FEATURE1:急成長する世界のフェアトレード市場

フェアトレード
S p e c i a l Fe a t u r e
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フェアトレード
急成長する世界のフェアトレード市場
-途上国の人々の自立を目指す消費者運動として
拓殖大学
国際学部 教授
長坂 寿久
はじめに
ながりも感じられる。そういう商品を求め、
「もの
がたり」のあるおしゃれを楽しむ。そんな層が確実
「今日は一段と素敵ですね」
。知人の女性がおしゃ
に形成されている。
れなニットのカーディガンを着ていたので、声を掛
もちろん、あまり欲張るとコストが高くなり過
けてみた。すると、
「これ、教えていただいたフェア
ぎて、市場競争力に欠けるのではないかという懸
トレードショップで買ったものです」と、うれしそう
念もあるだろう。ごく一部の人が、途上国の産品
な返答があり、その後ひとしきり、カーディガンの
をチャリティ感覚で買っているに過ぎないという、
「ものがたり」を聞かせてもらった。フェアトレード
の普及に特別の期待を掛けている私としては、実に
愉快な時間を過ごすことになったのである。
「このカーディガンを編んだのは、ネパールの女性」
「フェアトレード団体がつくった職業訓練校で確か
な技術を身に付けて、ていねいな仕事をしている」
「安定した収入を得られるようになったので、子ど
もが学校に行けるようになった」
「生産者の『誇
さめた見方をする向きもあるようだ。
しかし、フェアトレードは慈善事業でもなければ
夢物語でもない。すでに幾多の成功モデルを持つ現
実的ビジネスであり、マーケットは急成長中である。
にもかかわらず、日本ではまだまだ低い認知度にと
どまっている。このままでは、日本は世界の潮流か
ら取り残されてしまうのではないかと、実は大変心
配しているところである。
り』と幸福につながる買い物ができて、とてもう
れしい気分」
「中に着ているカットソーは、インド
フ ェ アトレ ードと は 何 か ― フ ェ アトレ ードの
のオーガニックコットン。作る人にも、土壌環境
ビジネスモデル
にも、肌の弱い私にも、健康的」
「今や、フェア
トレードは私にとっての最高のブランド」
。近年、
フェアトレードは開発途上国の農家や零細生産
このような人が増えてきたことを体感している。
者の自立を支援するビジネスモデルである。現在
高品質で環境負荷が低く、生産者との人間的なつ
の経済システムでは「強い側」
、つまり先進国側企
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ていくおふ . Winter 2009
急成長する世界のフェアトレード市場 — 途上国の人々の自立を目指す消費者運動として
上国に最も厳しい影響を与えていくことになろう。
ていて、途上国の生産者は、ある意味で言いなり
ミレニアム開発目標(Millennium Development
に売らされ、市場の変化によっては捨て去られる
Goals = MDGs)の達成は困難になり、途上国への
という運命の中にいる。市場そのものに、格差をも
援助を含む資金移転も一層滞り、開発途上国の貧
たらす構造が内包されているのである。このまま
困と人権の実態は 9 0 年代以上に厳しいものになっ
では貧困層が増大する一方だが、それは人道的に
ていく恐れがある。その点で、新しい国際金融シ
見過ごせないという問題にとどまらない。貧困層
ステムの構築が必要であり、同様に世界貿易シス
の増大は世界の安全基盤そのものを確実に脅かし
テムも途上国側が一方的に不利になることのない
ているし、この中で「先進国」だけが安逸な生活を
システムに改革されていく必要を考えさせられる。
続けることは不可能である。途上国生産者の「自
この点で、現在の「アンフェア」トレードの構造
立支援」は、世界規模の「共生支援」と言い換えて
を見直し、生産者と買い手とが対等な関係であれ
もよい、まさに全地球的な課題といえるであろう。
ば達成されているはずの取引を現実のものにして
現下の国際金融システムの「崩壊」は、欧米経済
いくのが、フェアトレードである。
に大きな影響を与え、次いで日本、中国、インド
