日本におけるフェアトレード普及の可能性

平成17年度卒業研究論文
日本におけるフェアトレード普及の可能性
富山大学人文学部国際文化学科
比較社会論コース4年
0210020156
久米
千鶴
要旨
本稿では、フェアトレードによって途上国の生産者の貧困を緩和出来るのか、そして、
多くの農作物を輸入している日本においてフェアトレードを広めることができるか、とい
う二つの問題関心のもと、第一段階としてまずフェアトレードの概要について把握した。
そして、パキスタン・インドにおけるサッカーボールの生産の事例をもとに、フェアトレ
ードは生産者の生活の改善に寄与することができるということを示し、フェアトレードは
必要であるということを示した。
第二段階としては、実際にフェアトレードが盛んに行われているイギリスの現状を把握
した上で、その理由として①フェアトレードの歴史の長さ②消費者のフェアトレードに対
する認識の高さ③フェアトレードの大型店への販路の広がり④フェアトレードの EU 域内
政策への反映を導き出した。そして、日本の現状を踏まえた上でイギリスで成功したよう
に、日本でもフェアトレードを普及させることができる可能性があると述べた。さらに、
フェアトレードを普及させるために、「ビジネス型」フェアトレードと「提携型」フェアト
レードの特徴を活かした役割分担や広報活動・宣伝活動を行うことが重要なのではないか
と考えた。
目次
序論 ................................................................................................................................ 1
第1章
フェアトレードとは......................................................................................... 3
第1節
フェアトレードの定義.................................................................................. 3
第2節
フェアトレードの歴史.................................................................................. 5
第3節
フェアトレードに関わる中心的組織 ............................................................ 8
第4節
フェアトレードの現状................................................................................ 15
第2章
フェアトレードの必要性 ............................................................................... 19
第1節
パキスタン・インドにおけるサッカーボールの生産について................... 19
第2節
フェアトレードの必要性と課題 ................................................................. 25
第3章
イギリスにおけるフェアトレード ................................................................. 27
第1節
現状............................................................................................................. 27
第2節
分析............................................................................................................. 29
第4章
日本におけるフェアトレード ........................................................................ 31
第1節
現状............................................................................................................. 31
第2節
分析............................................................................................................. 32
結論 .............................................................................................................................. 35
おわりに ....................................................................................................................... 37
引用・参考文献一覧 ..................................................................................................... 38
序論
経済のグローバル化に伴って一次産品、特に農産物価格は低下の一途を辿って来た。特
にコーヒー、ココア、砂糖、バナナ、綿花などの価格低下は著しい。これらはいずれも途
上国がヨーロッパの植民地とされていた時代に、宗主国の必要性に合わせて単一栽培(モノ
カルチャー)化した産品である。
アフリカの最貧国の一つ、ブルキナファソは、輸出収入の 3 分の 2 を綿花輸出に頼って
いる1。ベニンでは輸出所得の半分が綿花輸出である。中央アフリカと西アフリカで直接綿
花生産にかかわっている農家の数は 10 万戸以上にのぼる。一人ひとりはわずか 1~3 エー
カーの規模で、収穫期には手摘みなので周囲のさらに土地のない人々を雇用している。と
ころが、1990 年代の半ば以降、綿花の価格が急激に暴落した。綿花価格の長期的な低下は
過剰生産など複合的な原因があるが、直接的な原因はアメリカの輸出であった。
アメリカの綿花輸出量は 1998 年から 2001 年の 3 年間で 2 倍に伸び、世界市場の 20%を
占めるに至っている。アメリカの綿花農家は南カリフォルニアからテキサスに広がり、綿
花農家の数はわずか 2 万 5000 戸である。一戸の農地面積は 500~2000 エーカーの規模で、
大きなところでは 20 万エーカーのところもある。かつて黒人奴隷が行っていた綿花摘みだ
が、今や完全に機械化され、労働力はほとんど必要とされない。ブルキナファソの国民一
人当たり国民所得は 220 ドル(2002 年)であるのに対し、アメリカは 3 万 5060 ドルで約 160
倍である。したがって、ブルキナファソの農家の綿花 1 ポンド当たりの経費はわずか 50 セ
ントだという。それでも輸出競争力でアメリカ農家に勝つことができないのは、アメリカ
の綿花生産者が機械化と大規模生産のうえに、アメリカ政府による手厚い補助金で守られ
ているからである。
綿花の他にもアメリカの多くの農作物が補助金によって生産原価以下の値段で輸出され
ている。アメリカの綿花は生産コストよりも 61%も低い価格で輸出されている。実際の生
産コストの半分以下なのである。小麦は 43%少なく、米は 35%、大豆は 25%、とうもろ
こしは 13%少ないという。
このような貿易とは異なる形態の貿易として、フェアトレードという貿易が存在する。
定義については以下のページで具体的に述べるが、適正な価格での買い取りや長期的な取
り引き、環境に配慮した生産方法を取るようにしているということが特徴として挙げられ
る。
適正な価格で、長期的な買い取りがなされれば、途上国の生産者は今より安定した収入
を得ることができる。筆者は、フェアトレードが途上国の貧困を緩和させるための一つの
1以下、綿花栽培についての記述は、井上礼子「グローバリゼーションとフェアトレード」『農
業と経済』2004 年 4 月号に基づく。
1
手段になるのではないかと考えた。
また、環境に配慮した生産方法は生産者にとっても消費者にとっても安全な農作物が生
産できるということである。たくさんの農作物を輸入している日本にとって、安全な農作
物を輸入するということはとても重要なことである。また、農作物ではないけれど、狂牛
病や鳥インフルエンザなどによって実際に牛肉や鶏卵が供給不足になったり、値段が高く
なったりしたことも考えると、食べ物の安全性というものはさらに重要なものであると言
える。したがって、フェアトレードは途上国の貧困緩和だけではなく、途上国の農産物を
輸入する先進国にとっても大切なことではないかと考えた。
そこで、本稿ではフェアトレードについて調査し、本当にフェアトレードが発展途上国
の人々の生活改善につながっているのか、そして、そう言えるなら輸入大国日本にどうや
ってフェアトレードを広めていけば良いのか考えていきたいと思った。
本稿では、フェアトレードの概要と現状を調査対象とする。また、イギリスと日本それ
ぞれの現状に対して原因分析を行いそれを踏まえた上で比較分析を行った。調査を進める
に当たって、文献や雑誌、新聞、ウェブサイトを利用した。また、甲賀健氏へ E メールに
よる質問も行った。
まず、第 1 章ではフェアトレードの概要を理解するため定義、歴史、フェアトレードに
関わる中心的組織、現状について述べる。第 2 章ではパキスタン・インドにおけるサッカ
ーボールの生産の事例からフェアトレードの必要性について述べる。第 3 章では実際にフ
ェアトレードが盛んに行われているイギリスの現状を把握した上で、その原因を分析する。
第 4 章では日本の現状について述べ、原因分析を行った上で、イギリスのフェアトレード
を盛んにする原因が日本にも当てはまるか検証する。さらに、日本でフェアトレードを普
及させるために必要なことについて考察する。
2
第 1 章 フェアトレードとは
第 1 章では、まずフェアトレードの概要について述べる。
第 1 節 フェアトレードの定義
フェアトレードはそもそもさまざまな組織がそれぞれ独自の理念に基づいて始められた
こともあり、現在フェアトレードに携わるすべての人々によって認証された定義は存在し
ていない。そもそもどのような貿易がフェアなのかということに一つの答えはなく、フェ
アトレードの定義は確定することが難しいと思われる。そこで、本稿ではフェアトレード
を広い意味で捉え、「途上国生産者の貧困問題の解決のために、自立支援を行うことを目的
とした貿易」と定義する。
