提案:重延 浩 - 月刊ニューメディア

提案:
重延 浩
Shigenobu Yutaka
(株)テレビマンユニオン 代表取締役会長・CEO
1941年、樺太・豊原生まれ。国際基督教大学教養学部卒、1964年、
(株)東京放送(TBS)入社。
1970年、
(株)テレビマンユニオン設立に参加、1986年に代表取締役社長に就任。2002年から代表取締役会長・CEO
<主な作品歴・受賞歴>
1981年 TBS『ジャンヌ・モローの印象派・光と影の作家たち』
(演出)
テレビ大賞優秀番組賞/ギャラクシー賞
1989年 TBS『世界ふしぎ発見!』
(プロデュース)
ATP賞優秀番組賞
1991年 NHK『ベルリン美術館・もうひとつのドイツ統一』
ギャラクシー賞特別賞 1995年 映画
『幻の光』
製作(ゼネラルプロデューサー)
第52回ヴェネチア国際映画祭・金のオゼッラ賞
1996年 シネフィルイマジカ編成ゼネラルプロデューサー
2001年 BS-i『子供が見たルーブル美術館』
(演出)
ニューヨークフェスティバルアートドキュメンタリー部門・金賞
映画『DISTANCE』製作
(ゼネラルプロデューサー)
第54回カンヌ国際映画祭・コンペティション部門正式出品
2003年 テレビ朝日『テスト・ザ・ネイション』
(プロデュース)
るが、対立するものではない。
〈カルチャーモデル〉は〈ビ
2003年12月1日、日本のデジタル放送が始まった。静か
ジネスモデル〉を包括するものである。ビジネスだけが、
に動き出した地上デジタル放送の胎動だが、歴史に残る一
社会の力学になる時代は終わりつつある。もちろんデジタ
日になるだろう。
ル時代には新しい産業が生まれるであろう。しかし、新し
デジタルは社会に貢献する技術であるとともに、人間社
い文化が必要である。新しい文化はもう、生まれている。
会に微妙に精神的変化を生み出す。私たちはデジタルの時
ジブリのアニメ感覚、SMAPのフルメディア感覚、踊る大
代にあたって、産業に益するという視点だけではなく、叡
智をもって、この新しい科学技術を迎えなければならない。 捜査線のインターネット感覚、ポケモンのマーケティング
感覚、コミック誌のグローバル感覚、木更津キャッツアイ
そのために私は〈カルチャーモデル〉という新しい表現を
造語した。
〈カルチャーモデル〉とは、21世紀の人間が、 のDVD感覚、キルビル・レッドサムライのネオジャポニズ
ム感覚、トリビアの泉のジュニア出版感覚、リング・トリ
放送や通信というメディアに関わりながら、利益という視
点だけではなく、魅力的な環境を創るためのモデルである。 ックの非日常体験感覚、ピンポン・黄泉がえりのスキマ文
〈ビジネスモデル〉に対峙するこの言語を提示した上で、 化感覚、新スポーツの国民的イベント感覚、泣ける小説感
覚、韓国のラブストーリー感覚などが、今まで経験したこ
21世紀のデジタル社会を迎えたいと考えた。その序章がこ
とのない現象を生み出している。
こに紹介する「テレビマンユニオンニュース2003年12月
その新しい文化を敏感に予感している人々の叡智によっ
号」の論文である。
発表後、多くの方々から共感と激励の言葉をいただいた。 て、新しいデジタル時代が、そして新しいメディアが構築
そして、今年2004年、私の中でこの〈カルチャーモデル〉 されていく。新しいメディアのモデルが出現することで、
マスメディアの中にも〈個〉が台頭する。この〈個〉が、
像が進化し始めた。その過程を、ニューメディア誌が見つ
例え〈個〉であっても影響力を持ち始める。
〈衆〉を対象
めたいという。私が文末で、
〈カルチャーモデル〉の同志
〈個〉と交わり、なおかつ新しい
を求めているが、すでに〈カルチャーモデル感覚〉持ち、 に拡大してきた放送が、
時代を導いている同志が存在しているように思う。この序 〈衆〉の概念を構築し、先見的モデルを創出していく事が、
放送というメディアにおける新しい〈カルチャーモデル〉
章の後のシリーズで、その同志感覚に出会うことから、私
である。
の〈カルチャーモデル〉の理念をより深め、推進していき
それを理解するデジタル時代の同志、それに賛同するデ
たいと思う。
ジタル時代の同志に私は期待する。
〈カルチャーモデル〉は〈ビジネスモデル〉に対峙はす
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特別提案 デ ジタ ル 放 送 時 代 の カ ル チ ャー モ デ ル
〈最初〉
にして
〈最後〉の
変革の契機
う』。この番組、1996年から始まった
ば海外に行くという発想が、非常識な
北海道ローカルの深夜番組である。そ
常識になる。「やってみなきゃわから
れが、うなぎ上りの人気を博して、つ
ない」。海外に行って何本もタメドリ
地上デジタル放送にどんなソフトが
いに18.6%(シェア46.0%)を獲得し
する。タメドリとは業界用語で「溜め
生まれるのか。何が変わるのか。マル
てしまった。だが、2002年に放送は終
て撮る」つまり何本分もまとめて撮影
チ編成、高画質・高音質、双方向、デ
