を受け
いる。
特にこのような試験方法が簡便で実用性の高い
ず、試験機の構造、寸法などに無関係に評価され
ことが要求されている背景には、多くの材料や製
なくてはならない。
そのような物性には材料強度、弾性率、ポアソ
品が洋の東西を問わず、広い地球上を自由に行き
ン比、体積弾性率のほか、熱的特性、光学的特性、
来していることに起因している。このような背景
音響的特性、化学的物性に関わる多くの特性があ
には当然産業の拡大や流通機関の進歩、拡大など
る。最近ではこのような物性に加え、生物関連や
もある。
すなわち、材料や製品の評価は一国の評価基準
衛生関連の試験法などが多く導入されてきてお
り、試験範囲も広い範囲と領域に拡大している。
での対応だけでは難しい。広い産業界を支える世
特に製品の安全性に関する試験法は大変重要な位
界各国の認める、一般性の高い国際規格(ISO)
置となっている。
による共通の物差しであることが、各種試験や検
このような試験法の拡大は、プラスチック材料
査方法には強く求められている。このような状況
の多様性と優れたその特性によるものである。プ
に対応すべく我が国の経産省でも JIS と ISO と
ラスチックの透明性や膜材としての透過性、浸透
の整合化には厳しい監視の目が配られており、大
性などは、プラスチック特有な物性に依存するも
変重要な役割を担っている。
のである。そのほかプラスチックの応用範囲は広
このような状況を踏まえ我が国でも積極的に
く、食糧品や各種衛生用品をはじめ、多くの工業
ISO 規格の制定に参加し、既に JIS 規格の 80~
用製品に至るまで、その用途の拡大によって、そ
90%が ISO に準拠した規格になっている。しか
の試験法の範囲も広い分野に及んでいる。
も、このような試験規格の重要性はそればかりで
このような状況を見てもプラスチックの試験法
はない。産業のグローバル化が猛烈な勢いで世界
は従来の試験方法の範疇では、十分カバーできる
中を駆け巡っている中で、材料や製品の販売競争
状況にはないといってよい。そのために多くの試
も熾烈な戦いを挑んでいる。しかし、材料や製品
験方法が新規な試験方法として開発されている。
の安全性を度外視した販売競争は許されるもので
また、材料や製品の中には短期間の使用を目的と
はない。すなわち販売競争は材料や製品の安全性
したものも多いが、多くの工業製品は長期間使用
を確保した中での競争でなくてはならない。
に耐える耐久消費製品なども多い。むしろそのよ
このような中で大きな問題となっているのが、
うな対象製品の方が多いといってもよい。優れた
最近のアジア市場を見る限り、経済的な要因が優
プラスチック製品の中には、大型 FRP 製品のよ
先されていることである。世界的に商品取引が行
うな製品も多く、長期間にわたる材料や製品の評
われている中でも、商品の価格がとかく安価な材
価が重要な位置づけとなっている。特に新規に開
料や製品といった形で多くの市場が急速な変化を
発されている材料や製品の信頼性や安全性の確認
きたしている。まさに悪化は良貨を駆逐すると
には、このような試験法の適用が不可欠である。
いった現象を呈しているといってよい。この背景
しかも屋外で使用する製品などについては当然の
には材料や製品に関わる信頼できる試験法、評価
こと、長期間の暴露試験などが必要である。しか
法の欠如が大きなネックである。このようなこと
しこのような試験では短期間にその特性が調べら
からも材料や製品の評価試験は、従来にも増して
29
総 論
その重要性が高まってきていると言ってよい。ま
さに材料や製品の評価は商品の世界的な展開には
不可決なものである。
このような状況の中で、材料や製品に関わる評
価試験方法は、従来に増して大変重要な位置づけ
となっており、そのようなことからも本ハンド
ブックを十分活用して頂き、信頼性の高い安心で
きる商品の確立に繋げることができればと大きな
期待をかけている。
上記のような状況を見ても分かるように、材料
や製品の評価技術は、今や一国の問題ではなく国
際的な規格である ISO 規格が標準的な物差しと
して広く普及している。しかも、新規素材や新規
製品の安全性は時々刻々と変化する技術の進歩と
併行した形で、規格の改正、新規規格の制定など
を進めていかなくてはならない。本ハンドブック
はこのようなニーズに応えるためにこのような業
務に精通している多くの技術者にも執筆者として
大勢の方々に参画して頂いている。したがって、
本書はこのような目的のための手引書として大い
に活用できるもので、材料や製品の製造、生産工
程に携わっておられる多くの研究者や技術者の皆
様には信頼性の高い安全な商品の実用化に繋げて
頂くことを強く願うものである。
〈宮入 裕夫〉
30
概 論
が行っており、国際的な機関としては国際標準化
機構(ISO)がすべての産業界にわたる重要な役
割を果たしている。したがって、プラスチック関
概 説
連の材料や製品もこのような機関を介して、各種
製品に関する評価技術の推進や維持管理のどを行
なっており、具体的な規格の制定、改正などは
JIS や ISO として各種試験法の標準化が実施され
ている。
産業界で生産・販売されている材料や製品の試
験法はプラスチックばかりではない。金属や無機
最近では広い地球上を多くの生活物資や産業物
材料(セラミックス)など、さまざまなものが取
資が盛んに行き来している。そのような中で、材
り扱われている。しかし、このような中でもプラ
料や製品の材質や品質を保証するための試験法
スチックの応用範囲は広く、素材の構成も複雑、
は、国際的な取引の基本的評価手段であり、その
多岐にわたっている。多くの材料が複合化され、
役割は大変重要なものとなっている。今や JIS 規
高性能化、高機能化を目指す中で、プラスチック
格、ISO 規格は、世界の産業界を引っ張っていく
系材料は特に複合化しやすい材料として汎用化し
牽引力として重要な役割を担っている。しかも現
ている。
代では多くの物資が国際的に取引される中で我が
したがって、プラスチック材料や製品に関わる
国の JIS だけが、単独の規格として機能できるも
試験法の応用範囲は広い範囲に及んでおり、新規
のではない。国際的に流通している物資の評価技
材料の開発や使用範囲の拡大などにより新しい試
術は、国際的なルールに則った ISO に準拠した
験方法の開発なども盛んに行われている。また、
JIS でなければならない。このような状況に対応
多くの材料や製品が国際的に取引されている中
するために、JIS の ISO 化は盛んに行われてお
で、各種試験方法の統一はプラスチック産業に限
り、JIS を国際規格とすることで物資の流通にも
らず広い産業界の中では、大変重要なテーマと
安全性や信頼性が高まっていく。したがって、こ
なっており、新商品の発展を支えている重要な基
こで取り扱う検討項目はいわば評価試験の基本的
盤技術である。多くの新素材や新製品の開発が盛
な共通項目であり、各種試験法の根幹をなす重要
んに行われる中で、試験方法の整備は重要なテー
な項目となっている。また、ここで取り扱う試験
マであり、材料や製品の材質や品質を正しく評価
方法の範囲は広く材料試験、製品試験などに加
することで、安全性、信頼性の高い商品開発が可
え、実製品試験など多岐にわたっている。した
能となるのである。まさに材料や製品の評価技術
がって、このような各種試験方法は材料や製品の
の進歩は将来の産業発展には欠かせない重要な基
材質や品質を調べるための大変重要な基礎的項目
盤技術として国際的な発展が期待されている。
に関するものである。
本章ではこのような試験法の共通的な基礎項目
商品の品質を取り扱う各種材料や製品の評価は
について検討するものである。国際化で重要な各
国際的に規定された試験環境で実施され、共通な
種樹脂の名称や略号などをはじめ、各種試験方法
試験条件のもとで測定されなければならない。一
の基礎的な事項について解説、検討する。材料や
般に試験の環境条件の調整は試験に関する状態調
製品の評価に関する主な検討項目は、各種試験方
節と呼んでいるもので、その基本的な試験環境に
法を取りまとめている評価機関がその任に当たっ
ついての詳細な規定が設けられている。特に材料
ている。各国には国際間の連携をとる試験機関と
や製品の試験や検査体制は国際的な商品の安全
して国や産業界がその役割を担っている。我が国
性、信頼性を支える重要な手段であり、材料や製
では基本的な試験規格のすべてが経済産業省の直
品の生産工程での品質管理などにも重要な手段と
轄機関である日本工業調査会(JISC)がその任
なっている。まさにここで取り扱う試験法に関す
に当たっている。したがって具体的な規格の制
る基礎的事項は、さまざまな分野に展開され、応
定、改定などに関する業務は日本規格協会(JAS)
用されているものである。
33
第 1 節 プラスチックの分類と記号・略語
50MPa 以上、曲げ弾性率が 2.4GPa 以上で、構造
用及び機械部材など主に工業用途に使用されるプ
第 1 節 プラスチックの分類と
記号・略語
ラスチックを指す。さらに耐熱性が高く、150℃
以上の高温でも長期間使用できるものを特殊エン
プラまたはスーパーエンプラと呼び、区別されて
いる(図 1.1)
。
一方、プラスチックの記号及び略語を規定した
1.1 プラスチック(Plastics)とは
JIS 規格2)では、第一部(JIS K 6999-1)の附属
JIS 規格ではプラスチックを「必須の構成成分
書 C でプラスチックを以下のようにもっぱらポ
として高重合体を含み、かつ完成製品へのある段
リマーの化学的・構造的特徴でグループ分けして
階で流れによって形を与えうる材料」と定義して
いる(表 1.1)
。それぞれ若干の説明を要するが、
1)
いる 。その必須の構成成分(高重合体)がポリ
以下ではこれを適宜参照しつつ、ポリマーの構造
マー(polymer)である。実際のプラスチック材
と分類について、主要なプラスチックを例に述べ
料にはポリマーに加えて多種多様な添加剤が含ま
る。
れることも多いが、プラスチックの分類や名称は
もっぱら主成分であるポリマーを対象としてきめ
られる。工業統計などでの分類は製品の性状
表 1.1 JIS 規格(JIS K 6999-1)附属書 C のプラス
(フィルム、板など)や用途(容器、パイプなど)
チックのグループ分類*
によっており、必ずしもプラスチック材料の化学
C1.1 ホモポリマー (おもに連鎖重合系ポリマーの個
別名)
C1.2 コポリマー (ポリエステルの個別名)
C1.3 一般名称 (ポリアミド、ポリカーボネートなど
構造特性に基づく分類名)
C1.4 セルロース誘導体(半合成ポリマー)
C2.1 その他のコポリマー(連鎖重合系コポリマー)
C2.2 ネットワークポリマー(熱硬化性ポリマー)
的な特性を反映したものではない。工業界で広く
用いられてきた分類(たとえば日本プラスチック
工業連盟の資料など)では、プラスチックをまず
熱可塑性樹脂*1 と熱硬化性樹脂*1 に大きく分け、
前者はさらに汎用性プラスチックとエンジニアリ
ングプラスチック(エンプラ)に区分けされる。
エンプラは、耐熱性が 100℃以上あり、強度が
プラスチック
(合成樹脂)
熱可塑性樹脂
熱硬化性樹脂
*
カッコ書きは筆者による。
汎用性プラスチック
エンジニアリング
プラスチック
(エンプラ)
汎用エンプラ
スーパーエンプラ
図 1.1 プラスチックの分類
* 1 樹脂という用語
「樹脂」(resin)は、もともと天然の樹脂(ロジン)に似たものとして、広義に、プラスチック、有機塗料、ラッ
カーの基礎材料となるすべてのポリマーに用いられていた。また、“エポキシ樹脂”や”フェノール樹脂”の場
合のように、熱硬化物のプレポリマーのみならず、時には硬化した熱硬化物を表すのにも“樹脂”という術語が
用いられている。学術用語としての「樹脂」は、「通常反応性基をもつプレポリマーを含む柔らかい固体あるい
は高粘性の物質」と定義され、より狭い意味で熱硬化物のプレポリマー(熱硬化性ポリマー)を表すために用い、
硬化した熱硬化物に対して用いるのは好ましくないとされる4)。また、固相合成や高分子担体、高分子触媒、高
分子捕集剤に用いられるビーズ状ポリマー(イオン交換樹脂など)に対して使用することも学術用語としては好
ましくない。しかしながら、工業界ではいまなお広く樹脂という語が使用され、各種統計資料にも用いられるた
め、本稿でもプラスチックの分類名として時に応じてそのまま使用している。
35
第 1 章 試験法の概論
表 2.1 標準部会の専門委員会
技術専門委員会
土木技術専門委員会
第 2 節 標準化の手順
建築技術専門委員会
鉄鋼技術専門委員会
非鉄金属技術専門委員会
溶接技術専門委員会
一般化学技術専門委員会
2.1 規格に関わる国内組織
化学製品技術専門委員会
わが国では、試験法に関わる規格として、国家
窯業技術専門委員会
標準がある。国家標準は、その内容によりいくつ
消費生活技術専門委員会
かの省庁で取り扱っている。鉱工業品に関するも
紙・パルプ技術専門委員会
のは、工経済産業書が日本工業規格(JIS)とし
医療用具技術専門委員会
て取り扱っている。農業関連や食品などは農林水
高齢者・障害者支援専門委員会
産省が、日本農林規格(JAS)として取り扱って
労働安全用具技術専門委員会
いる。これ以外に医薬品は、厚生労働省が日本薬
機械要素技術専門委員会
局方として取り扱っている。JIS に関しては、経
産業オートメーション技術専門委員会
済産業省傘下の一般財団法人日本規格協会
計測計量技術専門委員会
(JSA)が取り扱っている。JAS に関しては、農
産業機械技術専門委員会
林水産省傘下の一般社団法人日本農林規格協会
自動車技術専門委員会
(JAS 協会)が取り扱っている。日本薬局方に関
航空・宇宙機技術専門委員会
しては、厚生労働省傘下の独立行政法人医薬品医
鉄道技術専門委員会
療機器総合機構が取り扱っている。
船舶技術専門委員会
物流技術専門委員会
本誌で対象とする試験法及び規格は、プラス
電気技術専門委員会
チック及びプラスチック製品に関わるものであ
電子技術専門委員会
り、国内規格としては主として JIS として取り扱
情報技術専門委員会
われているものである。JIS 原案に関しては、経
基本技術専門委員会
済産業省の産業技術環境局の基準認証ユニットで
分野横断的専門委員会
審査され、日本工業標準調査会(JISC)に送ら
環境・資源循環専門委員会
れて審議される。JISC は工業標準化法に基づい
管理システム規格専門委員会
て経済産業省に設置されている審議会で、工業標
国際専門委員会
準化全般に関する調査・審議を行っている。事務
局は基準認証ユニットであり、JIS の審議、JIS
マーク制度の審議、国際規格の審議などを行って
JIS K**** のように JIS の後の記号「K」で表され
いる。鉱工業分野全般をカバーしているため、個
る。この「K」も化学を意味している。プラスチッ
別分野毎の検討を行う「専門委員会」が設置され
ク製品でも「建築用」
、
「自動車用」
、
「鉄道用」
、
「船
ている。標準部会の下に 26 の技術分野ごとに設
舶用」
、
「電気・電子用」などの分野でも広く用い
置されている「技術専門委員会」及び分野横断的
られている。これらに関わる規格は、それぞれの
に事項を扱う専門委員会として設置されている
技術専門委員会の所掌となり、規格も「K」以外
「環境・資源循環専門委員会」がある。表 2.1 に
の記号の付くものとなる。
技術専門委員会及び分野横断的専門委員会の一覧
規格を制定することは標準化と称される。国内
を記す。本紙で主に取り扱うプラスチック及びプ
標準化及び国際標準化に分けて以下の項で標準化
ラスチック製品の規格は一般的なものは化学製品
について概説する。
の中に分類される。これらに関わる JIS 規格でも
42
第 3 節 試験規格の概要(標準化)
大と商品の流通による新しい展開によって各国家
間で急速に発展したことに依存する。多くの材料
第 3 節 試験規格の概要(標準化)
(ISO および JIS)
や製品の評価技術の発展には、英国(BS)
、ドイ
ツ(DIN)
、フランス(FS)など、欧州の主要国
や米国(ASTM)などでは既に 1 世紀以上の歴
史がある。しかし、わが国のプラスチック関連の
試験規格制定が本格的に始まったのは、第 2 次世
まえがき
界大戦後の 1940 年代の後半であった。しかも当
材料や製品の機能や物性の評価にはさまざまな
初わが国の規格に関する標準化は、すべての規格
試験法がある。大量に生産される商品の安全性、
が国内での使用を意識したもので、国際的な商品
信頼性はこのような商品の共通的な評価方法に
や物資の流通を対象としたものではなかった。
よって守られている。我が国には日本工業規格
わが国の材料や製品に関わる標準化は、現在東
(JIS)がその基本的な役割を担っているもので、
南アジア諸国が実施しているように、国家機関で
これには経済産業省がその任務にあたっている。
ある経産省の依託をうけて日本工業調査会
しかし、このような試験法の基本は国際的に規定
(JISC)が中心となってその任を担っている形と
された国際標準規格(ISO)がその根底となって
なっている(図 3.1)
。このような経緯を受けて
いる。多くの商品が国際的に流通されている中
産業界で不可欠な材料や製品に関する標準化の事
で、今や物流に関わる多くの商品の安全性、信頼
業は、今や先進国では大変珍しく経産省指導に
性については、これがお互いに確認し合える方法
よって実施されている。しかもその具体的な作業
に変って行われなければならない。そのような根
は日本規格協会(JAS)が広い産業分野をカバー
底となっているのが世界的に承認された試験方法
しており、JIS 規格の制定、改正等の重要な事業
であり多くの人々が納得のいく統一されたもので
を実施している。
わが国の標準化事業は 1921 年に始まってお
あることが必要である。
したがって、ここではこのような試験方法の基
り、大正 10 年勅令第 164 号に基づいて工業品規
礎となっている試験規格の根底となっている材料
格統一調査会が設置された。この調査会は、1941
や製品の試験規格の標準化が国際的にどのような
年 ま で に 520 件 の 日 本 標 準 規 格(旧 JES、
仕組みになっており、我が国の JIS がそのような
Japanese Engineering Standards)を制定してい
中で ISO との関係でどのようになっているかを
る。したがって、日本工業調査会(JISC)の創
概説するものである。従来の欧米を中心とした産
設は既にアジア諸国の先陣を切って 100 年近い
業形態に加え、東南アジアの諸外国をはじめ、南
歴史を有している。しかし、プラスチック関連の
米、アフリカなどの産業の急速な発展を考える
JIS 化は産業の発展も遅かったこともあって、鉄
と、今や多くの信頼できる商品の物流にはそれを
保証するための試験規格は重要な位置づけとなっ
ているのである。したがって、ここではこのよう
な試験法の標準化に関わる JIS や ISO の基本的
な仕組みに関して検討する。
3.1 日本工業規格(JIS)と国際規格(ISO)
3.1.1 わが国の標準化事業
世界中で生産される多くの商品が国境を越えて
行き来する中で、このような商品の物性や品質を
保証する試験法は、国際的に通用するものでなけ
ればならない。このような状況の変化は産業の拡
図 3.1 日本工業調査会(JISC)本部の経済産業省
47
第 4 節 試験規格と実製品試験
されている多くの製品を構成する材料の物性が明
確にされていなければならない。そのため一般に
試験方法は製品を構成する材料試験と各種製品に
第 4 節 試験規格と実製品試験
関する実製品試験の 2 つに大別できる。
材料試験は材料強度、材料組成の分析のほか、
プラスチック関連では成形工程における多くの硬
化過程の評価試験などがある。すなわちプラス
まえがき
チックの硬化挙動の評価方法などはその類のもの
一般に流通している商品の品質を保証する試験
である。材料強度関連では材料の強さ、弾性率、
には、材料試験と製品試験がある。多くの商品の
ポアソン比などが主な測定項目であるが、そのほ
機能や物性を調べるには、まずその製品を構成す
か負荷の形態によって、疲労、クリープ、衝撃な
る材料が基本的な物性として大変重要である。製
どのほか材料に発生する応力の緩和特性などの評
品を構成する材料にもその種類は多く、最近では
価方法がある(図 4.1)
。また、材料の組成の分
多くの材料の物性や機能を組み合わせた複合材料
析では多くの素材を組み合わせて構成されるプラ
が広い分野に使用されている。材料の使用にもこ
スチックの内部構造や組織を調べるもので、プラ
のような状況の変化もあって材料試験にも高度な
スチックの物性評価の中では詳細な分析技術が要
試験方法が要求されている。またそのようなこと
求される。このような物性の評価には、さまざま
に加えて一般の人々が実際に使用するものは材料
な測定機器が使用され、精度の高い操作性の良い
ではなく商品の形で実用に供せられているのであ
簡便な機器の開発も重要である。
る。しかし、製品の試験はその種類も多く応用分
製品試験は各種材料で構成されニーズに応じた
野も多岐にわたっている。このような現状を踏ま
各種成形品について、使用状況を想定した製品の
え、多くの商品の評価には材料試験と製品試験が
評価試験が行われる。すなわち材料や製品の使用
行われているが、具体的な製品についての試験は
状況を想定し、その実情に合った試験である。し
その用途も広く、使用する環境も異なっているの
かし、このような試験は使用される製品の負荷状
でその対応も難しい。このような状況に対応する
況を分析し、特に問題となる試験項目について試
ために基本的な試験法として材料試験があるが、
験する方法が一般的である。製品の衝撃試験やク
特に安全性の要求される製品には実製品試験が大
リープ試験などはそのよい例である。大型の製品
変重要な役割を担っている。
ではこれを部分構造に分けて試験する方法など実
情に則したさまざまな方法が広く採用されてい
したがって、ここではこのような一般的な材料
る。
試験や製品試験などに加え、広い範囲で実施され
ている実製品試験の方法やその考え方などの具体
的な手法について検討し、実情に適した試験法を
如何に構築し実用に供していったらよいかを考え
たものである。多くの商品の実製品試験が要求さ
れている中で、如何に試験費用の少ない合理的な
試験法を実製品試験として実用に供するかは大変
重要な問題である。ここではこのようなことに配
慮して、簡便でかつ実用的な実製品試験に主眼を
置いて、材料試験との関わりなどについて検討し
たものである。
4.1 プラスチックの試験方法
材料や製品の品質を保証するためには、実用化
図 4.1 機械的材料試験の負荷装置
53
第 1 章 試験法の概論
したがって、商品の取引の中でも材料や製品の物
性の試験では、このような試験場所の温湿度の設
定は大変重要なこととなっている。
第 5 節 状態調節
一般にプラスチック製品は金属や無機材料に比
べて低温特性には優れた性質を持っているが、高
温での特性は悪く、その物性が急激に低下するも
のが多い。たとえば熱可塑性プラスチックなどで
まえがき
は、高温で溶融や溶解して粘弾性的特性を示すよ
輸送機関の発達などによって、多くの商品が世
うなものもある。したがって、プラスチック関連
界中の国々の市場に向けて、広い地域に拡大して
の実験では、試験を実施する試験温度や湿度には
いる。かっては輸出品といえば時計やカメラなど
ほかの材料に比べて特に十分な配慮が必要であ
の小型製品に限られていたが、自動車の輸出入な
る。プラスチックは実に温・湿度に敏感な材料で
どもその範疇の商品である。しかし、現在ではこ
ある。
のような商品ばかりでなく日常生活で使用する多
一般にプラスチックは湿気には強いとされてい
くの商品が地球上の広い範囲に拡大していってい
るが、このような状況も試験温度との兼ね合い
る。このような状況を見ても材料や製品の安全
で、その物性は大きく変化する。したがって、プ
性、信頼性を保証するための各種試験法は、その
ラスチックの温湿度に関する耐久試験などでは、
試験法の基本的な試験環境が標準化されていなけ
湿度をパラメータとして温度に対する依存性など
ればならない。特に試験に関わる温度や湿度に敏
が詳細に調べられている。このような実際の試験
感なプラスチック製品にとっては、試験環境の影
では、直接決められた試験環境で材料や製品を試
響は大きい。このような材料や製品の試験環境に
験するのではなく、ある一定期間標準状態に試験
関わる基本的なもとして、試験温度、試験湿度な
体を保管して、安定した試験条件で実験を開始す
どが国際規格(ISO)によって規定されている。
ることが規定されている。そのため具体的には標
プラスチックの物性試験には温度や湿度に関わる
準状態に一定の期間試験体を保管して状態調節を
環境試験などの影響などについては事実多くの試
行い、できるだけ試験体には試験環境の影響を与
験方法が実施されている。このようなこともあっ
えないような配慮が必要である。このような方法
て、プラスチック関連の試験方法では試験環境の
で極力試験環境の影響を排除することで、標準的
標準化は大変重要なこととなっている。
な物性を測定するような処置がとられている。特
ここではこのような試験方法の基本となってい
に我が国のような湿気の高い高温多湿地域では、
る試験環境の基本的な規定を中心に ISO や JIS
試験を実施する試験室は常時標準状態に調整し
など規格の内容について検討し、その重要性と必
て、実際の試験では試験環境の影響が極力避ける
要性について説明を加えたものである。そのため
ような配慮がなされている。
ここで取り扱っている試験環境の規定は標準化の
5.1.2 環境と物性
基本的なものとして大変重要な事項である。した
最近の実験室では材料や製品の試験でも単純な
がって、環境の異なった世界各地での試験結果で
機械的特性ばかりでなく、接着剤や塗料など広い
あってもこのような試験環境を標準化すること
範囲の材料物性が調べられている。製品の安全性
で、信頼できる試験環境として広く実用化されて
として接着剤や塗料では大気への VOC の排出量
いるのである。
などが重要な測定項目となっている。このような
物性の大気への放出はまさにこのような試験環境
5.1 状態調節の必要性
に大きな影響を与える試験である。当然このよう
5.1.1 状態調節
な物性の測定には材料や製品の温湿度の依存性も
プラスチック製品は金属や無機材料に比べて特
重要であるので、そのような測定は別に実施され
に試験を実施する試験環境に敏感なものが多い。
るとしても、やはり標準状態における商品の物性
60
第 1 章 試験法の概論
考え方について検討したもので、これからの品質
管理に十分役立出て頂けるものである。
第 6 節 品質管理
6.1 品質の管理と試験法
6.1.1 品質管理
材料や製品を作る過程では、品質の管理は欠か
せない重要な工程である。一般に多くの商品を生
まえがき
産する企業にとっては安定した商品の品質を確保
商品として市場に出すためには信頼できる安全
することは大変重要なテーマである。企業が目指
な商品でなければならない。特に多くのプラス
す効率の良い生産性といっているのは、まさに生
チック製品は使用期間の短いものばかりでなく、
産工程での品質の管理の充実であり、品質管理を
その多くは長期間の使用に耐える耐久商品である
徹底させて無駄のない生産性の向上を目指すこと
といってよい。そのためには、当然商品の一過的
であるといってよい。したがって、生産工程にお
な機能や物性ばかりでは十分に供することはでき
いては、それぞれの組立工程、塗装工程などでの
ない。商品の生産過程においては厳しい生産管
詳細な品質管理を実施することで、信頼性の高い
理、品質管理をすることによって製品の品質は保
安定した製品の生産体制が構築できる。そのよう
証され、安全な商品として生産するための大変重
なことで、生産工程に於ける品質管理は大変重要
要な位置づけとなっている。
な役割を担っている製造企業にとっては、重要な
キーテクノロジーである。
我が国の商品の信頼性はまさにこの生産管理、
品質管理の徹底した体制に依存するものであると
一般に品質管理と呼んでいる内容には、広義と
いってよい。そのためには一定の基準によって決
狭義の考え方がある。まず広義の品質管理は、マ
められた個々の部品の品質管理から始まり、製品
ネジメントとしての品質管理のことを指すもの
の生産管理に至るまでの工程で一定の基準を守る
で、品質マネジメント(Quality Management)
ような基準作りが重要な鍵を握っている。国際規
といっている。このような品質管理は JIS では
格として注目されている ISO9000 などは工場の
「品質要求事項を満たすことに焦点を合わせた品
質マネジメントの一部」と定義している。
生産管理、品質管理に関する基本的な工場の生産
一方、狭義の品質管理は、生産コントロールと
体制をチェックする手段として世界的に規定され
しての品質管理(Quality Control)のことを指
ている国際的な制度である。
ここではこのような状況の中で、生産管理に関
すものである。JIS ではその内容を「品質保証行
わる各種商品に関する品質管理とそれに係わる試
為の一部をなすもので、部品やシステムが決めら
験法などについて検討するものである。一般に品
れた要求を満たしていることを、前もって確認す
質管理はその一定の手法に従って規定されている
るための行為」と定義している。
もので、品質の管理体制についても一定の基準に
そして、生産現場で「品質管理」と言えば、一
従い標準化されたものとなっている。したがっ
般に狭義の品質管理を指していることが多い。ま
て、そのような具体的な個々の事項について検討
さに生産工程で企業が徹底的に指導している「品
して、少しでも品質管理体制に対する整備を整え
質管理」は、この類のものであり、基本的なこと
て行かなければならない。このような基準に対す
については JIS などにも規定されている。
る対応や整備は企業にとっては大変重要な検討課
品質管理は、JIS Z 8101 においては「買手の要
題であり将来に向けても製品の安全性、信頼性を
求に合った品質の品物又はサービスを経済的に作
高めていくためには大変重要なことでことと考え
り出すための手段の体系」と規定されている1)。
ている。そのためには、個々の部品について詳細
日本の消費者にとってみれば、品質は良くて当
な基準を設けてきめの細かな品質管理を実施する
たり前のことと感じられており、生産現場ではこ
ことが重要であり、ここではこのような具体的な
の要求に応えるために品質管理がより重要となっ
64
第 7 節 データの処理
表 7.1 シングルポイントデータ -成形材料
第 7 節 データの処理
(シングルポイントとマルチポイント)
1 レオロジー特性
ポイントデータから選んでおり、マルチポイント
1.1 メルトマスフローレイト
1.2 メルトボリュウムフローレイト
1.3 熱硬化性樹脂の成形収縮率 平行方向
1.4 熱硬化性樹脂の成形収縮率 直角方向
1.5 熱可塑性樹脂の成形収縮率 平行方向
1.6 熱可塑性樹脂の成形収縮率 直角方向
2 機械的特性
2.1 引張弾性率
2.2 降伏点応力
2.3 降伏点ひずみ
2.4 引張破壊呼びひずみ
2.5 50%ひずみ時引張応力
2.6 引張破壊応力
2.7 引張破壊ひずみ
2.8 引張クリープ弾性率 1hr
2.9 引張クリープ弾性率 1000hr
2.10 曲げ弾性率
2.11 曲げ強さ
2.12 シャルピー衝撃強さ ノッチなし
2.13 シャルピー衝撃強さ ノッチ付き
2.14 引張衝撃強さ
2.15 パンクチャー衝撃試験 最大応力
パンクチャー衝撃試験 最大応力が 50%ま
2.16
で低下するまでのパンクチャーエネルギー
3 熱的特性
3.1 溶融温度
3.2 ガラス転移点温度
3.3 荷重たわみ温度 荷重 1.8MPa
3.4 荷重たわみ温度 荷重 0.45MPa
3.5 荷重たわみ温度 荷重 8.0MPa
3.6 ビカット軟化温度
3.7 線膨張係数 平行
3.8 線膨張係数 直角
データを選んでいる例はない。以下に、データの
3.9
処理に関する規格の詳細について、JIS を中心に
3.10 燃焼性 50W 試験片厚さ hmm
プラスチックの特性を評価するための試験方法
は数多くある。一般的には、評価する目的によっ
て、使用する試験方法をそれらの中から選定して
いる。
JIS 及び ISO 規格では、樹脂間の比較を目的に
したシングルポイントデータ及びマルチポイント
データと呼ばれる 5 つの規格がある。これらの規
格では、樹脂間の比較をするために使う特性及び
その試験方法と試験条件等を規定している。シン
グルポイントデータとは、一つの条件で測定した
一点のデータ(異なる条件で測定した 2 つのデー
タのこともある)
、マルチポイントデータとは、
温度や時間や環境因子などを変えて得られた複数
点のデータのことである。
これらのデータは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹
脂の両方に適用できるとしている。しかし、熱硬
化性樹脂ではほとんど採用されていない。熱可塑
性樹脂では、樹脂を特徴付ける特性とその試験条
件等を規定している。それらの特性は、シングル
燃焼性 50W 試験片厚さ 3mm
3.11 燃焼性 500W 試験片厚さ 3mm
紹介する。
3.12 燃焼性 500W 試験片厚さ hmm
7.1 シングルポイントデータ
現在、JIS には 2 つの規格がある。この 2 規格
はいずれも ISO 規格と技術的内容および規格の
構成が同じである。
(1)JIS K 7140-1(ISO 10350-1)プラスチック-
比較可能なシングルポイントデータの取得及
び提示-第 1 部:成形材料
規定されている項目を表 7.1 に示す。表はプラ
試験方法
JIS
ISO規格
性質
K 7210
1133-1、
1133-2
―
2577
K 7152-4
294-4
K 7161、
K 7162
527-1、
527-2
K 7115
899-1
K 7171
178
K 7111-1、 179-1、
K 7111-2 179-2
K 7160
8256
K 7211-1
6603-1
―
―
11357-3
11357-2
K 7191-1、 75-1、
K 7191-2 75-2
K 7206
306
―
11659-2
C 60695
-11-10
C 60695
-11-20
3.13 酸素指数
4 電気特性
4.1 比誘電率 100Hz
4.2 比誘電率 1MHz
4.3 誘電正接 100Hz
4.4 誘電正接 1MHz
4.5 体積抵抗率
4.6 表面抵抗率
4.7 耐電圧 昇圧法 試験片厚さ 1mm
4.8 耐電圧 昇圧法 試験片厚さ 2mm
K 7201-2
4.9
耐トラッキング性
C 2138
IEC
60250
C 2139
IEC
60093
C 2110-1
IEC
60243-1
C 2134
IEC
60112
5 その他の特性
5.1 吸水率 23℃水中での飽和値
K 7209
5.2 吸水率 23℃相対湿度 50%での平行値
スチックの性質を、レオロジー、機械的特性、熱
的特性、電気的特性、その他の特性にグループ分
けし、記載されている。
5.3
規定している内容は、①試験片の作成と状態調
69
密度
IEC
60695
-11-10
IEC
60695
-11-20
4589-2
K 7112
62
1183-1、
1183-2、
1183-3
第 8 節 再資源化と規格
のプラスチック製品の再資源化のためにリサクル
のための標準化が、少しでもお役に立てられれば
と願っているものである。
第 8 節 再資源化と規格
8.1 プラスチックの再資源化
8.1.1 再資源化の手法
地球資源の大量消費に伴い、石油資源の枯渇は
まえがき
様々な問題を提起している。しかし、資源の再利
多くのプラスチック商品が再資源化を目指し、
用については、これを使用する国民一人、一人の
リサクル製品の開発、活用にさまざまな検討を繰
「意識の向上に加え、これに関連する企業にも真
り広げている。その一例は大量に排出され、消費
剣な対応が望まれている。特に石油資源はプラス
されているプラスチック容器である。PET ボト
チック素材の原料としてなくてはならないもの
ルと呼んでいるこの商品は完全にリサクルできる
で、プラスチック産業にとっても大変重要な問題
商品として生産されているリサイクルプラスチッ
である。バイオプラスチックの開発などをはじめ
ク製品のお手本ともいえる特殊な製品であると
多くの代替プラスチック素材の探索も始まってい
いってもよい。多くのプラスチック製品の中には
るが、石油資源に勝るものはない。したがって、
このような製品ばかりではないが、このような仕
まずは使用済みのプラスチック素材の再資源化は
組みの原点には、製品化における一定の基準作り
大変重要なテーマとなっている。
が大きな牽引力になっているのである。この状況
このような状況を受けて関連の工業会では
を見ても分かるように、これからの商品開発を目
様々な形のプラスチック再資源化の事業展開に一
指すリサイクル商品の開発には、既存のプラス
生懸命である。プラスチックは金属材料や無機材
チック製品になども視野に入れたリサイクル商品
料(セラミックス)などに比べて、再資源化のし
に関する基準作りが大変重要なキーテクノロジー
易い材料である。プラスチックの再資源化は原料
である。まさにプラスチック製品のリサイクルに
の優れた加工性、成形性を活用すれば、使用原料
とっても廃材や廃品の規格化は欠かせない手段で
の原点にまで戻すような必要もない。
プラスチックの再資源化には、ケミカルリサイ
あるといってよい。
ここではこのような状況を踏まえて再資源化の
クルとメカニカルリサイクルの 2 つの方法があ
ためのリサイクル商品に対する製品の設計の考え
る。ケミカルリサイクルはプラスチックの原料に
方、さらにはその具体的な例などについて検討し
まで戻して再利用する方法であるが、ケミカルリ
たものである。多くの商品がリサイクルされてい
サイクルはプラスチックの成形性、加工性を活用
る中でプラスチック製品は他の材料の製品とは異
するもので、これを粉砕・混合をして再利用する
なり、大変成形性に優れた素材であり、メカニカ
方法である。また、プラスチックには熱的性質や
ルリサイクルの容易な特殊な材料である。した
成形性などの性質によって熱可塑性プラスチック
がって、このような材料物性を活かした再資源製
と熱硬化性プラスチックとの 2 種類に分けられ
品の開発には、材料の種類や製品の形態で再利用
る。この両者は同じプラスチックであるが、まっ
するメカニカルリサイクルを念頭に置いた使用済
たく異なった性質を持っているため、成形・加工
み製品の再資源化、再利用化の方法が必要である
方法なども異なっている。
と考えている。そのための活用方法を考え、これ
一般に熱可塑性プラスチックは再資源化し易い
を標準化することで、プラスチック大型製品の活
材料と思われているが、これは使用済み材料を原
用はさらに新しい展開が可能であると考えてい
料にまで戻すケミカルリサイクルを視野に入れて
る。そのためには再資源化のための規格化、標準
のことである。熱硬化性プラスチックはその優れ
化を積極的に展開することで、新しい道が拓けて
た物性を活用すればメカニカルリサイクルの容易
いくもの確信している。こうしたことからも将来
にできる優れた材料である。プラスチック系材料
73
第 9 節 技術移転と標準化
していた時代は既に 30 年ほど前のことである。
現地生産、現地販売を原則として、現地での従業
員の活用が重要な産業界での約束となっている。
第 9 節 技術移転と標準化
したがって、今や新興国をはじめ欧米諸国での新
規企業の発展は、まさに技術の輸出入に依存して
いるといってよい。世界中の産業界は実に多くの
材料や製品を大型輸送に依存し、大量の物資の流
まえがき
れは時代の変化と伴に目覚ましい展開を遂げてい
る。
多くの製品が海外で生産され、我が国で使用さ
れている。まさに我が国の生産技術はここ数年の
太平洋を取り囲む周辺諸国の各国の首脳陣が集
間にいとも簡単に、しかも容易に周辺の海外諸国
まって、TPP 協定(環太平洋パートナーシップ
に移転しまっている。その大きな要因には人件費
協定)の締結に懸命な議論を続けているのもこの
の安価な賃金競争が多くの商品の生産基地を急速
ような物流に関わる国際間の取り決めである。将
に新しい生産技術移転といった形で移行していっ
来の産業の展開を考えると、自国の製品ですべて
たのである。特に家内工業的な生産分野がその対
の物資を賄うようなかつての考えは到底考えられ
象となっていたが、最近ではその範囲も広い範囲
るものはない。将来に向けて物資の流通は益々盛
に拡大している。大企業で生産していた多くの電
んになることは誰もが疑わないが、そのようなこ
化製品、スポーツ用品などもその類であり、衣料
とばかりではない。わが国には戦後培われてきた
品に至っては国内生産の商品は特殊な高級商品以
多くの生産技術や各種製品の製造技術がある。技
外は、すべて国産品の姿は影をひそめてしまって
術立国として独り立ちしようといるわが国にとっ
いる。このような状況を考えると、多くの商品の
て、物資の輸出入に加え、このような多くの技術
生産技術に関しても技術移転には一定の標準化、
輸出にはまた従来の生産技術の開発とは異なった
規格化が不可欠かと思っている。製品の品質の確
難しさがある。
生産技術・製造技術にはさまざまなものがあ
保と安心できる商品開発のためにも重要である。
生産技術にしても品質管理から生産管理に至るま
る。化学プラントの多くの技術は原料の製品化に
で、その範囲は広いがこのようなものを標準化し
あり、製造技術の原点である。わが国の逆浸透膜
ていかない限り安全で信頼できる商品の生産には
(OR 膜)を用いた淡水化技術など中近諸国の多
繋がっていかないのではと懸念している。このよ
くの国々が期待している新規な技術である。自動
うな状況の中で、多くの消費者が安心して使用で
車生産技術の中国での急速な発展は、まさに海外
きる商品の国際化には生産技術にもその汎用化を
からの技術輸入によるところが大きいのである。
目指した標準化が必要である。
中国が進めている新幹線の製造技術などその一つ
ここではこのような視野に立って、過去の生産
である。しかもこのような技術の輸出入が従来に
技術などを振り返りながら、新しい技術に対応で
も増して急速に展開されている。まさに現代の科
きる生産技術の標準化を進めるべく、具体的なプ
学技術は技術の移転や移動によって、世界の産業
ラスチック商品の 2、3 の例をここに掲げて検討
界は活発に動き出しており、大きな発展と変化を
した。したがって、これからの新しい標準化を目
遂げているといっても過言ではない。
指す規格化の一環として、このような生産技術に
自動車の生産技術やエレベータの生産技術のほ
ついても新しい展開ができればと、標準化の新し
か、多くの製品や化学製品などの生産技術が海外
い展開として期待しているのである。
に進出している。しかし、海外で生産されている
わが国の技術が安全で信頼できる製品として世界
9.1 産業のグローバル化
中に発展していくためには、その生産技術や製造
わが国の自動車産業が多くの大型船を建造して
技術を管理するための、製造方法や品質管理など
大量の自動車を欧米諸国や東南アジア諸国に輸出
に関する標準化、規格化が必要である。こうした
79
(ひいては生産性)に関係するため結晶化速度を
高める結晶化核剤なども成形性を支配する重要な
因子のひとつである。
概 説
成形加工は、溶かす、流す、形にする、冷やし
て固めるというプロセスから構成される。成形加
工の操作は、高分子物性全般の知識を必要とする
が、成形性に影響が大きいものは、流す、形にす
成形性とは、成形材料と成形機械との相性であ
る工程で、その工程に最も関係するのが高分子の
る。成形方法には押出成形や射出成形、ブロー成
レオロジーであり、
「粘度」である。粘度は、ポ
形など、様々な方法があり、それぞれの方法ごと
リマーの種類、分子量、分子量分布、分岐の状態
に用いられる成形機が異なるため、
「成形性」と
などの高分子鎖のからみ合いに関係する要因に支
一言で言うことは出来ない。さらに細かいことに
配されており、せん断速度に依存して、高分子鎖
なるが押出成形と言ってもシート成形、T ダイ
の配向状態やからみ合いの状態が変わることによ
キャストフィルム製膜、インフレーション法によ
り変化する。さらに粘度は温度の変化による高分
るフィルム製膜、紡糸、延伸、異型押出など、多
子鎖の運動性の変化に依存する。ポリマーアロイ
くのアプリケーションがあり、それぞれの成形方
やコンパウンドの場合はさらに複雑で、マトリッ
法ごとに成形材料に求められる性質が異なると思
クス相と分散相の分散状態や界面の厚さなどの構
われる。
造的要因、マトリックス相と分散相との粘度比、
ここで、成形性が良いとはどういうことなのか
界面張力などの物理的要因、コンポジットの場合
考えてみたい。成形性が良いとは、成形機が安定
は、フィラー、ファイバーの形状や配向のしやす
的に運転できること、成形機の運転条件の範囲が
さ、界面でのポリマーとの接着状態などの要因も
広いこと、長時間に渡りトラブルや不良が起こり
粘度に影響を及ぼす。ポリマーアロイやコンパウ
にくいこと、品質が安定していること、などを挙
ンドなどの不均一系の成形材料は、不均一性によ
げることが出来る。しかしながら、成形性と成形
る材料非線形が見られ、均質系のポリマーでは得
品の物性とは相反する場合がある。例えば、射出
られないような流動性を実現できる可能性があ
成形用材料で流動性を上げると成形品強度が低下
る。
したり、フィルム用材料にて押出成形での流動性
材料のレオロジー的研究は、回転型レオメー
を上げると、延伸性が低下するようなことが起こ
ターやキャピラリー型レオメーターが用いられ、
り、成形性と物性との両立、一次成形性と二次成
・
せん断速度範囲は、γ
~1000s-1 程度である。し
形性との両立が難しい場合もあるので、成形品の
かしながら、工業的生産における成形加工の流れ
要求物性を満たした上で総合的に成形性が良いこ
は非常に早い部分があり、せん断速度が 10000s-1
とが求められる。
にも達することがある。さらに金型やロールで冷
成形性とは、成形機械にとっては、装置の大き
却する場合などは温度変化も激しく、まさに非線
さや最大生産速度、寸法精度、速度精度、温度精
形、非等温で理論の及ばない領域でもある。
度が適切であることと考えられる。樹脂の特性を
しかしながらしかし、そのギャップを埋める研
考慮した機械設計がなされているだけでなく、成
究も行われてきており、ブロー成形性、発泡成形
形機の操作性が優れていることも必要であると考
性、フィルムのネックインと伸長粘度との関係
えられる。また、成形材料にとって成形性は機能
や、射出成形における固化に伴う構造形成と粘度
であり、付加価値である。市販されている成形材
の温度依存性などのメカニズムの説明されるよう
料の目的別グレードは、成形方法や成形品物性に
になってきている。
最適化された材料設計がなされているものと考え
また、冷やして固めるプロセスにおいては、成
られる。
形材料の PVT 特性や流動による分子配向、繊維
射出成形においては、固化のスピードが成形性
配向が成形品の寸法精度に影響を及ぼすので、こ
87
第 1 節 成 形 性
液体状態で、金型に流し込み、融点以下に冷却し
て固化させて、成形品を得ることになる。一方、
非晶性材料は、結晶化しないことから融点は示さ
第 1 節 成 形 性
ず、ガラス転移温度 Tg のみが存在することにな
る。この温度で分子鎖の運動性が変化して、Tg
以上でガラス状態(固体)から、ゴム状態(少し
柔らかい状態)へ変化する。Tg よりも十分高い
はじめに
温度で、ゴム状態から液体状態に変化して、加工
近年、プラスチックに代表される高分子成形加
性が向上する。つまり、非晶性材料の場合、Tg
工部品は最先端デバイスを支える基幹部材とし
よりも十分高い温度で金型に樹脂を流し込み、
て、非常に重要になっている。この材料特性や加
Tg よりも低い温度に冷却することで、固化させ
工技術を良く理解して、新たな「ものづくり」を
て成形品を得ることなる。
展開することが、今後の日本の化学産業、製造産
熱可塑性樹脂の中で、特に高い熱変形温度や高
業に必要不可欠なことは間違いがない。ここで、
強度を示すものを、工業的プラスチックと称し
高分子の成形加工は、いかに「溶かして・流し
て、エンジニアリングプラスチック(略してエン
て・形にして・固める」か、という作業であり、
プラ)やより高い熱変形温度を示すものをスー
これらのプロセスの融合である。各プロセスス
パーエンジニアリングプラスチック(スーパーエ
テージでの最適化があり、材料特性と装置の機械
表 1.1 代表的なプラスチックの分類
特性、高分子の構造形成などを総合的に判断する
熱硬化性プラスチック
必要がある。ここでは、プラスチックの基礎、プ
ラスチック成形加工による成形性と微細表面転写
性ついて述べる。
1.1 身の回りのプラスチック
身の周りには沢山のプラスチック製品が存在す
る。プラスチックとは、厳密な定義では熱可塑性
汎用プラスチック
樹脂(Thermo-plastics)を意味するが、現在で
フエノール樹脂 PF
ユリア樹脂 UF
メラミン樹脂 MF
不飽和ポリエステル樹脂 UP
エポキシ樹脂 EP
ポリウレタン PUR
ポリイミド PI
他
は熱硬化性樹脂も含む様々な高分子材料の一つと
して、身の回りの合成樹脂やその成形品を呼ぶこ
とがある。合成樹脂とは、成形品を目的とした高
分子材料であり、熱可塑性と熱硬化性(Thermo-
分野で用いられる、耐処理膜(ネガ型レジスト)
はこの光硬化性樹脂の一つである。熱可塑性樹脂
には、高分子の結晶化が生じる結晶性と非結晶性
(非晶性)に分けられる。代表的なプラスチック
スーパーエンジニア
リングプラスチック
材料を表 1.1 に示す。一般的には、結晶性材料に
はガラス転移温度と融点(melting point or melting
temperature)が存在し、融点は結晶が融解する
温度で定義される。この融点以上では、結晶性樹
脂は固液の相転移が生じて、融点よりも十分高い
温度にて完全に液体になる。射出成形では、この
89
HDPE
結晶性
低密度ポリエチレン
LDPE
結晶性
ポリプロピレン
PP
結晶性
ポリスチレン
PS
非晶性
ABS 樹脂
ABS
非晶性
アクリル樹脂
PMMA
非晶性
PA
結晶性
その他
エンジニアリング
プラスチック
で硬化する、光硬化性樹脂が存在し、半導体製造
熱可塑性プラスチック
set)に大別される。また、硬化性の樹脂には光
高密度ポリエチレン
ポリアミド
ポリアセタール
POM
結晶性
ポリカーボネート
PC
結晶性
ポリブチレンテレフタレート
PBT
結晶性
ポリエチレンテレフタレート
PET
結晶性
ポリスルフォン
PSU
非晶性
ポリエーテルエーテルケトン
PEEK
結晶性
ポリフェニレンサルファイド
PPS
結晶性
四ふっ化エチレン樹脂
PTFE
結晶性
その他
その他
第 2 章 成形性に関する試験法
(strain)であらわす。変形速度はひずみの時間
微分で表し、ひずみ速度(strain rate)ないしせ
ん断変形の場合はせん断速度(shear rate)とも
第 2 節 レオロジー特性
言う。物質の応答は、物質を変形させるときに必
要な力を面積で除したせん断応力(shear stress)
で評価する。力の方向によって法線応力(normal
stress)も定義される。
レオロジーとは
2.2 理想的な液体と理想的な固体の応答
レオロジーとは物質の流動と変形に対する応答
に関する学問である1)。その役割は 2 つあり、1)
物質のレオロジー応答を理解するには、まず理
材料内部のミクロなダイナミクスの定量化、およ
想的な固体と理想的な液体の挙動から始めるのが
び、2)材料の流動特性の定量化、である。レオ
便利である。
ロジーの論文や研究は大半が 1 の立場であり、そ
理想的な固体はフック弾性体(Hookean body)
こではレオロジーは系のダイナミクスを分析する
である。ひずみと応力は以下のように比例する。
スペクトロスコピーとして使われている。一方、
σ=Gγ
本書ではレオロジーの工学的な応用に主体を置い
⑴ ているので、2 の立場で説明する。1 に関心があ
ここで比例定数 G は剛性率(shear modulus)と
る読者は参考文献 2)を参照されたい。
よばれる物質定数で単位は Pa(パスカル、N/m2)
である。フック弾性体の場合、G は時間変化せず、
2.1 レオロジーを理解するための準備
またひずみの大きさによらない。
レオロジーを理解するには、まずは物質の流動
理想的な液体はニュートン流体(Newtonian
と変形の定量化、および、それに対する物質の応
fluid)である。応力はひずみ速度に比例し、以下
答の定量化を理解する必要がある。一般的な変形
のように書ける
は 2 階のテンソルで記述され、物質の応答も 2 階
σ=ηγ
・
のテンソル量となる3)。しかし材料物性としての
⑵ レオロジーは、多くの場合で単純な変形下で議論
ここで比例定数ηは粘度(viscosity)とよばれる
されるため、テンソル表記は気にしなくともよ
物質定数で単位は Pa sec(パスカルセカンド)
い。特に実験上の利便性から図 2.1 のようなせん
である。ニュートン流体の場合、ηは時間変化せ
断変形下(shear deformation)で議論されるこ
ず、ひずみ速度によらない。粘度から派生して比
とが多い。
粘度、相対粘度、還元粘度、極限粘度などの量が
図に示すように、変形の大きさは上面が動いた
定義される。これらは、ある物質の溶液がニュー
距離を試料の厚みで除した無次元量であるひずみ
トン流体であるとき、溶液の粘度が溶媒の粘度と
どのように異なるか、物質の粘度が溶質の濃度に
試料の厚み
ひずみ
ひずみ速度
応力
どのように依存するか、を評価するためのもの
上面が動いた距離
で、コロイドや高分子の希薄溶液では重要であ
る。本書の範疇ではないので詳しくは触れない。
γ≡ /
2.3 SS カーブとフローカーブ
dγ/d
物質のレオロジー応答を整理する一つの立場
σ≡ /
は、上記 3 節で説明した理想的な固体、理想的な
上面の面積
液体からのずれを評価するものである。このよう
変形に必要な力
な立場で解析する場合に用いられる図が SS カー
ブ(応力ひずみ曲線)およびフローカーブである。
図 2.1 せん断変形下におけるひずみと応力の定義
96
第 2 章 成形性に関する試験法
3.1.2 高分子の溶融粘度
定常状態におけるせん断粘度ηのせん断速度
γ依存性η
(γ)は流動曲線と呼ばれる。高分子
・
第 3 節 流動性の評価方法
・
溶融体に観測される典型的な流動曲線を図 3.2
に例示する。低せん断速度域では、ニュートンの
粘性法則に従い一定のせん断粘度を示す(ニュー
トン領域)
。ニュートン領域の粘度はゼロせん断
粘度η0 と呼ばれ、臨界分子量(からみ合い点間
3.1 溶融粘度
分子量の 2 倍程度)以上では重量平均分子量 Mw
3.1.1 流動様式とレオメーター
の 3.4 乗に比例する。
溶融粘度は成形加工にとって極めて重要な特性
η0 ∝ Mw3.4
であり、その評価は広く行われている。流動様式
によりせん断粘度や伸長粘度に大別されるが、こ
(1)
単純な高分子液体では、ある一定のせん断速度
こではせん断粘度に着目して説明する。
を超えるとせん断粘度はせん断速度とともに低下
せん断粘度はせん断場で測定されるが、そのせ
する(非ニュートン領域)
。このような現象は
ん断流動は一般的に二つの方法で与えることが可
shear thinning と呼ばれ、高分子溶融体で顕著に
能である(図 3.1)
。ひとつは二枚の板の間に流
観測される。非ニュートン領域では分子鎖が流動
体をはさみ、一方の板をもうひとつの板と平行を
方向へ配向し、からみ合い密度が低下する。また、
保ちながら移動する方法である。流体は移動する
からみ合い相互作用が弱くなるため粘度が低下す
板に引きずられて流動を開始することから牽引流
ると考えてもよい。ニュートン領域から非ニュー
と呼ばれている。押出機内では、スクリュー回転
トン領域へ移行するせん断速度の逆数は、系の緩
により樹脂が前方に流れるが、これは牽引流によ
和時間の目安となる。そのため、分子量の高いポ
るものである。流体の流速は移動板に近いほど大
リマーは低せん断速度領域から非ニュートン性を
きくなる。もうひとつは圧力勾配を利用する方法
示す。
であり、流体は圧力の高い方から低い方に流れ
高分子溶融体は、高せん断速度領域で低い粘度
る。このような流れは圧力流と呼ばれ、押出機内
を示すために高速での成形加工が可能になる。換
ではスクリュー先端部からダイ出口までの流れが
言すると、shear thinning の強い樹脂は高せん断
これに相当する。流速は流路の中心付近で最も大
速度での成形が容易になるため、例えば射出成形
きく、管壁ではゼロとなる。牽引流、圧力流のど
では、流動長の長い製品の成型に適する。
図 3.3 に分子量の異なる単分散試料の流動曲
ちらを利用してもせん断粘度は測定可能であるが、
それぞれの特徴を把握しておくことが好ましい。
ニュートン領域
圧力流
壁面の移動によって
流体を流す
圧力差によって
流体を流す
移動板
・)]
log[η(γ
牽引流
非ニュートン領域
ゼロせん断粘度
shear thinning
・]
log[γ
ダイ
図 3.1 せん断流動を与える二つの方法
図 3.2 高分子溶融体の流動曲線
110
第 3 節 流動性の評価方法
(a)
3.3 伸長粘度
(b)
粘弾性体の特徴は、その観測時間や変形の速度
によって弾性的に振る舞ったり、粘性的に振る
舞ったりすることである。もう一つの特徴は、非
ニュートン粘度や法線応力効果、伸長流動下での
(c)
ひずみ硬化性といった非線形性挙動である。実際
3
の成形加工ではこれらが複雑にからみあった挙動
2
となるが、材料の基本的な特性を捉えるにはこれ
1
図 3.15 伸長変形の様式
らを分けて観測する必要がある。ブロー成形、T
ダイフィルム成形、インフレーション成形、発泡
成形など押出成形などにおける自由表面下での流
ネックイン量
ζ
ダイ
動や変形は、いわゆる伸長挙動でありこの挙動を
−軸伸長変形
いかに制御するかが成形性に大きく関わる。これ
らの成形加工において、樹脂が大変形を受けると
高分子鎖の流動配向や樹脂自体の薄肉化により、
ますます変形し易くなる。つまり、望みの形状に
成形することが難しくなる。このような問題を解
決するには、後述の“ひずみ硬化性”
(伸ばせば
チルロール
伸ばすほど、急激に粘度が高くなり変形しにくく
1)
なる性質)を付与することが必要になる 。
平面伸長変形
図 3.16 T ダイフィルムキャストの模式図
材料の伸長変形の様式を図 3.15 ⒜~⒞に示
す。 一 方 向 に 引 っ 張 る ⒜ 一 軸 伸 長(Uniaxial
ロー成形5)や発泡成形6)でも同様の報告がなされ
elongation)
、2 方向に変形をうけて 3 方向すべて
ている。
の 大 き さ が 変 化 す る ⒝ 二 軸 伸 長(biaxial
伸長変形には前述の 3 つの様式があるが、二軸
elongation)
、ある 1 方向の変形が拘束された⒞
や平面伸長は実験的に再現することが難しいので
