幼児の死の概念 呉大学看護学部竹中和子* 兵庫医科大学病院藤田アヤ 福島生協病院尾前優子 論文要旨 子どもの死の概念に関する多くの研究は,学童期以降を対象にしている。しかしながら,3歳児で も死について考えており,死の不安を言葉で表現したという報告もある。病気を持つ子どもへのインフォームド・ コンセントやデス・エデュケーションの問題を考えるうえでも,幼児期からの死の概念の発達について明らかに していくことが必要である。 本研究では絵本を基に作成した紙芝居を用いることで,幼児期のうち簡単な質問なら答えることのできる3歳 以上の健常幼児における死の概念について明らかにようとした。調査の結果,以下のことが明らかとなった。(1) 死の不動性は,4歳7ヶ月から理解し始め,6歳前後でほとんどの幼児が理解していた。(2)の不可逆性は,3 歳9ヶ月から理解し始め,6歳前後でほとんどの幼児が理解していた。(3)死の普遍性は,4歳3ヶ月から理解 し始め,6歳2ヶ月以上でほとんどの幼児が理解していた。(4)幼児における死の概念の発達には身近な死の経 験,アニミズム,マス・メディアなどの要素が関わっていることが予測された。(5)年少の子どもに対しても, 生の問題として死を考えるデス・エデュケーションに取り組んでいく必要性が支持された。 キーワード 幼児,死の概念,アニミズム,デス・エデュケーション ■ はじめに 割の子どもが,不動性Nonfunctionality,非可逆 性lrreversibility,普遍性Univeralityという死の 子ども,とりわけ予後不良の疾患をもつ子ども 概念を理解している1)といわれている。岡田2)は, にインフォームド・コンセントを行うことは,患 児の不安を軽減し,感情表出を助け,情緒の安定 Piajetの認知的発達理論に基づいて小学1年生か ら6年生の健常児と病児を対象に認知発達テスト をはかるうえで重要だと考えられる。特に対象が 幼児の場合は,ひとりひとりの発達を考慮したア を行い,前操作段階,具体的操作段階,形式操作 段階に分け,死の概念の発達について調査した。 プローチが必要である。しかしながら,幼児にお ける死の概念の発達について,詳細は明らかになっ その結果前操作段階で,すでに7割近くの子ども が死の不動性,死の普遍性,死の普遍性を理解し きた問題であること,また年少の子どもを対象と ていた。子どもの死の概念は,認知発達の段階に 伴って形成されていくと考えられる。また岡田2) する場合,死についてどう認識しているかの査定 は死のイメージについても調査し,その結果病児 方法が難しいことがある。 は,健常児より「悪い」「醜い」といったイメー ていない。その背景として,死がタブー視されて 子どもの死の概念に関する研究は1930年代頃よ ジや感情を抱いていたとしている。死の概念をど り行われているが,盛んに行われ始めたのは1970 年代である1)。一般的に5∼7歳になれば,約6 のように形成していくかということは,子どもが 成長・発達過程でどのような死にまつわる体験を *連絡・別刷請求先 たけなか かずこ 〒737−0004 呉市阿賀南2−10−3 呉大学看護学部 一24一 幼児の死の概念 したかということも大きく影響していると考えら るいは影響するものが生きている れる。 とする。幼児がアニミズムを表現 子どもの死の概念を扱った多くの研究は,学童 する時,その対象と生き生き(感情 期以降を対象にしている1)・2)・3)。しかしながら, 的に)とかかわっているのである10)。 3歳∼5歳で11%が死について考えており4),ま た,予後不良の病気のため入院している3歳10ヶ ■研究方法 月の女児が,死の不安を言葉で表現したという報 告もある5)。病気を持つ子どもへのインフォーム 1.