了した。好調時に終了した。それはな
するということである。ベトナムに行
ータ放送、移動体放送等々、次々に新
ぜか。ディレクターの藤村忠寿氏とプ
って、出演者2人、バイクでただただ
しいハードの可能性が語られる。しか
ロデューサーの四宮康雅氏に会う。
ホーチミン・ルートを走る。
し放送開始時点で、このハードの利点
「やめたんじゃないですよ。毎週水曜
2本目のDVDは『サイコロ1 粗大ゴ
が一斉に開花することは無い。アナロ
日にやるということをやめたんです。
ミで家を作ろう 闘痔の旅』。粗大ご
グ放送がそのままデジタル放送として
ほんとは死ぬまでやるって決めたんで
みを集めて札幌の高級住宅地に家を建
サイマル放送されることから、このデ
す」と、藤村Dは膨らみ始めた腹をた
てようという企画、大泉洋の痔を直す
たきながら言う。氏は 3 8 歳である。
ため、24時間で廻れる限りの温泉を訪
ジタル放送が始まる。地上デジタル放
送にはしだいにHDが増加し、双方向
「一生どうでしょうします」の名言が
ねる企画。サイコロの出た目で交通機
のソフトが実験され、データの有効な
生まれる。「放送をすることだけが放
関を決め、東京から札幌に帰るという
利用方法が検証され、移動体向け放送
送ではない」。これは新しい〈カルチ
企画。1996年の初期作品を集めた3本
の効用が試される。
ャーモデル〉のヒントになると私はメ
立てである。藤村Dも堂々「おもしろ
モをとる。
くありません!」と宣言したが、オリ
しかし地上デジタル放送が、一挙に
その結論を提示することは無い事を放
藤村Dは「マニュアルなんて無い。
コンチャート2位を記録し、5万5,000
枚を売り上げた。
送に係わる者は知っている。放送は実
手作り」でこの番組の制作を開始し
験の時間を経て、成長するものであ
た。この番組に出演するのは全国的に
2 0 0 3年の 1 1月5日に発売となった
る。ハードがそう簡単にソフトを変革
は無名の鈴井貴之と大泉洋。この2人
DVD第3弾『サイコロ2∼西日本完全制
させるものではない。ハードが社会に
が旅をする番組である。行き当たりば
覇∼オーストラリア大陸縦断3,700キ
どんな心理的影響を与えるかを観察し
ったりの旅。事前の調査なし。既成の
ロ』はオリコンチャート初登場でいき
ながら、しだいに新しいソフトの原型
テレビ番組のスタイルをまったく無視
なり第3位となった。この時のチャー
が発想されていくべきものである。新
する。感性に頼りっきりの旅である。
ト1位は『インディ・ジョーンズ コ
しい〈カルチャーモデル〉を期待する
思いつくがままの反応を語る。好奇心
ンプリートBOX』
、2位は『マトリック
ためには、まず新しい才能が、生ま
が放浪する。結論や強い目的意識は無
ス リローデッド』という強敵であっ
れ、育ち、成功する環境をつくること
い。出会う時間、出会う場所、出会う
た。
を主張する。この主張は、デジタルと
人間すべてが好奇心の対象になり、忘
いう変革が始まった2 0 0 3年の〈今〉、
却の対象になる。
鈴井貴之氏は『水曜どうでしょう』
の企画者であり出演者である。番組の
すぐに開始されなければならない。こ
この番組は放送終了後、DVDとして
共演者に北海学園大学の学生だった大
のメディアの重要な変革を提言できる
売り出される。コンビニエンスストア
泉洋を抜擢。素人の大泉の怪演が始ま
のは、デジタル時代を迎えた今が、
の北海道ローソンと組み、限定販売で
った。この大泉を評して、藤村Dは
番組のDVDを売る。2003年3月に1本目
「テレビジョンを見尽くして、そのす
〈最初〉にして〈最後〉の契機ではな
いかと考える。
『原付ベトナム縦断1,800キロ』が発売
デジタル時代の
新感覚ソフトとは
こんなソフトに出会って感動する。
北海道テレビ放送の『水曜どうでしょ
34
3-2004
べてを記憶している男」と評する。
された。2002年の番組最後の旅をDVD
「彼はあらゆるテレビをコピーしてい
にしたものである。ふと思いついたベ
る。そのコピーをいつでも再生でき
トナムの旅。それが通算7万枚以上の
る。おじいさんが見るようなテレビの
売り上げになった。オリコンの売り上
時代劇をみんな記憶していて、そのせ
げヒットチャート第5位になる。
りふをコピーして言うことができる。
「予算が無かったもので∼」と藤村
Dは頭を掻く。彼にとって金が無けれ
テレビで育てられた手乗りインコだ」
と絶賛する。そして生まれたのが、テ
レビジョンではなくて、演劇である。
係でもある。
か。それを正確には予測できない。経
『水曜天幕團 蟹頭十郎太』
。札幌の郊
彼らは、原則東京には行かないとい
済優先、ハード優先、行政優先で進ん
外平岸にある北海道テレビ放送の駐車
う。東京での出現は出稼ぎに過ぎない
できたデジタル放送がそろそろ、ソフ
場に突然巨大な黄色いテントが建てら
ということだろう。トークショーもそ
トの視点からの提案に真剣に耳を傾け
れる。そこで時代劇が始まる。
の日が東京で初めてのものだった。放
ることが重要である。まず放送におけ
10月10日に開演し、9公演を行った