平面伸長(Planar elongation、純ずり/Pure shear
一般的には一軸伸長変形測定が行われる。まず、
ともいう)変形に分類される。例として、図 3.16
一軸伸長の場合についてひずみと応力について説
に T ダイキャストフィルムの模式図を示す。ダ
明する。伸長ひずみは、せん断ひずみと区別する
イからキャストされたフィルムがチルロールに接
ために記号εで表される。もとの長さがℓ0 のも
触する間にフィルムの幅が小さくなり(ネックイ
のをℓまで一軸方向に伸長したときのひずみの表
ン)
、端部の厚みが大きくなる(エッジビード)
。
し方の一つはコーシーひずみ(Cauchy strain)
この時の変形はフィルムの端では一軸伸長、フィ
εc と呼ばれ、次式で表される。
ルムの中央部は平面伸長に近い。このときのネッ
ℓ-ℓ0 Δℓ
εc= (= )
ℓ0 ℓ0
クイン現象を抑えようとするとこの両者の関係が
2~4)
重要となる
。実験的には一軸伸長粘度の評価
⑴ においてひずみ硬化性を有する方がネックインは
固体の引っ張りなどひずみが小さい場合には⑴
抑えられるとの報告がなされている。また、ブ
式が用いられることが多いが、ひずみが大きくな
119
第 2 章 成形性に関する試験法
方、非晶性では温度上昇と共に固体からガラス転
移点 Tg を経て漸次増加し、溶融液に至るまでほ
第 4 節 圧力-比容積-温度(PVT)
特性
ぼ連続的に増大する。PVT 特性は先述の様に
CAE 加工における金型内溶融プラスチックの比
容積変化に及ぼす圧力挙動および充填、保圧、冷
却挙動を解析するための入力樹脂データーである
事と同時に成形品の“ひけ、そり”解析に至るま
はじめに
でのデーターをカバーする。
PVT 特性はプラスチックスの固体-溶融域にお
図 4.2 は ノ ズ ル か ら 射 出 さ れ た 溶 融 プ ラ ス
ける P
(圧力)
-V
(比容積:密度の逆数)
-T
(温度)
チックの金型内圧力挙動13)を模式図的に示した。
の相関を明らかにするもので、今日プラスチック
同図から、A-F(Ⅰ)は高圧溶融プラスックが金
の 射 出 成 形 加 工 技 術 と し て 定 着 し た CAE
型に充填される充填(Filling)過程、F-B(Ⅱ)
(Computer Aided Engineering)成形加工にお
は溶融プラスチックにさらに圧力を加えて負荷充
1~3)
ける入力樹脂データーとして、流動特性
、熱
填するパッキング(Packing)過程、B-G-C-D
伝導率、熱拡散係数、比熱、熱伝達係数などの熱
(Ⅲ)は冷却(Cooling)過程と云われるもので、
物性4~11)と併せて必要不可欠なデーターである。
B-G は保圧(Hold pressure)
-冷却過程域で、こ
CAE 成形加工の歴史は、イスラエル工科大学
の領域を設けることで高圧を保ちながら先のひけ
の Z. Tadmor らの研究グループが 1974 年に金型
やそり、エアートラップなどの発生を防止する。
内の流動挙動のシミュレーションシステムを開発
G は冷却が進行して固化(Gate freezes)し、ゲー
した時に端を発したと言われている。その後、内
トシールされてノズル側への逆流を止め、C で溶
外国において幾多のシステム研究開発の変遷を経
て今日では優れた国産システムが開発、上市され
Tm
ている。
動、PVT 特性の測定と評価方法、ポリマーアロ
イと複合材の PVT 特性の実測例及び成形加工へ
の活用について筆者の周辺データーを基に述べ
比容積 V
本節においては、充填ポリマーの金型内圧力挙
結晶性
非晶性
る。
Tg
4.1 充填ポリマーの金型内圧力挙動12)
金型内へ射出されたプラスチックの比容積の変
温度 T(℃)
化は加熱による膨張と圧力負荷による圧縮及び冷
図 4.1 プラスチックの大気圧中おける VT 線図
却による収縮に支配される。である。これら圧力
Gate freezes
P、比容積 V、温度 T 三者の相関を示したのが
及び時間 t の関数、V=F(P、T、t)として示
される。しかし、等温・等圧下での測定では時間の
影響は無視できる。
大気圧(P=0)中における結晶性プラスチッ
G
Pressure(p)
PVT 特性で、一般に比容積 V を圧力 P、温度 T
B
クと非晶性プラスチックの典型的 V-T 線図パ
Ⅰ
ターンは概ね図 4.1 に示すように、結晶性の比容
積は温度上昇と共に著しく増加し溶融点 Tm で不
A
連続になり、その後は直線的に漸次増大する。一
Hardening
F
Ⅱ
Ⅲ
Time(t)
C
D
図 4.2 金型内溶融プラスチック圧と時間の関係
122
第 2 章 成形性に関する試験法
第 5 節 成形収縮性
はじめに
プラスチック成形加工において成形品の変形
は、部品の寸法精度低下につながる大きな問題で
(a)箱の内そり変形の例
ある。特に射出成形においては、複雑な 3 次元形
状の成形品を短時間で成形できる特長を有してい
る反面、溶融樹脂を金型内に高温高圧で充填し、
金型内で急速に冷却して成形するため、図 5.1 に
示すようなそり変形等の不良が生じやすい成形法
であり、成形現場および射出成形品のユーザーに
とっては最も関心の高い不良現象の一つである。
これら射出成形品の変形は、樹脂充填後の金型
内冷却時や離形後における樹脂材料の収縮が主要
因であるが、もし、成形品各部が場所によらず均
一に収縮したとすれば、成形品はキャビティ形状
(b)平板の捩れ変形の例
に対して相似形に変形するため、成形品にそり変
図 5.1 射出成形品のそり変形の例
形は生じない。つまり、成形品のそり変形は、金
型内の温度分布や成形品に肉厚の影響など様々な
要因によって収縮が成形品内で不均一なることで
生じる。
寸法精度の高い成形品の成形には、製品設計お
よび金型設計の段階であらかじめ成形品の収縮、
そり変形を考慮に入れた設計が不可欠であり、そ
のためには、成形品の収縮特性を十分把握してお
く必要がある。
L
L0
5.1 成形収縮率の測定
収縮前(キャビティ)寸法
一般的に、収縮は 2 次元的な変形として、そり
収縮後(成形品)寸法
変形は 3 次元的な変形として取り扱われる。その
図 5.2 収縮率の測定方法
ため、成形品の収縮率は 2 次元的な寸法変化から
求めることができる。具体的に図 5.2 に示す長方
る。
形平板を例に説明すると、金型キャビティの長手
方向の寸法(L0)と実際の成形品の長手方向の寸
法(L)を測定し、式⑴に代入することで成形品
の長手方向の収縮率(S)を求めることができる。
L0-L
S
[%]
= ×100
MS
⑴ 同様に成形品の幅方向の各寸法を測定すること
上記の方法は、成形品長手方向または幅方向全
で、成形品の幅方向の収縮率も求めることができ
体の寸法変化から収縮率を求めているが、実際の
128
第 2 章 成形性に関する試験法
・JIS K7140-1:2008(プラスチック-比較可能
なシングルポイントデータの取得及び提示)
・JIS K7141-1:2006(プラスチック-比較可能
第 6 節 試験片の作製
なマルチポイントデータの取得及び提示)
同一試験片(多目的試験片)
、同一試験片作成
法、同一試験法、同一試験条件の適用が可能とな
り、異なる樹脂においても同一土俵における樹脂
1995 年以前は、樹脂の種類が異なると独自の
特性の比較が可能となった1)。
試験片、成形条件、評価条件が存在することがあ
り、異なる樹脂間の物性等比較評価を行うことが
本節においては試験片の作成方法ということで
出来なかった。
射 出 成 形 法(JIS K7152-1)
、 圧 縮 成 形 法(JIS
樹脂の種類が異なっていても、同一試験片、同
K7151)
、 機 械 加 工 に よ る 試 験 片 の 調 製(JIS
一成形条件、同一評価条件を適用し、用途に応じ
K7144)を概説する。
た樹脂の選択を可能にし、樹脂使用者の便宜を図
試験片作成における成形、加工法の関係を判り
やすく示したものが図 6.1 である。
るという目的の下、ISO 規格の翻訳版である以下
の JIS 規格が発行された。
・JIS K7139:2009(プラスチック-試験片)
6.1 射出成形法3)
・JIS K7152-1:1999(プラスチック-熱可塑性
6.1.1 用語の定義
プラスチック材料の射出成形試験片)
・金型温度:
・JIS K7151:1995(プラスチック-熱可塑性プ
シ
ステムが操作条件において熱的平衡状態に達
ラスチックの圧縮成形試験片)
した時点で、金型を開いた直後に測定する金型
・JIS K7144:1999(プラスチック-機械加工に
キャビティ表面の平均温度。
よる試験片の調製)
・溶融樹脂温度:
更に以下 2 つの規格適用により、
パージショットの溶融樹脂の温度
・溶融樹脂圧力:
圧縮成形
射出成形
板
タイプ A1
機械加工
タイプ A2
成
形工程におけるスクリュー先端部のプラス
成形板又は
製品
チック材料にかかる圧力
・保 圧:
機械加工
保圧時間の間の溶融樹脂圧力
・成形サイクル:
(図 6.2)
ダンベル型試験片
成
形工程で一組の試験片を成形するのに要する
タイプ A2
機械加工 タイプ B1
タイプ B2
タイプ B3
タイプ A3
タイプ B3
操作の全工程
・サイクル時間:
短冊型試験片
成
形サイクルを完結させる一連の操作を行うの
に必要な全時間
プレス板又は
製品
射出成形
・射出時間:
ス
クリューが前進を始める瞬間から、射出工程
から保圧工程に切り替わるまでの時間。
機械加工
タイプ D1
・冷却時間:
射
出工程の終了から、金型が開き始めるまでの
タイプ D2
時間。
JIS K7152-1 の場合、保圧時間も冷却時間に含
小形各板
み、一般的に射出成形でいう、保圧終了~型開き
2)
図 6.1 試験片作成における成形、加工法の関係
136
第 2 章 成形性に関する試験法
大 別 し て レ ー ザ ー を 用 い る 方 式 と、CCD や
CMOS 等のカメラデバイスにて撮影された画像
を処理する方式に分けられるが、ここではカメラ
第 7 節 成形品の三次元計測
方式である独 GOM 社を例に取り製非接触三次元
デジタイザーの原理を記す。同社では測定対象物
に縞状パターンを投影する方式を採用している
が、これに既知の測定方式を複数組み合わせ、測
従来、成形品の評価方法はノギス、マイクロ
定データを最適な結果に繋げる独自の測定システ
メータ、ダイヤルゲージなどの測定器を使い、精
ムの開発に成功している。以下に 3 つの方式から
度良く寸法を測り、品質管理に力を入れ成形精度
成る三次元計測システムの測定原理を述べる。
(1)ステレオ法
を高めてきた。これらの測定器は比較的安価で今
も多くの技術者や生産現場で使用されている。但
特徴である左右 2 つの CCD カメラからそれぞ
し、これらの方式では測定担当者のスキルや測定
れ撮影された画像上の任意の位置に対応する画素
器の精度により測定精度、検査結果にばらつきが
を特定し、両カメラ間角度や距離から三角測量の
でることや、検査結果が一元的であることが課題
定理により測定対象物上の三次元座標を算出する
となっている。そこで様々な機能が用意され、三
方式。
(2)フェーズシフト法
次元的な寸法や幾何形状を測定することができる
僅かに幅の異なる縦縞状の明暗パターンをセン
接触式三次元測定器が用いられてきた。
更に近年では、自由曲面を多く含んだ製品の評
サー上プロジェクター部より対象物へ投影し、
価のため三次元デジタイザーとも呼ばれる非接触
π/2 の位相差の移動毎に撮影を行い、表面形状
式での形状測定器が積極的に活用されており、同
により変形した縞の情報を解析する方式。
(3)空間コード化法
機器の高精度化、高速化、低価格化により普及が
進み、CAD データとの比較やリバースエンジニ
数種の投影パターンを同一方向から撮影し、そ
アリング等用途の拡大が進み、寸法測定や解析等
れらの撮影画像を多重レイヤー処理にかけ、画像
にも使用されている。
上のコントラストより「明=0」
、
「暗=1」と 2 進
数へ変換、空間上のエリアをコード化しアドレス
基本的に非接触式での形状計測手法としては、
Camera 1
1
yp
1
xp
Projector Camera 2
φp
x2p
y2p
4step phaseshift
0
90
180
270
φ
2π
φ(
)=arctan
(
180(
90
)− 270(
)− 0(
図 7.1 システム測定原理概念図及び投影パターン
142
)
)
概 説
をする形で需要を喚起してきたため、素材開発者
側が最終製品の強度保証にかかわることも多く。
たとえば、製品設計者側は使用条件を考えた許容
概 説
応力を直接、素材メ−カに要求する。そのため、
力学試験は製品設計者側のみならず素材段階・加
工段階の技術者・研究者も心得ておかなければな
らない技法となる。さらに、製品設計、製造加工、
プラスチックの力学的性質が高次構造により変
素材開発および調達がグローバル化した今日にお
化するため、それらは成形プロセスおよびその条
いて、最新の国際標準化された試験方法とその内
件により変化する。したがって、より良い成形品
容理解は不可欠なものとなっている。
を得るためには、要求される製品性能を反映しか
プラスチックの力学試験の国際標準規格は、プ
つ、形成された構造と対応のある物性パラメータ
ラスチック技術委員会 ISO TC61 SC2 において
を選択し評価することが重要となる。これらこと
討議されている。さらに、最新の規格作成作業は、
の理解していないと、
下記の様に 8 つの作業部会 WG で行われている。
なお、各節は本章で対応するものを示した。
「設計力不足による予期しない破損」
TC61/SC2 会議(力学的性質)
「非効率な設計および材料使用」
WG 1「静的力学特性」
第 1 節~第 4 節
をもたらし、最終製品になるまでの試行錯誤を
繰り返し、時間的な無駄を招き製品開発競争力を
WG 2「硬さ及び表面特性」
第 3 節
失う。したがって、信頼ある製品開発には、材料、
WG 3「衝撃特性」
成形、製品設計に関わるメンバーすべてが、プラ
WG 4「動的力学特性」
第 7 節
スチックの持つ力学的性質に共通した理解が不可
WG 5「温度依存特性」
欠となる。
WG 6「試験片寸法」
第 5 節
WG 7「疲労及び破壊靱性」
第 9 節
他方、鉄鋼材料では、用途、性能別に、たとえ
ば、日本工業規格 JIS に定められた(認定された)
材料の中から、材料選択が可能である。すなわち、
WG 8「データ表示方法」
本章では、この作業部会 WG に対応した ISO
信頼できる強度デ−タベ−スから材料の選定を行
試験規格およびその基本的な考え方詳述するとと
うことができ、素材段階と製品段階で行う内容が
もに、製品設計あるいは新規材料性能評価に必要
明確に分離されている。しかし、プラスチックで
となる試験方法を解説した。
〈栗山 卓〉
は、新しく開発された材料が金属材料などの代替
図 1 プラスチック製品の設計・製造フロー
149
第 3 章 力学的試験法
試験の初めからのつかみ具間距離の増加量で求め
る従来からの定義とともに、②降伏点までの実際
のひずみと降伏点以降の呼びひずみとを足し合わ
第 1 節 引張試験
せる定義も追加となった。また、 場合によって、
試験中に、途中から引張速度を変更しても良いよ
うになった。さらに、 規格全体としては、コン
ピュータによる解析を主眼に置いている。
1.1 引張試験
引張試験は、基本的な物性である引張応力、ひ
はじめに
ずみ、引張弾性率及びポアソン比の数値を求める
プラスチック材料の物理的及び化学的性状は、
ことができるとともに、応力/ひずみ(S-S)曲
製品の設計及び品質管理と密接に関係している。
線図(図 1.1)の様相より、材料の強靭さ、粘り
強さ、脆さなども把握できる。
引張試験は、物理的性状の中で、材料の力学的
1.1.2 試 験 片
試験(機械的強度)の評価方法として、基本的な
引張試験において、信頼性のある測定値を得る
試験である。そのため、多くの製品規格に引用さ
ために、適切な試験片を準備する必要がある。試
れている。
プラスチック材料の引張試験に関する JIS 規格
験片は、樹脂のペレットや粒状物を直接、射出又
は、一般的な原則である通則から始まり、それに
は圧縮成形(JIS K 7152-1、JIS K 7154-1)して
続く他の部は、試験する材料に適用する規格群と
作製する方法及び成形品の板状物から機械加工
なっている(表 1.1)
。
(JIS K 7144)によって切削する方法がある。推
奨試験片は、図 1.2 及び表 1.2 に示すダンベル
以下、規格の概要を示す。
1.1.1 JIS 規格とその概要
形状となっている。試験片を樹脂から直接、射出
この規格は、試験片が破壊又は応力若しくは伸
εtm
εtb εtb
び(ひずみ)が定めた値に達するまで、試験片を
長さ方向に一定速度で引張ったときに、試験片に
σm,σb
かかる力及びひずみを測定する試験方法である。
破壊点
a
対応する国際規格(ISO 527-1 及び ISO 527-2)
が、2012 年に大幅改訂となり、JIS も最新版に制
σb
定 し た。 主 な 変 更 点 は、 標 線 間 距 離 が、 標 準
応力σ
た 50mm も使用可能である。呼びひずみは、①
表 1.1 プラスチック材料の引張試験に関する JIS 規格
規格番号
規格名称
K 7161-1
引張特性の求め方-
第 1 部:通則
ISO 527-1
K 7161-2
第 2 部:型成形、押出成形及
び注型プラスチックの試験条件
ISO 527-2
K 7127
第 3 部:フィルム及びシート
の試験条件
ISO 527-3
K 7164
第 4 部:等方性及び直交異方
性繊維強化プラスチックの試
験条件
ISO 527-4
K 7165
第 5 部:一方向繊維強化プラ
スチック複合材料の試験条件
ISO 527-5
b
σy,σm
75mm となったことである。従来から使用してき
降伏点
σy,σm
破壊点
c
σb
σm,σb
対応国際規格
d
σx
σ2
σ1
ε1ε2
εm εm εm %
εb εy εy
εm
εb
ひずみε
a:降伏がなく、低ひずみ域で破壊する脆い材料、
b、c:降伏を示す材料、
d:大きなひずみ(50%超)域で破壊する柔軟な材料
図 1.1 代表的な応力/ひずみ(S-S)曲線1)
150
第 1 節 引張試験
(1)動作原理
図 1.13,図 1.14 に高速引張試験機の外観と動
作原理の一例を示す。
1.2 高速引張試験
油圧シリンダのアクチュエータを高速サーボ弁
によって制御し、助走冶具を介して試験片に所定
速度で変位を与え、変位計と力検出器で変位と試
はじめに
験力を測定するものである。
(2)主な構成品
1)試験機本体フレーム
シミュレーション技術の向上によって、金属に
比べ破壊挙動の複雑な樹脂系材料についても、各
主に門形フレームが用いられ、アクチュエータ
種解析が製品開発に利用されている。近年では、
が上側または下側に組み込まれている。高速駆動
例えば自動車の衝突や携帯型電子機器の落下と
いった衝撃的事象についての衝撃解析も広く行わ
れるようになり、その技術も向上している1)。
一方、精度の高い衝撃解析には高ひずみ速度に
おける応力ひずみ特性と、その速度依存性を正確
に知ることが重要となる。高ひずみ速度の引張試
験は、ひずみ速度に応じて種々の方法が提案され
ている2)が、その中でひずみ速度 100~103s-1 程
度に適するとされる油圧サーボシステムを用いる
方法は、対応速度範囲の広さ、操作性の良さ、
様々な供試体に対応できる汎用性、といった利点
があり樹脂材料の高速引張試験で最もよく使用さ
れている。従来は、特に高速域で振動ノイズが非
常に大きくなり有用なデータ採取が困難という問
題があったが、近年では改良が進み大幅に振動ノ
イズが削減され、より精度の高いデータが得られ
るようになり、シミュレーションの精度向上に寄
図 1.13 試験機外観例4)
与している3)。
ここでは、主としてこの油圧サーボ式試験機を
変位検出器
用いた高速引張試験について述べる
変位信号
コントローラ
アキュムレータ
1.2.1 試験装置・試験片
油圧サーボ式の高速引張試験機としては、最大
アクチュエータ
N2
ガス
油
10~20m/s 程度の速度で試験可能な専用機が市
制御信号
サーボバルブ
販されている。また、疲労試験に使われる通常の
油圧サーボ式試験機でも 1~2m/s 程度の速度が
助走機構
タンク
出せるものがあるので、必要なジグや計測系を追
加して、ひずみ速度 102S-1 程度の高速引張試験
力検出器
に使用することも可能である。以下に挙げる各構
試験片
成要素の要件は、高速引張専用機のみでなく、こ
P
れら汎用的な油圧サーボ試験機や、他の駆動方式
力信号
油圧源
(電動式、落錘式等)の試験機を用いて高速引張
図 1.14 動作原理4)
試験を行う場合にも有効である。
157
第 3 章 力学的試験法
ポリスチレン
14
応力(psi×10−3)
第 2 節 圧縮試験
はじめに
12
10
圧縮
8
6
引張
4
2
圧縮試験は、引張と圧縮との違いはあるが、引
張試験と同様の内容であり、材料の機械的強度の
0 2 4 6 8 10
評価方法として、一般に利用されている試験であ
15 20
歪(%)
25
30
図 2.1 一般ポリスチレンの引張及び圧縮応力/ひず
る。
み挙動1)
プラスチックの圧縮試験に関する規格は、JIS
K 7181 であり、ISO 604:2002 を基に、2011 年に
改正している。旧版(1994 年版)と比較して、
ひずみをもった延性材料としての挙動を示す。脆
試験方法はほぼ同一である。変更箇所は、繊維強
い材料の引張特性は欠陥及びクラックに非常に影
化プラスチックの繊維長が加工前 7.5mm 以下の
響を受ける。一方、圧縮においては、クラックは、
短繊維に限定して適用するようになったこと、試
応力によって広げられるよりは、むしろ閉じられ
験機の補正を附属書で追加したこと及び表現を見
るため、それ程、影響しない。従って、圧縮試験
直した点である。
は、純粋な高分子の特質を表し、引張試験は材料
中の欠陥の特質を強く表す傾向になる。
織 物 繊 維 強 化 材 料(ISO 3597-3 及 び JIS K
7018)
、繊維強化プラスチック複合材料及び積層
2.2 JIS 規格
品(JIS K 7018)
、硬質発泡材料(JIS K 7132 又
(1)試験方法
は JIS K 7220)又は発泡材料若しくはゴムを用
いたサンドイッチ構造物(JIS K 6254)は、それ
次に、JIS K 7181 の概要を示す。
ぞれ別の規格を引用している。
この規格は、試験片が破壊に至るまで、又は力
若しくは圧縮変形量があらかじめ定めた値に達す
2.1 圧縮試験の概要
るまで、試験片を主軸方向に沿って一定の速度で
圧縮したときに、試験片が受ける力を測定する試
応力/ひずみ曲線は、引張、曲げ及び圧縮の試
験方法である。
験のタイプによって違ったものになる。曲線の最
初の部分は弾性率によって決定されるが、この部
圧縮試験は、基本的な物性である圧縮応力、圧
分でも異なる。圧縮で求められる弾性率は、一般
縮ひずみ、圧縮弾性率を求める。図 2.2 には、代
に、引張弾性率より大きい。
表的な圧縮応力/ひずみ曲線を示す。
試験機は、JIS K 6272 に適合するものであり、
調査した範囲の文献では、利用頻度は、引張試
験が圧倒的に多い。圧縮試験は、発泡、繊維強化、
一般に入手できる。
試験片に力を負荷する加圧板(圧縮試験ジグ)
複合材のような低変形の場合に利用することがあ
る。また、引張試験で脆性破壊(降伏前に破断)
は、平滑な鋼製の板で、2 枚を平行にして、試験
する材料でも、圧縮試験は降伏以降も試験するこ
片に対して、力の作用する方向が垂直にかかるよ
とができ、降伏応力を見積もる手段にもなる。
うにする。
図 2.1 は、ポリスチレンのように、かなり脆い
試験片は、角柱、円柱又は管状で、試験中に座
樹脂の圧縮及び引張の応力/ひずみ曲線を比較し
屈しない寸法とする。座屈する(図 2.3 参照)場
たものである。一般のポリスチレンは、引張では
合には、試験片の形状、寸法を変更する必要があ
脆性破壊となるが、圧縮では降伏点と大きい破壊
る。
162
第 3 章 力学的試験法
曲げ荷重
第 3 節 曲げ試験
試験片上
試験片下
はじめに
圧縮応力
引張応力
図 3.2 曲げ荷重により発生する応力
プラスチックにはさまざまな種類があり、おの
最下面に最大の引張応力がかかるとされている。
おのいろいろな特徴を持つ。プラスチックは金属
と比べ、加工が容易であることもあり、汎用品を
3.2 曲げ試験で使用される特性
中心に広い領域で使用されている。しかし物理的
強さ、化学的強さ、環境強さ等、あらゆる強さ全
曲げ試験で実際に使用される代表的な特性とし
てを兼ね備えているプラスチックは存在しない。
ては、曲げ強さと曲げ弾性率が挙げられる。おの
そのため使用される用途によって、適当な性能を
おのの定義と計算式は以下の通りとなる。
持つプラスチックを選定し、使い分ける必要があ
(1)曲げ強さ
(σfM)
る。この選定に用いられる指標として、力学的特
曲げ応力は、試験片の支点間中央部における外
性があるが、曲げ試験は、その中で引張試験と並
表面上の呼び応力を指す。①の式で表され、単位
んで、最もポピュラーな試験法の一つである。
は MPa である。
3.1 曲げ試験の考え方
① 曲げ応力
(σf)
=3・F・L/2・b・h2
曲げ試験とは、図 3.1 の通り、水平に支えられ
曲げ強さは、試験片が耐えうる最大曲げ荷重の
ている棒の軸線に垂直方向に外力(曲げ荷重)を
際の曲げ応力を指す。②の式で表され、単位は曲
かけることを想定したものである。挙動として
げ応力と同様に、MPa である。
は、外力をかけることで、その棒が湾曲して、変
形(たわみ)を生じる。この棒を材料力学上では、
梁と呼んでいる。土木建築物の橋梁から小さなプ
② 曲げ強さ
(σfM)
=3・FMAX・L/2・b・h2
(2)曲げ弾性率
ラスチック部品まで、外力がかかっている場合に
曲げ弾性率とは、規定された 2 点のひずみεf1
は、何らかの形でこの曲げ荷重がかかっており、
=0.0005、εf2=0.0025 に対する応力(σf1、σf2)
さまざまな場で、この考え方の応用ができる。曲
の差を、相当するたわみ(si1、si2)の差で除して
げ試験とは、このように曲げ荷重に対して生じる
算出する。なおここでは割線法での計算式のみを
応力(曲げ応力)と、その変形量(たわみ量)の
記載するが、別に接線法による求め方もあり、樹
関係によって示される力学的性質の一つである。
脂によってはそちらの方法で計算するケースもあ
実際の試験で試験片の中央部分に曲げ荷重がか
る。単位は、たわみは mm、曲げ弾性率は MPa
かることによって発生する力は、図 3.2 のように
である。
考えられている。具体的には、試験片上半分では
実際には、まず試験時に③の式よりたわみを求
圧縮応力が発生し、最上面に最大の圧縮応力がか
める。さらに、それぞれのたわみに対応する曲げ
かる。一方試験片下半分では引張応力が発生し、
応力とひずみから、④の式を用いて、曲げ弾性率
を計算する。
曲げ荷重
③ たわみ(si)
=εfi・L2/6h
=
(σf2-σf1)
(
/ εf2-εf1)
④ 曲げ弾性率(Ef)
図 3.1 曲げ試験とは
168
第 3 章 力学的試験法
がある。樹脂板の衝撃破壊特性に関しては、パン
クチャー試験と呼ばれる弾丸状工具による衝撃打
抜き試験が規定されている(K7211-1、K7211-
第 4 節 せん断試験
2)
。
(3)繊維強化材料の面内せん断
繊維強化樹脂のような材料の異方性を考慮した
せん断特性を評価するには、面内せん断試験とし
はじめに
て、図 4.3~図 4.5 に示すような平板ねじり法に
よる面内せん断弾性率評価試験(K7021)
、A 法
せん断荷重によるせん断降伏強さと剛性率は、
樹脂系材料の基本的な物性であり、繊維強化樹脂
Specimen profile
を含めた異方性の強い物性を扱うことと衝撃脆性
や粘弾性等の動特性を扱う必要があることから、
様々な評価法がある。
Polymer specimen
Cramp
arm 2
Metal holder
4.1 せん断試験法の概要
Cramp arm 1
Force transducer
(1)打 抜 き
日本規格協会の JIS ハンドブック(プラスチッ
1)
ク-Ⅰ、試験)
によれば、代表的な面外せん断試
Vibration
generator
Displacement transducer
図 4.2 非共振法によるせん断振動試験の概要
験として 25.4mm 径の丸穴の打抜きが規定されて
Loading points
いる(K7214)
。図 4.1 に試験装置の概形を示す。
Cross beam
(2)動的試験
Fulcrum
樹脂材の動的機械特性の評価法として、せん断
振動試験(図 4.2、非共振法、K7244-6)
、ねじ
Fulcrum
り振動試験(自由振動法、K7244-2;非共振法、
K7244-7)ならびにレオメータを用いた平行平板
Specimen
の振動による複素せん断粘度試験(K7244-10)
Cross beam
250
170+/−5
D
C
100
100
25.37
3
25.00
=2∼10 mm
(a)A 法一軸引張試験片の形状
25
Test piece
50
40
Specimen Fixture plate Inclined
joint plate
25.40
25(or 50)
A
74
図 4.3 平板ねじり法試験装置の概要
B
(b)B 法斜方固定治具による引張試験
図 4.4 面内せん断弾性率評価試験の概要
図 4.1 丸穴の面外打抜き試験装置
174
第 3 章 力学的試験法
第 5 節 引裂き試験
モードⅡ
(せん断型)
モードⅠ
(開口型)
はじめに
モードⅢ
(引裂型)
図 5.1 引裂きの基本形
引裂き試験は材料や製品の強度を評価する方法
の一つであり、引裂き強度はフィルムやシート等
スリット
にあらかじめ入れたき裂から引き裂くときに要す
引裂き方向
75
ことが重要であり、例えばスーパーのレジ袋の引
裂き強度が必要以上に小さければちょっとしたほ
25
料や製品は用途に応じて適度な引裂き強度を持つ
50
る力や厚さあたりの引裂き力として表される。材
150
つれから簡単に破けてしまうし、パウチの引裂き
強度が大きすぎれば、手で引き裂いて開けること
図 5.2 トラウザー引裂き試験片
が困難になる。
これらの材料・製品の開発や生産管理のために
きによって引裂き強度を測定する試験方法である。
引裂き試験を実施することは非常に重要である。
規格によって定められている厚さの上限は 1mm
同じ材料を用いても、加工方法や形状、引裂き方
であり、軟質材料および硬質材料共に適用でき
向によって引裂き強度は異なるため、必要な情報
る。ただし、材料が試験中に脆性破壊を生じるほ
を得るためには適切な条件設定が必要である。
ど硬い場合や、変形に要したエネルギーが引裂き
以下、JIS 規格に基づいた引裂き試験の方法に
に要したエネルギーに対して無視できないような
ついて説明する。
変形しやすい材料には適用できないとされている。
試料は折り目、しわや曲がりくせなどがないも
5.1 引裂きのモード
のを用い、厚さも均一な部分を用いることが望ま
しい。試験片の形状は図 5.2 とし、試験片の短辺
引裂きのモードとしては図 5.1 に示す三通りの
基本形1)が考えられる。モードⅠは開口型とも呼
の中央から長辺に平行にスリット(切り込み)を、
ばれ、き裂面が互いに離れるような変形をする。
試験片の半分までカッターナイフを用いて入れ
モードⅡはせん断型とも呼ばれ、き裂面が x 軸
る。スリットはよく切れるカッターナイフを用い
(き裂の進展方向)に平行にすべるような変形を
て入れ、スリット先端が R 気味になったりしな
いように注意する。
する。モードⅢは引裂き型とも呼ばれ、き裂面が
互いに z 軸(き裂先端に水平方向)に平行にすべ
引裂き強度は通常、フィルムの MD、TD で異
るような変形をする。これら三つのモードを適当
なるため、それぞれの方向に試験片を切り出す。
に重ね合わせることにより、き裂先端の変形場お
引裂き方向が試料の加工方向に正逆かどうかによ
よび応力場を任意に記述することができる。引裂
り引裂き強度が異なる場合、引裂きの方向が逆に
き試験に用いる試料は一般的に薄肉のフィルムや
なるようなスリットを入れた試験片を用意する
シートであるため圧縮に不安定であり、引張の力
(図 5.3)
。試験片は試験が必要な方向についてそ
で測定できるモードⅠおよびモードⅢで試験される。
れぞれ 5 枚以上の試験を行う。
5.2 トラウザー引裂き法(JIS K 7128-1)
心が引張り方向と平行な同一平面上にあり、試験
引張試験機のつかみ具(チャック)は、その中
中に試験片が滑らないものを用いる。
トラウザー引裂き法は、モードⅢの準静的な引裂
180
第 3 章 力学的試験法
6.1.1 静的試験
接着接合試験には負荷方法によって大きく分け
て次の 2 種類の方法がある(図 6.1)
。
第 6 節 接着・接合試験
① 重合せ試験による引張せん断強さ試験
② 剥離試験による引張強さ試験
接着による接合方法には重合わせ接合(ラップ
接合)と突合わせ接合(バット接合)の 2 つの方
まえがき
法が基本的な接合法となっているので、上記のよ
接着接合は各種部材の組立ラインでは大変重要
うな接着試験方法がその基礎となっている。この
な部分である。一般に金属系部材の接合にはボル
ことは同じ接着剤でも接着面に作用する応力の形
トやリベットなどの機械的接合法が広く採用され
態によって当然接着強さも異なるので、接着強さ
ているが、最近の軽量化を目指すプラスチック系
に関する試験では接着接合の力学的強さの基本的
部材の組立ラインでは接着接合は大変重要な役割
な特性を求めることが重要である。したがって、
を担っている。製品の組み立てラインでの接着接
接着の接着強さに関するデータはこの 2 つの方
合では接着剤の硬化時間が必要であり、そのため
法によってその物性値は表示され、接着剤に関す
生産速度の低下が問題である。しかし、実際には
る多くのパンフレットなどにはこのような特性が
硬化のための加熱炉を用いる方法や硬化速度の速
明記されている。しかもこのような試験は一般に
い接着剤を使用するなどのさまざまな方法が実施
一定の負荷速度の静的試験によって行われるもの
されている。したがって、今や軽量な各種製品の
である。また、このよう試験体を用いて負荷条件
開発には接着接合は不可欠なものであり、製品や
の異なる衝撃、疲労、クリープなどの各種試験な
部材の組み立てラインには多くの接着接合が使用
どの動的試験法などの物性値の取得にも活用さ
されている。
れ、それぞれの用途に応じた試験データとして活
接着・接合に関する力学的試験は各種製品の機
用されている。したがって、ここで取り扱う静的
械的特性の基本的物性であるので、多くの接着試
試験が接着接合の基本的な試験として大変重要な
験方法が JIS や ISO で規定されている。接着接
支持体(試験片材料と
同一の厚さ,同質のもの)
合に関する力学的試験の主なものは、引張せん断
試験と剥離試験に分けられるが、そのほかにも衝
接続部分
撃試験、疲労試験やクリープのほか使用環境に応
25±0.5
じたさまざまな試験が行われる。したがって、こ
つかみ部分
こでは接着接合試験の基本的な試験である静力学
38±1
12.5±0.5
100±0.5
的試験を中心にその概要について検討する。
単位 mm
(a)引張せん断試験片の形状と寸法
6.1 接着接合の力学的試験
接着接合の力学的特性は接着剤を塗布する被着
180 度はく離
T 形はく離
材の種類によってその表面処理方法も異なる。す
試験片つかみ
なわち接着剤の接着強さは被着材の表面処理方法
樹脂材料
により依存する。したがって、JIS や ISO などで
たわみ性
材料
は基本的な被着材については被着材の表面処理方
試験片つかみ
たわみ性材料どうし
又は樹脂材料どうし
法が明記されているので、それを十分理解し活用
することによって、ばらつきのない汎用性の高い
接着強さに関するデータを取得することができる
(b)引張試験(剥離試験)法治具と負荷形態
(180 度剥離) のである。
図 6.1 接着剤の基本的試験方法(静的試験)
186
第 3 章 力学的試験法
うに、エチレン分子の C=C 部の 2 重結合が開い
て n 個結合された長い鎖状分子(-CH2-CH2-)
n
である。n を重合度(degree of polymerization)
第 7 節 クリープ試験
といい、溶融時の流動性や固化時の力学的性質に
重大な影響を及ぼす。鎖状分子の構造の特徴は、
図 7.1 ⒞に示すように、主鎖を構成している-C-
C-C-が一直線上に並んでいないことと、固有の
はじめに
原子価角θを保ちながら、C-C 軸のまわりに熱
エネルギーの力をかりて、かなり自由に回転する
材料に一定の荷重を加え続けると時間の経過と
ことができることである。
ともに変形が増大し、場合によっては破壊に至る
巨大長鎖分子が集合すれば当然、それらの間に
こともある。このような現象をクリープ(creep)
という。各種構造物の設計において長時間負荷後
分子間力が作用するようになる。一般に、分子間
の変形の程度や寿命を評価するために、使用材料
力は巨大分子を構成している化学結合力(共有結
のクリープ特性を把握することは重要である。
合)に比べるとはるかに弱く、温度が高くなると
ここで、CFRP のクリープ特性について考えて
著しく弱められる。高温では、鎖状分子は絶えず
み よ う。CFRP の 強 化 材 で あ る 炭 素 繊 維 は、
形を変え、伸びたり縮んだりして不規則な運動
CFRP の通常の使用温度下ではクリープ現象を示
(ミクロブラウン運動)をする。ところで、分子
さない。一方、マトリックスである高分子材料は、
間力が全くない場合には、各鎖状分子は外力に
たとえ常温下での弾性限度内の小さな荷重によっ
よって互いにすり抜けることができ、変形が進む
てもクリープ現象を示し、これは温度の上昇とと
であろう(図 7.2 ⒜参照)
。しかし、3 次元網目
もに顕著となる。このことから、CFRP は通常の
状高分子(例えばゴム、エポキシ樹脂)では鎖状
使用温度下でもクリープ現象を示すことが容易に
分子の所々が架橋されていて、無制限の変形が起
推測される。高分子材料のクリープに見られる時
こらない(図 7.2 ⒝参照)
。
間や温度によって変化する力学的特性は弾性固体
図 7.3 ⒜は鎖状高分子の温度に対する体積変
と粘性流体の両特性を合わせ持ったものとみなせ
化を示す図である。図中の Tm は凝固(融解)温
る こ と か ら、 こ の よ う な 特 性 を 粘 弾 性
度であり、結晶性樹脂ではこの温度はかなりはっ
(viscoelasticity)と呼んでいる。これは、ある温
きりしているが、アモルファスなものでは明確な
度条件下で塑性変形などの非可逆的変形によって
クリープ現象を示す金属などの力学的特性 1)とは
本質的に異なるので、CFRP を用いた構造物を設
計する際には注意を要する。
H H
H H H
H H H
C C
C C C
C C C
H H
H H H
H H H
(a)
Ethylene
本稿では、まず高分子材料の構造と粘弾性の関
連について簡単に述べ、次いで高分子材料および
(b)
Polyethylene
これをマトリックスとする CFRP のクリープ特
性について述べる。
θ
C1
7.1 高分子材料の構造と粘弾性2)
金属のような結晶性材料はかなり規則正しく配
C2
C3
θ
C4
C'3
列された原子から成り立っているが、高分子材料
は長い鎖状分子ないしは網目状分子の集合体であ
る。ここでは、構造の簡単なポリエチレンを例に
C'4
とって説明する。図 7.1 ⒜はエチレン分子 C2H4
(c)
の構造式である。ポリエチレンは、図 7.1 ⒝のよ
図 7.1 ポリエチレンの分子構造
194
C5
第 3 章 力学的試験法
あるいは変形を試験片に与え、構造物あるいは材
料の応答の測定するために様々な方法が、これま
で提案されている。負荷の与え方により衝撃試験
第 8 節 衝撃試験
方法を次のように分類することができる。
a)振子を衝突させて衝撃負荷を加える試験
図 8.1.1 のように重錘を振子先端に取り付け、
これを衝突させて試験片あるいは構造物に衝撃を
8.1 概 説
加える方法であり、シャルピー衝撃試験、アイ
自動車をはじめとする輸送機器の衝突事故時の
ゾット衝撃試験に代表される方法である。シャル
安全性の問題だけでなく、落下時のモバイル機器
ピー衝撃試験、アイゾット衝撃試験では、シャル
の信頼性の確保などのように、近年、様々な工業
ピー衝撃値などのように靭性と呼ばれる材料特性
分野において衝撃問題が重要となってきている。
を測定するものであり、主に材料の品質管理に使
必ずしも異物が衝突するたけでなく、機械、構造
用されており、JIS K7111、K7110 などの規格が
物自身が床に落下したり、壁面に衝突したり、地
制定されている。また構造物に振子で衝撃を加え
震動のように基礎が動的に変化したりするような
ることで構造物の強度、吸収エネルギを測定する
場合も機械、構造物の衝撃問題に含まれており、
ものもあり、それぞれの業界規格などで規定され
それぞれの条件において機械、構造物の信頼性の
ている方法もある。
確保が求められている。また対象物も、車などの
b)重錘を落下させて衝撃負荷を加える試験
郵送機器だけでなく、大規模なプラントシステム
図 8.1.2 のように振子の代わりに重錘を落下
から、モバイル機器内の基板上のはんだ接合部の
させて試験片あるいは構造物に衝撃を加える方法
ような微小な要素においても耐衝撃性を考慮して
であり、落錘式衝撃試験と呼ばれることが多い。
設計されるようになってきている。このような背
多くは構造物の強度を測定するための衝撃試験方
景のもとに様々な衝撃試験方法が提案されてい
る。
衝撃試験を行う目的として次の 2 つに大別さ
れる。
A 材料の力学的特性の測定
振子
B 機械、構造物の衝撃挙動
項目Aは、動的な負荷が作用したときの材料の
力学的特性、例えば、弾性係数、降伏応力、強度、
応力-ひずみ線図、破壊靭性値、エネルギ吸収特
性などを測定するものである。材料の変形の時間
重錘
試験片
あるいは構造物
図 8.1.1 振子式衝撃試験機
変化を示す指標として、ひずみ速度(単位時間あ
たりのひずみの増加量)がよく用いられ、応力速
度なども使用されることがある。これに対して項
目Bでは、構造物に動的外乱(荷重、変位など)
重錘
が作用したときの構造物の挙動の測定が行われて
おり、過渡振動特性、剛性、強度、破損、衝撃エ
ネルギ吸収特性などを測定し、機械、構造物の衝
試験片
あるいは構造物
撃に対する信頼性の評価が行われる。このとき衝
撃条件の指標として、衝突速度、衝撃エネルギ、
荷重負荷速度などが使用されることが多い。
必要な動的特性を得るために時間変化する荷重
図 8.1.2 落錘式衝撃試験機
200
第 8 節 衝撃試験
8.2 振子型衝撃試験
はじめに
振り子型衝撃試験機は、古くからアイゾット衝
撃試験及びシャルピー衝撃試験が知られている。
試験片として主に使用される素材は、金属及び樹
脂が中心である。両試験方法は、定められた固有
な衝撃試験条件下で試験片の挙動及び規定された
試験片のぜい性またはじん性を評価する目的で使
図 8.2.1アイゾット衝撃
試験図
用される。
近年、なかでも樹脂の物性を評価・分析し、新
図 8.2.2シャルピー衝撃
試験図
たな製品の開発を進めていくことにより、産業界
の発展に貢献できる分野はますます広がってい
には、振り子の持ち上げ角度及び試験片破壊後の
る。例えば最近、LNG(Liquefied Natural Gas)
、
振り上がり角度を、試験機本体に取付けられた目
一般には液化天然ガスと呼ばれる素材名が新聞な
盛板により読み取る。アイゾット衝撃試験方法は
どの報道で頻繁に見られるようになった。LNG
片持ち固定支持であり、支持されていない方を一
は安定的な供給が可能であることに加え、化石燃
定速度で打撃する。シャルピー衝撃試験機は、両
料の中で最も CO2 の発生量が少ないという利点
持ち自由支持であり、試験片の中央をハンマーで
一定速度により打撃する。
(図 8.2.1,図 8.2.2)
をもつ点からも、クリーンエネルギーとして注目
8.2.2 振り子型衝撃試験機の構成要素
されるようになっている。液化天然ガスは約マイ
(1)ハンマーのエネルギー
ナス 162℃という極低温で冷却すると液体に変化
し、気体の状態に比してその体積が約 600 分の 1
ハンマーの容量は、ハンマーの回転軸中心線の
に縮小する性質を持ち、その性質を利用すること
周りのモーメントにより決定される。振り子の質
により、中東諸国等の天然ガス原産国からの大量
量 W と振り子の回転軸中心から重心までの距離
輸送や、大量貯蔵を可能としている。この LNG
Rを別個に測定し、⑴式に代入して算出する。
搬送用の容器の軽量化が実現できれば大幅なコス
E1=WR
(1-cosα)
ト削減が可能となることから、従来の金属素材か
ら樹脂素材へのシフトが検討・開発されている。
この開発のステージにおいては、樹脂の低温状態
⑴ ここに、E1:ハ ンマーの持上げ位置における位
置エネルギー(J)
{ kgf・cm }
での物性評価が欠かせないものとなる。
WR:ハ ンマーの回転軸の周りのモーメ
以下、㈱安田精機製作所の主力製品である、樹
ント(N・m)
{ kgf・cm }
脂素材試験片用衝撃試験機を例にとり紹介する。
α:ハンマーの持上げ角度(°
)
8.2.1 振り子型衝撃試験の原理
実務的には、回転軸中心を支持した状態での重
振り子型衝撃試験機は、振り子の先端についた
心は、ハンマーの打撃点の中心となっているの
衝撃刃が試験片に衝突し、試験片を破壊するとき
で、ハンマーを水平な状態で、振り子の回転軸中
の衝撃エネルギーを、振り子の振り下ろす前の位
心を支持し、その時のハンマーの打撃点の中心に
置エネルギーと試験片破壊後に残された振り子の
かかる鉛直下向きの力を測定する。上記の力の値
エネルギーの差で表し、結果を取得する。実務的
を用いて、エネルギー算出式によりハンマーの持
203
第 3 章 力学的試験法
(2)装 置
図 8.3.1 に装置の概要と表 8.3.2 にストライ
カ及び支持台の組合せについて示す。
8.3 落錘衝撃試験
(3)試験片の形状
一般に、一辺 60±2mm の正方形又は直径 60
±2mm の円形で、厚さ 2.0±0.1mm のものを用
いる。脆性破壊する低い破壊ひずみのプラスチッ
プラスチックの衝撃強度を測定する試験の一つ
クは、一辺 140±2mm の正方形又は直径 140±
であり、試料に錘(おもり)の落下による衝撃を
2mm の円形で、厚さ 4.0±0.2mm のものが望ま
与え、耐衝撃性を評価する。
しい。又は、円形又は角形の試験片を用い、その
寸法は、受渡当事者間の協定によって定め、板圧
現在使用されている試験法は、一つはプラス
は原厚とする。
チックの衝撃特性を評価する方法で、これが一般
的に「落錘衝撃試験」と呼ばれている。試験には、
試験片は、直接成形によるか、板から切り出す
錘を質量一定で高さを変えて落とす方法と、高さ
一定で錘の重量を変える方法がある。現在は、こ
ストライカのガイド
の試験法は殆ど使用されておらず、計装化された
ストライカの保持及び
離脱装置
他の試験方法(高速面衝撃試験等)へ移行してい
る。
他に、厚さが 1mm 以下のフィルム、シートの
衝撃強度を評価する「ダートインパクト試験」、
塗装した塗膜及びシートの衝撃強度を評価する
ストライカ
「デュポン衝撃試験」がある。
半球状ストライカ先端
〈関連規格〉
試験装置の
スタンド
表 8.3.1 に代表的な規格を記載した。
試験片
〈試 験 法〉
試験片支持台
表 8.3.1 に示した規格について、その概略を説
明する。
1)
8.3.1 落錘衝撃試験(JIS K7211-1:2006)
基盤
(1)試験の概要
厚さ 1~4mm のプラスチックの平板試験片の
一定条件下における、50%破壊の高さ又は荷重か
振動防止(必要に応じて使用)
ら求めたエネルギーからパンクチャー衝撃特性を
(a)全体図
図 8.3.1 試験装置の例2)
求める。
表 8.3.1 代表的な試験規格
落錘衝撃試験
JIS K7211-1:2006 プ ラスチック-硬質プラスチックのパンクチャー衝撃試験方法 第 1
部:非計装化衝撃試験
対応規格;ISO 6603-1:2000 〈MOD〉、ASTM D3029:1995
ダートインパクト試験
JIS K7124-1:1999 プラスチックフィルム及びシート-自由落下のダー卜法による衝撃試験
方法 第 1 部:ステアケース法
対応規格;ISO 7765-1:1988 〈IDT〉
デュポン衝撃試験
JIS K5600-5-3:1999 塗料一般試験方法-第 5 部:塗膜の機械的性質
-第 3 節:耐おもり落下性
対応規格;ISO 6272-1:2011 〈MOD〉、ASTM D2794-93:2010
208
第 3 章 力学的試験法
試験ボックス
残存速度検出器
衝撃速度検出器
チャンバー
試験体
8.4 高速衝撃試験
加速チューブ
N2
Gas
高速度カメラ
はじめに
モニタリング / データ解析用 PC
材料・構造物に衝撃的な負荷を与えてその特性
高圧窒素ガス
図 8.4.1高速衝撃試験のシステム構成(拓殖大学
笠野研究室)
や挙動を調べることを衝撃試験といい、そのため
に様々な衝撃試験装置が開発されている1)~7)。衝
ス、および高速度写真撮影装置である。
撃試験にあたっては、その目的において想定され
る衝突(衝撃)速度や材料の変形(ひずみ)速度
操作パネル
(1)試験方法
を基にして、適切な試験方法を選択することが重
図において、試験体は専用の治具で固定された
要である。例えば、衝突速度が毎秒数メートルか
状態で試験ボックス内に設置される。このボック
ら数十メートルの比較的低速の衝突現象が想定さ
スは試験体破壊時に飛散する破片に対する安全性
れる場合には、一般に落錘式衝撃試験や振り子式
と同時に高速写真撮影などを考慮した構造になっ
衝撃試験が用いられる。一方、より高速の衝突現
ている。そして、チャンバーに充填された高圧の
象に対しては、高圧ガスの解放エネルギーや爆薬
駆動ガス(窒素ガス)を解放すると、そのエネル
の爆発エネルギーなどを利用する高速衝撃試験が
ギーによって鋼球は発射され、加速チューブ内で
あり、この場合には毎秒数百メートル(時速数百
徐々に加速しながら走行して、前方に置かれた試
キロメートル)以上の衝撃速度を得ることができ
験体に衝突する。このとき、試験体に衝突する直
る。ここでは、先ず、代表的な高速衝撃試験の一
前の鋼球の速度(衝撃速度)は衝撃試験機の加速
つである高圧ガスガン式衝撃試験について、その
チューブ先端近くに取り付けたレーザー速度検出
試験方法と試験機の作動原理、高速衝撃現象を計
器によって測定される。この速度検出器では、2
測・記録するために不可欠な高速度写真撮影装
組の発光/受光センサが 300mm 離れて設置され
置、および高速衝撃特性の評価項目と評価方法に
ている。そして、鋼球がこの間を通過する時間が
ついて述べる。次いで、駆動ガスとして水素やヘ
操作パネルに表示され、これより衝撃速度を算出
リウムなどの軽ガスを用いることによって、毎秒
できる。本試験機で発射される鋼球の速度は操作
数キロメートルの超高速度まで衝撃物体を加速で
パネル上で窒素ガスの圧力を加減することによっ
きる軽ガスガン式超高速衝撃試験についてその概
て調整される。ちなみに、本機では、衝撃速度を
略を説明する。
100m/s(360km/h) か ら 330m/s(1188km/h)
までほぼ連続的に変化させることができる。
8.4.1 高速衝撃試験システムの構築
また、鋼球が試験体を貫通する場合には、貫通
高速衝撃試験を有効かつ効率的に実施するため
直後の鋼球の速度(残存速度)も同時に測定する
には、衝撃試験機本体に、操作・制御装置、試験
必要があり、それは試験ボックス内に設置されて
ボックス、計測・記録装置などを組み込んだ試験
いる残存速度検出器によって測定することができ
システムを構築する必要がある。このため、高速
る。この残存速度の測定にあたっては、その速度
衝撃試験は、低速衝撃試験と比べて、一般に試験
の大きさや試験体材料の種類等によって、貫通後
システムが大型で複雑、かつ高価なものになる。
の鋼球の飛行経路が上下左右に大きく変動して測
図 8.4.1 は、一例として、高速衝撃試験のシス
定できない場合があるので注意が必要である。な
テム構成図である。本システムの基本的な構成要
お、撮影した高速度写真の連続画像上の鋼球の位
素は高圧窒素ガスガン式衝撃試験機、試験ボック
置変化を読み取ることによって残存速度を算出す
212
第 9 節 表面特性
9.1.2 剛球押し込み時の力学応答
弾性体球体同士の接触時に生じる弾性応力分布
を解析モデルは 1882 年に H.Hertz により提案さ
第 9 節 表面特性
れている。このモデルを図 9.1 に示したように、
材料表面(E2 、υ2)に鋼球(E1、υ1、半径 R)
を介して押し込み負荷を与えた硬さ試験に適用す
る。いま、剛球に P の負荷を与えたとき、Hertz
9.1 硬 さ
の接触応力 p は⑴式で与えられる。
9.1.1 硬さ測定
材料の硬さというのは、表面特性の一つではあ
⑴ るが、その性質は、弾性率、降伏強度、降伏伸度
こ こ で、r 2=x 2+y 2、E1、υ1 お よ び E2 、υ2
などのいろいろな力学的性質が関係するものであ
りその計測スケール(寸法)により定義も変わる
はそれぞれの弾性率とポアソン比であり、a は接
力学物性上不確かな物理量でもある。しかしなが
触半径である。
ら、たとえば、
「傷付き性」
「触感」などのような
このときの最大接触応力 Pmax 接触半径 a、弾
実用上重要特性でもあり、様々な測定法がある。
性接触深さδはそれぞれ⑵式⑶式および⑷式で与
硬さを調べる方法は大別して
えられる。
(1)押し込み硬さ
(2)引かき硬さ
⑵ (3)反発硬さ
の三種類がある。
(1)の押し込み硬さは所定の圧
子を材料に押付けてくぼみをつくり、永久変形し
⑶ たくぼみの形状と寸法で材料の硬さを判定するも
ので、⒜ロックウェル硬さ、⒝ブリネル硬さ、⒞
ビッカース硬さ、⒟バーコル硬さ⒠デュロメータ
⑷ 硬さなどとして知られている。
(2)の引かき硬さ
は、所定の圧子で材料面を引っかいたときの傷の
ここで、
深さや幅から硬さを評価するもので、材料表面の
傷つきやすさなどが判断できとされている。この
⑸ 例として、スクラッチ抵抗、ビヤーバム硬さなど
が知られている。
(3)の反発硬さにはショア硬さ
である。
が知られているが、重量落下のはねかえり高さを
測定するもので主にエラストマーの硬さの計測に
用いられている。
この中で、プラスチック材料で JIS 規格化され
υ
ているのは、押し込み硬さだけであり⒜ロック
ウェル硬さ(JIS K 7202-2,ISO 2039-2)とおよ
2α
び⒠デュロメータ硬さ(JIS K 7215)がある。ま
た、 ⒟ バ ー コ ル 硬 さ(JIS K 7060-1、ASTM
D2583)はガラス繊維強化プラスチックのみに適
υ
用されている。なお、引かき硬さは、標準試験法
としては定められていない。
図 9.1 Hertz の弾性接触モデル
219
δ
第 3 章 力学的試験法
的 機 械 特 性(Dynamic Mechanical Properties)
の標準的試験方法について、国際規格を中心に紹
介し、さらに、動的粘弾性特性の測定から可能な
第 10 節 動的機械特性
プラスチックの構造・物性評価について解説す
る。
10.1 標 準的試験方法-国際規格、日本
工業規格
はじめに
プラスチックを、部品、部材、製品として使用
DMA 測定では、試験片に動的ひずみ又は動的
する際に、適切な材料選択と適正な成形条件の選
応力を与え、それらの応答を測定する。振動の方
択が必要であり、このために、高分子素材の構
法、及び応答を測定する方法として、様々なモー
造・物性の理解が重要となる。プラスチックを構
ドがある。大きく分けて、自由減衰振動による減
成している高分子は、粘性と弾性とを合わせもつ
衰振動曲線を解析する方法と強制振動による測定
「粘弾性的」性質を現す。このことから、プラス
とがあり、さらに、後者の強制振動法は、一定周
チックの特性、特に、力学的性質は、環境温度に
波数による非共振法、共振周波数法、共振曲線法
よって大きく変化し、また、時間依存性や変形速
とに分類することができる。
度依存性も示す。
国際規格(ISO)及び日本工業規格(JIS)に
材 料 の 固 体 状 態 で の 動 的 粘 弾 性(Dynamic
DMA に関する試験方法、試験条件を定めた規定
Viscoelasticity)の測定・評価は、新材料の開発
がある。このうち、国際規格としては、ISO 6721
や、材料の構造・物性を知るために、有力な解析
のシリーズ10)があり、12 のパートが制定されて
手段の一つとして利用されてきた。動的粘弾性測
おり、異なる振動モードによる試験方法や解析方
定は、特に、材料の熱的及び力学的性質を知る上
法の詳細が規定されている。また、日本工業規格
で、また、固体構造を知る上で重要な手段の一つ
には、ISO に技術的に整合した規格、JIS K 7244
である。この分野では、測定方法、評価方法を含
のシリーズ11)がある。これらの規格の各パート
めて、多くの先駆的な報告がある1~5)。また、測
(部)を表 10.1 に示した。それぞれ、適用範囲と
定方法や測定事例についても、多くの文献があ
動的機械特性の測定条件、解析方法などが規定さ
4)
、
6~9)
れており、プラスチックの DMA の測定・解析
高分子の構造とレオロジーに関しての先駆的な
に必要で、有用な情報が得られる。
る
。
研究を行っていた九州大学 高柳教授らによって、
このうち、JIS K 7244 第 1 部は、線形粘弾性
2)
1950 年代後半に、直読式力学的 tanδメーター
挙動を示す範囲での硬質プラスチックの動的機械
が開発された。それ以来、直読式動的粘弾性測定
特性試験方法の共通部分について、通則を規定し
器による固体動的粘弾性の温度依存性の測定は、
ている。用語の定義の箇条には、複素弾性率、貯
高分子の構造や材料物性の評価のために広く利用
蔵弾性率、損失弾性率、損失係数などの詳しい説
され、高分子科学の発展に大きく寄与してきた。
明がある。試験片に与える振動モード、変形モー
固体の動的粘弾性測定は、動的機械特性解析
ドによって、求まる弾性率の種類も異なり、各
(Dynamic Mechanical Analysis、DMA)とも呼
パート(部)で規定されている方法の要約が示さ
れている。
ばれ、いくつかの異なる振動モードからなる試験
方法が利用されている。現在、国内外の計測器械
第 2 部では、ねじり弾性率の貯蔵及び損失成分
メーカーが、自動化した各種 DMA 装置を製造・
を温度の関数として求める方法を規定している。
販売している。DMA の技法は、固体構造・物性
ねじり振子装置による 0.1Hz~10Hz における小
の評価のみならず、音響材料や、遮音用材料、制
変形で、自由ねじり減衰振動を解析する。この方
振材料の開発、評価にも利用される。
法では、材料の転移領域(ガラス転移、融解)や