調査対象 ド・コンセント6)やデス・エデュケーション7)の A市内のB保育所に通っている3歳から6歳の 問題を考えるうえでも,幼児期からの死の概念の 幼児のうち,「紙芝居を聞いてくれる?その後少 し質問してもいい?」とたずね,同意が得られた 発達について明らかにしていくことが必要である。 学童とともに4歳以降の幼児についても調査し ている研究4)・8)もあるが,方法は質問紙に基づく 面接法を用いているものがほとんどである。幼児 期はピアジェによる前操作的段で,幼児にみられ る自己中心性やアニミズムに特徴づけられる9)。 35名を対象者とした。年齢は3歳9ヶ月∼6歳7ヶ 月,平均年齢は5歳1ヶ月,SD=9.5,男児は21 名,女児は14名であった(表1)。 表1 対象者の年齢,性別 言い換えれば,説明が現実に即している場合は理 解できるが,一般化して考えるとか,一般的な問 題から特定の問題を推論することはむずかしい。 3歳児 4歳児 5歳児 6歳児 したがって,幼児に言葉による面接を行っても, 理解することが容易ではなく,幼児の反応は得ら れにくいと考えられる。一方,絵本や紙芝居は幼 男児 女児 1名 1名 合計 2名 10名 6名 16名 5名 4名 9名 5名 3名 8名 児が日常的に経験していることで,親しみやすく, 2.調査方法 楽しい遊びのひとつである。また,絵や語りによ り,興味を持続でき,内容も理解しやすいと考え 調査期間:19XX年12月の2日問 られる。 調査場所:B保育所遊戯室 そこで本研究では,絵本を基に作成した紙芝居 を用いることで,幼児期のうち簡単な質問なら答 えることのできる3歳以上の健常幼児における, 調査者:H短期大学3年次生2名 調査手続き:図1に示す手順で行った。 死の概念および死のイメージについて明らかにす ロヨむは なの たちとルび ねに をつくる かりめ ラ ↓ る。さらに幼児期におけるデス・エデュケーショ ンの重要性と可能性についても考察する。 一一一一…一?」と一瞬一 邑 死をテーマにした紙芝居を読む15分間) ■ 用語の操作的定義 ↓ 「おはなしどうだった?い〈つか質問してもいい?」とたずねる。 恩 死の概念:本研究ではSpeece,&Brent1)によ る死の概念の構成要素である,死 半構成的面接を行う(5∼10分〉 喝撃 紙芝居にもどって. ポジティプな反応がみ られるまで楽しく遊 ’3こ。 ↓ の不動性(体の機能の停止:動く, すべての面接終了後,幼児と楽しく遊び,幼児の様子を覗察し,ネガティプな体験とならないよう配慮する。 調査後も数日閣は保脅士に対象幼児の反応を聞き,幼児にネガティプな反応がみられないかを確固する. 手足があるといった目に見えるこ と,考えること,感じることなど 目に見えないこと),死の不可逆性 掌⇔離幼児の臨,下線部は慨者の行動を示す. (一度死ぬと生き返れないこと), 図1 調査手続きの過程 死の普遍性(命あるものは,必ず 死んでしまうこと)の3つの側面 からとらえる。 調査者1名が幼児1名に紙芝居を読み,その後 アニミズム:自分自身にかかわっているものあ た。また,「死の不動性」の質問を行う時は,そ 面接を行った。別の調査者が幼児の反応を記録し 一25一 幼児の死の概念 3.データ分析方法 の動作を行っているアナグマのイラストを書いた カードを用いて幼児の反応を引き出しやすいよう に配慮した。さらに,面接終了後,幼児が死に対 して少しでもネガティブなイメージを抱いていた 場合は,ポジティブな反応が得られるまで紙芝居 にフィードバックし,対象者の心理状態に配慮し 分析はMicrosoftexce1を用いて,年齢・質問項 目に分けて集計した。また,調査者2名の結果の うち一致しないものは,調査者間で話し合い,最 終的には幼児の正面から面接を行った調査者のデー タを結果とした。2名の調査者による評定一致率 た。対象者全員の面接が終わった後,幼児と遊び は,言語的な反応では0.92,幼児の表情について を通して関わりを持ち,対象幼児の反応を観察す は0.74だった。 