送は2002年9月に終わっているが、今
るソフトの重要さを、経済、ハード、
この舞台のチケットは北海道ローソン
は昔の番組が各地方でテープネットさ
行政が理解すること、そのことから新
から売り出され、即日完売。道外から
れている。秋田、仙台、京都、神奈川
しい変革が始まる。理解したような擬
の申し込みも殺到したという。なぜこ
など2003年9月現在、18局で放送にな
態、形式的なソフトへの敬意は無意味
んなに売れるのか。ほとんどが『水曜
っている。東京人はかろうじて、テレ
である。ソフトにしっかりと価値を与
どうでしょう』のホームページでの情
ビ神奈川やインプレスTVで昔の彼ら
え、その創造者に利益を適正に配分
報だけで、購入に殺到してしまう。藤
の姿を見ることができる。
「それでよ
し、サクセスストーリーを約束できる
村Dは自分で返事を書くので、「夜も
い」と藤村Dはうなずく。時差を持っ
かどうか、それがこれからの〈カルチ
眠れない」と言う。手作りのネットワ
てしだいに『水曜どうでしょう』が知
ャーモデル〉形成の死命を制する命題
ークである。新しい〈個〉のネットワ
名度を上げていく。だからDVDはその
である。
ークが、意識されている。
都度、次第に売り上げを上げていく。
鈴井貴之氏は劇団の主宰を経て、大
泉らの所属する「クリエイティブオフ
「だから長持ちするのだ」と藤村Dは
言う。
曖昧にされた課題が山積し、解決し
ていない。著作権は発意と責任を有す
る独創的な制作者に無条件に帰属す
ィスキュー」を設立し、札幌を拠点と
『水曜どうでしょう』への敬意を私
る。著作者との契約は公正に扱われ
するタレント・構成作家として活躍し
が延々と語ったのは、そこにデジタル
る。創作物から生まれる利益を放送す
ながら、映画にも情熱を抱き、ついに
放送時代の新しい感覚を予感したから
る事業者・利用する事業者が公正に利
2本の映画を監督する。2本目の映画
である。新しい感覚とは何か。〈個的
益配分する。目的のないソフトの死蔵
『river』には大泉洋が主演し、突然サ
な発想〉
、
〈既成からの離脱〉
、
〈自由な
は禁止。著作権を有する著作者が、ま
スペンス心理劇を好演する。映画
制作観〉
、
〈少数スタッフ〉
、
〈無名の有
ず著作権をどう行使するかを意思表示
『river』は、2003年の東京国際映画祭
名〉、〈少額予算〉、〈非メジャーの成
できる機会が持てるべきである。著作
で11月5日に上映された。そのトーク
功〉、〈複合的なメディアの多面的展
者に十全な配分を。そこからサクセス
ショーがデイファ有明で開かれた。ト
開〉
、
〈ホームページの広報〉
、
〈インタ
ストーリーが生まれ、次世代の人材が
ークショーには鈴井貴之、大泉洋に加
ーネットの交流〉
、
〈ファンクラブ的交
集まる。これはデジタル時代の、最低
えて、饒舌な藤村Dと寡黙な嬉野Dも
感〉
、
〈カジュアルな会話〉
、
〈地方から
限の〈ビジネスモデル〉である。これ
参加する。 1,200人入ったこのトーク
の発想〉
、
〈非東京の成功〉
、
〈サクセス
を軽々と解決できなければ、次なる
ショーのチケットはたった2分で1,000
への情熱〉
、
〈DVDからの利益〉
、
〈流動
〈カルチャーモデル〉に進めない。こ
枚が売り切れた。あわてて売り出され
的未来観〉。これらの予感は既成の地
れらの意見は関係者から繰り返し提示
た2階席200枚の追加チケットも2分で
上波にはあまり見られない。しかしこ
され尽くされている。正論を曖昧に
売り切れた。
「たった4分間で集まった
うした感覚こそ新しい〈カルチャーモ
し、無駄な駆け引きをする時間はもう
客」と大泉は言い、「お前たちバカ
デル〉へのヒントであると、私は確信
ない。あと一年ですべて解決できない
か!」と藤村Dが客を挑発する。その
する。
ものなのか。
挑発も爆笑で迎えられる。客との暗黙
行政的には、公正な取引のための自
の了解ができている。ネットワーク上
由で安全な相談・調停の機関の設置、
の交感、そしてその確かめ合いがどう
やらDVDであり、映画であり、演劇で
放送の構造改革を
ソフトの視点から議論しよう
あり、トークショーであるらしい。お
高度で広範な人材育成機関の設立、小
学校や各種学校への道具・設備の提
供、保険・保障制度の適用、著作権の
互い裏も表も知り合った同族という仲
新しいデジタル時代の〈カルチャー
信託制度を実行、ベンチャーへの支
間意識。ドライであり、ウエットな関
モデル〉が、どこから生まれて来るの
援、税金の優遇措置、必要な資金の調
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35
特別提案 デ ジタ ル 放 送 時 代 の カ ル チ ャー モ デ ル
達援助、海外流通の助成、海外での著
きる瀟洒な小部屋があり、ビジネスの
してテレビに参加します。これはクイ
作権の保護などに対する具体的方針の
会合をしている。私は冗談で、カンヌ
ズ番組ではなく、テストというまった
決定、そして実施。これも議論の時間
