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Ⅵ.米国における消費者教育
1.米国における経済教育の歴史
米国の消費者教育には大きく2つの流れが存在する。
(1)消費者教育の源流
米国の消費者教育の源流は、19 世紀末の家政学(Home Economics Programs)に遡る。1884
年に女性のための最初のクラスが設置されて以来、女性のニーズに対応して家政学プログ
ラムは地方及び州レベルで計画されてきた。初期のプログラムは、日常生活の基本である
料理と裁縫に関する内容が主であり、多くの農村地域で提供された。家庭、コミュニティ
及び社会の変化に応じて、プログラムの内容は、その時々の状況とニーズに適合すべく修
正され、また、戦争の重圧及び物不足、輸送力の増大、人的及び経済的な資源の有用性の
高まりによっても、プログラムの成果を促進する方向で変化を遂げていった。家族の流動
性が高まり、より多くの女性が家族を離れて就業するようになるにつれて、プログラムは、
女性の就業上の役割の変化及び家庭以外での活動の増大に適合すべく修正されていった。
また、技術の発達により、コミュニケーションは拡大し、そのような技術を応用したプロ
グラム実施のための新しいアプローチが開発された。
今日、家政学プログラムは、非常に広汎なものに変化を遂げ、田舎、都市、郊外の家族
に提供されている。プログラムは、食料、衣服、避難所、家族生活に関して必要な情報を
提供し、様々な経済的、個人的、社会的問題を抱えた多様な文化、所得水準、および民族
的背景の人々に手を差し伸べている。より多くの女性が家の外で就業し、男女の役割が変
化し、家事と育児能力はしばしば夫婦によって共有される時代において、現在の家政学の
プログラムの成果はすべての家族の構成員−母親、父親、及び子供に向けられている。
(2)消費者教育前史
上記のように、米国の消費者教育の流れの中で家政学が大きな役割を果たしたが、他方
において、
“賢い消費者”を形成することを目的とするコンシューマリズムの流れが重要な
役割を果たしてきた。
コトラーによれば、米国のコンシューマリズムの画期は、1900 年代初期の第 1 期、1930
年代の中期、そして 1960 年代中期とされる。
第 1 期は、社会派の作家個人や目覚めた主婦らの小規模な組織により展開され、第 2 期
は、商品テストによる情報提供型の消費者組織が形成されていく過程である。第 3 期は、
若い消費者運動家に大きな影響を及ぼしたラルフネーダーが活躍した時期である。このよ
うな消費者運動は、物価高、欠陥商品に対する戦い、広告批判等により大きな成果を挙げ
てきた。
米国消費者教育の嚆矢は、1924 年のコロンビア大学ハラップ(Henry Harap)の『消費者
の教育‐カリキュラム教材における研究‐(The Education of the Consumer:a Study in
Curriculum Material)』とされる。
ハラップは、同書において、その研究の目的を、食料、住居、燃料、衣料の消費に関す
る米国人の経済生活のために必要な教育の内容を確立することであるとし、食品の栄養価
に関するデータ収集、倹約的な買い物の仕方等を提案し、家庭に対する処方箋を提供する
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内容といえる。
学校教育においても、1920 年代に、消費者購買学(Consumer-Buying)、消費者経済学
(Consumer Economics)などの講座が設置されている。1930 年代には、教育学者のトーン
(Herbert A.Tonne)は、学校消費者教育の重要性を説き、教科ではハイスクールの社会科、
家庭科、商業科を中心に行い、指導も講義法ではなく、ディスカッション方式、プロジェ
クト方式など生徒を中心とすべきであると提唱している。
1960 年代になると、学校消費者教育が消費者教育に重要な役割を果たすようになる。こ
の時期の代表的事例としてしばしば引き合いに出されるのが、CU(消費者連盟)が協力し
たリンカーンハイスクールの実践的教育である。同校では、家庭科、商業科、理科、国語、
数学、美術、社会の7教科の教師が消費者教育委員会を発足させ、プログラム開発を行い、
開発に際しては、消費者連盟の助言を受けている。その内容は、これから社会に出て行く
学生に対し、社会人準備教育あるいは結婚準備教育として進められた。同校においては、
1962 年から、上級学年に向けて消費者教育を盛り込んだ選択科目「消費者経済」
(Consumer
Economics)を開講し、1964 年からは、進学者を対象により高度な経済知識を養うための選
択科目「応用経済」
(Applied Economics)を開講した。
このように、1960 年代の米国の学校教育においては、卒業後、社会において必要な知識、
技術として消費者教育が実践的に行われてきたが、さらに、経済社会のよき理解者として
の消費者を養成するという目的が付加され、より理論的なプログラムが導入されていった
と見ることが出来る。
(3)消費者教育の発展形態としての経済教育
上述してきたように、米国の消費者教育は、“賢い消費者”を育てるという流れの中で発
展してきたが、より深化した形態として経済を理解することが市民的資質の育成につなが
るという思想に基づき、経済教育に軸足を置いた展開へと変化を遂げていく。
米国の経済教育は、1940 年代から、民間教育団体、全米経済教育合同協議会
(Joint Council
on Economic Education,1949 年発足:JCEE)によって推進されてきた。その目標は、
“市民
的資質の育成”であり、具体的には経済リテラシーを育成することにある。
JCEE は、経済教育を実践するために、発展的経済教育計画(the Developmental Economic
Education Program)を作成・推進し、それは全米で 1375 以上の学校区、1500 万人以上の
生徒に提供された。内容的には、参加校の経済学のカリキュラム改善の必要に応じた長期
計画の計画援助、教材の検討・採択・開発・配布、経済学及び方法論に関する教育目標と
計画の評価、州経済教育協議会・各経済教育センター活動、出版活動、カリキュラム開発、
広報、調査研究等の多岐にわたるものであった。
ここでの教育目標は、経済的市民の育成であり、経済概念と経済的目標を明確にし、合
理的な意思決定ができる市民の育成であった。この時期に開発されたカリキュラムが、『経
済教育のフレームワーク』であり、1976 年に策定され、その目的・概念・価値が網羅され
ている。1984 年に改定されており、その概要を以下に示す。
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図表 50 経済教育のフレームワークの概要
経済教育の目的
効果的意思決定、責任ある市民への準備
経済理解の原理
5 段階の意思決定モデルと意思決定
基礎的経済概念
希少性、機会費用とトレードオフ、生産性、経済システム、
経済制度と誘因、交換・貨幣・相互依存
ミクロ的経済概念
市場と価格、供給と需要、競争と市場構造、所得分配、市
場の失敗、政府の役割
基本的概念
マクロ的経済概念
国民総生産、総供給、総需要、失業、インフレーションと
デフレーション、金融政策、財政政策
国際経済学の概念
絶対的優位と比較的優位、貿易障壁、外国為替レートと国
際収支、成長と安定の国際情勢
測定概念と測定方法
変化率、指数、実質値と名目値
広汎な社会的目標
経済的自由、経済的効率、経済的公正、経済的安全、完全
経済政策の評価
雇用、価格安定、経済成長
適用上の留意点
目標間のトレードオフ、私益や個人的価値の考慮
資料)saunders,P.et al “Master Curriculum Guide in Economics/A Framework for Teaching