しかし、フェアトレードに関わる組織によっていくつかの定義や条件が定められている
のでそれらを紹介する。まず、国際フェアトレード連盟(the International Fair Trade
Association)が提案する最も一般的な定義を以下に記す。
「フェアトレード」は対話、透明性、尊重に基づく、取引による協力であり、国際貿易
においてより公正な取引を追及する。また社会で冷遇され、厳しい立場にいる生産者によ
り良い取引条件を提供し、彼らの権利を保護することによって持続可能な発展に貢献する。
フェアトレードの従事者と消費者は、生産者の支援や意識の向上、従来の国際貿易の規則
と習慣を変えるため、積極的にかかわるものとする2。
また、以下に主としてヨーロッパを拠点とする代表的なフェアトレード組織による定義を
整理したものを記す。どの組織の定義や条件を見ても、生産者への配慮が見受けられる。
2ネパリ・バザーロウェブサイト「新フェアトレード基準に向けて」
http://www.nbazaro.org/ifat/standard.html(2006 年 1 月 12 日確認)。
3
表1
フェアトレードの定義
組織名
目的
定義・条件
FINE
貿易における広
対話と透明性と相互尊重に基づく貿易パートナーシップ
範な公正性
EFTA
生産者―消費者
南の生産者:意思決定過程への参加、生産者組合の強化
チェーンの短縮
北の消費者:中間業者の排除・公正な価格の支払い、一
部前払い
IFAT
南の貧困軽減
情報公開、全関与者の力量向上、公正価格設定(前払い含
む)、女性の地位向上、生産者労働環境の向上、環境負荷
の少ない生産
FLO
民主的経営、再生産保証の最低価格、前払いまたは融資
機会、長期安定契約
Fairtrade
小農民およびプ
小農民:民主的で参加型の協同組合ないし組織に加盟
Foundation
ランテーション
労働者:賃金水準、労働組合への加入権、良好な住居
労働者の生活向
貿易業者:価格プレミアム、前払い、長期的計画的契約
上
注:FINE;FLO、IFAT、NEWS、EFAT それぞれの頭文字をとった連合体
EFTA;European Fair Trade Association
IFAT;the International Fair Trade Association
FLO;Fair Labelling Organisations International
出典:池上甲一「拡大するフェアトレードは農産物貿易を変えるか
その意義とパースペ
クティブ」『農業と経済』2004 年 4 月号、9 ページをもとに筆者作成。
4
第 2 節 フェアトレードの歴史
フェアトレードの起源については諸説あるが、1940 年代後半にアメリカの NGO である
the Mennonite Central Committee Self Help Crafts( 現 Ten Thousand Villages) や
SERRV(現 SERRV International)等が途上国の貧しい生産者との取引を始めたのが最初で
あるとされることが多い3。ヨーロッパにおいては、1950 年代に「オックスフォード飢饉救
済委員会」から生まれたイギリスの NGO である Oxfam が 1964 年に始めた取引活動や、
同年(1964 年)に設立されたオランダの S.O.S.Wereldhandel(現 Fair Trade Organisatie)が
1967 年に開始した活動が最初であるとされている。そして Oxfam が 1964 年に取引を始め
るに当たって設立した組織が初めての「フェアトレード団体」とされている。また、同時
期にオランダの第 3 世界グループ(Third World Group)が「この砂糖を買うことであなたは
…繁栄という光の当たる場所を貧しい国々に与えることができる」というメッセージの付
された砂糖の販売を開始した。このグループはその後、途上国から手工芸品を輸入し、そ
れらを販売するようになり、1969 年に世界初のフェアトレードショップであるワールドシ
ョップ(World Shop)を開設した。一方このような市民運動の萌芽と並行するように、貿易
は正しく機能すれば貧困削減の原動力になるはずであるという認識のもとに 1962 年に設立
された国連貿易開発会議(UNCTAD)の第二回目の会議で、有名な「援助よりも貿易を(Trade
not Aid)」というスローガンが打ち出されたのが 1968 年であった。
最初のうちは宗教団体や慈善団体が中心で、低開発地域における自助努力の支援に力点
が置かれていた。とくに、1967 年以降は途上国からの製品輸入が主要な活動形態となる。
1970 年代から 1980 年代は、第 3 世界の女性の自立や自由貿易批判といった理念が深化
していく時期であるが、他方でいくつかのフェアトレード組織が財政難から破綻し、現実
的問題の厳しさにも直面した時期である。池上甲一は、この時期のフェアトレードは、途
上国生産者との顔の見える提携を重視していたという意味で、提携型と呼んでいる。
1980 年代後半からは、個別に活動していたフェアトレード組織のネットワーク化がさか
んになってくる 1985 年の TWIN4(Third World Information Network)結成を皮切りに、
1989 年に IFAT、1990 年に EFTA が相次いで設立された。IFAT は途上国の生産者グルー
3以下、フェアトレードの歴史についての記述は、池上甲一「拡大するフェアトレードは農
産物貿易を変えるか
その意義とパースペクティブ」
『同』10-12 ページ及び、甲賀健「コ
ーヒー取引に関する一考察
『従来の取引形態』に替わる『新しい取引形態』の可能性」
名古屋大学国際開発研究科国際協力専攻、2005 年、修士論文、44-47 ページに基づく。
TWIN は、先進国の企業が持つ膨大な情報量に対して途上国の生産者が情報へのアクセス
を持っていないことが問題の根源にあると考え、生産者への情報伝達、生産者の情報アク
セスの向上を目的として活動しているイギリス系の NGO である。生産者に情報を提供する
という意味でのネットワークに注目している点において特徴的である。また、Twin Trading
という組織を設立し、フェアトレードにも直接携わっている。
4
5
プも加入しているという特徴がある。また、94 年には NEWS!(Network of European World
Shops)も設立されている。それぞれのネットワーク機関は毎年もしくは隔年で加盟団体会
議を開き、加盟団体間の情報交換やフェアトレード拡大に向けての戦略に関する話し合い
等が行われている。それから、FLO、IFAT、NEWS!、EFTA のそれぞれの頭文字をとった
FINE と呼ばれる非公式統括団体が存在し、その会議においてはフェアトレードの定義を含
む、フェアトレード全体に関わるような重要な事柄に関する話し合いなど、さまざまな議
論がなされている。
80 年代半ば以降には、もう一つの新しい動きが始まる。それが、認証ラベル運動であっ
た。フェアトレードの拡大に伴い、フェアトレードを騙る商品が出てくるようになったこ
とや、先にも述べた通り、この時期にいくつかのフェアトレード組織が財政的に破綻した
ことなども相まって、フェアトレード商品を他の商品と明確に差別化する必要が出てきた。
さらに、認証ラベルの開発によってフェアトレードショップのような専門店ではなく、一
般の流通経路にもフェアトレード商品を乗せることが可能になるため、以上のような目的
からいくつかの認証機関がそれぞれ独自の認証ラベルを作り出したのである。その中で最
も古い認証ラベルは、1988 年に作られたオランダのマックス・ハベラー(Max Havelaar)
である。しかし時が経つにつれ、さまざまなフェアトレードラベルや認証団体が混在して
いる状態になり、全体を統括するような機関の存在が望まれるようになった。そのような
経緯から、1997 年にはマックス・ハベラー、トランスフェアーなど 17 の認証機関が集ま
って FLO というアンブレラ組織を設立した。さらに 2003 年には認証ラベルのデザインも
FLO 国際認証ラベルとして一つに統一されている。このようなフェアトレードを、池上は
ラベル型あるいは市場メカニズム利用型と呼ぶことができる、呼んでいる。
最近のフェアトレードには、ラベル型による市場拡大とは異なった別の動きも生まれて
いる。その一つが EU による域内政策への反映である。EU 委員会は、持続的発展や企業の
社会的責任の観点から、公共政策の中心概念にすえようとしているし、共通農業政策への
組み込みも宣言している。もう一つが、有機栽培や熱帯林保護にかかわる環境保全などの
認証を統一的に行おうという動きである。もともと、FLO は IFOAM(国際有機農業運動連
盟)やナチュランドなどの有機認証機関とは深い関係があるが、さらに森林や海洋資源の管
理に関する組織とともに ISEAL という名前の連合体を結成して、社会的・環境的基準と資
源管理の基準との連動性を図っている。また、渡り鳥の営巣地を残すような農法を推奨す
るシェイド・ツリー(シェイド・グローン)認証とも連動することがある。
また、企業の社会的責任(CSR)や社会責任投資(SRI)5という考え方と関連してフェアトレ
ード商品を扱う企業も出てきた。
CSR とは「企業経営のすべてにおいて社会的・環境的配慮を行うことによって企業のア
カウンタビリティー(説明責任)を果たしていくこと」である。また、SRI とは「投資家が企
業への投資選択に当たって、経済的(財政的)指標のみならず、社会的・環境的指標も重視、
考慮して投資すること」である。
5
6
表2
フェアトレードの歴史
年
1940 年代後半
出来事
the Mennonite Central Committee Self Help Crafts(現 Ten Thousand
Villages)や SERRV(現 SERRV International)等が途上国の貧しい生産
者との取引開始
1964 年
Oxfam、フェアトレード開始
1964 年
オランダの S.O.S.Wereldhandel(現 Fair Trade Organisatie)設立
1967 年
S.O.S.Wereldhandel、フェアトレード開始
同じころ
第 3 世界グループ、メッセージ付きのショ糖の販売開始
1968
第 2 回 UNCTAD、「援助よりも貿易を」主張
1969
第 3 世界グループ、世界初のフェアトレードショップであるワールドシ
ョップ開設
1985
TWIN と Twin Trading 設立
1988
オランダでマックス・ハベラー(世界最初のラベル発行)
1989
IFAT 設立
1990
EFTA 設立
1994
NEWS!設立
1997
FLO 設立
2003
FLO、認証ラベルのデザインを FLO 国際認証ラベルに統一
出典:池上、前掲論文、10-12 ページ及び甲賀健「コーヒー取引に関する一考察
『従来
の取引形態』に替わる『新しい取引形態』の可能性」名古屋大学国際開発研究科国際協力
専攻、2005 年、修士論文、44-47 ページをもとに筆者作成。
7
第 3 節 フェアトレードに関わる中心的組織
