日本語版 - NIRA総合研究開発機構

(日本語版)
Kick Off
Towards the Development of an Integrated Asian Capital Market
統合されたアジア資本市場構築へのキックオフ
“KEIO-NIRA” Asian Capital Markets Study Forum
“KEIO-NIRA”アジア資本市場研究フォーラム
全記録+補足論文
D a t e: 18 – 19, October, 2003
Venue: Keio University, Mita, Tokyo
Host
慶応大学・総合研究開発機構
Keio University and National Institute for Research Advancement(NIRA)
協力
日本資本市場協議会
■ Outline of the Forum
In response to the report of the “Study Group on the Internationalization of Japan’s
Financial and Capital Market” (Ministry of Finance), a forum entitled “KEIO-NIRA Asian
Capital Markets Study Forum” was held on October 18 and 19, 2003 at Keio University in
Tokyo under the joint auspices of the Center of Excellence (COE), Keio University (headed
by Professor Naoyuki Yoshino), and the National Institute for Research Advancement (NIRA),
a Japanese Government authorized independent (joint public-private) policy research body.
Sixty participants gathered from six Asian nations, including personnel from the finance
departments of leading issuers in the bond and capital markets, institutional investors,
management level personnel of Japanese and foreign banks and securities firms, and
representatives of regulatory authorities, securities depository organizations, rating agencies,
law firms, research institutes and the press. Presentations of research papers were followed
by vigorous discussions.
The establishment of the “Asian Capital Markets Study Group” was announced at the
forum. The Group will feature the participation of interested persons from private companies
and financial institutions in the region, in the hope that the opinions of market participants will
be reflected in the plan to establish the Asian bond market advocated by the Association of
Southeast Asian Nations (ASEAN), Japan, China and South Korea.
■ “KEIO-NIRA”アジア資本市場研究フォーラム概要
「我が国金融・資本市場の国際化のための研究会(2003.3-7)」報告(財務省)を受けて、慶
応大学吉野直行アジアCOE1研究室と、政府認可法人である(半官半民の)政策志向型シンクタン
ク・総合研究開発機構(NIRA)では、2003 年 10 月 18-19 日の両日、慶応大学で“KEIO-NIRA”アジ
ア資本市場研究フォーラムを開催した。
アジア六カ国から、債券・資本市場の第一線で活躍中の発行体企業の財務担当者、機関投資
家、日系および外資系の証券・銀行などの実務責任者に加え、規制当局、証券決済機構、格付機
関、法律事務所、研究機関、報道機関などから合計 60 名が参加し、アジアから 10 名、日本から
10 名の合計 20 人による英語での研究論文等の発表と活発な討議を行った。
また、フォーラムでは、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本、中国、韓国が進めようとする
アジア債券市場構想に市場参加者の声を反映させるべく、域内の民間企業と金融機関の有志によ
る「アジア資本市場研究協議会」の設立が宣言された。
1 COE is the abbreviation of Center of Excellence (The Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology of
Japan subsidizes selected COE)
1
■ The Asian Bond Market Concept
The concept of an Asian bond market has been formulated by regional governments
and participants in the financial and capital markets in the region, and represents an attempt to
foster an efficient bond market with high liquidity, to enable the financial assets which have
conventionally flowed from Asia to the European nations and the U.S. to be employed for
intra-regional investment. At present, a large proportion of the financial assets of the region
are being invested in European and American markets via the financial institutions of these
two regions. The lessons learned from the Asian financial crisis have prompted governments
in the Asian region to make joint efforts to implement the necessary environment for
establishing an Asian bond market. The establishment of such a bond market would prevent
Asia’s abundant financial assets from flowing out of the region, and facilitate internal
investment.
The level of a bond market can be evaluated on the basis of the following factors:
① Legal regulations on registration, disclosure and securities transactions in general
② Relevant tax and accounting systems
③ Infrastructure for settlement of capital securities
④ The degree of sophistication of supervisory institutions, rating agencies, issuing
companies, investors, financial institutions and other market participants
⑤ The degree of sophistication of the corporate bond market and the short-term credit and
foreign currency markets, which are its complements, and the futures market and
securities “repo market”
Efforts in the following areas will be essential to the establishment
of the Asian bond market:
① The concept of the market and the rules applied to it should be common to the nations of
the region and market participants.
② The elements of the respective markets as well as their mutual relationships should be
recognized as being shared in common.
③ Efforts aimed at improving the domestic financial and capital markets of individual
nations should be developed into concerted efforts to establish a common financial capital
market that covers the region as a whole.
④ The level of participants and relevant infrastructure should be improved.
■ アジア債券市場構
アジア債券市場構想は、効率的で流動性の高い債券市場を育成することにより、従来欧米に流
出していたアジア諸国の金融資産を域内の投資に振り向けようとする、アジア各国の政府と金融
2
資本市場関係者自身の試みでもある。現状は、アジアの金融資産の多くは欧米の金融機関を経由
して欧米の市場で投資されている。アジア通貨危機の教訓からアジア各国政府は、欧米を迂回さ
せずに潤沢な金融資産を域内の投資に向けるべく、協力して債券市場構築に向けた環境整備を進
めようとしている。
債券市場のレベルは、①登録・開示・証券取引全般にかかわる法規制、②関連税制や会計制度、
③資金証券の決済インフラ、④監督機関、格付機関、発行体、投資家、金融機関など市場参加者
の洗練度、⑤社債市場自体だけでなく、それと表裏一体をなす相互補完市場としての各国短期金
融市場・外国為替市場、各種先物・証券レポ(貸借)市場などの要素と洗練の度合いによって測
られる。
アジア債券資本市場の創設には、①域内の各国と市場参加者で理念とルールを共有し、②相互
関係を含む各市場の要素を共通のものとして認識し、③各国ごとの金融資本市場の整備から、広
義の域内共通の金融資本市場へと整備のすそ野を横断的に広げ、④全体として参加者と関連イン
フラのレベルをあげるといった努力が欠かせない。
今回の KEIO-NIRA アジア資本市場研究フォーラムは、その市場参加者によるキックオフとし
て位置付けられよう。
以下はその全記録をもとに注釈・補足を加えて再構成したものである。
3
第1日
2003 年 10 月 18 日(土曜日)
18:00∼19:45
アジア資本市場研究フォーラム
開会式
東京都港区三田、慶應義塾大学東館 5 階にて
アジア資本市場研究協議会の設立の宣言および犬飼氏によるシン・コーポレーショのグループ執
行会長、ブンクリー氏からのコメント発表
玉木氏
総合研究開発機構(NIRA)(司会)
こんばんは。アジア資本市場研究フォーラムにようこそお集まり下さいました。私は、この
フォーラムを共同開催している総合研究開発機構の玉木伸介と申します。このたびはご多忙
の中、当フォーラムにご出席賜り、誠にありがとうございます。ご出席の皆様には、ゆった
りとした気分で討論していただきたいと思いますので、歓迎のスピーチはできるだけ手短に
させていただきます。こうすることにより、自由に意見交換できる雰囲気をつくり、この討
論会をより意義のあるものにしていきたいと思っております。それではまず始めに、総合研
究開発機構理事長の塩谷
塩谷氏
英がご出席の皆様に歓迎のご挨拶をさせていただきます。
総合研究開発機構理事長
東京フォーラムにご出席いただきまして、ありがとうございます。このフォーラムを共催す
る慶応義塾大学と総合研究開発機構を代表いたしまして、アジア各国の多くの関係者の皆様
に歓迎の意を表したいと思います。このフォーラムにご出席の皆様は、各国の債券・資本市
場において第一線でご活躍、先導されている方々です。今日と明日にかけて行われるこのフ
ォーラムにおいては、できるだけ形式的なものを排除し、活発に意見交換が行われるよう希
望いたします。そうすることにより、このフォーラムが統合されたアジア債券市場の開設に
向けてのキックオフ会議となることを願っております。このフォーラムが今回ご参加の皆様
にとって有益なものとなるよう期待しております。どうもありがとうございました。
犬飼氏
総合研究開発機構(NIRA)/日本資本市場協議会(JCMA)
当フォーラムにご参加いただきまして、ありがとうございます。私は総合研究開発機構のシ
ニアフェローの犬飼と申します。私は、日本資本市場協議会の事務局長も務めております。
私は、4 週間前タイのバンコクを訪問した際、光栄にもシン・コーポレーションのグループ執
行会長であり最高経営責任者でいらっしゃるブンクリー・プラングシリ氏と様々な問題につ
いて議論させていただきました。また、彼にこのフォーラムの内容についてご説明させてい
ただき、アジア域内の資本市場に関して調査を行い、発行体企業や金融機関等を代表する市
場参加者の継続的な協力のもとで、建設的な提案をするアジア資本市場研究協議会を設立し
たい旨をお伝えいたしました。
4
その際、プラングシリ氏はこの協議会の名誉会長に就任することを快く引き受けて下さいま
した。
このたび、企業の資金調達の円滑化に関する協議会(CFTAJ)および日本資本市場協議会 2
(JCMA)の皆様のご協力により、アジア資本市場研究協議会の設立を正式に宣言させていた
だきます。
アジア資本市場研究協議会は、このフォーラムにご出席の発行体企業や金融機関の代表者の
皆様により構成されます。慶応大学の吉野直行教授には、この協議会の名誉顧問就任をお願
いし、私は光栄にも事務局長をさせていただきます。
この研究協議会は、統合されたアジア資本市場の構築に向け全力を尽くすものとします。ま
た、この目的達成のために、今回ご出席の皆様のご協力をいただけることを心より期待して
おりますので、よろしくお願い申し上げます。
さて、ここでこのフォーラムに向けたブンクリー・プラグシリ氏からのメッセージを読ませ
ていただきます。
2
The Japan Capital Markets Association (JCMA) is a group of capital market issuers and participants in Japan. The JCMA
was established on the 19th of March 2002. Before the formation of the JCMA, the group acted under the name JCPA, Japan
Commercial Paper Association. The JCMA is a non-profit organization made up of capital market participants who wish to
offer their expert perspective in contributing to the development of capital markets, and was established on a voluntary basis.
The objectives of the JCMA are (1) to monitor capital market infrastructure, regulation and market practice to determine the
nature of improvements, which may be required from the perspective of market participants. (2) To issue recommendations
and suggestions to market policy-makers, related infrastructure providers and dealers (financial services providers)
concerning issues and appropriate solutions from the perspective of market participants. (3) To contribute through these
activities to the creation of an appropriate market environment, and the required conditions and infrastructure for the future
development and progress of the capital market as a whole.
5
このたびは、総合研究開発機構と慶応義塾大学が共催するアジア資本市場研究フォーラムに
ご招待いただきましてありがとうございます。また、この協議会の名誉会長に就任させて頂くこ
とを、誠に光栄に存じます。この場をお借りして、慶応義塾大学の吉野直行教授、総合研究開発
機構の小林陽太郎会長ならびに塩谷隆英理事長に感謝の意を述べたいと思います。加えて、この
フォーラムをご紹介下さった総合研究開発機構のシニアフェローであり日本資本市場協議会の事
務局長である犬飼重仁氏に特にお礼を申し上げたいと思います。
アジアは全体として豊富な資金を有しています。アジアの 1 兆 4 千億ドルの外貨準備高総額3
は、発展途上国の外貨準備高合計の 3/4 に相当します。また、アジア地域の外貨準備高総額は全
世界の半分となっております。
チェンマイ宣言の後、タクシン・シナワトラ首相が基調演説で明言されたように、アジア債
券市場およびアジア基金の創設は、域内の資金を域内で運用・活用することで域内の国富を増大
させ、景気を全面回復させるのに大いに役立つものと考えます。
我々の熱意と協調的努力により、この東京フォーラムにおける自主的取り組みが、政策担当
者による統合されたアジア資本市場の創設に貢献することを確信しております。高品質な商品を
市場に供給するためには、政策担当者、金融機関、発行体企業、投資家がうまく協力していくこ
とが大切であります。
我々一同、この市場への参加者であり、皆で重要な役割を果たしましょう。我々に与えられ
た課題は、市場参加者や実務責任者の見解や経験を正確に反映した実践的な提案を行うことにな
りましょう。
2003 年 10 月 18 日
シン・コーポレーション
グループ執行会長・最高経営得責任者
ブンクリー・プラングシリ
3
アジアの外貨準備高:2003 年 12 月で、アジアの外貨準備高は世界全体の 60%を超える 1 兆 8 千百億ドルとなり、
日本の 6735 億ドルを筆頭にアジア諸国の経済発展を証明する形となっている。中国圏(中国・台湾・香港)は合
計がすでに 7283 億ドルを超えている。
アジア 10 ヶ国の外貨準備高内訳:日本 6735 億ドル、 中国 4033 億ドル、 台湾 2066 億ドル、 韓国 1554 億ドル、
香港 1184 億ドル、シンガポール 963 億ドル、マレーシア 449 億ドル、タイ 409 億ドル、インドネシア 358 億ドル、
フィリピン 168 億ドル(合計 16,365 億ドル)
6
玉木氏
以上をもちまして、本日の会議を終了させていただきます。本日は、ご出席いただきまして
ありがとうございました。本フォーラムは、明朝 9 時 15 分より、このビルの 6 階で再開いた
します。明日の討議を楽しみにしております。それでは、失礼いたします。
(第 1 日目終了)
7
第 2 日−2003 年 10 月 19 日(日曜日)
アジア資本市場研究フォーラム
全日セッション
9:00∼19:00
東京都港区三田、慶応義塾大学東館 6 階にて
ページ 司会
10 犬飼
11
問題提起(開会)
09:00
慶応義塾大学
吉野直行教授
09:30-11:00
1. アジアにおける発行企業の視点
ソニー株式会社(日本)
中村隆之
ペトロチャイナ
チャン・シャオフォン
KT(韓国)
パーク・チューン・キョン
シン・グループ(タイ)
ニッチャナン・サンタベスク
質疑応答
11:00-12:00
27
36
56
48
2. 統合されたアジア市場に向けて
バークレイズ・キャピタル(シンガポール)
ドミニク・ドゥワー・フレコー
韓国金融研究院
ジョン・マン・カン
総合研究開発機構・日本資本市場協議会
犬飼重仁
質疑応答
13:15-15:00
3. 国内の規制とインフラ構築
タイ・セキュリティ・ディポジタリー
ケロンケオ・ピアンデュアンタム
アドナン・サンドラ・アンド・ロー(マレーシア)
(法律事務所)
ディーパック・サダスバン
マレーシア証券委員会
ジェスビン・カウル
韓国金融監督院
ヤン・ホン・ビョン
金融庁(日本)
山崎晃義
質疑応答
15:15-16:40
19 犬飼
20
4. 投資家と格付けの視点
株式会社格付投資情報センター(日本)
原田靖博
フィッチ・レーティングス(日本)
8
56 犬飼
57
62
67
72 吉野
78 玉木
79
89
96
111
115
122
127 玉木
128
141
明石陽子
日本生命保険相互会社(日本)
徳島勝幸
質疑応答
16:50-18:30
148
156
5. 金融機関の視点
大和証券SMBC株式会社(日本)
服部博則
東京三菱銀行(日本)
勝藤史郎
JPモルガン証券会社 資本市場部
藤井 巌
日本アジア証券株式会社(香港・シンガポール・日本)
松田雄輔
バークレイズ・キャピタル(タイ)
クニガー・トライヤンクンシリ
質疑応答
181
185
192
197
203
205 玉木
206
18:30-19:00 6. 最終セッション
吉野直行教授による結びの言葉
19:00
163 玉木
164
閉会
211
発言者リスト
開催機関スタッフ
まとめの提言HP紹介など
212
213
214
(注記)敬称略
補足論文
1
2
「アジア資本市場研究フォーラム」開催の背景
時子山
アジア資本市場関連年表
215
真紀
218
中国の金融資本市場の概要
220
吉村 俊生
3
4
日本を始めとするアジア債券市場関連法制の課題
神田
225
秀樹
日本市場における証券決済(クリアリング・セトルメン
ト)制度の改革と証券保管振替機構の最近の進展
竹内 克伸
9
228
問題提起(開会)
民主体の初めてのアジア債券市場研究フォーラム
統合されたアジア資本市場構築へのキックオフ!
10
慶應義塾大学−吉野教授
司会:おはようございます。このたびは、東京フォーラムにご参加いただき、ありがとうござい
ます。まず始めに、吉野教授に 15 分間のスピーチをしていただきます。吉野教授は、最近アジア
諸国をご訪問され、アジアの資本市場についての最新情報をお持ちです。それでは吉野教授、お
願いします。
慶應義塾大学
吉野直行教授:ありがとうございます。日曜日の早朝にもかかわらず、皆様にお
越しいただきましたことを感謝いたします。このセミナーは夜 7 時頃終了する予定ですので、皆
様は一日の大半をここで過されることになるかと存じます。
最初に、
「アジアの債券市場−成功に向けての具体的手順」と記されている一ページの資料をお配
りいたします。この資料の論点に基づいて、アジアの債券市場や最近の動向、また解決しなけれ
ばならない多くの問題についてお話しさせていただきます。
アジア債券市場−成功に向けての具体的手順
吉野直行(慶応義塾大学)
アジア債券市場の育成が必要な理由
(1) アジア諸国、1997 年に通貨危機に陥る
→ 原因はいわゆるダブルミスマッチ
すなわち (i) 通貨のミスマッチ(米国ドル→ バート、 ルピー、 ウォン等)
(ii) 満期までの期間のミスマッチ(短期 → 長期)
(2) アジア諸国は高い貯蓄率をもつ(一部の国では 40%の貯蓄率)
(3) アジア地域の貯蓄を域内で投資(貯蓄 → 投資)
(4) 中小企業(SMEs)の資産担保証券(ABS4)を利用した資金調達.
通貨危機の再発防止に向けて
(1) チェンマイ計画(二国間の通貨スワップ)
(2) 短期資本流出の監視
(3) 政策協議
未解決の問題
(1) 政治主導− 5 年前に比べると大幅に改善
(2) ヘッジ手段の不足(通貨交換)
(3) 未発達なアジア通貨のデリバティブ市場
(4) ベンチマーク
4
Asset Backed Securities
11
(5) 流動性、(買い持ち)(流通市場の欠如) → 債券の満期までの期間が限定
(6) 決済(DVD5)
(7) 信用保証(ADB6, JBIC7 等)
(8) 法制度
(9) 格付け制度
(10) 情報開示
(11) 国債、 政府機関債、 大企業、 SMEs8、 ABS
信用と利便性の向上
(1) 国内債券市場
(2) 市場インフラの改善
第一に、なぜ我々はアジアの債券市場を育成しなければいけないのでしょうか?
1 点目として、1997 年、アジアが二つの原因により通貨危機に陥ったことが挙げられます。一つ
目は通貨のミスマッチ、二つ目は満期までの期間のミスマッチです。通貨のミスマッチとは、ア
ジアの多額の貯蓄が米国やヨーロッパといった海外に投資され、その資金が再度アジアに環流し
てきた時に生じる、例えば米ドルとタイバーツ、インドネシアルピー、韓国ウォンやその他域内
通貨との間に発生する通貨の不一致のことです。二つ目は、期間のミスマッチです。これは、短
期で調達された資金が長期の貸し出しへと転換されることによって起こる、短期と長期の不一致
ということです。この二つのミスマッチが、アジアが危機に陥った大きな理由の一つです。
2 点目として、アジアはその高い貯蓄率で有名です。いくつかの国は 40%以上の貯蓄率があり、
フィリピンを除くアジア諸国の大半は、非常に高い貯蓄率を持っております。従って、これらの
国内での貯蓄が国内で循環されれば、国内投資はこの貯蓄でまかなえます。
3 点目として、アジアにおいては、銀行市場だけではなく、債券市場や株式市場といった資本市場
も必要です。しかし、株式市場は変動が大きく、長期的に安定した資金提供を行うためには、債
券市場だけでなく銀行市場が必要となります。
4 点目は、中小企業の資産担保証券による資金調達です。これは債券市場が育成された後の最初の
段階です。アジアには中小企業が多いという特徴がありますが、中小企業は、どのようにして資
金調達しているのでしょうか?日本を含む多くの国の中小企業は、銀行借入に依存しています。
しかし、ひとたび銀行が不良債権問題に直面すれば、中小企業への安定した資金提供が困難にな
5
Delivery versus Payment(証券と資金の同時決済)
Asian Development Bank(アジア開発銀行)
7
Japan Bank for International Cooperation(国際協力銀行)
8
small and medium enterprise(中小企業)
6
12
ります。従って、第二段階としてアジア債券市場は、中小企業や住宅金融等に貸し付けを行うた
めの資産担保証券市場を育成しなければなりません。
次は、通貨危機の再発防止策についてです。今まで主に 3 つの改革がありましたが、その一つ目
はチェンマイイニシアティブであり、これには二国間のスワップ取極が含まれます。二つ目は短
期資本流出の監視であり、三つ目は政策協議です。これら 3 つは既に実行されています。
次の 11 点は、今後解決しなければならないと私が考えている問題です。
1 点目は、政治主導の問題です。これは既に改革が進みつつあると思われますが、昨日と一昨日、
バンコクで行われたアジア債券市場についての会議に出席した際に、中央銀行や財務省等からの
政治的主導力が、いまだ非常に強固であると感じました。
2 点目の問題は、ヘッジ手段が不足していることです。本日ここには、多くの市場関係者や投資家
の方々がご出席されているので、アジア地域におけるヘッジ手段、特に、現地通貨から他のアジ
アの通貨に交換する際のヘッジ手段の開発法について教えていただきたいと思っております。
上記と関連する 3 点目の問題は、アジア地域ではデリバティブ市場があまり発達していないこと。
4 点目は、債券市場を創設するにあたってのベンチマークの必要性についてです。確固としたベン
チマークとはなんでしょうか?
5 点目の問題は、上記とはまた別の課題である流動性、即ち債券市場の流動性の欠如についてです。
日本の場合、政府が国債の大量発行を開始した当初は、満期の年限が多様な債券を発行しました
が、その後 5 年、10 年、15 年といった特定の満期年限の債券を重点的に発行しました。特定の年
限を満期とする債権を増やすことにより、債権の流動性を高めようとしたのです。他の国におい
ても、おそらくこういった調整が必要になってくるものと思われます。
6 点目の問題は、決済システム、例えば資金と証券の同時決裁(DVP)等についてです。
7 点目の問題は、信用保証です。アジア債券投資は、最初のうちは非常にリスクが高いと考えられ
るため、何らかの信用保証が必要だと思われます。しかし、誰もが信用保証を要求して、過度の
信用保証が行われるようになるとモラルハザード(倫理の欠如)の問題が生じます。私がアジア
の債券市場の話をするたびに、多くの日本の投資家から、
「信用保証が付いたものなら、絶対買い
ます。」と言われますが、これはもちろん、モラルハザードを招くことになります。
8 点目の問題は法制度です。国によって法制度は異なります。とりわけ債券市場においては、各国
13
の法制度をどのように調整したらよいのでしょうか?
9 点目の問題は格付け制度です。本日格付け機関から、いくつかのプレゼンテーションが予定され
ております。時折、アジアの企業はヨーロッパ企業と異なった行動をとると言われますが、格付
け制度においては、同じ基準が適応されているように見えます。では、アジアにおける格付けと
他の地域における格付けは同じでしょうか?
10 点目の問題は、情報開示についてです。その方法についても勿論ですが、特にアジア全域にお
ける情報を開示する必要があります。
11 点目の問題について申し上げます。アジアの債券発行を活性化する手段として、初期段階では
国債、次いで政府機関債が用いられると思われますが、この 2 つは比較的単純です。次の段階と
して検討しなければならないのは、大企業、中小企業、資産担保証券についてですが、この問題
に関しては、多少時間を要します。
最後の問題は、国内債券市場を育成する方法についてです。多くのアジア諸国では、国内債券市
場が充分育っていないため、まず国内債券市場を育成し、次いでこれらの国内債券市場とアジア
地域の他の債券市場との統合に進む必要があります。こうした市場インフラをいかに整備してい
ったら良いのでしょうか?
以上が個人的見地からの本日の議論のポイントです。アジア債券市場の育成に関して、多くの方々
からのより建設的なご意見をお待ちしております。
14
図表 P.1
ご参考までに、アジア諸国に関するデータをお見せいたします。これは、アジア諸国の成長率で
す。ご覧のとおり、1997 年は極端に落ち込んでいますが、その後 U 字型回復を遂げていることが
わかります。最近、米国経済の成長鈍化により多少成長が鈍化しておりますが、大部分の国々は
アジア危機の後順調に回復しております。個々の数値については省略させていただき、次は、
「為
替レート」に移ります。
15
図表 P.6
この表は、アジア諸国の為替相場を現しています。先ほど申し上げた 1997 年の第 3 四半期を 100
としています。1997 年以前は、大部分のアジア諸国の通貨はドルにほぼ連動(ドル・ペッグ制)
していたため、投機家によるアジア市場への投資が容易であったため、通貨危機を招きました。
しかし、危機の後、中国と香港は固定相場制、シンガポールはバスケット通貨制度、他の国々は
変動相場制を採用するなど、大半のアジア諸国は異なる為替相場制を導入しました。また、ドル・
ペッグ制のような制度に回帰した国もございました。多くの国々は、それまでの為替相場制度か
ら、新しい通貨制度へとシフトいたしました。
16
図表 P.8
この表は、アジア諸国の貯蓄率についてです。
「S」の列は、GDP に対する貯蓄の割合であり、
「I」
の列は GDP に対する国内投資の割合です。2000 年の S の列を見ると、マレーシアのように 47 パ
ーセントの貯蓄率をもつ国もございます。
この統計によれば、真偽はともかくとして、マレーシアは 47 パーセント、シンガポールは 50 パ
ーセント、また、中国は 40 パーセントの貯蓄率となっております。
最下段は世界平均であり、僅か 23 パーセントしかございません。
結論として、アジアの貯蓄率は世界平均をはるかに超えていることがおわかりいただけます。従
って、この貯蓄が国内投資に活用されれば、十分な量の通貨が市場に供給されることになります。
17
これが、アジアにおいて債券市場が必要な理由です。
それでは、ここで私の問題提起を終わりにさせていただきたいと思います。
18
1.
アジアにおける発行企業体の視点
19
ソニー株式会社
司会:吉野教授、どうもありがとうございました。吉野教授には、本日の討論会の概要について
大変わかりやすくご説明していただきました。
次は、ソニー株式会社の中村氏より「アジアにおける発行企業の視点」についてのお話です。 中
村隆之氏は、財務部のインターナショナル・トレジャリー・プランニングの統括課長でいらっし
ゃいます。中村さん、どうぞ発表者のお席までおいで下さい。
ソニー株式会社財務部、インターナショナル・トレジャリー・プランニング
統括課長、中村隆
之:皆様おはようございます。私はソニー株式会社の中村隆之と申します。私はグローバル・ト
レジャリー・プランニングを担当しております。
私がいただいたお時間は、15 分間しかございませんので、この時間内で簡単に 2 点、ご説明させ
ていただきます。
一つ目は、ソニーの国際的トレジャリー・オペレーションの概略と、本社とオペレーション・セ
ンターの関係についてです。
二つ目に、残りの時間で、アジアのトレジャリー・オペレーションに関しての見解および経験に
ついてお話させていただきます。
まず始めに、ソニーの財務とトレジャリー・オペレーションの組織についてご説明させていただ
きます。
ソニーグループ
トレジャリー組織
1. ソニー株式会社
財務戦略部
2. 地域金融子会社(RFCs:リージョナル・フィナンシャル・センター)
•
ソニー・グローバル・トレジャリー・サービシーズ(ロンドン)
•
ソニー・キャピタル・コーポレーション(マンハッタン)
•
マレーシア、タイ等に設立されている他の地域金融子会社
(GTS)
現在、2 つの組織・事業体がソニーグループのトレジャリー・オペレーションとトレジャリー・プ
ランニングの業務を分担しています。一つは、ソニーグループ全体の親会社であるソニー株式会
社です。
20
私は財務部に所属しておりますが、この部門とは別に、当社にはいくつかの地域金融子会社がご
ざいます。その中で最大なのは、ロンドンのソニー・グローバル・トレジャリー・サービシーズ
株式公開会社(GTS)ですが、これ以外にも地域特有の問題に対応するために、マンハッタンと、
小規模でありますがマレーシアとタイに、地域金融子会社が設立されております。この地域特有
といった問題については、後ほど説明いたします。
ソニー株式会社と地域金融子会社の役割分担は下記のとおりです。
ソニー株式会社は政策決定や金融市場リスク・信用リスクなどの財務リスクを管理することによ
り統治(ガバナンス)を行います。また、資本構成や全体的な資金調達計画といったグループ内
の重要な財務戦略を決定します。そして、それに関連する実際の業務の遂行は GTS 等の地域金融
子会社が担当します。
ソニー株式会社は、親会社としてこのような地域金融子会社を統治する任務を持っています。
一方、GTS 等の地域金融子会社には基本的に 3 つの機能ないし役割があります。
ソニーのトレジャリー業務における GTS の機能
1. ソニー株式会社、財務部の機能
•
財務(市場・信用)リスク管理
•
財務 / 資金調達計画
•
GTS 等の地域金融子会社の統治
財務政策決定 / 統治
2. ソニー・グローバル・トレジャリー・サービシーズ株式公開会社はソニーグループのトレジャ
リー・オペレーションの中核として設立.
•
GTS は 2001 年業務を開始し、ヨーロッパ、日本、汎アジア、東アジア(韓国、台湾、香
港)、および米国の一部を担当
3. GTS の主要な役割
•
資金ニーズに関する情報収集
•
一般的な使途のための資金調達
まず一番目の役割は、グループ内為替1ヘッジ等のトレジャリー・オペレーションの分野において、
関係会社をうまく統治することです。
二番目の役割は、例えば、余剰資金や銀行支払手数料等を減らすといった、一層効率的なトレジ
ャリー・オペレーションが行えるよう監督・指導することです。
1
為替とは、Foreign Exchange(外国為替)の省略形
21
三番目の GTS の役割は、ニューヨークにあるソニー・ミュージック・エンタテイメント・インタ
ーナショナルやロサンゼルスにあるソニー・ピクチャーズ・エンタテイメント等の世界中の関係
会社が抱える財務問題を効率的に支援することです。ソニーの事業ポートフォリオは多岐にわた
っており、セグメントごとに財務問題はいろいろです。従って、この役割は非常に重要なものと
言えます。
以前は、世界中に数多く地域金融子会社が存在しており、当時ソニーの国際的なトレジャリー業
務は殆どの場合、地域ごとに分離された形で行われていました。
例を挙げますと、トレジャリー業務を行っていたのは、日本ではソニー株式会社であり、ヨーロ
ッパでは、以前ロンドンにあった地域金融子会社でした。また、アジアでは、シンガポールの地
域金融子会社が行い、米国では、現在も存続中のソニー・キャピタル・コーポレーションが米国
専用の地域金融子会社として機能しておりました。
しかし、2001 年以後、当社は、トレジャリー・オペレーション分野の組織改革を行い、ロンドン
に新たに設立した GTS に関係業務を集中化することにしました。実際、業務の約 60 パーセント
が既に集中管理されています。
事実上、ソニーグループ全てのグループ内・会社間の預金と貸付は、GTS で集中管理されていま
す。顧客からの代金回収業務も同様です。また、ソニーグループが保有する外貨部分は、全て GTS
を通して相殺されます。基本的に GTS が社外の銀行に対する唯一の取引相手となります。残念な
がら一部のアジア諸国ではまだ実現されていませんが、現在 GTS を単一の中心とする集中管理を
行っています。
GTS の担当地域は既に、ロンドン地区から、日本、韓国、台湾および香港を包括する東京支店ま
で拡大しました。また最近、シンガポール支店は湾岸諸国やインド、東南アジアを含む、南アフ
リカからニュージーランドまでの広範囲に及ぶ地域の担当を開始しました。米国担当の金融子会
社としてソニー・キャピタル・コーポレーションが設立されておりますが、ラテンアメリカとカ
ナダの業務については、担当する地域金融子会社としてアメリカン・ファイナンス・センターを
ロンドンに移転しました。
この GTS の地域ネットワークを利用することにより、GTS は関係会社の資金需要を含むソニーグ
ループ全体の資金ニーズに関する情報収集や、特に運転資金の充当のためのグループの資金調達
センターとしての役割を担います。
22
下記は、GTS が行うサービスの概要です。
ソニーグループに対する GTS のトレジャリー・サービス−7 つの柱
1.
為替ヘッジサービス
2.
タームローン/ 預金
3.
自動キャッシュレス決済サービス
4.
当座取引サービス(RAS)
5.
(特定の当座勘定への)自動資金吸い上げサービス
6.
代理支払いサービス
7.
グローバル決済に関するプラットフォーム
1 つ目は、為替ヘッジサービスです。2 つ目は、ソニー内部でのグループ内・会社間融資や預金で
あり、3 つ目は自動現金決済サービスです。4 つ目は、当座取引サービス(RAS)、5 つ目は、自動
資金吸い上げサービス2です。これは、当社の販売会社や製造会社などの関係会社が使用する口座
からGTSの中核口座への資金回収サービスです。6 つめは、GTSが代理人となって関係会社から第
三者へ支払いを行う代理支払3 サービスです。
自動資金吸い上げサービスについて簡単に触れさせていただきます。これは、銀行が提供するサ
ービスで、当社の関係会社の口座から、GTS の親口座へと資金移動を行うことです。これに加え
て、当社は独自のシステムを開発し、GTS の親口座の中に子会社別のサブ口座を開設・管理でき
るようにしています。
では、ここで中央銀行と商業銀行との関係の例えを使って上記をご説明させていただきます。中
央銀行に口座をもつ商業銀行にある口座は、中央銀行内にある商業銀行の口座のサブ口座であり、
また、こうした商業銀行は中央銀行の顧客であると考えられます。同様に、GTS は銀行に自社の
口座と内部に顧客としての関係会社のサブ口座を持つわけです。
代理支払いサービスについて簡潔に述べさせていただきます。まず支払情報は、データ送信され、
GTS に集中します。次に、GTS は銀行の現金管理システムを通じて実際に支払を行い、同時に、
前述した GTS 独自のシステムを利用し、各関係会社のサブ口座の借方に記入します。
こうした社内システムが、ソニー内部でのグループ内・会社間貸付において利用されています。
また、当社はグループ内取引を行う自動資金決済サービスを開始いたしました。
2
3
ひとつの銀行口座への資金の吸い上げ。(Cash Concentrationとも言う)
代理支払い(Proxy Payment)サービス
23
例を挙げると、これまでは、商品が当社の工場から東京のソニー株式会社へ出荷され、その後に
地域製造センターや販売会社を経由して、最終的に顧客に届けられるような仲介取引も全て、実
際に現金決済されてきました。
現在、当社は社内システムとオペレーションを変更し、それまでの銀行を使った決済を止めて、
社内のキャッシュレスシステムに置き換えました。グループ内取引は、金融機関の資金移動をと
もなうことなく、GTS システム上のサブ口座の貸方・借方に記入することで決済が可能になりま
した。すなわち、グループ外第三者との資金決済の場合だけに金融機関を使った資金移動を行っ
ております。このシステムは、現在ソニーグループの約 60 パーセントの取引に利用されており、
経費削減という観点からは、GTS の一番優れた利点であると考えられます。
最後に、アジアにおけるオペレーションについてご説明させていただきます。
アジアにおけるオペレーションの経験
♦ アジアの通貨危機
– 為替エクスポージャー
• シンガポール等にある地域金融子会社4 で既にヘッジ済
– 外貨換算調整勘定5
• 上記の地域金融子会社の利益剰余金により問題が発生
2つの点について、お話させていただきます。
一点目は、アジアにおけるオペレーションの経験についてです。アジアの通貨危機の際、為替エ
クスポージャーのリスクに関しては、当社は既にシンガポールの地域金融子会社でヘッジを行っ
ていたため、かなりうまく対処することができました。
しかし実際には、外貨換算調整勘定の問題が一つ残っていました。アジア地区の関連会社に利益
剰余金としていくらかの金額を残していたためです。
これは、依然としてソニー株式会社の貸借対照表上に計上されていますが、当面のところ、損益
計算には何の影響も与えません。
アジア市場について
♦ 短期金融・外国為替市場の規模
–
特に、オフショア市場6 が脆弱
4
Regional Finance Centers
外貨換算調整勘定。連結B/S上、資産・負債ではなく、資産項目として計上される。
6
オフショア市場。国内金融市場とは切り離した形で、非居住者からの資金調達及び非居住者に対する資金運用を、
制度上の制約の少ない自由な取引として認める市場。
5
24
♦ 資本市場の育成
–
コマーシャル・ペーパー(CP)/ ミディアムタームノート(MTN)
♦ 規制
–
全世界における効率的な業務を遂行する妨げ
–
とりわけ国際的企業は、資本市場の規制の柔軟な運用を切実に希望
最後に、アジア市場に関するいくつかの見解についてお話させていただきます。
まずは、東南アジア地域の短期金融市場と為替ヘッジ市場についてです。
当社の実際の取引規模と比較した場合、アジア通貨のみならず中南米の通貨において、東南アジ
ア地域の市場規模という問題がかつて何度か浮上しました。また、政府機関の政策変更のために、
ヘッジ業務がより困難になるケースもありました。
また、資本市場についても同様に、この地域の市場規模という問題があります。なぜなら、当社
が債券市場で調達する場合、コマーシャル・ペーパーを例にとると、何億ドルあるいは何十億ド
ルの規模に上るからです。このように、当社の業務に関しては、吉野教授が先ほど述べられた市
場規模や流動性の問題が依然として残っていると言えます。
最後に、規制についてですが、これは世界的な効率を追求する妨げとなっています。なぜなら、
GTS が業務集中を行っているのにもかかわらず、東南アジアの一部の諸国
においては、別に地域金融子会社を設立する必要があるからです。
国際的企業の観点から申し上げますと、これまで資本市場規制に関して政府当局といろいろな協
同作業も行われてきておりますが、今後、資本規制の柔軟な運用がとられることを切に希望いた
します。
以上で、アジア市場についての私の説明を終了させていただきます。
どうもありがとうございました。
25
26
中国石油天然气股份有限公司
司会:中村さん、どうもありがとうございました。
次は、中国石油天然气股份有限公司の張少峰さんです。彼は、財務部債務処副処長をなさってお
り、北京からお越しいただきました。どうぞ、お願いいたします。
中国石油天然气股份有限公司、財務部債務処副処長、張少峰:皆様、こんにちは。本日はお目に
かかれてとても嬉しく思っております。また、東京を訪問することができ、大変喜んでおります。
本日は、中国の社債市場についてお話させていただきます。まず冒頭でご紹介がありました中国
石油天然气股份有限公司について簡単にご紹介させていただいた後、中国の社債市場、そして最
後に、統合されたアジア債券市場に対する私の意見を述べさせていただきます。
中国石油天然气股份有限公司
•
中国石油天然ガス総公司(CNPC)から 1999 年 11 月に再建
•
2000 年 4 月に、香港証券取引所(0857)およびニューヨーク証券取引所(PTR)に上場
•
過去 3 年半において、最も利益の多いアジアの上場企業の一つ
•
中国の石油および石油化学業界の大手(www.petrochina.com.cn)
まず始めに、当社は 1999 年 11 月に中国石油天然ガス総公司から再建されました。2000 年 4 月に
は、香港証券取引所(0857)とニューヨーク証券取引所(PTR)に上場いたしました。当社は、
過去 3 年半において、最も利益の多いアジア上場企業の一つであり、今期末の純利益はおよそ 45
億米ドルに達します。事実上、当社は、石油および石油化学業界の大手であります。当社のホー
ムページをご覧いただくと、詳細がおわかりになります。
では、中国における社債市場について、少しご説明させていただきます。
27
歴史
• 1984 年− 中国初の社債発行
• 1987 年− 中国国務院により社債管理法令7 が公布
• 1989 年− 中央人民銀行8 と中国発展改革委員会が9 社債発行に関して、発行金額の審査およ
び認可制度を発表
• 1993 年− 社債管理法令と会社法制10を発表
• 1999 年− 中国発展改革委員会が中国の社債発行について規制
最初に中国における社債の歴史、発行金額と利回り曲線、そしていくつかの政治的状況とマーケ
ティング状況についてご説明させていただきます。また、発行市場、流通市場、格付け機関につ
いて少し触れた後、中国の社債の投資家や債券市場の最新情報についてもお話しさせていただき
ます。
1984 年に、中国初の社債が発行されました。これにより、中国企業が初めて社債という形で国内
市場に参入しました。1987 年には中国国務院11 が社債管理法令を公布し、規制当局もまた中国人
民銀行や中国発展改革委員会と同様に、社債に関する多くの規則を発表しました。
それが、中国特有の発行金額の審査および認可制度です。
1993 年に社債市場法令12 および会社法制が発表され、1999 年には、中国発展改革委員会が中国の
社債発行について規制しました。
実際、これら政策の状況については、日々刻々と変化しております。後ほど最近の政策について
いくつかご説明させていただきます。
7
社債管理法令 Corporate Bond Management Statute
中国人民銀行 Central Bank
9
中国発展改革委員会 State Development and Planning committee
10
会社法制 Corporate Law
11
中国国務院 the State Department
12
社債市場法制 the corporate bond market statute
8
28
中国債券市場における種類別割合(2003 年 8 月現在)
Financial
Bonds 35.24%
Corporate
Bonds 3.86%
National Bonds
60.90%
中国債券市場では、国債や金融債といった債券市場の他の商品と比べ、社債の割合は僅か 3.86 パ
ーセントしかございません。
次は、債券の発行額についてです。こちらの棒グラフ(下記のチャート)をご覧いただくと、2000
年に国債の発行額が合計 6000 億元以上になっているのに対し、社債の発行金額は非常に少ないこ
とがおわかりいただけると思います。
29
中国における債券発行額(2003 年 8 月現在)
7000
6000
5000
4000
National Bond
Financial Bond
Corporate Bond
3000
2000
1000
19
90
19
91
19
92
19
93
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
2
08 002
.2
00
3
0
では、政策の状況についていくつか説明させていただきます。
政策の状況
・審査および認可制度
−中国発展改革委員会、中国人民銀行(中央銀行)および中国証券監視管理委員会(CSRC13)
に申請
・資金使途
−主に固定資産投資
・利率決定
−同時期における銀行預金利率の 140% を超えてはならない−中国人民銀行が審査・認可
・取引所取引14
−取引所に申請し、CSRC の承認を受ける 現在 22 本の社債が取引されている
社債の発行には、審査および認可制度が適用されます。まず、中国発展改革委員会15 に発行申請
13
中国証券監督管理委員会(china securities regulatory commission)(中国国務院直下の事業部門)
取引所(exchange)取引。中国の債券流通市場取引は、国債、社債ともに銀行間取引(金融機関をメンバーとす
る全国銀行間債券市場)と取引所取引(個人と非金融機関)に分断されている。取引所とは具体的には上海証券取
引所とシンセン証券取引所。
15
中国国家発展和(と)改革委員会(the Ministry of State Development)
14
30
を行い通知します。また、中央銀行である中国人民銀行と中国証券監視管理委員会が、社債発行
の規制に当り、審査を行い、認可を与えます。そのため、発行体の大半は国有の大企業です。こ
うして調達された資金は主に油田、精油所、石油化学製品、鉄道、飛行機等の固定資産に充当さ
れます。
債券の利率16 は、中国人民銀行によって決定されます。利率は同時期の銀行預金利率の 140%を
超えてはならない、という規定があります。このように、中国人民銀行が中国の利率を統制して
います。また、取引所取引を行う場合、中国証券監視管理委員会の承認が必要です。
現在、上海証券取引所と深圳証券取引所には 22 本の社債が取引されています。
市場の状況
・有利
−社債市場がより一層注目される
−経営者は、今後社債の育成を奨励
−二つの市場の統合17(インターバンク市場と為替市場)
−今後、中国人民銀行による厳格な利率の規制が緩和される
・不利
−審査および認可制度が発行額を制限
−換金性が少ないことが魅力低下を導く
−中国では信託制度がない
社債市場の状況については、ますます多くの人々や政府機関、企業が注目しております。
経営者は、社債の育成を奨励しております。
インターバンク市場と為替市場が統合された場合、社債市場の育成が改善されると思われます。
近い将来、中国は、世界貿易機構への加入により外国投資家に金融市場を開放する予定です。
そのため、中央人民銀行は、利率に関する厳格な規制を緩和する予定です。しかし、現状におい
ては依然として非常に厳しく管理されています。
一方、市場の現状については、今もなお多くの不利な領域が存在します。第一に、審査および認
可制度が未だに実施されているため、現在、社債は法律の規制を受け、流動性が低く、投資家に
とっての魅力が薄いものになっています。中国の社債市場の育成を促進させるためには、極めて
大規模で、効率的な信託制度が必要です。
16
クーポンなど債券の発行条件(=金利率:bond rate)
中国では同じ商品でもそれぞれの取引市場毎に規制機関と規制内容が異なり、流通市場分断の弊害が存在する
ためその統合が望まれている。ここでは、発言者は証券取引所(the Exchange market)への社債取引の統合を想定
している。
17
31
発行市場
•
発行金額は、徐々に増加しているが、到底十分とは言えない
8 億人民元
一本の社債の金額は最大で
18
である
•
発行体は、エネルギー、運輸、電力、そして通信業界を中心とした国有の大企業である
•
商品
−固定利付債、変動利付債
−短期債、中期債、長期債
−ゼロ・クーポン債、利付債
中国における社債発行金額は徐々に増加しておりますが、先ほどご覧いただきましたスライドに
ありますように、国債や金融債と比較するとかなり少なく、到底十分であるとは言えません。
発行体は、依然として国有の大企業です。民間企業の生産能力は極めて低いので、社債の適債基
準を満たしません。また発行体は、エネルギー、運輸、電力や通信業界を中心とした企業に限ら
れており、これら全ての業界が殆ど国によって管理されていることが最大の問題です。
また、中国には他市場におけると同様、多くの商品がございます。例えば、固定利付債、変動利
付債、短期・中期・長期債、ゼロ・クーポン債や利付債などです。
流通市場
・ 取引所取引
・ 取引所外取引(相対取引・交渉)
流通市場に関しては、先ほどお話しさせていただきましたように、22 本の社債が取引所内で実際
に取引されております。
また、投資家間の交渉による相対取引も、融通性がないとはいえ、今も存在いたします。
格付け機関
・ 社債発行には認定された機関による格付けが必要
・ 政府認定の国内格付け機関は 9 社
・ 外資系格付け機関は中国市場において独自で業務ができない
18
人民元(RMB)
1 元=約 13 円。
32
社債を発行する際は、少なくとも A もしくは、A+相当の格付け取得が必要になります。社債に関
しては、7 年から 10 年程前に 9 社が政府認定の格付け機関となりました。この 9 社以外は認定さ
れていないため、外資系格付け機関は長い間、国外で待機を余儀なくされていました。しかし現
在では、北京や他の地域においてオフィスをもつようになり、中国企業と頻繁に連絡をとるよう
になりました。中国石油天然气股份有限公司のように国外で格付けを得ようとする場合、国内格
付け機関との間で中国内に合弁会社を設立しなければなりません。
投資家
・ 保険会社
・ 投資信託
・ 大企業、金融会社
・ 信用組合
・ 個人投資家
中国における社債の投資家の大半は、保険会社、投資信託、大企業や金融会社です。中国社債市
場で投資を行う信用組合も数多く存在します。実際、社債は厳しい規制を受けるため、国債と同
等の信用度を持ちながら、利回りは多少高く設定されています。従って、多くの投資家が社債へ
の投資を望んでいますが、発行金額は極めて少ないのです。これが中国社債市場の現状です。
一方で、個人投資家も多く存在します。社債の初期段階においては、多数の個人投資家が投資を
行っていました。しかし、最近では機関投資家がこの市場にどんどん積極的に参入し、社債購入
に有利な立場にあるため、個人投資家が高い格付けの社債を購入するのが難しくなってきました。
最新情報
・ 社債発行金額が著しく増加している
・ 社債発行に積極的な企業が増加している
・ 流通市場もますます活性化している
・ 保険会社がより多くの資金を社債に投資
・ 電子登録と信託制度
・ 国内市場で初の外貨建債券の発行
・ 証券会社が社債の発行体になる
私が感じていることは、中国の社債市場はこの 2、3 年間で急速に変化してきたということです。
第一に、発行金額の著しい増加です。
これまでの最高は 80 億人民元という極めて大型案件である、
2002 年のチャイナ・テレコム債です。
現在、当社を含むますます多くの企業が債券の発行に注目しています。来週には、当社は 15 億人
33
民元の社債の発行を行う予定です。これは私の担当ですが、うまくいくと考えています。また、
認可申請をする人が一層増加しています。中国では、間接金融が主流ですが、社債発行の方が銀
行借り入れよりもコストが安いと思われます。
一方、流通市場も次第に活発になってきています。
また、保険会社もより多くの資金を社債に向けています。現在は、全体の約 20 パーセント程度を
占め、以前よりもかなり多くなっています。
電子登録制度と、信託制度は以前よりかなり改善されてきております。
先月、中国開発銀行が初の外貨建社債を国内市場で発行いたしました。
現在では、証券会社の社債発行が認可されるようになりました。
中国社債市場についての意見
・ 中国企業は直接金融による国内債券市場での調達の増大を必要としている
