通所リハビリ編 通所リハビリの卒業を 支援する仕組みの強化 卒業に向けた支援では、生活に根付く具体的な訓練や卒業後の 移行先の提案が重要である。今回は、通所リハビリでより強化すべ 介護老人保健施設 せんだんの丘 通所リハビリテーション き「卒業」の機能について、介護老人保健施設せんだんの丘通所リ ハビリテーションの取り組みを紹介する。 岩渕 隆俊 このような介護保険制度の背景から、ただ単に「卒 1.通所リハビリの卒業・終了を 目指す制度の変化 業」 「終了」を目指せばよいわけではないことを読み取 ることができる。リハビリ会議を通して、定期的な計 平成 27 年度に行われた介 護 報 酬 改 定において 画の見直しを行いながら継続的なリハビリテーション は、リハビリテーションマネジメントの強化や心身機 の質を管理し、今までの「漫然としたリハビリテーショ 能、活動、参加のバランスがとれたリハビリテーショ ン」を変えていくこと、そして、施設内だけではなく、 ンの充実がより図られた。 利用者が暮らしている自宅に職員が出向き、実際の ①リハビリテーションマネジメント加算Ⅱの新設 生活場面を通して指導し、施設でのリハビリを定着に ②生活行為向上リハビリテーション実施加算の新設 結びつけることが今後ますます重要になる。 ③社会参加支援加算の新設 これらのかかわりを実現するためには、今まで以上 の3つがポイントと言える。いずれにおいてもSPDC に時間や人手が必要となり、一人の職員や職種だけ Aサイクルに基づいたかかわりが重要視されている。 では実践できない。通所リハビリには、この「卒業」 に向けた支援体制の整備が求められている。 ①や②の算定要件となっている「リハビリテーショ ン会議」では、開催を通してアセスメントとリハビリ テーション計画を見直し、それを多職種で共有・支援 し、本人や家族に説明して同意を得ること、また、そ の説明と同意は医師が行うことが定められている。 2.これまでの支援体制を基本に 「卒業」支援を強化 当通所リハビリでは、これまでも「卒業」や「卒業 後の支援」を行ってきた。法人内の介護予防デイサー ②の生活行為向上リハビリテーション実施加算にお ビスの利用に移行し、さらに地域や自宅での活動が いては、施設内のみにしばられず、実際の生活場面 できるよう実践的な訓練や住民主体の集まりの体験 を通して行う社会適応訓練を行うことなど、訪問と などに移行できるよう支援してきた実績がある。これ 通所を組み合わせることも可能になる報酬体系となっ まで、この取り組みを評価する加算などはなかった ている。 が、上記のとおり「社会参加支援加算」で評価される そして、③の社会参加支援加算は、各地域におけ 仕組みとなり、利用者や家族、介護支援専門員など る運動教室や趣味などの自主グループ、デイサービス に必要性を説明し、これまで以上に「卒業」に向けた などに移行(卒業・終了)した方が一定の割合を超え 支援が実施しやすくなった面がある。これまでの実 る場合に算定が可能となっており、特に「卒業」 や「終 践の中で、 「通所リハビリが利用できなくなる」 「リハビ 了」 を評価する仕組みとして新設された。 リを続けないと状態が悪化する」などの不安から「卒 業」に否定的な方がおり、一人の職員や職種のかかわ Vol.29 デイの経営と運営 27 りでは実現できないと実感していた。職員全員が計 画的に、決められた期間でより積極的にかかわり、 〈 良い例 〉 ケアマネジャーや他事業所と連携することで可能にな ・卒業までを見通すことができるスケジュール 作成 るものだと考えている。 ・計画の振り返り、変更、その共有 ・「卒業」に向けた早めの働きかけ 「卒業」へのアプローチに 3. 欠かせないこと 当通所リハビリでは、利用開始前に自宅を訪問して 行う実態調査などを作業療法士の資格を持つ生活相 談員が行っており、必要に応じて理学療法士などの ・本人、家 族、ケアマネジャー、通 所リハビリ テーション職員、関係する居宅サービス事業 所の担当者すべての人が「卒業」に合意、納得 する 専門職が同行して家屋や日常生活動作などの評価を 行っている。このとき、専門職が課題や終了後に利 用したいサービスなどを具体的に聞き取るよう心掛け ている。それらのアセスメントを基にリハビリテーショ ン計画書を作成しているが、課題によっては福祉用 ・決められた期間の中でとことん時間をかける ・役割分担を明確にし、多職種でかかわる 具などで改善が見込めるものや他サービスの協力が ・場面の共有や同行を行い、進捗状況をお互い に確認する 必要なものが出てくる。 「卒業」に向けてのアプローチ ・「まずはこの人」を一人決めて、全員でかかわる では、リハビリ会議で通所リハビリでの目標に向けた スケジュールやリハビリ内容の説明を行い、他サービ その人らしい生活の獲得 スに協力していただきたいことなどの情報を伝えて共 有し、合意を得ることが重要である。 