いつまでも若々しく 川畑明子 - Lifestudies.Org

大阪府立大学人間社会学部人間科学科森岡研究室レポート
2013 年度
http://www.lifestudies.org/jp/univ/report.htm
いつまでも若々しく
:それではなぜ人は生きるのか
川畑明子
はじめに
わたしは、身近な人たちが歳を重ねることについて、ネガティブな発言をしているのを、
特に最近よく耳にするようになった。歳をとってしまうと将来に希望が持てない、といっ
たことや、若さをうらやむような内容である。年上の人に、「若いからいいね」と言われる
こともよくある。まるで若いということが、無条件に良いことであるかのような言い方だ。
そして年齢に関係なく多くの人が、自分のあらゆる側面において、若さを維持しようと必
死になっている。それでもわたしたちは、この地球上に命を授かった瞬間から、一秒も休
むことなく歳をとってゆき、死にどんどん近づいていく。これはすべての人が経験するこ
とであって、時の流れを止めることはできないし、誰にも逆らうことはできない。“歳を重
ねること”は避けるべきことなのだろうか。もしそうだとすれば、わたしたちは意味のな
いことに向かって、毎日一生懸命生きていることになるのではないか。本レポートでわた
しは、“人が歳をとるということ”、
“どの年代の人でも向き合っている老いの意味”につい
て、考えていきたい。
第一章
歳を重ねることとは?
1.言葉の定義
老いが一般的にどのように解釈されているのかを、老いに関する言葉をいくつか挙げ
てみていきたい。
・老化…①歳をとるにつれて生理機能がおとろえること。②時間の経過とともに性質が
変化すること。ゴムが硬化・ひび割れ・軟化・粘着などをおこす類。劣化。(広
辞苑
第二版)
・加齢…①新年または誕生日を迎えて齢を増すこと。加年。(広辞苑
②年老いること。(広辞苑
第二版)
第六版)
・アンチエイジング…anti aging 老化を防止すること。多く、医療・美容などで言う。老
化防止。抗老化。(広辞苑
1
第六版)
・美人(佳人)薄命…とかく美人に生まれた人は不幸せだったり、病弱で早死にしたり
することが多いということ。
「美人薄命にして才子多病なり。
」雪中梅 1886
「桜ほどその美人薄命の感じを代表している花はない気がします
ね。」竹沢先生といふ人 1924-25
(日本国語大辞典
・亀の甲より年の功…長年の経験の貴ぶべきことのたとえ。(広辞苑
第二版)
第二版、第六版)
辞書的な意味を見ると、「老化」は主に否定的な変化を示している。
「加齢」は、広辞苑
第二版には①の意味しか記載されておらず、歳をとるという事実のみを指すものであった
が、第六版には②の意味が加えられていた。また、「アンチエイジング」についても、第二
版ではこの言葉自体が辞書に記載されていなかった。これらの事実から、近年になって年
齢を重ねることに人々が嫌悪の意識をより強く持ち始めたことがわかるのではないかと思
う。また、「美人薄命」の例文を読むと、はかないことが美しいとされる考え方も読み取る
ことができる。この考え方は、長寿や老いに対する悪いイメージにつながってしまう可能
性があるのではないだろうか。一方で、「亀の甲より歳の功」のように、加齢が精神面にお
いて成長をもたらすことを表す言葉もある。
2.老いに対する意識
先に述べたように、老いに対する否定的な発言を最近よく聞く。ではこの否定的な発言
は何によるものなのだろうか。老いに対する意識は、住んでいる環境が異なれば変わって
くるのではないだろうか。このような疑問から、日本以外の国にルーツを持つ知人たちに
話を聞いてみることにした。ただし、これは個人の意見であって、必ずしもその国全体の
考え方を表しているわけではない。
質問:“歳を重ねる”ということについて、あなたの国では一般的にどのようにとらえ
られていると、あなたは感じますか?
