症例解析 ∼気管支喘息∼ 臨床薬物情報学研究室4年 増田理央 46歳 女性 気管支喘息 【主訴】夜間の咳 【現病歴】 45歳ごろから夜間の咳き込みと喘鳴が週1回程度出現す るようになり、近医を受診した。血液検査では好酸球増加が みとめられ、免疫グロブリンE総量[RIST,非特異的抗体(IgE) 定量]検査では360IU/mL(基準値200IU/mL以下)であった。 原因探索のために行ったIgE radioallergosorbent test [RAST,特異的抗体(IgE)定量]検査ではアレルゲンを特定で きなかった。 【既往歴】とくになし 【生活歴】喫煙(−) 【家族歴】喘息(−) 【身体所見】 咳き込みが激しいときには起座呼吸 聴診:喘鳴と呼気の延長(+) 【検査所見】 WBC 8000 (好酸球8%) 胸部X線写真 肺気腫像(両肺の過膨張、横隔膜平定化) 呼吸器能検査:一秒率とピークフローは予測値の90% 症例解析に関する質問 Q1.この患者で観察される気管支喘息に合致する自 覚症状(S)を述べ、その発生機序を病態から説明し なさい。 Q2.この患者で気管支喘息に関係する他覚的所見 (O)を述べなさい。 Q3.好酸球が増加する他の病態について述べなさい。 Q4.検査所見の免疫グロブリンE定量に関係する RISTとRASTの違いを説明しなさい。 46歳 女性 気管支喘息 【主訴】夜間の咳 【現病歴】 45歳ごろから夜間の咳き込みと喘鳴が週1回程度出現す るようになり、近医を受診した。血液検査では好酸球増加が みとめられ、免疫グロブリンE総量[RIST,非特異的抗体(IgE) 定量]検査では360IU/mL(基準値200IU/mL以下)であった。 原因探索のために行ったIgE radioallergosorbent test [RAST,特異的抗体(IgE)定量]検査ではアレルゲンを特定で きなかった。 【既往歴】とくになし 【生活歴】喫煙(−) 【家族歴】喘息(−) 【身体所見】 咳き込みが激しいときには起座呼吸 聴診:喘鳴と呼気の延長(+) 【検査所見】 WBC 8000 (好酸球8%) 胸部X線写真 肺気腫像(両肺の過膨張、横隔膜平定化) 呼吸器能検査:一秒率とピークフローは予測値の90% 好酸球増加を示す病態 1.アレルギー性疾患 2.寄生虫感染 3.膠原病:関節リウマチ、皮膚筋炎、好酸球性筋膜炎 4.血管炎 5.肺好酸球増加症:PIE症候群 6.消化器疾患:潰瘍性大腸炎、好酸球性胃腸炎 7.悪性腫瘍:好酸球性白血病、CML、Hodgkinリンパ腫 8.好酸球増加症候群(HES) 気管支喘息とは ・臨床的には、繰り返し起こる咳、喘鳴、呼吸困難が特 徴 ・生理学的には、可逆性の気道狭窄と気道過敏性の 亢進が特徴 ・組織学的には、気道の炎症が特徴 ・・・好酸球、T細胞、マスト細胞などの浸潤と、気道上皮の炎症が特徴的 ・免疫学的には、多くの患者で環境アレルゲンに対す るIgE抗体が存在する ・・・しかし、IgE抗体を持たない患者でも同様の気道炎症とT細胞の活 性化を認める 喘息の危険因子 1.個体因子 (2) 増悪因子 ①遺伝子素因 ①アレルゲン ②アレルギー素因 ②大気汚染(屋外・屋内) ③気道過敏性 ③呼吸器感染症 ④性差 ④運動ならびに過換気 ⑤喫煙 2.環境因子 (1) 発病因子 ⑥気象 ⑦食品・食品添加物 ①アレルゲン ⑧薬物 ②ウイルス性呼吸器感染症 ⑨激しい感情表現とストレス ③その他の因子 ⑩刺激物質(煙、臭気、水蒸気など) ⅰ) 大気汚染(屋外・屋内) ⑪二酸化硫黄 ⅱ) 喫煙(受動・能動) ⑫月経 ⅲ) 食品・食品添加物 ⑬妊娠 ⅳ) 寄生虫感染 ⑭肥満 ⅴ) 薬物 ⑮アルコール ⑯過労 気管支喘息の機序 アレルギー機序によって起こる気管支喘息は、Ⅰ型 アレルギーによって引き起こされる。 特定の抗原(アレルゲン)によって感作さ れると、IgE抗体が出現する。このような 状態の時に、再度アレルゲンに曝露され ると、マスト細胞や好塩基球が脱顆粒を 起こしてケミカルメディエーターを放出し、 アレルギー反応を引き起こす。 この反応が気管支に出たものが気管支 喘息発作であり、皮膚、鼻粘膜、結膜に出 れば、それぞれアトピー性皮膚炎、アレル ギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎となっ て症状が出現する。 