the Basic Concepts.1984)
1990 年代、クリントン政権下においては、
「米国教育法」87により全国共通の教育目標の
規定が制定され、ある教科に関して生徒が習得すべき知識やスキルの全国共通基準が設定
された。国民経済教育協議会(National Council on Economic Education:NCEE)において
も、1997 年に“Voluntary National Content Standards in Economics”を策定し、これは
現在に至るまで改定され、活用されている。その内容は、22 の経済原理を掲げ、その原理
ごとに習得をチェックするベンチマーク、学習例が示され、実践的に活用されるべく工夫
されている。
更に、近年においては、経済教育に加えて金融教育、個人金融教育が中心になってきて
いる。この背景にはクレジットカードの浸透、それによる若年層の困窮状態が大きく影響
している。
87
1993 年 4 月に提出された米国教育法は、米国で 10 年以上にわたって展開されてきた教育改革
運動の成果を明文化したもので、教育改革の枠組みを示している。
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2.米国の消費者教育の理念と目的
米国の消費者教育の発展過程及び国の施策から消費者教育の目的及び定義に関して、概
観することとする。
1920 年頃から始まる消費者教育は、賢明な買い物という消費者の個人的利益を主眼に据
えていたが、戦後の消費者教育は、消費者の社会的使命の自覚、消費者行動の社会への影
響を視野にいれて、
「消費者としての市民」を育てることを重視するようになった。
バニスターとモンスマ(Rosella Bannister/Charles Monsma)は、1982 年に消費者教育
の概念を整理し、「消費者教育のコンセプトの分類」を東ミシガン大学のミシガン消費者教
育センターから公刊している。同書によれば消費者教育は、以下のように定義されている:
個人の価値観、資源の有効活用、代替資源の活用、生態学的な考慮、経済状況の変
化といった観点から、商品・サービスの購入において見識のある決定を行う技能を
開発すること
市場において積極的に参加し、自信を持って実行できるように、法律、権利、様々
な資源の有効活用に関する知識を持つようになるとともに、消費者被害を受けた場
合には、適切な行動をとって救済を受けることができるようにすること
経済的、社会的、政治的なシステムにおける消費者市民の役割を理解し、これらの
システムを消費者ニーズに適応させるかを考慮できること
以上を総合し、「消費者教育とは、個人及び集団が消費者の意思決定を左右する諸要素に
影響を与える目的で、消費者資源を管理し、市民として行動するために必要な知識と技術
を学ぶことである」とされている。
3.国家施策としての消費者教育
(1)1960 年代の消費者教育
1960 年代の多様な主体、レベルによる消費者運動、消費者教育の進展は、国によっても
認知され、1962 年、ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ大統領は「消費者教書」にお
いて、消費者の4つの権利を提唱している。4 つの権利とは、
“意見を聴かされる権利(the
right to be heard)”
、“知らされる権利(the right to know)
”、“安全への権利(the right
to safety)”、“選択する権利(the right to choose)”であり、これを契機として、消費
者は経済システムを動かす機能の一員として重要な役割を担うことが初めて、公然と認め
られるようになった。
1975 年ジェラルド・ルドルフ・フォード大統領 によって、“消費者教育を受ける権利 ”
が追加され、消費者 5 つの権利と呼ばれるようになる。
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図表 51 消費者の4つの権利
意見を聴かされる権利
政府の政策立案において、消費者の利益が十分かつ思いやりをもって考慮
され、行政手続においては、公正で迅速な扱いを受けられるよう保障され
る権利
知らされる権利
偽りや不正を含んだり、はなはだしい誤解を与えたりする情報、広告、表
示などから保護され、かつ選択するために必要な知識を得る権利
安全への権利
健康や生命にとって危険な製品の販売から保護される権利
選択する権利
できる限り多様な製品やサービスを、競争価格で入手できるよう保障され
る権利;競争が働かず、政府の規制が行われている業種においては、満足
できる品質とサービスが公正な価格で保障される権利
(2)1970 年代の消費者教育
リチャード・ミルハウス・ニクソン大統領は、1971 年の「消費者教書」において、消費
者教育の重要性を強調し、
「消費者教育は、消費者保護にとって欠くことのできない重要な
部分である。消費者が、市場において賢明な判断ができるようにすることが重要である。
消費者が、そのような能力を身につけるためには、子供の頃から消費者教育を始め、その
後も継続するような教育課程を作ることを要請したい」と述べ、全米の教育システムにお
いて、以下の4つの機能を促進させることを命じている。
消費者教育を国民教育の重大な関心事として位置づけ、それを促進すること
そのためのプログラム開発に際して、技術援助を与えること
消費者教育推進のための教師の訓練の促進
すべての学校や公共図書館が、消費者情報センターとしての役割を担うこと
次のジェラルド・ルドルフ・フォード大統領は、消費者教育をすべての消費者にとって
の基本的権利の一つとして位置づけ、1975 年の「消費者宣言」において次のように述べて
いる。
「過去 10 年間、購買者の権利はわが国経済において、生活の手段となっている。これら
の権利は、情報、選択、安全の権利、さらに苦情が満足をもって受け取られ、解決される
権利も含む。いまや、第 5 の権利が認知される時代が到来した。それは、消費者が他の4
つの便益を十分に得ることができるようにするための権利であり、
“消費者教育を受ける権
利”である。消費者教育は、これからは通常の学校教育のみならず、学校外での一般市民
のためのコミュニティサービスや教育プログラムの重要な一部となるだろう。このような
方法を通じて、消費者が自らの資源を最大限、最大の満足をもって計画し、活用すること
ができるための必要な支援を受けることができるようになることを確信する」。
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(3)近年の消費者教育に関する主要な施策
ここでは近年の消費者教育に関する主な施策を概観する。なお、米国の学校制度は日本
とは大きく異なり、全国的な学校制度はなく、義務教育の年数などは州、学区、学校によ
って異なる。どの州も子どもの就学を義務付けているが、義務教育の年齢は異なり、16 歳
までを義務教育とする州が多いが、18 歳としている州もある。学校制度も 5・3・4 制、6・
2・4 制、6・6 制等、様々である88。
①金融庁によるエクセレンス・イン・エコノミック・エジュケーション・プログラム
(Excellence in Economic Education Program(March 23,2005))の実施
米国における経済教育プログラムは、経済に関する理解力を高めるために小学校と中学
校向けを対象として、議会によって 2003 年に開始された。生徒の経済に関する能力、理解
力を高めること、及び教師側の理解力を高めることを目的としている。また、経済に関す
るリサーチを実施すること、更に、州、最後に、公的及び民間における経済教育も目的と
している。
また、法律の下で、1つの組織(特に組織に関する条件は存在しない)に対して1つの助
成金を提供することができる仕組みになっている。その目的は、幼稚園から高校までの経