塑性流動の開始温度に関する情報も得られる。
ここでは、固体動的粘弾性測定、すなわち、動
228
第 3 章 力学的試験法
および ASTM D3479/D3479M2)の簡単な概要と、
その他の検討事項について紹介する。
11.1.1 JIS K 7083
第 11 節 疲労試験
JIS K 7083 では試験片の種類と寸法は表 11.2
表 11.1 疲労試験法に関する規格
はじめに
規格番号
プラスチックおよびプラスチック系複合材料
規格名称
JIS K 7082
炭素繊維強化プラスチックの両振り平
面曲げ疲れ試験方法
JIS K 7083
炭素繊維強化プラスチックの定荷重引
張-引張疲れ試験方法
JIS K 7118
硬質プラスチック材料の疲れ試験方法
通則
の破壊の主な原因は疲労であり、プラスチックや
JIS K 7119
硬質プラスチック平板の平面曲げ疲れ
試験方法
プラスチック系複合材料においても疲労強度特性
Standard Test Method for Tension-
ASTM D3479/
Tension Fatigue of Polymer Matrix
D3479M
Composite Materials
は、機械・工業製品として広く採用されるように
なってきた。特に炭素繊維強化プラスチックは、
金属に替わり航空機の一次構造材料として採用さ
れ、自動車への適用など今後益々用途の拡大が期
待される。一方、金属材料における機械・構造物
を適切に評価することは重要である。特に、繊維
強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics:
FRP)の疲労破壊形態は、金属材料に比べて非常
ASTM D6115
に複雑で、層内樹脂割れと呼ばれるマトリックス
クラックや、層間剥離、繊維破断等が相互に作用
し な が ら 進 展 し、 最 終 的 に 破 壊 に 至 る(図
Standard Test Method for Mode I
Fatigue Delamination Growth Onset
of Unidirectional Fiber-Reinforced
Polymer Matrix Composites
Standard Practice for Bearing Fatigue
ASTM D6873/
Response of Polymer Matrix Compos­
D6873M
ite Laminates
11.1)
。そこで本節では、主にプラスチック系複
合材料の疲労における標準試験法と実際に行った
Standard Practice for Open-Hole
ASTM D7615/
Fatigue Response of Polymer Matrix
D7615M
Composite Laminates
疲労試験について紹介する。
11.1 疲労試験規格
試 験 規 格 に は 主 に 日 本 工 業 規 格:Japanese
Industrial Standards(JIS)や American Society
for Testing and Materials(ASTM) 規 格、In­
ternational Organization for Standardization
(ISO)等がある。プラスチックやプラスチック
系複合材料の疲労に関する規格は、表 11.1 に示
す規格が定められている。本節では JIS K 70831)
ASTM D7774
Standard Test Method for Flexural
Fatigue Properties of Plastics
ASTM D7791
Standard Test Method for Uniaxial
Fatigue Properties of Plastics
ISO 8659
Thermoplastics Valves--Fatigue
Strength--Test method
ISO 13003
Fibre-Reinforced Plastics--Determi­
nation of Fatigue Properties under
Cyclic Loading Conditions
ISO 15850
Plastics--Determination of Tension-
Tension Fatigue Crack Propagation
--Linear Elastic Fracture Mechanics
(LEFM)Approach
ISO 24999
Flexible Cellular Polymeric Materials
--Determination of Fatigue by a Con­
stant-Strain Procedure
Flexible Cellular Polymeric Materials
ISO/DIS 3385.2 --Determination of Fatigue by Con­
stant-Load Pounding
図 11.1 FRP 積層板の損傷の概要
236
第 12 節 破壊じん性試験
した。それに対して、プラスチック材料について
は、基礎研究を除けば、破壊じん性試験規格とし
て検討されたのは 1990 年代からである。たとえ
第 12 節 破壊じん性試験
ば、線形破壊じん性試験が ASTM ではじめて規
格化されたのが、1996 年である。他方、非線形
破壊じん性試験である J 試験、EWF 試験の規格
化については、試験データの再現性および信頼性
12.1 じん性とは
に問題を残しているため、ISOTC61SC2WG7 で
20 年近く検討されているが、未だ標準化されて
製品の信頼性、安全性の観点からは、ぜい性破
壊を起こすようなことはできるかぎり避けたい。
材料強度とき裂長さとの関係を図 12.1 に模式的
いない。
に示した。B 材料は、初期強度が大きいがき裂が
12.2 線形破壊力学の基礎
入ると強度が著しく低下する。C 材料はき裂の長
12.2.1 応力集中と応力拡大係数
さに鈍感であるが、元から強度が低いため構造材
材料の中にボイドや切欠きがあるときその周り
料には向かない。この場合、壊れにくい材料とし
の応力状態を考える。この場合の周囲ではこれら
ては A 材料であることがわかる。このように、
が原因となる断面積の減少による応力上昇より、
欠陥のない材料が持つ強度と巨視的なき裂も含む
はるかに大きい応力が発生する。このような現象
欠陥があるときの強度は別に考える必要がある。
を応力集中(Stress concentration)とよび、弾
一般に、このような欠陥に対する抵抗力(壊れに
性力学解析により多くの応力分布が求められてい
くさ)をじん性(Toughness)とよぶ。構造材料
る1)。たとえば、先端半径ρ、楕円孔の長軸、短
としては単に強度および剛性が高いだけでなく、
軸をそれぞれ、2a、2b とする楕円孔を持つ等方
じん性が大きいことも重要となる。
弾性物体である無限遠方板に無限遠方負荷応力を
破壊力学(Fracture mechanics)は、巨視的
σ0 与えると、円孔周りのσy 分布から、楕円孔
なき裂を有した材料のき裂の開始および成長を連
のへりに発生する最大応力σ(
は、
y max)
続体力学により表したものである。これにより、
材料の持つ破壊じん性値を力学試験により得るこ
⑴ とが可能となった。この評価体系は、き裂を含む
で 表 さ れ る。 こ こ で、 応 力 集 中 係 数α
(Stress
ような状態で機器構造物を設計する、いわゆる損
concentration factor)はσ(
/σ0 で定義され、
y max)
傷許容設計方法を生み出し、そのような極限化で
の材料使用となる鉄鋼材料を対象にして試験方法
が考案され、1980 年代には試験規格として定着
⑵ となる。このとき、き裂(Crack)を先端半径ρ
が限りなく鋭くなると定義すると、αは無限大に
発散する。すなわち、き裂をもつ弾性体には無限
に大きな引張応力が発生することになり物理的に
合わなくなる。つまり、応力集中によるき裂材の
力学評価は不可能なことになり、この問題を解決
強度
する新たな力学として破壊力学が提案された。他
方、楕円孔先端から負荷軸に直交する x 方向の応
力σy 分布は、ρ≪a のとき、x の小さい範囲(0
≦r<a)において次式で近似される2)。
き裂長さ
図 12.1 き裂寸法と強度との関係
243
⑶ 第 3 章 力学的試験法
を曲げた際の CAE によるシミュレーション結果
を図 13.1 に示す。
第 13 節 力学的試験における
3 次元計測の応用
開発、設計工程において 3 次元化が進むにつ
れ、実験、評価、品質管理工程においても 3 次元
化が進んでおり、寸法及び形状計測においては 3
次元計測が既に普及している。カメラを用いた光
学 式 3 次 元 計 測 シ ス テ ム(ド イ ツ GOM 社 製
はじめに
ATOS)による計測風景を図 13.2 に、樹脂部品
の計測結果を CAD 寸法と比較し、算出した寸法
コンピューターの高性能化とソフトウェアの機
差分を図 13.3 に示す。
能向上に伴い、1990 年代を境に機械設計分野に
おいてデジタルエンジニアリングが急速に普及し
背景としては 3 次元 CAD、CAM による生産
た。CAD(計算機支援設計)
、CAM(計算機支
品形状の複雑化、計測工数の低減と、取得データ
援生産)に代表されるデジタルエンジニアリング
の上流工程、次ロット生産、他製品設計への
は手作業の代替手段として当初は 2 次元をベー
フィードバックが挙げられるが、CAD、CAM と
スに普及した。一層のコンピューターの高性能
の結びつきが強い寸法及び形状計測において 3
化、小型化、低価格化とソフトウェアの機能向上
次元化が進む一方で、CAE が必要とする材料物
という設備側の背景と、生産品の小型化、軽量化、
性、荷重、ひずみ、変位、応力等の計測において
高機能化、デザイン性の向上、低価格化という
ユーザー側の背景から 2000 年頃を境に 3 次元
CAD、CAM の普及が進みつつある。
本節では力学的試験における 3 次元計測手法
とその目的について述べる。
13.1 3 次元計測の背景
3 次元デジタルエンジニアリングの進歩によ
り、設計検討における妥当性の検証、最適な設計
条件の追及、試作回数の低減等を目的として
CAE(計算機支援工学)によるコンピュータシ
ミュレーションも急速に普及している。風車の翼
図 13.2 ATOS を用いた検査風景
図 13.1 CAE によるシミュレーション結果
図 13.3 ATOS による全領域検査
252
概 説
経緯の違いがある。これが、現在では一本化され
つつある状況である。
一方、電気分野を除く国際的な工業的規格を構
概 説
築 す る こ と で 設 立 さ れ た 民 間 団 体 ISO
(International Organization for Standardization)
も、プラスチックを担当する技術委員会 TC 61
の 中 に、 複 合 材 料 を 担 当 す る 委 員 会(Sub-
本章では、強化プラスチックの試験法、特に力
Committee:SC、現状では SC13)を設けて、力
学的特性の試験法について解説するとともに、最
学特性を中心とする試験法の規格制定に取り組ん
後に最近の新しい話題となっている強化プラス
でいる。ISO では、まず初めにガラス繊維強化プ
チックのリサイクルについても、簡単に説明する
ラスチック(GFRP)の諸規格の制定を行うとと
こととする。まず、試験片の作製方法から入って、
もに、日本の炭素繊維製造企業の熱意を受けて、
次には、強化繊維そのものの試験方法について、
主に炭素繊維そのものの規格の構築が実施され
歴史を追って、ガラス繊維、炭素繊維の順に説明
た。ISO における GFRP の力学特性試験法の確
するとともに、複合材料の最も基本的パラメタで
立は、大まかに言えば一段落したと言える。一方、
ある繊維の含有率と、空洞率の試験法に触れる。
CFRP の強度試験方法については、まだ実施の必
次に、代表的な力学的特性の試験法として、層間
要があるが、国内業界団体の資金不足等の理由か
と面内のせん断試験法について解説する。その次
ら、1990 年代半ばを境に遅滞していた。この事
に面厚試験と層間破壊靱性試験について説明す
態を改善するために、宇宙航空研究開発機構
る。最後に、リサイクルに関する最近の状況につ
(JAXA)の複合材研究開発センターが規格化の
サポートに乗り出し、平成 13 年度から、各種の
いて解説する。
予算を獲得して、複合材強度試験法標準化事業を
まず初めに、強化プラスチックの試験法の代表
実施した。これが発展・継続して現在に至ってい
的な試験規格の沿革について概観を述べる。強化
る。現在では、日本工業標準調査会(JISC)の
プラスチック、特に炭素繊維強化プラスチック
メンバーである、日本プラスチック工業連盟の支
(CFRP)の試験法の規格化について、最も早く
援を受けつつ、ISO の TC61/SC13 での活動を中
組 織 的 に 取 り 組 ん だ の は、ASTM(American
心とし、ASTM との連携・協調を図りつつ、国
Society for Testing Materials)と、複合材料の
際標準化を進めている。
現在、ASTM が国際規格を目指している現状
素材供給メーカーの業界団体 SACMA(Suppliers
of Advanced Composite Materials Association)
を受けて、ISO と ASTM では様々な分野で競争
である。この背景には、航空機構造への CFRP
と協調が行われており、強化プラスチックの試験
の適用のために、Building Block Approach とい
法の分野でも事情は同じである。FRP を対象と
う手法をとることが決定され、その第一段階とし
する ISO/TC-61/SC13 では、ASTM-ISO の戦略
て、材料強度の試験を規格化された状態で行う必
的合意を受けて、先行して ASTM が存在する場
要があったからである。SACMA 規格がまず制
合、ほとんど同等の規格となることが予想される
定されたが、2000 年代初頭に、この団体の消滅
場合には、ISO では規格化しないという方針を
を受けて、ASTM 規格として継承されることと
取っている。
なった。概略の性格としては、SACMA は、航
このように、ASTM と ISO の競争によって、
空機メ ー カ ー や CFRP を中心とした素材メー
政治的な妥協がなされた結果、先行して ASTM
カー、軍・NASA が構造設計の観点から提案し
の規格が存在する場合、ほぼ同一の規格は ISO
た実行的標準試験法を追認する形で規格化して
からは出せない状態である。一方、筆者が経験し
いったのに対し、ASTM は先進複合材料の基礎
た例に見られるように、ASTM の規格は含むが、
的な力学特性の試験法の制定から出発したという
それと異なるものを包含するような場合、ISO と
261
第 1 節 試験片の作製
表 1.2 ISO 1268 シリーズ表題
第 1 節 試験片の作製
1.1 繊維強化プラスチックの製造方法
繊維強化プラスチック製品は種々の産業分野で
幅広く用いられているため、いろいろな方法で製
造されている。繊維強化プラスチックの機械的な
特性は、その製造方法によって異なるため、繊維
強化プラスチックの機械的特性試験のために、そ
の製造方法が規格化されている。繊維強化プラス
チックは、強化繊維とプラスチック樹脂を組合わ
せた材料であるため、製造方法にはこれらの種類
も考慮しなければならない。これらのことを考慮
パート
年号
Part 1
2001 General condition 総則
表題(英文・和訳)
Part 2
2001 Contact and spray-up moulding
接触成形及びスプレーアップ成形
Part 3
2000 Wet compression moulding
ぬれ圧縮成形
Part 4
2005 Moulding of prepregs
プリプレグの成形
Part 5
2001 Filament winding
フィラメントワインディング
Part 6
2002 Pultrusion moulding 引抜成形
Part 7
2001 Resin transfer moulding
樹脂トランスファ成形
Part 8
2004 Compression moulding of SMC and BMC
SCM 及び BMC の圧縮成形
Part 9
2003 Moulding of GMT/STC
GMT/STC の成形
Part 10 2005 Injection moulding of BMC and other
long-fibre moulding compounds - Gen­
er­al prinsiples and moulding of multi­
purpose test specimens
BMC 及びその他の長繊維成形材料の注入
成形-一般原理及び多目的試験片の成形
した規格群がある。JIS では、JIS K 7061 シリー
ズ「繊維強化プラスチック-試験版の作り方」で
あり、この規格は ISO 規格 ISO 1268 シリーズ
“Fibre-reinforce plastics - Methods of pro­
ducing test plates(繊維強化プラスチック-試験
Part 11 2005 Injection moulding of BMC and other
long-fibre moulding compounds - Small
plates
BMC 及びその他の長繊維成形材料の注
入成形-小型板
板の製造方法)
”を基にしている。JIS K 7016 及
び ISO 1268 の規格群をそれぞれ表 1.1 及び表
1.2 に示す。表題は全体の共通部分及びパート番
号を除いて、パート毎に異なる部分だけを記載し
た。表 1.2 では、全 11 部から構成されているが、
JIS では日本国内で良く用いられているものだけ
以下、JIS 規格を中心に規格毎に説明する。
1.2 製造方法の分類(JIS K 7016-1)
を翻訳 JIS 化したために、現状、全 7 部となって
いる。部とパートの番号は一致している。今後、
JIS K 7016-1「繊維強化プラスチック試験板の
必要なものは JIS 化が検討されると思われるが、
作り方-第 1 部:総則」には、繊維強化繊維の構
執筆時点ではそのような動きはないようである。
成成分によって作り方を決定するように規定され
ISO 1268 シリーズは、後藤氏他が一般社団法人
ている。構成成分については、表 1.3 のように強
強化プラスチック協会の協会誌に解説を書いてい
化材、マトリックス、想定される特性のレベル、
るので参考にされたい1~8)。
製造方法に分けて項目が挙げられている。規格と
しては、表のような分類をするしかないが、実際
表 1.1 JIS K 7016 シリーズ表題
パート
年号
第1部
1999
総則
には繊維の種類やマトリクス樹脂の種類によって
表題
その成型方法は大きく異なる。実用的には表に上
第2部
2005
接触圧成形及びスプレーアップ成形
げた構成成分がひとつでも異なる場合には、違う
第4部
2009
プリプレグの成形
作製法であると考える必要がある。また、実際の
第5部
2008
フィラメントワインディング成形
使用目的によって必要とされる製造のレベルが異
第7部
2009
レジントランスファー成形
第8部
2009
SMC 及び BMC の圧縮成形
なるため、これにも注意が必要である。JIS K
7016 シリーズにしたがって作製した試料で試験
263
第 2 節 強化プラスチック試験法
(2)計算式
m
t= ×1000
l
第 2 節 強化プラスチック試験法
t :番手(tex)
m:試験片の質量(g)
l :試験片の長さ(m)
2.1 ガラス繊維
2.1.2 ガラス繊維製品の水分率及び強熱減量2、3)
ガラス繊維は、その不燃性・電気絶縁性・高強
水分率とは、ガラス繊維糸及びガラス繊維で製
度・耐腐食性・断熱性など、ガラス特有の性能が
造されたクロスやマットに含まれている水分率で
評価され、様々な分野で使用されている。特にガ
あり、単位は質量分率(%)で表す。
ラス長繊維は、FRP や FRTP を中心とする複合
強熱減量とは、乾燥した試験片の質量と加熱し
材料の強化繊維として、レジャーボート、浴室製
て除去した集束剤などの有機物の質量との比率の
品、プリント配線基板、住宅建材、自動車部品、
ことであり、単位は質量分率(%)で表す。
精密機械部品など、現代社会に幅広く貢献してい
(1)水分率の測定方法
る。
① 以下の試験片を採取する。
ここでは、ガラス繊維及びガラス繊維製品に関
a)ガ ラス繊維糸の場合、できれば 5g 以上
する特性について、代表的な測定方法や評価試験
の試験片を採取する。
b)ク ロスの場合は、面積が 100cm2 以上の
方法を記載する。
1、
2)
2.1.1 ガラス繊維糸の番手
試験片が採取できる適切な大きさの試料
を切り出す。
番手とは、ガラス繊維糸の単位長さ当たりの質
c)マ ットの場合は、316±1mm、又は 300
量のことである。単位はテックス(tex:g/1 000
±1mm 角以上の試験片が採取できる適切
m)で表す。
な大きさの試料を 3 個以上切り出す。
(1)測定方法
① 糸巻き装置を用い、表 2.1 に示す長さの試
d)チョップドストランド及びミルドファイ
バは、少なくとも 5g を採取する(15~30g
験片を切り取る。
が望ましい。
)
。
② 保持台の上に試験片を置き、マッフル炉に
入れて 625℃±20℃にセットする。試験片が
② 試験片ホルダをピンセットで 105±5 ℃の
マッフル炉に触らないように注意して 20~
乾燥機の中に入れ、取り出した後にデシケー
30 分間加熱する。デシケータ中で放冷した
タに入れる。デシケータから取り出した試験
後に、試験片を 1mg 付近まで量る。ただし、
片ホルダは、0.1mg 以下の単位で計量し記録
水分率(2 項参照)が 0.2%を超えないなら、
する。乾燥前の試験片を計量するために試験
試験は未乾燥のサイズした糸を使用しても
片を切り取り、試験片ホルダの中に入れる。
よい。
試験片と試験片ホルダとを一緒に 0.1mg 以
下の単位で計量し記録する。乾燥後の試験片
を計量するために、試験片の入った試験片ホ
表 2.1 試験片の長さ
ルダを 105±5℃又は選定した温度±5℃の乾
番手(テックス)
試験片長さ(m)
Tt<25
500
25≦Tt<45
200
熱後、試験片の入った試験片ホルダをデシ
45≦Tt<280
100
ケータに移し、室温まで放冷する。試験片ホ
280≦Tt<650
50
ルダと試験片を一緒に 0.1mg 以下の単位で
650≦Tt<2000
10
2000≦Tt 5
計量し記録する。
燥機に入れ、少なくとも 1 時間加熱する。加
267
第 2 節 強化プラスチック試験法
されている。以下、各々の試験方法について要点
を記す。より詳細については JIS 規格を参照いた
だきたい。
2.2 炭素繊維
1)炭素繊維の密度の試験方法
(JIS R7603:1999)
炭素繊維の密度は 1.8g/cm3 前後で、スチール
の 約 1/4 と 軽 い こ と が 特 徴 の 一 つ で あ り、 表
2.2.2 に概要を示す試験方法で測定されている。
2.2.1 ルーチン的試験方法(JIS 規格)
炭素繊維の生産に伴うルーチン的な試験方法
試験方法として、4 つの方法が示されているが、
は、日本工業規格(JIS)や国際標準化機構(ISO)
ルーチン測定に適しているのは「液置換法」と考
1、
2、
3、
4)
規格で規定されている
えられる。
。炭素繊維に関する
JIS の試験方法を表 2.2.1 に示す。炭素繊維の試
2)炭素繊維のサイジング剤付着率の試験方法
験方法に加えて、炭素繊維強化プラスチックなど
(JIS R7604:1999)
炭素繊維は、単繊維が 1,000 本から 50,000 本程
を成形するための高次加工品である炭素繊維中間
度束ねられた繊維束となっている。この繊維束に
基材の試験方法も規定されている。
(1)炭素繊維の試験方法
収束性を与えて取扱性を向上する目的でサイジン
炭素繊維の試験方法に関して、特に重要な、炭
素繊維の強度、弾性率、伸度などの力学的特性は、
通常は JIS R7608:2007「炭素繊維-樹脂含浸ヤー
ン試料を用いた引張特性試験方法」を用いて測定
されている。樹脂含浸ヤーン試料が作りにくい場
合や、研究や技術開発などで強度や弾性率の解析
的な検討を行う場合などには JIS R7606:2000
「炭素繊維-単繊維の引張特性の試験方法」が使用
制定日
R7601:1986 炭素繊維試験方法
(改正)
1986.03.01
R7602:1995 炭素繊維織物試験方法
(改正)
1995.04.01
R7603:1999 炭素繊維ー密度の試験方法
R7604:1999
炭素繊維ー樹脂含浸ヤーン試
2007.01.20
料を用いた引張特性試験方法
定 義
密度:指定された温度(23℃)での物
質の単位体積当たりの質量
適用範囲
サイジング剤を除去した炭素繊維の密
度を測定する 4 方法
基本単位(スプール)当たり少なくと
も 2 個以上の試験片
炭素繊維が平衡状態となる混合液の密
度から求める
B1 法:2 液の混合割合を徐々に変え
B 法:浮沈法
る方法
B2 法:一連の異なる密度既知の混合
液を準備する方法
炭素繊維-単繊維の引張特性
R7606:2000
1999.09.20
の試験方法
R7608:2007
炭素繊維ー密度の試験方法
試験片の体積を大気中及び密度既知
A 法: 液 置 (試験片の密度より少なくとも 0.2g/
換法
cm3 以下)の液中で測定した質量差か
ら求めて、密度を算出する
1999.09.20
炭素繊維-単繊維の直径及び
2000.09.30
断面積の試験方法
表 題
<試験方法> 1999.09.20
R7607:2000
R7603:1999
試験片の数
炭素繊維ーサイジング剤付着
1999.09.20
率の試験方法
R7605:1999 炭素繊維ー線密度の試験方法
JIS 規格番号
試験に先立って、試験片は標準試験雰
試験場所の状態 囲 気(23℃±2℃、(50±5)%RH) 中
調節
に保ち、試験中も装置及び試験片は同
じ条件下に維持する
表 2.2.1 炭素繊維の試験法に関する JIS 規格
JIS 規格番号 表題
表 2.2.2 炭素繊維の密度の試験方法概要
C 法:密度こ 直線的な密度こう配をもつ液管中にお
う配管法
ける試験片の平衡位置から求める方法
炭素繊維ー体積抵抗率の求め
R7609:2007
2007.10.20
方
D 法:比重瓶
比重瓶を用いる以外は、基本的には、
法(ピ ク ノ
液置換法に同じ
メーター法)
炭素繊維及びエポキシ樹脂か
K7071:1988
1988.02.01
らなるプリプレグの試験方法
275
第 3 節 繊維含有率・空洞率
樹脂を使ったもの)
;最低焼成温度以下の温度で
崩壊する無機充てん材を含むもの;については、
ISO 11667“Fibre-reinforced plas­tics - Mould­
第 3 節 繊維含有率・空洞率
ing compounds and prepregs - De­ter­mi­na­tion
of resin, reinforced-fibre and mineral-filler
content - Dissolution methods”
(繊維強化プラ
スチック-成形材料及びプリプレグ-樹脂、強化繊
3.1 繊維強化プラスチックの繊維含有率
維及び無機充てん材含有率の求め方-溶解による
繊維強化プラスチックでは、繊維の含有率がそ
方法)を適用すると良いとの記載がある。ISO
の物性に大きな影響を与えるため、繊維含有率を
11667 に対応する JIS 規格は現在ないので、上に
定量評価する方法が重要となる。部分的な繊維含
挙げられたような材料での繊維含有率を求める場
有率の評価法により、 繊維強化プラスチック成形
合には ISO 11667 の適用も検討すると良い。JIS
品の繊維配向・欠陥の分布の評価にもつながるた
K 7052 は、簡単に言うと、ガラス繊維以外の成
め、この意味でも重要である。現在、繊維含有率
分を焼成で熱分解して除去し、残ったガラス繊維
の則手に関する JIS 規格としては、JIS K 7052
を計量して含有率を求める方法である。方法 A
「ガラス長繊維強化プラスチック-プリプレグ、成
では焼成後に計量し、方法 B では、焼成の後に
形材料及び成形品-ガラス長繊維及び無機充てん
残った残存物中をさらに塩酸で溶解する成分と残
材含有率の求め方」及び JIS K 7075「炭素繊維
る成分に分けることにより、溶解する成分を無機
強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方
充てん材、最後まで残る成分をガラス繊維と考え
法」の 2 規格がある。
て、ガラス繊維及び無機充てん材の含有率を求め
JIS K 7052 は、ISO 1172“Textile glass re­in­
る方法を規定している。附属書にはガラス長繊維
forced plastics - Prepregs, moulding com­
と無機充てん材を分ける方法について、本文に記
pounds and laminates - Determination of the
載されていない別の方法についての情報が記載さ
textile - glass and mineral - filler con­t ent -
れている。繊維含有率を求める方法であるので、
Calcination method”
(織物用ガラス強化プラス
評価したい材料の構成を代表するような試験片を
チック-プリプレグ、成形材料及びラミネート-織
採取することが重要である。あまり少量な試験片
物用ガラス及び鉱物充てん材成分の測定-焼成法)
や局所的に含有率が異なる部分などから採取する
の翻訳 JIS である。タイトルにある通りガラス織
と含有率の誤差につながることになる。規格では
物強化プラスチックのための規格である。この
2~20g 程度の重量で最低 2 個の試験片を用いる
JIS には二つの方法が記載されている。方法 A は
よう規定されている。繊維含有率の分布の評価に
無機充てん材を含まないガラス長繊維の含有率の
規格を利用する場合には、目的に応じて多数の点
求め方であり、方法 B は両方の成分を含む場合
から試験片を採取する必要がある。
JIS K 7075 はタイトルにある通り、炭素繊維
のガラス長繊維及び無機充てん材の含有率を求め
る方法である。適用できる材料としては、ヤーン、
強化プラスチック用の規格である。この規格はエ
ロービング、テープ及び織物からなるプリプレ
ポキシ樹脂と炭素繊維で構成される炭素繊維強化
グ;シートモールディングコンパウンド(SMC)
、
プラスチック(CFRP)を対象としている。JIS
バルクモールディングコンパウンド(BMC)及
K 7075 は、エポキシ樹脂、炭素繊維及び CFRP
びダウモールディングコンパウンド(DMC)
;ガ
の密度の値と、CFRP 中の炭素繊維の質量から繊
ラス長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料;充てん材
維含有率及び空洞率を計算から求める方法につい
を含むもしくは含まないガラス長繊維熱硬化性樹
て規定されている。試験片の質量は 0.2~0.5g、
脂又は熱可塑性樹脂とされている。また、ガラス
試験片の数は 5 個と規定されている。燃焼法で樹
長繊維以外の強化材を含むもの;試験温度で完全
脂部分を除去する方法、硝酸又は硫酸で炭素繊維
に消失しない材料を含むもの(例えば、シリコン
を分解除去する方法で CFRP を処理し、CFRP
283
第 4 章 強化プラスチック試験法
第 4 節 層間剪断試験・面内剪断試験
1
繊維強化プラスチックでは、繊維方向とそれ以
外の方向では、弾性率や強度等の力学物性が大き
2
く異なるため、これらの影響を考慮する必要があ
2
る場合には、取扱に注意を要する。強化繊維織物
を積層した構造を有する積層材では、積層の層間
図 4.1 JIS K 7057 の試験方法
にはマトリクスのプラスチック樹脂だけの層が存
在することになる。この部分に剪断力が生じてい
るような状態での力学挙動については、これを正
方」
、JIS K 7017「繊維強化プラスチック-曲げ特
しく評価できる試験方法が必要になる。また、縦
性の求め方」及び JIS K 7074「炭素繊維強化プ
横に強化繊維が配置されている通常の織物状の基
ラスチックの曲げ試験方法」がある。前の 2 個は、
材を強化材として用いた繊維強化プラスチックで
ISO 178“Plastics - Determination of flexural
は、縦横方向への引張・圧縮等では強化繊維の働
properties” 及 び ISO 14125“Fibre-re­in­forced
きにより変形が起こりにくいが、縦横の繊維と
plastics composites - Determination of flexural
45°方向の剪断変形に対しては、繊維方向に比べ
properties”の翻訳 JIS である。これらの規格と
て変形が起こりやすい構造をしている。この場合
JIS K 7057 では、支持点間の距離 L 及びこれに
の剪断変形に対する力学挙動を調べるためにもそ
伴う試験片長 l が大きく異なっている。
れにふさわしい試験方法が必要になる。前者の層
図 4.1 のように厚さ h、幅 b 試験片に支持点間
間剪断変形に対する試験として層間剪断試験があ
L の中央に F の力を負荷した場合に、曲げ応力
り、後者の剪断変形に対しては面内剪断試験があ
σf は、負荷点の真下の試験片表面で最大となり
る。
3FL
σf= 2bh2
4.1 層間剪断試験
繊維強化プラスチックの層間剪断試験の JIS 規
(式 4.1)
と表される。この時、剪断変形による剪断応力τ
格として、繊維強化プラスチック一般を対象とす
は試験片のどこでも同じで、
る JIS K 7057「繊維強化プラスチック-ショー
3F
τ= 4bh
トビーム法による見掛けの層間せん断強さの求め
方」
、炭素繊維強化プラスチック用の JIS K 7078
「炭素繊維強化プラスチックの層間せん断試験方
(式 4.2)
と表される。上の 2 個の式からσf とτの関係を
法」がある。JIS K 7057 は、ISO 14130“Fibre-
求めると、
reinforced plastic composites - Determination
2h
σf=τ× L
of apparent interlaminar shear strength by
short-beam method”の翻訳 JIS である。この規
(式 4.3)
格は、図 4.1 に示すような板状の試験片に 3 点曲
が得られる。曲げ試験の規格では、3 点曲げ試験
げ負荷を与える試験方法である。プラスチック及
の場合に剪断変形によるたわみの誤差を軽減し、
び繊維強化プラスチックの曲げ試験の規格として
剪断による破壊が生じないように試験片の厚さに
は JIS K 7171「プラスチック-曲げ特性の求め
対する支持点間距離を充分大きく取るように規定
286
第 4 章 強化プラスチック試験法
5.1 鋲螺締結部における面圧破損
2 枚の平板を互い違いに重ねてボルトで締結し
第 5 節 面圧試験/Bearing-Bypass
試験
た例を図 5.1 に示す。
ボルトを通すために板を貫通している孔の径に
対してお互いの間隔が十分に大きいケースで引張
り荷重を付与すると、多くの場合には図 5.2 に示
すようにボルトが板を圧壊させつつ孔が荷重方向
はじめに
に成長していく様な形態で緩やかに破壊が進展す
る。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いた
大型一体構造部品や接着構造部品を採用した航空
しかし、図 5.3 に示すように孔の径に対してお
機が市場に投入され始めている。しかし、重量の
互いの間隔が過度に小さい場合には、孔を相互に
増加や空力的な損失にも拘わらず、21 世紀を迎
連結する様な亀裂が走る形態での急激な分離破断
えた今日においても鋲螺締結が依然として使われ
を呈する。
ているのは、長い使用実績に伴い信頼性が確保さ
航空機の構造では可能な限り軽量であると同時
れており型式証明に伴う認証試験の手順が確立し
に極めて高い安全性が要求されるため、数十年に
ている点、メンテナンスに際して高度な非破壊検
及ぶ運用ライフタイム中に極めて稀に発生するこ
査装置を要さず目視確認が容易である点、金属と
とが予想される、突発的な暴風や乱暴な離着陸に
CFRP の結合部等の異種材料間結合にも柔軟に対
応できる点、等において航空機のライフサイクル
を通した経済性では今だに優位性を維持している
ためである。
しかし、力学的にほぼ等方かつ均一な線形弾性
体であると看做す事が出来る金属板を締結する際
には板厚の 3 倍程度の鋲径を採用して荷重方向
には鋲径の 3 倍、荷重と垂直方向には鋲径の 3.5
倍程度の鋲列を想定すれば良い等 1)、設計者が基
本とすべき汎用性のある関係が明確であるもの
の、複合材料には多くの場合異方性があり、かつ、
必ずしも均質では無いため、汎用性のある締結設
図 5.1 平板のボルト締結
計基準を定める事が困難である。勿論、荷重方向
には鋲径の 4 倍以上かつ荷重と垂直方向には鋲
径の 5 倍以上である鋲列が望ましい等、金属板締
結に類似した関係を設計者向けに整理した例もあ
るものの 2)、複合材主翼の外板部では[
(45/02/
-45/90)
3 45/02/-45/0]
s なる特殊な積層構成が代
表的である等 3)、想定される荷重条件に対して柔
軟にテイラーリングを施す事が可能である複合材
料の利点を発揮させる代償として、汎用性の高い
締結設計則を定める事が困難となることは避けら
れない。そのため、試験や数値解析を適宜実施し
て締結設計の妥当性を検証した上で構造設計を進
める事が必要となる。
図 5.2 締結部における緩やかな圧壊
290
第 4 章 強化プラスチック試験法
裂の周りの力学場は、荷重の方向とき裂の方向と
の関係により、モードⅠ(開口型)
、モードⅡ(面
内せん断型)
、モードⅢ(面外せん断型)の 3 つ
第 6 節 層間破壊じん性試験
のモードの重ね合わせになる。金属材料のような
等方性材料では、き裂が荷重に垂直に配置されて
いるモードⅠでき裂がそのまま荷重に垂直にき裂
の延長線方向に進展することはもちろんである
6.1 複合材料の破壊じん性評価
が、き裂が荷重に垂直でない場合(モードⅡや
材料の評価に破壊力学的手法を用いることは、
モードⅠとモードⅡの混合モードの場合)でも、
構造物の安全性・信頼性を保障するために極めて
き裂は屈曲して荷重に垂直な(モードⅠの)方向
重要である。また、材料や製品開発においてこれ
に進展する1)。そのため、等方性材料では工学的
を用いることにより、過程の簡略化と損傷許容性
には特殊な場合を除いてモードⅠの破壊力学特性
の向上が図れる。そのため、静的な荷重に対する
評価が重要である。一方、複合材料、特に積層構
き裂進展抵抗を破壊力学パラメータで表した破壊
造においては、層間や面内の繊維に沿った方向の
じん性や、疲労き裂伝ぱと破壊力学パラメータの
強度が繊維を破壊させる方向の強度より著しく低
関係を評価することが重要である。
い。そのため、破壊の初期の損傷が繊維に沿った
複合材料に破壊力学的手法を適用する場合、い
方向になるとともに、その後のき裂進展も層間や
くつかの基本的な事項を理解する必要がある。ま
層内の同じ方向になることが多い。そのため、等
ず、破壊力学はあくまで連続体としてき裂の周り
方性材料で一般に評価されるモードⅠ(開口型)
の応力、ひずみの状態を表現するものである。し
以外に、モードⅡ(面内せん断型)
、モードⅢ(面
たがって、複合材料の繊維、樹脂といった微視的
外せん断型)やこれらの混合モードの評価も重要
な構成要素は無視して取り扱う。一方、現実には
である。実用的に材料の選択指針の一つとなって
複合材料は微視構造を有しており、き裂先端の位
いる衝撃後圧縮特性がモードⅡの層間破壊じん性
置と微視構造の関係により、破壊じん性値などは
と良い関係にあることは2)、モードⅠ以外のモー
変化する。特に近年開発された層間高じん化材
ドの評価値が重要視される良い例である。
や、今後の発展が期待されているプリフォームを
破壊力学パラメータとしては、等方性材料では
用いた材料では、特に注意が必要である。
き裂先端の応力特異場の強さを表す応力拡大係数
現在の最新鋭旅客機 Boeing787 や AirbusA350
K を用いることが多いが、層間破壊ではき裂が単
XWB では、構造重量の約 50%、体積では 70%
位長さ進展する際に解放される力学エネルギーを
が炭素繊維強化樹脂(CFRP)を中心とする複合
表すエネルギ解放率 G のほうが求めやすく、一
材料となっているが、これらは主にプリプレグと
般的に用いられる。詳細は省略するが、G は K
呼ばれる薄層を重ねた積層構造で形成されてい
の二乗に比例するパラメータで等価と考えてよ
る。薄層の面内のみ繊維で強化されているため、
い。なお、詳しくは既刊の優れた解説や論文を参
強化されていない面外方向の強度(層間、層内)
照されたい3~7)。
が面内と比べ著しく低い。面内の破壊じん性評価
6.2 モードⅠ試験方法の概要
には通常のコンパクト試験片や片側切欠き 3 点
曲げ試験片が多く用いられる。これに対し、層間
双片持ちはり(DCB、Double Cantilever Beam)
の破壊じん性試験には、複合材料特有の試験法が
試験が用いられる。試験法は JIS K70868)、ASTM
開発されている。本節では、これについて紹介を
D55289)、ISO 1502410)で規格化されている。なお、
する。
JIS には学術的背景や試験手順、データなどの詳
複合材料の破壊力学的評価におけるもう一つの
細な解説書があり、規格本体と併せて参照すべき
特徴は、荷重に対するき裂進展経路が繊維によっ
である。図 6.1 に試験片の模式図10)を示す。この
て拘束されることである。破壊力学によれば、き
うち、⒜の負荷のためのピンを通す穴の開いたブ
298
第 4 章 強化プラスチック試験法
目指すものである。したがって、このような評価
基準については、FRP 産業の再資源化のために
も、将来に向けた基盤造りが必要であり、そのよ
第 7 節 FRP の再資源化
うな実現に多くの関係者は大きな期待を寄せてい
る。
そこで、このようなことを念頭において、本節
では使用済み FRP 製品や工場内で排出される各
まえがき
種 FRP 廃材の再資源化に何らかの形で、活用で
繊維強化プラスチック(FRP)の使用量は増加
きることを願っている。まさに、FRP 産業の発
し、FRP 製品は優れた成形性を生かして大型化
展のために再資源化の標準化は欠かせない重要な
している。使用済み FRP 製品や工場内から排出
事業であり、実現に向けた対応が期待されてい
される FRP の再資源化は益々重要な問題となっ
る。
ている。FRP の大型製品の主なものには、FRP
製小型船舶をはじめ、大型タンク類のほか洗い場
7.1 FRP 製品のリサイクルと試験規格
付き浴槽などがある。これらの製品の排出物は、
7.1.1 再生品化の工程
一般のプラスチック製品に比べてその量は莫大な
プラスチックに限らず金属、無機などの材料や
ものである。かつて使用済み製品の処分には埋め
各種製品のリサイクルは盛んに行われている。今
立て地の埋没材として利用されていたが、そのよ
やリサイクル技術の無い製品は生産の継続・維持
うな場所も少ない。燃料として利用する方法も二
は難しく、将来に向けた大変重要なテーマである
酸化炭素などの排ガスによる温暖化や環境汚染が
といっても過言ではない。一般にリサイクルの方
問題である。このような状況を考えると、FRP
法には原料に戻すケミカルリサイクルと原料の形
製品の再資源化は今や産業界の将来にも影響をし
に戻さなくても中間素材の形で再資源化するメカ
かねない深刻な状況にあるといってよい。
ニカルリサイクルがある1)。この手法はプラス
FRP 再資源化では取集(回収)
、分別、解体、
チックに限ったものではなく、金属や無機材料の
製品化といった過程が必要である。このような過
製品でも同じである。しかし、使用済み材料や資
程で再生品の品質向上を目指し、それが保証さ
源化にためのリサイクルと試験法との結びつき
れ、安全性の高いものにしていかなければならな
は、一体どのような関係にあるのかと思う人々も
い。FRP 再資源化の規格作りはまさにこのよう
多いかと思う。そこでプラスチック系製品につい
な過程での大変重要な評価基準といった役割を
て再資源化の手法について考える。
担っている。
まず資源の有効利用ための再資源化技術には大
使用済み製品の再資源化はこのような過程に一
きく次の 4 つの工程が必要である。
定の基準を設け、使用済み製品の分別、再製品の
① 回収、収集
品質向上に寄与するためのものである。そのため
② 切断、破砕(②の固定まではケミカルリサ
には分別、解体の過程では一定の評価方法と品質
イクル、メカニカルリサイクルも同じ)
の分類基準が不可欠である。このような基準作り
③ 再生材料、製品化のための原料化(②の工
が使用済み FRP 製品の再資源化を加速させ、促
程を経ないで直接製品にするものもある)
進させる原動力となっている。しかし、FRP は
④ 再資源化のための製品化(製品の種類に
現実的にまだこのような段階に至っていない。し
よって異なる)
かし、そのような方向を向けた対応は将来の産業
しかし、③及び④の工程は再資源化の種類、す
の発展のためには是非必要なものであり既に始め
なわちケミカルリサイクルかメカニカルリサイク
られていなければならないことである。
ルかによってその方法は異なる。何れも製品化す
ここではこのようなことを含めて、FRP 製品
るための工程として分けられるが、③と④の工程
の再資源化に向けた評価方法や評価基準の制定を
は再資源化の製品によって異なる。
304
概 説
ろう。
2.熱と温度
概 説
ある大きさの物質に熱エネルギーが入ってきた
時、その物質固有の速度で均一化がおこり、温度
上昇が観測される。熱エネルギーの拡散速度を表
す物性値が熱伝導率であり、熱量と温度上昇との
1.はじめに
関係を示す物性値が比熱容量である。さらに大き
高分子材料と熱の関係は、材料の基礎物性から
なエネルギーが加えられると、融解などの転移、
成形段階・性能発現段階まで目が離せないほど密
吸着成分の離脱や分解が起こる。比熱・転移熱
接である。高分子の特徴は、その成形性の良さに
量・重量減少の測定は、DSC・DTA と TGA が
あることは明らかで、同時に熱に若干弱いという
用いられるが、これらは単位重量当たりで規格化
本質的な問題にもつながっている。このため繊細
する計測法である。一方、熱伝導率や熱拡散率測
な熱物性制御を必要とするが、高分子研究者は、
定は体積(長さ)当たりで規格化される熱物性と
データベースに頼るというよりその都度測定する
なっている。この規格化の違いから、両者はしば
などデータ蓄積に裏打ちされた経験をベースに、
しば独立して論じられるが、材料設計上は同じ熱
成型加工法と材料試験法を開発してきたのであ
的性質に属するものなのである。
る。さらに新材料の開発にともなって、従来の
材料の熱的性質というときこの両者を考える必
データベースや経験に収まらない状況がつぎつぎ
要があるが、熱伝導率λ、熱拡散率α、定圧比熱
と出現することは、測定法の問題がクローズアッ
Cp、密度ρの四つの物性値は、熱の四定数とよ
プすることとなる。
ばれ、
高分子材料は、絶縁体・誘電体として電子材料
λ=α・Cp・ρ
にも多用されるが、特に電子部品の高機能化、高
という関係で結ばれている。
密度化に伴って必然的に発生する放熱や耐熱の問
題が発生する。熱破損を防ぐには速やかに外部へ
このうち密度は、重量当たりの物性から体積当
逃がす必要がある。たとえば照明用ランプの絶縁
たりの物性へ変換する値として作用していること
材料は、セラミックスと相場が決まっていたが、
に留意したい。すなわち、Cp・ρは体積当たり
発熱の少ない LED が開発されると、加工性のよ
の比熱容量を表しているのである。熱伝導と比熱
いプラスチックが注目されたが、元来高分子は、
の両方が関係する物性の一つが、熱浸透率と呼ば
電気絶縁性が高く、同時に熱絶縁性でもある。こ
れるものであり、√
(λ・Cp・ρ)で表される。
こに、絶縁性を残して熱伝導性をあげるという要
物質が熱を吸収する能力を示すもので、熱伝導
求は原理的に難しいことへの挑戦でもある。一方
率、定圧熱容量、密度の三者が関係している。
で、省エネルギーの観点から、高性能断熱材の開
熱伝導率測定、比熱測定(DSC)ともに本書
発も重要である。断熱性は高分子材料に向いてい
の大きな部分を占めているが、材料を正しく評価
る分野とはいえ、耐熱性能と燃焼性の克服に研究
するのに不可欠な物性であるからである。特に複
すべき課題がある。この断熱方面でも、欠点でも
合系の材料となると、単純な加成性が成り立たな
ある耐熱性を改善した樹脂の開発や複合化によっ
いことも多く、実測しなければ性能は評価出来な
て従来のセラミックス系に取ってかわる状況が拡
いこともありうる。また、分解や燃焼などは、よ
大してきている。測定対象は複雑になってきてい
り複雑であり丁寧な計測はもとより、熱伝導性や
る。いずれにしろ、新材料の開発と正しい物性評
比熱など温度上昇に深く関わる物性値を考慮すべ
価は車の両輪にたとえられる。計測技術から言う
きなのではないか。
と、複雑な操作を必要としない迅速な測定を提案
しなければ、現実的ではない点に注意すべきであ
317
第 1 節 熱分析試験
には入力補償 DSC と熱流束 DSC の 2 種がある。
入力補償 DSC が試料と基準物質の温度が等しく
なるように加えられた熱エネルギーの入力差を測
第 1 節 熱分析試験
定するのに対し、熱流束 DSC では試料と基準物
質の温度差を測定しているが、この温度差はこの
ときの単位時間あたりの熱エネルギーの入力差に
比例している。現在の市販の装置は熱流束 DSC
1.1 示差走査熱量測定(DSC)
が多い。図 1.1.2 にそれぞれの DSC 装置の構成
例を示した。図 1.1.3 には DSC を用いた比熱測
1.1.1 DSC の原理と装置
高分子材料や製品の示差走査熱量測定
定の原理図を示した。DSC 信号のシフト量が試
(Differential Scanning Calorimetry;DSC) で
料と基準物質の熱容量の差に比例するため、サ
は、融解、結晶化、ガラス転移、液晶転移、ゾル
ファイアなどの比熱の値が既知の物質の測定値
-ゲル転移、変性、微量共存物の相転移、重合・
(図中の H)と求める試料の測定から得られた値
硬化反応、熱履歴、吸着水・結合水の量・状態、
(図中の h)の比から求めることができる。表
結晶サイズ・配向、ブレンドポリマーの均一性・
1.1.1 には DSC 測定による比熱測定の精度の例
相溶性、加硫、架橋、分子量・補強剤・充填剤・
を温度範囲ごとに示した。サファイアを試料とし
老化防止剤の効果、比熱などの情報が得られる。
て、173~253K 温度範囲では液体窒素気化ガス
DSC は DTA(Differential thermal analysis;示
による冷却、253~323 K では電気冷却を使用し
差熱分析)と同様に“物理的性質”として“試料
た結果である。DSC には高圧下での測定や、X
と基準物質の温度差”を温度の関数として測定す
線回折や FT-IR、ラマン分光との同時測定がで
る技法であるが、DTA との主な違いは得られる
きる装置、紫外線を照射したときの熱の出入りを
熱量に定量性があることであり、比熱の測定も行
測定できる装置もある。図 1.1.4 には X 線回折
なうことができる。プラスチックの測定では
との同時測定の例を示した。DSC の各吸熱ピー
DTA より DSC が多く用いられる。融解・結晶
クと XRD のピークが対応していることがわか
化などの物理的な転移や、熱の出入りを伴った化
る。また一定昇降温速度での測定に加えて、振動
学反応が起これば試料と基準物質の間に温度差が
温度モード(交流温度波、温度変調)を用いる
生じ、これらの変化が終了すれば定常状態に戻
MT-DSC もある。
る。図 1.1.1 に DTA の原理図 を示した。DSC
H
R
温度
S
R
基準
物質
S
試料
H
加熱炉
R
)
温度制御
Δ
増幅器
表示,記録
Δ (
S
−
S
時間
図 1.1.1 DSC、DTA の原理
319
第 1 節 熱分析試験
ハウジング
スケール
光源
ミラー
読み取り拡大鏡
1.2 熱重量測定
ダンパー
気体
電流計
はじめに
パイロ
メーター
熱電対
固体試料を加熱した際の熱分解、昇華、燃焼な
抵抗器
どによる試料の質量減少あるいは酸化や化合など
電気炉
の雰囲気気体との反応による質量増加を、プログ
図 1.2.1 本多式熱天秤の概略図4)
ラムした温度変化(一定温度を含む)のもとで測
示差熱分析(DTA)との同時測定などにおいて
定し、質量変化を温度や時間の関数として測定す
1~3)
る手法を、熱重量測定(TG)という
様々であり、それぞれに特徴的な測定性能を有す
。この手
る。
法は、材料や製品の熱的安定性の評価、材料中の
特定成分の含有率の決定、製造反応プロセスにお
天秤機構として最もシンプルなゼロ位法天秤で
ける適正温度条件の決定など、材料開発から製品
は、天秤ビームの変位を光電変換素子で検出し、
管理にいたる種々の目的で広く用いられている。
変位をゼロ位置に復帰させるための電流を天秤系
さらに、化学反応による質量変化プロセスに対し
に組み込まれたフィードバックコイルに流す。こ
ては、TG の測定結果を用いて反応速度論的な解
れにより、電磁的に常時天秤ビームを水平に保つ
析が可能であり、反応プロセスのモデリングや材
ように制御する。コイルに流した電流値の変化を
料の寿命評価などへの応用も行われている。現在
試料の質量変化曲線に換算する。このような天秤
では、TG での質量減少に伴い発生する気体成分
機構は、吊り下げ型および上皿型の TG 装置に利
を、質量分析や赤外線吸収スペクトル測定により
用されている。試料と参照試料を二つの支点をも
定性的あるいは半定量的に分析する発生気体分析
つ台形型の天秤機構の左右に対称に配置し、試料
(EGA)との複合測定の手法が用いられている。
の質量変化による天秤機構のゆがみをゼロ位法に
これにより、無機、有機、高分子化合物を問わず、
より補正する差動型ゼロ位法天秤も採用されてい
種々の材料の加熱による質量減少プロセスに対し
る。水平型の TG 装置では、試料および参照試料
て、その反応機構の推定に有用な情報が得られる
の天秤ビームをそれぞれ独立にゼロ位法により制
ようになった。
御し、さらに差動型ゼロ位法により二つの天秤
ビームの傾きの違いを補正するために二つあるい
1.2.1 装置の概要
はそれ以上のコイルを天秤機構に配置している。
TG 装置は、質量測定のための天秤部、試料の
その他に、精密分析天秤の質量測定機構を組み込
加熱部、温度・天秤制御部、およびデータ収集部
んだ TG 装置もある。天秤機構の違いにより、感
からなり、熱天秤と呼ばれることもある。1915
度、感量、ベースラインの安定性などに特徴のあ
年に、本多光太郎により開発された本多式熱天秤
る装置となる。精密な質量測定のためには、天秤
(図 1.2.1)が、世界初の TG 装置であるとされ
を恒温に保持することが必要である。このため、
天秤部と試料加熱部の連結部を水冷あるいは空冷
ている。
TG 装置は、国内外の多数のメーカーから市販
により一定温度に保ち、試料の加熱による質量測
されている。市販の TG 装置は、天秤機構、天秤
定への悪影響を軽減する対策が取られている。天
部と試料加熱部の位置関係、試料と温度センサー
秤部全体を恒温とする装置もある。
の位置関係、温度センサーの種類、加熱炉の種類、
天秤部と加熱炉の位置関係としては、吊り下げ
型、上皿型、および水平型の三つのタイプ(図
温度プログラムの種類、雰囲気気体の流通経路、
325
第 1 節 熱分析試験
プローブ
荷重
1.3 熱機械分析(TMA)
Δ
試料
1.3.1 TMA の原理と装置
加熱炉
プラスチックは熱機械分析(Thermomechanical
Analysis;TMA)によって、ガラス転移温度、
線膨張率、軟化温度、熱膨張、熱収縮、針入度、
歪量予測(履歴)などの情報が得られ、動的荷重
熱電対
を用いると応力-歪に関する情報や貯蔵弾性率、
図 1.3.1 TMA の概略図1)
損失弾性率、損失正接(tanδ)などの情報も得
られる。TMA は“物理的性質”として“小さい
荷重のもとでの寸法の変化”
(熱膨張測定)
、
“圧
縮下または伸長下での試料に生じた変形”
(熱機
械分析)を温度の関数として測定する技法であ
る。検出部(プローブ)を交換することで様々な
測定に対応できる。図 1.3.1 に TMA 装置の構
膨張・圧縮
針入
曲げ
引張り
成例を図 1.3.2 に TMA のプローブの形状の例
を示した。また表 1.3.1 には プローブの形状と
試料形態、測定目的の関係を示した。TMA 装置
では TMA 装置は動的荷重下での測定ができる
ものが多い。Tg 以降の 1 周期のデータを stress-
strain 曲線で表すと、面積⒝から損失エネルギー
が、長軸方向の接線の傾き⒜から弾性率が得られ
図 1.3.2 TMA のプローブの形状1)
る。
1.3.2 装置の校正
表 1.3.1 プローブの形状と試料形態、測定目的の関係
温度校正は純金属の融解温度を利用する。温度
範囲によってアルミニウムやサファイアなどのプ
プローブ
試料形状
膨張・圧縮
ブロック状
シート状
粉体
膨張、収縮、Tg、変形
針入
ブロック状
軟化
シート状
軟化
基板上薄膜
軟化、薄膜の厚さ
高粘性液体
粘度
曲げ
シート状
ブロック状
変形
引張り
フィルム状
繊維状
伸び、収縮、Tg
レートに純金属をはさみ、圧縮方向に荷重をかけ
て昇温測定し、融解により急激な変位が観測され
はじめる温度を純金属の融点とする。数種の異な
る純金属をはさんだプレートを重ねて測定すれば
一測定で広い温度範囲の校正を行うことが出来
る。実試料と同じ測定条件で行うことが重要であ
る。引張り測定ではチャック間に同様のプレート
をはさみ、圧縮方向に荷重をかけて測定する。
DSC などと異なり、試料と温度計測用熱伝対の
測定目的
距離があることが一般的であるので、プローブ交
換の度に、また昇温速度や雰囲気ガスを変更する
温測定の場合は過冷却の影響があるため校正は昇
度に温度校正を行わなければならない。ただし降
温測定で行う。
333
第 1 節 熱分析試験
流計、試料温度および電流を同時に記録できる装
置などで構成される。特に、微少電流計測部は、
フェムトアンペア(10-15A)という非常に微少
1.4 熱刺激電流測定による材料評価
な電流を測定することが重要となり、様々なノイ
ズ対策が必要となる。通常試料室は水分の影響を
抑えたり、温度制御の効率化のために数 Pa 以下
に真空排気を行ったりした後でヘリウムガスに置
はじめに
換してから測定を行う。