るとともに,保育士に調査実施後の幼児の様子を 死の概念の構成要素である死の不動性,不可逆 確認した。 性,普遍性と,死のイメージについてについてそ 調査に用いた紙芝居は,スーザン・バーレイ作・ れぞれ分析する。 絵「わすれられないおくりもの」(評論社,1986) 4.倫理的配慮 を一部省略して作成した。省略した理由は,対象 場面(死の不動性「散歩する」の結果に影響を与 調査実施に際しては,本研究の目的および方法 を十分に説明し,調査の実施および協力の了解を 得た。また,事前に幼児や保育士との信頼関係を えると考えられるアナグマがトンネルを走る場面) 築いた上で調査を開始し,調査中も幼児の人権を があったことである。この絵本を選択した根拠は, いることである。 最優先として,幼児に不利益がないよう細心の注 意を払った。調査実施後は,幼児が楽しい体験が できるよう遊ぶ時間をもち,幼児の反応を観察す るなど配慮した。さらに,保育士の協力を得て, 問の表現を修正し実施した。また,調査者は, 調査後の幼児の様子について確認した。得られた 本調査実施前に2日間保育所を訪問し,幼児と遊 データは対象幼児の年齢,性別のみ使用し,個人 が特定されないよう配慮し,守秘に努めた。 者が幼児であるため紙芝居が長いと集中力が続か ないこと,絵本の内容に面接の反応を左右しうる 死をテーマにしていること,死に対してネガティ ブなイメージを与えず分かりやすい構成になって び,幼児や保育士と信頼関係を築いたうえで本調 査に臨んだ。 面接内容および進め方= ■ 結果および考察 質問項目は,Speece&Brent1)が行った調査の 時に用いられた死の概念の構成要素と,岡田5)に 対象者のうち3歳男児1名は,紙芝居を読み終 あげられている質問項目を参考に作成した。面接 内容および面接の進め方の実際は図2に示した。 ↓ rアナグマさんは,死んじゃったけど今どう思とるかね?」rどうなっとると思うつ」 わった後全く反応が得られなかったため,手順に したがって調査を中止した。この1例については 分析データに加えなかった。 1.死の不動性について 生理的な機能(食べる・ねる・うんちをする) 1)生理的な機能 (1)『アナグマさんは,食べることができるんかねつ」 (2)「アナグマさんは,寝るかね?1 (3)『アナグマさんは,うんちするかねワ』 2)目にみえる機能 (1)『アナグマさんは,散歩することができるかねウj (2)『アナグマさんは,話をすることができるかねつ』 3)目に見えない機箆(感糟) (1)『アナグマさんは,隻うんかねつ』 (2)『アナグマさんは,泣くんかねり』 『アナグマさんは、生倉遮ることができると思うつ』一 『思わない」 一 一 と r思う」 1 「どうやったらアナグマさんは生妻返ると思うウ』 に関しては図3∼5に,目に見える機能(散歩を する・話しをする)については図6,7に,目に 見えない機能(笑う・泣く)については図8,9 にそれぞれ示した。年齢とともに死の不動性の理 解が進む結果となった。5歳児において特に「寝 る」や「散歩する」,「笑う」と答えた幼児が否定 ロ ↓ 『轟の動物さんたち(モグラさん,キツネさん,ウサギさん)もいつかは死ぬんかねつ」 一・r死ぬj一 ㎜ 玉 r売なない』 塞 「じゃあ縣のみんなはずっと生さとることができるね。」と確認する。 雌 した幼児よりも多かった。「死んで悲しいから泣 くことができる」という反応,「死んで天国にお る」という反応から,死後の世界でアナグマは生 亀 「 」内は幼児の反応を示す. 図2 質問内容と面接の進め方 き続けていると考えていることが予想される。