回答:韓国
20 代女性
20 代までは加齢をあまり意識しないが、30 代になると気にするよ
うになる。理由は、30 代になると、仕事や私生活において独立した
女性として生活しなければならないから。
中国
20 代女性
加齢は、絶対避けられず誰もが直面するため、大きな問題ではない。
美容整形などを利用して若く見せようとする人もいるが、それは外
2
見だけで、その人自身を変えることは不可能である。
20 代女性
老化を嫌う人々は、外見(しわの予防など)の若さを保ちたいと思
っている。
20 代男性
日本では、人に年齢を尋ねることは失礼に当たるが、中国では失礼
とは考えていない。
ベトナム
20 代男性
多くの若者たちが、今より若くいたいと思っている。自分のやりた
いことができる時間と機会をもっと得たいと思っているからであ
る。
トルコ
20 代男性
富裕層は加齢を嫌う。若い頭脳を維持し、高価な車、家、衣類など
を買い続けたいと考える。またお金を投資して若さを保とうとする。
(=アンチエイジング)貧困層は毎日生きていくことに精いっぱい
であるため、加齢は問題ではない。
フランス
30 代男性
歳を重ねると、より多くの責任を負うことができるようになること
だと考える。責任を与えられることは、重要な人物と見なされるこ
とであり、人々はそれを好む。肉体が衰弱することは望まないが、
責任を与えられることを望んでいる。
20 代男性
フランスでは 18 歳から大人と見なされるため、日本人に比べて精神
的に大人になるのが早い。
20 代男性
フランスは日本と比べて上下関係が厳しくない。誰が年上で誰が年
下かも重要なことではないし、結婚のような年齢と強い関係がある
とされることでも、年齢は重大な問題ではない。年齢についての同
調圧力が強くないから、さほど問題にしない。
ベナン
20 代男性
歳をとることは成熟を意味し、特に男性の場合、社会でより多くの
責任を負うことを期待される。フランスによる植民地化に伴う近代
化以前は、村の若者は毎晩集まって大人が話す人生の経験を聞き、
知識を得ていた。そのため、人は歳をとればとるほど賢くなると考
えられている。しかし、学校教育の導入によってこのような教育方
法が失われていったため、若者の、大人や老人への尊敬の気持ちが、
3
以前に比べるとなくなっている。
エル・サルバドル
30 代男性
人々にとって歳をとることは不安なことである。年金が安く、高齢
者に対する国の制度がしっかりしていないためである。また、高齢
になって、自分の子どもに世話などの負担をかけたくないという気
持ちも大きい。
カナダ
40 代女性
人の年齢を尋ねることも、尋ねられることもほとんどない。相手の
それまでの人生は気にかけず、現在その人がどのような人物である
かを重視する。
人々の老いに対する意識を形成するものは、様々な事柄が複雑に絡み合っているであろ
うから、簡単に決定することはできないが、このインタビューを通して、老いに対する意
識に特に大きく関わっているものが 3 つあるといえるのではないかとわたしは感じた。そ
れは、金銭・外見・責任感である。人々の意識を大きく左右するのが、個人、あるいは個
人がおかれた社会の金銭問題である。そのレベルによって、まず加齢そのものを意識する
かどうかがわかれる。そして金銭が原因の老後の不安という問題も発生する。次に、老い
を問題視し、嫌う人々の悩みの種のなかで、大きな割合を占めるのが、見た目の変化では
なかろうか。多くの人がその変化を醜いと感じて、可能であればお金や時間を投資して避
けようとしている。この点については、3章で詳しく取り上げようと思う。そして最後に、
加齢による成熟に伴って与えられる、責任である。これは精神的な面での加齢で、責任を
与えられることで一人前の成人と認められるといえる。時に重荷に感じたり不安になった
りすることもあるだろうが、この責任感を、人々は自分の成長だと理解していると思われ
る。
第二章
社会と老い
1.現在の日本
ここでは、現在の日本が、加齢に対してどのような意識を持っているのか、『老福論~人
は老いるほど豊かになる』一条真也著を参考にしながらみていきたい。
まず一条真也は、現代の高齢者問題を、「これまでに経験したことのない状況に直面し、