〈 悪い例 〉 4.事例の紹介 「卒業」に向けた支援を行える通所リハビリになるた ・漫然とした機能訓練を中心としたプログラム の提供 ・その場の思いつきによるプログラムの提供 ・突然の「卒業」宣言 めには、まず対象 1 名を決め、全員でかかわってみる ことが重要だと考える。今回はA様の事例から、各 段階でのかかわりをご紹介する。 <A様の事例> 卒業に否定的であったが、リハビリテーション会議 ・事業所側からの一方的な「卒業」の押し付け や実践練習を積極的に行い、 卒業が可能となったA様。 ・「期間ですから」という事業所の説明 利用開始時 利用開始時点で、主なニーズは運動機会や量の確 ・全員に同じかかわりを実践しようと孤軍奮闘 する 保、自宅での入浴自立だった。また、近隣のスーパー ・時間や人手が不足し、結果的に中途半端なか かわりとなってしまう なっていなかった。運動に特化したデイサービスもあ ・施設外での活動に割く時間が削られてしまう への買い物も希望されていたが、主たるニーズには ることを説明し、卒業後の移行先を「デイサービス」 に設定した。しかし、 「運動機会」に通所リハビリでの 個別機能訓練が必要だとの思いがあり、この時点で 形だけの「卒業」となり本人の生活は は卒業に対して否定的であった。 「卒業」に向けての 何も変わらない かかわりを3つの時期に分けて紹介する。 28 デイの経営と運営 Vol.29 特集 1 先進事例からわかる! 地域密着型デイサービス・通所リハビリの戦略 ビスがあることや、具体的にどのようなデイサービス ① 利用開始∼2ヶ月 この時期は、①自宅での入浴自立に向けてかかわ があるのか情報提供を行い、 「卒業」を意識していた だいた。 り、自宅でも運動機会を確保する②個別機能訓練を 自主トレーニングに移行するという 2 点を中心にかか わった。 ①自宅での入浴自立に向けては、この 2 ヶ月間に2 回、自宅訪問(リハビリ会議) を実施した。 ③ 4ヶ月から6か月 この時期は、①自立とした自宅の近隣のスーパーへ の買い物、バスを使用しての外出が日常生活に定着し ているかの評価、②卒業後の移行先への見学・体験 1回目の自宅訪問は利用開始から1 ヶ月以内に実施 利用が中心となった。2 ヶ月から 4 ヶ月の時期にさま し、自宅での入浴にどのような課題があるか、本人、 ざまな環境で訓練し、評価した内容が生活に定着し 家族、介護支援専門員、住宅改修を担当する福祉用 ているか一つずつ最終確認した。今後も継続可能か、 具事業所と共有した。その上で、通所リハビリでの入 転倒の危険や天候不良時の注意点など、情報を共有 浴動作練習と住宅改修、シャワーチェアの購入などを しながら実際の場面で行った。 並行して進めることを確認した。 ②卒業後の移行先への見学、体験利用には専門職 2回目の自宅訪問は、住宅改修や福祉用具が揃っ が介護支援専門員と共に同行した。移行先であるデ た段階で行った。1 回目と同様の参加者が集まり、 イサービスのスタッフには、今行っている自主トレー 再度自宅での入浴動作を評価し、 「入浴自立」と判断 ニングメニューの内容を申し送り、スーパーへの買い した。 物、バス外出を行っていること、また、これらの生活 ②個別機能訓練の自主トレーニングへの移行に関 を続けるために必要と思われる身体機能やそれに必 しては、卒業後の移行先を考慮し、特別なトレーニン 要な運動の種類についても伝えた。 グ器具などを用いなくてもできるようなメニューを提 A様は 6 ヶ月で卒業に至った。 案した。始めは専門職が付いてトレーニングし、徐々 にかかわる時間を減らし、メニューや実施回数、実 5.移行先につなぐポイント 施方法などの注意点を伝えるのみになった。2ヶ月目 上記の事例においてポイントとなったのは、通所 には自主トレーニングは自立にて行えるようになり、 サービス特有の時間である送迎時の車中でも、送迎 担当の専門職の主なかかわりとしては、 「トレーニン 担当者がニーズを常に聴取し、その日ごとに夕方行わ グメニューの確認のみ」 となった。 れる振り返りの時間に全員へ伝えて共有し、その変化 をとらえ、柔軟に計画を変更した点が挙げられる。そ ② 2ヶ月から4ヶ月 して、利用者本人に、自宅で開催するリハビリ会議な この時期は、①自宅の近隣にあるスーパーへの買 どを通じて生活課題を具体的に認識してもらい、かつ い物自立、②バスの乗降自立にポイントを絞ってかか 成功体験や達成感を実感してもらいながら進めた点 わった。最初の2ヶ月で個別機能訓練を自主トレーニ である。 ングに移行したことで、より施設外での活動や自宅訪 このようなかかわりは非常に時間がかかり、マンパ 問に割くことができる時間が多くなった。