フェアトレードでは、まず生産者の安定収入保障
等々へ波及していき、さらに数年をかけて開発途
を優先する。人間的な生活維持を前提にした価格
設定(買い取り価格の最低額保障)と長期的契約関
係が軸になる。さらに、環境負荷を極力抑え、地域
の特性や伝統を重んじ、児童労働の排除を含めて
生産者の働く環境を健康的に保つことも、フェアト
レードの重要な要件である。
生産者側には民主的に運営されるパートナー団体
(協同組合や NGO など)をつくってもらい、先進国
側の輸入団体はその団体と関係を築いていく。この
現地側団体を通してさまざまな支援が可能になる。
前払い金の支払い、技術支援、技術指導による品
質向上や新たな雇用の創出、経営支援や研修にも
力を注ぐ。また、ソーシャル・プレミアムと呼ば
れる割増金を現地側団体に支払う。貯められたプ
レミアムの使いみちは、現地側団体が構成員全体
で相談して決定する。学校や診療所、図書館やコ
ミュニティセンター、あるいは井戸の建設、看護師
の採用、トラックの購入、インフラの改善などが
現実の使途となっている。このようにして、生産者
個人の自立に加えて、コミュニティ全体も自立して
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業が国際市場に関する情報や販路を一方的に持っ
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フェアトレード
いく。コミュニティに実力がつくと、製品の質は確
フェアトレード―生産者から消費者へ
実に向上するので、コスト面だけを考えても、これ
らは十分に「回収」可能な「投資」といえるだろう。
フェアトレードは、先 進国 側の一 時的 欲 求に
フェアトレード商品は、生産者と結び付いた団体
によって輸入され、消費者のもとへと届けられる。
従った輸入や現地生産という段階を脱して、人間
この団体が本当に「フェア」な運営をしているかど
尊重、自立支援の総合プログラムを伴うものである。
うか、理念を守っているかどうか、その認証と監視
2 0 0 6 年にノーベル平 和賞を受 賞したバングラデ
制度を設けているのが、国際フェアトレード連盟
シュのムハマド・ユヌス氏は、貧しい人々に少額の
(International Federation for Alternative
融資をして自立を支援するマイクロクレジット制度
Trade =I FAT)である。IFAT は明確なフェア
を始めた。このような、途上国の貧困問題や環境問
トレード基準を定め、条件を満たしている団体を
題などのすべての取り組みと、フェアトレードとは
認証する。消費者からすると、IFAT 会員である
つながっている。そして、そういった社会的取り組
ということを信頼の根拠にできる。
みや、環境への配慮を、商品の重要な「付加価値」
もう1つの認証制度としてフェアトレードラベル
であると考える層が、着実に広がっているのである。
機 構(F a i r t r a d e L a b e l i n g O r g a n i z a t i o n s
輸入団体は、生産者の周囲に、時にはハイエナ
International = FLO)の認証がある。FLO は商
のようにたかっている中間業者を排除して買い付
品に対しフェアトレードであることを保証する制度
けをする。つまり、
「国際産直」がフェアトレード
である。FLO の基準に従って生産する生産者の商
のもう1つのコンセプトといえる。このことによっ
品に認証が与えられ、その商品を輸入して販売す
て、仕入れ値が通常より高くても、国内の卸販売
る場合、FLO のロゴを付けて売ることができる。
価格を抑えることが可能となる。さらに前述のよう
フェアトレード商品を扱おうとする場合、独自の
な高品質化、付加価値化などによって、国内市場
フィールドを持ち、生産者団体を組織して技術指導
で十分に競争力を保つことができるのである。
を継続するのは、とても大変なことである。そこで、
片足を途上国生産者の自立支援に、もう片足を競
スーパーなどの一般企業が扱いやすいように、この
争の厳しい市場に置いているのが、フェアトレード
FLO の認証制度が開発された。企業やショップはラ