・ 政府は国内社債市場に関する厳格な規制を緩和する必要がある
・ より多くの仲介業者の必要性(発行体、証券会社、独立格付け機関)
中国社債市場についての私の意見は、中国企業は今後一層、国内債券市場での直接金融手段によ
る調達を必要としているということです。
政府は国内社債市場における厳格な規制を緩和しなければなりません。また、中国市場を改善さ
せるためには、より多くの仲介業者、証券会社、独立格付け機関および発行体が必要です。
統合されたアジア市場への長い道のり
− アジア諸国は追随国である
− 米国やヨーロッパ資本市場の強い影響
− 統一されたアジア経済圏の必要性
− 歴史と文化
私の意見としましては、債券市場ではアジア諸国は後進国にあたるので、今後アジア市場統合の
ためには、まだまだ長い道のりを歩まなければならないでしょう。我々は西欧資本市場の追随者
であり、米国やヨーロッパの資本市場の影響を強く受けつつも、統合されたアジア経済界をつく
る必要があります。
正直なところ、アジア人の歴史や文化を考慮すれば、アジア人同士が信頼関係を構築するのは多
少困難であると言えます。統合された債券市場をうまく機能させるのは、非常に困難であります
が、今日の会議はその目的達成のためには、とても有益であると思います。
どうもありがとうございました。
34
35
KT(韓国)
司会:張さん、どうもありがとうございました。張さんには大変洗練されたプレゼンテーション
をしていただき、私たちは、中国市場について理解を深めることが出来ました。
次は KT の朴椿庚さんです。KT は略称ではなく、コリアン・テレコム社という会社の正式名称で
す。朴さんは財務管理室、資金チームの課長でいらっしゃいます。
KT、財務管理室、資金チーム課長、朴椿庚:皆様、おはようございます。このたびは、慶応大学
と総合研究開発機構のご協力により、アジア債券市場についてお話しさせていただく機会を頂き
ましたことを、感謝いたします。
それでは、KT の概要と資金調達の方針についてお話した後、発行体の視点に立ち、アジア債券市
場について提案させていただきます。
KTの概要−市場における圧倒的な地位
KT は全ての主要事業分野において確固たる地位を確立し、健全な財務内容を支える
100%
(2002年12月現在)
Market Share %
80%
60%
95.7%
84.2%
40%
70.3%
66.9%
48.5%
20%
31.6%
ー
)
ブ
ロ
帯
(K
FT
バ
ド
長
外
海
携
ド
ン
離
距
線
用
専
長
内
国
ロ
ー
距
カ
離
ル
0%
まず、当社の概要についてご説明させていただきます。 このスライドにありますように、当社は
全事業分野において常に揺るぎない地位を確立しており、今後も引き続き努力していく次第でご
36
ざいます。当社が核となる事業分野においてトップの座を維持できるのは、当社の優れた代理店
と健全な経営によるところであります。当社の有線、無線およびインターネット事業における確
固たる地位は、関連サービスの販売を誘引するだけではありません。一方で、ユーザあたりの電
気通信事業収入を増加させることは、今後市場におけるリーダーとしての当社の魅力と有利な立
場を揺るがしかねません。
韓国は、インターネット市場において、世界一高成長を遂げた国の一つであり、月間利用時間は
世界最高の 16.3 時間に達しています。当社は、高品質な伝送を行うためにデジタル・ネットワー
クを駆使し、オンライン株式取引、オンラインゲームやインターネット放送などの付加価値サー
ビスを提供することにより利益率を増加させてきました。
競争が厳しいブロードバンド接続市場での首位の座の獲得は、優れた代理店を有していることに
加え、定評のある高品質なサービスや経営能力によるものです。当社が 1999 年に初めてインター
ネット接続市場に参入した際は、ハナロ通信の 51 パーセント、スルネットの 44.7 パーセントを下
回る 4.2 パーセントのシェアしか持てませんでした。僅か一年で当社はハナロ通信を追い越し、業
界第一位の座を占めました。業界の熾烈な競争にもかかわらず、市場シェアについては過去数年
間にわたりトップの座を維持しております。加入者ベースは、一定の割合で増え続け、2003 年 1
月には目標の 5 百万人に達することができました。2003 年 3 月時点での当社の総加入者は、530
万人であり、また 2002 年の税引き前・償却前利益率(EBITA 倍率)は、52 パーセントと大変健
全です。
37
KT の資金調達の方針
長期の
資金調達
‹
‹
KTが現在保有する負債の平均年限は3年
KTは、短期・中期の調達よりも長期の資金調
達を希望
調達コストの
低下
‹
‹
‹
外貨建て債券と国内債のコストを比較
スワップ契約後ベース
他に考慮すべき条件がない限り、最低コスト
の手段を選択
次の議題である KT の資金調達の方針についてお話させていただきます。当社の主要な資金調達
の方針は長期優先と最低調達コストの追及です。当社が現在保有する負債の平均期間は約 3 年で
すが、この期間を毎年延ばしていきたいと考えております。そのため、短期・中期より長期の資
金調達を目指しております。まず、調達前に外貨建債券のスワップ後コストと国内債のコストを
比較し、国内債の方が外貨建債券よりも低い場合は、他に重要な事情がない限り国内債を選択し
ます。
最近の米国ドルや日本円を含む外貨建債券の利回りを見ると、韓国の市場利回りがなぜ逆方向に
動いているかがわかります。現在では、KT の国内調達コストは海外調達よりも格段に安くなって
います。
長期の投資家層の拡大
•
アジアの投資家の大半は、通常短期・中期の投資を行う
− 5 年を超えた年限の債券は流動性が低い
− 10 年より長期の債券市場を育成する必要性
•
通常の機関投資家層の中から長期投資家を確保することが高度なアジア債券市場創設の鍵と
なる
− 一部の日本の投資家、特に保険会社は 30 年ローンを KT に提案
− 外国企業が公募をする際、大規模な機関投資家層の中に長期投資家を獲得することが重要で
ある
38
では三番目の議題でありますアジア債券市場についての提案をさせていただきます。この市場の
目的は長期投資家層の拡大です。ご存じのように、短期や中期の投資を求める投資家は多く存在
いたします。なぜでしょう?それは、アジア債券市場においては、5 年を超えた債券の流動性が低
いからです。長期債の発行体である KT の観点から見ると、発行者の長期資金需要を満たすため
には、10 年もしくはそれ以上の年限をもつ長期債の市場が不可欠になってきます。最近、日本の
保険会社が当社に対し、期間 30 年の単一ローンを提案しました。10 年債より長期の商品を求める
新規の投資家が少なくとも存在することが確認できたのです。外国企業がオフショア市場で公募
をする際、大規模な機関投資家層の中にこのような長期投資家を確保することが一層重要になっ
てくると思います。
優良な格付け機関
•
アジア拠点の優良な信用格付け機関を育成する必要性
− サムライ債19発行時においても、スタンダード&プアーズやムーディーズ社が好まれる
− 一方、日本の投資家は日本の格付け機関による格付けも同様に好む
アジアの投資家は、アジア市場での取引において、世界的格付け機関であるスタンダード&プアー
ズやムーディーズ社に代わる、アジアを拠点とする優良な信用格付け機関を育成する必要がある
と思います。
スタンダード&プアーズやムーディーズ社はサムライ債発行時においても好まれる一方で、一部の
日本の機関投資家は、日本の格付け機関による評価を希望します。その結果、発行体が負担する
格付け費用が深刻な問題となります。私は、アジア債券市場での起債においては、アジア格付け
機関による単独の信用格付けが受け入れられるように変っていかなければならないと感じていま
す。
アジア通貨間スワップ市場の育成、および発達した証券決済制度の推進
•
アジア通貨間のスワップ市場育成の必要性
− 現在、日本円−米ドルと米ドル−韓国ウォン20 のスワップ市場は発達している
− KT はスワップ市場で外貨を韓国ウォンに交換
− アジアの通貨スワップ市場が発展途上にあるため、スワップ後調達コストにあまり魅力はな
い
− 日本円−韓国ウォンの長期スワップ市場を確立する必要がある
•
現在、アジアに焦点を当てた証券決済制度がない
− ユーロクリアなどの国際決済機構はアジアの発行体に十分対応できない
− 長期のアジア債券市場に焦点を当てたアジア拠点の証券決済制度を育成する必要がある
19
20
サムライ債:外国の政府や企業などが日本国内市場で募集し、円建てで発行する債券の通称。
韓国ウオン
39
当社と同様、韓国の発行体の多くは外貨建債券を発行する際、オフショア市場で韓国ウォンに交
換します。日本円−米ドルや、米ドル−韓国ウォンといったオフショア市場は発達していますが、
日本円−韓国ウォンのようなアジア通貨間スワップ市場は存在しません。その結果、韓国の発行
体の観点から見ると、スワップ後の円での調達コストはとても高くなります。
アジアの債券・資本市場を育成し活性化させるためには、アジア通貨間の長期スワップ市場を育
成、または創設しなければなりません。このアジア通貨間スワップ市場と同時に、アジアに焦点
を当てた証券決済制度を長期計画として推進する必要があるとように思います。
サムライ債市場は明らかにアジア債券・資本市場の代表的存在です。しかし、私はサムライ債市
場にはいくつか重要な欠陥があると思います。
第一に、サムライ債の発行体の多くは高い信用格付けをもった国際機関や、政府および世界的な
金融機関であることです。2003 年、これらによる発行金額はサムライ債発行総額の 70 パーセント
以上にのぼりました。また、政府債の発行基準は、一般企業債より緩やかです。
第二に、より多くのアジア企業が日本円市場に参入できるようにするためには、BB などの低い信
用格付けをもつ企業のサムライ債市場が創設されなければなりません。現在では、サムライ発行
企業の信用格付けは殆どが BBB+ 以上となっています。
最後に、サムライ債市場は発行金額と年限を多様化しなければなりません。大部分のサムライ債
の発行金額は約 250 億円を上限としており、年限は 5 年以内に限定されています。私は、サムラ
イ債市場の多様化を強く推奨いたします。
高度なアジア債券・資本市場を強化し、育成するためには、各関係者が前述した項目を検討する
必要があると思います。第一段階として、資本移動の盛んな国が率先して市場の育成を進めてい
かなければならないでしょう。
ご清聴ありがとうございました。
40
シン・グループ(タイ)
司会者:朴さん、どうもありがとうございました。長期的な視野に立ち、日本市場と関連づけな
がら、わかりやすい説明をしていただきました。
次は、ニッチャナン・サンタベスクさんです。彼女は、タイ、バンコクにあるシン・コーポレー
ション
ポートフォリオ・マネジメント部のバイスプレジデントでいらっしゃいます。どうぞ、
よろしくお願いします。
タイ、バンコク、シン・コーポレーション社
デント、
ポートフォリオ・マネジメント部、バイスプレジ
ニッチャナン・サンタベスク:どうもありがとうございます。本日は、ご招待いただ
き感謝いたします。私の声がうまく届いておりますでしょうか?実際、私が主に担当しているの
は長期の直接投資です。本テーマに非常に熱心な同僚が本日出席予定でしたが、残念ながら都合
がつかなくなりましたので、代わりに私がお話しさせていただきます。どうぞよろしくお願いし
ます。
私のプレゼンテーションは二部より構成されています。第一部では、今回ご出席の皆様に当社の
グループ企業を紹介させていただき、第二部では、アジア債券市場の育成についてお話をさせて
いただきます。
シン・グループは、タイ最大の情報通信グループであり、シン・コーポレーションを持株会社と
して、現在 4 つの主要な事業分野がございます。一つ目でかつ最大の事業は携帯電話事業です。
二つ目は国際・衛星通信事業であり、三つ目はメディア事業です。そして最後はインターネット
事業、通称イー・ビジネスです。
まず一つ目の事業についてですが。グループの代表的企業として、アドバンスド・インフォ・サ
ービス社(AIS)、銘柄記号 ADVANC がございます。ADVANC はタイ有数の移動体事業者であり、
現在加入者は 1200 万人、60 パーセントの市場シェアを獲得しております。
二つ目の事業分野である、国際・衛星通信事業は、現在 3 つの人工衛星を軌道に乗せており、来
年の第 2 四半期までに次の人工衛星を打ち上げる予定です。この新しい人工衛星はアジア初であ
ると同時に、世界初のブロードバンド用の人工衛星であり、この計画を大変誇りに思っておりま
す。
三番目の事業分野はメディア事業です。当社はテレビ事業に携わっており、広告代理店も経営し
ております。
41
最後はイー・ビジネスです。当社はディレクトリ・ビジネスや無線コンテンツ提供を行っており
ます。表をご覧になると、携帯電話事業に関しては、国内ネットワーク事業者として位置づけら
れておりますが、国際・衛星通信事業においては、地域ネットワーク事業者とされております。
メディアとインターネットの分野では、提携ネットワークにコンテンツを供給する役割を担って
おります。
タイ証券取引所における当社の地位
Market Cap
(MBt)
Rank
Total SET Market Cap
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
42
72
PTT
SCC
ADVANC
BBL
PTTEP
KTB
KBANK
TPI
LH
THAI
SHIN
SCB
SCCC
BEC
RATCH
ITV
SATTEL
Share in
SET (%)
3,054,920
232,171
214,800
171,866
107,787
103,725
100,057
98,259
79,274
75,615
72,800
63,177
51,875
51,000
47,600
42,050
13,560
8,313
7.6%
7.0%
5.6%
3.5%
3.4%
3.3%
3.2%
2.6%
2.5%
2.4%
2.1%
1.7%
1.7%
1.6%
1.4%
0.4%
0.3%
グループの規模につきましては、タイ証券取引所全体における時価総額で比較すると、アドバン
スド ・インフォ・サービス社は 3 位、シン社は 11 位等になっています。すなわち、シン・グル
ープ全体の時価総額は約 64 億米ドルとなり、タイ証券取引所において 8.5 パーセントのシェアを
占め、現在一位の会社を大幅に凌ぐことになります。
お手元の資料にございますように、シン・グループの財務状況に関しましては、収入、当期利益、
資産ともに伸びており、代表的企業である ADVANC に関しても同様に少し増加しています。当グ
ループは現在、GSM 方式の 900 メガヘルツおよび 1800 メガヘルツでの動作周波数で稼動するタ
42
イ唯一の移動体ネットワーク事業者です。また、後払いと前払いのいずれも対応可能であり、現
在タイにおいて 6 割の市場シェアを占めております。また、ADVANC の売上とグループ全体に対
しての利益貢献度がともに順調であることに大変満足しております。昨年は約 20 億米ドル近い売
り上げを記録し、純利益は 2 億 7 千万米ドルに達しようというところでした。
アジア資本市場においての資金調達の実例
タイの大手グループの一つとして、アジア資本市場での資金調達について少しお話しさせていた
だきます。過去においては、極めて資本集約型であったため、積極的に資金調達することを余儀
なくされてきました。現在、当グループ主要企業の負債状況を見てみると、ADVANC も他社と同
様、この市場で取引されているタイバーツ建債券を保有しています。この債券と少額の銀行借入
金と合わせると 400 億バーツに達します。
加えて、衛星通信事業に関しては、輸出信用やシンジケート型のプロジェクト・ファイナンスを
利用することで、総額 150 バーツ調達いたしました。親会社のシン・コーポレーションも同様積
極的に調達を行っており、2 年前、すなわち通貨危機後、初の株絡み債を発行いたしました。発行
金額は約 30 億バーツであり、これを合わせるとポートフォリオの総額はおよそ 15 億米ドルとな
ります。将来の調達計画に関しては、当グループはかなり意欲的な調達を行い、とりわけシン・
コーポレーションの事業拡大を支援する予定です。
43
少しペースを早めて今日の本題に移ります。当グループの成功と認知度についてです。当グルー
プ、また ADVANC は、最も経営状態の良い企業の一つに挙げられてきました。資金調達に関して
は、シン・サテライト社は、トムソン・ファイナンシャルによるプロジェクト・ファイナンスの
昨年度の最良案件に選ばれました。
当グループ経営陣の認知度
当グループのマネジメント・チーム
クン・ブーンクリー・プランシリ−グループ会長は、タイ電気通信協会により「2002 年度にお
けるテレコム・マン」に選出
クン・シリペン・シタスワン−グループ最高財務責任者
ファイナンス・アジア主催−331 人
の国際的な機関投資家・銀行家によるアジア 10 ヶ国の 10 人の最高財務責任者の選出の投票で
「2001 年度におけるタイの最高財務責任者」の栄誉を受ける
ここで、グループ名誉会長のクン・ブーンクリー・プランシリ氏がタイ電気通信協会により「2002
年度におけるテレコム・マン」に受賞されたことと、当グループの最高財務責任者がタイの最高
財務責任者に選出されたことをご報告いたします。
アジア債券市場についての見解
アジア諸国の利点
アジア債券基金とアジア債券市場の創設は域内において資金運用・資産形成を行い景気の全面
回復を実現する重要な手段となる、とタクシン・シナワトラ首相がチェンマイ宣言の後明言。
アジア債券市場はアジア諸国の貯蓄を域内投資へと引き戻す。また各国が協力することにより
流動性の向上、発行件数の増加、および発行条件が改善されることに加えて、他市場の投資家
をアジア市場へ誘致する−これによりアジア金融市場の安定性を確保するという最終目標を達
成する
アジア債券市場に関する議題に移ります。タクシン・シナワトラ首相が明言されたように、市場
がうまく育成されれば、関係者全てに多大な恩恵をもたらすと思われます。アジア債券基金とア
ジア債券市場の創設は、域内資金を運用し、独自の資産形成をすることで景気の全面回復を確実
なものとする重要な手段となります。
またアジア各国に協力により、アジア市場において流動性が高まり、発行件数が増加し、より多
くの多様な商品が投資家に供給されます。そして、第一に発行条件が改善されます。このような
利点を全て組み合わせれば、アジア金融市場の安定を確保するという最終目標を達成できること
になるのです。
44
期待される利点
大規模な国際投資家層を開拓することにより、アジア債券市場は現地通貨建の債券発行体に対
して、
資本市場の拡大と広範囲な投資家層の獲得を可能にする
発行条件の改善(発行企業側)を可能にし、投資家サイドにとって流動性を高める
国際舞台における立場を強化
投資とリスク管理に関して新たな手段を提供
発行企業の観点から見ると、このプレゼンテーションにあるように、アジア債券市場を開拓する
ことは、大規模な国際投資家を獲得し、多くの利点をもたらすことができます。
第一の利点は、資本市場の拡大と多くの投資家の獲得です。これは、今後事業拡大に向けて資金
調達手段が多様化するということです。
また結果として、発行条件が改善され、投資家サイドにとっても流動性が高まることになります。
加えて、域内および国際的な地域における現地通貨建債券の発行体の立場を強化することになり
ます。この市場がうまく育成されると、余剰資金をもつ人にとっては、新たな投資手段が提供さ
れることになり、また、海外に多くの事業所をもつ企業にとっては、リスクの低い経営手段を獲
得することとなります。
主な懸案事項
国ごとの規制の調整
z
発行体側からみた標準的であり効率的な発行登録・管理手続
z
為替および規制に関する総合的なプラットフォーム
域内の為替管理を支援
効率的な国際決済
金利・為替リスクを緩和するための効率的なヘッジ手段
税法上の優遇措置 (源泉徴収税、キャピタルゲイン税、二重課税協定等)
流動性を高める効率的な流通市場
懸案事項について言いますと、この市場を成功させるためには、安定したインフラと関係者から
の支援をうまくまとめなければなりません。ここに述べたうち、今回ご出席の多くの方々も同じ
問題を挙げられると思いますが、市場への規制を調整することが第一の重要事項でしょう。これ
は非常に難しい課題ですが、高い志をもって取り組めばいつか解決できると考えております。
我々の経験から鑑みて、発行会社の観点は、多方面からの観点と比較して、それほど複雑ではな
いと思います。なぜなら、起債時に考慮することといえば、手続はとても煩雑ではないか、発行
登録をどこでしなければならないか、どの規制に従わなければならないか、何ヶ月時間を要する
45
か、国内債で調達するより総コストのベースでどのぐらい有利であり安いか、といったことだか
らです。以上が私達の考える重要問題です。
第二点目に移らせていただきます。クロスボーダー取引を促進するためには、一部の国では、徐々
に緩めているようですが、資金・外為管理の規制緩和を検討しなければなりません。加えて、効
率的な国際決済制度が、市場活動を支えるための重要な役割を担うことは間違いありません。
我々は問題をただ傍観するだけではなく、適切な措置を講じなければなりません。まず、証券を
発行する際、十分な数の投資家に購入してもらわなければなりません。投資家側に立ってみると、
とりわけ域内で異なった通貨が流通することを考慮すれば、金利や為替リスクを緩和できる効率
的なヘッジ手段が講じられる必要があると思います。
アジアの債券に関しては、主要通貨だけが発行体の中心になるべきではありません。我々は勿論、
タイの通貨であるバーツ建の債券が市場で流通することを望んでいます。主要通貨のみならず、
マレーシアやインドネシアなど近隣諸国も自国の証券が市場で流通することを希望しているはず
です。これは、考慮されるべき重要課題であり、難題と言えます。
次も同様に大変難しいですが、市場創設の前に必ず解決されるべき、税制上の優遇措置について
です。現在、各国において異なった方策がとられており、関係規制当局の努力が望まれます。
この表の最後のポイントですが、市場の流動性を高めるためには十分な規模をもつ流通市場を確
保するべきでしょう。でなければ、投資家は売買ができません。彼らが証券を購入する時点で、
後に市場で売却できるようにしておく必要があります。
主な懸案事項
リスク評価を促進させる国際的に認められた格付け機関
第二階層の発行体に対する信用保証制度
妥当な総合コスト(高い発行費用・取引費用の回避)
継続的な発行に向けたマーケティング活動
全アジア諸国の政府機関による意欲的な参加と継続的支援
債券の格付けについて言えば、数種類の格付けが存在します。国内の格付けと海外の格付があり
ますし、国ごとに異なる格付けをどのように扱えばいいのでしょうか?これもまた、解決すべき
問題です。
次に、特に起債時の初期段階において、第二階層の発行体が市場参入できるよう何らかの保証制
46
度や信用強化が必要です。これらは投資家にとっても、選択肢を広げるという利益をもたらすと
同時に、中間的なリスクを持つ発行会社の市場参入が可能になります。
先ほど申し上げましたように、発行会社の視点というのは、それ程複雑ではありません。コスト
が効率的かどうかということが問題であって、一番安価であることを期待しているわけではあり
ません。この市場において投入するコストと労力が、国内での資金調達の選択肢と比べた際に、
付加利益を超えないようにしなければなりません。
最後の 2 点ですが、先に述べたようにマーケティング活動、すなわち、十分な需要と供給が市場
にもたらされるよう市場を育成するために、コミュニケーション、情報提供などの活動を行う必
要があります。
最後のかつ最重要のポイントでありますが、先に指摘したように、タイでの主要な発行体は全て
政府関連だということです。従って、市場の育成を成功させる鍵は、全てのアジア諸国の政府が
意欲的に参加し継続的に支援することにかかっています。
本日のこの機会に、目的の達成を可能にするアジアの力を証明することができたと確信していま
す。また、このフォーラムの成果が、将来の成功へ向けた確固たる基盤の構築につながることを
願っています。
どうもありがとうございました。
47
質疑応答:1. アジアにおける発行企業体の視点
司会:ニッチャナンさん、どうもありがとうございました。確かに、シン・グループは洗練され
た財務事業によりタイの代表的企業だということがよくわかりました。さて、セッションにおけ
る質疑応答の時間はちょうど 20 分ございます。ご質問のある方は、どうぞ挙手してから各発行体
の発表者の方々に何でもお尋ね下さい。
株式会社格付投資情報センター、原田靖博.:私は、日本の格付け機関である、株式会社格付情報
センター取締役副社長(当時:現在社長)の原田靖博と申します。ここで 2 つ質問をさせていた
だきます。一つは朴さん、もう一つはニッチャナンさんに対してです。
まず一点目ですが、朴さん、サムライ債市場のニーズは何でしょうか?もちろん、サムライ債市
場については、私のプレゼンテーションの中で長期の起債が行われていない理由について詳細に
説明させていただく予定ですが、朴さんは、どのような種類の債券を発行されたいとお考えでし
ょうか? サムライ債市場で選好される債権は何でしょうか? 韓国の市場では、大量のウォン
建て起債が可能ですが、サムライ債市場で起債する利点は何でしょうか?
二点目は、ニッチャナンさんにお伺いいたします。先ほど述べられた、国際的な債券市場が将来
得られるであろう利点について、もう少し明確にご説明いただけますか?投資とリスク管理の新
たな手段とは一体何でしょうか?少し抽象的な質問になりますが、もしお時間がございましたら、
投資とリスク管理の新たな手段という言葉が何を意味するのか、もう少し詳しく教えていただけ
ますか?ありがとうございました。
司会:最初は、サムライ債の利点についてです。朴さん、お願いします。
朴:私が知る限りにおいては、サムライ市場において韓国企業が 10 年物のサムライ債を発行する
のは不可能でないとはいえ、100 パーセント確実ではありません。大和証券や野村証券が提案する
48
サムライ債市場での長い満期の債券発行21. に関しては、100 パーセントの実現保証が付与されて
いません。その上、発行企業にとってみれば、5 億米ドル以上の債券を発行しようとする場合、ど
んな実現保証も受けられないのです。ヤンキー債22 市場では、10 億米ドル以上であっても、また
10 年以上の満期債であっても、発行が可能です。このように、サムライ市場が長期投資家のベー
スを育成すれば、大規模の債券発行が増加すると思います。これが、私の見解です。
司会:ニッチャナンさん、どうぞ。
ニッチャナン:はい。ご質問の主旨は、先ほど私が述べた新たな投資とリスク管理の手段を具体
的に明らかにして欲しいということですね。発行企業の視点に立って実例を紹介させていただき
ます。大企業は、借り手と貸し手の両方の立場をとることがあります。例えば、余剰資金がある
場合、単純に現行の国内銀行システムに預金したり、国債や国内債を購入したりすることができ
ます。アジア債券市場がうまく育成されれば、余剰資金の使途に関してより多くの選択肢を持て
ることになります。これが、第一のポイントであり、もう一つのポイントにも関係してきます。
仮に円建ての証券や、インドネシアの証券の購入を望む場合、為替で損をしないようにしておか
なければ、それらの市場で投資する魅力がなくなってしまいます。これらの二つの問題は、互い
に密接に関わりあっています。これで、あなたのご質問にお答えできていたら良いのですが。
また、投資家の観点に立ってみれば、タイバーツ建債券を発行する際、投資家がポジションを持
てるかどうかを考慮しなければなりません。ポジションをもてない場合には、投資家はタイバー
ツ建ての証券を購入しないからです。
21
保有期間。この文脈では長い満期の債券発行のことを指す。
ヤンキー債とは、非居住者である国際機関、外国政府、および外国の民間企業が米国国内市場で発行する債券
のこと。通常ヤンキー債はドル建てで、米国の一般事業債同様に、年 2 回の利払いがあり、経過利子も 30/360
ベースで計算されることから、米国の事業債市場の一部として扱われている。また、ヤンキー債の大半が世界銀行
(IBRD:International Bank For Reconstruction and Development)やアジア開発銀行(ADB:Asia Development Bank)
のような国際機関を発行体としているため、知名度が高く、流動性も事業債に比べ高い。ただし、近年これらの優
良、かつ知名度の高い発行機関は、ヤンキー市場のみならずグローバル市場(Global Market)へと発行形態を変化
させている。
22
49
司会:韓国の姜鐘萬さん、どうぞ。
金融研究院、姜鐘萬:中国の張さんに質問がございます。現状の市場において市場の統合とは、何
を意味するのでしょうか?市場間なのか、債券市場間なのか、あるいは為替市場を統合するとい
うことなのでしょうか?何を意味されているのかがわかりませんでした。
張:流動性に関する法律が現在調整中であることから、この件を提案いたしました。債券市場の
規制は変化しつつあります。中国の国内市場は、非常に閑散としています(活発ではありません)
。
多くの投資家は、ただ債券を購入し、保有し続け、金利を受け取るだけであり、市場を育成する
観点からはあまり好ましい状態ではありません。そこで私は、より頻繁で効率的な取引が行われ
るよう取引所内に多くの債券市場を創るべきだと思います。
姜:外国為替市場を意味しているわけではないのですね?
張:いいえ、ただの国内取引所です。
姜:国内取引所ですか?
張:中国人民元建の国内債券市場です。外国為替市場や外貨建債券を意味していません。どうも
ありがとうございました。
司会:他にご質問はございますか?では、タイのクニガーさん、どうぞ。
バークレイズ・キャピタル(タイ)クニガー・トライヤンクンシリ:私は、タイのバークレイズ・
キャピタルのクニガーと申します。ソニー株式会社に関して、少し質問がございます。大企業で
ある御社のプレゼンテーションの中で私が注目したのは、全ての国、ひいては世界全体の活動に
50
必要な資金調達のために、地域子会社を設置されたということです。もし、ソニーのような大企
業がアジア資本市場において頻繁に発行を行う場合、私の質問の一つは、初期段階では、既にソ
ニーの知名度が確立されている市場よりも発行コストが多少高くなるのではないでしょうか?例
えばソニーが米国や日本と比較して、タイバーツの国内市場やマレーシアのリンギット市場で発
行した場合です。目的達成という意味において、長期的に市場全体を発展させるために当初発行
コストを多少犠牲にすることはお考えでしょうか?
司会:興味深い質問です。では、中村さん、お願いします。
中村:これは大変良い質問です。キャッシュ・フローを増加させ、経費を節約する必要のある企
業にとって、特にこのような普通社債の発行に関する方針は極めて単純であります。普通社債を
発行する際どの市場を選択するかの基準は、二点ございます。一点目は、我々が必要とする金額
を調達できるかどうか、二点目はコストです。これが、現実であります。
司会:中村さん、もう一つお伺いしてよろしいでしょうか?御社の事業に関しては、全世界ベー
スといった考えや資金管理等、何らかの経験的知識に基づいて運用されているようにも感じられ
ます。クニガーさんがおっしゃったように、いくらかコストを犠牲にする要素も含まれていると
思いますが、それは開発費用の一種だと見なされているのですか。どのようにお考えでしょうか?
「プラス面とマイナス面」を総合的に比較検討した上で下されま
中村:もちろん、我々の判断は、
す。トレジャリー業務に関して言えば、現金管理をより効率的にするために、世界規模で集中化
の傾向にあります。実際、ソニーGTS の設立後 2 年間で、ソニー株式会社と GTS を除く関係会社
内に溢れていた余剰資金を 27 億円相当から、13 億円相当まで減らすことができました。たった 2
年間で、14 億円相当の削減です。このように、余剰資金を管理し、利益を生まない短期投資を減
らすことにより、大幅なコスト削減を図りました。これを遂行するにあたって、我々は資本規制
や税金問題などの地域面での障害に関する「マイナス面」を必死になって解決しようと努めてき
ました。ただタイ、マレーシア、韓国、特に中国といった地域においては、一部の問題が依然と
して未解決であります。一方、資金調達自体については、非常に単純な基準に基づいて決定され
ます。つまり、発行金額とコストです。
51
吉野教授:発表者の皆様に、あと少し質問をさせていただきたいと思います。最初は、ソニー株
式会社さんです。御社は、タイバーツ建ての、また一部はマレーシアのリンギット建ての利益を
得ていらっしゃると思いますが、これらの通貨をドル転することなく現地の市場で投資できるの
ではないでしょうか? それにより、アジア債券市場の創設はより早く実現可能ではないでしょ
うか?これが最初の質問でございます。
二点目は中国の方にお聞きしますが、中国では債券の発行は非常に難しいようです。多くの認可
を取得しなければ、企業が起債することは出来ません。これらの手続とはどのようなものでしょ
うか?起債への門戸は広がっていくでしょうか。それとも規制は依然として続きそうですか?質
問は以上です。
韓国とシン・グループの方々にお伺いします。アジア内の他市場で社債を販売されたい場合、例
えば日本人は KT やシン・グループについての多くの情報を入手したいと考えます。アジアの人々
に対して、御社の良い業績をどのように情報開示できるのでしょうか?御社の業績予想を開示し
ようと試みたことはありますか?以上が私の質問です。まず、ソニーさんからお願いいたします。
中村:吉野教授のポイントは、国を問わず金融市場が安定しているかどうかにかかっています。
例えば、一部のヨーロッパ諸国や米国においては、当社の利益余剰金をその国内に留保するか、
または本国に引き揚げるかどうかの選択に関して融通がききます。しかし、これは金融市場や政
府の規制が安定し、かつ予測可能な状況においてのみ当てはまることです。実際、そういう例も
いくつか経験しております。私のプレゼンテーションにありましたように、中南米と東南アジア
における通貨危機の際、現地に残しておくべき利益余剰金の減価のため、多額の外貨換算調整勘
定が発生しました。ですから、吉野教授のご指摘は大変すばらしいとは思いますが、政策や市場
が安定している時にのみ適用できるものです。
52
張:実際、中国政府当局が管轄する債券市場、とりわけ社債市場の規制に関しては、大幅な変化
を遂げつつあります。窓口として認定されている代行機関と発行体に対しては、この 1、2 年の間
に多くの規制が緩和されると思います。主に、発行金額の観点から申し上げますと、昨年、社債
の発行は 325 億人民元に達しました。今年は、SARS の影響にもかかわらず、総額は 500 億人民元
を大幅に上回ると思われます。これは、政府が既にこの発行金額を承認しているためです。来年
は、さらに多くの発行が見込まれます。
この金額からも、規制が緩和されたことがおわかりいただけます。また、現在、中国の市場を外
資系金融機関に開放せざるを得ない段階にあるため、利率の規制については、中央銀行はますま
す自由化を進めるものと思われます。中国政府当局は社債市場においてさえも、以前より速いペ
ースで規制を緩和していかなければなりません。また、株式市場の状況は中国企業にとって非常
に悪く、より多くの資金を流入させる必要があるため、政府当局に一層大きな圧力がかけられて
きています。個人的な見解では、この 2、3 年の間に、中国政府当局に非常に大きな変化がもたら
されることになるでしょう。
司会者:朴さん、どうぞ。
朴:教授のご質問は、KT の投資家向け広報活動と言えると思います。ここでは 2 種類の広報活動
が想定されます。一つ目は、当社のホームページの広報活動のページをご覧になるとおわかりい
ただけます。そこには、四半期毎の財務状況や、当社の企業活動、また関係会社数社の詳細な情
報が記されております。従って、誰もが四半期毎に KT の詳細を知ることができます。二つ目は
レポートです。第一に考えられるのが、スタンダード・アンド・プアーズやムーディーズ等の格
付け機関が公表するレポートです。少なくとも一年以内に一回発行されます。また、定期的では
ございませんが、タイの銀行が発行するレポート中の評価リストがあります。
53
ニッチャナン:発行会社の情報を伝達するため、一般的に大企業においては投資家への広報担当
部が存在し、通常業務として四半期毎にインフォメーション・ミーティングを開催しています。
この四半期毎のミーティングの席で、アナリストや投資家、また株主にアドバイスを行います。
海外の投資家も、歓迎です。また、ウェブ放送も行っており、将来的には、投資家が定期的に四
半期毎の情報を入手したいと思えば、ウェブ放送で得られるようになるでしょう。。
同業の方のご指摘にもありましたように、当社はインターネットにより投資家に二カ国語で情報
提供しております。通常は、サイト情報を提出し、証券取引委員会のウェブ上の要請や要件に従
わなければなりません。証券取引委員会のウェブサイトは、発行会社のウェブサイトとリンク可
能です。しかしこれでは、投資家や発行を予定している会社が同様のことを行う場合、各ウェブ
サイトに入るのが面倒になります。既に述べましたように、多国籍事業を展開する発行会社は非
常に有利で、それ程多くの広報活動を必要としません。しかし一方で、国内事業のみ展開する会
社のこういった情報は、ある証券会社の特定の中央データベースに統合されなければなりません。
アジアの債券市場を創設する場合、証券会社、あるいは潜在的な大口投資家が市場参入するため
に特定のデータベースが必要です。また、彼らが何らかの銘柄に興味を持った場合、基本情報を
検索し、それが自動的に各発行会社の投資家向けのページや、最新の証券情報につながること等
が可能になれば、非常に効率的でしょう。
当社の状況を世界市場に公開するために宣伝を行い、国際メディアを定期的に使用することは、
大変費用がかかります。しかし、起債時においては現実問題となりえます。実際、起債を市場に
54
発表(ローンチ)する際は、一時的に大がかりなマーケティングを行わなければなりません。効
率性の観点から見ると、発行後のマーケットに前述したシステムが不可欠です。どうもありがと
うございました。
原田:私は、日本の規制当局の一員ではございませんが、サムライ債市場について手短にコメン
トさせていただきます。確かに問題はあります。大規模で年限の長い債券をサムライ債市場で発
行するのは事実上難しい。しかしこれは、規制によるものではなく、投資家の保守性によるもの
です。なぜなら日本においては、資本不足から、地銀や保険会社はリスクをとることに非常に慎
重な態度を取っています。従って、サムライ市場の問題は日本の銀行問題と密接な関連があるの
です。私は、日本の銀行の問題点が解決されるとサムライ債市場はもっと活発になると思います。
司会:良いご意見をいただきまして、どうもありがとうございました。では、次のセッションに
移りましょう。
55
2. アジア債券市場の統合に向けて
56
バークレイズ・キャピタル(シンガポール)
司会:次のセッションは「アジア債券市場の統合に向けて」です。ここでは、3 人のスピーカーの
方々が発表されます。お一人目は、バークレイズ・キャピタル(シンガポール)のドミニク・ド
ゥワー・フレコーさんです。彼女はグローバル・リサーチ部門のディレクターでありエコノミス
トでいらっしゃいます。また、地元ではトップ アナリスト、トップ エコノミストとしてご活
躍です。ドミニクさん、お願いします。
バークレイズ・キャピタル(シンガポール)、グローバル・リサーチ部門、ディレクター、ドミニ
ク・ドゥワー・フレコー:ありがとうございます。今回アジア債券市場についてお話させていた
だく機会を賜りましたことに対し、このセミナーの主催者の皆様にお礼を申し上げたいと思いま
す。私のスピーチは手短にしたいと思います。今回は、たくさんの方々が多くの論点について討
論なさることと存じます。私のスピーチに関してもっと詳しくお知りになりたい方は、私が書い
た 40 ページの論文をご参考になさって下さい。このアジア債券市場についての 40 ページの論文1
は、長くて退屈ですが、ご興味のある方には喜んでお渡ししたいと思います。
Hong Kong
India
Indonesia
Korea
Malaysia
Philippines
Singapore
Taiwan
Thailand
Total/ average
Foreign bond market
China
大規模だが細分化された市場
17.5
42
3.5
9.5
55
22.5
20
17
14
12
195.5
1
26
1
5
11
24
27
20
5
10
14
370
68
210
60
480
63
27
61
100
35
1474
30
42
40
33
100
67
35
66
36
28
48
Market cap USD bn
Market cap % GDP
Domestic bond market
Market cap USD bn
Market cap % GDP
私がお話しすることはとても単純なことです。その市場は、既に存在しており、かなり大規模だ
ということです。日本ではなく中国について率直に述べています。市場規模は 1 兆 5 千億(アジ
ア国内債券市場)ですが、細分化されているため、一部の国の市場は小さすぎて発展しようがあ
りません。金融市場を発達させるためには、規模の経済が明らかに大きな役割を果たします。
現地通貨建市場の育成を、各国独自のペースでなく、域内が協力することにより行おうとするこ
との利点の一つは、規模の経済がもたらされることです。
この地域全体が享受できるメリットとの実例として、EU 市場創設前と後の社債発行に関するグラ
フをお見せいたします。
1
Dominique Dwor-Frecaut [email protected] +65 6395 3211
57
www.barcap.com
EU市場が示す各国の流動性統合によるメリット
300,000
Corporate Bonds, €mn
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
1990
1991
1992
1993 1994
1995
1996
1997
1998 1999
2000
2001
2002
発行体側にとって、社債発行額が 4 倍にまで増加したのは、株式市場のバブルやたとえば 2000 年
頃の第 3 世代モバイル・ライセンス2 の資金調達と関係があるといえます。
しかし、ここで大変興味深いことには、バブル崩壊後においても EU 市場の社債発行は引き続き
極めて高水準だったということです。これは、この市場が明らかに規模の経済の恩恵を受けてい
るためです。
現在アジア地域の発行体は、低いコストで財務リスクを発生させることなく域内で起債できます
が、長期物や大型案件の起債は非常に困難になっています。
年限が長く、金額が大きい起債を希望する場合は、海外での調達となりますが、そうすると極め
てコストが高くなります。従って、この観点から域内債券市場が重要になってきます。
アジア投資家層は、ヨーロッパや米国の投資家層よりもアジアの発光体の信用力について精通し
ています。私は、今まで国際的なアジアの発行体について多くの講演を行ってきましたが、場所
が香港やシンガポールなのか、またはロンドンやニューヨークなのかにより、講演内容は大幅に
異なります。
アジア債券市場においては、大型案件や長期債も発行でき、かつコストがドル建ての起債よりも
極めて低くなるよう希望いたします。
概して言えば、この域内債券市場創設のためには、次の 3 点が必要です。
2
Third-generation mobile licenses
58
規制の統一の必要性
„
規制が各国の市場流動性の統合を強く阻む
„
1997 年の危機の影響を受け、多くの規制が採用される
„
1997 年以来アジア諸国は元気を回復している
„
シンガポールの例が示すように、経済および金融の安定を脅かすことなく債券市場育成のた
めの規制緩和が実現可能
先ほどの発表にもありましたように、第一は規制の統一の必要性です。
市場細分化の主な原因は、国ごとに特有な規制によるものと考えられます。アジア域内における
資金移動は、各国の規制により多くの制約を受けます。1997 年の危機後、国際投機資金(ホット
マネー)の流入が不安定要因になりかねないということから、多くの制約が課せられました。
しかし、アジア債券市場については、細分化をなくすために資本を全面的に自由化する必要はあ
りません。国の安定性を脅かすことなく、的を絞った資本移動の自由化を実施することは可能で
す。
シンガポールに拠点を置くエコノミストである私の意見としましては、シンガポールは自国の安
定性を脅かすことなく債券市場育成のための資本規制緩和を非常にうまく行ったと思います。し
かも、シンガポール経済の格付けはトリプルAであり、ファンダメンタルズは極めて健全です。従
って、これは実現可能だということです。しかし実行するにあたっては、全ての国が同時に歩調
を揃えて進むということではありません。明らかに、ある国のファンダメンタルズは他国より勝
っており、域内のソブリン格付けは広範囲に分かれています。例えば韓国においては、資本の半
自由化を図ることにより、自国経済の安定を危険にさらすことなく、利益を享受できると思われ
ます。
域内における市場インフラの必要事項
„
高品質で、タイムリーなマーケットデータは必須
„
流動性のある現地通貨建ベンチマーク・イールドカーブは必要不可欠
„
アジアにおける格付け手順の必要性
2 番目に要求されるものは、午前中に多くの方が既に発表なさった、域内の市場インフラです。
ここで少し、必要事項について触れさせていただきますが、これは、決して全てを網羅している
わけではありません。
多くの方が既に述べられたように、アジア全域において一貫した格付け手順が必要です。この件
に関連して、3 点指摘させていただきます。
まず、多くの市場において、高品質でタイムリーなマーケットデータをはじめとする極めて基本
的なものが未だに欠如しているということです。例えば、シンガポールと香港を除くと、ブロー
カーのモニターが存在しません。ブローカーのモニターとはマーケットデータを提供し、取引を
行うために使用する画面です。経済市況や価格データの基となります。これらはまだ構築されて
いませんが、基本インフラの一つとして必要です。
2 点目は、このスライドにある現地通貨のベンチマーク・イールドカーブです。多くのアジア諸国
は非常に倹約的であるため、流動性のあるベンチマーク・イールドカーブはありません。危機以
前は、政府は保守的傾向があり財政赤字はありませんでした。ある意味において、通貨危機が契
機としてソブリン債を発行し、ベンチマーク・イールドカーブを発達させました。また、銀行シ
ステムの資本増強に加え、経済安定化を図るために、政府が財政赤字を続けました。
危機以来、5 年以上が経過いたしました。銀行業界においては、資本増強が行われました。アジア
59
諸国は、非常にうまく経済を安定させることができ、現在は財政再建へ向けて進んでいます。例
えば、来年度タイにおいては、財政黒字が実現される予定です。これは、流動性のあるベンチマ
ーク・イールドカーブを維持するという問題とも関連してきます。アジア全域を見ると、1990 年
代前半、香港は当時巨大な財政黒字にもかかわらず、流動性のあるベンチマーク・イールドカー
ブを非常にうまく発達させました。おそらく、域内の国々は香港のケースを参考にし、自国に適
用可能かどうか検討すべきです。なぜなら、流動性のあるベンチマーク・イールドカーブなしに
は、現地市場、またその延長となる域内市場を育成することができないからです。
最後のポイントとしては、インフラが挙げられます。アジア内における決済制度の発達について
は多くの議論がなされてきました。幸い、タイの中央振替決済システム(CDS)の代表者が実際
こちらにお見えです。各国は実質的にかなり優れた決済インフラを構築しましたが、必要なのは
このインフラ制度について互いに話し合うことです。アジアの決済インフラを新たに構築するよ
りも、各国で互換性のあるインフラにすることが必要です。
アジア市場にヨーロッパのシステムを導入することについては、数多く議論されています。しか
し、これがアジアに適用するかどうかは確かではありません。ユーロクリアが発達したのは、米
国外で米国人以外が発行するオフショアの債券、すなわち、本拠地をもたないユーロ債を決済す
るためでした。現在、ヨーロッパの債券の決済状況をみると、ドイツで発行されたものはドイツ
内で決済されており、ユーロクリアを通していません。従って、アジアの決済システムの構築は
必ず要求されてきます。おそらく一般的に優れている既存のインフラを地域レベルで複製利用す
ることよりも、現行の手順をより協調的なものにすることが必要であると考えます。
域外の発行体のさらなる必要性
„
アジアの貯蓄は米国の経常赤字を賄う一方、その仲介はアジア域外でなされる
300
2002 Current account, USD bn
200
100
0
-100
-200
-300
-400
-500
-600
US
EU
Asia
Other
最後に、アジア債券市場を構築する 3 点目のポイントについてお話しします。アジアは構造的に
貯蓄が投資を上回るため、外国の発行体を誘致する必要があります。この表を見ると米国の巨額
の経常赤字は一部アジアの莫大な経常黒字により賄われていることがわかります。
ご存じの通り、経常黒字はアジアの貯蓄が投資を上回っていることを表します。アジアにとって
成功することは非常に重要であるため、アジアの債券の供給は需要を常に下回っています。
この格差を是正するためには、アジアに国外、すなわちアジア企業以外の発行体を誘致し、アジ
60
ア通貨建てで起債してもらうことが重要です。
アジアの貯蓄が、アジア域外で仲介されて投融資され、また域内での債券供給が不足しているた
めに米長期国債を購入しなければならないという現状から脱し、必ずしもアジア企業が起債した
ものでなくとも、アジア地域で発行された債券に向けられるようになるでしょう。
アジア金融機関とは? :
„
東南アジア諸国連合および日中韓、あるいはアジア協力対話
„
任務として
¾ 規制統一の実現
¾ 地域市場機関の創設
¾
金融の監視
¾ 域外の発行体へのアジア債券市場の宣伝
最後になりますが、この件は多くの国が関与しているため非常に複雑なプロセスであることは、
すべての方が認めておられると思います。このプロセスを前進させるためには、地域機関を育成
しなければなりません。今後、こうした問題をさらに議論するために、今回のようなセミナーを
どんどん開催すべきですが、ある種超国家的組織なしに協議していくのはとても困難だと思いま
す。
こうした地域機関が実施できることについて少し例挙いたします。まず、規制統一のプロセスを
定期的にサポート、域内市場インフラの育成、アジア諸国の実態の監視、また最後になりますが、
アジア債券市場を域外の発行体に宣伝すること等が挙げられます。
どうもありがとうございました。
61
韓国金融研究院
司会:非常に説得力のあるお話をいただき、またわかりやすくご意見をまとめて下さいまして、
ありがとうございました。次は、韓国からいらした姜鐘萬さんです。韓国金融研究院の先任研究
委員でいらっしゃいます
韓国金融研究員、先任研究委員、姜鐘萬:本日はこのフォーラムにご参加の方々と意見交換する
機会を賜り、とても嬉しく思います。特に、犬飼重仁氏に感謝したいと思います。彼は、昨年私
とハーバード大学で同じクラスであり、お互い楽しい時間を過ごしました。今回は、彼の招待に
より参加させていただいています。
私は韓国金融研究院に所属しております。ご存じの通り、この研究院はある種、政府のための民
間シンクタンクと言えます。我々は、政府官僚と密に仕事をし、時には政府に重要な提案を行い、
それが採用され政策として実施に移される場合もございます。
ここに 15 枚のスライドを用意いたしましたが、時間は 15 分しかございませんので、非常に短い
プレゼンテーションになると思います。ご質問のある方は後刻電子メールか何かでご連絡下さい。
このフォーラムにご参加の皆様は、アジア債券市場の必要性および創設にあたり解決すべき問題
点については、十分認識されていらっしゃると思いますが、今回の討論会用にいくつか資料を準
備してきました。多くの方が既にご存じだと思いますが、このプレゼンテーションおよび討論用
として、いくつかお見せいたします。
62
私のプレゼンテーションの第 1 部は「統合されたアジア債券市場のケース」、第 2 部は「アジア債
券市場統合に関する検討事項」です。
次は、「個別問題」、そして最後に「今後の課題」について説明いたします。
統合されたアジア債券市場のケース
1. 域内の金融資産を効率的に循環させる
− アジア経済のために、巨額の外貨準備高を循環させる
− 効率的な資金循環経路を作る
2. アジア資本市場の安定
− 通貨危機再発防止のために、金融機関が抱える通貨と満期のミスマッチによる流動性リス
クの減少
3. 域内資本市場の育成
− コスト効率の高い域内市場の促進
− 規模(サイズ)の効率性を高める
4. アジア経済および域内における経済協力の振興
コスト効率の高い域内市場の育成
− 産業界が負担する調達コストの減少
− アジア内において資金が潤沢な国と不足している国の間の経済的および金融上の関係強
化
第 1 点についてです。私はシン・グループ会長が書かれた資料を以前読ませていただきました。
会長曰く、アジアの総額 1 兆 4 千億米ドルの外貨準備高は発展途上国の外貨準備高総額の 3/4 に相
当するそうです。アジアは潤沢な資金を有し、他方、前のセッションのプレゼンテーションで聞
いたところによれば、アジア諸国の企業の側にも十分な需要があるということです。こうして資
金と需要が存在する一方で、銀行や投資銀行(IB)のような仲介機関が存在しません。これら機
関は需要者側と供給者側の間をうまく仲立ちできていません。いずれにせよ、巨額の外貨準備高
がアジア経済発展のために循環する必要があります。第 2 点は、効率的な資金循環経路を作るこ
とです。これら 2 点は、アジア債券市場において重要問題であると思います。
また、アジア資本市場の安定が必要です。流動性リスクの軽減は、金融機関が抱える通貨と満期
のミスマッチの度合いにかかっており、金融危機の再発を防止するためには、ミスマッチを大き
くしないように努めなければなりません。1997 年のアジア金融危機は、企業および政府が抱えて
いたミスマッチからすると、ある程度まで不可避な結果といえます。従って、我々は流動性リス
クを軽減できる何か良い方法を考えなければなりません。
第 3 点目は域内資本市場育成の方法です。ソニーの方がおっしゃったように、言うまでもなくコ
スト効率の高い地域市場が要求されます。我々は調達コストを軽減しなければならいので、まず
何よりも効率的な域内市場が不可欠です。コストは需要者側と発行体側の両者に影響を与えます。
一部の国の資本市場(債券市場)はとても小規模なため、これらの国の市場を統合させてコスト
効率の高い大規模な市場を創設することにより、規模の効率性を実現することができます。
次の点は、アジア経済と域内の経済協力を推進し、コスト効率の高い域内市場を創設することで
す。域内のアジア経済協力を発展させるには、会社側の調達コストを低下させなければなりませ
ん。すなわち、資金を必要とする企業側の調達コストを軽減させることです。我々に必要なもの
は説得力であり、アジア内における資金が潤沢な国と不足国との間に経済的および金融的関係を
構築することが必要です。
1 点目は企業、また 2 点目は国に関する問題です。
63
日本、中国や韓国等の国々は潤沢な外貨準準備高を有する反面、東南アジア諸国の一部は資金を
必要とします。我々は、潤沢な国と資金を要する国の橋渡しをしなければなりません。
アジア債券市場統合に関する検討事項
1. 優良債券の供給が限られている
− 発行体が極めて少数
− 格付けの低い起債企業が非常に多数
− 機関投資家向けの長期債が供給不足
− 高い格付けの資産担保証券による証券化
2. 債券の需要が限られている
− 機関投資家層が未発達
− 銀行が金融市場を支配
3. 資本管理と規制
− 政府の資本管理による資本コストの増加
− 外資系金融機関が現地金融市場に参入する際の高い障壁
− 債券市場への規制
4. 未発達な市場インフラ
− 情報開示の方法
− 精算・決済システム
− 企業統治
− 会計と監査
第 2 部は、アジア債券市場統合に関する検討事項です。
優良債券の供給が限られているという問題があります。吉野教授が述べられたように、資金需要
のある企業は多く存在しますが、企業内容について十分な情報提供がないため、ディスクロージ
ャーの問題が発生します。
また、低い格付けをもつ債券発行体が非常に多く存在します。タイではシン社を除く企業、また
大半の東南アジア諸国の企業は良い格付けを取得していません。韓国においてさえも、多くの企
業が財務諸表を国際的に情報公開していません。従って、これは債券起債時に問題となります。
日本においては、格付け機関の方が先に発表されたように、機関投資家向けの長期債が供給不足
となっております。他方で日本の銀行は長期の貸付に支障を抱えているので、我々はこういった
問題を解決しなければなりません。結果として、高い格付けの資産担保型証券による証券化が要
求されます。すなわち、企業は低い格付けしか持たず、大銀行は低い格付けの企業に貸し付けを
行うのに支障があるので、これらを解決するためには何らかの手段を講じなければなりません。
以上が、私の論点です。
64
次の問題は、債券の需要が限られていることです。
機関投資家層が未発達という問題があります。これらの国は多くの資金を有していますが、米国
やヨーロッパ諸国とは違い、長期貸し付けを行う機関投資家層が十分発達していないということ
です。
これは資本市場での問題とも言えます。つまり、アジア諸国の金融市場は、ある意味で銀行が中
心になっていることが、もう 1 つの問題です。ある種「資本市場中心」の米国金融市場と比較す
ると、我々は「銀行中心」に貸し出しや借り入れを行い、銀行が全てであるという新たな問題を
抱えています。
残り時間は、ちょうど 3 分となりましたので、何枚かスライドを省略させていただきたいと思い
ます。
個別問題
− 通貨
− トレーディング・センターの場所
− 精算・決済システム
− 格付け機関の設立
− 情報開示制度の確立
− 税の優遇措置・制度の調和
− 市場流動性を高める
− 信用強化
− 未発達な現地市場の育成
今後の課題
1. アジア債券市場育成における銀行の役割の強化
− 銀行は発行、引き受け、投資、そして起債時の保証業務に関与可能
2. 債券の需給を活性化させる
− 長期目標は域内債券市場の育成
− 短期目標は、現状の問題に対し実現可能な解決策を提案
− 現地通貨建ての外債を発行できるよう国内債券市場を育成
3. デリバティブ市場の育成
− 発行体と投資家の通貨リスク問題を解決するために効率的なスワップ市場が必要
今後の課題についてお話しします。恐れ入りますが、お手元の資料をご覧いただけますでしょう
か?