ここではフェアトレードに関わる中心的組織として IFAT と FLO について述べる。
(1)IFAT( the International Fair Trade Association)
IFAT は、途上国における社会・経済的弱者の労働環境と暮らしの改善を目標に、生産者
支援という志を共有する世界中の組織の集合体で、従来の不平等な貿易の構造や慣行に代
わる公正な貿易を実践する組織が連携しあうことによって、その活動をさらに強化、推進
するべきであるという認識のもと 1989 年に設立された連合体である6。その他のネットワ
ークとは異なり、IFAT には途上国の生産者組織から先進国の輸入・販売組織までが含まれ
る点がその特徴である。2004 年現在における加盟団体は 45 カ国、200 団体以上とされる。
これらの加盟団体が、様々な事業・業務を行うに当たって有用な情報や意見を交換する場
として、IFAT は加盟団体を一同に介した国際会議を隔年で開催している。また、IFAT に
は ILO(International Labor Organization:国際労働機関)の正式なオブザーバー資格が認
定されており、WTO(World Trade Organization:世界貿易機構)にもその参加が認められ
ている。IFAT はファトレード推進のために極めて重要な信頼性を確保することもその存在
目的としており、以下に述べる行動規範に基づく IFAT の審査を通過すれば、その団体には
フェアトレード団体(Fair Trade Organization:FTO)認証マークの使用が許可される。2004
年現在では、130 あまりの団体がフェアトレード団体認証マークを使用している。さらに、
IFAT は、加盟団体の業務を審査するためのガイドラインを規定しており、それらに基づい
て自己評価(Self-assessment)、相互評価(Mutual review)、外部評価(External verification)
の三つを柱とした加盟団体のモニタリングを行っている。これらのモニタリングは、一つ
の FTO の無責任な行いが他の FTO、ひいてはフェアトレード全体に悪影響を与えかねない
という認識のもとでの監査でもあるが、単にそれだけにとどまらず、各加盟団体による自
主改善や加盟団体間の情報の共有による各団体のさらなる発展を目的とした積極的なもで
あるようである。したがって、各団体による自己評価が基本であるという。実際、加盟団
体のスタッフの間には IFAT は監査団体というよりは、加盟団体間の情報交換や情報の共有
を目的とした連合体であるというイメージが強いようである。
IFAT の加盟組織が相互にそれぞれの活動を評価するための指針として、IFAT は以下の
ような九つのキーワードに基づくフェアトレード基準を定めている。これらは IFAT によっ
て他の機関にも提案されているが、IFAT 以外の機関から認証されたという確かな情報はな
く、IFAT の行動規範として理解するのが無難なようである。IFAT はこれらの基準が、NGO
や民間企業を問わず、貿易に携わるすべての組織が公正に貿易取引を行う上で参考になる
として、それらの組織も参照して利用することを勧めている。また、これらは同時に IFAT
への加盟審査基準でもある。以下に IFAT が定めるフェアトレードの基準を記す。
6以下、IFAT
についての記述は、甲賀健、前傾論文に基づく。
8
IFAT が定めるフェアトレードの基準7
①生産者に仕事の機会を提供する。
経済的に立場の弱い生産者が収入を得て自立できるよう支援する。
②事業の透明性を保つ。
生産者、消費者など全ての関係者に対し公正に接し情報を提供する。
③生産者の資質の向上を目指す。
生産者の技術向上や商品の流通を支援。継続的な協力関係を築く。
④フェアトレードを推進する。
活動の広報や啓発を行い、消費者に生産背景の情報を提供する。
⑤生産者に公正な対価を支払う。
生産者自身が望ましいとする水準の生活を保てる公正な対価を支払う。
⑥性別に関わりなく平等な機会を提供する。
文化や伝統を尊重しつつ性、宗教、年齢などの差別のない賃金を支払う。
⑦安全で健康的な労働条件を守る。
生産地の法律や ILO(国際労働機関)で定められた条件を守る。
⑧子どもの権利を守る。
子どもが生産に参加する場合、子どもの健全な成長や安全、教育を妨げないようにする。
⑨環境に配慮する。
可能な限り持続可能な原料を使用し、全ての工程で環境負荷に配慮する。
この基準を守って活動していると認められた組織は、フェアトレード団体としてフェア
トレード団体マーク(FTO マーク)(図 2 参照)を付与される。FTO マークにより、その団体
が、世界的なフェアトレード団体のネットワークの一員であることがわかる。また、認証
7
パンフレット「フェアトレードニュース」グローバル・ヴィレッジ/フェアトレードカン
パニー株式会社発行、2005 年。
9
を受けた団体はウェブサイトやポスター、その他宣伝用資料に FTO マークを使用すること
ができる8。
図1
フェアトレード団体マーク(FTO マーク)
出典:IFAT ウェブサイト、http://www.ifat.org/japanese/theftomark_jp.shtml(2006 年 1
月 13 日確認)より転載。
(2)FLO(Fairtrade Labeling Organization)
FLO は、第 2 節フェアトレードの歴史でも述べた通り、1997 年にマックス・ハベラーや
トランスフェアなど 17 の認証機関が集まって、作られた組織である。各国の認証機関は
FLO 傘下に入ったあとも、それまでの実績、知名度からそれぞれの名称はそのままになっ
ていることが多い(表 3 参照)。
IFAT ウェブサイト「フェアトレード団体マーク」
http://www.ifat.org/japanese/theftomark_jp.shtml(2006 年 1 月 13 日確認)。
8
10
表3
FLO 傘下の国レベル組織
国名
国レベル組織
日本
フェアトレード・ラベル・ジャパン
イギリス
フェアトレード財団
アイルランド
フェアトレード・マーク
アメリカ
トランスフェア USA
ドイツ
トランスフェア・ドイツ
ルクセンブルグ
トランスフェア・ルクセンブルグ
イタリア
トランスフェア・イタリア
オーストリア
トランスフェア・オーストリア
カナダ
トランスフェア・カナダ
フランス
マックスハベラー・フランス
ベルギー
マックスハベラー・ベルギー
スイス
マックスハベラー・スイス
デンマーク
マックスハベラー・デンマーク
オランダ
マックスハベラー・オランダ
ノルウェイ
マックスハベラー・ノルウェイ
フィンランド
Reilun Kaupan Edistamisyhdistys ry.
スウェーデン
Rattvisemarkt
出典:特定非営利活動法人
フェアトレード・ラベル・ジャパンウェブサイト
http://www.fairtrade-jp.org/link/link.html(2006 年 1 月 16 日確認)。
使用するラベルデザインに関しても、統一ラベルを使用している場合、以前のものを使
用している場合、両者を併用している場合などがある。日本では 1993 年にコーヒーなどの
フェアトレードを行っていたキリスト教系 NGO である「わかちあいプロジェクト」が中心
となってトランスフェア・ジャパン(現、フェアトレード・ラベル・ジャパン)を設立し、認
証業務やフェアトレード普及活動を行っている。
また、2002 年 6 月には、生産者組織が 274、輸出入、加工製造などの登録業者が 236、
ライセンス取得者(ラベル使用の小売業者など)が 416 だったが、2003 年 12 月にはそれぞれ
352、308、449 となっている。フェアトレードの生産者はアジア、アフリカ、中南米を中
心に 45 か国にわたり、80 万世帯以上の小農民が利益を得ていると推定されている。
2004 年現在 FLO の認証ラベル商品としては、コーヒー、紅茶、カカオ製品(チョコレー
ト、ココア)、果物(バナナ、マンゴー、りんご、オレンジ、パイナップル、プラム、ドライ
フルーツ各種)、野菜(ジャガイモ、インゲン豆)、香辛料、砂糖、米、ジュース(オレンジ、
11
マンゴー、グレープフルーツなど)、はちみつ、サッカーボールである。現在の FLO 認証ラ
ベル取得可能な商品のほとんどは一次産品である。上記のような商品に FLO の認証が限ら
れているのは、手工芸品のように一つ一つの規格が異なるような手作りの商品の認証作業
はとても難しいからである。また、繊維製品のように糸から布、布から洋服にするような、
さまざまな人々が生産過程に携わるものの認証も難しい。このような状況から、IFAT の加
盟団体を中心として、手工芸品等の認証マーク作成に向けての話し合いが続けられている。
FLO は、個別のフェアトレード組織の利害からは独立しており、ISO65(認証機関の基準)
の基準に従う認定機関として行動している。具体的な認証は、FLO の枠内で各国の認定組
織が自律的におこなっている。認証基準は定期的に見直されているが、原則は生産基準に
加えて公正価格を保証すること、プレミアム部分を経済的、環境的、社会的発展のための
投資に充当することである。
FLO は大きく 3 つの役割を持っている。第一は規格保証、第二は業務の促進、第三は生
産者支援の促進である。規格保証には、生産物のフェアトレード基準に対する適合性、生
産地におけるフェアトレード利益の使途、登録業者の監査、ラベルのモニタリングという 4
つの側面がある。このうち、利益の使途が規格保証に含まれているのは、生産地の社会経
済的発展に資するようにフェアトレード価格を設定しているからである。第二の業務の促
進とは、認証を受けた南の生産物の市場開拓やそのための市場需要の把握を担うというこ
とである。第三の生産者支援には、たとえば生産者の貿易に関する理解や交渉力を強化す
るための教育・啓発活動がある。9
先ほど IFAT が定めるフェアトレードの基準を紹介したが、FLO にもフェアトレード基
準が存在する。フェアトレード認証ラベルは、生産者と消費者のために、その製品が確実
にフェアトレード製品であるということを保証する。フェアトレード認証ラベルが保障す
るフェアトレード基準は大まかに以下のようなものである。
FLO が定めるフェアトレードの基準
①生産者からの買取価格
(例)
・最低価格:コーヒー豆1kg あたり:約 300 円
※市場価格:約 140 円
※市場価格は相場により変動
・奨励金:紅茶1kg につき 110 円の報奨金
サッカーボール1個につき輸出業者買い取り価格の 15%
9池上、前掲論文、13
ページ。
12
②生産者の社会的な発展
・生産者組合が透明性のある、民主的な活動をしている(役員選挙や議決のプロセスなど)。
・フェアトレードで得た利益の一部が生産者組合の社会発展の事業のために使われる(学校
建設や水道設備など)。
③生産者の経済的な発展
・生産物が輸出品質基準を満たしている。
・フェアトレードによる利益の一部が経済発展の活動に運用される(機械や通信機器など活
動のための設備投資)。
④生産者の労働環境と労働条件