である。このバランスをとってビジネスとして成立
イセンス料を支払い、生産者から直接、あるいは中
させつつ、フェアトレードの目的を逸脱させない。
間業者を経て製品を仕入れて、FLO 認証マークを
そこがまさに、経営の妙ということになるであろう。
付けて販売することができ、消費者はこのマークを
フェアトレードはビジネスモデルとしてすでに
選択材料にして購入することができる。FLO は世
確立され、国際的なネットワーク組織や認証団体に
界の 2 0 カ国に支部のような関係団体を持ち、日本
おいて明確な基準も定められている。しかし、依然と
にはフェアトレード・ラベル・ジャパン(Fairtrade
して進化の途上にあることも事実である。そのため、
Label Japan =FLJ)が設置されている。
最先端ではさまざまな実験や挑戦が行なわれてい
3 つ目の取り扱いケースとして、IFAT の会員
るし、定義の奥行きと幅を多様化させている部分も
ではなく、独自の理念に沿って生産者との関係を
ある。実に魅力的な領域だといえよう。
構築しつつ、輸入して販売する団体がある。こう
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急成長する世界のフェアトレード市場 — 途上国の人々の自立を目指す消費者運動として
販路数
ツリー)
、ネパリ・バザーロ、ぐらするーつ、シャプラ
店
3,931
ニール、シャンティ国際ボランティア、ピースウィ
112,439
ンズ・ジャパン、パルシック、スローウォーターカ
フェアトレード専門ショップ
スーパーマーケット ショップ、フェアトレード・カンパニー(ピープル・
金額(千ユーロ)
フェなどの団体がそれに当たるが、これらは NPO
輸入団体
499,809
法人形態もあれば株式会社や有限会社といった
フェアトレード専門ショップ
132,463
企業形態をとっているものもある。こういった企
販売額
ラベル(認証)
2,381,000
出所:FINE / DAWS(オランダ世界ショップ協会)
図表 2 欧州(EU28カ国)におけるフェアトレード市場の推移
業は、今風に言えば、ソーシャルベンチャーある
いは究極の CSR 企業といえるだろう。
もう1つの中心的存在が、欧米では「ワールド
ショップ」と呼ばれているフェアトレードの専門
輸入団体数
2000 年
2004 年
2007 年
合計
97
200
254
ショップである。日本でも都道府県庁所在地に、
販路数
2000 年
2004 年
2007 年
すでにこういうショップが存在するようになった。
2,740
2,854
3,191
スーパーマーケット
43,100
56,700
67,615
販売額(千ユーロ)
2000 年
2004 年
2007 年
食品店、日用品店などでも、フェアトレード商品を
輸入団体
118,900
243,300
422,225
41,600
103,100
132,463
販売するケースが増えている。オンラインショップ
認証団体商品
208,900
597,000
1,553,600
小売販売額(千ユーロ)
2000 年
2004 年
2007 年
合計
260,000
660,000 1,699,000
フェアトレード専門ショップ
フェアトレード専門ショップ
出所:FINE / DAWS(オランダ世界ショップ協会)
また、輸入団体自らの専門ショップもある。その
ほか、オーガニックショップ、エコショップ、健康
も活発化しているし、一般企業での取り扱いも大
きな割合を占めるようになっている。
フェアトレードの普及―世界の動向
した団体は IFAT 以外の各国のフェアトレード連
欧米におけるフェアトレード・ビジネスの伸びに
合組織に参加するか、あるいは団体自身が理念と
は目を見張るものがある。2 0 0 1 ~ 0 4 年には年率
評価基準を明確に提示・公開することで、フェアト
2 0%、2 0 0 4 ~ 0 7 年の 4 年間には毎年 3 0% もの成
レード団体であることの保証を得ている。日本で
長を記録している。欧米では 8 0%以上の人々がこ
は現在、フェアトレード・カンパニー(ピープル・
の言葉を知るようになった。フェアトレードは世界
ツリー)とネパリ・バザーロの 2 団体が IFAT に加