熱刺激電流(Thermally Stimulated Current、 (2)測定原理と測定手順
以下 TSC と略す)測定は試料に電界を加えるこ
図 1.4.2 に示された測定手順のように分極(ま
とにより試料内部に分極や電荷トラップを生じさ
たは電荷トラップ)過程では試料に電界を加える
せ、主に昇温過程での脱分極現象や脱トラップ現
ことによって試料内部に分極や電荷トラップを生
象を電流として観測する方法である1~4)。
じさせ、主に昇温過程での脱分極や脱トラップ現
高分子材料の緩和現象や半導体電子材料のト
表 1.4.1 TSC で測定できる電荷現象1)
ラップ電荷の評価など研究・開発・品質管理に有
分極量
効なツールとして活用されている。TSC 法にて
双極子分極
評価できる電荷現象は、大きく分けると分極とト
緩和時間とそのパラメータ
緩和時間の分布
1)
ラップ電荷という 2 つの項目に分けられる 。
(表
分極
1.4.1 参照)
。
前者は、高分子材料のガラス転移現象をはじめ
とする様々な緩和現象を高精度に評価する手法と
分極量
イオン空間電 ホッピングパラメータ
荷分極
キャリアの極性
界面現象
して 1994 年に JIS 化(K 7131)されており4)、
分極量
高分子ブレンド試料の相溶性評価にも応用されて
界面分極
いる。
緩和時間とそのパラメータ
キャリアの極性
後者は帯電・誘電・絶縁などの電気的特性をは
励起トラップ トラップエネルギーの深さと分布
電子(正孔) トラップにおける電子(正孔)の寿命
じめ、半導体電子材料におけるトラップエネル
トラップ電荷
ギーの深さやトラップによる空間電荷量なども評
価の対象となっている。
本稿では TSC の測定原理や装置構成を紹介し
た後に、高分子材料の緩和現象や製薬の結晶化度
に関する応用例を紹介し、実際の測定にあたって
の試料調整や電極確保などの留意すべき手順やノ
トラップによる空間電荷量
トラップ電荷による電極面電界
注入トラップ
トラップ電荷の平均注入距離
電 子(正 孔 )
トラップエネルギーの深さ
トラップイオ
トラップにおける電子(正孔)の寿命
ン
トラップ電荷の極性
界面トラップ
ウハウについても紹介する。
1.4.1 分極現象を対象とした TSC 測定原理と
電圧源
装置構成
微少電流計測システム
A
電荷現象のうち、主に分極現象を測定するため
の熱刺激電流測定装置について説明する。
(1)装置構成
電極
試験装置は図 1.4.1 のように、試料を上下から
挟み込むための電極や、試料の温度を一定に保持
温調器付試料室
試料
したり、急冷したり一定の速度で昇温したりでき
る温調装置付きの試料室と、試料を分極するため
ヘリウムガス
ロータリーポンプ
の直流電源、TSC を測定するための直流微少電
図 1.4.1 TSC 測定装置の構成
337
第 2 節 熱伝導試験
拡散長μ、その逆数を k、試料密度ρ、定圧比熱
容量 cp、与える温度波の角周波数をω(=2πf , f
は周波数)とした。
第 2 節 熱伝導試験
2.1.2 熱伝導率・熱拡散率・熱容量
熱力学の第二法則によると、熱は温度場の中を
高温から低温へ不可逆的に流れる。このとき輸送
される熱を熱流(または伝熱量)という。さらに
2.1 熱物性概観
単位時間当り、単位面積当りの熱流を熱流束 j と
2.1.1 はじめに
呼ぶ。j はベクトルでその方向は、熱が伝わる方
向に一致し、温度勾配とは逆向きのベクトルであ
プラスチックおよびプラスチック系複合材料の
る。
(図 2.1)
熱拡散率・熱伝導率は、金属やセラミックスに比
べて熱伝導性のはるかに低い材料としてひとくく
図 2.1 は、温度場と熱流の関係を模式化したも
りにされ、断熱材としての評価法など一部の分野
ので、等温線は全域で交わることはない。熱流は
を除いては、特性試験法の標準化や統一的な理解
この等温線に垂直に流れることになる。熱流束が
が、国内外ともに進んでこなかったという背景が
定常状態に達したとき、一次元の熱流束 j を仮定
ある。基礎的物性であるので、熱解析シミュレー
すると、温度勾配 dT/dx に比例し、フーリエの
ションでは必須な項目であり、特に高分子材料に
法則として知られる次式のような表現が可能とな
特徴的な成形加工過程の解析、溶融・固化過程の
る。
数値シミュレーションでは、温度依存性を含めた
j=-λ・gradT
実測データの必要性が高かった。一方で、有機・
⑴ 高分子系材料の固体の熱伝導特性が、にわかに脚
この定数λが熱伝導率(W/mK)として定義
光を浴びたのは、1990 年代中頃以降のパソコン
される。したがって、熱伝導率は、均一な物質中
や携帯電話など電子・情報通信機器用集積回路の
の熱エネルギーの拡散のしやすさに相当する物性
高密度化に伴う発熱問題からであり、これらの機
値である。この定義からも明らかなように、一般
器に必須のプラスチック系材料の熱物性データ
には、一次元の熱流を仮定して解を求めることか
が、小型機器のモバイル化に寄与し始めた。電気
ら、スカラー量として取り扱われることが多い
絶縁性を持つプラスチック材料の放熱特性が、極
が、熱伝導率は本質的にベクトルとベクトルを結
めて重要な物性として再認識されたのである。例
びつけるテンソル量である。
えば、米国インテル社が、新型マイクロプロセッ
熱伝導にはもう一つ熱拡散率αという指標が存
サ(CPU)Pentium III の実装に向けて、熱伝導
在する。これは温度が温度場中を拡散する時に立
性の良い電気絶縁性の樹脂開発を促したのは、
てられる拡散方程式の係数である。実際の測定で
1999 年であり、その後、LED 照明、二次電池、
は、熱量が直接観測できないので温度計測が重要
熱を用いた印刷技術など、新しい技術の実用化に
となり、測定法も熱伝導率ではなく熱拡散率を求
あたっては、使用される材料の熱伝導特性が重要
める方法に感度が高いものが多くあるため重要な
となり今日に至る。
物性値である。両者の関係は
このような技術革新の中の材料開発の位置付
け、さらにはその熱特性が重要になった状況変化
Δn
の中で、2000 年以降に ISO 国際標準として議論
を重ね、制定されてきたプラスチックの熱伝導
T1
率・熱拡散率測定法を中心に、関連する試験法に
T2
ついて概説する。
T3
なお、本文で用いる記号は、試料の厚さ d、熱
伝導率λ、熱拡散率α、体積当たりの比熱 C、熱
図 2.1 温度勾配と熱流束
345
第 3 節 熱材料試験の実際
ま た、 海 外 で も ISO75 シ リ ー ズ 及 び ASTM
D648 などにおいて規格化が行われており、日本
の JIS K 7191 シリーズは ISO75 シリーズを引用
第 3 節 熱材料試験の実際
して規格化が行われているため、国際標準との整
合化が図られている。
尚、 本 項 執 筆 時 点 に お い て、 日 本 工 業 規 格
(JIS)と国際規格(ISO)とで制定時期による不
3.1 耐熱試験
整合点が見られるものについては JIS を基に記載
する。
(表 3.1.1 参照)
はじめに
(3)試験方法
1)試験片
プラスチック及びプラスチック系複合材料の耐
熱性を数値化する方法として、高温下で外部から
荷重たわみ温度で用いられる試験片は、表
力を加えた際に発生する寸法等の変化量を測定す
3.1.2 に示すようにフラットワイズとエッジワイ
ることが用いられており、荷重たわみ温度試験及
ズが規定されているが、これは試験片の置き方の
びビカット軟化温度試験などが一般的に用いられ
違いによるものである。但し、現在推奨されてい
ている。
るものはフラットワイズであり、その理由は次の
3 点が挙げられ今後の規格改正によりエッジワイ
この 2 つの試験方法の使い分けとしては、荷重
ズは削除される予定にある。
たわみ温度試験は主に硬い材料で、ビカット軟化
① 試験結果に及ぼす試験片の熱膨張による影
温度試験は柔らかい材料で測定することが多い。
が少ない。
また、荷重たわみ温度試験もビカット軟化温度
も、シングルポイントデータ(JIS K 7140 シリー
② 抜きこう配が試験結果に影響を与えず、試
ズ)を始め、樹脂の成形材料や樹脂成形品の規格
験片のエッジだけが指示台に触れた状態
などにおいても引用され、基本的な耐熱性の評価
表 3.1.1 荷重たわみ温度の試験規格
方法として活用されている。
3.1.1 荷重たわみ温度(JIS K 7191)
(1)
試験概要
荷重たわみ温度試験は、加熱浴槽の中に試験片
を入れ荷重をかけた状態で一定の温度で加熱浴槽
国際規格(ISO)
日本規格(JIS)
ISO 75-1 Plastics--Deter­
mination of temperature of
deflection under load -
Part 1:General test method
JIS K 7191-1 プ ラ ス
チック-荷重たわみ温度
の試験方法―第 1 部:通
則
JIS K 7191-2 プ ラ ス
ISO75-2 Plastics--Determi­
チック-荷重たわみ温度
nation of temperature of
の試験方法―第 2 部:プ
deflection under load -
ラスチック及びエボナイ
Part 2:Plastics and ebonite
ト
を昇温(1 時間に 120℃など)させたときの試験
片のたわみ量を測定し、試験片に一定のたわみ量
(標準たわみ)が生じたときの温度を荷重たわみ
温度として、測定する各種材料の耐熱性を評価す
ISO75-3 Plastics--Determi­
nation of temperature of
deflection under load -
Part 3:High-strength ther­
mosetting laminates and long
-fibre-reinforced plastics
る指標として用いられている。また、この荷重た
わ み 温 度(Temperature of deflection under
load、Heat deflection temperature 又 は Heat
distortion temperature 略称:HDT)を熱変形
温度ともいう。この荷重たわみ温度は、一般に非
晶性樹脂の場合はガラス転移点と、結晶性樹脂の
JIS K 7191-3 プ ラ ス
チック-荷重たわみ温度
の試験方法―第 3 部:熱
硬化性樹脂積層材及び繊
維強化プラスチック
表 3.1.2 試験片タイプと寸法
場合は融点と相関があることが知られている。
(2)試験規格
試験片タイプ
長さ
フラットワイズ 80±2.0mm
荷重たわみ温度の試験方法は、日本では JIS K
7191 シリーズとして規格化され活用されている。
357
エッジワイズ
幅
厚さ
10±0.2mm 4.0±0.2mm
120±10mm 9.8~15mm 3.0~4.2mm
第 3 節 熱材料試験の実際
ど、熱伝導が重要な役割を担う重大な問題が残っ
ていることを示唆している。長期間の使用に伴う
酸化劣化や吸湿による分解など、安全性に直結す
3.2 熱伝導性試験の実際
る物性評価などを正しく評価する必要があろう。
3.2.1 構造と熱伝導
(1)分子構造
高分子の熱拡散率・熱伝導率への影響を与える
はじめに
要因として、
① 物質の種類と添加物
熱拡散率や熱伝導率は、物質の化学構造、高次
構造、などによって多くの影響を受ける。複合系
② 温度・圧力・湿度など
にすることで熱伝導性を設計することも定法と
③ 結晶性
なっているが、プラスチックに限らず熱物性はす
④ 配向度とその方向
べての材料で重要な物性でありながら、データ
⑤ 空孔・フィラーの量と配列
ベースも乏しいものである。熱絶縁体なので、測
⑥ 多層の接触界面・フィラー界面
定が難しいということにも起因している。熱伝導
などがあげられる。
率測定は元来、フーリエの法則で定義される定常
絶縁体の熱伝導はフォノンの衝突として、扱わ
熱流束と温度勾配の比として求める定常法が広く
れることが多い。一般に軽い元素ほど熱伝導率が
使われてきた。
大きい。固体では炭素、ホウ素、化合物では窒化
プラスチックは元来熱的・電気的に絶縁材料で
ボロンとか窒化炭素が高熱伝導体として理解さ
あり熱伝導性が低い。これは、金属と比較して自
れ、気体では水素、ヘリウムが高熱伝導で、アル
由電子がないことのみに原因があるわけではな
ゴンやフロンガスのように分子量が大きな物質で
い。これは炭素原子が規則的にならんだダイアモ
は相対的に小さな値となる。以下では温度波熱分
ンドが電気絶縁性が高いにもかかわらず熱伝導性
析法で得た結果を中心にこれらの影響を解説す
を示すことからも明らかである。
る。
高分子材料は、絶縁体・誘電体として電子材料
実際の材料における熱拡散率を幾つか対比させ
に多用されるが、特に電子部品の高機能化、高密
て、表 3.2.1 に示す。無機物でもサファイアのよ
度化に伴って必然的に発生する熱の放熱問題がク
うな単結晶は、焼結体より一桁大きい。銀ペース
ローズアップされるようになった。機器の熱破損
トは銀粒子とバインダー高分子の複合材である
を防ぐには、速やかに熱を外部へ逃がす必要があ
が、硬化条件で大きな変化がある。カーボンフェ
る。たとえば照明用ランプの絶縁材料は、セラ
ルトなどの例では、焼成温度による炭化の程度が
ミックスと相場が決まっていたが、発熱の少ない
反映されている。同じ単結晶でもイオン結晶であ
LED が開発されると、加工性のよいプラスチッ
る臭化カリウムと分子性結晶であるショ糖では 1
クが注目され、200 ℃前後まで使用範囲が広がっ
桁の違いがあることも興味深い。またアントラセ
てきた。高分子材料は、電気絶縁性が高く、熱も
ンなどでは水素分子を重水素に置き換えると熱拡
通さないところへ、絶縁性を残して熱伝導性をあ
散率は半分程度になることも注目される。高分子
げるという要求は原理的に難しいことへの挑戦で
材料に無機フィラーを導入して熱導伝性向上をは
もある。この問題解決に向けた高熱伝導材料の開
かるが、タルクを 10%程度混入したポリプロピ
発では、高分子鎖を配向させる、高熱伝導性の
レンの例では界面が増え、そこに空気を含むなど
フィラーを複合するなどの対策がなされている。
かえって熱拡散率が低下している。
一方で、省エネルギーブームの後押しを受け
(2)結晶化度
て、高性能断熱材の開発も重要となった。最先端
高次構造が熱拡散率へ与える因子として、結晶
技術であるはずの新型航空機、携帯電話などで、
化度がある。結晶化度とは、結晶部と非晶部分が
発熱発火現象によるアクシデントが頻発するな
複雑に組み合わさる高分子材料独特の概念であ
361
第 5 章 熱的試験および燃焼試験
て測定するか、重力場の逆方向に温度勾配を作る
などで解消できる。静止空気は、空気を構成する
3.3 熱伝導性特性試験測定技術の
諸問題
チッソ分子や酸素分子の粘性が意外と大きいの
で、狭い範囲では動きにくいのである。通常は
フーリエ数とよばれる定数で判断する。
3.3.2 研究室での測定条件と実際の環境
3.3.1 定義と線型性
熱測定に限らずどの測定においても重要である
多くの材料評価で、熱伝導性評価に、熱伝導率
が、実験法あるいは測定方法は、再現性と安定性
を使用している。これは最初に定常法が発展し、
を求めるために一定の条件を標準化によって定め
金属や無機材料での実績のある装置が発展したこ
て比較する方法がほとんどである。
(1)断熱材
とによる。実際の測定は、熱抵抗(熱インピーダ
ンス)や熱浸透率に対して行われており、熱伝導
発泡系の断熱建材も例外ではないが、必要とさ
率や熱拡散率はその後の計数処理によって求めら
れる試料量が多く、装置が大掛かりになるなど、
れる。これらは物性値であり、サンプルの大きさ、
ほとんどが研究室内の測定であり、現場でのその
厚さなどに依存しない均質材料について定義され
場測定はほとんど行われていない。
ている。実用材料の評価には、熱貫流率、熱伝達
実際にデータを必要とする現場では、実験室の
率も用いられるが、例えばペアガラスなど単純で
測定条件と大きく異なることがほとんどである
はない系や輻射伝導が主に関与する場合に用いら
が、そのまま適用すると誤る例は枚挙に暇がな
れる。
い。たとえば、昇温測定、冷却速度、試料表面、
熱測定の難しさは、熱量が直接測定できないこ
複合系、刺激の周波数などは、複数の実験データ
とである。われわれはほとんどの場合温度を計測
あるいは複数の測定法の結果から、類推するほか
しているに過ぎない。例外的にジュール発熱量が
はない。熱伝導でも、定常でゆっくり流れるとき
あるが、ここでも与えた電力と熱量の関係は、試
のデータと、外界の急激な変化における伝導が違
料の温度と熱容量の換算が重要である。よって、
うことも考慮する必要があろう。
熱物性値が既知のリファレンス材料との比較で決
断熱材は、文字通り断熱するための材料である
定されることになる。リファレンス材料は国際的
から、果たして測定はできるものか。電気抵抗を
に共通でなければならないのは、キログラム原器
測定するのに我々は実験室にあるテスターを使
やメートル原器と同じことである。
う。ここで問題は、テスターで絶縁材料の抵抗や
測定上の大きな問題に熱損失がある。熱絶縁が
金属の抵抗を測定できないことを思い出して頂き
できないということも影響するが、高分子材料の
たい。内部抵抗を切り替えながら、測定条件を探
ような絶縁材料の測定で、ヒーター板、ヒートシ
るしかないが、絶縁測定にはガード電極、内部抵
ンク、配線材、センサーなどは全て良導体の金属
抗の大きなエレクトロメータの使用などそれなり
を用いることが多く、周囲への熱損失は免れな
の道具と慎重さが要求されるし、銅の電気抵抗と
い。低熱伝導材料の熱伝導率測定では、正確な熱
なると、リード線から装置内部の配線まで銅であ
流束と定常状態の見極めが問題になる。
り、全く別の方法を考えなければならないのであ
る。果たして熱測定でここまで配慮して測定して
対流は物体を冷却または加熱する有力な手段
いるだろうか。
で、本質は物体と流体の間の熱伝導が根本にある
が、流体は重力場で上昇するか、強制的に持ち去
材料評価段階でもまた、伝熱の三形態を個別に
ることができる。質量を持っている分子は、輸送
分離測定して材料設計データとすべき時代になっ
ている。
できる量が、格子振動の比ではなく高速で移動で
きるのである。熱伝導率測定でもこの対流は無視
(2)小型汎用測定器
熱物性特に、熱伝導特性が材料開発で必須の物
できないが、これは静止空気で温度差を小さくし
370
第5章 熱的試験および燃焼試験
開発して ISO 規格として制定し、国際的に広く
使用されている。これらの ISO 規格の一部は、
その内容を変更することなく JIS としても制定さ
第 4 節 燃焼試験
れており、日本国内で広く利用されている。これ
らの ISO 規格及び JIS 規格を表 4.2 に示す。
4.1.3 電気電子製品・部品の火災危険性試験方
法規格(IEC/TC89)
4.1 国際規格
国 際 電 気 標 準 化 会 議(IEC:International
燃焼試験の国際規格については、国際標準化機
Electrotechnical Commission)では、その第 89
構(ISO:International Organization for
技術委員会 IEC/TC89 Fire Hazard Testing(火
Standardization)及び国際電気標準化会議(IEC
災危険性試験)が、電気・電子製品、システム及
International Electrotechnical Commission) が
び部品の火災危険性の評価方法及び火災試験方
国際規格を作成している。
法、試験方法の適用と試験結果の使い方及び火災
4.1.1 火災の発生と発達の試験方法規格(ISO/
危険性評価に関連するガイダンスに関する IEC
TC92/SC1)
国際規格を、ISO/IEC Guide 51 及び IEC Guide
104 に 従 っ て、 基 本 的 安 全 規 格(basic safety
ISO では、第 92 技術委員会(TC92)が「火災
publication)として作成し、維持している。
安全」というタイトルで、ISO 内で火災安全に係
る ISO 規 格 を 横 断 的 に 扱 い、 作 成 し て い る。
IEC60695 シリーズは表 4.3 の規格があり、以
下の 10 のパートからなる。
ISO/TC92 内には、以下の 4 つの Sub-Committee
がある。
Part 1 火災安全評価方法
SC1(火 災 の 発 生 と 発 達:Fire initiation and
Part 2 赤熱した電線による燃焼性試験方法
growth)
Part 4 用語の定義
SC2(火 災 の 封 じ 込 め・ 耐 火 性:Fire con­tain­
Part 5 燃焼による腐食性
ment)
Part 6 燃焼発煙性
SC3(火 災 生 成 物 の 毒 性 及 び 環 境 影 響:Fire
Part 7 燃焼生成ガスの毒性
threat to people and environment)
Part 8 燃焼発熱
SC4(火 災 安 全 技 術:Fire Safety Engineering
Part 9 燃焼の広がり
FSE)
Part 10 温度による材料の変性
Part 11 バーナによる燃焼性試験方法
SC1 は、材料及び製品の着火性、燃焼の広が
り、燃焼発熱、並びに燃焼時に発生する煙及びガ
また、Part 5 から Part 9 の各パートはさらに、
スの試験方法を作成している。
Sub-Part 1 一般指針
SC2 は、耐火仕切りの耐火性試験を扱っている。
Sub-Part 2 試験方法の概要と適用
SC3 は、材料及び製品の燃焼時に発生するガス
を含んでいる。この Sub-Part 2 は、ISO が開
の分析方法及びその環境影響に係る規格を作成し
発した火災試験方法を引用しており、IEC 60695
ている。
自身が含んでいる火災試験方法は、主に Part 2、
SC4 は、1990 年代に設立され、数値シミュレー
Part 10 及び Part11 に含まれている。IEC 60695
ションや解析的手法を用いた火災安全評価方法の
-6-30 及び 6-31 は、発煙性試験方法を規定して
規格を作成している(表 4.1)
。
いるが、試験実施に制限があり、発煙性試験方法
4.1.2 プラスチックの燃焼挙動試験方法規格
としては ISO 5659-2 が主流となっている。IEC
(ISO/TC61/SC4)
60695-7-50 及び 7-51 の燃焼ガス測定方法(石英
電線や電気・電子製品、プラスチック及びその
管炉試験方法)は、これらをさらに発展した ISO
他の材料の燃焼挙動を調べるための試験方法は、
19700 が制定された時に、廃止されることとなっ
ISO/TC61(プラスチック)
/SC4(燃焼挙動)が
ている。
374
概 説
る場合は少なく、液体や気体との接触による材料
変化が重要視されている。液体の水の吸水率から
材料の質量増加や寸法安定性が示される。吸水に
概 説
より、電気特性や光学特性に影響を与える場合も
ある。水蒸気や酸素については透湿度や気体透過
度として表される。主に包装用プラスチック材料
に必要な特性である。一般にはガスバリア性と呼
ある物質が化合や分解等の化学反応により別の
ばれているが、遮断した割合いを示すバリア度で
物質に変わる“化学変化”と、物質そのものは変
は無く、透過した量で判断する透過度で評価され
わらずに物質の状態や形が変わる“物理変化”が
ている。
材料特性は、表面特性と内部特性(バルク特性)
ある。ここで“化学変化”の対象物質を物理的視
の二つに大別されている。上述した事項は内部特
点でみたものが“物理化学”である。
プラスチック材料の基本構成単位は、高分子鎖
性に係わるものである。表面特性としては、水や
である。この分子量と分子量分布は材料特性に影
油をはじく性質を示す撥水性や撥油性が挙げられ
響を与える重要な因子である。低分子は同じ大き
る。耐水性や耐薬品性も表面特性が重要である
さの分子から成る分子量が単一の単分散性である
が、水や薬品が材料内部にまで浸透する場合は内
のに対し、高分子は基本構成単位は同じだが分子
部特性にも影響を与える。ここで耐薬品性は、耐
の大きさの異なる同族体の混合物からできており
油性、耐アルカリ性、耐酸性等に分類できる。抗
多分散性を示す。この分散の様子を分子量分布と
菌性も表面に付着した菌だけでなく、材料内部へ
して表し、その平均値を平均分子量や平均重合度
の侵入を考慮しなければならない場合もある。
本章では、上述した様な化学的および物理化学
として規定している。
的試験法を取り扱う。
プラスチック材料は無数の高分子鎖の凝集体で
〈永井 一清〉
構成されている。その凝集状態を表す一つの指標
が密度(比重)である。金属の様に原子が規則正
しくならび結晶格子を形成しているわけではな
い。高分子鎖が規則正しく配列した結晶領域の他
に無秩序に凝集した非晶領域が存在する。その結
果、材料内部に空間が形成される。これは自由体
積と呼ばれ、その割合は均一なプラスチック材料
で 6~20%程ある。プラスチック材料の密度が
1g/cm3 程度と金属よりも著しく小さい理由の一
つでもある。材料を意図的に膨らませれば空間の
割合は増大するが、発泡体となるため、もはや自
由体積とは言わず孔となる。
プラスチックをフィルムやシート、樹脂に加工
した材料の寸法は測りやすい。しかし、粒子状に
した場合は事情が異なる。分子量と同じく粒子径
の分布も考慮しなければならないからである。ま
た均一な球状とは限らないため粒子径は平均値と
なる。
プラスチック材料は、真空中で使用する場合を
除き、空気や水、有機溶媒等に触れる環境で利用
されている。物質の三態の内、固体が問題視され
395
第 6 章 化学的および物理化学的試験法
A
B
第 1 節 密度(比重)
C
外部空隙
はじめに
細孔(開孔)
細孔(閉孔)
「密度とは、物質単位体積当りの質量である。
」
という定義は、中学校で教えられる基本的な内容
図 1.1 レンガの体積
である。理科の実験だけではなく、身の回りの多
くの現象を説明する場合に用いられる 「密度」
る重要な要素である。密度を測定する場合、固体
は、物質の性質を予測・評価する上では欠かすこ
の体積としてこれら細孔の体積を含めるのか含め
とのできない重要な物性情報のひとつになってい
ないのかを認識しておく必要がある。これらの扱
る。その対象は固体、液体、気体の三態によらな
いにより、採用する測定手法やその呼び方、測定
い。したがって密度の測定とひとくちに言って
結果が変ってしまうからである。もちろん測定目
も、オンライン測定や密度分布のその場測定など
的や要求される測定精度にも大きく依存する。
図 1.1 のレンガの表面をもう少し詳細に見てみ
を含めればその範囲は非常に膨大である。
本節では、主に固体や粉体の密度測定手法につ
よう。レンガに定規を当てたときの隙間が白い部
いて、研究開発や品質管理の目的で、実験室レベ
分である。この部分にはもちろん細孔が含まれる
ルで行なわれるものについて解説してみたい。冒
が、細孔と呼べない固体外部の空間がある。言い
頭の定義は、固体の密度測定においては、特に物
換えれば、理想的な平滑面をもつ特定の形(平面、
質の体積をどのように見積もるかという点で、非
立方体、球など)との間の隙間である。この空間
常にあいまいな要素を含んでいる点に注意が必要
のことを、固体内部まで空間を持つ細孔と区別し
である。なお、比重とは、試料の密度と基準とな
て、外部空隙と呼ぶ。例えば実際のサイコロを考
る物質(試料が固体や液体の場合は水)の密度の
えてみる。通常全ての角や辺は面取りされてい
比を示す。本文では、慣習的に使用される言葉
る。面取りされた部分は細孔ではない。ただ、理
(比重びんなど)を除き、密度に限定して記述し
想的な立方体と比較すれば、面取りされた部分は
外部空隙になる。サイコロの目は細孔(開孔)と
てある。
考えることができる。
1.1 密度の定義
次に粒子状の物質を考える。高分子の原材料の
1.1.1 固体と細孔、空隙
多くは粒子状であり、最近のナノテクノロジーの
固体の体積をどのように見積もるかについて、
進歩に伴い、微粒子や微細構造を有する粒子が多
最初にレンガの体積を考えてみる(図 1.1)
。レ
くなってきている。微粒子や微細構造を持つ粒子
ンガの体積は、その形状を(完全な)直方体と考
においても、レンガの場合と同様細孔が存在す
えれば三辺の長さ(A、B、C)を測定し掛け合
る。また、一次粒子が凝集して二次粒子を形成し
わせれば求めることができる。しかし実際のレン
ている場合も多い。この場合、凝集状態にも依存
ガの表面には、多くの大小の凹凸や割れ目、孔、
するが、一次粒子間の隙間や二次粒子間の隙間が
隙間が存在する。表面に開口部を持たない内部の
存在する。この隙間は、広義では細孔の一部と考
空間も存在する可能性がある。前者を開孔、後者
えることができるが、固体表面にある孔と区別し
を閉孔と呼び、表面や内部に存在するこれら空間
て粒子間空隙と呼ぶ(図 1.2)
。粒子間空隙は、
のことを総称として細孔や気孔(以下細孔)と呼
粒子径、形状、充填状態や凝集状態に依存する。
ぶ。細孔は固体ではないが、固体の性質を左右す
要約すれば、固体の体積は以下の 5 つの要素か
396
第 2 節 粒子径・粒子径分布
2.1 粒子径の定義とその代表的な測定法
粒子径の定義と測定法は幾何量や物理量の測定
方法に従って主に次の三つの方法に分類される。
第 2 節 粒子径・粒子径分布
2.1.1 幾何学的粒子径
主な幾何学的粒子径を表 2.1 に示す。例えば、
水平面に安定な状態で静止した粒子に外接する直
方体の辺長で与えられるものを三軸径という。1
はじめに
粒子に対してはそれらの平均である三軸平均径や
薬 品、化 粧 品 な ど日用品からナノテクノロ
二軸平均径を粒子径として定義できる。また、粒
ジー、ハイテクなどの最先端分野で使用される製
子あるいはその二次元像を等価な球や円に置き換
品に至るまで、我々を取り巻く環境には粉状の物
えてその直径を粒子径とすることもできる。これ
質が多く存在する。また、その素材もプラスチッ
には、外接球相当径、内接円相当径などのほかに、
クやプラスチック系複合材料に限らず、金属や無
粒子の体積、表面積、投影面積、周囲長などと等
機材料あるいはその複合体など多岐にわたってい
しい値を有する球あるいは円の直径で与えられる
る。本節では、粉状物質の大きさを評価する手法
相当径、例えば、体積球相当径、面積円相当径、
ついて解説する。
表面積球相当径などがあげられる。さらに、視野
一般に、微細な固体の集合体のことを粉体と呼
内にある粒子群に対して一定方向の平行二直線で
ぶが、その大きさに明確な定義はなく、最近では
挟んだ間隔で定義するフェレー(Feret)径、投
nm オーダーの粒子が盛んに開発されるように
なってきたので、nm から数 mm 程度の大きさの
表 2.1 幾何学的粒子径
ものを粉体と呼ぶことが多くなった。粉体の基本
分類
三軸径
的性質の説明などでは、個々の固体の粒を対象と
するときには「粒子径」
、
「粒子形状」のように「粒
子」という用語を使い、集合体を対象とするとき
には「粉体圧力」のように「粉体」という用語を
軸平均径
使う。ただし、厳密に使用方法が決められている
訳ではなく、粉体粒子というような使い方をする
場合もある。
粉体粒子の大きさを評価する手法の説明の前
に、
「粒子径」や「粒径」
、
「粒度」や「粒度分布」
定方向系
統計的径
といった粒子の大きさに関係した用語の意味を復
習しておこう。まず、
「粒度」は必ずしも長さの
次元を持たない粒子の大きさの表現で、幾何学的
な大きさの表面積、体積、重さ、ふるいの目開き、
沈降速度などが一種の粒度にあたる。一方、
「粒
子径」は粒子の大きさの一次元的な表現である。
したがって、粒子の一次元的な幾何量は粒子径で
相当系
あり、また、体積などの幾何量や沈降速度、光散
乱強度などの物理量をそれと同じ値を持つ球の直
径に変換したものも粒子径と呼ぶ。そこで本節で
は、大きさを表す用語として「粒子径」あるいは
「粒子径分布」を用いることにする。
405
名称
長軸径(長さ)
短軸径(幅)
厚さ
二軸平均径、長短平均径
三軸平均径
二軸幾何平均径
三軸幾何平均径
二軸調和平均径
三軸調和平均径
(図 1.3 参照)
定方向接線径(Feret 径)
定方向面積等分径(Martin 径)
定方向最大径(Krummbein 径)
展開径
平均の定方向径
外接球相当径
外接円相当径
内接円相当径
周長円相当径
面積正方形相当径
面積円相当径(Heywod 径)
体積立方体相当径
体積球相当径
体積柱体相当径
表面積球相当径
第 6 章 化学的および物理化学的試験法
ら溶出する順序は、分子量の違いではなく、分子
サイズ(流体力学的体積)の違いによるものであ
ることに注意が必要である。すなわち、後述する
第 3 節 分 子 量
ように、同じ分子量であっても分子構造や溶離液
の組成によって分子サイズが異なる場合があり、
SEC から得られる分子量が真の分子量と相関し
ない結果が得られることがある。なお、SEC と
3.1 分子量測定法の概要
いう名称については、ゲル浸透クロマトグラ
フィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)
、
高分子の分子量測定は、その特性を把握する上
で、最も重要な分析の 1 つである。高分子材料の
あ る い は ゲ ル ろ 過 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー(Gel
分子量測定には、いくつかの方法があるが、現
Filtration Chromatography;GFC)と呼ばれる
在、最も広く一般的に行われている方法は、サイ
こともある。これらの GPC、GFC という用語は
ズ 排 除 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー(Size Exclusion
古くから用いられてきたが、他の液体クロマトグ
Chromatography;SEC) に よ る も の で あ る。
ラフィーについては、分配クロマトグラフィー、
SEC は試料溶液をカラムを用いて分離する液体
吸着クロマトグラフィーといった分離の原理を示
クロマトグラフィーである。
す用語が用いられているのに対し、GPC や GFC
SEC の装置構成と、分離の概念図を図 3.1 に
という表現は適切ではないとの理由により1)、現
示す。装置は主として脱気装置(デガッサー)
、
在、論文や学会発表に用いる場合は SEC と記述
送液ポンプ、試料注入装置(サンプルインジェク
されるケースが増えている。一方、GPC や GFC
ター)
、カラムオーブン、検出器から構成されて
については、産業分野では今でも使用されてい
おり、カラムオーブン内にカラムが設置される。
る。なお、誕生の背景もあり、GPC は有機溶媒
SEC 用カラムは一般的に内径 4~8mm、長さ
を用いた SEC の場合に用いられ、GFC は水溶液
15~30cm 程度のステンレス製で、中には 3~30
を用いた SEC の場合に用いられている。このた
μm 程度の大きさの、たとえばポリスチレンゲ
め、水溶液を用いた場合には特に「水系 GPC」
ル製の多孔質充填剤が充填されている。
と呼ばれることもある。
試料は溶離液(溶媒)に溶解され、試料注入装
試料によっては、常温(室温)では溶解できな
置から装置内に導入される。そして送液ポンプに
いものや、加熱溶解するものの一定温度以下では
よってカラムに送られる。カラム内の充填剤は
析出してしまうものもあるため、試料注入装置、
様々なサイズの孔を有しており、ここを試料分子
カラムオーブン、検出器を高温に加熱できるタイ
が通過する場合、大きな分子は充填剤の孔に入る
サンプルインジェクター カラムオーブン
送液ポンプ
ことができないため、そのまま最も早く通過し、
カラムから溶出する。分子サイズが小さくなるに
つれて、より孔の奥まで到達できるため、結果と
検出器
して流路が長くなり、溶出が遅れる。従って、試
料はカラム出口では分子サイズの大きな分子から
カラム
小さい分子へと順に溶出し、検出器に送られる。
デガッサー
このような分離機構はサイズ排除機構と呼ばれて
溶離液
多孔質充填剤(ゲル)
いる。なお、SEC では試料分子間の相互作用が
生じないことが大前提であり、このために注入試
料濃度は希薄溶液である必要がある。さらに試料
分子と充填剤間についても、相互作用が生じない
試料
ことが必要である。
図 3.1 サイズ排除クロマトグラフィーの装置例と分
離原理の模式図(円錐モデル)
分離の原理から、SEC で試料分子がカラムか
412
第 4 節 吸水性及び耐水性
するプラスチックは一般に吸水性が低い。
例えば、ポリアミド 6 やポリアミド 66 では相
対湿度 50%での平衡吸水率が 1.5%から 2.5%で
第 4 節 吸水性及び耐水性
あるのに対して、ポリアミド 12 では約 0.7%、半
芳香族ポリアミドや芳香族ポリアミドではフィ
ラー含有のこともあるが 0.2%程度の吸水率とな
る。
4.1 吸水性及び耐水性
4.1.2 吸水による物性変化
4.1.1 吸水性と構造
吸水によりいずれのプラスチックについても寸
法や機械的強度の変化はあるが、そのほとんどは
プラスチックは、金属やセラミックに比べて吸
水性を有する材料である。表 4.1 に代表的なプラ
使用上さし支えない範囲である。
ポ リ ア ミ ド 6,66 は 日 常 的 に 目 に す る プ ラ ス
スチックの吸水率を表に示す。
一般に、分子構造に水酸基(-OH)
、アミノ基
チックであるが、吸水による物性の変化が大きく
(-NH2)
、スルホン酸基(-SO3H)
、カルボキシル
扱いには注意を要する。ポリアミド 6 の表 4.1 中
基(-COOH)などの極性基を有するプラスチッ
の値は 23℃50%相対湿度中での平衡吸水率であ
クは吸水性が高い。逆に、メチル基(-CH3)
、メ
るが、23℃水中では平衡値は 8%に達する。充填
のメチレン基(-CF2-)のように非極性構造を有
での寸法変化が生ずる恐れがある。
材の有無や形状により値は変わるがコンマ数%台
チレン基(-CH2-)
、芳香族環、特にフッ素置換
表 4.1 各種プラスチックの吸水率 1~4)
採用した物性データに幅がある場合はそれぞれ併せた値で標記した。
特別に記載のないものは 23℃24 時間水中でのもの。データは非強化グレードのものを記載している。分類の【汎
用】は汎用プラスチック、【エンプラ】はエンジニアリングプラスチック、【スーパー】はスーパーエンジニアリン
グプラスチックを示す。
分類
材料名
略号
吸水率(%)
出典
汎用
ポリエチレン
PE
<0.01
1)
汎用
ポリプロピレン
PP
<0.03
1)
汎用
ポリスチレン
PS
0.03~0.04
1)
汎用
ポリ塩化ビニル*1
PVC
0.03~0.4
1)
汎用
ABS樹脂
ABS
0.3
2)エスチレン ABS
汎用
ポリメチルメタクリレート
PMMA
0.3
2)パラペット
汎用
ポリエチレンテレフタレート*2
0.4
3)ルミラー
*3
ポリアミド6
PA6
ポリアセタール
POM
0.5
4)ジュラコン M140-44
エンプラ
ポリカーボネート
PC
0.24
2)ユーピロン S-3000R
エンプラ
ポリブチレンテレフタレート
PBT
0.08
2)トレコン
エンプラ
変性ポリフェニレンエーテル
m-PPE
0.06
2)ザイロン
エンプラ
ポリフェニレンサルファイド
PPS
0.02
2)トレリナ
スーパー
液晶ポリマー
LCP
0.02
2)ザイダー
スーパー
ポリエーテルエーテルケトン
PEEK
0.07
スーパー
※1
※2
※3
※3
※4
ポリテトラフルオロエチレン
PTFE
2.5
2)UBE ナイロン
エンプラ
エンプラ
2)VICTREXⓇPEEK
*4
<0.01
2)ポリフロン PTFE
ポリ塩化ビニルは硬質のデータ
ポリエチレンテレフタレートはフィルム材のもの。FR-PET については、個々の資料を参照されたい。
ポリアミドは他にも 66,46,12,612 など多くの種類がある。個々の資料を参照されたい。
いずれの資料にも明確な記載がないが、1.5%~3.5%程度の値は 23℃50%RH での平衡吸水率と考えられる。
表の値は 0.00 だが、表記法を合わせるため<0.01 とした。
421
第 6 章 化学的および物理化学的試験法
荷状態においても何らかの影響が現れると考えて
差し支えない。
負荷状態での耐薬品性についても、まず官能基
第 5 節 耐薬品性
構造で考える。
ここで、負荷状態での耐薬品性試験で現れる代
表的な症状として、き裂の生成による破壊(破損)
がある。これについては、JIS K7107 : 1987「定
5.1 耐薬品性
引張変形下におけるプラスチックの耐薬品性試験
金属やセラミックスと比べプラスチックは化学
方法」では文中に『環境応力割れ』という言葉、
的な反応性に富む材料である。金属も酸やアルカ
JIS K 7108 : 1999「プラスチック-薬品環境応力
リにより腐食するが、プラスチックはさらに溶
き裂の試験方法-定引張応力法」では規格名自体
剤、油脂類、モノマーなど、様々な有機系薬液に
に『環境応力き裂』
(ESC:Environmental Stress
対しても劣化する。温度に対しても敏感であり、
Cracking)という言葉が用いられている。
特に、応力が加味した状態で生ずる環境応力割れ
前述した負荷状態での①、②の分類は、環境応
は、通常であれば考えられないような条件下で生
力割れに含まれてしまうため、以降は便宜上、①
ずるため、非常にやっかいである。できうる限り
のケースを環境応力割れとし、②のケースを別名
実使用条件下で耐薬品性試験を行うことが望まし
としてよく使われるソルベントクラックと呼ぶ。
い。
ソルベントクラックの語源について調べたが、明
規格による明確な規定はないが、耐薬品性は、
確に定義したものはなかった。中には、溶剤の吸
大別して、1)
無負荷状態での耐薬品性、2)
負荷状
収・乾燥の過程でひび割れる現象を意味するとす
態での耐薬品性(内部応力による負荷を含む)
、
る説もある。ここで言うソルベントクラックは、
に分けられる。これは、薬液によっては、無負荷
高分子鎖を切断しない薬液(溶剤や油など)中に
状態では合格であっても、負荷状態で劣化や破損
おいて負荷状態で高分子鎖の膨潤に伴うクレーズ
が起こるためである。さらに、負荷状態での耐薬
生成からクラックへの成長を経て、破損に至る現
品性は、①高分子鎖自体の化学的劣化(切断)を
象を指す。
伴うもの、②高分子鎖集合体の化学的劣化(切断) (1)環境応力割れに対する耐薬品性
高分子鎖の化学的劣化を伴う代表的な薬液は
はなく主に膨潤によるもの、に分けられる。
5.1.1 無負荷状態での耐薬品性
酸、アルカリである。
無負荷状態での耐薬品性は、主にプラスチック
負荷状態での耐薬品性に関する資料は少ない
の構造に影響される。吸水性と同じく、官能基の
が、奥田 1)の「プラスチックの耐食性とその試
種類により影響が左右されるが、温度、薬液の種
験・評価」では、各種薬液中でクリープ試験、応
類と濃度、結晶化状態によっても変わる。酸、ア
力緩和試験、疲労試験を行い、各種プラスチック
ルカリ、溶剤のような一般的な区分けで示された
材料の耐薬品性を評価している。
データについては参考程度にとどめ、できうる限
いずれのプラスチックも、条件によっては、酸
り実使用条件での試験を行うことが望ましい。耐
やアルカリに耐えるが、限界を超えると薬液によ
薬品性については、データ量が膨大で、抜粋して
り分解し、き裂を生じたり、極端な場合には崩壊
掲載することが困難なため、本節では掲載しな
する。ポリアセタールは、優れた機械特性を有し、
い。耐薬品性に関するデータは、プラスチック
歯車などの機械部品に使われる。ただ、負荷状態
メーカホームページから入手できるものも増えて
で酸と接すると特有の分子量低下(ジッパリング
きている。
現象)を起こしながら割れを生ずる。例えば、
5.1.2 負荷状態での耐薬品性
めっきしたインサート金具のすすぎが不十分だ
負荷状態での耐薬品性は、無負荷状態での耐薬
と、残留する酸により環境応力割れを引き起こ
品性を基準に考える。ここで不合格のものは、負
す。一般に無機酸、アルカリに対して耐食性を有
426
第 6 節 ガスバリア性
炭素および水蒸気の透過係数の一覧をまとめ
る1~7)。高分子の主鎖と側鎖の構造を変えるだけ
で、約 1 億倍異なる透過性・バリア性を生み出す
第 6 節 ガスバリア性
ことができる。どの高分子においても、水蒸気が
一番速く高分子材料を透過する。その次は、二酸
化炭素である。この 3 種類のガスの中では、酸素
が一番遅く透過する。透過係数に違いが表れてい
はじめに
るということは、表 6.1 に示した高透過性から高
バリア性の高分子材料すべてに、ガス分離特性が
高分子材料のガスバリア性が注目されたのは、
あるということである。
1950 年代頃に食品包装への応用が検討され始め
た時からである。食品を保護する目的から始まっ
ガラスや金属は完全なガスバリア性を有してい
た高分子バリア材料も、時代の流れとともに電気
るが、高分子材料はガスを透過させてしまう。つ
電子用途や光学材料用途へと展開している。ガス
まり高分子材料におけるバリア性は、
“低透過性”
バリア性の要求レベルは、有機 EL、太陽電池、
と言い換えることができる。
本節では、高分子材料のガスバリア性の測定・
電子ペーパー、液晶等への用途展開により、高分
分析について解説する。
子によるバリア度の極限に迫ろうとしている。
表 6.1 に、代表的な高分子材料の酸素、二酸化
表 6.1 代表的な高分子均質材料の酸素
(P
(O2)
)
、二酸化炭素
(P
(CO2)
)および水蒸気
(P
(H2O)
)の透過係数*
高分子名
温度(°C)
P(O2)
ポリビニルアルコール
23−25
0.00006
エチレン(30)-ビニルアルコール(70)共重合体
P(CO2)
P(H2O)
文献
−
19(RH40%)
1
23−25
0.0001
−
−
2
ポリアクリロニトリル
30
0.0003
0.0018
300
2
ポリ塩化ビニリデン
30
0.0053
0.029
1.0
2
ポリエチレンテレフタレート
30
0.035
0.17
180
2
ナイロン 6
30
0.038
0.16
280
2
ポリ塩化ビニル(可塑剤未添加)
30
0.045
0.16
280
2
ポリ乳酸(結晶化度 25%)
35
0.34
1.3
−
3
3
高密度ポリエチレン(0.964g/cm )
30
0.40
1.8
12
2
酢酸セルロース(可塑剤未添加)
30
0.80
2.4
6800
2
ブチルゴム
30
1.3
5.2
120
2
ポリカーボネート
30
1.4
8.0
1400
2
ポリプロピレン(0.907g/cm3)
30
2.2
9.2
65
2
ポリスチレン
30
2.6
11
1200
2
低密度ポリエチレン(0.922g/cm3)
30
6.9
28
90
2
ネオプレン
30
4.0
26
910
2
テフロンⓇ
30
4.9
13
33
2
天然ゴム
30
23
150
2600
2
ポリ(ビス-トリフルオロエトキシフォスファゼン)
35
77
470
−
4
ポリプロピレンオキシド
30
83
710
−
5
3200
40000
2
−
6
−
7
ポリジメチルシロキサン
30
600
アモルファステフロン AF2400Ⓡ 35
960
ポリ(1-トリメチルシリル-1-プロピン)
30
13000
*
3
透過係数の単位:×10-10cm(STP)
cm/(cm2・s・cmHg)
435
−
44000
第 7 節 撥水性・撥油性
水(疎水)性・親水性であれば動的な状態におい
ても撥水(疎水)性・親水性でもあるということ
が同時に成り立つケースが多い。日常生活におい
第 7 節 撥水性・撥油性
て「撥水表面」と言われた場合、思い浮かべるは、
雨が降ったときにすぐに雨粒をはじいて玉状にす
る車のフロントガラスや数日間磨かなかったお風
呂の鏡がシャワーのお湯をはじいている様子など
7.1 緒 言
があろう。また、植物の葉の上で雨粒が丸くなっ
本稿は、撥液性能や親液性能を付与した機能性
て転がっている状態や料理の時に水洗いするとき
表面を、液除去性の視点から論じるものである。
のキャベツ表面を水洗いしたときに表面を水がさ
我々の身近にある機能性表面を有した製品とし
らさらと流れる様子も撥水の現象であり、植物表
て、スマートフォンがあげられる。従来の携帯電
面には多く撥水の状態が観測される。いずれの場
話と異なり、スマートフォンは多くの製品が 7 イ
合も水滴が球状になる、もしくは表面から即座に
ンチ程度の広いディスプレイを有している。指で
流れ落ちてしまう。この現象は、水の固体表面へ
タッチして操作する直感的且つ簡便な使い勝手も
の付着が拒絶されていることを表している。
相まって、我々は良質の体験を享受している。こ
分子の中で比較的最も表面張力の高い物質とさ
れも、機能性表面の寄与によるものが大きいと想
れる水は、表面積を減らそうとする力が強く、玉
像するに難くない。
状になる傾向にあり、さらに粘度も低いためにさ
スマートフォンのディスプレイは、入出力を担
らさらしており、液全体が固体表面から比較的離
うものであるが、最近は音声による入出力を行う
れやすい傾向にある。これに対して、油系の液体
ことができる機種もあるようだが、指で入出力が
は水に比べて表面張力も低く、粘度も比較的高い
行われている方が多いだろう。ここで機能性表面
ためぬれやすく、固体表面から離れにくい傾向に
の出番である。指には、通常汚れが付着している。
あり、評価の際はその点の液の性質の違いに留意
指で入力を行うと、汚れがディスプレイ表面へ付
しなくてはならないが、基本的には固体に対する
着する。汚れに対して脆弱な表面であった場合、
液体の撥液性評価という意味では、撥水と撥油の
入力時の違和感や誤操作・誤入力を誘引すること
評価・試験方法は基本的には共通の概念で行うこ
が考えられる。また表面に汚れが残ると、表示さ
とができる。
れた情報を読取ることが著しく困難になる。ディ
機能性表面について、性能を評価するために
スプレイ表面の汚れに対して、防汚機能を施され
は、それぞれの機能に適した評価方法を採用する
た膜、またはフイルムが製品購入時に貼り付けら
ことが何よりも重要である。例えば防曇性能を付
れている場合もあり、これらの膜、またはフイル
与した機能性表面の評価には、その機能に特化し
ムは汚れに対して、非視認・非付着等の機能で使
た防曇性評価装置などを用いることをおすすめす
い勝手の向上に貢献している。
る。しかし本稿では、より汎用性の高い接触角計
超親水性の表面に付着した液体は、半円や球の
を用いて、液除去性の視点から撥液性の評価を論
ように盛り上がった形状を取らず、薄く固体表面
じてみたい。また、各測定方法を採用するときに
にぬれ広がって液膜になる。液膜は光を散乱させ
どのような点に注意すべきかを合わせて論じてい
ないので、固体表面が曇ることはない。
く。
吸水性の機能を持つ表面は、蒸気状態の水分を
7.2 測定概要
吸収することで、液滴の固体表面への付着を防
ぎ、防曇性能を発揮する。固体表面に水滴は発生
撥水性の表面に期待される水の挙動は、水が固
せず、液膜も発生しないため、良好な視界が確保
体表面に付着しにくく、傾けるとその表面を転が
される。
るように即座に流れてしまうところにある。静的
世の中の物質の大まかな傾向として、静的に撥
な接触角測定では、比較的接触角が大きくなる。
445
第 6 章 化学的および物理化学的試験法
現在 SIAA が中心となって並行して進めている。
日本市場から得られた評価方法と商品管理のシ
ステムを世界に広げることが、結果的に世界の消
第 8 節 抗 菌 性
費者および企業に対し貢献できると考えられる。
長期的には日本国内では人口減少などでマーケッ
トは縮小、一方でアジアを中心とした新興国で市
場が急拡大しており、日本の先端的な技術 ・ 新機
はじめに
能商品を世界で販売するためには国際標準化とい
2007 年 10 月 9 日、日本にとって意義深い抗菌
うプロセスとその重要性は不可欠になりつつあ
加工技術に関する国際標準 ISO22196 が発行され
る。国際分業化が進む中で、日本が先行する技術
1)
た 。そのポイントには、①抗菌という日本独自
を世界に伝え普及することは、企業を超えた国と
の「文化」に基づく考え方が国際標準の場で認め
しての役割・使命といえる。
られたこと、②目に見えない細菌に対する新機能
8.1 日本の抗菌市場の歴史
であり、日本が今後リードしたい「バイオ」の分
野であったこと。③単に「衛生」という考え方だ
抗菌技術は日本で開発され、その市場形成は日
けでなく「環境」テーマとして重要視されたこと。
本で始まった。抗菌技術の必然性は材料の歴史的
④原案となった日本工業規格 JIS のデザイン変更
な変遷から理解できる(表 8.1)
。現代の生活の
がほとんどなかった、ことが挙げられる。この日
中で多用されている「プラスチック」や「ガラス」
本 発 の ISO は、 抗 菌 製 品 技 術 協 議 会(以 下、
は、皮肉にも細菌にとって極めて居心地の良い材
2)
SIAA) が中心となって策定したものであり、
料で、細菌を培養するシャーレがこれらの材料で
ISO 発行を契機に現在では海外からの問い合わせ
作られていることからも理解できる。
と入会申し込みがあり、世界の消費者に対する抗
これら材料に衛生機能を付与すべく開発された
菌の信頼と安心の証となる「SIAA 抗菌 ISO マー
のが、銀などを主成分とする無機系抗菌剤なので
ク」
(図 8.1)が国内外で抗菌加工製品に貼付さ
ある。食器、コイン、ドアノブなどに使われてき
れている。
た銀(Ag)
、銅(Cu)
、亜鉛(Zn)は、非常に抗
菌性能が高い材料であることがわかっている。特
その後、この ISO の適用範囲拡大に向け新た
な改正提案を行い、プラスチック以外の材料に対
に銀(Ag)が安定性と安全性と品質の観点から、
しても適用可能な ISO22196:2011:Measurement
抗菌剤として現在広く使われている。
プラスチックの成型には 200 度前後の温度が
of antibacterial activity on plastics and other
3)
必要であり、これまでは添加剤として使う抗菌剤
nonporous surfaces が発行された 。一方で、抗
菌加工製品に関する国際的なガイドラインの策定
を経済協力開発機構(以下、OECD)においても、
図 8.1 SIAA が 運 用 を 開 始 し た ISO22196
に準拠した『SIAA 抗菌 ISO マーク』
454
表 8.1 抗菌規格関連の歴史
1996 年
・抗菌ブーム(’96 O-157 食中毒事件)
1998 年
・抗菌製品技術協議会(SIAA)設立
1999 年
・通商産業省(現:経済産業省)
『抗菌加工製品ガイドライン』発表
2000 年
・JIS Z 2801:2000 発行
(JNLA 試験所認定制度の適用)
2003 年
・抗菌 JIS の ISO 化に着手
2007 年
・抗菌 ISO22196:2007 発行
(SIAA 抗菌 ISO マーク運用開始)
2008 年
・OECD 抗菌テストガイドライン作業開始
2011 年
・改正 抗菌 ISO22196:2011 発行
チックでも異物が混入したり、表面に粗雑な凹凸
が形成されたりすると、それらにより光が散乱・
拡散されるため白濁して見える。つまり、プラス
概 説
チックの本質的な透明性を評価するためには異物
の混入や表面の荒れは評価の妨げになるため、注
意する必要がある。また平滑な表面においても反
射があり、表面での反射を含めた透明性(全光線
プラスチックはその優れた成形性、軽量、高透
透過率)であるのか、表面での反射の影響を除外
明などの特長から、眼鏡レンズ、ピックアップレ
したプラスチック材料そのものの本質的な透明性
ンズなどの種々のレンズ、光ファイバー、光ディ
であるのかを区別する必要がある。これらを大別
スク、液晶ディスプレイ用の各種光学フィルム、
すればプラスチックの本質的な特性と表面の特性
照明、デザイン性に優れた種々の成形品などの幅
と言えるであろう。色についても人間が知覚する
広い用途で使用されている。光学デバイス・部材
ものであり、デザイン性を重視する製品において
などに用いられるプラスチックは、その化学構
は極めて重要な特性である。本質的にはプラス
造・高次構造に起因する本質的な光学特性が重要
チックの光吸収と関係があり、光の吸収が大きな
であり、主としてコストと光学特性のバランスで
波長が可視光域のどこにあるかに起因する。どの
材料が選択されている。また家電製品、車、家具、
ような吸収スペクトルであるかはそのプラスチッ
建材、文房具など多くの製品においてプラスチッ
クの固有の特性であるが、そのことが直接的に色
クが、そのデザイン性に関わる重要な部分に使用
に結びつき難いのは、どのようなスペクトルの光
されており、その色・光沢・質感などを調整する
を照射した状態で観察するかによって色合いが変
ために染料・顔料を添加する、表面を平滑にして
化するからである。製品においては、わずかな色
光沢を付与する、反対に荒らしてつや消しにする
の違いでもクレームとなる可能性があるため、色
などの加工が施されることがある。これらは厳密
を正しく評価し、正確に伝えることが重要であ
な意味ではそのプラスチックに固有の性質ではな
る。また、屈折率はプラスチックの化学構造に由
いが、意図してある光学的な特性を付与した成形
来する本質的な特性であり、最も重要な特性の一
品とするための加工であるため、広義にはプラス
つである。一般に同じプラスチックにおいても、
チックの光学特性と考えてよいであろう。最近で
波長が異なれば屈折率が異なり、温度によっても
は前述の光学デバイス・部材用のプラスチックに
変化する。これらの特性を念頭に評価を行い、特
おいても、有機・無機の化合物を添加した材料が
性を示す必要がある。複屈折も化学構造に由来す
用いられていることもあり、ここではプラスチッ
る本質的な特性であるが、その大きさは分子の配
クとプラスチック系複合材料を特に区別せずに解
向状態に依存する。すなわち、同じプラスチック
説する。
においても成形の履歴に依って変化する。屈折率
光学特性を重視したプラスチック製品を研究開
の異方性が複屈折であることからも、波長にも依
発および製造するためには、言うまでも無くその
存することがわかる。このように評価するプラス
光学特性を正しく評価することが重要である。市
チックの光学特性が何に由来し、どのような性質
販の測定装置を用いて、透明性、ヘーズなどの重
のものであるか理解した上で評価を行うようにし
要な基礎的光学特性を評価する場合においても、
たい。
その特性がプラスチックのどのような物性と関連
本章では、色、透明性、反射率、光沢性、屈折
しているかを理解する必要がある。詳細は本章の
率、複屈折などプラスチックの光学試験方法とし
各節に譲るが、例えば透明性は本質的にはプラス
て基礎的かつ重要なものを選び解説する。プラス
チックの化学構造と密接な関係があり、光ファイ
チックの研究開発・製造・品質管理に役立てば幸
バー用の高透明なプラスチックは化学構造から綿
いである。
〈多加谷明広〉
密に設計される。しかし、どんなに透明なプラス
463
第 7 章 光学的試験法
照明光
色の感覚・知覚
赤,黄,緑,
青・・・?