・ILO に準拠した安全な労働環境。
・強制労働と児童労働の禁止(児童労働に関して、教育や成長に支障が無い限りは家庭内労
働を認める)。
・労働者が団結交渉権を持つ。
⑤生産地の環境保全
・薬品の使用、水質保全、森林保全、土壌保全、廃棄物の扱いに関して国際的規約を遵守。
フェアトレード認証ラベルの仕組みは、生産者から販売者までの製品の流通にかかわる
すべての当事者をシステムに登録し、上記のようなフェアトレード基準が守られているか
を FLO と各国の国レベル組織が監査することによっておこなわれる。生産者団体は、FLO
の監査官によって基準を満たすことが確認されてはじめて認定生産者団体となり、フェア
トレードでの取引をはじめることができる。そして定期的(原則年に 1 回)に監査官が現地に
赴き基準が守られているかどうかをチェックする。
フェアトレードに参加する輸出業者もまた、フェアトレード価格での買い上げ等の基準
の遵守を求められる。その取引は FLO への報告を義務づけられ、生産者からの報告とつき
あわせられて正しいかどうかチェックされる。製品が販売される国での製品の取引は、そ
の国の国レベル組織に報告され、その内容が国レベル組織から FLO に送られて輸出側の報
告と輸入側の報告があわせてチェックされる。国内での輸入業者と販売者の取引も国レベ
ル組織に報告され、監査される。販売者はその販売量を国レベル組織に報告し、ラベル使
用料を国レベル組織に支払う。国レベル組織はこのラベル使用料を人件費などの運営費に
充てる。また国レベル組織は収入に応じて FLO への拠出金が決まり、FLO はこの国レベル
組織からの拠出金と政府や財団からの補助金で運営されている。
13
図2
新国際統一ラベルとトランスフェアラベル
新国際統一ラベル
出典:特定非営利活動法人
トランスフェアラベル
フェアトレード・ラベル・ジャパンウェブサイト
http://www.fairtrade-jp.org/About_Fairtrade/About_Fairtrade.html
(2005 月 7 月 31 日確認)より転載。
14
第 4 節 フェアトレードの現状
まず、フェアトレードの現状としてフェアトレード商品の販売量を示したいが、正確な資
料を載せることは難しい。その理由は、フェアトレード商品には FLO の認証ラベルが貼付
された商品と、IFAT 加盟団体によって作られた商品、さらにはどちらの認証とも関係ない
フェアトレード商品が存在し、それらが正確にまとめられたデータを入手することが大変
困難であるためである。
そこで本稿では、フェアトレード商品の販売量の一例として、FLO 認証ラベルを付けら
れたフェアトレード商品の販売量について見ることにする。なぜなら、その商品を生産者
から消費者まで追跡し、その間の取引内容について定期的に FLO への報告を義務付けてい
るという意味で最も信頼できるデータであろうと考えたからである。
2002 年に FLO 認証ラベル商品の売上は 4 億ドルを突破し、2003 年には約 7 億ドルに拡
大したとされているが、世界の貿易総額が現在およそ 7 兆ドルであることから、FLO の認
証するフェアトレード商品の総貿易額は、現段階では世界の貿易額の約 0.01%を占めてい
るということになる。繰り返しになるが、フェアトレード商品には FLO の認証を受けてい
ないものもかなり多く存在するため、この数値はあくまでも参考程度のものである。しか
し、図 3(16 ページ参照)を見てもわかる通り、フェアトレード商品の販売量は確実に増加し
ており、2004 年は 12 万 5596 トンの売上を示している。これを前年の 2003 年の販売量、
8 万 633 トンと比較すると、56%も増加していることがわかる。
次に、図 4(16 ページ参照)、FLO 認証ラベル付き商品の各国毎の販売量について見てみ
ると、スイス 2 万 3600 トン(2003 年)、イギリス 2 万 1800 トン(2003 年)と、この二国が突
出して多い。一方、日本はというと、2002 年が 17 トン、2003 年が 38 トンというように
ケタ違いに少ない。日本を代表するフェアトレード組織であるフェアトレードカンパニー
株式会社と有限会社ネパリ・バザーロは IFAT に加盟しているものの、その商品には FLO
の認証ラベルは付けられていないので、このことが、日本の FLO 認証ラベル付き商品の販
売量が少ない原因かもしれない。また、実際にはこれらの数値はそれぞれの市場規模を全
く勘案していないため、これらの数値を比較してもそれほど意味はないが、それを考慮し
ても日本は FLO 認証ラベル付き商品の販売量は少ないように思われる。
15
図3 FLO 認証ラベル付き商品の販売量の推移(1997-2004)
140000
120000
販
売 100000
量 80000
(
ト 60000
ン 40000
)
20000
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
年
出典:FLO ウェブサイト http://www.fairtrade.net/sites/impact/facts.html(2006 年 1 月 13
日)をもとに筆者作成。
図 4 FLO 認証ラベル付き商品の各国毎の販売量
25000
販
売 20000
量 15000
2002
2003
(
ト 10000
ン 5000
スイ ス
イギ リ ス
オ ラ ンダ
ドイツ
ア メリ カ
フラ ンス
フ ィン ラ ン ド
ベルギ ー
オー ス トリア
イタリア
デ ン マー ク
)
出典:特定非営利活動法人
ス ウ ェー デ ン
カ ナダ
ノ ル ウ ェー
ルク セ ン ブ ルグ
日本
0
フェアトレード・ラベル・ジャパンウェブサイト「Facts and
Figure」http://www.fairtrade-jp.org/About_Fairtrade/About_Fairtrade.html(2005 年 12
月 1 日確認)及び、甲賀健氏への E メールによる聞き取りをもとに筆者作成。
16
それから、スイスではフェアトレードバナナの市場占有率が 25%もあり、イギリスでは
フェアトレードコーヒーのシェアが 14%である。
ドイツではフォルクスワーゲンやドイツテレコムが、イギリスではメリルリンチ社やマ
イクロソフト社などの企業が、オフィスや社員用の食堂で消費するコーヒーをフェアトレ
ード認証コーヒーにするなどのとりくみが見られる。そのほか、大学生が署名活動や試飲
キャンペーンを行い、多くの大学のカフェテリアでフェアトレードコーヒーが採用された。
アメリカではその数は 300 にのぼる10。
また、ファーストフード産業にもフェアトレードコーヒーの採用の波が広がっている。
スイスのマクドナルドでは全店舗でフェアトレードコーヒーを利用することにし、コーヒ
ーチェーン店のスターバックスは、アメリカ以外にヨーロッパ、アジアでも全店舗で取り
扱う予定である。また、ダンキン・ドーナツ社も全米 3000 店舗でフェアトレード・ラベル
のコーヒーを使用すると発表した11。
一方、フェアトレードと有機農業の連携も見られるようになってきた12。
2002 年 5 月、「持続可能農業における社会的説明責任プロジェクト」(SASA プロジェクト)
が開催された。それは、国際的な有機農業の NGO 組織である国際有機農業運動連盟
(IFOAM)、国際フェア・トレード表示機構(FLO)、国際社会的説明責任(SAI)、持続可能農
業ネットワーク(SAI)、持続可能農業ネットワーク(SAN)の 4 団体の協同プロジェクトで、
有機農業、フェアトレード、企業の社会的責任にかかわる NGO が連携・協力する興味深い
取り組みである。
特に、オーガニックとフェアトレードは、もともと運動の出発点や経過は異なった領域
で展開してきたものであったが、近年重なり合う場面が顕著になってきた。例えば、コー
ヒーにおいては、商品がオーガニックとフェアトレードのそれぞれの認証を合わせ持つケ
ースが急増しており、99 年に 31%の重なりだったものが 2002 年には 51%と半分を超えた。
こうした商品の認証を受けるためには、検査員の受け入れや書類作成など労力とコストが
かかり、とくに途上国の生産者組織には過重な負担がかかることから、実利的面からも相
互の共通認証が求められるようになったのである。
他にも、フェアトレードや有機農業を国際協力や社会開発と結びつけようとする動きが
ある。特に、90 年代以降、スウェーデンなど北欧諸国の国際協力プロジェクトに、有機農
業やフェアトレードが重要な柱として組み込まれており、アフリカ諸国などでのフェアト
レードの育成や生産流通の拡大に貢献してきた。最近の動きとしては、2002 年の国連環境
開発会議「ヨハネスブルグ・サミット」での国際的なボランタリーな実施計画(タイプⅡ)でも
10北沢肯「フェアトレード認証ラベル」
『農業と経済』2004
年 4 月号、41 ページ。
11池上、前掲論文。
12以下、フェアトレードと有機農業の関連に関する記述は、古沢広祐「農産物貿易・ビジネ
スにおける環境・社会的責任
に基づく。
オーガニックとフェアトレードの融合」『同』42-50 ページ
17
興味深い取り組みがみられる。
例えばフランス政府は、世界銀行、IFAD(国際農業開発基金)などの協力を得て、国際市
場で不利な立場に置かれている開発途上国の小規模生産者(農家、機織・工芸等の加工業者)
がフェアトレードに参加する機会を拡大するプロジェクトをスタートさせた。これまでに
構築されたフェアトレードのネットワークや基準・方法などに基づき、フランス市場にお
けるフェアトレード製品の流通ネットワークの強化を通じて市場における取引量を増大さ
せ、それによりアフリカ諸国の受益者数の増加を目指すというものである。
こうした動きに対して、日本では欧米のフェアトレードの状況とは多少異なった動きを
見せている。欧米の動きに触発されたフェアトレードが広がってきた一方で、フェアトレ
ード団体といっても各団体で独自の提携先や運動理念、基準で動いていることが多い。
18
第 2 章 フェアトレードの必要性
第 1 節 パキスタン・インドにおけるサッカーボールの生産について
ここでは、パキスタン・インドにおけるサッカーボールの生産の事例を用いて、フェア
トレードの必要性について述べる。
以下にわかちあいプロジェクトウェブサイト13から引用した東京新聞14の記事を転載する。
NO CHILD Labour
縫いこまれた幼い汗
放課後の児童労働
2001 年秋。アフガニスタンで米中枢同時テロの報復戦争が続いたときも、隣国パキスタ
ンとインドでは、硬いボールを縫い続ける人がいた。世界中で使われるサッカーやバレー
ボールの多くは、安い労働力を頼りに両国で縫製される。作り手の中には学齢期の子ども
もいるが、彼らがそのボールで遊ぶことはめったにない。テロと平和。貧困と豊かさ。02
年、日本と韓国でサッカー・ワールドカップ(W 杯)が開かれる。華やかな祭典の裏側にある
人々の暮らしを報告する。
「サッカーなんか、したことないよ」
汗をだらだら流し、やせた少年(11)はボールを縫っていた。昼すぎに学校から帰ると、庭