で最も高い伸びを見せている消費財部門といえる。
盟し、他の団体は自らの理念と生産者のフェアト
欧州を中心とする国際的なフェアトレード・ネッ
レード的期待にいかに応えているかを公開するこ
トワーク組織 4 団体1 がつくっている FINE とい
とによって、社会的信頼を担保している。
う団体の協力で実施され、この 10 月に発表された
フェアトレードの先進国側の中心的プレーヤーは、
「フェアトレード 2 0 0 7 年、3 3 消費国 報 告 」によ
開発途上国の生産者の自立を支援する輸入団体で
ると( 図表1、図 表2)
、2 0 0 7 年 の 先 進 3 3 カ国
ある。日本ではオルタトレード・ジャパン、第 3 世界
(EU2 8 カ国、米、加、豪、ニュージーランド、日)
1:国際的なフェアトレード連合組織:FLO(フェアトレードラベル機構)
、IFAT(国際フェアトレード連盟)
、NEWS!(欧州ワールドショップ・ネットワーク)
、
EFTA
(欧州フェアトレード協会)
。この 4 団体は頭文字をとって FINE という非公式会合を持ち、共同で EU 本部のあるブラッセルにロビー事務所を開設している。
米国には Fair Trade Federation(フェアトレード連盟)がある。日本にはまだフェアトレードのネットワーク組織はない。
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図表 1 世界先進 3 3ヵ国のフェアトレード市場(2007年)
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フェアトレード
のフェ アトレ ード小 売 販 売 額 は 2 6 億 5,0 0 0 万
ユーロ(1 5 0 円換算で約 4,0 0 0 億円)とのことで、
前年比 4 1% 増となっている。統計がより正確にと
れる欧 州に限 定 すると、2 0 0 0 年の 2 億 6,0 0 0 万
ユーロ、0 4 年の 6 億 6,0 0 0 万ユーロから、2 0 0 7 年
には 1 6 億 9,9 0 0 万ユーロと、0 4 ~ 0 7 年の 4 年間
に 3 倍近い伸びを示している。
フェアトレード商品は途上国の人々が手作りす
るクラフト類から発達し、現在では食品、衣料を
中心に、すでに 3,0 0 0 品目以上が開発されている。
欧米ではすでにニッチ市場以上のものになってい
るのである。スイスではバナナ市場の 5 5%、生花
の 2 8%、はちみつの 1 6%、砂糖の 1 5% をフェアト
レードが占め(いずれも 0 6 年)
、英国でもコーヒー
市場の 2 0%、紅茶の 5%、バナナの 5.5%(いずれ
も 0 4 年)を占めるまでになっている。
(図表3)
また、スターバックス、マクドナルド、ダンキン
この背景には、多くの企業の力が大きく働いて
ドーナッツなどのカフェやレストランチェーンがこ
いる。企業による取り扱いの急増が、市場を大き
ぞって扱うようになった。コーヒー、紅茶、砂糖
く拡大する推進力となっているのである。
を中心としたフェアトレード食品の扱いが、レスト
英国では、生協や、マーク & スペンサー、サンズ
ラン、喫茶店、ケータリングなどの「アウト・オブ・
ベリー、テスコなどの大手スーパーが、コーヒーと紅
ホーム市場」で増えていることも報告されている。
茶のすべてをフェアトレード商品に転換し、その他多
ノボテルなど、フェアトレード製品を扱うホテル
くのフェアトレード商品を扱うようになっている。
チェーンも登場した。ライアンエア、エアベルリン
フランスのカルフール、ドイツのレーヴェ、米国の
などの航空会社でも、提供されるコーヒーをフェア
ウォールマートをはじめとした全国的なスーパー
トレード製品に切り替えている。
がフェアトレード商品を日常的に扱っている。スー
さらに世界有数の多国籍企業である、コーヒー
パーではフェアトレードの品揃え競争が起こってい
メーカーのネスレやバナナのドールなどもフェアト
る感さえある。
レード商品を扱うように変化している。
図表 3 スイスと英国における主なフェアトレード認 証商品の市 場シェア
バナナ
スイス
英国
コーヒー
55%
4%
5.