でのヨットの借用料と停泊料を訊ねて
く新しいテレビジョンでした」
。
はあまり無い。新しい〈ビジネスモデ
みる。テレビマンユニオンは将来ヨッ
「プライムタイムの生放送で、イン
ル〉を確立し、次なる〈カルチャーモ
トで乗り込み、それを展示場にするの
ターネットでアクセスしてきた結果を
デル〉へ進むため、すぐ実行すべき施
だとスタッフに予言し、笑われてい
すぐ番組内で発表し、男と女はどちら
策である。
る。ちなみに停泊料はヨットのフィー
が知能指数が高いか、先生と生徒とは
デジタル時代に本当に必要な改革
ト数で決まるという。その中に「アイ
どちらの指数が上か、ブロンドの女性
は、実はもっと先にある。メディア構
ワークス」というオランダの独立製作
の指数はどのくらいかなどの結果を出
造そのものの改革である。私の提言す
会社の素敵な木造のヨットがあった。
し、比較しました。初めての全国的生
る新しい〈カルチャーモデル〉のため
そのヨットを訪れる。
放送の双方向への挑戦でした」
。
には、メディアにおけるより先鋭な改
「アイワークス」社は、1999年、オ
今までのテレビには無いこのテレビ
革が必要である。これは一時的に既成
ランダの「エンデモール」から離れた
番組は、視聴者に過激に挑戦しなが
の構造との対立になるかもしれない。
会社である。「エンデモール」は、世
ら、結果的には視聴者の強い共感を呼
しかしそれは、メディアが新しい〈ビ
界で大成功を生んだリアリティショー
んだ。そして視聴率も想像を超えて高
ジネスモデル〉、そして次なる〈カル
『ビッグブラザー』を発案し、スペイ
騰し、初めての単発番組としては、ま
チャーモデル〉を確立するために必然
ンテレコムから数十億円の資金を得た
れに見る成功を遂げたという。タブー
の変革なのだ。もし保守的に既成のビ
大手プロダクションである。レイナウ
への挑戦が、既成のテレビ編成観を超
ジネスを死守することが、メディアの
ト・オールマン氏がこの大手の制作会
えたのである。こうしてオランダの
〈ビジネスモデル〉であると主張する
社から早々と離脱し、小さくて若い制
『テスト・ザ・ネイション』は18カ国
人間がいるとしたら、この改革は、そ
作会社を設立し、CEOとなった。カン
に新しいフォーマットとして広がっ
うした人間の意識との徹底した対立に
ヌで会ったときオールマン氏はまだ31
た。D V Dが創られ、出版が版を重ね
なるだろう。しかし今、この対立を超
歳だった。この新進気鋭の男が思いつ
た。オランダの発想者オールマン氏
えて、急激な科学技術の進化と社会心
いたのが『T E S T
は、今20カ国まで広がったフォーマッ
理の変動を洞察する未来に向けた改革
THE
N A T I O N』
(テスト・ザ・ネイション)という全
ト権の利益で、堂々とカンヌにヨット
を始めなければ、欧米の資本力を背景
国一斉IQテストの生放送番組だった。
を停泊させている。新しいソフトが、
とした新しい〈ビジネスモデル〉、追
インターネットを導入した画期的双方
新しい〈ビジネスモデル〉を生み、新
随してきたアジア諸国の新しい〈ビジ
向番組だった。
しい〈カルチャーモデル〉へのヒント
ネスモデル〉に先行され、気が付いた
オールマン氏は熱意を持ってこう語
ときには日本はそれに追いつけない後
り始めた。「この番組でテレビジョン
私はオールマン氏の持つ自信に、新
進的、保守的メディア構造になってい
のタブーに挑戦しました」。そのタブ
しいデジタル時代のテレビマンの姿を
るだろう。議論しようではないか。変
ーとは、
「人は実は自分の知能指数を、
みた。ビジネスとカルチャーを融合さ
革しようではないか。
こっそり知りたいと思っているのでは
せる新しい潮流をヨットの上で感じ、
ないか。その微妙な心理に挑戦したの
そのフォーマット権のオプションをす
です。だから『あなたは自分のIQを知
ぐ取得した。このオプションには、日
る勇気ありますか』というコピーを考
本の放送局が受け入れるかというリス
えました」
。次に、
「私は60問以上とい
クが伴っていた。しかし、どこかの放
こんな新しいテレビジョンに出会っ
うたくさんの問題を出し続け、すべて
送局がこのデジタル感覚の企画に興味
た。2002年4月のカンヌ、 MIPという
終わってから初めて答えを発表しま
を示すという直感はあった。でもそれ
テレビジョンマーケットの展示会での
す。視聴者はテレビを見続けて、前半
はヨットの船上で飲んだ高価なシャン
ことである。カンヌの海岸通りを歩
はただただIQの問題を解き続けます。
パンと地中海の微風のせいだったのか
く。海辺に数十隻のヨットが停泊して
ソファに坐ってのんびりテレビを見て
もしれない。
いる。ヨットの中には打ち合わせがで
楽しむ暇はありません。視聴者が熱中
新しいカルチャーとしてのソフト
36
3-2004
を伝える。
この放送はオランダの衛星放送から
始まり、次にドイツのRTLで放送され
を確信したと言う。私は番組が始まっ
らに進化させていくべきソフトの進化
成功を収めた。ドイツでのシェア視聴
て10分ほど経った頃、ダウンロードを