先に出した簡易ベッドの上で十センチもある二本の針を操り、五角形や六角形の革片を縫
い合わせる。報酬はボール一個で八インドルピー(約二四円)。少年はもう二年もこの仕事を
続け、家計を助けていた。
パキスタン国境に近いインド北部の町、ジャランダール郊外。ニューデリーに本部を置
く国際 NGO(非政府組織)「グローバルマーチ」のスタッフ冨田沓子(とうこ)さん(24)は昨年
七月、少年の村を訪れた。泥とレンガで作られた粗末な家が、三、四十軒、軒を並べる村
では、子どもが働くことは珍しくない。カーストという身分制度が残るインドで、その村
には最下層に住む人々が住む。
大人が丸一日かけて縫えるボールは三個程度。一日の収入は法律で定められた最低賃金
の半分にも満たない二五ルピーほどのことも多く、ミルクとパンを買えばすぐに消える。
長年、硬い皮を縫っていると、人さし指にタコができ、ひどくなると指が湾曲する。冨田
さんが見た手は、どれもボロボロだった。
五年前からボールを縫っている十六歳の少女の言葉が冨田さんの耳に残る。少女は学費
を払えずに中学校を中退した。「本当はやめたくなかったんだけど」
わかちあいプロジェクトウェブサイト http://www.aspiro.jp/childlabour.html(2006 年 1
月 14 日確認)。
14 『東京新聞』2002 年 1 月 1 日付。
13
19
スポーツ用品メーカー「モルテン」によると、世界のサッカーボールの生産量は年間約
二千万個。W 杯開催年には二倍近くにはね上がるという。その大半がインドとパキスタン
製だ。サッカー発祥の地である英国の植民地だったことが、両国のボール製造を盛んにし
た。アディダスやナイキといった大手ブランドが両国の現地企業に発注し、そこから仲介
人を経て各家庭で縫製されてきた。
児童労働によるボール縫製に批判が出始めたのは W 杯米国大会が開催された 1994 年ご
ろから。インドでは一万人(98 年)、パキスタンでは約七千人(96 年)の児童労働が指摘され
た。国際サッカー連盟(FIFA)もフランス大会が開かれた 98 年に、児童労働で作られたボー
ルは W 杯では使わないことを決定。ジャランダールのボール業者でつくる「インドスポー
ツ用品財団」(SGFI)は二年前から、FIFA の資金援助で児童労働排除の運動を始めた。小学
校を設立し、約二千ヶ所の縫製工場や家庭を査察しているという。
しかし、放課後に働く子どもはまだまだ多く、悪質な児童労働も水面下で行われている
との指摘は消えない。冨田さんは「SGFI の査察は業者主導で、地域が限られ、内容も不透
明。NGO や国際労働機関(ILO)の協力を得て、透明性を高めるべきだ」と訴える。
「サッカーボールは誰が作るのか」の著作がある秋田大の深沢教授(スポーツ社会学)は指
摘する。
「日本は国際大会で日の丸を揚げるのに熱中し、悲惨な状況に置かれた子どもたち
のことを見ようとはしなかった。W 杯をきっかけに、祭典の陰の部分にも目を向けるべき
ではないか」
サッカーボールには手縫いのボールと機械で張り合わせるボールがあり、公式試合には
手縫いのボールでなければならないというルールがある15。現在、サッカーボールはパキス
タン、インド、中国、インドネシア、タイ、メキシコ、スペイン、ドイツ、台湾、モロッ
コ、ブラジル、アルゼンチン、日本等で生産されているのだが、手縫いのボールは人件費
が高くつくため先進国では機械で張り合わせるボールしか生産していない。手縫いのボー
ルは労働力の安い国で作られ、その作り手の中には学齢期の子どもも見られる。ILO138 号
条約によれば、発展途上国では 14 歳未満で義務教育を終えていない児童の労働を禁止して
いる。児童労働によるボール縫製に批判が出始めたのはサッカー・ワールドカップ(W 杯)
アメリカ大会が開催された 1994 年頃である。インドでは 1 万人(1998 年)、パキスタンでは
約 7 千人(1996 年)の児童労働が指摘された。国際サッカー連盟(FIFA)もフランス大会が開
かれた 1998 年に、児童労働で作られたボールは W 杯では使わないことを決定した。
手縫いのボールの生産高が多いのはパキスタン、インド、中国、インドネシアである。
15以下、サッカーボールの生産についての記述は、(社)部落解放・人権研究所ウェブページ
http://blhrri.org/info/koza/koza_0060.htm(2006 年 1 月 16 日確認)。
香川孝三「パキスタン・インドにおけるサッカーボールの生産と児童労働」
『国際協力論集』
2002 年 11 月号、31-58 ページ。
20
中でもパキスタンが約 70%、インドが約 10%を占め、両方合わせて世界の手縫いのサッカ
ーボールの約 8 割を生産している。サッカー発祥の地であるイギリスの植民地だったこと
が、両国のボール製造を盛んにしたのである。
では、なぜパキスタン・インドのサッカーボールの生産現場で児童労働が見られるのだ
ろうか。それには大きく分けて二つの理由が挙げられる。一つは家計の貧困とカースト制
度の影響、もう一つはサッカーボールの生産形態と技術革新である。
まず、家計の貧困とカースト制度の影響について述べる。児童労働に共通に見られる要
因として、親が貧しいために子どもがその家計を支えるために労働に従事する、というこ
とがある。そして、サッカーボールの生産に従事する児童の家庭に貧困が見られるのはな
ぜかというと、ヒンズー教徒の場合にはアウトカーストであるダリット16が多く生産に従事
しているからである。それはサッカーボールに使う材料に牛の皮が用いられるからである。
最近では化学繊維が使われる場合が増えているが、サッカーボール伝統的に牛の皮が使
われてきた。牛はヒンズー教のもとでは神の使いとみなされ、牛の死体処理、皮剥ぎ、皮
なめし、皮袋や皮バケツの製作という皮革関連の仕事は「賎業」とされ、ダリットの仕事
とされている。
次に、サッカーボールの生産形態と技術革新について述べたい。
過去においてはサッカーボールの生産には熟練が必要とされていたために大人しか従事
していなかったが、技術革新によって単純作業が増えて児童でも就労することが可能にな
ったのである。
生産方法が単純なものに変わり、家庭での内職としてサッカーボールの生産が行われる
ようになった。さらに、女性が家庭の外に働きに行くことに抵抗があるイスラム社会では
家庭での仕事が好まれるという事情があった。過程で仕事をすれば児童が親の手伝いとし
て仕事に従事しやすくなる。
工場法は動力を用いる場合には 20 人以上、動力を用いない場合には 10 人以上雇用して
いる事業所に適用される。工場法が適用されると、労働者は労働条件の規制を受ける。そ
こで、下請け制度を利用すれば、その規制を受けなくて済むし、10 人未満の事業所であれ
ば、労働法規の適用を排除できる。さらに下請け制度を使うと直接製造/輸出会社は家庭
での仕事を監督する必要がなくなる。仲介業者がその仕事を担当するからである。児童労
働があっても直接製造/輸出会社が責任を負うことがなくなる。工場法の適用を受けない
ために下請け制度を利用するということが一般化している。
さらに、家庭内工業を利用すれば注文量に合わせた生産が容易になる。注文量に合わせて
家庭内工業に発注する量を調節できるからである。急ぎの仕事であっても、仲介業者を通
じて無理がきくし、注文が少なくなれば仕事を減らすことが容易である。仲介業者の意の
ままに生産をコントロールできる。
16虐げられている者、という意味。不可触民のこと。インド憲法に定められる指定カースト
Scheduled Caste とほぼ重なっている。
21
それでは、次に児童労働の実態について述べていきたい。
サッカーボールの生産に従事している児童労働の数はどのくらいだろうか。シャランデ
ルでの調査はギリ国立労働研究所が 1998 年 1 月に行っているが、それによればパネルを縫
い合わせる仕事に従事している 5 歳から 14 歳までの児童の数を約 1 万人と結論づけている。
シアルコットでは ILO の協力を得て、パキスタン労働福祉省が 1996 年に調査しているが、
それによれば 7000 人以上の児童が働いている。大人は 4 万 2000 人働いている。
どのような労働条件で働いているのであろうか。賃金は出来高払い制度であり、1 個いく
らと決められている。インドでは 1 個完成させると質の良いボールであれば 20 ルピー(日
本円で 60 円)ぐらいであり、1 日 1 個から 3、4 個ぐらい作れる。熟練度が高まっても 4 個
ぐらいが限界であるという。できてもその質によって手間賃に差が設けられている。質が
悪いと 1 個 13~14 ルピーにしかならないという。ギリ国立労働研究所の調査ではこのあた
りの最低賃金は 63 ルピーであるので、1 日 3 個以上作らないと最低賃金にも達しないこと
になる。児童が作るボールは力が十分でないために質の悪い場合が多いので、低い手間賃
しかもらえない。シアルコットでも大人が作っても 1 日 20~30 パキスタン・ルピーであり、
児童の場合は平均して 1 個 20~22 パキスタン・ルピーにしかならないという。児童であれ
ば 1 日 1 個作るのがやっとであるという。
さらに問題なのは強制労働(債務労働)が見られることである。親が仲介業者から借金をし
て、その返済のために親とともに児童が働くという事態が生じている。手間賃から借金を
返済しているが、その借金のり利子が高く、児童を含めて働いても返済が容易でない仕組
みになっている。この強制労働はインドでは Bonded Labour System AbolitionAct,1976 に
よって、パキスタンでも同様な名称の法律が 1991 年に成立しており、ともに禁止されてい
る。
労働環境は、だいたい暗い部屋で作業している。これは集中力を失わないで作業ができ
るようにという配慮からであるが、それだけでなく外部からの調査に来る者が撮影しにく
いようにという意図もあるとされている。これは現代の写真技術からすると意味のないこ
とであろう。
問題は仕事中に話したり、失敗したときに児童を処罰することである。倉庫に閉じ込め
たり、柱に吊るしたり、むちで打ちつけたり、食事を抜かしたりという人権を無視する取
り扱いがなされている。仲介業者が直接工場を経営する場合、たいてい罰を科すための部
屋が設けられている。間違って縫い付けたり、材料を無駄にした場合、手間賃が差し引か
れる。これに乗じて仲介業者がピンハネして十分計算のできない児童の弱みにつけこむ場
合もある。
このような取り扱いに児童自身が抗議をする手立てがない。抗議をすればただちに請負
契約や雇用契約が打ち切られるであろうし、そうなればその日から生活に困るであろう。
日本のように公的扶助(生活保護)の制度はないし、労働組合が結成されたという報告もない。
労働監督に期待することもできない。そもそも家庭で仕事をしている児童は工場法や児童
22
労働禁止法の適用がないために労働監督の対象にならないし、そうでなくても労働監督を
担当する者が使用者側や仲介業者から賄賂をもらってつながっている場合があるからであ
る。そうなると、働く児童の救済活動を実施している NGO に助けを求めるか、泣き寝入り