アジア債券市場の利点と将来性については周知のとおりであり、私が知る限り、ここ数年間はア
ジア債券市場創設の方法について検討されてきています。
私が聞いたところでは、長期間の議論が日本、韓国および中国の間で、政府および政府により任
命された人達により行われているそうです。
こうした類いの問題は、一種の官僚主義から起こっています。我々は民間部門として債券市場創
設の問題点を議論し、いくつかの問題解決策を提案しなければなりません。
今後の課題については 3 点挙げたいと思います。実際は、数多くの問題がございますが、今回は
この 3 点に絞らせていただきます。
第 1 点は、アジア債券市場育成のための銀行の役割です。前述したように、アジア金融市場は銀
65
行中心で動いているので、我々は、銀行が債券市場創設のためにより多くの役割を担いより一層
関与するよう働きかけなければなりません。
第 2 点は、債券の需給を活性化する方法です。長期目標は、域内債券市場を育成することですが、
短期目標としては、現在抱えている問題に対しての前述した解決策が要求されてきます。我々は、
長期目標を掲げていますが、この長期目標達成のためには、短期目標を設定しなければなりませ
ん。従って、現地通貨建外債を発行するためには、国内債券市場を育成しなければなりません。
また、日本の銀行はサムライ債や他の債券と同様、現地通貨建市場を創設するために、大変重要
な役割を果たしてきたと思われます。
私はこの最後の点に関して、大変満足しています。タイの方がおっしゃったように、デリバティ
ブ主導の市場を育成させるためには、通貨リスク回避のためにスワップをはじめとするデリバテ
ィブ市場が必要になるということです。
我々は中期的な視点に立ってデリバティブ市場を発展させなければなりません。日本の銀行や投
資銀行の皆様がデリバティブ市場創設にあたり、より一層ご活躍されるであろうと期待していま
す。私が知る限りにおいて、この市場は非常に収益性が高いのにもかかわらず、アメリカの銀行
やヨーロッパの銀行が大部分の利益を獲得しています。もし、日本の銀行がこの市場で成功され
ると、大きな利益が得られることになります。加えて、アジア諸国とアジアの金融機関にとって
も非常に有益になると思います。
スピーチをお聞きいただきまして、ありがとうございました。
それでは、失礼いたします。
66
総合研究開発機構(NIRA)/日本資本市場協議会(JCMA)
司会(NIRA/JCMA、犬飼重仁):姜鐘萬さん、非常に質の高いプレゼンテーションをしていただ
きましてどうもありがとうございました。次は、私が発表させていただきます。
「アジア債券資本市場実現のための日本市場のソフトインフラ整備に向けて」について始めさせ
ていただきます。
‹
はじめに
企業の資金調達の円滑化に関する協議会(CFTAJ)と日本資本市場協議会(JCMA)によって派遣
されたアジア債券市場調査団は、このフォーラムの開催を決定するのに大きな力となりました。
日本の資本市場の進展に向けた活動の一環として、CFTAJ と JCMA は 2003 年 1 月に調査団を派遣
し、アジア主要 4 ヶ国の社債市場の調査を行いました。私はこの JCMA の幹事長を務めさせてい
ただいており、この調査団に参加いたしました。今回ご出席の加藤氏も、これら2団体の幹事で
あり、昨日正式に結成されたアジア資本市場研究協議会の幹事としても活動いただくことになっ
ております。この第 1 回目の調査に加えて、NIRA の研究員が 4 週間前に追加の調査を行うためタ
イと中国を訪問いたしました。私どもの調査は、アジア 6 ヶ国−韓国、香港、マレーシア、シン
ガポール、タイ、中国を対象にしております。
これらの調査結果を踏まえて、日本の債券資本市場の「ソフトインフラ」整備の方向性を整理す
ることができました。
本日の私のプレゼンテーションは、本日の討論のベースとなる基本情報を皆様と共有することを
目的としております。
‹
調査の目的
この調査の目的は、1997 年のアジア金融危機の後、資本市場の再構築が進められているアジア主
要国において、どのような制度とソフトインフラが整備されているかを詳細に理解することです。
また、この調査は、これらの諸国と日本とを比較して、日本に不足しているものは何かを明らか
にすることです。ここでは、日本の資本市場のソフトインフラが将来アジアの統合された資本市
場で重要な役割を果たすことが想定されています。我々の狙いは、この調査結果を利用し、世界
と新しいアジアに通用する基準をもつ我が国資本市場構築に向けた提言を行うことです。
我々は、本日ご出席の皆様と意見交換する機会を持てて、とても嬉しく思います。統合されたア
ジア債券資本市場の創設に向けた今回の会合を契機として、関連情報(アジア債券市場調査団−
調査報告書−2003 年 2 月)がホームページ3でご覧いただけるようにしてあります。
我々は、監督当局・証券決済機構・証券取引所をはじめとする市場関係者と面談を行い、これら
の国々における債券市場と証券決済機構の状況をほぼ網羅的に理解することができました。
3
http://www.enkt.org/katudou/pdf/feb2003.pdf
67
‹
市場規模
市場規模
Bonds and Notes Outstanding YR2002
Trillion Yen
800
700
600
500
400
300
200
100
nd
ila
Th
a
Ko
ng
g
Ho
n
ala
ys
ia
ng
Si
M
ap
or
e
a
in
Ch
a
Ko
re
rs
Ot
he
J-
Pu
bli
c
J-
Ja
pa
n
0
はじめに、各国債券市場の市場規模を見てみましょう。日本以外の国については、ドミニクさん
が既にご説明されました。
日本の債券市場の規模−687 兆円と比較すると、調査が行われた全ての国の市場規模はかなり小さ
いことがわかります。しかし、日本の場合は国債(JGB)の比率が全体の 66%を占めています。
国債を含む公共債の比率は 81%にまで上っており、この割合は異常に高いと思われます。まず、
これら各国の債券市場の大きさを見てみましょう。
韓国の債券市場は公共債を中心とし、中国は公共債・金融債を中心としていますが、両国の債券
市場の規模は、調査対象としたその他のアジア諸国と比較して、かなり大きいことがわかります。
この市場規模は、韓国が 58 兆円、中国が 50 兆円ですが、日本の債券市場の 1/10 以下です。調査
対象としたその他のアジア諸国の市場規模は、国債市場を含めたとしても比較的小さいと言えま
す。
中国とタイを除く最初に調査した 4 ヶ国では、いずれの国においても、社債市場が債券市場全体
に占める比率は、日本市場におけるようないびつな形とはなっていないことがわかります。
つまり、社債市場が国債市場を上回る規模を持っています。実際、社債市場が債券市場を代表す
る存在になっています。また、いずれの国の市場もここ数年増加傾向にあります。
68
‹ アジア各国の債券市場成長の背景 <我々の理解>
1. 特に香港、マレーシア、シンガポールでは、公的年金ファンド等の投資対象商品として健全な
自国通貨建ての債券の育成を、国の重要な目標として掲げています。
2. 各国のデフレによる金利低下と国内株式市場の不振からも、資本市場育成の必要性が大きくな
っています。
3. 一番重要なのは、各国当局が市場改革と先端的証券市場インフラの整備を極めて短期間のうち
に計画し、かつ実施していることです。これらの改革は、関係当局トップのリーダーシップの
下で進められております。また、今回ご参加の方々を含む有能な担当者のビジョンと熱意がこ
の改革に貢献しているという点に関して、大変喜ばしく思っております。
従って、この調査から、上記の 3 点が各国債券市場成長の背景として非常に重要であることがわ
かります。これらの点についての詳細は、後ほど他の発表者の方が述べられるであろうと期待し
ています。
‹ Debt 証券の発行・決済に係る各国共通の制度とインフラの特記事項
(1) 債券発行関連の法制度
調査対象とした国においては、債券は基本的にリテール向きではなく、高度な投資家(sophisticated
investor)向きの商品として位置づけられていることがわかります。
各国の債券の発行にかかる制度を調べてみますと、日本のように登録・開示要件が個別に設定さ
れており、それらに適合しているかどうかが発行時に審査承認されるような制度をとっている国
はありません。各国のシステムでは、発行体およびアレンジャーが、必要な情報を判断して登録・
開示資料を作成し、その内容に瑕疵がないことを誓約する方法をとっています。そのため、発行
時の申請にかかる負担は、調査対象各国の方が日本よりも軽く、ユーザー本位の制度設計になっ
ていると感じました。また、いずれの国においても商品種類別の適用除外規定は設けられていま
せん。たとえば、資産担保証券などの証券化商品に関してだけに一部追加的な要件が課される程
度で、非常にシンプルな制度体系になっております。
これらの 4 ヶ国においては、日本の適格投資家(Qualified Investor)にあたる高度な投資家
(Sophisticated Investor)の範囲には富裕個人層が含まれるなど、目論見書作成の適用除外となる
範囲が日本に比べ非常に広いことがわかります。また、適格性の判断基準が銀行や証券会社が法
令に基づき、自主的に判断することとなっています。事前の届け出は一切不要です。これらの点
から、この 4 ヶ国における制度は日本と比べると大きく実用性に勝っているとの印象を受けまし
た。
(2) 債券の決済システム
債券の決済システムについては、最初に調査したいずれの国におきましても、中央銀行の資金を
用いた即時グロス決済(Real Time Gross Settlement)ベースの DVP システムが既に稼働しておりま
した。債券に関しては、国債のみならず社債も含めて、日本において現在議論されており、理想
型だとみなされているこのようなタイプの決済システムは、これらの国においては既に完成して
いることがわかりました。
日本では、このようなシステムを早期かつ低コストで実現することは困難であるということが、
69
長期間にわたり生産的とはいえない議論の中で強調されてきました。1 月に行われたこの 4 ヶ国に
関する調査によれば、これらの国は、日本と比較すると発行量がかなり少ないのですが、コマー
シャルペーパー、社債ならびに資産担保証券が同一の仕組みで決済され、先進の市場インフラの
仕組みが既に現実に整えられスムーズに稼働しているという点に驚きと感銘を受けました。日本
は、決済インフラ制度の整備を進める際にこの点を十分参考にすべきであると考えます
‹ 最後に
最後になりますが、最初に調査が行われたいずれの国においても、日本とは比較にならないほど
急速に債券・株式を含む資本市場の制度とソフトインフラの改革が進められていることがわかり
ました。日本の現状との比較において、ベースインフラとしての関連税制を含めて、まったくう
らやましい状況がこのような国において既に存在しておりました。システム構築および取引単位
あたりの維持コストの観点でも、わが国のシステム関連コストが果たして競争力を持ち得るよう
な管理ができているのかについて、非常に疑問に感じます。
日本は、この現状を謙虚に反省し、速やかにこれらアジア諸国に学ぶ姿勢を持つことが重要であ
ると思います。
日本の市場規模の大きさを考えると、今後、関係当事者が日本を含むアジア地域のシステムとソ
フトインフラの競争力とハーモナイゼーションの視点を持つことができ、かつ、しかるべき手段
を講じることができれば、アジアの統合された資本市場が大きな優位性を持ちうるようなシステ
ムインフラを構築できることを確信しております。
以下のページは、上記に基づいて日本の資本市場の制度改革およびソフトインフラの提言に関す
るリストです。詳細につきましては、机の上に置いてある分厚い資料、すなわち、私どもの調査
報告書の 46 ページから 51 ページをご参照下さい。
‹
提言
‹ 日本における債券資本市場関連の制度・ソフトインフラ改革への提言
債券発行にかかる法制度改革への提言
z 発行申請手続き・開示書類の簡素化および申請書類の電子化
z 開示要件の適用除外範囲拡大・適格投資家の範囲拡大
z 発行停止期間にかかる規制の廃止
z 利子源泉徴収等税制の改正
z 非居住者等に関する各種報告義務の緩和
債券決済システム改革への提言
z 統合されたアジアの証券決済システムに役立つペーパーレス社債振替システムの早期実現
z 商品横断で整合的な口座管理体系の設計
z 事務効率化のためのカストディサービス提供
z 統合されたアジア債券資本市場において、日本の資本市場がアジア中核市場として機能する
ための活動強化および必要な取り組みの実施
どうもありがとうございました。
70
71
質疑応答:2. アジア債券市場の統一に向けて
:犬飼さん、どうもありがとうございました。それでは、ここで皆様からのご質
司会(吉野教授)
問を承ります。
吉野教授:まず、私から始めさせていただきます。ドミニクさんに、アジア債券市場のベンチマ
ークについてお尋ねします。香港では、財政赤字がないのにもかかわらず、ベンチマークを創ら
れたそうですが、これはアジアにどのような教訓を与えるのでしょうか? また、これに関する
重要事項とは何でしょうか? これが、私の質問です。
次は、姜鐘萬さんにお尋ねします。先ほど、債券市場を育成させるための銀行の役割について触
れられましたが、日本においては、2 通りの道筋があります。これら 2 通り以外にも道筋がありそ
うですか。1 つは、銀行が社債や国債の購入を始めることです。銀行は、預金を受け入れると同時
に多くの債券の購入を開始し、債券市場において活発に取引を行うということです。これが、1
つ目です。2 つ目は、日本国内の銀行の支店を通じ投資信託や国債を販売することができます。投
資信託とは、投資銀行からの社債も含みます。おそらく、債券市場育成のために、この 2 通りの
道筋を用いて銀行が活用できると考えているのですが、他の道筋として何か思いあたりますか?
以上が、2 つの質問です。
ドゥワー・フレコー:吉野教授、ご質問いただきまして、ありがとうございます。香港では、為
替基金4により定期的な発行計画が発表されました。期間の短いものから始めて、その後徐々に長
期物が追加されました。おそらく 10 年物までだと思います。この調達資金は、通常の準備金業務
の一部に充当されました。コストについて言えば、この調達資金による利益率が、政府が保険の
ために支払わなければならない利率を上回った場合、マイナスのコストになり、事実上コストは
発生しません。これは、香港のケースです。これは財政黒字国で適用可能なものであって、一部
のアジア諸国は明らかに黒字国ではございません。日本も一例であり、インドもまた黒字国では
ありません。しかし、タイは既に発表があったように、来年黒字転換します。韓国も同様の方向
です。これら黒字国に関しては、同様の解決策をとることが可能です。これはおそらく自国の基
金運用業界の発展に貢献すると思います。また、適度な保護策を講じることにより、自国のベン
チマーク・イールドカーブの育成につながります。
吉野教授:銀行の役割についてはいかがでしょうか?
姜:アジア債券市場における債券需要に関しては、いくつかの問題があります。アジアでは、米
国やヨーロッパの債券市場のように発達した資本市場がありません。
ですから、我々はアジア企業が発行した社債の需要を創出する必要があります。一部の国におい
ては、年金基金や投資信託をはじめとする機関投資家層が存在していると思います。しかし、概
して大半のアジア諸国では、このような機関投資家層が発達していません。従って、現状におい
ては、商業銀行が社債購入の際、重要な役割を担うべきであると考えます。これは、日本や中国、
韓国にある銀行や、香港等にある銀行を念頭においています。これらの銀行は一定の社債需要を
創出すべきです。銀行は、各国の企業となんらかの関係を持ち、未公開情報を握っています。吉
野教授が話されたように、銀行は他国にもいくつかの支店を設立しています。例えば、日本の銀
行は東南アジア諸国に多くの支店を有するので、複数の企業の未公開情報を管理しています。従
って、これらの企業が世界的に優良な債券の発行体と評価されなくても、一部の日本の銀行がこ
れらの企業情報を保有しているかもしれません。日本の銀行は、これらの未公開情報に基づき、
タイやインドネシア等のいくつかの企業が発行した債券を購入することができるかもしれません。
4
72
このようにして需要の創出が可能になります。
次の段階ですが、一種のアジア債券市場、そう、そういったものを創設することです。以上が、
私のポイントです。
原田:どうもありがとうございました。ここで、3 つ質問がございます。
1 つ目は、ドミニク・ドゥワー・フレコーさんにお尋ねします。外国の発行体がアジア債券市場を
より一層振興させるために重要な事は何でしょうか?
投資家は本質的に非常に保守的です。アジアの投資家は、十分な情報提供なしに債券を購入する
ことに対して、極めて消極的です。問題はどのような手段、手法により、外国の発行体の情報が
アジア投資家に自由にかつ容易に提供されるのでしょうか?発行に関わる情報の流れは非常に重
要です。この情報提供なくして、外国の発行体がアジア債券市場を一層振興させることは全く無
意味です。
米長期国債や外債の購入といった国際資金循環については、理論的にほぼ同様のことがあてはま
ります。言うまでもなく、国外の発行体がアジア債券市場に及ぼす影響は多大です。従って、私
はこのような目的を達成するには、情報伝達が非常に重要だと思います。
2 つ目の 2 点については、姜さんにお伺いします。資産担保証券の発行についてです。姜さんの意
見を批判するわけではありませんが、資産担保証券は手品ではありません。すなわち、それを活
用してもリスクはなくなりません。一部の人は、特にエクイティと呼ばれる一番劣後する部分に
ついて信用リスクを負います。ここで門題となるのは、資産担保証券を発達させる方法です。こ
れには 2 つの問題が絡んできます。1 つは、優良な格付け機関、2 つ目は、資産担保証券のエクイ
ティ部分、つまり、最も劣後する部分の投資家です。これら 2 つが極めて必要になるということ
です。
3 つ目の質問も、姜さんにお尋ねします。アジアにおいて通貨スワップ市場を発達させるためには、
日本の投資銀行の役割が非常に重要になります。あなた方が、日本の金融機関に対して何か親切
なアドバイスをしていただけると大変助かります。この目的を遂行させるにあたり、日本の金融
機関は資本不足等の問題を抱えています。現在スワップ市場において、日本の銀行が 10 年や 5 年
といった長期物の発行を希望しても、現状では低い格付けのためほぼ不可能です。効率性の高い
通貨スワップ市場を発達させるためには、前述したように日本の銀行への資本注入が大変必要で
あり重要問題となります。以上は、質問ではなく、私の意見として述べさせていただきました。
:どうもありがとうございました。ドミニクさんに情報のディスクロージャーに
司会(吉野教授)
ついての質問に答えていただきます。
ドゥワー・フレコー:ご質問いただきまして、ありがとうございます。実際、初期段階のアジア
市場における長期債の発行体は、おそらくファニー・メイ、フレディーマック、GE キャピタルと
いったごく一握りの知名度の高い企業だと考えられます。これらの企業は、アジアの投資家層に
知られていますが、ただ異なるのは、アジアの投資家は通常ユーロや米国市場において、これら
の企業が発行した債券を購入していることです。一般的に言って、米国やユーロなどの主要市場
で発行される銘柄に関する申請時の格付け要件は、おそらくアジア投資家ベースの要件も満たし
ていると思います。なぜなら、アジア危機後、とりわけこういった規制が国際的に統一されてき
たからです。しかし、この市場育成の少なくとも初期段階において、この件が極めて重要問題で
あるかどうかはわかりません。
姜:私には 2 点の質問をいただきました。1 つは資産担保証券、もう 1 つは、スワップ市場を創設
する方法についてです。私はアジア企業が起債した債券の需要を創出するために 2 点提案させて
いただきます。1 点目は、銀行の役割です。銀行中心の資本市場において、銀行には一層重要な役
73
割を担い、より積極的に活動を行ってもらわなければなりません。2 点目は、通貨リスクが高いこ
とから生じる問題を軽減する方法、つまり、銀行が負担する信用リスクを減少させる方法です。
これは、最終的ではありませんが、暫定的な解決方法のようなものだと言えます。資産担保証券
の枠組みについて、韓国の方から先に提案がございました。
2 つ目は、スワップ市場についてです。ご存じの通りこの商品はすぐれており、ハイリスク、ハイ
リターンです。ある人が高いリスクを負担し、その代価として高い収益を得ます。私の知る限り
では、現在一部の米国やヨーロッパの銀行がこの役割を担っていると思います。アジア市場にお
いては、一体誰がその役割を担うのでしょうか?韓国の銀行でしょうか、それとも中国、もしく
は香港の銀行ですか?私はそう思いません。日本が最大のシェアを享受しているので、日本の銀
行がアジア市場を創設する役割を担うべきです。さもなければ、こういった市場の創設は期待で
きないでしょう。誰かが犠牲になり、誰かが利益を享受します。私は日本の銀行がこのような役
割を担うことを期待し、また希望いたします。これに関しては、日本国内における諸問題、すな
わち、日本の銀行は過小資本や不良債権5をはじめとする諸問題を抱えていることも理解しており
ます。しかし、アジア資本市場の活性化を図るためには、日本による一層の取り組みが期待され
ます。以上が私の論点です。
ベンチマークについて述べてよろしいでしょうか?私は以前、韓国の債券・資本市場のベンチマ
ークを提案しており、現在検討段階にあります。政府の担当者が私の提案を受理して下さり、米
国の不動産担保証券(MBS)のような物を開発する予定です。まず、我々は政府系機関を設立す
る予定です。この機関が不動産担保証券の発行を行い、国内の建設会社や個人投資家等に資金を
供給いたします。これは、アメリカ流のファニー・メイ等に類似したものです。すなわち、この
ような市場創設が成功すれば、国債に代わるベンチマークを創ることが可能になります。はい、
そういったものです。
株式会社日本格付研究所、入村:ありがとうございます。私は日本格付研究所の入村と申します。
バークレイズ(シンガポール)のドミニクさんと、韓国金融研究院の姜鐘萬さんと、もしよろし
ければ、シン社のニッチャナンさんにご質問させていただきたいと思います。すなわち、資本規
制と税金問題およびこれに付随する問題で、リスクヘッジと債券投資に不可欠な債券・デリバテ
ィブ市場の育成についてです。金融不安の後、東南アジア諸国政府の多くが資本流入・流出に関
する規制措置を導入しました。ドミニクさんにお伺いしたいのは、国内のマクロ経済運営の微妙
な均衡政策、および規制が市場の育成に及ぼす影響についてです。また、韓国についてのコメン
トをもう少し詳しくご説明していただけませんか?先ほどご指摘された半自由化が債券市場の発
達を促す可能性についてです。
次の質問は、姜鐘萬さんにお尋ねします。資本規制およびそれらが韓国市場に与える影響につい
てです。先ほどお時間がなかったため省略されたセクションです。
最後にシン社のニッチャナンさんにお聞きします。タイ政府は最近、非居住者のバーツ口座につ
いてかなり厳しい規制措置を講じられたようです。あなたのお考えをお聞かせ下さい。あなたの
国が国外の債券市場に参入し、外貨建債券を起債する時に何か影響がありますか?また、外国人
投資家側からすれば、誰がタイ企業の発行したタイバーツ建債券の投資を望むのでしょうか?以
上が私の質問です。
司会(吉野教授):ありがとうございました。ドミニクさん、お答えいただけますか?
ドゥワー・フレコー:もちろんです。シンガポールは、とても漸進的な手段を用いて資本の自由
化を行ったようです。例を挙げますと、まず安定した銀行および監視システムが設置されている
5
不良債権
74
かどうか確認しました。また、銀行システム内の外貨エクスポージャーに一定の信用制限を設け
ました。また、シンガポールは長年にわたり自国通貨の非国際化政策を実施しています。しかし、
一番重要な措置としては、シンガポールドル建て資産の購入目的で、シンガポールドルを調達す
る際の規制緩和です。これは、自国の金融市場発展のための主要な措置の一つと考えられます。
またこれは、一連の取引が投機目的でない限り完全に緩和されています。つまり、債券、不動産、
その他の資産を現地通貨で購入するためであれば、シンガポールドルを好きなだけ借り入れるこ
とができます。
継続された一つの規制は、シンガポール法人でない企業が起債により調達したシンガポールドル
を国外へ持ち出す場合、外貨にスワップしなければならないことです。大半の国際取引はシンガ
ポールドルで決済されていないため、いずれにせよそれ程影響はないと思われます。従って、シ
ンガポールは非国際化政策を維持しつつ、外国企業によるシンガポールドルでの資金調達を認可
するという他の側面で自由化政策を実施しました。これにより、非居住者によるシンガポールド
ル建での起債が増加するという効果がもたらされました。また、韓国においても、同様のことが
実現可能だと思います。現状では、韓国法人以外の発行体が韓国ウォンを調達する際多くの規制
が課せられています。例えば、調達資金の国外移動の禁止や、国内法人以外は韓国内で起債でき
ない等です。韓国が外国企業の次の起債地となるであろうと考える理由は、この国のファンダメ
ンタルによるものであり、現状 A マイナスの格付けが、来年には引き続き格上げされると確信し
ているからです。この国は、潤沢な貯蓄や債券投資に加え、1500 億米ドル以上の外貨準備高を保
有しています。ですから、何もしなくとも毎年 60∼70 億米ドルの利息収入があるため、これらを
再循環させるためには、外国企業がウォン建てで発行し国外へ持ち出すことが必要になります。
また、最後になりますが、韓国にとって有利な点は、市場規模が約 5000 億米ドルにも及んでいる
ことです。この地域に存在する市場をみると、シンガポールや香港市場はよく発達しており、洗
練されているのにもかかわらず、市場規模は 600-700 億米ドルととても小さいため、市場拡大が
制約されています。韓国はそういった制約を受けません。
司会(吉野教授)
:ありがとうございました。続いては、韓国の資本規制についてですね、どうも
ありがとうございます。
姜:はい、ご質問は韓国の資本自由化についてですね。ご存じの通り、資本自由化には 2 つの側
面があります。メリットとデメリットです。周到な計画なしでの自由化は 1997 年のアジア通貨危
機を再来させる一因となるため、資本自由化や資本規制の効果についての議論は、非常に慎重で
なければなりません。私は、資本自由化については、十分な知識を持ち合わせておりませんが、
いずれにしても、資本自由化や資本規制といった類いの効果についての議論は、非常に慎重に行
う必要があると考えております。一部の国では、自国の経済安定化を維持するために外貨の流入・
流出を規制する必要があります。以上が、ご質問に対する答えですが、十分なお答えになってい
なければ、申し訳ありません。
司会(吉野教授):ありがとうございました。最後は、タイについてお願いします。
ニッチャナン:タイに関しては、クニガーさんにお願いします。彼女は、私と親しいバンカーで
あり、現在この市場と非常に深く関わっていらっしゃいます。
クニガー:ご質問は、タイ銀行における非居住者のタイバーツ口座の扱いに関するものと思いま
す。これは、通貨投機を減少させると同時に、国外からの投資、つまりオフショア市場の国内通
貨建ての確定利付債券への投資は抑制することがないように意図されたものです。これに関連し
て、外国人投資家がタイの現地通貨で投資する場合、かなり自由に通貨交換ができますが、言う
までもなくシンガポールのように、自国通貨での借り入れや投資を行うことは認められておりま
75
せん。タイでは、資本流出問題が大変懸念されています。そのため、外国人投資家がタイバーツ
建ての投資を希望する場合は、まずドルや円のような外貨を持ち込み、タイバーツにスワップし
た後、その資金をタイ国内の確定利付債等に投資することが可能です。これが、非居住者がバー
ツ口座を保有する本来の目的となります。
ヘッジ手段については、いろいろ懸念材料がございます。これは、かなり重要であり、深刻な問
題です。現地通貨のミスマッチ対策として何が実現可能かについて検討する際、アジア通貨のリ
スク管理に注目すると、おそらく現在最も進歩的なのは日本だと考えられます。日本は、非常に
流動性の高い相対取引と上場先物市場がありますが、韓国においては、債券先物と金利関連商品
の開発が行われている段階です。
他の国においては、各国の規制がヘッジ手段を積極的に取り入れる方向で進んでいるのがわかり
ます。残念ながら、私はヨーロッパの銀行から来ましたが、ヘッジ自体がヨーロッパか米国の銀
行の商品となっています。ヘッジ商品の市場レートは、実際、発行金額の規模やその他の条件で
決定されません。なぜなら、市場間の裁定取引として機能していて、基準となるベンチマークの
ような物が存在しません。また、金利先物もありません。これらの商品の値段は、まさに顧客の
需給により決定されます。我々は仲介業者として、需給という両端を見ることになります。
正直なところ、タイには先物市場がないため、市場リスクを管理する際大きなリスクを伴います。
基本的にヘッジする市場がありません。結果として、各銀行が莫大なリスクをとることが想定さ
れます。ヘッジのベンチマークが不在であるため、どの銀行も多大な金額を費やし市場リスクや
信用リスクを管理しているのは確かです。これは、連行している集団の一方の端にいる一人の犯
罪者に立ち向かい、同時に、反対側にいるもう一人の犯罪者に立ち向かわなければならない状況
を想像して下さい。市場には、市場リスクと信用リスクという 2 つの側面があるため、銀行は仲
介業者としてより適切な方法で実際のリスク管理をしなければなりません。しかし、上場先物市
場やデリバティブ・ヘッジの基となる妥当なベンチマークなしには、発行体や投資家が実際ヘッ
ジを行おうとすれば、より一層コストがかかります。ですから、検討していただきたいのは、日
本の方々が他のアジア諸国の人達とヘッジコストを減少させる方法を分かち合っていただきたい
ということです。この市場は、米国やヨーロッパのみならず我々皆の市場だからです。
司会(吉野教授):ありがとうございました。もう一人挙手されています。どうぞ。
東京三菱銀行、勝藤史郎:私は、東京三菱銀行の勝藤史郎と申します。日本の銀行から 1 つコメ
ントさせていただきたいと思います。姜さん、力強いご意見どうもありがとうございました。私
は、いくつかの点に同意いたします。第一に、銀行は債券市場において多くの役割を果たすこと
ができます。第 2 に、アジア通貨市場でのヘッジ手段が必要です。しかし、私の意見は、銀行は
市場を全く制覇していないということです。
歴史的にみると、銀行は通貨・債券市場の全域において権力を誇示していた時代がありましたが、
最近では、金融機関と呼ばれるものには、多くの種類がございます。例えば、銀行、証券会社や、
いわゆる生命保険会社、すなわち「生保」
(日本の生命保険会社)等です。投資家を探したり市場
の需要を創出したりする際、銀行に完全に依存する必要がなくなりました。私が強調したいのは、
銀行や証券会社や他の金融機関は、リスクや資本収益率の管理という点において、互いに競争し
ているということです。どの事業分野を拡大するかどうかは、各企業の判断に基づいています。
従って、発行会社の視点から言えば、発行企業は最終投資家との間に複数のチャンネルを持つ必
要があるということです。これは直接発行や、証券会社を通じての発行について言えることです。
同様のことが、デリバティブ商品における商品開発にもあてはまります。発行企業は、単一の大
手銀行に完全に依存することなく、アジア債券市場拡大にむけて独自で多くのチャンネルを獲得
していかなければなりません。
76
どうもありがとうございました。
司会(吉野教授):まだいくつかご質問があるかと思われますが、もう時間になりました。8 階に
昼食を準備しております。
散歩されたい方は、3 階からキャンパスに行くことができます。そちらでは、我々の大学の創立者
である福澤氏の記念碑がご覧になれます。福澤氏は紙幣を印刷することができませんが、1 万円札
には彼の顔が印刷されています。
午前セッションに参加いただき、ありがとうございました。どうぞ 8 階にお越し下さい。
[昼休み]
77
3. 国内の規制とインフラの構築
78
タイ証券保管機構
司会:それでは、午後の部を開始してよろしいでしょうか?このセッションは、
「国内の規制とイ
ンフラの構築」についてです。タイのコンケアウ・ピアムドゥアイザムさんのプレゼンテーショ
ンによりこのセッションを開始いたします。それでは、よろしくお願いします。
タイ証券保管機構会社、シニア・バイスプレジデント、コンケアウ・ピアムドゥアイザム:皆様
こんにちは。これから私は、当社とタイの社債市場の現状についてご説明いたします。お話しさ
せていただきたい事項はたくさんありますが、与えられた 15 分間で、ベストを尽くして発表した
いと思います。
まず始めに、当社、タイ証券保管機構会社の概要について説明し、その後で、タイの社債市場、
保管機関、証券登録機関、清算・決済システムのリスク管理、タイ銀行と各決済銀行との間のシ
ステム結合、そして当社の支払いシステムについてお話しいたします。最後は、社債の清算・決
済システムに関する今後の展開についてといたします。
タイ証券保管機構会社の概要
„
タイ証券取引所(SET)に必要不可欠な部門として存在
„
1995 年に事業開始
„
登記資本金 2 億バーツ
„
SET が 99%を出資
1975 – 1994 年
証券取引委員会が監督
1975 年から 1994 年にかけて、当社はタイ証券取引所(SET)の必須部門でありましたが、1995
年タイ証券取引所から独立し、総合的な保管業務を行う会社として登記資本金 2 億バーツで設立
されました。出資者はタイ証券取引所であり、証券取引委員会の監督下にあります。
業務
保管業務
清算・決済業務
証券登録
ファンド登録
バックオフィス
サービス
当社は、タイにおける中枢証券保管機関であり、唯一の証券受け渡し清算機関です。当社は多角
的ネッティングを採用し、タイ証券取引所に上場している全証券の受け渡し清算・代金決済を行
う効率的なシステムを備えています。また、当社は上場株式・社債やユニット型投資信託の登録
機関であると同時に、取引後のバックオフィス(事務処理)システムも提供しています。
79
参加企業
2003 年 9 月 30 日現在
仲介業者
37
発行企業
102
受け渡し清算・代金決済業務
仲介業者
37
登録業務
発行会社
449
保管業務
事務処理サービス
資産運用会社
3
仲介業者
7
カストディアン
30
その他
10
カストディアン
19
これらが、当社に参加している企業です。保管センターには、仲介業者、カストディアン銀行や
発行企業が参加しており、清算機関は、仲介業者やカストディアン銀行が会員となっています。
また登録業務については、株式発行会社と資産運用会社に対しサービスを提供しています。事務
処理サービスについては、現在のところ、7 社の仲介業者に提供しています。
債券市場
次はタイの社債についてです。タイ債券市場は、国債と社債という 2 つの主要な商品で構成され
ています。現在は国債が圧倒的に多く、市場発行残高の約 85 パーセントを占めています。国債に
は、政府債、財務省短期債券、国営機関債券(state agency bond)、国営企業債券(state enterprise bond)
の 4 種類があります。
タイ銀行は現在、すべての公共債についての保管機構、清算機構、また登録機構として機能して
います。また、国債の受け渡し清算・代金決済に関しては即時グロス決済を採用しています。
80
社債の取引高
฿100,000
฿90,000
฿80,000
฿70,000
฿60,000
฿50,000
฿40,000
฿30,000
฿20,000
฿10,000
฿0
1998
1999
2000
2001
2002
2003
(Sep)
このグラフは、1998 年から 2003 年までの社債の取引高の統計を表したものです。ご覧のように、
社債の売買高は 1998 年から 2001 年まで急増していましたが、2002 年に入り鈍化し始めました。
しかしながら、タイ債券市場は、政府の支援をうけ今後も発展すると思われます。
現在、国債および大部分の社債はタイ債券ディーリングセンター(BDC)に登録されています。
すべての債券取引は、タイBDCへ報告されなければなりません。タイBDCは、流通市場に対し取
引情報を普及させる義務があり、この情報は市場での参照事項として用いられています。社債は
店頭(OTC)で売買されたり、売り手と買い手による電話交渉で売買されたりしています。
清算および決済は、買い手と売り手が当社の振替決済制度を用いて行われます。従って、買い手
と売り手の間で決済が履行されないという、カウンター・パーティー・リスクが存在します。こ
れは、投資家の社債市場参入を妨げる要因になります。
取引システム
‹
取引プラットフォーム:タイ証券取引所(SET)
‹
取引時間:午前 10:00∼午後 12:30 午後 2:30∼4:30
時間外取引:午後 4:30∼5:00
‹
取引会員:債券販売員資格を有する仲介業者
‹
取引単位:1 取引単位=100 単位の債券
‹
スプレッド:0.01 バーツ
81
そこで、このような障害を認識したタイ証券取引所は、社債投資の円滑化および投資家に新たな
取引手法を提供する目的で、証券取引プラットフォームを開設しました。この取引プラットフォ
ームは来月(2003 年 11 月)稼働予定です。
取引時間は、午前と午後の 2 部により構成されています。午前は、10 時から 12 時半まで、午後は
2 時半から 4 時半までです。また、時間外取引は 4 時半から 5 時までです。取引参加者は、債券販
売員資格を有する仲介業者でなければなりません。
取引後のサービス
• TSD の役割は 保管センター
清算機関
登録機関
SET 上場企業が発行し、公募により販売された社債、転換社債およびワラント債を対象とする。
当社は、タイ証券取引所で取引される社債の清算機関であると同時に保管センターであり、さら
に登録機関でもあります。
82
保管業務と登録業務
エラー!
仲介
業者
Mr. A
+XXXX
カストディ
口座
TSD
-XXXX
MR. A
顧客勘定
自己勘定
決済システムについて説明する前に、まず保管・登録システムについて手短にお話したいと思い
ます。なぜなら、このシステムにより社債が決済されるからです。
この図からお分かりのように、TSDは債券を当社に寄託する投資家の名義人となります。投資家
が債券の保管をTSDに希望する場合には、当社の参加企業に連絡しなければなりません。参加企
業は、自己勘定と顧客勘定を分別しておかなければなりません。参加企業が当社に債券を寄託す
る時には、その債券の金額は投資家の名義人であるTSDの名前で登録されます。
一方、投資家は発行企業から直接、財務上のすべての権限を受けられます。投資家が債券を引き
出したいと希望する場合には、同じく参加企業を通じて連絡をすることになります。TSD は、指
定された仲介業者、もしくはカストディアン銀行の口座からその分を引き出した後、登録機関に
対し投資家のために新たな証券の発行を指示します。
清算および決済方法
•
TSD は、受け渡し清算および決済の保証人
•
証券と資金の同時決済(DVP)
•
受け渡し清算および決済方法
„ 多角的ネッティング
z
決済日:取引日の 2 日後(T+2)
当社は社債の清算機関として、店頭取引を除きタイ証券取引所で取引されたすべての債券にかか
83
わる受け渡し清算および代金支払いの保証人となります。また、多角的ネッティングシステムを
採用し、債券受け渡し清算に関しては、振替決済制度を利用しています。代金支払い業務は、タ
イ銀行もしくは決済銀行からの電子送金により行われます。資金決済日は取引日の 2 日後です。
清算機関の参加企業として承認されるためには、保管センターに参加し、TSDネットワークと連
携していることが必要です。
受け渡しおよび資金決済のプロセス
T
エラー!
売り
(仲介業者)
買い
確認
確認
売買
注文の執行
売買
注文
注文
売り
顧客
T+1
TS
買い
顧客
ネッティングレポート
受け渡しと代金決済に関しては、全取引情報が取引日(T)の終わりに TSD に電送されます。債
券取引当日(Day T)のネッティングレポートは、取引日の翌日(T+1)に入手できます。
84
ネッティングレポート
T+2
清算業務
ネット−買い
ネット−売り
TSD
仲介業者 / カストディアン
仲介業者 / カストディアン
代金支払い
(電子資金決済)
午後 2:00
受け渡し
(振替決済)
午後1:30
口座
•バーツネット−カストディアン
•決済銀行−仲介業者
仲介業者ネット−
買い
+XXXXX
仲介業者ネット−
売り
−XXXXX
証券受け渡しのため、参加企業は取引日の 2 日後(T+2)の午後 1 時半までに、ネッティングレポ
ートの清算口座に十分な額の債券残高を保持しておかなければなりません。
エラー!
支払いプロセス
T+2
受け渡しプロセス
仲介業者
決済銀行
午後2:00
資金移動
カストディアン
午後1:30
TSD の参加企業の口座に有価
証券の残高が必要
午後1:40
TSD は買い注文の口座に
振替(証券は封鎖)
バーツネット
午後2:15
参加企業は自己の有価証券および資金を利用可能
85
参加企業が十分な額の債券を口座に保持するためには、取引日の午前 10 時 30 分までに債券を TSD
に寄託しておかなければなりません。
決済は午後 1 時 40 分、支払いは午後 2 時に行われます。このシステムでは、午後 1 時 40 分に「売
り」参加企業の口座の残高確認が行われ、ネッティングレポート記載の金額が借り方記入された
後、同金額が「買い」参加企業の口座の貸し方に振り替えられます。
「買い」参加企業が午後 2 時
に決済銀行やタイ銀行のバース・ネット・システムを利用して支払を完了するまで、貸し方記入
された債券は封鎖されます。上記のチャートは、債券の受け渡しおよび代金支払いの時間帯を表
しています。
リスク管理
参加企業の要件
参加企業の監視
•
自己資本:1 億 5 千万バーツ以上
•
純資本比率 ≥ 7%
•
月次報告書
•
≤ 純資本額の 8 倍
- 財務状況
決済金額の上限
(株式・債券の正味決済金額)
当社は、受け渡し・代金決済業務にかかるリスクを最小限にするために、様々なリスク管理手段
を開発しました。参加企業の要件は、1 億 5 千万バーツ以上の自己資本維持に加え、総負債に対す
る純資本の割合を 7 パーセント以上に維持することです。また、参加企業の財務の健全性や流動
性を示す純資本に関する状況を記した月次報告書や損益計算書の提出が義務づけられています。
さらに、参加企業に対し、株式・債券の決済金額の上限が純資本額の 8 倍以下であることを義務
つけています。
リスク管理
リスク監視
担保提供義務
•
早期警告システム
•
決済金額の上限
•
調査
•
決済不履行、 SBL および
担保に関わるリスク管理
クリアリング・ファンド
•
株のファンドと同様
•
拠出金:参加者のリスク・エクスポージャー
当社は、最大想定損失額の測定や値洗い方法により、5 パーセントの損失率を許容限度とする早期
警告モデルを設けています。5 パーセントもしくはそれを上回る損失率を計上した参加企業は、レ
86
ポートを受け取る日に担保を提供しなければなりません。また、参加者の破綻に備え、損害を補
填するためのクリアリング・ファンドを設定いたしました。参加企業は、入会費用と月次拠出金
を支払う義務があります。月次拠出金はリスク評価に基づくことになっており、その金額はリス
ク・エクスポージャーにより算出されます。参加企業が債務不履行に陥った場合、まず当事者の
拠出金を引き当て、その後他の参加者の拠出金が引き当てられます。
リスク管理
準備金(2003 年 9 月 30 日現在)
•
クリアリング・ファンド
3 億 4100 万バーツ
•
オーバードラフト
20 億バーツ
•
TSD
2 億 5 千万バーツ
•
SET
20 億バーツ
このスライドにありますように、当社は準備金もございます。
システム統合
有価証券
TSD
SET
資金
ファイル
TSD
SDCシステム
Setnet II /
ダイアル回線
参加企業A
インターネット
Setnet II /
ダイアル回線
決済銀行 / 参加企業
参加企業 B
タイ銀行と当社は、システム上統合(CSS と呼ばれる)されています。
87
タイ銀行
バーツネット
また、決済銀行とタイ銀行は同じネットワークを使用しています。
今後の展開
•
即時グロス決済の開発
•
タイ銀行との連携の進展
•
新しい制度およびアジア債券市場の基盤となる法規制の改善
•
全種類の証券の受け渡し・代金決済にかかる統合されたインフラの構築
今後の展開として、当社は来年、株式・債券に関わる即時グロス決済を開始するとともに、タイ
銀行の新しい中央決済システムの利用を開始する予定です。これにより、多企業間資金移動の際、
当社の指示に従い参加企業間の口座振替が可能になります。このシステムは、支払の効率性を向
上させつつ決済リスクを減少させると考えられます。
また、関係者との協力により、新しい事後取引システムの基盤となる法規制を整備する予定です。
当社の新規事後取引システムは、株式・債券・デリバティブといった多くの商品をサポートする
統合された受け渡しおよび代金決済システムであり、来年初めに稼働する予定です。市場参加企
業は、このシステムの恩恵を受けることができます。当社は標準となる通信手段(プロトコル)
の普及に向けて全力を注ぎます。
政府の支援を受け、自動化された電子取引、受け渡しおよび代金決済がタイ債券市場の成長をも
たらし、アジア債券市場の基盤となることを確信いたします。
どうもありがとうございました。
88
アドナン・サンドラ法律事務所(マレーシア)
司会:コンケアウさん、ありがとうございました。では、債券市場の法的側面に移ります。次は、
アドナン・サンドラ法律事務所のディーパック・サダシバンさんの発表です。
マレーシア・アドナン・サンドラ法律事務所、弁護士、ディーパック・サダシバン:皆様、こん
にちは。私は、ディーパック・サダシバンと申します。まず始めに、本日の午後こちらにご招待
いただき発表の機会を賜りましたことに対し、吉野教授とNIRAにお礼を申し上げたいと思います。
おそらく、私は本日ご出席の皆様の中では唯一の開業弁護士だと思いますので、法的側面につい
て、アジア債券市場に関わる法律上の観点に立った論点についてお話しさせていただきたいと思
います。
あいにく、私はプレゼンテーション用の資料を持ち合わせていません。本日、私自身がここでお
話しすることがすべてです。本プレゼンテーションでは、2 点ご説明させていただきます。
1.
マレーシアの債券市場に関わる法制度はどういうものか?
2.
統合されたアジア債券市場に影響を与える法律問題として何があるか?
第 1 部では、私の国であるマレーシアの債券市場に関わる法制度はどういうものかについて少し
お話しした後、第 2 部では、統合されたアジア債券市場に影響を与えるいくつかの法律問題につ
いてご説明させていただきたいと思います。
債券市場に関わる法制度
プレゼンテーションの第 1 部を始めます。この 7、8 年の間にマレーシアの債券市場は大幅な発展
を遂げました。これに伴い、商業活動の成長の基盤となる法制度も大きく進化いたしました。
89
2001 年にマレーシアで初めての証券化がわれて以来、多くの仕組商品が開発されています。一部
の株式連結・クレジット連結商品も同様の発展を遂げています。法律や法制度もビジネスの変化
に対応しながら自然と発達していきます。
3 つの局面
1.
法律自体
2.
規制
3.
取引の仕組み
債券市場に関するマレーシアの制度は以下の通りです。
まず、3 つの局面がございます。言うまでもなく、法律自体、規制、最後に取引の仕組みが挙げら
れます。
法律
マレーシアの法律は、英国法とかなり類似しています。契約に関してはインドから、株式会社に
ついてはオーストラリアから多くを取り入れていますが、法律の大部分は英国の法律と非常によ
く似ています。
規制
規制につきましては、規制機関である証券委員会が市場参入も含めて債券市場を取り仕切ってい
ます。マレーシアの債券市場において発行を希望するいかなる発行体も、証券委員会から認可さ
れなければなりません。ただし政府保証債や政府機関の発行債など適用除外されているものもあ
ります。債券は、認可取得後信託証書1として発行されなければなりません。
マレーシアの債券の代表的なものは、信託書類を基に構成されています。すなわち、受託者2は 社
債権者の財務代理人として効率的に事務を行い、発行体に対抗して社債権者を保護します。信託
証書には、債券にかかわる契約条件のすべてが記載されています。マレーシアの制度では、債券
発行前の情報開示を基本としています。すなわち、証券委員会と投資家に対して、債券の種類、
債券と発行体にかかわるリスクおよび発行会社の事業計画などすべての情報開示が義務づけられ
ています。
1
債務の弁済を確約するために発行体が受託者に預託する信託証書。信託受益権証券の保有者である投資家に対す
る元利金の支払い(分配)は、信託証書の条項に基づいて受託者(Trustee)によって行われる。
2
債務の履行を確保するために、他人(債権者)に代わって信託財産を管理する者。
90
プロの投資家として認定された特定投資家層が存在します。これらの投資家にとっては目論見書3
は不要です。その他すべての投資家用に目論見書を発行する場合は、証券委員会のガイドライン
に沿った目論見書を添付することが要求されます。
プロの投資家、あるいはプロの投資家向けに起債する発行企業の場合、申し込み勧誘資料を発行
するか否かの選択ができます。不要だと判断した場合は、発行の必要はありません。ペトロナス
やゲンティングのような特定の発行会社は、市場での知名度が高いため、申し込み勧誘資料をさ
ほど必要としません。すなわち、会社の知名度に依存する方法をとっています。
知名度の低い発行体は、通常申し込み勧誘資料を発行します。この書類は目論見書と同等に扱わ
れるため、すべての企業情報の適正な開示が義務づけられ、重要な内容が欠如している場合は民
事および刑事上の罰則が課せられます。以上が債券市場の法的側面についてです。申し上げるま
でもなく、以上は要約であって、すべてを網羅しているわけではありません。
取引の仕組み
取引、つまりマレーシアでの債券売買の方法に関しては、RENTAS(資金と証券のリアルタイム電
子振替)と呼ばれるシステムを使用しています。通常、債券は以下の 2 つのうちどちらかで取引
されています。
1 つ目のケースは、この電子システム RENTAS によって売買されている場合であり、他方のケー
スは、証券取引所に上場されている場合です。後者においては、証券取引所の規則や規制に従い
売買されています。
RENTAS により売買されている債券に関しては、マレーシア中央銀行が中央振替決済機関の役割
を担います。マレーシア中央銀行が債券を保有し、多数の商業銀行が認定された保管機関となり
ます。投資家が債券投資をする場合は、認定された保管機関で口座を開設しなければなりません。
認定された保管機関が投資家に代わり中央銀行での債券受け渡し処理を行い、すべての取引は
RENTAS システムを通じ実行されます。
支払い代行者である中央銀行が同様に支払いも担当します。当然のことながら、これは発行会社
からの入金後になされます。
3 目論見書。目論見書とは、有価証券の募集あるいは売出しにあたって、その取得の申込を勧誘する際等に投資家
に交付する文書で、当該有価証券の発行者や発行する有価証券などの内容を説明したものをいう。目論見書を交付
する目的は、投資家の投資判断の基準となる情報を提供することにある。一般に、目論見書には、発行者名、事業
内容、資本構成、財務諸表、手取金の使途などの発行者に関する情報、発行総額、発行価格、利率、払込日、満期
日などの発行する有価証券に関する情報、および引受人名、引受額、手数料などの引受に関する情報が記載されて
いる。
91
イスラム商品
ご存じのように、最近マレーシアにおいて飛躍的な成長を遂げたものとして、イスラム商品があ
ります。イスラム商品は他の商品と同じ規則に準拠します。また、証券委員会の承認が必要です。
加えて、その地域でのイスラム委員会であるシャリア委員会から、その商品がイスラム主義に合
致しているかどうかの認可を受けなければなりません。適用される法律はまったく同じで、マレ
ーシア民法に従うことになりますが、取引の原理はイスラム主義です。従って、イスラム主義の
法的原則と通常の法的原則とが多少複合されたものとなります。
非常に簡単ですが、以上が債券市場に関する法的立場についての概要です。
統合されたアジア債券市場に影響を与える主な問題点
‹
市場参入
‹
規制の統一
‹
準拠法
‹
法律の運用
第 2 部に移ります。ここでは、統合されたアジア債券市場に影響を与えるいくつかの主要な問題
についてお話しいたします。
市場参入
1 番目は市場参入についてです。例えば外国の投資銀行がマレーシア国内で業務を行おうとする場
合には、一定の規制が課せられます。参入に先立って投資アドバイザー免許の取得が義務づけら
れています。
この投資アドバイザー免許を取得した外国銀行もありますが、一般的に外国銀行がマレーシアで
存在を認められるのは、海外に絡んだ起債案件に限定されます。例えば、マレーシアの発行企業
がユーロ債市場で起債を希望する場合は常に、モルガン・スタンレーやメリルリンチもしくはそ
の他外国の投資銀行と国内投資銀行を併用し、国内投資銀行が証券委員会への起債申請を担当す
ることになります。
統合された市場といった類いの市場ができれば、マレーシアの投資家がタイに出かけてタイの証
券に投資したり、タイの発行企業がマレーシアで起債したりすることが可能になります。そうし
た場合には、国内の投資会社にもう少し市場参入の余地を与えるのが適切だと思います。なぜな
らマレーシアの発行企業は自国の投資銀行と馴染みが深いため、その投資銀行を訪ね「インドネ
92
シアで起債したい」等と言うことができるようにするためです。
マレーシアの投資銀行がインドネシアで活動するのが許されず、コンタクト先も得られない場合
には、インドネシアでの起債を仲介するのは困難だと思われます。このように、今後良く見張っ
ていなければならない特定の免許取得やその他の制約が存在しています。
規制の統一
2 番目は、今までも既に多くの方が述べられたことです。すなわち、規制の統一についてです。現
在各国で規制が統一されてないことが、債券市場を統合させるにあたっての非常に大きな障害と
なっていると思われます。マレーシアの発行体は、自国の手続や規制を熟知していますが、タイ
やインドネシアでの手続については何も分かっていません。こうした手続が発行企業にとって厄
介で扱いにくい場合、誰の目から見ても手続き自体がかなり面倒くさくなっていると考えられる
場合には、他国に行ってその国の手続に従って発行することは一層困難になります。このように
規制の統一がなければ、真の統合に向けてさらなる障害がもたらされることになると考えられま
す。
準拠法
私がお話ししたい点は、さらに 2 つあります。1 つは、準拠法についてです。ここにいらっしゃる
大部分の方はおそらく言及されないと思いますが、私は大変重要だと考えています。現在ユーロ
債発行にかかる法律は、伝統的に英国法もしくはニューヨーク法に基づいています。理由はとて
も単純です。
世界中の投資家、あるいは少なくともヨーロッパの投資家は、これらの法律になじみが深いので
す。これらの法律がどこに帰結するか、どう適用されるかについて認識しています。もし、ここ
に統合されたアジア債券市場があり、タイの債券をインドネシアで発行したい場合、この商品に
ついての準拠法はどれであるかが争点となります。
「タイ法の内容が分
この商品についての準拠法がタイ法と仮定すると、インドネシアの投資家は、
かりません」というでしょう。また、支払いを受けるとどうやって分かるのか?
社債に対して
請求権を行使した場合に発行会社がどんな対抗措置を取れるかをどうやって分かるのか?
これ
は極めて重要な争点になると考えられます。なぜなら、当事者同士が異なった類いの法的原則に
基づいて取引を行っている場合、対象商品の仕組みに関して異なった理解をしているため、両者
を統合させるのは大変困難であるからです。
この問題をどうやって解決したらよいか分かりません。明らかに、1 つの解決方法として、ある国
の法律を選択し、この法律がアジア債券市場のすべての起債についての準拠法だと宣言すれば、
93
他のすべての国は選択された法律を熟知しなければならなくなるでしょう。あるいは、中立的な
法律として英国法やニューヨーク法を選択することも可能ですが、これにはまた別の問題があり
ます。なぜなら、地元の弁護士はこれらの法律について、アドバイスできる能力がないからです。
さらに、誰が書類を作成できるかという問題もあります。明らかに、国内での起債書類作成のた
めに外国の弁護士に頼る必要はありません。また、規制当局者自体が種々の法律を熟知していな
ければ、法律の含意を理解できるのでしょうか?