形である。
率は46.3%だった。それをイギリスに
求めるインターネットのアクセスが同
持ち込み、BBCに売り、より以上の成
瞬間に80万件以上になって、システム
功を収めたのが、ロンドンの制作会社
が対応できなくなったというメッセー
「タレントTV」の現社長(Managing
ジを聞き、成功を確信した。予想を数
director)トニー・ハンフリーズ氏だ
倍も超えるアクセス量でこの冒険に満
った。2002年5月に『テスト・ザ・ネ
ち溢れた放送イベントが動き始めてい
は拡散する。それは新しい〈カルチャ
イション』BBC版が放送され、後半部
た。その後どれだけ日本人がインター
ーモデル〉への兆候である。放送は、
で47・2%という、ものすごいシェア
ネットのキーボードを押し続けたの
デジタルが新しく生み出した新しい機
視聴率に達した。
か、申し訳ないがその実数はもうわか
能、インターネット、ブロードバンド
2002年9月、私はテレビ朝日を訪ね
らない。しかし、時代は確かに大きく
の進出により、新しい体験を始めた。
た。六本木ヒルズとテレビ朝日の新局
変わり始めていると副調整室で私は実
20世紀の放送は〈衆〉のメディアだ
舎が並び、デジタル時代感覚の新しい
感した。新しい感性の潮流は、放送と
った。〈衆〉が商品の販促を成功させ
環境が生まれようとしていた。テレビ
いうメディアにも生まれ始めている。
るという民間放送のビジネスモデルを
朝日の局のイメージも大きく変革する
翌日発表された平均視聴率は、
確立し、それが民間放送の産業にとっ
テレビジョンはどこに行くのか
デジタル時代の〈ビジネスモデル〉
という。社名も新しくなる。社長自ら
17.8%。フジテレビが裏番組で日本対
て有益な〈ビジネスモデル〉になっ
「テレビ朝日は変わる」と大号令をか
韓国の女子バレーボールでのフルセッ
た。しかし、21世紀のデジタルメディ
けている。反応は早かった。編成幹部
トの熱戦を放送し、21.8%を取ってい
アは〈個〉のメディアである。おそら
が即断するという英断が生まれた。担
た。その裏での獲得視聴率だから、
く〈衆〉のメディアである放送も、
当スタッフが『テスト・ザ・ネイショ
17.8%は画期的成功と伝えられた。関
ン』のコンセプトを一瞬で理解し、そ
西ではABCの平均視聴率が20.7%まで
こに未来的テレビを感じとり、参加し
上がり、日本対韓国の女子バレーボー
CSデジタル放送は多チャンネルの
てくれた。
ルがとった20.1%より上位の第一位だ
中から、小さいが新しいビジネスモデ
った。
ルを確立させ始めている。スカイパー
2003年11月3日
(月)、文化の日。午
〈個〉にどう対応できるか、それが重
要な課題になるであろう。
後7時から2時間48分の『テスト・ザ・
〈今までにない生放送テレビジョ
フェクTV!では、約60%の委託放送
ネイション』が放送された。古舘伊知
ン〉、〈個が参加するテレビジョン〉、
事業者が単年黒字を実現した。専門性
郎と小池栄子の司会。東大生、武道
〈個的情報を知る番組〉、〈知的テレビ
家、医者、巨乳、先生、大工のグルー
ジョンの新しい形〉
、
〈新しい双方向の
分離した新しい〈カルチャーモデル〉
プ、それに石坂浩二、野村克也監督、
形〉
、
〈世界初のモバイルによるテスト
を形成し始めている。
弁護士の住田裕子、将棋の女流名人高
参加〉
、
〈フォーマット権獲得による番
橋和、タレントの光浦靖子、ふかわり
組〉
、
〈国際的制作協力〉
、
〈新聞連動〉
、
を重視した放送は、地上波とは個性を
インターネットや、ブロードバン
ド、そしてモバイルは〈個〉を拠点と
。視聴率に証明されたよう
ょうがセレブリティとして参加した。 〈出版連動〉
して、メデイア展開を始めている。こ
解説者にイギリスからコリン・クーパ
に、この企画は〈衆〉を巻き込んだ
の〈個〉の進出は、やがて、〈衆〉の
ー教授を迎え、加えて日本の知能指数
が、実は〈個〉のための番組だった。
メデイアにも侵入する。いや、もう侵
の第一人者、杉原一昭筑波大学名誉教
一人ひとりが個別の知能指数を密かに
入している。〈衆〉のメディアである
授が監修した。オランダのオリジナル
知るというテレビである。その〈個〉
地上波テレビジョンが〈個〉の感覚を
アイデアに日本スタッフの独自の感性
の集合体としての視聴率だった。そし
どう迎え入れることができるかが、重
を加え番組の準備が終わった。
て〈個〉は、一人ひとり別々であると
要な〈新ビジネスモデル〉への鍵であ
いう理念からつくられたものである。
り、新しい〈カルチャーモデル〉への
70問の設問が始まったとき、スタジ
オですぐ解答者のうめき声があがっ
〈個〉の集合体としての〈衆〉、それ
た。スタジオを訪れていたオランダの
が、〈カルチャーモデル〉である。こ
発案者オールマン氏は、その時、成功
の企画は地上デジタル放送を迎えてさ
道程になる。
放送は〈衆〉から〈個〉へ、通信は
〈個〉から〈衆〉へ。やがてこの〈衆〉
3-2004
37
特別提案 デ ジタ ル 放 送 時 代 の カ ル チ ャー モ デ ル