5%
20%
注:スイスは生花を除き2006 年、生花は2004 年。英国はすべて2004 年、_ は不明。
出所:FLO
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生花
はちみつ
砂糖
紅茶
28%
16%
15% 6%
-
-
-
5%
急成長する世界のフェアトレード市場 — 途上国の人々の自立を目指す消費者運動として
図表4 フェアトレード認証商品の1人当たり消費額(2007 年)
単位:ユーロ
では、フェアトレードの促進に莫大な投資を行な
国名
うとともに、一部ではフェアトレードに限定した商
消費額
品ラインも作られ始めている。オーストリアの中堅
スイス 21.06
チョコレートメーカーのツオッター(Zotter)は、
英国 11.57
すべてを「オーガニックでフェア」にすると表明し、
デンマーク
7.27
ルクセンブルグ
6.72
フィンランド
6.56
レクト(英国)なども、そうしたフェアトレード・ブラ
オーストリア
6.36
ンドの1つである。
アイルランド
5.40
スウェーデン
4.66
ノルウェー
3.87
ベルギー
3.31
途上国の人々が作ったジュート
(麻)の買い物バッグ
フランス
3.31
を使おうというキャンペーンは、環境問題と連結し
オランダ
2.90
て世界に波及していった。現在ではビジネス世界
米国
2.43
カナダ
2.42
ドイツ
1.72
禁止とする決定をした。東京の杉並区なども、プラ
イタリア
0.66
スチックバッグの有料化を条例として定めている。
オーストラリア
0.44
ニュージーランド
0.44
日本 0.06
チョコレートの中身すべてをフェアトレード・ブラ
ンドで育てたオーガニック製品にしている。ディバ
イン・チョコレート(英国)やコーヒーのカフェダイ
フェアトレード団体は、フェアトレードそれ自体
以外にも社会的影響を持っている。例えば、買い物
の際にプラスチックバッグを断る運動は、ドイツの
フェアトレード団体が 3 0 年前に始めたものである。
でも大がかりに展開されるようになり、サンフランシ
スコ市議会では、2 0 0 7 年 3 月にリサイクルの難し
いプラスチックバッグをグローサリーストアで使用
日本の現状と特質
フェアトレード国際市場の大きな伸びに比して、
1
出所:FLO
日本の反応は依然として鈍いと言わざるをえない。
FINE の調査でも日本は十分カバーされておらず、
FLO による認証商品の1人当たり購入額では、日
市場規模は明らかにされていない。私なりに現段
本は最も低い国となっている(図表4)
。市場規模
階を試 算したところ、恐らく 2 0 0 7 年で 7 0 億円
も認知度も「期待値」を大きく下回っているといえ
(1 5 0 円換算で約 4,6 0 0 万ユーロ)ほどではないか
るだろう。
と思われる。
日本のフェアトレード市場の規模や、各ショップ
しかし近年、成長への予兆を強く感じるように
の実態などは、実はよく分かっていない。前述の
なった。5 月のフェアトレード月間でのイベントの
ていくおふ . Winter 2009
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生協やマークス & スペンサーなどのスーパー系
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フェアトレード
数や参加者数が大きく増えていること、そして若
ショーは、非常に感動的なものであり、ぜひご覧
い世代を中心として、強い関心を示す層が広がっ
いただきたいと思う。
ていることなどが、その根拠になっている。限定
日本の各地で、個人の熱意によって展開されて
的とはいえ、日本企業も次第にフェアトレード商品
いるフェアトレードショップが地域コミュニティ再
を扱うようになってきた。
生のために重要な役割を担っていることも、大切
イオン・グループ(トップバリュー・ブランド)
、
なことである。そのほか、フェアトレード輸入団体
無印良品、スターバックス、タリーズ、ナチュラル・
の商品と FLO の認証商品との相互乗り入れが比較
ローソンなどがコーヒーを中心にフェアトレード商
的進んでいること、従って市場が柔軟に拡大する可
品を扱っている。また、デバートでも、しばしば
能性があることも、特徴として挙げられるだろう。
フェアトレードのイベントが行なわれている。特に
バレンタインデーの季節には、チョコレートを中
フェアトレード・キャンペ ーン ― 企 業 の C S R
心にフェアトレードイベントの開催が活発である。
として、自治体の地球的責任として
ココアとチョコレートについては、チョコレボと
ACE(児童労働に反対する NGO)がガーナのココ
21 世紀は、世界的な格差の拡大や環境問題など、
ア栽培農家とのフェアトレードプロジェクトを進め
誰もが地球的関心を持たずにはいられない時代で
ようとしているのも楽しみなところである。
ある。先進国の私たちがそれらの問題を真面目に
このようにフェアトレードへの関心を企業も持つ
ようになっているのは、CSR の動きへの対応もあ