こ れは,アニミズム10)の表れのひとつで,5歳児が 4歳児よりも絵本を通して,たとえば天国で,笑っ 一26一 幼児の死の概念 100% 100%一 4 80% 1 2 \\ ・ 1 20% \、 \ 2 、 \ 60%一 5 4 5 40% ’1〆 3 \\、’ \、 2 60%一 3 ・、/ v、,・一 80% ■ i3i i5i 、 40% ■無回答 臼わからない 闘食べ物が食べれない □食べ物が食べれる キ \ □笑う \ 20% 0%一、 ■無回答 臼わからない 圏笑わない 7 / \ 0%一, 3歳児 4歳児 5歳児 6歳児 3歳児 4歳児 5歳児 6歳児 図3 死の不動性(食べる) 図8 死の不動性(笑う) 5 80% 100% 1 3 60% 40% 1 ■無回答 団わからない 闘寝ない 口寝る 20% \\ 100% 80% \ 60% \ 40% 3 、 7 i\ / ■無回答 臼わからない ■泣かない 口泣く 20% 0% 3歳児 4歳児 5歳児 6歳児 0% 3歳児 4歳児 5歳児 6歳児 図4 死の不動性(寝る) 図9 死の不動性(泣く) 100% たり散歩したりといったイメージをより広げられ 80% 5 ることが反映したと考えられる。 60% 7 ■無回答 田わからない 菌うんちをしない □うんちをする 40% 20% 0%、 3歳児 4歳児 5歳児 6歳児 ほとんどの幼児が理解していた。本研究では対象 者の認知発達については調査していないため,個々 できなかった。しかしながら,発達とともに死の 不動性の理解がすすむというSpeece,&Brent1)や 100% 、 交\ ン 1/ 岡田2)」1)と矛盾しないことが確認できた。 6 60% 40% 年少の幼児は4歳7ヶ月で,5歳9ヶ月以上では の対象者の認知発達との関連については明らかに 図5 死の不動性(うんちする) 80% 死の不動性すべての質問項目を理解していた最 7 / \ \ / ■無回答 田わからない ■散歩しない 口散歩する \ \ 2.死の不可逆性について 3∼4歳児は死の不可逆性を約3割が理解し, 5∼6歳児になると約半数が理解していた(図10)。 20% 死の不可逆性を理解している幼児(5歳1ヶ月) 0% 3歳児 4歳児 5歳児 6歳児 図6 死の不動性(散歩する) 100%一 ん。天使になって天国に行くんよ。おばけみたい じゃけん見えんよ」という反応があった。一・方死 の不可逆性を理解していない4歳児に,「アナグ 80% 60% からは,「(アナグマさんが生き返ることは)でき 6 6 4 40% ■無回答 國わからない 園話をしない □話しをする マさんは,どうやったら生き返る?」と質問した ところ,様々な反応があった(表2)。4歳児は おとぎ話の世界を思わせる反応であるが,5歳児 3歳児 4歳児 5歳児 6歳児 では,死者に対して直接的に何かを行うことで生 き返ると考えているようで,より現実社会と関連 づけた反応が見られた。6歳児の反応で,「よい 図7 死の不動性(話をする) ことをすれば生き返る」の反応から、死を罰とし 20%一 0% 一27一 幼児の死の概念 験,それに対する子どもの前で見せる両親の表情 や反応が大きく作用する7)といわれているが,テ ’\ 3 100%一 80%一 2 / 1 / レビなどのマス・メディアも影響していることが 6 6 60% 1 6 考えられる。 ■無回答 40% 囚わからない \ / : 20% 4.死のイメージ 闘死んだら生き返らない ノ 口死んでも生き返る 死のイメージについての質問に,3歳児は何も 0% 答えなかった。反応がみられたのは,4歳児では 3歳児 4歳児 5歳児 6歳児 16名中4名,5歳児では9名中6名,6歳児で8 図10死の不可逆性 名中4名であった。岡田ら5)は,幼児は死に対し て特有のイメージを持っていないとしているが, 表2 死の不可逆性を理解していない幼児の反応 4歳児 5歳以上だと半数の幼児が何らかの死のイメー 幼児の反応(人数) 年齢 ジを表現していた。