飲酒と健康

く,発達の途上にある脳や生殖器への障害が大きい
6 飲酒と健康
い ぞ んしょう
(アルコール健康医学協会編「新適正飲酒の手引き」2001年ほか)
こと,またアルコール依存症 になりやすいことが
わかっています。
2.
◆もし自分が飲酒したならどのような問題がおこりうるかを,さまざまな角度から考え
咽頭がん
長期飲酒の健康影響
食道静脈りゅう
吐血
ど
か んこ うへ ん
心筋症
息切れや不整脈,
手足のむくみ
ぶ んぴ つ
炎,肝硬変,脳神経細胞の障害,性ホルモンの分泌
かを説明できるようになる。
異常などの健康障害がおきやすくなります 4(図1)
。
1.
口腔がん
アルコール依存症
長期間にわたり過度の飲酒を続けた場合には,胃
5
◆飲酒にたいして,現在どのような対策がとられ,これからどのような対策が必要なの
急性アルコール中毒
喉頭がん
か
られるようになる。
学習の目標
図1 飲酒によりおこりうる健康影響
3
末しょう神経障害
手足のしびれ感
や運動障害
アルコール依存症も大きな問題です。なぜなら,
アルコールの作用
肝障害
疲れやすい,
黄だん,肝硬変
かん
アルコールが体内から消えたときに手足がふるえた
げ んか く
_ 脳の働きの抑制 適度な飲酒は,食欲を増したりストレスを解消する
10
などの効用があります。しかし,酒にふくまれるアルコールは,脳をはじ
り,幻覚があらわれたりするようになり,通常の職
膵 炎
業生活や社会生活を続けることが非常にむずかしく
糖尿病
や くぶ つ
め身体諸器官に作用する薬物であり,ふだんならできることができなくな
こう へん
胃腸障害
胃の粘膜をおか
して腹痛,嘔吐,
吐血
おう
と
と
なるからです。また,家族に暴力をふるうなどして,
ほ うか い
ったり,できたとしても遅くなるため,交通事故やその他さまざまな事故
じ せ いし ん
よ くせ い
家庭生活も崩壊する場合があります。
5
こ うか い
にん ぷ
につながることもあります。また,自制心が抑制されるために,後悔する
じ
1 アルコールが体内で分解され
るとアセトアルデヒドという有害
物質になるが,日本人の 40こう∼そ45
%では,これを無害にする酵素の
働きが弱いか,まったく働かない。
ようなことをいったり,おこなったりすることもあります
(表1)
。さらに,
20 歳未満の者は飲酒できないこ
とが定められている。
3 酒を飲まないではいられなく
なる状態をいう。
15
ま
3.
ひ
生命の維持にかかわる脳の中心部まで麻痺がおよび,呼吸がとまったり吐
なお,日本人には,体質的にアルコールに弱く,少量の飲酒で体調をく
1
ずす人も数多く存在します 。
わが国でも,未成年飲酒を防ぐための販売店での年齢確認や,飲酒運転
20
め酒
や量
すの
どには,妊産婦にたいする注意も表示されるようになりました。さらに,
民間団体により「イッキ飲み」の危険性が訴えられたり
(図2)
,アルコー
こん
ほろ酔い期
酩酊前期
酩酊後期
泥 酔 期
昏 睡 期
0.02%
∼
0.04%
0.05%
∼
0.10%
0.11%
∼
0.15%
0.16%
∼
0.30%
0.31%
∼
0.40%
0.41%
∼
0.50%
日本酒4∼6合
日本酒7合∼1升
日本酒1升以上
あるいは
あるいは
あるいは
日本酒1∼2合
あるいは
日本酒3合
あるいは
あるいは
ビール大びん ∼1本 ビール大びん1∼2本 ビール大びん 3本
皮膚が赤くなる
●陽気になる
●判断力がややにぶる
酩
酊
の
度
合
い
●
め
い
て
い
ほろ酔い気分
●抑制がとれる
● 体温上昇,
脈が速く
なる
●
気が大きくなる
●怒りっぽくなる
●立てばふらつく
●
ル依存者にたいする支援がおこなわれたりしています。
すい
爽 快 期
日本酒1合
を防ぐための罰則強化などの対策がすすめられています。また,ビールな
にんさん ぷ
` 未成年飲酒の害 未成年の飲酒は,法 をおかすという問題だけでな
2
血液中のアルコール濃度と酩酊の度合い(アルコール健康医学協会編「新適正飲酒の手引き」2001年を一部改変)
コ血
ー液
ル中
濃ア
度ル
図2 「イッキ飲み」の危険性
を訴えるポスター
レビ・ラジオでの広告の禁止など,さまざまな対策がとられています。
ルコールが脳の働きを抑制する作用をもっているからです。
そう
飲酒にたいする対策
多くの先進国では,飲酒を抑制するため,自動販売機の設置の禁止やテ
10
めいてい
表1
5 発育不全,知能障害,小頭症
などを特徴とする,胎児性アルコ
ール症候群があげられる。
5
児への健康影響 もおこります。
せ っし ゅ
「イッキ飲み」のように短時間で大量のアルコールを摂取した場合には,
いたものが気道につまったりして死亡する危険があります。これらは,ア
2 「未成年者飲酒禁止法」のこと。
4 口絵⑧参照。
たい
さらに,妊婦が過度の飲酒を続けた場合には,胎
しかし,わが国のアルコール消費量は全体に横ばい傾向でなかなか減少
25
せず,販売方法や広告などについての対策を強化していく必要があります。
ビール大びん4∼6本 ビール大びん7∼10本 ビール大びん10本以上
千鳥足
呼吸が速くなる
●吐き気・嘔吐
●
●
おう
と
まともに立てない
意識混濁
●ことばも支離滅裂
●
●
し
り
めつ れつ
ゆり動かしてもお
きない
● 呼吸はゆっくりと
深い
●死の危険
「イッキ飲み」による死亡事件
●
1999 年 6 月,A 大学医学部新入生の B さんは,同学部ボート部の新入生歓迎会後に急性アルコール中毒をおこし,
おう と
嘔吐物をのどに詰まらせて死亡しました。ボート部の歓迎会では,新入生を酔いつぶすことが習慣となっており,新入
しょうちゅう
生にたいして「バトル」と呼ばれる早飲み競争を仕掛け,大量の焼酎をストレートで飲ませるいっぽうで,上級生は焼
酎のように見せかけた水を飲んでいたケースもあったそうです。検死の結果,B さんの血液中アルコール濃度は
0.55 %に達していました(表1参照)
。上級生はなぜ新入生を酔いつぶそうとするのか,上級生から酒をすすめられた
えんずい
アルコールは中枢神経を抑制する作用をもっている。抑制作用が延髄の呼吸中枢までおよぶと呼吸が停止する。
20
ときに新入生はどのように受けとめるかなどを考えてみましょう。
1.現代社会と健康 21