明るい,うす
い・・・?
光源
第 1 節 色及び色彩
光
大脳
光の分光特性
光
視対象
目
網膜
1.1 色の認識過程
図 1.1 色の認識過程
色及び色彩は技術用語として国際照明用語集に
定義が決められ、我が国では色に関する用語(JIS
Z 8105)及び照明用語(JIS Z 8113)で採録され
角膜
虹彩
ている。その定義では、両者の区別は明確でなく、
前眼房室
瞳孔
「有彩色成分と無彩色成分との組合せからなる視
知覚の属性」と規定されている。一方、広辞苑で
後眼房室
される感覚。色の三属性によって表される。
」
毛様体筋
水晶体
強膜
は、
「色:色刺激の分光分布の違いによって区別
結膜
毛様小帯
硝子体
「色彩:いろ、いろどり(彩色、配合、配色)
、
転じて、傾向、様子」
と記述されており、色と色彩の使い方に微妙な
脈結膜
違いがみられる。
「色」の前段は、色感覚の記述
であり、後段は色知覚の記述になっている。
「色
視軸
光軸
視神経乳頭(盲点)
網膜
中心窩
彩」は、配色、傾向、様子など空間又は時系列的
な特徴を表す時にも用いる記述になっている。日
図 1.2 眼球の構成
常的な用語の使い方としては、やや異なっている
て表される(nm ナノメートルは 10-9m である)
。
ことを示している。この節では、技術用語及び広
辞苑の「色」についての認識過程を考える。
光による刺激と 3 種類の錐体による反応が一
物体の表面の色が認識されるまでの過程を図
義的に決まれば、眼を刺激している光の特性とし
1.1 に示す。物体の表面の色(以下、表面色とい
て色を表すことができる。この光の特性を分光分
う。
)は、物体を照明する何らかの光(以下、照
布という。眼を刺激している光は、物体からのも
射光という)があって初めて知覚される。真っ暗
のであるが、照射光と物体の組合せで決定される
闇では、物体が存在するかどうかも判らないの
ことが図 1.1 からわかる。照射光の一部は、物体
で、色を知覚することができないのは自明であ
によって吸収され、一部は反射される。照射光を
る。また、物体は眼で見ているので、人間に色を
どのように反射するかは、物体によって異なり、
知覚できるシステムが無ければ、やはり知覚でき
その特性を反射率といい、異なった波長の反射率
ない。人間の眼球は図 1.2 の構造になっている。
を表すときには分光反射率という。
眼球の底部にある網膜と呼ばれる組織に 1 種類
このように色の認識は、照射光の分光分布、物
のかん体と 3 種類の錐体と呼ばれる細胞があり、
体の分光反射率及び人間の視覚特性によって決ま
光の刺激によって異なった反応が生起される。色
り、この中の一つでも異なれば、異なった色とし
の感覚は 3 種類の錐体による反応の違いによっ
て知覚される。図 1.1 の関係が同じであっても異
て生じる。光は、波の形で伝ぱんする電磁波であ
なった色として知覚される場合がある。一般に、
り物理的に測定が可能である。波の特性は、波の
色知覚は、刺激面の寸法、形、構成、及び周囲条
山から山までの距離で記述できるが、これを波長
件、観測者の視覚系の順応状態、並びに観測者が
という。光は 360nm~830nm までの波長によっ
なじんでいる類似の状況での経験に依存している。
464
第 7 章 光学的試験法
スリット
第 2 節 透 明 性
表示部
光源
スリット
2.1 光線透過率
ミラー
2.1.1 背景と測定原理
光線の透過率は、身近な所では、車やビルなど
回折格子
演算部
試料設置部
検出器
図 2.1 分光光度計の測光原理
の窓ガラス、眼鏡やカメラのレンズ、塗料やミ
ラーなどの特性評価に用いられている。さらに近
は 1~380nm だが、200nm 以下は特に真空紫外
年は、光エレクトロニクスの発展が目覚しく薄型
と呼ばれる。これはこの波長域では空気中の酸素
テレビや高密度情報記録型ディスク、デジタルカ
や窒素、水蒸気に強い吸収を持ち、真空にしない
メラ、プロジェクターなどに代表される光学部品
と観察されないためである2)。また、780nm 以上
の評価、太陽電池部材の特性評価にも使用されて
の近赤外域の測定が可能な分光光度計も市販され
いる。透過率を測定することで、物体の光透過特
ている。
性、色や透明性といった視覚的な評価、紫外線や
光源には、紫外領域に重水素放電管、可視領域
赤外線の遮蔽度といった光学的な機能の情報が得
にハロゲンランプが用いられている。使用する波
られる。
長に応じて、それぞれのランプを切り替えて使用
透過率は入射光強度 I 0、透過光強度 I を用いて
している。近年では、光源寿命の観点から、キセ
式 1 によって示される。式 2 は、光学濃度(OD:
ノンフラッシュランプを光源とする分光光度計が
Optical Density)を示したものである。物体の
市販されている。キセノンフラッシュランプは、
吸収度合いを対数で表わしている。透過率が 1 桁
ハロゲンランプや重水素放電管に比べて寿命が長
小さくなる毎に、OD 値は 1 ずつ大きくなるた
いだけでなく、紫外領域から可視領域にかけて一
め、透過率が小さい試料の場合、OD 値を用いる
つのランプで測定できる利点がある。連続スペク
ことが多い。また、透過率を縦軸に、波長を横軸
トルを示す光源から分光光度計に必要な単色光を
にプロットすることで透過スペクトルが得られ
取り出すための装置が分光器である。分光器を構
る。
成する主な分光素子として、回折格子とプリズム
が用いられている。紫外・可視領域の検出器に
%T =(I/I 0)× 100
OD = log10(I 0/I)
⑴ は、光電子増倍管や Si フォトダイオード等が用
⑵ いられている。光電子増倍管は、高感度、高応答
性、幅広いダイナミックレンジを有しており、ハ
透過率および OD 値は、分光光度計にて測定す
イエンドの分光光度計で使用されている。850nm
ることができる。分光光度計の測光原理を図 2.1
以上では、光電子増倍管の感度が落ちるため、近
1)
に示す 。光源から測定に用いる波長の光を回折
赤外域のスペクトル測定には PbS や InGaAs 等
格子等の分光器によって単色光に分光し、試料に
の半導体検出器を組み合わせて用いている。
分光光度計は通常、試料測定に先立ち 100%補
入射(試料への入射光強度:I 0)させる。試料を
透過した光の強度(I)を検出器で検出する。分
正、いわゆるベースライン補正を行う。これは波
光光度計では検出器の信号を透過率に演算し表示
長に対して光源の強度や検出器の感度の特性が異
する機能を有している。一般的な分光光度計で測
なるので、それらを補正するためである。分光光
定可能な波長域は、可視域(380~780nm)と、
度計で一般的に測定される溶液試料の場合、溶媒
紫外域(200~380nm)である。紫外線の波長域
に溶けた試料の吸収特性や、溶媒中に含まれる試
474
第 7 章 光学的試験法
2.2.2 ヘーズの測定方法・装置
ヘーズを測定する装置についてもこの規格に規
定されている。装置は、光源、平行光にする光学
2.2 ヘーズ・拡散透過率
系、開口部を備えた積分球及び測光器からなる。
測定方法を図 2.13 に示す。
測定方法を下記に具体的に説明する。
① 入射開口に試験片のない状態で、出口開口
2.2.1 ヘーズ
を参照白板、補償開口を光トラップにして光
源からの入射光束(τ1)を測定。
プラスチックの光学特性の評価の 1 つに「ヘー
ズ・拡散透過率」がある。ヘーズとは、曇価(く
② 入射開口に試験片のない状態で、出口開口
もり価)とも表記され、透明な物体の曇り具合を
を光トラップ、補償開口を参照白板にして装
表す。ヘーズは、板状、フィルム、シート状の透
置で拡散した光束(τ3)を測定。
明で無色のプラスチックの透明性、曇り具合の評
③ 入射開口に試験片をセットし、出口開口を
価に用いられる。曇りの生じる原因は、表面状態
参照白板、補償開口を光トラップにして試験
による透過光の散乱と透明物体内部の粒子による
片を透過した全光束(τ2)を測定。
散乱が考えられる。また拡散透過率は、入射光に
④ 入射開口に試験片をセットし、出口開口を
対する拡散光の割合である。
光トラップ、補償開口を参照白板にして装置
ヘーズの定義は、JIS K 7136「プラスチック-
及び試験片で拡散した全光束(τ4)を測定。
1)
透明材料のヘーズの求め方」 に、
〈ヘーズ(haze)
このように測定を行い、次の式でヘーズ値
(Hz)を計算する。
試験片を通過する透過光のうち、前方散乱によっ
Hz=
〔
(τ4/τ2)
-
(τ3/τ1)
〕
×100
て、入射光から 0.044 rad(2.5°
)以上それた透
過光の百分率〉として規定されている。この定義
この式の前半の(τ4/τ2)で試験片を透過す
からヘーズは、試験片を透過する全透過光に対す
る全透過光に対する拡散透過光の割合を計算し、
る拡散透過光の割合で表される。曇っている試験
後半の(τ3/τ1)で装置による拡散光束の影響
片は、ヘーズ値が高く、透明な試験片は、ヘーズ
を計算している。試験片を透過した光束のうち拡
値が 0 に近くなる。
散する成分がなく透明で曇りがなければヘーズ値
は 0 になり、拡散する成分が多く曇っていれば
τ1
入射開口:
試験片無
τ3
τ2
補償開口:光トラップ
出口開口:
参照白板
入射開口:
試験片無
入射開口:
試験片有
τ4
補償開口:参照白板
出口開口:
光トラップ
図 2.13 測定方法
482
補償開口:光トラップ
出口開口:
参照白板
補償開口:参照白板
入射開口:
試験片有
出口開口:
光トラップ
第 3 節 反 射 率
測定とがある。相対反射率は、標準物質の反射光
量(IR)に対する試料の反射光量(IS)の比であ
る(図 3.2 ⒜)
。絶対反射率は入射光量(I0)に
第 3 節 反 射 率
対する試料の反射光量(IS)の比である(図 3.2
⒝)
。
相対反射率測定システムの模式図を図 3.3 に
示す。
3.1 正反射率と拡散反射率
相対反射率測定システムは、同一の光学配置で
反射率とは光が物質を反射する割合を、反射後
ベースライン測定と試料測定が行えるため、一般
の光の量と反射前の光の量との比で表したもので
的にシンプルな光学系となっている。ベースライ
ある。反射には、鏡面のように光の入射角と反射
ン測定に用いられる標準物質は、紫外、可視、近
角が反射面に対して同じ角度に反射する正反射
赤外域ではアルミ蒸着ミラーなど、測定波長範囲
(図 3.1 ⒜)と、反射光が様々な方向に拡散する
で高い反射率を持つ物質を使用することが多い。
拡散反射(図 3.1 ⒝)ある。正反射率の測定は、
しかし、低反射率試料の測定では、標準物質とし
ミラーなど鏡面加工されている試料に対して行わ
て石英ガラスまたは BK7 など反射率や屈折率の
れ、拡散反射率の測定は、粉など拡散性がある試
よく知られた物質を用いることもある。また、絶
料に対して行われる。
対反射率が既知の標準物質をベースライン測定に
使用した場合には、試料の反射率に対して、標準
3.2 相対反射率測定
物質の絶対反射率を掛けることにより、試料の絶
対反射率が得られる。
正反射測定には、相対反射率測定と絶対反射率
反射光
入射光
3.3 相対反射率測定例~膜厚測定
入射光
相対反射率の測定は、反射防止膜など、反射率
反射光
が低い材料の反射率評価や、干渉膜厚法による膜
厚測定に用いられる(図 3.4)
。
ここでは、ポリ塩化ビニリデンの薄膜の相対反
射スペクトルから、膜厚を計算する方法を紹介す
る。単層膜の反射スペクトルを測定すると、表面
(b)拡散反射
(a)正反射
反射光と裏面反射光により干渉がのったスペクト
図 3.1 正反射と拡散反図射
入射光
IR
IS
入射光
I0
ルが得られる。
IS
このとき、膜厚 d は、光を強め合う 2 つの波長
λ1、λ2[nm]
、その波長間に含まれる波の数 p、
薄膜の屈折率 n と入射角φを用いて式⑴で表すこ
標準物質
(a)相対反射
試料
とができる。この関係式を用いて、膜厚を計算する。
試料
(b)絶対反射
1 λ1×λ2 p
d= ・ ・ [μm]
式⑴ 2 n2-sin2φλ1-λ2 1000
図 3.2 相対反射と絶対反射
標準物質
図 3.5 には、入射角 5 度でポリ塩化ビニリデン
試料
のアルミ蒸着ミラーに対する相対反射スペクトル
入射光
検出器
へ
ミラー
(a)ベースライン測定
入射光
ミラー
を測定した結果を示す。
検出器
へ
このスペクトルに対して式⑴を当てはめて、ポ
リ塩化ビニリデンの屈折率を 1.6 として膜厚を計
(b)試料測定
算すると、9.9μm の結果が得られた。一般的に、
図 3.3 相対反射率測定システム
485
第 4 節 光 沢 性
正反射光
入射光
θ
第 4 節 光 沢 性
θ
4.1 鏡面光沢度
「光沢性」とは、プラスチックの光学特性の評
価の一つである。光沢とは物体表面が光を正反射
試料
する性質をあらわし、つやなどの視感特性であ
反射光の配光
り、光沢度・鏡面光沢度と呼ばれる。物体の表面
図 4.1 反射光の配光
に光が当たると、光は吸収・透過・反射する。こ
のうち反射光は、図 4.1 のように入射光と物体表
面の垂線に対し同じ角度に正反射する正反射光
(鏡面反射光)と、物体表面で拡散して反射する
拡散反射光に分けることができる。鏡面光沢度は
この鏡面反射光の強度を数値で表したものであ
図 4.2 装置の概要
る。鏡面光沢度は、ある屈折率のガラスの面を
100%とする相対値である。正反射光が強くつや
4.2.2 測定装置の条件
がある表面は、鏡面光沢度が大きく、正反射光が
弱く拡散反射光が多いマットな表面は、鏡面光沢
鏡面光沢度は、正反射光(鏡面反射光)の強度
度が低くなる。
の測定であり、反射光のうちどの角度まで正反射
ガラスや金属の平滑で鏡面状に研磨された表面
光として測定するかが重要である。その為、JIS
は、正反射光が強く、拡散反射光は少ない。この
Z 8741 では、入射角・受光角の許容差、光源像
表面を見た場合、非常につや・光沢があると感じ
の開き角と受光器の開き角との許容差が規定され
る。また表面が平滑でなくマットな場合、正反射
ている(表 4.2)
。
光は少なくなり、つや・光沢は、感じられない。
また光源と受光器には一般に標準の光 D65 と
このように光沢感は、正反射光の度合いで評価で
分光視感効率 V
(λ)との組合せと等価の物を用
きる。
いる。ここで標準の光 D65 とは、JIS Z 8720「測
2)
色用の標準の光及び標準光源」
に規定され、分
4.2 鏡面光沢度の測定方法・装置
光視感効率 V
(λ)は JIS Z 8701「色の表示方法
3)
-XYZ 表色系及び X10Y10Z10 表色系」
の付表 1 の
鏡面光沢度の測定方法・装置は、JIS Z 8741
1)
「鏡面光沢度-測定方法」 に規定されている。装
等色関数 y
(λ)と同一である。また光沢計は最
置の概要の一例を図 4.2 に示す。
大目盛値の 1%以内の範囲で直線性がなければい
4.2.1 測定角度
けない。
4.2.3 鏡面光沢度の基準
JIS Z 8741 では、20°
、45°
、60°
、75°
、85°の
5 つの測定角度が規定されている。鏡面光沢度は、
JIS Z 8741 に鏡面光沢度の基準は、屈折率が可
Gs
(θ)と表記し、θは測定角度を表す。一般的
視波長範囲全域にわたって一定値 1.567 であるガ
に 60°で測定されることが多いが、Gs
(60°
)が
ラス表面とし、その面の鏡面光沢度をすべての角
70 を超える表面には、20°
での測定、10 以下の表
度で 100%としている。
面には、85°
での測定が勧められている(表 4.1)
。
また、透明又は黒色ガラスなどの平滑面が一次
標準面として規定され、屈折率からフレネルの式
491
第 7 章 光学的試験法
1)高屈折率材料
2)青色の波長に対する測定
3)必要とする波長での測定及びアッベ数
第 5 節 屈 折 率
4)延伸軸での測定(複屈折の測定)
であり、これらの測定について、装置と共に紹介
する。
5.3 スネルの法則(光の屈折の法則)
プラスチックやフィルムの屈折率の測定は、い
くつか方法があるが、アッベ屈折計を用いた測定
隣接する 2 つの物質に対して、光の通り道を表
方法を述べる。
した法則で、別名「光の屈折の法則」とも言われ
る。
(図 5.1)
5.1 屈 折 率
n1×Sinθ1=n2×sinθ2
屈折率とは光が物体 1 と物体 2 を通過する時
に生じる光の屈折の度合いを表している。2 つの
n1:光が入射する物質の屈折率(サンプル)
物体の屈折率差が大きければ大きいほど、光は大
θ1:光が入射する角度
きく屈折する。また、真空中を 1 とする絶対屈折
n2:光が出射する物質の屈折率(プリズム)
率と、空気中を 1 とする相対屈折率とがあるが、
θ2:光が出射する角度
Sin は、直角三角形の高さを角度で表すための
一般的には、空気中を 1 とした、相対屈折率を単
に屈折率と呼ぶ事が多く、本節でも空気を 1 とし
変換記号である。
た時の屈折率について述べる。
例えば、
・量記号 n 単位なし
sin0°
=0
・nD は波長 589nm(D 線)の屈折率
sin45°
=√2/2
・n
20
D
sin90°
=1
は 20℃で波長 589nm(D 線)の屈折率
となる。これを踏まえてスネルの法則を考える。
5.2 最近の動向
Sin90°の時 1 となり、θ1 が 90°の時は、項が省
略される。
プラスチックやフィルムの屈折率の測定におけ
る最近の動向は、
B
A
法線:境界面に対して垂直
光学系では角度 0 を取る
θ1A=0°
物質 1:屈折計ではサンプル
屈折率 n1
C
θ1B
θ1C=90°
物質 2:屈折計ではプリズム
屈折率 n2
垂線:物質 1 と物質 2 の
境界面
暗
θ2B’
θ2C’
C’
n1<n2
θ2A’
=0°
A’
B’
図 5.1 スネルの法則
494
明
(明と暗の)
境界線
第 7 章 光学的試験法
度を評価するが、二軸延伸フィルムでは⑴式で定
義される面配向係数ΔP の大小で分子鎖の面配向
の程度を評価する。これらはいずれも、分子配向
第 6 節 複 屈 折
に起因する複屈折であるので配向複屈折と呼ばれ
る。
Δnxz+Δnyz
ΔP = 2
はじめに
nx+ny
= -nz
2
高分子材料は、成形のし易さと高い機能性から
様々な分野で利用されている。その形状は多様で
⑴ あり、キャスト成形によって製膜される無延伸
一軸延伸のとき当然分子鎖は延伸方向に揃う
フィルムやシート、それに延伸加工を施し引張強
が、その方向の屈折率が nx になる材料と ny にな
度や耐衝撃性などの物性を向上させた延伸フィル
る材料があり、前者を正の複屈折性、後者を負の
ムがある。また、押出成形、圧縮成形、ブロー成
複屈折性という。負の複屈折性を示す材料の代表
形あるいは射出成形によって、様々な立体形状の
は PS と PMMA であり、その他殆どの材料は正
樹脂製品がつくられている。
の複屈折性を示す。
フィルムは延伸加工によって生産性が著しく向
包装材料について複屈折を検索語にして特許を
上するが、高分子の分子鎖が特定の方向に引き揃
調べると、Δnxy あるいはΔP と引張強度、熱収
えられることにより、力学的特性をはじめとした
縮率、寸法安定性、ガスバリア性、引き裂き直進
諸物性は異方性を示す。分子鎖の配向状態(以下、
性、ヒートシール性等の諸物性とを関連付けして
分子配向と呼ぶ)は材料の違いはもとより、延伸
いる例が多い。
加工では延伸方法や延伸倍率、温度や速度等の延
射出成形品の場合は、しばしば残留歪が問題と
伸条件によって、また押出成形や射出成形では温
なる。応力と複屈折は比例関係にあり、応力に
度、圧力、時間や速度等の成形条件によって異な
よって発現する複屈折を応力複屈折と呼び、比例
る。使用する材料の特性を最大限に生かし、トラ
係数を光弾性係数という。通常観測される全複屈
ブルのない製品を安定的に生産するには、分子配
折は、配向複屈折と応力複屈折の和であり、図
向の絶対的な評価が重要となる。ここでは、分子
6.1 のようなイメージになる。しかし、これは分
配向評価に利用されている複屈折の測定方法を説
子配向の方向と応力の方向が平行のときであっ
明するとともに、主に延伸フィルムを例にして、
て、応力が圧縮か引張かによって、あるいは材料
その具体的な活用方法について解説する。
が正の複屈折性か負の複屈折性かによって両者の
和になるか差し引きになるかが変わる。さらに、
6.1 複 屈 折
配向方向と応力の方向が平行でも直交でもない場
合は、観測される複屈折は複雑になり、二層構造
一般的に、物質の屈折率はそれぞれ直交する三
方向に存在するが、延伸フィルムではフィルム面
内に二つ存在する。その二つの主屈折率を nx、
ny(ただし、nx>ny)とし、フィルムの法線方向
複屈折
すなわち厚さ方向の屈折率を nz としたとき、面
全複屈折
内複屈折は二つの屈折率差としてΔnxy=nx-ny と
傾き=光弾性係数
なる。また、フィルムの断面方向から見た複屈折
応力複屈折
は二つ存在し、Δnyz=ny-nz、Δnxz=nx-nz とな
配向複屈折
る。
一軸延伸フィルムの場合は、ny と nz がほぼ等
応力
しいとみて、面内複屈折Δnxy の大小で配向の程
図 6.1 配向複屈折と応力複屈折
500
π結合
概 説
sp2 混成軌道
σ結合
高分子樹脂は、基本的に絶縁材料である。これ
図 2 ベンゼン環の共役二重結合の電子状態
は、その分子構造から電子の軌道が局所的に縛ら
れ、金属のような自由電子による導電があり得な
いことに起因する。これを理解するために、図 1
も良い構造になっている。π結合が分子全体に広
をご覧いただきたい。導電性樹脂は、1960 年代
がっているわけだ。このような、2 重結合と単結
に白川教授により導電性発現が発見された有名な
合が交互に連続する構造を共役二重結合という。
1)
高分子樹脂である 。図には、絶縁材料である
この構造が、電気を流すことの主役を担い、有機
PET(ポリエチレンテレフタレート)と、ポリ
半導体や有機導電材料の基本構造である。ただ、
アセチレンの分子構造を比較して示している。
ポリアセチレンの場合、シリコンと同様に何らか
PET の場合、分子鎖の中に CH2-CH2、CH2-O、
のドーピングが電気を流れやすくする。高分子の
O-C などの単結合が存在する。これらの単結合
電気伝導は、キャリアの濃度と分子間の電子移動
は、σ結合と言って電子がきつく分子に固定され
(分子間を飛び跳ねるようなホッピング運動が主
るので、電子の流れは生じず電気を通すことは出
と言われる)が効いてくるので、この辺への添加
来ない。一方、2 重結合は、その一つはσ結合で
効果である。一方、PET でもベンゼン環の中は
あり電子は原子に強く結びつき移動できないが、
π共役軌道で電子はループを描いて移動すること
もう一つがπ結合となり電子が比較的自由に運動
は出来るが、その外側には単結合が連続するの
できる。図 2 は、ベンゼン環の炭素分子の分子結
で、結局、電子の移動はブロックされ電気が流れ
合とその電子雲の広がりを漫画で示したが、π電
ない。もちろん、電気伝導は電子ばかりが主役で
子は分子結合の横に広がり、二重結合と単結合が
はなく、正孔(ホール)が主役を担う場合もある。
繰り返されることで両者の区別がなくなり、π電
このように、樹脂は絶縁材料としてばかりでな
く、特殊な例では導体や半導体の性能を持ち、導
子軌道が連続になる。
ポリアセチレンは、2 重結合と単結合が交互に
体としては静電防止塗膜として広く利用され、ま
並んでおり、実はどちらが 2 重結合でも単結合で
た、一部の用途では更に電気的な特性を積極的に
生かした実用も広まり、有機エレクトロニクスと
しての価値も高い。本章では、これらの特徴を正
絶縁
PET
O
O
CH2 CH2 O C
C O
確に評価する一連の電気特性評価方法に着目し、
絶縁特性、導電特性、圧電特性、誘電特性、さら
に、マイグレーションなどの腐食現象の基本的な
n
事項をまとめ、それぞれの評価において注意すべ
H
ポリアセチレン
(CH)n
C
H
C
H
H
C
H
C
C
H
C
き事柄などを紹介しよう。
H
C
H
〈菅沼 克昭〉
C
n
〔参考文献〕
1)
白川英樹,日本物理学会誌 34 巻(1979)
, 313
図 1 PET とポリアセチレンの分子構造。PET は絶
縁材料であるが、ポリアセチレンは導電性に
なる。
513
第 8 章 電気・電子的試験法
の層を挟んで電圧を掛けた時の、電流-電圧カー
ブをその場測定した例を示す1)。エポキシの層は
600nm 程度の厚さがあるが、数ボルトの電圧を
第 1 節 絶縁抵抗・耐圧
掛けると 100nA 程度の電流が流れ、オームの法
則に乗る完全な直線ではないが、電圧増加に伴い
徐々に電流が増加することが見て取れる。絶縁体
に流れるわずかな電流を漏れ電流という。漏れ電
絶縁特性は、樹脂の持つ電気的特性の代表格で
流は、絶縁体に含まれている不純物イオンや、自
あろう。電子機器の高性能化・小型化が進むとと
由電子の動きによるもので、イオン電荷、濃度な
もに、一層の高密度実装への要求が高まってい
どに比例する。絶縁体における漏れ電流に対する
る。高密度実装では、当然ながら導体間の距離は
電気抵抗は、絶縁抵抗と称する。
図 1.1 に示されるように、電圧が上昇し(Ⅱ)
短くなり、半導体パッケージを保護する封止材、
半導体を放熱基板へ実装するダイボンド材、BGA
の領域に入ると電流値増加が加速しはじめ、この
(Ball Grid Array)や CSP(Chip-Scale Package)
ことは電流が流れやすいパスが樹脂の中に出来上
などのエリアアレイ型部品の実装に用いるアン
がると考えられる。これが(Ⅲ)の領域では、樹
ダーフィル材、多層プリント回路基板の樹脂層な
脂の一部が溶け空洞が出来たり、分解および炭化
ど、多くの部位に優れた電気絶縁性が求められて
が進行し、最終的な絶縁破壊に至る。この破壊が
いる。また、省エネルギー技術の基本を司るパ
生じる電圧を、絶縁破壊電圧と称する。絶縁破壊
ワー半導体では、数百ボルトの電圧はもちろん、
電圧は、連続昇圧した場合の試験片が絶縁破壊し
ワイドギャップ半導体になると、1000V 以上か
たときの電圧、又は段階昇圧法による場合の規定
ら 1 万ボルトを超える高電圧に曝され、200℃以
の保持時間にわたり絶縁破壊を生じない最高の電
上の超高温で耐えることが求められる。電子機器
圧で定義される値である。
の劣化は、単純に絶縁破壊するだけではなく、前
主要なプラスチックの絶縁破壊耐性を表 1.1
述の電気化学的腐食、キズや亀裂などの機械的な
に比較した2)。材料の絶縁破壊電圧は、電極の構
要因、あるいは、高温などの熱的な要因が絡み
成、試験電圧の種類(直流、交流)
、温度、電圧
合って生じる場合が多い。劣化要因の複合化にお
上昇速度、電圧印加方法などによって大きく影響
り、電子機器の劣化が加速されることになるわけ
を受けるので、注意が必要になる。絶縁破壊強さ
だ。また、特に絶縁材料では、熱伝導率の改善な
は、kV/mm を単位として測る単位厚さあたりの
どのために無機フィラーを複合化される場合も多
破壊電圧の考え方で評価される。図 1.3 には、
く、これが劣化要因になることが多い。
JIS C2110 に定められた絶縁破壊強さ評価方法を
以上のように、電子部品の高密度実装化には、
これらの劣化要因を全て考慮して優れた電気絶縁
性を持つ材料を開発することが不可欠になってい
る。そこで本節では、絶縁材料における基礎的な
絶縁体制の評価方法について紹介する。
Ⅰ
電 流
まず、図 1.1 をご覧頂きたい。この図は、絶縁
材料に電場を掛けた場合に流れる電流変化を示し
Ⅱ
Ⅲ
ている。プラスチックは、基本は絶縁材料であっ
ても、低電圧領域ではオームの法則に従い大変微
の法則
弱な電流が流れる。この現象は、ナノメーターレ
オーム
ベルでも観測されている。電圧が増加すると次第
に大きな電流が流れ、最終的に絶縁破壊に至る。
図 1.2 は、透過型電子顕微鏡内で、薄いエポキシ
電 圧
図 1.1 絶縁体に流れる電流の電圧変化
514
第 8 章 電気・電子的試験法
ある。
(2)電極間に誘電体を挟んだ場合
図 2.1 ⒝に示すように、平行平板コンデンサの
第 2 節 誘電率(および誘電正接)
電極間に誘電体を挟んだ場合、直流の電圧 V を
印加したときの電荷量 Q は、
Q=CV
2.1 誘電体の理論 1~6)
⑵ で示される。C は電極間に誘電体を挟んだ場合の
静電容量である。ここで C と C0 との比を取ると、
プラスチックは一般に電気絶縁性が良く、絶縁
体と呼ばれることが多いが、プラスチックに電圧
C
=εr
C0
を印加すると材料中に正と負の電荷が発生する誘
電分極が起こるため、プラスチックは誘電体とも
呼ばれる。ここでは、誘電体の理論について述べ
⑶ となり、εr を誘電体の比誘電率と言う。また、
εr と真空の誘電率ε0(=8.854×10-12F/m)との
る。
2.1.1 静電界(直流電界)の場合
積は、
(1)電極間が真空の場合
ε=ε0εr
図 2.1 ⒜に示すように、平行平板コンデンサの
⑷ 電極間が真空の場合、直流の電圧 V
(V)
を印加
となり、εを誘電体の誘電率と言う。ここで、電
すると、正の電極には負の電荷、負の電極には正
極の面積を S、電極の間隔(誘電体の厚さ)を d
の電荷が帯電する。この蓄えられる電荷量 Q(C)
0
とすると、C は、
は、
⑴ S
C =ε d
で示される。ここで、C(F)
は真空の静電容量で
0
で示される。
Q0=C0V
+
+
+
+
電極間に誘電体を挟んだ場合、誘電体中では正
と負の電荷が発生し、分極と言う現象が起こる。
+
また、誘電体は分極現象によって材料中に電極の
電荷と反対の符号の電荷が現れるため、誘電体の
真空
−
−
⑸ 静電容量 C は真空中の静電容量 C0 よりも大きく
−
−
なり、C>C0 となる。従って、誘電体の比誘電率
−
εr はεr>1 となり、真空中の誘電率ε0 よりも大
きくなる。
2.1.2 交流電界の場合
(a)電極間が真空の場合
(1)電極間が真空の場合
平行平板コンデンサの電極間が真空の場合、角
+ + + + + + + + +
−
−
−
−
+
+
周波数ω=2π(rad/s)
f
( f (Hz)
は周波数)の正弦
波交流電圧 V
(V)
を印加したとき、流れる電流
誘電体
+
+
Ic0
(A)
は、
Ic0=jωC0V
− − − − − − − − −
⑹ で示される。ここで、j は虚数単位であり、印加
電圧に対して 90°位相の進んだ充電電流が流れ
(b)電極間に誘電体を挟んだ場合
る。
図 2.1 平行平板コンデンサ
518
第 3 節 導 電 性
ンブレンやスマートフォンのタッチパネル額縁配
線などがある1)。表 3.1 に、各種導電性材料の特
徴を比較して示した。
第 3 節 導 電 性
さて、これら材料の導電特性を評価する方法と
しては、体積抵抗率を評価する場合と表面抵抗を
評価する場合に分けられる。体積抵抗率が求めら
れるのは、配線の導電能力を問題とする場合で、
高分子樹脂の中で、導電性を持つ分子は、チオ
表面抵抗は、透明導電膜のように光学特性から塗
フェン系の PEDOT(ポリエチレンジオキシチオ
膜厚さが決まる場合の導電能力になる。また、体
フェン)であろう。電池などの内部電極や、優れ
積抵抗率と電気導電率で使い分けられることがあ
た透明性から静電塗膜や透明導電膜としても多用
るが、これには明確な理由があるわけではなく、
されている。図 3.1 にその分子構造を示す。破線
抵抗の高い場合に電気導電率を能力指標として用
線で示した経路が導電パスになるわけだ。樹脂に
いる傾向がある。
電気導電率は、次の式で定義される。
導電性を与える方法では、樹脂本来は絶縁性で
あっても、導電性フィラーを加えて導電性樹脂と
J=σE
する場合もあり、これが導電性接着剤となるが、
⑴ ここで J は電流密度、σは電気伝導率、E は電場
こちらの方が抵抗値も低く電気用途としては一般
(電界)である。
的である。身近な例では、様々なキーボードのメ
金属は導電率が良いので、間違いなく 1/σの
体積低効率で表現する。ちなみに、両者の変換は、
n
次のように逆数を取るだけになる。
体積抵抗率
(Ω・m)
=1/電気導電率
(m/s)
⑵ −
SO3H
SO3
o
s
o
o
s
o
SO3−
SO3H
o
s
o
SO3H
o
s
o
o
が、経験的にΩ・cm を用いる場合も多い。それ
では、抵抗値と体積抵抗率の測定方法からまとめ
o
o
s
体積抵抗率の単位は、SI 単位ではΩ・m となる
SO3H
s
2+
よう。
m
導電性プラスチック2)、ファインセラミックス3)、
体積抵抗率測定は、JIS の中で四探針法として
o
シリコン4)に対して、それぞれ同種の測定方法が
記載されている。この方法では、タングステンな
図 3.1 PEDOT/PSS の分子構造
表 3.1 導電性樹脂の種類
種 類
材 料
備 考
・体積抵抗率:10-2~106Ωcm
・透明導電膜
・導電性は低い
・耐環境性が悪い
導電性高分子
ポリチオフェン系樹脂(PEDOT/PSS)
ポリアセチレン系樹脂
導電性接着剤
樹脂:エポキシ、アクリル、シリコーン、ウレタン ・体積抵抗率:10-5~10-4Ωcm
金属:Ag、Cu、Ni、カーボンなどのフレークや ・耐環境性に優れる
・はんだ代替
粒子
非等方性導電性 樹脂:エポキシ系
接着剤
金属:金属コート樹脂ボール
・接続面間のみの導通が取れる
・粒子体積率は 3%程度
・10 ミクロン程度のファインピッチ接続が可能
527
第 8 章 電気・電子的試験法
の大きさも変わり、これに伴う物質の温度による
変化分が結晶の表面に現われ電位差を発生する焦
電性がある。圧電体や焦電体に電圧を掛ければ、
第 4 節 圧電・焦電特性
当然、分極の状態が変化するので、電子分極やイ
オン分極などの誘電分極も生じる。少し複雑だ
が、図 4.3 を見て頂ければそれぞれの関係が分か
るだろう。
圧電性を生かした感圧センサ、焦電性を生かし
誘電材料としては、言うまでも無くセラミック
た赤外線検知器など、圧電性、焦電性を利用する
スである PZT が優れた性能を発揮し、あらゆる
各種センサは、今日の安全安心社会を築くために
場面で実用になっているが、鉛を大量に含有し、
欠かせないデバイスになっている。もともと、セ
その代替材料の確立が切望されている。代替材料
ラミックス誘電材料からこれらのセンサ機能が見
として同じ結晶構造を有するセラミックスの開発
出され、その幅広い市場を形成してきた1)。誘電
が進むものの、ニオブなど稀少金属を含むなどの
材料に関しては別節で紹介されているので本節で
欠点がある。また、時代の流れから、安価で省エ
は割愛するが、その基本を少しおさらいしよう。
ネルギーな印刷技術に適し、大面積でフレキシブ
図 4.1 のように、誘電体の両端に電極をつけ、そ
こに電圧 V を加えると、誘電体に電界 E が印加
される。誘電体の厚さを d が一定で、電界がほ
ぼ一様であれば、
E=V/d
⑴ −
+
となる。この時、電極間に満たされる物質に依存
+
−
して分極が生じ、この回路に蓄積される電荷の状
−
+
−
+
−
+
−
+
−
+
−
+
−
+
−
+
−
+
−
+
−
+
−
+
−
+
度
E0, T0
により異なり、原子内部で核と電子が分極する電
圧
−
+
温
+
−
+
−
形
変
・
力
−
+
−
+
充電現象になる。物質の分極現象は、物質の性状
+
−
+
−
+
−
態が変化する。すなわち、双極子能率に依存した
+
−
−
+
子分極、イオンとして分極する分極、分子構造そ
のものに極性がある有極性分子の配向による双極
子分極または配向分極、セラミックスなどでよく
E0, T1
見られる空間電荷分極がある。これらは、電場を
加えたときに生じる分極であるが、物質によって
図 4.2 圧電性と焦電性
は、図 4.2 に示すように圧力または張力のような
物質の変形に伴い分極を生じる圧電性と、結晶の
誘電体
温度が変わると原子の熱振動状態や熱膨張で結晶
圧電性
S
電極
電池
E=V/d
−
+
−
+
−
+
−
+
誘電体
−
+
−
+
−
+
焦電性
電荷が溜まり
減衰する
強誘電性
−
+
時間
電極
S を入れた瞬間
図 4.1 誘電体に電場を負荷したときの現象1)
図 4.3 圧電性、焦電性、強誘電性の関係1)
530
第 8 章 電気・電子的試験法
コスト化、また、高いハンドリング性やメンテナ
ンス性、さらには機械的および熱的な要求等があ
るため、大きな余裕度を持って絶縁設計をするこ
第 5 節 放電劣化
とは難しい。余裕度の小さい絶縁設計、過酷な使
用条件や想定寿命を超えた使用、さらには材料の
不十分な品質確保などが重畳すると、電気絶縁材
料の性能が維持できなくなる場合がある。
放電にさらされる可能性が高く、かつ、さらさ
電気絶縁材料は気体、液体、固体の状態によっ
れた後の性能維持が重要である材料として、電気
て分類することができる。固体の電気絶縁材料
絶縁材料が挙げられる。電気絶縁材料は、要求さ
は、高い電気抵抗値やハンドリング性など要求さ
れる空間または領域に大きな電気抵抗を付与し、
れる多くの仕様を満たせる場合が多く、それゆえ
その空間または領域に流れる電流を極めて小さ
使用頻度も高い。固体絶縁材料の主要なものとし
く、または、要求されるレベル以下に制御するた
て、セラミック、ガラス、プラスチック、ゴムな
めに使用される。図 5.1 に示す通り、電気絶縁材
どがある。セラミックやガラスなど無機絶縁材料
料は内部で電気絶縁を担う場合と表面で担う場合
は耐熱性が高い上、経年劣化が小さいなどのメ
がある。また、一種類の材料だけでなく、複数の
リットがある。しかし、プラスチックやゴムなど
種類の材料を用いる場合もある。この場合、異種
有機絶縁材料と比べると、重量が大きい上、破損
の材料間に界面が出現し、電極間の電気絶縁に影
しやすく、成形性に劣るといったデメリットもあ
響を及ぼす。
る。近年の電気機器や設備においては、コンパク
電極間の電位差が大きくなり、電極間に存在す
ト化、軽量化、低コスト化、高いハンドリング性
る電気絶縁材料に印加される電界が大きくなる
への要望が強く、有機絶縁材料が多く利用されて
と、その内部または表面において電流が流れ始
いる。
め、やがて放電が発生するようになる。発生する
有機絶縁材料は、上述の通り、多くのメリット
放電の形態や放電の発生を許す電界強度は、電気
を享受できるものの、分子構造上、経年劣化や熱
絶縁材料の種類や電圧の印加条件(例えば、直流
など外的因子に対して敏感である。過電圧、空隙、
電圧や交流電圧の違いや内部絶縁や表面絶縁の違
異物、汚損などに起因して高い電界が出現し、局
い)などで異なってくる。また、材料中の空隙や
所的または全路の絶縁破壊に至る放電が発生した
異物、外部からの汚損、経年劣化にともなう分子
場合、有機絶縁材料はその電気抵抗を低下させる
構造の変化によって、使用前に設計または想定さ
化学変化が起こり得る。この化学変化は多くの場
れたものより低い電界において放電が発生する場
合で不可逆であり、低下した電気抵抗はより多く
合がある。電極間の距離を大きくとること、外部
の放電を誘発させる。誘発された放電は有機絶縁
からの汚損を軽減すること、さらに、より高い電
材料の化学変化を加速させ、電気絶縁性能は徐々
気抵抗およびより経年劣化の程度の小さい電気絶
に低下していく。このように放電にさらされるこ
縁材料を用いることにより、要求される電気絶縁
とで、材料の電気絶縁性能が低下することを「放
を長期に渡り維持することが可能である。しかし
電劣化」という。現代の電気機器や設備において、
ながら、機器・設備のコンパクト化、軽量化、低
放電劣化が問題になるのはプラスチックやゴムな
どの有機絶縁材料である場合が多い。それゆえ、
電気絶縁材料
電極
本節では電気絶縁材料の放電劣化に関する試験方
電極
法を扱うが、必然的に有機絶縁材料の放電劣化に
対する耐性を評価することを前提とする試験方法
電極
内部絶縁
が多い。
電気絶縁材料
「劣化」という用語は、期待すべき性能が低下
表面絶縁
する現象または低下している状態を指し示すもの
図 5.1 電気絶縁材料の電気絶縁を担う形態
534
第 6 節 マイグレーション・電食
グレーションとも言うが、エレクトロ・マイグ
レーション、サーマル・マイグレーション、ある
いは、ストレス・マイグレーションとは異なる)
第 6 節 マイグレーション・電食
などの欠陥形成を模式的に図 6.1 に描いたので、
ご覧いただきたい。水分の存在下では、はんだ自
体の酸化や腐食が起こる。その進行速度は合金種
類や不純物、フラックス成分残渣、基板からの溶
6.1 吸湿で起こる電子機器の故障
出イオンなどの存在により大きく影響を受ける。
湿度の高い環境は、多くの電子機器にとって最
表面の酸化、界面におけるガルバニック腐食
も注意しなければならない環境である。日本で
(Galvanic corrosion)
、ウィスカ発生などの可能
は、太平洋側で真夏は 80%の相対湿度を平気で
性がある。ウィスカに関しては、鉛フリー化にお
超えるので、大変厳しい。通常、我々が湿度と単
ける深刻な問題になっているが、本稿の本題では
に呼んでいるのは、相対湿度である。つまり、あ
ないので参考文献をご覧頂きたい1)。
る温度での飽和水蒸気圧から求めた相対的な湿度
最近は、フラックスの無洗浄化が進んでおり、
になる(%の後に RH(relative humidity)を付
活性な残渣が残らずフラックスがはんだや配線を
ける)
。結露は電子機器により避けなければなら
保護する設計になっているが、フラックスが経年
ないが、真夏の昼間に胸ポケットに携帯電話を入
変化で割れたりすると、フラックス亀裂で吸水し
れて外歩きをする状況を考えると、これに近い状
やすくなるため注意が必要である。電極間に電圧
況は起こり得る。また、今日の電子機器の多くは、
が掛かる場合には、さらに反応が促進される。典
東南アジアや中南米諸国で造られ、日本、北米、
型的には、イオン・マイグレーションや CAF
欧州へコンテナ輸送している。それらの運搬中に
(conductive anodic filaments) の 形 成 で あ る。
コンテナの空調が止まってしまうような事故もあ
著しい場合には、これらにより電極間がショート
るかも知れず、想定される湿度に耐えるような材
してしまうので、注意が必要である。
料・部品の選択や品質の保証には、十分に気を付
実装におけるこれら因子の影響や各種現象のメ
けなければならない。
カニズムに関しては、まだ十分に整理されている
さて、湿度が電子機器へどう影響するかは、
とは言い難い。寿命評価試験に於いては、実際に
様々な観点から眺めないといけないが、高分子樹
何が起こり得るのかを理解して取り組まないと、
脂の吸湿による膨れ、吸湿が原因となる腐食や酸
全く的はずれな評価になるかも知れない。本節で
化、特にイオン・マイグレーションは十分に注意
は、この点に注意し、高分子樹脂が関わる実装周
し無ければならない。高分子樹脂の吸湿は、現象
りの幾つかの例を交えながらまとめよう。
としては比較的に良く理解されている。つまり、
材質とキュアの状態さえ明確になれば、水分をど
れだけ吸い込むかが予測できる。熱活性化過程に
なり、その詳細は文献 1)などが詳しい。電子機
−
器を構成する高分子樹脂には、製品パッケージの
中に電子部品のプラスチックパッケージ、アン
+
CAF
ダーフィルや接着剤、はんだのフラックス、各種
マイグレーション
基板、最近では有機半導体や導体などデバイスも
はんだの腐食
ウィスカ
ある。高分子樹脂はセラミックスや金属と比べて
水分には弱く、簡単に吸湿してしまい、常にその
CAF
基板
対策が必要である。
まず、電子機器の実装基板における腐食・酸
はんだ
配線
ガルバニック腐食
化、イオン・マイグレーション(ケミカル・マイ
図 6.1 高湿環境での各種腐食現象
541
第 8 章 電気・電子的試験法
7.1.2 電磁波シールドの原理と電磁遮蔽効果
図 7.2 は、左方の空間から電界 Ei 、磁界 Hi の
平面波が厚さ t、導電率σ、透磁率μ、誘電率ε
第 7 節 樹脂の電磁波シールド性
の板状の電磁波シールド材に垂直入射していると
きの電磁波の振る舞いを表している。
入射した平面波の一部はシールド材表面 z=0
の境界において電界 Er、磁界 Hr の平面波として
はじめに
左方の空間に反射し、残りは電界 E1、磁界 H1 の
平面波としてシールド材内部に透過する。透過し
電磁波シールドにおいて、軽量化、低コスト化
のために樹脂を用いたシールド材(以下、樹脂
た平面波はシールド材内部で減衰を受けつつシー
シールド材と記す)がしばしば使用される。樹脂
ルド材裏面 z=t に達し、裏面境界において一部
は電界 E2、磁界 H2 の平面波として反射し、残り
シールド材の電磁波シールドの原理は通常の導体
による電磁波シールドの原理と変わることはな
は電界 Et、磁界 Ht の平面波としてシールド材裏
く、基本的には、材料固有の導電率、透磁率、厚
面の右方空間へと透過する。なお、シールド材内
さ、シールドしたい電磁波の周波数によって、そ
部ではシールド材の表面 z=0 と裏面 z=t の境界
の性能は決定される。
間で多重反射を繰り返すので、左方空間への反射
本節では、電磁波シールドの設計、解析に必要
波と右方空間への透過波は、多重反射の影響も含
な基礎および理論等について解説する。
んだものとなる。
シールド材に入射した平面波は、上述の振る舞
7.1 電磁波シールドの基礎
いにより、シールド材の右方空間に減衰した平面
7.1.1 電磁波シールドの目的
波として現れることとなる。その程度は、
電子機器、回路あるいはデバイスが互いに干渉
せずに共存できるためには電磁環境をクリーンに
(7.1)
(7.2)
保つ必要がある。このように互いに共存できる能
力を、電磁両立性または電磁適合性(Electromag­
netic Compatibility、EMC)という。
電子機器、回路あるいはデバイスが互いに共存
できるためには、電子機器の発生する不要電磁波
と し て 表 さ れ、SE 値 を 電 磁 遮 蔽 効 果(Shield
の他の電子機器への干渉あるいは機器内の回路間
での干渉を抑制し、電磁環境に適合しなければな
らない。そのためには、電子機器の筐体内から筐
μ0 ε0
体外に電磁波を漏洩させない、あるいは筐体外か
μ 0 ε0
ら筐体内に外来の電磁波を侵入させないことが基
1
本であり、図 7.1 に示すように、導体板で閉曲面
を形成して筐体とし、その内部に電子機器として
1
機能する回路やデバイスを収めて電磁波シールド
2
を形成するのが一般的である。
(a)
アンテナ
シールド
2
σμε
=0
=t
(b)
シールド
図 7.2 シールド材への電磁波の入射に対する反射波
と透過波
図 7.1 電子機器の筐体による電磁波シールド
548
度よりも高温条件で試験をしてその結果から実際
の環境での安定性を評価する長期耐熱性試験があ
る。
概 説
一方、何度の温度環境まで使用可能であるか、
軟化温度や脆化温度を調べる方法、あるいは熱に
よる融解、結晶化など物質の状態の変化を調べる
方法などがある。これらの試験方法は一般的には
プラスチック製品を実用化する際、その製品が
環境試験の区分には入らないが、環境中で使用す
使用される環境での耐久性を明らかにすることは
る場合の材料選択のためには重要な特性であるの
必須である。具体的には太陽光や風雨の影響を直
で、これらの試験方法もここでは環境試験に含め
接受ける屋外での耐久性あるいは太陽光や風雨の
ている。
影響は直接受けないが高温や低温の環境でも使用
さらに、プラスチックにめっきを施した自動車
される。さらに地域によっては大気汚染物質や腐
部品、建築部材等は大気環境中の塩分や酸性雨、
食性因子の影響も考慮しなければならない。この
あるいは大気汚染物質等の腐食性因子の影響によ
ような環境での耐久性を評価する試験方法をここ
り腐食する恐れがあるため耐食性試験を行うこと
では環境試験としておく。
もある。
屋外での太陽光や風雨等の影響に対する抵抗性
本章ではこれら大気環境中で使用する場合の性
を耐候性というが、これを評価するには実際の使
能を評価する試験方法について、その方法と試験
用環境に暴露する屋外暴露試験がある。この試験
条件について解説する。
〈高根 由充〉
方法自体は屋外に一定期間放置しておくという極
めて単純な試験方法ではあるが、相互比較を可能
にするためには世界各地で同じ原則によって試験
をする必要があるため ISO でも規格化されてい
る。しかし、この方法は当然ながら暴露する場所
によって結果が異なり、また、時間もかかるのが
欠点である。その時間的な問題を解決するため実
験室内で人工光源を使用して行うのが促進暴露試
験であり様々な光源が使用されている。この促進
暴露試験はその性格上常に屋外との関係を求めら
れる宿命にあるが、この屋外との関係は技術者・
研究者にとって常に悩ましい問題である。
また、プラスチック製品が使用される環境には
日光の当たらない室内や装置の内部、あるいは自
動車のエンジンルームのような高温になる環境も
ある。このような光以外の熱と酸素等が主な劣化
要因である環境で使用される材料・製品の耐久性
を評価する方法としては、一定時間熱処理をして
反りや変色など外観上の変化や強度などの物理特
性を評価する試験、低温と高温の間をサイクルさ
せ、温湿度の急激な変化に耐える能力を評価する
試験等がある。これらは一般的には短期的な耐熱
特性である。一方、熱環境で長時間使用された後
の安定性を評価するために、実際の使用される温
557
第 9 章 環境試験法
第 1 節 屋外暴露
はじめに
高分子材料及び製品の使用される環境は、寒冷
地から高温多湿な熱帯地方、あるいは高温乾燥の
砂漠地方など幅広い地域に及ぶ。これら気象環境
図 1.1 直接暴露試験の例
条件が異なる地域での耐久性を評価するための試
験方法の一つに実際の環境に暴露する屋外暴露試
験方法がある。この試験方法にはいくつかの方法
がり、目的により、また、場所によって試験方法
や条件が異なる。この章ではこれら大気環境での
耐久性を評価する試験方法について説明する。
1.1 屋外暴露試験
高分子材料及び製品を屋外で使用した場合の耐
久性を評価する試験方法の一つとして、実際の屋
外環境に暴露する屋外暴露試験方法がある。高分
子材料及び製品の屋外暴露試験方法としては、
図 1.2 窓ガラス越し暴露試験の例
ISO 877 シリーズ(第 1 部通則、第 2 部直接暴露
及び窓ガラス越し暴露、第 3 部太陽追跡集光暴
間の接触による影響が生じないように、適当な間
露)を翻訳した JIS K 7219 シリーズあるいは多
隔を空けて、試料に余分な外力が加わらないよう
くの工業材料製品を対象とする JIS Z 2381(大
に固定することが原則である。
気暴露試験方法通則)がある。直接暴露試験とは
1.1.2 窓ガラス越し暴露試験
太陽光や風雨を直接受ける試験、窓ガラス越し暴
窓ガラス越し暴露試験は、雨、雪などの直接的
露試験(アンダーグラス暴露試験とも言う。
)と
な影響を除くために、上面を板ガラスで覆った試