イメージには,「悲しい」 わからない(2名) 動いて生き返る(1名) サンタがおもちゃを持ってくると生き返る(1名) 5歳児 終わってちょっと抱いたら生き返る(1名) 6歳児 水を飲んだ生き返る(1名) いいことしたら生き返る(1名) (3名),「死んでる」(5名),「骨になっとる」 「天国におる」「お月様になる」「食べ物食べれん」 「うれしい(天国にいけるけん)」「家に帰る」 誰かが救急車を呼んで,注射したら生きかえる(1名) 「墓に埋める」(各1名)と様々だったが,学童 期にみられるような恐怖や嫌悪のイメージ5)はみ られない。反応の多様性は,個々の幼児が成長・ 発達の過程での体験が背景にあると予測される。 て認識することも,この頃からみられることが予 5.調査全体を通しての幼児の反応 測される。 死の不可逆性の理解は4歳からすでにみられる という報告8)はあるが,本調査では3歳9ヶ月児 ほとんどの幼児が紙芝居の話は集中していた。 も理解していた。 3.死の普遍性 面接での質問にも集中して聞く幼児もいた。面接 室に使用していた場所が遊戯室であったこともあ り、外から窓を叩き大きな声で注意を喚起する園 死の普遍性にっいては,4歳児以降の幼児は約 児もいて,面接中の幼児の集中力が続かない場合 面接になると集中力が切れてしまう幼児もいれば, 半数が理解していた(図11)しかしながら,自分 もあった。全ての面接が終了した後に「おばあちゃ 自身や親しい人は死なないと考えていることが多 い4)・7)」1)といわれており,受け止めの内容につい んが交通事故で死んだんよ」と話す幼児(6歳3ヶ 月)や,紙芝居の途中(アナグマさんは,死んでも ても検討が必要である。死の普遍性を理解してい 心が残ることを知っていたのですという部分)で, る幼児(5歳1ヶ月)から,「生きとるもんはみ 「じゃあ,死んだばあちゃんも心が残るんじゃ。」 んな死んでしまうんよ,テレビで言いよったもん」 という発言があった。子どもにおける死の概念の と反応した幼児(6歳4ヶ月)もいた。前者は, 死の3つの構成要素を全て理解していた。後者は, 発達には,ペットや親しい人との死による離別体 死の不可避性は理解しているが,不動性と不可逆 100%一 1\ 、 \ 60% 40% 2 \3\ 3 80%一 性を理解していなかった。後者の幼児からは, 「死んだ人は,天国で生き返るんよ。星が流れよ うるけど,星は死んだ人なんよ。」という回答も 1 5 得られた。 1 / 2 / 20% ■無回答 國わからない 雷動物は死なない □動物はいつか死ぬ 幼児は成長・発達過程のなかで,さまざまな体 験を取り込みながら死の概念を形成している。ひ とつひとつの体験をどのように幼児が取り込んで いくかは,私たち大人によるところが大きい。健 0% 3歳児 4歳児 5歳児 6歳児 図11死の普遍性 康であるかどうかに関わらず,生きる喜びや人と 関わる楽しさを子どもとともに考え,感じていく 一28一 幼児の死の概念 ことが,デス・エデュケーション7)につながる。 持できないなど,面接を行う環境づくりが不十分 年少の子どもであっても生の問題として死を考え であった。今後方法論を検討し,研究を進めてい る,デス・エデュケーションに今後大いに取り組 んでいくことが必要性あると考える。 く必要がある。 ■結論 6.調査全体を通しての幼児の表情 3∼4歳児は全体を通して無表情の場面が多かっ 幼児期のうち簡単な質問なら答えることのでき たが,「アナグマさんのお話しどうだった?」の る3歳以上の健常幼児における死の概念,および 質問にはほとんどの幼児が「おもしろかった」と 死のイメージについて,絵本を基に作成した紙芝 居を用いて調査した。その結果,以下のことが明 答え,笑顔の反応がみられた。一方,5歳児は始 終笑顔で反応し,6歳児では,無表情と笑顔をし らかとなった。 