どうしていいかわからず、人類全体が「老い」を持て余している。」¹と指摘している。そ
して、現在の日本の社会について、堺屋太一²の言葉を用いて、「嫌老好若社会」であると
4
いう。「嫌老好若社会」は、「物財の供給こそ人間の幸せ」と考える近代工業社会に特有の
現象である。近代工業社会では、経験や蓄積よりも、素早く反応できる運動神経、長時間
労働に耐えられる体力、次々に導入される新しい技術を速やかに覚えなじむ記憶力=若さ
が重視される。規格大量生産によってモノに対する愛着が湧かず、使い捨ての習慣が広ま
った。モノも人も新しい方が良いと考えられるようになったのだ。また人口増加によって、
若い労働者が数多く生まれるようになった人口構造の社会では、高齢者は早期に引退し、
若者に職場と財産を譲るべきだと考えられている。²以上を、一条は「嫌老好若社会」が出
来上がる理由として述べている。さらに彼は、現代の日本文化を「若さの文化」と名付け
ている。このような社会では、エネルギーやスピード、大きさに価値が置かれ、力や量の
論理がまかりとおるのである。³
一条が名づけた「若さの文化」は、毎日の生活の中で、肌で感じることができる。例え
ば携帯電話はいつの間にかスマートフォンに取って代わられ、そのスマートフォンも次々
と新しいものが発売される。少し遅れていると感じると、ものすごく焦ってしまう。流れ
についていけない人は放っていかれる。近頃は特にタブレット端末の技術が急速に発達し、
様々な形で生活に取り入れられるようになってきている。すると、それについての知識が
少ない人や、あまり関わりのない人たちは、それだけで排除されてしまう傾向にあるので
はないだろうか。また、大阪には最近新しい商業施設がたくさんオープンした。メディア
でもほとんど毎日取り上げられ、話題になっていた。その一つに足を運んでみると、人が
大勢ごった返し、敷地面積が非常に広い。にもかかわらず、少し腰をおろして休憩できる
ような場所が、通路には全くと言っていいほどなかった。これでは、年配の人たちや身体
の不自由な人たちが来るのを自動的に制限していることになってしまうのではないか。授
乳室や幼児が遊べるスペースが充実していて、若者や家族連れが楽しめるお店がたくさん
あっても、それは本当に街が元気になっているとは言えないのではないだろうか。今の社
会は、若者をターゲットにしたものを中心に回ってしまっているのである。
2.様々な社会での加齢
ここでは、現代日本の嫌老好若社会以外の地域や社会に目を向けていきたい。『老いの人
類学』青柳まちこ編も加えて参考にする。
まず、敬老文化に満ちた社会の例を挙げて考察する。一条によると、古代エジプトでは、
老人は弱者ではなく、「経験」「知恵」をもった尊敬すべき存在であり、だからこそ大切に
する、という本物の敬老精神があった。ピラミッドをはじめとした壮大な「死」の文化を
誇っていたため、「老い」に対しても豊かな文化を持っていた。年をとり経験を積むと、人
間は賢くなると考えられており、老人は知識の宝庫で、伝統の継承者でもあった。老人は
社会全体から尊敬され、実質的に守られていたのである。壁画などに、多くの若者が老人
を人生の師としていた様子が描かれていることからも、敬老精神が感じられる⁴。片岡順に
5
よると、沖縄は世界一の長寿地域である。その要因として、恵まれた環境条件や食文化、
自由でのんびりとした県民性など、様々なものが挙げられているが、特筆すべきは、老人
と長寿に対する考え方である。沖縄では、高齢になっても年齢に応じた仕事や役割がある
ため、老人たちは社会に貢献して生きがいと収入を見出すことができる。また超長寿を祝
う儀式が、社会全体で盛大に行われて、人との繋がりを確認でき、高齢者自身がひとつの
目標を達成したことによる満足感を覚えることができる⁶。ベトナムでは、民法に敬老の義
務が定められているなどの国家政策がとられている。村では、長寿を盛大に祝う儀式がお
こなわれる。老人はより多くの幸福を若い者にもたらすと考えられているため、人は高齢
になればなるほど、家族親族の範囲を超えて一般的尊敬を集めてゆく。家庭では、幼いこ
ろから目上の者に対する礼儀、敬老のしつけがなされ、老親への敬意は子の自発的な孝行
の心が言葉や行動に表れたものでなくてはならないと考えられている。以上のように、ベ