ストリーミング放送の新しい形はな
バラエティドラマの登場〉
、
〈高視聴率
当の融合というものがある。融合が、
いか、それが今の課題であろう。ビデ
と低視聴率への二極化〉
、
〈広告主の広
ハードの視点からのみ語られ続けてき
オ・オン・デマンド、双方向ショッピ
告観・ターゲット方向の変化〉
、
〈視聴
たが、このソフトの融合こそが本当の
ングなど現実的な〈ビジネスモデル〉
率の価値の再検討〉
、
〈視聴者による知
意味での、放送と通信の融合である。
が検討されている。その中でもDVRと
的番組の再評価〉
、
〈国民的スポーツ番
融合というより、交感といったほうが
いう番組録画による新しい視聴形式が
組の高視聴率〉
、
〈巨人離れから生まれ
ソフト的表現だろうか。
急速に注目されはじめていると言え
たスポーツファンの拡散〉
、
〈放送局の
放送は拡散する。一度は拡散の試練
る。TivoとReplay、それにマイクロソ
映画事業参入・連動〉
、
〈放送のイベン
を経過しなければならない。そこか
フト社の Ultimate TVの考える〈ビジ
ト事業活性化〉
、
〈放送局のブランドイ
ら、次の〈ビジネスモデル〉、そして
ネスモデル〉である。自動録画、自動
メージの促進〉
、
〈広告主のブランディ
〈カルチャーモデル〉が生まれる。放
タイムシフト(放送時間の変更に対
ングの再検証〉などの潮流がある。こ
送の拡散はどのような形でやってくる
応)、キーワードによる自動録画(好
れも〈ビジネスモデル〉から新しい
だろうか。
の感覚が、〈個〉と交わるところに本
きなチームやタレントの名前等による
〈カルチャーモデル〉への流れと認識
CSデジタル放送は、ひとつの拡散
自動検索)、時差で視聴する同時再生
しておきたい。放送はこうしたカルチ
であった。300万規模の専門性への拡
機能(遅れてテレビを見ても、はじめ
ャーの変動を背景として変革されるべ
散であった。しかし、それは視聴率を
から同時間視聴のように追いかけて見
きである。
拡散させるほどの変革ではない。本当
られる)、一時停止機能(ちょっと電
放送局の新しい事業展開には、従来
の拡散の潮流は、インターネット、ブ
話に出て、テレビに戻り、その後は録
までの事業拡大とは別の変革が見え
ロードバンドからやってくるのかもし
画で楽しむ)
、CMスキップ機能(録画
る。デジタル時代に向けた総合的エン
れない。
した番組のCMを飛ばして見る)
。こう
タテインメント、総合カルチャーの拠
した視聴者サービスを前提とする新し
点として、放送局を考え始めている兆
各国でその国の特徴に基づくそれぞれ
い機能は、〈ビジネスモデル〉として
候である。この方向は正しい。放送局
の拡散が起きはじめている。アジア諸
発想されているが、確かに自分の好き
がこれから通信と関連し、ブロードバ
国での拡散も急速である。
な番組を、自分の好きな時間に、好き
ンド、インターネットに進出するの
なように見るという新しい〈カルチャ
は、単にパッケージのソフトを提供す
ー〉に適応するかもしれない。
る事ではない。放送局というよりメデ
潮流の変化は、アメリカで先行し、
アメリカは1997年に早々とデジタル
放送への転換を発表し、その期限を
2006年とした。現在の遅れているデジ
DVRは拡散のひとつの形である。ま
ィアを使った発信局、つまりビジネス
タルのモニター普及率からして、その
さに〈個〉のテレビジョンである。ハ
としても、カルチャーとしても、魅力
期限は延長せざるを得ないだろうが、
ードがこのサービスに積極的に対応
あるソフトを連動させて提供していく
短い期間でのさまざまな〈ビジネスモ
し、アメリカではカリフォルニア州か
ことであろう。それは映画であるかも
デル〉の実験は、十分研究の対象にな
ら次第にこのDVRの進出が始まってい
しれないし、劇場でのソフトであるか
り得る。インターネットが急激に台頭
る。従来のビジネス発想だけのITモデ
もしれないし、スポーツイベントであ
したアメリカの放送界はインターネッ
ルではなく、カルチャー的発想も有し
るかもしれない。音楽出版であった
トをまず警戒し、それからインターネ
ているだけに、ストリーミング系の放
り、音楽イベントであったりする。ト
ットと協調するという体験を持った。
送より、拡散の影響力は強いかもしれ
ークショーであったり、落語であった
リアルネットワークスや iキャストら
ない。日本でもコクーンやepで、この
り、新しい伝統芸術であったりする。
のドットコム・メディアが放送に参入
発想の〈ビジネスモデル〉化が実験さ
DVD、CD、MD、ビデオが販売され
する姿勢を示し、ネットワークのABC
れている。
る。キャラクターが売り出される。コ
ンビニ、書店、レンタルビデオ店、
らもGo Networkのようなウェブサイ
拡散の兆候は、現在の地上放送にも
トを立ち上げる。しかしインターネッ
すでに現れている。無作為に列挙して
CDショップがジャンルを超えて流通
みよう。〈F 1 ・ M 1のテレビ離れ〉、
に協力する。ホームページはもっとも
トバブルの崩壊で、もう一度メディア