法律の運用
お話ししたい最後の点は、法律の運用についてです。言うまでもなく、現在すべての国には、独
自の裁判制度が存在しています。すべての国はそれぞれ異なった制度に基づいています。インド
ネシアはオランダ志向であり、シンガポールとマレーシアはかなり英国志向の強い制度だと思わ
れます。投資家はここでもやはりある種統一された制度を求めます。投資家は、自国と同様の方
法で権利を守らせるようになっていることが確認できなければ、他の国に来て安心して投資する
ことができません。起債することは、なおさらできません。
ここでもう一度、検討していただきたい 1 つの事柄があります。すなわち、アジア仲裁センター
を設置し、そこで債券に関するすべての係争を取り扱うと同時に、そのような状況の下で適用さ
れる一連の規則を制定させ、それらをすべての関係者に周知させるようにすることです。
以上が、私がお話ししたかったことです。先にも申し上げた通り、私はこの問題に関する解決策
を何も示すことができません。
お話ししたのは、この問題に密接に関連すると思われる事柄のみです。明らかに、実際この件に
ついて何らかの行動ができるのは、規制当局者や政府です。本日ご出席の皆様には彼らを動かす
ことができると思います。
我々、法律の実務の専門家は、ずっと後方に位置します。その出番は、最終局面になりますので、
皆様がこの問題を率先して進めていただけることを期待しております。
どうもありがとうございました。
94
95
マレーシア証券委員会
司会:サダシバンさん、ありがとうございました。次は、マレーシア証券委員会(SC)のジェス
ビン・カウルさんにお願いします。彼女は、戦略・リスク管理部門の国際部の担当でいらっしゃ
います。
マレーシア証券委員会、国際部、戦略・リスク管理部門、シニアアナリスト、ジェスビン・カウ
ル:皆様、こんにちは。私はマレーシア証券委員会の国際部に所属しておりますが、以前は戦略・
調査に関わっており、2001 年に発表された資本市場基本計画にも携わっていました。そこで私の
プレゼンテーションでは、マレーシア債券市場の発展に関して、かなり戦略的な側面から述べさ
せていただきます。
マレーシア債券市場の規制は、SC と中央銀行であるバンクネガラの承諾が大部分を占めます。SC
は社債の発行市場と上場債券の流通市場を規制し、他方、中央銀行であるバンクネガラは、公共
債市場の管轄と非上場債券の流通市場の規制を担当しています。
・マレーシア債券市場の概要
資本市場の資金源を効率的に配分する
ª
アジア危機以降、資本市場が急成長
ª
資本市場で調達された資金は 1990 以来年平均 19% の成長を遂げる
ª
債券市場の著しい発達−公共債・民間債の規模が 3 倍となり、1996 年の GDP の 46.9%から 2003
年 8 月には GDP の 91.5%となる
ª
高い貯蓄率−国民総貯蓄率は 35%
マレーシアの資本市場はアジア危機以来、急成長を遂げました。危機にもかかわらず、資本市場
での調達資金は、1990 年以来年平均 19 パーセント増加しています。債券市場の成長も非常に顕著
であり、1996 年には GDP の 47 パーセントだったものが、2003 年 8 月には GDP の 92 パーセント
まで規模拡大いたしました。
96
10億ドル
(LHS)
12
資本市場における調達資金
10億ドル
(RHS)
新発エクイティ債(LHS)
110
新発国債(LHS)
10
新発民間債(LHS)
100
名目GDP(RHS)
90
8
80
70
6
60
4
50
2
0
19
90
19
91
19
92
19
93
19
94
19
95
19
96
19
97
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
30
(1月∼8月)
マレーシア・ネガラバンク提供
(2003 年 1 月∼8 月)
新発エクイティ債
3%
新発公共債
新発民間債
45%
52%
過去 10 年間、マレーシア債券市場は国債中心の市場から公共債、準政府債および民間債が複合し、
より均衡のとれた市場へと推移していきました。私募債(PDS)、マレーシアにおいて民間債を指
す言葉ですが、は、今年資本市場調達資金総額の 52 パーセントになった一方、公共債は 45 パー
97
セントに達しました。貯蓄率、すなわち国民総貯蓄率は 35 パーセントです。
ベンチマーク形成のための公共債
・財政黒字の時代(1993 年∼97 年)・は、公共債発行が減少
・1998 年来の急伸は民間債の「クラウドアウト(押しのけ)効果」によるものではない
・資本市場育成のため、ベンチマークとなるイールドカーブ形成に向けた定期的な発行
・国債の流動性の向上 → イールドカーブ確立のために重要
・国債の売買代金は民間債の 2 倍
民間債の発行総額
GDP (%)
十億RM
12
40
10
35
8
30
6
発行総額
25
4
対GDP比率
2
20
0
15
-2
10
-4
-6
5
-8
-
-10
19
90
19
91
19
92
19
93
19
94
19
95
19
96
19
97
出所:マレーシア・ネガラバンク
98
19
98
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
債券の売買代金
350000
300000
公共債
250000
民間債
200000
150000
100000
50000
0
1999
2000
2001
2002
出所:マレーシア・ネガラバンク
2003
1月∼9月
これまでマレーシアの国債は年間最低 3 回発行されていました。しかし、1993 年以降、マレーシ
ア国債の年間の発行回数と金額は、その年の政府の財政赤字額により決定されることになりまし
た。1990 年代における黒字財政時代には、新発国債は、1993 年、1994 年、1995 年には、1 度ずつ
しか発行されませんでした。
しかし、1998 年には政府の財政赤字を一部賄うために新規発行が 5 回行われ、同時に、危機後の
経済を回復するための措置が講じられました。
続いて、ベンチマークとなるイールドカーブを確立するための取り組みがなされました。1998 年
以来、マレーシア国債の流通市場での売買は大幅に増大しました。危機後の売買金額の急伸は主
に、(1)金利の低下、(2)高い流動性、(3)発行金額の増加、(4)マレーシア国債の定期的な供給、およ
び(5)特定機関投資家に対する法令遵守要件の自由化によるものです。
民間債の急成長
ª
1998 年以降、長期資金調達のための主な資金源
ª
長期インフラ計画(有料道路)、給水・電力供給計画のための資金調達
ª
普通債、イスラム債、ローン担保証券、社債担保証券
ª
投資資金に対する魅力的な資産−過剰な流動性および金利の低下
ª
民間債の評価 ‒機関投資家がより一層参加
99
民間債の発行総額
10億RM
40
35
従来型
30
イスラム債
25
20
15
10
5
0
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
出所:マレーシア・ネガラバンク
民間債発行−セクター別内訳(2001 年から 2003 年 8 月まで)
全体の%
25
20
15
10
5
0
農業
製造業
建設
電力
インフラ
金融
政府
貿易
民間債は 1997 年のアジア危機の余波を受け、民間部門において最大の資金源となりました。債券
発行による調達は、1998 年から 2002 年における資金調達の総額の 1/3 を占めました。国内債券市
場の GDP に対する割合は、危機前は低く、1997 年は GDP の 51 パーセントでした。一方、債券市
場の急成長により金融システムのレバレッジが少しずつ増加してきました。しかし、この増加は、
貸し付けの停滞に起因するのであって、危険信号の原因とは見られていません。さらに、近年に
おける政府の景気刺激策の対象となったインフラ構築のために、非常に大量の長期債が発行され
ました。これらの債券の満期は殆どが 7 年以上です。
100
国内債券市場には、多くの商品があります。例えば、コマーシャル・ペーパー、長期資金調達枠、
手形発行、普通社債、転換社債、イスラム債、ワラント債があり、それぞれの違いは、主として
保有期間、利息支払い法、元本支払い法です。
・アジア危機の教訓
1.
マクロ経済の安定および資本市場育成を支える健全な金融制度の必要性
・金融・企業部門を再構築するための方策
2.
効率的で、コスト効率の良い手続や市場セグメントの拡大により資金調達手段を多様化
・債券市場改革 → 銀行部門への過度の依存を減らす
3.
健全なリスク管理を実行する重要性
・リスクに基づく方法
4.
市場育成に関するイニシアティブに適切な優先順位をつける
・市場育成に関しブロック・ビルディング法を採用
・投資家の信頼を強化
アジア危機の教訓として学んだことは、1997 年から 1998 年にかけてのアジア金融危機によって、
マレーシアの経済運営の基盤となる政策的枠組みの大幅な再評価が余儀なくされたということで
す。SC 証券委員会による資本市場全般、特に社債市場の育成の取り組みと関連していくつかの重
要な政策上の教訓が浮上しました。
1 つ目の政策上の教訓 は、全体的なマクロ経済の安定と、資本市場のイニシアティブの基礎とな
る健全な金融制度とが最優先で要求されることです。危機による不動産部門の経済縮小効果を最
小限に抑え、景気回復の実現に向けて金融制度を強化するため、次に挙げる 3 つの政府機関が設
立されました。まず、国営資産運用基金のダナハルタが、政府保証付きゼロ・クーポン債4を発行
することにより、銀行が保有する不良債権・資産の買い取りおよび再生を行う目的で設立されま
した。次に、国営投資機関のダナモダルが、ダナハルタの業務を補完し、破綻寸前の銀行の資本
構成変更を手助けする目的で設立されました。最後に、3 番目の機関として企業債務処理委員会
(CDRC)が、返済能力のある債務者と債権者を同席させ、債務にかかわるすべての問題を話し合
わせることにより、両者の意見の相違が解消するのを手助けする目的で設立されました。
2 つ目の政策上の教訓は、コスト効率の高い手段や市場セグメントの拡大により資金調達の多様化
が図れるということです。銀行部門は、危機に直接さらされていたため、新規の借款を供与する
事に対し極めて慎重でした。
危機後、融資の伸びは緩慢でした。例えば、1998 年と 1999 年の伸び率は政府が目標とした 8 パー
セントを下回りました。
4
ゼロ・クーポン債。割引形式で発行される債券でクーポン(利札)がなく、償還までの間利払いがない。
101
結果として、民間企業が資本市場で資金調達する必要が一層差し迫ったものとなりました。しか
しながら、社債発行手続には、構造的な欠陥が存在していました。
結果として、債券発行までにかかる期間は、9 ヶ月から 12 ヶ月にまでなっていました。加えて、
適債基準が明確にされていなかったので、発行会社は、起債の提案がいつまでに承認され、否認
されるかが不明でした。
政府は、民間企業の資金調達を遅らせないことを確実にするため、債券発行手続の改革を前倒し
し、社債の規制は SC に一元化されました。さらに、効率的かつコスト効率の高い発行手続を確実
にする透明性のある基準を設定するために、あらゆる努力が払われました。
リンギット建て債券市場育成の際に得られた 3 つ目の重要な教訓 は、健全なリスク管理と慎重な
クレジットリスク評価を実践できる数多くの金融仲介機関が必要だということです。これについ
ての重要性は、強調され過ぎるということはありません。マレーシアでは、情報開示に基づく規
制の枠組みを熟知し、市場原理に基づく環境下での厳しい信用評価に慣れている仲介機関を多数
育成することが大変重要です。このような仲介機関を教育・訓練し、高いプロ意識と経営スキル
を教え込むことは、強調され過ぎることはありません。
4 つ目の政策上の教訓は、市場育成に関するイニシアティブに正しい優先順位をつけることです。
マレーシアにおける資本市場育成の現段階において我々が直面している問題は、投資家、発行体
および仲介機関といった市場参加者の洗練度に照らして、社債をどの程度まで奨励したら良いか
です。このような問題は市場の力で決まり、市場原理に基づいた環境下では買い手責任が問われ
ると説く人もいますが、SC が投資家の信頼を維持することは非常に重要です。国内資本市場や経
済の発展にともない、この問題を含むその他多くの諸問題は、市場育成に関するイニシアティブ
に優先順位をつけることの重要性を示唆しています。
・法律・市場育成に関する主なイニシアティブ
資本市場基本計画は、資本市場の全体的な戦略を示す
・資本市場基本計画は、マレーシア資本市場の長期戦略の方向性を設定
・マレーシア資本市場のあるべきビジョンとして:
„
国際的に競争力があり
„
資金流動化・配分のための有効なパイプを提供し、
„
促進的かつ安定的な規制の枠組みに支えられている
102
第2段階
第1段階
国内生産力を高め、戦略的
に重要であり、発生期にあ
る産業部門を育成
2001
2003
第3段階
主要な産業部門を引き
続き強化し、市場参入
を徐々に自由化
2004
2005
資本市場の完全な発達に向けて、市場にお
ける手続・インフラをさらに拡大・強化し、
比較上・競争上優位な分野において国際的
立場を強化
2006
2010
2001 年 2 月に実施に移された資本市場基本計画では、債券市場を競争力のある資金調達手段とし
て発達させる計画を含むマレーシア資本市場 10 カ年戦略ロードマップが制定されました。第 1 段
階にある大部分の提案は既に実施されたため、現在 SC は 2004 年に始まる第 2 段階に向けて進ん
でいます。
債券市場育成のための法律上の取り組み
マレーシア債券市場委員会(NBMC)
-
1999 年に設立
-
社債市場の秩序ある発展に向け総合的な政策の方向づけをする
-
資本市場基本計画のイニシアティブに支えられた適切な実現戦略を見極め、
それを推奨する
基本計画にある提案は、マレーシア債券市場委員会(NBMC)の監督下で遂行されるイニシアテ
ィブをサポートするものです。この委員会は、1999 年に設立され、社債市場の秩序ある発展に向
け総合的な政策の方向付けを提供し、また社債市場発達の問題について詳細な研究を行います。
さらに、適切な実現戦略を見極めつつ、それらを推奨します。この委員会は、財務省の事務局長
が委員長を務め、中央銀行、SC、登録機関、外国投資委員会および財務省の幹部により構成され
ています。
NBMC による主なイニシアティブ:
ª 効率的で容易な起債手続を導入
ª 信頼性があり効果的なベンチマークとなるイールドカーブの確立
ª 発行企業および投資家層の拡大
103
ª 流通市場の質の向上
ª リスク管理商品の導入促進
債券市場育成の手順
•
高
•
•
•
開発者
•
効率的で容易な発行手続を導入
信頼性があり、効果的なベンチマークと
なるイールドカーブの確立
発行企業および投資家層の拡大
流通市場における流動性の向上
リスク管理商品の導入促進
媒介者
SCの参加度
促進者
低
高
市場の参加度
活気ある債券市場の育成は、効率的な市場インフラに加え、安定した規制の枠組みや流動性とい
った様々な構成要素が必要です。
育成の初期段階においては、効率的な市場インフラが債券市場育成のための必要条件になると同
時に信頼できる受け渡し清算・代金決済システム、格付け機関、仲介機関やベンチマークとなる
イールドカーブの創設が要求されます。
次の段階においては、透明性のある承認手続、情報開示要件、投資家保護や市場の一体性を基礎
とした安定した規制の枠組みを開発しなければなりません。市場拡大が進み、債券市場が活性化
してくると、流通市場における売買の活発化、投資家・発行企業の層の拡大、新たな資金調達手
段や投資運用のニーズに応えるための多様な満期の様々な商品が要求されてきます。
104
債券市場の育成
○ 効率的かつ促進的な起債手続の導入
ª 2000 年 7 月に、SC が唯一の規制当局となり、社債発行の認可を与える
ƒ
完全な情報開示を基にした規制の導入
ƒ
社債の一括登録制度
ƒ
債券発行手続に要する期間を 14 営業日に短縮
ƒ
民間債・資産担保証券のガイドラインの発表
ª 投資家の情報開示要件の拡大
ƒ
債券発行目論見書の内容についてのガイドライン
ª 投資家の法的保護の強化
ƒ
信託証書に関する最低必要項目についてのガイドライン
SC による最初のイニシャティブは、資金調達方法の近代化に関連したものです。2000 年 7 月 1
日に、SC は資金調達活動を担当する唯一の規制当局となりました。情報開示を基にしたアプロー
チによる一連のガイドラインや規則を通じて、債券による資金調達に関して新たな枠組みが導入
されました。民間債の発行申請へのガイドラインや社債の一括登録制度などにより、促進的で、
透明性の高い、そして有効な民間債の認可制度が生まれました。さらに、債券発行目論見書の内
容についてのガイドラインが公布され、投資家の情報開示要件の拡大が義務づけられました。加
えて、投資家の法的保護については、信託証書に関する最低必要項目についてのガイドラインが
設けられました。
とりわけ、この民間債のガイドラインにより、次に掲げる重要な変更が行われました。 すなわち、
最低必要とされる格付け取得の要件、強制的な引受の要件、発行企業による最低株主資本額の要
件などが撤廃されました。これに加え、発行手続をより促進的なものとするため、SC は現在、発
行体がガイドラインに記載されている透明性のある基準を順守していれば、14 営業日をもって起
債認可を与えると約束しています。
○ 信頼性があり効果的なベンチマークとなるイールドカーブの確立
ª マレーシア国債(MGS)の入札予定表の事前公表
ª 細分化した国債発行の統合
ª 規模が小さな「頻繁取引」銘柄の追加発行
ª 「閑散取引」銘柄の買い戻し
ª 主要ディーラー制度の見直し
効果的で信頼性の高いベンチマークとなるイールドカーブを確立するため、中央銀行により、マ
レーシア国債(MGS)の年間発行予定と四半期別の推定発行金額を記載してある入札予定表が、
発行日に先立って公表されました。一方、定期的に逆入札を実施し、規模が小さな「頻繁取引」
105
銘柄の追加発行や、
「閑散取引」銘柄の買い戻しを行うことにより、細分化発行された国債を統合
させる試みもなされました。これにより、イールドカーブが滑らかになり、社債の値決めが効率
的になりました。国債の入札予定表の事前発表は、流通市場の流動性の向上にも貢献したと思わ
れます。
次は、主要ディーラー制度の見直しについてです。現在、主要ディーラーは一定の株主資本の水
準をもたなければならないことになっています。つまり、商業銀行の場合は十億リンギット以上、
投資銀行の場合は 5 億リンギット以上、手形割引商社の場合は 2 億リンギット以上の株主資本を
もたなければなりません。主要ディーラーは、発行市場において入札時に 2 種類の見積りを提示
して一定の金額を応札するとともに、選択した銘柄について最低取引高を維持することにより、
効率的にその義務を果たさなければなりません。
○発行体と投資家層の拡大
ª 店頭市場では、証券委員会法(SCA)により投資家層が拡大
ª 発行、オファー(売り)、勧誘の際、特定投資家に対しては目論見書を必要と
しない
ª 生命保険会社は、国債の最低投資割合が 10%に削減されたのを受け、民間債市場へ積極的に
参入
ª ユニバーサル・ブローカーによる店頭市場での直接取引の認可
ª リスク管理の枠組み → 厳格で、健全な財務比率と高い払い込み済資本金
ª 資産担保証券(ABS)は、中立課税制度と同時に導入される
ª 2001 年以降、総額約 70RM の 13 件の ABS が認可を受ける
ª 資産証券化レポートの公開(2002)
投資家層の拡大に向けて、1996 年に条例と証券委員会法の一部が改正されました。これにより、
民間債を発行市場で直接購入できる投資家の種類を原則的に自由化され、拡大しました。これは
先ほど行われたディーパックさんのプレゼンテーションでも触れられたと思います。さらに、債
券市場において持続的に発展するための取り組みとして、機関投資家、とりわけ年金基金、準備
基金や保険会社に課せられている債券市場の規制が自由化されました。ユニバーサル・ブローカ
ーはまた、店頭市場で直接取引を行うことが可能になりました。しかし、これらの仲介機関はリ
スク・エクスポージャーの上昇を受け、証券取引所のガイドラインに従いリスク管理体制および
業務体制を整備しなければなりません。
発行体が多様な財務ニーズを満たすための広範囲に及ぶ資金調達手段として、ならびに投資家が
分散投資する手段として、資産証券化取引が積極的に推進されました。これに関連して、SC が資
産担保証券の発行に関するガイドラインを設定しました。今までのところ、2001 年以降 13 件、総
額約 70 億リンギットの証券化取引が、SC により認可されています。
106
○流通市場の質の向上
ª 非金融機関によるレポ取引参入が認可される
ª マレーシア国債の空売りが規制される
ª RENTAS システムにより債券貸借取引プログラムが導入される
○リスク管理手段の導入を促進
ª 5 年物国債の先物取引の導入
-
ヘッジ手段 → 債券市場の流動性の向上および投資家層の拡大
2000 年に銀行・金融機関法の改正により、非金融機関が民間債のレポ取引を金融機関との間で行
えるようになりました。流通市場の売買高を一層増加させるために、2001 年 12 月に中央銀行は主
要ディーラーの有価証券借り入れや、レポ取引および逆レポに関する一連のガイドラインを設け
ました。昨年 3 月に、取引所は 5 年物国債の先物取引を導入し、さらに広範なリスク管理手段を
債券市場参加者に提供いたしました。
債券市場インフラの推進
○支払い・受け渡し決済システム
1999:即時グロス決済システム(RENTAS)が SPEEDS に代わる
証券と資金の同時決済(DVP)が可能となり、決済リスクが減少
○債券情報・伝達システム(BIDS)
• 1997 年に稼動 債券の一元化されたデータベースであり、発行条件、価額、売買取引の詳細、入札
結果、格付けについての情報が提供
• ベンチマーク画面
• 情報提供会社であるブルームバーグやロイター通信と連携
債券市場インフラについては、1999 年の 7 月に有価証券取引にかかる決済リスクを最小限にし、
あるいは削減する手段が講じられ、SPPEDS として知られるスクリプトレス・トレーディング・シ
ステムが、RENTAS と称される即時電子送金およびセキュリティシステムに取り替えられました。
RENTAS は、電子振替決済のために証券と資金の同時決済を可能にさせた即時グロス決済システ
ムです。中央銀行はまた 1997 年に債券情報・伝達システム(BIDS)を稼働しました。
○格付け機関
• 独立した格付けを提供
• 強制的な格付け取得
• マレーシア・レーティング・エージェンシー(1990)
• マレーシア・レーティング・コーポレーション(1995)
107
格付け機関についてですが、マレーシアには 2 つの格付け機関がございます。すなわち、マレー
シア・レーティング・エージェンシー(1990)とマレーシア・レーティング・コーポレーション
(1996)です。これらの機関は、株主と債権者保護のために健全な企業統治のシステムを創出し
つつ、法人投資家のために独立した価格決定メカニズムを提供しています。
今後の展開ならびに規制上の課題
ª 流通市場における低い流動性
-
ヘッジ手段の活用範囲を拡大する必要がある
-
準備基金、年金基金や金融機関は財源のかなりの部分をマレーシア国債に投資
また、国債を満期まで保有する傾向がある
→マレーシア国債単独の需要をもたらす
-
年金基金業界の構造改革は債券市場育成に取り組むために必要
今後の展開ですが、マレーシア債券市場育成に関して、特に社債市場における流動性の問題が残
っています。広範なヘッジ手段を活用することはまた、債券市場の流動性を高め、投資家層の拡
大につながります。金利の展開ならびに債券先物の促進は、関連する現金市場を活性化させます。
また、年金基金業界の構造的問題も提起されなければなりません。準備基金、年金基金や金融機
関は、現行の規制基準により財源のかなりの部分を国債に投資しなければならず、同時にそれら
を満期まで保有する傾向があります。
例えば、過去 10 年間にわたり、従業員準備基金(EPF)はマレーシア国債を単独では一番多く保
有しています。このガイドラインによると、従業員準備基金は年間の投資可能資金のうち最低 50
パーセントを、累積額が 70 パーセントになるまで、マレーシア国債に投資することを義務づけら
れています。
マレーシア国債市場において従業員準備基金が支配的地位を占めていることが、流通性が高い競
争力のある債券市場の育成、ならびにベンチマークとなるイールドカーブ形成上大きな障害とな
っています。すなわち、懸念すべきは、基金による大量保有だけではなく、高い集中化により市
場が圧迫され、他の市場参加者の参入を阻止する可能性があるということです。準備基金と年金
基金は、投資ポートフォリオを運用する際、効率的な金融市場育成を推進させる政策を踏まえて、
柔軟性を示さなければなりません。これらは、SC が現在関係機関に働きかけ、解決しようとして
いる課題の 1 つとなっています。
108
今後の展開と規制上の課題
ª SC は、発行体の資金需要を満たすため、債券市場において多くの商品革新が行われると
予想:
‒
仕組商品
•
‒
資産担保証券
•
‒
既存の債券・株式商品が新しい投資商品としてリパッケージされる
シンセティック型証券化やホールセール向け証券化の導入が見込まれる
イスラム証券
•
リース(ijarah)や利益配分(mudharabah)などの教義に基づく
•
2002 年には、イスラム社債が従来型社債の発行額を上回る
ª SC は、商品革を促進させる適切な規制の枠組みを作るために業界と協力
SC はまた、債券市場において仕組商品、資産担保証券やイスラム証券を含む商品革新がますます
活発になると考えています。イスラム商品に関しては、2002 年には事実上、従来型社債の発行額
を上回るという急成長を遂げました。これに関連し、SC はイスラム証券発行を活性化させるため、
マレーシア国内のみならず国際的に通用するガイドラインを設ける予定です。
ª 債券の電子的取引に向けて債券取引ポータルを導入する研究が進められている
‒
債券の価格がわかり、債券市場において流動性が向上するというメリットがある
‒
このポータルに関する問題として、既存の債券市場インフラ、投資家保護の確保、
法的条項の重複を解消させることが挙げられる
ª SC はマレーシア中央銀行と協力し、これらの取引ポータルについて効率的で促進的な規
制の枠組みの構築に尽力している
債券取引ポータルを導入し、債券を電子的に取引する研究が進められています。しかしこのポー
タルに関わる問題として、既存の債券市場インフラ、投資家保護の確保、および法的条項の重複
を解消させることが挙げられます。SC は中央銀行と協力し、これらの問題について取り組んでい
ます。
統合されたアジア債券市場の育成に向けて
○アジア債券市場イニシアティブ
ª より効率的・流動的なアジア債券市場を振興させる
ª 政府と民間会社が域内の貯蓄を活用することができる
ª 通貨・期間リスクを減少させつつ長期資本の投資を行う
ª 域内の貯蓄を域内での投資に振り向けるための市場の育成
109
統合されたアジア債券市場の基礎的要件
•
法的および制度的なインフラ
•
域内の信用保証機関の提供
•
健全な受け渡し清算・代金決済システム
•
外貨ならびに金利スワップ市場の提供
•
信頼性のある域内格付け機関
•
域内の経済・財政・調査情報の提供
* SC はアジア債券市場育成イニシアティブの技術援助調整研究グループに参加
最後に、統合されたアジア債券市場について簡単にご説明します。域内の諸国は協力してこの問
題に取り組んでおり、長期的目標を掲げています。すなわち、目標というのは、本日討論した内
容です。私は、基礎的要件およびこれに関するマレーシアの役割について焦点をあてたいと思い
ます。マレーシアが債券市場イニシャティブを成功させようとする意欲は、ASEAN+3 諸国による
外為取引に関する自発的ワーキンググループの議長をマレーシアが積極的に勤めたことに加え、
技術援助の調整に関するグループの共同議長を担当したことにより示されます。SC は、これに関
連し、技術援助の調整に関するグループに直接参加し、域内の信用保証メカニズムの育成におけ
るマレーシアの役割を調整するとともに、国内の格付け機関を強化するよう務めています。以上
です。どうもありがとうございました。
110
韓国金融監督院(FSS)
司会:カウールさん、ありがとうございました。次に、韓国の監督当局の方からプレゼンテーシ
ョンをして頂きます。韓国金融監督院のビョン・ユンファン博士です。博士は、資本市場監督局、
債券市場チームの金融エコノミストでいらっしゃいます。
韓国金融監督院資本市場監督局債券市場チーム金融エコノミスト・ビョン・ユンファン博士:ま
ず初めに、お招き頂き、この場で話す機会を与えてくださった、吉野教授にお礼を申し上げます。
アジア債券市場構想を初めて耳にしたとき、もしそうした市場があったら素晴らしいと直感しま
した。しかし同時に、優れたアジア債券市場に至るには、多くの障害があるだろうとも思いまし
た。
I. なぜ、アジア債券市場なのか?
•
域内の資本移動を安定化するため
•
いわゆる「ダブル・ミスマッチ」を解消するため
•
銀行貸付と、他の資本市場からの調達とのアンバランスを修正するため
•
機関投資家が、より広範な投資選択肢、多様な各国通貨建て債券、リスクおよび収益に関する情報
等にアクセスできるようにするため
韓国にはまだ、効率の良い債券市場はありませんが、そうした市場を築くために多大な努力をし
てきました。非常に多くの障害があり、信用できる国内債券市場の構築に向けて、なすべきこと
がいくつもありました。ましてアジアには、信用の度合も通貨も異なる多くの国があるわけです
から、アジア債券市場を創設するには考えなくてはならないことが数多くあります。
アジア債券市場がなぜ必要なのかについては、意見は一致しています。国内に信用できる市場を
持つために、アジア通貨危機の後、国際通貨基金(IMF)と世界銀行はアジア諸国に対し、流動性
の高い債券市場を整備し、銀行貸付等への過度の依存を軽減するよう勧告しました。アジア域内
共通の債券市場があれば、域内の資本移動を安定化し、いわゆるダブル・ミスマッチを解消する
ことができ、又、銀行貸付とその他資本市場からの調達とのアンバランスを修正できます。しか
も、機関投資家が、より広範な投資機会、多様な域内各国通貨建て債券、リスクおよび収益に関
する情報にアクセスできるようにすることもできます。アジア債券市場の整備に向けて着実な一
歩踏み出さなければならない理由は、これで十分だと思います。
111
II. これまで何が議論されてきたか?
•
世界経済フォーラム 2002 年 10 月
•
アジア太平洋経済協力会議(APEC) 2003 年 4 月
- 証券化、信用強化
•
東アジア太平洋中央銀行理事会(EMEAP) 2003 年 6 月
- アジア債券基金
•
第 5 回アジア欧州会議(ASEM)財務大臣会合 2003 年 7 月 5−6 日
•
第 16 回 APEC 財務大臣技術作業部会会合 2003 年 7 月
- 第 1 回 アジア債券市場に関する民間レベル会合
•
第 6 回 ASEAN+3 財務大臣会議 2003 年 8 月 7 日
- アジア債券市場に関する掘り下げた議論
- 金融協力基金の設立目指す
しかし、監督当局の立場からアジア債券市場について考える際にはいつも、実に多くのことが、
頭をよぎります。考えることがたくさんあります。先ほどマレーシア証券委員会から、アジア債
券市場創設にあたり何を考慮すべきかについてご教示頂き、また、午前中のセッションで、何が
必要かというお話もありました。このフォーラムでお話するにあたり気づいたのは、アジア債券
市場について意見を述べている政治家、財務大臣、外務大臣、中央銀行職員が数多くいて、2002
年 10 月の世界経済フォーラム以来、多くの会合や話し合いが持たれていることです。
この 7 月、APEC の財務大臣技術作業部会会合において、投資家や民間企業の方々による、アジア
債券市場創設に関する話し合いが持たれました。それ以降の同様の会合としては、このフォーラ
ムは 2 番目に当たると思います。
これまで非常に多くの構想や宣言の発表がありましたが、話し合われてきたのは保証制度と資産
担保証証券に関するものばかりでした。このふたつについては議論が進んでいますが、それ以外
の問題については何ら進展がありません。複雑な事柄が余りに多く絡んでいるためです。ひとつ
は、サダシバンさんが話されたように、法律や規制といった監督当局がまず最初に考えるであろ
う問題です。法律や規制に一定の例外を認めれば、債券はどの国でも上場・売買が可能になりま
す。しかし、アジア債券はどの通貨建てで、どのように上場させ、どう売買したらよいのでしょ
うか?これらを我々は考える必要があるのです。
112
III. 何が必要か(監督当局の視点から)?
• 需要と供給
• 情報開示手続きの基準化
- コーポレートガバナンス(企業統治)、会計、監査
• 決済制度
• 租税措置
• 信用格付機関
• 発行、上場、売買等に関する規制
監督当局の視点から見て、そして、監督当局のみならず市場参加者の視点からも言えることです
が、市場について考えるときは常に、需要と供給について考慮しなければなりません。高レベル
の会合では、アジア債券基金だけではなく、第2のアジア債券基金までインドの当局から提案さ
れたわけですから、政府主導の需要を生み出すことができるでしょう。
午前中のセッションで、KT、ペトロチャイナ、シン・グループからお話がありましたが、皆さん
のような企業は国内のみならず、海外市場でも資金調達が可能です。実際すでに、アジア各国で
有名企業のドル建て債券が取引されていますし、独自の市場を持っています。問題は、知名度の
低い企業に対する十分な需要がないことです。アジア債券基金だけでは、決してこうした企業の
供給に対処できません。
我々は、アジア債券市場が持つべきメリットを考えなければなりません。そのために、債券の市
場性を高めるであろう保証制度について話し合ってきたのです。ですが、アジア債券市場をより
効率的にするために取るべき手段が何であるか、私自身ははっきりとは分かりません。
本日たくさんの方が基準化に関する話をされましたが、監督当局としては、情報開示手続きの基
準化、コーポレートガバナンス、会計および監査制度などが考慮に入れるべき重要な点です。ア
ジア債券市場に対する投資を許すのであれば、投資家が十分な情報を入手できるよう保証しなけ
ればなりません。
決済については、開発の初期段階においては、各国の保管振替機構で決済ができますが、アジア
債券市場を完成するには、ユーロクリアのような国際決済機関について考えなければなりません。
次に租税措置です。より効率的なあるいは流動性の高い国際的な債券流通市場を創設するには、
租税措置が明確化、標準化されていなければなりません。
信用格付機関も必要でしょう。実際、各国間でアジア債券市場が議論に上る以前から、アジアの
113
格付機関について話し合いがされてきました。これも又、監査、会計、コーポレートガバナンス
といった問題に関係しています。こうした発行や売買等に関する規制等は一体となっており、ひ
とつ解決できれば続いて他も解決できるものです。しかし、アジア債券市場に関して採るべき道
筋や対応といったものは未だ示されていません。
このフォーラムでの発表内容を考えながら、私には確たる答えが見つけられませんでした。難し
いとは思いますが、正解でなくとも多くの国が満足できる答えに近づけるよう、我々は真剣に考
える必要があります。解決策を提示できませんでしたし、ごく手短ではありましたが終わりたい
と思います。
御清聴ありがとうございました。
114
金融庁(日本)
司会:ユンさん、ありがとうございました。今セッション最後のプレゼンテーションは山崎さん
からです。山崎さんは金融庁総務企画局市場課の企画官でいらっしゃいます。
その前にお知らせですが、証券保管振替機構(JASDEC)の竹内克伸代表取締役社長から頂いた資
料がございます。竹内さんには、本日会場にお越し頂けませんでしたが、ご厚意により資料をお
書き下さいました。お手元にない場合は、吉村他のスタッフまでお知らせ下さい。
金融庁総務企画局市場課、山崎企画官:ありがとうございます。皆様こんにちは。このアジア資
本市場研究フォーラムに参加することが出来、大変嬉しく思っております。そして、吉野教授と
総合開発研究機構の方々に御礼を申し上げたいと存じます。
まず、私が勤務しております金融庁についてご説明させて頂きます。といいますのは、どの国に
も政府機関というものが存在しており、政府機関というのは、おそらく皆様のお国でも事情はほ
ぼ同じと思われますが、どのセクションが何を担当しているのかが非常に理解しづらいものだか
らです。そしておそらく政府関係の文書は大抵、最も難解です。
日本ではかつて、大蔵省が金融部門を監督していました。実際には省内に 2 つの担当局、証券局
と銀行局がございました。両局がそれぞれ担当する業界を持った上で、資本市場に関する政策は
両局の話し合いのもとに決められていました。
「話し合い」と婉曲に申しましたが、実際には両局
間で激しい戦いがあったのです。
2000 年に、国内の金融システム全体を監督する唯一の官庁として金融庁が設置されました。現在
では、銀行分野と証券分野で意見の衝突はあるかもしれませんが、調整は以前よりずっと簡単に
なりました。これは市場にとっても非常に喜ばしいことです。
115
金融庁は、そのカルチャーや雰囲気も大蔵省とは違います。私どもは今、金融庁の名の下で業務
を進めておりますが、金融庁の英文略称の FSA は、forward-looking(前向き)、speedy(迅速)、
aggressive(積極果敢)を意味するのです。
I.
証券市場の改革促進プログラム(2002 年 8 月 6 日)(1)
優先事項:市場からの資金調達へ移行
↓
投資家の層を広げ、証券市場への参加をさらに促進する
↓
新たな包括的プログラム
ここで主題に戻りましょう。
日本の資本市場の歴史について、少しご説明していたところだったと思います。金融資産の効率
的な配分が重要となります。もちろん、経済を円滑に運ぶためにです。
産業資本が不足していた頃の日本を振り返りますと、政府は貴重な金融資産の多くを、鉄などの
基幹産業だけに割り当てるほか選択肢がありませんでした。国の生命線を握るいくつかの重要産
業のみに絞った目標でした。
もちろん今でも、金融システムの管理はなお、非常に大きな目標です。しかし、市場経済が発達
し、資本フローが自由化された今日では、政府やその他機関が金融フローを管理する力は弱まっ
ています。ですから、効率的な金融市場に向けて、各自がそれぞれの役割を果たしつつ協力して
いく中で、銀行が資金の仲介者として主役を演じてきたわけです。少なくとも以前の日本の制度
においては。
資本市場や債券市場もまた、実際には受託銀行あるいは社債管理会社によって管理されていまし
た。資本・債券市場は単なる銀行借入の補完手段だと考えられており、社債の発行も極めて限ら
れたものでした。私が(大蔵省)証券局に在籍していた 2 年間に、普通社債は全く発行されませ
んでした。15 年ほど前の話です。ですから、金融市場における規制自由化等の、資本市場自由化
の速度は、銀行業界との調整に時間をかけたため、大変ゆっくりとしたものとなりました。そう
した状況下では、直接金融への移行が急速に進むことはありませんでした。
対照的に、日本国債については、1970 年代終盤の大量発行をうけて、巨大な市場になっていまし
た。国債市場は大蔵省の指導のもとで育成されていましたが、本当の市場指向型の方針が採られ
116
ることはありませんでした。その原因の一端は硬直した産業構造の存在でした。
こうした状況はごく最近まで変わることがなく、おそらく、1990 年終盤になるまで、日本の資本
市場は活発には機能していなかったと言えると思います。例を挙げますと、債券発行に際する金
融規制が撤廃されたのは 1996 年です。1997 年から 1998 年にかけての自由化、公正化、グローバ
ル化を目指した銀行に対する金融制度改革の後、抜本的な改革がなされ、現在の市場に見られる
ようなインフラが登場したのです。
先ほど申しましたように、金融庁は 2000 年に設立されました。こうした状況のもと、債券市場を
取り巻く、ここ数年の変化の速度は劇的に変化しています。日本資本市場協議会が後押ししてい
た、券面のない電子 CP に関する法的枠組みも整備されました。また、券面のない振替国債も法整
備され、さらには、日本国債の元本利子分離型ストリップス債も導入されました。
個人金融資産の構成比
現金・預金
保険・年金準備金
投資信託
株式・出資金
資本への投資
その他
日本
54.3%
28.7%
2.3%
4.3%
2.9%
7.5%
米国
11.9%
29.9%
12.9%
18.2%
15.9%
11.2%
ドイツ
33.9%
27.8%
11.3%
11.9%
3.7%
11.4%
この画面を見て下さい。個人金融資産の構成比です。一見して日本では資本参加や借入による資
金調達への投資の比率が、西洋諸国と比べて低いことがわかります。銀行貸付という形の間接金
融への過度の依存は、将来の金融制度に照らし合わせるとかなり旧式です。市場に根を下ろした
ビジネス・モデルを奨励しなければなりません。さらに言えば、市場の動きは早いため、その機
能を綿密に練り上げなければ、金融制度は過去へ逆戻りしてしまうのです。こうした努力を通し
てのみ、資本市場は銀行貸付に太刀打ちできるのです。
数字をご覧いただければお分かりのように、日本の場合、株式・出資金の割合が4%、そして、
資本への投資が、これは債券投資を意味しますが、3%です。
つまり、直接金融は約 10%未満なのです。ですから我々は、証券市場を奨励する包括的プログラ
ムを作らなければなりません。昨年、いくつかの手段をご紹介したと思います。このプログラム
は、単に証券のみに的を絞ったものではありますが、そこに3つの目標を掲げました。
目標
1. 投資家が証券市場へアクセスしやすいようにする
2. 公正で透明性の高い市場を創設する
3. 効率的な市場を創設する
117
まず、投資家が証券市場にアクセスしやすいようにする。次が、公正で透明性の高い市場を創設
する。最後が、効率的な市場を創設する
です。
II. 奨励のための新包括的プログラム
証券市場の改革促進プログラム(2002 年 8 月 6 日)(2)
1. 誰もが投資しやすい市場の整備
・ 証券会社の販売チャネルの拡充
(例. 販売代理店制度の導入、一部の有価証券の銀行を通した販売)
・信頼される投資信託・投資顧問サービスのための環境整備
・ 投資家教育プログラムの促進
・ 投資家の積極的な参加を促す証券税制
2. 投資家の信頼を得られる公正で透明性の高い証券市場の確立
・ 証券取引等監視委員会(SESC)の体制・機能の強化
・ 会計・監査制度の強化
・ 証券市場における公正な取引の確保
・ ディスクロージャーの充実
・ コーポレートガバナンスの強化
3. 効率的で競争力のある証券市場の構築
・取引所市場・店頭市場・私募債市場のルール見直し
・ 証券決済システムの改革促進
・ 証券化の促進
基本的な概念は資本市場の場合とほとんど同じですが、いくつか強調したい点があります。まず、
市場のインフラについてですが、一言で市場のインフラと申しましても、その意味するところは
法制度から情報技術(IT)まで非常に広いのです。しかし、効率的な市場の維持には取り組むべ
き課題がいくつもあります。例えば、現行規制の改変、現行制度のインフラの改良、新たな規則
の制定などです。
第一に、我々が最近、特に長期的な視野に立った場合に、重要だと考えるのは、投資家教育です。
日本では古い道徳のせいで、金銭に関する話はあまり出来ません。と言いますのも、お金はとて
も汚らわしいものだと考えられてきたからです。 しかし、金融市場育成には、教育は非常に大切
です。金融庁は現在、文部科学省に対し、学校教育に投資家教育を組み込むよう要請しています。
また、日本でもファイナンシャル・リテラシー(金融に関する基礎能力)という言葉が徐々に浸
透してきています。第二に、適切なディスクロージャーも重要です。世界の資本市場における昨
年の主なテーマは、私が見たところ、適切なディスクロージャー制度を確保することにより、市
118
場への信頼感を如何に確立するか、ということでした。我々は今年、公認会計士法案を提出、5
月に国会を通過しました。第三に、発行体と投資家間の情報の流れが、大切だということを強調
しておきたいと思います。特に本日は、格付機関から多くの方々が参加されておられ、このセッ
ション後の主な話題となるでしょう。日本の債券市場に関しては、行政による規制はほとんどな
く、いわゆるゲートキーパー(投資家の門番)
、格付機関、アナリストが投資家に対し直接、重要
な情報を提供するため、彼らの果たす役割は非常に大きなものです。
Ⅲ. 日本証券業協会公布「アナリスト・レポートの取り扱い等について」の強化
日本証券業協会(JSDA)は 2002 年 1 月に証券アナリストに関する規則を導入した。
昨今のグローバル化を受け、JSDA は 2003 年 1 月 15 日にこの規則を強化した。
(2003 年 4 月施行)
1) 審査の独立性
証券アナリストは、投資銀行部門から独立して機能しなければならない。
特に、証券アナリストの報酬を投資銀行部門の業績と関連させてはならない。
2) 利益相反の開示
会員は、審査対象企業に関連して、会員及び当該アナリストが
当該対象会社と利益相反の関係にある場合には、その状況を開示しなければならない。
3) 審査対象企業に対する事前開示の禁止
会員は、アナリスト・レポートを公表以前に審査対象企業に開示してはならない。
4) 審査レポートの見直し
会員は、審査レポートの正確性と客観性を確実なものとするために、
審査レポートの見直し手順を定めておかなければならない。
5) 情報の徹底管理
審査の過程で入手した情報は、適切に管理しなければならない。
6) アナリスト・レポートの保管
会員は、アナリスト・レポートを公表した日から 3 年間保管しなければならない。
この画面には、日本の自主規制団体である日本証券業協会(JSDA)の証券アナリストに対する最
近の措置が並べられています。こうした分野は政府からの独立性が大変重要であるため、市場の
信頼を得るための適切な運営が真に求められています。次に重点が置かれているのは、流通市場
ですが、債券市場の流動性は比較的低いため、流通市場の重要性は発行市場に比べ、なおざりに
されがちです。証券監督者国際機構(IOSCO)もまた、債券市場の透明性が株式市場ほど確立さ
れていないことから、電子取引システムの透明性について検討しています。
119
Ⅳ. 日本の証券決済制度の改革
第 1 段階(2001 年)
① 短期社債等振替決済法
- コマーシャル・ペーパー(CP)の無券面化
② 株券等の保管及び振替に関する法律の一部を改正する法律
- 証券保管振替機構の株式会社化
第 2 段階(2002 年)
証券決済制度の改革による証券市場インフラ整備関連法の改正等に関する法律
- 社債、国債等の無券面化
第 3 段階(2003 年)
- 株式等の無券面化(準備段階)
最後に、証券決済制度の改革についてですが、これは現在、進行中です。日本には以前、証券決
済に関して、いくつかの法制度が存在しました。つまり、証券の種類によって、それぞれ異なる
法的根拠と手続きがあったということです。我々は、統一された法的基準、決済に関する確固と
した法的根拠、中核清算機関等を確立すべく動いています。第 1 段階として、2001 年に無券面 CP
の発行が可能となり、実際に本年 3 月から発行されました。第 2 段階は 2002 年で、社債および国
債の無券面発行が可能となりました。新法がすでにこの 1 月から施行されています。我々は現在、
第 3 段階にあり、株券の電子登録方式が始動するでしょう。
証券決済改革全般の意図するところは、おそらく他国と同じで、第 1 に DVP 決済の実現、第 2 に
STP 化の実現です。これにより DVP 決済の効率が高まり、決済制度も短縮化されます。私が日本
の債券市場の課題と考えているのは、主にこういったことです。皆さんに、日本の市場の現状を
ご理解頂けたら幸いです。
私が理解する限り、アジア市場もほぼ同じ問題を抱えています。最後にアジアの資本市場の発展
について少しお話ししたいと思います。アジア諸国における貯蓄率が高いにも拘らず、資本市場
が発達していないために民間部門に対する中長期の資本投資が不十分だと言われています。通貨
危機から得られた教訓は、民間企業が資金調達にとらわれないために、アジア債券市場を育成し
なければならないということです。市場育成のためには、広範にわたる企業を惹き付けるべく、
市場指向の方策を採用すべきです。ただ、それぞれの資本市場には独自の歴史、規制、インフラ
があります。一方で、会計基準、ディスクロージャーに関する規則、決済制度、格付機関、取引
に関する規則や規制などを含めた各国のインフラの統一も、地域での相互依存を迅速に押し進め
るために必要となります。
おそらく、私は立場上、これ以上詳細な問題に立ち入ることは出来ません。ですが、我々にとっ
120
て、情報を交換したり、より良い市場の創設に努めたりすることはとても大切です。このフォー
ラムが大変素晴らしい機会を与えてくださったことを非常に嬉しく思います。ありがとうござい
ました。これからもお互いに協力していければと存じております。
121
質疑応答:3. 国内の規則&インフラの構築
司会:山崎さん、ありがとうございました。 ここで、皆さんに議論して頂く時間となります。 ご
質問がありましたら、手を上げてください。
中村:ソニーの中村と申します。私のコメントはどの国の監督当局者の方にとっても、例外なく
当てはまりますので、監督側であれば、どの国のどなたからコメントをいただいても結構です。
証券市場そのものの発展戦略についての皆さんのプレゼンテーションは素晴らしかったのですが、
少なくとも借り手の側から見ると、効率的な証券市場を創設するだけでは十分ではなく、特に、
為替管理の面と税金の問題が改善される必要があります。
また、こうした問題、外国為替の管理や税金の問題においては、規制の問題だけにとどまらず、
借り手あるいは監督する側が、あらゆる種類の障害。つまり監督面、経済面だけでなく、この種
の問題を運営する際の障害をも取り除かなければなりません。 例えばソニーの場合ですと、幸い
国内では為替管理が既に自由化されており、また、日本は比較的広範にわたる租税条約を有して
います。しかし、これらも十分ではありません。為替管理ひとつを例に取っても、既に自由化は
されたものの、世界中にある子会社や関連会社間で、国境をまたいだ貸付や預託を実行するには、
多くの手続きを取らなくてはなりません。
また、税金の問題にしましても、もちろん租税条約のおかげで税額控除などの恩恵を受けられる
のですが、源泉課税の問題自体がとても重要です。国によっては、例えばアメリカやイギリスで
は、条例によって短期貸付に対する源泉課税そのものが撤廃されています。実際、現在わが社は
国境をまたいだ、グループ間や会社間での貸付を経験しているわけですが、税額控除のための手
続きにかかる人的コストは大きいのです。新たな証券市場の創設に対して、大変肯定的な意見が
ありましたので、アジアの証券市場を真に改善するために、また、グローバルかつ多国籍な障害
の無い企業において、こうした類の側面をいかに改善すべきか?これについて、ご提案を頂けれ
ば幸いです。
司会:中村さん、ありがとうございました。明文化された規制方針から、経済の基盤にあって、
金融取引のコスト構造を決定する、明文化されていない運営面の問題まで広い範囲にわたるコメ
ントでした。中村さんのご意見について何かおっしゃりたいことはございますか?
カウール:マレーシアに関して、為替管理のことを少しお話します。為替管理が実行に移された
のは、マレーシア経済を隔離してリスクと為替攻撃を最小限に抑えるためでした。現実には、収
益等の外国送金に対する制約でさえ、3 年前から廃止されています。マレーシアの資本管理に関し
ては大きな誤解があると思います。現在はそうした資本管理といったものは行っておりません。
122
もちろん、中央銀行から情報を要求されることはありますが、収益を本国に送金しようとしてい
る外国企業については、もうそんな問題はありません。もちろん、政府はいまだに通貨ペッグ制
を採っています。これは、アジア債券市場イニシアティブを考える上で大きな問題であり、やは
り目を向けなければならなりません。
税金に関しては、基本的に発展の枠組みの一環として、民間債務証券(PDS)に対する課税の中
立性を目指し、現在、国税局と取り組んでいます。
司会:他に、ご意見・ご質問はございませんか?
鈴木(バークレイズ・キャピタル・東京):つい先ほどのプレゼンテーションで山崎さんが業界保
護の側面に触れておられました。 この業界保護的な側面に関して、マレーシア証券委員会が業界
保護をどうされているのか興味を持ちました。イスラム債券と通常の社債の違いが知りたいと思
ったのです。投資家保護の面で、何か違いはありますか?
サダシバン:まず、最初のご質問、つまり、マレーシア証券委員会の投資家保護が、どう機能し
ているかについてですが、二通りあります。一つは、準拠法により、情報を完全・率直に開示す
ることが義務付けられています。完全なディスクロージャーをしなかった場合には、民事上の問
題となります。つまり、完全なディスクロージャーがされなかった結果、損失を被った投資家は、
その金融商品における損失について訴訟を起こすことが出来ます。次に、刑事面の規定です。誤
ったディスクロージャーや、何らかの不作為があった場合、罰金や懲役を科せられる可能性もあ
ります。ですから、二つの段階にわたる保護なのです。まず、
(上場)申請を厳しく検査する機関
として証券委員会があります。そして、あくまでもディスクロージャーに基づく審査ですが、証
券委員会は申請にある程度の評価を下します。これが保護の第 1 の段階です。その後は、完全に
企業次第です。開示すべき事柄の全てを開示していなかったと判明すれば、告訴を免れません。
イスラム債券と通常の債券の違いに関してですが、投資者が受ける保護の度合には、何の違いも
ありません。違いは、基本的な取引にあります。イスラム教は、利息の支払いを禁じているため、
123
債券は金銭の貸借取引としては扱われません。非常によくあるイスラムの取引の例ですと、まず
原資産を売買します。そうすることで、発行体が資産を貸し手に売り、貸し手がその資産を発行
体に、より高値で売り返す。その差額が投資家の収益となります。つまり、構造上は、概念が違
うだけです。ただ、投資家保護の面では全く同じです。
鈴木:それから、別の質問なのですが、イスラム社債の発行は通常の社債より郡を抜いて多くな
っています。ただ、アジア資本市場の債券といった面から、それは、イスラム社会共通の基準と
して受け入れられると思いますか?それとも、いくらか悲観的に見ていらっしゃいますか?
サダシバン:まず、イスラム債券の発行量が通常の債券を上回ったのは 2002 年だけだと思います。
私の知る限り今年も今のところ、通常の債券発行量がイスラム債券を上回っています。しかし、
マレーシアではイスラム的側面の統合といった点のほうが、アジア的側面より若干進んでいると
思います。例えば、マレーシアにはラブアン国際金融取引所があり、他の中東諸国とイスラム式
の金融商品の販売促進をしています。でもだからといって、通常の金融商品を軽視しているわけ
ではありません。通常の金融商品も非常に多く発行されており、その主な理由は、通常金融商品
の簡易性、投資家の慣れ、両者のスプレッドの差がせばまってきていることなどです。ですから、
以前はイスラムの金融商品で発行体がいくらか節約できる可能性もありましたが、最近はその差
も縮まってきていると思います。それでおそらく現在では、通常の金融商品とイスラムの商品の
発行高が同等になるように思います。
カウール:監督当局の立場から、我々は単にアジア債券市場の統一を目指すだけではなく、イス
ラム債券市場と通常の債券の市場を統一することを視野に入れています。その実現のための問題
や障害はそう多くないと思います。実際、イスラムの資産担保証券、企業の債務有価証券を含め
た規制を数多く統合することができました。そして、イスラム証券に関して、単一のガイドライ
ンを設けることを目指しています。そうした意味で、イスラム債券に投資するのは、イスラム教
徒の投資家だけでなく、非イスラム教の投資家もいます。イスラム債券はイスラム教徒のためだ
けのものではありません。広範な投資家に対応しています。
中村:マレーシアの為替管理に関する、カウールさんの発言に関連するのですが、我々は解決法
があることに気づいており、マレーシア当局と連携してソニーGTS(グローバル・トレジャリ
ー・サービシーズ)の一員となるマレーシアの子会社設立にこぎつけました。タイでもまもなく
同様の解決策が取られると思います。ですが、それでもなお申し上げたいのは、現在我々はグル
ープ内で共有しているサービスをマレーシアの子会社にまで直接拡大することは出来ないという
点です。
犬養:ビョン・ユンファンさんと、山崎さんにいくつか質問があります。サダシバンさんのご説
124
明によりますと、資本市場を統制する役割や、投資家保護のための規制は、マレーシアにおいて
は基本的に英国法のスタイルを採っています。その場合、我々がアジア資本主義の調和を目指す
のであれば、強制的に英国法のスタイルに追随するのでしょうか。あるいは、関連法の点でイス
ラム教と非イスラム教の調和のケースに感じられる密接な関係なのでしょうか。日本と韓国の場
合、アジア資本市場の統合を成し遂げるために、法律や規制の将来の方向性はどういったものに
なると思われますか?これが私の質問です。
山崎:どの債券がどの国に属するかを決定する準拠法について私の理解する限り、昨年 12 月にフ
ォーラムでしたか会議がありました。そして、協定の最終草案もすでに決定されています。私は、
どの国の法律を適用するかは、債券や証券が属する国によって決まると思います。
ビョン:個人的な意見ですが、既に証券監督者国際機構(IOSCO)という機関があり、規制の進
むべき道筋についての基本的な考えを反映するという、方針・原則を持っています。また、多く
の国の法や規制が、それに追随する傾向にあります。ですから、法や規制の基本的考えは現在、
それほど異なっていません。ただし、アジア債券市場を創設するならば、投資家の主体は当然、
アジアの投資家であるはずですが、様々な国の金融機関も多く含まれており、彼らは英国法や英
国式金融の伝統に慣れ親しんでいます。個人的意見としましては、我々は何らかの関連法を作り、
それは厳密に法律でなくてもいいのですが、各種取引に伴う協定を、例えば、証券貸借は ISMA
契約に従い、レポ取引は GMLA ルールに従う、定めるべきだと思います。ですから、国をまたい
だ国際的な債券取引が起こった場合は、広く知られた、典型的な習慣を反映した契約であるべき
です。それが最適なアイデアではないかというのが、私の意見です。
司会:休憩前に最後の質問です。原田さん。
原田:私の質問は技術的なものです。 タイの手形交換と決済のシステムについてです。タイの決
済制度は大幅に進歩してきたという強い印象があります。ただ、ここで技術的な質問として、ま
ず、9 ページの、手形交換と決済のシステムについての設定時刻が書かれています。14:00 と 14:15
が決済時刻となっていますが、この間にデフォルトの可能性があるわけです。どうなりますか?