トナムでは国家、村、家すべてにおいて敬老思想が行き渡っていることを、比留間洋一は
指摘する⁶。鷹木恵子は、アラブ・イスラーム社会における老いについて述べている。日本
を含む先進諸国が「高齢社会」とされる一方で、アラブ・イスラーム諸国やアフリカ諸国
などは、「若齢社会」と呼ぶことができる。そのため、高齢者の問題よりもむしろ、若者の
雇用の創出などが大きな社会問題になっている。イスラーム教の聖典『コーラン』をみる
と、特に両親に対するいたわりや敬愛の念が説かれている。これは、自分に一番身近な高
齢者である両親ばかりでなく、弱者一般に対するいたわりや配慮にもつながるのだという。
そして興味深い点は、老いる」という言葉そのものだ。アラビア語には「老いる」を表す
単語がふたつある。ひとつ(shakha)は、肯定的なニュアンスをもつもので、加齢ととも
に増す知識や経験、権威や威厳など、社会的に重要な役割を果たす側面を指す。もう一方
(‘ajaza)は、「老いて衰える」という否定的な含意を伴い、身体的体力的に衰弱していく
側面を指す。派生語の「老人」
(‘ajuz、
‘ajuza)には、弱者への配慮や憐れみを喚起するニ
ュアンスがある。ただし、注意しておかなければならないことは、宗教の関係上、男女で
扱われ方に大きな差があるということである。⁷
ここで、例に取り上げられている社会の共通点を挙げてみることにする。それは、人々
が高齢者の経験や知識を尊敬しており、その考え方が、方法はそれぞれの社会によって異
なるが、人々の心にしっかりと根付いているということ、そして、儀式であったり仕事や
役割であったりと、いくつになっても生活の中に楽しみや目標があるということである。
わたし自身が置かれている現代の日本社会について考えると、敬老の精神があるとは感じ
るが、それがなんらかの形でしっかりと受け継がれているかと言われると、そうとは思え
ない。電車の優先座席を例にしてみても、乗車すると毎回、車掌による丁寧なアナウンス
があるにも関わらず、乗客はそのアナウンスをほとんどバックグラウンドミュージックか
のように聞き流して、正しく守っている人は非常に少ない。また、高齢になってからのお
祝い事というものも耳にすることがほとんどない。成人式や結婚式を終えると、人生の節
目を祝う大きな行事はない。高齢者の役割についても、社会的にはあまり無いのではない
6
だろうか。高齢になっていくにつれて、衰弱していくと考えられ、役割を任せるどころか、
仕事を奪ってしまっているのではないかと感じることさえある。高齢になって何か楽しみ
や目標を持つことは、毎日の生活に活力が見いだされる。ここで参考にした社会では、自
然にそのようにできあがっているといえる。また、アラビア語の「老いる」という単語に
ついてはとても興味深い。日本語の「米」を表す単語がたくさん区別されているように、
「老
いる」という一つのものを表すのに、複数の言葉があるということは、アラビア語話者た
ちが老いに対してより関心があるということであろう。そして、その意味の分かれ方をみ
ると、衰弱と成熟をどちらも、頭に思い描き説明することが容易になっていると感じる。
日本で「老い」というと、多くの人が否定的な意味でとらえてしまうのと比べると、単語
に表れている関心の深さが、敬老やいたわりの精神に繋がっていると考えることができる。
次に、老いに対する複数の考え方を経験した社会について考察したい。時代を古代にさ
かのぼると、古代中国と古代ローマでは、嫌老好若社会と好老社会の両者を同時に持ち合
わせていた可能性があると一条は述べている。古代ローマでは元老院という組織があり、
高齢者が政治を仕切っていた。また古代中国では孔子による儒教の教えや老子の思想から、
敬老や尊老の念が大切にされ、老いは円熟であると考えられた。一方で、古代ローマにお
ける彫刻や、司馬遷の『史記』に代表される古代中国の芸術作品は、若者をモデルとして
いるものが多い。スチュアート=ヘンリはカナダの先住民、イヌイトの老人に注目した。
20 世紀前半までのイヌイトの老人たちは、次のような重要な役割を担っていた。知識と知
恵を次世代に伝えること、ものごとを丸く収めること、結婚相手の決定、赤ちゃんの命名