は室内使用を模擬するためガラス越しの太陽光に
験箱内に試料を取り付け、板ガラスを透過した太
暴露する試験である。第 3 部はフレネル反射鏡に
陽光に暴露して、試料の化学的性質、物理的性質
より太陽光を集光して試験片に照射する屋外にお
及び性能の変化を調査する暴露試験方法である。
ける促進暴露試験であるが、我が国の気象条件に
窓ガラス越し暴露試験装置の型式として、表面
は適さないのでこの JIS には採用されていない。
はガラス箱で覆い裏面が解放されている自然通風
ここでは、これらの規格に規定されている試験方
型あるいは裏面も金属板で覆ってしまう密閉型が
法を中心に説明する1)。
あるが、プラスチックの場合は自然通風型が最も
1.1.1 直接暴露試験
一般的である。窓ガラス越し暴露試験の一例を図
1.2 に示す。
直接暴露試験は、大気環境に試料を直接暴露し
1.1.3 その他の暴露試験方法
て、それらの化学的性質、物理的性質及び性能の
変化を調査する試験方法であり、一般的に最も広
(1)太陽追跡集光暴露試験
く利用されている方法である。直接暴露試験の一
太陽追跡集光暴露試験方法は、太陽放射光の光
例を図 1.1 に示す。試料の取り付けは、試料相互
軸方向を垂直に追跡し、フレネル反射鏡を用いて
558
第 2 節 促進耐候性
プ式耐候性試験機の例を示す。
2.2 光 源
第 2 節 促進耐候性
促進耐候性試験の光源は、前述したようにキセ
ノンアークランプ、紫外線蛍光ランプ、オープン
フレームカーボンアークランプ、紫外線カーボン
アークランプ、メタルハライドランプ等がある。
図 2.2~図 2.4 に各光源の分光分布の例を示す。
プラスチックの促進耐候性試験は、主に ISO
4892 シリーズ(実験室光源による暴露試験方法)
6
を翻訳した JIS K 7350 シリーズによって行われ
5
各部に共通する通則、第 2 部以下が試験に使用す
4
W/m2/nm
ている。この規格は 4 部構成から成り、第 1 部が
る光源となっている。具体的には第 2 部がキセノ
ンアークランプ、第 3 部が紫外線蛍光ランプ及び
第 4 部がオープンフレームカーボンアークラン
紫外線カーボン
キセノン
3
太陽光
2
プ(いわゆるサンシャインカーボンアークラン
オープンフレーム
カーボン
1
プ)である。また、この規格には入っていないが
0
250
歴史的に古くから使用されている光源として紫外
350
450
線カーボンアークランプ、さらに、標準化はされ
キセノン
ていないが近年よく使用されるようになった光源
紫外線カーボン
放射照度[W/(m ・nm)]
らの光源を中心に実験室光源による暴露試験(以
下、促進耐候性試験という。
)方法について説明
2
する1)。
2.1 試験装置の概要
促進耐候性試験機は、試験槽の中央に取り付け
られた発光部、発光部の周りに設けられた回転機
構を備えた試験片保持枠(ラック)
、噴霧装置、
図 2.1 にオープンフレームカーボンアークラン
試験片ホルダ
コントロールパネル
運転時間計
電流計
圧力計
温度記録計
ラック回転機構
減圧弁
1
太陽光
0.8
0.6
0.4
0.2
タイプ 1A ランプ
260 280 300 320 340 360 380 400
60
配電盤
ラック
太陽光
ランプ)の分光分布の例4)
ブラックパネル温度計
電圧計
オープンフレームカーボン
図 2.3 紫外線蛍光ランプ(タイプ 1A(UVA-340)
発光部
噴霧ノズル
750
波長(nm)
分光放射照度(W/m2・nm)
試験片
1.2
0
試験槽内部の温湿度を調整する装置等からなる。
太陽電池式照度計
650
図 2.2 各種光源の分光分布の例3)
としてメタルハライドランプがある。今回はこれ
ガラス製フィルタ
550
(nm)
送風機
アーク安定装置
50
40
30
20
10
0
250 300 350 400 450 500 550 600 650 700 750 800
波長(nm)
図 2.1 オープンフレームカーボンアークランプ式耐
候性試験機の例2)
図 2.4 メタルハライドランプの分光分布の例5)
563
第 9 章 環境試験法
すいくつかの試験方法が規定されている。これら
は試料を高温に保たれた槽(試験機)の中で加熱
処理する試験に関するものであり、表中のいずれ
第 3 節 熱安定性
の規格にも用いられている試験機は強制循環式の
オーブンである。
この試験機は JIS B 7757 に規定されているよ
うに、強制的に空気をオーブンに送り込み、循環
ゴムやプラスチックなどの材料は熱に対して永
させることで常に空気中の酸素と熱により材料の
久に安定ではなく環境温度の影響により不安定に
劣化を促進させる装置である。空気以外を媒体と
なり変化を起こしやすい。しかしながら、特殊環
する水槽や油槽などの恒温槽に比べて空気槽は温
境で使われる材料を除けば純粋に熱だけが材料に
度分布が均一になりにくいが、一定の空気を循環
影響を与える状況は実際にはほとんどないだろ
させることで槽内の温度分布を均一に保つ構造に
う。通常の材料は熱以外の環境因子との相乗効果
なっている。JIS には温度分布や風量の他に送り
により安定を失っていく。材料は自然環境下にお
込む空気の量として空気置換率が規定されている
いて熱、紫外線、酸素、水分、NOx、SOx など
ので、定期的にそれらの条件を確認して試験の信
の環境因子の相乗効果により物理変化や化学変化
頼性を高める。ばらつきを抑えるためには試験機
が進むと考えられている。例えば室内の日光の当
を温度が管理された部屋に置くことも必要であ
たらない場所で使用されている製品の部品材料で
る。これらの条件を正確に制御することで熱安定
あれば、紫外線や NOx、SOx などの影響はほと
性をより正確に評価することができる。JIS K
んどないので、熱と空気中の酸素、水分の相乗効
6257 によれば、強制循環式オーブンは風の流れ
果によりそれらの変化は進むだろう。変化の度合
の方向によって縦風式と横風式に分けられ、横風
いは温度や酸素、水分の濃度に影響を受けると考
式のオーブンは一般にギヤー式オーブンと呼ばれ
えられる。ある環境で用いられる材料の熱安定性
ている。さらに、附属書 B では縦風式と横風式
を予測したい場合には、実際の使用環境温度にお
の試験精度を比較している。ほとんど同一の精度
いてその状態を評価するのが一番理想かもしれな
であるが横風式の方がわずかに精度はよく、老化
いが、おそらく長時間かかるので、使用環境より
特性の変化はわずかに横風式の方が大きいとして
も高い温度で試験を行うことが多い。高温では酸
いる。
化反応による変化は促進されてより早く材料の熱
一方、JIS K 6257 では強制循環式のオーブン
酸化が起こると考えられる。そして、その評価の
とは対照的に自然対流式の試験機も規定されてい
信頼性を高めるためには空気などの条件も制御す
る。この試験機では、空気を強制的に送り込まな
ることが必要になる。
いために空気は緩やかに移動する。強制循環式で
ゴムやプラスチックなどの材料の熱に対する安
は空気が風として移動するのに対して自然対流式
定性を評価するために、JIS 規格では表 3.1 に示
では空気が対流によって移動し、主に熱だけによ
る劣化を評価したい場合の試験方法である。一般
表 3.1 ゴムやプラスチック材料の熱に対する安定性
評価に関する試験規格例
に自然対流式オーブンは空気の移動が自然対流に
よって起こるので強制循環式に比べても温度分布
・JIS K 6257:2010 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-熱老化
特性の求め方
が均一になりにくい。汎用の恒温乾燥機では送風
式が±2~3%の温度分布精度なのに対して自然
・JIS K 7212:1999 プラスチック-熱可塑性プラスチッ
クの熱安定性試験方法-オーブン法
対 流 式 で は±5~10% の 温 度 分 布 精 度 で あ る。
従って、試験が長期間になれば槽内での試料の劣
・JIS K 7368:1999 プラスチック-ポリプロピレン及び
プロピレン共重合体-空気中での熱
酸化安定性の測定方法-オーブン法
化にばらつきが出てくるかも知れない。そのよう
なことを極力抑えるために、試料の位置を定期的
・JIS B 7757:1995 強制循環式空気加熱老化試験機
に置き換えたりすることでばらつきを抑えたりす
568
第 9 章 環境試験法
4.1 耐寒性試験の例
前述のとおりプラスチックの耐寒性試験は、低
温環境下におけるぜい(脆)化を求める試験方法
第 4 節 耐 寒 性
が多い。ここでは、衝撃及び剛性から耐寒特性を
求める試験方法を紹介する。
4.1.1 ぜい化試験
ぜい化試験は、試験片の一端を片持ちはり(梁)
はじめに
の状態で試験片つかみ具に固定したもの(図 4.1
プラスチック材料は、高温・低温において用い
参照)を、ぜい化温度試験装置(図 4.2 参照)に
ることができる範囲に限度があり、特に使用環境
装着し、試験温度に冷却した試験槽(一般に、伝
が材料のガラス転移点(Tg )よりも低くなると
熱媒体にはエタノールが用いられる。
)の中で 3
粘性挙動がなくなり、衝撃に対して著しく低下
±0.1 分間保持した後に、打撃ハンマを作動させ
し、ぜい(脆)化の傾向を示すため、材料の耐寒
て 1 回の衝撃を加え、破壊した試験片の個数から
(冷)性能を正確に把握することは極めて重要で
ある。このような低温環境下、特に氷点よりも低
い温度における安定性・抵抗性を耐寒性という。
試験片押さえねじ
試験片つかみ具本体
表 4.1 にプラスチックの低温における性能を評
価する試験方法を一覧にしたものを示す。
耐寒性試験は、用いるプラスチック材料の低温
環境下における使用限度温度の推測を目的とした
ものであり、低温環境下における剛性、破壊エネ
ルギー、弾性の低下を把握する試験及び用いる材
試験片
料が連続使用に適切であるかを評価する環境試験
試験片押さえ
に分類することができる。
図 4.1 試験片つかみ具の例1)
表 4.1 耐寒性試験の分類
物理的特性
機械的特性
試験項目
マルチポイントデータ取得
規格番号
備考
JIS K 7141-1
機械的特性
JIS K 7141-2
熱特性及び加工特性
動的粘弾性
JIS K 7244
JIS K 7244-1~-7、K 7244-1-10
ねじり
柔軟温度、ねじり剛性率
JIS K 6773
クラッシュベルグ柔軟温度
衝撃
パンクチャー衝撃試験(計装化) JIS K 7211-2
マルチポイントデータ取得
変形
圧縮永久ひずみ
JIS K 6262
低温圧縮永久ひずみ
ぜい化温度
JIS K 7216
プラスチックのぜい化温度試験方法
JIS K 6924-2
耐寒性
衝撃ぜい化試験、ゲーマンねじり JIS K 6261
試験及び弾性回復試験(TR 試験)
耐寒試験
電気・電子部品 低温(耐寒性)試験方法
耐冷温度
日用品の耐熱温度(表示)
ねじり剛性率測定機
加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの低温特性
JIS K 6772
箇条 7.9(耐寒試験)
JIS C 60068-2-1
発熱及び非発熱供試品の低温(耐寒性)試験
JIS C 60068-2-50
発熱及び非発熱供試品の低温/振動複合試験
JIS C 60068-3-1
低温試験及び高温試験の必須情報
家庭用品品質表示法 合成樹脂製品品質表示規定
570
第 9 章 環境試験法
度などの物理的変化、燃焼性による熱分解など実
に広範囲であり、これまでに評価する試験方法も
多数開発されてきた(表 5.1)
。
第 5 節 耐 熱 性
また、プラスチック材料は、金属材料と比較す
ると、状態の変化が生じる温度が非常に低く、用
いるプラスチック材料の耐熱性を把握することは
非常に重要である。ここでは、耐熱性試験を短期
はじめに
耐熱性と長期耐熱性とに分類し、できるだけ多く
の試験方法を紹介していく。
耐熱性とは、プラスチック材料の熱に対する抵
抗性・熱安定性のことである。耐熱性という言葉
5.1 短期耐熱性
には、熱による反り、変形、変色などの外観の変
化から機械的特性の温度依存性、熱伝導性、温度
短期耐熱性を評価する試験方法は、試験片に規
変化に伴うガラス転移温度、融解温度、結晶化温
定された力を与えた状態で昇温させ、規定変位量
表 5.1 耐熱性試験の分類(1/2)
物理的特性
機械的特性
熱の移動
熱力学特性
試験項目
マルチポイントデータ取得
熱伝導率
熱安定性
規格番号
備考
JIS K 7141-1
機械的特性
JIS K 7141-2
熱特性及び加工特性
JIS K 7141-3
特性への環境影響
JIS A 1412-1
保護熱板法(GHP 法)
JIS A 1412-2
熱流計法(HFM 法)
JIS A 1412-3
円筒法
JIS K 7120
熱重量(TG)
、融解温度(Tm)
、 JIS K 7121
ガラス転移温度(Tg)
結晶化温度(Tc)
示差熱分析(DTA)
示差走査熱量測定(DCS)
転移熱(Δ H)
JIS K 7122
DSC 装置
比熱容量(Cp)
JIS K 7123
線膨脹率
JIS K 7197
TMA
JIS K 7191-1
通則
JIS K 7191-2
プラスチック及びエボナイト
JIS K 7191-3
高強度熱硬化性樹脂積層材及び長繊
維強化プラスチック
ヒートサグ
JIS K 7195
片持ちはり(梁)による方法
ビカット軟化温度
JIS K 7206
動的粘弾性
JIS K 7244-1
通則
JIS K 7244-2
ねじり振子法
JIS K 7244-3
曲げ振動-共振曲線法
JIS K 7244-4
引張振動-非共振法
JIS K 7244-5
曲げ振動-非共振法
JIS K 7244-6
せん断振動-非共振法
JIS K 7244-7
ねじり振動-非共振法
JIS K 7244-10
平行平板振動レオメータによる複素
せん断粘度
ボールプレッシャー
JIS C 60695-10-2
絶縁材料の耐熱性
圧縮永久ひずみ
JIS K 6262
高温圧縮永久ひずみ
変形性
荷重たわみ温度
(反 り、 曲 が り、
変形)
574
―
第 9 章 環境試験法
定する。
試験は、実施する試験の目的により、下記の 3
種類(Na、Nb、Nc)に分類される。
第 6 節 ヒートサイクル
(1)試験 Na;試験体を規定時間で移し換え
る温度急変試験
試験 Nc;二液槽温度急変試験
概 要
①規 定サイクル数の温度急変を行った後
に電気的性質を評価する場合
ヒートサイクル試験は大きく二つに分類され、
一つは一定間隔で温度又は温度/湿度を繰り返し
②機構部分、材料及び材料の組合せが、温
変化させた環境の中で行う試験と、もう一つは急
度急変に耐える適性を評価する場合
激な温度変化を繰り返し与える環境(例えば、
③構成機器の構造が、人為的環境ストレス
に耐える適性を評価する場合
90℃と-40℃)の中で行う試験があり、これは冷
(2)試験 Nb;定速温度変化試験
熱衝撃試験と呼ばれる。
①温 度が変化している状態で電気的性質
本試験は、主として電気・電子部品、自動車部
又は機械的性質を評価する場合
品及び太陽電池部材等の信頼性評価のために行わ
れる。
以下、個々の試験について説明する。
6.1 関連規格
(1)試験 Na;試験体を規定時間で移し換える温
表 6.1 に代表的な規格を記載した。ここでは、
度急変試験
① 概 要
主に電気、電子分野の規格を示す。
この試験は、試験体が周囲温度の急激な変化に
6.2 試験の概要
耐える能力を調べるために行う。この目的を達成
6.2.1 JIS C60068-2-14:20111)
するために必要なさらし時間は、試験体の特性に
この温度変化試験は、温度変化又は温度変化の
よって決定する。空気又は不活性ガス中で、低温
繰返しが、電気 ・ 電子部品、機器又はその他の製
及び高温に交互に置くことによって、試験体に急
品に与える影響を確かめることを目的としてい
激な温度変化を与える。
② 試験サイクル
る。
図 6.1 に試験サイクルを示す。
この規格は、電気 ・ 電子部品、機器又はその他
の製品が周囲温度の急激な変化に耐える能力を試
(2)試験 Nb;定速温度変化試験
験する方法について規定している。この試験に必
① 概 要
要な試験時間は、試験する製品の特性によって規
この試験は、試験体が周囲温度の変化する条件
表 6.1 代表的な試験規格
JIS C60068-2-14:2011 環境試験方法―電気・電子―第 2-14 部:温度変化試験方法
対応 ISO 規格;IEC 60068-2-14:2009 <IDT>
JIS C60068-2-38:2013 環境試験方法―電気・電子―第 2-38 部:温湿度組合せ(サイクル)試験方法
対応 ISO 規格;IEC 60068-2-38:2009 <IDT>
JIS C8917:1998 結晶系太陽電池モジュールの環境試験方法及び耐久性試験方法
対応 ISO 規格;IEC 61701:1995 <MOD>、IEC 61215:1993 <MOD>
JIS C8938:1995 アモルファス太陽電池モジュールの環境試験方法及び耐久性試験方法
対応 ISO 規格;IEC 68-2-2:1974<MOD>、2-21:1983:1983<MOD>、2-52:1980<MOD>
JIS C5012:1993 プリント配線板試験方法
対応 ISO 規格;IEC 60326-2:1990<MOD>、-4:1980<MOD>、-5:1980<MOD>、-6:1980<MOD>
588
第 7 節 塩水噴霧
7.1.1 塩 分
塩分(Cl-)は、腐食促進過程において触媒の
役目を果たし、腐食進行の速度を速める作用があ
第 7 節 塩水噴霧
る。実環境での塩分は大きく分けて 2 つ形態があ
り、1 つは海からの潮風に含まれる海塩粒子であ
り、もう 1 つは冬場凍結防止のために道路に散布
する融雪塩である。
(1)海塩粒子
プラスチック上に装飾用の目的で電気めっきや
気相めっきを施す場合がある。電気めっきとして
海岸地域は、海からの潮風に含まれる塩分(海
は銅やニッケルめっきを下地としたクロムめっき
塩粒子)の影響を直接受けている。そのため海岸
やスズ-コバルト合金等のめっきが、気相めっき
から近いところで使われる電化製品、自動車、建
としては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプ
築物はこの影響で早期に腐食するということが分
レーティング、化学蒸着による種々の金属コー
かっている。また海岸に近いほど海塩粒子量が多
ティングが挙げられる。また、真空蒸着を施した
く、その腐食量に強く影響を与えている1)。
フィルムを貼り付けるホットスタンプを使う場合
(2)融 雪 塩
もある。これらのめっきは、家電製品、自動車部
積雪の多い地域においては、路面の凍結防止の
品、家具、建築物等に多く使われている。
ために塩化ナトリウム、塩化カルシウム、岩塩等
しかし、これらのめっきを施した部品は使用過
が融雪塩として散布されている。融雪塩散布後の
程で腐食環境に曝されると腐食するという懸念が
路面は、塩分を含んだシャーベット状となり非常
あり、その腐食でめっきが変色する、剥がれる等
にぬかるんだ状態になっている。この路面を自動
装飾性を損ねてしまうという結果となる。そこ
車が走ると、車輪で跳ね上げられた塩泥が車両の
で、めっきの腐食に対する性能およびその品質を
各部位に付着し腐食を促進させたり、塩分を含ん
確保するという観点から、事前にめっき材料を評
だ水が舞い上がって建築物等にまで付着して装飾
価しておく必要がある。この腐食試験としては塩
品としてのめっきを腐食させたりする1)。
水噴霧試験が一般的に用いられている。
7.1.2 温度・湿度
温度・湿度も腐食の促進を左右する重要な因子
7.1 塩水噴霧試験の原理
である。一般的に温度が高くなると化学反応速度
めっき用金属材料は大気環境に曝されると大気
は上昇する。しかし、温度が高くなると金属表面
中の酸素と水の存在のもと電気化学反応が起こり
に付着した水膜中で腐食に影響を与える酸素の溶
腐食する。
解度が低下する。この結果、腐食速度はある温度
まで上昇するが、それ以上になると腐食速度が減
その電気化学反応は金属の表面上に局部電池を
少する1)。
形成し、アノード反応が金属の溶解反応、カソー
ド反応が酸素の還元反応となり、次のように示さ
また一方で、腐食が進行するためにはある程度
れる。
の水分(湿度)が必要である。一般的に一定の湿
アノード反応:金属(M)の溶解(酸化)反応
n+
度条件であれば湿度が高いほど腐食は促進す
-
る1)。
M → M +ne
7.1.3 酸 性 雨
カソード反応:溶存酸素の還元反応
-
O2+2H2O+4e
-
酸性雨は、硫化物(主に SO2)や窒素酸化物
→ 4OH
(NOX)等の大気汚染物質が大気上層部で凝縮す
実際の大気中には水分/湿度や酸素だけでな
く、さらに腐食を促進させる塩分、大気汚染物質
るとき水分に混入し、それが雨となって地上に降
やその影響による酸性雨等が腐食促進要因として
るものである。大気汚染物質が混入した水滴はか
存在する。
なりの酸性となっており、SO2 や NOX は金属表
これらの腐食促進要因について詳しく説明する。
593
面の水膜に溶け込むと酸化還元反応を促進するた
ンスが重要となる。
これらを踏まえて、材料を開発するうえで、性
能の確保と同様に安全性の確保も重要な課題と
概 説
なっている。本章では、日本での化学物質管理の
根幹となっている化審法、その他の法律関係、さ
らには化学物質から製品における安全性を確保す
るための試験法について紹介する。
〈菊地 貴子〉
プラスチックおよびプラスチック系複合材料な
どの高分子材料は、日用品から農林・水産業用、
工業用、医療用、自動車産業など幅広い分野で普
及し、社会、経済活動にとって必要不可欠な存在
となっている。それらの高性能な材料の開発に
よって、我々は快適な生活環境を享受してきた。
しかしながら、それらの発展の歴史には、公害や
環境汚染等の問題があったことも事実である。第
二次世界大戦後の先進工業国では、急速な経済発
展、生活規模の拡大により、排ガス、排水、廃棄
物等が飛躍的に増加し公害問題等を引き起こし
た。1962 年にレイチェル・カーソンが「沈黙の
春」で化学物質による環境汚染の重大性について
発表し、1972 年にはローマクラブから幾何級数
的な成長は持続不可能であるという「成長の限
界」という報告がなされ、地球環境問題に対して
警告がなされた。これらを踏まえ、地球環境保全
のため、1992 年にブラジルのリオデジャネイロ
で「環境と開発に関する国連会議(地球サミッ
ト)
」が開催され、持続可能な開発を実現するた
めに「環境と開発に関するリオ宣言」が採択され
た。そこでの実施計画書であるアジェンダ 21 第
19 章「有害化学物質の環境上適正な管理」が化
学物質管理の国際的な取り組みの基礎となってき
ている。化学物質の管理は、従来の多くは固有の
危険性・有害危険性(ハザード)を基準に規制さ
れており、ハザードが大きい物質、発がん性物質
等は製造、取扱、使用の制限されてきた。しかし
ながら、実際の化学物質による有害危険性の程度
(リスク)は、その物質にどの程度接触したり、
摂取(暴露)したりするかによるものである。そ
こで、有害危険性だけでなく暴露の程度の評価も
合わせて行い、その結果から得られるリスクの大
きさを評価して、管理内容を決めていくリスク管
理へ移行してきている。実際の運用では、そのリ
スクとベネフィット(利便性・有用性)とのバラ
601
第 10 章 安全性試験法
を世界に先駆けて公布した(昭和 48 年(1973 年)
10 月 16 日公布、昭和 49 年(1974 年)4 月 16 日
施行)
。本節では化審法における材料の安全性の
第 1 節 化学物質審査規制法
評価方法について紹介する。
1.1 化審法
本法の対象となる化学物質は、一般工業化学品
はじめに
に用いられる物質である。元素や天然物のほか、
我々の社会は化学物質に大きく依存しており、
化審法と同等以上の厳しい規制(毒劇物法)や用
その適切な利用により快適な生活環境を手に入れ
途に応じた他の規制(食品衛生法)が講じられて
ている。一方で、化学物質はその性質から、使用
いる場合は除かれる。化審法において、化学物質
方法を誤ると人の健康や環境への影響をもたらす
は既存化学物質と新規化学物質に分類され、前者
可能性がある。よって、化学物質と調和した安
は化審法公布以前にすでに製造・輸入していた化
全・安心の社会を築くためには、有効な化学物質
学物質が該当する。届け出たい物質が化審法の既
管理・規制が必要となる。
存化学物質等であるか否かを調べる場合、例え
ば、独立行政法人 製品評価技術基盤機構が提供
材料の性能・評価試験技術において、人や環境
への材料の安全性を確認(評価)することは極め
する化学物質総合情報提供システム(CHRIP)
て重要である。我が国においては、1950 年代半
が利用できる。新規化学物質(注意:ここでは、
ばから公害問題の原点とも言われる有機水銀化合
「3.化審法における高分子化合物の試験法」以降
物による水俣病が発生したが、昭和 31 年(1956
に記載する高分子化合物に該当しない新規化学物
年)の公式確認から半世紀以上経った今でも、国
質について記載している)については、表 1.1 に
家賠償訴訟が行われている。有用な化学物質の利
示す試験方法の中から製造・輸入予定数量に応じ
用に起因する人の健康への被害としては、昭和
て定められた試験を GLP 基準(試験の信頼性保
40 年代初期のポリ塩化ビフェニル(PCBs)によ
証基準)に適合した施設で実施し、分解性(自然
る環境汚染問題から顕在化した。PCBs は、化学
的作用による化学的変化を生じにくいものである
的な安定性、絶縁性、不燃性等の特性を有するこ
かどうか)
、蓄積性(生物の体内に蓄積されやす
とから、トランス等の絶縁油、熱媒体等幅広い分
いものであるかどうか)
、人への長期毒性(継続
野で使用された。しかしながら、昭和 41 年(1966
的に摂取される場合には、人の健康を損なうおそ
年)以降、世界各地の魚類等の体内から PCBs が
れがあるものであるかどうか)
、生態毒性(動植
検出され、この物質による広範な環境汚染が明ら
物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがあ
かとなった。我が国においては、昭和 43 年(1968
るものであるかどうか)に関する事前審査を受け
年)に、熱媒体として使用されていた PCBs が精
ることになる。ただし、中間物(化学反応を通じ
製中の食用油に混入し、人の健康被害を発生させ
て、全量が他の化学物質(医薬品等、化審法の審
るというカネミ油症事件が起こった。
査対象外のものの場合にはその成分を含む)に変
このような経験を踏まえ、我が国では、人の健
化するもの)や閉鎖系等用途(施設又は設備の外
康を損なうおそれ又は動植物の生息若しくは生育
へ排出されるおそれのない方法で全量が使用され
に支障を及ぼすおそれがある化学物質による環境
るもの)等のいくつかの場合には、環境を汚染す
汚染を防止するため、新規の化学物質の製造又は
る可能性がないものとして届出免除措置が適用さ
輸入に際し事前にその化学物質の性状に関して審
れ、事前確認を受けることにより製造・輸入が可
査する制度を設けるとともに、その有する性状等
能となる。
に応じ、化学物質の製造、輸入、使用等について
新規化学物質の審査項目は製造・輸入予定数量
必要な規制を行うことを目的に「化学物質の審査
によって区分され、製造・輸入予定数量の全国年
及び製造等の規制に関する法律」
(以下、化審法)
間総量が 1 トン以下の新規化学物質については、
602
第 10 章 安全性試験法
が多く、また様々な複合要因が考えられることか
ら、シックハウス症候群と呼ばれる。
」とされて
いる。世界保健機構(WHO)では、室内空気汚
第 2 節 揮発性物質
染物質源となりうる有機化合物を沸点に応じて表
2.1 に示すような 4 種類に分類している。室内空
気汚染物質濃度については、WHO がガイドライ
ン値を制定しており、国内でも厚生労働省が化学
揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound)
物質の室内濃度指針値及び測定方法を示してい
は VOC とも略され、塗料、印刷インキ、接着剤、
る。表 2.2 は厚生労働省が示す室内空気中化学物
洗浄剤、ガソリン、シンナーなどに含まれるトル
質の室内濃度指針値であり、総揮発性有機化合物
エン、キシレン、酢酸エチルなどのような有機溶
(TVOC)は暫定指針値である。文部科学省も
剤等が代表的な物質である。大気中の光化学反応
2004 年に学校環境衛生の基準を改正し、ホルム
により光化学オキシダントや浮遊粒子状物質
アルデヒド、トルエン、キシレン、p-ジクロロ
(SPM)の二次生成粒子の主たる原因物質となり、
ベンゼン、エチルベンゼン、スチレンの 6 物質に
大気や水質などの環境に影響を及ぼす可能性が指
判定基準を定めている。建築材料についても、
摘されている。また、住環境の高気密・高断熱化
2003 年 7 月建築基準法の改正によって、クロル
に伴い、建材や家具、日用品などの接着剤、塗料、
ピリホスの全面使用禁止及びホルムアルデヒド放
防蟻剤などから放散する VOC 等の室内濃度が高
散量による建築材料の等級分けがなされた。これ
くなり、シックハウス症候群の要因物質ともいわ
らの動きは建築材料にとどまらず、家電・コピー
れている。シックハウスとは、厚生労働省の参考
機などにも広がりをみせており、自主規格および
定義によると、
「住宅の高気密化や化学物質を放
JIS の制定も行われている。
散する建材・内装材の使用等により、新築・改築
2.1 建築基準法による規制
後の住宅やビルにおいて、化学物質による室内空
気汚染等により、居住者の様々な体調不良が生じ
建築物に使用する建材中のシックハウスの原因
ている状態が、数多く報告されている。症状が多
となる化学物質の濃度を下げるため、2003 年 7
様で、症状発生の仕組みをはじめ、未解明な部分
月に建築基準法が改正され、ホルムアルデヒドお
表 2.1 WHO(世界保健機構)による有機化合物の分類
名称
高揮発性有機化合物(VVOC)
(超揮発性有機化合物)
Very Volatile Organic Compounds
揮発性有機化合物(VOC)
Volatile Organic Compounds
準揮発性有機化合物(SVOC)
(半揮発性有機化合物)
Semi Volatile Organic Compounds
沸点
50℃未満
化合物の例(沸点)
メタン(-161℃)
ホルムアルデヒド(-19℃)
アセトアルデヒド(20℃)
ジクロロメタン(40℃)
酢酸エチル(77℃)
50℃以上 エタノール(78℃)
260℃未満 トルエン(110℃)
キシレン(140℃)
クロルピリホス(290℃)
260℃以上
フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)(340℃)
400℃未満
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)(390℃)
粒子状有機化合物(POM)
(粒子状有機物)
PCB(ポリ塩化ビフェニル)
Organic compound associated with 400℃以上
ベンゾピレン
particulate matter
or Particulate Organic Matter
608
第 3 節 溶出試験
微量分析には質量分析計(MS)が有効である。
ヘッドスペース GC 法の場合、モノマーの加熱追
第 3 節 溶出試験
(重金属、モノマー)
い出し効率や熱分解によるモノマーの生成の有無
等を確認する必要がある。
試料が溶媒に溶ける場合には、試料を溶解させ
そのまま GC に注入することも可能であるが、溶
媒で希釈する必要があるため定量下限値は高くな
材料を使用する際にはそれぞれの材料に応じた
る。例えば、ポリスチレンは N,N-ジメチルホル
リスクが伴う。特に、材料の未反応あるいは不完
ムアミド(DMF)に、ナイロンは 85%ギ酸水溶
全に反応したモノマーや重金属は使用条件によっ
液に溶解させ、GC 分析に供する。溶液をヘッド
て溶出し、安全性に大きな影響を及ぼす可能性が
スペース GC に供すれば微量成分までの定量が可
高い。そこで、使用する前に残存モノマー量の把
能となる。これらの手法を用いて、義歯床用アク
握や溶出試験等を行い、安全性を評価する必要が
リル系レジン中のメタクリル酸メチルモノマー残
ある。本節では、残存モノマーの定量法、器具・
留量(JIS T6501)や塩化ビニルホモポリマー及
容器包装の規格試験、欧州連合(EU)での玩具
びコポリマー中の残留塩化ビニルモノマー(JIS
安全規格を紹介する。また、材料は使用後最終的
K7380-1)等については、JIS 化されている。
揮発性がないモノマーの場合は、溶媒で抽出す
に廃棄処分されることから、廃棄及び再利用時の
るか、試料を溶解させて HPLC(高速液体クロマ
安全性基準についても記す。
トグラフ)で定量する。
3.1 残存モノマー
3.2 器具・容器包装
揮発性があるモノマーの測定は、ヘッドスペー
ス法で行うのが一般的である。詳細は第 2 節揮発
食品の器具、容器包装に用いられる製品にはそ
性物質に示すが、ヘッドスペース法でガスを採取
れぞれの材質に応じたリスクがある。例えば、ガ
し GC(ガスクロマトグラフ)に導入する方法と、
ラスには鉛などの重金属が溶出する可能性があ
オンラインのヘッドスペース GC 法がある。ヘッ
り、合成樹脂やゴムには残存している原料のモノ
ドスペース GC は、バイアルに封入した試料を一
マーや添加剤が溶出する可能性がある。そこで、
定時間保温することで気相と試料を平衡状態に
安全・衛生上の見地から食品衛生法を制定し「食
し、その気相部分(ヘッドスペース)を直接 GC
品添加物等の規格基準」で法規制をしている。食
に導入し分析する手法になり、概要を図 3.1 に示
品衛生法の概要は 5 節の製品安全にて後述する
す。試料成分のうち揮発性の高いものが気相に濃
ので、本節では試験方法を紹介する。
縮されるため、加熱により放散される揮発性物質
試験は大別すると材質試験と溶出試験になる。
(溶剤や残存モノマー等)を精度よく分析するこ
材質試験ではモノマー、添加物及び重金属などを
とができる。検出器には水素炎イオン化検出器
定量し、溶出試験では溶け出す有害物質を定量す
(FID)や熱伝導度検出器(TCD)等があるが、
ることで安全性を評価している。溶出試験では、
食品に見立てた擬似溶媒を一定の温度と時間で器
キャリアガス
具・容器包装に接触させ、擬似溶媒に溶け出た化
学物質の量を測定する。擬似溶媒には、中性及び
アルカリ性食品に対しては水を、酸性食品に対し
バイアル
ては 4%酢酸を、酒類に対して 20%エタノール
試料
を、油脂及び脂肪性食品に対して n-ヘプタンを
検出器
加熱
用いる。次に材質ごとに試験内容を示す。
ガスクロマトグラフ
図 3.1 ヘッドスペース GC 法概要
615
第 4 節 毒性試験
接触」に分けられ、接触期間が長いほど、より多
くの評価項目が考慮される。本節では、生体との
接触部位や接触期間に関わらず考慮すべき評価項
第 4 節 毒性試験
目として挙げられている基本的な試験項目とし
て、培養細胞を用いる細胞毒性試験を紹介する。
なお、上述の皮膚感作性試験も細胞毒性試験と同
様に、生体との接触部位や接触期間に関わらず考
はじめに
慮すべき評価項目とされている。さらに、細胞毒
新機能を持った材料が開発され、長寿命や高品
性試験は医療機器の安全性評価だけではなく、動
質を誇る製品が作り出されることで、我々は快適
物を用いる急性毒性試験の代替法や効率化方法と
な生活を享受している。この快適さの前提には
しても考えられている2)。
「安全・安心な社会の構築」が必須であることは
ここで、毒性試験を取り巻く課題について説明
言を俟たず、材料や製品を開発する上で、その安
したい。毒性試験には、動物を使う試験(in vivo
全性評価は、性能評価と並んで重要なテーマであ
試験)と使わない試験(in vitro 試験)があるが、
1)
in vivo 試験における近年の動物愛護の考え方と
したがって、開発および製造段階における職業
して、
「3Rs」が強く求められている。3Rs とは、
る 。
ばく露や使用環境下での最終製品の安全性につい
動 物 を 使 わ な い in vitro 代 替 法 へ の 置 換
ては、事前に十分に確認されなければならない。
(Replacement)
、動物数の削減(Reduction)お
安全性評価手法については、種々の毒性試験
よび動物に対する苦痛の軽減(Refinement)を
が、経済協力開発機構(OECD)のテストガイド
指し、評価の精度を保ちながら、より動物愛護に
ライン(TG)や ISO の試験法ガイダンスとして
配慮した試験の計画と実施が求められている。
企業や大学、公的機関を問わず、動物実験施設
公的に認められている。
環境汚染を経た化学物質の安全性評価について
における動物愛護に対する取組みは標準的なもの
は、第 1 節で述べられている。そこで、本節では、
となりつつあり、国際的には国際実験動物管理公
職業ばく露に由来する皮膚疾患のなかでも多く発
認協会(AAALAC)
、日本国内では、公益財団
生する接触性皮膚炎である刺激性皮膚炎およびア
法人ヒューマンサイエンス振興財団による外部評
レルギー性接触皮膚炎の発現可能性を評価する毒
価が盛んに行われている。
性試験として、OECD TG に採択されている皮膚
このような背景に鑑み、本節で述べる 3 種の試
刺激性試験および皮膚感作性試験について紹介す
験のうち、旧来、動物を使っていた皮膚刺激性試
る。
験については、動物を使わない in vitro 代替法で
また、本書で中心的に取り上げているプラス
ある「再構築三次元皮膚モデルを用いた in vitro
チックおよびプラスチック系複合材料に代表され
皮膚刺激性試験」を紹介する。また、皮膚感作性
る高分子材料の重要な用途として、我々の健康的
試験については、これまでのモルモットを用いた
な生活を支えている医療機器が挙げられる。医療
皮膚感作性試験よりも使用動物数が少なく、動物
機器は生体に直接接触するものもあり、その安全
に与える苦痛も軽減できる「マウスを用いる局所
性評価も非常に重要である。そこで、医療機器の
リンパ節アッセイ(LLNA)
」を紹介する。
なお、in vitro 代替法の開発や進捗状況の詳細
製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価
については、日本動物実験代替法評価センター
に用いられる毒性試験についても紹介したい。医
療機器の場合、接触部位、接触期間および原材料
(JaCVAM)のホームページを参照されたい3)。
の特性等に応じて、評価すべき試験項目が異な
4.1 細胞毒性試験
る。接触期間は、累積時間として、24 時間以内
の「一 時 的 接 触 」
、24 時 間 を 超 え 30 日 以 内 の
医療機器としてのプラスチックを対象とした細
「短・中期的接触」および 30 日を超える「長期的
胞毒性試験は、ISO 規格(Biological evaluation
621
第 5 節 製品安全
C 試薬、試液等
D 器具もしくは容器包装またはこれらの原材
料の材質別規格
第 5 節 製品安全(衛生安全性)
E 器具または容器包装の用途別規格
F 器具及び容器包装の製造基準
本節では、B、D、E についてその概要を述べ
る。
(1)器具または容器包装一般の試験法(規格 B)
合成樹脂製の容器包装は、様々な製品の製造・
加工、調理・貯蔵、そして運搬・販売の各工程に
「B 器具または容器包装一般の試験法」には、
おいて広く使用されている。その容器包装の安全
「D 材質別規格」
「E 用途別規格」の試験を行
性確保のために、国や業界団体が規格や基準を制
うための試験法がまとめられている。項目とし
定し、その中で試験方法も規定している。本節で
て、過マンガン酸カリウム消費量試験法、強度等
は、食品関連の容器包装において基幹的法令であ
試験法、原子吸光光度法、重金属試験法、蒸発残
る食品衛生法を中心として、ポリオレフィンなど
留物試験法、添加剤試験法、ヒ素試験法、モノ
衛生協議会などの業界自主基準を取り上げ、食品
マー試験法、誘導結合プラズマ発光強度測定法、
の容器包装分野における試験項目と関連する分析
溶出試験における試験溶液の調製法があげられて
いる。
技術について述べる。また、医療機器・医薬品容
(2)器具もしくは容器包装またはこれらの原材料
器については、薬事法を基本に日本薬局法などで
の材質別規格(規格 D)
安全性を確保するための規格が規定されておりそ
れらについて紹介する。一方、自然環境の汚染・
器具および容器包装の規格基準の中心となる項
破壊等の環境問題の観点から、製品中の化学物質
である。
「ガラス製、陶磁器製またはホウロウ引
の安全性も問われてきている。化学物質規制の先
き」
「合成樹脂製」
「ゴム製」の器具および容器包
進 国 で あ る 欧 州 の WEEE 指 令、RoHS 指 令、
装、ならびに「金属缶」と分別され、試料の調整
REACH 規制等について述べる。
法、試験法および規格値が定められている。表 5.1
に合成樹脂製品の試験項目及び規格を示す。合成
5.1 食品器具・容器包装
樹脂製品には、すべての合成樹脂に共通して適用
5.1.1 食品衛生法
される「一般規格」と特定の 12 樹脂を対象とす
食品衛生法は、昭和 22(1947)年に制定され、
る「個別規格」があり、それぞれ材質試験と溶出
食品の安全性確保のため、食品や食品添加物が原
試験からなる。材質試験は、合成樹脂中に含まれ
料から摂取されるまでに直接接触する物品を「器
るモノマー残留量や重金属を定量して規格への適
具」
「容器」
「包装」とし適用対象としている。本
合性を判断する試験である。溶出試験は、容器包
法における容器包装に関する規格基準は、大別す
装から溶出した成分が食品へ移行して人体へ有害
ると、昭和 26 年 12 月厚生省令第 23 号「乳およ
な影響を与えることを防ぐために、所定の溶出条
び乳製品の成分規格等に関する省令」と昭和 34
件(溶媒、温度、時間)における溶出成分量を定
年 12 月厚生省告示第 370 号「食品、添加物等の
量し規格への適合性を判断する試験である。
(表
5.1)
規格基準」からなる。乳および乳製品以外の一般
用途の器具・容器包装については、告示第 370 号
(3)器具または容器包装の用途別規格(規格 E)
器具および容器包装の用途により、材質、構造、
の「第 3 器具及び容器包装」で規格基準と規格
値に対する適否判定のための試験法等が規定され
強度などに関しての安全性について規定してい
ており、以下の 6 項目で構成されている。
る。項目は 5 つで、容器包装詰加熱殺菌食品の容
器包装、清涼飲料水の容器包装、氷菓の製造等に
A 器具もしくは容器包装またはこれらの原材
使用する器具、食品の自動販売機およびこれに
料一般の規格
よって食品を販売するために用いる容器、コップ
B 器具または容器包装一般の試験法
627
概 説
を中心にそのシステムを解説する。
プラスチックのリサイクルのカテゴリーとし
て、バイオリサイクルが新たに加わった。これは、
概 説
プラスチックに含まれる炭素を、自然界の炭素循
環の中に取り込むことによりリサイクルしていく
方法である。自然界では、炭素が大気中の二酸化
炭素をスタート物質とすると、植物の光合成によ
多くのプラスチック製品が主に石油原料から大
りデンプン等の有機化合物へ固定化され、それが
量に生産され続けて、使用後に廃棄物になってい
種々の動植物中で有機物に変換されていく。これ
る。燃料のように、使用後に二酸化炭素となり、
らは、最終的には微生物等により分解され大気中
無くなってしまわないので、その廃棄物の再資源
の二酸化炭素に戻っていく。もちろん、一部は将
化を行うことにより、最終的に埋め立てや、単純
来の化石資源等への変換のために地中に蓄積され
焼却により廃棄される量を減らすことができる。
るもの、海洋中に溶解し無機化されるものも存在
また、再資源化により製品を製造したり、製造プ
する。これらの自然界の炭素循環を利用したバイ
ロセスの燃料として使用できれば、原料としての
オリサイクルがプラスチックの原料としてのバイ
石油の使用を削減することができる。また、再資
オマス原料の利用、プラスチックの生分解を利用
源化による製品製造が、石油原料による製品製造
した再資源化である。石油原料からではなく、バ
に比べ、排出二酸化炭素量が少なければ、地球温
イオマス原料、例えば、発酵生産されるバイオエ
暖化を防止する技術にもなる。循環型社会の構築
タノールや乳酸を原料としたバイオポリエチレン
のために、限りある資源である石油原料の使用量
やポリ乳酸が、一部バイオマス由来のポリエステ
を削減、地球温暖化防止を目的に、プラスチック
ルも商業生産されている。プラスチック製品は、
製品の再資源化を積極的に進めていかなくてはな
単一の原料、樹脂から生産されたものは、ほとん
らない。
どなく、多くの化成品の混合物となる。そのため、
プラスチックの再資源化には、主に 3 種類に分
どの程度、バイオマス原料を利用しているかを評
類することができる。メカニカル(マテリアル)
価することが必要である。生分解性プラスチック
リサイクル、サーマルリサイクル、ケミカルリサ
に関しては、農業用マルチフィルム等、使用後農
イクルである。メカニカルリサイクルは、収集し
地等へ還元するための好気的コンポスト処理なの
た廃棄プラスチックを、もう一度溶融、成形加工
か、エネルギーとして回収する嫌気的メタン発酵
して製品を作る方法である。現在、プラスチック
処理なのかによって生分解の状況は全く異なって
は、多くの種類が存在し、それをきちんと分類し
しまう。どのような条件で、どのくらいの速さで、
て、マテリアルリサイクルする必要がある。違う
どこまで生分解するかを評価しなければならな
種類のプラスチックが混合してしまうと、性能劣
い。
化してしまう。最近では、多くの種類の再生プラ
上記の再資源化は、実施に意味がある場合もあ
スチックが生産されるようになってきた。サーマ
るが、その再資源化の度合いを定量的に評価する
ルリサイクルは、燃料として燃焼させる方法であ
必要がある。再資源化システムの効率を評価する
る。取り扱いしやすいようにペレット化した固体
方法や、再資源化した原料をどのくらい使用して
燃料や、液化燃料にしてリサイクルする。燃焼に
新たな製品を作っているかを評価する方法が必要
より、有害物質が発生してはならない。ケミカル
である。石油原料から生産する場合に比べて、大
リサイクルは、収集した廃棄プラスチックを化学
量のエネルギーを投入して、プラスチック廃棄物
反応で処理して、モノマーやその他の化成品製造
を再資源化しても、意味が無い。再資源化原料を
の原料として再利用する方法である。これらの中
わずか 1%だけしか使っていない製品を「再資源
で、本章では大量に使用され廃棄されている
化原料から作っています」という表示は誇大広
PET ボトルに関連して、メカニカルリサイクル
告、詐称にあたるであろう。グリーン購入法や、
637
第 1 節 再資源・省資源化の分別・識別評価試験
されている。そしてこのようなところでは再生品
の品質や材質の向上を目指しさらに厳しい識別、
第 1 節 再資源・省資源化の分別・
識別評価試験
判別が行われる。
再資源化の技術開発はまさに破砕、粉砕技術に
加え、選別、識別の技術に依存している。廃材の
選別、識別の技術開発は再資源化には重要な役割
りが課せられており、開発された技術の標準化は
まえがき
再生品が一定の品質、材質を保つためには重要な
基盤技術である。
再資源・省資源化の原点は廃棄された家庭ごみ
や使用済み製品の収集・回収である。特に一般家
ここではこのような再資源・省資源化に関わる
庭から排出される家庭ごみなどの収集や回収は現
使用済み製品や家庭ごみに至る廃棄物に関する選
在市町村などの自治体が中心になって実施してい
別、識別などをはじめ、再資源化の重要な工程で
る。このような過程では一般消費者の協力は欠か
ある分別技術の動向、さらにはこのような技術の
せない。しかし、このようなごみの選別は目視に
標準化の実態とその必要性などについて検討す
よるもので、細かな分別・分類は一般常識に任さ
る。
れている。仮にプラスチック製品だけを区別する
収に関わる分別・識別などには定まった規定はな
1.1 プラスチック製品の家庭用廃棄物の
再資源化
い。しかし、多くのプラスチック製品の再資源・
プラスチック製品は材料の種類も多く家庭から
省資源化を進める中で、使用済み製品の分類は各
排出される廃棄物も様々である。まずは一般の家
製品ごとに細かな選別が徐々に進んでおり、一般
庭ごみの再資源化には排出されたごみの中からプ
家庭にもこのようなシステムが浸透してきてい
ラスチック廃棄物を選別し取り出すことが必要で
る。したがって、ごみ収集の原点はその分別基準
ある。特に家庭から廃棄された排出物には、飲料
に委ねられている。
用ボトルを除きその内容物のほとんどが、容器内
だけでも大変である。したがって、家庭ごみの回
このような作業を支援しているのが、廃棄物処
部に残存した形でプラスチック容器は廃棄され
理関連の協会であり、各種プラスチック製品には
る。このような状況が金属材料などの製品比べ
分別のためのラベルを貼って、各種使用済み製品
て、プラスチック廃棄物の収集、選別の難しいと
の識別、分類ができるようにさまざまな仕組みが
ころである。しかし、このような選別もできる限
できている。まさに識別・分別に係わる基準づく
り明確な指針が作成できれば、その方針が標準化
りが必要である。特にプラスチック製の使用済み
でき収集、回収の効率化が期待できる。そのよう
製品については回収し、再資源化し易いように廃
なためには使用するプラスチック製品にも用途に
棄用大型ボックスなどが公共的な施設には沢山設
応じた明確な対応が必要である。
置されている。プラスチック製使用済み製品の収
ここではこのような家庭ごみの分別、選別の現
集に関する取り組みは、ほかの金属系、セラミッ
状と容器包装リサイクル法の適用などについて考
クス系材料に比べてキメの細かい対応がなされて
える。
いる。こうした対応はプラスチック特有のもので
1.1.1 プラスチック製品の再資源化
ある。
家庭内から排出されるプラスチックの再資源化
廃棄物の再資源化はこのような一般家庭での分
にはさまざまなものがある。通常一般の家庭から
別・識別ばかりではない。一旦回収された使用済
排出される廃プラスチックは、家庭ごみとして扱
み製品は素材の基本的な分類を経て、破砕、粉砕
われる。そのため家庭ごみは分別処理され、再利
され再資源化のためのさらに細かな分類・識別が
用といった形で活用される。したがって、再資源
ある。このような作業は一般に再生・再資源化工
化のための手法には、大きく次のような対応が必