125
このデフォルトにより発生した損失は、どのように処理されるのでしょうか?そのデフォルトに
よる損失は、担保あるいは中央銀行関連の何らかの信用機関が補填するのでしょうか?つまり、
私の最初の質問は、複数の決済時刻の合間に発生した、この種のデフォルトによる損失をどう扱
うかということです。
2 番目の質問は、こうした異なる時間帯を、ひとつにまとめる計画があるかどうかです。
コンケーオ:プレゼンテーションの通り、支払いと決済の間に約 20 分の時間があります。受け渡
しとして、売り手の勘定に借り方を記入し、買い手の貸し方に記入して、証券は封鎖されます。
支払いがなされるまで、その証券を動かしたり、振り替えたりすることはできません。ですから、
その時間帯は、証券や債券を確実にシステム内にとどめておくわけです。支払いについては通常、
与信枠があり、我々も、全市場参加者も決済銀行に対し与信枠を設けています。決済銀行自体に
ついては、タイ中央銀行に与信枠があります。ですから、支払いという意味では、デフォルトに
も対処でき、支払いのための流動性もあると自負しています。つまり、1 つでなく、2 つのシステ
ムがあり、債券の決済はタイ証券保管機構(TSD)に、支払いについてはタイ中央銀行に属して
いるということです。2 つのシステムは直接にはリンクしていないため、20 分の差があるのです。
2 つめのご質問は時間帯のことでしたね?
原田:手形交換と決済の時刻の差が解消される、あるいは 14:00 に統一され、全証券と全資金を
即時または同時に振り替えたり、交換することはできないのでしょうか?
コンケーオ:言い換えれば、14:00 に支払いがされた時点で、債券を出すことができるようにする
ことですね。そうなれば、DVP 決済になります。勘定に債券を入れますが、それはまだ封鎖され
ています。支払いがされた時点で、債券は移動可能になるわけです。我々が来年、あるいは来年
度第 3・四半期までに整備しようとしている新システムでは、支払いがされ、それと同時に買い手
の勘定に債券を書き込みます。支払いは新システムでタイ中央銀行とリンクすることになってお
り、タイ中央銀行マルチラテラル・ファンド・トランスファー・システム(多角的資金付替システム)
と呼ばれます。
司会:どうもありがとうございました。そろそろ時間です。ここで 10 分間の休憩と致します。次
のセッションは 15:15 開始です。お疲れさまでございます。回転扉の裏でコーヒーをお出しいたし
ます。間もなく用意ができるはずですので、少々お待ちください。それでは。
[休憩]
126
4.
投資家と格付けの視点
127
株式会社格付投資情報センター
司会:それでは、次のセッションに入りたいと思います。まず、株式会社格付投資情報センター
(R&I)の原田靖博取締役副社長(開催当時、現社長)からです。原田取締役副社長にはアジア債
券市場に対する、信頼性の高い一貫した格付けの追究についてお話頂きます。
株式会社格付投資情報センター(R&I)原田靖博取締役副社長(当時、現社長):ご紹介ありがと
うございます。ここでこうして私どもの格付活動とアジア債券市場に関連した将来的展望につい
てプレゼンテーションをさせて頂くことができ、嬉しく思います。優秀な参加者の方々を前に、
プレゼンテーションをすることができ、大変光栄です。
アジア債券市場に対する、信頼性の高い、整合性ある格付の追及
1.
優れた格付実績と活動範囲の拡大
私のプレゼンテーションは 3 つのパートからなっています。初めに、当社の格付実績と将来の活
動範囲の拡大について、次に、質の向上と独自性の追究についてご説明致します。当社はアジア
の格付け会社として、このふたつの目標を探求していきたいと思っております。3 つめは、アジア
の格付機関を更に発展させるための貢献についてです。
一つ目のパートは手短にすませたいと思います。。
V 25 年にわたる経験
–
1978 年、R&I の前身のひとつである JBRI が格付事業を開始
–
1998 年 4 月 1 日、NIS と JBRI の合併により R&I 設立
これが、非常に簡単な R&I の歴史です。当社は格付機関として 25 年の経験があります。前身の 1
つである日本公社債研究所(JBRI)が 1977 年に格付事業を開始しました。R&I は 1998 年 4 月 1
日、日本インベスターズサービス(NRI)と JBRI の合併により設立されました。
128
V 公平かつ公正な格付
–
株主:
日経グループ
56.5%
その他株主 107
43.5%
–
アナリストおよび職員数:
140 人
–
事務所:
東京、香港、ニューヨーク
当社はいわゆる公平かつ公正な格付を目指しております。内容については後ほどご説明致します
が、まず当社の株主構成をご紹介致します。当社の株の 56%は日経グループ、つまり、日本最大
の経済新聞社である日経新聞社が保有しており、他に 107 名の小株主がおります。この小株主に
は商業銀行や証券会社も含まれますが、その存在は小さく、経営にも参加していません。そうい
う訳で当社の格付けが、そうした金融機関の影響を受けることはありません。当社の筆頭株主は
メディア業界にあります。これは、ムーディーズと同様です。間違いました、ムーディーズは独
立系となりましたが、スタンダード&プアーズ(S&P)はマックグロウ・ヒル・グループの一員です。
ですから、当社の会社組織は S&P に似ていると言えます。アナリストおよび職員の人数は 140 人
で、事務所は東京、香港、ニューヨークにあります。
V 日本市場での実績
–
格付企業数:
R&I
649 67.4%
705
JCR
513 53.3%
611
S&P
143 14.8%
347
317* 32.9%*
305
Moody’s
Total
963**
100%
(2003 年 9 月 30 日現在。日本企業の長期負債の格付け。)
* ムーディーズが格付けした企業には、依頼なし格付け(勝手格付け)も含む。
** 2 社以上の格付機関から格付けを受けている企業もある。そのため、企業数の合計はそうした重複を除外して
計算している。
次に、マーケット・シェアについてご説明します。日本の債券市場において、当社のシェアは 67%
と、最大となっております。この数字は 2003 年 9 月 30 日現在の日本企業の長期負債に対する格
付けを基に計算しています。
129
V サムライ市場における R&I の位置づけ
–
2001 年 1 月から 2003 年 9 月に発行されたサムライ債
格付企業数:
R&I
18
43.9%
Moody’s
31
75.6%
S&P
33
80.5%
JCR
1
2.4%
Total
41
100%
サムライ債市場につきましては、当社のシェアは最大ではなく、約 44%となっております。これ
は、小規模で比較的格付けの低い発行体の発行割合が現在減少し、代わりに、大規模で格付けの
著しく高い機関、たとえば世界銀行その他の多国籍金融機関が増加しているためです。こうした
多国籍金融機関に対してはムーディーズや S&P が格付けを行っており、その結果、ムーディーズ
や S&P のマーケット・シェアが非常に伸びているのです。ですが、通常は当社が、サムライ債市
場においても、最大のシェアを保っています。
V 決定係数 (回帰分析)
- 格付けとイールド・スプレッドの相互関係 2002 年 5 月
2003 年 5 月
R&I
0.89
0.87
JCR
0.80
0.81
Moody’s
0.75
0.73
S&P
0.73
0.71
(みずほ証券試算)
この数字をご説明致します。格付けとイールド・スプレッドに高い相関関係が見られ、当社の格付
けの質の高さを表しています。これは決定係数によって計測されています。この数字をご覧くだ
さい。R&I の場合、決定係数は 0.87 です。ですから、違いはそれほど大きくありませんが、決定
係数とイールド・スプレッドの相関関係という点では、当社は最高の格付けを行ってきています。
130
V 広義デフォルト率・累加平均(%)
1
2
3
4
経過年数
AAA
0.00
0.00
0.00
0.00
AA
0.00
0.00
0.06
0.12
A
0.05
0.14
0.34
0.62
BBB
0.14
0.42
0.78
1.19
BB
1.87
3.34
4.50
5.15
B or lower
7.82 12.01 15.79 17.81
BBB or
0.08
0.24
0.48
0.78
above
BB or
2.96
4.92
6.57
7.49
lower
All
0.28
0.57
0.91
1.24
5
0.00
0.19
1.00
1.55
5.87
19.24
1.08
6
0.00
0.41
1.36
1.97
6.83
20.71
1.43
7
0.18
0.65
1.68
2.34
8.47
22.93
1.75
8
0.38
0.92
2.07
2.68
10.05
25.22
2.09
9
0.58
1.31
2.52
3.03
11.28
28.37
2.46
10
0.80
1.52
2.87
3.45
12.08
30.81
2.82
8.35
9.41
11.18
12.92
14.61
15.82
1.58
1.97
2.39
2.83
3.30
3.71
出典:R&I ニュース・リリース 「格付けとデフォルトの関係」 2003 年 6 月 30 日
ここで、格付機関として、当社の持つ歴史的記録についてご説明します。つまり、デフォルト率
の歴史です。この表に矛盾は全くありません。つまり、債券の格付けが高いほど、デフォルト率
は低いということです。ですから、右の列、10 年目の、AAA の債券のデフォルト率は 0.8%、一
方 BB ですと 12.08%となっています。
また、時系列的にも矛盾はありません。時間が経過すれば、デフォルト率は若干高くなります。
さらに言えば、BBB と BB の間のデフォルト率には、明らかな違いがあります。BBB 以上の債券
は投資適格債と呼ばれます。ですから、投資適格債のデフォルト率は、明らかに投資不適格債よ
り低いのです。また、これは 10 年間の記録ですが、この表は格付機関としての当社の 25 年の歴
史に基づいて作られております。ですから、これは、単なる 10 年の歴史ではないのです。詳細に
つきましては、2003 年 6 月 30 日付けの、当社のニュースリリースをご覧ください。当社は毎年、
こういったデフォルト率の研究を、ウェブサイトで開示しております。
(http://www.r-i.co.jp/eng/)
131
格付推移行列
出典:R&I ニュース・リリース 「格付けとデフォルトの関係」 2003 年
6 月 30 日
これは格付推移行列です。1 年間の格付等級間の関係、つまり、格付けが 1 年でどのように変化し
たかを意味しています。この格付推移行列は、1 年後の格付けの変化を示しています。例えば、昨
年 AA だった企業のうち、28 社が AA を維持、1 社が AA マイナスに変更となりました。ですか
ら、この表は 1 年後の格付けの変化を表しています。この表も、当社ウェブサイトに毎年開示し
ております。
こうした 3 つの表−決定係数、デフォルト率の歴史的記録、格付推移行列−は当社の格付けのア
カウンタビリティを証明する、欠かせないツールとなっています。言い換えれば、こうした表に
基づき、投資家が当社の格付けの質を判断できるのです。
V 広義デフォルト
(1) 債券デフォルト
(2) 法的破綻
(3) 債権放棄
(4) 救済合併あるいは主たる営業資産の譲渡
(5) 債務超過を回避するための第三者割当増資
(6) 債務超過状態
デフォルト率を計算する際には、広い定義でのデフォルト(広義デフォルト)を用いています。
これは、デフォルトの意味を債券デフォルトや法的破綻に限らず、債権放棄その他を含め、広義
に解釈されたデフォルトです。なぜ、広義デフォルトを採用したかにつきましては、やはり、ウ
132
ェブサイトに説明がございます。
V 政府系機関の格付け
地域振興整備公団
-
首都高速道路公団
AA
阪神高速道路公団
-
本州四国連絡橋公団
AA
東京都住宅供給公社
AA-
都市基盤整備公団
A+
水資源機構
AA
環境事業団
AA-
緑資源機構
AA-
新東京国際空港公団
AA-
鉄道建設・運輸施設整備支援機構
AA-
日本道路公団
-
国民生活金融公庫
AA+
中小企業金融公庫
AA+
公営企業金融公庫
AAA
農林漁業金融公庫
AA
沖縄振興開発金融公庫
AA+
帝都高速度交通営団
AA
日本放送協会
AAA
日本私立学校振興・共済事業団
AA
日本育英会
AA-
日本開発銀行
AAA
国際協力銀行
AAA
福祉医療機構
AA
R&I が現在、格付けの範囲を広げていることについてご説明致します。 2 年前から、政府系機関
の格付けを始めました。日本政府の財政改革の進展により、こうした政府系機関は政府の保証な
しで債券を発行することを求められています。そこで、市場参加者が格付機関による格付を求め
ているのです。
そんなわけで、当社の格付けは、日本道路公団を除く政府系機関のほとんど全てを網羅しており
ます。
133
V 私立学校の格付け
日本大学
AA
法政大学
AA-
早稲田大学
AA+
大阪経済大学
A+
学校法人成蹊学園
AA-
当社は格付けの範囲を、日本大学、法政大学、早稲田大学など私立大学にも広げておりますが、
残念ながら慶応大学はまだリスト上にありません。
しかしいずれにせよ、大学の格付けは増加
中です。(2005 年 3 月末現在 15 校に増加。慶応大学は AA+)
V 地方債の格付け(依頼なし格付け)
都・道および県
東京都
AA+op
北海道
AA-op
宮城
AAop
神奈川
AAop
大阪
AA-op
京都
AA+op
兵庫
AA-op
静岡
AA+op
愛知
AAop
広島
AAop
埼玉
AA+op
福岡
AAop
千葉
AA+op
新潟
AAop
長野
AAop
茨城
AAop
政令指定都市
大阪市
AA-op
名古屋市
AAop
京都市
AA-op
神戸市
AA-op
横浜市
AAop
134
札幌市
AAop
川崎市
AAop
北九州市
AAop
福岡市
AA-op
広島市
AAop
仙台市
AA+op
千葉市
AA+op
10 年から 15 年ほど前から、当社は主な自治体の地方債を格付けしております。しかし、残念なが
ら、地方債の格付けは依頼なし格付け1となっています。といいますのは、ある省庁が格付機関に
よる格付けに、依然、強く反対しているからです。その解釈によりますと、自治体間に信用力の
差は存在しない、中央政府が自治体の財政の維持・管理を強く助けているため、自治体間に信用
力の差は存在しない、ということだそうです。だから、民間格付機関による格付けは必要ないと
いうのが、彼らの言い分です。しかし、日本の資本市場参加者たちは、格付機関に対し、これら
地方債の格付けを強く求めました。主要な投資家からのそうした強い要望に答え、中央政府の強
い留保に抗して、当社は地方自治体の信用力を格付けしてきました。
●証券化商品の長期信用格付けカバー率
格付機関別内訳
(Rated Amt / Issued Amt)※
(Coverage)
100%
1.74
1.74
2.0
1.77
1.65
90%
1.48
80%
1.62
1.43
1.5
70%
60%
1.0
50%
40%
30%
0.5
20%
10%
0.0
0%
02-1Q
S&P
02-2Q
Moody's
02-3Q
R&I
02-4Q
Fitch
03-1Q
JCR
03-2Q
03-3Q
Rated Amt/ Issued Amt
出典:ドイツ証券・セキュリタイゼーション・リサーチ
※ある格付け対象債券の発行額を 1 とし、2 社が格付けしていれば 2.0 と計算した場合の全対象
債券の加重平均値
1
格付けの依頼なく行った格付け。いわゆる勝手格付け。依頼格付けと勝手格付けを表示している格付け会社とそ
うでない格付け会社が存在する。
135
ストラクチャード・ファイナンス商品の公開格付けのマーケット・シェアについて触れます。この
ストラクチャード・ファイナンスは、いわゆる公開格付けに限られています。日本では、非公開な
いし内輪だけのストラクチャード・ファイナンスがあります。主要商業銀行は、貸出債権に基づく、
いわゆるCDO2を活用することもありますが、一部の銀行は、ストラクチャード・ファイナンスの
借用者の名前を市場に開示したがりません。ですから、こうした日本の商業銀行によるストラク
チャード・ファイナンスに対するR&Iのカバー率は、非公開の商品があることを考慮に入れれば、
比較的高いと思われます。こうした状況でなお、当社は 3 位を維持しているわけですが、こうい
った非公開のストラクチャード・ファイナンスを含めれば、当社の格付数は 1 位か 2 位になるでし
ょう。ストラクチャード・ファイナンスのマーケット・シェアにおいて、R&I、S&P、ムーディーズ
の間で明確な差はありません。
戦略的新分野
V 医療・ヘルスケア機関の格付け
V プライベート・ファイナンス・イニシアチブ(PFI)
V シンジケート・ローン
こうした活動に加え、当社は 3 つの分野で格付事業を拡大したいと考えております。
ひとつは、医療・ヘルスケア分野の機関の格付けで、二つ目はプライベート・ファイナンス・イニ
シアチブ(PFI)です。ごく最近日本では、道路、橋、公共機関の建物のような公共施設の建設、
つまり公共事業が PFI で行われています。PFI の概要としましては、建設費が 100%国債によって
賄われるわけではなく、民間部門の資金よる点です。公共建築物の建設が民間で資金調達され、
そういった種類の民間投資メカニズムを通して必要資金を集めるため、格付作業が必須となりま
す。3 つめはシンジケート・ローンです。日本では、シンジケート・ローンは諸外国ほど流行りませ
んが、当社はシンジケート・ローンにまで事業を拡大したいと思います。以上、当社の活動につい
て手短にご説明しました。
2
CDO(Collateralized Dept Obligation)。CDOは、社債や貸出債権あるいはその両方から構成される資産を担保とし
て発行される資産担保証券の一種。証券化商品である。担保とする商品が債券または債券類似商品の場合にはCBO
(Collateralized Bond Obligation)と呼ばれるが、貸出債権の場合にはCLO(Collateralized Loan Obligation)と呼ばれ
る。商品内容は資産担保商品(ABS)と類似する。CBOの場合は既発債または債券類似の証券で構成したプールを
担保とする。一方、CLOは貸付債権のプールが担保となる。クレジットリンク債などのクレジット・デリバティブ
が含まれることもある。CDOは目的別に、アービトラージ型とバランスシート型に分類できる。アービトラージ
型は市場で流通している債券などを担保資金とし、投資家に比較的高い利回りを実現することをねらったもの。一
方、バランスシート型は、金融機関などが、バランスシートの改善をねらって、貸付債券をバランスシートから切
り離す目的で発行している。主に都市銀行がBIS規制対策として、またROAなど財務指標の改善のため発行してき
た。
136
2. より高い質と独自性の追及
(1) 信用格付機関の活動に関する原則
(2003 年 9 月 25 日 IOSCO 公表)
–
格付プロセスの品質と誠実性
–
独立性と利益相反
–
透明性と格付開示の適時性
–
機密情報
次に、当社が同時に追究したい事柄ですが、より高い質と、アジアの格付機関としての独自性で
す。最初の高品質ですが、IOSCO(証券監督者国際機構)あるいは米証券取引委員会(SEC)、あ
るいは国際決済銀行(BIS)などの全ての規定を遵守したいと考えております。ですから、まず、
ごく最近、今年 9 月 25 日に公表された IOSCO の規定によれば、IOSCO は格付機関に対し、次の
ような原則に従うよう要求しています。それは、まず格付けプロセスの品質と誠実性、そして二
つ目が、独立性と利益相反です。3 つめは透明性と格付開示の適時性です。4 番目は情報の機密性
です。
利益相反について少しご説明したいと思います。最近では、格付料は投資家ではなく、発行体に
よって支払われます。ですが、格付サービスの受益者は投資家ですから、潜在的利益相反の可能
性があります。もし、私たち、格付機関が収入を伸ばしたければ、発行体の要求に対し融通を利
かせる可能性もあるわけです。つまり、発行体が実態より高い格付けを要求する可能性があり、
格付機関では潜在的に利益相反があります。そこで IOSCO は全格付機関に対し、そうした利益相
反を避けるよう求めています。IOSCO が公表したこの種の原則の導入以前に、R&I は既に、そう
いった種類の潜在的利益相反を避けることができる社内規則を設定しています。この部分にご興
味がある方は、ウェブサイトをご覧になるか、ご質問ください。
(2) NRSROs(米国証券市場認知の統計的格付機関)- 米証券取引委員会(SEC)により認定
R&I は米証券取引委員会に対し、10 年前から資格認定を申請
(基準)
‹
証券格付けの利用者の多数から、信頼するに足る格付けを行う機関として米国内で十分認
知されていること。
‹
(米証券取引委員会の市場規制)局は、各格付機関の運営能力と信頼性を、米国証券市場
認知の基準と関連付けて審査する。審査には以下の項目が含まれる。
1. 格付機関の組織構造
2. 格付機関の財源(特に格付先企業からの経済的圧力や支配から独立して業務を遂行できる
137
かどうか)
3. 格付機関職員の規模と質 (機関が発行体の信用力を一貫してきちんと評価できるかどう
か)
4. 格付機関の格付け先企業からの独立
5. 格付機関の格付け手続き(信頼性のある、正確な格付けを行うべく設定された統一的な格
付手続きがあるか)
6. 格付機関が非公開情報の誤用を避けるための内部手続きを具備しているか、かつ、そうし
た手続きを遵守しているか。
(http://www.abaconline.org/current/FTF21-007_j.htm)
米国証券市場認知の統計的格付機関(NRSRO3)は、米国SECにより任命されます。米SECによる
資格で、米SECが定めるものです。R&I は 10 年前から米証券取引委員会に対し、NRSRO認定の
申請をしております。当社はすでに、同委員会の要求事項を満たしていますので、現在、同委員
会による認定の最終段階に近づきつつあるのではないかと思います。
3
(参考) NRSRO(Nationally Recognized Statistical Rating Organization)
− 米国証券市場認知の統計的格付機関(事実上の米国証券取引委員会認定格付機関)−
NRSRO は米国証券取引委員会(SEC)が 1975 年に証券会社の自己資本規制上、保有債券の値下りリスクを算定す
るために用いる格付を提供し得る格付機関として認定したもの(最初は Moody’s, S&P, Fitch の 3 社)。その後、
他の監督規制においても使用されたため、事実上の認定格付機関とみられるようになった。70 年代後半以降上記 3
社以外に公認を受けた格付機関はピーク時には 7 社あったが、買収や再編によって現在は 3 社のみとなり、寡占の
弊害を指摘する向きもある。NRSRO として認定される要件として、SEC は 1997 年 12 月に 1934 年証券取引所法
一部改正案のかたちで以下の審査要件を提示したが、法改正は、実現しないまま現在に至っている。
①証券格付の利用者から信頼するに足る(credible and reliable)格付を行う機関として米国内で十分認知されてい
ること。②職員数、財務的基盤、組織構造が、発行体債務について信頼するに足る格付を行う能力を十分確保して
いること、これには有能な(qualified)格付けアナリストを十分擁していること、格付先の経済的圧力から独立に
業務を遂行する能力が十分あることを含む。③信頼に足りかつ正確な格付を実施しうる統一的な格付手続き
(systematic rating procedure)を有していること。④証券発行体の経営者との面談を十分に行っていること。⑤機
密情報の漏洩回避のための内部手続きを具備しており、かつこうした手続きを遵守していること。
米国企業改革法(Sarbanes−Oxley Act of 2002)
2002 年 7 月 30 日にブッシュ大統領の署名により成立。同法は企業による情報開示の正確性と信頼性を向上させる
ことによって、投資家により厚い保護を与えることを目的にしている。同法の 702 条において、SECは以下の事項
を議会に報告する義務を課されている。
①証券発行者の評価における格付機関の役割、②投資家および証券市場における格付の重要性、③格付機関が正確
な評価をする上での障害、④格付機関の参入障害とその是正措置、⑤格付機関の情報伝達改善に必要な措置、⑥格
付業務上の利益相反およびその防止措置。
138
(3) 国際決済銀行(BIS)バーゼル銀行監督委員会
(2003 年 4 月公表 コンサルテーション・ペーパー)
外部信用評価機関(ECAI)の適格要件
•
客観性
•
独立性
•
内部アクセス / 透明性
•
ディスクロージャー
•
リソース
•
信頼性
これが、バーゼル銀行監督委員会の規定です。 新バーゼル合意、いわゆる BIS2 においては、格
付機関の役割が大変重要になります。そのため BIS はこうした外部信用評価機関(ECAI)として
の適格性を判断する要件を設定しました。BIS 資本協定の枠組みにおいて重要な役割を果たしたい
との考えから、当社は各国銀行監督当局に対し、外部信用評価機関の資格認定を申請しています。
(4) 日本の格付機関としての独自性
R&I は、構造上の調整が必要な日本企業に対し、高めの格付けをするケースがある。
日本では、貸し手(大抵はメイン・バンク)が潜在的技術力と戦略的重要性がある企業に信用を
付与し、再生を支援するメカニズムがいまだに存在している。
格付けの質をできる限り高く保つだけでなく、当社は日本あるいはアジアの格付機関としての独
自性も追究します。つまり、日本には米国とは異なった企業構造、ビジネス慣行、破綻処理、そ
して、銀行と借り手の密接な関係があります。当社は、米国の基準に追随するだけではありませ
ん。当社の格付けは米国あるいは世界基準に基づいていますが、日本、そしてアジアの格付機関
として、独自性を加えたいと考えております。
3. アジアの格付機関の更なる発展に貢献
(1) 相互支援関係の強化
R&I とアジアの独立した、強力な格付け会社との間において
–
信頼性
–
整合性
–
アカウンタビリティ
(2) アジア開発銀行の役割
–
アジア開発銀行の幅広い、力強いリーダーシップ
–
R&I とアジア開発銀行の密接な協力
139
最後に、アジアの格付機関とアジア債券市場の更なる発展に対する貢献についてご説明したいと
思います。
R&I と、アジアのその他の独立した格付機関との間で、相互支援の関係が強化されなければなり
ません。格付機関としての信頼性、整合性、アカウンタビリティ等を強化するため、当社は既に
そうした格付機関のいくつかと合意に至っています。
アジア開発銀行の重要な役割についても述べておきたいと思います。当社は同行に対し、幅広く
力強いリーダーシップを携え、地域の格付機関の質を高めるよう要請してきました。R&I は同行
と親密な協力体制を維持し、この目標を達成したいと思います。
付け加えますと、私はいわゆる地域格付評議会4構想には反対です。格付機関は独立した機関であ
るべきです。地域あるいは共同体の(統一された)格付機関といった構想は、私はナンセンスだ
と思います。アジアにおける格付機関の活動の重要性を増大させるために、独立した格付機関が
自らの質とアカウンタビリティの面で向上するよう万全の努力を払うべきです。
ありがとうございました。
4
Establishment of the Asian Bond Markets Initiative (ABMI) was endorsed by Asean+3 (Association of South-East Asian
Nations) Finance Ministers during a summit August 7 2003, and duly agreed to by all Asian member nations. It is hailed by
many as a timely co-operative effort to create an environment that is conducive to fostering bond markets in Asia. With the
initiative, Asian governments, corporations and financial institutions are expected to have access to long-term funding in their
respective domestic currencies with the currency diversification allowed through sales of local currency-denominated bonds
to investors in the region. Towards this end, the focus of the ABMI will be on the provision of credit guarantees through
active use of existing guarantors and the possible establishment of an Asian Regiona Guarantee Facility. This was thought to
be able to in turn strengthen the rating system by enhancing the role of domestic rating agencies and possibly establishing an
Asian Credit Rating Board, and putting in place a mechanism for disseminating information on issuers and credit rating
agencies. This may imply the establishment of the unified Asian Rating Agency. To date, six voluntary working groups
chaired by various Asean+3 member countries have been established to address the various complex areas to be tackled under
ABMI.
140
フィッチ・レーティングス
司会:原田さん、ありがとうございました。次は、フィッチ・ジャパンの明石陽子さんにお願いし
ます。フィッチの格付業務についてお話いただきます。
フィッチ・レーティングス ダイレクター・コーポレート 明石陽子さん:ありがとうございます。
皆さん、こんにちは。まず、慶応大学吉野教授と、NIRA の犬飼さんに深く御礼申し上げます。
私どもの組織では、香港オフィスが日本以外のアジアの格付けを担当しております。ですが、残
念ながら、香港オフィスの同僚が本日出席できないため、代わって私が当社と、当社のアジアに
おける格付活動について話をさせて頂きます。
フィッチ・レーティングスについて
9 世界三大格付機関のひとつ
9 ニューヨーク、ロンドンのそれぞれに本社
9 唯一の欧州資本の格付機関
フィッチは、世界三大格付機関のひとつです。当社は、ニューヨークとロンドンそれぞれに本社
がございます。フィッチは唯一、欧州資本の格付機関です。株主は、フランス企業フィマラック
社です。フィマラック社はパリに本部を置く、国際ビジネス支援グループです。当社のバックグ
ラウンドが持つ多様性は、当社の国際的信用格付けにおける公正度を高めるのに非常に役立って
います。格付委員会は通常、ロンドン、香港、パリ、オーストラリアを含む様々な拠点のアナリ
スト 10 人からなっており、各地域市場での経験をまとめながら、格付けについて議論することが
できます。
141
フィッチIBCAがダフ・アン
ド・フェルプス・クレジット・
レーティング・カンパニー
と2000年4月に合併
ダフ・アンド・フェルプス設立
ダフ・アンド・
フェルプス
1932
フィッチ・インベスターズ・
サービス設立
フィッチ、資本再構成–
現在の経営管理チーム形成
2002年1月、名称をフ
ィッチ・レーティングス
に変更
2000
1997
フィッチ
1913
1989
フィッチ・インベス
ターズ・サービス
がIBCAグループ
と合併
1978
IBCA
IBCAリミテッド設立
2002
2000年10月、フィッチがバンク
ウォッチのユニット、 トムソン・
コープを買収
バンクウォッ
チ設立
バンクウォッチ
1991
1913 年に設立されて以来フィッチは、4 社の合併・買収を経て拡大してきました。4 社とは、フィ
ッチ、IBCA、ダフ・アンド・フェルプス、トムソン・バンクウォッチです。昨年 1 月に当社は、新
社名フィッチ・レーティングスのもと、新たなスタートを切りました。
フィッチ・レーティングスは、世界に 50 以上の拠点を持ち、80 カ国以上をカバー。また、アナリ
スト等専門家 1400 人以上を擁す。
当社は 80 カ国以上にまたがり活動しています。また、世界中の 50 以上の拠点にオフィスや関連
事業を構え、1400 人のアナリストを擁します。
フィッチ・レーティングス
−
世界市場カバー率
‹ 世界 4000 社以上の格付け(銀行他金融機関 2,900 社、事業会社 1,100 社)
‹ 81 カ国
‹ 地方債 37,000 を審査
‹ ストラクチャード・ファイナンス −
6,600 を審査
当社は、世界中で 4000 社以上の格付けを行っており、特に金融機関を得意分野としております。
金融セクターだけで 3000 社近くをカバーしています。
142
フィッチ・レーティングス–金融機関
Market Share-December 2001
100
80
60
Fitch
S&P
40
Moodys
20
0
Western
Europe
North
America
ME & Africa
Asia
C&E Europe
Latin
America
* 北米のマーケット・シェアは銀行持株会社トップ 100 社に基づく
このグラフは、金融機関部門における、世界的格付機関のマーケット・シェアを示しています。当
社は、アジアを含め全地域で最大のシェアを誇っています。一方、事業会社の格付シェアは比較
的低く、更なる増加が必要となっています。
フィッチ・レーティングス – アジア
ƒ
フィッチ・レーティングス 香港リミテッド – 100% 子会社
ƒ
フィッチ・レーティングス・インディア・プライベート・リミテッド
– 100% 子会社
ƒ
香港
インド
フィッチ・レーティングス・シンガポール・プライベート・リミテッド
– 100% 子会社
シンガポール
ƒ
フィッチ・レーティングス台北駐在員事務所 – 100% 子会社
台湾
ƒ
フィッチ・レーティングス – 東京支社
日本
ƒ
コリア・レーティングス(旧 KMCC)– 関連会社
韓国
ƒ
フィッチ・レーティングス・タイランド– 関連会社
タイ
ƒ
マレーシア・レーティング・コープ – 関連会社
マレーシア
ƒ
フィッチ・レーティングス マニラ駐在員事務所 – 関連会社
フィリピン
ƒ
フィッチ・レーティングス・ランカ・リミテッド - 関連会社
スリランカ
ƒ
中国誠信国際等級有限責任公司 – 関連会社
中国
143
当社は、アジア市場にますます力を入れています。今年、台湾の駐在員事務所と、インドの関連
会社を、100%子会社に転換しました。その結果、当社は香港、インド、シンガポール、台湾に 100%
子会社を有することとなりました。
日本には、東京に支社を構え、直接ロンドン本社に報告をしています。加えて、韓国、タイ、マ
レーシア、フィリピン、スリランカ、中国にも関連会社があります。
日本の発行体の格付け
No. of ratings for Japanese issuers
Moody's
S&P
Fitch
305
347
45
Source: Japan Centre for International Finance
R&I
705
JCR
611
JCIF5
ƒ
2002 年に事業会社の格付けを開始
ƒ
日本市場への参入が遅かったため、他の格付機関に遅れをとる
ƒ
過去 2 年間で、社員数を 40 人に倍増
当社が日本企業の格付けを開始したのは昨年になってからです。日本企業への参入が遅かったた
め、他の格付機関に遅れをとっています。ほとんどの皆様がお気づきのように、R&I の原田さん
のプリントでは、当社の名前には触れていませんでした。市場における当社の存在が今のところ
小さいためです。ですが、当社は急拡大しており、社員は 2 年間で 2 倍の 40 人に増員しました。
アジア諸国発行体の格付け
-開発途上国
No. of Ratings for Asian issuers
Moody's S&P Fitch R&I JCR
Hong Kong
13
80
22
5
0
Singapore
2
27
6
3
0
Korea
17
33
22
13
3
Malaysia
3
21
15
1
0
Thailand
1
22
30
0
1
Indonesia
3
24
18
0
3
Phillipines
4
21
20
0
1
India
1
26
34
0
2
Taiwan
3
48
34
0
0
China
8
22
18
7
2
Total
55 324
219
29
12
Source: Japan Centre for International Finance
注記: ムーディーズの数値は、金融機関のみ対象
5
国際金融情報センター http://www.jcif.or.jp/topics2002b.pdf 参照。格付けの数については常に変動しているので第
3 者(国際金融情報センター)による公表済みの外部資料を使っている。上の表も下の表も出典は「よくわかる格
付けの実際知識」東洋経済新報社。
144
この表は、日本の 5 格付機関による、アジアでの格付数を示しています。当社は 219 と、比較的
多数の格付けを行っておりますが、世界で 4000 の格付けをカバーしていることに比べますと、ま
だ少なくなっております。アジアにおける格付け活動は、日本におけるどの格付機関をとりまし
ても、まだ低開発の段階にあると言えます。
低いソブリン格付け
Singapore
Japan
Hong Kong
Taiwan
China
Korea
Malaysia
Thailand
Philippines
India
Indonesia
Foreign Currency Long Term Ratings
AAA
AA
AAA+
AA
BBB+
BBBBB
BB
B
格付けの面から見て、アジアの発行体が抱える問題のひとつは、表に見られますように、ソブリ
ン格付けが低いことです。一般的に言って、ソブリンは国の基本的信用度に対する格付けですが、
フィリピン、インド、インドネシアといった国のソブリン格付けは、投資適格未満となっていま
す。各国の信用度をグローバルに比較できる国際的格付基準では、そうした国の起債が、投資適
格格付けを得るチャンスはほとんどありません。
台湾、中国、韓国のような国をとっても、格付けの中心はソブリンシーリングのために、ソブリ
ン格付けと同等か、低い格付けのカテゴリーに集中しています。その結果、国際的格付基準によ
る地元発行体の信用度にはっきりとした差が出ていません。
国内格付け
9 1997 年 1 月に導入
9 “AAA”を著しく下回るソブリン格付けの国の発行体に適用
9 上記市場における、投資家のリスク・アセスメントを助けるツール
9 国際的比較は不可能
9 国ごとの特殊な符号による格付け。例えば、タイの “AAA(tha)等。
9 当該国においてのみ使われる、信用価値の相対比較手段
こうした問題を解決するため、フィッチは 1997 年 1 月に国内格付基準を導入しました。国内格付
145
基準は、アルゼンチン、ブラジル、チリ等のラテン・アメリカ諸国、および南アフリカ共和国、チ
ュニジア、トルコといった国で開始されました。ここ数年当社は、国内格付けを台湾、インド、
タイ等のアジア諸国に拡大しています。国内格付基準は基本的に、ソブリン格付けが AAA を著し
く下回る国の発行体に適用しています。国内格付基準は、拡大する市場における、投資家のリス
ク・アセスメントを助けるツールを提供します。申し上げておかなければなりませんのは、国内格
付基準は国際的に比較するのが不可能だということです。例えば、台湾のシングル A の格付けは、
アルゼンチンの国内格付基準のシングル A と同じではありません。ですから、国内格付基準は特
別の符号で表すべきで、例えば、タイにおける国内格付基準による格付けをたとえば AAA(tha)の
ように表示すべきなのです。
国内格付け – タイの場合
9 タイのソブリン格付けは“BBB-”
9 国際的な格付基準では、BBB-がソブリン・シーリングとなり、タイの発行に対する格付け
は BBB-を超えることはない。
国内格付基準では、各発行体間の信用力の差を大きく表示
9 2003 年 10 月 8 日、フィッチはサハビリヤ・スチール(Sahaviriya Steel)の自国通貨建
社債に BBB(tha)を格付け
9 2003 年 9 月 26 日、フィッチはサイアム・セメント(Siam Cement)の自国通貨建社債に
A-(tha)を格付け。
国内格付基準は、当該国内のみにおいて使用される相対的信用価値格付手段です。例えばタイの
場合、ソブリン格付けは BBB マイナスです。国際的格付基準ですと、タイの発行体に対する格付
けはソブリン・シーリングにより、BBB マイナスを上回らないように留められます。ですが、国内
格付基準を用いる場合には、その国での最高の信用度として AAA の格付けも可能となります。よ
り大きなレーティング格差をつけるために、その他全ての信用が最高の信用リスクとの相対で格
付けされます。例としましては、タイでは、サハビリヤ・スチールに BBB、サイアム・セメント
にシングル A マイナスの格付けをしました。両社とも、以前は、同じ格付けカテゴリー、例えば
国際格付基準の BB で格付けされていました。このように、国内格付基準は、国内の発行体間に
おける、より大きな信用区分を提供してくれます。
国内格付け – 考慮すべき点
9 国内格付け数が限定されている
9 多くの新興市場では、デフォルトのデータが全くあるいはほとんど入手不可能
9 デフォルトの可能性と、国内格付けとの関連性が欠如
9 国内格付けは国際格付けとの整合性を確保するため、更なる発展が必要
146
その一方で、国内格付けは歴史が浅く、市場には限られた数の国内格付けしかありません。問題
は、デフォルトのデータが多くの新興市場で全く、あるいはほとんど入手できないことです。ま
た、デフォルトの確率と国内格付けの関連性が欠如していることも問題です。国内格付けは、国
際格付けとの整合性を確保するため、さらに発展させる必要があります。
アジア債券市場に関して一言
9 以下の要素を向上するメカニズム:
流動性
透明度
何らかの信用強化
9 以下を収束させるメカニズム:
アジア諸国ごとに異なる制度
- 以上がソブリン格付けに反映され、最終的に国際格付けに反映される
最後に、アジア債券市場について一言申し上げます。私の個人的意見としましては、流動性、透
明度、何らかの信用強化を向上させ、アジア諸国の異なった制度を収斂させるメカニズムを、ア
ジア市場が提供できれば、こうした要素がソブリン格付け、ひいては国際格付けに反映されるこ
ととなり、当社も新たに特定地域向けの格付基準作成を考えずに済みます。
ありがとうございました。
www.fitchratings.co.jp
www.fitchratings.com
147
日本生命保険
司会:明石さん、ありがとうございました。今度は、投資家の立場から、日本生命保険の徳島勝
幸さんに、アジア債券市場に対する日本の投資家の姿勢についてお話し頂きます。
日本生命保険
徳島勝幸さん:司会さん、ありがとうございます。 日本の機関投資家代表として
スピーチさせて頂き、光栄に思っております。
さっそく始めさせて頂きます。
アジア債券市場に対する、日本の投資家の姿勢
∼いかにしてアジア債券市場へいざなうか∼
私たちが、アジア債券市場を更に活性化するための提案を考えるとき、考慮に入れるべき関係者
は数多くいます。
はじめに
多彩な市場参加者
‹
発行体
‹
地方自治体
‹
格付機関
‹
決済銀行
‹
投資銀行
‹
機関投資家
需要と供給が一致したとき、市場は均衡に達することができる。
もちろん、発行体、地方自治体、企業、銀行は大変重要な関係者ですし、地方自治体は同時に、
148
市場の構造や規制といったものを設定する政策決定者でもあります。その他、格付機関、決済銀
行、機関投資家等の市場参加者が存在し、私はアジア債券市場イニシアチブのワーキング・グルー
プ一員として、今年初めから共に作業をして参りました。
そこで感じておりますのは、ほとんどの議論が、債券発行体あるいは政策決定者の視点からなさ
れており、債券の買い手あるいは潜在的買い手である投資家の立場にはあまり焦点が当てられて
いないということです。
単純な経済理論を忘れないで頂きたいのですが、市場はサプライ・サイドのみで機能しているわけ
ではありません。需要と供給が一致したとき、市場は均衡に達することができるのです。
本報告では、日本の機関投資家のアジア債券市場における投資に対する消極的な態度に焦点を当
てたいと思います。本日も既に有名な格付機関 2 社の方から、本格的なプレゼンテーションがご
ざいましたが、私もまた、債券への投資家の視点から、格付けについてお話をしたいと思います。
日本はアジアに位置していますが、日本の投資家はアジアの発行体が発行した債券をあまり保有
していません。日本の全投資家を網羅した公式統計がありませんので、日本生命が公開している
データを使用したいと思います。
日本の投資家の存在
Forign Bond Holdings of NLI
3%
1%
8%
0%
49%
39%
149
North America
Europe
Oceania
Asia南米
South America
Int'l Org.
日本生命は外国債券を 4 兆円相当(簿価)保有しており、その半分近くが北米の発行体により発
行されているものです。その大半は政府や政府機関への投資であり、企業部門への投資割合は少
なくなっています。また、全体の 40%近くが欧州の発行体によるものであり、アジア債券は 360
億円と、全体の 1%にすぎません。データから、北米と欧州だけが、主な投資目標であることはき
わめて明確であり、他地域は無視されているに等しいのです。
そうした投資スタイルの裏にある理由は、日本の投資家は外国債券投資において、金利リスクと
通貨リスクしかとらないことです。米企業の社債を購入している生保もありますが、そのポート
フォリオのほとんどはトレジャリー・ボンド(米国財務省証券)や政府機関の債券で占められてい
ます。日本生命のポートフォリオ中 1%を占めるアジア債券のほとんど全てが、日本市場において
円建てで発行されている、いわゆるサムライ債、またはユーロ円債です。
日本の機関投資家のアジア債券投資を妨げている要因があるのでしょうか?ここで、発行体側の
主な問題と、投資家側の問題についてお話したいと思います。
発行体側の問題
(A) 法律、規制、会計
1) 破産法
2) 会計
(B) 市場
3) 流動性
4) 決済制度
(C) 信用リスク以外の要因
5) 外国為替
6) アジア通貨単位
(D) 情報
7) 格付け
まず、発行体側の問題について話したいと思います。
投資家というのは本来、自分の投資について大変神経質です。予期せぬリスクを発見したとき、
投資家は往々にして一瞬立ち止まり、考え込みます。アジア債券の場合は、検討すべき要素が多
く、中には全ての債券投資家そして、国外に投資する投資家に共通する検討事項もあります。更
に、アジア債券市場特有の性格もいくつか検討しなくてはなりません。
投資家の主な懸念は、投資する市場が、十分に整備されているかどうかです。投資家はこれから
申し上げる要素や問題点を検討します。 そして発行体、監督当局、市場参加者は投資を促すべく、
投資家の要求に応じるよう努めなくてはなりません。投資家が検討する第一が規則、規制、会計
150
です。
要素の 1 番目は破産法です。破産法が整備され、どのような手続きが取られるかが前もって明確
にわからなくてはなりません。債権者は、法的命令に則った扱いを受け、債券の保有者は権利関
係が同等である場合、他の債権者(貸し手)に劣る扱いを受けるべきではないのです。破産手続
きにおける透明性が、鍵となる要因です。
2 番目は会計です。投資家は一般に、なじみのある会計原則、例えば米国 GAAP や、国際会計基
準に則った、発行体の財務諸表を要求します。アジア諸国のほとんどが、数年後に国際会計基準
を導入すると既に発表しており、それが実行されれば、こうした投資家の要求を満たすことが出
来ます。あえて申しますが、保険業の会計について、私は国際会計基準審議会が効果的であると
も、適切な会計基準を確立できるとも思いません。特に、世界の主要保険会社を無視した手続き
のままでは。会計原則に加え、適切な監査手段も確立すべきです。
ここで、市場サイドに目を向けます。流動性に注意を払わなくてはなりません。
次に、決済制度です。T+1(翌日決済)のストレート・スルー・プロセッシング(STP)システムと
DVP は、アジア債券市場にとって、最低限の基準です。
次に、信用リスク以外のリスクです。
5 番目は、外国為替です。日本の機関投資家は通常、国内市場を通じて円で資金を調達しています。
ですから、外国通貨建ての投資による通貨リスクを避けようとする傾向にあります。既に、この
フォーラムでお話のありました、通貨スワップや為替予約などの適切なヘッジ手段が必要です。
でなければ、発行体は、サムライ債やユーロ円債などの円建て債券によって資金調達をするかも
しれません。
次に、アジア通貨単位(ACU)です。もし、ACU が誕生すれば、かなり大きな市場の出現につな
がる可能性があり、日本の投資家の注目を集めることも確実です。しかし、私が理解する限り、
通貨バスケットの適正な構成比率を決定するための議論には、もう少し時間と慎重な検討が必要
です。
151
格付け
日本事業会社の格付け
# of Ratings
Average Rating
R&I
650<
A-
JCR
550< (p: 50)
A-
Moody's
230<
Baa1
S&P
330< (pi: 200)
BBB
Fitch
<50
BBB+
2003 年 6 月現在
これからお話する情報の問題が、私のメイン・テーマです。
ひとつは格付けについてです。言うまでもなく、現代の債券投資家にとって、格付けは必要不可
欠です。少なくとも 2 つの格付機関から格付けを受けるのが理想的だと言われています。ここで
疑問となるのが、どの機関の格付けを選ぶべきかということです。例えば、日本では、国内機関
が 2 社、世界的機関が 3 社あり、国内機関のほうが世界的機関より、幅広い領域にわたり発行体
をカバーしています。
R&Iがカバーするのが 700 社弱、日本格付研究所(JCR)が 600 社弱です。対して、ムーディーズ
が 200 社強、S&Pが 300 社強です。ただし、この 300 社のうち 200 社はpi格付6けです。そしてフ
ィッチは、明石さんがおっしゃったとおり、50 社未満です。
ですから、世界的機関 3 社はある程度認識されているものの、日本の債券市場で完全に頼りにさ
れているわけではないのです。また、日本の機関は日本語で情報収集ができ、国内情勢の理解度
も高いことから、世界的機関より優位に立っていることは明らかであるように見えます。
全体的な市場での経験を考えると、日本の投資家はアジアの発行体に対する世界的格付けの信頼
性に疑問をもっています。ここで付け加えておかなければならないのは、日本においてさえ、上
記世界 3 社の格付け基準は日本の格付機関によるものとは違っていると考えられていることです。
下の行は、格付けの平均です。R&I と JCR の平均はシングル A マイナスであるのに、ムーディー
ズ、S&P、フィッチの平均は BBB あるいは BBB プラスです。英語でのディスクロージャーは、
日本に比べ、いくつかのアジア諸国のほうが断然進んでいます。一方、世界的機関の格付けはあ
る程度、外国人の視点、限られた情報に基づいてなされていると依然考えられています。
以下ふたつの表は、主要アジア諸国の国家や企業の格付けの分散を表しています。
6
Public Information Ratings (pi rating) (S&P) 公開情報に基づく格付け(pi格付け)
152
国家の格付け
R&I
Indonesia
Malaysia
Philippine
Singapore
Thailand
Vietnam
Japan
China
Korea
JCR
Foreign
Local
B−
BBB+
BBB−
AAA
BBB+
B
A−
BBB
AAA AAA
BBB+
AAA
A
A−
AAA
Foreign
Local
AAA
AAA
A
AA−
Moody's
S&P
Fitch
Local
Foreign
Local
B2
Baa1
Ba1
Aaa
Baa3
B1
Aa1
A3
A3
B2
A3
Baa3
Aaa
Baa1
B
A−
BB
AAA
BBB
BB−
AA−
BBB
A−
B+
B
B
A+ BBB+
A
BBB
BB
BB+
AAA AAA AAA
A
BBB
A−
BB
BB−
BB
AA−
AA
AA−
A−
A
A+
A
AA−
A2
A3
Foreign
Max Spread
Foreign
Local
Foreign
Local
1
1
3
0
2
0
3
3
1
5
3
2003 年 10 月現在
企業格付け
Domestic CRA
Indonesia Bank Negara Indonesia
idA- (PEFINDO)
Malaysia PETRONAS
AAA(MARC)
Thailand PTT Exploration&Production AA+ (TRIS)
Korea Samsung Electronics
AAA(KIS)
Korea Electronic Power
AAA(KIS)
Moody's
B2
A3/Baa1
Baa3
A3
A3
S&P
B/B
A+/ABBB+/BBB
A-/AA-/A-
Fitch
B
A/BBB+
R&I
JCR
/B-
/BBB+
/BBB+
A/A-
/A
自国通貨 / 外国通貨 2003 年 10 月現在
こうした表では、日本の機関と世界的機関による格付けの違いは、日本の信用力に関して最も際
立っています。他のソブリン格付けは、1 ノッチから 3 ノッチの違いに過ぎません。自国の機関と
しての利点は認識される一方、世界的機関は、分析システムが発達しており、格付け用グリッド
標準化の可能性もあると理解しています。
投資家には、国内・世界的機関両方の利点が歓迎されます。アジア諸国の国内機関は既に、能力
と知識の集結に向け、アジア格付機関連合(ACRAA)を設立しています。そうしたアジア各国の
格付機関が提供する情報は、日本の投資家がアジアの信用力に対する理解を深める一助となると、
強く信じております。
(D) 情報
8) 企業財務と破産統計データベース
9) 偏った情報、不案内な格付けの減少
153
8 番目は、企業財務と破産統計のデータベースです。
企業の財務データと破産の統計は、歴史的に積み上げていき、投資家がデフォルトの確率と再建
の見込みを分析できるようにしなければなりません。デフォルトの確率と再建率のデータは、必
要な信用力格差を計算するのに用いられ、CDO 等の証券化商品を開発する際にも役立ちます。
9 番目の要素は、偏った、あるいは不案内な格付けです。10 年前に比べれば、状況はずいぶん良
くなっていますが、日本の投資家はアジアの国や企業といった発行体についてあまり知りません。
当然投資家は、よく知らないだけに、偏った情報を避けたがります。地元格付機関の発達や、歴
史的なデータの積み重ねといった、先に申し上げた事柄は、投資家が広い範囲にわたる情報から
判断を下す助けとなりましょう。
アジア市場を念頭に、様々な要素についてお話しましたが、そのほとんどが日本の国内債券市場
にも当てはめることができます。特に、外国人投資家の視点といった意味ではそう言えます。日
本も、現在まだ債券市場の構造を改善している最中なのです。
投資家側の問題
心理的な抑制
確立された米・欧州両市場
短期的展望による、リスク回避
ここで、投資家側の問題に移ります。発行体側で述べた問題の中には、逆に投資家側の立場につ
いてもっと報告をしなくてはならない事柄があります。また、こうした合理的な問題に加え、投
資家の側には心理的な抑制も見受けられます。申し上げましたように、日本の投資家は米国と欧
州に的を絞りがちです。というのも、最善の情報を集めることができるからです。比較的小規模
なアジア債券市場に投資するメリットは果たしてあるのでしょうか?利益は出るのでしょうか?