をするかである。
長く縫い合わせの作業をしていると、座って作業するのでひざを痛めたり、パネルが硬
いために力を入れて縫い合わせなければならない。そのために指を痛めている。さらに暗
い所での作業のために視力を悪くしている。
児童が働いている場合、学校での勉強はどうなっているのであろうか。ギリ国立労働研
究所の調査によると、2326 人の児童のうち、1719 人が学校に行きながら仕事もしている。
225 人が学校に行かず仕事だけをしている。家庭での仕事なので、午前中に学校に行き午後
から仕事を行うことが可能である。その場合、学校での勉強と仕事の時間を合計すると平
均で 1 日 9 時間である。これに対して、仕事だけしている児童が 1 日平均 6 時間働いてい
る。
シアルコットの調査では、88%の児童は家庭で働き、残りが事業場で働いている。70%
の児童が 1 日平均 8~9 時間仕事をしている。28%の児童は 1 日平均 10~11 時間働いてい
る。農閑期や長期の休み、週末には労働時間が長くなる。家庭で働く児童が多いので労働
時間は柔軟になっているからである。長時間働いている児童がいるが、労働時間に応じて
賃金が支払われるわけではないので、製作するボールの数をこなすために長時間働かざる
をえないのであろう。働いている子どもの平均年齢は 12 歳であり、10 歳から 14 歳までの
子どもが最も多い。男子の 19%、女子の 36%は学校に通っていない。女子の割合が高いの
は男子に優先的に教育を受けさせようとする親の意識のあらわれとみることができる。そ
れ以外の児童は学校に通いながら仕事にも従事している。家庭で仕事をすることができる
ので学校との両立が可能となっている。
このため、識字率(小学校を 3 年以上通った者の場合)が 80%を越えており、他の分野で
働いている児童と比べると識字率が高い。しかし、学校に通いながら仕事にも従事
する
児童は、高学年になると次第に学校に通わなくなってドロップアウトする確立が高くなっ
ている。
このような児童労働をなくすための対策として、代表的な活動として以下の四つの活動
が挙げられる。
(1)サッカーボールに児童労働によって作られた商品でないというラベルを貼る運動
(2)国際サッカー連盟と国際労働組合の協力
(3)アトランタ協定(Atlanta Agreement)
(4)インドのスポーツ用品製造輸出団体とインドスポーツ用品基金の活動
これらの活動以外に、「わかちあいプロジェクト」(東京都墨田区)がフェアトレードの試み
の一つとしてパキスタンのサッカーボールの販売に取り組み始めた。買い取り価格の 15%
23
が現地の学校建設などに活用される仕組みになっている。
これまでフェアトレードでは、紅茶やコーヒーなど農産物が多かったが、プロジェク
トの代表の松木傑さんは国際フェアトレードラベル機構(FLO)にサッカーボールの認証を
働きかけ、ようやく 03 年に認められた。
ボールの販売価格は練習用が 2500 円、プロレベルが 5000 円など 5 種類。これらの価格
の中には商品の代金と別に、ボール 1 個につき現地で買い取った価格の 15%に相当する 75
~175 円の奨励金が含まれている。このお金は学校建設や診療所の運営といった現地の支援
プロジェクトに使われる。
日本以外でもイタリア、イギリス、オーストリアなどで発売されている。ドイツでは来
年開催されるワールドカップに合わせて発売される予定である。日本でのブランド名
「ASPIRO(アスピロ)」は、ラテン語で「何かを得ようとして努力する、希望する」を意味
する。
松木さんは「困難な環境で頑張ってる途上国の若者たちの支えになりたいという願いを込
めて命名した」と話す17。
図 5 フェアトレード・サッカーボール
出典:わかちあいプロジェクトウェブサイト http://www.aspiro.jp/childlabour.html(2006
年 1 月 14 日確認)より転載。
「サッカーボールを買ってパキスタンに学校を」『毎日新聞』2004 年 10 月 5 日朝刊 12
版 13 面。
17
24
第 2 節 フェアトレードの必要性と課題
上記で述べた事例は FLO の認証ラベルが貼られることになるので、①生産者からの買取
価格、②生産者の社会的な発展、③生産者の経済的な発展、④生産者の労働環境と労働条
件、⑤生産地の環境保全が保証される。そして、このことは児童労働をせざるをえない子
どもだけでなく、大人も、生産者すべての生活の改善に寄与することができるということ
が言えるのではないだろうか。フェアトレードの基準については FLO のもの以外にさまざ
まなものがあるが、理念や基準は共通していたり、類似するところが多く、現在行われて
いる大半のフェアトレードは行われる必要のあるものであると筆者は考える。
また、ここで、フェアトレードの課題や批判についても簡単に言及しておく18。
一つめは、生産者・生産地とフェアトレードとの関係についてである。生産者がフェア
トレード依存症になってしまうことを危惧している。
二つめは、フェアトレードの市場拡大がもたらす危険性についてである。供給不足にな
った場合、生産拡大に向かうのか、別のフェアトレード生産者を組織するのかということ
などが問題となる。また、ひとつの地域で複数の商品となる作物をつくることは難しい。
三つめは、フェアトレードが格差拡大の原因にならなければならない、ということであ
る。
四つめは、認証・ラベルについてである。製品の無差別性を規定する WTO ルールの硬
直性にどのように対応していくのかということが問題になる。また、ラベルのコストの問
題もある。途上国の監査項目が商品流通と資金、財政と会計、環境配慮、報奨金使途に及
んでおり、こうした認証のモニタリングに必要な記録保管・記帳・証票書類の保存に耐え
うるような途上国の小農はまれである。過剰な要求をすると、
「フェア」を唱えながら、
「ア
ンフェア」な押し付けを行うことになってしまう。それから、ラベルが簡単に貼れること
も日本では問題になっている。○章で詳しく述べるが、日本では、この FLO の認証制度に
対する評価は低く、代表的なフェアトレード機関はそれに従っていない。日本も欧米同様、
生産者支援をめざす複数の NGO が主導し、独創的で多様な発展を果たしてきたが、その特
質は生産者との直接的関係(「顔の見える関係」)の重視である。「フェアトレード」の表示
も多様であり、またそれらの表示は、FLO ラベルよりもさらに大きな「生産者支援」を表
現している場合が多い。信頼できる生産者へ、フェアトレードプレミアムを直接的に支払
っているからである。そうであれば、均質化によって「生産者支援」の度合が下がり得る。
また彼らが対抗勢力と位置付ける多国籍企業であっても、
「フェアトレード・ラベル」を貼
18
以下、フェアトレードの課題や批判についての記述は、辻村英之・山田早苗「コーヒー
生産者の貧困緩和のための国際協調制度 国際商品協定・生産者支援基金・フェアトレー
ド」『農業と経済』2003 年 5 月号、103 ページ及び、池上、前掲論文、16-17 ページに基
づく。
25
ることのできる簡素さが、FLO ラベルに対する嫌悪感につながっている。
このように、フェアトレードにはいろいろな課題や批判が存在する。これらの課題や批
判に関して、時間がかかるかもしれないが、改善されるべきことは改善しよりよいフェア
トレードが実践されることが大切であると考える。
26
第 3 章 イギリスにおけるフェアトレード
フェアトレードがさかんに行われているイギリスの事例を取り上げる。
第 1 節 現状
イギリスは今や世界最大のフェアトレード市場である19。第
章第
節のフェアトレード
の現状でも述べた通り、FLO 認証ラベル付き商品のイギリスにおける販売量は 2 万 1800
トン(2003 年)に上っている。また、2004 年売上高が 1 億 4 千万ポンド(約 280 億円)となり、
前年比の 1.5 倍に急増した。取り扱い品目も 850 品目を超えている。
スーパーのテスコやコーヒーショップのスターバックス、駅構内のキヨスクなど、至る
ところでフェアトレードマークの付いたチョコレートやコーヒー飲料、ワインなどの商品
が売られている。例えば、大手スーパーのマークス・アンド・スペンサーは顧客から要望
が相次いだため、2004 年コーヒー豆を全部フェアトレードブランドに切り替えている。ま
た、自然食品店フレッシュ・アンド・ワイルドでは、フェアトレード商品が全体の 1 割を
占めている。
英調査会社 MORI(Market and Opinion Research International)が毎年実施している国
民調査で、フェアトレード製品の認知度も順調に高まってきていることがわかっている。
同調査によると、2005 年 4 月 21 日~25 日にかけて 15 歳以上の成人 2,311 名を対象とし
た面接調査を実施した結果、成人の 50%がフェアトレード製品のロゴマークを認識してい
ることがわかり、前年度の 39%を大きく上回る結果となった。そのうち、ロゴマークとと
もに表示されている「開発途上国の生産者へより良い取引条件を保証」というキャッチフ
レーズを併せて理解している人も昨年の 42%から 51%へ増加している。英国の地域別にみ
ると、英国南西部での認知度が非常に高く、7 割近く(69%)の人々がロゴマークを認識して
いるとの結果も得られている20。
それから、イギリスでラベルを認可する NGO の連合体、フェアトレード財団は「フェア
トレードの町」を宣言するための基準を設定した。そして、イングランド北部ランカシャ
ー州のガースタングという町が 2000 年に世界初の「フェアトレードの町」を宣言した。ガ
ースタングは宣言後、教会施設に専門ショップを設け、一般小売店やガソリンスタンドに
19以下は、持田譲二「アフリカ経済の自立を支援
盛り上がる英国のフェアトレード運動」
『世界週報』2005 年 7 月 12 日、12-13 ページと「苦悩の大陸アフリカ G8 サミットを
前に 下」『朝日新聞』2005 年 7 月 1 日朝刊 13 版 8 面に基づく。
20小坂伸行・奥田芽衣子「着実に拡大している英国のフェアトレード市場」農林水産省ウェ
ブサイト、http://www.maff.go.jp/kaigai/2005/20050818uk53a.htm(2005 年 11 月 25 日確
認)。
27
商品を置くよう働きかけた。後に宣言の動きはイギリス中に広がった。これまでに宣言を
行った自治体は計 117 であり、現在も約 240 が準備中である。
以上のような現状から、筆者はイギリスでフェアトレードがさかんに行われている、と
考える。
28
第 2 節 分析
なぜ、イギリスでフェアトレードがさかんに行われているのか。これまで述べてきた調
査をもとに、それには四つの理由があると筆者は分析する。
まず、一つめの理由として、イギリスにおけるフェアトレードの歴史が比較的長いこと
が挙げられる。イギリスで行われた最初のフェアトレードが 1964 年の Oxfam の取引活動
(○ページ参照)であるとすると、2006 年現在で 42 年もの蓄積があるということになる。42