場などに運ばれ、企業レベル、協会レベルで実施
要である。
639
第 2 節 再資源・省資源と標準化
れた特性を活用するための再利用化技術が進んで
いる。したがって多く使用済み製品の存在する中
で、多くの技術者、研究者が資源の再利用に関心
第 2 節 再資源・省資源と標準化
を寄せている。また PET 容器などの再資源化の
仕組みや再資源化に対する生産技術などなどに関
する標準化、規格化などの必要性とその対応など
が重要なテーマとなっている。
まえがき
使用済み製品の再資源化は付加価値の高い金属
2.1 プラスチック容器の需要拡大と標準化
系材料を始め多くの材料がその対象となってい
PET ボトル(PET bottle)は、石油原料を用
る。しかし、このような中でもプラスチック系材
いた合成樹脂の一種であるポリエチレンテレフタ
料はリサイクルの難しい材料であると言われてい
レート(PET)が素材である。その主な用途は
る。その大きな理由は、プラスチックはその種類
飲料水用のもので、そのほぼ 90%がこのような
が多く、成形方法が多岐にわたっており、用途が
もので占められている。そのほか調味料・化粧
広い範囲にわたっているからである。
品・医薬品などの各種容器がこのような類のもの
プラスチック材料は大きく熱可塑性プラス
である(図 2.1)
。従来この種の容器はガラス瓶
チックと熱硬化性プラスチックとに分けられる。
やスチール缶などに入れて使用されていたが、プ
前者は加熱すると溶融して液状の樹脂として利用
ラスチックの軽量性と加飾性などに加え、優れた
できる。しかし、後者は熱しても溶融せず再利用
成形性などを生かした各種 PET ボトルに置き換
が難しく、優れた熱的特性が再資源化の大きな
えられていった。
ネックとなっている。
通常、PET ボトルという呼び方はわが国だけ
多くの人々が使用している飲料用 PET ボトル
のもので、英語圏では一般にプラスチックボトル
は、熱可塑性プラスチックで作られている再資源
(plastic bottle)と呼んでいる1)。したがって、こ
化のし易い原料でできている。そのため PET 製
のような名称は日本でしか通用しない和製英語で
品の原料は、これを素原料の形に戻し資源の有効
的利用や資源活用などが材料設計、製品設計など
の重要なポイントとなっている。現在使用済
PET ボトルのほぼ 80%以上がこのような形で再
資源化、再利用化されている貴重な製品である。
一方の熱硬化性プラスチックは原料の形にまで
戻すことは難しいため、使用済み製品を破砕、粉
砕などによって中間素材として再利用、再資源化
が行われている。前者をケミカルリサイクル、後
(a)燃料用。飲料水用のプラスチック容器
者をマテリアルリサイクルと呼んでいる。した
(a)燃料用。飲料水用のプラスチック容器
がって、プラスチック系材料はこのようなリサイ
クル方式を自由に使い分けて再資源化している。
特にプラスチック系材料の種類、用途は多岐にわ
たっているために、その識別・分別も重要であっ
て、使用済製品の回収などもなかなか難しい。
ここではこのような状況の中で PET ボトルの
再資源化、再利用化と再資源化製品の生産性に関
わる標準化、規格化の必要性について検討する。
(b)家庭用品に使用される各種プラスチック容器
特に大量に使用されている PET ボトルはその優
図 2.1
広範囲に使用されている各種プラスチック容器
(b)家庭用品に使用される各種プラスチック容器
645
第 11 章 材料の再資源化試験
特性は幅が広く、使用範囲も多様化しており、そ
の使用量も莫大なものとなっている。そのため省
第 3 節 プラスチック再資源化の
試験規格と標準化
資源、再資源化に対する意識の高揚は不可欠であ
り、多くの国民の関心事となっている。
したがって、資源の有効利用や活用のために
は、具体的な商品についてこれを標準化させて一
般の生産者、消費者にも再資源化に対する考え方
まえがき
を十分理解させ、浸透させていくことが重要であ
石油資源の枯渇に始まった省資源、再資源化の
る。使用済み製品の分別、識別などは使用者や消
動きは、大量に廃棄されていた使用済み材料や製
費者の徹底した認識の改革が大きな原動力である
品の再生産といった形で新しい発展を促してい
と期待されている。そして、再生品の品質の向上
る。材料や製品の試験法や評価法の標準化を司っ
はまさに使用済み製品の分別、判別などの標準
ている ISO や JIS の機関では、従来の標準化に
化、規格化に依存しているのである。
対する考え方をさらに発展させ、環境や省資源・
ここではこのような標準化のニーズを踏まえ
再資源化などに関する新しい標準化への道を切り
て、再資源化の進んでいる PET 製品の再資源化
拓いている。そして、このような動きはもはや世
に関する標準化、規格化の現状と既に制定されて
界的なものとなり、資源の枯渇を意識した新しい
いる規格の内容などについて、これを解説、説明
産業の発展や新規産業の構築などを視野に入れた
して、将来に向けた省資源、再資源化に対する標
産業界の大きな発展となっている。
準化について検討する。
一方、材料や製品に関する LCA(Life Science
Assessment)の考えを取り入れた新しい設計が
3.1 再資源の標準化と国際対応
展開されている。LCA の意図するところは、材
3.1.1 再資源に関する標準化
料や製品の「ゆりかごから墓場まで」を意識した
わが国では 1997 年に容器包装リサイクル法が
新しい商品設計であり、再資源化を意識した再製
施行され、多くのプラスチック製品の中でも
品化に関わる生産技術として高く評価されている
PET ボトルの再資源化は活発な展開が行なわれ
新しい考えである。
ている。現在わが国の PET ボトルの年間使用量
われわれの生活は多くの工業製品に依存してい
は 60 万トンであるが、その内の 50 万トンが回収
るが、従来の商品設計の考えでは多くの商品が生
され、再利用、再資源化されている。多くのプラ
産から消費に至るワンウエイ方式の展開であっ
スチック製品の中でも PET ボトルは品質の安定
た。すなわち大量な資源の無駄遣い、膨大な量の
した再生品の生産が可能なことから、PET ボト
廃棄物の放出と処理といったものであった。石油
ルの再資源化はさまざまな形で新しい展開を繰り
の枯渇問題はこうした工業製品の流れに大きな警
拡げている。
鐘をならしたもので、再資源化への新しい転換を
再資源化に関するリサイクル技術は大きく「マ
促したのである。
テリアルリサイクル」と「ケミカルリサイクル」
近年はこのような資源の有効的な活用するため
の 2 つの方法に分けられる。その一つは使用済み
の新しい循環型産業、循環型社会の構築を目指す
の PET ボトルを粉砕し水洗浄して、材料の形で
もので、新しい産業の発展にはこのような仕組み
再利用する「マテリアルリサイクル」で、もう一
の構築が重要になっている。
つは PET の粗原料にまで戻す「ケミカルリサイ
規格や標準化の歴史を振り返ってみても省資
クル」である。一般に前者の方法は安価で簡易的
源、再資源を目指す考え方はまだ新しいものであ
な方法としてメリットは大きいが、汚染成分の除
る。大量に使用、消費され廃棄されていた資源の
去が難しく、変色し易く外観も悪いので、直接飲
有効的な活用・利用は 20 世紀の後半に始まった
料用容器として使用することは難しい。一般的に
新しい展開である。特にプラスチック製品の材料
はそのため繊維として回収し、衣服や衣料品など
656
第 4 節 生分解性試験
リグリコール酸(PGA)
、ポリカプロラクトン
(PCL)
、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)
、
ポリブチレンサクシネート(PBS)
、ポリブチレ
第 4 節 生分解性試験
ンテレフタレートアジペート(PBAT)やエステ
ル化デンプンなど様々な生分解性プラスチックが
市販されている。これらの生分解性プラスチック
は研究開発の過程において生分解性が確認されて
4.1 生分解性プラスチック
いる。一方、生分解性プラスチックとコンポジッ
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン
ト化した材料の生分解性や、コンポジット化・成
およびポリエチレンテレフタレートに代表される
形加工による生分解性への影響を評価すること
汎用プラスチックは、20 世紀の石油化学の発展
も、環境汚染を防ぐ材料にとって必要な評価試験
に伴い大量生産・大量消費・大量廃棄が進められ
技術である。
てきた。これら既存の汎用プラスチックから生産
ここまで環境中で分解するプラスチックを生分
された製品は環境中で劣化を受けて、性能や形状
解性プラスチックとして述べてきたが、生体内で
を維持出来なくなる。しかしながら、焼却した場
分解する生体吸収プラスチックも生分解性プラス
合のように速やかに水と二酸化炭素まで分解され
チックとして扱われる。環境中で分解する PLA
るわけではない。その結果として、汎用プラス
や PGA は縫合糸や骨接合剤、ドラッグデリバ
チックが環境中へ廃棄されたり流出することで、
リーシステムとしても利用されている。本書では
環境中に汎用プラスチックやその分解化合物が蓄
汎用材料としてのプラスチックに着目しているた
積される環境汚染が問題となってきている。
め、環境中で微生物の働きで分解するプラスチッ
クに着目し、環境中での生分解性試験について解
汎用プラスチックによる環境汚染対策の切り札
説する。
として、微生物の働きにより水と二酸化炭素へと
分解される生分解性プラスチックが注目されてい
4.2 生分解性プラスチックの分解挙動
る。表 4.1 には市販されている生分解性プラス
チックを示す。ポリ乳酸(PLA)をはじめ、ポ
生分解性プラスチックの分解は、環境中での酸
化分解、光分解、酵素分解によって高分子鎖の切
断が起こり低分子化され、プラスチックとしての
表 4.1 主な生分解性プラスチック一覧
分類
形状が崩壊する一次分解から始まる。次に、環境
高分子名
中の微生物が低分子化された化合物を体内に取り
微生物 ポリヒドロキシプチレート(PHB)
産生系 ポ リ ヒ ド ロ キ シ プ チ レ ー ト−co− バ リ レ ー ト
(PHBV)
ポリヒドロキシプチレート−co−ヘキサノエート
(PHBH)
エステル化デンプン
天然物 アセチルセルロース(低アセチル化)
系
キトサン
込み代謝することで、最終的に二酸化炭素、メタ
ン、水、あるいは窒素酸化物や硫黄酸化物などの
無機物質へと変換(資化)する二次分解によって、
微生物によるプラスチックの生分解は完了する
(図 4.1)
。
プラスチックの生分解性を厳密に評価するに
は、プラスチックが崩壊することを確認するだけ
ポリ乳酸(PLA)
ポリグリコール酸(PGA)
ポリカプロラクトン(PCL)
化学合 ポリプチレンサクシネート(PBS)
成系
ポ リ プ チ レ ン サ ク シ ネ ー ト−co− ア ジ ペ ー ト
(PBSA)
ポリプチレンテレフタレート−co−アジペート
(PBAT)
ポリビニルアルコール(PVA)
ではなく、プラスチック中に含まれる全ての元素
が無機化したことを追跡する必要がある。放射性
炭素などで標識化合物を合成し、その動態を追跡
評価することで全ての元素の無機化を追跡ができ
るが、大がかりな実験となるために実用的な評価
方法では無い。そのため一般的には、プラスチッ
クが微生物によって生分解されることによって生
665
第 5 節 プラスチック製品のバイオマス原料含有率
素の減少に寄与していない。このような点で、バ
イオマス由来プラスチックが、石油由来プラス
第 5 節 プラスチック製品の
バイオマス原料含有率
チックに比較して、メリットがある点である。表
5.1 にバイオマス由来プラスチックの例を示す。
石油由来のモノマー等の化成品で、特に炭素数
が 3 個から、6 個の化成品の供給状況が逼迫する
可能性が指摘されている。これは、今まで炭素数
5.1 バイオマスプラスチックとは
2 個の基幹化成品であるエチレンが、石油を分離
プラスチック製品の原料は、そのほとんどが化
して得たナフサのクラッキングによって生産さ
石燃料である石油である。その製造過程や廃棄処
れ、その同時生産物として、炭素数が 3 個から、
理において、二酸化炭素排出量を削減し、地球温
6 個の化合物を得ていた。しかし、石油、天然ガ
暖化の防止に寄与するために、バイオマス原料か
ス採掘時のオフガスや、シェールガスの利用によ
らの化成品やプラスチックを生産する技術が注目
る安価なエチレンが大量に供給されるようになっ
されている。これは、有限な化石資源の使用量削
てきた。クラッキング生産物の炭素数の化合物比
減、及び再生可能な資源で、可能であれば、農業
は大きく変動できないため、ナフサのクラッキン
用廃棄物等を使うことにより、有効利用されてい
グ量の減少が予測されている。また、炭素数 4 個
ない資源の利活用にもなる。バイオマス原料か
の基幹化合物であるブタジエンが、新興国の自動
ら、化成品やプラスチックを生産するプロセスが
車産業、運輸産業の拡大により、ゴム原料として
必要とする製造エネルギー
(バイオマスの成長時、
のブタジエンの需要が拡大し、その価格が上昇し
収穫、運搬時に必要とするエネルギーを含む)は、
ている。ブタジエンを原料とする安価な炭素数 4
化石資源から同じ物を生産するプロセスのエネル
個の化成品への変換は、コスト的に見合わなくな
ギー(石油を採掘して、コンビナートへ輸送する
りつつある。このように、炭素数 3 個から、6 個
エネルギーを含む)と比較して、ステップ数が多
までのモノマー等の化成品の新たな生産方法が求
くなるため、一般的にはエネルギーを多く必要と
められている。
1、
2)
。そのため、使用したエネルギーは、現
しかしながら、プラスチック製造メーカーに
状では、ほぼ化石燃料の燃焼によるエネルギー供
とって、そのバイオマス由来製品を製造するかど
給となるので、バイオマス由来プラスチックの製
うかを決めるのは、安定供給される原料の価格を
造に関わる排出二酸化炭素量が多くなる。ところ
含む製造コストである。いくら原料調達コストが
が、1kg の石油由来のプラスチックを製造するた
安くても、製造コストが高ければ、トータルで、
めには、製品そのものの原料としての石油を 1kg
石油原料からの生産コストに比べて、安くなけれ
以上必要とするので、製造と原料を含むトータル
ば原料転換をすることはできない。もちろん、戦
の使用エネルギー量(石油使用量換算)は、バイ
略的にバイオマス原料を使っていることをアピー
オマス由来のプラスチックの方が低くなる場合が
ルしたい場合は、ある程度の高コストが許容され
ある。バイオマス化成品 1kg 作るのに必要なバ
るかもしれないが、2,3 倍以上のコスト差ではバ
イオマス原料の質量の生産のためのエネルギーは
イオマス原料への転換の採用は難しい。石油由来
前述の製造エネルギーに含まれている。また、バ
の化成品製造は、長い歴史の中での省エネ化、効
イオマス原料となる植物が成長している間に、光
率化、多種類の製品の複合的な同時並行生産等に
合成により大気中の二酸化炭素を固定化している
より、製造コストの低減化が徹底的に進んでい
ため、この量を製造時の二酸化炭素排出量から、
る。これに対抗して、バイオマス由来製品を単独
差し引くことが出来るので、バイオマス由来プラ
で小量生産してもコスト競争力が無い。そのた
スチックの二酸化炭素排出量が少なくなる場合が
め、バイオマス原料の利活用を促進するための、
ある。石油の場合は、数百万年以上前の大気中の
特にその製造開始段階での、補助金獲得、炭素税
二酸化炭素由来であるため、現代大気の二酸化炭
等免除、グリーン購入法の対象等の何らかのイン
する
673
第 11 章 材料の再資源化試験
性プラスチックがコンポスト化可能であるた
めに、具備しなければならない条件を規定した
第 6 節 生分解性プラスチックの
国際標準規格
ものである。生分解性、崩壊性及び作られた堆
肥が無害であることが規定されている。
・試料調整:生分解性試験において、試料形状は
測定結果に影響を及ぼす。生分解性試験のため
の試料調整法を規定している。
SC5/WG22(生分解性プラスチック)で発行さ
プラスチックは、快適な生活を過ごすための資
材として、生活の隅々まで多くが使われている。
れた 12 の国際標準規格の中で、5 つが日本提案
20 世紀の前半より、石油化学の著しい進歩とと
によるものである。日本バイオプラスチック協会
もに多くの有用なプラスチック素材が開発され
技術委員会は、SC5/WG22(生分解性プラスチッ
た。その有効利用のための様々な生産・加工技術
ク)の国内審議委員会であり、国際標準作成にお
が発展し、それぞれの性能を生かしてあらゆる分
いて中心的役割を果たしてきた。5 つの日本提案
野に利用されている。また、工業材料としての活
の国際標準規格の解説をする。
用の範囲も拡大している。
6.1 ISO 14851(好気的水系 酸素消費
量測定)
プラスチックの使用量の増大によって、その廃
棄物の処理が大きな問題となっている。処理には
回収(再利用、リサイクル)が第一優先であるが、
1990 年、通商産業省(現経済産業省)は、本
回収できないものは、焼却と埋め立てがなされて
格化し始めた生分解性プラスチックの開発を促
いる。地球環境を保全するための材料として、使
進・発展させるためには生分解度試験法の確立が
用後、微生物によって分解されて環境へ負荷を与
不可欠であるとして、バイオインダストリー協会
えない生分解性プラスチックが開発されている。
に委託して、広く国内外でコンセンサスが得られ
生分解性プラスチックの健全な普及のために
るプラスチックの生分解度試験法の開発をおこ
は、プラスチックの生分解度試験法を規格化して
なった(1990 年~1994 年)
。この中で、化学物
共通の尺度で生分解度を評価することが不可欠で
質の自然環境下での生分解度を評価する試験法と
ある。ISO/TC61(プラスチック)
/SC5(物理・
して広く用いられている、活性汚泥を用いた生分
化学的性質)の中に、プラスチックの生分解に関
解度試験法をもとに、プラスチックの生分解度試
するワーキンググループ WG22 が日本からの提
験法を確立した。
案で、1993 年に設置された。
一方、生分解性プラスチック研究会(現日本バ
SC5/WG22(生分解性プラスチック)では、表
イオプラスチック協会)は、自然環境下における
6.1 に示すように、生分解度試験、崩壊度試験、
プラスチックの生分解挙動を知るため、1990 年
コンポスト化可能プラスチックの仕様及び試料調
からフィールドテストをおこなった。活性汚泥を
整に関する 12 の国際規格を発行している。
用いる生分解度試験法で得られる結果は、フィー
ルドテストの結果と矛盾せず、自然環境下での生
・生分解度試験:生分解性プラスチックが廃棄さ
分解性を反映することがわかった。
れる場所の環境をモデル化し、水中、コンポス
これらの結果を受けて、JIS K6960-1994(プ
ト中、土壌中及び嫌気生分解における生分解度
ラスチック-活性汚泥による好気的生分解度試験
試験法が制定されている。
方法)が作成された。SC5/WG22(生分解性プラ
・崩壊度試験:コンポスト中でプラスチックが断
スチック)では、各国から提案された生分解度試
片化されるかどうかを調べる試験である。微生
験法の規格化を検討した。この中で、JIS K6960
物による断片化だけでなく、加水分解等による
-1994 は、植種源の種類・濃度や試験期間などの
断片化をも含む。
条件を幅広く規定して、プラスチックが生分解さ
・コンプスト化可能プラスチックの仕様:生分解
れやすい試験条件を選択できるドイツ案を合体し
686
概 説
品の良否判定が厳しく判定される。納入規格の試
験法は、ISO や JIS の試験法が使われるが、その
測定値に下限とか数値の範囲などで、規定が行わ
概 説
れるのである。また、その製品特有の試験が付け
加えられる場合が多い。例えば、製品のコンベ
ヤー搬送適性や、製品の長距離トラック輸送を想
定した振動試験などである。
1.製品規格と製品試験の関係
2.製品試験の難しさ
特定の材料の特定の性能を消費者に説明するた
めには、性能評価するための試験法を確立し、そ
製品試験とは、顧客の使用要求に対して、製造
の試験法を標準化し、かつその試験法を普及させ
された製品が十分な物理的性能を有しているかど
ることにより、世界の産業界が共通の試験法に基
うか、またその製品の使用条件において十分な耐
づいた性能データを用いて比較する必要がある。
久寿命を有しているかをその実物で調べることで
プラスチック及びプラスチック複合材料の工業
ある。
試験法、新試験法の国際規格としては、ISO、
製品規格には使用すべき材料の規格も指定され
IEC などがあげられるが、日本政府は日本工業規
ているが、プラスチック製品の場合、良い材料を
格調査会(JISC)が受け皿となって JIS の国際規
使っても、製品設計の不適切、金型デザインの不
格化、規格の維持、新規格の制定に協力している。
適切、成形時の条件設定不良(樹脂の滞留劣化、
プラスチック工業連盟は、ISO 規格の技術員会
ウエルド不良、ヒーシール条件の不適切、外から
(TC)の内、TC61(プラスチック製品)と TC138
は見えないボイドの存在など)の要因によって、
(液体輸送用プラスチック管、継手及びバルブ類)
不良製品が出来ることがあり実物テストが不可欠
の TC、SC(分科会)の幹事国として活動してい
となる。製品合否では成形不良による、ヒケ、シ
る。
ルバーなどの外観不良や塗装の傷なども対象とな
TC61、SC11 は「プラスチック製品」の SC で
る。
あるが、日本が幹事を勤めている活発な分科会で
自動車部品では、プラスチック製品の使用条件
ある。SC11 では、多層フィルム、接着剤からプ
におけるテスト項目は多岐にわたる。その要求に
ラスチック枕木まであらゆるプラスチック製品の
合格するためには外装部品に使われる PP 製品の
評価のための試験法を審議し確立している。最近
例をとっても、最適材料の開発から行わなければ
の日本提案の規格は、プラスチック・金属複合体
ならないが、その試験項目も外観、衝撃試験、寸
であり、製品の幅が広がっている。
歩規格など製品納入時に行える、短期の試験項目
ISO 規格におけるプラスチック製品の標準試験
だけでなく、耐候試験、振動試験など長期にわた
法では、製品の想定用途における商品の優劣を評
る試験が必要である。各自動車メーカーは自社規
価するための項目を特定して標準試験法を決め
格を持ち、また部品の開発に 3 年以上をかけるな
る。しかし、各項目において適正な試験法を開発
ど、部品の段階から品質保証を確実に行う努力を
して、その項目の優劣は比較できるようにし、数
行っている。
値の高低によって A、B、C クラスのように製品
製品試験はその実施においても難しい。プラス
のクラス分けはするが、特定の工業商品がその試
チックフィルムによる顆粒状化学肥料の包装袋の
験法における規格値がある数値以上でなければ
落下試験を例にとり説明する。袋状の製品の落下
使ってはいけないと言うような規格のライン引き
試験の方法は「平面落下」
「コーナー落下」等標
を行って不良品を排除するような判定は通常行わ
準試験法が規定されている。また落下試験結果の
ない。
統計的判定方法も ISO 規格で規定されている。
しかし、市場の工業製品では、製造者と顧客の
落下試験での破袋はヒートシール部から起こる
間で「納入規格書」が契約書の形で交わされ、製
が、シールが適性に行われていたとして、破袋の
693
第 12 章 各種製品の試験法
力、ひずみ、伸びなどを測定する試験である。
規定の形状、厚みの試験片を用いて、引張試験
機のつかみ具で両端を保持して一定速度で引張
1.プラスチックフィルム
り、試験片の破断時の引張破断強度や標線部分の
伸び率、100%伸びた際の引張応力(100%モジュ
ラス)などを測定する。
プラスチックは引張応力と伸び(ひずみ)の関
係から 5 種類の曲線図に大別できる。詳細な引張
プラスチックフィルム、シートの主要な試験方
試験方法や試験片等はプラスチックの種類、製品
法について概要を説明する。
毎に JIS 等で規定されている。この引張特性は特
1.機械的性質
に熱可塑性樹脂材料の機械的性質の代表的な特性
とされている。
(図 1、 図 2)
機械的性質とは 物体に外力を加えた場合にそ
1.2 引裂き試験
の外力の種類、方向、強弱に応じて様々な異なっ
引裂き試験は規定された切り込みがある試験片
た反応を示すが、この状態の変化(変形、破壊、
を引張試験機のつかみ具で両端を保持して一定の
割れ等)に関する性質を言う。
引張速度で引き裂き、最大荷重を測定する試験で
プラスチックの材料選択・仕様決定にはその使
ある。
用目的に応じた機械的性質を有する事が前提とな
測定する製品毎に試験片の形状は規定され、直
る。
外力の種類を大別すると、引張り、伸び、圧縮、
角形、長方形、エルメンドルフ形等がある。
(図 3)
1.3 剥離試験
ずり、曲げ、複合等がある。
また、外力はかかり方も一定速度でゆっくりか
剥離試験は多層シート等をシートの界面から引
かる場合、一瞬に外力がかかる場合、周期的にか
き剥がした際の最大荷重を引張試験機で測定する
かる場合など種類があり、試験方法も外力の種
試験である。
類、方向、かかり方などに応じて規定されている。
剥離強度が界面材料強度を上回る場合は剥離で
きずに材料破壊を起こす。主に PVC レザー、
通常、引張試験、引裂き試験、剥離試験の試験
片は縦・横 両方向で測定される。
ターポリンなどプラスチックと基布などの接着性
1.1 引張試験
を確認する場合などに行う試験である。
1.4 硬さ試験
引張試験は一般に機械的性質の中で代表的なも
硬さ試験はゴムやプラスチックの表面硬さを測
ので、一定の寸法、形状の試験片の両端に引張荷
重を加えて、その試験片が切断されるまでの応
図 1 ショッパー式引張試験機
図 2 オートグラフ 引張試験機
696
第 12 章 各種製品の試験法
(A)
フィルム
気体分子
2.包装用フィルム
(食品用・医薬品用・その他)
(B)
食品用プラスチック包装には、種々の機能が要
求される。それらの中で、内容品の品質を保全す
る機能が最も重要である。品質保全機能として
は、酸素などの各種ガス、水蒸気、香気などのバ
リア性、引張強さ、衝撃強さ、ヒートシール強さ、
引裂強さ、突刺強さ、耐ピンホール性などの機械
濃度勾配︵非定常状態︶
濃度勾配︵定常状態︶
(C)
はじめに
(D)
図 1 プラスチックフィルムに対する気体の透過機構
的特性、耐薬品性、耐油性、耐熱性、耐寒性など
の物理的安定性などがある。
プラスチック包装を設計する場合、適用するプ
圧力増加
ラスチック材料のバリア性、機械的強度、物理的
安定性を確認しておくことが必要である。
ここでは、食品用プラスチック包装に適用され
非定常状態
るプラスチックフィルムの主要な機能の評価方法
定常状態
B
について述べる。
1.ガス・水蒸気バリア性評価方法
1.1 フィルム中のガス透過過程と透過式
プラスチックフィルム中の気体の透過の過程を
模式的に示すと、図 1 のようになる。まず、気体
θ
時間
図 2 プラスチックフィルムに対する気体透過曲線
がフィルムに接し(図 1A)
、ただちにフィルム
の表面に気体が溶ける(溶解過程、図 1B)
。次に、
気体の溶解によって生じた濃度勾配によって気体
分圧差当たりの透過ガスの体積で定義されるガス
がフィルムの中に広がっていき(拡散過程)
、気
透過係数 P は、溶解度係数 S と拡散係数 D の積
体はフィルムの他の面に到達する。この状態はま
で表すことができる。
だ非定常状態である(図 1C)
。その後拡散の進行
P=S・D
でフィルムの中の気体の濃度勾配は厚さの方向に
3
P の単位は、mol・m/
(m2・sec・Pa)や cm(STP)
⑴ 直線となり、定常状態となる(図 1D)
。この段階
・cm/
(cm2・sec・cmHg)が使用される。STP は標
から気体が脱着していく速度は一定となる。
準状態、すなわち 0℃、1 気圧の状態を意味する。
透過してきた気体による低圧側の圧力増加を圧
上述のガス透過のメカニズムは、プラスチック
力計で追跡すると、図 2 のような気体透過曲線が
フィルムのように非多孔質フィルムの場合に適用
得られる。図 1 の C までが、図 2 の B 点までに
可能である。一方、シリカ、アルミナ、あるいは
相当する。
カーボンなどの無機質の蒸着フィルムの場合、無
以上のように、ガス透過過程は、溶解過程と拡
機質膜でのガス透過は、ピンホール的な膜の欠陥
散過程よりなっている。したがって、単位厚さ、
部を通して行われるため、上述の透過メカニズム
単位面積、単位時間およびフィルム両面間の単位
とは異なっている。
700
第 12 章 各種製品の試験法
1.位相差フィルムの特性
液晶ディスプレイ等で使われる液晶分子は非等
3.光学用フィルムの
シミュレーションによる性能評価
方性物質であり、屈折率は 3 つの値で定義される
ことになる。すなわち、その分子構造に依存して、
x、y、z 方向それぞれの屈折率が異なってくる。
この特徴は、光学の分野では屈折率楕円体により
表現される11)。図 1 のように、楕円体の軸がそれ
はじめに
ぞれ座標軸に重なっている時、3 つの屈折率 nx、
液晶テレビは、多種多様なプラスチック光学
ny、nz は、それぞれ直交する x、y、z 軸の方向
フィルムを使用している。偏光フィルムは、バッ
を向き、原点から楕円体表面までの長さを表すこ
クライトから出た光を直線偏光にする機能を持
とになる。
ち、位相差フィルムは、表示画像の視野角特性等
この屈折率楕円体により、物質に入射した光が
を改善する。これらの光学フィルムは、液晶ディ
感じる屈折率を求めることができる。図 1 は、直
スプレイの構成要素である液晶セルに貼られてそ
線偏光がある方向から入射する場合の様子が画か
の機能を発揮する。
れている。異方性媒質を透過する光は、入射光と
近年、大型液晶テレビが開発されるにあたり、
垂直な面と屈折率楕円体表面との交わる曲線で作
これら光学フィルムには広幅で均質な光学特性が
られる楕円によって表される 2 つの屈折率、no、ne
要求されるようになってきた。また、生産性向上
により偏光状態が変化する。それぞれの屈折率
や低コスト化のニーズも増大している。
は、常光線(ordinary ray)
、異常光線(extraordinary
ray)にちなんで、o と e の添え字がある。
位相差フィルムの製造は、現在主に溶融押し出
図 2 は、フィルム上に屈折率楕円体を表現した
し成形法等が用いられ、この技術革新により大幅
1)
場合の方向の定義を図示したものである。図中に
なコストダウンと品質向上がなされてきた 。し
かし、光学特性を付与する延伸過程では、技術的
課題も多く、物理現象としてのフィルム延伸の解
析技術が求められていた。
nx
ここでは、そのような状況の中フィルム延伸技
円
術に焦点を当て、弾塑性有限要素法解析による分
ny
子鎖の配向解析技術を紹介する。フィルム延伸の
有限要素法解析は、その巨視的変形状態の予測を
nz
可能にする。今回解析対象とするテンター延伸の
場合、ボーイング現象といわれる幾何学的変形状
態は、有限要素法による計算から直接的に求める
ことが出来る2~10)。
一方、分子鎖の配向は、この幾何学的変形状態
図 1 屈折率楕円体
からだけでは推測しきれない特性がある。分子鎖
配向は、変形履歴や熱履歴の影響を受けて必ずし
屈折率楕円体
nz
もその時の幾何学的変形状態だけからは決まらな
ny nx
い物理特性を持ち合わせている。そこで、分子鎖
配向を予測するためのモデルを構築し、その光学
厚み:d
特性発現のメカニズムを解明することを試みた。
フィルム
・d
レタデーション:Re=(nx−ny)
図 2 屈折率楕円体
712
4.太陽電池バックシート
が求められている。それに伴い、性能評価や信頼
性評価方法などの製品規格の確立と、認証規格の
国際的な整合性が課題となっている。
4.太陽電池バックシート
1.太陽電池の構造
太陽電池の仕様は一般的に太陽に向く上面か
ら、表面ガラス基板、封止材(充填材)
、太陽電
はじめに
世界のエネルギー消費量の増大に伴い、化石燃
池セル(シリコンや半導体化合物など)
、封止材
(充填材)
、バックシートの順に構成される(図
料の枯渇と、その燃焼に伴う CO2 排出による地
1)
。
球温暖化などが問題となっている。前者はエネル
太陽電池の発電を起こす 「セル」 は、現在、シ
ギー問題であり、後者は地球環境問題であり、こ
リコン系が主流である。シリコンセルには結晶系
れら両面から再生可能なクリーンエネルギーとし
と薄膜(アモルファス)系があり、発電効率と長
て太陽電池(太陽光発電)が期待されている。例
期の耐候性が大きく異なる。シリコンセル単体の
えば、ドイツの気候変動諮問会議がまとめた「世
耐候性(耐熱、耐湿、耐 UV 光など)において、
1)
界エネルギービジョン 2100」
によれば、西暦
薄膜系は結晶系と比較し、耐久性に劣る傾向にあ
2100 年には世界のエネルギーの 7 割が太陽光発
る。
ここで、封止材は 「セル」 や配線を固定し、表
電で賄われるだろうと予測されている。
また、実際にわが国においても、住宅への太陽
面ガラス基板と裏面のバックシートを接着する部
電池の設置やメガソーラープラント(大規模太陽
材である。またバックシートはセルおよび封止材
光発電所)の建設が急増している。しかし、住宅
を風雨から保護するフィルムである。封止材およ
用太陽光発電システムの補助金(出力 10kW 以
びバックシートのいずれも太陽電池モジュールの
下)や、再生可能エネルギーの固定価格買取制度
主要部材である。
(Feed-in Tariff)
(出力 10kW 超)などの国の政
封止材は主に EVA(Ethylene Vinyl Acetate
策に依存している面があり、太陽光発電の高い発
Copolymer)が使用されている。封止材には透明
電コストが自立的な普及の妨げとなっている。
性や柔軟性のほか、接着性、引張強度、耐候性な
どが要求される。現在、欧州を中心に高電圧下で
そこで、既存の電力コスト(電力料金、発電コ
ストなど)と同等かそれより安価になるコスト
の 絶 縁 不 良 に よ る 電 流 漏 れ な ど の た め、PID
(Grid parity)を実現するためには、①設備 ・ シ
(potential induced degradation)現象と呼ばれる
ステムや設置費用の低コスト化、②エネルギー変
太陽電池の出力低下が発生し問題となっている。
換効率の向上、③長期使用における信頼性の向上
高電圧 ・ 高温 ・ 高湿などの長期間の厳しい条件
などが課題である。前記②における材料のエネル
下で、封止材の水分透過が増えることが原因のひ
ギー変換効率の向上や、③におけるモジュール使
とつと見られている。封止材には EVA 以外の素
用期間(保証期間)の長期化もコストに大きく影
材もあるが、EVA はコストパーフォーマンスに
響するため、技術的な改良が必須である。
優れるため、市場主流となっている。
太陽電池モジュールは約 20 年以上、屋外で野
太陽電池のモジュールの長期間の品質保証にお
ざらしのまま使用される。年間を通して直射日光
いては、用いる部材の①耐候性、②水蒸気バリア
を受け続け、雨や雪、ホコリもそのまま降りかか
表面ガラス基板
る。従って、耐環境性能が重要である。また、モ
ジュールの保証期間の長期化により耐久性や安全
リードフレーム
封止材
太陽電池セル
性に対する要求も更に厳しくなっており、モ
バックシート
ジュールのみならず、それに使用される部材にお
いても、耐久性や安全性においてより高い信頼性
図 1 太陽電池の構成
719
第 12 章 各種製品の試験法
表 2 最新版の試験方法(JIS K 6761[2012])
5.ポリエチレン管
項目
ポリエチレン管は、1953 年頃からわが国で製
造を開始されたが、耐食性、可とう性、耐衝撃性、
耐寒性ならびに電気絶縁性などに優れているた
粒状
メルトマ
ス
粒状
フローレ
イト
JIS K 7210
一定温度で溶融された樹脂につい
て、一定荷重・時間で押し出され
る量を測定する。
熱安定性 板状
窒素雰囲気中で一定温度まで昇温
した後、酸素を送り込み、酸化が
始まるまでの時間を DSC を用い
て測定する。
め、工業用途・上下水用途ならびに都市ガス用途
等に幅広く使用されている。各工業界での独自規
格もあるが、ポリエチレン管に関する JIS 規格は
下記の通り。
試験方法
JIS K 7112 D 法
密度こうばい管の中に試料を投入
し、平衡状態となった位置を測定
する。
密度
1.適用規格と各試験方法
試験片
形状 ・水道用ポリエチレン二層管(JIS K 6762]
JIS K 6812
カーボン フィルム
試験片中の粒子及び凝集塊の大き
分散
状
さを顕微鏡で測定する。
・ 架橋ポリエチレン管(JIS K 6769]
顔料分散
・一般用ポリエチレン管(JIS K 6761)
・ 水道用架橋ポリエチレン管(JIS K 6787]
・ ガス用ポリエチレン管(JIS K 6774]
1.1 一般用ポリエチレン管
「一 般 用 ポ リ エ チ レ ン 管(JIS K 6761)
」は
1956 年にポリエチレン管として国内でとして初
めて制定された。制定当時の試験項目 ・ 方法は表
1 の通り。
試験項目・内容が基本となり、国際規格との整
フィルム
同上
状
カーボン
粒状
濃度
JIS K 6813
試料を窒素流中で熱分解し、その
後灰化を行い、 前後の質量差か
ら算出する。
環境応力
板状
き裂
JIS K 6761 附属書
ノッチを入れた試料を曲げた状態
で試験液に入れ、一定時間後に割
れが無いことを確認する。
JIS K 6815-1、6815-3
引張降伏
ダンベル 試験片を一定速度で引っ張り、降
強さ
伏応力を測定する。
合化等の目的に数回の改定がなされている。2012
年版の試験項目・方法は表 2 の通り。
1.2 水道用ポリエチレン二層管
JIS K 6815-1、6815-3
引張破断
ダンベル 試験片を一定速度で引っ張り、伸
伸び
びを測定する。
水道用ポリエチレン管規格(現行の水道用ポリ
エチレン二層管規格:JIS K 6762[1959]
)は、
1958 年に制定された日本水道協会規格を元に取
加熱伸縮
管状
性
JIS K 6814
管に付けた標線間の距離を加熱前
後で測定して算出する。
内圧
管状
クリープ
ISO 1167-1、1167-2
規定の条件(温度・圧力・時間)
にて割れが発生しないか確認す
る。
表 1 制定当初の試験方法(JIS K 6761[1956])
項目
試験片
形状 試験方法
引張試験 ダンベル
試験片を一定速度で引張り、降伏
応力と伸びを測定する。
水圧試験 管
口径毎に定められた内圧の 3/4 を
最初に負荷し、その後徐々に圧を
加えて破壊時の圧力を測定する。
耐候性
管状
ISO 16871
一定期間日光に曝した試験片で、
引張り試験及び内圧クリープ試験
を行う。
定められた薬品中に一定時間浸せ
管または
きし、浸せき前後の重量変化率を
弧
算出する。
融着部
相溶性
管状
融着部を含んだ試料で熱間内圧ク
リープ試験を行い評価する。
浸せき
試験
724
6.緩衝用発泡製品
る。高分子発泡体の作成方法には概ね 2 つある。
高分子母材に発泡剤を混合する化学発泡と、高分
子母材に高圧下でガスを含浸させ、急激に減圧す
6.緩衝用発泡製品
ることで発泡させるガス発泡である。どちらの発
泡においても、ガスと高分子とが非相溶であるた
めに、ガスと高分子との相分離が生じ、発泡構造
が得られる。ただし、非保存系の相分離である点
まえがき
が、通常の高分子ブレンドの相分離との相違点で
高分子発泡体の重要な用途の一つとして緩衝材
ある。しかしながら、高分子発泡体の構造形成メ
が挙げられる。特に高発泡率であると、極めて弾
カニズムに相分離ダイナミクスが大きく関与して
性率が小さく、気泡構造が潰れる(座屈)するこ
いることは自明である。以上を鑑みれば、高分子
とによって大きな変形が可能である。これらの性
発泡体の構造をきちんと理解し、力学物性等を議
質は品物を柔らかく包み込み、衝撃のエネルギー
論するという方向性は極めて正しい1)。
を大きな変形によって散逸する上で極めて有利で
しかしながら、この方向性での研究は極めてま
ある。すなわち、緩衝材に最適である。緩衝材と
れである。というのは、発泡構造を特徴づける構
しての用途を考えた場合、圧縮時の力学挙動が重
造パラメータが、実のところよくわかっておら
要であり、それゆえ高分子発泡体では圧縮試験が
ず、力学物性を整理できていないからである。こ
中心になる。通常の樹脂製品では引張り試験が中
の方面の研究は今後の課題として、いまだ手つか
心であるのと対照的である。発泡体の圧縮試験で
ずの状態にある。発泡体の変形時に内部構造がど
は、気泡の座屈という特徴的な現象があり、座屈
のように変化するかについては、高分子発泡体よ
が圧縮試験結果に密接な関係がある。ここでは、
りも、発泡アルミニウムの研究が進んでいる2)。
発泡体における圧縮試験においての注意点とその
発泡アルミニウムの圧縮挙動の研究手法とそこで
典型的な結果を示し、内部の気泡の座屈と結び付
得られている知見は、高分子発泡体の構造と力学
けながら、解説を行う。また、高分子発泡体の力
的性質を検討する上で参考となる。
学試験においてきわめて特徴的なポアソン比につ
2.発泡アルミニウムの圧縮挙動
いて言及する。また、引張り試験についても若干
の解説を加える。
発泡アルミニウムでの圧縮挙動の研究が進んで
いるのには、いくつかの理由がある。一つは、発
1.発泡構造の由来
泡アルミニウムの気泡サイズが数ミリと比較的大
高分子発泡体は高分子中に気泡を含む材料全体
きく、観察が容易であること。二つ目は、圧縮時
を指す。普通の高分子のガスバリア性能はそれほ
に気泡が崩壊(座屈)するが、その過程は塑性変
ど高くないので、気泡内部は空気になっていると
形であって、応力を取り除いたときに崩壊した気
考えてよいだろう。別の見方をすれば、フィラー
泡を容易に観察できること。三つ目は、X 線の透
がガスである複合材料とも解釈できる。ガラスや
視によって内部構造の観察が容易であることであ
カーボンなどの通常のフィラーと違って、フィ
る。高分子発泡体では、いずれの点に関しても不
ラーが母材樹脂より変形しやすい点に特徴があ
利であり、なかなか研究が進まない。それゆえ、
る。高分子複合材料では、フィラーの空間配置
発泡アルミニウムの研究は極めて参考になる。
(構造)と様々な物性が関連するという議論がな
図 1 は発泡アルミニウムの圧縮過程の応力ひ
されているが、高分子発泡体でも同様であると考
ずみ曲線の模式図である。圧縮初期は応力がひず
えられる。
みに比例し、概ね弾性的であるが、途中から降伏
構造面に注目すれば、高分子発泡体は、高分子
が見られてくる。発泡体に特徴的なのが、応力が
とガスの相分離構造とも解釈できる。それは発泡
降伏後に平坦になる点である。平坦部が顕著にみ
構造の形成メカニズムを理解する上で重要であ
られるかどうかは材料にもよる。アルミニウムの
731
7.断熱用発泡製品(フォーム材)
したがって、発泡樹脂断熱材の規格である JIS
A 9511(発泡プラスチック保温材)は建築用途
ではなく産業用途、具体的には配管などの設備に
7.断熱用発泡製品(フォーム材)
用いる断熱材を対象とした規格となっている。
2.発泡プラスチック保温材
JIS A 9511 では、以下の材料をこの規格の適
はじめに
用範囲としている。
「保温保冷材として使用する」
断熱材は様々な用途に用いられるが、JIS 規格
において「断熱材」あるいは「保温材」として規
・板状の発泡プラスチック保温材(保温板)
定されているものはさほど多くない。現在製品規
・筒状の発泡プラスチック保温材(保温筒)
格として制定されているものは表 1 に示す 6 規
・発泡プラスチック配管継手部保温カバー(継
手カバー)
格のみである。このほかに断熱材用途として用い
また、この規格で扱う材料としては以下の 5 種
ら れ る 特 殊 な も の で JIS R 3311(セ ラ ミ ッ ク
類の材料が規定されている。
ファイバーブランケット)があるが、これは
1000℃以上の高温下での使用を想定した材料で
・ビーズ法ポリスチレンフォーム保温材
ある。規格番号中の A は(土木及び建築)分野
・押出法ポリスチレンフォーム保温材
を示しており、したがって規定されているものは
・硬質ウレタンフォーム保温材
主に土木や建築に用いられることを想定した規格
・ポリエチレンフォーム保温材
となっている。
・フェノールフォーム保温材
実際には建築物の断熱用にこれらの材料が用い
ここでは、JIS A 9511(発泡プラスチック保温
られることも多く、このためこの規格が、建築用
材)の試験方法を中心に解説する。
途に用いられる場合の発泡プラスチック保温材の
1.断熱材と保温材
性能を保証するという実態もある。
通常、断熱あるいは保温・保冷を目的として用
また、JIS A 9511 とは別に現場施工型の断熱
いられる材料は断熱材あるいは保温材と呼ばれる
材として JIS A 9526(建築物断熱用吹付け硬質
ことが多い。これらは明確に使い分けられている
ウレタンフォーム)が規定されている。
ものではないが、ある程度用途によって使い分け
3.発泡プラスチック保温材の熱伝導率
ている場合が多い。表 1 に示した規格名称におい
て断熱材と保温材の 2 つの名称が用いられてい
断熱材に要求される性能のうち最も重要なのが
るが、断熱材は建築用途を、保温材は産業用途を
熱伝導率(断熱性能)である。各材料の熱伝導率
意識して作られている。JIS A 0202(断熱用語)
は、規格の中で細かく規定されており、主に密度
によれば、保温材あるいは保冷材は「工業分野で
の違いによって分類され、それぞれ熱伝導率の上
主として呼称する。
」と定義されている。
限値が規定されている。最も熱伝導率の規定値が
小さいものが A 種フェノールフォーム保温材 1
種で 0.022W/
(m・K)以下であり、最大のものが
表 1 断熱材・保温材 JIS 一覧
規格番号
A 種ポリエチレンフォーム保温材 1 種で 0.042
規格名称
W/
(m・K)以下である。
JIS A 9504
人造鉱物繊維保温材
JIS A 9510
無機多孔質保温材
JIS A 9511
発泡プラスチック保温材
別して定常法と非定常法とに分けられる。通常断
JIS A 9521
住宅用人造鉱物繊維断熱材
熱材量の熱伝導率測定に用いられる測定方法は定
JIS A 9523
吹込み用繊維質断熱材
JIS A 9526
建築物断熱用吹付け硬質ウレタンフォーム
常法である。熱線法に代表される非定常法によっ
熱伝導率の測定方法には様々な方法があるが大
て断熱材の熱伝導率を測定することも可能である
737
8.接着・接合
2.接着剤 ― 接着強さ試験方法
(JIS K 6848-1~4:1999)
本試験方法は、各種の接着強さの試験、測定項
8.接着・接合
目と被着材の種類との組合せがある。
JIS K 6848-1 は通則、JIS K 6848-2 は金属の
表面調整(表面処理)の指針(ISO 4588:1995
の IDT)
、同-3 はプラスチックの表面調整(表面
はじめに
処理)の指針(ISO 13895:1996 の IDT)である。
接着に関する試験項目は、①接着剤の基本特
2004 年に ISO 4588 と ISO 13895 が改正、統合
性、②接着強さ(静的強さ、動的強さ)
、③接着
されて ISO 17212:2012(構造用接着剤 ― 金属
の安全性・信頼性(耐久性能、VOC など)に分
及びプラスチックの接合に先立つ表面処理のガイ
類される。
ドライン)となった。JIS K 6848-4 は、金属、
以下、順次、JIS 規格(対応 ISO 含む)を紹介
プラスチックを除く被着材(ゴム・木材・木質材
1、
2)
し、重要な試験法について、解説していく
料・綿帆布・ビニルレザークロス等)の表面調整
。
の指針である。
1.接着剤の基本特性の試験、測定方法
(JIS K 6833-1、-2:2008)
3.静的な接着強さ試験、測定方法
3.1 引張り接着強さ(JIS K 6849:1994)
接着剤基本特性は、接着剤性能を理解し、製品
を構成する被着材への適性、被着材の表面処理方
被着材としては、金属、プラスチック、強化プ
法の選択、接着工程の管理(接着剤の塗布方法、
ラスチック(FRP など)及びゴムとし、12.7mm
塗布量、接着の時間、温度、圧締圧など)に役立
径もしくは角丸棒や角棒を突き合せ接着した試験
つ。更に、接着製品の耐久性(寿命)
、安全性、
片を用いて引張り応力を加え、破断した時の強さ
信頼性などの推定及び接着不良原因の解析として
を求める。
も有効である。
一般に、試験片作製に手間がかかる。接着剤の
本規格は、次の通り構成されている。
種類も化学反応形など高強度のものに適用される
(1)一般性状に関する試験
などの問題点がある。しかし、接着剤の弾性率に
① 外 観
応じた形状・寸法を設定すれば、接着剤の特性試
② 密 度
験として応力集中が少なく、接着剤の純粋な引張
③ pH
強さに近い測定値が求められると考えられてい
④ 粘 度
る。なお、工夫すれば、密度の高い木材の試験片
⑤ 不揮発分
を用いることも可能である。
3.2 引張せん断接着強さ(JIS K 6850:1999;
(2)使用条件に関する試験
ISO 4587:2003 の MOD)
① 水混和性
② 塗布性
剛性被着材のせん断強さを求める方法である
③ 白化温度及び最低造膜温度
が、剛性被着材(主として金属類)といっても種
④ 接着強さ発現性
類は多く、その弾性率の影響は無視できない。こ
⑤ 貯蔵安定性
の測定方法は、一定の荷重速度で試験機を操作し
(3)使用条件に関する試験
てもよいことになっているが、荷重速度の設定に
ポットライフ(可使時間)
:JIS K 6870:2008
考慮要である。
(ISO 10364:2007、IDT)
被着材の厚さが薄い場合は、応力集中の他に、
(4)接着層の性能に関する試験
単純重ね部分に、変形によるはく離応力が作用す
① ブロッキング性
るので、試験片の厚さを厚くすることも必要にな
② 軟化温度
る。まず、異種材料間のせん断接着強さの測定や
743
第 12 章 各種製品の試験法
9.塗装・塗料
基材
化学的橋架け…………………………架橋
はじめに
物理化学的橋架け……………………吸着
塗料は薄層で建築物、自動車、電子機器など多
物理化学的橋架け……………………付着
くの材料の表面に塗装されている。乾燥・硬化過
物理的橋架け…………………………絡合
程を経て固化する。そして数多くの機能を果たす
図 1 塗膜の構造
ことになる。多くの機能の評価技術にも種々の方
法がある。塗料のようなコーティング材料は必ず
金属・プラスチックス・木材等に塗られ、よく付
2500
着した状態で固化しているためこれら基材への付
2000
に付着した状態での総合的な評価が必要になる。