などである。しかし、欧米化され定住するようになったイヌイトの老人たちは、それまで
と同じような役割を果たす必要がなくなってしまった。そこでイヌイトの老人たちは、欧
米化された社会のなかに、イヌイトらしさを継承するため、若者たちにイヌイト文化を伝
えるなど、自ら役割を生み出しているのである。⁸
敬老と嫌老のせめぎあい、または老いに対する意識が変化するのは、何らかの形で社会
の状況が安定していないからであるといえる。古代にはおそらく紛争が絶えず起こってい
たであろうから、若くて力のある肉体と、経験を重ねて成熟した精神、戦いに勝つための
知恵や知識が必要であったのだと考えられる。それが、ひとつの社会に敬老と好若が共存
していた理由ではないだろうか。イヌイトの、自ら役割を創出したことについては、現代
の日本にはないやり方だと感じる。日本では、科学技術の発達がどんどん進むと、昔の知
識や知恵は必要ないと考えられ、老人が疎われることが多い。しかし、昔がなければ現在
は存在しえないのであり、昔の経験、知恵や知識は必ず現在にもつながっている。昔の知
恵を大切にすることはまた、老人を大切にし、彼らの役割を作り出すことにもなるのだ。
絶えず変化し続け安定しない現代の日本社会は、イヌイトの生き方にも学ぶべきところが
あるのではないだろうか。
7
第三章
女性と加齢
1.若くて美しいとは?
「○歳若返る」「目指せマイナス○歳」など、街を歩いていて、アンチエイジングをうた
った言葉を目にしない日はない。そこで、具体的にどのようなキャッチフレーズがあるの
か、女性たちがどのように若返りたいのか、女性誌を参考に考えていきたい。
▼『MORE』2013 年 3 月号
(20 代後半~)
・P.26 目元用美容液
「生まれたての悩みの知らない肌」ESTEE LAUDER
アドバンスナイトリペア
・P.32 レーザー美容
「1 つ、ふっくらと乾燥小じわを目立たなくする。2 つ、UV ダメージに対抗して、活
き活きとした肌をキープ。3 つ、肌を健やかに保ち、押し返すハリ感をキープ。ハッと
する違いは、目元の感触から始まります。」CLINIQUE
・P.46 基礎化粧品
「肌本来の輝きを取り戻すケア」CLINIQUE
・P.130 レシピ
「勝ち組美容
・ふろく
美肌&アンチエイジング」
ストレッチ
「美しすぎる 49 歳
樫木裕実さんのカーヴィーダンス」
▼『GLAMOROUS』2011 年 12 月号
(20 代後半、30 代~)
・P.80 メイクアップ
「カラコンで年齢不詳アイ」
・P.83 メイクアップ
「若見えメイク盛り」
・P.230 美容液
「蛇毒コスメでしわが消えて若返る!」NATURE
▼『Oggi』2010 年 10 月号
REPUBLIC
(40 代~)
・P.48 アイクリーム
「まなざしに、美しい緊張感
ハリをもたらすエイジングケアから、アイクリーム誕
生」CHANEL
・P.62 美容液
8
「20 歳の時より、いま、美しく。」Dior
・P.107 基礎化粧品
「20 代のあの頃、いつかは SK-Ⅱと思ってた。油断してたのね。」SK-Ⅱ
今回調べた結果、外見で「若さ」あるいは「老け」を表していると考えられているのは、
圧倒的に肌であることが判明した。その肌が目指すのは、
「生まれたて」すなわち言葉の通
り赤ちゃんの肌なのである。そして赤ちゃんの肌とは、
「シワがない」ことと「ハリがある」
ことが主に重視されるようだ。また、実年齢よりも若く見える女性を「美しい」と表す言
葉が多く見られた。その若さには種類があり、ひとつは、前述のように素肌や身体の若さ
を維持することである。もうひとつは、メイクアップや服装によって若く見せようとする
ことである。また、わたしは、多くの人が若さと結びつける「美しさ」にも種類があると
感じた。それは、その年齢に応じた新鮮さを追及する美しさと、より年齢の低い集団に近
づくことで得る美しさである。わたしは、後者を美しいとする考え方に疑問を感じる。人
が美しくいたいと思うことは自然なことであり、わたしもそうありたいと思う。そしてそ
の美しさの定義は人それぞれであることも確かである。しかし、もし 50 代になっても、本
当に見た目が 20 代のようなままであったら、と考えると、それが美しいとは思えない。50