年という期間を長いと見るか短いと見るかは、見る人にとって違いはあるかもしれないが、
Oxfam の活動をヨーロッパにおけるフェアトレードの最初の活動というように捉えると、
フェアトレードの歴史が長いといえるのではないだろうか。
二つめの理由として、消費者のフェアトレードに対する認識が高いということが挙げら
れる。先ほどイギリスの現状で述べたように、英調査会社 MORI によれば、成人の 50%が
フェアトレード製品のロゴマークを認識していることが明らかになっている。その中で、
ロゴマークとともに表示されている「開発途上国の生産者へより良い取引条件を保証」と
いうキャッチフレーズを併せて理解している人も 51%になっている。イギリスの FLO の国
レベル組織であるフェアトレード財団では、フェアトレードの認証を受けた商品には、ロ
ゴマークだけでなく、上記のキャッチフレーズを併せて表示することを義務付けている。
このことが、ロゴマークだけでは理解しにくいフェアトレードの認識を深めるための効果
的な手段となっている。また、イギリスの地域別に見ると、約 70%の人々がロゴマークを
認識しているという地域もあることがわかっている。これらの調査結果を見ると、かなり
フェアトレードが浸透し、人々に知られていることがわかる。また、キャッチフレーズの
効果などから、消費者が単純にフェアトレードのことを知っているのではなく、その目的
まで理解してフェアトレード商品を買っていることがわかる。
このことは、一つめの理由として述べたイギリスにおけるフェアトレードの歴史が長い
ということと関連していると筆者は考える。フェアトレードの歴史が長いため、その分人々
の間にフェアトレードが浸透しているのではないだろうか。
三つめの理由として、スーパーなど大型店への販路の広がりが挙げられる。先ほど現状
で、イギリスではテスコやスターバックス、マークス・アンド・スペンサーなどへフェア
トレードの販路が広がっていると述べたが、イギリスの FLO の認証ラベル付き商品の販売
量が多い(図 4 参照)ということからも、大型店へのフェアトレード商品の販路の広がりが見
て取れる。大型店で扱われるということは、販売量が多いということが言える。
それから、フェアトレード商品は一般商品に比べて割高になるので、消費者がそれを理
解し、そして実際にフェアトレード商品を買ってくれないと(需要がないと)、売る側はフェ
アトレード商品を扱うことはないだろう。フェアトレード商品が大型店の店頭に並べられ、
初めてフェアトレード商品を目にすることもあると考えられるが、ある程度消費者にフェ
アトレードに対する認識がなければ大型店で取り扱われることはないのではないかと考え
29
る。つまり、大型店でフェアトレード商品が扱われているということは、先ほど述べた 2
つめの理由と関連して、消費者にフェアトレードに対する認識があるということが言える
と考える。そして、大型店に来店する人々の目にフェアトレード商品が触れることで、さ
らに人々のフェアトレードに対する認知度が高くなると思われる。
四つめの理由として、EU による域内政策への反映が挙げられる。EU 委員会は、持続的
発展や企業の社会的責任の観点から、フェアトレードを公共政策の中心概念にすえようと
している。また、共通農業政策(CAP)への組み込みも宣言している。これは、イギリスに限
らず EU 加盟国全体に対して言えることであるが、国の政策としてフェアトレードが取り
上げられるまでになっているということは注目すべきことであると考える。
以上の四つのことが、イギリスでフェアトレードが普及している理由であると分析する。
30
第 4 章 日本におけるフェアトレード
第 1 節 現状
そもそも現在活動している、日本にフェアトレードに関わる NGO が設立されたのは 1980
年代中頃から 1990 年代であり21、日本でフェアトレードが行われるようになったのは比較
的最近のことである。
日本は欧米と比べると FLO 認証ラベルつき商品の販売量は少ない。日本における FLO
認証ラベル付き商品は 2002 年 17 トン、2003 年 38 トンと着実に販売量は増えているもの
の、他の FLO 加盟国の販売量の差は歴然としている。FLO の認証ラベルについては日本で
はまだあまり見られないようである。日本で FLO 認証ラベルの付いた商品を販売している
企業としては、イオンが挙げられる。2004 年 12 月からプライベートブランドのトップバ
リュにおいて、フェアトレード・コーヒーを 17 社、約 1550 店舗で販売している。イオン
はフェアトレードによる商品開発をさらに広げ、消費者がより身近に社会貢献活動を行え
る機会を提供したいと考えている22。
日本の NGO で IFAT に加盟する NGO はネパリ・バザーロ、ピープル・ツリー(フェアト
レードカンパニー株式会社)23、ぐらするーつの三つである。このうちフェアトレード団体
マークを取得しているのはネパリ・バザーロとピープル・ツリー(フェアトレードカンパニ
ー株式会社)の 2 団体である。IFAT の定める基準をクリアし、フェアトレード団体認証マー
クを取得しているこれらの団体は、日本を代表するフェアトレード組織であるといえるの
ではないかと筆者は考える。これらの団体を筆頭に日本のフェアトレード組織は、フェア
トレード商品に対して FLO 認証ラベルを貼っていないことが多い。
またその他に、日本の中で独自の活動をおこなったり、フェアトレード団体といっても
各団体で独自の提携先や運動理念、基準で動いていることが多い24。
以上のことから、日本でも NGO や企業などの活動は見られるものの、欧米ほどフェアト
21
パンフレット「フェアトレードニュース」グローバル・ヴィレッジ/フェアトレードカン
パニー株式会社発行、2005 年。
22
イオンウェブページ、
http://www.aeon.info/news/newsrelease/200412/1206-1.html(2006 年 1 月 15 日確認)。
ピープル・ツリーは、グローバル・ビレッジという NGO の事業部門であるフェアトレ
ードカンパニー株式会社が輸入、販売するフェアトレード商品の商品、カタログ、直営店
の統一名称である。
ピープル・ツリーウェブページ、http://www.peopletree.co.jp/(2006 年 1 月 15 日確認)。
23
24古沢、前掲論文、42-50
ページ。
31
レードが普及しているとは言い難いのが現状であると筆者は考える。
第 2 節 分析
(1)原因分析
なぜ日本ではあまりフェアトレードが普及していないのか。これまで述べてきた調査を
もとに、それには 2 つの理由があると筆者は分析する。
まず、一つめの理由として、日本におけるフェアトレードの歴史が短いことが挙げられ
る。
フェアトレードはもともと欧米で始まった取り組みで、日本でフェアトレードが行われる
ようになってきたのはここ 10 年の間の出来事であり、まだ発展途上の段階であると考える。
そのためフェアトレードに対する認知度も低く、意識的にフェアトレード商品を扱ってい
る店舗に行かなければ、普段の生活の中でほとんどフェアトレード商品を目にすることは
ない、というのが筆者の実感である。
また、フェアトレードに対する認識が低いということは、他の商品と比べて値段が高い
フェアトレード商品を消費者が購入する確率も低いのではないかと筆者は考える。
二つめの理由として、日本では「提携型」のフェアトレードが多く行われているという
ことが挙げられる。フェアトレードには、FLO 認証ラベルを利用して参入した民間企業を
中心としたフェアトレードと、これまでフェアトレード団体として生産者の生活向上、生
産地の社会経済的発展に長く携わってきたフェアトレード団体や一部の企業(その多くは
NGO が貿易を行うために設立した有限または株式会社)の実践するフェアトレードという
二つのフェアトレードの区別がある25。このようなフェアトレードの分類は「ラベル型」(も
しくは「市場メカニズム利用型」)と「提携型」いう池上による分類とほぼ同じものである。
しかし、本稿では取引形態の本質的な違いを対比的かつ直接的に表すことができるとして、
「ビジネス型」と「提携型」と分類する甲賀の定義を用いる。
「提携型」のフェアトレードを担うのは、主に途上国の生産者に対する支援的側面の強
いフェアトレードを行う NGO や一部の民間企業がある。その多くは、生産者とフェアトレ
ード団体や企業、さらに消費者を巻き込んだ密接な提携関係を大切にした取引を行い、そ
の活動は生産者に対する支援の側面が強い。そして、日本ではこのような関係を重視して
いる団体が多いというのが特徴である。先に述べた、ネパリ・バザーロやピープル・ツリ
ーといった日本を代表するフェアトレードに関わる NGO もこれに当てはまる。
ここで、筆者が言いたいことは「ビジネス型」が良くて「提携型」が良くないというこ
とではない。生産者や生産地のことを考えた「提携型」のフェアトレードは大切なことで
ある。しかし、フェアトレードがあまり普及していない日本においては「ビジネス型」の
25
以下フェアトレードの分類についての記述は、甲賀健、前傾論文に基づく。
32
割合を増やし、スーパーなどの大型店でもフェアトレード商品が取り扱われることにより
フェアトレードに対する認知度を上げる役割が果たせるのではないかと考える。そして、
「ビジネス型」のフェアトレードと「提携型」のフェアトレードが互いに補い合うような
関係になれば良いのではないかと考える。
(2)イギリスとの比較分析
第 3 章第 2 節でイギリスにおいてフェアトレードが普及している理由を分析した。これ
を日本でも参考にできないか比較分析する。
ここで、イギリスでフェアトレードがさかんに行われている理由について簡潔に載せて
おく。
①イギリスにおけるフェアトレードの歴史が比較的長いこと。
②消費者のフェアトレードに対する認識が高いこと。
③フェアトレードが大型店へ販路を広めていること。
④フェアトレードが EU の域内政策へ反映されていること。
まず①について述べたい。イギリスはフェアトレードの歴史が比較的長く、それに対し
日本はフェアトレードの歴史が浅い。日本においてもフェアトレードが普及し人々に浸透
するまでは長い時間がかかると思われる。日常的な慈善活動に不慣れな日本人にフェアト
レードを広めようするならさらに長い年月がかかるかもしれない。しかし、日本における
FLO 認証ラベルが貼られた商品の販売量が着実に増加している。時間をかければフェアト
レードは日本でも普及すると考える。
次に、②について述べたい。イギリスでは消費者のフェアトレードに対する認識が高い
が、日本では低い。これは、①と関連して、長い年月をかけることで人々に認知されるよ
うになるのではないだろうか。そして、人々のフェアトレードに対する認識が深まれば③
のように大型店へ販路も広がってくるのではないだろうか。
最後に④について述べたい。日本ではまだ、フェアトレードが政策に反映されるような
段階ではないかもしれない。しかし、①のように時間をかければいずれそのようなことが
実際に起きるかもしれない。日本は外国からたくさんの農産物を輸入している。