最近話題となった手法について説明する。
粘度
着効果が性能に影響する。そのために評価は基材
1500
Al
Cu
SUS
PC
PET
PI
PP
1000
500
1.塗料の構造と物性
塗料は樹脂、顔料、添加剤、溶剤(水を含む)
から構成されている溶液材料である。これは材料
0
0:00:00 0:01:26 0:02:53 0:04:19 0:05:46 0:07:12 0:08:38 0:10:05
ぬれ時間(h:m:s)
図 2 基材による粘度変化
としての状態である。これを各種の基材に塗装
し、乾燥・硬化挙動を経て固化膜(塗膜)として
塗装品が出来る。塗膜は単独の物性のみでなく、
加熱式天秤 MS-70(30℃∼)
上層材料・下層材料との付着の効果を受ける。そ
50
の塗膜も化学的あるいは物理化学的、物理的な構
膜中に残留する溶剤の蒸発
造は図 1 に示す。
蒸発%
40
2.液体コーティング剤の評価
代表的な項目は粘度である。われわれは何も気
30
20
にせず使う言葉である。しかし、粘度で液体の流
動特性を評価できるであろうか。液体の流動特性
樹脂−溶剤からの蒸発
最適加熱開始領域
10
は粘性である。粘性は官能的な特性である。これ
溶剤−溶剤からの蒸発
0
0:00:00
0:07:12
を数値的特性にしたのが粘度である。図 2 に無溶
剤型エポキシ樹脂とアクリルシリコン樹脂の粘度
0:14:24
0:21:36
蒸発時間(h:m:s)
を粘度計のセンサー種を変えた場合の粘度比較を
示す。粘度値の大小も、数値順位になっている。
図 3 加熱開始最適時間の測定(加熱天秤)
この現象はセンサーの材質への試料の濡れの差が
寄与している。この現象を使用した計測器が最
溶剤の蒸発は殆どの技術者は沸点で片付けてし
近、開発され、電池の電極膜への電解液の濡れ性
まう。図 3 に電極膜の乾燥・硬化過程における溶
や浸透性の試験に活用されている。
(音叉式物性
剤の蒸発過程を示す。Al 箔に実用膜厚に塗布す
試験器 TFP-10 ㈱エー・アンド・デイ製)
る。それを高感度で試料部が直径 80mm で 30℃
748
第 12 章 各種製品の試験法
1985 年に Kuroto、Smalley、Curl らによって炭
素五員環と炭素六員環で構成されるサッカーボー
ル形分子であるフラーレン C60 が発見され1)、こ
10.ナノカーボン材料
れ以降ナノカーボン材料が注目され、様々な研究
が盛んに行われるようになった。図 2.1 にフラー
レンの構造を示す。フラーレンの形状はアメリカ
の構造家であるリチャード・バックミンスター・
1.はじめに
フラーが創造したジオデシック・ドームと同じ構
原子や分子を操るナノテクノロジーは材料や化
造をしている。このため、フラーレンはバックミ
学だけでなく、さまざまな分野の研究者が関心を
ンスターフラーレン、またはバッキー・ボールと
持っている。ナノテクノロジーはこれまでの学術
も呼ばれている。
分類、例えば物理、化学など既存の枠にとらわれ
発見当初、フラーレンは真空中においてグラ
ず相互に影響し合い融合するべきである特別の分
ファイトに高出力のレーザー光線を照射すること
野といえる。この技術は材料、エネルギー、エレ
で生成された。この方法では少量のフラーレンを
クトロニクス、IT(情報通信技術)
、バイオ、医
生成するのみであった。その後、炭素電極による
療など広範な産業の基盤に関わるものであり、21
アーク放電法により陽極側にフラーレンが生成す
世紀における最重要技術として捉えられている。
ることが発見され、フラーレンの大量生成が可能
ナノテクノロジーはナノテクと略され、産業利
になった2-4)。グラファイト電極をアーク放電に
用として日常生活に少しずつではあるが浸透して
よって蒸発させると、
「陽極側」にたまった「煤」
きている。物のサイズをナノレベルすなわち原子
に C60 が大量に含まれているというものである。
レベルまで小さくしていくと、その本来の性質が
フラーレンはその大きさ(C60 の場合:直径 0.7
際立ち全く新しい機能が発現する。ナノテクノロ
[nm]
)と形状により粒子状充填材(ナノフィ
ジーは小さなものの特質を究め、世の中の発展に
ラー)として樹脂や強化繊維の複合材料として用
役立つ新素材を生み出し、それを使用した様々な
いられている。また、樹脂やオイルに添加するこ
素子やシステムを作り上げることを目指してい
とで低摩擦係数の潤滑剤としても用いられてい
る。
る5-8)。
ナノテクノロジーの分野で最も注目されている
1991 年、フラーレンの研究においてただ一人、
材料の一つがカーボンナノチューブ(Carbon
飯島澄男博士(当時日本電気㈱ 基礎研究所の主
Nanotube、CNT)である。ダイヤモンド、黒鉛
席研究員)は、他の研究者が注目しなかった「陰
(グラファイト)
、フラーレンに続く炭素の第 4 の
極側」のグラファイト棒に堆積した「煤」に注目
同素体として知られている CNT は、炭素原子の
みからなる新物質であり、その非常に小さなサイ
ズと多くの優れた物理的・化学的な物性を持つこ
とから、基礎研究と様々な分野および用途への応
用が期待されている。
本稿では、CNT の構造、種類、特性、評価方法、
ならびに応用例について概説する。
2.ナノカーボン材料とカーボンナノチュー
ブの発見
炭素(カーボン)は宇宙において水素、ヘリウ
ム、酸素に次いで 4 番目に豊富に存在する物質で
あり古くから人々の生活と密接に関わってきた。
752
図 2.1 フラーレン C60 の構造10)
11.プラスチックデッキ材
表 1 プラスチックデッキ材の性能
試験項目
11.プラスチックデッキ材
曲げ
性能
亀裂及び割れがない
たわみが 3.5mm 以下
局部圧縮 亀裂及び割れがない
衝撃
耐燃性
はじめに
滑り
プラスチックデッキ材は、木製のデッキ材と比
耐候性
較して軽量であり、腐敗や虫による食害、膨潤に
よる寸法変化等が少ないことから、住宅のベラン
亀裂及び割れがない
燃え続けない
滑り材の指導時の荷重が 98.1N 以上
(長さ方向及び幅方向とも)
引張強さ変化率 -15%以内
伸び変化率 50%以内
注記 引張強さ変化率の“-”は劣化を表している。
ダ・バルコニーおよびプールサイドの床や公園の
ベンチなどを構成する材料として広く使用されて
荷重(加圧棒の質量を含む)
いる。製品規格としては JIS A 5721(プラスチッ
クデッキ材)が 1979 年に制定され、この中で製
規定されている。また、2006 年にはデッキ材の
20
40
品の種類、品質、形状及び寸法、試験方法などが
加圧棒(直径約 30 の鋼棒又は鋼管)
試験片
材料として使用される木材・プラスチック再生複
450
合材〈Wood Plastic Recycled Composites〉
」
(以
450
450
鋼製角パイプ
下 WPRC と略す)が新たに JIS A 5741 に規定さ
C 形鋼
図 1 曲げ試験の試験体設置状況 1)
れた。
デッキ材は屋外で長期にわたって使用されるこ
とから紫外線や熱、水分等の劣化因子に対して高
(2)局部圧縮試験
い耐久性能が要求されるだけでなく、人が製品の
試験体の裏面に補強がない箇所に対して、直径
上を歩行する事から、滑りやすさの性能も求めら
25mm、先端が半球状の鋼棒によって 980.7N の
れることとなる。
荷重を加え、圧入部分の亀裂及び割れの有無を調
ここではデッキ材として使用されるプラス
チックデッキ材及び WPRC の主要な性能の評価
べる。
(3)衝撃試験
方法について述べる。
長 さ 500mm に 加 工 し た デ ッ キ 材 を ス パ ン
450mm で支持し、裏面に補強が無い箇所に質量
1.プラスチックデッキ材
1 kg のなす形おもりを 1200mm の高さから落下
させ、亀裂及び割れの有無を調べる。
JIS A 5721 規定される性能としては曲げ、局
部圧縮、衝撃、対燃性、滑り、耐候性といった試
(4)耐燃焼性試験
験項目があり表 1 に示す性能に適合しなければ
製品から 150mm×10mm の寸法に切り出した
ならない。以下にこれらの特性の試験方法につい
試験体をスタンドに保持し、図 2 に示す様に試験
て述べる。
体の下端に青色炎の先端を 30 秒間接触させ、炎
(1)曲げ試験
を取り去った後の燃焼距離及び燃焼時間を計測す
る。
デッキ材を長さ 1500mm に加工したものを試
験体とする。図 1 に示すように試験体を鋼製治具
(5)滑り試験
に固定した後、試験体中央に 147.1N 及び 588.4N
試 験 体 を 平 板 上 に 固 定 し、 そ の 上 に 長 さ
の荷重を加えた際のたわみを測定して、その差を
200mm、幅 100mm、厚さ約 25mm のラワン材
求める。また、1471.0N の荷重を加え、亀裂及び
に厚さ約 6 mm のフェルトを取り付けた滑り材
割れの有無を調べる。
を介して、質量 75kg のおもりを載せ、ばねばか
767
第 12 章 各種製品の試験法
2.機械的特性
薄肉のプラスチック成形品では、ポリマーの配
向が起こりやすくなり、標準試験片に比較して、
12.家電製品
物性値が大きく異なる。射出成形では、樹脂の流
動方向にポリマーが配向し、機械的特性は向上す
るが、流動と直角方向では、逆に、機械的特性は
低下する。樹脂の流動状態は、ゲート(注入)位
はじめに
置、ゲート形状、成形条件に大きく依存するため、
家電製品は、筐体や電気・機構部品にプラス
成形品の機械的特性評価では、成形条件、金型温
チックを多用しているが、製品として次の特徴が
度を変化させて評価用成形品を作製し、特性の変
ある。
化幅を知ることが重要となる。
プラスチックのシート材料を加熱軟化させて成
① 使用者が常時操作を行い、安全性が重要
形を行う熱(真空、圧空)成形やプリフォームを
② 使用環境が、室内・屋外、食品・洗剤と接
圧空成形するブロー成形では、ポリマーの大きな
触、高温など広範囲
二軸(三軸)配向により、成形品の機械的特性は
③ 居住環境で使用されるため、意匠外観が重
大きく向上する。
要
成形品の機械的特性として引張特性、曲げ特性
④ 使用期間が平均 10 年、季節家電製品では
を評価するためには、成形品から小さな試験片
20~30 年と長い
を、流動(配向)方向と直角方向の 2 箇所から切
プラスチックの材料評価では、一般的な機械的
特性、熱的特性に加え、電気絶縁性、難燃性、衛
り出し、JIS に準じた試験方法を適用する。また、
生性など使用の安全に係わる項目が特に重要とな
製品使用時の特性変化を知るために成形品にア
る。クリーナや扇風機などの可搬製品では、落下
ニール処理を行い、成形残留ひずみを除去した試
などの衝撃に耐える機械特性が要求され、オーブ
験片での評価を合わせて行う場合もある。結晶性
ントースターやホットプレートなどのヒータを内
プラスチックでは、アニールにより十分に結晶化
蔵する製品では、耐熱性、難燃性が重要となる。
させて、特性変化を求める。図 1 は、成形品から
調理器具や食品と接触する部材では、有害物が
試験片を切り出す抜き刃と、切り出された試験片
発生、溶出しない安全な衛生性に加え、食品や洗
を示す。厚さが大きな成形品では、抜き刃を用い
剤などの接触では、環境(溶剤)応力割れのリス
るには不適であり、この場合は機械加工により切
クがある。したがって、プラスチックの評価は
削して試験片を作製する。得られたデータの絶対
JIS や ISO で規格化されている基本的な材料試験
的評価は困難であり、成形品の相対評価に用い
に加えて、家電製品および構成するプラスチック
る。
シャルピー衝撃試験やアイゾット衝撃試験が試
成形品を用いた実用的な試験、評価が行われてい
ることが特徴である。
1.家電製品における材料試験、評価
材料の相対的評価では、JIS や ISO の規格に基
づいた試験法を適用して特性評価を行うが、家電
製品のプラスチック成形品の板厚は 0.5-2.0mm
が多く、標準試験片の板厚 4.0mm に対して薄い。
また、プラスチック成形品は、同じ材料を用いて
も、成形品形状、成形法により成形品物性は大き
く異なる。
図 1 打ち抜き冶具と試験片
772
第 12 章 各種製品の試験法
大きく変化する。さらに、硬式用、軟式用、ソフ
13.スポーツ用品
トボール用と種類によって規格も大きく変化す
る。これは、バットに与えられるボールの衝突エ
ネルギーの差異に依存する。さらに、一般用、中
13-1 スポーツ用具(一般)
(バット、ヘルメット、胸部保護パッド)
学生用、ノック用など使用者によっても細分化さ
れ、それぞれに基準となる強度が、製品安全協会
(以下、SG)によって詳細に決定されている。現
段階では樹脂性バットは未だ開発されておらず、
炭素繊維やガラス繊維によって強化された FRP
はじめに
が原材料と言える。ここでは、FRP 製バットが
スポーツ用具において要求される機能とは、そ
認可されているソフトボール用、軟式用の中から
の使用者を障害から守りつつ、持てるパフォーマ
軟式用バットを中心にその試験方法を紹介する。
ンスを最大化することである。野球を例に取って
軟 式 用 FRP バ ッ ト に お け る SG 基 準
みると、プレー中に想定される障害からプレイ
(CPSA0024)は、バット全体の曲げ変形と打撃
ヤーを守るために、キャッチャーはプロテクター
部の扁平変形に対応したものである。図 2 は曲げ
と呼ばれる防具を身につけ、バッターは投球から
試験方法の試験条件の概略を表したものである。
頭部を守るべくヘルメットを着用し、また自打球
グリップエンドから 60mm、720mm の位置を支
から足部を守るべくレガースを装着する。また、
持し、460mm の箇所にクロスヘッド速度 20mm/
パフォーマンスを最大化させるべく、野手は全方
分以下での負荷を加える三点曲げ試験が採用され
向に高いグリップ性を発揮する金属製の金具が装
ている。ここで、基準に合格するには 500kgf 負
着されたスパイクを使用し、体幹を安定させるべ
荷時において、如何なる破壊も見られないことが
く衣服圧の高いアンダーウエアを着用する。さら
求められる。ただし、圧し点は、バットのテー
には捕球時の動きをより高速にすることで、守備
パー部であり、圧しの形状によって点荷重となる
範囲の拡大を目指した軽量グラブも開発され、飛
ため、圧し点直下での応力集中が避けられず、圧
距離を増大させるための高反発バットの開発も盛
しとバット間にバットと類似した曲率を有する金
んに行われている。このように、一つの競技を
とってみても、様々なシーンに対応した用具が開
ロード
セル
発され、競技者の要求機能を満足させるための取
り組みがなされている。本節では、野球に使用さ
れる用具の中から、樹脂部材を中心にバット、ヘ
ルメット、心臓震盪予防プロテクター(以下、胸
部保護パッド)の開発過程で行われる試験方法を
60
規格と共に紹介する。
400
260
1.バット試験方法
バットは図 1 に示すように、グリップ部、テー
パー部、打撃部と呼ばれる各部位で、その形状が
ヘッドキャップ
グリップエンド
グリップ部
テーパー部
打撃部
図 1 バット各部名称
図 2 バット曲げ試験
780
[mm]
13-2 スポーツシューズ
1.評価法の概要
代表的なスポーツシューズの一例として、図 1
にランニングシューズの構造を示す。シューズは
13-2 スポーツシューズ
先ず、足部を包み込むアッパーと、ソールに大別
できる。また、ソールはミッドソールとアウター
ソールに分割される。アッパーにおいては、通気
性を考慮すべくラッセル編みされたポリエステル
はじめに
繊維が使用されることが多い。こういった繊維構
スポーツを楽しむ場合、競技やサーフェス(路
造物は可とう性を有するためフィット性の向上に
面)に合わせて、シューズを選択することが望ま
も効果的であるが、シューズ内の足のずれを抑制
しい。各種競技専用のシューズには、特有の動作
するために、部位ごとにカッティングウェルダー
に対応させ、
「使用者を怪我から守る」
「使用者の
と呼ばれるポリウレタン製の樹脂強化や踵部には
パフォーマンスを向上させる」
「使用時のシュー
ヒールカウンターと呼ばれる踵形状を模した樹脂
ズ内環境を快適に保つ」などの機能を発現させる
製の部材を有している。さらに耐久性を向上させ
ための様々な構造・材料が適用されている。
ることを目的に、走行中に発生する局所的な圧力
に対応すべく、爪先部には人工皮革などの強化が
これらシューズの設計を行う過程において、注
施される場合も多い。一方、ミッドソールが発現
目すべき機能は、
・衝撃緩衝性(接地時の衝撃を緩和させる)
すべき機能として、緩衝性と安定性、更には軽量
・安定性(動作中の関節の過度な動きを抑制す
性が挙げられる。このため、軽量性と緩衝性を同
時に発現すべく、エチレン―酢酸ビニル共重合体
る)
・屈曲性(足部の曲がりに対応した屈曲状態を
(以下、EVA)をフォーム化した材料が主流であ
る。EVA フォームは既述の特性を発現すると同
実現する)
・通気性(靴内の温湿度を制御する)
時に、ポリウレタン系接着剤を用いることでアッ
・フィット性(着用時の快適性を保つ)
パー材との高い接着強度が得られ、経時劣化も小
・軽量性(使用者の負荷を低減させる)
さいことから耐久性の観点においても優れた材料
・耐久性(長期間の使用を可能にする)
といえる。走行時接地中において、高い鉛直方向
・グリップ性(効率的な路面への力の伝達を実
地面反力が発生する際の接地部位である踵部後端
の外足側及び母趾球直下においては、ゲルなどの
現する)
などが代表的なものであり、それぞれに評価手法
より損失係数が高い材料も併用される場合があ
が存在する。
る。また、高い安定性を実現するために、踵部外
シャンク
ベロ
ヒール
カウンター
(内蔵)
ハトメ
甲被
(アッパー)
爪先補強 メッシュ
ソール
ミッドソール
カッティング
外底(アウターソール) ウェルダー
緩衝材(ゲル)
図 1 ランニングシューズの構造例
785
第 12 章 各種製品の試験法
手元側を固定し、WOOD 用シャフトの場合
200g、Iron シャフトの場合 240g の錘を先端側に
13-3 繊維強化プラスチック(FRP)
製ゴルフシャフト
取付け、錘を上下に振動させ振動数を測定する。
(図 3)
振動数が大きいほど硬いシャフトとなる。
③ 曲げ剛性分布(EI 分布)
三点曲げ(スパン L=300mm)の要領で一定
1.性能評価(日本シャフト基準※性能評価は
量(δ=1mm)撓んだ時の荷重値(P)を読み、
その測定を 20mm ピッチでシャフト全長に渡っ
各社各様のため参考データ)
て行う。
(図 4)
(1)フレックス(曲げ剛性)
⇒荷重と撓み量より曲げ剛性(EI)を算出
プレーヤーは、スイングタイプやスイングス
(2)キックポイント(調子)
ピードに合ったフレックスのシャフトを使用する
キックポイントには、先調子・中調子・元調子
ことが必要であり、曲げ剛性の測定方法は下記の
などがあり、一般的に先調子はシャフトの先端側
通り。
① 片持ち式フレックス測定方法(単位:mm)
が撓り球が高弾道になり、元調子はシャフトの手
a.順式フレックス測定方法(図 1)
元側が撓り低弾道となる。
b.逆式フレックス測定方法(図 2)
キックポイントは、片持ち方式フレックスの撓
み量より、下記計算式で算出した数値より求める
順式フレックスは、手元側を固定し先端側に錘
ことができる。
(表 1)
(2.7kg)を吊り下げて撓み量を測定する。逆式フ
(単位:°
)
レックスは、先端側を固定し手元側に錘(1.5kg) (3)トルク(ト―ション)
トルクとは、シャフトのねじれを示す値であ
を吊り下げて撓み量を測定する。撓み量が少ない
り、シャフトの手元と先端を固定し、先端側に
ほど硬いシャフトとなる。
シャフト軸線より 1 フィート(305mm)離れた
② 振動数(単位:cpm)
A
L
25
140
種類
A
B
Wood
57mm
20mm
Iron
10mm
15mm
B
W
W
δ
2.7kg
W
図 1 順式フレックス測定方法
A
L
25
140
種類
A
B
Wood
20mm
57mm
Iron
15mm
10mm
W
W
1.5kg
W
図 2 逆式フレックス測定方法
790
B
δ
14.玩 具
(ST2012)
・EU:欧州玩具安全規格(EN71)
、電気玩具安
全基準(EN62115)
、REACH 法規
14.玩 具
・ア メ リ カ:ASTM イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル
(ASTM)
、米国消費者製品安全委員会(CPSC)
・中国:中華人民共和国国家基準(GB6675)
・韓国:自律安全確認対象工産品の安全基準
はじめに
・カナダ:カナダ危険玩具条例
・その他玩具基準
玩具は子どもが健全に、想像力豊かに成長する
ためには必要不可欠なものである。玩具は丈夫
2.おもちゃの種類
で、安全で、面白く、子供の感性を刺激し、健全
な心身の成長に役立つものでなければならない。
日本の食品衛生法おもちゃ及び玩具安全基準に
今ではデザイン性の高いものや機能性があるもの
ついて
など、技術の進歩により多種多様な玩具が製造さ
(1)食品衛生法で規定されている指定おもちゃの
れて市場に出回っている。しかし、それらの玩具
範囲は次の通り。
は安全に配慮されたものでなければならない。安
・乳幼児(6 才未満)が口に接触することをそ
全に対する配慮が十分になされていない玩具を子
の本質とするおもちゃ
供に与えてしまうと、誤飲や誤嚥による窒息、玩
・うつし絵、起き上がり、おめん、折り紙、が
具の鋭い縁部や先端によるけが等、様々な事故の
らがら、がん具アクセサリー、知育玩具(口
起こる可能性が大きくなる。特に誤飲や誤嚥では
に接触する可能性のないものを除く。
)
、つみ
ひどい場合、重篤な脳障害や最悪の場合死に至る
き、電話がん具、動物がん具、人形、粘土、
危険性がある。日本ではそのようなリスクを少し
乗物がん具、風船、ブロックがん具、ボール、
でも低減させ、販売される玩具の安全性を高める
ままごと用具、以上のおもちゃと組み合わせ
ために、厚生省により昭和 23 年に指定おもちゃ
て遊ぶおもちゃ
が規定され、昭和 34 年に規格及び製造基準が設
(2)玩具安全基準で規定されている玩具の適用範
定されている。これら規格及び製造基準に適合し
囲は次の通り。
ない玩具は、販売、製造、輸入等が禁止されてい
・14 才以下の子供の遊び用に設計され、又は、
る。また、日本の玩具業界は昭和 46 年(1971 年)
明らかにそれを意図した全ての玩具に適用す
に玩具安全基準(ST 基準)を策定するとともに、
る。
玩具安全マーク(ST マーク)制度を創設して、
(3)次の品目は玩具安全基準(2012)の適用対象
玩具安全基準の中に食品衛生法の規格基準を取り
としない。
入れるとともに、機械的及び物理的特性、可燃性
・JIS D 9111(2005)に規定されている乳幼児
等の基準を設定することにより、より安全な玩具
用自転車、サドルの高さが 435mm を超える
の普及に努めている。一方、海外にも玩具に対す
子供用自転車、足踏式三輪車、三輪及び四輪
る規制が設定されており、ヨーロッパ、アメリカ
の足踏式自動車(ただし、押手棒付のものを
及び ISO 等の玩具基準が設定されている。
除く)
、ローラースケート、インラインスケー
玩具基準は子供の安全性を第一に、あらゆる危
ト、スケートボード、キックスケーター、二
険性に対応するため必要に応じて改定が行われて
人以上の子供が乗ることができるぶらんこ、
いる。
木製のすべり台
・パチンコ
1.玩具規制の種類
・金属製の先端のついたダーツ
・ガスで作動する銃及びピストル(空気圧縮に
主な玩具の規制として次のようなものがある。
よるものを除く)
・日 本:食品衛生法のおもちゃ、玩具安全基準
793
第 12 章 各種製品の試験法
から、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、販
売の用に供し、若しくは営業上使用する器具若し
くは容器包装若しくはこれらの原材料につき規格
15.食 器
を定め、又はこれらの製造方法につき基準を定め
ることができる。
」としており、これに基づいて
1959 年に厚生省告示第 370 号「食品、添加物等
の規格基準」が定められた。この規格基準のうち、
はじめに
「第 3 器具及び容器包装」において、プラスチッ
ク製食器等の規格基準及び試験方法等が定められ
食器は、私たちの生活のなかで必需品であり、
ている。
プラスチック、陶磁器、金属などさまざまな材質
で作られたものが市場に出回っている。特にプラ
「食品、添加物等の規格基準」の「第 3 器具
スチック製品は使いやすさや取扱の容易さなどか
及び容器包装」では、原材料一般の規格、原材料
ら業務用だけでなく一般家庭でも多く使用されて
の材質別規格、用途別規格、製造基準の 4 つの項
いる。食器として使用される主なプラスチック
目において規格基準を定めている。この中で、プ
は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレ
ラスチック製食器に関する規格は、合成樹脂一般
ン、フェノール樹脂、メラミン樹脂等があり、そ
規格とポリエチレン等の 13 品目に対する個別規
れぞれのプラスチックの特徴を生かして製品化さ
格がある。
れている1)。
これらの規格は、材質試験と溶出試験からな
しかしながら、それらのプラスチック製食器の
り、材質試験は材質中に残存する化学物質の量を
衛生性についての関心は、食品等と比べるとそれ
測定する試験であり、他方、溶出試験は定められ
ほど高くなく、見過ごされていることが多いよう
た試験条件下で溶出する化学物質の量を測定する
に思われる。そこで、この項目では、プラスチッ
ものである。溶出試験は、食器等が使用される条
ク製食器の衛生性について述べる。
件に近い条件で試験するように定められており、
溶出試験では食品を模した溶媒を用いて溶出を行
1.食品衛生法における食器の衛生性
うこととしている。油脂及び脂肪性食品の場合で
プラスチック製に限らず、食器は、食品衛生法
はヘプタン、酒類では 20%エタノール、これら
において器具の部類に区別されており、その衛生
の以外の食品で pH5 を超える場合は水、pH5 以
性については、食品衛生法第 4 条において、食品、
下の場合は 4%酢酸が規定されている。試験項目
添加物と並んで食品衛生の一つとされている。こ
により、対照となる化学物質の溶出量が多い溶媒
れは、食器等から溶出してきた化学物質が食品に
を用いる場合と、使用する食品に応じて 4 種類の
移行することによって間接的な食品添加物とな
溶媒から選択する場合がある。
り、人体に影響を及ぼす恐れがあるためである。
2.主な試験方法2)
食品衛生法、第 16 条において、
「有毒な、若しく
は有害な物質が含まれ、若しくは付着して人の健
「食品、添加物等の規格基準」の「第 3 器具
康を損なうおそれがある器具若しくは容器包装又
及び容器包装」で定められた試験項目のうち、プ
は食品若しくは添加物に接触してこれらに有害な
ラスチック製食器に関係の深い試験項目について
影響を与えることにより人の健康を損なうおそれ
述べる。
がある器具若しくは容器包装は、これを販売し、
2.1 材質試験
販売の用に供するために製造し、若しくは輸入
(1)カドミウム及び鉛
し、又は営業上使用してはならない。
」とあり、
全てのプラスチック製品に規定された試験であ
器具・容器包装において有害な物質を用いて製造
り、材質中にカドミウム及び鉛が各々100μg/g
してはならないことを定めている。また、第 18
以下と定められている。これらは、着色の目的で
条において、
「厚生労働大臣は、公衆衛生の見地
顔料としてカドミウム及び鉛の化合物等が使用さ
798
16.医療用材料
1.生物学的安全性試験1)
身体と直接もしくは間接的に接触して使用され
る医療用材料や医療機器を実際の医療現場で使用
16.医療用材料
するには、その有効性・有用性を示すことに加え
て、安全性を確保しなくてはならない。そのため、
医 療 機 器 の 生 物 学 的 評 価:ISO 10993(JIS T
0993)に従って、生物学的な有害作用(毒性ハ
はじめに
ザード)のリスク評価が実施されている。厚生労
医療用材料とは治療や診断など医療分野で使用
働省医薬食品局から平成 24 年 3 月に「医療機器
される材料の総称であり、医用材料あるいは生体
の生物学的安全性評価の基本的考え方」が発出さ
材料(バイオマテリアル)とも呼ばれる。医療用
れており、試験法については、別添の「生物学的
材料は、人工心肺や人工腎臓などの人工臓器類、
安全性試験法ガイダンス」に詳細が記載されてい
シリンジや輸液セットなどの医療器材、血管拡張
るので参考にすると良い。
用カテーテルやステントなどの治療デバイス、体
生物学的安全性評価で一般的に実施される試験
内に埋め込まれる人工血管や人工関節、再生医療
項目とその評価内容を表 1 に示した。医療用材料
やドラッグデリバリーシステムの担体など、多種
や医療機器の安全性評価では、生体との接触部位
多様な医療機器・医薬品の構成材料として使用さ
(皮膚、血液、組織など)や接触期間(24 時間以
内の一時的接触、30 日以内の短・中期的接触、
れている。
医療用材料は、生体組織と接触して使用される
30 日を超える長期的接触)により、実施する試
ため、共通して生体適合性や安全性が求められ
験項目が決定される(表 2)
。例えば、健常な皮
る。また、血管内治療法で使用されるカテーテル
膚と接触して使用される医療用材料では、細胞毒
などは、細く長い血管通って病変部位に到達しな
性、感作性、刺激性/皮内反応の各試験が必要と
ければならないため、摩擦抵抗が小さく血液適合
なる。一方、安全性上のリスクが大きい体内植込
性に優れた表面が求められる。ここでは、医療用
型医療機器では、前記に加えて、急性/亜急性全
材料に特徴的に求められる安全性や生体適合性、
身毒性、遺伝毒性、組織適合性や血液適合性が試
表面潤滑性の試験法について、概要を紹介する。
験項目として追加され、必要により慢性毒性、発
個々の材料や医療機器の試験法については、JIS
がん性、生殖/発生毒性、生分解性に関する試験
や ISO などの規格類、日本や米国などの薬局方、
が実施される。
米国食品医薬品局(FDA)は、生物学的安全
成書や論文等を参照していただきたい。
性試験の新ガイダンス案を 2013 年 4 月に通知し
表 1 医療機器の生物学的安全性試験
試験項目
評価内容
細胞毒性
細胞への傷害性や増殖阻害作用
皮膚感作性
遅延型アレルギー
刺激性/皮内反応
口腔粘膜や眼粘膜、および皮内での刺激性や炎症反応
急性全身毒性
単回投与後 24~72hr の全身反応と各臓器の病理解剖検査
発熱性物質
発熱性物質(エンドトキシンまたは非エンドトシキン)の有無
亜急性/亜慢性全身毒性 反復投与後の全身反応と各臓器の病理解剖・組織学的検査・血液検査
遺伝毒性
遺伝子突然変異および染色体異常の誘発性
埋植試験
皮下、筋肉内、または骨内に埋め込み、炎症などの局所反応を評価
血液適合性
血液成分への影響(赤血球の溶血、血液凝固系、補体系、血小板など)
厚生労働省「生物学的安全性試験法ガイダンス」の詳細は、PMDA の下記サイトを参照
http://www.pmda.go.jp/kijunsakusei/file/guideline/medical_device/T120302I0070.pdf
801
第 12 章 各種製品の試験法
な取組に向けた指針として編集されたものであ
り、用語の定義だけでなく、抗菌加工製品に関す
る消費者に提供すべき情報や試験方法、事業者側
17.抗菌加工製品
の取り組みの在り方等について取りまとめられて
おり、現在も我が国抗菌産業界の規範となってい
る。
それ以後制定された抗菌性試験方法に関する日
1.抗菌、抗菌加工製品とは何か ?
本工業規格 JIS Z 2801 でも、抗菌は「製品の表
抗菌加工は 1970 年代に日本で開発された技術
面における細菌の増殖を抑制する状態」と定義さ
であるが、その後、無機抗菌剤など新しい抗菌剤
れ、またこの JIS をベースに制定された抗菌試験
が開発され、また加工技術の進展によって用途分
法の国際規格 ISO 22196 でもほぼ同様に規定さ
野 が 拡 大 し た こ と、国民の清潔・衛生志向や
れており、国内外で広くガイドラインの定義が準
O157 などの細菌による疾病の発生によって抗菌
用されている。
加工製品に関心が高まったことによって、抗菌加
なお抗菌に近い分野で使われている殺菌、消
工製品は次第に日本市場で普及し、現在ではほぼ
毒、除菌などの用語について関連工業団体等に
定着している。抗菌という言葉も比較的良く知ら
よって行われた定義を表 1 に示す。関連製品を正
れるようになっているが、未だその正確な意味を
しく利用するためには、抗菌と他の用語との差異
理解せず、殺菌や除菌と混同している消費者も多
を良く理解しておく必要がある。表 1 にあるよう
いと思われる。
に、単に「抗菌」といった場合には、その言葉が
抗菌加工製品の抗菌という言葉の公式な定義
殺菌、滅菌、消毒、除菌、静菌などの広い機能の
は、平成 11 年 5 月に発行された「抗菌加工製品
総称として使用されている場合があり、抗菌加工
1)
ガイドライン」(図 1 はその表紙である)におい
製品における「抗菌」の意味とは異なることに注
て、
「抗菌加工製品における抗菌とは当該製品の
意が必要である。
信頼され安心できる抗菌加工製品の国際的な普
表面における細菌の増殖を抑制すること」とされ
たのが嚆矢とされる。このガイドラインは当時の
及とその認証を進めている抗菌製品技術協議会
通商産業省生活産業局によって、関係者の自主的
(以下、SIAA と略記する)では、細菌との共存
を図りつつ細菌の増殖を抑制する製品の普及に努
めるという活動理念を掲げている。医療や食品の
分野等では病原菌の殺滅は当然必要であるが、日
常、身近で使用する抗菌加工製品において、その
表面の細菌を完全に殺し排除しようとすること
は、強い薬剤を必要以上に大量に使用することに
つながるため、かえって人間に悪影響が及ぶ危険
性がある。一方、近年の微生物生態学の研究によ
り、細菌は環境中の仲間同士で情報交換を行い、
細菌が一定数を超えると集団化してバイオフィル
ムという共同体を形成し、またある時点で突然、
協同して病原性因子を発現し始めるなど新たな活
動を始めることが知られている2)。細菌の増殖を
抑制することの意味はこのような細菌の独特の生
態からも理解される。
増殖を抑制する程度のマイルドな効果を良とし
た「抗菌」という技術思想はヒノキを用いる建築
図 1 抗菌加工製品ガイドラインの表紙
808
第 12 章 各種製品の試験法
表 1 物流資材の評価(JI Z0200)
18.プラスチック製物流資材
試験方法
関連規格
落下による垂直衝撃試験
JIS Z 0202
前処置
水平衝撃試験
(傾斜面試験、振子試験)
1.物流におけるプラスチック
・物流は、トラック等の輸送機器、DC や TC と
いった物流拠点、倉庫管理システム(WMS)
や輸送管理システム(TMS)による効率化と
共に、物流資材から成り立っている。
・1950 年代より物流資材に、紙や木、鉄に代わ
JIS Z 0200 及び JIS Z 0203
JIS Z 0205
圧縮試験
JIS Z 0212
散水試験
JIS Z 0216
振動試験
JIS 0232
積重ね試験
(ISO 2234)
低圧試験
(ISO 2873)
転がし試験
(ISO 2876)
3.試験方法
る材質としてプラスチックが導入され始めた。
3.1 前 処 置
プラスチックは軽量で高機能、衛生的であ
り、量産により均一な品質で製品が供給可能で
(1)温 度
ある為またたく間に用途が広がり、近年はリサ
・プラスチックには温度依存性があり、高温環
イクル可能な材質として注目され高い評価を
境下では剛性が低下し、低温環境下では衝撃
受け今日に至っている。
強度が低下する。
・物流資材として使用されているプラスチック
その為、評価試験に供するサンプルは、評
は、軽量で生産量が多く比較的安価、且つ耐薬
価毎に取り決められた温度で調温すること
品性に優れるポリプロピレン、ポリエチレン多
が望ましい。
い。
・赤 道直下を通過する物流の評価であれば
・本稿ではこれらプラスチック製物流資材の性
50 ℃~60 ℃、 冷 凍 倉 庫 内 の 評 価 で あ れ ば
能・評価試験技術に関して紹介する。
-20℃など、実際の環境温度に調温して実施
することで、再現性が高まる。
2.使用環境と評価試験
・一般的な評価であれば JIS Z 0200 にて規定
されている、23℃での評価が望ましい。
・物流資材の評価試験として、実際の使用環境を
(2)湿 度
どのように再現し試験条件に置き換えるかが
・温度と同じく、実際の環境湿度を再現するこ
重要である。
・公的試験規格(JIS、ISO、ASTM、UN など)
とが望ましい。
・物流資材として使用される段ボール箱や木製
の中には、使用環境を基に取決められた試験も
パレットなどは、吸湿することで剛性が大き
多い。
く変化(吸湿するに従って低下)する為、こ
・JIS Z 0200 では、物流資材の評価に関して、表
1 のように定められている。
(表 1)
れらとの性能比較をする場合、湿度の管理は
必須である。
・プラスチック製物流資材の性能評価試験はもち
ろん表 1 のみではなく、各々の製品形状により
・また、プラスチックの中でも、ナイロン 6 お
定義されている場合(プラスチック製パレット
よびナイロン 66 は吸水性がある為、湿度の
JIS Z 0606/後述)や、業界、メーカーの自主
影響を受け易い。
ナイロンの吸水性は温度 23℃、湿度 65%
試験方法による評価の方が実際には多い。
の環境において 2~4%程であり、物流資材
以下、代表的な試験に関して紹介する。
の品質としては、主に製品寸法と衝撃強度が
影響を受ける。
814
19-1 航空機複合材構造の評価方法
1)
book-17(CMH-17)
である。これは長い間米軍
19.航空機関連
規格の複合材版である MIL-HDBK-17 として知
られてきたものであるが、民間旅客機や航空分野
以外での利用が増加し、現在では、FAA(Federal
Aviation Administration:米国連邦航空局)の
19-1 航空機複合材構造の評価方法
主導のもと、米国外も含めて官民から多くのメン
バが参加する委員会により運営されており、名称
を CMH-17 に変更している。この CMH-17 に示
されている考え方が、航空機に複合材料を適用す
はじめに
る場合の評価方法の事実上の標準となっている。
航空機構造は安全性を十分に確保すると共に軽
CMH-17 では、複合材構造の強度保証の方法
量化も同時に満たさなければならないという要求
を、図 1 に示すようなビルディング・ブロック・
から、他の構造物のように安全性の余裕を大きく
アプローチ(Building Block Approach:BBA)
取ることは難しい。従って、設計に当たっては軽
という概念で表している。BBA では、図 1 に示
量構造という限られた範囲内で最大限の安全余裕
す通り、短冊形試験片(Coupons)から始まって、
と適切な運用寿命を得ることが重要である。そし
C 型や T 型の要素試験片(Elements)
、構造部材
て、これらの設計目標である構造強度を確認、実
である(Details や Sub-Components)を経て最
証するために、小さな試験片レベルから実大構造
終的に目的とする構造(Components)までの強
までの各種の構造試験が実施されている。しか
度データを積み上げていき、目的とする構造の強
し、中規模の構造部位や実大構造の試験では経済
度保証を行う手法である。このような多数の試験
的、時間的な制約から試験を実施できる供試体の
を実施するのは、複合材料が本質的に異方性・非
数は限られ、それゆえ少量標本に基づく強度等の
均質性であり、金属材料に比較して、多数の強度
評価をせざるを得ない。また大型構造システムで
の種類が存在するためである。また、金属材料の
あるが故に同一構造も少なく、直接参照できる情
ように規格化されておらず、同じ炭素繊維と樹脂
報も限られる場合が多い。
の組み合わせであったとしても、製造者や製造方
法の違いにより特性が異なる場合があるため、生
本節では、航空機複合材構造の強度を保証する
ための実証試験がどのように実施されているか、
その基本的な考え方を紹介する。次に、少量標本
からの試験結果をどのように評価し、設計や構造
少ない供試験体の範囲で長期使用に対する信頼性
実証試験がどのように設定されるのか、その代表
的な実証手法について説明する。特に、疲労強度
を実証するための加速試験を具体例に取り上げ
NON−GENERIC SPECIMENS
されている評価試験について説明する。さらに、
SUB−COMPONENTS
DETAILS
STRUCTURAL FEATURES
運用に反映させるかについて、航空機構造に適用
COMPONENTS
1.1 ビルディング・ブロック・アプローチにつ
いて
複合材料を航空機構造に適用する場合にどのよ
うに強度保証を進めるべきかについて規定されて
い る の が、 米 国 の Composite Materials Hand­
ELEMENTS
COUPONS
DATA BASE
1.航空機複合材構造の強度保証方法の概要
GENERIC SPECIMENS
て、その基本的な考え方を示す。
図 1 Building Block Approach(BBA)の概念図
819
19-2 航空機主翼構造の事例
1.VaRTM 主翼構造の強度要求と試験計
画概要
19-2 航空機主翼構造の事例
(VaRTM 複合材)
航空機構造の強度実証における技術的な要求
は、我が国の場合、型式証明検査を所掌する国土
交通省航空局が定める耐空性審査要領第Ⅲ部7)
(以下、
「耐審」と呼ぶ)に基準が示されている。こ
はじめに
の耐審は FAA(Federal Aviation Administration
前節(航空機複合材構造の評価方法)でも述べ
: 米 国 連 邦 航 空 局 ) が 定 め る FAR(Federal
たように、複合材の航空機構造への適用は年々増
Aviation Regulations: 米 国 連 邦 航 空 規 則 ) の
加傾向にあるが、複合材機体を安全に運航するに
Part 258) や EASA(European Aviation Safety
は、機体の適切な運用と整備が必要不可欠である
Agency:欧州航空安全庁)が定める基準 CS-
ことは当然のことながら、さらにその前提として
259)
(Certification Specifications-25)と整合性が
複合材機体自体が安全な飛行を維持できるように
とられている。また、FAR の具体的な解釈を示
設計 ・ 製造されていることが重要である。一般的
すガイドラインとして AC(Advisory Circular)
、
な民間航空機の場合、新規で機体開発する際に
同様に CS に対しては AMC(Acceptable Means
は、製造国の航空当局が定める型式証明制度に
of Compliance)という文書が整備されている。
従って設計 ・ 製造方法の適切性を証明しなくて
上記基準の中で、航空機構造には、制限荷重と
はならない。この型式証明制度に関する法律や要
終極荷重に対する強度が要求され、さらに主構造
領等は体系的に整備されており、一般に公開され
要素(破壊した場合に航空機の致命的な破壊につ
ているが、中身は複雑で機体に求められる要件は
ながる構造要素)に対しては、疲労特性と損傷許
多岐にわたる。正直なところ、機体開発の経験が
容性の評価が要求されている。さらに、非常着陸
無いと型式証明実証プロセスの全容を理解するの
等に対する要求もあり、非常着陸時や非常着水時
は大変困難であるというのが実情ではないかと思
の構造損傷が起こった場合の搭乗者保護を考慮し
われる。したがって、どんなに素晴らしい材料が
た設計等も要求されている。VaRTM 実大主翼構
開発されたとしても、型式証明を取得するまでに
造の実証試験では、多々ある要求の中から航空機
は、その実証作業に多くの時間と労力を費やすこ
構造へ対する最も基本的な要求項目を選択し実証
とになる。
計画を策定した。以下に具体的な要求を示す。
一般的に、機体開発の型式証明計画や実証試験
規材料を航空機構造へ適用する場合に参考になる
1.1 制限荷重および終極荷重に対する強
度
実用的研究の例も少なかったことから、JAXA
(関連基準:耐審 3-1-3/FAR 25.305/CS 25.305)
(Japan Aerospace Exploration Agency:宇宙航
制限荷重(Design Limit Load:DLL)は、運
空研究開発機構)では、将来的な国産旅客機開発
用中に予想される最大荷重であり、制限荷重に安
等へのフィードバックを目的として、
「低コスト
全率(別に規定されている場合を除き“1.5”で
内容が開示されることはなく、複合材のような新
1~6)
複合材・製造技術の研究」を実施した
。この
ある)を乗じた値が終極荷重(Design Ultimate
研究では、低コスト成形が期待される VaRTM
Load:DUL)である。制限荷重に対しては、安
(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)技
全な運行を妨げる構造の変形や有害な残留変形が
術を航空機主翼構造へ適用し、成形から強度実証
起こらずに耐荷する要求があり、終極荷重に対し
に至る各プロセスに関して、設計・製造法に対す
ては少なくとも 3 秒間は持ちこたえなければな
る型式証明取得を意識した研究活動を行った。本
らないとの要求がある。これらの荷重に対する強
節では、実機適用を目的とした航空機複合材構造
度要求を、構造試験と構造解析を組み合わせて証
の評価事例の一つとして、当該研究中で用いた実
明する。
大主翼構造の実証試験概要を説明する。
825
第 12 章 各種製品の試験法
blade
blade
blade
20.小型風車用ブレード
shaft
shaft
shaft
はじめに
風力発電システムの経済性(発電単価)は設備
償却費にメンテナンス費を加えた年間経費を年間
発電電力量で除することによって求められること
から、設計寿命として 20 年を設定することが一
般である。更に、年間発電電力量を確保するため
に変動する風条件のなかで極力稼働率を上げるよ
うな運転制御を行うことが求められ、その結果年
図 1 基本座標系
間数千時間を上回る稼働時間となることが多い。
れているアルミ合金をのぞいて、小形風車用ブ
この間ブレードには、通常運転中の荷重変動に
レードの多くは複合材料による薄肉のシェル構造
よる疲労荷重に加え、台風通過時などに発生する
となっている。
過大な終局荷重が作用する。
複合材料には
・比剛性および比強度が高く軽量化が容易であ
小形風車の設計要件を定めた JIS C 1400-2 に
る。
おいては、上記のような事情を踏まえた構造設計
・成型性がよく理想的な空力特性を確保するこ
の基準が定められているが、型式認証については
とができる。
設計基準評価および設計評価に加え、強度検証と
・耐候性に優れておりメンテナンス不要。
して強度計算を補う“静的ブレード試験”が義務
付けられ、自然風下での耐久性試験や安全・機能
などの長所がある反面、本体部が剛性や強度の異
試験などとともに具体的な審査の場において重要
なる材料を複雑に組み合わせた構造体となってい
な位置を占めている。
ることと、翼根の取り付け部はアルミ合金や鋼材
などとの結合構造になっていて変形や破壊のメカ
1.小形風車用ブレード
ニズムが非常に複雑であるという技術的な困難性
1.1 風車運転中にブレードに発生する荷重
を伴う。
近年、複合材によるシェル構造についても、有
小形風車の各コンポーネントに作用する荷重の
1)
解析については文献 に解説されているが、ブ
限要素解析などの強度解析技術が発達してきてい
レードに作用する主要な荷重は図 1 に示す定義
るが、先にも述べたように認証審査のために少な
に従って、フラップ方向曲げモーメント MyB、
くとも実翼を用いた静荷重試験が課せられている
モーメント MzB および遠心力による軸力 FzB であ
る。
背景には上記のような事情があるものと考えられ
リード・ラグ方向曲げモーメント MxB、ねじり
る。
2.ブレード評価試験の関連規格と考え方
さらに、ブレードは回転翼として回転に伴う変
2.1 関連規格
動荷重を受け、支持構造物であるタワーのとの連
成振動の危険性もあることから固有振動解析も重
もっぱら大型風車用ブレードを対象として
要な要件となる。
IEC 規格2)が定められているが実際の運用の詳細
1.2 ブレードの構造と材料
については試験機関や認証機関の裁量に任されて
均一断面が許される垂直軸型風車に一部用いら
おり米国、ドイツ、デンマークなど主要な風車生
834
第 12 章 各種製品の試験法
などが備わっている。フライブリッジと呼ばれ
る 2 階もあり ここで、操船もできる。
(3)プレジャー③(スポーツボート)
21.ボート
屋根のないオープンデッキタイプが主流
日
帰りクルージングを楽しんだり、水上ス
キー、ウェイクボートを曳航する。
(4)プレジャー④(マリンジェット)
1.ボートの種類と材料
水
上バイクとも呼ばれる。ウォータージェット
1.1 プレジャーボート
推進の小型艇で、1 人から 3 人乗り。オートバ
イのようなバーハンドルで操船する。
個人がマリンレジャーを楽しむために造られた
ボート(図 1)
(5)プレジャー⑤(セーリングクルーザー)
(1)プレジャー①(フィッシングボート)
風
の力で進むヨット。写真はキャビンついたク
魚釣りに適した艤装、レイアウトの船
ルーザー。キャビン内にはベッド、キッチン、
トイレがあるのが一般的。船底にバラストキー
(2)プレジャー②(クルーザー)
キ
ャビンを備えた大型のボート。キャビン内に
ルと呼ばれる錘がついていて、強風で横倒しに
はリビング、ベッドルーム、キッチン、トイレ
なっても元に戻る。
プレジャー①(フィッシングボート)
プレジャー④(マリンジェット)
プレジャー②(クルーザー)
プレジャー⑤(セーリングクルーザー)
プレジャー③(スポーツボード)
図 1 プレジャーボート
838
プラスチック系材料および製品事例
最新 材料の性能・評価技術
Performance and Evaluation Techniques of Materials
定 価:本体価格 41,000 円+税
発 行 2014 年 5 月 26 日
編 集 最新 材料の性能・評価技術 編集委員会
編集委員長 宮 入 裕 夫
発行人 平 野 英 樹
発行所 株式会社 産業技術サービスセンター
In Tech Information s.c. Ltd
〒110-0005 東京都台東区上野 5-6-11
TEL 03
(3833)
3855
FAX 03
(3836)
9119
印刷所 倉敷印刷 株式会社
ISBN978-4-915957-92-5 C3058