のITとの取り組み方を再考する必要が
あるとされた。
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〈M3のテレビ離れ〉
、
〈トレンディドラ
有効なメッセージの拠点になるだろう
マの停滞〉
、
〈新しいバラエティ番組・
し、インターネットでは迅速にP2P的
情報の交換がある。モバイルで語ら
る。だから、〈ビジネスモデル〉を超
から、5系列がすべて総合編成、無料
れ、そのクチコミがもっとも信頼され
えて存在する。
広告放送の構造になった。そして、5
る情報になる。放送局は番組のブロー
ドキャスター(種まき人)から、ソフ
では、〈カルチャーモデル〉とは何
か。
系列がすべて視聴率を競う構造へと向
かって行った。誰も止められない視聴
トのアイデアをブロードキャストする
それは、人間の幸福を目的とするも
メディアに変貌する。テレビジョンは
のである。幸福と記述することに文体
その中心的情報発信基地である。放送
の恥ずかしさがあるが、それが最もわ
視聴率は、〈衆〉のメディアであるテ
局から情報発信基地への変身。それが
かりやすいレトリックであるように思
レビジョンにとって重要である。た
重要な〈カルチャーモデル〉への対応
える。21世紀の人間は、恥じずに幸福
だ、5系列の民間ネットワークが皆同
である。放送局自身が〈カルチャーモ
の哲学を持つべきである。その哲学を
じ志向性を持ったエンタテインメント
デル〉になってもよい。
持つ〈個〉が参集すれば、すばらしい
の制作に流れるという独創性の欠如を
テレビジョンの普及状態、信頼度、 〈衆〉が生まれる。これは宗教ではな
指摘しておく。ある個性や好みを高視
報道・娯楽番組の編成能力と管理能力
い。政治でもない。哲学である。21世
聴率にとどかないという理由で切り捨
からすれば、地上放送局はデジタル時
紀の文明はこうした個的幸福感の集積
てるだけの編成を批判しておく。
代の最大、最強の発信基地になる。後
でありたい。
率構造へと邁進したのである。
視聴率批判をしているのではない。
地上波の放送局が、デジタル放送時
は放送局が私の標榜する〈カルチャー
もちろん、それぞれの幸福には個性
代においても多様な番組を編成できな
モデル〉を全体構想として構築できる
がある。この分化した個性をどう捕ま
いなら、日本は、もうひとつの個性あ
かどうかだけである。
えられるか、それが、これからのメデ
る編成を行う放送局を持つべきである
ィアの命題であろう。放送はもはや
と提案したい。「電波は通信のために
い。視聴率が〈ビジネスモデル〉にと
〈衆愚〉を相手にしているのではない。
確保されるべきである」
、
「地上波にこ
って重要な基盤であるとともに、放送
〈個〉はそれぞれの幸福感を持つ。
〈衆
れ以上の電波の余裕は無い」という常
の〈カルチャーモデル〉としても価値
愚〉というものはもう実在しないので
識で、このアイデアが挫折することは
ある指標でもある。誰も見ない放送に
ある。現在の放送はそれを忘れてはい
承知の上だが、一応主張はしておく。
価値は少ない。放送が〈衆〉のメデイ
ないか。
デジタル放送を構想する時、「既存の
もちろん私は視聴率を否定はしな
アであることには、文化的価値もあ
放送事業者の電波をVHFからUHFに移
る。〈衆〉に関わる文化は、優れた文
行すること」のみが主要な課題にな
化をより多くの人々に伝えたという価
カルチャーモデルの提案
値であることに間違いがない。
制作者の一人として発言すれば、自
り、「新規事業者の参入も認める」と
いう先進的革新を試みなかった保守性
〈カルチャーモデル〉に向けて、新
が残念でならない。
らの感性が〈衆〉をとらえる、〈衆〉
しい提案を行う。もちろんこの提案は
に共感されるという快感は制作の糧に
1秒で否定されるタブーの提案である。
きな変革を遂げている。かつてアメリ
なる。インセンティブを生み出す。
しかし、構造の改革のためには、この
カ三大ネットワークは90%以上の視聴
ような提案をあえて行う非常識も面白
率シェアを誇っていたが、今はシェア
いではないか。
40%を切っている。しかし崩壊はして
〈衆〉には〈衆〉の世界の価値と〈お
もしろさ〉がある。
放送局が〈衆〉をいつまでも変わら
ないものと甘く見ることは危険であ
地上波にもうひとつの民間の放送局
を作る。
世界の先進国は近年、基幹放送で大
いない。テレビの視聴方法が拡散して
いる。かつて地上波以外にニュース専
る。既成の数値、量だけを目的とする
日本の放送事業はテレビジョン放送
門局CNNがアトランタというローカル
ソフトはこれからの時代は継続的〈ビ
開始以来、大きな変革を試みていな
から登場し、世界的に成功したこと
ジネスモデル〉にはならないのではな
い。教育放送局、準教育放送局が作ら
が、アメリカのメディア変革の重要な
いか。そしてもちろん〈カルチャーモ
れ、教育・教養の比率の高い番組編成
契機になっている。変革は促進され、
デル〉にはなり得ない。〈カルチャー
を行っていた時代もある。しかし教育
ケーブル放送や衛星放送による視聴率