「援助より
貿易を」ではないけれど、フェアトレードが国際協力の一つの手段となることも考えられ
る。
日本でフェアトレードを広めるためには、時間をかけるということが必要になってくる
のではないかと考える。しかし、ただ、時間をかけるだけでなく、効率的にできる部分は
そのようにすることが大切であると考える。以下では、各章の内容をふまえ、日本でフェ
アトレードを広めていくためにはどうすればよいか考察していきたい。
(3)考察
33
日本でフェアトレードを広めるために必要なことは以下の 2 点であると筆者は考える。
まず一つめは、供給側に対して述べたい。筆者は分析のところでも言及しているのだが、
「ビジネス型」のフェアトレードと「提携型」のフェアトレードが互いに補い合うような
関係になれば良いのではないかと考える。具体的にはスーパーなどの大型店(「ビジネス型」)
がフェアトレード商品を販売することで、消費者のフェアトレードへのアクセスを良くし、
また、認知度を高める働きを担う。また、大量にフェアトレード商品を販売する。そして、
NGO などやフェアトレード商品を扱う小型店(「提携型」)は、フェアトレードについてや
生産者、生産地のことを消費者により紹介するという働きを担う。また、大型店と差別化
を図るという意味でも、大型店で扱うことが難しい一点物の商品や変わったデザインなど
多様な商品を販売する。
二つめに、フェアトレードについて認知度を上げ、日本の人々にフェアトレードについ
て知ってもらうことが大切であると考える。そのために広報活動が大切になると考える。
これも「ビジネス型」フェアトレードと「提携型」フェアトレードそれぞれに分けて考え
ると、
「ビジネス型」ファトレードはたくさんの人に知ってもらえるような広報活動(例えば
テレビのコマーシャルや新聞の折込ちらしなど)を行い、
「提携型」フェアトレードを行うお
店や団体は生産者や生産地についてより詳しい情報を消費者に提供する。また、
「提携型」
は学校や生涯学習の一環として地域の人々に講演をしたりすることも有効ではないかと考
える。また、そのときに、「提携型」「ビジネス型」どちらにも言えることであるが、ファ
トレード商品を買うことで生産者の生活が少しでも改善されているという実感が得られる
ような工夫をすることが大切であると考える。
34
結論
本稿ではフェアトレードによって途上国の生産者の貧困を緩和できるのか、そして、多
くの農作物を輸入している日本においてフェアトレードを広めることができるか、という
ことについて研究してきた。
まず、フェアトレードの概要を理解するために定義、歴史、フェアトレードに関わる中
心的組織、現状について述べた。フェアトレードは最初のうちは慈善活動的な性格が強か
ったのだが、それでは経済的に破綻し、立ち行かなくなってしまい、次第にその性格を変
えていった。そして、フェアトレード認証ラベルを用いて、一般の流通経路にもフェアト
レード商品を乗せていこうとする「ビジネス型」のフェアトレードが誕生したり、フェア
トレードに関わる NGO のネットワーク化が進んできた。そして、IFAT や FLO といった
フェアトレードの中心的な組織も設立されてきた。フェアトレードの世界貿易における割
合はまだ微々たるものであるが、FLO 認証ラベルの付いた商品の販売量は年々増加してい
る。
次に、パキスタン・インドにおけるサッカーボールの生産の事例からフェアトレードの
必要性について述べた。具体的には、特に、パキスタン・インドにおけるサッカーボール
の生産に児童労働が見られるのだが、フェアトレードによってそれを防ぐことができると
いうことについて述べた。また、それ以外にもフェアトレードは生産者の生活の改善に寄
与することができるということを示し、フェアトレードは必要であるということを示した。
そして、ここからは実際にフェアトレードが盛んに行われているイギリスの現状を把握
した上で、その原因を四つ分析した。一つめはイギリスにおけるフェアトレードの歴史が
比較的ながいこと、二つめは消費者のフェアトレードに対する認識が高いこと、三つめは
フェアトレードが大型店へ販路を広げていること、四つめはフェアトレードが EU の域内
政策に反映されているということである。
一方、日本のフェアトレードの現状について見てみると、まだ人々の間に普及している
とは言えない状況である。FLO の認証ラベルの付いた商品の販売量は欧米と比較すると極
めて少ないことが見て取れる。また IFAT に加盟し、フェアトレード団体マークを使用する
ことを許可された NGO なども存在するが、基本的に日本にフェアトレードが入ってきて日
が浅い。日本におけるフェアトレードの歴史が浅いことや、フェアトレードを普及させる
のに効果的な FLO 認証ラベルがあまり使用されていないことが理由となり、日本でフェア
トレードがあまり普及していないのではないかと分析した。そして、日本でもフェアトレ
ードを普及させるために、先ほど述べたイギリスの事例を一般化し、日本に当てはめて考
えた。そうすると、イギリスがフェアトレード普及に約 40 年かかったように、日本でも普
及させるためにはある程度の時間が必要であるのではないかと考える。そうすることによ
って、日本においてフェアトレードの認知度が低いという問題はある程度解決され、その
ことと連鎖するように大型店へ販路を広げることができるのではないかと考えた。そして、
35
フェアトレードが国際協力の一つの手段になるというように考えられるようになれば、フ
ェアトレードが日本の政策に反映される可能性も出てくるのではないかと分析した。そし
て、時間をかけながらも工夫できる点は工夫しながら日本でフェアトレードを広めるため
にどうすれば良いかということを考察した。日本でフェアトレードを広めるためには次に
述べる二つのことが重要であると考える。一つは「ビジネス型」と「提携型」のフェアト
レードがそれぞれの特徴を活かしつつ、それぞれの弱いところは互いに補っていくことと
いうように、役割を分担することである。二つめはフェアトレードについて人々に知って
もらうために、広報活動や宣伝活動に力を入れることである。「ビジネス型」のフェアトレ
ードはたくさんの人に知ってもらえるようなテレビコマーシャルや新聞の折込ちらしなど
を利用した広報活動・宣伝活動を行い、「提携型」のフェアトレードは生産者や生産地に関
するより詳しい情報を消費者に提供し、学校などで講演をするということも有効ではない
かと考える。また、その時に、フェアトレード商品を買うことで生産者の生活が少しでも
改善されているという実感が得られるようにすることが大切であると考える。
以上がこの論文で述べることができたことであるが、時間的な問題で扱い切れなかった
ことがある。それは企業の社会的責任(CSR)や社会的責任投資(SRI)についてである。これ
らのことについて本稿のなかで詳しく言及することができれば、フェアトレードの大型店
への販路の広がりや「ビジネス型」のフェアトレードのことについてさらに説得力のある
文章が書けたのではないかと思う。それから、第 2 章第 2 節において、十分フェアトレー
ドの必要が述べられないまま次の章に進んでしまったことを反省している。また、フェア
トレードの概要について詳しく調べるあまり、イギリスや日本の現状が十分調査できなか
った点が悔やまれる。
36
おわりに
筆者は以前、大学の国際理解という授業で「貿易ゲーム」を行ったこと。それは、グル
ープ(=先進国や発展途上国)ごとに紙(=資源)や鉛筆、コンパス(=技術や機械)などを使っ
て輸出品を作り世界銀行に買ってもらうという、実際の貿易を疑似体験するものだった。
筆者のグループは、紙はたくさんあるけれど、はさみやクレヨンが無い発展途上国だった。
他には、道具はそろっているけれど、紙が少ない先進国など、持っているものが違ういく
つかのグループに分けられた。各自の交渉次第で、紙と他のグループが持っているものを
交換することもできたのだが、自分の国の輸出品を作るのに一生懸命で相手にしてもらえ
ないということもあった。また、やっとの思いで手に入れたはさみが左利き用のはさみ(=
役に立たない技術)でがっかりしたこともあった。私たちのグループは少しでもたくさんの
商品を輸出しようとがんばったけれど、最終的な売上金額は先進国との間にとても大きな
差が出来ていた。このゲームを行ったことが筆者に貿易について関心を持たせるきっかけ
となった。
それから、筆者は論文執筆中の 2005 年 12 月に立ち上げられた「富大フェアトレード勉
強会」のメンバーとして参加するようになった。この会では、フェアトレードについて勉
強するとともに、富山大学でもフェアトレード商品を買うことが出来るようにしよう、と
いう取り組みを行っている。大学にフェアトレード商品を導入するには 1 年以上時間のか
かることで、筆者はフェアトレード商品が導入されるのを見ずして卒業してしまう。しか
し、大学を卒業して社会人になってもずっと、フェアトレードの動向について注目してい
きたいと思う。
最後に、この論文を最後まで仕上げることが出来たのは、自分ひとりの力ではなく、協
力していただいたみなさんのおかげだと思う。熱心に指導していただいた竹村卓先生と林
夏生先生、資料を貸していただいた経済学部の雨宮洋美先生、メールでの質問に答えてい
ただいた甲賀健さん、一緒に卒論を書き相談に乗ってくれた 4 年生のみんな、応援してく
れた 2・3 年生のみんな、本当にありがとうございました。
37
引用・参考文献一覧
北沢洋子・井上礼子・稲場雅紀・佐久間智子他『自由貿易はなぜ間違っているのか
市
民にとっての WTO』アジア太平洋資料センター(PARC)、2003 年
酒田芽久美・橋本明美・堀井香「身近な国際協力―フェアトレード―」富山大学人文学部
国際文化学科比較社会論コース、2001 年度後期、比較社会論実習Ⅱ提出レポート(未公刊)、
2002 年
デイヴィッド・ランサム著(市橋秀夫訳)『フェア・トレードとは何か』青土社、2004 年
富山県統計調査課編『経済指標のかんどころ
西川潤『世界経済入門
改訂 22 版』富山県統計協会、2002 年
第三版』岩波書店、2004 年
西川潤『世界経済診断』岩波書店、2000 年
マイケル・バラット・ブラウン著(青山薫・市橋秀夫訳)『フェア・トレード
を求めて』新評論、1998 年
宮崎勇・本庄真『日本経済図説
山本吉宣『国際的相互依存
第二版』岩波書店、2000 年
現代政治学叢書 18』東京大学出版会、1989 年
逐次刊行物
(雑誌)
『オルタ』2003 年 12 月号
『企業診断』2004 年 3 月号
『世界』2004 年 3 月号
『世界経済評論』2002 年 8 月号
『世界週報』2005 年 7 月 12 日号
『農業と経済』2003 年 5 月号、2004 年 4 月号
『農林金融』1998 年 10 月号
(新聞)
『朝日新聞』
『毎日新聞』
(通販カタログ)
『ピープル・ツリー2005 春夏号』2005 年 3 月
『ベルダ 2005 年春夏号』2005 年 2 月
38
公正なる貿易
参考ウェブサイト
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39