済教育を改善することにあり、受領側にとっては、毎年 1,400 万ドルの助成金を 5 年に渡
って受けることになる。
毎年、1組織に助成するが、1,400 万ドルのうち 75%(1,050 万ドル)は、州内の 100 の団
体に分配される。残りの 25%(350 万ドル)は助成を受けた団体自身の活動資金に当てられ
る。これらの助成金の使途は、教師の訓練、リソース(教材)の作成、リサーチであり、
これらの組織は、州政府と連携してプログラムに取り組まなければならないこととなって
いる。
この場合、プログラムの大きな部分は教師の訓練に置かれるが、生徒を中心としたプロ
グラムも作られなければならないこととされている。配分される 75%は、それぞれの組織
が様々な経験を積んで欲しいということが意図され、1,400 万ドルの活用により、より多く
の教育プログラムが作成されることを期待している。
この補助金は、大体、非営利団体に支給されるが、非営利団体は、州及び地方政府と一
緒に取り組むことが奨励され、また、学校、学校区、教師、生徒を中心とした活動も奨励
している。
なお、補助金を受ける団体は、同じ額をマッチングさせる必要があり、例えば、2 万ドル
を受け取る場合には、同じ 2 万ドルを出さなければならないこととなっている。お金、教
材、時間という形でもよく、いずれにせよ、もらった額と同じ額を自分たちも出さなけれ
ばならない。このようなシステムを採用することにより、受ける側の真剣さが高まること、
お金を有効に使うことが意図されている。
2004 年の 1,400 万ドルの助成対象は、非営利団体の NCEE であり、(後に、Council for
Economic Education(CEE)と名称を変更する)、この組織は、幼稚園から高校生までの学
88
米国大使館ホームページ 教育−教育制度
http://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-education-system.html
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生を対象として経済教育を行っているが、教師の訓練を主体とし、州のカウンセルと大学
をベースとした組織に補助金を支給している。カウンセルは各州に設置されており、一番
の目的を教師の訓練に置いている。従って、最終的には、消費者の経済に関する知識及び
能力を開発し、責任ある市民を形成することを目的としている。
この申請は 5 年ごとに実施され、助成金は5年計画になっている。前回(2005 年)は、6
団体が申請書を提出し、審査に関しては、金融、経済を専門とする大学教授、非営利団体
役員、州政府職員等の 5 人から構成される審査委員会が行うこととなっている。
この申請に関しては、様々な団体が応募し、その応募者の中から以下の評価基準による
補助金の対象者を1機関決定する仕組みとなっている。
即ち、絶対的要件をクリアしつつ、以下の評価基準により、単純に合計額の高い組織に
補助金を賦与することとしている。
◆評価基準
1. プロジェクト企画の質的側面(20 ポイント)
・競争優位性の程度
2.プロジェクトが提供するサービス(30 ポイント)
・トレーニング及び専門的なサービスが、そのサービスを受けるものが、改善に至る
に足る十分な質、強度、持続性を有しているか
・厳格な教育的水準に照らして、学生の質の向上をもたらす蓋然性
・サービス内容の有効性を最大化するための適切なパートナーとの連携
3.マネジメントプランの質的側面(20 ポイント)
・提案されたプロジェクトの達成に関する時間的、予算的側面の妥当性
4.プロジェクトに関わる人材の質的側面(10 ポイント)
・プロジェクトに関わる人材の資格、十分な教育訓練と経験を有していること
5.プロジェクト評価の質的側面(20 ポイント)
・プロジェクト成果を適切に評価する客観的評価手法
◆絶対的要件
1.直接的な活動
プロジェクトは、その基金の 25%を毎年、以下の項目に関してどのように活用するか
を明瞭に示す必要がある:
a)州及び地方の消費者教育組織、起業家組織、経済教育関連組織との連携の強化及び
拡大
b)幼児から 12 歳までの学生に経済を教える教師の訓練の支援と促進
c)消費者教育及び経済学に関する効果的な教育のベストプラクティスの調査及び生徒
の理解力の評価手法の開発に関する支援
d)経済学のリテラシーを促進するための適切な教材の開発と選別
2.他組織への資金の再配分
プロジェクトは、その基金の 75%を以下の組織にどのように配分するかに関して、明
確に示す必要がある:
70
a)州の教育行政庁、地方の教育行政庁
b)州、地方の経済、消費者教育、起業家関連組織
◆根拠法
“Excellence in Economic Education Act of 2001”
条項.5532 目的とゴール
(a)目的
この章の目的は、全国的な非営利の教育団体に競争を通じて補助金を供与することに
より、幼児からグレード 12 までのすべての学生の経済的及び財政的なリテラシーを促
進することにある。
(b)目標
(1)学生が、より生産的で、知識を持った市民となるべく、学生の経済学に関する
知識を増加させること
(2)教師の経済学に関する知識及び能力の増進
(3)経済教育に関する調査の促進
(4)経済学に関する教育効果の評価に関して、州に対する支援
(5)国、州及び地方レベルにおける経済教育に関するパートナーシップに対する公
的・私的支援のてこ入れ及び拡張
以下に申請書のフォームを示す。
71
図表 52
教育プログラム(Excellence in Economic Education Program)申請書
②財務省による消費者教育に関する施策
ⅰ)金融リテラシー・教育委員会(Financial Literacy and Education Commission)の
設置
前述したように、一般に、米国に金融教育が始まったのは、約 30 ないし 40 年前に遡り、
このとき以来、高等学校のカリキュラムに消費者教育が提供されるようになった。10 年ほ
ど前から金融リテラシーという言葉が独り歩きするようになり、銀行、学校、NPO、行政
に関しては連邦政府から地方自治体にいたるまで、いろいろな関係者が関与してくるよう
になった。現在では、金融教育のカリキュラムが広く普及しているが、50 州のうち、高校
72
卒業に必須な科目としているのは、おそらく5ないし 6 州程度と見られる。
現在、様々なレベルの行政主体が小冊子の発行、Web サイトへの掲載等様々な媒体を通じ
て、金融教育を提供するようになった。しかし、非常にいろいろな主体が金融教育を提供
しているために、このような動きを調整しようという動きが出つつある。
そのような動きは大きく2つあり、1 つは、ジャンプスタート(Jump Start)、もう1つ
は国民経済協議会(NCEE)という NPO であり、民間部門の NPO がそのような努力をしてい
る。
2つとも NPO であり、ジャンプスタート(Jump Start)は金融教育の調査のアンブレラ
的存在であり、各州に支部を設置している。
連邦政府の様々な省庁が、組織内に何らかの金融教育室的部門を設置しているが、主と
して財務省内の金融教育室(Office of Financial Education)が、メインの役割を果たし
ている。この組織は、2003 年の FACT 法(Fair and Accurate Credit Transactions Act)89
の一環として設立された。FACT 法 5 条は、金融教育および金融リテラシーの委員会を設置
する条文であり、その一環として、財務省内の金融教育室が設置されることとなった90。
財務省金融教育室は、すべての米国人が金融リテラシーを取得し、連邦政府の 20 の省庁
の様々な活動を束ねることを目的として設立された。
FACT 法において、財務省に金融教育委員会が設置され、さらに3つの小委員会が設置さ