モデル〉は、なぜそれが今必要かとい
放送は、〈ビジネスモデル〉としては
の拡散が始まった。
う〈ある哲学〉から生まれるものであ
成立しないという結論に終わった。だ
アメリカのケーブル放送にはおよそ
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特別提案 デ ジタ ル 放 送 時 代 の カ ル チ ャー モ デ ル
7,000万世帯が加入している。AT&Tブ
共同で設立した文化チャンネルであ
には、テレビジョンは〈衆〉の認識を
ロードバンド、タイムワーナー・ケー
り、そこでは優れた映画、ドキュメン
変えなければならないだろう。〈衆〉
ブル、コムキャスト、コックスなどの
タリー、芸術も紹介される。イギリス
の中に〈個〉の感覚の芽生えを読み取
ケーブルが、ニュース専門局に加え、
の地上波では、公共放送BBCと民間放
る、それが新しい変革への出発であろ
スポーツ専門のESPNや、ドキュメン
送ITVに加えハードとソフトを分離し
う。ブロードバンドの世界からは〈個〉
タリー・情報番組専門の「ディスカバ
たチャンネル4とチャンネル5も創設さ
を拠点とした〈衆〉への接触が始まる
リー」、歴史専門チャンネル「ヒスト
れ、若い世代への番組、個性的番組、
であろう。放送の世界からは〈衆〉を
リーチャンネル」、そして女性専門テ
優れた映画・ドキュメンタリーが特徴
拠点として〈個〉への接触が始まるだ
レビ「ライフタイム」などを編成し、
を持って編成されている。時代は視聴
ろう。
新しい〈ビジネスモデル〉を確立し
者の〈個〉に向かう心理を迎え、変化
た。加えて、ディレクTVとエコスタ
している。
この〈衆から個へ〉〈個から衆へ〉
という二つの感覚がどこかで交錯し、
ーが300以上のチャンネルを供給して
この世界の兆候をデジタル時代の日
融合するとき、おそらくは何かしら天
いる。地上波にもFOX、WB、UPNの
本の基幹放送も無視してはならない。
才的な発想をするクリエイターと経営
ネットワーク参加が認められた。多様
もし既成の放送局が自らを変革するこ
者が現れ、デジタルという機能を使っ
な放送が基幹放送を通じて視聴者に届
とに逡巡するようなら、もうひとつ
た〈カルチャーモデル〉の形を提示す
けられるようになる。三大ネットワー
の、新しい編成方針を持った放送局を
るだろう。そう、
〈カルチャーモデル〉
ク神話は変化した。既成の〈ビジネス
生み、新しい感覚の編成を展開すべき
自身も、おそらくはひとつだけのモデ
モデル〉だけを守ることより、〈カル
であろう。その新しい放送局の放送と
ルではなく、複層的なモデルとして形
チャーモデル〉が優先されたと見る。
制作は分離されるべきである。新規参
成されるだろう。これからの〈カルチ
構造の変革が、〈カルチャー〉に新し
入者が認められ、新しい〈カルチャー
ャーモデル〉は常に変容する自在な哲
い風を招く。
モデル〉を標榜し、新しい〈ビジネス
学として考えられなければならないの
モデル〉も形成すべきである。
かもしれない。自戒しつつ、とりあえ
フランスの地上波では T V 5崩壊の
ず地上デジタル放送の出発を見よう。
●
後、そのチャンネルを二つの放送局が
夜6時を境にして共有する。夜6時から
放送を信頼することから私のメデイ
の放送局ARTEはフランスとドイツが
ア論が始まる。おそらくデジタル時代
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■
企画の積極的な推進者となり、プロジェクトが組まれた。
この論文の執筆に当たっては、テレビマンユニオン経営情報室
演出スタッフとして、総合演出は、テレビ朝日の畔柳吉彦さん、
飯田一雄、渡辺誠、後藤礼の協力を得た。
テレビマンユニオンの内山雄人が務め、
『テスト・ザ・ネイショ
■
ン』現象を巻きおこした。小林正樹、鬼頭明、刀根実香子らが、
北海道テレビ放送の編成・広報グループ部長の三塚正幸氏、プ
そして事前番組担当の山本充宏が、新しい演出を試みた。
ロデューサーの四宮康雅氏、ディレクターの藤村忠寿氏の協力
浦谷年良がテレビマンユニオンのプロデューサー、松尾明美が
を得た。
制作プロデューサーを担務し、スタッフや出演者をまとめた。
■
テレビ朝日編成の藤川克平さん、吉田勝文さん、渡辺実さん、
『テスト・ザ・ネイション』については、テレビ朝日で最初にお
松久智治さん、デジタルコンテンツ担当の西勇哉さん、システ
話を聞いていただいた常務取締役の早河洋さん、編成制作局編
ムの技術担当の井上貴史さんが参加、さらに広報を金沢昭吾さ
成部長の亀山慶二さん、編成制作局編成部企画担当課長の武居
ん、長畑洋太さんが展開した。
康仁さん、そして制作をリードした総合プロデューサーの蓮実
テレビマンユニオンの海外渉外は、飯田一雄が担当し、タレン
一隆さん、海外渉外のシュレック・ヘドウィックさんらがこの
トTVの高城明文さんと協力し、この番組を実現した。
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