最近では、いわゆる社会的責任投資(SRI)が注目されているものの、投資というものは、取った
リスクに対してリターンのあるものでなくてはなりません。アジアでの投資について言えば、通
貨が米ドルに対してペッグ制となっているか、債券の発行そのものが、米ドル建て、あるいは円
建てとなっています。そのため投資家は、通貨以外のリスクに集中できます。
申し上げておきたい最後のポイントは、日本企業が頻繁に従業員を異動する経営方針からくる、
論理性を欠いた行動です。投資部門も例外ではなく、数年毎に幹部職員が異動で入れ替わります。
そのため、比較的短期の展望を持ってリスクを避ける傾向が強くなりがちです。
154
結論
可能な解決策
仕組み証券・信用保証
段階を踏んだ移行
結論としましては、近い将来、アジア債券市場は急速に成長し、非常に組織立ったものになると
信じております。日本の投資家は、アジアを無視し続けるべきではありません。しかし、良い市
場システム、市場慣行を確立するのには時間がかかります。しっかりとした法的な、また会計上
のインフラの他に、情報が上手く流れるフローを、意識して設計しなければなりません。可能な
解決策のひとつとしましては、市場がうぶ声を上げる前に、普通社債ではなく仕組み証券や信用
保証を提供することがあげられます。例えば、域内の債券を円建てにリパッケージすることで、
通貨リスクを取り除けば、通貨リスクを避けたい投資家に歓迎されるでしょう。信用保証とリス
ク分散による証券化は、信用リスクを負うことに慣れていない投資家への入門的商品となること
でしょう。
こうした商品への投資を通じて、投資家はアジア経済に慣れ親しみ、知識と経験を積み重ねます。
そうした段階的な移行が、市場拡大に適していると思います。流通価格、評価、定期的な情報の
アップデートを含めた透明性を提供することが、発展へのカギとなるでしょう。
ありがとうございました。
155
Q&A:4. 投資家と格付けの視点
司会:徳島さん、ありがとうございました。続いて質疑応答に入ります。特に、前から 2 列目、3
列目のテーブルにお座りの方、ご参加をお願い致します。テーブルには四角い物が置いてござい
ますが、これはマイクですので、ぜひご質問をお願い致します。それでは、ご質問をどうぞ。
日本格付研究所(JCR)入村さん:JCR の入村です。アジアの信用格付機関について 2 つほど質問
があり、皆様からのコメントを頂きたいと思います。同時に、私自身の回答も述べさせて頂きま
す。2 つの質問は、お互いに関連しています。
最初の質問は、アジアに単一の信用格付機関が存在することは望ましいのか?
二つ目は、国内の格付機関の役割とは何か?これは、アジア諸国に既に存在する機関についてで
す。
アジアに単一の信用格付け期間を持つことは望ましいか?
最初の質問について、少し詳しく話したいと思います。アジアの信用格付機関の必要性について
は、何がしかの話があります。場合によっては、それはおそらく、単一の格付機関を求める声で、
アジア債券市場の育成に適しているのではないか、というものです。私の答えは「ノー」です。そ
れには理由があります。
まず、適度なレベルの競争があることが適切だと思います。日本では、国内 2 大格付機関がお互
いに競いあっています。これがもし、1 社しかなかったら?おそらく、発行体となる日本企業は、
その 1 社が気に入らなくても、それを使わざるを得ないでしょう。現在、我々は(発行体)企業
に莫大な料金は請求しておりません。これは、競争があるからです。そしてこれは、信用格付業
界の歴史の一部でもあります。
2 番目に、そうした単一の格付機関を形成しようとすると、政府が何らかのイニシアチブを取る可
能性があります。債券市場育成に政府のイニシアチブがあるのは良いことですが、ぎちぎちのイ
ニシアチブを、特に格付け事業について押し付けるのは、大変大きな問題です。私たちは、お互
いに競争している民間企業であり、投資家から頼りになる格付けであるとの信頼を得ることに存
在意義があります。政府がいったん格付けのプロセスにかかわれば、一部の投資家は、格付けの
示す信頼性に疑問を投げかける意欲をそがれるかもしれません。
3 番目は、もっとテクニカルな点、つまり、そうした機関の収益性と存続性です。政府によるイニ
シアチブの最初の段階では、特に新興市場諸国では、債券市場を育成するためのアイデアとして
156
まず思いつくのは「信用格付け会社の設立だ。これがはじまりだ」というものでした。格付け会
社を立ち上げるのは大変簡単なことですが、それを継続企業として運営していくのは別の話です。
新たに設置した格付機関が、事業から納得のいく収益を上げることは、債券市場の規模のせいで
非常に難しいこともあります。歴史上の問題もあります。当社は今年の時点で、日本および海外
市場で 18 年の経験があり、歴史もあります。ですが、新設の機関には歴史がありません。それで
は、当初、どのようにして投資家からの信頼を得るのでしょうか?それは大変難しいでしょう。
こうしたことが、私が「ノー」と申し上げた理由です。
国内格付機関の役割とは?
2 番めの質問です。国内格付機関の役割とは何でしょうか?国内の格付機関による格付けが甘すぎ、
信じることができないという、投資家の声を耳にすることがあります。ですが、私は常に、
「そう
おっしゃらないで下さい」、と言おうとしています。それは全く誤解を招きかねない話しだからで
す。私の理解では、国内機関の格付けは国内基準による格付けであり、ムーディーズ、S&P、フ
ィッチ、JCR、R&I などによる、国際基準での格付けとは完全に違うということです。
フィッチ・レーティングスの配布資料の 6 ページをご覧下さい。
国内格付け
9 1997 年に 1 月に導入
9 “AAA”を著しく下回るソブリン格付けの国の発行体に適用
9 上記市場における、投資家のリスク・アセスメントを助けるツール
9 国際的比較は不可能
9 国ごとの特殊な符号による格付け。例えば、タイの “AAA(tha)等。
9 特定の国においてのみ使われる、信用価値の相対比較手段
国内格付け – タイの場合
9 タイのソブリン格付けは“BBB-”.
9 国際的な格付基準では、BBB-がソブリン・シーリングとなり、タイの発行に対する格
付けは BBB-を超えることはない。
国内格付基準では、各発行体間の信用力の差を大きく表示
9 2003 年 10 月 8 日、フィッチはサハビリヤ・スチール(Sahaviriya Steel)の自国通貨
建社債に BBB(tha)を格付け
9 2003 年 9 月 26 日、フィッチはサイアム・セメント(Siam Cement)の自国通貨建社
債に A-(tha)を格付け。
国内格付け – 考慮すべき問題点
9 国内格付け数が限定されている
9 多くの新興市場では、デフォルトのデータが全くあるいはほとんど無い
157
9 デフォルトの可能性と、国内格付け間の関連性が欠如
9 国内格付けは国際格付けとの整合性を確保するため、更なる発展が必要
これは、国内格付けについて非常に良く描写しています。簡単に言いますと、国際格付けは、20
センチ定規のようなものです。多様な国々に対して使おうとすると、限界があることもあります。
ここで、日本生命さんの参考資料の第 4 表をご覧下さい。
R&I
Indonesia
Malaysia
Philippine
Singapore
Thailand
Vietnam
Japan
China
Korea
JCR
Foreign
Local
B−
BBB+
BBB−
AAA
BBB+
B
A−
BBB
AAA AAA
BBB+
AAA
A
A−
Foreign
AAA
Local
AAA
AAA
A
AA−
Moody's
S&P
Fitch
Foreign
Local
Foreign
Local
B2
Baa1
Ba1
Aaa
Baa3
B1
Aa1
A3
A3
B2
A3
Baa3
Aaa
Baa1
B
A−
BB
AAA
BBB
BB−
AA−
BBB
A−
B+
B
B
A+ BBB+
A
BBB
BB
BB+
AAA AAA AAA
A
BBB
A−
BB
BB−
BB
AA−
AA
AA−
A−
A
A+
A
AA−
A2
A3
Foreign
Local
Max Spread
Foreign
1
1
3
0
2
3
3
1
Local
0
5
3
これは、国家格付けに関する表です。無精なため、自分で作成した表でなく申し訳ありません。
さて、インドネシアの格付けを見ますと、4 つの格付機関がシングル B に当たる格付けを与えて
います。ほとんどの場合、インドネシア企業・機関の外貨建て発行の格付けはこの水準を突破す
る可能性はありません。
「ほとんどの場合」と申しましたのは、いくつか例外があるからです。で
すから、20 センチの定規に例えた場合、端(はし)の 5 センチしか使っていないことになります。
これは、国内投資家・グループにとって意義深いことでしょうか?おそらく、無意味なことだと
思います。そのために、国内格付け企業があり、また、2 種類の格付け機関が存在し、それぞれ存
在意義を持っているのです。
ですから、こうした既存の格付機関を合併してひとつの機関にするというアイデアは、全くとん
でもないものだと思います。
ありがとうございました。以上が私のコメントです。この問題についてコメントを頂ければ幸い
です。
司会:今のコメントについて、何かご質問、ご意見はございますか?
徳島:最初の点につきましては、賛成です。アジアに唯一の格付け会社を持つという考えは気に
158
入りません。先に申し上げましたように、私たち投資家は、複数の格付けを知りたいと思ってい
ます。少なくとも 2 社が必要と考えています。そもそも、アジア全域をカバーする格付け会社の
設立が可能だとは思いません。どの国の経済も違っているからです。時にアジア単一の格付機関
を設立すべきだとの声も聞かれますが、私もナンセンスだと思います。
2 つ目の問題については、投資家として、アジア経済に投資する場合、国内格付けおよび世界的格
付けの両方を検討する、とういのが私の答えです。世界基準の格付けは世界的な意味において比
較ポジションがあり、国内格付けは当該経済内での相関性があります。しかし、プレゼンテーシ
ョンで申しました通り、世界基準の格付けに頼り切るということはありません。
ありがとうございました。
司会:何かコメントはございますか?
原田さん:ありがとうございます。私の理解では、入村さんのなさった質問は、アジアに域内統
一の格付機関は必要か?ということだったと思います。私の答えはつい先ほど申し上げた通り、
「ノー」です。
格付機関の活動は、民間機関の手によるべきです。民間機関には破産リスクがあり、格付け活動
において重大な間違いを犯した場合、即刻破産となるでしょう。信頼を得るには 10 年から 15 年
かかりますが、失うのは 1 日です。ですから、民間機関としての格付機関の存在は、民間資本市
場におけるインフラとして、無くてはならないものです。
域内統一格付け会社のような機関のコーポレートガバナンスは、大変困難であり、深刻な利益相
反があると思います。なぜなら、その域内格付機関へのタイからの参加者は、自国、タイの権益
を守ることに固執するかもしれないからです。ですが、シンガポールからの別の参加者はシンガ
ポールの権益を固持しようとするかもしれません。ですから、シンガポール航空あるいはタイ航
空を矛盾のないように格付けするのは大変難しくなるでしょう。その場合、そうした域内統一格
付機関が適切かつ整合的な格付けをするのはとても難しくなります。
国内格付機関の役割ですが、参加者のたくさんの方がおっしゃったように、世界的機関と、地域
的・国内の格付機関に違いがあるというのは本当です。もちろん、R&I とムーディーズ、S&P に
もそうした違いがあります。先ほど申しましたように、当社の格付けは、世界における格付け活
動に基づいており、域内企業活動への考慮・反映といったものを加味しています。ですから、国
内格付機関の役割は、意味深く、しかし、そうした場合であっても、格付けの整合性は最重要事
項で、でなければ投資家は格付け結果を信用することができません。
整合性の良い例は、私がプレゼンテーションでお見せした、過去の格付けの歴史と、変移の表で
159
す。
V 広義デフォルト率・累加平均(%)
1
2
3
4
経過年数
AAA
0.00
0.00
0.00
0.00
AA
0.00
0.00
0.06
0.12
A
0.05
0.14
0.34
0.62
BBB
0.14
0.42
0.78
1.19
BB
1.87
3.34
4.50
5.15
B or lower
7.82 12.01 15.79 17.81
BBB or
0.08
0.24
0.48
0.78
above
BB or
2.96
4.92
6.57
7.49
lower
All
0.28
0.57
0.91
1.24
5
0.00
0.19
1.00
1.55
5.87
19.24
1.08
6
0.00
0.41
1.36
1.97
6.83
20.71
1.43
7
0.18
0.65
1.68
2.34
8.47
22.93
1.75
8
0.38
0.92
2.07
2.68
10.05
25.22
2.09
9
0.58
1.31
2.52
3.03
11.28
28.37
2.46
10
0.80
1.52
2.87
3.45
12.08
30.81
2.82
8.35
9.41
11.18
12.92
14.61
15.82
1.58
1.97
2.39
2.83
3.30
3.71
出典:R&I ニュース・リリース 2003 年 6 月 30 日「格付けとデフォルトの関連性」
格付け変移の行列
出典:R&I ニュース・リリース
2003 年 6 月 30 日「格付けとデフォルトの関連性」
この統計的根拠から、当社の格付機関としての整合性ということが言えると思います。域内ある
いは国内格付機関も投資家に対し、こういった種類の統計資料を提示するべきだと思います。あ
りがとうございました。
司会:何かコメント、ご質問等は?
クニガーさん(バークレイズ・キャピタル・タイランド):原田さんのコメントの直前に、アジア統
一の格付機関設立は不要であり、かなりナンセンスだというコンセンサスがあったようです。
この点について、日本の格付機関はどうやってカギとなる役割を果たすことができるのか、もう
160
少しコメントや、掘り下げたご説明を頂けますか?投資家は、国内格付けに満足しているように
見えるため、ここに少しギャップがあると思うのです。つまり、アジア統一の格付機関は無く、
日本には大きな投資家基盤がありますが、国内格付機関には満足してない。日本の国内格付機関
は、今のところ、アジアの企業、例えばタイの国営事業などに目を向けていないように思えるの
です。この役割をどう果たそうと思われますか?あるいは、私たちは例えばフィッチ、S&P、ム
ーディーズなどによる、国際的格付けを検討すべきなのでしょうか?投資家の便宜をはかるには、
何に頼れば良いのでしょう?
原田さん:素晴らしいコメントをありがとございました。プレゼンテーションの最終ページでご
説明しました通り、当社は、アジアの域内・諸国内の格付け会社との緊密な関係を改善・強化し
たいと思っており、既にそうしたイニシアチブを開始しております。当社はアジアの格付機関数
社と、すでに大変密接な関係を構築しております。
そうした企業に対し、当社が教える側にあるとは思っておりません。むしろ、アジア域内の格付
けの質を、共に向上させたいと思っております。その目標達成のため、私どもは既に人員の相互
派遣など緊密な協調関係にあります。また、他のアジア格付機関が後援するセミナーにも参加し、
様々な意見交換をしております。
例えば、実務ベースでは、ある具体的な企業の信用価値に関し、大変真剣に意見交換しました。
こういった種類の、大変真剣で真面目な活動を通じて、地域的に独立し、世界的に整合性を持っ
た格付機関が日本以外のアジア地域内にも誕生することでしょう。当社は、アジア開発銀行と緊
密に協力しつつ、他の格付機関が独立した、信頼性の高い、正確な格付けを行う会社となれるよ
う、支援してまいります。
司会:何かご意見は?
入村さん:日本の国内格付機関についてコメントを付け加えたいと思います。個人的に私は、地
域の格付機関に対してなされるべき貢献について、2 通りのアプローチがあると思います。
ひとつが 2 国間の、二つ目が多国籍のアプローチです。
2 国間の方は既に、R&I の原田さん、また、フィッチ・レーティングスからもお話がありました。
この 2 社は、アジア各国の国内格付機関と密接な関連があり、それらを助け、レベル向上のため、
経験を共有している部分もあります。また、当社(JCR)も、パキスタンの信用格付会社に出資を
しており、韓国の格付会社と最近、技術提携を結びました。これらは 2 国間アプローチです。
もうひとつが多国籍アプローチです。2 年前、アジア格付機関連合(ACRAA)という名の連合が
形成されました。現在の司会は、JCR のマネージング・ディレクターであり、約 20 のローカル格
161
付機関の拘束等がきつくない連合です。そこでは、お互いにテクニカルな面での支援、情報の共
有を図りながら、現在、アジア開発銀行の財政援助のもと、アジア諸都市で定期的にトレーニン
グ・コースを開催しています。
こうした連合の活動を通じて、各ローカル格付機関のレベル向上に貢献できる可能性があると思
います。以上が私のコメントです。ありがとうございました。
司会:格付機関の方からのコメントをたくさん頂きました。引受会社の方から、この件に関して
コメントはございませんか?
J.P.モルガン証券会社
藤井巌さん:JP モルガン、資本市場部(デット・キャピタル・マーケッツ)
の藤井です。確か、徳島さんがデット・マーケットついて話されていたと思います。それについて
コメントがあります。
日本のデット・マーケッツ、つまり、社債市場が成長したのはほんのここ 6,7 年のことです。7,8
年前にさかのぼりますと、大変未成熟で、未発達な市場でした。ですから、徳島さんのおっしゃ
ったように、アジアのローカル市場が国際市場の規模に成長するには、いま少しかかるかもしれ
ません。ですので、私たちがローカル市場には格付機関が必要だとする理由がはっきりとわかり
ません。というのは、格付機関も、市場の成長に伴い成長するからです。日本でも、アジアでも、
同じことが言えるのではないかと思います。
来年すぐに、国際的な投資家を呼び込みたいのであれば、そうした国際的な買い手あるいは投資
家はローカル市場における新設の格付機関に信用を置かないかもしれません。
それでも、地域の知識・人材をともなった市場の成長を望むのであれば、長期的見解を持ったロ
ーカル格付機関があるのは実は良いことです。短期的な見方をするのでしたら、答えは「ノー」
ですが、我々はここで国際的、あるいはアジアの市場の成長について話し合うために集まってい
るのですから、その点から、ローカル機関の設立は悪いアイデアではないと申し上げます。以上
が私のコメントです。
司会:他にご意見はありませんか?ここで、10 分の休憩です。16 時 10 分にお席にお戻り下さい。
最終セッションは金融機関の視点からです。ありがとうございます。
最終セッション開始前に、ご連絡です。19 時スタートのセッションの後、近くのレストランでフ
ェアウェル・ディナー・セッションがございます。くだけた、リラックスした形でさらに意見交
換できる理想的な場だと思います。この機会をお逃しのないよういお願いします。
162
5. 金融機関の視点
投資家が市場に参加したい、あるいは発行体が新市場に参加したいと考えるとき、それを妨げる
のはリスクの不確実性である。リスクの発生源は 4 つに分類することができる。それは、信用
リスク、金利リスク、通貨リスク、そして、以上 3 つのボラティリティーである。これらの 4
つのリスクすべてを軽減するのは無理にしても、そのうち 1 つか 2 つを軽減できるなら、それ
によって、より多くの発行体あるいは投資家に対し、新市場への門戸が開かれることとなろう。
163
大和證券 SMBC 株式会社
司会:最終セッション「金融機関の視点」に移ります。まず、大和證券 SMBC 株式会社の服部さ
んからお願い致します。服部さんは、債券部クレジット・レーティング課の次長でいらっしゃいま
す。では、服部さん。
大和證券 SMBC クレジット・レーティング課、服部博則次長:
大和證券 SMBC、クレジット・レーティング課の服部です。
アジア各国からお越しの皆さん、東京へようこそ。
本日私は、アジアの地元債券市場、中でも、投資家にとっての 4 つの重要な要素についてお話し
たいと思います。
私は 1994 年から 1999 年 までを香港で過ごし、三井住友銀行・資本市場関連部門でトレーダー、
債券セールス、融資開設などを担当しておりました。1999 年に東京に戻り、現在までアジア債券
のトレーディングに携わっております。
日々のアジア債券のマーケット・メイキング1にかかわる人間として、また、日本の最終投資家と
密接な関係を持つ者として、日本の最終投資家がアジア各国通貨建て債券に投資する際に求める
基本的な要求事項、そして、その要求事項を巡る環境がどんなものかをお話したいと思います。
私がここで申し上げているのは、純粋な最終顧客であり、アジア金融危機の間マーケットを混乱
に陥れた投機筋とは違います。
日本の投資家が求める投資環境は、市場を投機筋にも開放することになるかもしれません。それ
は、アジア諸国には受け入れがたいかもしれません。しかし、新たな市場を発展させ、そして、
その市場から恩恵を受けようと思うならば、リスクに立ち向かい前進しなければなりません。
市場に制度上の安定と持続可能な繁栄をもたらすのは、私自身を含む今日ここにお集まりの皆様
の責任であり義務なのです。
1
マーケット・メイキングとは、対顧客や対銀行の取引で、常時金額を問わず価格を提示し取引に応ずること。つ
まり、「自らが金利動向、為替動向等の金融情勢、および投資家の投資心理等から成る市場状況を独自に判断、た
とえばユーロ債など各当該証券の買い方、売り方両サイドの建値を行い、その建値により双方の取引を自己勘定に
て行うこと」をいう。
164
P.3 欠かせない前提条件 – 4 つの必須要素
土台
↑
↑
↑
↑
マネーマーケット
ディスクロージャー
法制度
外為市場
3 ページ
主題がスクリーンに表示してございます。ここで、最も重要なテーマについて話をさせて頂きま
す。今からご説明しますように、アジアの現地通貨建て債券市場は 4 つの必須要素に支えられる
こととなります。机や椅子と同様に、市場は 4 要素の支えがなければ倒れてしまいます。投資家
は、これら 4 本の柱にしっかりと支えられた市場を求めています。
私がこれを今日のテーマに選んだのには、いくつか理由があります。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)が、域内債券市場振興に関する協同イニシアチブ(Collaborative
Initiative on Development of Domestic Bond Markets)を宣言して以来、4 ページに示しましたように、
様々な推奨、会議、論議が行われてきました。
P.4 アジア債券市場の主な阻害要因
(a) 信頼に足るイールド・カーブのベンチマークが欠如
(b) 地元機関投資家が欠如
(c) 証券決済制度(取引、清算、決済)が未発達
(d) 流動性が欠如
(e) 継続的マーケットメーカーが不足
(f) 決済期間が長い
(g) 債券貸借制度の欠如
出典:APEC Collaborative Initiative on Development of Domestic Bond Markets(域内債券市場振興に関する協同
イニシアチブ), “Compendium of Sound Practices Guidelines to Facilitate the Development of Domestic Bond
Markets in APEC Member Economies”, 1999
ですが、こうした論議でのトピックやテーマは主に、(1)アジア域内の巨額の外貨準備をいかに活
用するか、(2)アジアの現地通貨建て債券市場に必要とされる取引上の条件や要件−具体的には
ヘッジ手段、スワップ、決済制度など−を作り出すことに集中していました。
1999 年の APEC の分析・勧奨をみると、論点はこれまでのところ「債券市場」的観点に大きく傾
いていることがわかります。
債券市場は外為市場、マネーマーケットに密接に絡んでいます。債券投資は、これらのマーケッ
トのいずれが欠けても実行不可能です。
4 年前の 1999 年、機関投資家の欠如が既に問題のひとつとして認識されていました。この点では、
日本における莫大な個人預金資産と多数の投資家の存在がアジアの現地通貨建て債券市場発展に
おいて、カギとなる役割を演じることができると、私は信じています。
165
マネーマーケットと外為市場
はじめに、4 つの必須要素のひとつである、マネーマーケットと外為市場について、お話したいと
思います。
「アジア現地通貨建て債券の
以下のどのケースでも、現地通貨の調達が必要となります。それは、
取引をする」、「日本の最終投資家にオファーを持ちかける」、「オファーされた債券を購入する」、
などといったことです。
主要基軸通貨、例えば米ドル、ユーロ、あるいは円建ての債券を買う場合、資金調達に関して懸
念することはほとんどありません。これは単に、ドル、ユーロ、円が、取引の間に簡単に調達で
きると考えられているからです。ですが、アジア現地通貨建て債券を購入する場合、主な問題点
のひとつに、いかに支障なく資金を調達するかがあげられます。
アジア諸国はアジア通貨危機後、いえ実際はそれ以前にさえ、外為市場およびマネーマーケット
に規制を取り入れました。日本の投資家はこうした規制を投資に対する障壁とみています。
P.8 規制手段
(1) マネーマーケット
Free access by non-resident
in local money market
Alternative fuding source
if access denied
China
Korea
Malaysia
Hong Kong
Singapore
Thailand
No
No
No
Yes
Yes
△
Via
Subsidiary
Via
Subsidiary
Via
Subsidiary
Forex
Swap
出典:金融機関数社とのインタビューによる
(2) 非居住者向け外貨取引
China
RMB
Non-Deliverables
Korea
Malaysia
Won
Ringgit
Hong Kong
HK$
Deliverables
Singapore
S$
Thailand
Baht
Spot
N/A
○
○
○
○
○
Forward/Swap
N/A
10yrs1)
×
10yrs
12yrs2)
10yrs4)
Option
N/A
N/A
N/A
1∼2yrs
1yrs
3)
<1yrs
出典:HSBC, Cash and Treasury Management in Asia Pacific
1) 純投資と貿易には証拠書類が求められる
2) フォワード取引は自由。ただしスワップは MAS757 規則に従っての取引
3) 経済活動による実需のためのヘッジ取引は自由
4) 中央銀行の許可が必要
8 ページの表 を見ますと、香港ドル建て債券市場がアジアで唯一、何の規制もなく、外為市場・
マネーマーケットの両方に自由にアクセスできる市場です。シンガポールでさえ、投機的資金を
排除するため、何らかの規制を定めています。事前通知・許可、実需に基づく投資であることを
裏付ける証明書、現地子会社の設立などが例として挙げられます。こうした規制は投資費用を増
大させ、投資家にとっての阻害要因となる一方です。
投資家は債券購入後に簡単に資金を調達できるような、便利で容易にアクセスできる仕組みを必
要としています。アジア現地通貨建て債券を購入しようとするとき、高い流動性を持つものが求
められます。
166
さらに投資家は、政府あるいは当局が外為市場およびマネーマーケットを社会的インフラの一部、
あるいは経済の動脈として明確に位置付け、認識するよう求めています。そしてさらに、いかな
る金融危機や流動性危機をも回避するのだという、確固たる決意を示して欲しいと思っています。
例えば、彼らは 1990 年代のブラジルに懐疑的でした。監督当局が市場動向に応じて外為市場を完
全に閉鎖するような権力を持つブラジルその他の国を、信頼はできません。
アジアの最先端を行く香港においてさえ、マネーマーケット参加者はオーバーナイト取引に、
LIBOR プラス 500−700 ポイントを課せられています。
結論としまして、投資を決定するかどうかは、外為市場やマネーマーケットに自由に参入できる
こと、そして同時に政府や中央銀行がどんな場合でも、
(最後の手段として)十分な流動性を提供
するという決意を持っているかどうかにかかっていると思います。
情報開示と法制度
次の必須要素は情報開示と法制度です。
なぜ、このふたつが投資を決定する上でそれほど重要なのでしょうか?日本の投資家行動の背景
と、融資に対するアプローチを理解すると、以下のような図式が明確になります。
P.9 世界に投資する 2 種類の日本の投資家
4 大銀行
– 三菱東京フィナンシャルグループ、三井住友銀行、UFJ
銀行、みずほ銀行
– アジア地域内ネットワークの支店
– 現地情報の収集
– 主に米ドル建ての多額の資金融資
資産運用機関
– 発行体、年金基金
– 基本的に東京が拠点
– アジアでの営業は限定的
– アジア債券への投資
(米ドル、円、ユーロ建て)
小口の優良企業向けが中心
9 ページ で見られるように、日本の投資家は大まかに 2 つのグループに分類できます。ひとつが、
4 大銀行グループ−東京三菱、三井住友、UFJ、そしてみずほ−です。残りが、年金基金、投資信
託、生命保険、信託銀行などの機関投資家です。4 大銀行は主要アジア諸国に支店網を持ち、地域
の営業を管理しています。アジア諸国に事務所を構える機関投資家もありますが、多くの場合、
営業は限定的です。
4 大銀行を見ますと、1320 億ドルものアジア資産を有していました。その投資は、主に 11 ページ
記載の経路を通じてアジアに流れ込んでいます。
167
P.11 資金フローにおいて「決済機能」と「仲介業務」を担うアジアの銀行
US$マネー
主要優良企業
4大銀行
マーケット
香港
シンガポール
シ ン ジ ケ ー ト ・ロ ー ン
アジアの現地銀行
SME
SME
SME
*中小企業(Small/Medium Enterprise)/非優良企業
11 ページ 日本の 4 大銀行はマネーマーケットを通じて米ドルを調達、アジア諸国の、ここにおい
での方々の所属されている企業のような優良企業や、アジアの現地銀行に、シンジケート・ローン
あるいは直接貸し付けの形で融資します。(4 大銀行のポートフォリオにおけるアジア債券の比率
はわずか)その後、アジア諸国の現地銀行はその資金を客先の企業や中小企業に振り当てます。
これは、邦銀がアジア各国の企業あるいは中小企業に対する直接融資を控えており、さらに、融
資の中心は米ドル建てであるということを意味しています。
その理由は、外為市場やマネーマーケットの規制のせいだけではなく、情報の非対称性にもあり
ます。スクリーンをご覧頂きますと、アジアの現地銀行には、長年の取引関係のおかげで、借り
手の情報−キャッシュ・フロー、事業内容、リスクなど−を収集、加工、分析するリソースがあり
ます。こうした借り手に融資をしたあとでさえ、現地銀行は借り手から入手した情報に基づき、
業績を見守ることができます。彼らは、融資を行ったあとも、情報を収集し、借り手を見守り続
けます。
日本の四大銀行はアジアに支店ネットワークを持っているとはいえ、そうした手続きや運営にか
かる人的・物的コストが非常に高くつくため、情報の非対称性を最小限に抑えるのは難しくなり
ます。
日本の投資家を惹きつけようとすれば、信頼のおける企業会計制度、透明性ある情報開示、健全
な監査手続きなども重要となります。
私たちはみな、エンロンに何が起こったか知っています。ですがそれは、米国においてさえ情報
開示の透明性を確立するのは難しいということを物語っています。情報インフラを発展・強化す
るのは大変困難です。それはつまり、政府が継続して、急速に変化しているビジネスおよび市場
環境に対処していかなければならないということです。
こうした基本的な制度が、海外投資家の資金を呼び込むのに必要とされています。この点では、
政府や当局、そして債券の発行体が、信頼できる、透明性の高い制度を作り上げていく責任があ
168
ります。こうした制度なしでは、信用リスクを負った投資家の資産や権利を守ることは不可能で
す。
情報の重要性は以下のように集約できます。
(1) シンプルかつ迅速な情報開示
(2) 第三者が、規制や制約に縛られることなく、容易に情報を入手できる。
(3) 標準化された相対的情報の開示
四大銀行以外の年金基金やその他日本の機関投資家も、大手銀行に追随し、そのポートフォリオ
に占めるアジア債券の割合を抑え、0.1%にすぎません。そして、そのほとんどは、大手銀行ほど
の大規模なネットワークを持っていないため、情報の非対称性の影響をさらに受けやすくなって
います。
年金基金の投資マネジャーを選ぶ要件を見ると、16 ページに示した 6 つのキーポイントが含まれ
ています。投資マネジャーは高水準のアカウンタビリティーを達成し、透明性を保つことを求め
られているようです。
P.16 重要な要件(顧客が強調する点)
1.一貫した投資哲学
2.明確な意思決定過程
3.ポートフォリオ・マネジャーの能力
4.各ファンドの目標・責務の理解
5.近年の投資業績(実績)
6.投資委員会に対する信頼性
出典:Greenwich Associates:Financial Services without borders, 2001
↓
顧客に対するアカウンタビリティー
アカウンタビリティーについて言えば、債券投資が現地法で資産として保護されるのか、そして
それは発行体の破産やデフォルトの際にどう扱われるのか、また、権利と資産がどう保護される
のか、といったものが基本的な疑問に含まれます。
魅力ある市場環境を整備するには、国籍にかかわらず全ての投資家に対して法的保護がきちんと
保証されなければなりません。17 ページに示されているように、アジア諸国では正当な法制度が
整備されてきているように見えます。しかし、多くの国が平等性、迅速性、拘束力といった面で、
執行上の問題を抱えています。
169
P.17 アジアの法制度
C hina
Hong K ong
K or ea
S inga p or e
M a la y sia
Tha ila nd
Ba nkr up t cy L a w
○
○
○
○
○
○
Ar r a n gem e nt L a w
○
△
○
○
○
○
Ad m in ist r a t ion or R eor ga niza t ion L a w
×
×
○
○
×
○
C om p ulsp r y W in ding Up by C r e dit or s
○
○
○
○
○
○
Volu nt a r y W ind ing Up b y De b t or s
○
○
○
○
○
×
L ega l M a na gem en t of t he Asse t s un d er t he
W inding Up Or d er
○
○
○
○
○
○
△
○
○
○
○
○
M or t ga ge a nd P ledge of S ec ur ed C r edit or s
un d er t he W in d Up Or d e r
un d er t he Ar r a ngem en t
△
○
○
×
×
○
un d er t he Adm inist r a t ion or R eor ga niza t io n
*
*
×
×
*
×
Disp osa l of Deb t or 's A sset s b y L iq uid a t or
Un d e r t h e W in d Up Or d e r
△
○
○
○
○
○
Effect iv e ness a nd Usa ge of t hese L a ws
▲
○
△
◎
△
△
P r iv a t e W or k Out
△
○
○
○
○
○
出典:大和證券 SMBC の評価による
政府や法的当局は、債券発行体の行為に関し、真実を証明し正義を確保する手段を提供し、債券
投資家の権利を保護しなければなりません。ここで言う権利とは、貸借契約に基づき、投資家が
貸した資金の払い戻しを受ける権利、また、債券発行に際する契約に則りその償還を受ける権利
のことです。
法律制度、情報開示、マネーマーケットおよび外為市場は要(かなめ)をなす社会インフラの一
部であり、システムとして、また、ひとつの単位として機能しなければなりません。
以上が資本市場を支える 4 つの必須な要素です。レポ市場を備えたアジア現地通貨建て債券市場
の発展に先駆けて、決済制度、長期金利、ヘッジ、スワップ、その他の側面といった支柱をまず
打ちたてなければなりません。
情報の非対称性に関して触れましたとおり、債券の発行体や企業などの借り手は、各自の務めを
果たすよう求められています。政府だけで発展させることのできる市場はありません。言うまで
もなく、市場参加者はみな、それぞれの役割責任を果たすことを求められています。
最近の特筆すべき動きとして、タイでの国民の知る権利の制度化が挙げられます。これは革命的
な動きで、米国においてすら見られないものです。
最後になりますが、アジアは先進国との差を縮め、追いつこうとしている唯一の発展地域です。
このことは 19 ページ掲載の GDP やその他のデータとそれに続くページ(付表 II)の貿易/GDP 比
率からも伺えます。
アジアには大きな潜在能力があります。過去 10 年アジア債券ビジネスにかかわった投資銀行家と
して、私はアジアの将来が明るいことを確信しています。今日ここにおいでの皆様を含むアジア
市場参加者の尽力により、アジア独特の資本市場が近い将来築き上げられることは間違いないと
信じております。私も、市場参加者あるいはトレーダーとして、アジア資本市場を全力でサポー
170
トしていく所存です。
アジア資本市場成功のための全要素は、これから申し上げることに織り込まれています。最後に
これを、皆様と共有したいと思います。
アジア資本市場は、民間の基金や投資家を惹きつけることができなければ、また、市場参加者に
収益力のあるツールであると認知されなければ、成功しない。
ありがとうございました。本日このアジア資本市場研究フォーラムで私の見解を述べる機会を頂
いたことに、深く感謝いたします。
(スピーチ終わり)
171
プレゼンテーション資料
P.1
アジア資本市場研究フォーラム
アジア域内債券市場
2003 年 10 月 19 日
大和證券 SMBC
債券部クレジット・レーティング課次長
服部博則
P.2 視点
日本の投資家がアジア域内債券市場に参加するための必須の前提条件とは?
P.3 欠かせない前提条件
土台
↑
マネーマーケット
↑
ディスクロージャー
↑
法制度
↑
外為市場
P.4 アジア債券市場の主な阻害要因
(a) 信頼に足るイールド・カーブのベンチマークが欠如
(b) 地元機関投資家が欠如
(c) 証券決済制度(取引、清算、決済)が未発達
(d) 流動性が欠如
(e) 継続的マーケットメーカーが不足
(f) 決済期間が長い
(g) 債券貸借制度の欠如
出典:APEC Collaborative Initiative on Development of Domestic Bond Markets, “Compendium of Sound
Practices Guidelines to Facilitate the Developmen of Domestic Bond Markets in APEC Member Economies”, 1999
172
P.5 アジア債券市場発展のための推奨事項(1)
(a) 政府あるいは公的機関は、イールド・カーブのベンチマークを拡大、民間部門の債券の値付け
を容易にするために、長期債券を発行すべきである。
(b) 決済制度を強化すべきである。決済リスクと不確実性を減らすため、決済期間の標準化が必要。
証券取引の決済を容易にするため、支払制度を強化すべきである。
(c) リスク・マネジメント強化のため、時価会計制度を導入すべきである。これによって、より多
くの投資家を惹きつけることができる。
出典:APEC Collaborative Initiative on Development of Domestic Bond Markets(域内債券市場振興に関する協同
イニシアチブ), “Compendium of Sound Practices Guidelines to Facilitate the Development of Domestic Bond
Markets in APEC Member Economies”, 1999
P.6 アジア債券市場発展のための推奨事項(2)
(d) 政府はレポ市場を発展させるべきである。これによって、投資家は短期資本を必要とするとき、
より多様な調達方法を持てる。
(e) 政府は債券先物市場の発展を促進し、債券ポートフォリオ管理に対するヘッジ手段を提供すべ
きである。
(f) 証券取引所や手形交換所は、電子化・無券面化された証券保管制度を開発し、ペーパーワーク
の軽減と、債券保管を効率化すべきである。
(g) 政府は銀行融資から債券発行への移行段階でのゆがみを取り除くためのインセンティブを提
供し、債券の保有・売買を奨励すべきである。
P.7 マネーマーケットと外為市場
„ 日本の投資家の、アジア現地通貨建て債券市場向け資金調達方法
① 短期マネーマーケット経由、現地通貨の期間借入
② 外為市場経由の現地通貨調達
„ 域内マネーマーケットおよび外為市場に対する投資家からの要求事項
① 取引の柔軟性
② 高い流動性
③ 市場機能の安定:
・政府および監督当局による、社会インフラの一部だという認識が絶対条件
・監督当局による市場安定への強固な決意と、最終手段としての中央銀行による流動性サポート
P.8 規制手段
(1) マネーマーケット
Free access by non-resident
in local money market
Alternative fuding source
if access denied
China
Korea
Malaysia
Hong Kong
Singapore
Thailand
No
No
No
Yes
Yes
△
Via
Subsidiary
Via
Subsidiary
Via
Subsidiary
Forex
Swap
出典:複数の金融機関に対するインタビューによる
(2) 非居住者向け外貨取引
China
RMB
Non-Deliverables
Korea
Malaysia
Won
Ringgit
Hong Kong
HK$
Deliverables
Singapore
S$
Thailand
Baht
Spot
N/A
○
○
○
○
○
Forward/Swap
N/A
10yrs1)
×
10yrs
12yrs2)
10yrs4)
Option
N/A
N/A
N/A
1∼2yrs
173
1yrs
3)
<1yrs
出典:HSBC, Cash and Treasury Management in Asia Pacific
1) 純投資と貿易には証拠書類が求められる
2) フォワード取引は自由。ただしスワップは MAS757 規則に従っての取引
3) 経済活動による実需のためのヘッジ取引は自由
4) 中央銀行の許可が必要
P.9 世界に投資する 2 種類の日本の投資家
4 大銀行
– 三菱東京フィナンシャルグループ、三井住友銀行、UFJ
銀行、みずほ銀行
– アジア地域内ネットワークの支店
– 現地情報の収集
– 主に米ドル建ての多額の資金融資
資産運用機関
– 発行体、年金基金
– 基本的に東京が拠点
– アジアでの営業は限定的
– アジア債券への投資
(米ドル、円、ユーロ建て)
小口の優良企業向けが中心
P.10 地域別資産配置
140
( B ln .U S $ )
120
100
80
60
40
20
-
みずほ
M iz u h o F .G .
フィナンシャルグループ
東京三菱
M it u b is h i
フィナンシャルグループ
T o k y o F .G .
A s ia & O c e a n ia
三井住友
S u m ito m o
M it s u i F .G .
フィナンシャルグループ
E u rope
(March, 2003)
Japan
America
Mizuho F.G.
1,063
114
Mitubishi Tokyo F.G.
714
138
Sumitomo Mitsui F.G.
800
52
UFJ
651
29
Total
3,227
333
出典:各金融機関発行のディスクロージャー誌 2003 年版
UFJ
A m e r ic a
Europe
64
71
18
37
190
*為替レート:118.57=円/米ドル 中心レート 2003 年 3 月平均(日本銀行)
174
U FJ
Asia&Oceania
42
42
22
25
132
Total
1,283
966
892
742
3,883
P.11 資金フローにおいて「決済機能」と「仲介業務」を担うアジアの銀行
US$マネー
マーケット
主要優良企業
4大銀行
香港
シンガポール
シ ン ジ ケ ー ト ・ロ ー ン
アジアの現地銀行
SME
SME
SME
*中小企業(Small/Medium Enterprise)/非優良企業
P.12 直接融資特有の要素
借り手(発行体)
Asian Local Companies
融資 &
リサーチ
≒
非対称的な情報
≠
貸し手(投資家)
Japanese Banks
情報の非対称性が最低限に抑えられる
アジア現地銀行
情報収集 → 分析 →
生産(融資) → 監視
発行体は情報開示を要求される
– シンプルで迅速な開示
– 情報へのグローバル・アクセス
– 標準化された相対的情報
175
P.13 日本の主要保険会社・資産運用会社のポートフォリオ(2002 年 12 月)
Japanese
Equities
Miscellaneous
8.8%
15.5%
Asian Equities
0.1%
Non-Asian
Equities
1.4%
Property
1.9%
Cash and
Equivalents
18.9%
Non-Asian
Bonds
4.0%
A sia n B onds
0.1%
Japanese Bonds
49.4%
出典:Institutional Investor, September 2003
P.14 日本の主要保険会社・資産運用会社のポートフォリオ(2002 年 12 月)
Mil. U S$
1 ,4 6 0 ,2 6 6
1 ,6 0 0 ,0 0 0
1 ,4 0 0 ,0 0 0
1 ,2 0 0 ,0 0 0
1 ,0 0 0 ,0 0 0
8 0 0 ,0 0 0
5 5 9 ,8 5 4
4 5 7 ,7 4 8
6 0 0 ,0 0 0
2 5 9 ,0 6 3
4 0 0 ,0 0 0
2 ,4 5 3 4 0 ,9 6 0
2 0 0 ,0 0 0
2 ,8 2 0
1 1 9 ,2 5 0
5 5 ,7 3 5
出典:Institutional Investor, September 2003
176
Miscellaneous
Property
Cash and
Equivalents
Non-Asian
Bonds
Asian Bonds
Japanese
Bonds
Non-Asian
Equities
Asian Equities
Japanese
Equities
0
P.15
*上記 2 グラフのデータ・サンプル
原データ出所:Institutional Investor, Sept 2003
ポートフォリオ構成の詳細を開示している企業のみ対象
全て 2002 年 12 月現在のデータ
金融機関名(各企業の総資産(100 万米ドル)/うち日本を除くアジアの債券(100 万米ドル))
Kampo (Postal Life Insurance Department, 1,035,541/0)
Nippon Life Insurance Group(Nippon Life Insurance Co., Nissay Asset Mgmt Corp., Nissay Dowa General Insurance Co., 410,245/14)
Zenkyoren (National Mutual Insurance Federation of Agricultural Cooperatives, 331,378/0)
Dai-ichi Mutual Life Insurance Group (Dai-ichi Mutual Life Insurance Co., DLIBJ Asset Mgmt Co., 278,218/0)
Sumitomo Life Insurance Group (Sumitomo Life Insurance Co., Sumisei General Insurance Co., 183,355/450)
Mitsubishi Tokyo Financial Group (Mitsubishi Trust Asset Mgmt Co., Tokyo-Mitsubishi Asset Mgmt, 10,483/0)
Meiji Life Insurance Group (Meiji Dresdner Asset Mgmt Co., Meiji General Insurance Co., Meiji Life Insurance Co., 135,240/93)
Mizuho Holdings (Dai-ichi Kangyo Asset Mgmt Co., Mizuho Trust & Banking Co., 96,342/42)
UFJ Holdings (UFJ Asset Mgmt Co., UFJ Partners Asset Mgmt Co., UFJ Trust Bank, 91,168/78)
Yasuda Mutual Life Insurance Group (Yasuda Capital Mgmt Co., Yasuda Life General Insurance Co., Yasuda Mutual Life Insurance Co. 85,859/0)
Daiwa Securities Group (Daiwa Asset Mgmt Co., Daiwa SB Investments, 74,867/309)
Tokio Marine & Fire Insurance Group (Tokio Marine & Fire Insurance Co., Tokio Marine Asset Mgmt Co., Tokio Marine Life Insurance Co., 70,169/0)
Mitsui Mutual Life Insurance Group (Mitsui Life General Insurance Co., Mitsui Mutual Life Insurance Co., 64,339/36)
Pension Fund Association for Local Government Officials (62,960/0)
Asahi Mutual Life Insurance Group (Asahi Mutual Life Insurance Co., Asahi Life Asset Mgmt Co., 61,600/1,330)
Taiyo Mutual Life Insurance Group (T&D Asset Mgmt Co., T&D Financial Life Insurance Co., 12,378/0)
Daido Life Insurance Co. (53,557/47)
Mitsui Sumitomo Marine Kirameki Life Insurance Corp (3,941/0)
Sompo Japan Asset Management Co. (9,181/31)
Nikko Asset Management Co. (43,818/249)
Fukoku Mutual Life Insurance Group (Fukoku Capital Mgmt Co., Fukoku Mutual Life Insurance Co., 40,992/177)
177
P.16 重要な要件(顧客が強調する点)
1.一貫した投資哲学
2.明確な意思決定過程
3.ポートフォリオ・マネジャーの能力
4.各ファンドの目標・責務の理解
5.近年の投資業績(トラックレコード)
6.投資委員会に対する信頼性
出典:Greenwich Associates:Financial Services without borders, 2001
↓
顧客に対するアカウンタビリティー
P.17 アジア諸国の法制度
C hina
Hong K ong
K or ea
S inga p or e
M a la y sia
Tha ila nd
Ba nkr up t cy L a w
○
○
○
○
○
○
Ar r a n gem e nt L a w
○
△
○
○
○
○
Ad m in ist r a t ion or R eor ga niza t ion L a w
×
×
○
○
×
○
C om p ulsp r y W in ding Up by C r e dit or s
○
○
○
○
○
○
Volu nt a r y W ind ing Up b y De b t or s
○
○
○
○
○
×
L ega l M a na gem en t of t he Asse t s un d er t he
W inding Up Or d er
○
○
○
○
○
○
un d er t he W in d Up Or d e r
△
○
○
○
○
○
un d er t he Ar r a ngem en t
△
○
○
×
×
○
un d er t he Adm inist r a t ion or R eor ga niza t io n
*
*
×
×
*
×
Disp osa l of Deb t or 's A sset s b y L iq uid a t or
Un d e r t h e W in d Up Or d e r
△
○
○
○
○
○
Effect iv e ness a nd Usa ge of t hese L a ws
▲
○
△
◎
△
△
P r iv a t e W or k Out
△
○
○
○
○
○
M or t ga ge a nd P ledge of S ec ur ed C r edit or s
出典:大和證券 SMBC の調査による
P.18 結論
„ アジアは先進国(G7 諸国)との差を縮め、追いつこうとしている唯一の発展地域
„ 当地域の高い潜在力と能力により、アジア域内債券市場は遅かれ早かれ以下 4 要素の土台の
上に発展する:
① マネーマーケット
② 外為市場
③ 情報開示
④ 法制度
„ さらに言えば、アジア資本市場は、民間の基金や民間部門を惹きつけることができなければ、
また、市場参加者に収益力のあるツールであると認知されなければ、成功はおぼつかない。
178
P.19(付表 I)外貨準備高
150
(B ln.US$)
(B ln.US$) 600
Kore a
Hong Kong
Thailand
Japan(Right Axis )
125
100
M alays ia
Singapore
China(Right Axis )
500
400
75
300
50
200
25
100
0
0
95
96
97
98
99
00
01
02
03July
(年度末時点、100 万米ドル、金を含む)
C h in a
K o re a
M a la y s ia
Hong Kong
S in g a p o re
T h a ila n d
Japan
96
1 0 7 ,6 7 6
3 4 ,0 7 3
2 7 ,1 2 9
6 3 ,8 3 3
7 6 ,8 4 7
3 8 ,6 4 5
2 1 9 ,3 5 7
97
1 4 3 ,3 6 3
2 0 ,4 0 5
2 0 ,8 9 9
9 2 ,8 2 3
7 1 ,2 8 9
2 6 ,8 9 3
2 2 3 ,5 9 3
98
1 4 9 ,8 1 2
5 2 ,0 4 1
2 5 ,6 7 5
8 9 ,6 6 9
7 4 ,9 2 8
2 9 ,5 3 6
2 2 2 ,5 2 3
00
1 6 8 ,8 5 6
9 6 ,1 9 8
2 9 ,5 7 6
1 0 7 ,5 8 3
8 0 ,3 6 2
3 2 ,6 6 1
3 6 1 ,4 7 2
02
2 9 5 ,2 0 2
1 2 1 ,4 1 3
3 4 ,3 3 4
1 1 1 ,9 2 1
8 2 ,2 7 6
3 8 ,9 2 4
4 9 6 ,1 8 1
0 3 J u ly
3 5 6 ,5 0 0
1 3 2 ,9 0 6
3 8 ,2 0 1
1 1 2 ,6 0 0
8 7 ,0 3 6
3 7 ,5 4 8
5 5 6 ,8 3 6
出典:各国統計局
179
P.20(付表 II)貿易/GDP 比率
USA
10,020
1,912
Japan
4,176
752
Korea
422
292
85
238
Thailand
115
127
Taiwan
281
230
1,191
510
164
391
88
162
Mexico
617
327
Brazil
509
114
Singapore
China
Hong Kong
Malaysia
Trade/GDP
Ratio
Trade
(Export + Inport)
Nominal GDP
19%
18%
69%
280%
110%
82%
43%
239%
184%
53%
22%
出典:IMF, International Financial Statistics
* 表内の情報は 2001 年のもの
P.21(付表 III)実質 GDP 成長率
76∼02
Average
76∼80
Average
81∼85
Average
86∼90
Average
91∼96
Average
97
CY
98
CY
99
CY
2000
CY
2001
CY
2002
CY
Japan
2.8
4.3
3.3
4.6
1.7
1.8
▲ 1.1
0.8
1.5
0.4
0.2
Korea
7.6
8.7
7.9
10.1
7.4
5.0
▲ 6.7
10.9
9.3
3.1
6.3
Hong Kong
6.4
12.0
5.6
7.5
5.3
5.1
▲ 5.0
3.4
10.2
0.5
2.3
Singapore
7.0
8.4
6.2
8.4
8.3
8.5
▲ 0.9
6.4
9.4
▲ 2.4
2.2
Malaysia
6.4
8.6
5.1
6.7
8.6
7.3
▲ 7.4
6.1
8.5
0.3
4.1
Thailand
6.3
7.8
5.4
10.4
8.1
▲ 1.4 ▲ 10.5
4.4
4.6
1.9
5.3
China
9.0
6.5
10.2
8.0
11.9
7.1
8.0
7.5
8
* CY= Cu rre n t Ye ar
8.8
7.8
United State
2.7
2.9
2.4
2.7
2.1
4.4
4.3
4.1
3.8
0.3
2.4
United Kingdom
2.2
1.8
1.9
3.3
1.3
3.4
2.9
2.4
3.1
2.1
1.9
France
2.3
3.1
1.5
3.2
1.1
1.9
3.6
3.2
4.2
2.1
1.2
Mexico
3.3
6.7
2.0
1.8
2.2
6.8
4.9
3.7
6.6
▲ 0.3
0.9
Brasil
1.9
2.2
0.15
▲ 1.5
5.7
3.3
0.2
0.8
4.4
1.4
1.5
出典:IMF, International Financial Statistics
各国統計局
180
東京三菱銀行
司会:服部さん、ありがとうございました。次は東京三菱銀行の勝藤史郎さんです。勝藤さんは、
同行トレジャリー部門資金証券部調査役でいらっしゃいます。「マネー・債券市場の流動性向上」
についてお話頂きます。
東京三菱銀行トレジャリー部門資金証券部、勝藤史郎調査役:皆さん、東京三菱銀行の勝藤史郎
と申します。初めに、この研究グループで発表する機会を与えて下さった、吉野教授と NIRA の
皆様に御礼を申し上げたいと思います。
私の経歴は主に、外為・資金トレーダーであり、欧州通貨や米ドルを中心に扱ってきました。現在
の私の職務として、国内の日本円マネーマーケット市場と日本国債(JGB)投資に特化しておりま
す。ですから、私のプレゼンテーションは、他の方々のスピーチとは若干違った側面からのもの
となると思います。マネーマーケットと債券流通市場を中心にお話したいと思います。将来のア
ジア債券市場発展のために、そうした情報が役に立つことを願っています。
資料の配布が遅れて申し訳ありません。テーブル上のプリントは評論で、スライドには見出しし
か書かれていません。ですから、スライドにそってお話をし、プリントからは取り上げるトピッ
クもあれば、省略するトピックもあります。
マネーマーケットと債券市場の流動性向上
1. 背景
(1. 背景)
東京市場について、主要な話題をふたつ取り上げたいと思います。ひとつめが、日銀のマネタリ
ー・ポリシー、いわゆる量的緩和の枠組みです。おわかりのように、日銀からは、公開市場操作を
通じて莫大な量の資金が供給されています。それにより、マネーマーケットには、大変ユニーク
な状況が生まれます。つまり、日銀により供給される準備預金残高が約 30 兆、これは所要準備額
の約 5 倍となっています。(所要準備額は 4∼5 兆円)
短期マネーマーケットの金利は 0.001%前後と、極めてゼロに近い水準となっています。これは大
変珍しい状況で、口座残高上の流動性は極めて高い一方、マネーマーケットの回転率は継続して
減少しています。この話題については、後ほどまたお話します。
181
東京市場で進行中の事柄の二つ目は、証券決済制度の改革で、これについては、金融庁の山崎さ
んが先ほどお話されました。我々は現在、法律、規制、そして社債振替制度などの整備をそれぞ
れ進めており、社債振替制度は 2005 年に稼動開始予定です。
社債取引環境は資金の同時決済(DVP)
や振替決済システムに移行しつつありますし、実際、JGB と CP では既に切り替えが行われていま
す。
2. 日本円のマネーマーケットおよび債券市場の最近の特色
2.1 中央銀行の公開市場操作が、インターバンク市場に取って代わる
2.2 現金担保付債券貸借取引(日本版レポ)が買戻し条件付売買取引(海外レポ)より好まれて
いる
2.3 T+0 でのレポ取引量が限られている−マネーマーケットとレポ市場は分離
2.4 債券市場における社債の割合は依然低い
2.5 源泉徴収税と印紙税による、財務・管理上の負担
(2. 日本円のマネーマーケットおよび債券市場の最近の特色)
最近の日本円のマネーマーケットおよび債券市場の特色を取り上げたいと思います。
(2.1)まず、中央銀行の公開市場操作が、インターバンク市場に取って代わっています。つまり、
日銀が資金を潤沢に供給しているため、各金融機関がインターバンク市場から調達をしなくてす
むということです。
これは大変興味深い話です。といいますのは、一般的には、中央銀行が市場に十分な資金を供給
すると、金融機関の市場参加者には大変都合が良く、資金の流動性にわずらわされることが格段
に少なくなるからです。
しかし、現在の市場参加者である銀行や証券会社は、その状態に完全には満足していません。な
ぜなら、マネーマーケットでは相場というものがほとんど存在していないからです。そこで、予
想外の資金ショートが起こった際、他の市場参加者が市場に資金を放出する可能性があるかどう
かわからないのです。
(2.2, 2.3)2 番目、3 番目のポイントは、まとめて申し上げますと、東京のレポ市場には大変珍し
い特徴があるということです。レポ市場の大半は、JGB のレポ取引であり、JGB は東京債券市場
の流通量でも中心を占めています。
レポ市場は、主に証券会社が保有債券を担保に日々の資金繰りを行う上で、重要な役割を果たし
ています。
一方、
「コールマネー」市場と呼ばれるマネーマーケットが存在し、商業銀行(および一部機関投
資家)がお互いに資金をやりとりしています。かたや、レポ市場の参加者は主に商業銀行と証券
会社となっています。
ですから、レポ市場とコールマネー市場は、マネーマーケットにおいておおむね似通った機能を
持っていると言えます。つまり、金融機関の日々の資金繰りと短期資金調達です。
しかし、コールマネー市場とレポ市場の参加者はきわめて明確に分かれています。そのため、裁
定取引の余地はほとんどありません。
(2.4)4 番目のポイントは、たいへん広い範囲にわたります。他国と比べた場合の東京市場の特
徴のひとつは、JGB が取引量の大半を占めているということです。日本の社債市場は、全債券市
場の規模に比べてかなり小さくなっています。日本の社債の枠組みから発生している問題がいく
つかあります。主な問題としては、社債が依然、中央振替機関に登録されていないという点です。
東京の様々な機関が改革を目指していますが、JASDEC は 2 年後をめどに社債の中央振替制度を
設立し、数年での始動を目指しています。
182
(2.5)5 番目は、何名かの方が既に話されましたが、税制の問題です。日本では、主に 2 つの租
税枠組みが市場の流通性向上を妨げていると思われます。うちひとつは源泉徴収税で、もうひと
つが印紙税です。
3. 流動性の高いマネーマーケットおよび債券市場に向けた活動
3.1 市場参加者が金利の変動からビジネス・チャンスを捉えるよう奨励する
3.2 新買戻し条件に基づくレポ取引の促進
3.3 有担オーバーナイトの資金貸借を活発化
3.4. DVP 環境での社債保管機関強化
3.5 短期社債(電子 CP)市場を電子社債の先駆者として促進
3.6 源泉徴収税と印紙税の枠組みを単純化
3.7 内部業務過程を再設計するよう、各市場参加者に奨励する
(3. 流動性の高いマネーマーケットおよび債券市場に向けた活動)
東京のマネーマーケットおよび債券市場のこうした特徴を見直した上で、私は流動性の高いマネ
ーマーケットおよび債券市場への活動について幾つか提言したいと思います。こうした活動のポ
イントは包括的というよりむしろ、若干テクニカルかつ実際的なものです。
(3.1)はじめに、マネーマーケット参加者が、金利変動からビジネス・チャンスを捉えるよう奨励
する必要があります。つまり、現在の東京マネーマーケットの状況では、金利の変動が全くない
ため、マーケット・プレイヤーは資金の出し、あるいは取りによるビジネスチャンスを喪失してお
り、将来の金利変動に注意を払わなくなっています。ですから、日銀はマネタリー・ポリシー実行
に際し、マクロ経済ばかり検討するのでなく、こうした市場参加者のビジネス・チャンスも同様に
考慮すべきです。
(3.2, 3.3)市場参加者側は、市場で収益を上げたければ自ら市場を創出しなければならないこと
を理解する必要があります。市場参加者の多くが、取引量を増やすことにしり込みしています。
というのは、金利差を利用して利益を得ることに対するインセンティブがほとんどないからです。
私たちは、何か別の方法で利益を生むための手段を開発しなければなりません。このことが、3.2
と 3.3 のポイントです。
3.2 新たな買戻し条件に基づくレポ取引の促進
3.3 有担オーバーナイトの資金貸借を活発化
最近、市場参加者のほとんどが資本収益率(ROC)で業績を測っています。資金を市場に出して
利息収入を得る場合、有担の場合と無担の場合があります。一般に言って、有担の貸し出しは、
無担よりリスクが低いため、レポ取引あるいは JGB 他の債券を担保にしたレポ取引やオーバーナ
イトの貸借は有益だといえます。
(3.4)申し上げましたように、東京の社債市場は大変小さなものです。社債のレポ取引はあまり
見られません。なぜなら、社債の中央振替制度が存在せず、債券を所有者から移し替えるのに 2,
3 日かかるからです。証券決済制度改革により証券決済制度の設立が実現すれば、予定では 2005
年になっていますが、より流通性の高い社債流通市場が生まれるものと思われます。
(3.5)短期社債と現在呼ばれる電子 CP については、皆様ご存知かもしれません。電子 CP の短期
社債振替システムが 6 ヶ月前(2003 年 3 月末)に稼動しました。これは、電子社債の次のステッ
プに先鞭をつける動きとなる可能性があります。残念ながら現時点では電子 CP の発行量および売
買量はそれほど多くありませんが、発行体や市場に参加する投資家のほとんどが電子 CP の取引準
備に大変意欲的に取り組みつつあります。
183
(3.6)源泉徴収税と印紙税の枠組みも単純化されるべきです。金融機関にとって、顧客と取引す
る際の租税関連業務は極めて重い負担となっています。取引と税の計算根拠の全記録を保存しな
ければならず、監督当局にいつでも証拠書類を提出できるよう準備が必要です。源泉徴収税と印
紙税の枠組みが単純化されれば、東京市場により多くの投資家を惹きつけることができるでしょ
う。非居住者と居住者は税の枠組み面で違った扱いを受けています。これは東京の債券市場をア
ジア、そして世界の市場へと発展させる障壁のひとつとなっています。
(3.7)最後に、私たちは各機関内部の業務過程を再設計する上で互いに奨励しあわなければなり
ません。現在、日本の金融機関はできる限りコストを削減しようと努めており、業務過程の変更
に新たな投資をすることに腰が引けています。ですが、私たちは営業上のリスクと信用リスク、
そしてマーケットリスクに関しても定量評価を行う必要があります。
日本の市場参加者の傾向として、内部業務過程の再設計に誰もが業界の先頭をきって取り組もう
とはしないことが挙げられます。これは日本企業の良い慣行だとは思えません。より流動性の高
いマネーマーケットおよび債券市場に向けて業務過程を整備すべく、私たちはお互いを奨励しな
ければなりません。
これで私のプレゼンテーションは終わりです。今、東京は、マネーマーケットの過剰流動性とそ
の他の問題が同時に浮上するという、大変興味深い状況にあります。私は、このフォーラムの後
でさらに議論を深めたいと思います。また、アジア諸国のマネーマーケット事情について、皆様
からお話を伺いたく存じます。
ありがとうございました。
184
J.P.モルガン証券会社
司会:勝藤さん、ありがとうございました。次は、J.P.モルガン証券会社の藤井巌さんです。藤井
さんは資本市場部のマネージングディレクターでいらっしゃいます。
J.P.モルガン証券会社資本市場部、藤井巌マネージングディレクター:まずはじめに、多数の様々
な国から集まられた皆さんに大変感銘を受けました。また、皆さんが発言や議論に熱心でいらっ
しゃること−これは本当に素晴らしいことと感じています。
吉野教授と NIRA の皆様には心から御礼申し上げます。これは素晴らしい成果です。また、アジ
ア市場に関する、私あるいは当社の考えをここでお話できることを大変光栄に思います。
ここに来る前に、バークレイズ・キャピタルのクニガーさんと話したのですが、プレゼンテーシ
ョンの順番が最後に近いのは実に良いことです。皆様お疲れでしょうから、私は質問攻めに遭わ
なくて済みそうですので。実際、他の方々、特にこの最終セッションでは、私が準備したプレゼ
ンテーションの内容を 80%近く話して頂きました。ですから、私の資料はわずかに使用だけでし
ょう。
私の経歴について申し上げますと、私は昨年 J.P.モルガンに入社し、深い感銘を受けました。とい
いますのは、J.P.モルガンはご存知のようにチェース(マンハッタンバンク)と合併し、現在では
完全に世界銀行だからです。世界中に 9 万の従業員がおり、うちアジアに 1 万 4000 人、日本は 2500
人となっております。中国を含むアジア主要都市に支店があります。
この 7 月、服部さんがお話されていたところの基盤を基に、J.P.モルガン、ゴールドマン・サック
ス、大和 SMBC が幹事団となり、三井住友銀行が 8 億 5000 万ドルの永久劣後債を発行しました。
ターゲットはアジア個人富裕層の投資家です。現在、これがアジア債券市場と呼ばれているんで
すよね?