ている幼児の割合がほぼ同じであった。絵本の選 (1)死の不動性は,4歳7ヶ月から理解し始め, 択については,よみ聞かせ場面でのポジティブな 6歳前後でほとんどの幼児が理解していた。 反応から,適切だったと考えられる。3∼4歳児 における無表情の場面が多かった点は,特に面接 場面での質問内容の理解が難しかったことが反映 (2)死の不可逆性は,3歳9ヶ月から理解し始 め,6歳前後でほとんどの幼児が理解して いた。 したと思われる。また、6歳児がみせた無表情に (3)死の普遍性は,4歳3ヶ月から理解し始め, ついては,認知発達が進むことで死を罰と考えた 6歳2ヶ月以上でほとんどの幼児が理解し り,怖いと感じたりすることが背景にあると予測 され,今後明らかにしていく必要がある。 ていた。 (4)幼児における死の概念の発達には身近な死 の経験,アニミズム,マス・メディアなど ■研究の限界 の要素が関わっていることが予測された。 (5)年少の子どもに対しても,生の問題として 今回の研究では,対象者数が少なく,各年齢に もばらつきがあった。また,1ヵ所の保育所に限っ て調査したため限られた地域での結果となった。 死を考えるデス・エデュケーションに取り 組んでいく必要性が支持された。 また,個人のプライバシーに配慮して,祖父母と 付記 本調査実施にあたりご協力いただきました の同居の有無やペットを飼っているか,葬儀への 保育所の園児ならびに保育士の皆様に,心より感 参加経験の有無等についての情報はとらなかった。 謝申し上げます。 したがって,一般化が難しく,幼児の死の概念形成 本研究は,平成11年度広島県立保健福祉短期大 への影響要因等については深く考察できなかった。 学看護学科の卒業研究として行った調査データを, さらに,面接を終了した幼児が窓の外から面接 分析し直しまとめたものである。なお,本研究の 一部は第47回日本小児保健学会で発表した。 中の幼児に話しかけ,面接中の幼児の集中力が維 引用文献 1)Speece,M.W.,&Brent,S.B.:Children’sunderstandingofDeath:AReviewofThreeComponents ofa Death Concept.ChildDevelopment55(5):1671−1986,1984. 2)岡田洋子:学童期にある小児の死の概念の発達に関わる要因の検討一認知発達と社会経験に焦点を あてて一.天使女子短期大学紀要.11:21−35,1990. 3)佐藤比登美,斎藤小雪:現代の子どもの死の意識に関する研究.小児保健研究.58(4):515−526, 1999. 4)仲村照子:子どもの死の概念.発達心理学研究.5:61−71,1994. 5)岡田洋子,松浦和代,木原キヨ子:病児の「生と死」に関する意識調査.天使女子短期大学紀要. 8:17−26,1987. 6)細谷亮太:小児がん患者のターミナルケアとデスエデュケーション.ターミナルケア.1:105−109, 一29一 幼児の死の概念 1991. 7)藤井裕治:子どもが考える「死の概念」の発達.ターミナルケア.12(2):88−92,2002. 8)常葉恵子,伊藤和子,岡田洋子,岡堂哲雄:児童期における死の概念の発達.聖路加看護大学紀要. 6:31−41, 1979. 9)」.バターワース・M.ハリス 神戸陽子(訳):幼児における認知の発達.村井潤一(監訳).発 達心理学の基本を学ぶ一人間発達の生物学的・文化的基礎一.京都:ミネルヴァ書房,200−222,1997. 10)大元誠:アニミズム.森桝(監)ちょっと変わった幼児学用語集.京都:北大路書房,17,1996. 11)岡田洋子:子どもの死の概念.小児看護.21:1445−1452,1998. 一30一
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