そのため、 ワーも必要である。しかし、 「卒業」 「終了」を可能にす 施設周辺の屋外歩行訓練や訪問による自宅周辺の屋 るためには、期間を決め、計画を立て、その中でとこ 外歩行訓練、利用時間中や時間外に実施するバス乗 とんかかわり、 「卒業」に対して全員が納得することが 降訓練など、より利用者の生活に近い環境での訓練 必要であると思われる。 や評価を実施した。自宅訪問やバス乗降評価・訓練 などは計3回行った。 「卒業」 平成 27 年 1 月∼平成 28 年 1 月までの間で、 となった利用者は 23 名。そのうち 14 名がデイサー また、この時期から利用者、家族、介護支援専 ビスを利用している。法人内のデイサービス移行が2 門員に対して卒業後の移行先についての提案も始め 名、法人外のデイサービス移行が 12 名という状況で た。 「運動機会確保」のためであれば、より適切なサー ある。 Vol.29 デイの経営と運営 29 持すべき機能、卒業後に利用する予定のサービスに 卒業後の移行先 その他 2名 ついて担当の理学療法士などが説明を行い、情報共 サービスなし 3名 有と統一したかかわりを図っている。また、リハビリ 会議の中では、本人や家族、ケアマネジャー、その 体調不良、 入院 3名 他のサービス事業者に対して、 「現在、卒業までのス 他通所リハ 1名 ケジュールでどの段階まで進んでいるのか」を説明す デイサービス る。卒業や移行について具体的な話をする場合、通 14名 n= 23 所リハビリからは「再利用が可能なこと」 「卒業後もケ アマネジャーを通じて状態の把握を行うこと」などの 支援について説明し、体験利用などを始める時期に その他 … 訪問サービス中心の計画に変更 ついて具体的に決めていく。 サービスなし … 自宅生活のみ ③ 卒業後のサポート 卒業後の訪問は約 1 ヶ月未満に実施し、それ以降 ① デイサービスに移行する際の ケアマネジャーとの連携 デイサービスと一言でいっても、さまざまな事業所 が存在しており、利用者が自分のニーズに応じて選択 は介護支援専門員などから情報収集をする。リハビ リ会議を実施することで業務負担は増えたが、卒業 したご利用者の担当ケアマネジャーと会う機会が増え ることで情報を得やすくなっている。 できる必要がある。 当通所リハビリでは、移行先のデイサービスはそ ④再利用となる場合の対応 の方の担当ケアマネジャーに探してもらっている。担 卒業後の移行先のグラフに示した、終了者 23 名 当ケアマネジャーには、リハビリ会議の場や電話など 中、再利用者は 1 名となっている。再利用に至った経 で「こういうサービスがあれば、ご本人の〇〇の機能 緯としては、転倒・骨折による身体機能、動作能力 の維持につながる」といった具体的な情報を伝え、該 低下である。この方の場合は、転倒・骨折というアク 当するサービスのあるデイサービスを利用者に紹介し シデントによる再利用のため、アクシデントがなけれ てもらう。 ば、デイサービスの利用を続けることが可能であった その後、通所リハビリの担当の理学療法士などは、 と思われるが、進行性疾患や季節に応じて体調や動 ケアマネジャーから日程やデイサービスの概要などの 作能力が変化する方は再利用の可能性が高いと思わ 連絡をもらって体験利用に同行し、新たな環境に適 れる。当事業所でも進行性疾患の方については、身 応可能か評価を行う。場合によってはデイサービスに 体機能や動作能力、季節によってデイケアとデイサー 依頼して利用者とともにプログラムを一通り体験し、 ビスを使い分け、目的と期間を明確にしてかかわって 機能の維持につながるか確認している。また、体験 いる。 利用時にデイサービスの職員にこれまでの経過と目標 再利用で特に気を付けなければならない点は「以前 の達成状況などを伝え、今後のプログラムで注意して も利用していたから」という理由で、すぐに再利用が もらいたい点などを伝えている。 始まってしまうことだ。再利用であっても、利用前の ② 新しい環境への不安を軽減する 自宅訪問を必ず実施し、再利用に至るまでの経過や 生活変化の原因をアセスメントすることが必要である 体験利用などのかかわりを卒業予定のどのくらい前 と考える。その上で、改善に必要な期間を提案し、 から行うかが重要となる。全職員に対しては毎日夕方 その時期に向けたリハビリテーション計画書の作成を に行う振り返りの時間に、日ごろの支援内容やかかわ 行うことで漫然としたかかわりを防ぐことができるの りについて話し合っている。また、月1 回のリハビリ ではないかと考えている。 会議を開催する前に、その方の目標の達成状況や維 30 デイの経営と運営 Vol.29
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