ここでお話を聞いておりまして、アジア市場あるいはアジア債券市場とは何かということが大変
漠然としていると感じました。
アジア債券市場の定義には 4 通りあります。
例えば、服部さんがおっしゃったように、私たちはアジア地域債券市場について話をしており、
これをアジア債券市場と呼ぶことができます。
185
あるいは、政策決定者が話題にしている、アジア統一債券市場であるかもしれません。これは、
域内債券市場とは全く違ったものです。これは長期の展望かもしれません。
また、KT の朴さんが、サムライ債やドル建ての市場などでの資金調達を模索していると言われま
したが、これも他通貨での発行に踏み切るアジアの発行体を、アジア債券市場として指す、別の
言い方です。
最後は、ソニーが行おうとしているような、外資系企業が現地関係会社の資金調達のために発行
を行うアジア市場を指すこともあります。
ですから、アジア債券市場が何であるかについて、何通りもの定義があるのです。
私は、アジア域内債券市場がいかに未発達のままであるかということをお話しようと思っていま
したが、服部さんにほとんど話して頂きました。ですからここでは繰り返しません。
ですが、結局は、もしアジア統一債券市場を求めるのであれば、アジア各国において発達した市
場を持つことが必須です。でなければ、アジア全市場を含むいかなる形態の統合も作り上げるの
は大変難しいでしょう。
例えば、服部さんが触れられましたように、法制度の欠如、マネーマーケットの欠如、イールド・
カーブの欠如などを、アジア現地通貨市場の統合について話し合う以前に解決しなくてはなりま
せん。
イールドカーブのベンチマーク欠如は、社債市場の発展に不利
„ 政府からの資金供給に対するニーズはやや少ない
„ リスクフリー金利のベンチマーク作成
„ ヘッジ取引向けの市場提供
„ ただしデリバティブの利用は、ベンチマーク作成目的のみの地元政府市場に対するニーズを軽
減する
他の面では、たとえば当社が得意とするように、各国におけるデリバティブの恩恵をいかに享受
するかということが挙げられます。
たとえば、アジア諸国の中には財政赤字が皆無で、国債を発行する必要のない国もあります。そ
の場合我々ができるのは、人為的なイールドカーブを作るためにデリバティブを利用することで
す。それが市場を発展させるひとつの方法です。同様な働きをするものにスワップなどがあり、
クレジット(信用)デリバティブももうひとつの方法です。
では、そうしたデリバティブを、マネーマーケットや政府市場の発展とともに、発展させるには
どうしたら良いのでしょう?
米国や欧州諸国などの先進国では既に発展した市場があるわけですから、21 世紀となった今、こ
れを成し遂げるのは 10 年前よりも簡単です。つまり、市場を発展させる別のアプローチです。
それは好ましいことでもあります。というのも、投資家が市場に参加したい場合、あるいは発行
体が新たな市場に参加したい場合、それを妨げていたのはリスクの不確実性だからです。
リスクの発生源は 4 つに分類することができると思います。それは、信用リスク、金利リスク、
186
通貨リスク、そして、以上 3 つのボラティリティーです。もし、これらの 4 つのリスクすべてを
軽減するのは無理にしても、そのうち 1 つか 2 つを軽減できるなら、それによって、より多くの
発行体あるいは投資家に対し、新市場への門戸が開かれると思います。
欧州社債市場がその良い例で、ドミニクさんが大変興味深いプレゼンテーションをしてください
ました。1998 年から 2000 年の間に、欧州社債市場での発行・参加が急増しました。なぜでしょう?
ユーロが導入され、通貨リスクを憂慮する必要がなくなったためです。そのため、投資家、発行
体が信用リスクにますます注意を払うようになりました。
私はロンドンで約 5 年働きましたが、5 年前といえば、ドイツ・マルクやフランス・フランなどとい
った時代のことです。それが今では、バイサイドでは、英国や欧州の大口投資家は、発行企業の
信用リスクだけを調査する信用リスク調査員を 10 人も抱えています。これが、特定の市場で通貨
リスクを取り除いた結果です。
申し上げているのは、アジア共通通貨を持たなくてはならないということではなく、リスクを軽
減することで市場が発展する可能性がいかに開かれるかということです。それは目覚しいもので
す。
ですが、長い時間がかかることでしょう。マーストリヒト条約が調印された 1991 年に、欧州が通
貨統合を目指したことは皆さんご存知でしょう。この年が私の経歴の始まりでもありました。し
かし、その具体化には約 10 年かかり、投資家も発行体も通貨統合が行われるものだと確信してい
ました。ところが通貨統合が実際に日の目をみたのは、ようやく 1999 年以降のことでした。
東京三菱銀行の勝藤さんのスピーチを大変興味深く伺いました。というのも、日本には 500 兆円
規模の巨大な債券市場があり、それは現在世界最大の市場だからです。しかし、まだ発展途上の
分野も数多くあります。
JGB 市場も巨大ですが、これも完璧からはほど遠いのです。今日でも、この市場をさらに発展さ
せる多くの処置に取り組んでいます。
最初の段階は、こうした現地通貨の市場を一定のレベルまで完成させることだと思います。それ
から、どのように外国人投資家を呼び込むか話し合えばいいのです。その上で、それら市場の統
合プロセスも話し合うことができます。
「アジア統一市場を創ろう」というのではなく、段階を踏んだアプローチをとらなければなりま
せん。
以上申し上げましたが、J.P.モルガンの一員として、我々はアジア市場の成長に大変強気です。お
話しましたように、日本に 2500 人の従業員がいます。我々の顧客の 180 人の個人銀行家で富裕層
をカバーしていることに驚きました。うち 120 人が香港、60 人がシンガポールにいます。つまり、
資金はそこにあるのです。誰が何を所有しているのかはわかりませんが、資金と成長はそこにあ
るのです。
服部さんがおっしゃられたように、アジア市場実現のためには民間株式ファンドや個人資金が必
要です。それは事実です。ですが、実際には既に資金が、日本だけでなく世界各国からアジアに
流入しつつあります。
投資家や民間ファンドがどの程度まで、どんな種類のリスクを取るのでしょうか?その意味では、
デリバティブはひとつの選択肢であり、J.P.モルガンが投資家サイドに対しても発行体サイドに対
187
してもお手伝いできる分野です。
以上です。
188
(当初用意されたプレゼンテーション
アジア域内市場:成長見通し
参考)
多様性のあるダイナミックな地域に向けて
スライド 0
アジア危機の 5 年後、同地域はいまだに大口取引のほとんどを米資本市場に依存しています。よ
り深みのある海外資本市場へと、地域を離れてしまうアジアの投資家の流れは、政府によるベン
チマークの欠如や資本管理と同じく重要な問題です。アジア全域にまたがる市場の設立は、域内
フローを促すとの期待から提唱されてきましたが、今のところは高望みといったところです。政
策決定者はむしろ、必要の際に地域での資金調達や投資ニーズを満たす地元市場を拡大し深める
ことに注力すべきです。
アジア現地通貨市場のたどった長い行程
流通・総発行量(2003 年 5 月現在)
O u t s t a n d in g
U SD
e q u iv a le n t
N e w is s u a n c e 2 0 0 3
A v e r a g e lif e
L o n ge st
bond
% of bonds
m a t u r in g o v e r t h e
n e xt 5 ye a rs
L o c a l c u rre n c y
(b n )
(U SD b n )
(U S D b n )
% of
o u t s t a n d in g
Y e a rs
Y e a rs
% o f to ta l
1,430
1 7 2 .3
7 3 .2
42%
7 .0
21
41%
4 9 .6
6 .4
1 .7
27%
3 .4
10
85%
6,525
1 3 8 .4
2 4 .1
17%
1 0 .0
30
24%
5 8 ,7 6 0
4 9 .0
1 1 .0
22%
4 .6
12
76%
116
3 0 .6
7 .2
24%
5 .9
16
59%
63%
C h in a
Hong Kong
In d ia
K o rea
M a la y s ia
P h ilip p in e s
S in g a p o r e
T a iw a n
T h a ila n d
544
1 0 .4
1 .9
18%
6 .0
23
4 3 .3
2 5 .0
5 .0
20%
5 .4
14
55%
2,338
6 7 .4
1 2 .1
18%
9 .9
29
33%
873
2 0 .7
3 .7
18%
6 .4
20
53%
出典:J.P.モルガン
スライド 1(アジア現地通貨市場のたどった長い行程)
アジア域内市場は多様です。中には、香港やシンガポールのように、地域の金融センターを促進
させる手段として早くに奨励された例もあります。インドや中国のように、もっとずっとゆっく
り、組織だって発展した国もあります。韓国、インドネシア、タイの市場は、混乱した、非常に
不確実な時期に生まれました。後者のグループの場合は、アジア危機が触媒となりました:政府
は短期借入と投機的な世界の投資家に過度に依存し、域内債券市場のインフラと国内投資家の基
盤はリスクを吸収するほど十分には発展していなかったのです。
なお発展途上のアジア域内債券市場
„ 銀行による直接融資が依然根強い
„ 域内の貯蓄がアジア各国中央銀行によって、国際的米ドル市場に流入
„ 流動性の欠如
スライド 2(なお発展途上のアジア域内債券市場)
アジアのほとんどの国が域内債券市場の発展に努めているにもかかわらず、そうした市場は、特
に社債に関しては明らかに未発達のままです。その理由のひとつは、銀行による旧来の直接融資
が依然根強いことです。他に、域内の貯蓄の大半がアジア各国の中央銀行によって、国際的な米
ドル市場にリサイクルされていることがあげられます。今やアジアの中央銀行は、世界の外貨準
備高の 40%以上を保有しています。
ですが、真の障害、そして発展のための潜在的触媒は、単純に流動性問題だといえます。
189
イールド・カーブのベンチマーク欠如が社債市場の発達阻害の可能性
„ 政府からの資金供給に対するニーズはやや少ない
„ リスクフリー金利のベンチマーク作成
„ ヘッジ取引向けの市場提供
„ ただしデリバティブの利用は、ベンチマーク作成目的だけの地元政府市場に対するニーズを軽
減する
スライド 3(イールド・カーブのベンチマーク欠如が社債市場の発達阻害の可能性)
確かに、イールドカーブのベンチマーク欠如によって、値付けの透明性が損なわれます。ですが、
必ずしもそうとは限りません。発行体は常に、資本コストを最小限にしようと努めていますから、
そのベンチマークは投資に対するリターンであるはずです。一方の投資家はイールド(利回り)
を求めており、代替投資手段をくまなく見ています。政府のリスクフリー金利はそのひとつにす
ぎません。クロス・カレンシー・スワップ(CCS)市場やクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)
市場の発展は、ベンチマーク作りだけを目的にする政府市場に対するニーズを軽減するのに大き
く貢献しています。
その結果、発行体としての政府の役割に対する考えに変移がみられました。以前はそうした発行
には 3 つの目標がありました。納税者への負担を低く抑えた資金調達、リスクフリー金利のベン
チマーク作成、ヘッジ取引用の市場に提供することの 3 つです。現在では、2 番め、3 番めのみが
金融安定維持に努める目的にかなうと考えられています。
政府発行証券の流動性を促進する手段
„ デリバティブ – 先物契約
„ ヘッジ能力の提供
„ より幅広い商品の提供
„ レポ市場
„ 流通市場の取引活性化
„ 直前の通知でポジションを現金化可能な権利を債券保有者に提供
„ 資本管理
„ ボラティリティーを回避
スライド 4(政府発行証券の流動性を促進する手段)
政府発行証券の流動性を促進させたいと願っている国は、先物契約にも目を向けるべきです。先
物のベンチマークを持つ利点は、政府にとって明らかです。つまり、政府のベンチマーク・カー
ブ維持のためにクーポン費用を払うよりずっと安くすむ点です。また、市場参加者に短期債券契
約によって長期金利リスクをヘッジする手段をも提供します。
アジア域内市場はまた、より幅広い商品を必要としています。投資家も発行体もともに、期間と
通貨リスクを対応させる融通性の高い、カスタマイズされた商品を求めています。もっと規模の
大きな G3(日米欧通貨)市場では、金利リスク、ボラティリティーリスク、信用リスクのヘッジ
が可能ですが、発展中の市場では、ヘッジは金利リスクに限定されています。仕組み商品は同等
あるいは高めの利回りに設定されていますが、リスクの状況も多様です。アジア資本市場が投資
家獲得で世界の市場と競うには、同様の多様性か高い利回りを提供できなければなりません。仕
組み商品においてこれは、現地通貨ボラティリティー市場の構築、また、域内通貨のクレジット・
デフォルト・スワップ(CDS)市場を意味します。すでにこれを試みている市場もあります。例え
ば、香港にはよく知られたスワプション・ボラティリティー市場があります。
域内市場をいまだ悩ませているのは、投資家が満期日以前に債券を売却できる流通市場が欠如し
ていることです。現地通貨レポ市場は優れた流通市場の代わりにはなれません。ただし、債券保
有者が、手数料を払えば直前の通知でポジションを現金化できる権利を提供することで一役買う
ことはできます。
アジア諸国のほとんどは、さまざまな水準の資本管理政策を採用していますが、一般に考えられ
190
ているのと反対に、こうした政策は国内市場を妨げるというよりは、むしろ助けてきました。途
上国はボラティリティーを回避する手段として資本管理政策を使う立派な理由があります。それ
により資本を逃げ足の遅い海外直接投資と株式市場へと誘導し、移り気な債券投資家を遠ざける
上で有益です。西欧の機関投資家はアジア危機の最中に、資本管理体制を敷いたマレーシアを批
判しました。ですが、今では、回復を助けるのにその政策が果たした効果を疑う向きはほとんど
ありません。
アジア債券基金(ABF)の創設
„ 主な特徴
„ 基金の額は参加国の外貨準備高総額の 1%未満
„ 米ドル建てアジア債券に投資
„ 将来は現地通貨建て債券に転換
„ 通貨・期間のミスマッチを解決することが期待される
スライド 5(アジア債券基金の創設)
アジア債券基金の創設の提案がなされています。提案によると、基金は外貨準備高総額の 1%未満
で、米ドル建てのアジア債券に投資される見込みです。将来の計画では、この金額を現地通貨建
て債券に移行させる予定です。これは、長期間にわたる投資手段を必要とする生保や年金基金の、
通貨と期間のミスマッチを一部解決する助けとなり、域内の安定を促進すると期待されています。
アジアが、現在の発展段階において米国など他地域に資本供給過多であるべき経済的理由はあり
ません。しかし、課題はあります。すなわち、アジアは法律や政治的枠組みをいまだ共有してい
ません。流動性を持たせるために発行のパターンを規定したり、発行体を合併させたりすれば、
大混乱は必至です。ABF はまた、モラル・ハザードを助長することの無いよう注意を払わなければ
なりません。競争の少ないアジア市場を考えると、モラル・ハザードは伝染の可能性があり、浪費
につながりかねません。アジア企業は既に、非公式な域内フローを通じて米ドルを有利に調達し
ています。これを形式化しようとすれば、有利に調達できる資金の割合が減少する可能性があり
ます。
アジア経済の見通し
2003 年の主要経済予測
Real GDP
Consumer
prices Govt. balance External debt
Current
account
Foreign
reserves
Domestic
saving rate
% yoy
% yoy
% of GDP
% of GDP
% yoy
USDbn
% of GDP
China
7.4
0.5
(3.2)
13.0
1.6
359.3
37.6
Hong Kong
1.0
(2.4)
(7.4)
NA
11.7
113.0
34.7
India
5.4
4.2
(5.9)
21.3
0.3
80.3
23.8
Indonesia
3.0
7.0
(1.8)
62.0
2.0
30.7
21.0
Korea
4.5
3.8
1.2
25.9
0.4
127.9
31.0
Malaysia
3.0
1.3
(4.7)
48.9
7.5
38.0
41.0
Philippines
3.8
3.5
(5.5)
77.1
5.1
14.4
19.5
Singapore
1.3
1.3
(0.8)
NA
19.2
85.0
45.7
Taiwan
2.7
0.8
(4.3)
17.1
7.7
185.0
25.5
Thailand
4.2
2.1
(2.4)
43.4
4.2
37.1
25.5
191
日本アジア証券株式会社
司会:藤井さん、ありがとうございました。次は投資銀行である日本アジア証券の増田雄輔取締
役のスピーチです。投資界の必需品であるアジア社債についてお話頂きます。
日本アジア証券株式会社、増田雄輔取締役:私はスライドを用意しておりませんので、すぐに始
めます。この機会を与えてくださったことに大変感謝しております。
私がここにおります理由のひとつに、日本アジア証券が異色である、つまり、アジア資本の投資
銀行であることが挙げられるのではないかと思います。
アジア投資界の必需品であるアジア社債
私たちがアジア債券について議論すべき理由は、社債市場が、アジア企業のもうひとつの資金調
達源として発達する必要があるからです。結論を急ぎすぎかもしれませんが、この目標を達成す
るため、お互いの市場や企業に対する認知、親しみやすさ、アクセスのしやすさなどが確立され
なければなりません。
当社はアジア危機直後の 1999 年、シンガポール、香港、台湾、フィリピン、マレーシア、そして
もちろん日本の投資家の出資により設立されました。アジア人はすっかり自信を失い、(香港の)
ペレグリン社が破綻し、日本、欧州、米国の投資銀行がこぞって香港を離れました。そうした投
資銀行は、アジアでの業務を大幅に縮小。当社の投資家は、逆の見方をし、アジアの人々や経済
にはなお未来があると考え、日本やその他アジア諸国には優れた中小企業が多数あり、それら企
業が認知されるべきであると指摘しました。
1999 年以来、多くのアジア諸国や企業が、変革のために多大な尽力をしました。日本の歩みが相
変わらず遅い一方で、タイや韓国などの国は大改革を行い、日本と日本以外のアジア諸国の差は
大幅に縮まりました。今回の集まりでも、シン・コーポレーション、KT(韓国テレコム)、ペトロ
チャイナから出席者があり、私はアジア資本の投資銀行の一員として、大部分の日本の企業への
貸付よりも、こうした企業への貸付を、当社の投資家に対して提供するほうがずっと安心感があ
ります。
さて、日本はスキーム全体の中でどんな役割を果たしているのでしょうか?私は 2 つの顕著なポ
イントがあると思います。
192
日本の役割
まず、言い尽くされてきたように日本は人口が多く、金融資産も潤沢です。投資銀行はこうした
事実を引き合いに出して、アジアの発行体を日本市場に惹きつけてきました。ですが、大規模な
投資コミュニティーや 14 兆に上る家計金融資産の存在などにもかかわらず、日本はアジアの社債
に投資してきませんでした。投資銀行が公言してきたことは起こらなかったのです。ところが、
近年、日本の個人投資家の投資行動が劇的に変化しました。
昨年(2002 年)は、円高が(1 ドル=)133 円から(1 ドル=)108 円にまで進行しました。ですが
いまだに、日本の一般投資家は外貨預金を減らしていません。また、2000 年前後には、巨額の郵
貯が満期を迎えましたが、証券会社の努力もむなしく、その資金は、アジア企業が発行した証券
も含め、証券投資には流れませんでした。でも現在では、投資銀行が努力しなくても、郵便局の
個人貯蓄は減少し、リスクはより大きいが、リターンも多い投資先が模索されています。日本の
社会保障制度は崩壊しはじめており、個人投資家は投資リターンの高い機会を模索し、リスクを
取り始めています。
次に、日本は社債市場を持つ唯一の国です。不完全であるにもかかわらず、社債は日本の投資コ
ミュニティーの必需品となっています。他のアジア諸国では社債市場は未発展のため、参照する
に値します。債券市場について議論する際は、投資家がどのようなポートフォリオを組み立てて
いるかを、彼らの観点から理解しなければなりません。
社債は米国、オーストラリア、日本では必需品ですが、日本を除くアジア諸国ではオポチュニス
ティックな金融商品に過ぎません。投機目的で投資するものなのです。
確定利付証券投資は、どのように投資家のポートフォリオに組み入れられるのでしょうか?確定
利付証券の主力商品は国債です。社債、債券担保証券(CBO)、資産担保証券(ABS)なども重要
な投資対象です。信用度の低い確定利付証券は、他の商品と組み合わせることにより、個人リス
クを減らしつつポートフォリオの利回りを高めることができます。次に、社債は国債ほど変動が
激しくありません。債券ポートフォリオに組み込むことで、変動しやすい国債市場の金利変動を
緩和させます。債券のブル・マーケットはおおむね終わりを告げており、投資家の社債待望論が世
界的に増大するでしょう。
こうした債券ファンドは、アジア債券あるいはアジアの発行体によって発行された債券を、どう
分類されているのでしょう?それは「オポチュニスティック」とされる第 3 分類です。アジアの
発行体が発行する債券に、主に投資しているのは誰でしょう?それは、新興市場ファンド、裁定
取引ファンド、私募ファンド、イベント・ドリブン型ファンドなどです。こうしたファンドも悪く
ないのですが、代表的なファンドではなく、投資コミュニティーでの割合は大変低くなっていま
す。どなたかがおっしゃったように、アジアの債券発行体に振り当てられるのは全体の 0.1%に過
ぎません。それが現実です。
アジアの発行体であるとソブリン債券であっても、きわめて頻繁に「オポチュニスティック」と
分類されています。
たとえ各社債発行体の信用度は高くとも、その調達コストは母国の格付けの影響で変動し、経済
規模が小さいほどイベント(有事)リスクを負います。ですから、細かく分かれた小さな市場規
模は役に立たず、なじみのないことも役に立ちません。
政府や第 3 者機関ができることのひとつに、環境−共通基盤作りがあります。どなたかが通貨統
合による欧州の債券市場の活況について話されていましたが、何らかの統合や共通基盤は大変有
193
益だと言えましょう。
最後に、米国、オーストラリア、日本は全て、大変発達した社債市場を有しており、同時に大変
発達した株式市場があります。また、欧州の株式市場が、お互いの企業をより馴染み深いものへ
と統合し始めてから、欧州の債券市場も広大な欧州市場に馴染み深いものとなりました。
アジア証券市場とその監督当局が、継続的に、お互い統合の可能性や共通基盤作りの可能性につ
いて話し合っていることは周知の通りです。ここで、ご出席の監督当局者の方やフォーラムに対
して提言してもよろしいでしょうか?このアジア債券(市場)への努力を株式(市場)での動き
と協調させることを考えてみませんか?投資家の各企業への親しみは、債券よりも株式から生ま
れますし、債券市場と株式市場は互いに独立してはいないのですから。
ありがとうございました。
194
(以下は増田氏が用意し配布されたスピーチ原稿)
吉野教授、犬飼さん、この大変重要なフォーラムで話す機会を与えて頂き、本当にありがとうご
ざいます。私は増田と申しまして、日本アジア証券に勤務しております。ここで少し当社につい
てご説明させて頂きます。当社の株主はすべて東アジアから出ています。具体的にはシンガポー
ル、マレーシア、香港、インドネシア、台湾、フィリピン、日本の個人、組織であり、本フォー
ラム参加者の方にはおなじみの名前も含まれております。1999 年創業で、当時アジア人はまだ、
自信喪失の状態にありました。香港のペレグリン社が崩壊し、多くの国際金融機関がアジアでの
業務を大幅に縮小していました。ですが、それでもアジアに未来はあると感じ、多くの優良中小
企業が過小評価されていることに注目した人々がいたのです。
それ以来、多くのアジア諸国がなんとか事態を改善させてきましたが、日本はもがき続けるまま
でした。そのため、日本とその他アジア諸国の差は大幅に縮まってきています。本日は、シン・コ
ーポレーション、韓国テレコム、ペトロチャイナから代表の方がいらっしゃっています。当社が
こうした企業の発行される金融商品を取り扱うことができれば、他の発行体の商品を扱うよりず
っと嬉しいと、お世辞抜きで思います。実際、シンガポールの信用格付けは日本に劣りません。
そうした企業の社債を日本に紹介する機会に恵まれれば歓迎いたします。
しかし、現在のところ、日本と他のアジア諸国の間には顕著な違いがふたつあります。まず、日
本は人口が多いだけでなく、巨大な投資家層が存在しています。日本の国民は社会保障制度が崩
壊しつつあると感じているため、従来からの超リスク回避型性向を変えて、その巨額の蓄えを運
用し始めてきています。日本の投資家は、例えば円高が進行する最中でさえ、外貨預金を減らさ
ず、他方で郵貯を取り崩し始めました。郵貯はこれまで、貯蓄の中で最大の残高を持つとともに、
最も安全な貯蓄手段だと考えられていたのにです。
ふたつめの違いは、日本には他のアジア諸国と比べて、大変発達した金融市場が存在し、様々な
金融商品が常に投資家層に供給されていることです。これは株式に限ったことではありません。
そして、社債も日本にとって欠かせないものです。
言い換えれば、日本を除くアジアの社債の多くは、現地市場と国際金融市場において、オポチュ
ニスティックな投資と評価されています。これは、国際金融機関、投資家、発行体、投資銀行家
にとっても同様です。アジアの社債がオポチュニスティックな存在である限り、市場参加者の姿
勢、戦略、行動もオポチュニスティックとなり、市場の発達や統合に関心を払うというより、目
先の利益に走ることになるでしょう。
例えば、日本の資金がアジア企業による資金調達を差別扱いしたケースが、過去に多々見受けら
れました。日本における多くの POWL(非上場公募)やサムライ債は、こうした企業に多大な影
響を与えましたが、時として実態は、情報量の少ない日本の投資家からの搾取であり、そうした
発行は日本の投資家にアジアの投資商品に対する苦い思いを残した側面もありました。
アジア以外では、だれがアジア債券に対して投資しているのでしょう?その多くは、新興市場フ
ァンド、裁定取引ファンド、私募ファンドであり、全てオポチュニスティックなファンドです。
一般に、債券のポートフォリオ戦略を練る際に、イールド・ピック・アップ上昇やポートフォリオ
のボラティリティーを低下させるために、社債 ABS などが組み込まれます。これらは、金利変動
や市場の方向性との相関性が低いためです。そして、ポートフォリオにはおそらく 5%かそれ未満
の「オポチュニスティック」商品が、キャピタルゲイン目的で組み込まれます。アジア債券の多
くがこうした「オポチュニスティック」商品に分類されるのは、その企業の取柄のなさからでは
なく、母国の金融市場の規模からなのです。
市場は必要があるときに発展します。アジア債券が金融界に必須の存在へと発展する過程におい
195
て、規制当局者ができるのは、インセンティブ、環境、奨励などを提供することであり、残る部
分は市場にゆだねられることとなるでしょう。お互いの市場に地域の名声を紹介する外部からの
手助け、ディスクロージャー要件を中心とした各種規制の統合、機関投資家によるソブリン保証
商品の引き受けの促進、売買・決済システムの統合などの試みが、正しい方向でしょう。そうい
うわけで、この集まりに代表される試みには大変重要な意味合いがあります。
最後に申し上げたいのは、よく発達した社債市場を有する日本、米国、オーストラリアの市場は、
株式市場も発展しているということです。投資家は常に株式市場に接することで、発行体の名前
に馴染みます。欧州もまた、各国ごとに市場が細分化されていますが、株式市場を統一する試み
が始まっています。アジアでは、証券取引所と監督当局が地域の上場企業をお互いにどう紹介す
るか、統合のための調査をどう行うか論議を重ねているように見受けられます。株式市場と債券
市場は連れ立って発展するため、こうした株式市場の最終的な統合は、特に小規模経済にとって
債券市場の発展に著しい影響を及ぼすことになります。先に申しましたように、優良な発行体の
不足が汎アジア債券市場の発展を阻害しているのではありません。実際、それは十分存在してい
ます。阻害要因は発行体に対する援助の不足なのです。この分野でこそ監督当局や第三機関が大
きな助けとなります。御清聴ありがとうございました。これで終わります。
196
バークレイズ・キャピタル(タイ)
司会:ありがとうございました。次が最後のプレゼンテーションとなります。バークレイズ・キャ
ピタル・オブ・タイランドのマネージング・ディレクターであるクニガー・トリヤンクルスリさんで
す。テーマは「アジア債券市場:アジアの投資家基盤の発展におけるアジア債券基金の役割」で
す。
バークレイズ・キャピタル・オブ・タイランド、クニガー・トリヤンクルスリ、マネージング・ディレ
クター:ありがとうございます。
「こんばんは」と言わなくてはいけませんね。私のプレゼンテー
ションは短いものになると思います、時間もおしていますし。まず、犬飼さんと吉野教授に御礼
を申し上げます。
アジア債券市場
アジアの投資家基盤の発展におけるアジア債券市場の役割
今朝ここに到着したとき、アジア資本市場が本当はどんなものなのかということについて、今日
参加されている方のほとんどが、おそらく私ほど良く理解はしていないだろうと思っていました。
と言いますのも、アジア資本市場は実に様々な側面を持っているからです。吉野教授が「なぜア
ジア債券市場を発展させるべきなのか」という言葉でフォーラムを開始されたとき、私の理解が
明確になりました。
197
1997 年に危機が起こりました。原因はたくさんありましたが、正直申し上げて、主要因のひとつ
は、銀行が資金配分を誤ったことです。我々は、預金を集めて、適した本来の借り手に配分する
仲介者であるとされています。ですが、仲介者はどういうわけかその任務をしくじってしまいま
した。おそらく、地域の競争が激しかったために、資金を配分すべきでない企業に融資を行って
いたのです。
例えばタイでは、銀行は不動産市場への融資を始めていました。何が進行しているのかといった
ことを分析せずに、担保だけに目を向けていたのです。それによって、なぜアジア債券市場が必
要なのかが明確になりました。
2 番めに、これも吉野教授が触れておられましたが、中小企業の資金調達です。最終目的、つまり
前進した先に求めるのは、我々がいかにアジアの資金を利用できるか、ということです。アジア
の資金は、アジア経済を成長させる鍵となる財源です。つまり、日本の投資家がタイの中小企業
に投資できるなら、長い目でみれば私たちはみな、アジアを一つの地域として考えることができ
るのではないでしょうか?
「アジアを他の地域、つまり米国から守るのだ」と発言することで、目的が誤解されてはならな
いと思います。それはおそらく、誤った考えであり、たぶん全体像の誤解でしょう。我々はアジ
ア域内企業に与えられる機会を等しく共有したいと思います。それにより中小企業もまた、この
巨額な資金のプールを利用することができるのです。
私のプレゼンテーションは、今日のトピックから外れているところもあると思います。異なる面
198
のひとつは、アジア投資家の資金統一プールについて、人々が議論していることです。私のプレ
ゼンは、アジア債券基金の役割と、それが私たちの必要とするアジア投資家の基盤をどのように
発展させるか、ということに、より重点を置くことになると思います。
私たちには、例えば民間部門への投資を牽引する誰かが必要です。日本生命の方が 1 から 6 まで
要件を挙げられていたと思いますが、そこで挙げられた要件が最適であることは明らかです。そ
しておそらく長期投資家にとっても、最高の収益性を生む要件です。ですが、アジア投資家の基
盤は、最初に手がける者がいなければ、誰も築こうとしません。これが、アジア債券基金の本来
の目標が始動したと私が考える理由です。
必要とされる域内の投資家基盤
Shares purchased by A sian invest ors (% of am ount issued)
80
60
40
20
0
CN
HK
ID
KR
MY
PH
SG
Supranat ional
域内の投資家基盤について、簡単なスライドでご説明いたします。このグラフは、アジアの発行
体による債券の、アジア投資家による購入割合を示しています。規模も割合も、アジアの投資家
が掌握していることが見て取れます。ここから、流動性は地域内に十分あり、個々の国ごとでは
充実しているということがわかります。流通市場に関してはこのグラフからはわかりません。流
通市場を経て自国に還流する債券はもっとあるはずです。繰り返しますが、これは、各国ごとに
関する話です。例えば、インドネシアを見ますと、発行された債券のうち 80%を、インドネシア
の投資家が実際に購入しています。
申し上げるまでもないのですが、タイはこの表に入っていません。と言いますのは統計の対象と
なった 1999 年 4 月から 2000 年 8 月までの間、タイでは債券発行が少なかったためです。ですが
最近では、タイ政府は変動利付債を発行しています。発行市場に関してはおそらく、還流は少な
いと言えると思いますが、流通市場に関しては、発行国への莫大な還流があります。
199
投資家基盤の地域化を始動させるためのアジア債券基金
Japan + Asia FX Reserves (USD bns)
1,800
1,500
1,200
900
600
300
0
Dec 97
Dec 98
Dec 99
Dec 00
Dec 01
Dec 02
Aug 03
アジアには潤沢な外貨準備があります。これは、今日ご参加の方からの複数のプレゼンテーショ
ンで使われた統計だと思います。総額で 1 兆 5000 億米ドルの外貨準備があります。これは潜在的
に、長期発展目標をもったアジアの投資家基盤になりえます。そうなれば、アジア資本市場は全
市場参加者が創設したと言えます。それが例えばシン・コーポレーションやソニーといった大口
の発行体であれば、アジア債券投資家の基盤を導入したと言えるかもしれません。一度そうなれ
ば、他の民間部門もそれを続けていく勢いを得る可能性があると思います。
アジア債券基金2
„ 東アジア・太平洋中央銀行役員会議(EMEAP)メンバーの中央銀行
„ 10 億米ドル
„ ソブリン・準ソブリン発行体による米ドル建て債券
„ BIS 香港によるパッシブな運用
アジア債券基金について手短にご説明します。設立については、皆様よくご存知かと思います。
基金の規模は大きくなく、10 億米ドルにすぎません。タイ政府による、アジア債券基金を創設す
るという働きかけが、その後 11 カ国の中央銀行によって実行され、この 10 億ドルの基金創設と
なりました。共同の基金であり、明確なメッセージです。この勢いは続いています。アジア債券
基金は香港のアジア開銀から高く評価され、主にアジアのソブリン・純ソブリン債に投資されて
きました。ですから、米ドル建てがかなり多くなっています。
第 2 アジア債券基金
„ 研究中
„ 現地通貨
„ 民間投資家と並ぶ中央銀行
„ 納得できるリスク/リターン割合を維持する一方、地元債券市場を発達させる
2
東アジア・太平洋中央銀行役員会議(EMEAP)は 2003 年 6 月 2 日、国際決済銀行(BIS)と共同でアジア債券
基金を創設すると発表した。同基金はEMEAPメンバーの通貨当局が共同出資して設立し、日本・オーストラリア・
ニュージーランドを除く加盟国・地域が発行するドル建て公共債に投資して、債券の流動性を高めることで、投資
家の参加を促して、アジア債券市場の拡大を図る。メンバーは当面、ドル建て運営を行うことで合意。投資総額は
約 10 億ドルとなっている。
200
今進行中なのは、第 2 アジア債券基金です。これは研究段階にあり、現地通貨を対象としていま
す。これは、地元市場の発展が資金の投資に必須であることを意味します。タイ政府は既に、地
元の投資家が資金を現地通貨でこのアジア債券基金に振り向けることを基本的に認可しています。
ですから、地元の民間部門の参加が増え、この基金の一部になるとみられます。
政府からの力強い支持があって、ファンドの対ファンド投資も認可されています。例えば、政府
の年金基金、投資信託といったファンドが、このアジア債券基金というファンドに資金を振り向
けています。こうしてこの研究から、アジア地域通貨が始まりました。
アジア市場の発展を支えるアジア債券基金と第 2 アジア債券基金
„ 地域インフラと規制の収斂による主な影響
– クリアリングとセトルメントのプロセス統合
– 外国の投資家に対する免税措置
– 外国債券投資に対する制限の緩和
– ブローカーが審査した、良質の市場データの時機を得た提供
– 現地通貨ベンチマークの発達
– ヘッジ商品の開発
また、皆様すでにお気づきかもしれませんが、別の認可もあります。超国家機関による現地通貨
建て債券の発行です。初めの段階は、タイ国が株主である機関に限定されると思いますが、国際
金融公社(IFC)、アジア開銀、世銀は既に、何らかの制限つきで現地通貨建て債券を発行する承
認を得ています。これは供給を、すなわち別の市場に別の投資家を生み出します。
他のイニシアチブも現在進行中です。つまり、租税面です。税制についての話はよく耳にするよ
うに思います。現在、監督当局は国債に対する課税をまず国内で撤廃することを計画しています。
これは、例えば、第 2 アジア債券基金や日本あるいは他国の投資家が国債投資に目を向ける可能
性を生み、税金などの事柄を憂慮せずにすむ手段です。基本的に税収が国にとって主な歳入源で
あることを考えれば、これはたいへん大きな前進です。
ですから、私はこれが、同様の事柄を助けていく上で、政治面での大きな前進だと思います。
先に申しました外国債券投資への緩和措置ですが、タイの機関投資家は現在、オフショアの外国
証券投資を許可されています。ただし当初の段階では、ソブリン・準ソブリン債に限られていま
す。規模は 24 億 5000 万米ドルです。許可を得た投資家のほとんどと私たちが話しをする際、彼
らが求めているのは主にアジアの債券です。
それ以上を求める向きもあるでしょう。例えば、中南米の知識が豊富な国際的生命保険会社は、
利回り強化のために中南米での可能性を模索するでしょう。しかし、私たちが実際目にしている
のは、韓国、シンガポール、香港など、なじみのある地域に目を向ける国内投資家の姿です。国
内レベルでは投資家が満足していることの証明です。
現地通貨ベンチマークの発達――市場はもっと定期的で頻繁な発行体を確かに必要としています。
つまり、政府のような存在です。はっきりとした流通経路が形成されつつありますが、現在それ
は臨時の競売様式となっています。ですが、私たちは、月間、四半期ベースでの流通経路につい
て話しているのではありません。それでは役に立ちません。私は、マレーシアでいくつかの例を
見てきましたが、その一部はおそらくタイでも発達するのではないかと思っています。
ヘッジ商品の開発――アジアにはヘッジの手段が欠如しており、完全に発展したレポ市場が不在
だと思います。東京三菱銀行の方が、日本市場がどのようにレポ市場を発展させたかを明確に説
201
明されました。これは、おそらく我々もタイで試みるべきだと思います。
域内債券市場の創設に必要な、強い政治的意思
„ タイの経験:
– アジア債券基金構想で始動
– 源泉徴収税の撤廃
– 外国債券購入規制の緩和
„ 他のアジア諸国はタイの例に倣うか?
吉野教授が最後に指摘されたことが、残りの問題になります。すなわち、政治的意思です。タイ
の経験を見ても、政治的意思がこのイニシアチブを支えていることがわかります。よくよく振り
返れば、タクシン・シナワトラ首相が実際、中心となって働きかけをしました。彼の政策・イニ
シアチブの継続により、市場価値の合理化が進んだ面もあります。例えば、租税です。私たちは 5
年近く、課税についてだけ話をしてきました。ところが、首相がこれを主な議題・イニシアチブ
に掲げてから、話は 2 ヶ月ですみました。ですから、この例は、政治的意思が絶対的に必要であ
り、各国政府あるいは監督当局の支持がアジア債券市場発展を成功させるカギとなると、私が信
じるゆえんです。
長くなってしまいました。そろそろプレゼンテーションも終わらせなくてはなりませんが、アジ
ア債券市場は終わりません。このフォーラムが実務家によるアジア債券市場発展の始動に寄与す
ると信じております。ありがとうございました。
202
Q&A:5. 金融機関から見た側面
司会:クニガーさん、ありがとうございました。ここからは会場の皆様にご参加頂きます。このセ
ッションについて何かご質問はございますか?
中村さん:正直なところ藤井さんの発言に大変興味を持ち、感心しました。リスクをひとつかふ
たつ取り除くだけで、アジア債券市場の成長・強化に大変役立つというくだり、また、市場の段
階的な成長には、順を追ったアプローチが必要だという考え方です。そこで、藤井さんにとって
何が最優先事項なのかを伺いたいと思います。ここにいらっしゃる監督当局や市場参加者の方々
はアジア債券市場の発達に大変意欲的ですが、この方たちにどんなアドバイスをされますか?何
が最優先事項ですか?リスクを軽減するといった面でお聞きしたいと思います。
「わかりません」です。ですが、今日たくさん
藤井さん:ご質問ありがとうございます。答えは、
の方々のお話を伺って思ったのは、即座に実行できる可能性があるのは情報量を増やすことのよ
うです。これはつまるところ、日本やその他の国の投資家が、アジア企業がどんなものか、また、
政府が何をしようとしているのかを理解できているかどうかということです。情報量の増加によ
り、最終的には、信用リスクの不確実性が軽減もしくは減少することになるでしょう。これが現
在私たちが実行できると思われることのひとつです。というのは、単一通貨や統一通貨、あるい
は通貨売買の統一的方法なしには、金利リスクも通貨リスクも軽減するのは大変難しいからです。
ですから、それが、私たちが出来る中での第一段階だと思います。突き詰めれば、信用格付機関
が、さまざまな方法で、広範囲にわたり展開していくことが絶対だと思います。
中村さん:ありがとうございました。私も同感です。最も重要なことは、最後のプレゼンテーシ
ョンの最後の言葉にあったと思います。強力なプロトコルについての話がありました。言い換え
れば、私たちがなにより恐れているのは、政策変更リスクの類いと、それに付随するリスクです。
ですから実際、整合性、持続性、そして予見可能性が借り手と投資家双方にとって重要なのです。
もちろん、規制の廃止、マーケティングの専門性向上などの試みを続けていただくのは大変喜ば
しいことです。ですが、少なくとも、整合性と持続性は保って頂きたい。言葉を変えれば、必要
な際には、資本を本国に送り戻せることを確約して欲しいのです。なぜなら投資家は、必要の際
に資金を引き出せない国には投資できないからです。借り手の視点からすれば、資金が必要とな
った他の地域に資金移動できない国では、資金調達ができません。
司会:ご意見ありがとうございました。そちらのメディアの方々からご意見ございますか?