れ、それぞれの委員会の検討結果に基づき、連邦政府には、議会から4つの任務が与えら
れた。戦略小委員会は、今夏に、再び会議を開催し、この報告書のアップデートを検討す
ることとなっている。
その第1番目の任務は、連邦政府の様々な情報を集約するための HP の作成であり、その
HP は、http://www.mymoney.gov/である。
第 2 番目に議会から要請された任務は、インターネット HP の公設のみならず、フリーダ
イヤルの設置である。これは、インターネットに接続できない人のためのフリーダイヤル
であり、そこにアクセスすれば、資金運用の手法等連邦政府のまとめたツールキットを取
得することができる。
議会によって要請された第 3 番目の任務は、金融リテラシーの促進に向けた国家戦略の
制定であり、2006 年の報告書の発刊がその成果物の 1 つである。その報告書を受けて、2006
年から、2008 年までに実施すべき事項はすべて実施されている。
第 4 番目に、議会から命令として要請されたことが、公共広告機構のキャンペーンを作
ることであり、60 秒以内にクレジットに関するメッセージを伝えることであり、ターゲッ
トを絞り、クレジットスコアの重要性に着目し、このような支援を行うこととした。
テレビだけでなく、マルチメディア、特にインターネットに掲載し、インターネット上
89
90
FACT 法の制定は、2003 年ではなく、2003 年は改正であり、最初の制定は 1970 年代。改正に
は、いろいろな事項が含まれており、Title5 が委員会の設立に関する部分となっている。FACT
法自体は、非常に広範な内容を含んであり、たとえば、小売店に行って VISA カードを使った
ら、領収書に最後の4桁しか示されていないが、その根拠は FACT 法にあり、それほど広範な
内容を含んだ法律である。
財務省の金融教育室は、設立されたのは6年前であり、組織的には、政権が変わる以前には、
7 人いたが、現在、4人から構成されている。
73
には、http://www.controlyourcredit.gov/といった HP を作り、このメッセージを流して
いる。
FACT 法はこの4つの項目を、連邦政府に対して命令しているが、金融教育委員会が同法
によって設置され、4 ヶ月ごとに会議を開催している。同法に基づいて公設された
http://www.mymoney.gov/は広く普及し、数百万の消費者がそこにアクセスし、クレジット
の情報を収集している。特にクレジットの信用に関して、消費者に対して、クレジットの
情報を一元化したことにより、高い評価を得ている。以前は、どこにアクセスすればよい
かわからなかった状況から大きく進歩し、消費者にとって便利なツールとなっている。
ⅱ)“Taking Ownership of the Future”の策定
上記の金融リテラシー・教育委員会は、“国家戦略ワーキング・グループ”(National
Strategy Working Group)を設置し、すでに連邦政府機関が実施している金融リテラシー
向上への取組や、複数の機関から重複して提供されている活動を把握し、その重複する部
分を解消すべく提言を行う機能を担っている。
2006 年に同委員会は、国家戦略として“Taking Ownership of the Future”を取りまと
めている。同報告書は、金融教育(financial education)の重要性に関して、以下のよう
に述べている。
今日の複雑度を増す財政サービス市場においては、膨大な商品、サービスが消費者に提
供され、消費者に非常に多くの選択肢を提供することととなるため、消費者は自己の選択
を評価し、自分のニーズに最も適合した選択を行うための情報、知識、スキルを要求され
ている。このような状況において、消費者教育は人々が財政的破滅に至る商取引、詐欺に
よる被害を回避し、消費者の権利を行使することに役立つことをその本質としている。ま
た、経済リテラシーは、消費者が賢明な買い手になり、低価格で商品及び財を購入するこ
とができる能力を賦与し、それにより個人の家計を最適化し、より多くの消費、貯蓄、投
資機会を生み出す。更に、包括的な教育により、家計、貯蓄プラン、負債の管理、また、
退職後あるいは子供の教育に関する戦略的決定を策定する能力を身につけることが出来る
ようになる。このように消費者教育が消費者にとって重要であるという認識に立脚し、①
問題点の認識、②解決案の提示、③政府と民間組織、個人までも含めた対話の促進、を目
的として掲げ、金融リテラシーに関して米国が直面している問題を 13 のトピックスに分類
し、それぞれが抱える問題点を分析するとともに、具体的な活動として 26 の行動を提示し
ている。
74
図表 53
The National Strategy for Financial Literacy“Taking Ownership of the Future”
(2006 年)の概要
トピックス
第1章
第2章
第3章
第4章
貯蓄全般
(General Saving)
住宅の所有
(homeownership)
退職後に向けた貯蓄
(Retirement Savings)
クレジット
(Credit)
第5章
消費者の保護
(Consumer Protection)
第6章
納税者の権利
(Taxpayer Rights)
第7章
投資家の保護
(Investor Protection)
銀行口座非保有者
(The Unbanked)
言語と文化の多様性
(multicultural)
学校での教育
(K-Postsecondary
Education)
第8章
第9章
第 10 章
第 11 章
第 12 章
第 13 章
アカデミックな調査とプ
ログラムの評価
(Academic Research and
Program Evaluation)
強調への取組
(Coordination)
国際的な展望
(International
Perspective)
行
動
財務省と NPO が共同で、MyMoney ウェブ上での貯
蓄関連情報の充実を図る。
2006 年から 2007 年にかけ、住宅・都市開発省が
財務省と共同で住宅所有に関する会議を開催。
労働省と財務省が共同で、職場での金融教育や年
金などに関する会議を開催
財務省が消費者信用に関するリテラシー向上を目
的として、各種メディアを活用したキャンペーン
の実施
財務省や NPO 等が中心となり、MyMoney 等を活用
した消費者保護に関する情報の発信を充実させ
る。
連邦準備銀行や厚生省などが中心となり、税に関
するキャンペーンや教育プログラムの提供を行
う。
労働省と財務省が共同で会議を開催
連邦預金保険公社や通貨監督局などが中心とな
り、4つの地域で会議を開催
財務省が中心となり、特定地域向けの金融教育に
関する会議を開催
財務省と教育省によりサミットを開催し、生徒向
けの既存カリキュラムに金融経済教育を組み込
む。教師を対象とする教育プログラムや支援方法
の検討
シンポジウムの開催と白書の作成
財務省と共通役務庁による定期的会合の開催
金融経済教育に関する国際サミットの開催
資料)The National Strategy for Financial Literacy“Taking Ownership of the Future”
(2006 年)
75
4.消費者教育の現状
消費者教育の現状を、“2008 Annual Report to the President”により概観する。同レ
ポートは、2008 年 1 月 22 日、ジョージ・ウォーカー・ブッシュ大統領によって任命された
官 民 16 人 の メ ン バ ー か ら 構 成 さ れ る 金 融 リ テ ラ シ ー に 関 す る 大 統 領 諮 問 委 員 会
(President’s Advisory Council on Financial Literacy)により作成された。
①同レポートによる“金融リテラシー(Financial Literacy)