RISTとRAST RIST:非特異的抗体(IgE)定量検査 radioimmunoassaysorbent test 血清総IgE値を測定する検査。 アトピー素因判定のスクリーニングとして行う。 RAST:特異的抗体(IgE)定量検査 radioallergosorbent test 抗原特異的IgEを定量し検出する検査。 アレルゲンを特定するときに用いる。 気管支喘息の診断 ∼呼吸機能検査∼ スパイロメトリーが最も基本的な呼吸機能検査法 スパイログラム 被検者の肺気量の変化を縦軸に、 時間を横軸にとって記録したもの フローボリューム 縦軸に気流速度、横軸に肺気量を 曲線 示したもの 用語の定義 FVC 努力肺活量 V50 50%肺気量位での呼出気量 PEF 最大呼気流量(ピークフロー) V25 25%肺気量位での呼出気量 FEV1.0 1秒量 MMF 最大中間呼気速度 スパイログラム(↓) (←) フローボリューム曲線 縦軸が肺から吐き出された気流の速度で、 横軸が肺から吐き出されたガスの量である。 気流の速さの最大値をピークフロー(PEF)と 呼び、喘息患者では病態に応じて変動する。 重症度の評価 発作強度 呼吸困難 動作 PEF Sp o2 Pa o2 喘鳴/ ほぼ普通 80% 超 96% 以上 正常 胸苦しい 急ぐと苦しい 動くと苦しい 45mmHg 未満 軽度 (小発作) 苦しいが 横になれる やや困難 中等度 (中発作) 苦しくて 横になれない かなり困難 60∼ かろうじて 80% 歩ける 91∼ 95% 60mmHg 超 45mmHg 未満 高度 (大発作) 苦しくて 動けない 歩行不能 会話困難 60% 未満 90% 以下 60mmHg 以下 45mmHg 以上 重篤 呼吸減弱 チアノーゼ 呼吸停止 測定 不能 90% 以下 60mmHg 以下 45mmHg 以上 Pa co2 喘息の程度 喘鳴 1.喘鳴と咳 2.週1∼2回の短い発作 3.夜の発作:月1∼2回 軽度 1.週1∼2回の発作 日常生活や睡眠に支障 2.夜の発作:月2回を超す 中等度 1.慢性的に症状あり 2.β2刺激薬が毎日必要 高度 1.治療していても症状が常にある 2.夜の発作:よく起きる 3.日常生活を制限される 46歳 女性 気管支喘息 【主訴】夜間の咳 【現病歴】 45歳ごろから夜間の咳き込みと喘鳴が週1回程度出現す るようになり、近医を受診した。血液検査では好酸球増加が みとめられ、免疫グロブリンE総量[RIST,非特異的抗体(IgE) 定量]検査では360IU/mL(基準値200IU/mL以下)であった。 原因探索のために行ったIgE radioallergosorbent test [RAST,特異的抗体(IgE)定量]検査ではアレルゲンを特定で きなかった。 【既往歴】とくになし 【生活歴】喫煙(−) 【家族歴】喘息(−) 【身体所見】 咳き込みが激しいときには起座呼吸 聴診:喘鳴と呼気の延長(+) 【検査所見】 WBC 8000 (好酸球8%) 胸部X線写真 肺気腫像(両肺の過膨張、横隔膜平定化) 呼吸器能検査:一秒率とピークフローは予測値の90% 気管支喘息の経過 ・長期罹患した患者では、気道上皮基底膜直下の線維化、平 滑筋の肥厚、粘膜下腺の過形成などからなる気道のリモデ リングが見られ、非可逆的な気流制限と持続的な気道過敏 性の亢進をもたらす。 ・小児の喘息は、思春期になると寛解ないし治癒の状態とな る患者が多い(outgrow)。 ・乳幼児では肺、および免疫組織が成長過程であることから、 食物から吸入アレルゲンへと過敏性の対象が移行するとい う特徴が見られる。 ・高齢者喘息では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併が病 像を複雑化することがある。 気道壁リモデリング ・気道の上皮細胞の粘液産生 細胞への変性化が起こる。 ・新生血管の増生や平滑筋の 肥大・増殖を引き起こす。 →非可逆的な気質的変化 気道壁が厚くなるので、 気流制限および気道過敏 性の亢進をもたらす。 慢性閉塞性肺疾患(COPD) ・肺気腫と慢性気管支炎の2つの病変が同時に存在する。 