代になれば、
明らかに 20 代のころよりも多くの経験をし、様々なものに触れているはずだ。
その時になってまで、20 代の人たちと同じ格好、同じ振る舞いをしたいと思うだろうか。
苦労もし、危険な目にも遭っているかもしれないが、それも含めて美しいと言えるのが真
の人としての美しさではないだろうか。
2.女性の老年について
いくら老いを肯定したとしても、加齢に伴う何らかの変化を認めないわけにはいかない。
わたし自身も老いに関して不安があるからこそこのレポートを書いているのである。そこ
で、老年のもつ欠点について否定した、
『老年について』キケロをまとめてみたい。彼が挙
げた老年の欠点は、
「老年は公の活動を遠ざける」、
「老年は肉体を弱くする」、
「老年はほと
んどの快楽を奪い去る」
、「老年は死から遠く離れていない」の 4 点である。彼はひとつひ
とつ実例を挙げて、これらをそれぞれ否定しているが、読者や若者たちに伝えたいことは、
一貫して変わらないと感じる。もっとも彼が伝えたかったことは、人生は一本道で引き返
すことができず、死に向かっていることは自然なことであるということ、そして人生の各
部分にはそれぞれのときにふさわしい性質が与えられており、人間はそれを十分に味わい
つくして、ふさわしいときに消えていくべきなのだということであろう。各段階でそれぞ
れに見合った行動をとっていれば、段階が進んだ時に、前の段階ですべきことをしたいと
いう欲求に駆られることもないということなのである。また彼は、人生の各段階にみられ
る欠点と見なされる性質について、それはその段階におけるものではなく、その人自身の
9
性質や不摂生によるものだと訴えている。とりわけ、若者たちに対して、老年を見据えて
若い時の過ごし方を考えるようにという強いメッセージを受け取ることができる。
人が自然に生まれてきたのと同じように、死ぬのも自然なことである。そして各段階で
のその人の性質は、その人自身の性質である、ということは、若いころの行動について注
意を促すのと同時に、個人を尊重する考え方でもあるとわたしは感じた。人は年齢で決ま
るのではなくて、その人自身で決定するのだ、ということである。老いが悪くて、若い方
が良いのでもない。その人の生き方によって、若者であっても老人であっても、良くも悪
くもなるのである。
ここで、キケロを真似て、現代女性の立場から「老年について」を考えてみようと思う。
今回は「外見の若さ」、
「結婚」、
「妊娠・出産」について述べたい。まず、
「外見の若々しい
女性が好まれる」か、ということである。確かに、アイドルが流行しているような今の日
本では、見た目のより若い女性が好まれる風潮にある。しかし、いつまでも若い女性がも
てはやされるだろうか。ハクスレイは『素晴らしい新世界』の中で、若くて美しい女の子
たちを「弾みのいい子」と表現し、彼女らはその弾みの良さを一生自分のものにすること
ができた。若いころには若いなりの良いところがたくさんある。しかし、年齢を重ねて経
験を積んだ人が、若い「弾み」のままであったら、何の魅力も感じないに違いない。外見
の良さというのは、若さで判断されるのでも、造作の美醜から判断されるのでもない。そ
の人のそれまでの人生で培ってきたものが、表情に出てきているのである。ふたつ目に、
「歳
をとると結婚が難しい」のかどうかについてである。一般的に、女性ならば 20 代や 30 代
で結婚する人が多いという印象を受ける。しかし、なぜ結婚したいと思うのか、本当の意
味を考えたい。若い内に結婚を決めた場合、もしかするとそれは“適齢期だから”
“そろそ
ろ結婚するべきだから”と考えてしまっているかもしれない。しかし、それ以降の年齢で
結婚したいという気持ちになった人のことを考えてみるとどうだろう。その人は、本当に
心から相手と結婚したいのだという想いが伝わって来ないだろうか。結婚して相手の人と
人生を共にしたいという気持ちに、年齢は関係ない。三つ目、
「妊娠・出産は若い方が望ま
しい」というのは事実かどうか。高齢になっての出産は、危険だと言われている。その理
由のひとつは、母体の健康を気遣ってのことである。もうひとつの大きな理由は、染色体
異常児が生まれやすい、ということである。そのため高齢出産の場合は、多くが出生前診