”の定義
諮問委員会は、国民の金融リテラシー(Financial Literacy)を効果的に測定するため
には、その用語の意味を正確に定義する必要があるが、現時点では一致した定義が存在せ
ず、むしろ、様々な文献等で多様に用いられているため、混乱を招いているとして、統一
的な定義の必要性を強調している。
◆委員会勧告
・私的セクター、国、地方政府及び非営利組織は、“金融リテラシー(financial
literacy)
”及び“金融教育(financial education)”に関する委員会の定義を採用
すべきであり、そうすることにより、実践的な決定は共通の理解に基づいて決定さ
れることとなる。委員会は、
“financial literacy”を次のように定義している:
「生
涯の財政的満足のために、財政的な資源を効果的に管理する知識とスキル」
、そして
“金融教育(financial education)”を「人々が、金融商品、金融サービス及び概
念の理解を改善し、その結果、きちんとした情報に基づく選択を行い、間違いを回
避し、現在及び将来の財政的な満足を改善するためにどこに行き、どのような行動
を取るべきか判断できるようになるプロセス」と定義している。
委員会は、このような定義に基づき、包括的な金融リテラシー(financial literacy)
プログラムを修了した個人が持つべきスキルと概念として、以下の点を挙げている。
・ 資本マーケット市場及び財政的制度
・ 現在の家計のキャッシュフローの状況、及びその改善の方法
・ 資源と優先順位に合致した消費計画の改善の方法
・ 緊急的なファンドを持つ理由とその組成方法
・ 信用の評価、選択、及び管理を含んだ信用供与に関する基礎的事項
・ 賃貸から家を購入する時期の決定プロセス
・ 様々な財政的リスクの評価プロセス
等々
76
②若者の金融リテラシー(Financial Literacy)
米国の学校における消費者教育プログラムは、現時点において非常に不十分であり
これは多くの調査データが示すところである。
*10 代の若者の財政的知識に関する調査
ジャンプスタート(JumpStart)の 2008 年の“Survey of Financial Literacy”に
よれば、高校生の平均的正解率は 48.3%であった。ジャンプスタート(JumpStart)は、
この調査を 10 年間、継続的に実施しており、最も高い 57%の年から年々、低下傾向に
あると報告している。
また、チャールズ・シャワーブ(Charles Schwab)の 2007 年の“Teens &Money Survey”
は、10 代の若者は、将来の成功に関して非常に楽観的であり、経済的に十分な知識を
保有しているとの認識であると報告している。しかし、現実には小切手の書き方を知
っている若者は 51%であり、クレジットカードの手数料を知っているのはほんの 26%
である。
*大学生の金融リテラシーの欠如
各種の調査によれば、大学生の金融リテラシーの欠如も明らかであり、JumpStart の
調査によれば、10 代の若者の結果より良好な結果を示しているものの、正解率は平均
で 62%であった。大学生の財政的なリテラシーの不足は、クレジットカードの負債の
増加にも現れており、2004 年の調査によれば、大学生の 23%が入学前にクレジットカ
ードを取得しており、毎月、きちんと返済している学生はほんの 21%に過ぎないとい
う結果が得られている。
このような状況を踏まえて、委員会は、以下の勧告を行っている。
【委員会勧告】
・
合衆国議会及び立法府は、全ての学校に対して学生のための財政的教育を義務づけ
るべきである。
③企業における金融リテラシーの重要性
学校において消費者教育が十分に行われない結果、企業人の財政的事項に関する知識ギ
ャップは非常に大きくなり、多くの企業人が退職後の貯蓄計画等の将来計画を持っていな
いため、深刻な個人の財政的問題に陥る。その結果、個人のストレス、イライラが募り、
個人の生産性、生活の質の低下をもたらしている。個人によるストレスに起因する生産性
の 低 下 は 、 年 間 3,000 億 ド ル と 推 計 さ れ て い る ( American Institute of
Stress.http:/www.stress.org/topic-workplace.htm)。
2005 年の調査によれば、3,000 万人の労働者−労働者の4人に1人−が、深刻な経済的
困窮に陥っており、その半数の労働者が経済的問題により、健康に深刻な影響を受けてい
る と さ れ る ( Garman,E.Thomas, “Financial Distress Among American Workers ” March
23,2005,p.3)
77
【委員会勧告】
・ 合衆国議会は、雇用者が職場での財政教育を提供することを促進するような、税制上
のインセンティブを調査すべきである。
④学校教育における消費者教育
米国においては、教育制度は各州の裁量に委ねられている
ため、学校制度、教材も州及び学校により様々である。ここ
では、文献及び実際の学校視察から米国における消費者教育
の実態を概説する。
現在、米国の高校において一般的に用いられている消費者
教 育の テキ スト が、 右に 示す 『消 費者 のた めの 経済 教育
(Economic Education for Consumers:Roger
Leroy Miller)』であり、2000 年に全米の高校の教員が共同で
執筆したものであるが、現在、第 9 版まで刊行されている。
内容的には、市場経済社会において生きていくための経済
教育と消費者教育が密接に関連付けられているのが特徴的で
あり、理論的というよりは実践的な側面に重点が置かれている。
全章の構成を以下に示す。
図表 54 『消費者のための経済教育(Economic Education for Consumers:Roger
Leroy Miller)
』の目次構成
章・タイトル
第 1 章
は?
第2章
第3章
第4章
経済活動を動かすエンジンと
目次
1.決定することが第 1
2.意思決定
3.経済システムの理解
4.経済における消費者の役割
5.広告・宣伝と消費者の決定
6.責任ある消費者になるには
技術関連製品を購入する
1.技術と消費者選択
2.サイバー空間へ入ること
3.パソコンを選ぶ
4.ネット上の店舗
5.インターネット利用に際しての注意と事故防衛
消費者保護‐権利、責任、解決
1.消費者の権利と責任
2.政府と消費者保護
3.詐欺と欺瞞
4.消費者問題の解決
仕事を選択する‐職を得るには
1.自分自身を知る
2.キャリアを調べる
3. 職に応募する
4.上手なインタビューを行う
5.将来への準備をする
78
章・タイトル
第 5 章 税金‐どのくらいの収入を確保
すべきか
第 6 章
使い方
予算をたてる‐あなたのお金の
第 7 章 銀行サービス‐あなたのお金を
どこに預けるべきか
第 8 章 お金を貯める‐金融サービスの
安全保障のための計画の策定
第9章
第 10 章
第 11 章
第 12 章
第 13 章
第 14 章
を担う
投資する‐将来への準備
目次
1.税金と払い戻し
2.意思決定すること
3.経済システムを理解すること
4.経済における消費者の役割
5.広告・宣伝と消費者の決定
6.責任ある消費者であるためには
1.金融の目的を選択する
2.自分の収入と支出を追跡する
3.あなたの予算表を作成する
4.1 年間の予算をたてる
1.銀行の役割
2.当座預金口座の利用法
3.エレクトロニクスバンキング
4.小切手のバランス
5.その他の銀行サービス
1.なぜ貯蓄するのか
2.貯蓄機関と預金口座
3.安全に貯蓄する
4.単利と複利の違い
1.投資の基礎
2.個別企業に投資する方法
3.投資信託に投資する方法
4.投資の調査
5.引退や他の目的での投資
信用とは‐自分に責任がある
1.信用(クレジット)とは?