るが、フェアトレード商品が国際的なプレミアム商
品となっている点もあると思われる。さらに、政府
の開発援助(ODA)の対象として、草の根無償技
術協力やジェトロ(日本貿易振興機構)事業でフェ
アトレードを支援する動きもある。
日本のフェアトレードには、いくつかの積極的特
徴が明確に見られる。1つは、現地生産者との関
係において、各輸入団体が実に熱心かつまじめに
取り組んでいること。
「世界で最も厳しい消費者」
のニーズに応えて、品質向上に必死に努め、それに
成功しつつあることである。日本のフェアトレード
団体による優れたファッション衣料は国際的な注
目を浴びている。ピープル・ツリーがヴォーグ・
ジャパンとのコラボレーションに成功しているこ
とは、フェアトレード業界の中でも、画期的な前
進といえるだろう。フェアトレードのファッション
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ていくおふ . Winter 2009
とらえ、解決策を考える。フェアトレードは、その
急成長する世界のフェアトレード市場 — 途上国の人々の自立を目指す消費者運動として
日本でも多くの若い世代がフェアトレードに関
ようだが、実現に当たっては、各地元企業が例外
なく大きな役割を果たしている。
心を持つようになり、学生のネットワーク組織であ
商品としての取り扱いだけでなく、
「職場でフェ
るフェアトレード学生ネットワーク(FTSN)も設
アトレードを」というキャンペーンも行なわれて
立されている。生産から消費にかかわる企業の
いる。企業が社内で提供する飲食物をフェアト
すべての経営活動が「フェア」であることを求め
レードに切り替えようというもので、これも次第に
る消費者も増えてきた。しかし同時に、実力の
普通のことになってきている。議会(EU 議会も)
ある企業こそが、
「新しい消費者」=「選択者」と
や政府機関をはじめ、劇場や公的機関などのキャ
いうライフスタイルを提 案 できるともいえるだ
ンティーン(食堂)ではフェアトレードを提供する
ろう。今後は、こういった社会的責任を果たす企
のが当然という状況に移行しつつある。英国では、
業が、消費者に選ばれ、支持されていくことは明
英国議会、スコットランド議会、ウェールズ議会、
白と思われる。
貿易産業省、保健省、国際開発省、財務省などが
現在、最も注目されている国際キャンペーンの
1つが「フェアトレードタウン(Fair Trade Town)
」
フェアトレードを採用している。特に自治体のこう
いった採用の急増には目覚ましいものがある。
である。2001 年、英国・ガースタングの町に 4,0 0 0
また、公共調達においては、環境適合性を優先
人に上る人々が集まり、市民や市議会にフェアト
する「グリーン調達」制度に加えて、
「フェアトレー
レードに関する意識向上を働きかける行動を試
ド調達」が進んでいる。ODA によるフェアトレー
みた。この運動は大きな成功を収め、ガースタン
ド支援を強く進めている国も増えているし、EU 議
グは「世界で最初のフェアトレードタウン」という
会ではフェアトレードを本格的に支援する決議を
栄誉が与えられることになった。このプロジェ
行なった。フェアトレードを法的に保護しようとす
クトはその後、英国のフェアトレード財団が中
る動きも複数の国で起こっている。
心となって、基準の設定・整 備を行い、欧州全
こういった世界の潮流の中で、日本社会が今後
体のプロジェクトへと発展した。欧州の 1 0 カ国
どのような選択をしていくかが、大きな岐路となっ
( 英国、オー ストリア、ベルギ ー、フィンランド、
ていくことだろう。アジア初のフェアトレードタウ
フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペ
ンの名誉はどこの自治体が獲得するのか、フェア
イン、スウェーデン)
、さらには、米国、カナダ、
トレード推進の功労者として尊敬を集めるのはど
オ ー ストラリアに もフ ェ アトレ ー ドタウンが 広
の企業なのか、楽しみなところでもある。
がっている。
英国では、すでに 3 2 0 以上の自治体が議会決議
を経てフェアトレードタウンを宣言している。この
制度は、フェアトレード教会やシナゴーグ、フェア
トレード大学などの仕組みにも展開されている。
各国の FLO や関係団体などが中心的な調整役を
果たして、自治体の活動を応援するケースが多い
PROFILE
長坂 寿久 ( ながさか・としひさ )1942 年、神奈川県生まれ。
65 年明治大学政経学部卒業。同年ジェトロ(日本貿易振興機
構)入会。シドニー、ニューヨーク、アムステルダム駐在を務
める。99 年より拓殖大学国際学部教授(現職)
。国際関係論
(NGO・NPO論)を専攻。
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ダイナミックな行動の「入口」に位置している。
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