断で検査を行う。しかしこれは“命の選択”につながる。これは行うべきことではないの
ではないか、とわたしは強く疑問に思う。すなわち、これを理由に、
「妊娠・出産は若い方
が良い」と決めるのも命を選択しているのではなかろうか。
女性は男性に比べて、より若い方がよいとされる傾向にあると思われる。しかし、加齢
による成熟の度合いに、男女間の優劣はない。結婚・出産・育児についても、多くの女性
が家庭内だけでなく、社会でも活躍するようになった今、男性と同じ条件である。生物学
的な性差は別として、性別役割分業という考え方をやめて、女性も自分が「今だ」と思え
る年齢で人生を決めるべきである。そして女性たちが、年齢を重ねるごとに、それぞれに
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より魅力的になっていけば、社会の加齢に対する考え方も変わってゆくのではないだろう
か。
おわりに
わたしたちが、この世に誕生して、おそらく一番はじめに降りかかり、命が終わるまで
向き合わなければならない問題、「加齢」。ほかの命あるものがそうであるように、この問
題は、絶対に避けることができないし、それが自然なことである。それならば、その「老
い」が素晴らしいものであれば人生は素晴らしく、「老い」が嫌うべきものであれば人生も
嫌なものになるであろう。加齢や老いを素敵なものにするためには、まずは今の自分の年
齢を大切にし、ありのままの自分に合った役割によって、生きがいを見出すことである。
そして、周囲の人たちもそれぞれの役割を見つけられるような、そういった社会をつくる
ことも大切である。それにはまず、古いものよりも、若いもの、新しいものが絶対に良い
という考え方をなくすことが必要だ。前の世代の人たちがいるからわたしたちがいる。わ
たしたちの知らない時代を生きた人たちが持っている、昔の経験や知恵は、生きる指針を
示してくれ、同じ過ちを繰り返さないようにするためにあるのだ。それらを聞き、参考に
して大切にしないで、どのようにして新しい時代を切り拓いていけるのというのだろうか。
そして、老いを考えるときに重要なのは、その人の年齢よりも大切なのはその人自身であ
る、ということである。年齢で人を決めることはできない。気にするとすれば、その人が、
それまで人生を生きてきて、どのような“今”にたどり着いたかということではないかと
思う。その年数が重要なのではない。
そして自分自身の時の流れに任せるのではなく、加齢に伴って自分なりに成熟し、成長
していくことができれば、「老い」はきっと人生の大きな勲章になるであろう。
わたしも毎日少しずつ歳を重ねている。そして、終わるときが来るまで、これからもこ
れが続いていければそれ以上に幸せなことはない。加齢はとても複雑で、容易に答えが出
せる問題ではない。わたしも本レポートをきっかけとして、この課題について一生をかけ
て考えていきたいと思う。
最後に、指導してくださった森岡先生と、人間学演習のみなさんにお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
文献一覧
・広辞苑
第二版
・広辞苑
第六版
11
・日本国語大辞典
・一条真也
第二版
2003 『老福論~人は老いるほど豊かになる~』成甲書房
・青柳まちこ編
片多順、比留間洋一、鷹木恵子、上橋菜穂子、スチュアート=ヘンリ、
百瀬響、佐野敏行、藤田真理子
2004
・キケロ
『老いの人類学』世界思想社
『老年について』岩波書房 2011
・オルダス=ハクスリー
『素晴らしい新世界』光文社 2013
・女性誌『MORE』2013 年 3 月号
・女性誌『GLAMOURAS』2011 年 12 月号
・女性誌『Oggi』2010 年 10 月号
注釈
¹一条真也(2003)、18~19 頁
²一条真也(2003)、20 頁~
³一条真也(2003)、29 頁
⁴一条真也(2003)、22~23 頁
⁵片多順(2004)、23 頁~
⁶比留間洋一(2004)、45 頁~
⁷鷹木恵子(2004)、69 頁~
⁸スチュアート=ヘンリ(2004)、115 頁~
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