2.信用を得る方法
3.消費者信用機関の種類
4.クレジット利用の権利と責任
5.良好なクレジット評価を維持する方法
必需品の支出の予算化
1.栄養学の基本
2.健康ダイエット
3.洋服を選択する際の評価
4.レクリエーションと旅行
交通‐目的地への交通の利用法
1.交通の基礎
2.車を選択数方法
3.車の購入とリース
4.車購入の手順
5.車を手入れする方法
住生活
1.住生活の選択
2.アパートを借りる
3.家を購入する
4.家の家具を購入する方法
自動車保険と住宅保険‐リスク
1.保険の基礎
2.自動車保険
3.住宅保険の適用範囲
4.車と住宅の供給者へのクレーム処理
79
章・タイトル
第 15 章
全保障
健康保険と生命保険‐個人の安
第 16 章
サービスを選択する
第 17 章
グローバルな経済‐その意味
目次
1.健康保険の基礎
2.健康保険のプランを立てる
3.健康保険の選択
4.ヘルスケアに対する権利と責任
5.生命保険
1.ヘルスケア
2.法的サービス
3.政府による援助
1.国際貿易の役割
2.米国経済と世界経済
3.政府と経済
4.グローバルな経済
◆ Lincoln High School における消費者教育の実態
同校においては、日本の消費者教育に該当する授業として、“消費者教育(Personal
Finance)”の講座が設けられている。同講座は選択科目であり、1 学期 25 名程度の生徒が
受講している(全生徒数は 900 人)
。
以下に概要を示す。
① 講座の目的:予算、信用、税金、投資、保険及び退職を含め家族の財政計画を中心
とした家族財政の理解と管理
② テキスト:
“Business and Personal Finance”Giencoe/McGraw.2002
“NEFE High School Finance Planning Program”2001
“Making The Right Money Moves”Cemark.Inc.2007
③ コースの概要
毎週のテーマを教師が設定し、その時々にそれに相応しいテキストを教師が選択する
方式で、1つの教科書を 1 年使うわけではなく、教師の創意工夫が活かされる仕組み
になっている。
図表 55 リンカーン高校「消費者教育(Personal Finance)
」における学習テーマと内容
テーマ
財政計画(financial planning)に関する
主たる内容
機会費用とお金の時間的価値
ライフサイクル的アプローチ
財政計画における現金予算の意義
予算と小切手
現金管理戦略
小切手、貯蓄の意義
株式投資戦略の評価
投資のタイプ、消費行動、株式売買の方法
個人所得税
州税の理解
クレジットカードとその歴史
クレジットカードのメリット、デメリット
自動車購入の決定プロセス
自動車のブランド及びモデルに関する様々な
情報の収集方法
80
テーマ
住宅の選択
主たる内容
購入と賃貸の比較、賃貸契約、住宅の保険、
抵当権
健康と生命保険
様々なタイプの健康保険と生命保険の理解
退職のための投資
退職後のための適切な投資の必要性
追加的事項:フィランソロピーと国際通貨
テキスト“You’re On Your Own Checking Account Exercise”
これは、講座の副読本として活用され、教師が“Making The Right Money Moves”を
より分りやすく作り直したものである。
毎月の家計の収入・支出、小切手のバランス等を演習方式で学ぶ方式を採用している。
Junior Achievement“Economics‐Student Study Guide”
1章
経済学とは?
2章
米国における自由企業
3章
需要
4章
供給
5章
市場価格
6章
消費者、節約家、及び投資家
7章
自由企業のビジネス
8章
ビジネスにおける資金調達
9章
生産と生産性
10章 米国の労働力
11章 企業間競争
12章 政府と米国経済
13章 お金と金融制度
14章 経済の安定性
15章 国際貿易
16章 グローバル世界
このテキストは、記述式になっており、生徒が学習したことを記載していく形式となってい
る。
81
図表 56
Lincoln High School における授業風景1
図表 57
Lincoln High School における授業風景2
資料)価値総合研究所撮影
82
図表 58 単位取得のための解答用紙例
第1章
氏名:
経済学とは?
月
日
用語の理解
自分の言葉で、以下の用語を定義しなさい。
1.経済学
:
2.生産要素:
3.起業精神:
4.希少性
:
4.機会コスト:
5.インセンティブ:
6.限界性:
以下のスペースに、“市場経済”、“市場”、“貿易”という用語を含んだ文章を記述
しなさい。
◆East High School における消費者教育の実態
同校における消費者教育は、選択性であり、以下のようなカリキュラムで授業が行わ
れている。出席する学生は、各章ごとに1項目を選択し、図表を用いて自分の理解した
ことをレポートで提出し、その結果次頁に示すような評価基準で評価され、単位を取得
することができる。
83
図表 59
第1章
East High School における消費者教育カリキュラム
経済とは?
第2章
経済システム
第3章
米国の自由企業
1.生産の希少性と要素
1.経済的疑問
1.経済的自由
2.機会コスト
2.自由市場
2.セーフティネット
3.生産可能性曲線
3.計画経済
3.公共財の供給
4.近代経済学
4.成長と安定の促進
第4章
需要
第5章
供給
第6章
価格
1.需要の理解
1.供給の理解
1.供給と需要の結合
2.需要曲線
2.生産の費用
2.市場均衡の変化
3.需要弾力性
3.供給の変化
3.価格の役割
第7章
市場構造
第8章
ビジネス組織
第9章
労働
1.完全競争
1.個人事業主
1.労働力
2.独占
2.パートナーシップ
2.労働と賃金
3.独占的競争と寡占
3.民間企業、合併、多国
3.労働市場のトレンド
4.規制と緩和
籍企業
4.他の組織
第 10 章
お金と銀行
第 11 章
財政市場
第 12 章
総生産と成長
1.お金
1.貯蓄と利子
1.総生産
2.米国の銀行の歴史
2.債権と他の金融資産
2.ビジネスサイクル
3.今日の金融業
3.ストックマーケット
3.経済成長
第 13 章
経済的挑戦
第 14 章
税金と政府支出
第 15 章
財政政策
1.失業
1.税金とは
1.財政政策の理解
2.インフレーション
2.連邦税
2.財政政策の選択
3.貧困
3.連邦支出
3.財政赤字と国際
4.州及び地方税と支出
第 16 章
連邦準備金と金融政
策
第 17 章
国際貿易
第 18 章
経済発展と転移
1.国際貿易とは
1.発展のレベル
1.連邦準備金制度
2.貿易障壁と協定
2.発展段階の問題
2.連邦準備金の機能
3.貿易の評価
3.発展への投資
3.金融政策の道具
4.自由体制への転移
4.金融政策とマクロ経済
的安定性
84
<評価基準‐以下に示す0から 4 までの段階により評価>
0
1
2
3
4
文献情報の特定が全くできて
文献情報をいくつか引用して
重要な文献情報をすべて網羅
いない
いるが、重要な部分が抜けて
している。
いる
要約が短すぎ、理解が不十分
要約は重要な概念を部分的に
要約は完全かつ包括的であ
は伝えてはいるが、ある部分
り、読み手に十分な情報を提
が抜け落ちているため、より
供している。
多く知りたいという読み手に
十分な内容を伝えられない。
選択したテーマを説明するた
選択した記事を説明するため
記事の内容に関する洞察力を
めのグラフがない、あるいは
に適切なグラフを用いている
示すのに適したグラフを使用
不十分
が、表示ミスが見られる。
している。
図表 60
East High School における授業風景
資料)価値総合研究所撮影
85
図表 61
East High School において使用されている教科書