肺気腫:終末細気管支より抹消の気腔が異常に拡大した状 態で、呼吸細気管支壁あるいは肺胞壁の破壊を伴う。 慢性気管支炎:咳と痰が2年以上続く。 ・主な原因は喫煙 ・一秒量の低下など、閉塞性肺疾患のパターンを示す。 閉塞性肺疾患:気管支喘息、肺気腫、慢性気管支炎 ・IgE抗体や白血球の増加はない。 アレルギーが原因ではない。 気管支喘息とCOPDの違い COPD 中年期に発症 発症時期 症状は徐々に進行。 症状 発作は昼間や労作時 に起こる。 大部分は非可逆的 好中球優位 マクロファージ、好中 球、Tリンパ球(CD8⁺ 優位) 長い喫煙暦 気管支喘息 若年(or小児期)に発症 症状は日により異なる。 発作は夜間と早朝に起こ る。 気流制限の可 大部分は可逆的 逆性 喀痰 好酸球優位 気道炎症 マスト細胞、好酸球、Tリン パ球(CD4⁺優位) その他 アレルギー 喘息治療の目標 1.健常人と変わらない生活が送れること。正常な発育が保たれること 2.正常に近い肺機能を維持すること PEFの変動が予測値の10%以内 PEFが予測値の80%以上 3.夜間や早朝の咳や呼吸困難がなく十分な夜間睡眠が可能なこと 4.喘息発作が起こらないこと 5.喘息死の回避 6.治療薬による副作用がないこと 7.非可逆的な気道リモデリングへの進展を防ぐこと 処方 ・サルブタモール硫酸塩(ベネトリン) 発作時 ・フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルタイド) ロタディスク・ディスカス 100エアー(100μg/回) 60回 1日2回 朝・夕吸入 治療に関する問題 Q1.気管支喘息治療の薬物を発作治療薬(レリー バー)と長期管理治療薬(コントローラー)に分けて 説明しなさい。 Q2.治療モニタリングに用いるピークフローメーター について述べなさい。 Q3.サルブタモールなどのβ受容体作動薬の過剰 使用による副作用を述べなさい。 治療薬 種類 長期管理薬 (コントローラー) ステロイド薬(吸入、経口) テオフィリン徐放製剤 長時間作用性β2刺激薬(吸入、経口、貼付) 抗アレルギー薬 発作治療薬 (リリーバー) ステロイド薬(経口、注射) 短時間作用性β2刺激薬(吸入、経口、注射) アミノフィリン点滴静注 短時間作用性テオフィリン製剤(経口) 抗コリン薬(吸入) 発作強度に対応した管理法 喘鳴 短時間作用性β2刺激薬吸入 発作時 必要に応じて長期管理薬を使用 軽度 短時間作用性β2刺激薬吸入 発作時 吸入ステロイド薬(低用量) 継続投与 必要に応じて他の長期管理薬のいずれかを併用 中等度 短時間作用性β2刺激薬吸入 発作時 吸入ステロイド薬(中用量) 継続投与 他の長期管理薬のいずれか又は複数を併用 高度 短時間作用性β2刺激薬吸入 発作時 不十分な場合は短時間作用性経口ステロイド薬 吸入ステロイド薬(高用量) 継続投与 他の長期管理薬の複数を併用 処方 ・サルブタモール硫酸塩(ベネトリン) 発作時 →発作治療薬(リリーバー)、β2刺激薬 ・フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルタイド) ロタディスク・ディスカス 100エアー(100μg/回) 60回 1日2回 朝・夕吸入 →長期管理薬(コントローラー)、吸入ステロイド薬 治療薬の過量投与による副作用 ・サルブタモール(β2刺激剤) 重篤な血清K値の低下 キサンチン誘導体、ステロイド剤および利尿薬の併用により増強。 低酸素血症により、血清K値低下が心リズムに及ぼす影響を増大 過敏症(発疹) 循環器(心悸亢進、脈拍増加、不整脈) 精神神経(頭痛、振戦、睡眠障害、めまい、眠気) 消化器(食欲不振、悪心・嘔吐、下痢) その他(口渇、口内炎、発汗) ※血清K値のモニターが必要。また、手の震えや頭痛、嘔吐、下痢 などが現れたら、報告してもらうよう伝える。 ・フルチカゾンプロピオン酸エステル(吸入ステロイド剤) 副腎皮質機能抑制などの全身性作用がある。 治療モニタリング ピークフローメーター 喘息日誌
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