服部さん:藤井さんがおっしゃられた突破口に関連して、私はマネーマーケットへのフリー・アク
セスが最初の重要な段階になると思います。これは突破口ということに関してだけですが。と申
しますのは、例えば私がタイバーツを借り入れるとします。その場合、3 ヶ月ごとに LIBOR ベー
スあるいは金利変動ベースで資金調達できれば、為替リスクの影響は受けないわけです。タイバ
ーツでの収益を保持しておくことも可能となります。償還の際に日本円を売ったり、預金を一部
解約したりする必要もないでしょうから。これは東京三菱銀行や UFJ 銀行などの主要銀行にも当
てはまると思われます。そうした銀行はマネーマーケットへのフリー・アクセスを重要な要素とし
て歓迎するでしょう。
クニガーさん:メッセージは大変はっきりしています。私は、中央銀行、監督当局、市場参加者
の間での双方向の意思疎通が、以下の 2 つのメッセージをもたらすと思います。ひとつは資本規
制。もうひとつは、現地通貨建てでの借り入れ能力と、確定利付証券に対する投資能力への規制
です。そして、この 2 つのステップが、資本市場を次の段階へと発展させる上で不可欠かつ重要
であると思います。吉野教授は公的部門、直接関係する部門や銀行、との間で私よりも直接的な
203
対話をお持ちになっているはずです。ですから、そうした話をして頂ける機会があると信じてい
ます。
204
6. 最終セッション
こうしたカンファレンスのほとんどは上層(トップ)からのもので、現場(ボトム)を見ようと
はしませんでした。しかし、この会議の目的は、現場から見ようというものであり、私たちは上
層と現場を結合させなければなりません。この会議は非常に有意義でありましたし、ここで話し
合われたことが、各地の政府当局者の方々の牽引役となることを望んでいます。
吉野教授
司会:ここで吉野教授に、今日のセッション全体のテーマに対する全般的なコメントをお願いし
たいと思います。では、吉野教授。
吉野教授:今朝方、解決しなければならないと私が考えているポイントをお話しましたが、 ほと
んど全てのプレゼンテーションを聞かせていただいた今、変更したい点がたくさんあります。ま
ず、アジア(統一)債券市場とアジア域内の各債券市場の区分について。そして発行体がアジア
各国政府、アジア企業、またはアジア準企業であるのは確かです。しかし、投資家はアジア、米
国、欧州など国籍が様々な人でありえます。ただし今日、重要な点は、投資家はアジア国籍であ
ろうと思っていても、それ以外の多くの人々もこの市場に投資するだろうということです。
206
アジア債券市場
(2003 年 10 月 19 日カンファレンス・メモ 慶応大学 吉野直行教授)
Æ 発行体、アジア政府、企業
Æ 投資家、アジア系、米国系、欧州系など
----------(1) 政治的イニシアチブ
--- 3 年前に比べ大幅に前進
--- 話し合いは多いが行動はまだ
(2) ヘッジ手段の欠如
Æ 邦銀の役割
(3) アジア通貨のデリバティブ市場は未成熟
(4) ベンチマーク
(資産担保証券、例:米住宅資産担保証券(ABS))
(準政府機関 ADB(アジア開発銀行)
、IFC(国際金融公社)、世界銀行)
(持続的発行 10 年間以上)
(5) 流動性向上
(バイ・アンド・ホールド(買い持ち))(市場の厚み)
債券市場における銀行の役割
(6) 決済(DVP=デリバリー・バーサス・ペイメント、T+1)
無券面 JGB・債券取引
社債(中央振替決済)
(7) 信用保証(ADB、JBIC(国際協力銀行)など)
---(劣後部分)
<リスク>
(i) 信用リスク (ii) 為替リスク (iii) マーケットリスク
(8) 法律、規制、会計規則
(i) 破産法(破産の際の透明性)
(ii) 適切な会計手順
(9) 格付システム
(i) 複数の格付機関 (ii) 地元格付機関--- 地域志向の格付け
(10) 税制の調和(源泉徴収税、印紙税)
(11) 国内債券市場の発達
(12) 情報へのグローバルなアクセス
無料、容易、迅速な情報提供---- 国際機関の設置、発行体の IR
(13) マネーマーケットへのフリー・アクセス
長期債券市場(20 年、30 年)
(14) 中小企業への融資、ABS
まず、政治的イニシアチブについてです。3 年ほど前は、政治的イニシアチブは大変遅々として進
みませんでしたが、現在では至るところで白熱した議論がなされています。タイやマレーシア、
インドネシアなど多くの国が、アジア債券市場に関するカンファレンスの開催を望んでいます。
ですから、政治的イニシアチブは格段に向上しており、話し合いも多くなりました。ただし、行
動はまだです(一同爆笑)。これは重要な事です。
207
この会議が他の会議と大きく違うものになればよいと思います。投資家や格付機関の方も多く参
加いただいているからです。こうした会議のほとんどは上層(トップ)からのもので、現場(ボ
トム)を見ようとはしませんでした。しかし、この会議の目的は、現場から見ようというもので
あり、私たちは上層と現場を結合させなければなりません。この会議は非常に有意義でありまし
たし、ここで話し合われたことが、各地の政府当局者の方々の牽引役にことになることを望んで
います。
第 2 のポイント:これは周知の事実ですが、それはヘッジ手段の欠如です。一つの提案としては、
邦銀が一役買うことです。原田さんがおっしゃったように、日本の銀行が、一度不良債権から脱
却できれば、日本はこうしたヘッジ手段を持てるのです。邦銀その他の銀行がこの役割を果たせ
るようになればよいのですが。
3 番目:デリバティブ市場が未成熟である。これもヘッジ手段と関連しており、おそらく日本その
他の大規模な投資家層が役割を果たすことができるでしょう。
4 番目:ベンチマークが必要。ひとつの例が資産担保証券であり、例えば米国のジェニー・メイや
ファニー・メイといった ABS がひとつの可能性として挙げられます。次の例は準政府機関――ADB
(アジア開発銀行)、IFC(国際金融公社)、世界銀行など――の債券です。これら機関は、金利の
期間構造を創り出せるように、10 年以上満期の債券を発行しようと努めています。しかし、1 回
だけの発行では役に立たないため、継続的に発行することが必要です。発行量もまた重要です。
ですからおそらく、それら機関は様々な市場で、各通貨建てで、継続して発行しなければならな
いでしょう。それによって、長期のイールド・カーブが作られます。短期に関しては、各機関の債
券か国債で十分です。
5 番目:流動性をいかにして高めるか。準政府機関が一度それら長期債券を現地通貨建てで継続的
に発行すれば、流動性が高まる可能性があります。ですが、満期は集中していなければなりませ
ん。10 年債、15 年債、20 年債と分散させるよりも、おそらく 10 年債と 20 年債に集結させるほう
が良いでしょう。アジア人の性格から、多くの債券は満期日まで長期間保有されています。しか
し、最近、日本の銀行が大量に国債を販売し始めるようになりましたので、いったん相場が変動
すれば、バイ・アンド・ホールドの姿勢も変化するでしょう。債券市場における銀行の役割も、議
論の中で指摘されました。特にアジア諸国の投資家層は大変薄いため、銀行が預金を受け入れ、
債券市場での投資にまわすという重要な役割を果たすことがあります。
6 番目:決済、無券面取引そして社債決済システムです。これらも政府と協力して進めなければな
りません。また、国際的な協力も必要となりましょう。
208
7 番目:信用保証および、ADB、JBIC などです。劣後部分は信用補完によって保証されなければ
なりませんが、モラル・ハザードについては十分注意する必要があります。保証のしすぎは、大き
な問題となります。リスクには 3 つの部分、すなわち信用リスク、為替リスク、マーケットリス
クがあります。劣後部分の信用リスクは、信用補完することで保証が可能です。為替リスクは、
ヘッジ・システムなどのスキームとの組み合わせが可能です。マーケットリスクもしかりです。
8、9、10 番目(これらも重要な問題です)
:法律、規制、会計規則については、基本的に政府の役
目であり、政府が調整しなければなりません。例えば破産法は、破産した際の透明性、適切な会
計手続きなどが問題となります。多国間で調整を行うのは、各国の監督当局と政府の役割です。
格付制度については、微妙に違った見方がいくつかあります。競争のため、複数の格付機関のあ
ることが必要ですが、地元の格付機関が必要か否かは、現地格付け(国内基準での格付け)が西
欧流の格付け(国際基準での格付け)と違っているかどうかに左右されます。これもまた、一層
の議論が必要です。
税制の調和については、これもやはり、政府当局が基にならなければなりません。源泉徴収税、
印紙税など全ての税金の扱いは域内で調和していなければなりません。
11 番目:各国の債券市場を発展させることです。日本は莫大な赤字財政があるため、債券市場を
発展させるでしょう。しかし、黒字財政の国については、政府系機関や ADB あるいは世銀などの
発行する債券がその役割を果たすでしょう。自国通貨建ての地方債の発行が、債券市場を発展さ
せる可能性もあります。
12 番目:情報へのグローバルなアクセスについては誰もが議論しているところです。無料で、容
易で、迅速な情報提供についてです。タイの方による国際的機関の設置についての発表もありま
した。また、人々が一度インターネットにアクセスするようになれば、各発行体が自身のホーム
ページを立ち上げるようになり、おそらくそれによってある種の情報共有が生み出される可能性
がありますし、それは同時に、各発行体の IR の一助となります。そこで、大規模な発行体の多く
が、債券が多くの場所で販売されるよう情報を自身のホームページに掲載したいと思うでしょう。
13 番目:現地通貨建てマネーマーケットへの自由な参入についても話がありました。これにより、
現地市場への投資が促されます。長期債券市場が必要になるでしょう。もし準政府機関が長期債
を発行することができれば、大変有効でしょう。
最後になりますが、中小企業についてはあまり議論がありませんでした。最初の段階は国債、次
209
が政府系機関債、大企業の社債が続き、そして中小企業の社債になると思います。中小企業債の
出番はもう少し後になりそうですが、中小企業向け資金調達を開始したければ、銀行の役割は大
変重要です。銀行は現在中小企業向け貸付を担当しており、いずれ市場を通じてその証券化を迫
られると思われます。ですから、銀行の役割は大変重要です。中小企業の場合には、その信用の
質を評価するのは格付機関でなく銀行だからです。
アジア諸国の多くは今、中小企業の育成に努めていますが、銀行から融資を得るのに苦労するこ
ともあります。そこで、中小企業向け資金調達、すなわち資産担保証券の市場を創設しなければ
なりません。そのためには、中小企業のデータを収集することが非常に大切だと思います。シン
ガポールは情報収集計画を開始しましたし、日本もまた、幾つかの機関で情報収集を開始してい
ます。中小企業向け資金調達を開始するためには、データの収集・蓄積から始めなければなりま
せん。
幾つか見逃しているかもしれませんが、以上が主な新しいポイントです。こうした論点について
は、後ほど各参加者の方にお送りする予定ですので、もしメール・アドレスをまだお残しでなかっ
たら、知らせておいてください。そうして頂ければ、各発言者のポイントをまとめたものを、数
週間以内にお送りできると思います。私自身が理解したところをまとめることになるので、各発
言者の論文のニュアンスが若干違った場合には、修正点をお教えいただければ幸いです。
確か、このカンファレンスは 9 時に始まり、もう午後の 6 時半を回りました。他の国際会議に比
べ異例の長さです。会議によっては、同じ議題で 3 日続くこともありますが。
最後までご参加頂いた皆様に感謝したいと思います。寝ている人は誰もいませんでした(笑い)。
とても素晴らしいことです。その上、皆さん、ご熱心でした。
良い会議ができたことと、世界中からご出席頂いたことに感謝致します。ありがとうございまし
た。
210
閉会
司会:皆様、ありがとうございました。
吉野教授が指摘されたように、9 時から午後 6 時半まで、22 のプレゼンテーションでした。時間
厳守されたことに大変感銘致しました。吉野教授がタイム・キーパーとして素晴らしい役割を果た
され、結果、
「アジアの統合された時間厳守」を立証できたのです。(笑い)
これから、本日の最最終セッションに入ります。つまり、食事です。
レストランは道を渡ったところです。でも、道に迷っても、戻る道はありません。ですから、吉
野教授か犬飼さんにしっかりついていってください。
移動の前に、大変重要なお知らせがあります。皆さん何通か E メールを受領されているかと思い
ます。それぞれの E メールのかげには、スタッフである吉野教授の同僚の方々と NIRA の多大な
尽力がございました。ご起立頂き、私と共に、その素晴らしい仕事に対して感謝の意を表して頂
けないでしょうか。
吉野教授:向かいのレストランでディナー・パーティーを行います。ここを出られて道路を渡り、
左に 2、3 軒行ったところに、中華料理店があります。ありがとうございました。
(フォーラム終了)
211
発言者リスト
中国
張少峰
中国石油天然气股份有限公司(ペ 財務部債務処副処長
トロチャイナ)
韓国
姜鐘萬 経営学博士
邊煐丸 経済学博士
朴椿庚
マレーシア
ジェスビン・カウール
ディーパック・サダシバ
ン
シンガポール
ドミニク・ドブゥル-フレ
コー
タイ
ニドチャヌン・サンザベ
スク
クニガー・トリヤンクル
スリ
コンケアウ・ピアムドゥ
アイザム
日本
吉野 直行
犬飼 重仁
韓国金融研究院
金融監督院
KT(韓国テレコム)
先任研究委員
資本市場監督室 債券市場課 調査役
財務管理室 資金チーム 課長
証券委員会
戦略・リスク管理部門
ゼクティブ
弁護士
アドナン・スンドラ法律事務所
バークレイズ・キャピタル・アジア グローバル・リサーチ部
社
ー(エコノミスト)
エグ
ディレクタ
シン・コーポレーション社
ポートフォリオ・マネジメント担当
バイス・プレジデント
バークレイズ・キャピタル証券(タ 最高経営責任者(CEO)
イランド)社
タイ証券保管機構(TSD)会社
保管決済部門担当
シニア・バイス・プレジデント
玉木
中村
伸介
隆之
慶応大学
総合開発研究機構 / 日本資本
市場協議会
総合開発研究機構(当時)
ソニー株式会社
山崎
原田
明石
徳島
服部
晃義
靖博
陽子
勝幸
博則
金融庁
株式会社格付投資情報センター
フィッチ・レーティングス
日本生命保険相互会社
大和證券 SMBC 株式会社
勝藤
藤井
史郎
巌
株式会社東京三菱銀行
J.P.モルガン証券会社
増田
雄輔
日本アジア証券株式会社
質問セッション参加者
入村 隆秀
鈴木 裕彦
国際部
経済学部 教授
主任研究員(当時、現主席研究員)/
事務局長
主任研究員(当時)
財務部 インターナショナルトレジャ
リープランニング 統括課長
総務企画局市場課 企画官(当時)
取締役副社長(当時、現社長)
コーポレート部門 ダイレクター
財務企画部 課長
債券部クレジット・コーポレートレー
ティング課 次長
トレジャリー部門資金証券部 調査役
マネージングディレクター 資本市場
部長
取締役 投資銀行本部長 兼 商品本
部長
株式会社日本格付研究所
国際格付部 シニア・アナリスト
バークレイズ・キャピタル証券会 資本市場部 部長
社 東京支店
212
主催機関スタッフ
慶応大学
吉野直行教授(経済学部)金融庁金融研究研修センター長を兼務
辻のり子(COE 秘書)
NIRA
犬飼重仁(総合研究開発機構 主任研究員(当時、現主席研究員))
日本資本市場協議会(JCMA)
玉木伸介(国際研究交流部
事務局長を兼務
主任研究員(当時、現預金保険機構財務部上席審理役)
吉村俊生(政策研究情報センター 研究員(当時、現日本生命)
時子山真紀(政策研究情報センター リサーチ・アシスタント(当時))
檀上亜都子(政策研究情報センター
アシスタント(当時))
213
アジア資本市場研究フォーラム(於:東京)
統合されたアジア債券市場構築へのキックオフ
„
ホスト(スポンサー)
慶応大学 COE 研究室 ならびに NIRA(総合研究開発機構)
このフォーラムは、 KEIO-NIRA合同研究グループ
が主催し、慶応大学とNIRAが共同で
資金提供した。
„
スポンサー
金融庁金融庁金融研究研修センター
(センター長:吉野直行教授)
日本資本市場協議会(JCMA)
(事務局長:犬飼重仁)
(ただし、上記 2 組織からの資金提供はなし)
„
本フォーラムの目標
1.
社債市場参加者、関連金融機関、アジア債券市場に関係のある地域政策立案者が、最
初の対話の場を持つことにより、相互理解を成し遂げ、市場参加者(企業・金融機関)
の観点からアジア債券市場の発達に必要な条件を創造・決定することを狙う。
2.
„
市場参加者の自発的な主導によるアジア資本市場研究グループの創設を発表する。
結果
参加者が提出した修正済み論文や研究フォーラムの会合で表明された推奨事項・意見に基
づき、アジア諸国の政策立案者および関係者・組織に対する、統一された推奨事項・見解
をまとめる。
その報告は、アジア諸国での市場参加者の現場意見の要約、共通ビジョンの概観、地域市
場インフラの理想的な方向性を精密に計画する全体像の設計などを含み、アジアにおける
統合された新たな資本市場の創設を目指すものとなる。
提言論文(金融財政事情誌掲載)は、下記 HP 参照。
http://www.nira.go.jp/newsj/30th/mg/02/001.pdf (日本語版)
http://www.nira.go.jp/newsj/30th/mg/02/002.pdf (英語版)
プロジェクト紹介 HP は以下参照。
http://www.nira.go.jp/newsj/30th/mg/02/index.htm
214
2004 年 3 月
「アジア資本市場研究フォーラム」開催の背景
NIRA リサーチアシスタント
時子山
真紀
2003 年 10 月 18 日、19 日開催のアジア資本市場研究フォーラムでは、アジア6ヶ国から
集まった、債券市場に関わる発行体や金融機関等の実務家、政策当局者らによって、「アジ
ア債券市場」構築について議論が交わされた。本節では、そのフォーラム出席者の間の議
論の背景として出席者の間に共有されている基本的な歴史的事実、言い換えれば関係者が
「アジア債券市場」の構築を目指すようになった背景について、またアジア債券市場構築
の必要性が指摘されるようになってから現在に至るまでの「アジア債券市場構想」の流れ
について、振り返ってみることにする。
〔アジア通貨危機〕
アジア債券市場の必要性が指摘されるようになった発端は、1997 年タイバーツの暴落に
始まるアジア通貨危機にあった。
そもそもアジア通貨危機が起こった原因は何だったのか。当時ドルペッグ制の維持を標
榜しながらドルよりも高い金利の国内市場を維持し、資本流入を促しつつ国内経済の急成
長を遂げていたタイに、日米欧の金融機関のドル建ての短期融資が急速に流入したものの、
流入したドル資金とその資金の投資先である国内バーツ建ての融資など長期投資との間の
「期間」と「通貨」のミスマッチが過大となっていた。いわゆる通貨とリクイディティー
にかかわる「ダブルミスマッチ」のリスクが放置されていたのである。そこへ、ヘッジフ
ァンドなどのタイバーツ売りの攻撃を受けるなどして、いったんそれが流出しだすと、瞬
間的に外貨が払いきれなくなり、固定相場の維持が不可能となった。これが突然のバーツ
切り下げにつながり、その後インドネシア、韓国などアジア各国に伝播した金融危機の原
因となったということが一般に指摘されている。
〔チェンマイ・イニシアティブ〕
アジア通貨危機の経験が示唆することは二点ある。一点目は、危機の直接的なひきがね
となった瞬間的なリクイディティファイナンスの欠如への対策としての、短期資金を融通
できる仕組みの必要性である。これは、2000 年 5 月 6 日、ASEAN10 ヶ国と日中韓3ヶ国の
間で、危機に際して二国間で自国の外貨準備の一部を融通し合うネットワーク(通貨スワ
ップ)を作るという合意、いわゆる「チェンマイ・イニシアティブ」で実現された。
また、この制度によってモラルハザードが起こる可能性を危惧して、モニタリングシス
215
テムも同時に作ることになった。
具体的には、短期資金のフローデータを二国間で交換したり、各国の大臣あるいは次官
レベルで定期的に政策対話の場を設けたりしている。現在、アジア域内では 16 件、交換枠
総額 365 億ドルの二国間協定が結ばれている。また、日本はこれまでに中国、韓国、タイ、
シンガポールなど7ヶ国と協定を締結している。
〔アジア債券市場育成構想〕
また、そもそもアジア各国内の潤沢な貯蓄が、長期に投資されるようなインフラが整備
されていれば、海外機関の投機的投資による「期間」と「通貨」の二重のミスマッチによ
って危機が増幅されることもなかったはずである。危機再発防止には、域内で長期資金の
循環を完結させる債券市場の構築が必要であるというのが、アジア通貨危機が示唆する二
番目の点である。これが、2003 年 10 月 18、19 日に行われたアジア資本市場研究フォーラ
ムの背景となった「アジア債券市場育成構想」の発端にある考え方である。
<アジア債券ファンド(AMB)>
アジア債券市場育成構想は二つのプロセスで構成されている。一つ目は、需要面からア
ジア債券市場を育成しようというプロセスで、
「アジア債券ファンド(AMB)」と呼ばれるも
の。2003 年 6 月 2 日、東アジア・オセアニア中央銀行役員会議が主導となって、日本、オ
ーストラリア、ニュージーランド、中国、香港、韓国、タイ、インドネシア、マレーシア、
シンガポール、フィリピンの計 11 ヶ国が自国の外貨準備の一部でファンドを作ることに合
意した。ファンドでは、11 ヶ国のうち、日本、オーストラリア、ニュージーランドを除く
8ヶ国の US ドル建てソブリン債を買う。このファンドが軌道に乗り、現在は第二号として
現地通貨建ての債券のファンドの設立が検討されている。
<アジア債券市場促進イニシアティブ(ABMI)>
二つ目のプロセスは、供給面からアジア債券市場を育成しようというプロセスで「アジ
ア債券市場促進イニシアティブ(ABMI)」と呼ばれるもの。2003 年7月 6 日、ASEAN10 ヶ国
と日中韓3ヶ国の財務省主導で、発行体(債券の供給側)の発行を促すような制度構築の
観点から環境整備を進めることに合意した。現在では中国を含む 13 ヶ国で検討が進められ
ているが、もともとは日本、韓国、タイの3ヶ国が、97,98 年の危機を反省して、国内ある
いは域内の貯蓄を国内への長期投資資金として有効活用すべきであるという議論を始めた
ことが発端となっている。
〔民間主導の「アジア債券市場」への動き〕
以上見てきたように、97 年のアジア通貨危機以降「アジア債券市場」構築のための整備
が着々と進められてきた。しかしながら、これらは全てアジア各国の政策担当者や中央銀
216
行の主導の下で行われてきたものである。
2003 年 10 月 18・19 日、東京の慶應大学三田キャンパスで開催されたアジア資本市場研
究フォーラムは、アジアの資本市場に実務面で深くかかわってきた市場参加者自身による、
初の、民間主導でおこなわれた協議会であった。そういった意味で、今回の協議会は非常
に重要であったと同時に、これを基点に、民間レベルの主体的参加による、統合されたア
ジア資本市場構築への出発点となることを期待したい。
217
アジア資本市場関連年表
・ 1991 年、「ドラゴン債」の発行
アジア開発銀行が、ユーロ債市場にならって、アジアで国際的な債券市場を作ることを
目的に、香港、シンガポール、台湾の3市場のうち、少なくとも2市場で上場される債
券を発行した。93 年には、欧米の政府系金融機関向けに 11 件、219 億 19 百万ドル発行
したが、流動性に乏しくその後下火になった。
・ 1997 年 7 月、アジア通貨危機
タイの通貨であるバーツの暴落をきっかけとして発生したアジア通貨危機は、その後 98
年にかけてアジア各国に伝播した。
・ 1997 年 9 月
宮沢構想提案
日本は、「アジア通貨基金(AMF)」構想を、香港で開催の G7・アセアン蔵相会議におい
て非公式に提案。
・ 1997 年 11 月
宮沢構想挫折
AMF 構想は IMF 他の反対でいったん挫折。
・ 1998 年 11 月
・ 1999 年 9 月
韓国、日本に AMF を提唱
マレーシア、AMF の必要性を提唱
・ 2000 年 5 月 6 日、チェンマイ・イニシアティブ
ASEAN10 ヶ国と日中韓の3ヶ国が、危機時には二国間で自国の外貨準備の一部を融通し
合うネットワーク(通貨スワップ)を作ることに同意した。
・ 2000 年 6 月
日本で行われた第 6 回国際交流会議で<日経新聞主催>で、中国、マレー
シアよりの参加者が AMF を支持
・ 2001 年 1 月
神戸で開催された第3回アジア・欧州(ASEM)財務大臣会議にて神戸リサ
ーチ・プロジェクト発足を合意
神戸リサーチ・プロジェクトは、ユーロの成功体験を踏まえてアジア・欧州両地域で共
同研究してゆく試み。2002 年7月、概要報告が第4回のコペンハーゲン会合に提出され
た。
・ 2001 年 4 月
経団連、提言で AMF 推進を要望
・ 2001 年 5 月 9 日
日本、韓国、タイ、マレーシアが通貨スワップ協定締結を合意
日中間と ASEAN の計 13 カ国はホノルルで財務相会議を開き、日本、韓国、タイ、マレ
ーシアは総額 60 億ドルの通貨スワップ協定締結を合意した。
・ 2003 年 6 月 2 日アジア債券ファンド(ABF)
アジア債券市場育成構想の一環として、需要サイドからの市場育成をはかるため、東ア
ジア・オセアニア中央銀行役員会議(EMEAP)主導により、自国の外貨準備の一部でフ
ァンドを作ることに合意。ファンドでは日本、オーストラリア、ニュージーランドを除
く8ヶ国のドル建てソブリン債を買う。これに続く動きとして、現地通貨建ての債券の
218
ファンド(ABF2)の設立を検討中である。
・ 2003 年6月6日
塩川財務大臣とマレーシアのマハティール首相が都内で会談し、アジ
ア経済の安定成長のため「アジア債券市場」の創立に向け取り組むことで一致した。会談
では域内通貨建て債券の発行を推進し、為替変動リスクを軽減する必要性が確認された。
・ 2003 年 7 月 6 日アジア債券市場促進イニシアティブ(AMBI)
アジア債券市場育成構想の一環として、供給サイドからの市場育成をはかるための枠組
み。ASEAN10 ヶ国と日中韓3ヶ国の財務省が主導して、アジア債券市場の環境整備を行
うことを目的に設立された。現在は、6つの作業部会が設置されている。
・ 2003 年 10 月 東京で、初の、アジア各国の市場実務家による「アジア資本市場研究フ
ォーラム」開催
219
2003 年 10 月
中国の金融資本市場の概要
NIRA 研究員
吉村 俊生
はじめに
中国は、1978 年に改革開放政策を打ち出した後は経済成長を持続させ、今や「世界の工
場」から「世界の市場」へと移行しつつある。しかし、今後中国の更なる経済発展のため
には、不透明な法制度や商慣行の是正、知的所有権の確保、金融資本市場の整備など、解
決すべき数多くの課題が存在している。その中でも、今回は特に金融資本市場、中でも株
式・債券市場を中心とする証券市場に焦点をあて、その概観について述べる。
<中国における国債、株式、社債の市場規模に関して>
毎年の発行額からみた中国の証券市場規模は、近年増大してきている。2002 年では国債・
社債をあわせた債券発行額は 6259.3 億元に達し、これは 2002 年の中国の GDP の約 6.1%に
あたる。しかし、下図のように、その殆どが国債であり、社債発行額は 325 億元と国債発
行額の 5.4%にとどまっている。この値は 1991 年の社債発行額と比べても約 1.3 倍の伸び
でしかない。これに比して、株式市場は 1991 年の約 192 倍、国債は約 21.1 倍と、国債と
株式市場がここ十年余りの間に飛躍的な伸びをみせていることがわかる。
しかし、社債についても、その規模の小ささや今までの伸びの低さが指摘されるものの、
発行額の実額は徐々に増加してきてはいる。また、2003 年の「証券会社の債券管理暫定規
定」の公布により、証券会社による債券の発行が可能になったことで今後債券市場の更な
る発展が期待される。
有価証券の市場規模
(億元)
7,000
6,000
5,000
4,000
国債発行額
社債発行額
株式発行額
3,000
2,000
1,000
220
20
02
20
01
20
00
19
99
19
98
19
97
19
96
19
95
19
94
19
93
19
92
19
91
0
(年)
次に、証券市場残高の面からみてみる。統計上の最新である 2001 年のデータでは、株式
時価総額は 4.3 兆元、国債の発行残高は 1.6 兆元、社債発行残高は 0.1 兆元であった。企
業の資金調達面に着目すれば、このような非常に少額の社債発行残高に対して銀行の融資
残高は 11.2 兆元に達している。また、日本、アメリカの(直接金融/間接金融)の比率が
それぞれ 2.2 倍、6 倍なのと比べても、中国においては依然間接市場での資金調達が主流で
あることがわかる。
なお、ここで特筆すべきは、中国内の銀行の保有する不良債権の大きさである。中国銀
行業監督管理委員会(CBRC)によると、2003 年 12 月末の国内金融機関の人民元・外貨建て
不良債権の比率は 15.19%であり、今後中国経済の停滞期においてはさらなる増加も懸念さ
れることから、CBRC では警戒を呼びかけている。
<中国における証券の発行・流通における問題点>
(社債)
次に、中国の証券の発行・流通における問題点について考察する。
社債に関しては、まずは発行体制と監督体制に問題がある。社債の発行においては、人
民銀行と発展改革委員会によって上限が定められており、さらに両方の審査を受ける必要
がある一方、債券の監督責任は中国証券監督管理委員会が担うといった制度となっている。
また、これら金融監督機関による債券発行のマニュアルなど手続の整備もきちんとされて
おらず曖昧である。このように債券発行にかかわる手続が未整備な上、監督機関が複数で
重複があり統一性のない制度であるので、企業の即時的なニーズに合わせた債券の発行は
難しい状況にある。
また、債券の取引市場に関しては、社債の回転率が非常に低いことが挙げられる。社債
を発行しても所有者が変わることはめったになく、それゆえに取引流通市場環境もきちん
と整備されていない。また、買い手としての機関投資家が少ないこともあり、市場として
の魅力は低い。現在社債を発行している会社は殆どが大手の国有企業であることも、それ
を如実にあらわしている。
(国債)
一方、国債の流通市場は、その発行額の多さもあり取引が活況を呈している。
(株式)
次に、株式市場の概要を見てみる。中国の株式市場で最も特徴的なのは、株式が流通株
と非流通株に分断されている上、発行市場や対象とする投資家によっても分類されている
ということであろう。
まず、株式の分類に関して、株式には国内居住者向けに人民元建てで発行される A 株と、
221
海外投資家向けに国内で US ドル建て・香港ドル建てにより発行・取引される B 株のほか、
発行する場所により H 株(香港で海外投資家向けに香港ドル建てで発行)、N 株(ニューヨー
クで発行)などが存在する。
ここで、国内発行株式である A 株・B 株の市場規模を見てみると、2003 年2月の時価総額
で A 株・B 株がそれぞれ 4.1 兆元(5000 億 US ドル)と 431 億 US ドルである。また、2002 年
に A 株発行によって調達された金額は 640 億元であったが B 株の新規発行はゼロであった。
2002 年末の銘柄数もそれぞれ 1194 銘柄、111 銘柄と、A 株の市場規模が圧倒的に大きい。
90 年代初に証券市場が開設されて以来、A 株が大きな伸びを示したのに対し、海外投資
家向けの B 株はさほど伸びがなかった。B 株の低迷を受け、2001 年には国民もドル建ての B
株を購入できるようになった。それにより、B 株の方が割安だということで一時的に時価総
額が若干増加したが、2002 年にはまた落ち着きをみせている。B 株市場の規模が小さい上、
1998 年以降、制度上、企業が株式を A 株か B 株のどちらかでしか発行できなくなったこと
も B 株の低迷の大きな要因ではあるといわれる。
以前は販売先が国内居住者に限られていた A 株も、2003 年 5 月に外資系証券会社2社が
指定域外機関投資家(QFII)の資格を与えられ、外資系金融機関が中国で証券投資業務を
行うことができるようになった。そして、中国証券市場の発展に向け、証券市場のさらな
る国外開放や個人投資家保護の強化、統合された市場のための A 株と B 株の統合などを目
的として、現在「証券法」の改正が審議されている。
株式市場におけるもう一つの大きな問題として、国が所有する非流通株式の存在がある。
非流通株式は実に株式時価総額の 60%強(2002 年)を占めている。このような二元構造は、
株式市場の公平性を損なっているばかりか、企業のガバナンスが偏り、流通株の保有者で
あっても企業のガバナンスに影響を与えることが難しく、さらには政府と企業との癒着の
問題も残る。この問題も、今後の証券市場の更なる発展に大きな障壁となっている。
さらに、近年、非流通株式の市場流通が問題を巻き起こしている。非流通株式を売却し
てその代わり金で社会保障を充実させようとする政府に対し、その流出が市場の均衡を崩
すことが避けられないことから、市場からの反発は大きい。しかし、社会保障の問題は政
府、ならびに国有企業にとっても大問題である一方、非流通株式が市場の発展を妨げる要
因ともなっていることから、今後政府による適切な対応方針の樹立が求められる。
<中国企業の資金調達環境の概観>
1997 年、中央銀行である人民銀行の規制緩和により、中国企業の長期借入れの上限規制
が撤廃となった。しかし、依然として、大半の企業の資金調達は 1 年ないし一年未満の機
関の銀行借入によって行われている。一年以上の期間の借入はまれであり、しかも、国家
の関係するプロジェクトのための借入の場合に限って認可される。1998 年、人民銀行は銀
行に対する企業宛貸出の割当制度を撤廃したが、銀行に対する種々の監督を行っている。
中国の銀行の銀行貸付は、(1)3 ヶ月未満、(2)3 ヶ月以上 1 年未満、(3)1年以上 3
222
年未満、に区分され、借り換え可能な融資枠契約が一般的となっている。金利率は、人民
銀行の参照レートを中心に上下10%以内と決められている。外国籍銀行による保証など
融資担保にかかわる制約も存在する。
中国の上場企業のデット・エクイティー・レシオ(有利子負債残高/自己資本)は約30%
に過ぎないが、このことは、社債市場からの調達のみならず、銀行からの借入を行うこと
すら非常に困難であることを物語っているといえよう。
<中国の間接金融の制度整備について>
中国の直接金融市場、すなわち株式、債券などの証券市場の概要、今後必要とされる改
善点、及び中国当局の対応について述べてきたが、一方で、中国政府は、近年、間接金融
市場についても整備を進めている。
2003 年 4 月には中国の銀行を中心とする間接金融部門の監督当局として中国銀行業監督
管理委員会(CBRC)が設立された。同委員会は銀行、金融資産管理会社、投資信託会社、
預貯金を取り扱う金融機関を統一的に監督・管理し、銀行業の健全な発展を目指すもので
ある。
CBRC は以前人民銀行が担っていた役割を独立して運営させるようにしたものである。ま
た、その役割区分をより明確にするため、銀行業界の監督に関する初の法律として「中華
人民共和国銀行業監督管理法」が本年 2 月より施行されるなど、透明性を高め、リーガル
リスクをなくすための取組みが進められている。
<香港の今後の政策に関して>
最後に、中国の今後の金融資本市場の発展にとって、双方向に大きな影響を及ぼしあう
であろう香港の現状と展望について考察する。香港は、周知の通り 1997 年の香港返還によ
り中国の一部となったが、それ以前からもアジアのオフショア型金融資本市場として重要
な役割を果たしてきた。現在、香港はアジアの債券や株式の流通市場におけるハブ機能を
果たすことをめざしている。
現在の中国の香港政策においては、香港の今後の成長が香港自体のみならず中国、ひい
てはアジアの繁栄にも重要な役割を果たすとの判断により、経済面では中国の政策上、香
港を外国とみなしている。従って、現在でも香港は金融・財政政策に関しては中国とは独立
した政策の下に運営されている。
中国、香港とも世界貿易機関(WTO)のメンバーであるので、もし将来、中国が香港に対
して金融市場の開放を行ったとすれば、他の国々に対しても同様に開放する必要も、ほぼ
同時に生じることになるであろう。したがって、今後中国の金融政策、人民元の米国ドル
固定相場制維持、外国為替市場の分断政策継続の見直しの時期を考える際にも、香港要因
は重要な考慮点の一つであるといえよう。なお、その場合には、当然香港ドル建ての H 株
制度のみならず、ドル建ての B 株制度も大幅な見直しが必要となろう。
223
<今後の課題>
以上、中国の資本市場に関して、その概要を述べてきた。中国は近年、国内金融資本市
場整備に拍車をかけており、今後も、ある程度個別市場レベルでの市場整備が可能な A 株
を中心とする株式市場、国債市場については、更なる発展が期待されよう。
しかし、WTO 加盟後の課題である FTA の締結を積極的に進めようとしている中国にとって、
そのメリットを中国自身が十分に得るためには、貿易のみならず、コインの表裏の関係に
ある広義の金融市場、すなわち、開放され、多通貨の取引や各種デリバティブ取引、レポ
取引などを可能とする外国為替市場および金融資本市場の整備・開放を進める努力が欠か
せないであろう。
また、そういった努力とともに、銀行の不良資産処理の迅速化と銀行機能の再構築が、
間接金融システム全体の活性化のために必要であり、それなくしては結局社債市場の発展
すらも望めないであろう。
《参考文献》
・ Yecong Xu 『中国の証券市場』(東洋経済新報社)
・ 南亮進 牧野文夫[編]『中国経済入門』日本評論社
・ 大塚正修 日本経済研究センター[編]『中国社会保障改革の衝撃』勁草書房
・ 日本総合研究所[編]『新版 図解 金融を読む事典』東洋経済新報社
・ Mamoru Nagano [Limited Internationalization of Capital Market and Corporate
Finance] May 2003
・ 白井 早由里『中国の金融・資本市場改革の成果と今後の課題』(開発金融研究所報
2003.3)
・ 沙銀華『中国社会保障の生成と展開に影響を与える5つの要因に関する考察』(ニッ
セイ基礎研所報 2002 Vol.24)
・ 中国情報局HP(http://searchina.ne.jp/)
・ 中国人民網 日本語版HP(http://fpj.peopledaily.com.cn/home.html)
224
2004 年 3 月
日本を始めとするアジア債券市場関連法制の課題
東京大学法学部教授 神田 秀樹
注:以下は、2004 年 3 月に行われた日本資本市場協議会の主催する研究会での神田教授の
ご発言のうち、首題に関する部分を、一部修正のうえ、採録したものである。詳しくは以
下の報告書参照。
社債・CP・融資法制の構造と改革への視点
社債・CP 等企業金融関連投資商品の法制調査研究プロジェクト報告
http://www.enkt.org/katudou/pdf/project.pdf
アジアの債券市場のあり方を概観すると、歴史的な分析を踏まえ伝統的な言い方をすれ
ば、アジアには、およそ債券市場が発達している国はない。国債を別にすると、世界的に
も、民間企業の債券の市場が大きく発達している国は、アメリカを除くと、イギリスが多
少そうかもしれないが、ほとんどないといって良い。そうはいっても、各国とも、債券市
場はだんだん広がりつつあるわけであり、日本でも、その市場の発展を将来どういうふう
に考えたらいいのか、難しい問題がある。
例えば、日本で電力債などが社債を出しているとはいっても、それが通常の社債といえ
るのか?
電力債には、ジェネラル・モーゲージといって、一般担保がついている。この
担保は、先取特権としての優先弁済権であり、社債権者が他の債権者に優先して会社財産
から返済を受けることができる。一般の社債とくらべると、電力債は特殊なものという位
置づけである。
では、一般の東証の上場会社が次々社債を出しているかといえば、エクイティ物は非常
に多いが、一般の社債は、出しているがそれほど多いわけではない。それでも日本では相
当出てきている。
ましていわんや、その他のアジア各国で債券市場育成を、ということを言い出すと、こ
れは大変労多いことではある。
さらに、債券市場のあり方を議論するためには、市場インフラのうち取引の終わりの部
分の証券決済(資金と証券の受渡し)など決済インフラも整備について検討する必要があ
るが、そういう問題を置いて、やや伝統的に法的側面を中心に整理すると、「社債法制の将
来」という問題がある。
その中では、例えば、プログラム発行が可能かどうかなど証券の発行手続きの問題、ま
たディスクロージャー(開示制度)などを司る証券取引法の問題も重要であるが、それ以
外にここで申し上げたいのは、むしろ債券市場インフラ整備のために必要なベーシックポ
225
イント、非常に基本的な点としては何があるかという話である。
それは、債券関連の法制の問題、多くは商法に関係する問題といってよい。
<国際的な法適用のあり方>
第1は、国際的な法適用のあり方である。日本の企業は、外債をかなり多く、といって
もエクイティ物が多いが、クロスボーダーで債券を発行しているが、一体どこの国の法律
が適用になるかよくわからない。社債は、純粋的に私法的な関係と考えると国際私法のル
ールによって決まるともいえるが、必ずしもそうではなく、公法的な、例えば日本の商法
は社債権者集会という制度は裁判所が認可するとしているが、それは別に国際私法のルー
ルではなく、強行的に日本の法律が適用になるということなのかどうか、大議論があると
ころであり、非常に気持ちの悪い分野で整理がついていない。
<社債管理会社と社債権者集会のあり方の問題>
次に、社債管理会社と社債権者集会のあり方。これは大変有名な問題であるが、これも
日本国内の事例一つを取っても、最近のデフォルト事例等を見ると、社債管理会社のあり
方が問われている。それから社債権者集会が開けるかという問題を含めて、いま商法改正
でも議論されているところである。これは、来年 2004 度以降の商法改正で、これを「会社
法制の現代化」と言っているが、相当部分、改善はされる見込である。
<株式会社以外が発行する債券の法の適用の問題>
次に、株式会社以外が発行する債券にかかわる問題。最近は地方公共団体や第三セクタ
ーなど、いろいろな団体が債券を発行している。学校債(学校法人債)、病院債(医療機関
債)まで出てきているが、こういうものは、日本では商法の適用もなければ証券取引法の
適用もない。何の適用もない。そして、仮にそれでも大丈夫であるとすれば、逆に株式会
社について商法は要らないのではないかということを示唆しているといえなくもないが、
普通の言い方は、「商法も証取法も適用しないでいいのか、大丈夫か?」という問題提起で
ある。
<サムライ債などデフォルト時の取り扱いの問題>
最後に、すこしマニアックといえなくもないが、ソブリン債、日本国内で円建てにより
発行されるサムライ債などのデフォルト時の取り扱いの問題。サムライ債券は、日本以外
のいわゆる非居住者と言っているが、発行体が日本で発行するもの。ソブリンは外国の国
家。第三セクターのようなものも含めて言う場合もある。こういう外国の国が日本で発行
するものである。従来は国が発行するので、デフォルトはなかったが、しかし、銀行借入
の世界との対比で考えると、デフォルト時の取り扱いが債券の場合に、より明確でないと
いう問題がある。アルゼンチンなり、最近有名なウルグアイなりが発行したサムライ債が
226
デフォルトとなって、日本国内で債権者集会を開いたのだが、いずれにしても、こういう
問題等をめぐっては、商法の直接適用はないので、どうしたらいいのかということがある。
そこで問題になるのは、いろいろあるが、ほとんどが契約条項(コントラクティング・
クローズ)の問題。契約条項で問題になるのは三つある。
第一に、日本で一番議論されているのは CAC(コレクティブ・アクション・クローズ)と
呼ばれているものである。簡単に言うと、デフォルトしかかった場合に、多数決で元本カ
ットとかを決めていいかということ。それは、もちろん契約には書いてある。カットであ
るから、法制度があればいい。つまり、日本の商法の適用がある社債についてはもちろん
多数決でカットしていい。「いい」という意味は、裁判所が認可するが、そういう制度がな
いときに、どうするか。集まって、
「さあ、どうしましょうか」となったとき、多数決でカ
ットというので、少数派が反対しているのに即カットできるかどうかという問題がある。
第二に、社債管理会社に関する問題。それは、デフォルトしたりどうかなったりした場
合に、日本の社債の場合で言う社債管理会社、あるいはそういうものに当たる人を選んで、
あるいはあらかじめ置いてある場合もあるが、そういう人が代表して訴訟手続きをしてい
いかという問題がある。これは、日本法で言うと弁護士法に触れるという、そういう狭い
問題もある。
第三はパリパス条項。パリパスの意味がよくわからない状況が起きている。詳細は省略
するが、いずれにしても、ウルグアイもアルゼンチンも「払わない」と言ったら、もうど
うしようもない。ソブリンは、払わないと言ったら訴えても取れない。そういう場合、従
来はどうしていたかというと、銀行貸付の場合には、融資団の銀行が集まって、相手方政
府と交渉して、リスケジューリングというが、もう一遍ローンを組み直すというやり方を
とっていたわけである。これが、債券の世界になると、集まって交渉するといっても投資
家は不特定多数いるので、やりようがない。これをどうとらえたらいいのかという大きな
問題がある。これは、別の言葉で、ワークアウトとか、オーダリーワークアウトという名
前で、ファイナンスのやり方が特に銀行融資から債券、つまり資本市場ファイナンスに移
った場合に、秩序あるワークアウトのあり方を、ソブリンが返せないと言い出したらどう
するか、どう交渉するかという問題として、ここ 10 年間非常に大きなテーマとして議論さ
れている問題である。
以上を含め、国際的な債券市場にかかわる法制度の枠組みについては、基本的な道具立
てを種々考え直す必要があるといえる。
227
2003 年 10 月
日本市場における証券決済(クリアリング・セトルメント)制度の改革と
証券保管振替機構の最近の進展
証券保管振替機構 代表取締役社長 竹内克伸
証券保管振替機構と証券決済制度の改革促進
証券決済(クリアリングおよびセトルメント)制度改革は、各国が資本市場の競争力を高めようと
しているため、世界中で急務となっています。日本もまた、最先端の IT 技術を応用してデリバ
リー・バーサス・ペイメント(DVP)決済システムやストレート・スルー・プロセッシング(STP)を導
入するなど、改革に積極的に取り組んでいます。
1. 電子 CP(短期社債)振替制度の創設
2003 年 1 月 10 日、証券保管振替機構(以下、保振機構)は「社債等の振替に関する法律」に基
づき振替機関としての指定を受け、CP 振替システムを同年 3 月 31 日に稼動開始しました。
従来の(紙ベースの)手形 CP は、決まった額面の券面の形式で発行されており、決済に際して
は、譲受人にデリバリーするかあるいは直接呈示されなければなりません。しかし、当社のシス
テムでは、CP はペーパーレス化され、発行から償還まで、また、名義登録や権利移転が振替口
座簿上の記帳で完了します。電子 CP の使用は、手形 CP の欠点を克服します。つまり、決済期
間を短縮し、券面のデリバリーの際に起こりうるリスクを取り除き、券面の保管コストを撤廃し
ます。
CP の振替システムでは、グロス=グロス型の DVP 決済システムを使用します。この機能によ
り決済が、手形 CP より安全かつ効率的なものとなります。
手形 CP では、額面の種類が限られていることも流通の阻害要因でした。というのは、印紙税
は手形ごとに課されるため、発行体が大きな額面で発行することでコスト負担を減らそうとする
からです。電子 CP はこうした阻害要因を回避し、小額面 CP の発行および移転を可能とするた
め、投資に柔軟性が生まれます。
2003 年 9 月末現在、電子 CP の口座残高は 5582 億円、発行数は 117 となっていますが、近い
将来急増が見込まれています。現在の手形 CP 市場は、平均発行残高が約 15 兆円。当社は現行
の手形 CP が程なく電子 CP に移行するとみています。
2.一般振替 DVP 決済システム等の実現
DVP は主なリスク、つまり代金や券面の受領漏れリスクを回避するのに不可欠です。また DVP
228
は、決済サイクルの短縮化実現に欠かせない、STP を達成する上でも重要な過程です。
一般振替 DVP システムは、証券会社、機関投資家向けの信託銀行、海外投資家向けの常任代
理人(カストディー)銀行の間で券面を受け渡すための DVP 決済スキームを導入するための計画
です。
システムの概要および接続仕様書は 2002 年 6 月および 12 月にそれぞれ発表されています。ま
た、稼動開始は 2004 年 5 月上旬を予定しています。
当社は、グロス=ネット型の DVP 決済システムを導入し、株券その他証券類の振替と、決済
照合システム(PSMS)による決済指図データに基づく資金の支払いとをリンクさせる計画です。
この構造のもと、振替による各証券受渡が取引ごと、つまりグロスで処理されます。一方、資金
の支払いはネットで行われます。つまり、1 日の終わりに、受領した証券に対する支払い金額と
引渡した証券に対する受取金額を相殺した残高を、各参加者が支払うか、あるいは受領します。
そのため、証券振替システムが DVP 導入時に PSMS に接続されることが必須となります。
これを実行するため、当社は 2003 年 6 月 6 日に、全額出資の子会社「ほふりクリアリング」
を設立しました。
現在別個である照合システムと振替システムをリンクさせ、
一般振替DVP を導入することは、
STP 促進の見地からして、決済システムの効率を飛躍的に高めると期待されています。ですから、
こうしたシステムは、将来決済サイクルを短縮するための必要条件でしょう。
3. 決済照合システム(PSMS)の拡大
決済照合システム(PSMS)により機関投資家、証券会社、信託銀行は、人手を全く介さずに取
引後の処理を行うことができます。
このシステムは現在、第 1 段階にありますが(振替システムとは別個)、2004 年 5 月には第 2 段
階に入り、PSMS は DVP システムに接続されます。
保振機構は 2001 年 9 月に、第一期第1フェーズとして、国内機関投資家による株の取引に
PSMS を導入しました。2002 年 2 月からは、第2フェーズのサービスを開始し、非居住者取引、
公募・売出し、新株予約権付社債(2002 年 4 月 1 日の商法改正前の転換社債と新株引受権付社債)
等の取引を追加しました。第 3 フェーズには、日本国債(JGB)、先物・オプション、投信・投資
顧問会社から信託銀行への投資信託純資産価値、
設定・解約情報などの送信機能が含まれています。
第3フェーズは 2003 年 5 月に稼動開始しました。
更なる機能の拡大は DVP システムへの接続後に計画されています。まず、PSMS は設立予定
の日本国債清算機関に対し照合サービスを提供します。PSMS は次に、CP を含む一般債(社債・
地方債)の振替システムに接続されます。
4. 一般債(社債・地方債)および投信振替システム
当社は、2005 年に普通社債および地方債、また投信の受益権を扱うためのアプローチを研究し
ています。
229
1)一般債(社債・地方債)
日本では、約 150 の登録機関が登録を通じて社債および地方債の取引のほとんどを決済してい
ます。これらの機関は、必要な振替を行うため、証券をペーパーレス化して登録債にすることが
不可欠です。2003 年 1 月には、
「社債等の振替に関する法律」(社債等振替法)の施行に伴い新た
に、一般債(社債および地方債)のペーパーレスシステムが可能となりました。
保振機構は唯一の社債振替決済機関ですが、この法律はその社債決済運営を強化し、証券のペ
ーパーレス化傾向を確実なものとします。この任務を遂行するため、当社は DVP 実現のために
一般債の振替システムを導入し、
日本における証券の STP 使用に向け一歩前進することを目指し
ます。こうした取り組みを通じて、当社は社債の流動性を向上させ、決済の効率を上げ、将来の
決済期間短縮に向け基盤を整えます。
当社は、実際の振替オペレーション取り決め、および適切なコンピュータシステム開発の手引
きとして、2003 年 6 月に一般債振替制度要綱をとりまとめました。
2)投信の受益権
投信の受益権の振替システムに関する法的枠組は、CP や一般債に適用されているそれと類似
しています。当社は、以前には発行済受益権に適応するために必要とされていた手続きを省略す
る計画です。そして、投信の設定、移転、償還などの際に、振替業務を簡素化するため記帳記録
を活用する見込みです。
投信小委員会は、該当する投信の範囲、投信の開設、分配、償還手続き、各種類の投信の決済
スキーム適用、配当金の取り扱い手続き、約 200 万に上る発行済受益権の、新制度へのスムーズ
な移行を確実なものとする方法などを協議しています。
5.株券のペーパーレス化
株券のペーパーレス化は、証券のペーパーレス化の中で最終の目標です。株券のペーパーレス
化が最後となる理由は、
その影響に関して、
多大な研究が必要となることが必至だったためです。
その影響は CP や、国債以外の債券の比ではありません。というのは、非経済的な権利、つまり、
議決権などが処理されなくてはならず、非常に多くの株主が存在している上に、多くの株主が株
券を手元に保管しているためです。
保振機構は、株券の集中保管と振替サービスを提供しているため、上場企業の発行済株式の約
60%を保管・振替しています。うち 53%が不所持化されています。そのため、発行株式の約 3
分の 1 が、事実上ペーパーレス化していると言えます。
また、
証券取引所および日本証券業界の店頭市場に上場している株式の、
証券会社間の決済が、
保振機構内の振替により、証券の現物を受渡すことなく行われているという事実があります。国
内および海外の機関投資家の場合も同様に、証券会社(ブローカー、ディーラー)とカストディー
銀行が、振替を通じほとんどの場合、現物を受け渡すことなく決済を完了しています。こうした
意味では、日本の証券のペーパーレス化は、事実上広く実現されています。
230
法務大臣の諮問機関である審議会が、ペーパーレス化を促進する制度の導入計画を検討してい
ます。その後、2004 年の国会期間中に法務省は、商法の改正を求める草案を提出する計画です。
上場企業がこの制度を実際に導入するまでには、運営手続きの研究や、コンピュータシステムの
設計が必要となるため、少し時間がかかる見込みです。
最近の議論に基づき、2 つの案が提出される見込みです。ひとつは、全上場企業に対し、法の
施行後 5 年以内のペーパーレス化を義務付けるものです。ただし実際の日程は法令で定められる
だろうとの認識です。ふたつ目は、コスト節減と不必要な混乱の回避のため、発行済みの株券は
回収しないというものです。
この制度導入には、非常に多数の株主がかかわるため、手続きは国民の同意を得た上で慎重に
進めるべきです。さらに、制度の導入に先立ち、券面の預託を推進しなければなりません。保振
機構での株券保管率が飛躍的に増大すると見込まれます。
証券決済制度改革は現在、確固とした枠組みを設定し、コンピュータシステムを開発する段階
にあります。投資家の利益になるという信念を持って、より効率的かつ利便性の高い、低リスク
の証券決済制度を実現することは、大変重要であり必要とされています。保振機構は、この目標
達成のための適切な手段を追求しており、出来るだけ広範に渡る市場参加者と戦略的重要性を共
有し、共に取り組むことを望んでいます。
231