資料)同校のテキスト“You’re On Your Own Checking Account Exercise:Student’s
Exercise”より
86
◆アイオワ州コアカリキュラム(Iowa Core Curriculum)(K-12 Literacy)91
アイオワ州教育省では、学校において教えるべき基本的スキル(Literacy)として、
“Iowa Core Curriculum”を策定し、各学校のカリキュラム及び教材の作成に際して、
参考とすべきとしている。
以下にその目的等を引用する。
「リテラシーとは、読む、書く、話す、聞く、考える能
力と定義することができ、それを身につけることにより、生徒が自分が知るべきことを
学び、また、明瞭に他の人々に伝えることができるようになる。Iowa Core Curriculum
の中に記述されている本質的な概念とスキルは、幼稚園から 2 年、3-5 年、6-8 年、及
び高等学校の各レベルにおいて何を学ぶべきかを示している。
アイオワ州コアカリキュラムの目的は、効果的なリテラシーのカリキュラムの開発プ
ロセスにおいて学校区を指導することである。その開発に際しては、2つの本質的な概
念が根底に存在する。1つは、反復性の原則であり、同じことを各レベルに応じて、よ
り高度に理解していくことと、2 つ目は統合の原則であり、読む、書く等のリテラシーを
構成する要素は個別に教授されるのではなく、相互に統合的に教育され、効果的な成果
を生み出すように工夫されている。
」
5.消費者教育に関する組織
米国においては、消費者教育は連邦政府、州政府、地方行政機関及び民間団体によって
実施されている。連邦政府においては、先に見たように、財務省及び教育省を始め、多く
の行政庁が消費者教育を行っているが、その中心は連邦取引委員会(The Federal Trade
Commission:FTC)である。
また、多くの民間の消費者組織が消費者教育に関して重要な機能を担っており、政府の
行政機関以上に多くの資料ないし消費者との直接的な関係を有している。
① 連邦取引委員会
行政機関として、消費者教育に関して主要な役割を担っている連邦取引委員会の目的は
主として、以下の2点である。
企業にコンプライアンスの義務に関する情報の提供
消費者に、市場における詐欺的あるいは不正な取引を認識し、回避し、報告する能
力を身につけること
連邦取引委員会は、民間のステークホルダーと連携し、相互に情報を交換しつつ、消費
者教育の実効性を高めており、行政と民間との役割分担が消費者教育において機能的に実
施されていると考えられる。両者は、共同して教育的資料の開発などにも取組んでいる。
連邦取引委員会の場合、消費者教育は具体的に以下の側面を有している:
消費者教育関連の資料の作成及び普及
新しく制定された法律等のニュースリリース
消費者が不正な取引の被害者とならないための情報の提供
91
米国の教育制度に関する学年の呼称。K は幼稚園児、その後、小学校が1∼6、中学校が7∼
9、高校が 10∼12 となっている。
87
法律の実効性を高めるための消費者教育キャンペーンの実施
詐欺的行為の拡大及び新たな手口が発生した場合における資料及び対応方法の更新
上記のような事項を実践するために、連邦取引委員会は以下のような事業を実施してい
る。
OnGuardOnline(www.onguardonline.gov)
インターネット詐欺を防止し、消費者のコンピュータ及び個人情報の保護のために、
必要な情報を提供するウェブサイト。このサイトは、テクノロジー業界と連携し、政
府によって運営されている。2005 年 9 月に開設して以来、述べ 500 万人以上、月平均
30 万人の消費者がアクセスしている。また、このウェブサイトはメディア、非営利団
体等とのネットワークによっても宣伝されている。
About ID Theft(www.fic/bcp/edu/microsites/idtheft/)
2006 年 5 月に政府が導入した個人情報窃盗に関する教育キャンペーンであり、このウ
ェブサイトがこのキャンペーンの主要なツールであり、個人情報窃盗犯罪に関して学
ぶワンストップの情報源として機能している。このサイトは、消費者が個人情報窃盗
を抑止し、防御するための詳細な情報を提供し、消費者はそれにより個人情報窃盗の
回避の方法、窃盗された場合の対処の方法を学ぶことができる。連邦取引委員会は、
これまでに 350 万セットのパンフレット、個人情報窃盗も関する消費者保護のキット
を 7 万セット以上配布している。
また、連邦取引委員会は、ターゲット別にキャンペーンを展開している。
88
Getting Credit(子供及び若者向けキャンペーン)
このキャンペーンは、若い消費者向けに金融リテラシーを開発することを目的として
展開されている。このキャンペーンは、10 代及びヤングアダルトが、クレジットカー
ドを取得し、維持し、個人情報窃盗を回避するために必要な知識を身に付けるために
小冊子の発行及びウェブサイトを運営している。右に示したリーフレットは多くの学
校、大学に配布されている。
また、連邦取引委員会は、10 代及びその両親に奨学金及び財政的支援に関する詐欺
に注意を喚起する資料を作成している。
高齢者向け活動
連邦取引委員会は、高齢者を対象とした健康関連及びその他の詐欺的商法に関する多
くの報告書、教育キャンペーン、強制手段を実施してきた。その際、連邦取引委員会は、
高齢者向けの教育的メッセージをより有効に伝えていくために米国高齢者協会(the
American Association of Retired Person)と連携して行動している。
②国民経済教育協議会(National Council on Economics Education:NCEE)
連邦レベルの組織として結成された NPO で、連邦レベルの企業からの資金により運営さ
れている。前述したように、Excellence in Economic Education Act により政府から補助
金を受領し、消費者教育の推進に大きな役割を担っている。活動内容としては、①教材の
作成とウェブ上での公開、②教員の研修プログラムの作成が中心である。また、NCEE は、
1998 年から経済教育と金融教育の実施状況を隔年で実施し、その結果を公表している。
また、NCEE は、全米の学校が経済学の単位のスタンダードを作るための参考として
“National Content Standards in Economics”を策定し、多くの学校において活用されて
いる。同書の目的は、米国の学校における経済教育の質を高めることにある。経済学は、
1994 年の教育法により、主要な 9 教科の1つに指定されたことから、その重要性に対する
認識が高まり、そのような背景の下にこの Standard も経済的なリテラシーを高めるべくデ
ザインされている。
同書は、20 の項目が設定され、それぞれの項目ごとに、各グレードにおいて学ぶべきベ
ンチマークが示されている。
Content Standard 1の記述内容を示す。
89
図表 62
National Content Standards in Economics
理解すべき事項:生産資源は限られていることから、人々は、自分
Content Standard 1
が望む全ての財及びサービスを所有することはできない。その結
果、選択すべきものと、断念するものを識別しなければならない。
<ベンチマーク>
小学校4年終了時まで
に、学ぶべきこと
<ベンチマーク>
小学校 4 年終了時まで
に、学生は以上の知識を
活用して右のことができ
るようにならなければな
らない。
<ベンチマーク>
中学校2年終了時までに
学ぶべきこと
<ベンチマーク>
中学校2年終了時まで
に、学生は以上の知識を
活用して右に示したこと
ができるようにならなけ
ればならない。
<ベンチマーク>
高校 3 年終了時までに学
ぶべきこと
1. 欲しいものをすべて所有することは出来ないから、選択しなけ
ればならない。
2. 経済的欲求は、財、サービスあるいは余暇活動を行うことによ
って充足される。
3. 財は、欲求を満足することができる対象であり、同様に、サー
ビスは欲求を満足することができる行動である。
4. 選択を行うとき、同時にあるものとあきらめなければならな
い。
5. 選択の機会費用は、放棄された最善の選択肢の価値に他ならな
い。
6. 財及びサービスを利用することにより、その欲求を満足する人
を消費者と呼ぶ。
7. 生産資源とは、財及びサービスを生産するための自然資源、人
的資源及び資本財である。
8. 土地は、“自然の賜物”と呼ばれ、人間の介在なく存在する。
etc
1. 複数の財・サービスから選択を行い、その選択の理由が説明で
きること
2. 4つのおもちゃの中から1つを選択し、何をあきらめたか説明
できること
3. 選択を必要とする状況を説明し、決定を行い、機会費用を明ら
かにすること
4. 自然資源を図示するため、資源マップを用いること etc
1. 人々が、欲する財及びサービスのすべてを手に入れることが出
来ない状況を希少性の状況と呼び、それは人間の財及びサービ
スに対する欲求が、全ての利用可能な資源を用いて生産するこ
とのできる財及びサービスの量を超えることにより生じる。
2. 個人と同様に、政府及び社会も希少性の状況を経験する。
3. 人々が行う選択は、現在及び将来に対する影響を有する。
4. 選択と機会費用に関する評価は主観的なものであり、そのよう
な評価は個人及び社会により異なる。 etc
1.10 万ドルの予算を配分された市議会のロールプレーを行うこと。
市議会は、25,000 ドルの 4 台のパトカーの購入、それぞれ 5 万
ドルの費用の2ヶ所の市民センターの修繕、5 万ドルのテニスコ
ート2箇所の建設を予定していた。1つの選択が行われなけれ
ばならない理由、市議会が予算をどのように用いたか及び行わ
れたトレードオフの説明、その決定の機会費用の特定を行うこ
と etc
1.個人、企業、公務員によって行われた選択は、しばしばその決
定の初期の効果を部分的に、あるいは完全に相殺しうる長期的
に予期せぬ結果をもたらすこと etc
90
Content Standard 2
有効な決定は、選択の追加的費用と追加的な便益の比較を必要とす
る。
Content Standard 3
Content Standard 4
Content Standard 5
Content Standard 6
Content Standard 7
Content Standard 8
Content Standard 9
Content Standard 10
財及びサービスを分配するための方法は様々であり、個人は様々な
財及びサービスを配分するための方法を選択しなければならない。
人は、積極的及び消極的な提案に対して予想通りに対応する。
自発的な交換は、すべての当事者が得をすると期待した場合にのみ
行われる。
個人、地域及び国家が最も低価格で生産可能なものに特化し、他者
と取引する場合に、生産と消費の両者が増加する。
売り手と買い手が存在する場合に、市場が成立する。
価格は、売り手と買い手にシグナルを送り、インセンティブを創出
する。
売り手間の競争は、コストと価格を引き下げ、生産者に消費者が望
んでいるものをより多く生産するように働きかける。
個人及び集団がその目標を達成すべく、命令は市場経済において進
化していく。
資料)NCEE“National Content Standards in Economics”
また、同機関は米国の各高等学校において、経済教育及び消費者教育がどのような扱わ
れているかを調査しており、その結果を下に示す。
図表 63 経済教育の実施状況
1998年
2000年
2002年
2004年
2007年
教育基準の中に経済学を
38州
含んでいる州
48州、コロン 48州、コロン 48州、コロン 48州、コロン
ビア区
ビア区
ビア区
ビア区
経済学の履修を義務付け
28州
ている州
36州
33州
38州
48州、コロン
ビア区
経済学の概念の理解を卒
業基準に義務付けている 25州
州
22州
27州
25州
23州
91
図表 64 消費者教育の実施状況
1998年
2000年
2002年
2004年
2007年
教育基準の中に消費者教
21州
育を含んでいる州
40州
31州
34州
40州
消費者教育の履修を義務
14州
付けている州
16州
17州
20州
28州
消費者教育の概念の理解
を卒業基準に義務付けて 1州
いる州
6州
8州
8州
9州
資料)NCEE“Economic,Personal Finance & Entrepreneurship Education in our Nation’s schools
in 2007”
③ジャンプスタート
ジャンプスタートは、子供の初期教育の質の向上と大学生のコミュニティサービスへの
積極的参加を目的として、1993 年にエール大学で創設された非営利組織である。連邦レベ
ルの組織で、各州にも連盟があり、ネットワークを形成している。1997 年より米国の高校
生を対象に金融リテラシーの調査を隔年で実施しており、米国における金融リテラシーの
ベンチマーク調査になっている。主要な活動としては、教材のクリアリングハウスとして、
全米 160 の組織が提供する有償・無償の教材をウェブ上で公開し、配布または販売してい
る。
1997 年から隔年で実施している調査は、2つのパートから構成されており、1つは 33 州の
215 校の K12(高校3年生)
の学生 4,074 人に対する金融リテラシーを測定する試験の実施、
もう1つは参加校当局に対して誰がどのように、誰に対して金融教育を実施しているかを
尋ねた調査である。
図表 65 ジャンプスタートによる金融リテラシーに関する調査結果
<金融教育リテラシー試験の正答率の推移>
1997年
57.3%
2000年
51.9%
2001年
50.2%
2004 年
52.3%
・金融教育の半年コースを履修している生徒のほうがそうでない生徒よりも成績がよ
かった。
・裕福な層(白人の家庭、年収 8 万ドル以上の家庭など)は平均点よりも成績がよか
った。
・大学進学希望者は平均点よりも成績が良かった。
・57.7%の高校で個人金融教育の半年のコースを提供しているが、それを全生徒に必
須として履修させている高校は 10.7%に過ぎず、これから推定すると全生徒の6%
しか個人金融教育を受けていないという結果となる。
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6.消費者教育の評価に関して
消費者教育の評価に関しては、ヒアリングによると一部の学者により研究テーマとして
発表されてはいるが、公式な評価方法は確立されていない。現時点では、連邦取引委員会
は、リーフレットの配布数、ウェブサイトへの訪問数等を追跡することにより、消費者が
どのような情報を求めているかのモニタリングは行っている。しかし、連邦取引委員会が
指摘するように、市場のダイナミズムを考慮すると、収集した情報に基づき政策の有効性
を評価することは極めて困難であり、市場の変化を1つの要因に帰着させることは不可能
である。
しかし、特定のキャンペーンの効果がすぐに現れてくる事例も存在する。例えば、
National Do Not Call Registry キャンペーンの下で、2006 年末までに 1 億 3200 万以上の
電話番号が登録された例が挙げられる。
今後、様々なデータをベースに消費者教育の効果の評価方法を検討することが課題として
認識されており、現段階はそのためのデータの蓄積段階にあると考えられる。
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